小説【だれゆう】「誰が勇者を殺したか 勇者の章」感想・ネタバレ

小説【だれゆう】「誰が勇者を殺したか 勇者の章」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は、魔王討伐から数年後の王国を舞台としたファンタジー×ミステリー小説である。慰霊祭の最中、かつて旅の始まりで出会ったリュドニア国の姫と再会した勇者が、「リュドニアの勇者を殺したのはあなたですか」と問われる。かの勇者が姫の兄であり王子だったことを思い出した彼は、心にかすかな痛みを覚えながら「王子を殺したのは魔物シェイプシフター。あなたもご存じのはず」と伝える。これは旅の始まりで出会った、もうひとりの勇者と姫の物語である。

物語の特徴

『誰が勇者を殺したか』シリーズの第3巻であり、物語は過去にさかのぼり、勇者たちが旅の始まりで出会った、もうひとりの勇者と姫について描かれる。勇者一行が魔王を倒すまでの旅の道中や、勇者が抱いた思いについて徐々に明かされていく展開が特徴である。  

書籍情報

誰が勇者を殺したか 勇者の章
著者:駄犬 氏
イラスト:toi8
出版社:KADOKAWA角川スニーカー文庫
発売日:2025年5月30日
ISBN:9784041162576

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あらすじ・内容

私にとって――お兄様こそが本物の勇者でした
魔王討伐から数年後、王国で開催されている慰霊祭で亡くなった者たちに祈りを捧げる勇者たち。王都が祭りの喧騒に包まれる中、勇者はかつて旅の始まりで出会ったリュドニア国の姫と再会を果たす。少し緊張した面持ちで言葉をかける彼に、姫は冷たく重い声で「リュドニアの勇者を殺したのはあなたですか」と糾弾する。かの勇者が姫の兄であり王子だったことを思い出した彼は、心にかすかな痛みを覚えながら「王子を殺したのは魔物シェイプシフター。あなたもご存じのはず」と伝えるのだが……。これは旅の始まりで出会った、もうひとりの勇者と姫の物語。

誰が勇者を殺したか 勇者の章

感想

本作は、「勇者とはなにか」という問いを、痛々しいまでの犠牲と残酷な現実を通して読者に突きつける作品となった。
栄光に包まれた英雄譚ではなく、理想と現実の間に引き裂かれる者たちの記録であり、感情の機微を深くえぐる構成となっていた。

過去と現在が交錯する勇者の旅

本巻は、過去編の性格が濃いながらも、アレスたち勇者パーティーの旅路としてしっかりと描かれていた点に安心感を覚えた。
特に、初めて立ち寄った国であるリュドニアでの一幕は、戦闘経験も連携も不十分な一行が、真の勇者とされる存在と出会い、そこから「心得」を学ぶ過程が丁寧に描かれていた。
そのなかでアレス(ザック)以外の仲間たちも、次第に変化を見せるようになり、パーティーが少しずつ「本物」になっていく姿が印象的であった。

カルロスという存在の強さと哀しさ

リュドニアの王子カルロスは、アレス(ザック)以上の才を持ち、剣術と魔法の両方で人々を魅了する存在であった。
かつては「真の勇者」として期待されていた彼が、それでも道を譲らねばならなかった背景にあるもの――それが読み進めるほどに胸に刺さった。彼の「自分は勇者ではない」という否定と、周囲の「彼こそが勇者だ」という肯定が、互いにすれ違いながら積み重なり、終盤の「理想の勇者」の死に繋がっていく構造はあまりに皮肉であり、そして美しかった。

マリアという存在の異質さと不気味さ

巻を重ねるごとに、マリアの「本性」が少しずつ表に出始めている点は注目すべき点だと思われる。
彼女の執着は、この巻でより色濃く描かれ、特にアレスに向けられる感情は一種の狂気すら漂わせるようになった。
仮面を外していく過程で人間らしさが見える一方、その中に潜む神性とも言える力と断絶が恐ろしく、後半の展開ではもはや彼女が魔王ではないかという危機感すら抱かせた。

誰もが「勇者」になれないという現実

「勇者とは何か」という問いに対し、本作は明確な答えを出さない。
むしろ、誰もが勇者にはなれず、勇者であろうとする者が自滅していくさまを描くことで、理想と現実の断絶を浮き彫りにしていた。
アレス(ザック)は完璧ではないが、なお勇者として足を止めずに進み続ける。
一方でカルロスは、完全な者であろうとしたがゆえに壊れていった。
そしてシェイプシフターという「存在ならざる存在」が、カルロスの想いを受け継ぎ、最期に勇者として認められるという結末は、言いようのない切なさを伴って心に残った。

シリーズへの期待と希望

一巻読了時は綺麗に終わっていたので、果たして続編が成立するのかと不安を抱いていたが、二巻以降の構成力はむしろ安定感すら感じさせた。
この巻では過去と現在が巧みに交差し、物語世界が一層深く広がっていた。
特に登場する「勇者たち」が毎回異なる背景や価値観を持つことで、読み手としても一つの視点に固執することなく、多面的に「勇者像」を捉えることができる。
アレスやマリア、レオン、ソロンといったメンバーが精神的に成長していく描写も誠実で、今後の展開に期待を寄せずにはいられない。

終わりに

「いい話だった」と思える反面、何とも後味の悪さが残る。
それは単なるバッドエンドではなく、そこに確かに「覚悟」と「祈り」があったからだろう。
エレナ姫の感情、カルロス王子の葛藤、シェイプシフターの願い、そしてアレス(ザック)の問いかけと応答。
それぞれの選択が、たとえ報われなかったとしても、確かに「生きた証」であったと感じられた。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

アレス※=ザック

ザックが勇者として活動していた時代に用いていた仮名であり、過去の使命と失敗を背負った存在である。自信のなさと向き合いながらも仲間と共に歩み、成長していった。
・勇者として活動していた当時、名前を偽って「アレス」を名乗っていた
・勇者として、教会にて祈りと追悼を行った
・エレナ姫からカルロス王子の死について糾弾を受けた
・リュドニア国内に潜入し、冒険者として活動を開始した
・王子派の陰謀に巻き込まれつつも、真実を見抜き敵を制した
・青い魔人との戦闘で決定打を担い、シェイプシフターの最期に立ち会った

