ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈下〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈3〉動乱編〈下〉レビュー
物語の概要
■ 作品概要
『ゲート―自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり〈3〉動乱編〈上〉』は、累計発行部数600万部(シリーズ累計)を突破した、柳内たくみによるファンタジー小説の文庫化第3弾である。 前巻での「炎龍討伐」という英雄的偉業から一転、本巻では帝国中枢におけるドロドロとした権力闘争と、それに翻弄される主人公たちの姿が描かれる。
物語は、炎龍討伐の祝賀ムードの中で皇帝モルトが突如倒れるところから急展開を迎える。皇太子ゾルザルはこれを機に政権を掌握し、恐怖政治(オプリーチニナ)を敷いて和平派の粛清を開始する。一方、主人公の伊丹耀司は、資源調査の任務とテュカの精神的ケア、そしてレレイの導師号取得のため、学都ロンデルへと旅立つ。しかし、そこにはレレイの命を狙う刺客「笛吹男」の影が忍び寄っていた。 近代兵器を有する自衛隊と異世界の文明との接触、そして帝国内部の政治的動乱が絡み合う、スケールの大きなエンターテインメント作品である。
■ 主要キャラクター
伊丹耀司(いたみ ようじ): 陸上自衛隊二等陸尉。オタク趣味を持つ自衛官。前巻で炎龍を討伐したことで、帝国内で英雄視されている。本巻では資源調査の名目で学都ロンデルへ向かうが、再びトラブルに巻き込まれる。
レレイ・ラ・レレーナ: コダ村の魔導師の少女。天才的な頭脳を持ち、日本語や科学知識を習得している。学都ロンデルで最高位の「導師号」に挑むが、その名声ゆえに刺客に狙われることとなる。
テュカ・ルナ・マルソー: エルフの娘。伊丹に助けられ、精神的な危機を乗り越えた。伊丹を「父さん」と慕い、共にロンデルへの旅に同行する。
ロゥリィ・マーキュリー: 死と断罪の神エムロイの使徒。見た目は少女だが、強大な戦闘能力を持つ亜神。伊丹に好意を寄せ、彼の旅に同行する。
ピニャ・コ・ラーダ: 帝国の皇女。日本との和平を模索するが、兄ゾルザルのクーデターにより政治的土俵から追い詰められ、苦境に立たされる。
ゾルザル・エル・カエサル: 帝国の皇太子。皇帝の病に乗じて実権を握り、和平派を弾圧する。自衛隊(日本)を敵視し、主戦論を唱える暴君。
テューレ: 元ヴォーリアバニーの族長で、現在はゾルザルの奴隷。ゾルザルを唆して帝国を破滅へと導こうと暗躍する。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、ファンタジー世界における「政治劇」と「特殊作戦」の融合である。 前巻までの「自衛隊 vs モンスター」という構図に加え、本巻では「帝国内部のクーデター」という人間同士の権力争いが主軸となる。皇太子ゾルザルによる独裁と、それに対抗できない和平派の無力感がリアルに描かれ、物語に重厚な緊張感を与えている。 また、学都ロンデルへの道中や滞在記では、異世界の学問事情や魔法体系(物理法則との関連など)が掘り下げられ、世界観の深みが増している。さらに、言葉巧みに一般人を刺客に変える「笛吹男」との知能戦や、伊丹たちの護衛劇など、サスペンス要素も強く、読者を飽きさせない展開となっている。
書籍情報
ゲート―自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 〈3〉動乱編〈上〉
著者:柳内たくみ 氏
イラスト:黒獅子 氏
出版社:アルファポリス
発売日:2013年7月3日
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あらすじ・内容
累計75万部の超人気シリーズ、待望の文庫化第3弾!
シリーズ75万部突破!超人気の自衛隊×異世界ファンタジー、文庫化第三弾・前編!帝国皇女ピニャの尽力により、日本と帝国との和平交渉は少しずつ実を結ぼうとしていた。そんな友好ムードのなか、冴えないオタク自衛官伊丹耀司は、『特地』の資源調査を命じられ、異世界の美少女達と共に学都ロンデルを訪れる。街の住民と親交を深める伊丹一行。しかしそこには、炎龍討伐の英雄とされた魔導師レレイを狙う、闇の刺客が待ち伏せていた――
感想
急成長するシェリーと帝国の動揺
物語は、シェリーという少女の急速な成長と、彼女が日本側の制度や価値観を吸収していく様子から始まる。
まだ幼いながらも、白百合副大臣のような女性が要職に就ける日本の在り方に驚き、それを柔軟に受け入れる姿は印象的だ。一方で、帝国側では融和への動きに強硬に反発するゾルザルが存在感を増していく。
皇帝モルトが「主流ではない」と位置づけていたはずの彼が、皇帝の急変という事態に乗じて権力を掌握し、政局を一気に不安定化させる展開にはゾルザルが無能を演じていた片鱗かもとも思った。
アルヌスとロンデル、異なる空気感
アルヌスではヤオが伊丹のそばに居場所を求める一方で、舞台となる学都ロンデルでは、都市特有の賑わいや階級社会の側面が描かれる。
伊丹が宿屋で下男同然に扱われ、物置部屋に追いやられるシーンは滑稽だが、本人がそれを苦にせず適応してしまうあたりに、彼の底知れない器の大きさを感じる。
学問都市の価値観と姉妹の確執
レレイと義姉アルペジオ、そしてミモザ老師とのやり取りは、この世界の学問事情を浮き彫りにする。
特に、日本の大量の書籍や印刷技術がもたらす「知の安売り」に対し、アルペジオが反発する場面は興味深い。知識が特権階級のものである世界において、情報の拡散が既存の秩序を脅かすという視点は、現代社会にも通じるテーマを含んでいるように思えた。
やがて二人の確執は魔法を伴う姉妹喧嘩へと発展し、ロゥリィ立ち会いのもととはいえ、殺傷力の高い危険な衝突となる。
笛吹男の罠と巻き込まれる人々
その姉妹喧嘩に割って入る形で現れた刺客の存在が、物語の緊張感を一気に高めた。
当初は「さるお方」からの差し金と言われていたが、次第にゾルザルの影が見え隠れし始める。
「笛吹男」と呼ばれる暗殺者が、言葉巧みに周囲の人間の感情を操り、善良な市民までをも凶行に走らせる手口は巧妙で。伊丹たちが「賞金首の詐欺集団」と吹き込まれ、宿の小僧たちが襲撃してくる展開は、この世界の人達は擦れてないなと思った。
学会での暴発と英雄視の功罪
笛吹男の魔手は学会にも及び、初老の賢者が「研究成果を盗まれた」という妄想を植え付けられ、レレイを襲おうとする。
伊丹が間一髪で制止し事なきを得るが、感情を煽り、希望をちらつかせ、最後に背中を押すという洗脳の手法は巧妙で戦慄を覚える。
一方で、伊丹たちが「炎龍退治の英雄」であることが広まると、今度は過剰なまでの称賛と接触が押し寄せ、それはそれで新たなリスクを生む皮肉な状況が描かれる。
終いにはシャンディーまでもが笛吹男の工作に取り込まれていく様子は、お前もかと思ってしまった。
ゾルザルの暴走とピニャの悲憤
帝都ではゾルザルの独裁が加速していく。独自の官僚機構を作り上げ、講和派を次々と粛清し、あろうことか自国の領土を荒らしてその罪を自衛隊になすりつけるという暴挙に出る。
これに対し、ピニャが「恥を知れ」と激昂するシーンは胸に迫るものがある。自国民を犠牲にしてまで勝利を追求する兄の姿に、彼女が抱く絶望と怒りは計り知れない。
総括
皇帝の異変を契機に、ゾルザルが暴走し、帝国は混乱の渦に飲み込まれていく。
一方、学問の府ロンデルでも、レレイを狙う「笛吹男」の陰湿な罠が張り巡らされ、伊丹たちは幾重もの危機に直面する。
政治的な動乱と、個人の嫉妬や猜疑心を利用した暗殺劇が同時進行する展開は、読み応え十分だ。次巻、この混迷がどう収束していくのか、目が離せない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
伊丹耀司
陸上自衛隊の二等陸尉であり、特地での資源調査任務を命じられた自衛官である。前巻での炎龍討伐の功績により、帝国内では「緑の人」として英雄視されているが、本人はその名声を重荷に感じている節がある 。
- 所属組織、地位や役職
- 陸上自衛隊・二等陸尉 。
- 第三偵察隊長(前職)、資源調査担当 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 資源調査の名目で学都ロンデルへ向かい、レレイやテュカらを同行させた 。
- ロンデルでは宿の下男と間違われ、冷遇される一幕があった 。
- レレイを狙う刺客から身内を守るため、グレイらと協力して警戒態勢を敷いた 。
- 学会場では、扇動されてレレイを襲おうとした初老の賢者を拳銃で制圧した 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 炎龍討伐の実質的な功労者であるが、公式には資源調査中の遭遇戦と報告されている 。
- レレイによって、日本の大学卒の経歴がこちらの世界の「学士」に相当すると認定された 。
レレイ・ラ・レレーナ
コダ村出身の魔導師であり、賢者カトーの弟子。冷静沈着で理知的な性格をしており、異世界(日本)の知識を柔軟に吸収し、自身の魔法体系に組み込む才女である 。
- 所属組織、地位や役職
- カトー・エル・アルテスタンの弟子 。
- リンドン派の魔導師(修士) 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 高機動車の運転技術を短期間で習得し、ロンデルまでの移動を担った 。
- 最高位の学位である「導師号」を取得するため、ロンデルの学会で発表を行う準備を進めた 。
- 義姉アルペジオからの嫉妬を受け、魔法による決闘を行った 。
- 炎龍討伐の功績が帝都で過大に広まり、何者かに命を狙われる事態となった 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 帝国の臣民(ヒト種)が炎龍を倒したという噂により、民衆から熱狂的な支持を集めている 。
- 学会発表の直後、シャンディーに胸を短剣で突かれた 。
ゾルザル・エル・カエサル
帝国の皇太子であり、皇帝モルトが病に倒れた隙に乗じて実権を握った野心家。日本との講和に反対する主戦論者であり、既存の慣習や法を無視した独裁的な手法を好む 。
- 所属組織、地位や役職
- 帝国皇太子 。
- 皇太子府の長 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 皇太子府を開設し、独自の閣僚を任命して現職大臣との二重権力構造を作り出した 。
- 講和派の議員を裁判なしで軟禁し、恐怖政治(オプリーチニナ)の導入を図った 。
- 自衛隊に対抗するため、自国領土を荒らして罪を敵になすりつける焦土戦術と偽旗作戦を採用した 。
- 料理人である古田が作ったハンバーガーを気に入り、宮廷儀礼を無視して執務室で食した 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 事実上のクーデターにより国政を掌握したが、その強引な手法は官僚機構の混乱を招いている 。
- 炎龍討伐の栄誉がレレイに向けられたことに激しい嫉妬と殺意を抱いている 。
ピニャ・コ・ラーダ
帝国の皇女であり、日本との講和を推進する和平派のリーダー格。兄ゾルザルの暴走に心を痛め、帝国の存亡を懸けて奔走するが、政治的な力関係で追い詰められていく 。
