「ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

黄家の才媛・玲琳は乞巧節の夜、雛宮で欄干からの転落騒ぎに巻き込まれ、以後、朱慧月と魂が入れ替わったまま目覚めた。玲琳(中身)は牢に繋がれ発声封じの術で弁明できず、周囲には慧月として蔑まれる一方、慧月(中身)は病弱な玲琳の身体で皇太子・尭明の寵を狙い甘やかされる日々を送ったのである。やがて慧月の処断として獣尋の儀が行われるが、獅子が倒れて無罪となり、玲琳(中身)は下賜された廃屋へ移され自給の労を楽しみつつ、女官莉莉や鷲官の辰宇・文昴に「別人」の変化を印象づけた。中元節では金清佳が主導する場で、玲琳(中身)は礼と機知で圧力をいなし、舞と贈物で評価を反転させ、皇后の命で破魔の弓を引く誠を示すことになる。彼女は贖罪として弓を引き続け、遂に本物の玲琳(身体)の熱は下がった。尭明は紫龍泉の水を求める決意を固め、冬雪は主の回復を祈念する。魂の入れ替わりを軸に、後宮の嫉視と策謀の中で「中身の玲琳」の労と真心が周囲を変え始め、当人は新たな自由と責務を自覚して歩みを進めたのである。
「ふつつかな悪女ではございますが 2~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

本書は入れ替わりの真相露見と呪詛の発覚、赦しと反撃までを描く。高熱に倒れた慧月は悪夢に苛まれ、弦の音で覚醒し、自身の病が呪いによるものと悟るに至ったのである。筆頭女官・冬雪は言動の齟齬から“玲琳の中身が別人”と看破し、短刀を突きつけて追及したが、慧月は炎術で抗しつつも動揺を露わにした。香炉から走る影蜘蛛により蟲毒の手口が判明し、黒幕として朱貴妃の名が浮上する展開であった。
一方、蔵に身を置く玲琳は冬雪の懺悔を受け止め、安易な自害を戒めて贖いを命じ、女官莉莉には沈黙の配慮を謝して信頼を固めた。皇后見舞いの茶会では金家内の確執と後宮の権力角逐が露わとなり、皇后までも同様の症状で倒れる事態に至る。玲琳は封鎖された黄麒宮へ強行侵入し、対処を指揮すると同時に慧月に入れ替わりの解消を促したのである。
両名は呪い返しを図るも朱貴妃に阻まれるが、玲琳の機転で貴妃を捕縛し蟲毒を反転。尭明は悔悟を示し、玲琳は慧月の刑罰軽減と貴妃の処置を皇后へ委ねることで和解の道を拓いた。終章では尭明と玲琳の駆け引き、辰宇の執着、弓競技の余話や「芋好き」という微笑ましい日常が添えられ、政治と情の両面で次章への地平を拓いたのである。
「ふつつかな悪女ではございますが 3~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

本書は、豊穣祭の南領を舞台に「貧困の鬱屈」と「雛女入れ替わり」が再燃し、陰謀と救済が交錯する章である。冷害と重税に喘ぐ民は煽動者・雲嵐らに乗せられ朱慧月を“禍の元”として制裁せんと画策し、前夜祭では奉納具の破壊と挑発が重なり、感情の爆発とともに再び玲琳と慧月が入れ替わる。玲琳(中身)は汚された舞台を意趣返しの演出と歌舞で圧倒し混乱を制すが、放火と拉致計画が始動し、自ら囮となって賎邑へ赴く決断を下したのである。賎邑では景行の武と玲琳の農医知で民心が揺らぎ、雲嵐も葛藤の末に郷命への背反を選ぶ。禍森での狩りと猪解体を通じて迷信を打ち砕き、対話は同盟へと転じた。やがて邑には痢病が急拡大し、玲琳は煮沸・薬湯・衛生隔離を即断実施し看病に当たる。背後で郷長・江氏と藍林熙が税隠しと焼討ち偽装のため疫病を仕掛けた疑いが浮上し、交渉に走った雲嵐は刺客に襲われつつも帰還して焼討ちの危機を告げた。宮側では尭明が体面維持の情報戦を指示し、慧月は茶会で藍家の讒言に疑念を深める。終盤、救護で軟化する民意と迫る外患が並走し、慈と策で場を立て直す玲琳の主体がいよいよ鮮明となったのである。
「ふつつかな悪女ではございますが 4~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

