物語の概要
■ 作品概要
箱根駅伝の古豪・明誠学院大学は、予選会においてわずか10秒差の11位に終わり、本選出場を逃してしまう。
主将の青葉隼斗は、レース中盤に起きた脇腹痛による自身の失速が敗退を招いたと考え、強い自責の念に駆られていた。
そんな折、38年にわたりチームを率いた諸矢久監督が退任を発表し、後任として商社「丸菱」からの休職ボランティアという異例の立場に就く伝説のランナー・甲斐真人を指名する。
物語は、混迷を極める明誠学院大学の再生と、視聴率至上主義による番組改変の圧力に抗うテレビ局側のドラマを並行して描き出す。
隼斗は、本選に出場できない大学の選手で構成される「関東学生連合チーム」の主将に選出され、甲斐監督が提示した「本選3位相当」という極めて高い目標に向けて始動した。寄せ集めだった選手たちが、甲斐の理論的な指導と情熱によって、一つの「戦うチーム」へと変貌を遂げるまでの過程が詳述されていく。
■ 主要キャラクター
- 青葉 隼斗(あおば はやと) 明誠学院大学4年生・主将。予選会での失速に責任を感じ、本選出場を一度は諦めるが、学生連合チームの主将として箱根を目指す。実力は高いが、責任感の強さゆえに周囲との摩擦に悩む。
- 諸矢 久(もろや ひさし) 明誠学院大学陸上競技部監督(退任)。38年間の指導に終止符を打ち、自身の限界を認めて甲斐を後任に指名。引退後は一切の取材を拒否し、潔く身を引く。
- 甲斐 真人(かい まさと) 明誠学院大学新監督。総合商社「丸菱」の社会貢献制度を利用した休職ボランティア。現役時代は「明誠エクスプレス」と呼ばれたスター選手。学生連合チームの監督も兼任し、データに基づいた論理的指導を行う。
- 前島 友介(まえじま ゆうすけ) 明誠学院大学4年生。チーム唯一の箱根経験者。予選敗退後、連合チームに選出された隼斗に対し、嫉妬と疎外感が入り混じった冷ややかな態度を取る。
- 徳重 亮(とくしげ りょう) 大日テレビ「箱根駅伝」チーフ・プロデューサー。番組の伝統と質を守るため、編成局の圧力や芸能プロダクションの介入を、スポンサーの意向を背景に阻止する。
- 宮本 菜月(みやもと なつき) 大日テレビのチーフ・ディレクター。初の女性チーフとして現場を指揮。詳細な取材データに基づき、番組の構成と演出の質を追求する。
- 辛島 文三(からしま ぶんぞう) 大日テレビのベテランアナウンサー。技術は超一流だが、過去にスポーツ局長・北村と「お涙頂戴の過剰な演出」を巡って衝突し、箱根実況から遠ざかっていた。
書籍情報
俺たちの箱根駅伝 上
著者:池井戸潤 氏
出版社:文藝春秋
発売日:2024年4月24日
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
池井戸潤の感動長編の舞台は、
「東京箱根間往復大学駅伝競走」――通称・箱根駅伝。
若人たちの熱き戦いが、いま始まる!
古豪・明誠学院大学陸上競技部。
箱根駅伝で連覇したこともある名門の名も、今は昔。
本選出場を2年連続で逃したチーム、そして卒業を控えた主将・青葉隼斗にとって、10月の予選会が箱根へのラストチャンスだ。故障を克服し、渾身の走りを見せる隼斗に襲い掛かるのは、「箱根の魔物」……。
隼斗は、明誠学院大学は、箱根路を走ることが出来るのか?
一方、「箱根駅伝」中継を担う大日テレビ・スポーツ局。
プロデューサーの徳重は、編成局長の黒石から降ってきた難題に頭を抱えていた。
「不可能」と言われた箱根中継を成功させた伝説の男から、現代にまで伝わるテレビマンたちの苦悩と奮闘を描く。
感想
箱根駅伝を題材にした作品なので、最初は当然ながら「選手が箱根路を走る話」だと思っていた。
しかし上巻で描かれるのは、むしろ大会が始まるまでの話である。
予選会に落ちる。
学生連合チームに選ばれる。
長年チームを率いた監督が辞める。
後任には、商社を休職してやって来た指導経験のない新人監督。
テレビ局では中継方針をめぐって上層部と揉める。
さらにメインアナウンサーが病気で入院。
固定カメラを置いていたマンションからは協力を断られる。
まだ箱根駅伝、始まってないんだけど。
それなのに次から次へと問題が起こる。
選手だけでなく、「箱根駅伝に関わる人たち全員が本番へ向かっている」という感覚が印象に残った。
10秒差で予選落ち。それでも隼斗だけは箱根へ行ける
物語の始まりは明誠学院大学の箱根駅伝予選会である。
主将の青葉隼斗にとっては大学最後の挑戦。
ところがレース途中で脇腹を痛めて失速する。
何とか立て直したものの、明誠学院大学は11位。
本選出場の10位との差は、わずか10秒だった。
10人の合計タイムで10秒。
あまりにも小さい差である。
だからこそ隼斗は、
「自分が普通に走れていたら」
と責任を感じてしまう。
チーム全体で負けたとはいえ、主将でありエースでもある本人からすれば、そう簡単には割り切れないだろう。
しかも皮肉なことに、その隼斗だけが関東学生連合チームに選ばれる。
チームは箱根へ行けない。
でも自分には箱根を走れる可能性が残った。
喜んでいいのか。
仲間に申し訳ないと思うべきなのか。
この何とも言えない立場が面白かった。
箱根へ行きたいと何年も努力してきたのだから、辞退する理由なんて本来はない。
しかし同じチームの仲間が敗退した直後なら、そんな単純な話でもない。
この辺りは競技そのものより、人間関係の方がずっと苦しい。
38年監督を務めた人の後任が、休職してきたサラリーマン
予選敗退の直後、明誠学院を38年間率いた諸矢監督が退任する。
そして後任として指名されたのが甲斐真人。
学生時代には「明誠エクスプレス」と呼ばれた名選手だったが、卒業後は陸上界を離れて総合商社の丸菱で働いていた人物である。
しかも会社を辞めて来るわけではない。
社会貢献制度を利用して一年間休職し、ボランティア監督として就任する。
選手からしたら、
「大丈夫なのか、この人?」
となるのも分かる。
監督経験はない。
陸上競技からも長く離れている。
一年後には会社へ戻る可能性まである。
自分たちは人生を懸けて箱根を目指しているのに、監督だけ一年限定に見える。
そりゃ反発も出る。
しかし読んでいて興味深かったのは、甲斐が感情で選手を押さえ込もうとしないところだった。
選手自身に考えさせる。
コースを実際に歩かせる。
風、坂、路面まで自分で確認させる。
箱根駅伝は二十キロ以上を一人で走る以上、監督が横から全部指示できる競技ではない。
だから自分で判断できる選手を作る。
商社マンだった人間らしい、かなり現実的な考え方である。
最初は「サラリーマンが突然監督になった」と思っていたが、会社員として組織の中で揉まれた経験も、意外と監督業に繋がっているように感じた。
寄せ集めの学生連合が、本気で3位相当を狙い始める
学生連合チームも面白かった。
予選会で落ちた大学から個人成績のいい選手を集めたチーム。
しかもオープン参加なので正式な順位はつかない。
頑張って走っても記録上は参考扱い。
そんな状況なら、
「せっかく箱根を走れるんだから楽しめばいい」
となる選手がいても不思議ではない。
ところが甲斐は、いきなり「本選3位相当以上」を目標にする。
当然、反発も出る。
何で公式順位もつかないのに、そこまで本気になるのか。
母校の襷をつなぐわけでもない。
それでも本気で強豪校と戦いたい選手もいる。
この温度差がなかなかリアルだった。
大会に出たいという気持ちは同じでも、「何のために走るのか」は人によって違う。
記録を残したい選手。
恩師の考えを優先する選手。
将来のマラソンのための経験と考える選手。
純粋に強い選手と戦いたい人。
寄せ集めだからこそ、普通の大学チーム以上に目的を揃えなければならない。
走力だけ集めればチームになるわけではない、という話が印象に残った。
テレビ局も、箱根へ向かう前から問題だらけだった
そして、この作品でもう一つの主役になっているのが大日テレビである。
こちらも本番前からトラブルだらけ。
まず編成局長が、
「もっと視聴率を取れる番組にしろ」
と言い出す。
人気タレントを呼ぶ。
従来の硬派なスポーツ中継を変える。
一方、現場側は、
「箱根駅伝の主役は選手だろ」
と反発する。
これは駅伝に限らず、テレビ番組でありそうな話だと思った。
数字を求める上層部。
番組そのものを守ろうとする現場。
スポンサー。
芸能事務所。
一つの中継番組を作るだけでも、これだけ多くの立場が動く。
さらにセンターアナウンサーを務める予定だった前田が悪性リンパ腫で入院する。
代役として名前が挙がるのが、実力はあるが過去の中継方針をめぐって局と衝突した辛島。
この辛島が、
「選手の不幸まで勝手に感動物語にするな」
という考えなのも興味深かった。
スポーツ中継は事実を事実として伝える。
選手の人生を勝手に「泣ける物語」へ加工しない。
この考え方にはかなり共感した。
マンションの屋上を借りるところから中継は始まっている
もっと地味なのに印象に残ったのが、六郷橋の固定カメラ問題だった。
今まで中継に使っていたマンションから、
「住民に迷惑がかかるから今年は協力できない」
と言われる。
テレビ局からすれば重要な撮影地点。
でもマンションの住民からすれば、正月にテレビ局の人間が大勢やって来る。
嫌だと言われれば、それまでである。
そこで徳重たちは別の建物を探して歩き回る。
こういう話が好きだった。
箱根駅伝の中継を見る側からすると、
「カメラがそこにある」
のは当たり前に思える。
しかし実際には、そこへカメラを置くために交渉する人がいる。
場所を貸す人がいる。
通信設備を整える人もいる。
道路を走る選手をテレビで見られる状態を作るだけで、とんでもない準備が必要になる。
選手たちが何カ月も走り込んで本番を迎えるように、テレビ局側も何カ月も準備して本番を迎える。
走っていないだけで、こちらにも箱根駅伝があるのだと感じた。
上巻なのに、箱根駅伝はまだ始まらない
そして色々あった末、学生連合チームの区間も決まる。
隼斗は十区。
箱根へ向けて出発する準備も整う。
テレビ局も中継体制を固めていく。
いよいよ始まる。
……というところで上巻終了。
まだ走らないのか。
かなりのページ数を読んだのに、箱根駅伝本選そのものは下巻である。
ただ、不思議と「前置きが長い」とは感じなかった。
むしろ大会が始まるまでに、これだけの人が動いていることが面白い。
走る選手。
走れなかった選手。
監督。
マネージャー。
OB。
テレビ局。
アナウンサー。
スポンサー。
中継場所を貸す住民。
いろいろな人間の思惑や事情が積み重なった上で、1月2日のスタートラインがある。
一方で少し気になったのが、大会そのものを運営する側の存在である。
関東学連の幹事や学生連合を支える学生は登場するので、主催者側が完全に出てこないわけではない。
ただ、選手側とテレビ局側に比べると、大会運営そのものはまだほとんど前面に出てこない。
これだけ「箱根駅伝を支える人々」を描く作品なら、下巻では運営側にも焦点が当たるのだろうか。
それとも、そのまま選手と中継スタッフを中心に本選へ突入するのか。
上巻を読み終えた時点では、そこも少し気になった。
何より、ここまで準備してようやく箱根へ向かう。
学生連合が本当に3位相当を狙えるのか。
隼斗は最後の十区でどんな走りをするのか。
そして大日テレビは、トラブルなく二日間を中継できるのか。
大会が始まる前だけでこれだけ問題が起きたのだから、本番が平穏に終わるとは到底思えない。
下巻でようやく、本当の「箱根駅伝」が始まる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
考察・解説
ストーリー・プロット
箱根駅伝予選会における惜敗を起点として、古豪校の再建、学生連合チームの結成、中継を担うテレビ局の舞台裏に至るまで、多角的な人間模様が交錯していく。各幕における原因、行動、結果の連鎖を整理し、物語が大きく動く契機となった転換点をまとめる。
第1幕:予選会の激闘と落選
- 原因:箱根駅伝予選会において、明誠学院大学の主将を務める隼斗は日本人トップ集団を維持していたものの、中盤から脇腹の激痛に見舞われて失速する。
- 行動:隼斗は死力で巻き返しを図るが、最終ランナーのタイムを含めた合計タイムで10位の専修大学に及ばない事態に陥る。
- 結果:わずか10秒差の11位で本選出場を逃す。隼斗は凄惨な自己嫌悪に陥り、チームメイトの前島友介との間に深い亀裂が生じる。
第2幕:老将の退任と伝説のランナーの帰還
- 原因:予選敗退を受け、諸矢監督は自身の指導法が時代に合致しない事実を認め、38年におよぶ監督生活からの引退を決意する。
- 行動:後任として商社勤務の甲斐真人を指名する。甲斐は1年間の休職ボランティアという立場で就任を引き受ける。
- 結果:部員の間には腰掛け監督に対する不信感が広がる。一方、隼斗は諸矢から学生連合チームへの選出を告げられる。
第3幕:テレビ局の攻防における伝統と視聴率
- 原因:編成局長の黒石が視聴率向上を目的に人気お笑いタレントの起用を迫り、現場の制作方針を無視した圧力を強める。
- 行動:徳重プロデューサーは、ニッポンビールやセントレア自動車といった主要スポンサーが硬派な番組構成を支持している事実を突きつける。