- 所属組織、地位や役職
- 帝国皇女 。
- 騎士団長。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 日本使節団を歓迎する午餐会を主催し、外交交渉の端緒を開いた 。
- ゾルザルによる講和派の弾圧や、非人道的な焦土戦術に対して激しく抗議した 。
- 次兄ディアボに協力を求めた際、対価として身体を要求され、覚悟を決めるも裏切られて置き去りにされた 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- ゾルザル政権下で政治的実権を失いつつあり、日本との連絡役としての立場のみを残されている 。
- ディアボに見捨てられたことで精神的に追い詰められ、無力感に苛まれている 。
テューレ
元ヴォーリアバニー族の女王であり、現在はゾルザルの奴隷として仕える女性。表向きは従順に振る舞っているが、裏では帝国への復讐心と破滅願望を抱き、ゾルザルを操ろうと画策している 。
- 所属組織、地位や役職
- ゾルザルの奴隷兼秘書役 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ゾルザルと主戦派との連絡役を務め、裏で工作員に指示を出した 。
- ルフルス法務官とゾルザルの間の連絡役となり、情報の流れを掌握する立場を得た 。
- 講和派を一掃するための「オプリーチニナ特別法」の草案を故意に隠匿し、施行を遅らせる妨害工作を行った 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 料理人の古田との会話を通じ、その統治観や生き方に感銘を受け、心境に変化が生じている 。
シャンディー・ガフ・マレア
ピニャ皇女配下の騎士であり、伊丹一行の護衛兼監視役としてロンデルへの旅に同行した人物。当初は伊丹を籠絡する任務を帯びていたが、炎龍討伐の噂を聞いて個人的な憧れを抱くようになった 。
- 所属組織、地位や役職
- 帝国騎士(騎士補) 。
- 講和会議の通訳要員(予定だった) 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- レレイを狙う刺客の存在を察知し、グレイと共に伊丹たちに合流して警護にあたった 。
- 刺客の黒幕である「笛吹男」の手先(ノッラ)を単独で追跡し、その容姿を確認する功績を挙げた 。
- 学会場でレレイの警護配置についていたが、突如として裏切り、レレイの胸に短剣を突き立てた 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 物語の最後で衝撃的な裏切りを見せ、レレイの生死に関わる行動をとった重要人物である 。
ロゥリィ・マーキュリー
死と断罪の神エムロイの使徒であり、見た目は少女だが絶大な戦闘能力を持つ亜神。伊丹に好意を寄せており、彼の旅に同行して一行を守る役割を果たしている 。
- 所属組織、地位や役職
- エムロイの使徒(亜神) 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ロンデルの宿で自身の権威を利用し、伊丹たちの宿泊場所を確保した 。
- レレイとアルペジオの決闘において立会人を務め、ルールを取り決めた 。
- 宿に侵入した従業員の襲撃を鎮圧し、彼らを許して囮として使う策を採用した 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- ミモザ老師とは旧知の仲であり、かつて共に旅をした過去がある 。
グレイ・コ・アルド
ピニャ皇女配下の騎士であり、経験豊富な古参兵。レレイを帝都へ招請する任務を受け、伊丹たちと合流して護衛を務める 。
- 所属組織、地位や役職
- 帝国騎士(騎士補) 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- レレイとアルペジオの決闘に紛れ込んだ刺客を即座に排除し、危機を知らせた 。
- 刺客の手口を分析し、それが言葉巧みに素人を操る「笛吹男」によるものだと推測した 。
- ロンデルの学会場では、伊丹と協力して警備体制を敷き、不審者の排除にあたった 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- シャンディーの失踪に責任を感じていたが、彼女の帰還を喜び、その功績を評価した 。
アルペジオ・エル・レレーナ(アルフェ)
レレイの義姉であり、ロンデルで研究生活を送る博士号持ちの賢者。鉱物魔法を専門としているが、研究費の工面に苦労しており、生活は困窮している 。
- 所属組織、地位や役職
- 賢者(博士号) 。
- ミモザ老師の弟子 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 妹のレレイが若くして導師号に挑むことや、経済的に恵まれていることに嫉妬し、決闘を挑んだ 。
- 伊丹から「研究を盗用されたらどうするか」と問われ、殺意を覚えると答えて、伊丹が刺客を見抜くヒントを与えた 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 当初はレレイに反発していたが、周囲の状況やミモザの仲介もあり、徐々に関係性が変化しつつある 。
古田啓佑
陸上自衛隊の二等陸士(または陸士長)であり、元老舗料亭の料理人。スパイとして帝国宮廷の厨房に潜入しており、ゾルザルに料理を提供している 。
- 所属組織、地位や役職
- 陸上自衛隊・料理人(潜入工作員) 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 食糧不足の自衛隊事務所に、商人を介して食料を横流しするルートを確保した 。
- ゾルザルにハンバーガーを振る舞い、その味と職人としての誇りを気に入られた 。
- テューレとの会話で自身の統治観(客を満足させる王)を語り、彼女の心情に影響を与えた 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- ゾルザルから宮廷料理長になるよう打診されているが、自分の店を持つ夢があるとして固辞している 。
モルト・ソル・アウグスタ
帝国の皇帝。老獪な政治家であり、国益のために非情な判断も下すが、現在は病に倒れている 。
- 所属組織、地位や役職
- 帝国皇帝 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 炎龍の首を確認し、その討伐に帝国の臣民(レレイ)が関わっていることを利用して国威発揚を図ろうとした 。
- 祝賀の宴席で乾杯の直後に倒れ、意識不明(または重篤)の状態となった 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 彼が倒れたことが引き金となり、ゾルザルによるクーデターと帝国内の動乱が勃発した 。
ミモザ・ラ・メール
ロンデルに住む大賢者であり、長老の一人。カトー老師とは同門の仲であり、アルペジオの師匠でもある。高齢だが茶目っ気のある性格をしている 。
- 所属組織、地位や役職
- 大賢者、ロンデル長老 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- レレイの論文を査読し、異世界の知識を魔法体系に組み込んだ内容を高く評価した 。
- ロゥリィとは50年前からの旧知の仲であり、彼女に出された宿題(多種族の起源)に回答を与えた 。
- アルペジオとエルフの研究者フラットの関係を暴露してからかうなど、場の空気を和ませた 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 伊丹に対して、ロンデルに図書館が存在しない歴史的経緯を教えた 。
フラット・エル・コーダ
ロンデルで研究を行うエルフの賢者。専門は天文学。アルペジオに好意を寄せており、プロポーズしたが断られている 。
- 所属組織、地位や役職
- 研究賢者(魔法を使わない賢者) 。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 学会で「世界が歪んでいる」という観測報告を行い、天体の異常な動きと地揺れの関連性を示唆した 。
- アルペジオを気遣い、公衆の面前で窘めようとして一蹴されるなど、尻に敷かれている様子を見せた 。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 過去に「太陽中心説」に関わって迫害された経験があるが、自身の学説を信じて研究を続けている 。
出来事一覧
01
シェリー・テュエリによる菅原浩治への強引な接近と周囲の誤解
- 当事者: シェリー・テュエリ vs 菅原浩治(および外務省の同僚たち)
- 発生理由: シェリーが菅原を将来の夫と定め、既成事実を作るために公衆の面前で抱きついたり、性的な含みを持つ「最後の一線」といった言葉で菅原を翻弄し、白百合副大臣への紹介を強要したため。
- 結果: 菅原は外務省の同僚から詰問に近い視線を浴びて窮地に陥ったが、シェリーの提案(日本人への恐怖心を払拭するためのデモンストレーションとして仲良く振る舞うこと)自体には合理的価値があると認め、彼女の手を取って白百合副大臣に紹介した。
ゾルザル皇太子と皇帝・ピニャの講和を巡る対立(回想)
- 当事者: ゾルザル・エル・カエサル vs モルト皇帝、ピニャ・コ・ラーダ
- 発生理由: ゾルザルが講和交渉の開始に強く反対し、戦争継続による雪辱を主張して皇帝とピニャに直談判したため。
- 結果: 皇帝はゾルザルの主張を退け、講和を進める方針を崩さなかった。ゾルザルは説得に失敗し、後に廊下で壁を蹴るなどして憤慨した。
ゾルザル皇太子による式典進行の無視
- 当事者: ゾルザル・エル・カエサル vs モルト皇帝、式典侍従
- 発生理由: ゾルザルが講和交渉への反対意志を行動で示すため、および自身の支持基盤を固めるため、決められた式次第を無視して帰還した捕虜たちのもとへ直行し、慰労を始めたため。
- 結果: 皇帝や侍従は制止できず、ゾルザルを無視して式典を進めることとなった。捕虜たちはゾルザルに感謝したが、ゾルザル自身は皇帝や参列者から無視されたことに屈辱と怒りを募らせた。
皇帝モルトの卒倒
- 当事者: モルト皇帝
- 発生理由: 炎龍討伐を祝う乾杯の直後、突如として身体に異変が生じたため(具体的な原因は本文中では不明)。
- 結果: 黄金の杯を取り落とし、その場に仰向けに倒れた。
02
テュカとヤオのいざこざ
- 当事者: ロゥリィ・マーキュリー、テュカ・ルナ・マルソー vs ヤオ・ロゥ・デュッシ
- 発生理由: ヤオが隠しておきたかった葦笛の演奏について、艶めかしい声色で伊丹を誘うような発言をしたため。
- 結果: ロゥリィとテュカがヤオのつま先をぐりぐりと踏みつけるなどの制裁を加えた。
伊丹のリスト作成に関する誤解
- 当事者: 伊丹耀司 vs ロゥリィ・マーキュリー
- 発生理由: 伊丹が収入減のため購入リストを削ってため息をついていたところ、ロゥリィがそのリスト(同人誌即売会のサークル名)を覗き込んだ。
- 結果: ロゥリィは日本語読解に精通していないためリストの内容(同人誌関係)を理解できず、単に必要な買い物を諦めることへの同情を示して引き下がった。