ソロン

知略と魔法に長けた仲間の一人であり、冷静な判断力と政治的配慮を備える。人間不信の傾向を持つが、勇者パーティとしての自覚と使命感を持って行動する。
・王子の依頼により、透明塗料による内通者追跡作戦を提案・実行した
・魔物との戦闘で魔法の連射技術を駆使し、近距離戦に適応した
・シェイプシフターの存在に懐疑を抱き、信仰の在り方について語った

レオン

剣の腕に秀でた仲間であり、当初は独断専行の傾向があったが、戦闘と仲間の成長を通じて剣士としての在り方を見直していった。
・最初は実力を過信して単独行動に走り、パーティの不和を招いた
・後に連携を重視した戦闘スタイルへと変化した
・青い魔人との決戦で首を斬り、戦局を決定づけた

マリア

聖女としての力を持ち、癒しの魔法と信仰によって仲間を支える。冷静だが内面にはアレスへの深い執着を抱きつつ、他者への献身にも順応していく。
・戦闘では回復と精神的支援を担い、仲間を鼓舞した
・エレナの攻撃に対し、神の奇跡で即座に無力化した
・勇者の最期の言葉を伝え、祈りを通じて鎮魂の象徴となった

カルロス・リュドニア王子

剣と魔法に秀でたリュドニアの王子であり、かつて「リュドニアの勇者」と称された存在である。自責と苦悩を抱えつつ、最終的に自らの命を代償に平和を託した。
・騎士団を率い、アレスたちを魔物の襲撃から救援した
・王子派の暴走を抑えるため、自ら毒を飲んで病を装った
・死の間際にシェイプシフターと出会い、全てを託した

エレナ・リュドニア王女

カルロス王子の妹であり、王族としての誇りと兄への敬慕を強く抱く人物である。勇者に対する不信と葛藤を抱える。
・王家の霊廟に赴き、遺体の確認を通じて兄の死を追認した
・ザックと再会し、勇者への憎悪と真実をぶつけた
・精霊に願いを託し、カルロスの姿を借りた存在を喚び出した

フェリプ

カルロス王子に忠誠を誓う側近であり、王子を真の勇者と信じて行動する過激派の中心人物である。最終的には自らシェイプシフターと名乗り、敵対者として立ちはだかった。
・王子派を率い、アレスを罠にかけて排除しようとした
・地下室で自らの正体を明かし、騎士たちを魔物に仕立てる計画を語った
・レオンの一撃によって制圧され、その後死亡した

エリオット

リュドニア王家の騎士であり、かつての敗戦により深いトラウマを抱えている。フェリプの遺志を受け継ぎ、アレス暗殺に動いた。
・過去の戦でダリオスに救われた記憶を持ち、それが心の支えとなっていた
・アレスを追撃し、魔王軍との共闘を明言した
・最終的にカルロスの姿をしたシェイプシフターと戦い、敗北した

シェイプシフター

姿を自在に変える魔物であり、カルロス王子の姿と記憶を受け継ぎ、リュドニアのために戦った存在である。勇者としての覚悟と意志を持ち、最期まで戦い抜いた。
・カルロスの命と引き換えに姿を得た存在として、王子の意志を継いだ
・エリオットとの戦いを経て、青い魔人討伐に参加した
・正体を明かした後、自らの死を偽装しつつアレスに未来を託した

預言者

『世界編纂』の力を持つ存在であり、影法師を用いて人間や魔物を観察する。未来を見通す力とともに、過去の判断に対する後悔と葛藤を抱える。
・影法師の力でエレナや騎士たちを観察したが、決定的な証拠を得られなかった
・かつてカルロスを勇者に指名しなかったことを悔いていた
・アレスとエレナの心の変化を見届けながら、物語を観測していた

王子派

カルロス王子を勇者と信奉する貴族や騎士たちの集団であり、フェリプを中心に構成される過激な組織である。内通者問題の焦点として描かれた。
・王子の名誉回復のため、魔物との戦闘を演出しようとした
・ソロンの塗料作戦により一部が追跡され、最終的に壊滅した
・フェリプの死後、組織としての実体は消滅した

ダリオス

歴戦の騎士であり、カルロス、エリオット、フェリプら若き騎士を実戦で導いた存在である。部下からの信頼も厚く、騎士団の精神的支柱であった。
・リュドニア砦の防衛戦において、若き騎士たちを支えた
・魔人との交戦中、カルロスの脱出を助けるため命を賭して殿を務めた
・戦死後、その首が弔意として送り返されたことが語られた

青い魔人

リュドニアを襲撃した魔王軍の強力な個体であり、巨体と神の加護によるブレスを持つ。物語終盤に登場し、最終決戦の敵として立ちはだかる。
・青い炎の「ブレス」を放ち、アレスを狙った
・ソロン、レオン、マリアの連携に加え、アレスの防御とレオンの一撃により討伐された
・シェイプシフター(カルロスの姿を持つ者)の介入が、勝利の鍵となった

展開まとめ

プロローグ

街の景色と価値観の相違
銀髪の姫と老将が夜の街を見下ろしながら会話を交わした。老将は灯りが生む営みに美しさを見出していたが、姫はそれに共感できず、ただの「普通」と受け止めていた。

街を守る意志とその曖昧さ
姫は街を守ろうとする自らの意志が王族としての義務によるものであり、特段の愛着は持っていないと自覚していた。それでも街が滅ぶ想像には嫌悪を覚え、完全に無関心ではいられなかった。

老将の眼差しに残る印象
老将は時間が経てばこの街の美しさが理解できると語り、姫もその綺麗ごとを疑いながらも、老将の穏やかな眼差しに心を揺さぶられていた。姫にとって、それは何気ないが心に残るひとときであった。

慰霊

王家の霊廟への到着と目的
姫は霧深い山中の霊廟へ侍女や騎士を従えて到着した。王家の中でも高位にある姫であったが、この訪問は極めて異例であり、同行者たちは困惑を隠せなかった。

