物語の概要
ジャンルおよび内容
本作は、異世界転生・ファンタジーの枠組みを取りつつ、「聖女」という崇高な立場を敢えて隠しながら生きるヒロインを描くライトノベルである。騎士家の娘として平凡に暮らしていた主人公フィーアが、前世に強大な力を持つ“大聖女”であったことを思い出し、その力を秘めたまま騎士としての道を歩んでいく。第5巻では、サザランド地方から王都へ戻ったフィーアが、姉との邂逅・かつての“黒竜”ザビリアとの再会・そして霊峰黒嶽へ赴く旅路を通じ、彼女の過去と現在が交錯する展開が描かれている。
主要キャラクター
- フィーア・ルード:本作の主人公。騎士家の娘から、前世“大聖女”セラフィーナの記憶を思い出した存在である。聖女としての力を秘したまま、騎士として成長を遂げていく。
- ザビリア:黒竜の姿を持つ存在で、フィーアにとって旧知の“従魔”的な関係にある。第5巻の再会シーンが彼女とフィーアの物語の鍵を握る。
物語の特徴
本作の魅力は、「聖女であることを隠しながら生きる」という逆説的テーマにある。一般的には“聖女=崇拝される”という図式が成り立つが、本作ではむしろその立場が危険を伴い、主人公がそれを秘めて“普通に騎士として生きる”ことを志すという点で一線を画している。また、第5巻では、旅路・再会・過去編といった要素を通じて、キャラクターたちの絆と成長、世界の背景が一層深まっており、読者として“仲間との協力”や“隠された力の解放”という展開を楽しめる。他作品との差別化要素として、「転生者が聖女=最強という図式ではなく、隠す立場から成長していく構成」「騎士団・地方・王都という多層的な舞台」「黒竜・古代種・過去編といった神話的要素」が挙げられる。さらに、書き下ろしエピソードも多く含まれ、巻を重ねるごとに世界観が広がる構成となっている。
書籍情報
転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 5
著者:十夜 氏
イラスト:chibi 氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2021年 5月15日
ISBN:978-4803015225
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あらすじ・内容
「ザビリア、会いたかったわ!」
サザランドから王都に戻ってきたフィーアは、
特別休暇を使って姉に、そして、こっそりザビリアに会いに行こうとするけれど、
シリルやカーティスにはお見通しで……。
さらに、出発日前日、緑髪と青髪の懐かしい兄弟に再会。
喜ぶフィーアだが、何故か二人も霊峰黒嶽への旅路に同行することに!?
2兄弟+とある騎士団長とともに、いざ出発!
楽しい休暇が、今始まる!!
書き下ろしは、アルテアガ帝国編、300年前の過去編に加えて、クラリッサ団長、クェンティン団長、フィーアの姉オリアのエピソードを大ボリュームでお届け!
感想
物語はフィーアの訓練修了から特別休暇へ、北方行き、霊峰黒嶽でのザビリア再会までを描く一冊であった。
王都〜特別休暇の決定
サザランド帰還後の訓練が終わり、修了式を経て特別休暇に入る。
表向きは姉オリア訪問だが、実際は従魔ザビリアとの再会が目的であった。
黒嶽周辺の異変を受け、休暇は実質的な業務扱いとなり、護衛はカーティスが担当する事となる。
帝国兄弟との再会と同行
市中で、かつての“緑髪・青髪”の兄弟(グリーンとブルー)と再会。
両名の素性と警護体制から、帝国高位であることが示唆され。
会食でのやり取りを経て、黒嶽への同行が決定する。四名による北方行き珍道中が始まる。
北方へ—ガザード辺境伯領と姉オリア
砦に到着し、姉オリアと再会。
幼少期の因縁を持つ第十一騎士団長ガイの登場で一悶着あるが収束。
黒嶽での調査およびザビリアとの接触方針が確定する。
霊峰黒嶽—竜の導きと再会
登攀中、竜の配置が“道標”として機能し、フィーアらは山頂へ導かれ。途中の上位竜の急襲は防御魔法で無力化。やがて黒竜ザビリアが現れ、主客の信頼を再確認して再会を果たす。山頂には多数の竜が集い、ザビリアの統率と「守護」の意図が示される。
挿話と世界の奥行き
巻中〜巻末では、三百年前の騎士団長会議や食堂の場面、黒皇帝カストルと大聖女の関係に触れる挿話が挿入され、因縁と歴史の連続性が補強される。セラフィーナ、カノープス、シリウスの関係性も立体化される。
所感
追加エピソードが多く、新情報が得られる点は良い。特に三百年前の会議や食堂の話は、当時の力学と人物相関が透けて見え、読み応えがあった。
一方で、本巻の約三分の一が番外編という配分のため、本編ボリュームへの満足度はやや下がる。
とはいえ、セラフィーナ—カノープス—シリウスの関係整理と、アルテアガ帝国三兄弟の描写が今後の軸を明確化した点は大きい。
終盤でザビリアが正式に合流したことで、次巻は隊構成と舞台装置が揃い、物語の推進力が増すはずだ。再会がもたらす政治的・戦力的な波及も含め、続巻への期待は高い。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
フィーア・ルード
北方出立を主導し、黒竜ザビリアとの従魔関係を軸に人と竜の調整役を担う人物である。家族と同僚との関係を保ちながら、帝国皇弟らとも対話を進める立場である。
・所属組織、地位や役職
第一騎士団・新人騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
訓練課程を修了し、特別休暇名目で北方行を実施した。黒嶽でザビリアと再会し、敵対回避と隊の安全を確保した。帝国側二名を会食に招き、随行合意をまとめた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
北方滞在が公務扱いとなり、指揮下はカーティスに置かれた。周囲の上位者に影響を与える触媒として認識されている。
カーティス(第十三騎士団長)
護衛責任者として行動計画と現地運用を統括する人物である。外交火種を抑えつつ被護衛者の意思を尊重する姿勢である。
・所属組織、地位や役職
第十三騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
祝宴手配と個室会食の安全確保を行った。帝国皇弟の正体を推定し、距離感を管理した。黒嶽では少数精鋭での偵察と状況把握を即断した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
北方行の現地指揮権を付与された。過保護と評されるが運用効率は高い。
シリル(第一騎士団長)
王都側で人員運用と政治調整を担う人物である。新配属者の修了を祝しつつ、北方任務の公務化を決定した。
・所属組織、地位や役職
第一騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
修了式で祝辞を述べた。面談順を調整し、北方滞在を業務扱いとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
団長会議や人事の裁量を持ち、現場裁量の後押しを行う。
サヴィス(総長)