- 結果:タレント起用案を阻止することに成功し、番組本来の伝統的なスポーツ中継としての質が守られる。
第4幕:明誠学院大学の混迷と隼斗の孤立
- 原因:甲斐監督が部員70名に対し個別の思考力を求める課題を提示するものの、従来のスパルタ指導に慣れた部員は強い戸惑いを覚える。
- 行動:連合チーム主将に選ばれた隼斗に対し、予選敗退した同期の友介が皮肉を浴びせる事態が生じる。
- 結果:部員の間で甲斐への反発が強まり、隼斗は学内で深刻な孤立状態へ追い込まれる。
第5幕:学生連合チームの招集と前代未聞の目標
- 原因:学生連合チームが参考記録扱いのオープン参加により士気が低下する中、招集されたメンバー16名中10名が1万メートル28分台を記録している事実が判明する。
- 行動:甲斐監督は彼らを奇跡の16人と呼び、本選3位相当以上という前代未聞の具体的目標を提示する。
- 結果:当初は冷ややかだった選手たちの意識が、単なる思い出作りから勝負への執着へと変化を見せ始める。
第6幕:実況アナウンサー選定のドラマ
- 原因:センターアナを担当予定だった前田が悪性リンパ腫ステージIIにより緊急入院し、実況体制が崩壊の危機に瀕する。
- 行動:前田の推薦を受けた辛島を説得するべく、過去に確執のあった丸太アナウンサーが真摯な直談判に及ぶ。
- 結果:辛島が実況受託を決意し、伝統と確かな技術を兼ね備えたアナウンス体制が確立して番組制作が正常化に向かう。
第7幕:連合チームの始動と初合宿
- 原因:異なる背景を持つ選手たちを3位相当を狙う集団へと結束させるため、東邦経済大学の施設でミニ合宿を敢行する。
- 行動:練習最終盤の1万メートルで激しい競り合いが展開される中、甲斐は隼斗の走りに生じた迷いによる遅れを指摘し、適性の見極めを進める。
- 結果:隼斗が往路四区および復路十区の候補となり、チーム内には健全な競争意識が芽生える。
主要な転換点
- 予選会における僅差の落選 以前の状況:古豪復活を懸けて予選会に挑む段階。 出来事:隼斗の脇腹痛により10秒差の11位で敗退する。 変化:本選出場権を喪失し、エースとしての自信を失う。 次への影響:諸矢監督の電撃退任を招き、隼斗の学内孤立が進む。
- 指導体制の刷新 以前の状況:伝統的なスパルタ指導体制の継続。 出来事:諸矢の引退に伴い、甲斐真人が新監督へ就任する。 変化:個々の思考力を重んじる新方針へと移行する。 次への影響:OB陣の不信感や企業宣伝目的を疑う反発を呼ぶ。
- 番組制作をめぐる路線対立 以前の状況:上層部による視聴率重視のタレント起用案が浮上。 出来事:スポンサーの意向を背景に現場が介入を阻止する。 変化:編成上層部の独断が退けられる。 次への影響:硬派な実況路線の継続が確定する。
- 連合チームの意識変革 以前の状況:オープン参加による低い士気と妥協意識の蔓延。 出来事:本選3位相当以上という明確な数値目標が設定される。 変化:記念出場の意識から勝利を目指す集団へと変貌を遂げる。 次への影響:隼斗を主将とした強固な結束体制が形成される。
まとめ
予選会敗退という挫折から始まった各主体の軌跡は、新指導者の着任や制作現場の攻防を経て、確固たる意志を持つ集団へと結実していく。個人の苦悩や組織の軋轢を乗り越え、本選へ向けて定めた明確な目標が、選手および周囲の関係者を新たな挑戦へと突き動かす原動力となる。
主人公を中心とした人物関係の変化
箱根駅伝予選会の敗退を契機に、主将の隼斗を取り巻く人間関係は劇的な変化を迎える。信頼関係の崩壊や新たな指導者との出会い、寄せ集めの連合チームにおける葛藤を通じて、隼斗の置かれた立場と内面が浮き彫りになっていく。
主人公を中心とした人物関係の変化
- 隼斗と前島友介 開始時:互いに信頼し合うエースコンビとしてチームを牽引する。 主な出来事:予選敗退後、隼斗のみが学生連合チームに選出された事実を受け、友介が冷笑的な態度を示して突き放す。 巻末時:解消されない深い溝が残り、友介の冷ややかな視線に晒され続ける。
- 隼斗と甲斐真人 開始時:突如就任した正体不明の商社マン監督に対し、強い不信感を抱く。 主な出来事:思考力を問う個別課題の提示を受け、連合チームでは自らの走りで周囲に認めさせろと激励される。 巻末時:甲斐の鋭い観察眼と指導の論理性を実感し、指揮官としての信頼を深めていく。
- 隼斗と学生連合チームの選手(倉科、松木ら) 開始時:記録に残らないオープン参加という立場から、冷めた意識を持つ集団にとどまる。 主な出来事:本選3位相当以上という前代未聞の目標を提示され、初合宿で激しい競り合いを展開する。 巻末時:目標に懐疑的な一部の選手へ懸念を抱きながらも、主将として一つの集団をまとめ始める。
主人公の認識と周囲の評価
- 主人公自身の認識 予選会で自身が失速した責任を重く受け止め、自責の念に苛まれる。自分ひとりが箱根路を走る資格を持つのかという葛藤を抱え続ける。
- 周囲からの評価 甲斐・諸矢:隼斗の走力と主将としての責任感を高く評価する。甲斐は、誰もが納得する走りを披露することでのみ部員の理解を獲得できると冷静に分析する。 友介・部員:単独で箱根に出場する隼斗への嫉妬を募らせ、新監督への不信感と相まって隼斗を孤立させる要因となる。
- 認識の差が現れた場面 友介から自分だけ良い思いをしていると揶揄され、激しい自己嫌悪に陥る。一方で甲斐からは、出場を辞退すれば責めている部員たちが後悔と自責の念に苦しむ結果になると指摘され、逆説的な視点から覚悟を促される。
まとめ
周囲からの嫉妬や孤立という逆境に直面しながらも、隼斗は新たな指導者や仲間との関わりを通じて自己の役割を再定義していく。個人の自責の念を乗り越え、結果を出すことでしか周囲の理解を得られないという覚悟を固め、前代未聞の挑戦へと歩みを進める。
クライマックス
学生連合チームの多摩合宿を中心とした展開と、各陣営を取り巻く状況の推移を整理する。異なる出自を持つ選手たちの意識変革や指導陣の戦術的アプローチ、さらに学内および外部で生じる摩擦について客観的な事実に基づき記述を進める。
学生連合チーム第1回合宿の展開
- 発生原因 異なる背景を持つ16名を、短期間で3位相当を狙う集団へと変貌させる必要が生じたためとなる。
- 実施環境と指導方針 東邦経済大学の多摩グラウンドにて実施される。甲斐監督は食事や家庭環境、適性といった選手一人ひとりの詳細データを完全に把握した上で指導に臨む姿勢を示す。
- 練習内のハイライト 練習最終盤の1万メートルにおいて、実力者同士の意地が衝突し、本番さながらの激しい競り合いへと発展する。甲斐監督は隼斗のスパート時におけるわずかなタイミングの遅れを見抜き、的確な修正を促す。
- 合宿の成果 甲斐監督が各選手の適性を割り出し、隼斗を往路四区および復路十区の候補に指名する。選手全員に公平な競争の場が整備され、チーム全体が戦う集団としての自覚を獲得する。
各主体の状況推移と残された課題
- 隼斗の状況 学生連合チームのキャプテンとして覚悟を固め、四区および十区の担当を見据えた鍛錬に励む。
- 所属環境における立場 明誠学院大学内では前島友介らとの摩擦が解消されず孤立を深める一方、連合チーム内では甲斐監督から確固たる信頼を獲得する。
- 解決した問題 テレビ局側のセンターアナウンサーが辛島に正式決定する。主要スポンサーの意向を背景に、制作上層部が推し進めたタレント起用案が完全に立ち消えとなる。
- 継続する問題 連合チーム内における松木や周人ら一部選手の不満が燻り続ける。さらにOBの米山が抱く、甲斐監督が所属企業の出世のためにチームを利用しているという不信感や、明誠学院大学陸上競技部内の冷淡な空気が解消されずに残る。
まとめ
多摩合宿を経て学生連合チームは意識を刷新し、具体的な目標へ向けて動き出す。しかし、主将を務める隼斗の学内での孤立や、新体制に対する外部からの疑念など、本選へ向けた道程には依然として複雑な課題が横たわる。
箱根駅伝予選会
学生連合チームの多摩合宿を中心とした展開と、各陣営を取り巻く状況の推移を整理する。異なる出自を持つ選手たちの意識変革や指導陣の戦術的アプローチ、さらに学内および外部で生じる摩擦について客観的な事実に基づき記述を進める。
学生連合チーム第1回合宿の展開
- 発生原因 異なる背景を持つ16名を、短期間で3位相当を狙う集団へと変貌させる必要が生じたためとなる。
- 実施環境と指導方針 東邦経済大学の多摩グラウンドにて実施される。甲斐監督は食事や家庭環境、適性といった選手一人ひとりの詳細データを完全に把握した上で指導に臨む姿勢を示す。
- 練習内のハイライト 練習最終盤の1万メートルにおいて、実力者同士の意地が衝突し、本番さながらの激しい競り合いへと発展する。甲斐監督は隼斗のスパート時におけるわずかなタイミングの遅れを見抜き、的確な修正を促す。
- 合宿の成果 甲斐監督が各選手の適性を割り出し、隼斗を往路四区および復路十区の候補に指名する。選手全員に公平な競争の場が整備され、チーム全体が戦う集団としての自覚を獲得する。
各主体の状況推移と残された課題
- 隼斗の状況 学生連合チームのキャプテンとして覚悟を固め、四区および十区の担当を見据えた鍛錬に励む。
- 所属環境における立場 明誠学院大学内では前島友介らとの摩擦が解消されず孤立を深める一方、連合チーム内では甲斐監督から確固たる信頼を獲得する。
- 解決した問題 テレビ局側のセンターアナウンサーが辛島に正式決定する。主要スポンサーの意向を背景に、制作上層部が推し進めたタレント起用案が完全に立ち消えとなる。
- 継続する問題 連合チーム内における松木や周人ら一部選手の不満が燻り続ける。さらにOBの米山が抱く、甲斐監督が所属企業の出世のためにチームを利用しているという不信感や、明誠学院大学陸上競技部内の冷淡な空気が解消されずに残る。
まとめ
多摩合宿を経て学生連合チームは意識を刷新し、具体的な目標へ向けて動き出す。しかし、主将を務める隼斗の学内での孤立や、新体制に対する外部からの疑念など、本選へ向けた道程には依然として複雑な課題が横たわる。
監督交代と不信感
『俺たちの箱根駅伝 上』において、諸矢久監督から甲斐真人新監督への交代劇と、それに伴い選手間に生じた不信感は、物語前半における最大の波乱を形成する。名門校の予選敗退を機に浮き彫りとなった不協和音の要因と、混迷を脱する契機となった指導方針について詳細を整理する。
監督交代がもたらした衝撃と新体制の懸念
箱根駅伝予選会で10秒差の11位に沈んだ直後、38年にわたり指揮を執った諸矢監督が退任を表明する。後任にはかつて名走者として名を馳せたOBの甲斐真人が指名されるが、その経歴は部員に動揺を与える。
- 指導歴の欠如 大学卒業後は競技から離れ、大手総合商社の丸菱に勤務する会社員としての生活を送っていた。
- 1年限定の任期 企業の社会貢献制度を適用し、休職期間を利用して指導にあたる無給のボランティア監督に留まる。
生活を共にしてきた指導者を突如失った部員にとって、外部からの唐突な着任は大きな動揺を招く要因となる。
渦巻く不信感と部内での疑念の拡大
実績のない新監督に対する懐疑的な見方は、部内において急速に浸透していく。
- 企業内での出世手段という見立て OBの米山空也が、社会貢献活動の実績を出世に利用する目的ではないかという見解を4年生の前島友介に伝える。これを受け、友介は腰掛けの指導体制では本選復帰など望めないと反発を強める。
- 新主将の孤立と苦悩 新しく主将に就いた3年生の持田研吾も、冷淡な部内の空気に挟まれ、集団の統率に苦慮する日々を過ごす。
青葉隼斗と前島友介の間に生じた亀裂
指導体制の刷新は、長年苦楽を共にしてきたエース同士の関係性にも暗い影を落とす。
- 情報共有の遅れに対する拒絶 諸矢監督から事前に交代の事実を打ち明けられながら仲間に伏せていた隼斗に対し、友介は強い不信を露わにする。
- 関東学生連合チームへの選出による孤立 予選落ちを喫した部内において、個人成績により隼斗のみが本選出走の可能性を得る。失速の責任を感じる隼斗に対し、友介は冷ややかな言葉を残して距離を置く。主将としての資質を疑う視線に晒され、隼斗は学内で孤立を深めていく。
甲斐監督による論理的説明と覚悟の提示
逆風に直面する中、甲斐新監督は実利的な観点と明確な論理をもって事態に対処する。
- 制度利用に伴う財政的利点 任期への疑念を直接ぶつけた隼斗に対し、自身の給与が企業から支払われるため、浮いた監督人件費をそのままチーム強化費に充当できる実情を明かす。
- 結果による証明と背水の陣 言葉による弁明を排し、学生連合チームの指揮を通じて実績を示せなければ即座に身を引く姿勢を明確にする。
- 隼斗の迷いを断つ助言 周囲への遠慮から出場辞退を考える隼斗の心理を見抜き、辞退すれば周囲に一生の後悔を背負わせると説く。怒りを向けさせておき、本番で圧倒的な走りを見せることで納得させればよいと助言し、走者の覚悟を引き出す。
対話を通じて甲斐の論理と胆力を実感した隼斗は、走りで周囲の評価を覆す決意を固める。
批判の激化と本選に向けた覚悟の結実
部内の軋轢にとどまらず、他校の指導者によるメディアを介した批判や、コーチ陣の抗議辞任など、外部からの反発も激しさを増す。逆境に晒されながらも、甲斐は競技場での結果のみが唯一の回答となるという姿勢を維持する。