本書は、藍家の策謀と南領事件の収束、そして雛宮内外の力学の再編を描く章である。藍芳林は無邪気な仮面で皇后・絹秀に取り入りつつ策を進め、絹秀は泳がせて観察するにとどめたのである。外では賎邑で雲嵐が刺客に倒れ、玲琳が景行の手ほどきで外科的処置を施し命をつなぐ。裏で江氏と藍林熙の工作が進むが、慧月は茶会で藍芳春の流した「媚薬」流言を皇后の食前酒だと明かし、評判回復に成功したといえる。
やがて玲琳は雲嵐の安楽死を迷うも辰宇に制され、尭明の到着で気力を取り戻す。郷の焼討ちが迫る中、玲琳は民を糾合して豊穣祭を挙行し、尭明の権威と民意を一体化させて先遣隊を呑む布陣を敷いた。証文と隠匿金の暴露で江氏は失脚し、差別的制度は撤廃となる。さらに慧月が道術で雲嵐の傷を江氏へ移し、「天罰」として民心を決定づけたのが要である。藍林熙は当主送致で退くが、藍芳春の関与は火種として残った。
帰京後、玲琳は芳春を梨園で追い込み、泥墨の沽券状を自ら燃やさせ東領の拠点を封じる策を遂行する。絹秀は姪の「善良だけではない成長」を是としつつ静観した。特別編では、かつて妹を妬んだ黄景彰が真相を知り“妹馬鹿”へ転じた来歴が補われるのである。
「ふつつかな悪女ではございますが 5~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

本篇は、鑽仰礼をめぐる後宮の暗闘と黄玲琳・朱慧月の決裂と再結束を描く章である。玲琳は王都着後、賢妃に挨拶し、慧月には基礎鍛錬を課す一方、毒白粉や粗悪化粧を看破するなど実務で頭角を現す。金淑妃と藍徳妃はそれぞれ清佳・芳春を駒に策を進め、芳春は徳妃の暴力と脅迫に屈し揺らぐ。鑽仰礼では「花を体現せよ」との題で、柱倒壊の妨害を玲琳が言で受け流し、慧月は無花果で“実を成す”覚悟を示す。中の儀では祈禱師が慧月の書を神罰と断ずるが、玲琳が泉に飛び込み「寿」の字を示し形勢を反転させた。だが慧月は依存感と劣等感から玲琳を拒み、金家の流言も重なり両者は決裂する。
和解を図る女官の策の最中、玄歌吹が三年前の霊麻買い占めを誤解して玲琳を襲い井戸へ投棄するに至る。冬雪は慧月を地下道へ引き出し、皇太子と黄兄弟が叱咤することで慧月は向き合う決意を固めた。炎術で玲琳の窮地を知ると、罵倒で意識を繋ぎ、ついに身代わりとなって井戸に落ち救出を成す。玲琳は己の弱さと向き合い、終の儀・清佳と芳春・歌吹への反撃を誓うのである。特典では、藤黄女官たちが玲琳を「折れぬ雑草」と評し、その真価を根性に見る姿勢が示される。
「ふつつかな悪女ではございますが 6~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

本章は、三年前に炎尋の儀で姉・舞照を失った玄歌吹の復讐譚を起点に、鑽仰礼終盤の権力戦を描く連作である。冷遇の家で育った姉妹の絆は舞照の冤罪と死で断たれ、歌吹は霊麻買い占めの誤解から黄玲琳を仇視するに至る。井戸事件後、玲琳は朱慧月と入れ替わったまま歌吹を追跡し、廃蔵で対峙して真相を聴取、誤解を叱咤して生かす道へ引き戻した。並行して慧月は冬雪・莉莉と口裏を合わせるが、辰宇と景彰に正体を見抜かれ、尭明の前で窮地に立つ。玲琳と歌吹は密宴に忍び込み、金淑妃・藍徳妃が祈禱師・安妮と通じた欺術と舞照事件の経緯を掴むに至る。玲琳は五家の雛女を糾合し、終の儀で魔鏡を用いて安妮の仕掛けを可視化、炎尋の儀を反転させて自白を引き出した。結果、安妮は失脚し、玲琳が一の位、慧月と歌吹が二の位となる。後日譚では、清佳が麗雅を見捨て、芳春は女官を糾合して徳妃を失脚させ、新たな主導権を得た。入れ替わりの露見は清佳と芳春に及ぶが、尭明は皇帝の監視強化を告げ、当面は解消不可と警告する。嵐は収まらず、次の策謀への緊張が残されたのである。
「ふつつかな悪女ではございますが 7 ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

