ゲート 自衛隊 〈1〉接触編〈下〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈下〉レビュー
物語の概要
『ゲート―自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり〈2〉炎龍編〈上〉』は、柳内たくみによる異世界×自衛隊ファンタジー小説のシリーズ第2巻である。 東京・銀座に突如現れた「門(ゲート)」を通じてつながった異世界「特地」を舞台に、陸上自衛隊の活動と現地住民との交流、そして国家間の政治的駆け引きを描く。 本巻では、特地での生活が安定し始めたアルヌスの街に、伝説の怪物「炎龍」に一族を脅かされるダークエルフの女性ヤオが助けを求めて現れる展開から始まる。一方で、主人公・伊丹耀司率いる第三偵察隊は、帝国との講和交渉の下準備と情報収集のため帝都へ赴くが、そこで皇太子ゾルザルによる日本人拉致被害者への非道な扱いを知り、事態は急変する。圧倒的な武力を持ちながらも政治的制約に縛られる自衛隊と、理不尽な暴力に立ち向かう個人の覚悟が交錯する物語である。
■ 主要キャラクター
伊丹耀司: 陸上自衛隊二等陸尉。第三偵察隊隊長。オタク趣味を第一とする昼行灯だが、部下や民間人を守るためには政治的リスクを顧みず行動する胆力を持つ。
ピニャ・コ・ラーダ: 帝国皇女。自衛隊の圧倒的な戦力を目の当たりにし、帝国の存続のために日本との早期講和に奔走する。
ヤオ・ハー・デュッシ: シュワルツの森に住むダークエルフ。炎龍によって一族が滅亡の危機に瀕しており、最後の希望として「緑の人(自衛隊)」に討伐を依頼しに来た。
ゾルザル・エル・カエサル: 帝国第一皇子。傲慢かつ好戦的な性格で、日本との戦争継続を望む主戦派。拉致した日本人を奴隷として虐げ、伊丹の激鱗に触れる。
菅原浩治: 外務省から派遣された若手官僚。帝都での社交を通じて貴族たちと人脈を築き、講和への地ならしを行う。
テュカ、レレイ、ロゥリィ: 伊丹と行動を共にする異世界の少女たち。それぞれエルフ、魔導師、亜神としての能力を持ち、伊丹をサポートする。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、ファンタジー世界に近代兵器を持つ自衛隊が介入するという「異世界無双」的な設定に、緻密な政治劇とリアルな軍事描写が組み合わさっている点である。 特に「炎龍編」では、単なるモンスター退治にとどまらず、以下の点が読者の興味を惹きつける。
- 政治と暴力のリアリズム: 圧倒的な軍事力を持ちながらも、「専守防衛」や「国内世論」といった現代日本の制約により、簡単には動けない自衛隊のジレンマが描かれる。
- カタルシスのある展開: 帝都でのエピソードでは、外交的配慮を重ねてきた日本側が、拉致被害者の悲惨な現状を前にして一線を越え、圧倒的な武力と個人の怒りで状況を打破するシーンが描かれ、強いカタルシスをもたらす。
- 異文化交流の深化: アルヌスの街における自衛隊と現地住民の経済活動や、帝都の貴族社会における日本文化(料理や工芸品)の影響など、戦闘以外の文化的側面も丁寧に描写されている。
書籍情報
ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈2〉炎龍編〈上〉
著者:柳内たくみ 氏
イラスト:黒獅子 氏
出版社:アルファポリス
発売日:2013年4月2日
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あらすじ・内容
累計60万部の超人気シリーズ、待望の文庫化第2弾!
累計60万部突破!超人気の自衛隊×異世界ファンタジー、文庫化第二弾・前編! 銀座事件の賠償をめぐり、日本政府と『特地』を統治する帝国との交渉は、なかなか進展を見せずにいた。この状況を打開するため、皇女ピニャは日本側と協力し、帝国貴族と伊丹耀司ら日本関係者の交流の場として園遊会を開催する。一方、帝都から遠く離れたアルヌスでは、炎龍に父親を殺されたエルフの娘テュカが、深い心の傷を抱えて苦しんでいた――
感想
物語は、日本から帰国したピニャ皇女が「下田」を模した館を拠点に、本格的な講和へと動き出す。
しかし、ここで強烈な印象を残すのは、敵国である帝国の皇帝モルトの底知れぬ「腹黒さ」であった。
当初、自衛隊との戦闘で帝国軍の約六割が壊滅したとされていたが、その対応に皇帝が反乱分子となりうる諸侯軍を意図的に自衛隊にぶつけ、間引きさせるとは。
元老院で決定したとはいえ、実質的に彼らを死地へ追いやったのは皇帝自身である。
その冷徹な政治判断と戦争責任の所在を考えると、この男が一筋縄ではいかない存在であることを痛感させられる。
アルヌスの繁栄とヤオの絶望
一方で、特地の拠点であるアルヌス周辺の変化も目覚ましい。
PX(売店)の進出を皮切りに、日本の物資が流入し、銀座と直結したこの地は急速に都市化している。
イタリカを経由して富が循環する中、その光の裏で助けを求める者が現れる。炎龍に部族存亡の危機を任されたダークエルフのヤオであった。
彼女は「緑の人」の助力を乞うが、自衛隊といえども他国の領土へ大軍を送ることは政治的に不可能であった。
ファントムや重火器、大規模な歩兵部隊が必要となる相手(炎龍)に対し、単なる人助けで動くことはできない。
要望を拒否され、失意の底に沈むヤオの姿は哀れを誘った。
周囲が「伊丹なら何とかするかもしれない」と無責任な期待を寄せる中、当の伊丹は帝都での任務に就いており、ここですれ違いが生まれる展開がもどかしい。
愚者ゾルザルの登場と帝都の動乱
帝都編において、物語の不穏さを一気に高めるのが皇太子ゾルザルの存在であった。
和平派へのデモンストレーションを主戦派の議員に踊らされて妨害し、元ウォーリアバニーの族長テューレを侍らせるこの男は、帝国貴族の傲慢さと愚かさを煮詰めたような人物だった。
自衛隊が悪所(スラム)を拠点に医療活動を行い、現地住民の信頼を得ていく一方で、ゾルザルの蛮行は際立っていく。
特に、震災の予兆を察知した自衛隊が適切な避難誘導を行い、ピニャや皇帝を救った直後の展開は衝撃的であった。
日本人の震災への冷静さが評価され、和平への機運が高まったその瞬間に、ゾルザルは拉致した日本人女性、望月紀子を皇帝の御前に引きずり出したのである。
伊丹の激昂と紀子の「三重苦」
武装した自衛隊の前に、拉致被害者を連れてくるというゾルザルの行動は、あまりに愚かで自殺行為に等しい。普段は昼行灯の伊丹が激昂し、ゾルザルを殴り飛ばすシーンは、この巻における最大のカタルシスであった。栗林が日本語で紀子に呼びかけ、救出する場面は何故か泣けて来た。
しかし、救出後の彼女の現実はあまりに残酷だった。
日本側の報復として元老院が空爆され、紀子は無事に日本に保護されるものの、彼女を待っていたのは「自身の拉致」「恋人の死」、そして「家族が銀座事件で全滅」という事実であった。
この「三重苦」とも言える悲劇は、ファンタジー世界での冒険譚に、現実の重い痛みを突きつけてくる。
伊丹耀司という男の二面性
本巻を通して浮き彫りになるのは、伊丹という主人公の独特な行動原理である。
彼は身内や知っている人間に対しては親身になるが、見知らぬ他人に対しては自衛官としての建前を崩さない。
必死に助けを求めるヤオに対して冷淡にも見える態度を取ったのは、その表れだろう。
物語の最後、柳田二尉がテュカの件をチラつかせ、ヤオの件を伊丹に押し付ける形でドラゴン退治へと誘導していく様は、組織の中での狡さとしたたかさを感じさせる。
次巻で伊丹がどう動くのか、そしてヤオの運命がどう転がるのか、期待と不安が入り混じる幕切れであった。
ゲート 自衛隊 〈1〉接触編〈下〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈下〉レビュー
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登場キャラクター
伊丹耀司
自衛隊の第三偵察隊を率いる指揮官であり、部下の命を守ることを最優先する人物である。政治的な思惑よりも現場の現実や人命を重視し、時には上層部の意向に反発する姿勢も見せる。
・所属組織、地位や役職
自衛隊・二等陸尉。第三偵察隊指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果
園遊会に謎の騎馬集団が接近した際、即座に議員らを退避させる判断を下した。皇宮でゾルザルが日本人捕虜を虐待している現場を目撃し、激昂して彼を殴り倒した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇族への暴行という外交上の大問題を起こしたが、同時に拉致被害者奪還の功績も挙げたため、処遇が保留されている。
ピニャ・コ・ラーダ
帝国の皇女であり、日本との講和交渉における仲介役を担う。帝国の存亡と日本側の圧倒的な軍事力との板挟みになりながら、事態の収拾に奔走する苦労人である。
・所属組織、地位や役職
帝国皇女。騎士団を運営。
・物語内での具体的な行動や成果