選手一人ひとりの心理に即した指導と一貫した方針はやがて部内に浸透し、烏合の衆と見なされていた混成部隊を強力な集団へと結束させていく契機となる。
まとめ
予選敗退に伴う監督交代は、選手間に疑心暗鬼と亀裂をもたらし、部の存続を揺るがす深刻な危機を引き起こす。しかし、感情論を排した合理的な説明と結果を最優先に据える指導姿勢により、主将をはじめとする走者たちは走る意義を再確認する。周囲の反発を乗り越えて打ち出された確固たる方針が、チームの再生に向けた揺るぎない土台を築き上げる。
関東学生連合チーム
小説『俺たちの箱根駅伝 上』において、関東学生連合チームは敗れ去った選手たちによる再起の舞台として機能する。選抜された選手たちが抱える葛藤、組織的な合理性と競技に対する熱情の対立を描き出し、独自の心理ドラマを展開する。
学生連合チームの構造と特有の課題
関東学生連合チームは、箱根駅伝予選会で本選出場を逃した大学の中から、個人成績で上位に入った選手を集めて結成される。このチームには特有の競技環境と制約が課せられる。
- オープン参加の規定 2015年の第91回大会以降、オープン参加として位置づけられる。他校と同じコースを走りながらもタイムは参考記録となり、公式の順位は付与されない。先頭でゴールした場合でも正式な総合優勝としては記録されない。
- モチベーションの維持 公式の大会記録に残らず、母校の襷を直接背負うわけでもない状況下において、20キロメートル以上の長距離区間に挑む意欲を保つことは容易ではない。結果として、過去の大会では下位に低迷する傾向が続いていた。
甲斐監督の大胆な方針と奇跡の16人
指揮を執る甲斐真人監督は、従来の課題を独自の視点で捉え直す。単なる記念出場の枠組みを排し、本選で総合三位相当以上を目指すという前代未聞の目標を掲げる。
- 奇跡の16人 選ばれた16名のうち、10名が1万メートル28分台の公認記録を持ち、残る6名もそれに匹敵する水準を保持していた。甲斐監督はこの戦力を箱根の神が与えた恵みと捉え、上位校に対抗する根拠とする。
- 自律して思考する選手の育成 商社での職歴を持つ監督は、不測の事態が頻発する箱根路において、選手自身による分析と状況判断が不可欠と説く。指示を待つだけでなく、自ら区間を試走して風向きや路面状態を研究し、主体的に攻略法を構築する姿勢を求める。
チーム内の不信と生じた断層
高い目標設定に対し、当初は選手間に冷ややかな空気が漂う。とりわけ能力の高い3名が複雑な事情から反発を示す。
- 松木浩太(清和国際大学) 生活の困窮から救ってくれた恩師である北野監督への恩義を強く抱く。北野監督が連合チームへの参加に否定的であった影響を受け、当初は練習において全力を出さずに冷淡な態度を取る。
- 富岡周人(目黒教育大学) 公式記録のみを重視する父を持ち、参考記録に終わる連合チームでの出走を無意味と捉え、冷めた態度を崩さない。
- 内藤星也(関東文化大学) 将来的なフルマラソンへの挑戦を重視し、過熱する箱根駅伝人気を冷静に観察しながら、大会を単なる通過点として位置づける。
こうした態度は合同練習の隊列にも表れ、後方に離脱する動きとなってチーム全体の士気に影を落とす。
信頼の回復と大きな転換点
主将を務める青葉隼斗の働きかけと選手間の率直な対話を契機に、事態は好転へと向かう。選手のみによるミーティングが開かれ、3名の現実主義的な主張に対し、多くのメンバーが強豪校と本気で競り合いたいという熱意を率直にぶつける。
- 隼斗による対話 富岡に対して父親の評価基準に縛られず、自分自身の走りを追求すべきと促す。
- 松木の決意 北野監督が連合チームへの抗議として辞任し松木に辞退を命じた際、隼斗は直接合宿所を訪ねる。競技者として箱根を走る機会を周囲の都合で放棄すれば生涯の悔いを残すと説得する。仲間たちの思いに触れた松木は大学の部を辞任する届を提出し、退路を断って合流を果たす。この行動がチーム内の障壁を取り払い、強い結束を生み出す。
襷の授与式と伝統の重圧の払拭
メディアからの懐疑的な報道や他校の監督からの批判により、選手たちは伝統校の重厚な歴史に対して気後れを抱き始める。この動揺を察した甲斐監督は、体育館に秘密の集会を企画する。
- 16大学の学生による後押し 選抜された16大学の陸上部員や関係者を招致し、数百人の手渡しを経て白と赤の連合チームの襷が選手たちへ届けられる。
- 支えの実感 予選会で敗退した仲間たちの思いを乗せた襷を受け取ったことで、選手たちは最も多くの応援を背負って走る存在であることを自覚し、重圧を克服する。
最終区間エントリーの決定
結束を固めたチームは、本選に向けて以下の区間配置を確定させる。
- 一区:諌山天馬(品川工業大学4年)
- 二区:村井大地(東邦経済大学3年)
- 三区:富岡周人(目黒教育大学4年)
- 四区:内藤星也(関東文化大学2年)
- 五区:倉科弾(山王大学2年)
- 六区:猪又丈(武蔵野農業大学2年)
- 七区:桃山遙(東洋商科大学2年)
- 八区:乃木圭介(京成大学1年)
- 九区:松木浩太(清和国際大学4年)
- 十区:青葉隼斗(明誠学院大学4年・主将)
まとめ
敗北の傷を抱えた16名の走者たちは、葛藤と対立を乗り越えて自らの走る意義を見出す。記録に残らないオープン参加という制約を受け入れながらも、確かな実力と強い意志を胸に、大舞台へ挑む準備を完了する。
テレビ中継の舞台裏
『俺たちの箱根駅伝 上』において、過酷なロードを走る選手たちのドラマと並び立つ主軸として描かれるのが大日テレビによるテレビ中継の舞台裏となる。総勢約950名ものスタッフが投入される巨大番組の裏側では、スポーツ中継の哲学をめぐる社内対立、アナウンサーたちの誇りと葛藤、カメラアングルを確保するための泥臭い現場の執念が交錯する。その詳細な人間ドラマを3つの視点から整理する。
「硬派な王道」か「バラエティ化」か:中継哲学をめぐる対立
大日テレビの箱根駅伝中継には、1987年の初回放送時から受け継がれる「箱根駅伝 放送手形」というバイブルが存在する。タスキをつなぐ場面や順位変動を必ず映し、選手やチームの背景を丁寧な取材で伝えるといった、アスリートへの敬意に満ちた硬派なフォーマットを堅持してきた。しかし、チーフ・プロデューサーの徳重亮とチーフ・ディレクターの宮本菜月の前に、編成局長の黒石武が立ちはだかる。
- 黒石による視聴率至上主義の要求 従来の構成を地味で退屈と切り捨て、新規視聴者層の獲得を目的に人気お笑いタレントの畑山一平をスタジオゲストに起用するよう圧力をかける。
- 徳重の抵抗と役員会での決着 素人の起用は既存ファンの離脱を招き、箱根駅伝は硬派な王道を守るべきと反論する。広告局の柄本功治の協力を経て、初回放送時から支える大スポンサー(ニッポンビールとセントレア自動車)からタレント起用拒絶の意向を取り付ける。この意向を背景に、役員会で竹芝社長が編成の勇み足と判断し、伝統ある中継方針が守られる。
実況に命を吹き込むアナウンサーたちのドラマ
番組の声を担うアナウンサー陣の選定においても、誇りと信念が激しく衝突する。
- 前田アナの病気降板と後任指名 長年メインを務めた看板アナの前田久志が悪性リンパ腫(ステージII)により無念の降板となる。前田は後任として、扱いにくいとされるものの実力は局内一の古参アナ・辛島文三を推薦する。
- 辛島と北村スポーツ局長が抱える過去の確執 辛島が中継を拒む背景には、かつてプロデューサーだった現スポーツ局長・北村義男との対立が存在する。北村がお涙頂戴の過剰な演出で視聴率を稼いだ一方、辛島はそれをあざとい演出と嫌悪し、スポーツをありのまま伝える美学を貫いていた。
- 丸太真二による実況懇願の説得 辛島の頑なな態度に対し、黒石はバラエティで活躍するタレントアナの丸太真二を起用しようと画策する。しかし丸太自身が辛島のもとへ赴き、箱根駅伝をバラエティのノリにせず事実を等身大に描写できるのは辛島しかいないと頭を下げて実況を懇願する。後輩アナウンサーたちの熱意に動かされ、辛島は深夜のフロアで放送手形を受け取り、実況の担当を承諾する。
泥臭い準備と歴史が紡ぐ中継現場のリアル
華やかな放送画面の裏には、過酷な準備作業と地域社会との地道な信頼関係が存在する。
- 「小涌園前」の呼称に隠された歴史的背景 生中継が困難とされた箱根山間部(5区・6区)を克服するため、初代スタッフは久野林道の山頂に中継施設を設置した。その準備中、スタッフ300名分の宿泊先が未確保となる危機に直面した際、箱根町観光課の一寸木富雄と大広間を提供した箱根小涌園が窮地を救う。大日テレビはその恩義に報いるため、現在も中継内で施設名を連呼し感謝の意を示し続けている。
- 六郷橋固定カメラの代替地確保 1区の見どころである六郷橋付近の定点観測場所が、マンション住民の騒音クレームにより使用不可となる。俯瞰映像の喪失を避けるため、徳重と菜月は真冬の現地で代替建物を一軒ずつ探索する。新築マンションの理事長・太田が熱心な番組ファンであったことから迅速な承認を得て、最良の屋上アングルを確保することに成功する。
まとめ
本作で描かれるテレビ中継は、単に競技を記録して放送するシステムにとどまらない。選手たちの懸命な走りを一切の虚飾なく視聴者へ届けるため、制作陣やアナウンサー、地域住民が誇りを懸けて挑むもう一つの真剣勝負の現場を映し出している。
チームの結束と信頼
小説『俺たちの箱根駅伝 上』において、関東学生連合チームの結束と信頼が再構築される過程は、予選敗退の失意を味わった走者たちが真の競技集団へと生まれ変わる中核的なドラマを形成する。異なる背景を抱えた16名が固い絆を結ぶに至った軌跡を、決定的な転換点を通じて整理する。
初期状態:冷めた現実主義とチームの断層
結成当初の関東学生連合チームは、各大学から集まった寄せ集めの状態にあり、選手間の熱量には大きな隔たりが存在した。
- 松木浩太、富岡周人、内藤星也の3名は、公式記録に残らないオープン参加への全力を無意味と捉え、冷淡な姿勢を崩さない。
- 練習時に後方に固まって走る手抜き走を行い、真剣に走る他の走者との間に明確な断層を生じさせる。
- ロッカールームでの陰口が本人に届くなど、部内の不信感は深刻な水準に達する。
結束への転機:本音をぶつけ合った選手のみのミーティング
状況を打開する最初の契機として、首脳陣を交えない選手だけの対話が実施される。
- 松木が目標設定の非現実性や順位無効の矛盾を主張し、自身のスタンスを正当化しようと試みる。
- 倉科弾が真剣勝負を通じた成長の意義を説き、佐和田晴が最初から諦める姿勢を逃げと批判する。
- 主将の青葉隼斗が、沿道の観衆を前に甘い走りを見せるべきではないと説き、全力を尽くす真剣勝負の重要性を訴える。
- 3名以外の全員が本気の挑戦を望んでいる事実が明らかとなり、純粋な闘争心が全体に共有され始める。
結束への転機:しがらみと葛藤からの解放
主将の隼斗は、選手個々が抱える重圧や心理的拘束に寄り添い、対話を重ねる。
- 富岡周人への働きかけ 偉大な走者である父親との比較に苦しむ富岡に対し、父親の評価基準から離れて自らのために走るよう促し、精神的な呪縛を取り除く。
- 松木浩太への働きかけ 恩師である北野監督の辞任と出場辞退要請に揺れる松木のアパートを訪れ、他者の思惑で走る好機を捨てることへの後悔を説く。一人の競技者として走るべきだと促す。
- 信頼の連鎖 仲間から寄せられた信頼を受け止めた松木は復帰を決意し、その覚悟が内藤の冷めた競技観をも変革へと導く。
結束への転機:甲斐監督が語った走ることの真実
松木が練習へ復帰した朝、甲斐監督が伝えた言葉が部員全体の走る意志を強固に結束させる。
- 自身の職歴を振り返り、社会における理不尽や裏切りに言及する。
- タイム向上を目指す情熱や努力に嘘はなく、陸上競技の世界にこそ真実が存在すると強調する。
- 外部の雑音を排し、己を信じて直向きに走ることの価値を説く。
- 指揮官の言葉に鼓舞された選手たちは円陣を組み、部内の停滞した空気感を払拭する。
伝統の重圧を乗り越えた襷の授与
他大学の伝統に気圧されそうになった選手たちに対し、甲斐監督は夜間の体育館で合同集会を催す。
- 参加16大学の部員や関係者が会場に集い、選手たちを歓迎する。
- 白と赤の襷が数百人の手渡しを経て選手たちの手元へ届けられる。
- 予選で敗れた大勢の仲間たちの思いを実感し、選手たちは自身が本選で最大の支援を受ける存在であることを自覚する。
- 隼斗が全員のために全力を尽くすと誓い、集団の意志が一つに結実する。
まとめ
予選敗退という挫折を経験した16名は、冷笑と不信を乗り越えて自らの走る意義を確立する。記録に残らないオープン参加という制約を受け入れつつ、多くの仲間の信頼と祈りを背負い、揺るぎない結束を持つ一つの集団として本選の舞台へ歩みを進める。
登場キャラクター
登場キャラクター一覧
明誠学院大学陸上競技部
青葉隼斗
明誠学院大学の四年生で、陸上競技部の主将を務める。チームの予選敗退に強い責任感を抱く。学生連合チームの主将として再び箱根駅伝を目指す。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。四年生。前主将。関東学生連合チームのキャプテン。