王都常駐の最高位として面談儀式の所掌を持つ人物である。形式的行事を回避しようとする実務志向である。
・所属組織、地位や役職
王国騎士団・総長。
・物語内での具体的な行動や成果
面談対応をシリルに委ねた。特別要務者の面談同席について事前合意を交わした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
総長として全体統制を担う。黒嶽件では現地裁量を容認した。
クラリッサ・アバネシー(第五騎士団長)
王都警護を担い、現場観察と即応に長ける人物である。来客の身分と護衛規模から高位を看破した。
・所属組織、地位や役職
第五騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
市中の小競り合いを収束させた。帝国側二名の周囲警戒を評価し、介入の境界を明確にした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都上層との連絡線を持ち、状況判断の速さで信頼を得ている。
オリア・ルード(第十一騎士団所属)
北方駐屯の実務と部下統率を担う人物である。妹を気遣い、砦内受け入れを円滑に進めた。
・所属組織、地位や役職
第十一騎士団・所属騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
砦で再会し、協力騎士として帝国側二名の受け入れを案内した。妹の動揺を慰撫し、休養を優先させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現場の実務判断に強く、家族内の調整役でもある。
ガイ・オズバーン(第十一騎士団長)
直情だが是正を受け入れる人物である。情報収集は広いが表現が過激になりやすい。
・所属組織、地位や役職
第十一騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
黒嶽情勢を報告し、流出と勢力拡大を共有した。発言を巡り謝罪し、以後の接し方を是正した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
副官次第で能力が発揮されると評価された。
グリーン(アルテアガ帝国第一皇弟)
洗練された所作を持つ高位者である。対話と礼節を重視しつつ、随行の意思を示した。
・所属組織、地位や役職
アルテアガ帝国・皇弟。
・物語内での具体的な行動や成果
双頭亀戦の恩義を表明し、会食で言葉遣いの対等化を提案した。黒嶽行の随行を受諾した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
多数の護衛を連れた訪問者として扱われ、協力騎士相当の位置に収まった。
ブルー(アルテアガ帝国第二皇弟)
感情表出が素直で、安全配慮の意識が強い高位者である。条件型の呪いを抱えると述べ、行動条件を開示した。
・所属組織、地位や役職
アルテアガ帝国・皇弟。
・物語内での具体的な行動や成果
婚姻に関わる呪いの条件を示し、黒嶽同行を要請した。調理や野営でも貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
協力騎士扱いで砦入りし、随行の盾役を宣言した。
ザビリア(黒竜)
霊峰黒嶽の竜を統べ、従魔主である人間を優先して守る存在である。規律維持と実力示威で秩序を整える。
・所属組織、地位や役職
ナーヴ王国・守護獣と位置付けられる黒竜。
・物語内での具体的な行動や成果
山頂で竜を集結させ、人間側を案内した。敵対を避け、配下の逸脱に叱責を加えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
竜王化は守護目的の戦力化であり、常駐は否定された。
ゾイル(灰褐色の上位竜)
黒竜勢に属する上位種である。誤認により攻撃を行い、主の叱責を受けた。
・所属組織、地位や役職
黒竜配下の上位竜。
・物語内での具体的な行動や成果
降下攻撃を行ったが、対炎防御で無効化された。主から規律違反を指摘された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
以後は案内役として行動し、秩序に服した。
ファビアン
同僚として日常場面の観察者である。現実的な分析で周囲の熱量差を指摘する人物である。
・所属組織、地位や役職
第一騎士団・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
食堂での同席事情を分析し、特別視の実態を説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
情報整理役として近接支援を行う。
クェンティン(第四魔物騎士団長)
魔物偏愛の気質を持つが、対外関係では熱量の高い行動を見せる人物である。
・所属組織、地位や役職
第四魔物騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
黒竜関連の所持品を巡り感情を露わにした。要請に応じ、礼装用の素材提供を約した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
賄賂性の議論は未決のまま黙認傾向となった。
ザカリー(騎士団長)
会議や日常で調整役を務める人物である。詭弁の指摘など言語化に強い。
・所属組織、地位や役職
王都側・団長職。
・物語内での具体的な行動や成果
角の議論で論点を整理した。食堂の席替えに関わる一員でもあった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
周囲の熱量を冷ます立場として機能する。
イーノック(騎士団長)
無駄口を叩かず、静かに職務を行う人物である。
・所属組織、地位や役職
王都側・団長職。
・物語内での具体的な行動や成果
専用食堂の場面で寡黙さが描写された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特記の変化はない。
展開まとめ
32 特別休暇1
訓練継続とカーティスの適応
サザランド帰還から二か月が過ぎ、夏の王都でフィーアは新規配属者としての訓練を続けていた。カーティスは第一騎士団に復帰し、サヴィス総長の護衛に就いていた。前世のように常時張り付く護衛にはならず、異変時に駆け付けられる距離を保つ形で配慮していた。周囲ではデズモンドらが「フィーア担当団長」とからかう場面もあったが、フィーアは受け流していた。
食堂での再会と祝宴の予告
訓練後の食堂で、フィーアはファビアンやシャーロットと食事をとっていた。カーティスは多くの騎士に声をかけられながら合流し、翌日の訓練修了を祝い祝宴を開くと告げた。ファビアンは、カーティスやクェンティンが総長とフィーアにのみ敬語を使う状況や、二人がフィーア談義で盛り上がる様子を指摘し、フィーアは居たたまれなさを覚えていた。
修了式とシリルの祝辞
翌日、全訓練課程が終了し、修了式が執り行われた。シリルは王国の盾の誕生として新配属者を祝し、労いと期待の言葉を述べた。式後、シリルはフィーアに個別に祝意を伝え、今夜はカーティスと食事に行く計画を把握していること、午後から三週間の特別休暇に入ることを確認した。