ロンデルの交通渋滞
- 当事者: 伊丹たち(高機動車) vs 現地の通行人、荷車など
- 発生理由: ロンデルの街中は道幅が狭く、人通りが激しいうえに交通整理の概念がないため、高機動車が立ち往生した。
- 結果: 伊丹たちは地元民同様に「交通渋滞待機モード」へ切り替え、諦めてゆっくり進むこととした。
伊丹と現地カップルの視線の交錯
- 当事者: 伊丹耀司 vs 老人の御者(小人種)と猫耳幼女のカップル
- 発生理由: 伊丹が前を行く荷馬車の小人種と猫耳幼女の年齢差カップルをまじまじと見てしまい、視線が合ったため。
- 結果: 老人の御者はバツが悪そうにニヘラッと微笑みかけ、ごまかした。
宿での伊丹の扱いに関する不遇
- 当事者: 伊丹耀司 vs ハーマル(宿の主人)、小僧たち
- 発生理由: 宿の主人がロゥリィたち女性陣を上客として厚遇する一方、伊丹を下男と勘違いし、ぞんざいに扱ったため。
- 結果: 伊丹だけ荷物を持ってもらえず、部屋も物置部屋(三号室)を割り当てられ、自ら荷物を抱えて階段を上ることになった。
ミモザの部屋での雪崩事故
- 当事者: アルペジオ・エル・レレーナ vs ミモザ・ラ・メール、レレイ・ラ・レレーナ(巻き込まれた形)
- 発生理由: アルペジオが整理していた標本箱などを、ミモザが手伝おうとして触り、バランスを崩して雪崩を起こしたため。
- 結果: 標本や貴石が床に散らばり、アルペジオは怒ってミモザを邪魔者扱いし、外へ追い出した。
レレイとアルペジオの確執(言葉による衝突)
- 当事者: アルペジオ・エル・レレーナ vs レレイ・ラ・レレーナ
- 発生理由: 姉であるアルペジオが博士号取得に苦労している中、妹のレレイが飛び級で導師号に挑もうとしていることや、金回りの良さ、エルフとの付き合いなどに対する嫉妬と劣等感から。
- 結果: アルペジオはレレイに対し、片付けが終わったら「たっぷりとこの世の条理を言い聞かせてやる」と威嚇的な言葉を投げかけ、レレイは冷や汗を流した。
アルペジオによる本の低価格化への反対
- 当事者: アルペジオ・エル・レレーナ vs レレイ・ラ・レレーナ(および本の低価格化を喜ぶ一同)
- 発生理由: レレイが日本のような印刷技術によって本が廉価になる未来を語った際、写本等で生計を立てている者(または既得権益者)の立場からアルペジオが激しく反対したため。
- 結果: アルペジオは激しい音を立てて店に入り、「本が安くなったら困る人もいる」と般若のような形相で主張した。
03
レレイとアルペジオの魔導師同士の決闘
- 当事者: レレイ・ラ・レレーナ vs アルペジオ・エル・レレーナ
- 発生理由: 導師号への挑戦、飛び級、金銭的格差、男関係(伊丹との仲)など、アルペジオがレレイに対して抱いた嫉妬と劣等感が爆発し、レレイが頭からスープをかけられたことで、互いの力量を明らかにする必要が生じたため。
- 結果: 双方とも防御魔法や触媒魔法を用いた激しい攻撃の応酬となり、街路や民家に被害が出たが、決着がつく前に第三者の介入(刺客の出現)により中断された。
グレイ騎士補による刺客の殺害
- 当事者: グレイ・コ・アルド vs 刺客の男
- 発生理由: 刺客が人混みに紛れてレレイの命を狙ったため、グレイが阻止するために剣で胸を貫いた。
- 結果: 刺客は死亡した。ロゥリィが不殺を条件とした決闘の場を汚したとしてグレイを追及したが、グレイが「レレイの命を守るため」と事情を説明し、その場は収まった。
レレイに対する暗殺計画の判明
- 当事者: レレイ・ラ・レレーナ vs 不明(「さるお方」からの刺客)
- 発生理由: レレイが炎龍を討伐した功績により帝都で名声を高めたことに対し、それを快く思わない人物(「さるお方」)が嫉妬し、刺客を放ったため。
- 結果: グレイとシャンディーが刺客の一人を倒し、レレイたちに危機を伝えたことで、伊丹たちは警戒態勢に入り、その場から移動した。
04
悪所街事務所での食糧への不満と栗林の怒号
- 当事者: 栗林志乃 vs 戸津陸士長、笹川陸士長ら(事務所の男性自衛官たち)
- 発生理由: 栗林らが苦労して調達してきた食糧(堅いパンや干し肉)に対し、男性隊員たちが「またこれか」と不満を漏らしたため。
- 結果: 栗林が「文句を言うなら食うな」と拳を震わせて凄み、男性隊員たちは謝罪して逃げ出した。
ミザリィによる剣崎への誘惑と拒絶
- 当事者: ミザリィ vs 剣崎三等陸尉
- 発生理由: ミザリィが食糧を配る際、剣崎に「今夜あたりどうだい」と身体的な関係を持ちかけたため。
- 結果: 剣崎は「そういうことは禁止されている」とニヤリと笑って拒絶した。
ゾルザルによる皇太子府開設と二重権力状態の発生
- 当事者: ゾルザル・エル・カエサル(皇太子府) vs 帝国の現職閣僚・官僚たち
- 発生理由: 皇帝が病床にある隙に、ゾルザルが皇太子府を開設し、独自の閣僚を任命して現職大臣と同等の権限を主張したため、命令系統が混乱した。
- 結果: 将来の報復を恐れる官僚たちはゾルザル側に忖度せざるを得ず、ゾルザルによる事実上の国政掌握(クーデター)が概ね成功した。
ピニャによる講和派軟禁への抗議
- 当事者: ピニャ・コ・ラーダ vs ゾルザル・エル・カエサル
- 発生理由: ゾルザルが裁判を経ずに「買収の疑いがある」として講和派議員を軟禁・排除し、強引に主戦論者で固めたことに対し、ピニャが法の無視と独裁的な手法を非難したため。
- 結果: ゾルザルは「戦時における即断即決」としてピニャの正論を一蹴し、ピニャには日本との仲介役に専念するよう命じて抗議を退けた。
焦土戦術・偽装工作の提案とピニャの激怒
- 当事者: ピニャ・コ・ラーダ vs ヘルム子爵(およびゾルザル、ミュドラ、カラスタ)
- 発生理由: 自衛隊に対抗するため、ヘルム子爵らが「盗賊や亜人に偽装して自国領土を荒らし回り、その罪を自衛隊になすりつける(焦土戦術および偽旗作戦)」という、軍人の誇りを捨てた卑劣な策を提案したため。
- 結果: ピニャは「恥を知れ」と剣を抜こうとするほど激怒したが、ゾルザルたちは「勝つためには手段を選ばない」としてこの策を採用し、実行を命じた。
ディアボによるピニャへの不貞の要求と逃亡
- 当事者: ピニャ・コ・ラーダ vs ディアボ
- 発生理由: ゾルザルを止めるため協力を懇願するピニャに対し、ディアボが交換条件としてピニャの身体(近親相姦)を要求したため。
- 結果: ピニャは覚悟を決めて要求を受け入れ、身を清めるために中座したが、ディアボはその隙にピニャを置き去りにして帝都から逃亡した。ピニャは騙されたことを知り、絶望の涙を流した。
ゾルザルによる旧弊商人の追放
- 当事者: ゾルザル・エル・カエサル vs 商人マルキ
- 発生理由: 商人マルキが、これまでの慣習通りに賄賂(祝いの品)とコネで取り入ろうとしたが、ゾルザルがそれを旧弊として嫌ったため。
- 結果: ゾルザルはマルキを出入り禁止にし、今後は賄賂ではなく品質と価格で勝負する商人のみを登用すると宣言した。
ネイによる古田の食事に対する苦言
- 当事者: ネイ(次期侍従長) vs ゾルザル・エル・カエサル、古田(料理人)
- 発生理由: ゾルザルが執務室で、手づかみで食べるハンバーガー(古田が作ったもの)を昼食として摂ろうとしたことに対し、ネイが「品位に欠ける」「野卑だ」と批判したため。
- 結果: ゾルザルはネイの苦言を無視して「美味いし気性に合っている」とハンバーガーを気に入り、古田を擁護して食事を続けた。
テューレによる法案隠匿(サボタージュ)
- 当事者: テューレ vs ゾルザル・エル・カエサル(およびルフルス次期法務官)
- 発生理由: ゾルザルが講和派を一掃するための「オプリーチニナ特別法」の決裁を行おうとした際、連絡役を任されていたテューレが、混乱を助長させる(あるいはゾルザルの破滅を早める)意図を持って草案を隠した。
- 結果: ゾルザルは書類が見当たらないため、ルフルスが置き忘れたと勘違いし、法案は決裁されないまま「再動議」の箱へ放り込まれ、施行が遅れることとなった。
05
書海亭の小僧たちによる伊丹たちへの襲撃(失敗)
- 当事者: 書海亭の従業員(小僧たち4人) vs 伊丹耀司、ロゥリィ、レレイ、テュカ、ヤオ、グレイ
- 発生理由: 「笛吹男」と呼ばれる刺客に、伊丹たちが「賞金首の詐欺師集団」であると吹き込まれ、客を守るという正義感を利用されたため。
- 結果: 部屋に侵入した小僧たちは、伊丹の閃光音響手榴弾(スタングレネード)で無力化され、ロゥリィのハルバートで叩きのめされて拘束された。
宿の小僧たちに対する処遇の決定
- 当事者: 書海亭の小僧たち、ハーマル(宿の主人) vs ロゥリィ・マーキュリー、伊丹たち
- 発生理由: 小僧たちが騙されて襲撃を行ったことに対し、宿の主人が彼らを庇い、伊丹たちがどう処分するかを判断するため。
- 結果: ロゥリィが「許す」と宣言し、小僧たちを泳がせて笛吹男をおびき寄せる囮として利用することになった。
伊丹たちによる「英雄握手会」の開催
- 当事者: 伊丹耀司、ロゥリィ、レレイ、テュカ、ヤオ vs 宿の宿泊客たち
- 発生理由: 宿の主人が笛吹男対策として「伊丹たちが炎龍退治の英雄である」という真実を広めた結果、宿泊客たちが挨拶や謁見を求めて殺到したため。
- 結果: 混乱を避けるため、グレイの提案で整理券を配布し、一人ずつ会う形式(握手会のようなもの)で対応することになった。
ノッラによる小僧たちへの再接触と誘導
- 当事者: ノッラ(獣人の女性、笛吹男の手先または本人) vs 書海亭の小僧たち
- 発生理由: 失敗した小僧たちを再び利用し、レレイへの接近を容易にするため、「笛吹男を捕まえるための演技(偽装襲撃)」を持ちかけた。
- 結果: 小僧たちは「汚名返上のチャンス」と信じて騙され、ノッラの手引きをすることに同意した。
シャンディーの追跡と失踪
- 当事者: シャンディー・ガフ・マレア vs ノッラ(追跡対象)
- 発生理由: シャンディーがノッラを怪しいと睨み、伊丹からの「接触を確認したら戻れ」という指示を無視して功績を焦り、深追いしたため。
- 結果: シャンディーはノッラの後を追って店を出た後、翌日になっても戻らず行方不明となった。
06
伊丹とテュカのじゃれ合い(頬の引っ張り合い)
- 当事者: 伊丹耀司 vs テュカ・ルナ・マルソー
- 発生理由: テュカが伊丹の「学がある」ことに意外性を示し、「馬鹿だと思っていた」と聞こえるような発言をしたため、伊丹が機嫌を損ねたフリをしてテュカの頬をつねり、テュカも反撃した。
- 結果: 周囲(ロゥリィ、ヤオ)には仲睦まじいじゃれ合いに見えたが、ヤオに止められて終了した。
シャンディーの無断での長期追跡
- 当事者: シャンディー・ガフ・マレア vs 伊丹耀司たち
- 発生理由: シャンディーが伊丹の「接触を確認するだけでいい」という指示を無視し、笛吹男(またはその手先)を独断で4日間も追跡したため、音信不通となり仲間を心配させた。
- 結果: シャンディーは疲れ果てて戻り、笛吹男の顔を確認したことを報告したが、伊丹からは連絡を怠ったことについて苦言を呈された。
初老の賢者によるレレイへの襲撃未遂
- 当事者: 初老の賢者(男性) vs レレイ・ラ・レレーナ
- 発生理由: 笛吹男に「レレイがあなたの研究成果を盗んだ」「彼女より先に発表しないと成果を奪われる」と嘘を吹き込まれ、さらに発表順のクジ引きで後手に回ったことで逆上し、レレイを排除しようとしたため。