・物語内での具体的な行動や成果
箱根駅伝予選会において、途中で脇腹を痛めて失速した。一時間三分二十四秒の平凡な記録に終わる。チームは十秒差の十位に届かず十一位で予選落ちを喫した。その後、個人成績により関東学生連合チームのメンバーに選ばれる。連合チーム内での選手だけのミーティングを経て、全員の拍手によりキャプテンに就任した。最終的に本選の十区アンカー走者に指名された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
予選敗退後に部内の主将を退任し、持田研吾に役職を引き継いだ。自分だけが本選を走ることになり、同期の前島友介らから嫉妬や反発を受けて孤立を深める。甲斐新監督からの言葉によって覚悟を決め、自らの走りで周囲に認めさせる決意を固める。
前島友介
明誠学院大学の四年生。チーム内で唯一の箱根駅伝出走経験を持つ。主将の青葉隼斗とは四年間ともに競い合ってきた。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。四年生。エース。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会では隼斗を抜いて上位でフィニッシュした。予選敗退後、学生連合チームに選ばれた隼斗に対して冷ややかな皮肉を放つ。甲斐新監督の一年限定の任期に対しても、自身の出世目的ではないかと強く反発する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三年前に東西大学の安愚楽一樹から亡き母を揶揄される暴言を受け、深いトラウマを抱えていた。その屈辱を晴らす機会を予選敗退によって失う。卒業を待たずに寮を出て、就職先近くのアパートへ転居した。
諸矢久
明誠学院大学陸上競技部を三十八年間にわたり率いた名将。強権的なスパルタ指導から、近年は自主性を重んじる方針へと変化させた。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。前監督。
・物語内での具体的な行動や成果
予選敗退の責任を取り、監督を辞任することを決意した。後任として、伝説のOBである甲斐真人を指名する。隼斗には、学生連合チームのメンバーとして箱根を走るよう強く促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
退任後はすべての役職から完全に身を引き、横須賀の自宅で軍港を眺めながら静かに暮らす。自らの送別会も「敗者には不要」として拒絶した。
持田研吾
明誠学院大学の三年生。ランニング技術と正確なペース配分に優れる。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。三年生。新主将。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会では第三集団を率いて集団走を行い、全体のタイムの底上げを図った。予選敗退後、隼斗たちの指名と部員たちの推薦によって新主将に就任する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
新主将として部をまとめようとするが、甲斐新監督への不信感や部内の白けた空気に挟まれて苦悩する。
三沢陽介
明誠学院大学の二年生。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。二年生。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会において、十人目のランナーとして倒れ込むようにフィニッシュした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化や影響力の記述は確認できない。
小森大樹
明誠学院大学の四年生。本来は実力のあるランナー。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。四年生。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会では怪我のためサポートに回り、フィニッシュ地点で部員のタイム計測を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
怪我のために走者としての出走を逃し、裏方に徹してチームを支えた。
矢野計図
明誠学院大学の三年生。マネージャーとして入部し、現在は主務を務める。湘南第一高校出身。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。三年生。主務。関東学生連合チーム・マネージャー。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会ではタイムの記録とデータ入力を担当した。甲斐監督の指示によって、学生連合チームのマネージャーにも就任する。合宿での選手への細やかな配慮や、他校のデータ分析において高いマネジメント能力を発揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
合宿中に、反対姿勢を取る松木や周人らの不満を隼斗へ伝えて対策を促した。甲斐監督を一方的に非難するマスコミの姿勢や、前島友介の不遜な態度に対して、強い憤りを示して反論する。
宗方通
明誠学院大学の四年生。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。四年生。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会の結果発表時、恐怖と不安の中で胸の前で両手を強く握りしめて祈っていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項の記述はない。
甲斐真人
総合商社「丸菱」に勤務する会社員。かつて「明誠エクスプレス」と呼ばれ、箱根駅伝の二区で三度区間賞を獲得した伝説のランナー。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。新監督。関東学生連合チーム監督。
・物語内での具体的な行動や成果
諸矢前監督の電撃退任を受け、後任監督に指名されて就任した。会社の「社会貢献制度」を利用し、一年間の休職ボランティアという立場でチームを指揮する。学生連合チームの監督も兼任し、「本選三位相当以上」という前代未聞の目標を掲げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
商社時代にブラジルの鉱山買収を巡るトラブルで不条理な責任を問われた過去を持つ。その挫折から「本当に信じられる純粋なもの」を求めて陸上界へ戻ってきた。言葉ではなく実績で自らの能力を証明するため、学生連合チームを率いて本選での好成績を目指す。
岸本
明誠学院大学の二年生。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。二年生。
・物語内での具体的な行動や成果
新主将を決めるミーティングにおいて、一、二年生での話し合いの結果として持田研吾を推薦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
西村浩輝
明誠学院大学の三年生。大阪弁を話す。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。三年生。
・物語内での具体的な行動や成果
主将選考の場で持田研吾へ「お前しかおらん」と声をかけ、周囲の拍手を促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
米山空也
明誠学院大学陸上競技部のOB。大手メーカーの新日本重工に勤務する。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部OB。ボ跨コーチ。
・物語内での具体的な行動や成果
予選敗退後、甲斐新監督の就任が「会社の社会貢献制度を利用した腰掛け」や「出世の道具」であるという疑念を前島友介に伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
OB会の中での発言力が強い。諸矢前監督がOB会へ事前に相談せず独断で甲斐を指名したことに不満を抱く。諸矢からは「甲斐の才能に対する嫉妬」が反対の背景にあると指摘される。
三崎涼
明誠学院大学の四年生。
・所属組織、地位や役職
明誠学院大学陸上競技部。四年生。マネージャー。
・物語内での具体的な行動や成果
前島友介と同じ高校の出身であり、一年生の時の箱根駅伝本選で友介が東西大学の安愚楽一樹から受けた不条理な嫌がらせの事実を、計図に伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
関東学生連合チーム
桐島兵吾
武蔵中央大学の四年生。故障によって走者の道を断たれた。
・所属組織、地位や役職
関東学生陸上競技連盟(関東学連)幹事。関東学生連合チーム・マネージャー。
・物語内での具体的な行動や成果
学生連合チームのマネージャーとして参加する。甲斐監督の掲げた高い目標に対して真っ先に賛同し、選手たちを熱く鼓舞した。練習後のロッカールームで浩太たちの手抜き走を批判する会話を行い、それを浩太に聞かれてしまう。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
生真面目で熱い性格を持つ。自分の大学が予選敗退した悔しさを胸に、連合チームを全力でサポートする。
大沼清治郎
東邦経済大学陸上競技部の監督。御年七十歳。
・所属組織、地位や役職
東邦経済大学陸上競技部監督。関東学生連合チームコーチ。
・物語内での具体的な行動や成果
甲斐監督に誘われ、学生連合チームのコーチに就任する。反対する他大学の監督を自ら説得して練習スケジュールを承認させた。合宿中には豊富な経験を活かし、選手一人ひとりの調子や性格を多面的に見極めるアドバイスを送る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
駅伝界の名将でありカリスマ。甲斐の革新的な目標や指導方針を「おもしろい」と感じ、全面的に協力する姿勢を取る。
北野公一
清和国際大学駅伝チームの監督。現役時代は甲斐真人のライバルとして活躍した。
・所属組織、地位や役職
清和国際大学駅伝チーム監督。関東学生連合チーム前コーチ。
・物語内での具体的な行動や成果
学生連合チームのコーチに就任したが、甲斐の提示した「三位以上」という目標を「非現実的」と切り捨てて対立した。合宿での手抜き練習をとがめられた教え子の松木浩太に対し、チームからの辞退を命令する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大沼監督への気兼ねから当初は目標に沈黙していたが、不満を募らせて最終的にコーチを抗議辞任した。週刊誌の取材に対して甲斐の方針を「素人監督の迷走」と公然に批判して波乱を呼ぶ。
乃木圭介
京成大学の一年生。一年生ながら一万メートル二十八分台の記録を持つ。
・所属組織、地位や役職
京成大学陸上競技部。一年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会では個人成績上位となり、学生連合チームに選出される。練習では常に先頭を走る高い実力を示す。最終的に本選の二区候補および八区走者に指名された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
天真爛漫な天才肌のランナー。甲斐の掲げた高い目標に対しても、挑戦する価値があるとして賛同する姿勢を示した。
村井大地
東邦経済大学の三年生。身長百八十センチを超える長身。
・所属組織、地位や役職
東邦経済大学陸上競技部。三年生。キャプテン。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会における学生連合メンバー中の最速タイムを記録した。練習中も抜群の安定感を示し、圭介らと激しい競り合いを展開する。本選の二区候補に選ばれ、最終的に二区走者としてエントリーされた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高い走力と自信を兼ね備える。甲斐監督の掲げる高い目標に対して「可能性はある」と早い段階で強く支持した。
倉科弾
山王大学の二年生。チーム一の小兵。
・所属組織、地位や役職
山王大学陸上競技部。二年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
一万メートルのレース終盤で驚異的なスパートと底知れないスタミナを見せる。練習中も陽気なキャラクターで周囲を盛り上げた。本選の五区・六区候補となり、最終的に五区の山上り走者に指名された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