休暇計画と北方行きの示唆
フィーアは家族が各任地に散っているため帰郷せず、第十一騎士団所属の姉(オリア)を訪ねる意向を示した。シリルは最北域の霊峰黒嶽に触れ、暗に目的地を探る。フィーアは動揺を隠そうとしたが、シリルは同行の必要性を判断し、カーティスの帯同を決めた。
カーティス同行の確定と薔薇の贈呈
カーティスは深紅の薔薇を携えて現れ、修了を祝った。シリルは伝説の大聖女の印が薔薇である点に言及し、所作を評価したうえで、カーティスに第十一騎士団長への書簡伝達とフィーア同行を正式に命じた。カーティスは旅程上の難度を即座に見積もり、強行軍になる可能性を示した。
霊峰黒嶽の異変と業務扱いの決定
シリルは近月の黒嶽周辺で魔物分布が急変し、中心部から強力な魔物が外縁へ押し出されている事実を共有した。第十一騎士団は黒竜の再来を疑って増員中であり、人手不足が深刻であった。シリルは国王の面談順を調整してフィーアの面談を後回しにし、北方滞在を業務扱いとする方針を決定した。指揮系統はカーティスの下とされた。
内心の逡巡と黒竜への想い
フィーアは黒嶽の異変に心当たりを覚えつつも沈黙を貫いた。北方行きが公的任務として承認されたことに安堵し、遠く離れた友である黒竜ザビリアに思いを馳せた。サザランドの土産を渡し、カーティスを紹介したいという願いを胸に、再会を決意して休暇に入る構えであった。
二人きりの祝賀会の決定
フィーアは寮に戻り、今夜の「訓練修了祝賀会」がカーティスと二人きりになると把握した。欠席理由は各人にあり、自身の人気とは無関係と整理した。
出立前の買い物と無駄な衝動買い
北方行きに備え王都で買い足しを始めたが、筆記具や日記、ぬいぐるみなど旅に不向きな品を次々と購入してしまった。必要品の購入に立ち戻ろうとした。
クラリッサ団長との再会と「本命」誤解
第五騎士団長クラリッサと再会した。北方行きの目的を姉の訪問と述べると、クラリッサは会話を恋愛的「本命」へと誤解して展開した。フィーアはうっかり強者談義をしそうになりつつ、最終的に「本命はサヴィス総長」と答え、クラリッサは意外性に興奮した。
市中の揉め事と介入者の出現
美少女が柄の悪い三人に囲まれる事案が発生した。クラリッサが即応し、フィーアも短剣のみながら支援に向かった。そこへ大柄の男性が割って入り、女性の髪留めを話題にしつつ三人を軽妙に制圧した。
騎士道的所作と評価
大柄の男性は力を示しつつも恩着せがましく退き、「妹論」を語って場を収めた。クラリッサは騎士道・実力・押し付けの無さを兼ね備えた「上物」と高評価し、振り向いた男の美貌にも驚嘆した。
正体の判明と呼応
男が振り向いたことで、フィーアとクラリッサは驚愕した。フィーアは「グリーン」と小声で名を呼び、当人も「フィーア」と応じた。男の正体がグリーンであることが確定し、思わぬ再会となった。
過去の出会いと偽名の三兄弟
フィーアは騎士団入団前、回復魔法の実地検証のために冒険者と行動を共にしており、その際に偽名の三兄弟レッド・グリーン・ブルーと遭遇していた。三兄弟はアルテアガ帝国出身で、長男レッドは「顔面流血の呪い」により家督を外されていたという設定であった。
呪いの解呪と力の使い過ぎの自省
三兄弟は王国内特有の魔物を討伐し、フィーアは解呪を支援した。身体強化、敵の属性弱体、欠損再生、慢性異常の回復まで行い、自らも後に「力を使い過ぎた」と省みていた。身元秘匿のため「呪いで聖女の力が使える」という偽装理由を提示していた。
再会と抱擁未遂、グリーンの過剰反応
王都で再会したグリーンは健在で、フィーアが抱きつくと赤面と過剰反応を示した。女性慣れしていない気質は健在で、自己不人気を嘆く一方、客観的には容姿・体格ともに魅力的であった。
ブルー合流と身分の示唆
続いてブルーが合流し、同様に過剰反応を示した。二人は「休暇で王都に遊びに来た」と説明しつつ、家業継承が叶ったため長男レッドが働き、自分たちは休暇中であると述べた。言外に高位家系の可能性が示唆された。
クラリッサの洞察と牽制
第五騎士団長クラリッサは、二人の周囲に気配を消した護衛が百人規模で控えていた事実から、極めて高位の人物であると看破した。さらに「特定の令嬢目的の訪問ではないか」と探り、フィーアの意思に反する行動はしないかを確認した。グリーンは「フィーアの意思に反する行動や害は絶対にしない」と明言した。
紹介と態度の齟齬
フィーアは形式的な紹介を行い、クラリッサは友好的に応対した。グリーンとブルーは普段の赤面癖と異なり無表情で簡素な応礼にとどめ、緊張感と身分上の作法をにじませた。
カーティスの介入
待ち合わせ前にもかかわらずカーティスが私服で合流し、無言でフィーアの前に立って盾となった。二人の正体と随伴勢力を即座に警戒した行動であり、以後の対峙の布石となった。
警戒の発動と紹介
フィーアはカーティスの背後から姿を見せ、帝国出身の知己グリーンとブルーを紹介した。カーティスは即座に出自を言い当て、場の警戒度を上げた。クラリッサは急報で離脱し、現場は三者の無言の緊張で満たされた。
問い質しと前提確認
カーティスは半年前の同行者を確認しようとし、フィーアは誤魔化しを試みたが、私的な場での聴取が示唆された。カーティスは「赤・緑・青」の偽名から帝国の三兄弟を推理し、レッドの存在にも言及した。
身分推測と切り返し
カーティスは三兄弟が帝国の高位者とみなされる可能性を理解しつつ、「フィーアの護衛を最優先」として二人を距離置きで扱う方針を明言した。フィーアは軟化を求め、会話の継続を主張した。
祝宴への招待と合意
フィーアは今夜の「訓練修了祝い」への同席を提案し、カーティスは不承不承ながら容認した。グリーンとブルーは即答で参加を表明し、集合は噴水前・18時に決定した。
【SIDE】第十三騎士団長カーティス
第十三騎士団長カーティスの洞察
王都の広場でフィーアの傍らに立つ二人を目にした瞬間、カーティスは異様な気配を察知した。緑と青に輝く髪、整った所作、そして群衆に紛れ込んでいる百名規模の護衛。これほどの護衛を動かせる者は、王国の枠を超えた上位貴族に他ならない。国内の要人全てを記憶している自分が彼らを識別できない以上、国外の人物と見て間違いなかった。
帝国皇弟との符合
その髪色を見た瞬間、アルテアガ帝国皇家の三兄弟を思い出した。赤の皇帝、緑の第一皇弟グリーン=エメラルド、青の第二皇弟ブルー=サファイア。半年前、彼らは「女神と邂逅した」と宣言し、偽名を本名に組み込んで改名したと報じられていた。
今目の前にいる二人は、容姿も髪色も一致しており、さらにフィーアが語る出会いの時期もその「女神の邂逅」と同じ半年ほど前であった。状況証拠はあまりにも整いすぎていた。
正体の確信と警戒
カーティスは確信に至る。二人はアルテアガ帝国皇位継承権第一位と第二位の皇弟であり、しかも正式な外交経路を通さず王国に潜入している。これは極めて危険な異常事態であった。しかし彼の胸に去来したのは恐怖ではなく、深い諦念だった。帝国の皇弟二人がこれほどまでにフィーアへ視線を注ぎ、不敬を受けても沈黙するのは、彼女への傾倒の表れである。
女神と大聖女の符合
