バッソマン 1巻レビュー
バッソマン まとめ
バッソマン 3巻レビュー
- 物語の概要
- 書籍情報
- あらすじ・内容
- 感想
- 登場キャラクター
- 考察・解説
- 展開まとめ
- プロローグ
- 第一話 試験官と忌むべき太陽
- 第二話 ギルドで作るハニータフィー
- 第三話 最強の矛もついてる盾
- 第四話 幻のフランスパン
- 第五話 レゴール雪まつり
- 第六話 猥談と漢の中の漢
- 第七話 氷室作りのお手伝い
- 第八話 エイムに神々が宿っている
- 第九話 第一回熟成生ハム猥談バトル
- 第十話 出会いと別れの春
- 第十一話 春の風物詩
- 第十二話 ハルペリアの注目株
- 第十三話 タレはタレの味しかしない
- 第十四話 ヤツデコンブを最も肉っぽくする方法
- 第十五話 先を見据えた金稼ぎ
- 第十六話 世直しモングレルさん
- 第十七話 装備は見た目も大事
- 第十八話 黒靄市場で小遣い稼ぎ
- 第十九話 魔法のお勉強
- 第二十話 空を泳ぐクラゲたち
- 第二十一話 精霊祭の食い気デート
- 第二十二話 琥珀色の感謝
- 第二十三話 第二回熟成ウイスキー猥談バトル
- 第二十四話 二人の帰り道
- 第二十五話 三英傑の負傷と対策装備
- 第二十六話 平凡なるウィレム・ブラン・レゴール
- 特別書き下ろし番外編 ①ブリジットと剣豪令嬢
- 特別書き下ろし番外編②未亡人様は魔法使い
- 特別書き下ろし番外編③孤高のソロチーム設立秘話
- バスタード・ソードマン シリーズ
- その他フィクション
物語の概要
■ 作品概要
本作は、圧倒的な実力を持ちながらも「平和にだらだら生きる」ことを目標に、あえて低ランクの冒険者に留まり続ける男の日常を描いた異世界ファンタジー小説の第2巻である。 主人公のモングレルは、かつて現代知識と強力なギフト(異能)を不用意に披露してトラブルに巻き込まれた経験から、現在は「そこそこの実力を持つ地味なギルドマン」を徹底して演じている。舞台となる都市レゴールにおいて、彼は中途半端な性能の「バスタードソード」を相棒に、都市清掃や簡単な害獣駆除、時には後輩の育成といった、華々しい英雄譚とは無縁の「あまり冒険しない」日々を謳歌している。
■ 主要キャラクター
- モングレル: 本作の主人公。異世界転生者であるアラサーのギルドマン。強力な身体強化のギフトや現代知識を隠し持ち、徴兵や貴族の派閥争いを避けるため、意図的にブロンズランクに留まり続けている。合理主義的だが義理堅く、趣味の料理や釣りを愛する自由人である。
- ライナ: モングレルを慕う若手の女性弓使い。真面目な性格だが、ギルドマンとしての世渡りには不慣れな面がある。モングレルから実戦的な技術や処世術を教わることで成長しており、彼の数少ない理解者の一人として行動を共にすることが多い。
- ミレーヌ: ギルドの受付嬢。優秀な実績(貢献度)を上げながら頑なに昇級試験を拒否し続けるモングレルに対し、あきれつつも信頼を寄せている。彼に厄介な依頼や、逆に彼好みの地味な依頼を回す窓口的な役割を担う。
■ 物語の特徴
本作の魅力は、王道の「成り上がり」や「無双」をあえて拒絶する逆転の発想にある。多くの異世界転生作品が主人公の活躍に焦点を当てる中、本作は「いかに目立たず、いかに快適な平穏を守るか」という点に全力が注がれている。 また、異世界生活のディテール描写が非常に緻密である。魔物の解体や調理、中世風の都市が抱える衛生問題、ギルドの政治的・事務的な裏側など、生活感溢れるリアリティが物語に深みを与えている。大きな事件に巻き込まれそうになっても、持ち前の実力とひねくれた処世術で「ほどほど」の解決に着地させる展開は、読者に独特の安心感と爽快感を提供する。
書籍情報
バスタード・ソードマン 2
著者:ジェームズ・リッチマン 氏
イラスト:マツセダイチ 氏
出版社:KADOKAWA
発売日:2023年10月30日
ISBN:9784047376724
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あらすじ・内容
春だ! 祭りだ! タダ酒だ!