キケロ卿やデュシー侯爵家との会合を調整し、講和への道筋をつけた。地震発生時には混乱する皇宮で皇帝の身支度を整えさせ、秩序を回復させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
元老院において、日本の軍事力と文明の脅威を証言し、議員たちの認識を変える決定的な役割を果たした。
菅原浩治
外務省から派遣された外交官であり、物腰は柔らかいが計算高い交渉術を持つ。帝国の貴族社会に溶け込みつつ、日本の国益を確保するために冷徹な判断も下す。
・所属組織、地位や役職
特地問題対策委員会・外交担当。
・物語内での具体的な行動や成果
元老院議員キケロに対し、捕虜返還カードを切ることで交渉の主導権を握った。拉致被害者が発覚した際は、皇帝に対し交渉停止と帝都攻撃の可能性を示唆して威圧した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
園遊会での兵器展示や子供への贈答を通じ、帝都貴族層への食い込みに成功している。
ヤオ・ハー・デュッシ
ダークエルフのシュワルツの森部族出身であり、炎龍に脅かされる同胞を救うため奔走する女性である。真面目で使命感が強い一方、運に恵まれず徒労を重ねる傾向がある。
・所属組織、地位や役職
シュワルツの森部族・デュッシ氏族。炎龍討伐の使者。
・物語内での具体的な行動や成果
アルヌスの街で「緑の人(自衛隊)」を探し回り、言葉の壁や詐欺被害に遭いながらもレレイに辿り着いた。狭間陸将に援軍を拒否されたが、諦めずに伊丹や柳田への接触を試みた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
部族の財宝と自身の身柄を対価として捧げる覚悟を持っており、最終的に柳田を通じて伊丹を動かすきっかけを作る。
ゾルザル・エル・カエサル
帝国の第一皇子であり、次期皇帝の最有力候補と目される権力者である。嗜虐的な性格で、奴隷や捕虜への暴力を楽しみ、自らの面子を何よりも優先する。
・所属組織、地位や役職
帝国皇太子。南宮に居館を持つ。
・物語内での具体的な行動や成果
日本人捕虜を鎖で繋いで虐待し、それを自慢げに披露したことで伊丹の反撃を受けた。元老院爆撃の原因を作ったが、自身の失態を隠すために「階段から落ちた」と嘘をついた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
伊丹らに一方的に制圧され身体的な屈辱を受けたが、依然として帝位継承への野心を燃やし続けている。
レレイ・ラ・レレーナ
カトーの弟子である魔導師で、理知的かつ冷静な少女である。言語習得能力に長け、自衛隊と現地住民とのコミュニケーションに不可欠な通訳として機能する。
・所属組織、地位や役職
カトーの弟子。自衛隊の協力者(技官扱い)。
・物語内での具体的な行動や成果
異世界の科学知識(現理)を魔法に応用し、「爆轟」を再現する実験に成功した。警察署でヤオの通訳を行い、冤罪を晴らすとともに事情を聴取した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔法の新たな体系化について師匠のカトーから高く評価され、軍事や工業への応用可能性を示唆された。
モルト・ソル・アウグスタス
帝国の皇帝であり、老獪な政治手腕を持つ支配者である。軍事的な敗北を理解しつつも、帝国の権威と自身の権力を維持するために交渉を引き延ばそうとする。
・所属組織、地位や役職
帝国皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
講和交渉を「準備のための交渉」として空転させる戦略を立てた。皇宮での騒乱時、近衛兵を制止して被害拡大を防ぎ、日本側の「甘さ」を指摘して菅原を牽制した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
元老院が爆撃されたことで権威の一部を損なったが、依然として実権の保持を図っている。
栗林志乃
第三偵察隊所属の女性自衛官であり、格闘戦に優れた肉体派である。豪快な性格で、敵に対しては容赦のない攻撃を加える。
・所属組織、地位や役職
自衛隊・三等陸曹。第三偵察隊員。
・物語内での具体的な行動や成果
皇宮での戦闘において、銃剣術と体術を駆使して多数の近衛兵を圧倒した。ゾルザルに対して徹底的な暴行を加え、情報を自白させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
園遊会では護身術を披露し、帝国の貴婦人たちから注目を集めた。
黒川茉莉
第三偵察隊所属の女性自衛官であり、看護資格を持つ衛生隊員である。慈愛深く、現地住民や捕虜の心身のケアに尽力する。
・所属組織、地位や役職
自衛隊・二等陸曹。第三偵察隊員・看護師。
・物語内での具体的な行動や成果
帝都の悪所街で現地の娼婦たちに避妊具の配布や健康相談を行い、信頼を得た。救出された望月紀子に寄り添い、医療施設での検査や精神的ケアを担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地震の際、動揺する娼婦たちを落ち着かせ、避難誘導を行ったことで現地での信望を深めた。
テューレ
ヴォーリアバニー族の元族長であり、現在はゾルザルの奴隷として扱われている。表面上は従順だが、内心では帝国への復讐心と高い知性を秘めている。
・所属組織、地位や役職
ゾルザルの奴隷。元ヴォーリアバニー族族長。
・物語内での具体的な行動や成果
ゾルザルからの虐待に耐えつつ、他の日本人捕虜の情報を適切なタイミングで提供した。ゾルザルを操るために情報を小出しにし、状況をコントロールしようと試みている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一族を滅ぼされた恨みを抱きつつ、ゾルザルの側近として影から情勢に干渉し始めている。
柳田
自衛隊の二等陸尉であり、現実主義的な判断をする将校である。伊丹とは腐れ縁のような関係で、汚れ役や政治的な調整を担うことが多い。
・所属組織、地位や役職
自衛隊・二等陸尉。
・物語内での具体的な行動や成果
資源探査という名目で第三偵察隊を動かし、ヤオの依頼である炎龍討伐を遂行させる策を立案した。伊丹の拒絶を予見しつつも、外堀を埋めて任務に向かわせるよう仕向けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
政治的な利点と現場のリスクを天秤にかけ、資源獲得と外交的恩義のために部隊を利用しようとする冷徹さを持つ。
望月紀子
帝国軍によって拉致された日本人の一人である。長期間の拘束を経て救出されたが、精神的な動揺は大きい。
・所属組織、地位や役職
民間人(拉致被害者)。
・物語内での具体的な行動や成果
皇宮で栗林らに保護され、アルヌスの医療施設へ搬送された。多数の検査を受けつつ、日本への帰還を実感して涙を流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女の存在と証言が、日本政府による元老院爆撃決定の直接的な引き金となった。
キケロ
帝国の元老院議員であり、当初は主戦論を唱える有力者であった。日本の実力を目の当たりにし、現実的な講和派へと転向する。
・所属組織、地位や役職
元老院議員。皇帝派の重鎮。
・物語内での具体的な行動や成果
菅原との会談で甥の生存を知らされ、態度を軟化させた。園遊会で日本の兵器の威力を体験し、勝てない戦争であることを悟った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ピニャと協力し、元老院内での講和交渉のとりまとめ役として動き出している。
出来事一覧
01
キケロ邸での外交交渉と主戦論の転換
- 当事者: 菅原浩治 vs キケロ卿(元老院議員)
- 発生理由: キケロ卿が菅原を軽視し、主戦論を展開したため、菅原が「門」の向こうで日本と帝国が戦争中である事実と捕虜返還のカードを切ったことによる心理的攻防。
- 結果: 甥の生存と無条件返還の可能性を示されたことでキケロ卿の態度が軟化し、交渉の主導権が日本側に移った。
屋台村でのテュカの父を巡る口論
- 当事者: 屋台村の人々(自衛官、傭兵、商人など)の間での意見対立
- 発生理由: 行方不明となっているテュカの父親の生死について、現実を突きつけるべきか否かで議論になったため。
- 結果: 伊丹が無責任な介入を戒める姿勢を示し、その場は収束した。
02
屋台村での痴漢騒動(冤罪)
- 当事者: ロゥリィ・マーキュリー、伊丹耀司 vs ヤオ・ハー・デュッシ
- 発生理由: ロゥリィが伊丹に不埒な行為をされたと嘘をつき、正義感に燃えるヤオを煽って伊丹を成敗させようとしたため。
- 結果: ヤオが剣を抜いたため伊丹は即座に逃走し、場は混乱のまま終わった。
炎龍によるシュワルツの森襲撃(回想)
- 当事者: 炎龍 vs シュワルツの森部族(ヤオの一族)
- 発生理由: 数ヶ月前から炎龍が森を襲撃し始めたため。
- 結果: 多くの同胞が死亡し、部族は離散。あらゆる攻撃が通じず、ヤオが助けを求める旅に出る原因となった。
03