所属する山王大学は弱小で、本選出場経験がなかった。本選で戦う機会をくれた連合チームに深く感謝し、真剣勝負を熱望する。
松木浩太
清和国際大学の四年生。チームのエース。
・所属組織、地位や役職
清和国際大学駅伝チーム。四年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
当初は公式記録に残らない連合チームに否定的で、練習で意図的に手を抜いていた。しかし、選手たちの真剣な議論や自身の怠慢に対する批判を耳にし、ランナーとしての誇りを取り戻して全力で走り始める。本選の九区走者に指名された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
生活困窮から救ってくれた恩師・北野監督への強い恩義から、監督の辞退命令に葛藤する。最終的に、自ら清和国際大学の陸上部へ退部届を提出し、退路を断って連合チームへ合流した。
富岡周人
目黒教育大学の四年生。素浪人風の得体の知れない雰囲気を持つ。
・所属組織、地位や役職
目黒教育大学陸上競技部。四年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
参考記録に終わる連合チームでの走りを無意味とし、練習を放棄するような態度を見せていた。青葉隼斗から「自分自身のために走るべき」と諭され、父親への葛藤を明かす。本選の三区走者に指名された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
偉大なランナーである父親・富岡和人から平凡と評され、常に比較されて苦しんできた。
内藤星也
関東文化大学の二年生。将来フルマラソンへの挑戦を志す。
・所属組織、地位や役職
関東文化大学陸上競技部。二年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
箱根駅伝が必要以上に特別視される現状に冷ややかな視線を向けていた。朝の自主練習では常に一番乗りをして走り込む高い姿勢を持つ。本選では隼斗が希望していた四区の走者に指名された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
箱根を単なる「通過点」として位置づけていたが、競技人生の最後として箱根を走る松木浩太の覚悟に触れ、内面に確かな変化が生まれる。
峰岸蓮
多摩大学の二年生。
・所属組織、地位や役職
多摩大学陸上競技部。二年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
練習後のアンケートで、どの区間を走りたいかなどの回答を最後まで深く悩んでいた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
熱しやすく冷めやすい性格とされ、甲斐監督からは集中力が長続きしにくいとして「往路向き」と評価される。
佐和田晴
調布大学の四年生。物静かで感情をあまり表に出さない。
・所属組織、地位や役職
調布大学陸上競技部。四年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
選手だけのミーティングで、諦めることを「逃げ」だとして、高い目標へ挑戦するスタンスを明確に支持した。千葉合宿では冷たい雨の悪天候の中、鋭いスパートを見せて周囲を驚かせる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
悪天候における適性の高さが証明され、本選の三区・七区候補に割り当てられた。
咲山巧
関東中央大学の四年生。一万メートル二十八分台の記録を持つ選抜チーム屈指のランナー。
・所属組織、地位や役職
関東中央大学陸上競技部。四年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
ミーティングで目標に懐疑的な浩太たちに対し、可能性を頭から否定する方が根拠がないと反論した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エース区間である二区の候補、および七区の候補に指名された。
桃山遙
東洋商科大学の二年生。走力は選抜チームでもトップクラス。
・所属組織、地位や役職
東洋商科大学陸上競技部。二年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
練習のデッドヒートにおいて、乃木圭介や倉科弾と高いレベルで競り合った。本選の七区走者に指名される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
晴天時の走力は高いが、雨の悪天候では走りを崩して精彩を欠くという弱点が明らかになる。
諫山天馬
品川工業大学の四年生。飄々としていていつも笑顔を浮かべる。
・所属組織、地位や役職
品川工業大学陸上競技部。四年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
「親を喜ばせたい」という理由から、テレビに長く映る一区を希望する。千葉合宿の冷たい雨の中でも安定した走りを見せた。本選の一区走者に指名される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
今年が大学最後の挑戦。自身の集大成として、応援してくれた人々に晴れ姿を見せる強い思いを抱く。
猪又丈
武蔵野農業大学の二年生。大柄でがっしりとした体格を持つ。
・所属組織、地位や役職
武蔵野農業大学陸上競技部。二年生。関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
一万メートルは二十九分台だが、坂道に強い特性をアピールして五区・六区を希望した。本選の六区山下り走者に指名される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
練習後のロッカールームで浩太たちの不誠実な態度への不満を口にし、それを浩太本人に聞かれる原因を作った。
渡瀬拓
四区の候補選手。
・所属組織、地位や役職
関東学生連合チーム選抜選手。
・物語内での具体的な行動や成果
四区の下見を事前に行い、アップダウンや海風の強さを確認した感想を隼斗と語り合った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化に関する記述はない。
大日テレビ
徳重亮
スポーツ中継に二十年以上関わってきた熱血漢。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ・スポーツ局。チーフ・プロデューサー。
・物語内での具体的な行動や成果
お正月の花形番組である「箱根駅伝」中継の責任者を務める。編成局長・黒石武からの人気タレント起用案に対し、伝統的なスポーツ中継の質を守るため真っ向から反対した。大スポンサー企業の賛同を取り付け、役員会で提案を阻止することに成功する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
番組の伝統を重んじ、選手たちを主役に据える姿勢を貫く。前田アナの病気降板を受け、実力はあるが扱いにくい辛島文三を説得して代役に据えた。
宮本菜月
大日テレビの入社十年目。詳細な取材データに基づく構成力を徳重から高く評価されている。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ・スポーツ局。チーフ・ディレクター。
・物語内での具体的な行動や成果
女性初のチーフ・ディレクターとして中継現場の指揮を執る。六郷橋での撮影マンション使用不可トラブルに際し、徳重とともに現地を歩いて代替の新築マンションを確保した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
辛島文三へ直接「放送手形」を渡し、ぶっきらぼうな実況引き受けの言葉に涙を流して感謝した。
黒石武
バラエティ畑で実績を上げて出世してきた野心家。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。編成局長。
・物語内での具体的な行動や成果
視聴率向上のため、人気お笑いタレントの畑山一平をスタジオゲストに起用するよう現場へ圧力をかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
徳重に無断で芸能事務所社長の田村健一郎に畑山の出演を約束したが、役員会で社長の竹芝から「編成の勇み足」と判断されて収拾を命じられる。その後、お気に入りのタレントアナである丸太真二をセンターアナへねじ込もうと画策した。
坂田信久
大日テレビの伝説的なテレビマン。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。初代プロデューサー。
・物語内での具体的な行動や成果
中継技術が未発達だった時代に、多くの困難を乗り越えて「箱根駅伝」の生中継を成功に導いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼が書き上げた『箱根駅伝 放送手形』は、現在の中継チームにとってもバイブルとして受け継がれている。
田中晃
大日テレビの伝説的なディレクター。細やかな気配りと人望の厚さを持つ。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。初代総合ディレクター。
・物語内での具体的な行動や成果
坂田信久の右腕として、詳細なルールを定めた中継台本『箱根駅伝 放送手形』を作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼が掲げた「準備せよ」というモットーは、現在の制作現場にも脈々と受け継がれている。
大西一孝
大日テレビの関係者。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。
・物語内での具体的な行動や成果
物語の細部での言及はあるが、具体的な中核的行動の記述は確認できない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
柄本功治
徳重亮の同期入社。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。広告局の担当者。
・物語内での具体的な行動や成果
タレント起用案に悩む徳重からの依頼を受け、大スポンサーであるニッポンビールとセントレア自動車の反対意向を確認する協力をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の協力が、役員会における徳重の勝利に決定的な役割を果たした。
柏木正臣
報道記者出身。社内政治でしのぎを削ってきた策略家。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。制作統括役員。
・物語内での具体的な行動や成果
黒石編成局長による畑山一平の起用案を支持し、役員会において徳重の独断を「重大な過失」として追及した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
次期社長候補の筆頭と目されている。自らの出世の邪魔をする存在は容赦なく切り捨てる冷徹さを持つ。
竹芝秀彦
大日新聞社からの出向組。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。社長。
・物語内での具体的な行動や成果
役員会において、大スポンサー企業の意向を背景とした徳重の説明を聞き、黒石による提案を「編成の勇み足」と判断した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
黒石に事態の収拾を命じる一方、徳重には従来通りの硬派な番組制作を続けるよう命じた。
戸越建
営業や財務、コンプライアンスなどの管理部門を歩んできた役員。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。役員。
・物語内での具体的な行動や成果
コストに細かく口出しをすることから制作サイドからは煙たがられている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
次期社長レースにおける柏木正臣の対抗馬と目される。
北村義男
かつて「箱根駅伝」のプロデューサーとして、過剰な演出による美談で高視聴率を稼いだ。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。スポーツ局長。
・物語内での具体的な行動や成果
徳重の上司。柏木役員の意向に逆らうのは難しいとして、当初はタレント起用案に日和見的な態度を取った。徳重に対して「プロデューサーとして大局的な視点から番組を守れ」と毒舌を交えて示唆する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