石棺の開封と驚愕の確認
姫の命により、真新しい石棺が開かれた。中には腐敗せず生前の姿を保つ遺体が安置されており、姫はそれを見て確信を深めた。供の者たちは、その人物の存在に驚きを隠せなかった。

慰霊祭の祝祭化と人々の表情
王都では魔王軍との戦いで亡くなった者たちを悼む慰霊祭が盛大に開催されていた。勇者の帰還が契機となり、各国の使節団を招いて平和を祝う明るい雰囲気に包まれていた。

勇者ザックの祈りと追憶
ザックは街を歩き、教会にて花と蝋燭を供えて祈りを捧げた。亡き両親や仲間たちへの思いに耽る中、彼は冷ややかな視線の存在に気づいた。

銀髪の女性との再会と告発
視線の主は銀髪の気品ある女性であり、ザックは彼女がリュドニア国のエレナ姫であることを認識した。彼女は兄でありリュドニアの勇者であったカルロス王子の死について、ザックが関与しているのではないかと問いただした。

カルロスの死とシェイプシフターの記憶
ザックは動揺を見せず、カルロスを殺したのは魔物シェイプシフターであったと説明した。彼にとってもそれは忘れがたい事件であり、エレナの糾弾は心の傷を呼び起こすものであった。

リュドニア国

旅路の計画と安全志向の選択
正式に勇者と認定された一行は、ソロンの提案に従い比較的安全とされるリュドニア国を目指した。ソロンは無用な危険を避けるべきと主張し、レオンは名声を求めて戦いを志向するも対立が生じた。

一行の人間関係と価値観の衝突
ソロン、レオン、マリア、そしてアレス(ザック)の間には思想や信頼感に違いがあり、会話はしばしば噛み合わなかった。中でもソロンは孤独な過去から人間不信を抱いており、周囲との調和を欠いていた。

街への潜入と冒険者としての登録
勇者であることを隠し、冒険者を名乗ることで一行はリュドニアの街に無事入ることができた。魔物の討伐任務が存在したことも功を奏し、不自然さを避けることができた。

戦闘経験と連携への課題
街の宿にて食事を取りながら、一行は戦闘経験の不足について議論を交わした。レオンとマリアは個々の力を信じていたが、ソロンは仲間としての連携こそ重要であると説いた。

アレスの調停と溝の継続
アレスは三者の意見を取りまとめようと努めたが、ソロンの過剰な自己主張が他の二人との軋轢を生んだままであった。結局、実戦経験を積むという提案は受け入れられ、彼らはリュドニアでの活動を開始するに至った。

危機

冒険者としての活動とパーティの問題点
勇者一行は冒険者を名乗り、リュドニア領内で魔物退治を行っていた。魔物は概ね弱く、実戦経験を積むには適した環境であったが、戦闘における連携の拙さが露呈していた。特にソロンの高圧的な指示は、レオンとマリアの反発を招き、協調を妨げた。

仲間同士の不和とアレスの焦燥
レオンは実力に慢心し、独断専行に走りがちであり、マリアはアレス以外への関心が薄く、回復行動も消極的であった。アレスは自らの非力さを自覚しつつ、パーティの歪みを正す力を持たずにいた。

罠の依頼と魔王軍の奇襲
国境近くの街で受けた依頼を受け、魔物の掃討に向かった一行は、罠に嵌められ、ゴブリン・ホブゴブリン・オーガによる大規模な包囲攻撃を受けた。敵は秩序ある動きを見せ、魔王軍に所属している可能性が示唆された。

包囲戦とレオンの孤立
レオンは突出した位置で戦っていたため孤立し、味方の支援を受けられない状態に陥った。ソロンとアレス、マリアはそれぞれの能力で応戦したが、敵の数と連携の悪さから苦戦を強いられた。

レオンの行方不明とアレスの危機感
レオンは魔物の波に飲まれ、姿を確認できなくなった。アレスは前衛として奮闘しながらも体力と精神力の限界が近づき、マリアの治癒への疑念さえ一瞬抱くほど追い詰められていた。

リュドニアの王子

黒鎧の騎士とリュドニア騎士団の救援
戦場に突如現れた騎士団が勇者一行を救援し、圧倒的な戦闘力で魔物を撃退した。騎士団の中でも際立つ存在だった黒鎧の男は、剣と魔法の両方に優れており、王族らしい風格を備えていた。

カルロス王子との対面と勇者の正体の露見
黒鎧の騎士はリュドニアの王子カルロスであり、勇者一行の正体を見抜いた人物でもあった。彼は王国の動向を事前に調査しており、アレスたちの実力から身元を推察したと述べた。

レオンと騎士たちの緊張関係
カルロスの側近である騎士フェリプは、勇者としてのアレスに懐疑的であり、レオンやソロンも警戒を見せた。一方、カルロスは争う意思を示さず、友好的な態度で接した。

魔王軍の侵入と内通者の存在
ソロンの問いに対し、カルロスは国境が突破された原因が「裏切者」にあると明かした。騎士エリオットはその可能性を認め、リュドニア内部に魔王軍と通じる者がいることを暗示した。

カルロスの推理とアレスの指名
カルロスは、魔王軍の襲撃の標的が偶然ではないとし、勇者一行の存在が敵に知られていたことを示唆した。アレスに向けられた問い「おまえは勇者か?」は、彼を試す意図を含んでいた。

勇者

アレスの本音と自覚のなさ
アレスは、自分が完璧な勇者ではないことを自覚しており、仲間たちのほうが遥かに強いと認めていた。だが、それでも勇者でありたいと願い、自らの歩みを止めることはなかった。

カルロス王子の評価と共感
カルロスはその言葉を受け、アレスを真の勇者と認めた。勇者は自らを名乗るのではなく、行動と結果で証明されるものであるという姿勢を示した。

リュドニアの事情と王子の制約
カルロスは王子として国に縛られており、遠征ができない立場にあった。勇者としての使命と王族としての責務との間で葛藤を抱えていたことが語られた。

王子からの依頼と城への同行
アレスたちはリュドニア国内に潜む内通者を探すという依頼を受け、王子の私室でその詳細を聞くこととなった。王子は部外者であるアレスたちに期待を寄せ、彼らを信頼できる外部の目として選んだ。