- 結果: 伊丹が挙動不審に気づき、実行直前に銃を突きつけて制止した。その後、グレイらが事情聴取を行い、誤解が解けたため罪には問われなかったが、男性は発表を諦めて帰った。
ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈下〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈3〉動乱編〈下〉レビュー
展開まとめ
01
炎龍討伐という現実の提示
帝都の城門に炎龍の首が掲げられたことで、人々は長らく災害と同一視してきた存在が討ち滅ぼされたという事実を突き付けられた。英雄ですら退けられてきた炎龍の討伐は現実感を欠き、群衆は歓声ではなく沈黙と驚愕をもってそれを受け止めた。その沈黙は無感動ではなく、静かに熱を帯びた衝撃として広がっていった。
民衆の動揺と「緑の人」の噂
城門周辺には人々が殺到し、誰が成し遂げたのかという問いが囁かれた。説明も名乗りもないまま示された結果は、かえって多くを語り、人々は自然と「緑の人」の噂を想起した。炎龍を退けた存在として語られていたその名は、討伐の証と結びつき、確信めいた形で共有されていった。
皇帝モルトの受け止め
報告を受けた皇帝モルトは冷静に対応し、炎龍討伐を災厄が一つ去った吉報と捉えた。一方で、名乗り出ない討伐者の意図を危ぶみ、内務相マルクス伯に調査を命じた。モルトは過去に聞いた「緑の人」の報告を思い起こし、今回の件との関連を探る必要性を示した。
ピニャ・コ・ラーダへの関心
モルトは皇女ピニャ・コ・ラーダが日本からの使節と関わっている点に注目し、後の機会に事情を確かめる意向を示した。炎龍討伐と異世界からの来訪者との関係が、帝国中枢で意識され始めたのである。
日本使節団歓迎の午餐会
同時刻、帝都南苑宮では皇女ピニャ主催の午餐会が開かれ、日本使節団が迎えられていた。戦争当事国同士という事情から、式典は私的催しと公式行事を分ける工夫が施され、外交儀礼の体面と実利の両立が図られた。日本側は白百合玲子を代表に据え、帝国の慣習に対抗する形で対等性を確保しようとしていた。
文化差と外交の駆け引き
会場では服飾や慣習の違いが際立ち、白百合は帝国貴族の華美な装いに戸惑いを覚えた。これらの差異は、異文化接触の結果として生じたものであり、外交とは形式や見栄を含めた複雑な調整の積み重ねであることが示されていた。
二次会の祝賀ムードと使節団の待機
ピニャ・コ・ラーダ主催の歓迎宴が滞りなく終わった後、捕虜としていた貴族子弟十五名の帰還を祝う宴がすぐに始まった。場は一次会より緊張が薄れ、家族の喜びに引きずられて明るい雰囲気となった。一方、日本使節団は会場の一角に固まり、料理を口にしつつ要人情報を交換しながら、皇帝の登場を待つ形になっていた。
シェリーの執着と菅原浩治の窮地
菅原浩治は、テュエリ家の娘シェリーに呼び止められた。十二歳のシェリーは、菅原から日本語や立ち居振る舞いを教わった経緯を背景に、将来の関係をほのめかしつつ白百合玲子への紹介を強く求めた。菅原は政略的意図も絡む状況を理解しつつ、誤解を招く言動を抑えようとして苦慮したが、シェリーは公衆の面前でも踏み込んだ示唆を交え、菅原は頭痛と眩暈に近い感覚に襲われた。
シェリーの提案による空気の転換
シェリーは、帝国側が日本使節団を遠巻きにして近づかない現状を指摘し、その原因が未知への恐れ、特に日本の女性が強いという噂にあると論じた。講和が成立しても恐怖が残れば対立が再燃しうるとして、まず自分が白百合と親しく会話する姿を見せ、帝国貴族を呼び込む先鞭になると提案した。菅原は個人的な好悪を脇に置き、提案の実利を認めて紹介を受け入れた。
白百合玲子との面会と誤解の拡散
シェリーは流暢な日本語で白百合に挨拶し、さらに菅原から後ほど二人きりでいろいろ教わる約束があると付け加えた。これにより菅原は同僚から詰問めいた視線を浴び、白百合からも責任を取れない行為をしていないかと釘を刺された。ただ、このやり取りが場の緊張を緩め、貴婦人や有力者が日本側へ近づく流れが生まれ、相互理解の会話と講和交渉の第一歩が動き出した。
皇帝入場とゾルザルの不満
やがて侍従の告知でモルト皇帝、皇太子ゾルザル・エル・カエサル、皇女ピニャが入場した。入場前の廊下でゾルザルは、日本使節団との面会自体に苛立ち、講和交渉に反対する姿勢を父帝に訴えていたが、皇帝は戦の終わらせ方を重視し、早期終結を示唆した。ゾルザルは軍部支持の取りまとめと主戦派との連携をテューレに命じ、巻き返しの準備を急がせた。
テューレの暗躍準備
式典会場へ入る直前、テューレは暗がりの者たちと合図を交わし、前回の失態を繰り返さぬよう命じながら、精鋭を呼び寄せたと確認した。テューレは全てを面白くするよう命じ、邪悪な笑みを浮かべて計画の開始を促した。
式次第の逸脱と捕虜への示威
入場後、ゾルザルは式次第を無視し、脇目もふらず帰還捕虜の元へ向かい、一人ずつ名を呼んで肩を叩き、苦労話を聞き取った。これは講和開始への反対を態度で示す行動でもあった。皇帝モルトは嘆息し、ゾルザルの行動は任せるとして、皇太子抜きで式典を進行させるよう命じた。
捕虜の感動とゾルザルの屈辱の連鎖
捕虜たちは、処刑や奴隷化への恐怖と、帰還後に蔑まれる不安を抱え続けていたため、皇太子が自分たちを労う言葉と手の温かさに深く感動した。ゾルザルもまた、地揺れの夜の出来事で自尊心に傷を負っており、笑い声や視線が嘲りに見える屈辱を抱えていた。無能を演じて皇帝に選ばれたという自己正当化のもと、皇太子となってからは本性を示すと決意していたが、皇帝に無視され式典が進む現実に、強い口惜しさを募らせた。
炎龍討伐の噂とピニャの安堵
宴席で青年貴族たちがピニャ・コ・ラーダに炎龍の首の話を持ちかけ、英雄気取りで「大したことはない」と豪語した。ピニャは上機嫌で、講和交渉が皇帝の選んだ代表に移り、自分は仲介と雑務に回れるという解放感に浸っていた。これまでの暗闘と事件続きで心身を消耗してきたが、「父(モルト皇帝)に何か起きない限り」講和は揺るがないと確信していた。
毒舌で男たちを撃退し、炎龍の首を再確認
ピニャは男たちの媚びに気づき、軍への志願を勧める形で皮肉を返して逃げ出させた。その後、通訳として伺候していた若い女性騎士シャンディー・ガフ・マレアから、炎龍の首が掲げられたのは事実であり、伊丹耀司が成し遂げた可能性が高いと聞く。ピニャは伊丹の無事を気にかけ、シャンディーも現地で報告書を書いた立場として安堵していた。
シャンディーの「籠絡任務」とピニャの警告
シャンディーには伊丹籠絡の極秘任務が与えられていた。本人は当初乗り気ではなかったが、炎龍討伐の報に触れて憧れが強まり、感情が本気に傾きかけていた。ピニャは任務は保留とし、本気になるのは危険だと警告する。理由の核心は、伊丹の周辺事情、とりわけ梨紗の機嫌を損ねる懸念など、政治・文化面の火種を増やすことにあった。
炎龍の首の移送と皇帝の観察
炎龍の首はすでに城門から運び出され、宴席側へ移送されてきた。運搬には大柄な兵士二十人を要するほど巨大で、皇帝モルトは鱗の強靭さや牙の大きさを確かめ、伝説が誇張ではないと認識した。正門で首が掲げられた経緯が不明であることを問題視し、城門周辺の警備実態(夜間も出入りがあり頭上まで注意が及ばない)を踏まえつつも、調査継続と周辺部族・諸侯の動向監視を命じた。
功績の帰属を巡る熱狂と「帝国臣民」探し
皇帝は列席者に炎龍の骸を示し、恐怖の終わりを宣言したうえで、討伐者が誰かは断定せず調査後に公表すると述べた。そこへピニャが現れ、炎龍討伐に赴いた五名(伊丹、ロゥリィ、レレイ、テュカ、ヤオ)を伝え、出発までを見届けた者としてシャンディーを紹介した。皇帝はロゥリィ(神の使徒)の関与を聞いて納得する一方、「緑の人」が伊丹だと知って落胆し、さらに異種族(エルフ、ダークエルフ)と聞いて不満を深めた。だがレレイが「賢者カトーの弟子」であり、帝国の臣民(ヒト種)に数えられると知ると豹変し、レレイの招聘をピニャに厳命した。列席者も「帝国臣民が功績に関与した」点に沸き立ち、恩義を負う屈辱が「帝国の栄光」へ反転して熱狂が広がった。
ゾルザルの嫉妬と最悪の転回
この熱狂は皇太子ゾルザル・エル・カエサルの嫉妬と憎悪を極限まで煽った。自分が無視され、場にいない者が賞賛を独占すること、皇帝が自分ではなくレレイの名を広めることが許せず、殺意すら煮え立つ。直後、乾杯の唱和のあとに悲鳴と静寂が走り、黄金の杯が転がり、モルト皇帝が仰向けに倒れている光景で場面が締まる。ピニャが「父上の身に何か起きない限り大丈夫」と考えていた前提が、ここで崩れた形である。
02
草原行軍とテュカの月琴
高機動車が草原の一本道を北へ進み、車内ではテュカ・ルナ・マルソーが月琴を奏でた。伊丹耀司はその腕前を高く評価し、日本で演奏会を開けば客席が埋まると単純に想像した。一方でテュカは伊丹を「父さん」と呼び続け、伊丹が呼称変更を求めても、テュカは精神的な歯止めを理由に拒み、二人は平行線のまま軽快な曲へ移った。
エルフの時間感覚と「師匠」の不在
伊丹が演奏歴を尋ねると、テュカは百年ほどと平然と答え、伊丹は寿命差の感覚に圧倒された。ヤオも楽器(葦笛)を嗜むと述べ、私的な場で披露したいと艶めかしく誘うが、ロゥリィとテュカに牽制されて悲鳴を上げる。続いて「誰に習ったのか」という問いに対し、ヤオがエルフの価値観を説明した。エルフは芸事を特定の師匠につく形で学ばず、見よう見まねと試行錯誤で時間をかけて身につけ、上達のための過度な努力は「執着」として歪みを生むとみなす。長命だからこそ急ぐ必要がなく、自然な調和を尊ぶという整理であった。
C-1輸送機の投下と「資源状況調査」任務
上空をC-1中型輸送機が低空で通過し、大箱が投下された。落下傘が開いて減速し、伊丹はレレイに回収地点へ向かうよう指示する。伊丹が次に与えられた任務は、特地の資源状況調査(鉱山・油田・希土類などの有望資源の探索)である。しかし伊丹は専門家ではないため、聞き取りや既存鉱山の調査で大まかな分布把握を狙う方針となっていた。檜垣三等陸佐は、現地協力員の雇用予算が大きく増えたこと、ダークエルフ部族やエルベ藩王国からも協力者が派遣されることを説明し、伊丹を任務に就かせた。
減俸の現実と「ダイヤ」の換金不能
檜垣は伊丹に給与明細を渡し、停職の影響で支給額が大幅に減っていることを突きつけた。伊丹は報償として得た巨大なダイヤ原石で穴埋めできると言われるが、鑑定では「品質と大きさが規格外で値付け不能」「国内に買い手不在」「砕くのは冒涜」とされ、現状は置き物同然で生活が楽になっていない。伊丹は支出削減のため“買い物リスト”を線で消していくが、その中身が同人誌即売会のサークル名である点が伊丹らしさとして示される。
レレイの運転適性とロンデル到着
運転はレレイが担当し、未舗装の草原でも岩や窪みを難なく処理する。ロゥリィ・テュカ・ヤオの運転は危険と判断され、伊丹は「絶対に乗らない」と宣告していた。伊丹が交代を提案してもレレイは拒み、運転は知性と理性の表現であり、車体との一体感は魔法にも通じるとして「快感」と言い切る。峠の稜線を越えた先に、学都ロンデルの石造りの建物群が姿を現し、目的地が目前にあることが示された。
学都ロンデルの来歴と街並み