案内人を装った男による暴行未遂
- 当事者: 案内人を装った男 vs ヤオ・ハー・デュッシ
- 発生理由: 日本語が話せないヤオに対し、親切な案内人を装った男が人気のない場所へ連れ込み、性的暴行を加えようとしたため。
- 結果: ヤオが過度な力を使わずに男を撃退し、男は逃走した(未遂)。
布地取引を巡る交渉トラブル
- 当事者: 布地商人 vs 組合担当者
- 発生理由: 帝都での流行により商人が高級布地「さてん」を急ぎ必要としたが、手続きや条件面で組合側と折り合いがつかなかったため。
- 結果: ヤオが保証金を用いた受け渡し案を提示し、双方が損をしない形で解決した。
04
ヤオへの嫌疑と取り調べ
- 当事者: 警務官 vs ヤオ・ハー・デュッシ
- 発生理由: ヤオに撃退された男が「恐喝された」と虚偽の被害届を出したため。
- 結果: レレイの通訳により男の虚偽が判明。男は婦女暴行未遂で拘束され、ヤオの疑いは晴れた。
炎龍討伐の援軍要請拒否
- 当事者: ヤオ・ハー・デュッシ vs 狭間陸将(自衛隊)
- 発生理由: ヤオが炎龍討伐の援軍を求めたが、シュワルツの森が帝国領外であり、越境行為が政治的に困難であるため。
- 結果: 狭間陸将により要請は拒否され、ヤオは絶望し泣き崩れた。
05
ゾルザルによるテューレへの虐待(日常/回想含む)
- 当事者: ゾルザル・エル・カエサル vs テューレ
- 発生理由: ゾルザルの歪んだ嗜好と、滅ぼした部族の命運を人質にした支配関係によるもの。
- 結果: テューレは玩具として扱われ、暴力と屈辱に耐え続けている。
講和条件提示による反発と動揺
- 当事者: 菅原浩治 vs 帝国元老院議員たち
- 発生理由: 菅原が提示した賠償額(五億スワニ金貨)や領土割譲などの条件が、議員たちにとって受け入れがたい過酷なものだったため。
- 結果: 菅原が分割や現物払いの可能性を示唆し、交渉の余地があることを理解させたことで、議員たちは準備交渉の席に着くことに合意した。
ピニャの絶望と懇願
- 当事者: ピニャ・コ・ラーダ vs 伊丹耀司
- 発生理由: 日本側の提示した講和条件が帝国への「死刑宣告」に等しいと感じ、絶望したため。
- 結果: ピニャは倒れ込み、過去の非礼(ボーゼスの一件)について泣きながら伊丹に許しを請い、宥恕された。
06
騎馬集団接近による園遊会からの緊急退避
- 当事者: 伊丹耀司(自衛隊) vs 接近する騎馬集団(正体不明段階)
- 発生理由: 監視警戒線を越えて騎馬集団が接近し、敵意の有無が不明だったため。
- 結果: 伊丹の判断により、議員らVIPと兵器を速やかに撤収・退避させた。その後、来訪者はゾルザル一行と判明した。
ゾルザル一行による食料強奪騒動
- 当事者: ゾルザル一行 vs 園遊会の子供たち
- 発生理由: ゾルザルらが会場の料理やアイスクリームを勝手に持ち去ったため。
- 結果: アイスクリームがバケツごと持ち去られ、楽しみにしていた子供たちの反感を買った。
07
貧民街事務所への襲撃事件
- 当事者: 顔役ベッサーラとその手下 vs 自衛隊(第五偵察隊)
- 発生理由: ベッサーラが、金払いの良い自衛隊の事務所から富を奪おうと襲撃を仕掛けたため。
- 結果: 自衛隊の火器(MP7、P90など)による反撃で襲撃側が壊滅的損害を受けた。その後、ベッサーラは力を失い、住民により一族ごと報復殺害された。
ミザリィらによる保護要請の駆け引き
- 当事者: ミザリィ(街娼) vs 黒川(自衛隊)
- 発生理由: 大地震の前兆を察知したテュワルらの訴えにより、ミザリィが身の安全を求めて自衛隊事務所へ押しかけたため。
- 結果: ミザリィが今後の協力を条件に強引に保護を求め、黒川は単独対応を諦めて増援を呼んだ。
皇宮でのゾルザルによる暴行と伊丹の反撃
- 当事者: 伊丹耀司 vs ゾルザル・エル・カエサル
- 発生理由: ゾルザルが拉致した日本人(望月紀子らと思われる女性たち)を鎖で引きずり、傷だらけの姿で晒し者にして痛めつけたことに伊丹が激昂したため。
- 結果: 伊丹がゾルザルを殴り飛ばし、顎を抉る一撃を与えた。
皇宮謁見の間での武力衝突
- 当事者: ゾルザルの側近・近衛兵 vs 伊丹、栗林、富田
- 発生理由: ゾルザルへの暴行に対し、側近たちが剣を抜いて伊丹らを包囲・攻撃しようとしたため。
- 結果: 栗林の銃剣格闘と富田の射撃により側近たちは制圧・殺傷され、敗走した。
ゾルザルへの尋問と暴行
- 当事者: 栗林、伊丹 vs ゾルザル
- 発生理由: 他の拉致被害者の有無を吐かせるため。
- 結果: 栗林による一方的な暴行の末、ゾルザルが屈服し、他にも拉致被害者がいること、男性(ノガミ・ヒロキ)は奴隷市場に流したことを自白した。
皇帝と菅原の外交的威嚇の応酬
- 当事者: 皇帝モルト vs 菅原浩治
- 発生理由: 拉致事件の発覚を受け、菅原が被害者返還まで交渉に応じない姿勢を示し、皇帝が日本の「甘さ(民を愛しすぎる点)」を指摘して牽制したため。
- 結果: 菅原は「帝都を戦場にできる」と暗に脅しを返し、双方が互いの本質と脅威を確認したまま物別れに終わった。
08
元老院への空爆
- 当事者: 日本国自衛隊(F4ファントム) vs 帝国元老院(建物)
- 発生理由: 拉致被害者の即時返還を求める日本側からの威嚇、および粗相に対する即時の罰として行われたため。
- 結果: 元老院の建物が爆撃により粉砕された。
ゾルザルの責任追及と嘘
- 当事者: カーゼル侯爵 vs ゾルザル
- 発生理由: ゾルザルの行動(拉致と使節への暴挙)が原因で元老院が爆撃されたとして、カーゼルが追及したため。
- 結果: ゾルザルは「女兵士一人に殴り倒された」という恥辱を隠すため、「階段から落ちた」等と嘘をつき、事実を認めなかった。
捕虜名簿を巡る騒乱
- 当事者: 帝国元老院議員たち
- 発生理由: ピニャが提出した「日本で生存している捕虜の名簿」に、身内の名前があるか確認しようと議員たちが殺到したため。
- 結果: 議場が混乱し、身内を見つけた者の歓喜と見つからない者の絶望が交錯した。
炎龍討伐を巡る口論
- 当事者: 伊丹耀司 vs 柳田二尉
- 発生理由: 柳田が資源探査を名目とした炎龍討伐(ヤオの依頼受諾)を提案したが、伊丹が部下を死なせたくないとして拒否したため。
- 結果: 伊丹は激怒して拒絶したが、柳田は「どうせ行くことになる」と予言し、既成事実を作る動きを見せて立ち去った。
ゲート 自衛隊 〈1〉接触編〈下〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈下〉レビュー
展開まとめ
01
執務室で迎えた朝
帝国皇女ピニャ・コ・ラーダは、執務室の机に伏したまま朝を迎えた。前夜まで政務書類を確認していたため、羊皮紙や衣服は乱れ、疲労は明らかであった。書記ハミルトンに促され、予定を確認したピニャは、元老院議員キケロ卿との午餐と、デュシー侯爵家の晩餐会という重い一日を自覚し、沐浴と身支度のため執務室を後にした。
朝食と菅原浩治の役割
身支度を整えた後、ピニャは菅原浩治と朝食を共にした。菅原は特地問題対策委員会から派遣された外交担当として、帝都での人脈構築を任されていた。ピニャは接待続きの負担を語り、菅原は自国の胃薬を勧めるなど、両者は互いの立場を理解し合っていた。
キケロ邸での午餐
午餐は豪奢を極め、歓待そのものが政治的意味を持っていた。キケロ卿は主戦論を掲げる皇帝派の重鎮であり、当初は菅原を軽視していた。しかし、菅原が持参した日本の工芸品や実用品が披露されると、その評価は一変した。
日本の正体と交渉の主導権
菅原は日本が「門」の向こうで帝国と戦争中である事実を明かし、キケロに強い衝撃を与えた。動揺したキケロは主戦論を語り続けたが、菅原は捕虜返還の話題を提示し、交渉の主導権を握った。
捕虜返還と夜への布石
キケロの甥が生存していること、そしてピニャの仲介によって無条件返還が可能であると示されたことで、キケロの態度は軟化した。ピニャはその流れを受け、デュシー侯爵家の晩餐会への出席を促し、さらなる良き知らせを届ける布石を打った。
語学研修と難民キャンプの変化
帝都で菅原が外交活動を本格化させる一方、アルヌスの難民キャンプも急速に変貌していた。帝国皇女ピニャ・コ・ラーダの命により、語学研修生として派遣された女性騎士団員と従者たちの滞在地に選ばれたことが、その発端であった。日本政府は段階的な受け入れを図り、アルヌスで日常会話教育を行う方針を定めた。
インフラ整備と生活基盤の確立
人口増加に対応するため、仮設住宅の増設とともに井戸や浄水設備、下水、ソーラーパネルが整備された。無償配給は終了し、翼竜の鱗販売による収入で自立が進んだ。さらに生活必需品を扱う商店が設けられ、運営はアルヌス協同生活組合に委ねられた。
PXの繁盛と経済活動の拡大
商店はPXと呼ばれ、騎士団員や外務官僚、自衛官の利用が急増した。品揃え拡充と人手不足が深刻化し、従者や獣人女性の協力を経て専従スタッフが雇われた。商人の流入と取引拡大により、経済規模は想定以上に膨らんでいった。
街への発展と治安対策