シェイプシフターの脅威と捜査の始動
カルロスは、魔王軍が「シェイプシフター」が潜んでいると告げていることを明かした。姿を自在に変える伝説の魔物の存在が、内通者問題を複雑にしていた。アレスたちは王子の依頼を引き受け、調査に乗り出す決意を固めた。

エレナ姫

姫の来訪と勇者一行への関心
カルロス王子とソロンが依頼の打ち合わせをしていた最中、エレナ姫が訪ねてきた。王子は一時入室をためらったが、最終的に姫の入室を許可した。エレナは可憐な容姿の少女で、王子の妹であり、王国の勇者たちに強い関心を示していた。姫は勇者の正体を聞かされていなかったが、強引に聞き出した結果、好意的ではない第一印象をアレスに対して抱いた。

マリアの反撃と姫の動揺
エレナ姫はアレスの外見や印象を痛烈に批判し、代わりにレオンを勇者と誤認した。しかしレオンが否定すると、姫はアレスに対し「似つかわしくない」とまで言及した。これに対し、聖女マリアが冷静ながらも皮肉を交えた一喝を加え、姫は怯えてフェリプの背後に隠れた。カルロス王子はこれを謝罪し、ソロンも勇者の定義について意見を述べた。

勇者の定義と王子の信念
ソロンは「勇者とは魔王を倒した者に限らず、すべてを捨てて事を成す者」であると語り、自身もリュドニアを守る者として勇者であるとの信念を示した。カルロス王子もまた、自分の中では勇者であるとの確信を持っており、魔王討伐への執着はないと明かした。

預言者の観察と内心の葛藤
預言者の幻影は会話の一部始終を観察しており、リュドニアの現在の動きが過去の「世界編纂」とは異なっていることに疑念を抱いていた。本来リュドニアは最後まで抗戦する国であったはずだが、今回の展開には違和感があった。預言者はカルロス王子を勇者として指名しなかった過去の判断に、打算を感じて自己嫌悪に陥っていた。

シェイプシフター

内通者の可能性と王子の懸念

カルロス王子は、リュドニア国内に魔王軍と通じる者がいる可能性を示唆した。王子はシェイプシフターの存在を危険視しつつも、人間の内通者も否定できないと語った。王子は動向を把握できる軍関係者の名簿を提供し、調査の起点とするよう指示を出した。

政治的配慮とリュドニアの安定

部屋に戻ったアレスたちは、王子の真意についてソロンと語り合った。王子はリュドニアの安定を守るため、たとえ人間の裏切りであっても、シェイプシフターの仕業として処理したい意図があった。ソロンはその判断を政治的妥協と理解しつつ、シェイプシフターの本質について語り始めた。

魔物の定義と信仰のゆらぎ

ソロンは魔物とは本来「人間にとって不都合な存在」であるとし、神の視点では人と魔物の区別はないと主張した。マリアもまた、神の意志において正邪の区別は存在しないと補足し、シェイプシフターの存在は神の理を外れる異質なものであると位置づけた。

シェイプシフターの歴史的背景

さらにソロンは、シェイプシフターがかつては神格視されたこともあり、土着信仰の中で神とされていた可能性を示唆した。現在の教会による教義の中で、それらが魔物とされるようになった経緯があると説明した。

魔法による追跡計画

最後に、ソロンは調査方法として自らの魔法を用いた追跡計画を提案した。王子の名簿に基づき、対象者に魔力を帯びた透明塗料を密かに付着させ、その行動を感知するというものである。これにより、敵がシェイプシフターか人間かに関係なく追跡が可能となる。

断章一 内通者

カルロス王子への妄信と策略

語り手は、アレスが勇者であるという話を聞いたときから否定的であった。王子こそが真の勇者であると信じており、その名声を取り戻すため、魔物を領内に引き入れて王子の武勲とする計画を立てた。

魔人との接触と契約

語り手は魔王軍の魔人と接触し、魔物を少数領内に潜入させるルートを提供した。魔人との交渉において、自らを人間ではなく「シェイプシフター」と称し、人間を裏切る覚悟を示した。

計画の進行と戦果の演出

計画通り、王子は民衆の目の前で魔物を討伐し、名声を回復させた。魔人もまた、王子を戦場から引き剥がすことに成功し、戦況は魔王軍に有利に傾いていた。語り手はこの状況に満足していた。

アレス一行への敵意と罠の準備

アレス一行がリュドニアを訪れるとの情報を得て、語り手はその排除を画策した。冒険者に偽装したアレスたちの行動を調査し、罠を仕掛ける計画を進めていた。しかし、アレスたちは予想以上に強く、計画は順調とは言えなかった。

王子の到着と内通者への警戒

王子が予想より早く戦闘の現場に到着し、語り手の動きに気づき始めた。王子はアレス一行を城に招き、内通者を見つけ出す意図を持ち始めていた。

王子派

勇者の身分開示と塗料作戦の開始

カルロス王子の了承により、アレスたちは自らの勇者であることを明かし、貴族たちに紹介された。同時に、ソロンの作成した無色透明の魔力塗料を用いて、疑わしい人物に付着させる作戦を展開した。アレス、レオン、マリアがそれぞれの手段で塗布を行い、ソロンは接触を避けた者に遠隔魔法で塗布した。

城内調査とエレナ姫との交流

調査の合間、アレスは城内を巡回していた。その際、再びエレナ姫と出会い、彼女から「偉い人は偉そうにすべき」といった独自の論理を語られた。姫は兄カルロス王子を勇者と信じており、アレスにも期待を寄せつつも手厳しい意見を述べた。これにより、アレスは自身の在り方について考えさせられることとなった。

情報収集の進捗とリュドニアの政治事情

目立った動きはなく、アレスとレオンは精神的に疲弊していたが、ソロンとマリアは裏で情報収集を進めていた。リュドニアではカルロス王子が若くして人気を博し、勇者と称されることも多かったが、それに反発する勢力も存在した。王子が病に倒れたことで一時騒動は収まったが、その支持者たちは信奉者と化しており、今も王子派として影響力を持っていた。