レレイは、ロンデルが約三千年前に学問の神エルランとラーの私塾を礎に成立した、帝国より古い学都だと解説した。街は日干し煉瓦と漆喰の古い建物が密集し、煤で汚れ、補修の継ぎ接ぎが目立つ。中央通りは狭いのに人・荷車・多種族の往来が錯綜し、高機動車は渋滞に巻き込まれる。レレイは「無計画で非合理的」と辟易しつつ、じわじわ前進した。
ロゥリィとヤオの先行、宿の確保
渋滞を見てレレイは先に宿を取る提案をし、ロゥリィがヤオを連れて人混みに消えた。到着した宿「書海亭」は瀟洒で、馬丁(混血らしいワイルドマン)が屋根付き車庫へ案内する。武器弾薬を積んだまま施錠できるため伊丹は歓迎するが、レレイ・テュカ・ロゥリィが魔法・精霊魔法・呪詛の多重防犯を施し、馬丁が「迂闊に触れば死ぬ」と戦慄する。
宿主ハーマルの接客と“下男”扱いの伊丹
宿主ハーマル(商売に長けたプッカ種)がロゥリィを最大限に持ち上げ、宿帳の署名や過去の著名人の話題で権威を演出する。レレイは客の足元を見る宿事情を踏まえ、ロゥリィの「権威」を利用して通した形となる。小僧たちはロゥリィのハルバードの重さに狼狽しつつ荷物運搬を担当するが、伊丹だけは荷物を持ってもらえず、ハーマルから「下男」「物置部屋の三号室」と扱われ、妖精の案内で重い足取りで階段を上る。
ハーマルの推理癖と不穏な噂
ハーマルは宿経営に必要な“人物鑑定”を趣味のようにこじらせ、レレイの高価なローブから身の上を勝手に想像する一方、伊丹は「荷物持ち」で片づける。その後、帝都方面の橋が意図的に破壊されたらしいという行商人の話が入り、物価高騰狙いなどの疑いが噂される。
レレイの正体が露見する準備
ロゥリィ一行が外出する場面で、レレイは純白の導服と白い索縄という「導師号に挑む者」の装いになっていた。宿主は年若いレレイが導師号に挑む無謀さを危惧するが、師が「カトー・エル・アルテスタン」だと知って愕然とする。レレイは会堂・市議会堂・研究街区を案内し、研究街区は高い壁で囲われつつ出入り自体は自由だが、内部は薄汚れた集合住宅のように見え、学都の中枢として機能していると示される。
研究街区の空気と「隔離」の意味
導服姿のレレイを見た学徒たちは驚き、無視したり唾を吐いて去ったりする。ロゥリィは嫉妬の嵐を警告し、レレイは無表情に「覚悟している」と受け止める。レレイは老師たちの研究窟がこの区画に「隔離されている」と説明し、その直後に実演のような事故が起きる。建物から溢れた水が周囲を水災害にし、公式・試料・論文が台無しになって阿鼻叫喚となるが、レレイは淡々と「隔離されている」と繰り返し、危険性ゆえの隔離だと伊丹は理解する。
老婦人の部屋と“アルフェ”姉の登場
レレイは迷路のような路地の先で、賢者のローブを着た老婦人を訪ねる。老婦人はレレイを「リリィ」と呼び間違え、導師号挑戦は早い、カトーは呆けたのかと茶化すが、カトーの手紙を読むとレレイの業績を称賛し、飛び級相当だと喜ぶ。部屋は書類と標本が崩れ落ちるほど散らかり、老婦人の不器用さで雪崩が起きる。そこへ買い物帰りの栗色の髪の女性が飛び込んで来て、標本整理に怒りながら場を仕切る。老婦人は彼女を「アルフェ」と示し、彼女はレレイの姉で、博士号止まりの鬱屈を抱えつつ、妹への嫉妬と毒を一気に噴出させる。レレイはその攻撃に、珍しく汗を一滴流した。
マリナの店とミモザ老師の紹介
一行は研究街区の隔壁を抜けた先の小さな店「マリナの店」に入った。学徒らしい女性客が勉学しながら過ごす、女子大近くの喫茶店めいた雰囲気である。赤ら顔の店主は老婦人を「ミモザさん」と呼んで歓待し、可愛い客だと料理が一層うまくなる、とミモザが豪語して席に着く。
ミモザは「ミモザ・ラ・メール」。魔導師であり大賢者、ロンデル長老の一人で、カトー老師の師姉弟にあたる人物だとレレイが紹介した。博物学に造詣が深い点は、伊丹の資源調査任務に資する示唆でもあった。
一行の紹介とテュカ・ヤオの“仲良し”誤解
レレイはヤオ、テュカの順に紹介し、ミモザはエルフとダークエルフが同席する珍しさに目を輝かせ、仲良くなった経緯を聞きたがった。だが二人は、互いへの罪責感や感謝と反感が混ざった複雑さを抱えており、仲良しとは言い難い。それでも憎悪ではなく「苦手意識」程度に落ち着いているため、同席と当たり障りない会話は成立している、という距離感が示された。
ロゥリィについてはミモザが旧知で、五十年前に一緒に旅をした仲だと明かされる。ロゥリィは「老けた」と言い、ミモザは皺を誇らしげに見せ、ロゥリィが羨望を隠せない対比が描かれた。
伊丹の自己紹介と資源調査の打診
伊丹は丁寧に名乗り、博物学者としての知見——鉱物や資源の情報——をミモザに求めた。ミモザは「有用」の定義が必要と前置きしつつ、情報はあると答える。ただし今は楽しく話したいとして後回しにし、伊丹もレレイの学会発表が終わるまで滞在予定だとして、時間のある時に頼む形で引き下がった。
「門」の向こう=日本談義と“図書館の不在”
ミモザが伊丹の制服を見て出自を問うと、伊丹は「日本」から「門」を通って来たと説明する。ミモザは強い興味を示し、ロゥリィ・テュカ・レレイが手分けして日本の見聞を語った。ロゥリィは街並み、テュカは衣料品の豊富さ、レレイは大型書店の圧倒的な書籍量を力説し、ロンデルにも図書館を作るべきだと提案する。
伊丹の問いで、ロンデルには図書館が「ない」ことが判明する。かつてはあったが、宗教戦争の際に過激な一神教徒に焼かれたためで、今は各老師の蔵書に頼るしかないという。
印刷と同人誌即売会、そしてアルペジオの乱入
レレイは印刷を用いれば書籍は廉価になり得ると述べ、日本では出版が身近で「ドウジンシソクバイカイ」という大規模な市まであると熱を帯びて語る。ミモザはそれが実現すれば素晴らしいと評価しつつ、書籍は高価で集めるのが大変だとも現実を示す。
そこへ扉を叩きつけるような音とともに、姉アルペジオ・エル・レレーナが般若の形相で現れ、「本が安くなったら困る人がいる」と真っ向から否定して場を凍らせた。
03
夕刻のロンデルと“決闘”の拡散
夕刻、学徒の帰路と商人の稼ぎ時が重なり、街は朝並みに混み合っていた。その喧騒の中を、数人の学徒が「魔導師同士の喧嘩」「女同士」「片方はアルペジオ」「相手はレレイ(十四〜十五歳の少女)」と大声で触れ回りながら走り抜けた。噂は瞬時に伝播し、人波はスタンピードめいて増殖していく。さらに旅装の騎士二人(グレイ騎士補とシャンディー)が、敵が足止めに動く可能性を警戒しつつ、群衆の後を追った。
マリナの店前が“見世物会場”になる
戦場に選ばれたマリナの店前は、野次馬学徒で埋め尽くされ、商売には大迷惑となった。だが店主は立ち食いの軽食販売に切り替え、損失どころか利益を上回らせる。路地は狭く、馬車がすれ違うのも難しいのに、姉妹が中央に立ち塞がる形となり、荷馬車や通行人は立ち往生する。見物人は気楽に構え、勝敗の賭けまで始まり、掛け率は「三対一」で知名度と実績のあるアルペジオ優勢と見做された。
姉妹対決の構図と演出
東側に杖を立てたのはアルペジオ・エル・レレーナ(24歳)。ローブ越しにも強い曲線が分かる体躯で、男たちの視線を吸い寄せる。西側はレレイ・ラ・レレーナ(16歳、誕生日を迎えたばかり)で、痩せぎすだった体がようやく丸みを帯び始めた段階である。十歩ほどの間合いに砂塵が舞い、藁球が転がるなど、決闘めいた“マカロニウェスタン風”の空気が出来上がる。
レレイの導服はスープで汚されている
見物人は無名の少女レレイに関心を向け、導服が異様に汚れている理由を囁き合う。レレイの髪とローブは、果実と野菜を煮込んだ滋味深いスープで赤く染まっており、簡単に洗っても落ちず、白さを旨とする導服は台無しになっていた。誰がやったのか、という問いには「アルペジオ以外に誰がいる」と推測が飛び、動機も「若いのに導師号に挑む生意気さへの嫉妬」と短絡されていく。アルペジオはその空気に舌打ちし、状況が“嫉妬案件”に見えること自体に忸怩たる思いを抱く。
アルペジオの内面:嫉妬と意地、偽りを拒む決意
アルペジオは、自分が感情に駆られて“やらかした”自覚を持ちながらも、単なる嫉妬と切り捨てられるのは耐え難いと感じている。妹に本気を出させ、力量差を明確にして納得しなければ、負の感情に永遠に苛まれ、引け目を抱え続けると考えていた。表向きは度量を示して祝福できても、それは「偽りの平和」であり、胸中と表情の乖離が生じ、血の繋がらない姉妹関係に偽りが入り込めば他人になる――それだけは拒絶した。
だから揶揄されるのを承知で挑発を選び、決闘という形で決着を付けようとしている。そして彼女は、傍観者としてそこにいる「イタミ」という男に視線を向け、下唇を噛んだところで場面が切れる。
アルペジオの来店と“本が安くなる”発言の衝撃
研究窟の片付けを終えたアルペジオは、書きかけの羊皮紙を鞄に押し込み、師匠ミモザの行きつけの店へ急いだ。扉越しに聞こえた「本当に本が安くなる」「きっとそうなる」という会話が直撃し、思わず扉を乱暴に鳴らすほど動揺する。アルペジオにとって、書籍価格の下落は副業(筆写)と生活基盤を揺るがす“実害”だったためである。
筆写で食いつなぐ現実と取り乱し
アルペジオは「本が安くなったら困る人がいる」と訴え、ミモザにも研究費・試料代の重さを叩きつける。夜なべして写した魔法大全を売れば金貨三枚が見込めるのに、値崩れすれば四ヶ月の苦労と生活設計が崩壊する、と頭を抱えて煩悶する。ミモザは、鉱物魔法が金食いの分野であること、アルペジオが筆写を副業にしても暮らしが厳しいことを説明し、場を取りなす。レレイも「今日明日の話ではない」「いずれ将来の話」と冷静に釘を刺し、アルペジオは一旦へなへなと座り込む。
席取りの火種と“姉の無神経”
水を取って戻ったレレイは、元の席にアルペジオが座っていることに気づき、無言で立ち尽くす。結局、ミモザとアルペジオの間の隙間に割り込む形で座るが、アルペジオは気づかずコップをひったくり、愚痴をこぼす。このあたりで、姉妹間の距離感と、レレイ側の不快が静かに積み上がる。
伊丹との会話で副業が具体化する
アルペジオは筆写の内容を説明する。賢者の稀覯本を丸ごと手書きで写し、豪華に装丁して書店へ卸す商売で、見栄えが良いので貴族や豪商に“インテリア価値”として売れる。ミモザも、字の美しさと装丁の凝りが人気だと補足する。伊丹は自分の離婚話(別れた妻が同人漫画の洒落本を描いていた)に触れ、アルペジオは踏み込みつつも興味を示す。さらにアルペジオは、レレイの首に腕を回して伊丹の素性を確認し、「門の向こうから来た軍人」「資源調査任務」と聞いて、ここで鉱物の専門が自分だとミモザに“指名”される流れになる。
食事と宿題:門がもたらした多種族世界の仮説
料理が並び、話題はロゥリィへの宿題へ移る。ミモザは「多くの種族がいる理由は“門”で、亜人は門の開口時に移住してきた。ヒト種は新参者」と答える。アルヌスが帝国で“聖地”と呼ばれるのも、信仰対象ではなく「自分たちが来た場所」という意味合いだと説明される。ロゥリィは、自分たち亜神を“庭師”に喩え、好ましくない枝は剪定し害虫は駆除するが、刈ってばかりでは世界樹は育たないため、賢者に難題を課して知識や技術を伸ばすのだと語る。一方で「ハーディの馬鹿者」と不穏な愚痴も漏らす。ミモザはこの史学的見立てが自分の研究であり、カトーの専門(窮理=物理)とは違うと明言する。
導師号の準備資料と“決定的な差”
アルペジオは、知識が偏るから戻って体系的に学べとレレイを諭すが、レレイはカトーの元にいたからこそ導師号挑戦が可能になったと反論する。レレイは発表用ファイルを提示し、その際に真鍮製の漏斗(日本の台所用品)がこぼれ落ちる。レレイは、ノイマン効果を発揮させるのに適した材質と形状で、安価で使い捨てもでき、武器に見えない点が利点だと説明する。