厳しい冬が終わり、春が近づく頃。レゴールの街はにわかに活気づいていた。その理由はもちろん、春の風物詩である『精霊祭』の開催が目前に迫っているから。精霊祭は街中がスライムで飾り付けられ、他の街から観光客や行商人もわんさかやってくる一大イベントだ。レゴールで平穏に暮らすモングレルも精霊祭には毎年欠かさず参加している。なぜなら、街の領主が気前よくタダ酒を振る舞ってくれるのだ! そんなわけでタダ酒とクラゲ料理を楽しみにしていたモングレルはある日ライナから「私も祭り、一緒に回っていースか?」と誘われて――!?
感想
2巻は、春の「精霊祭」を舞台に、主人公モングレルの「怠惰な日常」と「凄まじい発明」が交錯する、笑いと驚きに満ちた一冊であった 。特に、彼が正体を隠して活動する「ケイオス卿」としての影響力が、レゴールの街を予想外の方向へ発展させていく様子が非常に面白い 。
まずは日常描写のリアリティに惹きつけられた。モングレルはうだつの上がらない中堅ギルドマンを演じているが、裏では前世の知識を活かして「洗濯板」などの便利な道具を作り、ギルド以外からも着実に収入を得ている 。こうした「冒険者らしくない稼ぎ方」が、この世界の生活感をより深めていると感じる。
物語の終盤、最も印象に残ったのは「尻に短剣を生やした連中」のエピソードだ 。街で流行した奇妙な装備を参考に、モングレルがホーンウルフの角を使って新たな「道具」を作り上げる流れには、思わず笑ってしまった 。それを女性が即座に購入していく場面では、この異世界の奥深さ(?)を思い知らされる 。
また、仕切り役であるディックバルトとのやり取りも秀逸である 。酔っ払った勢いもあり、彼がモングレルの言った「品物」を実体験に基づいて「有効」判定のお墨付きを与えるシーンには驚愕した。さすが、稼いだ金のほとんどを色街に注ぎ込んでいるだけのことはあり、その説得力と行動力はあまりにも強烈であった 。
華やかな「精霊祭」の裏側で、こうしたくだらなくも愛おしい人間模様が描かれている点が、本作の最大の魅力だろう 。ライナとの仲睦まじい交流も微笑ましく、戦いばかりではない異世界生活の楽しさが詰まっている 。
便利すぎる発明が街の物価や治安に影響を与えてしまう皮肉も含め、モングレルの歩む道は前途多難だが、次はどんな「迷品」を世に送り出すのか楽しみでならない 。気楽に読み進められる一方で、確かな読後感を与えてくれる素晴らしい続編であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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バッソマン 1巻レビュー
バッソマン まとめ
バッソマン 3巻レビュー
登場キャラクター
主人公と家族
モングレル
日本で生きた記憶を持つ転生者であり、面倒事を避けるため昇級を拒み続けている。実用性を重視し、中途半端な長さのバスタードソードを愛用する。
・所属組織、地位や役職
冒険者ギルドレゴール支部・ギルドマン(ブロンズ3)。謎の発明家ケイオス卿。
・物語内での具体的な行動や成果
アイアンランクの冬季昇級試験で試験官を務め、新人たちを指導した。ケイオス卿として数々の発明品を世に送り出し、街の発展に貢献している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
身体強化の魔法に優れるハーフの青年である。
モングレルの父
辺境の開拓村で暮らすハルペリア人であり、独特の感性を持つ息子を見守る。
・所属組織、地位や役職
辺境の開拓村の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルが六歳の時、初めて町へ連れて行きバスタードソードを買い与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モングレルが九歳の頃に戦争が再開し、命を落としている。
冒険者ギルド
ミレーヌ
丁寧な対応でギルドマンを支える受付嬢であり、モングレルにも気さくに接する。
・所属組織、地位や役職
冒険者ギルド・受付嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルに冬季の昇級試験の試験官を依頼し、手当の上乗せを約束した。討伐部位の交換票を受け取り、報酬の手続きを担当する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モングレルに昇級試験を受けるよう度々勧めている。
エレナ
額に青筋を浮かべて激務をこなすなど、真面目で几帳面な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
冒険者ギルド・受付嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
ギルド内で蜂蜜の匂いを漂わせたモングレルたちを注意した。乱闘騒ぎを起こした新人たちの査定を下げる処置を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モングレルから賄賂としてハニータフィーを受け取り、態度を軟化させた。
パーティー「アルテミス」
ライナ
青い短髪で小柄な弓使いであり、素直で努力家な一面を見せる。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」・弓使い(ブロンズ3)。
・物語内での具体的な行動や成果