王子派と内通者の疑惑

ソロンは王子の提示した名簿の人物たちが「王子派」に属していることに注目した。王子自身も、王子派の過激な行動を警戒している可能性があると分析された。王子派の中でもフェリプが中心的存在であり、エリオットとはすでに決別していた。

戦場

アレスの戦場同行と王子の戦術指導

アレスはカルロス王子の要請により、国境の戦場に同行した。王子は彼に戦場の実情を見せることで成長を促そうとしていた。リュドニア軍は組織的な戦術で魔王軍を迎撃し、王子は自ら先頭に立って部隊を指揮した。

魔物との交戦と王子の活躍

戦況は激化し、アレスも混戦の中で奮闘した。特に強敵であるオーガが出現した場面では、カルロス王子の迅速な指揮と魔法使いの支援により撃退に成功した。アレスが窮地に陥った際も、王子が直接救援に入り、回復魔法の支援を受けながら戦い続けた。

戦後の教訓と勇者の責務

戦闘後、アレスは王子から「勇者の責務」について語られた。王子は完璧な戦術など存在せず、常に結果に悩むことが「指揮官の責務」であると説いた。そして、勇者には「自らが生き続け、仲間と未来を守る覚悟」が必要であり、それが真の勇者の証だと語った。

待ち伏せ

凱旋と民衆への演出

リュドニアの勝利を祝う凱旋式が行われ、アレスも王子と共に行進した。民衆に不安を与えぬよう、王子はアレスを「勇者」として公然と称賛した。これにより、リュドニア国内の勇者論争に終止符を打ち、内通者への牽制とした可能性があった。

仲間との再会と叱責

城に戻ったアレスは仲間たちから叱責を受けた。勝手な行動が命の危険を招くことを指摘され、アレスは真摯に謝罪した。ソロンは王子の意図について補足し、アレスを戦場に連れ出すことで内通者を誘き出そうとした狙いも示唆した。

内通者の動きと追跡開始

王都帰還後、ソロンはついに塗料を付着させた人物の不審な動きを感知した。アレスはその追跡を担当し、ソロンの護符の助けを借りて王城を抜け出した。夜の街で尾行を続けたアレスは、最終的にフェリプが貴族の館へ入るのを確認した。

敵の待ち伏せと対峙

館の庭に忍び込んだアレスを待ち構えていたのは、剣を持つ十数名の男たちであった。フェリプもその場に現れ、アレスを「偽りの勇者」と呼び、剣を抜いて対峙した。

断章二  フェリプ

フェリプの覚悟と前線の疲弊
フェリプはカルロス王子を真の勇者と信じ、己が命を賭して死んだ仲間の思いを胸に刻んでいたである。リュドニア軍は国王の命令で守りに徹する方針を強いられ、魔王軍の再襲は繰り返されるだけで真の勝利を得られなかったである。騎士や兵士は疲弊し、王子と共に戦場へ派遣されたフェリプもまた、士気維持の演出ではなく、敵将である魔人を討つ必要性を痛感していたである。

攻勢作戦の立案と初期成功
カルロス王子の判断により、リュドニア軍は迎撃後の追撃を実施し、魔王軍の背後を突く作戦を秘密裏に敢行したである。王子と精鋭部隊は大回りを行い、敵が撤退を始めたタイミングで追撃を開始したである。魔王軍は退却に入ったものの、伏兵を用意していたため、リュドニア軍は一度挟撃を受けることなく作戦の成功を確信したである。

裏切りの罠と大敗
しかし、魔人は追撃を予測し、後方に伏せていた伏兵を投入して待ち伏せを行ったである。リュドニア軍は前方から撤退してきた魔王軍と、後方からの伏兵に同時に襲われ、乱戦に陥ったである。騎士たちは盾として王子を守りつつ次々に倒れ、辛くも撤退に成功したものの、優れた騎士を多数失う大敗を喫したである。

責任の所在と再建の決意
作戦失敗の責任は将軍に押しつけられ、更迭が行われたである。王子の立場は著しく揺らぎ、一時は王都へ呼び戻されて咎めを受けたものの、フェリプらは再度王子を真の勇者とすべく同志を募り、戦いも辞さぬ覚悟で動き出したである。

正体

勇者の正統性を巡る対立
アレスはフェリプを「勇者は王子ただ一人」と問い詰め、フェリプは「誰でも魔王を倒せば勇者」と反論したである。両者は人間同士で戦いを交えるべきではないと主張しつつ、最終的に相手を排除しなければ王子が動かないとの論理に至ったである。

初期衝突と爆発の介入
アレスは数十名の騎士に囲まれ、戦闘が開始されたである。騎士たちが一斉に斬りかかる中、ソロンが突如として爆発魔法を放ち、騎士たちを吹き飛ばしたである。レオンとマリアも早期に駆けつけ、アレスを救援しつつ戦闘に参加したである。

騎士たちへの説得と排除
騎士たちが投降を呼びかけるレオンに耳を貸さず武装を続けたため、レオンは容赦なく斬り倒したである。アレスは卑怯な手段も辞さず対抗し、次々と騎士を無力化したである。

フェリプの正体と地下室への追跡
逃走した騎士たちを追った一行は、地下室でフェリプと再び対峙したである。フェリプは自らをシェイプシフターと名乗り、騎士たちを魔物に仕立てる計画を誇示したが、レオンの一撃を受けて制圧されたである。

出発

館崩壊の証拠隠滅
アレスたちの脱出直後、館は組み込まれた仕掛けで崩壊したである。ソロンはこれは証拠隠滅を兼ねた罠であると解説し、騎士たちは全員命を落としたである。

王子の対応と隠蔽指示
惨状を目の当たりにしたカルロス王子は、騎士の死を魔物との戦闘に伴うものとして処理するよう命じたである。エリオットは家族にもそのように伝える準備を始めたである。

褒美の授与と旅立ちの準備
王子はアレスに金貨の袋を贈り、魔王討伐への期待を改めて示したである。ソロンは路銀確保のため金貨を要求し、同行者一同は出発の支度を整えたである。

馬車運転の訓練と新たな旅路
出発に先立ち、アレスはレオン、ソロン、マリアに馬車御者役を提案したである。それぞれが挑戦を承諾し、新たな技術習得の意欲を見せたである。こうして一行はハイランドへと向けて馬車を進めたである。