交易活発化に伴い商人や傭兵が集まり、警務隊の常駐や隊商護衛が必要となった。建物増築、職人や料理人の雇用、屋台村の形成を経て、昼夜を問わず人々が集う場所へと変貌した。
屋台村と人々の交錯
屋台村では自衛官、傭兵、商人、獣人女性らが混じり合い、賑やかな交流が日常となった。その中でテュカの父の生死を巡る議論が起こり、現実と向き合うべきかを巡って意見が対立した。伊丹は無責任な介入を戒め、重い判断を避ける姿勢を示した。
新たな来訪者の予兆
喧噪の中、突如現れたダークエルフの女の登場により場は静まり返った。こうしてアルヌスの難民キャンプは、多種族と文化が混在する「アルヌスの街」へと成長していった。
02
屋台村での誤解と対峙
アルヌスの屋台村で、伊丹耀司と酒席を共にしていたロゥリィ・マーキュリーは、突如現れたダークエルフの女により、不埒な行為を咎められる事態に遭遇した。ロゥリィは状況を逆手に取り、無垢な少女を装って伊丹を加害者に仕立て上げ、女の正義感を煽った。その結果、剣を抜いた女の前から伊丹は即座に退散し、場は混乱のまま収束した。
ヤオ・ハー・デュッシの名乗り
女は自らをダークエルフ、シュワルツの森部族デュッシ氏族のヤオ・ハー・デュッシと名乗り、緑の人を探してこの地を訪れたと語った。助けたはずの少女が忽然と姿を消したことに戸惑いながらも、ヤオは食事を取り、周囲の者たちに目的を語り始めた。
炎龍討伐という依頼
ヤオの目的は、部族を滅亡寸前に追い込んでいる炎龍の討伐であった。シュワルツの森は数か月前から炎龍の襲撃を受け続け、多くの同胞が命を落とし、部族は各地へ離散して隠れ住む生活を強いられていた。あらゆる武器や魔法も通じず、絶望が部族全体を覆っていた。
最後の希望としての緑の人
炎龍の片目に突き立った矢や、左肩を砕いたという噂から、緑の人の力だけが希望とされた。部族は使者を選び、炎龍討伐を依頼する決断を下した。その使者に選ばれたのがヤオであった。
ヤオに託された使命と覚悟
ヤオは剣技と知性に優れ、使命感も強い人物であったが、運に恵まれない人生を歩んできた。それでも彼女は使命を受け入れ、必要とあらば自身すら報酬として差し出す覚悟を示した。部族は最高の財宝を彼女に託し、未来を賭けて送り出したのである。
森で目覚めた轟音
アルヌス麓の森で野営していたヤオ・ハー・デュッシは、耳を劈く轟音によって目を覚ました。そこは精霊の加護が行き届いた快適な森であったが、上空では見慣れぬ異音とともに、二本の巨大な剣が空を切り裂くように飛翔していた。
F4ファントムの自由な飛行
それは退役間近のF4ファントムであり、特地という制約の少ない空で、熟練の操縦士たちが限界まで飛行性能を引き出していた。急上昇、反転、超音速飛行を繰り返す姿は、空中で剣が戯れているかのようであり、地上の常識を超えた存在であった。
炎龍を超える空の支配者
ヤオは、これらが人の手によって操られていると見抜き、噂に聞いていた「緑の人」の力が真実であると確信した。空を支配していた炎龍を凌駕する速さと力を前にし、長く抱いていた疑念は完全に払拭された。
希望への確信と決意
空を自在に舞う剣の存在は、ヤオの旅が無駄ではなかったことの証明であった。炎龍討伐という使命は、もはや成就したも同然だと感じ、ヤオは援軍要請への不安を些細なものとして受け止めた。
帝都派遣準備の進行
その頃アルヌスでは、伊丹耀司率いる第三偵察隊と外務省の一行が、帝都派遣の準備を整えていた。贈答品や活動資金がチヌークに積み込まれ、外交と情報工作を担う任務が具体化していった。
チヌークの出発と交錯
チヌークは砂塵を巻き上げて離陸し、半日で帝都近郊へ向かった。ヤオは街へ向かう途中、その巨大な飛行船が頭上を通過するのを目撃し、空を舞う剣、鉄の逸物、そして空飛ぶ箱船を操る緑の人々の力に、改めて圧倒された。
03
言葉の壁と徒労
アルヌスの街に入ったヤオ・ハー・デュッシは、緑色の服を着た者たちに次々と声をかけ、緑の人を探そうとした。しかし言葉はほとんど通じず、理解しているようでいて実際には意思疎通が成立しない状況が続いた。半日かけて多くの人間に当たったものの成果はなく、緑の人と言葉を交わせない現実を思い知らされた。
偽りの親切と未遂事件
流暢に話す男に案内を申し出られたヤオは親切を信じて同行したが、その正体は下心を抱いた男であった。人気のない場所で押し倒されそうになったヤオは、過度な力を使わずにこれを退け、男は逃げ去った。ヤオは事を荒立てず、時間の浪費を悔やみつつ街へ戻った。
裏通りと倉庫街の光景
大通りを離れたヤオは倉庫街に迷い込み、物資の搬入作業や傭兵たちの休息風景を目にした。軽薄な言葉を投げかけてくる傭兵を皮肉で退ける一幕もありつつ、街が物流と労働によって支えられていることを実感した。
布地商人の窮状と助言
倉庫街でヤオは、高級布地「さてん」を巡る商人と組合担当者の交渉に居合わせた。帝都の貴族社会では新素材の流行が起きており、商人は急ぎ布地を必要としていた。ヤオは保証金を用いた受け渡し案を提示し、双方に損のない形で問題を解決した。その知恵は感謝をもって受け取られた。
赤本の存在
再び大通りに戻ったヤオは、猫耳の店員メイアが緑の服の者たちと会話しているのを見て、その理由を尋ねた。彼女が使っていたのは、日本人との簡易会話をまとめた手引書、通称「赤本」であった。しかしこれは部内専用であり、外部の者に渡すことは出来ないと説明された。
警務官との出会い
必死に食い下がるヤオの前に、巡回中の警務官が現れた。彼らは被害届に基づきヤオに関心を示しつつも、片言ながら言葉が通じる存在であった。初めて確実な意思疎通が可能な相手と出会ったヤオは、喜びと安堵を覚え、求めに応じて任意同行することを選んだ。こうしてヤオは、緑の人へ至る思わぬ糸口を掴むこととなった。
老賢者カトーの見守り
森の泉に面した大岩に座す老賢者カトーは、弟子レレイ・ラ・レレーナの魔法行使を静かに観察していた。孫娘のような存在でもある弟子の成長を測る場として、この実験は位置づけられていた。
起動式と連環構造の構築
レレイは起動式を立ち上げ、「現理」を法理で開き、「虚理」を展開する陣を敷設した。偽氣の揺らぎを制御し、前腕周囲に光の円環を形成。円は分裂と拡張を繰り返し、数珠状に連なって体躯を超える規模へと至った。
連鎖爆燃の実証
指鳴らしを合図に光の円環は連鎖的に炸裂し、紫光の一条が泉を貫いた。瞬時の蒸発による水蒸気爆発が発生し、轟音と水柱が立ち上る。想定を超える効果に、カトーは衝撃を受けつつ講評を待たせた。
戦闘魔法の本質整理
レレイは、戦闘魔法とは魔法で自然現象に干渉し、その現象を応用する技芸に過ぎないと論じた。投射・燃焼・水圧といった効果は機械や道具でも再現可能であり、規模が拡大する戦場では魔導師の優位性は相対的に低下していると分析した。
異界科学との接続発想
門の向こうの「現理」研究に着想を得て、レレイは燃焼と爆発を再定義した。焼素(酸素)と然素(炭素・水素)を虚理で分離・集積し、力場に封じて解放することで「爆轟」を再現する試みを提示した。これは従来混同されていた破裂と爆轟の区別に基づく成果であった。
価値評価と課題提示
カトーは成果を高く評価し、軍事・工業・土木への応用可能性を示唆した。一方で、レレイは爆轟単体の破壊力の限界と効率性の課題を指摘し、さらなる研鑽の必要性を述べた。
来訪者と中断
議論の最中、警務官の来訪が告げられ、レレイは一礼して応対に向かった。魔導の転換を示す実証は一区切りを迎え、次なる段階への示唆を残して場は中断された。
04
取調室の状況とヤオの憔悴
警務隊の取調室は刑事ドラマめいた造りで、狭い室内に机と椅子、口述筆記用の机、インターフォンや電話が配置されていた。ヤオは「調べられる側」に座り、身に覚えのない嫌疑と長時間の意思疎通の難航で憔悴していた。警務官側も単語帳や赤本、辞書を並べ、丸めた調書が屑籠に積まれるほど苦戦していた。
慎重な聴取が冤罪を防ぐ
警務官は当初、恫喝的な口調で取り調べを開始したが、言語能力の限界を自覚し、一語一語を翻訳し確認する丁寧な手順を取った。この慎重さが「決め付け」を避け、被害届の内容が供述と一致しない点を早期に浮かび上がらせた。
レレイ到着による迅速解決
警務官は自力での解明を断念し、技官レレイの招致を要請した。レレイが通訳に入ると事情聴取は一気に進み、恐喝の訴えは虚偽と判明。訴え出た男は逆に婦女暴行未遂として拘束され、事件は現地人同士の案件としてイタリカ側に送致される運びとなった。
援軍要請の成立と「緑の人」への接続
解放されたヤオはこの機会を逃さず、レレイに取りすがって「緑の人」に会い、炎龍が一族を襲っていることを訴えた。レレイも炎龍被害の因縁を持つ立場から無視できず、ヤオの要請は通訳と紹介によって具体化した。
貴賓席の情景と対照的な空気
アルヌスの食堂「貴賓席」は喫茶店のように整った空間で、語学研修中の貴族令嬢たちは本と茶菓子を囲み、日本語で談笑していた。給仕役の執事番ウェイターは情報担当めいた立ち回りで応対しつつ、彼女たちの関心事にも目を配っていた。
ヤオの面会失敗と絶望の確定
ヤオはレレイの紹介で狭間陸将に面会し、炎龍討伐の援軍を求め、金剛石も提示した。しかしシュワルツの森は帝国領外であり、軍の越境は宣戦に等しいとして拒否された。少人数派遣案も、危険な相手に部下を送れないとして退けられ、ヤオは静かに泣き崩れた。