ルス村での任務でオーガの眼球を射抜き、大物討伐を成し遂げた。モングレルから川でのエビ釣りを教わり、大量のカニを釣り上げる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
手ブレを完全に抑制するスキル「照星」を持つ。
ナスターシャ
青い長髪の女性であり、冷淡な印象を与えるが理知的な判断を下す。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」・副団長(ゴールド1)。水魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルのバスタードソードを観察し、彼が身体強化のギフトを持つ可能性を推測した。風呂を条件に提示し、モングレルをアルテミスに勧誘する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「氷壁」の異名を持つ。魔法使い用の湯沸かし機構を自作している。
ウルリカ
薄紅色の髪を持つ弓使いであり、明るく気さくな性格で女装をしている。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」・弓使い(シルバー2)。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルに弓の技術を指導し、手本を見せた。オーガ討伐任務では高威力の強射で活躍する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
パーティー内で唯一の男性ギルドマンである。
シーナ
黒髪三つ編みの女性であり、パーティーのリーダーとして的確な指示を出す。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」・団長(ゴールド2)。弓使い。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリジットの同行任務にて、危険を避けるための行軍ルートを選択した。オーガ討伐任務では三本同時の曲射を放つ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「継矢」の異名を持つ。王都出身の貴族関係者であることが示唆されている。
ジョナ
三十代後半の既婚女性であり、落ち着いた性格で他のメンバーをサポートする。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」・弓使い。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリジットの護衛任務に同行し、中衛として前方を警戒した。寒さに震えるブリジットの着替えを手伝う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
主にクランハウスの清掃を担当しており、狩猟任務にはあまり参加しない。
ゴリリアーナ
大柄で筋骨隆々な体格の女性剣士であり、見た目に反して気弱なところがある。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」・剣士(シルバー2)。
・物語内での具体的な行動や成果
オーガ討伐任務において防御の魔力を纏って接近戦に備え、オーガの突進を躊躇させた。腕相撲大会で決勝まで進むが、ディックバルトに敗れて二位となる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
グレートシミターを使用する。パーティー内で数少ない近接役である。
パーティー「収穫の剣」
ロラン
アイアンランクから昇級したばかりの新米ギルドマンである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
収穫の剣に引き抜かれ、パーティーの一員として迎えられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
とくになし。
チャック
赤い短髪の若者であり、荒っぽく喧嘩っ早い性格をしている。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・メンバー(シルバー1)。
・物語内での具体的な行動や成果
ギルドに生ハムを持ち込み、猥談バトルを開催した。第二回猥談バトルでモングレルと対決し、敗北を喫する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女性にはモテない傾向がある。
ディックバルト
巨体を持つ大男であり、真面目な顔で下ネタを語る独特の思考を持つ。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・団長(ゴールド2)。
・物語内での具体的な行動や成果
ギルドで開催された猥談バトルで審判を務めた。祭りの腕相撲大会で優勝し、賞品のウイスキーを酒場の全員に振る舞う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
稼ぎの大半を娼館に費やしている。グレートシミターを装備している。
ネイト
収穫の剣に所属するギルドマンである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
第一回猥談バトルに参加し、ルランゾに敗北した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
値切りのネイトと呼ばれている。
ルランゾ
収穫の剣に所属するギルドマンである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