断章三  預言者

影法師の能力と限界
語り手である預言者は、『世界編纂』の力に加え、幻影を影法師として他者に宿す能力を持っていた。この力でシェイプシフターを見抜こうと試みたが、カルロス王子のリストにあったすべての人物に宿ることができたため、判別には至らなかった。

エレナ姫への疑念と観察
もっとも疑わしい人物としてエレナ姫に注目し、一時的にアレスから離れて彼女を観察した。彼女は人間でありながらも異様な気配を放っており、見えない存在と会話をするなど不可解な行動を見せていた。城内でも孤立し、魔王軍への内通者としての動機を備えているようにも見えた。

エレナとカルロスの会話
エレナとカルロスの密談を目撃した預言者は、エレナが兄に勇者としての期待を抱いていること、そしてアレスの存在に対して否定的な感情を抱いていることを知る。カルロスはアレスの内面的な勇気を評価しつつも、エレナの想いを受け止めていた。二人の対話は、勇者とは何か、人を救う価値とは何かをめぐる象徴的なものとなった。

夜の森

旅の緩和と仲間の会話
レオンの馬車で移動する一行は、森の中で野営を行い、和やかな会話を交わした。マリアは仮面を脱ぎ、素の姿を見せるようになっており、アレスとの距離を縮めていた。

異変の接近と包囲の発覚
ソロンの警告により、塗料を付着させた者が近づいていることが発覚。虫の音すら消えた森の異様な静けさから、魔王軍の包囲に気付く。追跡者がいた可能性が示唆され、情報漏洩の経路にエリオットの関与が疑われた。

戦闘開始と突破作戦
包囲網の一点突破を決断し、アレスは仲間に指示を出す。ソロンの魔法、レオンの剣技、マリアの回復により連携を保ちつつ、効率的に敵を排除して進んだ。アレスは罠や不意打ちを用いて敵の足を封じ、仲間たちの進路を確保していた。

エリオットの裏切りと激突
進行中、アレスは銀髪の騎士エリオットと対峙した。彼は冷徹にアレスの命を奪おうとし、魔王軍との共闘を明言。カルロスこそが真の勇者であるという信念から、アレスを排除しようとしていた。激しい戦闘の末、アレスは魔法と剣を駆使してエリオットの武器を破壊し応戦するが、剣術では苦戦を強いられる。

カルロス

エリオットの失踪と違和感
カルロスはエリオットの不在に不安を覚え、自ら確認に向かう決意を固めた。彼はすでに側近を失い、孤独を抱えながらも、エレナの制止を振り切って出発した。

魔物との遭遇と突破
馬を走らせて森に向かったカルロスは、魔物の大群と遭遇し、火球魔法で突破しつつ進んだ。ソロンの魔力の多さを思い起こし、アレスたちがいかに仲間に恵まれているかを実感した。

戦場への到達と心の痛み
ようやく剣戟の音のする地点に到達したカルロスは、アレスとエリオットの戦いを目撃した。アレスの泥臭い戦いぶりに、かつて自分に欠けていた“生への執着”と“覚悟”を見出し、勇者としての本質を見直すこととなった。

断章四  エリオット

悪夢の再来と過去の回想
エリオットは、かつての戦いの記憶に苛まれ続けていた。夢の中で彼は百騎の精鋭部隊と共に、リュドニア砦を守る任務に就いていた。防衛戦の最中、王子カルロスと共に前線に赴き、数々の教訓を受けつつ、自身とフェリプの未熟さを痛感していた。

ダリオスとの信頼関係の構築
歴戦の騎士ダリオスは、若輩であったエリオットとフェリプを受け入れ、親身に接していた。彼の導きにより、砦の兵士たちとの間にも理解と協力が生まれていった。カルロス王子も戦場で実力を発揮し始め、次第に彼の勇者としての器が兵士たちの間で語られるようになった。

砦からの反撃と悲劇の始まり
リュドニア軍の勝利を機に、カルロス王子は命令を破って魔人討伐を決意した。エリオットたちは隘路で敵将を待ち伏せていたが、魔人はすでに伏兵を配置しており、精鋭部隊は挟撃される形となった。

仲間たちの壮絶な戦死
リュドニアの騎士たちはカルロスを逃すために次々と命を落としていった。魔人との交戦の最中、エリオットとフェリプも攻撃を受けて倒れ、カルロスの足を止める危機を生んだが、ダリオスが身を挺して主君を前進させた。

逃亡とダリオスの最期
ダリオスや他の騎士たちが時間を稼ぐ中、エリオットとフェリプは騎士たちの叱咤を受けて撤退した。その場面を最後に夢は終わり、後にダリオスたちの首が砦へ送り返されたことで、魔人による弔意が示された。エリオットの中には、王都の無為な者たちへの憤りだけが残っていた。

フェリプの遺言と決意
目覚めた朝、フェリプがエリオットのもとを訪れ、シェイプシフターが彼であることを指摘したうえで、アレスへの攻撃を自らが引き受けると語った。彼は失敗時の責任を負う覚悟を示し、王子派の目的と共に去っていった。その後、フェリプ率いる王子派は全滅し、彼は自らがシェイプシフターであると名乗り死んだという。エリオットは人間としての自分はすでに死んだと感じ、アレス暗殺を自身の使命と定めた。

リュドニアの勇者

アレスとの戦闘とカルロスの介入
エリオットはアレスに追撃を加えるも、途中で幻影の預言者が現れて一瞬の妨害を受けた。その隙を突いてアレスは脱出し、直後にカルロスがエリオットの前に立ちはだかった。カルロスはアレスの逃亡を許容し、自ら戦いを引き受けた。

逃走と戦いに対する価値観の違い
カルロスは、自身がかつて「逃げた」経験を持つことを語った。エリオットはそれを信じず、カルロスの強さと不屈の姿しか見てこなかったからである。しかし、カルロスは過去の大敗と心の傷を告白し、自ら毒を飲んで病を装い、王子派の動きを抑えたことを明かした。

正体の告白と衝撃の真実
その告白の末に、カルロスの姿をした者の皮膚は青白く変化し、真の正体が「シェイプシフター」であることが明かされた。カルロスの記憶と肉体を完全に模倣した存在であり、王子派の理想を体現していると自称した。