幹部たちの制約と作戦案の現実性
自衛隊幹部たちは政治的制約を理由に越境攻撃が困難であると共有しつつ、討伐案そのものは検討した。用賀二佐は「空で押さえ、砲で釘付けにし、対戦車火力で止めを刺す」案を示したが、必要戦力は大規模となり「最小限」とは程遠い結論に至った。
ヤオの切り替えと次の方策
ヤオは泣いても助けは得られないことを理解し、涙を拭って思考を切り替えた。レレイからは「困れば組合事務所へ」「野宿は避けよ」という伝言が残されており、ヤオは礼を言い損ねたことを心に留める。狭間が個人の都合で断ったのではなく国家方針による拒否だと見定めたヤオは、次善として「配下の部将」を説得し、金や色で動く者を探す方向へ思考を進めた。
05
名を持たぬ覇権国家
帝国は自らを唯一無二の存在と位置づけ、国名すら必要としない覇権国家であった。氷雪山から碧海へ注ぐロー川沿いに築かれた帝都は、海運と陸運の要衝として大陸全土を結ぶ交易網の中心にあり、政治と商業の両面で国家の中枢を担っていた。
皇宮と皇太子ゾルザル
帝都五丘の一つ、サデラ丘に広がる皇宮の南宮には、皇帝第一子ゾルザル・エル・カエサルの居館がある。彼は皇女ピニャの腹違いの兄であり、次代の皇帝候補として強大な権力を握っていた。
倒錯した私生活と獣人支配
ゾルザルはヴォーリアバニー族の女テューレを玩具のように扱い、暴力と支配を悦楽とする歪んだ嗜好に溺れていた。テューレは同胞の命運を人質に取られ、三年にわたり耐え忍んできたが、彼女の故郷と一族は既に滅ぼされていた。ゾルザルはその事実を隠し、彼女を使い捨てる玩具として扱っていた。
内務相マルクスの警戒
内務相マルクス伯爵はゾルザルの残虐性と、その男が皇帝となった場合の帝国の行く末に強い危惧を抱いていた。テューレの境遇や、獣人への扱いからも、ゾルザルの非情さが際立っていた。
元老院の不穏な動き
マルクスは、元老院議員たちが夜会を装って秘密会合を重ねていることを報告した。これは皇位継承を巡る弟ディアボの策謀ではなく、アルヌスを占拠する勢力との接触であり、捕虜となった帝国兵の身柄を交渉材料に買収が進められている可能性が高かった。
ゾルザルの独断
ゾルザルは当初それを軽視したが、捕虜を人質に取られていると聞き、元老院と帝室の対立激化を避けるため、皇帝に報告せず内々に処理すると決断した。自ら出向き、敵国の使節を威圧し、議員たちを目覚めさせるつもりであった。
策謀の行方
若い貴族たちを引き連れて会合の場へ向かうゾルザルの背を、マルクス伯は冷ややかに見送った。彼はゾルザルが派手に事を荒立て、かえって状況を悪化させることを予期しつつ、内心で嘲笑するのだった。
家族連れの園遊会という体裁
催しは園遊会めいた和気藹々とした形式で、帝都郊外の広大な庭園に家族単位の招待客を集めて行われた。丘や林、池と小川を備えた庭園で、露火の料理、管弦の演奏、果物や氷菓などが並び、子ども向けの遊具や釣りまで用意された。
アイスクリームと「異国のもてなし」
目玉の一つは乳製品の氷菓「アイスクリーム」であり、珍しさと美味しさから客が群がった。料理には香辛料が多用され、味見をするメイドが叱られるなど、場は終始賑やかに保たれていた。ピニャはこの形式を好ましく捉え、今後の騎士団の宴にも取り入れたいと語った。
フォルマル伯爵家の協力と帝都の空気
準備にはイタリカのフォルマル伯爵家が協力し、メイド長も派遣された。ただし帝都ではヒト種メイドが中心であることが示唆され、菅原はフォルマル伯爵家の「特別さ」を感じ取った。ピニャは状況を多く語らず、帝都の価値観を匂わせるに留めた。
菅原の紹介役と「贈り物=武器弾薬」
ピニャは会場を巡回し、菅原を貴族たちに紹介して関係網を拡げた。子どもの無遠慮なねだりすら外交の突破口になり得るとして、菅原は少女シェリーに真珠の首飾りを贈る判断を取った。これが「お礼」を名目とする往来を生み、元老院派の大物カーゼル侯爵への縁に繋がっていく。
第三偵察隊の「見せ場」
栗林と黒川は、女性自衛官として注目を集め、ご婦人相手に護身術や化粧技術を披露した。富田は護身術の相棒として投げられ役まで務め、娯楽としても社交の場としても日本側の人材が評価される流れが作られた。ピニャは伊丹が「普通ではない」特殊さを改めて意識し、芸術の糧道を断たれぬために伊丹の好意を繋ぎ止める覚悟を再確認した。
園遊会の本目的は「銃の体験」
菅原が示した子ども立ち入り禁止区域には射的場が設けられ、元老院議員らが自衛官の指導で銃を試射した。銃は鎖で固定され、各銃に見張りがつき、丁寧な指導の裏で厳重な管理が徹底された。議員たちは発射音・反動・命中精度を通じて、帝国軍が敗北した理由を身体で理解していった。
迫撃砲の展示射撃と「戦えば負ける」の確信
続いて8mm迫撃砲の展示射撃が行われ、炸裂の視覚効果も含めて議員たちの心胆を寒からしめた。射程が「三リーグ余」と示され、さらに「全員が一人一丁持つ」と聞かされたことで、議員たちは帝国の戦力では日本に勝てないと結論した。危機感の薄い他の貴族や家族連れの姿に、議員たちは苛立ちすら覚えた。
講和の理由と日本側の基本条件提示
デュシー侯爵とキケロらは菅原に講和の理由を問うた。菅原は「平和」を掲げつつ、条件として戦争責任の承認と謝罪、責任者処罰、賠償、通商条約、アルヌス周辺の割譲と非武装地帯設定などを提示した。賠償は「五億スワニ金貨」とされ、議員たちは不可能だと反発し、場は一気に硬直した。
賠償額の衝撃と交渉可能性の回復
菅原は金含有量換算による提示であること、分割や現物・採掘権での代替も可能であることを説明し、賠償は「交渉」だと理解させた。議員たちは条件の骨子が「占領と奴隷化」などの最悪の戦後処理よりは軽いことにも気づき、賠償額を中心に準備交渉会談を速やかに設定していった。
ピニャの崩壊と伊丹への懇願
一方のピニャは、日本側条件を「死刑宣告」に近いものと受け取り、絶望して倒れ込んだ。伊丹に揺り起こされると、過去の件を詫びて許しを請い、伊丹が許すと聞いて号泣しながら縋りついた。園遊会は、表向きの歓談の陰で、帝国の認識を転換させる強烈な威圧と、講和交渉への導線を同時に成立させた。
06
講和準備交渉の合意とピニャの一時的解放
日本側外務担当者と帝国元老院議員の間で、講和に向けた準備交渉の開催が合意された。これにより仲介者であるピニャの直接責任は一段落し、今後は日本側の往来保証や便宜供与へ役割が移る見込みとなった。ピニャは騎士団運営や後見事務、芸術活動へ時間を戻せると見込み、心理的負荷がいったん軽減した。
宥恕による心理の反転と伊丹への密着
ピニャは過去の件(ボーゼス絡み)について伊丹から宥恕を得たことで、罪業感と恐怖が払拭され、感情が大きく上向いた。解放感の勢いで抱擁が過剰になり、伊丹は人目を気にしつつも動揺し、好感度が跳ね上がる自覚を持った。
騎馬集団接近の報告と伊丹の即応
伊丹のイヤホンに、監視警戒線(SSL)を越えて招待客らしからぬ騎馬の小集団が接近中との報告が入った。ピニャは心当たりを示せず、精神的に緩み切って判断力が鈍っていたため、伊丹が不測事態(盗賊・暴漢・帝国政府/軍関係)を想定して主導権を握った。闇処理を担う「S」の投入は、相手不明段階では避け、まずVIPと兵器展示の撤収を優先した。
VIP離脱と園遊会継続という切り分け
伊丹は富田・倉田・勝本らに高機動車で議員を退避させるよう指示し、菅原には会談中止と離脱を伝えた。一方で園遊会そのものは止めず、家族連れの客を残しても問題ないと判断した。銃・迫撃砲・弾薬は速やかに撤収され、議員側も「講和準備が露見すれば過激派に狙われる」現実を理解して退避に同意した。
高機動車による心理的打撃
議員たちは高機動車の速度と機動性に再び衝撃を受け、日本側にとって帝都とアルヌス間が「指呼の間」に近い感覚であると悟った。距離による防壁が意味を持たないという認識が、彼らの危機感をさらに補強した。
ゾルザルの到着と“誤誘導”の成功
高機動車が去るのとほぼ同時に、ゾルザルが取り巻きと共に園遊会会場へ到着した。場には家族連れの歓楽が広がり、貴族婦人らは皇子を招待客と誤認して礼を尽くした。ゾルザルは粗野ではあるが場を弁え、まず事情聴取に動いた。
老メイド長の説明とゾルザルの“食”への堕落
老メイド長は「ピニャとスガワラ共催の園遊会」であると説明した。ゾルザルは陰謀の気配を見出せないまま、提供料理の質に圧倒され、取り巻きも含めて食へ流れて統制が崩れた。煮凝り、マ・ヌガ肉、香辛料、琥珀色のスープなどが彼らの嗜好を直撃し、ゾルザル自身も食べ歩きながら会場を巡察する形となった。
ピニャの対応と“真実を告げない”判断
ピニャは兄を迎えつつ、内心では来訪を強く嫌った。ゾルザルは料理の出所を問い、宮廷への招聘まで口にしたが、ピニャは曖昧にかわした。さらにピニャは一度、兄に日本の圧倒的優位という真実を伝える可能性を考えたが、ゾルザルが理性より感情と自己充足の幻想で動く存在であり、真実ほど敵認定され得ると判断して断念した。
マルクス伯の介在と危機の再点火
ゾルザル来訪の理由が「マルクス伯の示唆(陰謀の集まりがある)」であったと判明し、ピニャはマルクス伯の名を反芻して警戒を強めた。ゾルザル一行は料理を抱え去り、結果として会場の食が不足し、アイスクリームはバケツごと持ち去られて子どもたちの反感を買った。