第一回猥談バトルに参加し、質の良いサービス情報を披露してネイトに勝利する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
勝利の報酬として生ハム四切れを獲得した。
アレクトラ
収穫の剣をまとめる立場にあるギルドマンである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・副団長。
・物語内での具体的な行動や成果
二日酔いの状態でギルドに現れた。異物挿入の注意喚起ポスターの作成を手伝う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディックバルトの行動に呆れつつも付き合っている。
バウル
収穫の剣に所属するギルドマンである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
第二回猥談バトルに参加し、知識を披露して勝利した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
とくになし。
パーティー「大地の盾」
アレックス
元軍人の剣士であり、丁寧な物腰で冷静な判断力を持つ。
・所属組織、地位や役職
パーティー「大地の盾」・メンバー(シルバーランク)。
・物語内での具体的な行動や成果
虫系魔物への対処法について助言を行った。伐採作業の護衛任務でゴブリンの集団を討伐する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ハルペリア軍仕込みのロングソード捌きを特徴とする。
パーティー「若木の杖」
サリー
黒のボブカットと糸目が特徴の女性であり、自由奔放で物怖じしない性格である。
・所属組織、地位や役職
パーティー「若木の杖」・団長(ゴールド3)。魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
アマルテア連合国の交易団の護衛として王都からレゴールへ戻ってきた。モングレルに魔法用品店の進出情報を伝える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モモという子供がいる。
ミセリナ
物静かで内向的な雰囲気を持つ少女である。
・所属組織、地位や役職
パーティー「若木の杖」・風魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
路地裏で移籍組の男たちに絡まれていたところをモングレルに助けられた。モングレルを魔法用品店に案内する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
とくになし。
その他のギルドマン
バルガー
冴えない髭面の男性であり、堅実な戦い方をするベテランである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」・メンバー(シルバーランク)。短槍使い。
・物語内での具体的な行動や成果
ハーベストマンティスとの戦闘で小盾と短槍を破損した。アストワ鉄鋼の穂先と高級小盾を新調し、現役続行を宣言する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モングレルにとってこの世界での兄貴分に近い存在である。
サムセリア男爵家
ブリジット・ラ・サムセリア
実直で剣術に熱心な女性であり、ギルドマンを志して家を出た。
・所属組織、地位や役職
サムセリア男爵家・庶子。
・物語内での具体的な行動や成果
身分を隠してギルドに登録し、アルテミスとの合同任務に参加した。任務での過酷な経験を経て、王都での仕事に就くことを受け入れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギフト「直剣の天賦」を持つ。王都でクリストル侯爵家の令嬢の護衛騎士となった。
レゴール伯爵家・警備部隊
カスパル
温厚な初老の男性であり、患者を救うことに強い使命感を持つ。
・所属組織、地位や役職
「レゴール警備部隊」・三班メンバー。ヒーラー。
・物語内での具体的な行動や成果
収穫期の農村で村人の治療にあたった。ケイオス卿から届いた経口補水液のレシピを受け取り、治験を開始する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつて王都の教会に勤めていたが、不正を追及したため左遷された経歴を持つ。
ユークス
若い青年であり、利益を重視する俗っぽい一面がある。
・所属組織、地位や役職
「レゴール警備部隊」・新米ヒーラー。
・物語内での具体的な行動や成果
投函箱に届いたケイオス卿からの手紙を発見し、カスパルに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
とくになし。
ウィレム・ブラン・レゴール
内向的な性格の領主であり、政治における利害調整に長けている。
・所属組織、地位や役職
レゴール伯爵家・当主(伯爵)。
・物語内での具体的な行動や成果
ケイオス卿の知識を利用して農作物の収穫量を増やした。精霊祭で新開発のウイスキーを市民に無償で振る舞う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
兄たちの死により伯爵位を継承した三男である。
アーマルコ
几帳面で厳格な初老の男性である。
・所属組織、地位や役職
レゴール伯爵家・執事。
・物語内での具体的な行動や成果