帝国で崇められる「女神」とは、本来「大聖女セラフィーナ」を指す。大聖女の死後、その信仰が帝国に根付き、今の皇帝と皇弟たちもその影響を受けていた。彼らが邂逅したという「女神」とは、実際にはフィーアのことに違いない。わずか数日間共に過ごしただけで女神と断じられるなど、フィーア以外には起こりえぬ出来事であった。
護衛としての決意
外交問題を避けるために切り捨てるべき関係と理解しながらも、カーティスはあらためて誓った。フィーアは彼らの背後に潜む真実を知らない。アルテアガ帝国の皇帝が彼女を「女神」と認定したことが、いかに危うい意味を持つかも知らぬまま、彼女は笑顔で二人を招いた。
その笑顔を見つめながら、カーティスは胸の奥で静かに決意を固めた。――この方を守るのは、自分しかいない。
33 特別休暇2
甘味処での叱責と和解
フィーアはカーティスに甘味処へ連れられ、半年前の“初対面男性三名との宿泊行”を巡って叱責を受けた。フィーアは「運命を断ち切る冒険だった」と反論したが、カーティスは女神信仰を引き合いに出し、他者の運命へ不用意に介入すべきでないと諭した。小言は収束し、以後は買い物に同行して実務面で支援した。
有能さの発揮と価値観の差
カーティスは最短動線で必要物資を揃え、女子寮への即日配送と立替まで段取りした。フィーアが価格差を気にしない姿勢に対し、カーティスは「損得も含めた最適化」の不足を指摘したが、深追いはせず実務支援に徹した。
再会の待ち合わせと装いの変化
約束より早く噴水に現れたグリーンとブルーは、襟付きの上衣に着替え、所作と相まって高位者の風格を見せた。フィーアの率直な称賛に二人は過剰反応を示し、照れと動揺が表出した。
個室会食の開始と警戒の明示
カーティスが手配した個室で祝杯を上げる。グリーンは前回の双頭亀討伐での恩義を正式に表明。カーティスは「確証なき事柄は報告しない」としつつ、職責と被護衛者の希望の両立を宣言し、場の安全と発言の自由を担保した。
呼称と関係性の再定義
グリーンは互いを冒険仲間として対等に扱うため、丁寧語の撤廃を要請した。フィーアは即答で受諾し、酒の注ぎ役を巡る軽口で場が和んだ。グリーンは不器用ながらも厚遇の意志を示し、ブルーは「慈悲深い女神」と評して感情を隠さなかった。
訓練談義と価値観のずれ
フィーアは連歌、チェス、ダンスなど訓練中の諸逸話を披露したが、ブルーは試練よりも文化的充実に目を留め「楽しそう」と受け取った。
北方行きの通告とリスク認識
フィーアは三週間超の特別休暇を得て、最北端で任に就く姉オリアのもとへ向かう計画を告げた。あわせて従魔が棲む霊峰黒嶽へも立ち寄る意思を明かす。ブルーは山域の危険性を強調し、二名のみの行動に強い懸念を示したが、カーティスは護衛継続を明言した。
従魔事情の開示と緊張の高まり
フィーアは幼い傷病個体を従魔とした経緯と安否への不安を述べた。ブルーは従魔印の細さから生存確率を危ぶみかけたが、グリーンの制止で言い直しつつも危険視を継続した。
告白の予告
議論の末、ブルーは逡巡を経て「自らは呪いに侵されている」と明かし、今後の行程と護衛体制に関わる重大情報の開示を示唆して場面は次章へ移行した。
告白と動揺
ブルーの「呪い」告白により、フィーアは即座に診断を試みたが、所見は得られなかった。ブルーは「上級者には解けず、能力の低い者にのみ解ける特殊な呪い」と取り繕い、カーティスは通常の聖女はそもそも解呪不能であると事実を指摘した。フィーアは自らの設定を取り繕う発言で場をやり過ごした。
条件付きの呪いと同行要請
ブルーは「王国騎士に随行し、騎士が従魔に会う場面を見届けない限り婚姻できない」という条件型呪いを開示した。解呪の反動を避けるため、条件達成での解放を希望し、霊峰黒嶽への同行を正式に求めた。期間の長期化懸念に対して、グリーンとブルーは家業面の支障なしと即答した。
護衛体制の合意
フィーアはカーティスの意向を確認し、カーティスは被護衛者の望みを優先して承諾した。グリーンとブルーは「盾」となる決意を表明し、四名での北方行きが確定した。
過去戦闘の影響
ブルーは双頭亀戦でフィーアがもたらした「負ける気がしない」戦況制御と瞬時の治癒を回想し、価値観の転換と恩義を強調した。グリーンは自身と兄の生得的呪いが一瞬で解かれた事実を明言した。カーティスは「本質に関わる行為で止められなかった」と評価しつつ、過度の崇拝に警戒を示した。
相互認識と関係性
カーティスは距離感を求めたが、帝国側は「女神の僕」としての忠誠と随行の必然を主張した。三者の応酬は続いたが、最終的にフィーアの「友達」視点が場を和らげ、各自が役割を果たす方針で一致した。
出立
夜は穏やかに更け、翌朝、四名はガザード辺境伯領へ向けて出発した。目的は休暇を兼ねた姉オリア訪問と、霊峰黒嶽での従魔との再会である。
34 ガザード辺境伯領1
髪飾りの騒動
旅装に着替えたフィーアは、グリフォンの抜け羽で拵えた金色の髪飾りを披露した。グリーンは妹への贈り物選びで動揺し、カーティスは「一般受容は蝶形が妥当、派手飾りはフィーア限定」と評価した。フィーアは落ち着いた色の羽根なら妹用を手作りする提案を示した。
山越えと戦力評価
二日で二山を越えたが、魔物対応は三名の火力で完結し、フィーアの剣や治癒は不要であった。前夜の席で「呪い再発により聖女力が再使用可」という合意をカーティスが整理し、以後の行使に疑義は生じない前提が共有された。
砦到着と協力騎士の扱い
赤地黒竜旗の砦に到着。門番は髪飾りに驚愕したが受け入れは円滑であった。渋る帝国側二名に対し、カーティスは「協力騎士」扱いでの同行を即断した。情報感度の高さを認めつつも悪用しない前提で砦入場を許し、運用効率を優先した。
姉オリアとの再会
第十一騎士団駐屯地でオリアと再会。互いに抱擁し、成人後の成長を確認した。フィーアの来訪は正式任務扱いのため騎士服での登城となっている。
第十一団長ガイの登場
白の団長服の長身の騎士が現れ、金の虹彩を持つ黒瞳と金髪に黒の混じる特徴から、フィーアは彼を「伝説の魔人ガイ・オズバーン」と看破した。名を呼ばれた当人は驚愕し、フィーアを「悪い魔女」と牽制した。ここで北方編の緊張軸が明確化した。
ガイ団長の正体と過去の因縁
フィーアはガイ・オズバーンを「魔人」と誤認し、姉オリアを庇って対峙した。過去、ガイが近隣慣習に倣い「魔人」に扮して子どもを脅かす行事をルード領で行い、赤髪の少女だったフィーアを泣かせていた事実が判明した。オリアはこれを叱責し、ガイは正座で非を認めた。
カーティスの介入
幼少期トラウマへの配慮から、カーティスはガイをその場から引き離し、長時間に及ぶ説諭を宣言した。フィーアとオリアには休養を指示し、同時にグリーンとブルーの宿舎手配を依頼した。
姉の慰撫と安定化
ガイ退室後、オリアはフィーアを抱えて頭を撫で、動揺と震えを鎮めた。フィーアは安心感を取り戻し、同行の二人を交えて簡潔な自己紹介と応対を行った。
協力騎士としての受け入れ
グリーンとブルーは砦内で「協力騎士」扱いとなり、オリアの案内で施設と人員を把握した。両名はフィーア支援の意思を示し、砦での滞在準備を整えた。
姉妹の夜話
夜、フィーアは姉と同室で就寝し、幼少期から成人に至るまでの回想を共有した。フィーアは「自分はフィーア・ルードとして生きる」との自己同一化を再確認した。
前世記憶の掘り起こし