ミモザは、異世界知識の丸写しなら剽窃だが、魔法体系へ組み込み直している点を高く評価し、「長老連中も黙らせられる」と太鼓判を押す。アルペジオは読み進めるうち凍りつき、「抜かれた。しかも完全に」と敗北感を露わにする。
いじけ→金の無心→“結婚で逆転”の暴走
アルペジオは才能への絶望から学問を捨て田舎で教える話まで飛躍するが、レレイは分野特性(鉱物魔法は時間がかかり金もかかる)を挙げて励ます。ところがアルペジオは即座に「金に余裕がありそうだから融通して」と無心し、レレイは黙ってスープを褒めて無視する。アルペジオは泣き喚き、誰も深刻に取り合わない空気の中で「結婚して家庭に入る」と方向転換する。
ここでアルペジオは伊丹の条件を探り、レレイは伊丹が士官であり、複数の称号を持つと淡々と列挙する。さらにヤオが“頭サイズの金剛石”を贈ったと明かし、アルペジオは研究資金が潤沢な理想家庭を夢想する。
席の奪還と“三日夜”宣言が引き金になる
アルペジオが立った隙に、レレイは伊丹の隣へ移り座る。アルペジオが席を譲れと迫ると、レレイは拒否し、「すでに三日夜を終えた仲」と伊丹の袖を摘んで宣言する。三日夜とは、連続三夜の同衾で内縁が始まるという土着の習慣であり、事実上の結婚宣言に等しい。
学問でも、金でも、男でも先を越された形となり、アルペジオの張り詰めた糸が切れる。
スープをぶっかけ、決闘へ“回収”
アルペジオは、冷めていると確認した上でスープ皿を掲げ、レレイの頭上からぶちまける。白銀の髪と白装束が甘薯のスープで赤黄に染まり、周囲の視線を浴びて「しまった、ついやった」と思うが、後悔はなく“すっきりした”と感じる。義妹が震えながら立ち上がり、義姉が無言で睨み返す。ここで視線の火花が散り、冒頭の路上決闘シーンへ繋がる、という構成で章が閉じる。
決闘の成立とルール提示
対峙するのはレレイとアルペジオの女魔導師二人であり、見物の学徒たちは同じリンドン派同士の本格魔法戦を期待して沸き立っていた。中央に立ったロゥリィは、①不殺、②顔に傷を付けない、③ルール違反・降伏・倒れて十カウント以内に戦闘態勢へ戻れない場合を敗北、④戦後の調停に従う、という条件を宣言し、双方が同意したうえで「第十三次レレーナ家姉妹会戦」を開始した。
アルペジオの先制と“鉱物触媒”戦闘
先に動いたのはアルペジオで、光球を放ち、レレイは軽快に回避した。続いてアルペジオはボーラ(分銅を鎖で繋いだ投擲武器)を用い、三つの分銅を異なる材質にして鉱物魔法を込め、色調の違う光を帯びさせて運用した。ミモザは、触媒で「現理」へ素早く干渉できるが素材ごとに効果が変わると説明し、アルペジオがその法則性を研究している点を誇った。一方の伊丹は、顔に傷を付けない以前に怪我が出る危険性を直感し、姉妹喧嘩の域を超えていると困惑した。
攻防の激化と見物の危険化
戦闘は風刃、石礫、氷柱などが飛び交う規模に膨れ、流れ弾が民家を焦がし、跳弾が野次馬へ飛ぶ事態に至った。ミモザは、リンドン派は防御魔法を先に仕込まれるため喧嘩は「防御を破る力比べ」になりやすいと説明しつつ、両者とも攻撃・防御が明らかに強化され、とくにレレイの成長が著しいと評した。やがて大技の応酬は限界に近づき、互いに肩で息をしながら障壁と渾身の打撃を交互に叩き込む、意地と意地の殴り合いに収束する。その段階で力量差が表れ、アルペジオが徐々に守勢へ追い込まれていった。
“止めるか”の直前に起きた殺人
伊丹は危険域に入ったと見てロゥリィへ制止の意向を示すが、ロゥリィは「ここで止めるとわだかまりが残る」として、アルペジオの起死回生とレレイの決定打を見極めるまで待つ姿勢を取った。だがその瞬間、決闘とは無関係な悲鳴と撃剣の音が上がり、男が剣で胸を貫かれて倒れる。ここまでが“不殺を前提とした見世物”だったため群衆は油断しており、衆人環視で命が断たれた衝撃が場の空気を一変させた。
グレイの名乗りと“刺客”の提示
ロゥリィは憮然として、決闘の場を汚した理由をグレイ・コ・アルド(騎士補)に問いただす。グレイは礼儀正しく膝をつき、倒したのは刺客の一人であり、まだ安全ではないから即時離脱すべきだと進言した。続いてシャンディーが、押収した弓銃が“すぐ撃てる状態”だったことを示し、殺された男が人混みに紛れてレレイを狙っていたと説明する。アルペジオは「なぜレレイが狙われる」と声を上げるが、この場では答える余裕がないと促される。
伊丹主導の退避と警戒配置
伊丹は即断で撤収を促し、レレイとアルペジオを連れて人垣を抜けて店を離れた。グレイとシャンディーが警戒しつつ追随し、伊丹はヤオとテュカに先行偵察(宿の安全確認)を命じる。隊列は、中心にレレイとアルペジオを置き、周囲をロゥリィ・グレイ・シャンディーが警戒する形となった。
刺客の背景:名声と“嫉妬”
シャンディーは、姫殿下(ピニャ)からの命令は本来「レレイを帝都に招く」だけだったが、途中で刺客が雇われた情報を掴んで駆けつけたと説明する。グレイは、炎龍の首が帝都に掲げられて以後、レレイの名声が帝都で急激に高まったことが背景だと述べる。伊丹は「炎龍討伐なら全員が狙われるはず」と疑問を挟むが、グレイは帝国のヒト種が“帝国の臣民でヒト種のレレイ”に対して異種族とは別種の身内意識を向け、貴族や軍人、皇帝が果たせなかった功績を「まつろわぬ民のヒト種」が成したという構図が喝采を生んだ、と説明する。
そして刺客を差し向ける根底の感情は単純であり、結局は嫉妬だと断じる。刺客は並大抵ではなく、炎龍討伐の実績を見て高額で放たれているため、グレイら二人だけでは防ぎ切れず協力が必要だと要請する。伊丹は身内を守るのは当然だと応じる一方、自分が好戦的に見られていることには苦い否定を返す。
04
帝都内悪所街事務所の逼迫
帝都内の陸上自衛隊「悪所街事務所」は、通常の閑散さが消え、ここ一週間は多数が詰めて監視・連絡・分析を昼夜で回していた。隠しカメラ映像が並ぶモニター群、無線で各所と交信する笹川、地図へ部隊符号を書き込む戸津、二科の情報要員が情報網を手繰り寄せる作業に従事し、廊下では仁科一曹が簡易ベッドで仮眠するなど、交代で倒れ込みながら稼働する状況であった。
食糧不足と調達ルート
黒川・栗林が買い出しから戻り、協力者の翼人ミザリィも同行した。配られたのは硬いライ麦パン、干し肉、干し果物で、男連中が不満を漏らすと栗林が「文句を言うなら喰うな」と一喝した。調達は古田陸士長経由の“横流し”で、宮殿から直接ではなく、料理人側が商人に話を付け、その商人から分けてもらう形だと説明された。帝都全体が品薄で、事務所側も食糧確保に苦労していることがミザリィの言葉からも補強される。
二階にいる“別枠”の連中
二階奥には、普段は籠って寝ているか運動しているか留守にしている者たちがいて、ミザリィは剣崎三尉らへ食事を届けた際、軽い絡みを受けつつも受け流した。彼らは手伝わず怠けているように見えるが、帰投時に濃い殺気を放つなど、悪所街でも“格が違う”気配を持つ者として描写される。ミザリィが誘いをかけても、剣崎は「禁止になってる」と断った。
新田原の報告と今津の警戒線
所長の新田原三佐はアルヌスの今津一佐へ無線報告中で、内容は帝都情勢の整理であった。
- 皇帝が倒れて一週間、帝都は戒厳下のまま。
- 警備兵が往来を威圧し、帝都への出入り制限で商店は品薄・閉店が増え、人通りも減少。
- 事務所の食糧も不足し、補給を要請。備蓄150食分は副大臣一行へ多めに回し、さらに“袖の下”として食糧が使われた。
今津は「メシも武器」と補給を約束し、C-1輸送機の確保次第、空から投下すると述べた。一方で、翡翠宮は外交協定で安全という新田原の見方を「先入観は捨てろ」「馬鹿は“やられたら困ること”を選んでやる」と強く戒め、最悪前提で警戒するよう指示した。
ゾルザルのクーデター進展と講和派の扱い
新田原は、皇帝の不豫に乗じたゾルザルが皇太子府開設を宣言し政務を壟断、指揮権継承を掲げて各地の軍に忠誠を誓わせ、帝都を厳戒体制に置いたと報告した。講和派議員は多くが軟禁され、家族は密かに脱出を進めている。今津は「家族を逃がしているのは、そうせなならんことが起こる予感」と見て、火の粉が回るなら駆けつけるが、それまでは“保たせる”ことを優先せよと命じた。脱出先のない家族の保護についても、迂闊に動くと相手の立場を悪化させ得るとして、見極めを要求した。
EEIの提示:皇帝の生死と回復見込み
今津は、外務省・副大臣一行の状況を分刻みで把握し続けること、そして皇帝の健康状態(生死、回復見込み)を情報見積りのためのEEI(情報主要素)として最重要に据えるよう指示した。交信後、新田原は「宮廷内にツテがある者」を探すが、黒川はピニャ周辺と親交のある富田二曹の活用を提案した。
皇城の混乱と二重権力
皇太子ゾルザルは皇太子府の開設を宣言し、内務・財務・農務・外務・宮内、さらには宰相に至るまで「次期閣僚」を独自任命し、現職と同等の権能を持つとした。皇帝が意思表示できない病状ゆえ、官僚側は将来の上司となり得る次期閣僚を無視できず、現場は現職と次期が並び立つ二重権力に陥り、行政が混乱した。元老院でも講和派が自宅軟禁され、主戦派のみで議事が進むことで、ゾルザルに都合のよい決議が加速し、閣僚らは皇帝回復を待つしかない状況となった。
ゾルザルとテューレの「宮廷的権威」
皇太子府広間に入場したゾルザルは、豪奢な装いの少壮文官・将校を従え、現皇帝側を豪華さで凌駕する光景を作った。テューレは「所有物」として付き従う立場だが、皇太子の権勢の近傍にいるがゆえに周囲から王侯に準じた礼遇を受け、政治空間の序列が視覚化された。
ピニャの抗議と、裁判なき処断宣言
ピニャは講和派議員(カーゼル侯爵、キケロ卿ら)を代表から外し軟禁した理由を問い、ゾルザルは「ニホンに買収された疑い」と断じ、戦時を理由に裁判なしの即断即決を正当化した。軍陣内の即決処分は例外的措置に過ぎないという基本を踏み越える兄の論理に、ピニャは力が抜けるほどの絶望を覚える。ゾルザルはピニャを必要(対日窓口)として首は切らないとしつつ、講和の代表を主戦色の強い人物に差し替え、勝利可能性を語った。
ヘルムの“邪道”提案と焦土・偽装の発想
ゾルザルは軍将に腹案を問う。ヘルム子爵は、正面戦では勝てないため「邪道に徹する」とし、ゴブリンやコボルトを使って街村・隊商を襲撃させ、畑を焼き井戸に毒を入れるなどの焦土化を提案した上で、帝国は関与を否認し、さらに隊商に変装・民衆に紛れる・越境逃亡・人質・難民に紛れ込むなど、ニホン軍の倫理と統治を逆手に取る策を列挙した。ゾルザルはその効果(疑心暗鬼、巻き添え、虐殺の喧伝、民衆の敵意化)を直感し、痛快さを覚えて採用へ傾く。
ミュドラの“汚名転嫁”と、作戦の暴走
ミュドラは「敵の装いで襲撃し、汚名を敵に着せる」案を出し、ゾルザルは膝を打って同調する。都市襲撃、略奪、婦女子への暴行、放火まで口にされ、作戦は“攪乱”から“計画的な残虐の喧伝”へと踏み込む。捕虜経験のあるヘルムとカラスタが敵の姿を説明できると名乗り出て、実行準備が具体化し、ピニャの制止は押し潰された。
オプリーチニナ特別法と講和派一掃の制度化
続いてルフルス次期法務官が、オプリーチニナ特別法の草案と要員選抜完了を報告し、可決次第「講和派一掃」を開始すると宣言する。ピニャは「まただ」と呟き、希望が積み上がるたびに突き崩される反復に憔悴し、精神の縁に追い込まれていく。
ディアボへの助力要請と、崩れる最後の支え