皇帝誕辰祭の喧騒下、黄玲琳は女官莉莉と市へ出て世情を体験し、皇太子尭明と合流して人身売買絡みの借財事件を追い、賭場「三界楽」へ踏み込むこととなる。並行して「黄玲琳」に扮する朱慧月は黄景彰に伴われ市に出、違法質屋を端緒に闇筋を嗅ぎ当て、追跡の末に景彰と共に賭場の背後へ迫る展開である。玲琳は賭卓でいかさまの癖――篝火で温めた賽子と冷えた手での目固定、舞女の合図連携――を看破し、敢えて敗北して舞台に上がり証拠線を握る策を取る。旅籠側では冬雪と景行が用心棒を制圧し、辰宇は旧知の雲嵐と茶楼での救出劇を経て急報に応じる。やがて関係者が賭場に集結し、尭明の武と玲琳の機略で九垓の賭場は崩壊するに至る。だが皇帝の隠密監視が強まったため入れ替わりの即時解消は見送り、鎮魂祭で皇太子の龍気発現に紛れて断行する策へ転じた、という判断である。特別編では、慧月が「朱慧月」の蔵で過去の手紙や母の記憶と向き合い、玲琳の整理と温かな言葉により、憎悪と愛情の併存を受け容れる。二人の往復書簡が新たな絆の証となり、次局への助走が整う結末である。
「ふつつかな悪女ではございますが: 8~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

皇太子尭明は父帝弦耀の朝餉に臨み、入れ替わり露見を狙う策を嗅ぎ取り警戒を強めた。鎮魂祭に合わせ秘かに入れ替わり解消を図る計画があったが、弦耀は雛女を各地へ散らす「慈粥礼」を下し、特に朱慧月を烈丹峰に孤立させる配置を敷いたのである。標的は黄玲琳と見定め、隠密頭領アキムにも妨害を命ずる。アキムは変装と潜入に長けた古参で、冷えた忠誠と虚無を抱えて任に就く人物だ。
玲琳は急仕度で炊き出し遠征へ。芳春・清佳・歌吹らと暗号で連携しつつ、霊廟で地形や水害史を学び備えた。到着先では物資欠落と女官の反発、住民の不信が噴出するが、釣りで食材を補い、粥への汚物混入や山賊襲来も機転で退けた。処断は見せしめでなく再教育とし、配膳を立て直す判断を示す。やがて弦耀の動静を掴み、雲梯園の慧月救援へ単騎越山を決断した。
一方の雲梯園では、慧月が「玲琳」として慈粥礼に従事しつつ、弦耀の臨視と詰問に晒される。即興の鎮魂歌を強いられるも清佳・芳春・歌吹が機転で援護し、冬雪・景彰も場を整えて疑念を散らした。尭明は監視強化を見越し、入れ替わり解消を鎮魂祭の龍気発現に紛らせる方針へ修正する。
こうして、帝の執拗な探りと被災地の現実の中で、玲琳と慧月はそれぞれの現場で矜持を貫き、次の決着へ歩を進めるのである。
「ふつつかな悪女ではございますが: 9~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