黒石武とは同期でありライバル関係に位置する。実況を拒む辛島文三を説得するための接待の席に同席したが、十年前の確執から再び激しい口論を展開した。
前田久志
局内での人望が厚く、看板アナウンサーとして活躍してきた。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。アナウンサー。前センター・アナウンサー。
・物語内での具体的な行動や成果
本選のセンター・アナウンサーに内定していたが、人間ドックで悪性リンパ腫(ステージII)が発覚して降板を余儀なくされる。後任としてベテランの辛島文三を強く推薦し、長年撮り溜めた綿密な取材ノートを徳重に託した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
病気療養のため入院生活に入った。彼の降板が、中継チームの実況体制崩壊の危機を招く。
辛島文三
技術力は局内随一とされるが、極めて気難しく扱いにくいことで知られる古参。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。アナウンサー。新センター・アナウンサー。
・物語内での具体的な行動や成果
前田久志の推薦を受けて説得されるが、選手の私生活を過度に演出する「お涙頂戴」の中継方針を嫌悪して拒否し続けた。後輩の丸太真二らの真摯な直談判に動かされ、最終的に放送手形を受け取って実況を引き受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「事実を事実のまま、まっさらな白紙の上で伝える」という強い矜持を持つ。取材時に強引な週刊誌記者から青葉隼斗を守る大人の優しさを見せた。
平井健二朗
入社十年目で頭角を現している。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。アナウンサー。
・物語内での具体的な行動や成果
看板アナウンサー前田久志の後任候補として名前が挙げられたが、徳重から「箱根には軽すぎて落ち着きに欠ける」として見送られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
将来のアナウンス部を背負う逸材と目されている。
丸太真二
歯切れの良い実況と大袈裟な表現で、バラエティや歌番組の司会として活躍する。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。アナウンサー。
・物語内での具体的な行動や成果
黒石編成局長からセンターアナとしての起用を打診され、葛藤しながらも承諾した。しかし、自ら辛島文三のもとを訪ね、「箱根をチャラチャラした番組にしたくない」と頭を下げて実況を懇願した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
元々はスポーツアナウンサー出身。事実を等身大に描写する辛島の実況こそが箱根駅伝に相応しいという信念を貫いた。
横尾征二
「箱根駅伝」中継で一号車を担当する。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。アナウンサー。
・物語内での具体的な行動や成果
東西大学のタイムトライアル取材に同行し、平川監督の選手の見極めや戦力分析、選手たちの走りを克明に記録した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
辛島の起用決定時には進んで拍手を送り、辛島が持つ選手への隠れた優しさを評価した。
戸山
大日テレビの関係者。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。
・物語内での具体的な行動や成果
記述の範囲において具体的な行動の言及は確認できない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
安原康介
学生連合チームなどを担当する若手。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。アナウンサー。
・物語内での具体的な行動や成果
学生連合チームを「最下位争いの常連」と見下し、取材を渋りながら多摩寮を訪れた。甲斐監督の「三位以上」という目標を大言壮語と笑いものにし、取材の継続を打ち切ろうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事の本質を深く探ろうとしない軽薄な取材姿勢を、徳重プロデューサーからとがめられる。
谷藤亜希
センタースタジオを担当する若手のサブアナウンサー。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。アナウンサー。
・物語内での具体的な行動や成果
東西大学のタイムトライアルを取材し、厚い選手層と平川監督の指導力を目の当たりにして興奮を報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
牧野
大日テレビの若手ディレクター。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。ディレクター。
・物語内での具体的な行動や成果
六郷橋での固定カメラ設置予定だったマンションから、住民の反対を理由に使用不可の連絡を受けた事実を、菜月らのミーティングで報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
その他の大学
森本
予選会での他校のランナー。
・所属組織、地位や役職
他大学の陸上競技部員。
・物語内での具体的な行動や成果
記述の範囲において具体的な中核的行動の言及は確認できない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
平川庄介
東西大学駅伝部の監督。学生時代はエースとして二区を走った。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部監督。
・物語内での具体的な行動や成果
雑誌のインタビューにおいて、予選会を率いていない甲斐真人の就任や、連合チームの「三位以上」という目標を「失笑もの」と公然に批判した。タイムトライアルを指揮し、青山学院の連覇阻止に向けた強固な戦力を整える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
学生時代のライバルであった甲斐真人に対し、激しい対抗意識を燃やす。本選では「学生連合に東西大の前を絶対に走らせない」と敵意をむき出しにした。
原晋
青山学院大学陸上競技部の監督。
・所属組織、地位や役職
青山学院大学陸上競技部監督。
・物語内での具体的な行動や成果
二〇〇八年に総合四位に入った伝説的な「学連選抜チーム」の監督を務めて指揮を執った実績を持つ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の成功事例が、現在の連合チームが目標へ挑む際の大切な歴史的根拠として言及される。
中川
目黒教育大学陸上競技部の監督。
・所属組織、地位や役職
目黒教育大学陸上競技部監督。
・物語内での具体的な行動や成果
甲斐監督からの問い合わせに対し、富岡周人とその父親である富岡和人との間に複雑な確執がある事実を明かした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
名倉仁史
知将「プロフェッサー」の異名をとる。
・所属組織、地位や役職
関東大学駅伝チーム監督。
・物語内での具体的な行動や成果
前回大会の復路での大失速による敗北を自らの「作戦ミス」と悔やむ。雪辱を期す今回の本選では、経験のない下級生を排し、経験値の高い三、四年生の上級生を中心とした「スキの無い布陣」を敷く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
走力は高いが本選未経験の竹光大斗の起用を巡り、名倉監督が失敗を恐れるジレンマを抱える。
青木翼
東西大学の絶対的なエース。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。ランナー。
・物語内での具体的な行動や成果
タイムトライアルでは先頭を快走した。本選では二区での出走が確実視されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
関東大学のエース坂本冬騎から打倒ターゲットとして名指しされる実力を持つ。
南広之
東西大学の二年生。前回大会は一年生ながら三区で好走した。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。二年生。
・物語内での具体的な行動や成果
タイムトライアルにおいて、エースの青木翼に勝負を挑んで一時並んだが、闘争心の強さから失速して後続に抜かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実力は高いが感情むき出しになって自滅する悪癖を平川監督から指摘される。
八田貴也
東西大学の三年生。一万メートル二十七分台の驚異的なスピードを持つ。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。三年生。
・物語内での具体的な行動や成果
タイムトライアルにおいて、失速した南広之を抜き去って高い走力をアピールした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
急激に実力を伸ばしてきたが、箱根駅伝の本選経験はない。
黒井雷太
常に無表情で走ることから「笑わない男」の異名を持つ。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。三年生。
・物語内での具体的な行動や成果
タイムトライアルにおいて、手堅い走りを見せて上位でフィニッシュした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
本選への登録メンバー十六人の中に名を連ねる。
芥屋信登
前回大会の五区でいきなり登場して区間賞を獲得した。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。二年生。
・物語内での具体的な行動や成果
「ニュー山の神」として注目され、今回の本選でも五区山上りでの出走が確実視されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
本選メンバーの十六人へ順当に登録された。
安愚楽一樹
抜き去る選手を睨みつけるパフォーマンスで知られる「悪童」。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。四年生。
・物語内での具体的な行動や成果
三年前の本選四区において、一年生だった前島友介の待機スペースのタオルをわざと踏みつけた。さらにレース中に追い抜く際、友介を「ママ」とからかって精神的に深く傷つけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
本選では十区のアンカー走者として出走することが平川監督から明言されている。
坂本冬騎
関東大学の不動のエース。
・所属組織、地位や役職
関東大学駅伝チーム。三年生。
・物語内での具体的な行動や成果
合宿でのタイムトライアルにおいて、一キロ三分を切るペースを維持する素晴らしい走りを見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
前年の二区で負けた東西大学の青木翼への打倒を強く誓う。
橋爪
東西大学の四年生。一年生から三度箱根を走った経験を持つ。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。四年生。
・物語内での具体的な行動や成果
今回のチームエントリーから外された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
平川監督による「攻めの布陣」のために、経験者ながら登録メンバーから除外される。
三島
東西大学の四年生。箱根を三度走った実績を持つ。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部. 四年生。
・物語内での具体的な行動や成果
橋爪らと同様、今回の十六人のエントリーから外された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
平川監督の若手抜擢方針により登録メンバーから外される。
河内
東西大学の四年生。箱根の三度出走経験を持つ。
・所属組織、地位や役職
東西大学駅伝部。四年生。
・物語内での具体的な行動や成果