皇太子府を出たピニャは次兄ディアボを頼るが、館は閑散で、ディアボは旅装で脱出寸前だった。彼は「責任を果たすため外つ国の力を借りる」と言い、ゾルザルが諫言者を獄に繋ぐ現状を示して、宮廷内で止めるのは無理だと突き放す。ピニャは縋りつき、病床の父を置けないと泣き、力比べの末にディアボは折れるふりをして条件を提示する。
ディアボの条件と、ピニャの精神的破綻
ディアボは、炎龍退治の報告書(物語仕立て)を引き合いに「身を差し出す覚悟」を要求し、枕頭に侍れと迫る。ピニャは禁忌への拒絶と、帝国を救いたい使命感の間で追い詰められ、ついに自分から「抱いて欲しい」と言うまでに踏み越える。だがディアボは本気ではなく、彼女が本当に越えようとしたことに怯えて逃走し、侍従の忠告(竹篦返し)も振り切って帝都を去った。
独り芝居の支度と、見捨てられた涙
ピニャは自邸に戻り、香油の風呂、整髪、薄化粧、勝負下着、紗の衣装まで整え、メイド達は「姫様がいよいよ」と色めき立つが、相手が誰かは伏せられた。西館へ向かったピニャを待っていたのは無人の部屋であり、寝台で膝を抱え、自分が見捨てられた現実を噛み締める。報告書に描かれた“友情のために命を賭ける男”と、今の自分の惨状を比べ、ピニャ・コ・ラーダは悔しさと無力感の涙に暮れる。
贈賄で取り入ろうとする商人マルキの失敗
肥え太った商人風の男マルキは、皇太子ゾルザルに平伏して祝賀の木箱を献上し、御用達商人の入れ替えを見越して「ご贔屓」を求めた。ゾルザルは表向き「賄賂など求めぬ」「質と値段で勝負せよ」と断じ、テューレも即座に「この男は駄目」と切り捨て、出入り禁止の扱いとした。宮廷の空気を読んだ“擦り寄り”が、ゾルザルの掲げる刷新の建前に反して排除される場面である。
ゾルザルの改革思想:混乱を利用して官僚を骨抜きにする
次期侍従長ネイは「緩急をつけ、間を置け」と諫めたが、ゾルザルは「混乱こそ期待している」と言い切った。巨大国家では官僚が慣習・手続き・面子で政策を“現実に合わせて”骨抜きにすると見抜いており、混乱状態なら修正する暇がなく命令が丸呑みされる、という発想である。ゾルザルは「簡潔さ」「単純さ」を求め、制度運用を丁寧に整える発想そのものを嫌悪している。
オプリーチニナ特別法のつまずきと、テューレの介入
ルフルス次期法務官は、オプリーチニナ特別法が元老院から差し戻されたと報告した。理由は「帝権干犯」の定義が曖昧で、主戦派まで有罪になり得る点にある。ルフルスは令旨で強行発令も示唆するが、ゾルザルは議員の不安を煽ることを嫌い、定義の落とし所に悩む。そこでテューレは、対象定義を「陛下の政策を妨害する行為」にしてはどうかと提案しつつ、皮肉として「元老院のほとんどは抵触しない、何もしていないから」と刺す。ゾルザルは“簡潔すぎて議論不能になる”危険も理解し、自分の美意識(議会が補弼し、理想に沿う議論をする体裁)を崩したくない葛藤を見せた。
テューレが連絡役へ:情報の関門を握る配置転換
テューレは「ルフルスが多忙で支障が出る」と持ち出し、当面は自分が連絡役を引き受けると提案した。ゾルザルはこれを認め、以後の進行・報告はテューレ経由と指示する。結果として、法務官の提出物や進捗がテューレの手を通る構造が固まり、政策実務のボトルネックをテューレが握る布石となった。
古田の“日本式昼食”と、宮廷儀礼への反抗
料理人の古田が昼食を持参し、ゾルザルは執務机で食べることを選ぶ。ネイは「食堂で品位を」と諫めるが、ゾルザルは儀礼を嫌い、古田の料理の実利を優先する。出されたのはパンに焼き挽肉を挟んだ「ハンバーガー」で、手で豪快に齧る食べ方も含めて、ゾルザルの“単純さ”“実用性”の嗜好に合致した。
ゾルザルと古田の関係:大食漢と職人の矜持
ゾルザルは古田を宮廷料理人、さらには料理長に据えたいが、古田は「店を持つ」という夢を譲らない。ゾルザルはその“身分の低さと無関係な誇り”を面白がり、当面は側に置いて技術を仕込めと命じる。古田はゾルザルを恐れていないわけではなく、いざとなれば自衛隊の緊急支援や帰国で逃げられる現実があり、それが大胆さの下支えになっている。
テューレと古田の対話:統治観の刺さり方
厨房へ急ぐ途中、テューレは古田に「怖くないのか」と問う。古田は店を「自分の城」「国」と捉え、客=民草の気まぐれに応える努力が王の責務だと語る。テューレは「民に背かれるのは王の責任か」と踏み込み、その考え方に衝撃を受ける。強者に媚びない古田の背筋が、テューレには眩しく映る、という形で彼女の価値観が揺さぶられる。
決定的な“書類の消失”:テューレの静かな妨害
執務室ではゾルザルが書類処理を進めるが、肝心のオプリーチニナ特別法草案が見当たらない。ネイは後でテューレに届けさせると言い、ゾルザルも「テューレに任せた」と流して次へ進む。結末として、草案はテューレの手でゾルザルが目を通さぬまま「再動議」の箱へ放り込まれ、事実上棚上げされる。テューレが“連絡役”を得た直後に、最重要法案が握り潰される構図であり、彼女がゾルザルの暴走を内側から遅滞させ始めた場面である。
05
夜のロンデルと刺客の襲来
学都ロンデルの夜景を眺めつつ、伊丹とレレイは「学徒の灯」が知の営みの象徴であると語った。しかし刺客の気配が迫り、伊丹一行(伊丹、レレイ、テュカ、ロゥリィ、ヤオ、シャンディー)に加え、護衛役のグレイも合流して迎撃態勢に入った。刺客は四人で侵入し、寝台の掛け布を人と誤認して剣で貫いた直後、伊丹の閃光発音筒による閃光と爆音で無力化され、ロゥリィがハルバートで叩き伏せた。
刺客の正体と宿の危機
捕縛した刺客は、外部の殺し屋ではなく書海亭の従業員の若者たちであった。宿主ハーマルは宿の信用失墜を恐れて絶望するが、従業員は「聖下たちは偽物で、賞金首の詐欺師集団だ」と手配書と前渡しの金貨を示されて騙されたのだと告白した。グレイは背後に「笛吹男」と呼ばれる、言葉で善良な者を殺人に誘導する黒幕がいると推測し、相手の正義心や職業意識を鍵にして禁忌の錠を外すのだと説明した。
寛赦と“泳がせ”の罠
ハーマルは従業員を庇い、宿が潰れても若者の将来を潰したくないと嘆願した。ロゥリィは「許す。ただし教育せよ」と裁定し、宿泊客も概ね納得した。さらに伊丹達は、騙されやすい従業員を“泳がせ”にして笛吹男が再接触するのを待つ意図を持ち、素顔を見られていないシャンディーを監視役の切り札として使う方針が示された。
朝の騒動と英雄化の拡散
翌朝、ロンデルの書海亭は悪評で潰れるどころか、伊丹達が「炎龍退治の英雄」として過剰な敬意を受ける状況になっていた。帝都で炎龍の首が掲げられた情報が馬飛脚で届き、噂が拡散したためである。ヤオとテュカは過去の振る舞いまで脚色されて広まったことを羞恥し、ロゥリィは功績の歪曲に不満を漏らし、レレイは持ち上げられる構図自体への不快を滲ませた。ロゥリィは、帝国社会が硬直し行き詰まりと不安を抱えているため、英雄に熱狂して自信を取り戻そうとしているのだと説明した。
宿主の策と警護の難化
ハーマルは笛吹男の手口(虚言で他者を唆す)を潰すため、伊丹達の正体と笛吹男の噂を敢えて広めたと語った。一方グレイは、派手になったことで見物人に刺客が紛れ込む危険が増したとして、面会は一人ずつ通す方式に改めさせた。グレイ自身はピニャ皇女付き騎士補で、伊丹達を帝都へ招請する任務で警護に加わっていると明かした。
夜の再誘導とシャンディーの失踪
その夜、書海亭の従業員四人は罪悪感と緊張を抱えつつ酒場へ行くが、ノッラと名乗る活動的な獣女に「許された顔をしている場合ではない」と糾弾される。ノッラは「笛吹男は仕事の成否確認に必ず現れる」と説き、学会当日に自分がレレイを襲う“演技”をするから、従業員が事前にレレイ側へ話を通して見逃すよう仕向けろと提案した。従業員は汚名返上の機会だとして同意する。これを聞いたシャンディーはノッラこそ笛吹男(または傀儡)だと見抜きつつも功績欲に負けて尾行を決意し、占い師に呼び止められて不穏な予言めいた言葉を受けながらも店を出た。シャンディーはノッラの後を追って馬で去り、翌日になっても戻らなかった。
06
ロンデル学位認定審査会の起源と役割
ロンデル学位認定審査会は、正式には「ロンデル学位認定審査会」と呼ばれ、約三千年の歴史を持つ制度として語られた。元来は、賢者が個人で抱える稀覯本を学徒に閲覧させるための資格審査であり、焚書や戦乱で公共の蔵書が失われた結果、知識への到達には「閲覧許可」が不可欠になった経緯が示された。やがて閲覧許可の意味は薄れたが、学問の修め具合を示す権威として学位制度へ発展した。
学位制度の段階と社会的価値
学位は「学士」「修士」「博士」「導師」の順に高まり、審査も段階的に厳格化した。学士は導師の弟子となり口頭試問で認定され、賢者として書庫利用や基礎教育の教授が可能になった。修士は他流派導師による口頭試問で認定され、広い範囲の閲覧と質疑が許され、代講も担える立場になった。博士はロンデルの審査会で論文発表を行い、列席する老師全員の認定を得ねばならず、獲得すれば閲覧制限が実質撤廃され、各国で貴族級の待遇を受けることもあると説明された。導師は私的書庫を構え学徒を集める段階であり、公開処刑や吊し上げに喩えられるほど過酷な審査で、多くが博士で止まる現実も語られた。レレイは修士、姉アルペジオは博士に位置づけられ、レレイは導師を受ける決意を固めていた。
伊丹の「学士」扱いと一同の動揺
レレイは、日本の大学卒が学士相当であると調べた上で、伊丹を「学士号を持つ賢者」と結論づけた。ロゥリィやヤオ、テュカは強い違和感と驚愕を示し、テュカは思わず本音で伊丹を軽んじるような言い回しをしてしまった。伊丹は冗談めかして怒ったふりをし、テュカの頬を引っ張ってじゃれ合いに発展し、周囲は羨望や観察の視線を向けた一方、レレイはテュカの距離感が崩れかけていることに焦りを滲ませた。
警戒の緊張とグレイの帰還報告
弛緩した空気の最中、伊丹は足音を察して拳銃を抜き、ロゥリィやレレイ、テュカも即応したが、入ってきたのは騎士補グレイであった。グレイは、監視に出したシャンディーが四日連絡を絶っていること、捜索しても手がかりがないことを告げ、任務上も個人的にも責任を感じていた。レレイは自責から同行しようとしたが、伊丹とグレイは「信用を与えた以上は待つべき」と諭し、作戦の軸を揺らすべきでないと説いた。
シャンディーの帰還と笛吹男の追跡結果
緊張の足音の正体は、息を切らしたシャンディー本人の帰還であった。シャンディーはノッラという女を追っていたと説明し、ノッラが笛吹男の傀儡である可能性を示した上で、笛吹男の容姿を確認したと報告した。ただし追跡はパイランの街まで及び、うたた寝の隙に見失ったという結末であり、テュカは強く叱責した。グレイは、単独で片道二日の追跡を成したこと自体が驚異だと評価し、伊丹も「顔の確認は大手柄だが、連絡は欲しかった」と釘を刺した。
決行前の疲労と協力者としての配慮
一行は学会会場で笛吹男を捕捉する予定を確認し、武装して出発しようとしたが、シャンディーは疲労と空腹、着替えの必要を訴えた。伊丹は、部外者に無理を強いることへのためらいを覚えつつも、笛吹男を見分けられるのがシャンディーだけである現実に直面した。グレイは戦場の常として奮起を促し、シャンディーは健気に謝罪して行動を受け入れたため、一同は彼女への評価を上げた。宿の小僧たちも「先に会場で見張る」と協力姿勢を見せたが、伊丹たちは彼らが騙されている点には触れず、利用せざるを得ない複雑さを抱えたまま出立した。
レレイの慎重さの理由と「学問の暴力性」