エリオットとの激闘と敗北
激高したエリオットは、シェイプシフターと一騎打ちを展開するも、感情に任せた攻撃に隙を突かれ、腹部を斬られて倒れた。シェイプシフターは、カルロスの記憶に基づき、彼がいかにエリオットたちを大切にしていたかを語った。

記憶の交錯と最終的な決断
シェイプシフターはカルロスの記憶に影響されながらも、青い魔人を討つべく戦場へと向かった。エリオットは憎しみと悲しみに満ちたまま、動けずにそれを見送った。カルロスの姿をした者は、自らを「勇者ではない」と否定しつつも、今の自分こそがリュドニアの務めを果たす存在であると語って戦場へ進んだ。

断章五  カルロス

幼少期の憧れと勇者という幻想

カルロスは幼い頃に勇者への憧れを抱いたが、それは他の子供たちと同様の戯言に過ぎなかった。しかし剣と魔法の両方に才能を示したことから、周囲は彼を本物の勇者だと誤解した。特にフェリプとエリオットはその才能を見て確信し、カルロスも王族として期待に応えようと努力を重ねた。

自己過信と現実の乖離

少年期のカルロスは、自分以外に勇者はいないと考えるほどの万能感に酔っていた。しかし年齢を重ね、魔人や魔王の圧倒的な力を知ることで、幻想が崩れた。勇者とは蛮勇と幸運が重なった存在に過ぎないと理解するようになった。

勇者の名の下で戦場へ赴く

王子としての立場を活かし、カルロスは「リュドニアの勇者」の名を得て支持を集めていた。実戦経験を得るため国境の砦に赴き、魔王軍との戦闘に参加する。ダリオスという歴戦の騎士を含む実力者たちが護衛につき、勇者としての実績作りが進行した。

期待に呑まれた誤算と大敗

ダリオスらの推進により、「魔人を倒してカルロスを魔王領に送る」という案が広まり、空気に呑まれたカルロスは攻勢に踏み切る。しかし魔人の策略により、別動隊は壊滅し、カルロス、フェリプ、エリオットのみが生還した。多くの騎士たちが命を落とし、カルロスは深い後悔と罪悪感に苛まれた。

王との対話と本心の露呈

王都に召還されたカルロスは、魔王討伐への意志を父王に語るも、王からは「周囲に流されているだけ」と見抜かれる。勇者とは強い心の持ち主であり、カルロスにはその素質がないと諭される。王の慧眼と愛情に触れたカルロスは、ようやく本当の自分と向き合い、療養を受け入れた。

自責と葛藤、心の傷との対峙

療養の中でカルロスは、死んでいった者たちの記憶に苦しめられる。眠れず、日常生活すらままならず、剣や魔導書に逃げても心は癒えなかった。そして、フェリプとエリオットが王子派として動き出し、クーデターの噂が広まったことで事態はさらに悪化した。

決断と自己犠牲の選択

事態を収束させるため、カルロスは国王に直訴し、フェリプとエリオットとの対面を希望する。そして、自身が病気であることを信じさせるため、毒を飲むという手段を選ぶ。自ら命を捧げることで、争いを止め、国を守る選択をした。

シェイプシフターとの邂逅と託宣

死に瀕した夜、カルロスは神とされるシェイプシフターと邂逅する。苦しみの末に出した本音を聞いたその者は、カルロスの代わりにリュドニアを守ると語り、彼の姿と力、記憶を受け継ぐことを申し出る。カルロスはそれを受け入れ、自身の役割を神に託した。

三人の戦い

アレス救出を目指す連携戦闘の開始

ソロンたちはアレスとの合流を試みたが、魔物に包囲され身動きが取れなくなっていた。エリオットがアレスを襲っている光景を目にし、裏切りを確信した一行は苛立ちと焦燥を抱えながらも戦いを継続した。マリアは回復魔法で仲間を支援しつつ、戦況を注視していた。

ソロンの魔法運用と戦術革新

ソロンは初歩魔法を連射することで近距離戦闘に適応し、魔物の接近を防いだ。その技術は、魔力消費を抑えつつ高い精度を維持する訓練と研究の成果であり、アレスとの議論を通じて洗練されていった。従来の「威力重視」の魔法観を改め、効率と実用性を重視する姿勢に転じたことが、彼の成長を象徴していた。

レオンの戦闘観の変化と実直な剣技

レオンは以前のような華美な剣技を封じ、実戦向きの地味な動きに徹した。アレスの影響を受けて「基礎の徹底」に価値を見出した結果、剣技に無駄がなくなり、魔物に恐れられる存在となった。剣聖としてのプライドに囚われていた過去を自覚し、アレスの指摘によって自身の虚栄心を乗り越えたことである。

マリアの献身と葛藤

マリアはかつて学院時代にアレスを陰ながら癒やしていたことを回想しつつ、今はソロンとレオンの支援に努めていた。その行為には不満も混じっていたが、二人の成長と誠実な戦いぶりに心動かされていた。アレスのために覚えた癒しの術を他人に使うことへの抵抗はあったものの、必要性を認めて行動していた。

聖女としての力と威圧

接近してきた魔物に対し、マリアは神の奇跡と精神的圧力を組み合わせた言葉で対処した。ホブゴブリンに対しては、傷の深さと死の不可避性を語ることで恐怖を呼び起こし、戦意を喪失させた。これにより、魔物を倒した行為は暴力ではなく、神の裁きのように描写された。

三人の連携と精神的な変容

かつては反りが合わなかった三人であったが、「アレスを助ける」という共通の目的が連携を促した。ソロンとレオンはかつての傲慢さや孤立を乗り越え、マリアもまた他者への癒しを自発的に施すようになっていた。アレスの存在がそれぞれの成長の契機となったことは明白である。

新たなる脅威の出現

包囲網の突破を目前にした三人の前に、突如として巨大な青い魔人が姿を現した。ソロンとレオンは過去の戦闘経験から、この魔人がロゾロフ大森林で遭遇した敵よりも強力な存在であると即座に察知した。三人は剣を握り直し、決戦の気配に備えた。