橋爪、三島らとともに、エントリーメンバーから外された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
経験豊富な四年生でありながら登録から除外された。
宮藤道大
昨年は五区で好走し、往路優勝に貢献した。
・所属組織、地位や役職
関東大学駅伝チーム。
・物語内での具体的な行動や成果
合宿の練習走の後半において、見る影もなく大失速して名倉監督を悩ませた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実力はあるが走りに波がある特性を指摘される。
竹光大斗
一万メートル二十七分台の優れた実力を持つ。
・所属組織、地位や役職
関東大学駅伝チーム。三年生。
・物語内での具体的な行動や成果
合宿の練習走では、後半からの鋭いスパートで高いタイムを記録した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
走力は高いが本選の出走経験がなく、前年の失敗を恐れる名倉監督の起用躊躇によって陰に置かれようとしている。
桑原伸也
三年前の箱根四区走者。
・所属組織、地位や役職
國學院大學陸上競技部。
・物語内での具体的な行動や成果
三年前の本選四区において、失速する前島友介に並びかけて抜き去っていった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき記述はない。
外部関係者・その他
田村健一郎
「タムケン」と呼ばれ、芸能界に強い睨みを利かせる大親分。
・所属組織、地位や役職
芸能プロダクション「タムケンプロ」社長。
・物語内での具体的な行動や成果
黒石編成局長からの約束に基づき、所属タレントの畑山一平を箱根実況ゲストに起用するよう求めた。徳重プロデューサーから直接断られ、大日テレビ全体とのタレント出演関係の見直しを示唆して激怒した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
業界のドンとして恐れられる存在。竹芝社長の指示により、怒らせた黒石武が自らの責任で問題を処理することとなった。
畑山一平
最近では報道番組にも出演し、お笑いから知性派への転身を図っている。
・所属組織、地位や役職
お笑いタレント。
・物語内での具体的な行動や成果
黒石編成局長によって箱根実況のゲストにねじ込まれようとしたが、現場の激しい反対とスポンサーの拒絶によって出演案が完全に立ち消えとなった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女子からの人気が高い。
繁
青葉隼斗の祖父。大の箱根駅伝ファン。
・所属組織、地位や役職
青葉隼斗の家族。
・物語内での具体的な行動や成果
隼斗が陸上競技を始める直接のきっかけを作った。経済的に苦しい青葉家の状況の中で、なけなしの老後生活費から隼斗の大学学費を工面した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
隼斗にとって「箱根を走る姿を見せたい」と強く願う原動力となる存在。
一寸木富雄
かつて箱根町観光課に在籍していた。
・所属組織、地位や役職
箱根町観光課職員。
・物語内での具体的な行動や成果
「箱根駅伝」初回中継の準備中、スタッフの宿泊先が未確保となる大ピンチに際し、自らのネットワークを駆使して箱根中の宿へ連絡を入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の熱い馬力が、箱根小涌園の大広間確保という奇跡的な窮地救済へ繋がった。
真野口
六郷橋近くのマンションに暮らす。
・所属組織、地位や役職
マンション新住民。
・物語内での具体的な行動や成果
「正月早々、騒がしくて迷惑だ」として、長年大日テレビが固定カメラを設置していた屋上の使用に対し、強硬なクレームをつけて協力を拒否した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女の拒絶により、中継チームは代替のカメラ設置場所を緊急で探す必要に迫られた。
太田
六郷橋のたもとに建つ茶色の新築マンションの理事長。温厚な性格。
・所属組織、地位や役職
マンション管理組合・理事長。
・物語内での具体的な行動や成果
自宅から箱根駅伝を観るのが夢だった熱狂的なファン。徳重や菜月からの屋上使用の申し出を快諾した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
迅速に「メール理事会」を招集して承認を取り付け、従来以上に最高の俯瞰アングルを中継チームに提供した。
和久田玲
甲斐真人の丸菱鉄鋼部門での二年後輩。
・所属組織、地位や役職
総合商社「丸菱」鉄鋼部門。
・物語内での具体的な行動や成果
個人的なツテを通じて徳重亮と会い、甲斐がブラジル鉱山買収トラブルで不条理な責任を問われて失望していた過去を明かした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
甲斐が「本当に信じられる純粋な情熱の場」を求めて監督就任を決意したのではないかと、その心理を代弁した。
富岡和人
かつて箱根駅伝で鳴らし、その後も実業団で活躍した有名なランナー。
・所属組織、地位や役職
箱根駅伝OB。
・物語内での具体的な行動や成果
息子の富岡周人に対し「平凡なランナー」として一切認めない冷淡な態度を取り、常に高いレベルと比較して苦しめ続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「公式な正式記録しか認めない」という彼の強固な価値観が、周人が学生連合チームでの走りを拒絶する精神的な呪縛となっていた。
稲垣知典
『週刊スポルト』の記者。
・所属組織、地位や役職
週刊誌記者。
・物語内での具体的な行動や成果
学生連合チームの不協和音をスキャンダルとして書き立てるため、合宿練習後の青葉隼斗に強引に迫って「社会へ応える義務がある」などと脅し気味に取材を試みた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
割込んで臨んだ辛島文三から取材のルール違反を厳しくとがめられ、気圧されて逃げるように立ち去った。
登場集団・組織
明誠学院大学陸上競技部
かつて箱根駅伝を連覇したこともある伝統の名門校。
・所属組織、地位や役職
関東学生陸上競技連盟加盟校。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会において、エース青葉隼斗の失速が響き、十位の専修大学と「わずか十秒差」の十一位で本選出場を逃した。その後、三十八年率いた諸矢監督が退任し、商社を休職した甲斐真人が新監督に就任して個別課題による思考力育成の指導を始める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
突然の監督交代や、自分だけが連合チームで本選を走る隼斗への嫉妬などから、部内に深刻な不信感と人間関係の亀裂が生じた。
関東学生連合チーム(関東学生連合)
予選会で敗退した大学のトップランナーたちを集めて結成される混成チーム。
・所属組織、地位や役職
関東学生陸上競技連盟選抜チーム。
・物語内での具体的な行動や成果
公式記録に残らない「オープン参加」という制約から、当初は選手たちのモチベーションに深刻な温度差が存在した。甲斐監督が掲げた「本選三位相当以上」という高い目標や、選手だけの本音のミーティングを経て、徐々に勝利への執念を共有し始める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
北野コーチの抗議辞任やメディアからのバッシングを乗り越え、合宿先の体育館で十六大学の仲間たちから白地に赤のタスキを受け取る。全ての仲間の祈りを背負う「本選で最大の応援を受けるチーム」として強固に結束した。
関東学生陸上競技連盟(関東学連)
箱根駅伝および予選会を主催する競技団体。
・所属組織、地位や役職
学生陸上競技連盟。
・物語内での具体的な行動や成果
予選会の公式タイムの集計や本選出場校の決定、および関東学生連合チームの選抜手続きを担当した。諸矢前監督が退任し、後任の甲斐真人が連合チームの監督を兼任する手続きについて「問題なし」と承認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
物語の進行プロセスにおける制度的な意思決定機関として機能する。
大日テレビ「箱根駅伝」中継スタッフ
お正月の巨大な看板中継番組を支える約九百五十名の制作陣。
・所属組織、地位や役職
大日テレビ。
・物語内での具体的な行動や成果
初回中継から引き継がれるバイブル『箱根駅伝 放送手形』に基づき、選手を主役とした硬派な中継方針を堅持する。編成局からの番組バラエティ化の要求や、実況アナウンサーの緊急病気入院、撮影カメラ場所の拒絶トラブルなどの困難を一つずつ克服していった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
選手たちの命がけの走りを、一切の嘘や虚飾を交えずに「事実を事実のまま」届けるプロフェッショナルとしての誇りを持つ。
東西大学駅伝チーム(東西大学駅伝部)
前回の本選で総合二位に入り、今回の大会でも優勝候補の筆頭とされる強豪校。
・所属組織、地位や役職
関東学生陸上競技連盟加盟校。
・物語内での具体的な行動や成果
絶対的エースの青木翼や、五区区間賞の芥屋信登、武闘派の安愚楽一樹ら強力なランナー陣を擁する。平川監督の指導のもと、青山学院の連覇阻止を至上命令としてタイムトライアルなどの過酷な選考を敢行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
平川監督による、実績ある経験豊富な四年生を外して若手を抜擢する「攻めの区間配置」が注目される。
関東大学駅伝チーム
知将名倉監督が率いる駅伝界の常連強豪校。
・所属組織、地位や役職
関東学生陸上競技連盟加盟校。
・物語内での具体的な行動や成果
前回大会では往路優勝を飾りながら、復路での経験不足の若手起用が響いて総合六位に沈んだ。その痛恨の失敗を踏まえ、今回の本選では経験値の高い三、四年生の上級生を中心に据えた手堅い「スキの無い布陣」を組む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
走力は高いが本選未経験の竹光大斗の起用を巡り、名倉監督が失敗を恐れるジレンマを抱える。
青山学院大学陸上競技部(駅伝チーム)
今回の本選において優勝候補の筆頭とされる絶対的な強豪校。
・所属組織、地位や役職
関東学生陸上競技連盟加盟校。
・物語内での具体的な行動や成果
連覇を狙う圧倒的な安定感と豊富な選手層を誇る。一万メートルの平均タイムでも他の追随を許さないトップの記録を並べる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
東西大学や関東大学、さらには学生連合チームが打倒を狙う最大のターゲットとして位置づけられる。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
展開まとめ
第一章 予選会
十秒差の敗退
箱根駅伝予選会で、明誠学院大学主将の青葉隼斗は前島友介とともに上位集団を走っていたが、十二キロ付近から脇腹を痛めて失速した。終盤に立て直したものの想定より遅い一時間三分二十四秒で終わり、明誠学院は本選出場圏の十位にわずか十秒届かず十一位となった。
隼斗は自分の失速が敗因だと責任を感じたが、監督の諸矢久は、敗北によって一年間の努力まで否定されるわけではなく、失敗を次へつなげることが重要だと選手たちを励ました。
諸矢の辞任と甲斐の就任
予選会後、諸矢は四十年近く務めた監督を辞任すると明かした。後任は、現役時代に明誠学院の二区を四年連続で走り、三度区間賞を獲得した甲斐真人であった。
甲斐は卒業後に総合商社・丸菱へ入り、陸上競技から離れていた。会社の社会貢献制度を利用した一年間の監督就任だったため、隼斗や部員たちは指導経験のない甲斐への不安を抱いた。
一方、隼斗は予選会敗退校の日本人選手中十四番目となり、関東学生連合チームに選ばれる可能性を告げられた。諸矢は、自分に学生連合監督の打診があっても甲斐へ任せるつもりだと語り、隼斗には仲間たちのためにも本選を走れと促した。
箱根駅伝中継の改革案
大日テレビでは、チーフ・プロデューサーの徳重亮とチーフ・ディレクターの宮本菜月が箱根駅伝中継の準備を進めていた。
編成局長の黒石武は新規視聴者獲得のため、お笑いタレント・畑山一平のゲスト出演を求めた。しかし徳重は、選手とレースを主役に据える従来の硬派な中継方針が損なわれると反対した。
甲斐への不信
甲斐は正式に明誠学院の監督へ就任し、主将には持田研吾が選ばれた。甲斐は、箱根を目指した学生時代こそ自分の原点であり、明誠学院を再び常連校へ戻したいと宣言した。