事後の検討:粛清シナリオと国家反逆罪の可能性
片付け後、ピニャと菅原は香茶を飲みつつ状況を整理した。菅原は和平妨害の典型として要人暗殺や一斉拘束、戦果宣伝による戦意煽動を示し、ピニャは「要人の一斉拘束」に国家反逆罪を連想した。ゾルザルの“襲撃”が、主戦論の熱狂を利用した粛清の序章である可能性が浮上し、ピニャは議員たちへの注意喚起を決意する。
ピニャの自己認識と“再ストレスによる覚醒”
ピニャは仲介役に過ぎないのに負担が増えることへ憤りを噴出させつつも、帝室の一員として「把握できる立場で何もしないのは罪」と考え、責任を引き受けた。ストレスが再びかかったことで思考が冴え、マルクス伯が二の矢三の矢を放つ前提で、講和準備を急ぐ方針へ転じた。
打開策:カーゼル侯爵とキケロの線
ピニャは、カーゼル侯爵との会談を急ぎ、元老院で講和交渉開始の承認決議を早期に得て伯の目論見を封じる必要があると判断した。ただしそれは「仲介者ピニャ」や「敵国使節菅原」の役割ではなく、元老院側の実務としてキケロが適任であると結論づけた。
皇帝とマルクス伯の腹芸:交渉の無限延期と軍事勝利
一方、皇帝は講和交渉自体を否定せずとも、金も土地も譲らない方針を明確化した。結論を避けるために「準備のための交渉」「会議のための会議」を積み重ね、敵が先に交渉を打ち切るまで引き延ばすという戦略を語った。マルクス伯には好きに動く裁量を与えつつ、最終的には軍事的勝利が必要であり敗北は許されないと釘を刺し、マルクス伯も一命を賭して応じた。
菅原の報告と森田の即断
外務省派遣の事務秘書官は、特地へ派遣中の菅原からの報告書を首相官邸で森田首相へ届けた。森田は斜め読みで「講和会談の根回し完了」を把握し、白百合玲子補佐官を特地入りさせる方針を即座に示した。一方で、反対勢力に動きを察知された懸念や、帝国側の軍事活動活発化の提言にも、森田は「なんとかなる」「そのための自衛隊」と他人事めいた応答を返した。
事務秘書官の違和感と“成り行き任せ”の印象
秘書官は、森田の言動に深慮遠謀を期待しつつも、成り行き任せに見える態度に戸惑いを抱いた。特地問題が国際政治の焦点になり、中国・ロシア・アメリカ・EUが関与を強めることは明白であり、情報開示の圧力も既に国際会議で表面化していた。森田が口にした「開示しちゃいますかね」という発言は、秘書官には危険な軽さとして映った。
「門」を握ることが抑止であるという現実認識
秘書官の認識では、諸外国が特地資源の“ぶんどり合戦”に踏み切れないのは、日本が唯一の出入口である「門」を押さえ、内部情報を公開していないからであった。日本が抑制的に振る舞い、積極的な資源収奪へ踏み込まない姿勢も、周辺国の過熱を抑える要素になっていた。ここで「良い物がある」と公言すれば、門戸開放要求が激化し、圧力から暴力へ至る危険が高まるという前提が置かれていた。
暴力が現実を動かすという警句と、外交の戯曲化
本文は、理屈より現実が先にあり、現実を最終的に動かすのは暴力であるという見立てを示した。加えて、日本と諸外国の力学を戯曲化し、「門を開けろ」という要求に対して、日本が「味方に分け前を示して敵を減らす」構図へ誘導する様子を描写した。外務省の任務は、「日本が独占している」と糾弾する国際世論が形成されないよう、情報を統制し、同調の連鎖を止める工作にあると整理された。
情報の“小出し”とアメリカの同意形成
日本は、味方になり得る国へ特地情報を小出しにし、分け前への期待で行動を抑える方針を取っていた。アメリカには帝国と周辺情勢を伝え、軍事的完全支配よりも、帝国の秩序を利用した通商条約で利益を得る路線を提案し、同意を取り付けていた。米大統領(ディレル)はイラク・アフガニスタンで手一杯でもあり、特地でも慎重に傾いていた。
「門」の物理制約が軍事介入を縛る
米国防省は、「門」が小さく、銀座周辺が慢性的に渋滞する現実から、大規模戦力を門の向こうへ展開するのは困難だという予測を上げていた。戦闘機は通れても輸送機は無理で、補給量の大きい米軍が本格介入するなら、東京の道路封鎖や専用化が必要になるという見積もりが示された。この制約は、資源搬出にも同様に効き、日本側も道路拡張や高架・地下化の利害調整で方針を定められない状況にあった。
森田の“撤回”と秘書官の不信
森田は秘書官の反応を受け、「本気ではない」「客観視できている」と言って発言を撤回した。しかし秘書官には、面倒だから開示してしまえという短絡にも見え、首相の思考の危うさを拭えないまま執務室を後にした。
07
帝都の活動拠点確保と「悪所」への進出
菅原ら文民の帝都活動を支援するため、特地派遣部隊は倉庫や居酒屋二階など、出入りが自然な複数拠点を確保した。中でも南東門界隈の貧民街にある一軒家は異彩を放ち、種族混在の無法地帯で、窃盗・強盗・禁制品・奴隷取引が横行する、外部の善良な者が近付かない地域として描写された。
悪所を選んだ理由と“隠蔽効果”
部隊が悪所を選んだ理由は、怪しい風体の者が出入りしても目立たず、汚れ仕事の手合いも公然と動かせるためであった。加えて、この街で起きた事件は外に漏れにくく、闇そのものが隠蔽効果を持つと位置づけられた。一方で、金払いの良さが逆に悪目立ちの原因となり、古参の顔役たちの反感を買った。
顔役ベッサーラの襲撃と火器による制圧
顔役の一人ベッサーラは「金持ちなら奪える」と考え、子分や無頼漢を集めて事務所を襲撃した。迎撃したのは第五偵察隊の自衛官であり、MP7やP90などの火器と官品装備で圧倒し、襲撃側に壊滅的損害を与えた。ベッサーラは住処も失い、武力と権威を喪失した結果、街の住民から報復を受けて一族ごと惨殺され、街では「手を出すな」という教訓として共有された。
残る三家の転向と情報屋化
生き残ったゴンゾーリ、メデュサ、パラマウンテの三家は、自衛隊が利権に手を出さないことに安堵し、敵対を避けて接近へ転じた。彼らはスリや泥棒を手駒にして、貴族の監視、動静観察、侵入と書筒盗取などを請け負い、自衛隊が求める情報と実働を提供する側へ回った。悪所の論理として、強者に靡くのは当然であり、自衛官の礼儀正しさも受容を後押しした。
女たちの反発と「看護師」支援の転機
女たちは、自衛官が金を落とさず靡かないことに不満を募らせ、挑発しても相手にされない状況が続いた。だが、交代制の「看護師」と称する女たちが、健康相談や妊娠検査、避妊相談を受け付け、避妊具を販売するようになって風向きが変わった。代金を取るのは施しではないという配慮であり、支援は不意の妊娠が最大のリスクであるという現実認識に基づいていた。さらに性感染症の有無確認という目的で厚労省予算が付いていること、男性自衛官にも厳しい通達が出ていることが示された。
黒川とミザリィの応酬
看護師役の黒川は、翼人の街娼ミザリィに避妊具を渡し、煙草や魔薬についても「必要なのだろう」と踏み込まずに受け止めた。ミザリィは黒川を嫌味混じりに突き、黒川も応酬して場が緩む場面が描かれた。黒川は「アルヌス」への道や仕事の可能性に触れかけたが、「能がない」という言葉が含む現実の重さを感じ取り、安易に救済を口にできなくなった。
夜半の来訪と緊急事態の気配
夜半、ミザリィは複数の街娼を引き連れて事務所を訪れ、黒川に助けを求めた。黒川は直近の襲撃事件を思い出し拳銃を準備しつつ、彼女たちを室内へ避難させた。蛍光灯の明るさが不安を和らげ、女たちは徐々に落ち着きを取り戻した。ミザリィはハーピィのテュワルを紹介し、「この子の話を聞いて助けてほしい」と訴えたが、説明を端折って助けだけを急いだため、黒川は状況を掴めず困惑した。
黒川の降参と増援要請
ミザリィは、助ければ今後協力するという取引条件を露骨に提示し、黒川に決断を迫った。黒川は単独対応は不可能と判断し、二階で待機する桑原曹長らを呼び出すことを決め、事態は自衛隊側の組織的対応へ移行する段階に入った。
帝都を襲った地震と心理的崩壊
深夜、帝都は前後左右に大きく揺れる地震に襲われた。建物被害は局所的な崩落や家具転倒・食器破損に留まり、都市機能を徹底破壊する規模ではなかったが、経験のない住民にとっては「大地は動かない」という世界観そのものが崩れ、終末感に近い恐怖が精神的外傷として刻まれた。
テュワルの“前兆感知”と街娼たちの避難
ハーピィのテュワルは、寒気・震え・恐怖感に似た感覚を「地揺れの前触れ」と思い出した。南方火山地帯での経験が根拠であり、帝都近辺に火山がないことを承知しつつも、焦燥感を拭えずミザリィへ相談した。他の街娼たちも正体不明の不安に襲われており、テュワルの説明で危機が具体化した。彼女たちは用心棒の男たちへ頼るが、男たちは「地面が揺れるはずがない」と取り合わず、結果として街娼たちは男を見捨てて黒川の元へ駆け込んだ。
新田原の判断と“地震国”の避難手順適用
悪所街事務所の所長・新田原三佐は、予知の信憑性に迷いながらも、鳥系種族の感覚の鋭さを重視した。自身が過去の震災経験で「大きな揺れの前に野鳥が消える」現象を覚えていたことが決め手となり、「外れたら笑えばいい」という前提で対策を採用した。帝都各所の隊員へ無線連絡し、火の始末、装備・食料・医薬品の集約、落下物の少ない開けた場所への避難という、日本的な基本動作を実行に移した。