眠り際、フィーアは前世の最期と「魔王の右腕」への恐怖に直面した。記憶の再構成により、300年前の大聖女として魔王を「討滅」ではなく「封印」したこと、封印の箱は右腕に奪還され、後に解放された可能性が高いと結論した。
戦力見積と不安の実体
仮に前世同等の回復力と前世兄相当の剣士三名が揃っても、魔王と右腕の同時制圧は困難と冷静に評価した。根源不安は右腕の存続と対処不能感にあると自己分析した。
限界と微睡み
極度の緊張が臨界に達し、自己防衛的な睡眠に落ちた直前、フィーアは前世の近衛騎士団長の名「リウス」を無意識に呼んだ。支えを求める心的反射であることが示唆された。
35 赤盾近衛騎士団長(300年前)
森からの救出と後見の始まり
セラフィーナ・ナーヴは幼少期を森で過ごしていたが、ある日、王国騎士団副総長シリウス・ユリシーズが単身で森を訪れ、彼女を王都へ連れ帰った。以後、シリウスは後見役となり、全ての危険から彼女を守り続けた。王弟の遺児であり公爵家嫡子でもある彼の庇護により、セラフィーナは貴族社会でも差別を受けることなく成長していった。
最強の騎士シリウスの地位
シリウスは当時21歳にして王国随一の剣士であり、翌春には騎士団総長就任が内定していた。剣技と勤勉さから、貴族にも騎士にも一目置かれていた存在である。
怪我を巡る叱責と新たな決意
討伐任務中に怪我を負ったセラフィーナを見て、シリウスは激怒した。しかし彼女は、戦闘中に自分の防御を優先していたことが間違いであったと気づき、「今後は自らを守るのをやめ、騎士に身を預ける」と宣言した。自分を守る時間を味方の回復に使うという、聖女としての新たな戦い方を提案したのである。
シリウスの反論と合意
シリウスは「聖女が最前線で防御を捨てるのは危険だ」と強く反論したが、彼女の覚悟を理解し、妥協案を示した。「お前を守るための最適な騎士を付ける」と約束したのである。セラフィーナはその言葉に喜び、彼を信頼して抱きついた。
赤盾近衛騎士団長への転身
翌日、シリウスは副総長職を辞し、第二王女専属の赤盾近衛騎士団長に就任した。青と白の正規服を脱ぎ、赤い騎士服に身を包んだ彼を見て、セラフィーナは衝撃を受けた。騎士団総長の地位を目前にしていた彼が、その栄誉を捨ててまで自分を守る側に回ったことに、セラフィーナは涙ぐみながら問いただした。
騎士としての決断と誓い
シリウスは「これは地位を捨てたのではなく、得たのだ」と語り、王国最強の剣士として自らが最もふさわしい護衛であると断言した。セラフィーナが「あなた以上に私を守るお馬鹿さんなんていない」と返すと、彼は笑い、「未来の至尊の大聖女様」と呼びかけた。
共に歩む誓約
二人は互いの立場を理解し、聖女と騎士として新たな誓いを交わした。セラフィーナは「唯一無二の至尊の大聖女になる」と誓い、シリウスはその護衛として生涯を捧げる覚悟を示した。彼の笑顔は満ち足りており、以後、彼女がどんな時も思い出すのはシリウスの存在であった。
36 ガザード辺境伯領2
目覚めと前世の余韻
翌朝、フィーアは姉オリアに心配され、前夜の夢の影響を悟られた。夢には前世の近衛騎士団長シリウスが現れ、彼への想いが再び胸に蘇った。彼女は懐かしさと喪失の入り混じる感情を抱えつつ、自らの弱さを自覚する。
前世の戦力と現世への比較
フィーアは、もし魔王城で共に戦ったのが兄たちではなくシリウスであったなら結果は変わったかと想像した。しかしその考えを打ち消し、現世の自分には現実的な準備が必要だと結論づける。前世の騎士たち、特にシリウス級の戦力は現世に存在しないと認識し、己が今できることを探し始めた。
方針の再確認
魔王の右腕が潜伏していると推測したフィーアは、しばらく聖女の力を隠し、精霊の加護を使わずに過ごすことを決めた。過去のように突然襲われる事態に備え、姉や仲間を守るため、今後の行動を冷静に見直す決意を固める。
姉との朝のひととき
気持ちを整えたフィーアに、オリアは柑橘を混ぜた水を差し出し、優しく微笑んだ。その何気ない思いやりが、フィーアの心を再び支えた。彼女は姉への感謝を胸に、共に部屋を出た。
再会した騎士たちと朝の会話
食堂で朝食を終えた一行は面談室へ向かう。そこには一晩中カーティスに説教されたガイ団長の疲弊した姿があった。オリアが心配すると、ガイは芝居がかった口調で被害を訴える。オリアの冷静な返答と、彼の愚痴混じりの言動が場を和ませる一方で、カーティスの表情は険しかった。
軽口と騎士団内の空気
ガイは「妹が連れてきたのは全員が男前ばかりだ」と嘆き、オリアから「男性の価値は顔だけではない」と釘を刺されて落胆する。その様子を見て、フィーアは内心で「姉には世話焼きの相手が合っている」と感じ、ガイがその候補になるかもしれないと考えた。
再び訪れる日常の均衡
席に着くと、カーティスが椅子を引き、ブルーが飲み物を差し出した。ガイは「魅惑の赤魔女は男たちを傅かせている」と茶化し、カーティスの額に静かな怒りが浮かぶ。
フィーアの周囲には、穏やかで賑やかな空気と共に、再び守るべき日常が戻りつつあった。
二つ名の発端
カーティス団長はガイ団長の「魅惑の赤魔女」発言を追及した。ガイは情報収集の結果だと主張し、対象はフィーアであると明言した。
噂の内訳とフィーアの反論
ガイは、王都の各騎士団長(シリル、デズモンド、イーノック、クェンティン、ザカリー)が次々と“誑かされた”と列挙した。フィーアは上司部下の関係であり事実無根と反論したが、会議での引き抜き合戦、デズモンドとのチェス、イーノックからの贈り物、クェンティンの給金袋、ザカリーの誓約など、状況証拠は存在していた。
カーティスの介入と火消し
カーティスは「フィーアは魔女ではない」と断じ、追及の姿勢を改めさせた。さらにガイへ説諭を行い、まず謝罪すべきと指示した。ガイは即座に謝罪した。
カーティスの過剰な礼遇の理由
カーティスはサザランド住民から「大聖女の姿を持つ者の護衛」を依頼された経緯を説明し、フィーアを大聖女に準じて遇していると明かした。これにより彼の言動の理由が共有された。
ガイの理解と接し方の是正
ガイは「オリアの血族としてフィーアを尊重する」指針を受け入れた。カーティスはガイを直情的だが根は善良で、副官次第で有能と評価し、場を収めた。
場の整理と余波
ブルーはフィーアを称揚する発言をし、オリアは噂が伝言で増幅される点を指摘して誤解の拡大を抑えた。フィーアは屈辱と困惑を覚えつつも、場の空気は鎮静化した。
黒嶽の異変の共有
ガイは「黒き王」が約3か月前に霊峰黒嶽へ帰還し、他竜を引き入れて勢力圏を拡大した結果、山中と周辺の魔物分布が混乱し流出が発生していると報告した。
出立方針の決定
カーティスは調査と対処のため、フィーア・グリーン・ブルーとともに四人で霊峰黒嶽へ向かう方針を即断した。ガイは困惑したが、状況説明の流れを受けて了承の段階に入った。
出立を巡る対立
ガイ団長は霊峰黒嶽が「黒き王」の帰還と竜の集結で危険地帯化していると主張し、四名での突入に強く反対したのである。
カーティスの意図と独立行動
カーティス団長は、今回の派遣が単なる増員伝達では不自然であると推論し、与えられた独立指揮権の下で少数精鋭の偵察・状況把握を決断した。目標は王の捕獲ではなく友好的接触であった。
黒き王への認識差