しかし、一年限定の制度を利用した就任であることから、部員たちには腰掛けや出世目的ではないかという疑念が広がった。隼斗も疑問を抱いたが、同時に学生連合への選出が正式に決まり、自分だけが箱根へ進むことへの後ろめたさも背負うことになった。
第二章 社内政治
徳重と黒石の対立
徳重は箱根駅伝の伝統を守るため、タムケンプロの田村健一郎に畑山の出演を断った。田村は激怒し、所属タレント全体の大日テレビ出演を再考すると示唆した。
黒石は徳重の独断を問題視したが、徳重は制作責任者として番組を守るための判断だったと反論した。スポーツ局長の北村からは、上層部の意向に正面から逆らうのではなく、プロデューサーとして従来の箱根駅伝を守る方法を考えろと示唆された。
スポンサーの反対
役員会で徳重は、箱根駅伝の大スポンサーであるニッポンビールとセントレア自動車が、タレント起用による番組改変に反対していることを明かした。
竹芝社長は編成側の勇み足と判断し、黒石にタムケンプロとの問題を処理させる一方、徳重には従来通りの番組制作を続けるよう命じた。
甲斐の個別課題
明誠学院では、甲斐が三年生以下の約七十人全員に異なる課題を与え、二カ月間の自主練習へ入らせた。
甲斐は、箱根駅伝では予定通りに進まない事態が必ず起きるため、ランナー自身が状況を判断し、考えながら走る力が必要だと説いた。
さらに隼斗の学生連合入りと、自身がその監督を務めることを発表した。しかし友介らには、甲斐が明誠学院を放置して学生連合へ向かうように映り、隼斗との間にも亀裂が生じた。
甲斐との対話
隼斗が一年限定就任への不信を直接ぶつけると、甲斐は明誠学院を変えるには一年では足りず、長く監督を続ける可能性も考えていると明かした。
ただし会社の制度上、現時点では退職を公言できなかった。甲斐は、監督として認められるには言葉ではなく実績が必要だと考え、学生連合を率いて箱根で結果を示すつもりだった。
隼斗にも、周囲の反発を理由に辞退せず、本選で納得させる走りを見せろと求めた。この対話を通じ、隼斗は甲斐への信頼を持ち始めた。
第三章 アンカー
前田アナの緊急入院
箱根駅伝中継のセンターアナを務める予定だった前田久志が悪性リンパ腫と診断され、降板することになった。
前田は徳重へ詳細な取材資料を託し、後任にベテランの辛島文三を推薦した。辛島には複数の状況を同時に把握して伝える能力があり、過去に箱根駅伝の実況経験もあった。
辛島への依頼
徳重は辛島へ出演を依頼したが、辛島は過去に選手の私生活や悲劇を過度に演出する中継方針と対立した経験から断った。
辛島は、選手の背景を勝手に感動物語へ変えることを嫌い、事実を事実のまま伝えることを信条としていた。
徳重や北村との話し合いでも考えは変わらなかったが、後に丸太真二や他のアナウンサーたちから、箱根駅伝を任せたいと説得された。
辛島の決意
辛島はその夜、菜月のもとを訪れて箱根駅伝の放送手形を読み込み、翌日キューシートを届けるよう求めた。
明言は避けたものの、菜月はその言葉を出演受諾の意思として受け止めた。
学生連合の上位争い
一方、甲斐は学生連合に毎週末の合同練習と年末の合宿を組み込み、大沼清治郎もコーチに迎えた。
甲斐が掲げた目標は、単なる本選経験ではなく上位争いだった。急造チームでありながら結果を求める方針に、隼斗たちは驚きつつも新たな挑戦へ向かった。
第四章 学生連合チーム始動
初顔合わせと三位以上の目標
東邦経済大学の多摩寮へ集まった学生連合の十六人には、村井大地、乃木圭介、倉科弾ら各大学の有力選手が揃っていた。
甲斐は大沼と北野公一をコーチとして紹介し、本選三位以上という目標を掲げた。公式順位が残らなくても、本気で戦わなければ意味がないと訴えた。
十六人中十人が一万メートル二十八分台の実力を持つことから、準備と戦略次第では上位争いも可能だと説明し、選手たちから次第に賛同を得た。
隼斗のキャプテン就任
兵吾の提案でキャプテンを決めることになり、立候補した隼斗が全員の拍手によって選ばれた。
甲斐は毎週末の練習と年末合宿を含む厳しい日程を提示し、他校との差を埋めるにはそれでも足りないとした。
実戦を意識した練習
練習では単純なタイムだけでなく、集団走や一対一の競り合いを組み込み、判断力や駆け引きまで確認した。
甲斐は事前に各選手の性格や生活環境まで調べ、細かな個別指導を行った。隼斗もスパート判断の遅れを正確に指摘され、甲斐が一人ひとりを詳細に見ていることを知った。
チーム内の温度差
松木浩太、富岡周人、内藤星也は、公式記録に残らない学生連合の目標に否定的だった。
甲斐は無理に考えを変えさせず、仲間との交流を通じて本人たちが考えるのを待つことにした。
候補区間とコース研究
甲斐は十六人に二つずつ候補区間を割り当て、隼斗には四区と十区が与えられた。
選手たちは担当候補区間を実際に歩き、坂、風、路面、気温などを確認し、過去映像も使って複数のレース展開を考えるよう求められた。
第五章 箱根につづく道
辛島のセンターアナ就任
大日テレビでは辛島のセンターアナ就任が正式に決まった。徳重は、辛島の事実を事実のまま伝える姿勢こそ、映像の裏にある選手の真実を伝えるために必要だと考えた。
準備では、初回放送時に宿泊先を確保し忘れ、箱根小涌園の協力によって窮地を救われた過去も確認された。その恩義から、大日テレビでは現在も中継地点を小涌園前と呼び続けていた。
六郷橋のカメラ問題
一区の重要地点である六郷橋を撮影してきたマンションが住民の反対で使用できなくなった。
徳重と菜月は周辺を探し、新しいマンションを発見した。箱根駅伝ファンの理事長の協力と理事会の承認を得て、従来以上に良好な撮影地点を確保した。
四区と十区の下見
隼斗と計図は四区を歩き、アップダウンや海風、終盤の上りなどを確認した。隼斗は、状況を考えながら走る力が求められる四区に自分の適性を感じた。
後日歩いた十区は比較的平坦で、四区ほど自分向きとは思えなかった。それでも、任された区間なら必ず走ると決意した。
甲斐の過去
徳重は明誠学院OBの米山から、諸矢がOBへの根回しなしに甲斐を後任へ選んだことを聞いた。
さらに丸菱の和久田玲から、甲斐がブラジル鉱山買収案件の責任を負わされ、上司にも見放された過去を知った。
玲は、その経験で信じられるものを求めるようになった甲斐が、箱根を目指す学生たちの純粋な情熱に価値を見出したのではないかと考えていた。
第六章 それぞれの組織論
三人の反発
二度目のミニ合宿でも、浩太、周人、星也は学生連合の方針に否定的だった。
長距離走では三人が意図的に力を出さず最後尾付近を走り、隼斗は真剣に練習しろと叱責した。甲斐も、不満があるなら話し合い、自分がアスリートとしてどうあるべきか考えろと命じた。
北野と甲斐の衝突
北野は、三位以上という目標は非現実的であり、寄せ集めの学生連合が上位へ入れるほど箱根は甘くないと甲斐を批判した。
甲斐は選手の実力から十分可能だと反論したが、北野との溝は埋まらなかった。
選手だけのミーティング
浩太の提案で、十六人だけの話し合いが開かれた。
浩太、周人、星也は、正式順位も残らないのに三位以上を目標にすることへ反対した。一方、大地、弾、晴、巧、丈、天馬らは、本気で強豪と戦うことに価値があるとして甲斐の方針を支持した。
最終的に目標を非現実的と考えたのは三人だけとなった。隼斗は、公式記録にならなくても観客の前では順位がつき、箱根へ出る以上は真剣勝負をするべきだと訴えた。
北野の圧力と平川の批判
清和国際大学へ戻った浩太は、北野から学生連合への否定的な考えを改めて聞かされ、自分の判断を縛られた。
その頃、東西大学の平川庄介監督も専門誌で学生連合と甲斐を公然と批判し、三位以上という目標を失笑ものと評した。
甲斐は反論せず、本選で答えを出せばいいと受け流した。
第七章 チーム断層
周人と父の確執
隼斗は、周人の父・富岡和人がかつて箱根駅伝で活躍した選手だと知った。
周人は幼い頃から父と比較され、父が取れなかった区間賞を目標にしてきた。しかし学生連合では記録が参考扱いとなるため、正式記録しか認めない父には評価されないと考えていた。
隼斗は、父の価値観ではなく自分自身のために走ればいいと伝えた。
浩太の全力走
次の長距離走で、それまで手を抜いていた浩太が全力を出し、隼斗と僅差の四位に入った。周人と星也も上位で走り、三人の姿勢に変化が生まれた。
しかし北野はその変化を受け入れず、学生連合のコーチを辞任すると決め、浩太にも辞退を求めた。
甲斐批判の拡大
北野の辞任は、甲斐の方針へ抗議したものとして週刊誌やネットで報じられ、平川の批判と重なって甲斐への非難が広がった。
徳重は、選手自身の意見を取材せず、一方的な主張だけを扱う報道姿勢を疑問視した。
明誠学院でも友介が報道を信じて甲斐を批判し、隼斗や計図との関係はさらに悪化した。
甲斐の才能と信頼
隼斗は諸矢を訪ね、なぜ甲斐を後任に選んだのか尋ねた。
諸矢は、甲斐には勝敗や記録だけでは捉えられない独自の観察力と発想があり、自分には見えないものまで見えていたと語った。その才能こそ、明誠学院を新しい次元へ引き上げるために必要だと考えたのである。
諸矢は、チームで最も重要なのは信頼だと隼斗へ告げた。隼斗は、仲間を説得しようとする前に、まず信じることを忘れていたと気づいた。
第八章 本選前夜
浩太の欠席
次の合宿に浩太は現れず、連絡もなかった。北野辞任と甲斐批判が重なり、チームは重苦しい空気に包まれた。
練習後、隼斗は無許可で迫ってきた記者から辛島に助けられた。辛島は隼斗を正式に取材し、前回の合宿で素晴らしい走りをした浩太が突然来なくなったのは不自然だとして、隼斗に本人の話を聞いてやるよう勧めた。
北野への恩義
隼斗と計図は清和国際大学の寮へ浩太を訪ねた。
浩太は、北野が自費で寮を用意し、奨学金まで作って経済的に苦しい選手を支えてきたことを明かした。自分も北野のおかげで大学へ進学できたため、その命令に逆らうことができなかった。
隼斗は、人間関係や恩義のために走る機会を捨てれば後悔すると語り、一人のランナーとして自分で選ぶべきだと伝えた。
浩太の帰還
翌朝、選手たちが自主練習を続ける中、浩太がグラウンドへ戻ってきた。
甲斐と大沼に頭を下げて握手を交わし、仲間たちから歓迎された浩太が集団走へ加わると、重苦しかった空気は一変した。
甲斐は、商社で理不尽や裏切りを経験したことで本当に信じられるものを求めるようになり、努力や情熱に嘘のない陸上競技へ戻ってきたと明かした。
そして批判に惑わされず、自分たちを信じて走れと呼びかけた。十六人は円陣を組み、初めて本当の一つのチームとして本選へ向かい始めた。
第九章 つばぜり合い
浩太と星也の選択
北野と決裂した浩太は退部届を提出し、寮も出た。今度の箱根を最後のレースと定め、卒業後は富山で教員になる予定だった。
星也は、将来マラソンへ進むつもりであり、箱根駅伝を通過点と考えていた。浩太は、自分にとって箱根が最後の舞台であることを伝え、人それぞれ違う事情を抱えて走っていると星也に語った。
各校の戦力分析
本選の十六人のエントリーが出揃い、徳重や甲斐たちは各校を分析した。
青山学院大学が優勝候補筆頭で、東西大学、関東大学などが対抗候補と見られた。甲斐は学生連合をトラック記録だけなら七、八位程度と評価したが、コース研究、戦略、結束力を上積みすれば三位以上を狙えると考えていた。
友介と安愚楽
隼斗は、友介が東西大学のエントリー表を破り捨てていたことから、三年前の箱根駅伝で安愚楽一樹との間に何かあったと知った。
当時、安愚楽は中継所で友介のタオルを踏み、レース中にも追い抜きざまに亡き母を揶揄したと見られる言葉を投げていた。
友介はその屈辱を晴らすため安愚楽との再戦を望んでいたが、明誠学院の予選敗退によって機会を失っていた。
隼斗は引っ越し準備をする友介を訪ね、自分が代わりにその悔しさを晴らしたいと告げた。
最後の合宿
千葉県内での合宿では、冷たい雨の中、選手たちの悪天候への適性も確認された。
佐和田晴は雨で力を発揮し、桃山遙は逆に精彩を欠いた。甲斐と大沼はタイムだけでなく、性格、集中力、相性、天候への適性まで見ながら区間配置を検討した。
十六大学のタスキ
最後の合宿中、選手たちは東西大学の出陣式をテレビで見て、名門の伝統や百人を超える部員、受け継がれたタスキの重みに圧倒された。
甲斐はその不安を見抜き、十六大学の陸上競技部員を体育館へ集めていた。
甲斐は、学生連合は寄せ集めではなく、十六大学すべての思いを背負う最大のチームだと宣言した。白地に赤のタスキは集まった仲間たち全員の手から手へ渡され、最後に十六人へ届けられた。
隼斗は、伝統や経験がなくても、自分たちには多くの仲間の思いがあると実感し、全力で戦うことを誓った。
区間エントリー
甲斐は本選の区間エントリーを発表した。
一区は諫山天馬、二区は村井大地、三区は富岡周人、四区は内藤星也、五区は倉科弾、六区は猪又丈、七区は桃山遙、八区は乃木圭介、九区は松木浩太となった。
四区を希望していた隼斗は星也の選出に落胆したが、最後に残った十区で自分の名前が呼ばれることを待った。
甲斐はアンカーにキャプテンの青葉隼斗を指名した。
予選会で本選出場を失い、自責と迷いを抱えながら学生連合へ進んだ隼斗の前に、ついに箱根駅伝本選への道が開かれた。
俺たちの箱根駅伝 シリーズ
フィクション ( Novel ) あいうえお順

Share this content:


コメント