詠国は鎮魂祭前夜で混乱し、皇后絹秀は政務を一身に背負いながら皇帝弦耀の不在に鬱屈していたのである。山中では黄玲琳と朱慧月が隠密頭領アキムから過去の真相――皇太子護明が術師に魂を奪われ、弦耀が復讐に囚われてきた経緯――を聞き、協力へ舵を切る策を練る。弦耀は慧月を詰問し処刑しかけるが、実は入れ替わりを偽装していた玲琳が身を挺して対話に持ち込み、敵は董であると突き止めるに至る。弦耀の少年期と護明失明、兄弟の確執、皆既に重なる日蝕での「入れ替わり」惨劇も回想され、復讐の執念が一本に収斂していく。
雲梯園と烈丹峰では雛女一同が対立と和解を経て結束し、玲琳と慧月は無謀を改めて「歌」を核にした包囲網へ転換する。住民に鎮魂歌を教え、氷河を爆破して水害を防ぎ、囮・偽装・鳩通信で董を氷上へ誘導する段取りであった。極陰日、爆破と合唱で魂の逃走を封じ、董は氷下に沈み、護明の肉体は回収される。弦耀は凍湖で兄に対面し慟哭し、帰還後に陽楽丘へ密葬を執り行う。入れ替わり解除も許可され、炎柱の儀で二人は元の身に戻る。父子とアキムの関係は和らぎ、復讐の輪は閉じたのである。
一方、雛宮での団欒ののち、玲琳は突如倒れ、同時刻、絹秀は地下で董の魂を封じた壺を同形の壺とすり替える。国が光を取り戻す裏面で、新たな火種が密かに灯った構図であった。
「ふつつかな悪女ではございますが 10~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

飛州の港町で三雛女(清佳・玲琳・慧月)は帆車交の儀に臨む準備を進めるが、来訪のシェルバ第一王子ナディールは傲岸不遜で詠国式の歓待を嘲るのである。金家内では直系の清佳と傍系の成和が対立し、成和は清佳を蔵に幽閉する策に出る。玲琳と慧月が潜入救出し、炎術と古酒で脱出したのち、市で仕込みを整え、宴では十二州を象った巨大菓子と商人・伝聞士を巻き込む演出で王子に「充楽」と言わせることに成功する。
その夜、清佳は行方不明の幼なじみを追い花街へ向かい、一方で慧月は西国客に勧められた酒に混入の麻薬で急変する。ハサンの介入を退け、景彰の助言も受けつつ、玲琳が入れ替わりで苦痛を肩代わりして看病に耐え、悪夢を越えて意識を回復した次第である。
やがて景彰と辰宇が到着し、玲琳は王子と従者が入れ替わっていた事実と、宰相ザインが麻薬で資金を集める陰謀を看破する。麻薬の流入源は花街に通じる恐れが濃く、玲琳は潜入調査を決意する。三雛女は互いの力と誇りを確かめ、次なる局面へ踏み出したのである。
「ふつつかな悪女ではございますが 11~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」

金領の高級妓楼・天香閣は、西国趣味と詠国の規矩が交差する歓楽の牙城である。頂点の最上級妓女「天花」は琴瑶で、酒・香・浴室の裁量を握り、楼内の序列を支配していた。宰相ザインが買収して以降、番頭・忠元の下で麻薬「贅瑠」が流通し、覇香宴を機に資金回収が図られる情勢であった。三雛女(清佳・玲琳・慧月)は潜入を決断し、内偵と現行犯拘束を狙う方針を立てる。潜入先で清佳と慧月は天花派の私刑に遭い、清佳は断髪の辱めを受けたが、玲琳は天花=清佳の幼なじみ琴瑶と見抜き、説得を試みた。調査の結果、贅瑠は浴室「瑶池」に仕込んだ黒い菌床を煮出す製法で、瘡毒の疼痛を偽りの“緩和”で中毒へ転じさせる罠と判明する。宴は前倒しで開かれ、清佳の剣舞でザインらの足を留め、景彰とナディールが投げ物で場を買い、ザインと忠元の現行犯拘束に成功した。ザインは爆破で証拠隠滅を図るが、尭明の雷光で標的船を特定し、慧月が楼炎を海へ転送して鎮火と撃滅を両立させた。琴瑶は離脱を拒み清佳に看取られて死す。事後、罪はザインと忠元に帰され、妓女は被害者として遇された。清佳は琴瑶を葬り誓いを継承し、玲琳は病を公表して退路も辞さぬ覚悟を固め、慧月は入れ替わり永続に揺れながらも友を生かす道を模索した。
その他フィクション

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