ガイ団長は「老獪で攻撃的」と警戒したが、当事者側はザビリアを基本的に良性と評価していた。誇張された流言が現場判断を歪めている可能性が示唆された。
オリアの肯定とガイの混乱
フィーアは現地実態の自視を理由に登山続行を主張し、オリアは従魔契約の既知情報を踏まえ安全性を担保し得ると判断した。ガイはなお反対したが説得に至らなかった。
行動計画の確定
編成はカーティス、フィーア、グリーン、ブルーの四名と決定した。下山期限は一週間。不帰還の場合はガイ団長が捜索隊を編成する取り決めであった。
出発と黒嶽の威容
一行は昼前に砦を発ち、黒色の岩肌を露出した黒嶽を遠望した。黒はこの世界における「圧倒的強者の警告色」と再定義され、黒竜や魔人など稀少かつ選ばれた存在の色として語られた。
サヴィス総長への連想
フィーアは黒髪黒瞳のサヴィス総長を想起し、魔人級に強靭であるとの結論に至った。統率者の強さを再確認しつつ、任務への士気を高めたのである。
37 霊峰黒嶽1
登攀開始と過保護な随伴
一行は麓で馬を置き徒歩で登攀を開始した。荷は三名が先んじて担ぎ、フィーアには甘味まで手渡されたため、彼女は黙認して同行したのである。
進路把握と“不要になった情報”
カーティスは過去にクェンティンが得た「頂上近くの横穴」情報を指標としたが、現地で竜の配置により道案内が成されていることを察し、当該情報は実質不要となった。
赤竜による道標
木々の間に赤竜が直立し、敵意なく通過を許可した。カーティスは従魔(黒竜)による配下統制と判断し、以後も一定間隔で竜が佇立して道を示した。
従魔統制の異例性
グリーンは「従魔の支配が他魔物に及ぶ例は未聞」と評価し、国家機密級の先進性を指摘した。フィーアは「自分の従魔の好意」と平易に受け止めた。
灰褐色の上位竜の急襲
突如、灰褐色の巨竜(約10m)が垂直降下し、敵意を示して炎を吐いた。フィーアは即応で『対炎防御盾』を展開し単独で遮断した。これによりグリーンとブルーは、彼女が再び“聖女の力”を用いる事実を実見し納得した。
敵対の回避判断
対象は通常分類外の上位種であり、かつ黒竜勢の一角と推測されたため、フィーアは「討伐せず戦意喪失に留めたい」と判断した。
黒竜ザビリアの到来
黒点として接近した黒竜が優雅に着地。ザビリアはフィーアを歓迎し、両者は抱擁・額合わせで再会を喜んだ。角は再生し風格を増していた。
叱責と身分宣言
ザビリアは灰褐色竜を「ゾイル」と名指しし、主(フィーア)に炎を向けた理由を詰問。ゾイルは完全服従姿勢で萎縮した。フィーアは「竜の流儀」として弁護を試みたが、ザビリアは「主への敵意があれば排除する」と明言しつつ、主の前ゆえ即時排除は控えた。
被害最小化の収束
フィーアは「危険なし、炎は防げた」と事態を矮小化し、ザビリアの統率不備への自責を和らげた。結果、ゾイルは二重に縮こまり、場は実力示威と規律明確化の形で沈静化したのである。
ゾイルの動揺の理由
ゾイルが落ち込んだ主因は、フィーアに炎を完全防御され「相手にならない」と評された屈辱であるとザビリアが指摘した。フィーアは竜の矜持を軽視せず擁護したが、ザビリアは穏やかに否定した。
フィーアの“最強の思考回路”と鈍感さ
ザビリアは、フィーアが困難を自己完結できるため他者の真価に無自覚になりがちだと分析したうえで、その楽観性を「健康を損なわない最強の思考回路」と評価した。
同行三名の評価と自己紹介
ザビリアはカーティス・グリーン・ブルーを「宝石級」と評しつつ、規格外と断じた。
- カーティスは黒竜を最強の守護と讃え、角の存在を「仲間と主を守るための獲得形質」と推論し、謙虚に共守護を表明した。
- グリーンは出自ゆえの矜持を留保しつつも、敬意の基準を「人間性」に置くと宣言し、黒竜を敬すると述べた。
- ブルーは家名秘匿を詫び、誠心誠意の護衛を誓約した。
ザビリアはいずれの発言も信と置き、三名を概ね受容した。
ゾイルの呼称と従魔ルールの応酬
フィーアは第三者が名を呼ぶ是非を気にしたが、ザビリアは「自分と契約する以上、部下にも契約が継承される」と独自見解を示し、最終的にフィーアの裁量に委ねた。ゾイルは名で呼ばれないことに不満を示した。
山頂への移動方針
ザビリアは背に乗せて山頂へ案内する提案を行い、フィーアは同乗を希望。ブルーは配慮して別動を申し出たが、カーティスは同行を主張し、結果として二手に分かれて移動する手順が決まった。グリーンとブルーは「敵対から騎乗へ」の急転に戸惑いを示した。
黒竜=王国守護獣と歴史の確認
黒竜がナーヴ王国の守護獣である点を踏まえ、領土・由来を議論。
- 約300年前、アルテアガ帝国は大陸北部全域を支配し(東端から西端まで)、事実上「大陸の半分」を領有していた。
- 同帝国の「黒皇帝」がガザード地域を王国へ割譲し、ディタール聖国を創設した。
- 黒皇帝はナーヴ王国出身で、出自や戦功により割譲の自由裁量を持った。呼称は黒髪黒瞳と常の黒衣に由来する。
フィーアの内省と収束
フィーアは黒皇帝を一時的に前世縁者と誤推測したが、外見情報で誤りと悟り過去詮索を戒めた。カーティスはその反応に静かに注目していた。
到達:黒嶽山頂と竜の集結
フィーアとカーティスはザビリアの背で山頂へ到達した。山頂周辺には約100頭の竜が集結しており、ザビリアの出現に合わせ一斉に直立注視した。フィーアは戦力計算を無意識に行い、勝算ありと結論した。
契約の留意:ザビリアの独占要請
ザビリアは「複数契約は可能だが、極力自分以外と結ばないでほしい」と要請した。フィーアは即答で同意した。カーティスは拙速な約束と評したが、運用上はザビリア優先で一致した。
合流:ゾイル組の到着と編成
ゾイルに騎乗したグリーンとブルーが合流。ザビリアは引き続き全体を案内し、二手移動の体制を維持した。
秩序と配慮:異種竜の居住設計
赤竜向けに疑似火口、青竜向けにため池、黄竜向けに砂場を整備するなど、生息環境を分化設計していた。竜は概ね健康で機嫌が良好であった。ザビリアが「竜王化」はフィーア守護のための戦力化であり、常駐は否定した。
礼節と名の扱い
ザビリアの名を他竜の前で呼ぶ行為は一時戸惑いを生んだが、従魔主であるフィーアの呼称は許容された。フィーアは魔物素材の髪飾りを示し、友好の意図を明示した。
洞窟:ねぐらと鉱物
ザビリアのねぐらは高天井・多開口で風通しが良く、天井には黒く光る石が露出していた。ザビリアは一部を削り出して提示した(魔石ではなく天然鉱物の可能性)。
会食:竜の供出と護衛の調理
竜が狩った高級魔物の肉をグリーンとブルーが調理し、円陣で食事した。フィーアは満腹に至るまで食し、ザビリアにもたれて休息した。
座談:話題設定と反応
食後、フィーアは「順番にとっておきの話」を提案。実用性を気にするブルーに対し「楽しさ」基準を主張。カーティスが先陣を申し出て開始する流れとなった。
黒皇帝と創生の女神の再定義
黒皇帝は300年前、帝国の「創生の女神」を「癒しの力を持つ赤髪の女性」と再定義した。語られ方から、そのモデルは大聖女セラフィーナである可能性が高いと登場人物らは推測した。
崇敬の動機に関する仮説
政治的思惑は否定できないが、黒皇帝個人の強い憧憬や救命体験が根幹にあったという見解が示された。彼は生涯独身で色事を退けた逸話が残り、心を捧げた対象の存在が示唆された。
黒皇帝=カストルの名