ピニャ館での避難誘導と自衛官の“平然”が生む畏敬
菅原に叩き起こされたピニャは不機嫌なまま屋外へ誘導され、ハミルトンも半睡眠状態で従った。護衛の伊丹・栗林・富田は半信半疑ながらも避難誘導を進め、地震発生時も伊丹は初期微動の長さと強さから「これはでかい」と状況判断した。帝都側は揺れの意味すら理解できず恐怖で伏したが、自衛官が落ち着いて周囲の被害確認をする姿が、ピニャや兵・メイドには“不屈の勇気”として映り、心服と憧憬を生んだ。
悪所街での地震と“安全地帯”化の強化
悪所でも悲鳴が広がり、狭い路地では屋根から物が落ちる危険が増した。新田原は道の真ん中へ寄せる指示を出し、桑原や黒川が通訳して徹底した。自衛官側が冗談を言い合える余裕を見せたことで、街娼たちは彼らに縋りつき、男たちは“役得”として喜ぶ者も出た。黒川は泣くミザリィを宥め、恐怖の中での心理的支えとなった。
余震の知識が引き起こした“同行要請”
揺れの後、ピニャは「余震が来る」と聞かされ、皇帝の身を案じて登城を主張した。伊丹らは送り出そうとするが、ピニャは恐怖から伊丹に取りすがり「一緒に来てくれ」と懇願した。警護兵やメイドも同調し、結果としてピニャ一行と伊丹らは皇宮へ向かうことになった。
皇宮の機能停止とピニャの秩序回復
皇宮は大混乱というより“静止”に近く、調度品が散乱する中で官吏も近衛も呆然自失し、祈る者までいた。誰何もなく寝室前に到達でき、しかも本来いるべき警護兵すら不在という異常が露呈した。ピニャは皇帝に身支度を急がせ、玉座に就かせた上で武官に守備・臨戦態勢、文官に大臣級招集を命じ、宮廷を「秩序だった流れ」に戻した。謁見の間を整えることが“演出装置”として人心安定に効くという認識も示され、ピニャの変化として描かれた(皇帝はそれを「一皮むけた」と評したが、ピニャは字義通りに誤解した)。
菅原の紹介と皇帝の対日認識
皇帝は将軍ら到着までの間に、見慣れぬ者として菅原の紹介を求めた。ピニャは「日本国使節のスガワラ殿」と紹介し、菅原は礼を示し、伊丹らも挙手の敬礼で揃えた。皇帝は天皇という位や「象徴」という概念に触れつつ、異世界の統治形態として理解を修正し、無礼があれば容赦を求めた。
ゾルザル乱入とテューレへの暴行、そして伊丹の一撃
会話が途切れた頃、ゾルザルが取り巻きを伴い謁見の間へ乱入した。取り巻きは装備の着け違いなど混乱した格好で、ゾルザルは鎖でテューレら女性たちを引きずり、裸身のまま床を擦らせて傷だらけにしていた。ゾルザルは余震情報を「黒髪の女(門の向こうから攫った生き残り)」から聞いたと説明し、鎖を引いて女たちに痛みを与えた。その光景に伊丹は激昂し、拳でゾルザルの顎を抉る一撃を放った。
伊丹の暴発と宮廷の臨界
伊丹はゾルザルを殴り飛ばし、自身も拳の痛みに悶えた。ゾルザル側近は剣を抜いて包囲を広げ、皇帝の面前にもかかわらず制止する者がいない状況となった。地震で宮廷機能が停止し、近衛も不在で、御前は一触即発へ転落した。
拉致被害者の発見と栗林の救出
栗林は倒れたテューレらの傍で黒髪の女性へ日本語で声をかけ、女性が日本人であることを確認した。女性は涙を流して栗林に縋り、栗林は首輪を斬り捨て「必ず連れて帰る」と言い切った。伊丹・栗林・富田は、日本人が酷い拘束を受けている以上、放置せず奪還する覚悟で一致した。
菅原の追及とピニャの動揺
菅原は、交渉努力が瓦解し得ることを理解しつつも、拉致拘束の事実に怒りを抑えられず、皇帝とピニャへ慇懃さを極端に高めた問いで追及した。ピニャは伊丹らの敵意の理由を直感的に理解できず、国交・講和は個人感情と切り離すべきだという思考に囚われたまま、銃の暴発を恐れて皇帝の前へ身を移し、伊丹へ武器を収めるよう懇願した。
銃剣と実弾による制圧
側近十五名は「無勢に多勢」で押し切る発想で包囲を進め、ゾルザルも勝利を確信した。伊丹は「自分の判断で撃って良し」と許可し、栗林は着剣して前進した。栗林は左右への機動と刺突・斬撃・銃床打撃を組み合わせ、隊列戦術に固執する側近を翻弄して殺傷を重ねた。回り込みを狙う者には富田が実弾で阻止し、側近は崩れて武器を投げ捨て、栗林の命令で逃走した。
ゾルザルへの拷問的尋問と崩壊
伊丹はゾルザルに追加の拉致被害者の有無を問い、ゾルザルは虚勢で黙秘を選んだ。伊丹は栗林に「喋りたくなるように」と命じ、栗林は異様なほど嬉々として暴行を加え、ゾルザルは悲鳴を上げて屈服した。ピニャと皇帝は恐怖で目を背け、止める発想すら持てなかった。
増援到着と“生き残り”の真相
大臣・将軍・近衛が到着し、玉座前の死体と血に塗れたゾルザルを見て凍り付いた。伊丹は銃口を突きつけて尋問を継続したが、テューレが割って入り「殺さないで」と庇った。伊丹は銃口を下げつつ再質問し、ゾルザルは首肯で「他にも攫ってきた」ことを認めた。ノリコが「裕樹」の行方を問うと、ゾルザルは「男は奴隷市場に流した」と答え、気絶した。
菅原の通告と皇帝の制止
菅原は皇帝に対し、歓迎の宴は拉致被害者返還後だと告げ、生存を祈れと圧をかけ、返還手段の説明を期待すると通告して退去を選んだ。将軍らは威信のため制止しようとし近衛も抜剣したが、皇帝が止めた。皇帝は、ここで争えば死体が増えるだけだと理解していた。
皇帝の“弱点”指摘と菅原の応答
皇帝は日本側の弱点を「民を愛し過ぎる」「義に過ぎる」「信に過ぎる」と述べ、強者と戦う必要はなく“柄”や“峰”を討てばよいという発想を示した。菅原は、それを国是として選び、自衛隊は国是を守るため鍛えられていると応じ、さらに「和平交渉は戦争停止理由にならない」「帝都を戦場にできる」と含意する形で、交渉引き延ばしを牽制した。皇帝は和平交渉を選ぶとしつつ、互いの本質を確認した。
余震と退去、そして後悔
皇帝の言葉の直後に余震が襲い、皇帝・将軍・大臣・近衛は恐怖でしゃがみ込み壁に縋った。伊丹はその無様を後目に、菅原・栗林・富田・救出したノリコを伴い堂々と退出した。皇宮を出た後、伊丹と菅原は「やり過ぎた」「報告をどうする」と頭を抱え、衝動的な暴走の後始末に悩むことになった。
08
元老院爆撃と「恥辱」への追及
カーゼル侯爵は、瓦礫と化した元老院跡で皇帝モルトへ恥辱と損害への対策を迫った。深夜の地震と余震で帝都は混乱し、夜明けに一息ついた直後、天空を裂く轟音と光の走りが起き、四個の爆弾が元老院建物を精密に破砕した。市民は神罰と恐れ、皇帝不信の流言が静かに広がった。一方、議員たちは人為の攻撃だと理解しつつ、権威の象徴が一瞬で粉砕された事実に戦慄した。
発端の整理とゾルザルの隠蔽
カーゼルは、開戦前に異境の住民を数人拉致したことが発端であり、敵国使者が激怒して皇帝の面前でゾルザルを打擲した、と事実関係を突いた。ゾルザルは暴行を否認し「転んだ」「階段から転げ落ちた」と言い張った。否認の理由は、たった一人の小柄な女性兵士に痛めつけられたと認めれば面子が永久に潰れるためである。結果として公式記録は「救出を図る日本の使者」と「奴隷所有権を守る取り巻き」の争いへ矮小化され、皇族暴行という外交カードは失われた。カーゼルは、私怨と見栄で国益を損ねたとしてゾルザルを軽蔑した。
事情説明者不在とピニャ招致
カーゼルは「なぜ奴隷女一人でここまで激怒するのか」を問い、敵国側の価値観を説明できる者を求めたが、場に全貌を知る者はいなかった。日本側を多少知る者(キケロ、デュシー)と、事件の経緯を把握する者(マルクス)が分断されていたため、双方を知る存在としてピニャが招致された。ピニャは三百人の視線に晒され、弾劾される恐怖を抱えつつ発言を許され、時系列で説明を始めた。
ピニャの証言:日本の軍事力と都市文明
ピニャは、イタリカでの遭遇から語り、弓の届かぬ距離から兵を倒す武器が常備され、接近前に敗れる構造を示した。懐疑的な議員もいたが、園遊会で試射まで経験したキケロやデュシーの補足が真実性を裏付けた。さらに、鉄の天馬が盗賊を薙ぎ払う光景を語り、元老院爆撃後の現状が証言の説得力を決定づけた。加えて門の向こうの世界が、摩天楼のような巨大な都市、地下すら照らす光、秩序と清潔に満ちた文明であると説明した。
捕虜名簿の提示と議場の動揺
ピニャは仲介役を引き受けた対価として得た捕虜名簿を提出し、名簿掲載者は日本で生存していると述べた。議員たちは名簿を奪い合い、身内の名を見つけた者は歓喜し、見つからぬ者は絶望して議場は混乱した。ピニャは、講和交渉を実務として進めるため、交渉に耐える人材の親族を優先して身請けする権利を使ったと説明し、残る全員の返還方法と必要な譲歩の検討へ議論が進む地ならしを行った。
「奴隷がない国」の論理と激怒の核心
日本側は「奴隷という習慣がない」「身代金の有無を問わず捕虜の生命と安全は保証する」「交換対象がいなければ交渉での譲歩と引き換え」と説明した。議員は体裁の良い人質だと疑ったが、少なくとも奴隷化されぬ保証は評価した。ピニャは、使節の激怒の核心は「帝国側捕虜の待遇」ではなく、日本人が拉致され奴隷として扱われ、生死も不明になっていた事実を知った点にある、と推論した。民を愛する気性の者が自国民を奴隷にされたと知れば、翼獅子が子を奪われたように激昂する、という比喩で説明し、爆撃で粉砕された議場跡を指して結果を示した。
ゾルザル帰還と後継争いの地金