魔人

青い魔人との遭遇と交戦の開始
レオンとソロンは、リュドニアを襲った魔人と対峙した。青い巨体を持つ魔人は二本の大剣を携えており、ソロンの炎魔法を一振りでかき消すなど圧倒的な実力を示した。レオンは果敢に挑むも、魔人の剣技に押され、戦局は拮抗していた。

戦況の激化と魔物の襲来
魔人が咆哮を上げると、周囲の魔物たちが反応し、ソロンとマリアへと襲い掛かった。ソロンは即座に魔物に魔法を放ち、レオンは再び魔人に集中した。マリアの回復により身体の調子は万全であったが、魔人の攻撃によりレオンは押され、防御一辺倒となった。

アレスの登場と連携戦闘
絶体絶命の瞬間、アレスが盾を構えて現れ、魔人の剣撃を防いだ。以降、アレスが防御を担い、レオンが攻撃に転じる形で連携を図り、形勢を立て直した。魔人は両者の戦術に手を焼くも、神の加護を受けた青い炎「ブレス」を放ち、アレスを狙った。

勇者の死

カルロスの介入とブレスの被弾
アレスはブレスを避けきれず、盾で防ごうとしたが間に合わなかった。そこへカルロスが割って入り、火傷を負いながら勇者を庇った。魔人は一瞬の迷いを見せ、その隙を突いてアレスとレオンが両側から攻撃を加え、レオンが魔人の首を斬り落として討ち取った。

回復不能と正体の発覚
カルロスの傷にアレスは回復魔法を施すが効果がなく、マリアの癒しの光すら効かなかった。マリアは、カルロスが人間でも魔物でもなく「神の理の外」にある存在であると断じた。カルロスはシェイプシフターであることを認め、正体を明かした。

カルロスの願いと最期
シェイプシフターは死を悟り、エリオットと自分の死体を入れ替えるようソロンに依頼した。アレスに「自分は勇者だったか」と問いかけ、アレスは「理想の勇者だった」と応じた。満足した様子のまま、シェイプシフターは静かに崩れ落ちた。

断章六 エレナ

エレナの願いと精霊との邂逅
カルロスの妹・エレナは兄の回復を願い、密かに精霊に祈りを捧げていた。彼女のもとに現れた形なき精霊は、兄を救うことはできないが代わりになれると語った。エレナは兄の代わりにリュドニアを守ってほしいと頼んだ。

本当の願いの自覚と代償
精霊は姿を得るには「本人の願い」が必要と述べ、エレナに真の願いを問いかけた。エレナは、誰かに最期に思い出してもらえる存在でありたいという切実な想いを語り、それが精霊の契約を成立させた。

姿なきモノの条件と変身
精霊は願いを叶える対価として「美しいカタチ」を求めた。エレナの純粋な願いに応じ、精霊はカルロスの姿を借りてリュドニアの勇者として立つこととなった。彼女の願いが形を与えたのは、他者のための行為と自分のための感情が混ざり合った純粋な想いによるものであった。

最期の言葉

死体の入れ替えと偽装の成功
ザックたちは、カルロス王子の死体とシェイプシフターの死体を入れ替え、後者をリュドニアの門に晒し、前者を王家の墓に丁重に埋葬した。この偽装は、王子が出立前にエリオットを追って城を出たという証言とも符合し、違和感なく受け入れられた。

リュドニアの戦意高揚と王子の葬儀
リュドニアは王子の死を契機に団結し、葬儀は大々的に執り行われた。魔王軍との戦いでも青い魔人を討ち取ったことで士気が保たれ、王都は存続した。死体を門に晒す行為は民衆の怒りを喚起する象徴となった。

エレナの再登場と真相の告白
後にザックの前に現れたエレナは、門に吊るされた者こそ自らが呼び出したシェイプシフターであり、真のリュドニアの勇者だったと語った。彼女は王族に代々伝わる『喚ぶ者』の血筋であり、自らの力で願いを叶えさせたことを明かした。

勇者という存在への批判と憎悪の吐露
エレナは、勇者という存在が一方的に犠牲を強いられる役目であると断じ、ザックだけが生き残ったことへの怒りをぶつけた。自身の招いた勇者が無残に吊るされ、栄誉はすべてザックのものとなった現実を受け入れられなかった。

ザックの告白と贖罪の意識
ザックは、自らの成功は魔王を倒したことのみであり、多くの犠牲をもたらした責任を背負っていると認めた。シェイプシフターもまた勇者であり、アレスと同様に理想の存在だったと語り、悔恨と尊敬の想いをエレナに伝えた。

癒やせなかった理由と死の不可避性
マリアの奇跡ですら、カタチを持たぬ存在であるシェイプシフターには通じなかったことをザックは説明した。エレナはその理由を受け入れきれず、勇者を見殺しにしたことへの疑念を抱き続けていた。

エピローグ

慰霊祭とマリアの祈り
慰霊祭の最終日、マリアは大聖堂の前で祈りの儀式を執り行い、王族や来賓、群衆が厳粛な空気の中で彼女の祈りに聞き入った。その姿は神聖で、圧倒的な美と力を感じさせるものであった。

エレナの告発と影の襲撃
エレナはマリアに対し、勇者を殺したのは彼女だと問い詰めた。祈りによる癒やしを行わず、死に至らしめたのは意図的な行為だったと糾弾し、闇の蛇を召喚して攻撃した。しかしマリアはそれを一瞬で無力化し、神の奇跡による圧倒的な力を見せつけた。

最期の言葉の伝達と心の崩壊
マリアは、勇者の最期の言葉が「見よ、銀髪の姫よ。美しい街だ」であったと告げた。その言葉を聞いたエレナは崩れ落ち、祭壇の前で涙を流して祈った。マリアはその姿に悲しみを滲ませながらも、勇者の最期を「美しいもの」であると評し、それを貶めることを許さないと断じた。

祈りと祈念の終焉
マリアの神聖な祈りが場を包む中、天に星が輝き、それを見上げて多くの人々が跪いた。その光は亡き者たちを思わせ、エレナもまた涙を流しながら、シェイプシフターという勇者を想い続けることを誓った。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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