黒皇帝の名は「カストル」であると明かされた。この名は大聖女が姉の子に付けようとしていた候補名と一致し、王国と帝国の血縁・養子関係の可能性が語られた。
年齢と年代の整合性
「大聖女の死後約10年で北部統一」という伝承は、カストルが大聖女の姉の子と仮定すると年齢が合わない。実際の所要年数は更に長い可能性が高く、年代伝承の誤差が疑われた。
フィーアの自己評価と周囲の評価
フィーアは自意識過剰を自戒する一方、周囲は黒皇帝の動機として大聖女への憧憬を支持した。ザビリアは遺伝の色表現などを事実ベースで指摘し、カーティスは感情を抑えて状況を観察した。
カーティスの進言:自己保全の最優先
カーティスは「多くを救うためにまずフィーア自身の安全を優先せよ」と明言し、少なくとも“騎士が危険を負うことを受け入れる”約束を取り付けた。フィーアはこれを了承した。
場面の着地
会話はグリーンの話題転換で平常に戻り、フィーアは黒皇帝カストルの生涯に思いを馳せつつ、歴史と私事の交差を静かに受容した。
【SIDE】黒皇帝(300年前)
贖罪の誓い
黒皇帝は己の生を「贖罪」と定め、大聖女セラフィーナを失わせた罪を償うためだけに生きていた。心は既に壊れており、感情は消失していた。
即位と改名
皇城で即位した彼は、生前の名を捨て「カストル」と名乗った。大聖女と共にあった過去を葬るためであり、栄光も名誉も不要とした。
黒皇帝の異名
民衆はその苛烈さから彼を「黒皇帝」と呼んだ。髪や瞳の色ではなく、恐怖と支配を象徴する異名である。彼の目的は、魔人を探し出し討ち果たすことであった。
月下の再会
深夜、王国から来たカノープスと皇帝は庭園で語り合う。二人は月を見上げ、大聖女を想い出す。かつて多くの騎士が「月がきれいですね」と言葉に想いを託したことを回想した。
心の欠落と希望
黒皇帝は「心は壊れた」と言い切り、情も愛も拒絶していた。だが、魔人討滅という希望を持ち続けることで、壊れた心のまま生を繋いでいた。
【挿話】魔王の右腕
就寝後の対話の場
フィーア就寝直後、ザビリアは戻り、月下の開けた場所でカーティスと対話した。ザビリアは抱き枕代わりにされるほどフィーアが即眠する事実を述べ、会話の主導権を握った。
忠誠と自己反省
カーティスはフィーアへの背信意思が皆無であること、先の発言(未体験を根拠に他者を退ける論)を不適切として謝罪した。
「考える部下」への牽制と合意
ザビリアは「考える部下」の厄介さを指摘しつつ、明言を求める姿勢を示した。カーティスは、フィーアの決断は正しいが前世で不本意な最期に至った事実から「生き抜く意思」を最優先とすべきと主張した。
前世関係の確認
ザビリアは前世情報を把握していることを示し、カーティスは大聖女の護衛騎士であったと認めた。両者は迅速に相互を味方と見做した。
核心への質問―何を恐れているのか
ザビリアは「魔王は封じられた今、何を恐れているのか」と直球で問うた。さらに「魔王の右腕」とは何かを提示し、フィーアの回想に現れた『紋』の数(20~30)を根拠に事実性を探った。
沈黙による肯定
カーティスは明言を避けたが、沈黙と動揺が事実認定の補強となった。ザビリアは、フィーアが戦闘で力量評価を誤らない点から、「右腕」はフィーアが敵わないほど強大であると論理的に帰結した。
結論仮説
ザビリアは最終的に、「紋の数が魔王を上回る部下」は矛盾であり、ゆえに実体は「魔王そのもの」であると断じた。これにより、カーティスが恐れる対象は「復帰(もしくは別形態)の魔王」である可能性が高いと示唆された。
【SIDE】第五騎士団長クラリッサ「フィーアと愉快な仲間たち」
視点と立場
第五騎士団長クラリッサ・アバネシーは王都警護を担い、第一騎士団の新人フィーア周辺で起きる“人物の変容”を観察した、という構図である。
周囲の変容の実例
サヴィス総長は入団式の模範試合以後、氷の威圧感が和らいだ。第四魔物騎士団長クェンティンは魔物偏愛から一転し、フィーアへの過剰執着を示した。第一騎士団長シリルは博愛主義にもかかわらず、領地に招いて「騎士の誓い」を交わし、例外的待遇を取った。第十三騎士団長カーティスは護衛同然に随伴し、過保護さを露呈した。
帝国筋との接触
街中の騒動収束で現れた「グリーン」「ブルー」は洗練された所作と隠密護衛百名規模から高位者と判別された。カーティスは彼らをアルテアガ帝国関係者と断じ、対峙姿勢を取った。クラリッサは皇族級の可能性を推測した。
介入任務と小事件処理
同時刻、クラリッサは通報により中央地区のレストランへ出動し、ガッター子爵家子息の器物損壊騒ぎを一喝で制止した。現場騎士らはフィーア周辺を「愉快な仲間」と評し、クラリッサはその輪が王都上層や帝国高位へ拡大中と内心で補足した。
評価と見立て
フィーアは自覚なく上位者の関心を引き、人の振る舞いを“別相”へ促す触媒であった。サヴィス総長を本命視する無邪気さと、カーティスの過保護が火種となり、今後の対人関係は騒然となる蓋然性が高い。一方で、その騒がしさはフィーアの気質に適合し、明るい将来像へ収束し得るとクラリッサは結論づけた。
【SIDE】長女オリア「私の小さな妹」
手紙と再会の予感
オリア・ルードは北方警備中に妹フィーアからの書簡を受け取り、休暇と公務を兼ねた訪問を知った。随行は第十三騎士団長カーティスであると判明したのである。
幼少期の回想
フィーアは剣を振れるようになるのが遅かったが、劣等感より喜びが勝る性格であった。手合わせで敗れても泣き止んで前を向く子であり、可憐さと粘り強さを併せ持っていたのである。
家族関係の歪み
父ドルフは職務優先で娘への関与が希薄であった。贈剣の件で僅かに前進が見られたが、根本は未解消である。長男アルディオと次男レオンは剣才偏重の価値観によりフィーアを軽視していた。家中の「剣一極化」が原因であるとオリアは認識したのである。
成長の確認と同行者の評価
再会時、フィーアは青の騎士服に羽根飾りを付し、立派な騎士として現れた。傍らのグリーンとブルーは所作と護衛体制から高位の素性が示唆され、両名ともフィーアを重んじる態度であった。オリアは妹の努力と人望を肯定し、二人に託す意志を示したのである。
黒嶽と黒竜への認識
訪問目的には従魔黒竜の様子見が含まれていた。オリアは、弱き側からの献身と優しさが強者である黒竜を結び付けたと推察し、妹の資質が絆を広げると結論したのである。
姉妹の就寝と夢語り
夜は同衾し、幼い恐れを残す妹の側でオリアは昔語りを行った。フィーアは寝言で星名(シリウス、カノープス、ベガ、カペラ等)と滑稽な感想を漏らし、無邪気さを保っていたのである。
姉としての誓い
オリアは「困難時には必ず戻れ」と内心で誓いを新たにし、フィーアも寝言で「帰る」と応じた。オリアは妹の成長と帰る場所の保証を確認し、安らかに眠りへと落ちたのである。
【SIDE】第四魔物騎士団長クェンティン
「ザビリアの角が賄賂罪に当たるか審議される」
嫉妬と憤慨
クェンティンは「フィーア担当団長」という肩書に激しく不満を抱いていた。同じ騎士団長でありながら特別扱いを受けるカーティスを羨み、執務室でフィーアから贈られた黒竜王の鱗を抱えながら不平を募らせた。
変わり果てた同僚への疑念