ゾルザルは議場で居所を失い、黒痣と腫れ、歯を失った無様な姿で這うように帰館し、氷で冷却されつつ介抱された。そこへ貴公子然とした青年ディアボが現れ、元老院が講和派優勢となる一方、無条件降伏に近い講和を避けるには軍事的成果が要ると指摘した。兄弟の会話で、ゾルザルは自分が次期皇帝に指名されると断言し、皇帝は退位しても実権を握り続けるため、操りやすい自分を玉座に据えるつもりだ、と述べた。ディアボは父の老いによる変化に期待したが、ゾルザルは皇帝の権力欲と洞察を過小評価するなと諭した。
テューレの情報開示:他の日本人の所在
ゾルザルがテューレに他の日本人の所在を問うと、テューレは表情を一変させ、知的で覇気ある態度で報告した。他に二人おり、鉱山奴隷として売られていたが所在確認済みで、ノガミ・ヒロキは落盤事故で死亡、マツイ・フユキは同じ鉱山で「まだ」生存していると述べ、命令があれば保護すると提案した。ゾルザルは即時連行を命じ、ノリコを売らずに置いた判断を正当化しつつ、扱いを少し柔らかくすればよかったかと漏らした。テューレは、技術もない女で売られれば娼館行きだった、今の待遇こそ「情け」だと冷淡に言い切り、ディアボを唖然とさせた。
ディアボの危機感とゾルザルの読み
ディアボは、捕虜を探し出し日本を宥めれば、帝国習慣(捕虜奴隷化)の正当化と合わせて功績に転じ、講和派多数の局面で帝位へ近づくと看破し「やられた」と悟った。ゾルザルは、元老院破壊で無人の明け方を選ぶほど敵は「お人好し」だとし、勝てぬなら戦わねばよいという発想を示し、皇帝も同じ結論に至っていると語った。最後にゾルザルはディアボへ去るよう命じ、テューレを寝台へ引き込んで痛みを紛らわせる行動に移った。
チヌーク帰還と望月紀子の安堵
大型輸送ヘリCH-47JAがアルヌスの丘へ帰還し、望月紀子は窓外に「日本の気配」を見て、帰還の実感とともに涙を止められなかった。帝都から続く農地・荒野・森林の果てに、六芒星状にコンクリート施設が並ぶ陣地が見え、「帰れる」と確信して感極まった。黒川と栗林は衣食を整え、過去の出来事を無理に聞かず紀子を守った。
爆撃要請の決定と政治側の反応
菅原・伊丹の報告を受けた狭間陸将は、紀子の移送を命じると同時に、帝国への威嚇としてF4ファントム2機による爆撃を要請した。狙いは「拉致被害者を直ちに返還せよ」という即時の罰示であり、粗相が判明した時点で間髪を入れず叩くべきだという発想であった。防衛大臣・夏目は民間被害を極力抑える条件付きで攻撃許可を出し、森田総理は事後に「やっちゃったものはしょうがない」と対照的な反応を示した。
アルヌス医療施設での保護手順
ヘリは陣地奥のヘリポートへ着陸し、黒川と栗林は医官と合流して紀子を診療施設へ搬送した。施設では内科・外科・婦人科・産科・精神科などの診察、心理的負担を抑えた聞き取り、臨床心理士による支援が予定され、心身の回復を優先する流れとなった。
第三偵察隊の戦利品ではなく「資料」
第三偵察隊は帝都から持ち帰った各種サンプルの荷下ろしを行った。金属資源(鉄・スズ・亜鉛・金・銀・銅・白金など)の分布情報や鉱石サンプル、さらに南方の「燃える液体」が湧く土地の噂など、今後の交渉材料となる情報が含まれていた。加えて、悪所で撮影された映像DVDなど文化面の資料も多く、他偵察隊が植物標本や土壌などの「真面目系」に寄るのに対し、第三偵察隊は亜人・民族の服装や風習の写真、食文化など、メディア受けする題材が多いと位置づけられた。防衛省担当者は取材圧力への対応として映像を少しずつリークし、雑誌等で「特地の女の子特集」的に流通している状況が語られた。
柳田の指摘:功績と問題行動の同居
荷下ろし中の伊丹のもとに柳田が現れ、今回も「やらかした」件を皮肉った。上層部は、拉致被害者救出という手柄がある一方、敵国元首の前で乱闘を起こし第一皇子を半殺しにした点が重く、罰か賞か決めきれず苦慮している。政府は救出を大々的に発表して支持率回復に使いたがっており、処罰に踏み切れない事情も示された。狭間陸将は例によって苦い表情だと述べられ、伊丹は軽薄に柏手を打って詫びる態度を見せた。
紀子の家族事情と「伝える順番」
柳田は、紀子の家族と連絡が取れない可能性を示し、捜索願や銀座でのビラ配りの情報があると告げた。ただし本人には未告知で、医官と専門家が伝えるタイミングを判断する方針であり、伊丹らが余計なことを言わないよう釘を刺した。柳田は加えて、現場の詳細を報告書ではなく直接聞くため、後で「街」で飲む約束を伊丹に押しつけた。
伊丹の見舞いと検査の現実
黒川・栗林の荷物が放置されていたため、伊丹が自分で運び、アルヌスの大規模医療施設へ向かった。施設は重傷者向けに大規模だが近頃は開店休業に近く、稼働ベッドは少数で、重傷入院は特地側が多い実情も説明された。紀子は個室に収容され、採血を含む多数の検体検査が行われており、伊丹は試験管の量に内心たじろぎつつも荷物を渡し、軽い調子で声をかけて紀子の緊張を和らげた。黒川は検査量から入院は短くても1〜2週間になる見込みだと述べ、各種検査(画像、培養、妊娠反応、内診など)が列挙された。
連絡の制止と、共有された配慮
紀子は家に無事を知らせたいと携帯へ手を伸ばすが、伊丹は民間回線未整備と検疫の必要を理由に、直接連絡はもう少し待つよう求め、連絡は菅原側で手配すると説明した。紀子が受け入れると、伊丹は黒川・栗林を廊下へ引き出し、家族の件は医師とカウンセラーの許可が出てから話すよう確認した。直後に紀子が検査で病室を出る場面が挟まり、伊丹は別れ際に社交辞令として「また何かあったら来る」と告げる。紀子は礼儀正しく深く礼を述べ、育ちの良さが際立つ描写で締められた。
降納ラッパと日常への復帰
君が代ラッパが鳴って国旗を降納する時間になると、自衛官は国旗の方向へ敬礼し、見えない場合も直立不動となる。儀礼が終われば時間が再起動し、任務のない者は入浴・食事・装具整備・洗濯・読書などで就寝前点呼まで自由時間を過ごす。
協生食堂の拡張と「街」の活況
伊丹は柳田に誘われ、アルヌスの街へ出て協生食堂へ向かった。数日留守にした間に、天幕付きの野外席や増設されたテーブル、増員された店員により屋台村めいた賑わいが強まっていた。デリラは伊丹を見つけて明るく迎え、住民も「イタミのだんな」と口々に声をかけ、帝都の殺伐から戻った伊丹はこの陽性の活気に安堵する。
柳田の財布と第三偵察隊の「大人数」
柳田がうんざりした理由は、伊丹の背後に第三偵察隊がぞろぞろ付いてきたためである。テーブル二つ分を占拠し、「生ビール大を十二」など、遠慮のない注文が飛び交う。柳田は財布の中身を確認し、桑原曹長や仁科一曹が若い隊員の高額注文を窘める。周囲ではドワーフやPXの売り子が騒がしく、喧噪の中で一同は飲食しつつ、柳田は報告書では拾えない帝都の現場感を伊丹から聞き取った。
ヤオの来訪と「ドラゴン退治」依頼
話が一段落すると、柳田は伊丹不在中に「緑の人(自衛隊)」の指揮官として伊丹を訪ねた人物がいたと切り出し、ヤオという娘がドラゴン退治を依頼した経緯を説明する。ヤオは狭間陸将に面会したが、ドラゴン出没地が帝国とは別の国であることを理由に断られ、その後も幹部へ泣きついて回っているという。柳田は、南方のエルベ藩王国に石油の可能性がある点、ヤオが大きなダイヤ原石を持ち込んだ点を「魅力」として挙げ、話は資源と政治の匂いを帯びる。
柳田の提案:偵察名目で越境し、遭遇したら討伐
柳田は「資源探査」の名目なら第三偵察隊は自由に動けるとし、国境を越えてドラゴンに遭遇し、結果として退治しても“問題にならない”形を作れるのではないかと伊丹に持ちかけた。伊丹は即座に反発し、テーブルを叩いて立ち上がり、ドラゴンの恐ろしさを強調する。隊員たちは、以前は撃退がやっとだった経験から唖然とし、勝本が「LAM百本連射」などと軽口を叩くが空気は重い。
伊丹の拒絶と「死なせたくない」本音
伊丹は柳田を睨み、「隊員の過半数に死ねと言うのと同じ」と断じる。ドラゴン襲撃でコダ村避難民に大きな犠牲が出た事実を踏まえ、第三偵察隊が無傷だったのは避難民に注意が向いた側面もあると捉え、正面からの再戦は避けたいとする。命令なら従うが、選択権があるなら行かない、という線引きを明確にし、自分も隊員も死なせたくないと結論づける。
柳田の含み:奢り、謝罪の前渡し、そして「金髪エルフ」
柳田は明確に押し切らず、伝票を持って席を立ち、「今日は俺が奢る。謝罪の前渡しだ」と言い残す。さらに去り際に「金髪エルフの女の子のところに行ってみな」と意味深な助言を投げ、伊丹が結局は動くと「予言」し、形式は自分が整えるから安心しろと告げて場を去る。物語は、伊丹の拒絶にもかかわらず“行かされる流れ”が近いことを示唆して〈下巻に続く〉で締められる。
ゲート 自衛隊 〈1〉接触編〈下〉レビュー
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ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 一覧
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

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