道中、伊丹は「ネットから得た知識で革命的な報告を連発できるのに、なぜ慎重なのか」と疑問をぶつけた。レレイは、入門時に学問が社会へ与える影響を教わったことを語り、天文学者パッソルが大地球体説に到達した際、民衆が恐怖と怒りで会堂を取り囲み、学説撤回を迫った事件を例示した。賢者たちは観測事実を曲げない代わりに、「世界の中心ゆえ落ちない」という欺瞞で民心を鎮めたとされ、真理が常に救いにならず、時に人々を壊す力を持つことが強調された。
火薬発表への恐怖と伊丹の理解
レレイは、自身の研究が「魔法による爆発」なので限定的に済むと逃げてきたが、本来は火薬製法を発表すべきだと理解している一方、悪用が引き起こす惨禍を想像して踏み込めないと吐露した。門を挟んだ交流が進めば、いずれ火薬はこの世界へ流入する可能性が高いが、それを自分の手で早めることへの恐怖が、レレイの慎重さの核心として示された。伊丹はそれを責めず、むしろ当然の逡巡として受け止め、ロゥリィもまた「いずれ引き受けてほしい宿題がある」と含みを残しつつ、レレイの選択を肯定した。
会堂前の熱気とレレイへの注目
学位認定審査会の会堂前には賢者と学徒が集結し、開場を待つ群衆ができていた。伊丹一行が人垣を進むと、入口付近でミモザ老師とアルペジオがレレイを待っており、遅刻しかけたレレイを咎めた。同時に、若年で導師号を狙うこと自体が学徒たちの噂となっており、アルペジオが名を口にしただけで周囲が一斉に沈黙し、「噂の本人」として視線が集中した。
ミモザ老師の茶化しとアルペジオの「姉」らしさ
アルペジオはレレイの白無垢ローブを摘み、間に合ったことを確かめつつ皮肉を交えた。ミモザ老師は、炎龍討伐の噂が広がっていること、さらにアルペジオが妹を友人として自慢していたことまで暴露し、アルペジオを真っ赤にさせた。加えて、万一に備えて導服を用意し裾上げまで徹夜した件も口にしてしまい、アルペジオは「確信犯」と抗議するが、老師は笑顔で受け流した。アルペジオは妹に対する威厳と序列維持の苦労を説き続け、姉としての立場に固執している様子が強調された。
フラット登場とアルペジオとの近さ
場を収めようとした痩身のエルフ男がアルペジオの肩に触れて諫めるが、アルペジオは剣幕で一蹴し、男は即座にしゅんとする。伊丹たちは、肩に触れることを許すほど近い男の存在に関心を向け、男が「フラット・エル・コーダ」と名乗って自己紹介したことで、彼がアルペジオ(呼称はアルフェ)からレレイの話を常々聞いていた関係だと分かる。
炎龍討伐の噂の修正とレレイの記憶
フラットは、若くして導師審査に挑むことや炎龍を倒した噂を称賛するが、レレイは即座に虚偽を正し、正面から戦ったのは伊丹と戦死者(クロウ、メト、バン、ノッコ、コム、セイミィ、ナユ)とヤオであり、とどめはテュカ、自分は魔法でつついたに過ぎないと整理した。テュカは赤面して謙遜し、ヤオは戦死者を一人残らず挙げたレレイの姿勢に感情を動かされ、目を潤ませた。
研究賢者という立場とフラットの葛藤
フラットは自分を「研究賢者」と呼び、レレイはそれを「魔法を使わない賢者」と説明した。だがフラットは「使わないのではなく使えない」と言い、エルフゆえ精霊魔法に偏ること、精霊魔法が実験・解析に不向きで研究分野や方法が観察と考察に限定されがちな悩みを吐露した。レレイは魔法は道具に過ぎず、魔法なしでも偉業を成した賢者は多いと励ました。
専門は天文学、そして“命がけ”の学問
フラットの専門は天文学であり、直前にパッソルの球体大地説と民衆暴動の逸話を聞いた伊丹は思わず同情めいた反応を示した。事情を察したフラットは「最近は袋だたきにされることも減った」と自嘲しつつも、この分野は時に命がけであり、最終的には必ず説得できると信じていると語った。
モクリの太陽中心説と対立の構図
フラットは、惑星が時に逆行して見える現象(遡行)を説明するため、旧来は「透明な球に付着した惑星が回転する」というモデルで済ませていたが、観測精度の向上で破綻が増え、天文学者モクリが「太陽中心説」を提唱した流れを説明した。大地も惑星として太陽を回り、追い越しによる見かけの現象で遡行が説明できるという整理である。
しかし反発は強く、「大地は不動」という心的基盤に加え、月が取り残されない理由や恒星位置の見かけの変化など未解決点がある。モクリは「大地と月を繋ぐ目に見えない虚理」を持ち出したが、研究賢者は「魔法側は困ると虚理と言う」と批判し、魔導師側も「虚理は現理の中で存在し得ず、法理で開豁された陣内でのみ発動する」という原則から批判し、定説化には至っていない。
日本の学会との比較と、ロンデル学会の貧しさ
伊丹は日本の医学系学会を例に、製薬会社スポンサーが会場・印刷・名札・受付運営・宴会・弁当まで支える「ランチョンセミナー」文化を思い起こした。一方で、スポンサー付きは例外で、多くの学会は会費で細々運営されるとも整理する。ロンデルの学会はまさに後者で、老朽化した会堂と、受付・会場整理を学徒の手弁当で回す学園祭めいた運営であった。
フラットの一般報告と、アルペジオへのいじり
アルペジオはフラットに「また太陽中心説絡みか」と釘を刺すが、フラットは観測報告だけだと答えつつ「面白い現象が起きている」と意気込む。ここでミモザ老師が含み笑いを見せ、ついに「フラットがアルペジオ(アルフェ)にプロポーズしている」と暴露する。ロゥリィとテュカまで加わってはしゃぎ、アルペジオは「断った」「無関係」「男として見ていない」と激昂し、弟子の話を聞けとまで噛みついた。
審査組の集合と護衛配置
「一般報告」の受付にフラットが向かい、別口で「博士号審査・導師号審査」の受験者が招集される。導服姿の賢者が集まる中、白い導服はレレイと数名の男性だけであった。伊丹はレレイ周辺を監視しやすい位置を取り、テュカ、ロゥリィ、ヤオ、グレイ、シャンディーも散って警戒線を張った。
アルペジオへの聞き取りと、刺客が成立する条件
ミモザが控え室の老師へ挨拶に去り、手持ち無沙汰になったアルペジオは伊丹を気にし始める。伊丹は学位審査に「定員」があるか確認するが、アルペジオは「定員なし。全員通る回も全滅の回もある」と答え、内容勝負で他人の存在は関係ないと断じる。笛吹男の「口だけで刺客を作る」噂にも、博士・導師級の賢者なら引っ掛からない、精神操作魔法があるなら別だが聞いたことがない、と否定的であった。
伊丹の仮説誘導と、アルペジオの“殺意スイッチ”
伊丹は「定員制なら追い落とし動機が生まれる」と例示し、さらに扇動の定番として「研究の被り」「順番負け」「盗用疑惑」などを段階的に提示する。
アルペジオは「被り」程度なら殴るで済むとしつつ、「長年の研究成果を盗まれ、盗人が自分の物として発表する」状況には即答で「必ず殺す」と言い切る。ここで伊丹は、白い導服の初老の賢者の挙動不審(最後発表になった直後の動揺)に目を留め、即座に拳銃を抜いて制止に入る。
未遂の刃物と、扇動の成功
初老の男は銃口を向けられた拍子に小刃を落とし、「儂の研究を盗んだ小娘が悪い」「女が嫌いだ」「学会は腐っている」と逆上混じりに叫ぶ。グレイとヤオが男を引き取って退場させ、老師立会いでレレイの発表内容を開示すると、男の研究とは分野も内容も無関係で、誤解が意図的に植え付けられていたと判明する。
笛吹男の手口の分解(希望を残しつつ疑心を増幅)
男は導師審査に何度も落ち、今度こそという焦りと自負が強く、加えて女性嫌いという弱点があった。そこに笛吹男は、
- 研究室への“泥棒”で不安の種を撒き、
- 「研究は盗まれた」と“証拠らしきもの”で確信させ、
- 「盗人女が発表する」と標的(レレイ)へ誘導し、
- 「早い者勝ち」「同時研究と言われたら終わり」と理屈で追い詰め、
- 最後に「希望はクジ引き」「係員買収を祈れ」と希望を残しつつ猜疑心を最大化し、
- クジ結果が不利に出た瞬間に妄想的確信へ転落させた。
結果、個人的怒りと義憤が混ざった衝動が刃物携行まで導いたが、実行前に止められたため罪に問われず、男は次回に出直すと言って煤けた背中で去った。
学会の荒れ模様と審査文化
学会は世話人の挨拶直後から始まり、「新発見」を自称する奇妙な報告や珍説が連発された。一般演題の合間に博士号・導師号の認定審査を挟むのが伝統であり、審査は苛烈である。直前の導師号審査ではインク壺が飛び交い、壇上が多色インクで塗装され、発表者が震えながら這々の体で逃げ出す惨状となった。
舞台裏の警戒と、フラットの緊張
フラットの発表はレレイの直前に組まれていた。舞台裏で萎縮するフラットに、伊丹は雑談で緊張をほぐそうとし、エルフの師弟関係や学位取得の理由を聞き出す。フラットは「自分は変わり者」「学位は説得力のため」と答え、いったん落ち着くが、レレイは緊張で顔色が白磁のように白くなっていた。
会場警戒は徹底され、袖にテュカ・グレイ・ヤオ・ロゥリィが配置、客席には書海亭の小僧達が笛吹男の捜索、シャンディーは別線で裏を警戒していた。一方で、審査の老師達が「出来の悪い発表ならインク壺を投げる」気配を漂わせ、護衛側はインク壺すら危険物として扱わねばならない状況となる。
フラット発表の内容「世界が歪んでいる」
フラットは過去に太陽中心説絡みで痛い目を見ており、登壇しただけで会場は警戒する。しかし今回の発表は理論の喧嘩ではなく観測報告で、要旨は「なにかが来た。そして世界が歪んでいる」であった。
彼は、惑星の白星と恒星の天狐星を取り違えた失敗を起点に、天狐星の位置が月ごとの通常変動から逸脱し、白星の軌道と交差する異常を提示する。さらに白星自体も異常位置へ移動しており、周辺の星々の動きまで記録した結果、「天球という布が一箇所つままれて引かれた」ような歪みが生じ、星々が南南西方向へ引き寄せられて通過後に軌道へ戻る、と説明する。
観測機材の老朽化や蜃気楼説などの反論が出るが、数ヶ月継続する点などから決定打にならず、フラットは地揺れの発生も引き合いに「一連の現象は繋がっている」と締めくくる。会場は“穏当な観測報告”として普通に拍手し、この「歪み」が後に大騒動を招くとは誰も気付かない。
レレイ登壇直前、ノッラの接近
伊丹が「いよいよレレイ」と構える中、レレイは気合いの所作も見せず静かに演台へ進む。そこで客席から女が立ち上がり演台へ接近する。小僧達の合図から女はノッラと見られ、ノッラは小剣を隠し持っていた。
小僧達は「演技で安全」と信じる一方、伊丹達は「演技を口実に本当に害する可能性」を警戒していた。
ノッラの奇襲と、学会場の“飽和攻撃”
伊丹は「決定的動作の直前に止めれば間に合う」と読んでいたが、ノッラは打ち合わせにない動きで、距離がある段階から跳躍して襲いかかる。伊丹はワイルドウーマンの身体能力を見誤り、テュカ達も虚を突かれて出遅れる。
しかし舞台がロンデルであったことがノッラの誤算となる。刺客の噂が街に広がっていたため、ノッラが動き出した時点で聴衆は疑念を持ち、会場を埋める魔導師達が一斉に光弾・風の矢・石礫・武器投擲などの飽和攻撃を浴びせ、ノッラは瞬時にぼろぼろになって倒れる。小僧達が慌てて回収し医者へ運び出した。
伊丹は、自分ですらこの場では一瞬で“礫死体”になり得ると痛感し、皮肉混じりに「身も蓋もない」と感じる。結果として暗殺は未然に防がれ、他の刺客が潜んでいても手を出しにくい空気が形成された。
最大の転落:シャンディーの裏切り
伊丹が「これなら大丈夫」と気を抜いて袖へ戻ろうとし、テュカ・ヤオも配置へ復帰する。少し遅れて戻ったシャンディーは、レレイを励ますように手を挙げた直後、その手を振り下ろしてレレイの胸に短剣を突き立てた。ここで場面は「下巻に続く」で切られる。
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