三年前まで王都勤務だったカーティスは、サザランドからの帰還後に別人のような落ち着きと自信を纏っていた。物腰は変わらぬまま、剣の腕と存在感が格段に増しており、その変化の源はフィーアへの信奉にあるとクェンティンは見抜いた。
霊峰黒嶽行きの知らせ
フィーアとカーティスが霊峰黒嶽を訪れると聞いたクェンティンは、即座に第一騎士団長シリルの執務室へ押し掛けた。黒竜王に再会できる機会を逃すまいと訴える彼に、シリルは「目的は姉の訪問」と説明したが、クェンティンは信じなかった。
角の対価と賄賂疑惑
クェンティンは「黒竜王に命じられてフィーアを守護し、その対価として角を賜った」と主張した。これに対しシリルは「職務の範囲であり、報酬を受け取るのは規律違反」と指摘したが、クェンティンは「信頼も角も同等の対価だ」と開き直った。ザカリーが横から「物理的価値と名誉を同格にする詭弁」と評しつつも賛同し、所有権を主張するなど議論は混乱した。
フィーアの登場
その最中にフィーアが現れ、クェンティンに「従魔の羽根を分けてほしい」と頼んだ。黒竜王に会う際の礼装を作るための依頼であった。これに感激したクェンティンは即座に応じ、浮かれたまま部屋を後にした。
見送りと口止め
去った後、シリルとザカリーは溜息をつき、角の件は「賄賂審議前に握り潰す」ことで合意した。総長の名を出されたことで、第一騎士団長は黙認を選び、こうして「黒竜王の角事件」は不問とされたのである。
発端:騎士団長会議出席の通告
護衛騎士カノープスが騎士団長会議への同席要請を受けたと報告した。議題は王国最高会議による「大聖女の出動説明」。セラフィーナはサザランド優先で既定任務を外した自責を想起した。
変装決行:大聖女の騎士扮装
出席裁可が間に合わないため、セラフィーナは銀髪の女性騎士「セラフィー」として随行を強行。カノープスは不本意ながら容認。
会議場の混乱:騎士団長らの過剰反応
入室後、複数の騎士団長が随行の銀髪騎士に過敏反応。末席側に密集。ウェズン総長入室時、上席は空席、末席のみ満杯という異様な配置。
最高会議の回答:出動妥当論
第三王子リゲルが「大聖女出動は妥当」と結論。根拠は討伐にシリウスが参加していた事実で、「大聖女不要とは断定不可」という論法。
シリウスの反駁と誘導
シリウスは「代替可能なら自分を派遣せよ」と返し、原則論で牽制。発言機会をカノープス、続いて銀髪の騎士に振る。セラフィーナは匿名のまま「独断変更は反省。ただし人命優先の調整を望む」と述べた。
誤情報への反応と騎士文化の露呈
リゲルが「海水浴」などの風評に言及。騎士団長らは大聖女擁護に傾き殺気を示す一方、筋肉礼賛など逸脱も多く、カノープスは「戯言」と整理。
収束:総長の裁定
ウェズン総長が「今後は大聖女の希望に沿う依頼調整。代替可能な件はシリウスへ」と締め、議案終結。
夜の余韻:月の賛美と身バレ未認識
庭で月を眺めるセラフィーナに、複数の騎士団長が「月がきれいですね」と声掛け。正体を明かした後も過剰感激し、日中の変装は見抜けていない。カノープスは彼らを追い払った。
翌日:不問と示唆
シリウスは説教を行わず、「未来の幻かもしれない」として黙認。銀髪金瞳の女性騎士を将来像にたとえる示唆で締めた。
【SIDE】アルテアガ帝国皇帝レッド=ルビー
「女神の足跡発見、だと?!?!」
~Side Arteaga Empire〜
女神再発見の報に動揺する皇帝
アルテアガ帝国皇帝レッド=ルビーは、半年ぶりに女神フィーアの足跡が見つかったとの報告を受け、信じられない思いに包まれた。かつて彼女は帝国を救い、呪いを解いた存在であり、彼は再会して感謝を伝えたいと願っていた。しかし侍従長から「一度きりの顕現で再会は不可能」と告げられていたため、報せに心を乱す。
出奔を止められる皇帝と儀式の義務
フィーアを追って王国へ赴きたいと願うも、副総長に止められ、代わりに「精霊の森」での年例儀式へ臨むことになる。煌びやかな衣装をまとい、精霊に感謝を捧げる形式的な祭儀を進めるが、実際には誰も森の奥へ進めない。
聖女の業と女神の力の差
聖女たちの祈りによって小さな傷が瞬時に治ると、随行者たちは奇跡と称える。しかし皇帝は半年前、右腕を喰われた自分を瞬時に治したフィーアの力を思い出し、聖女の癒しとの圧倒的な差を痛感する。副総長は「女神を疑うべきでない」とたしなめるが、皇帝の心にはもはや信仰ではなく確信があった。
女神への敬慕と無力感
フィーアが人の身体を借りて現世に留まっていることを思うと、皇帝は守れぬ不自由を悔やむ。自ら動けない立場を呪い、彼女の側にいる二人の弟へ助力を託す。
再会を夢想しながらも、彼は「皇帝とは何と不自由な立場か」と嘆き続け、ただ空を見上げて女神を思うのだった。
騎士団長たちとの食事会の騒動
フィーアとファビアンは、いつものように食堂で夕食を取ろうとしていた。ところが、なぜか毎日のように騎士団長の誰かと同席しており、特別扱いに見えることをフィーアは気にする。ファビアンはそれを当然のように受け止めており、二人の温度差が際立つ。
団長たちの席の奪取
目立たぬ場所に座ろうとしたものの、すぐに騎士団長たちが押し寄せ、周囲の騎士たちを次々と立たせて席を確保した。ザカリー、カーティス、デズモンド、クェンティンらが当然のように周囲を囲み、食堂は異様な緊張感に包まれた。結果として、一般騎士の席は奪われ、フィーアは罪悪感を抱く。
フィーアの困惑とファビアンの冷静な分析
フィーアは「悪者扱いになる」と嘆くが、ファビアンは「騎士団長専用の食堂を捨ててまで来るほど、彼らは君に夢中」と淡々と指摘する。フィーアは愕然としつつも、彼の言葉から逃れられない現実を悟る。ファビアンは巻き込まれながらも優しく励まし、彼女を支え続けた。
専用食堂の静寂
その頃、騎士団長専用の食堂は閑散としており、シリルが「最近誰も来ませんね」とイーノックに話しかけるも、返事はなかった。団長たちが全員フィーアのもとに集っている現状が暗に示されていた。
【SIDEサヴィス】 国王と訓練騎士との面談に近寄らないことを決心する
面談から逃げようとする総長の算段
サヴィスは夏の訪れを感じ、新人騎士の訓練終了と恒例の「国王による面談」の時期を思い出した。だが、その形式的で茶番めいた面談に参加する気はなく、彼は視察を理由に王都を離れる計画を立てた。
シリルの忠告と皮肉な応酬
呼び出されたシリルは、来週がまさに面談時期であることを指摘し、サヴィスの逃避を見抜く。サヴィスは「伝令はもう出した」と平然と装い、王のための儀式的面談に同席する必要はないと主張した。シリルは昨年も一人で十四回分を耐え抜いたと報告し、不満をにじませた。
互いの譲歩と不穏な約束
最終的にシリルは渋々引き受けるが、「特別要務中の新規配属者がいて、その者の面談が後になる。その時は同席を」と笑顔で念を押した。サヴィスは軽く承諾し、安心した様子で出発を決める。
後に判明する罠
しかし、その「特別要務の新規配属者」とはフィーア・ルードであり、彼女の面談で起こる騒動こそ、サヴィスが逃れようとした“茶番”を遥かに超えるものとなるのだった。
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敵国に嫁いで孤立無援ですが、どうやら私は最強種の魔女らしいですよ?

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