精霊祭における犯罪報告や、ウイスキー配布に対する議会の批判をウィレムに伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
とくになし。
クリストル侯爵家
ステイシー・モント・クリストル
明るく溌剌とした女性であり、鍛えられた体躯を持つ。
・所属組織、地位や役職
クリストル侯爵家・令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
新しい護衛となったブリジットに模擬戦を申し入れ、圧倒的な実力で勝利した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「剣豪令嬢」と呼ばれている。ギフト「孤城」を持つ。
スコルの宿
スコルの宿の女将
一人で宿を切り盛りする働き者の女性である。
・所属組織、地位や役職
スコルの宿・女将。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルに白い小麦粉を提供した。顔のない雪像を見て怒る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六年前に夫を病気で亡くしている。
ジュリア
真面目に母の手伝いをする少女である。
・所属組織、地位や役職
スコルの宿・長女。
・物語内での具体的な行動や成果
女将がモングレルに縁談を勧めた際、それを強く否定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
十五歳である。
タック
幼い少年である。
・所属組織、地位や役職
スコルの宿・次男。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルの雪像作りを手伝おうとしたが、すぐに飽きて女将に連れ戻された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六歳である。
街の住民・商人
ユースタス
冬でも精力的に活動する働き者の商人である。
・所属組織、地位や役職
雑貨屋・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルが作っていた雪像の題材がクレセントグリズリーであると見抜き、助言を与えた。モングレルにケイオス卿考案の廉価版ガラスペンを販売する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ケイオス卿の発明品によって店を拡大させている。
メルクリオ
無精髭の男性であり、商売そのものを楽しむ変わり者である。
・所属組織、地位や役職
黒靄市場・露天商。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルから預かった発火器の売上を渡した。モングレルが製作したアダルトグッズと洗濯板を販売する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
とくになし。
ギルバート
グレーの混じった黒髪の男性であり、現実的な思考を持つ。
・所属組織、地位や役職
ギルバート魔法用品店・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
魔法の習得は適性が重要であるとモングレルに説明した。モングレルに見習い用の杖や教本を販売する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都の魔法用品店から独立してレゴールに支店を出した。
ルミア
街で暮らす活発な少女である。
・所属組織、地位や役職
レゴールの子供。
・物語内での具体的な行動や成果
ジェリースライムを追いかけていた際、モングレルから黄色い花を受け取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
とくになし。
盗賊
ロキール
人相が悪く、卑劣な手段を用いる盗賊である。
・所属組織、地位や役職
盗賊。
・物語内での具体的な行動や成果
森でモングレルを脅迫して金を奪おうとした。カルロが倒された後、見逃しを乞うて逃げようとしたが気絶させられる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「抹殺のロキール」と名乗っていた。
カルロ
人相が悪く、不意打ちを得意とする盗賊である。
・所属組織、地位や役職
盗賊。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルに投げナイフを放ったが弾かれ、反撃を受けて気絶した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「瞬殺のカルロ」と名乗っていた。
バッソマン 1巻レビュー
バッソマン まとめ
バッソマン 3巻レビュー
考察・解説
異世界転生と愛剣
モングレルの異世界転生の経緯と、彼の代名詞とも言える愛剣「バスタードソード」への思い入れは、彼の人格や価値観を形作る重要な要素となっている。
異世界転生の自覚と幼少期
モングレルはハルペリア王国の辺境にある貧しい開拓村で生まれたが、その中身は日本で数十年生きた記憶を持つ成人男性であった。
・前世でサブカルチャーに親しんでいたため、自分が「異世界転生」したことにはすぐに気が付いた。
・最初は両親の言葉が全く分からなかったため言語の習得に必死であり、転生について深く考える余裕すら持てなかった。
・生まれつき身体が丈夫で、5歳の頃にはごく一部の人間しか持たない先天能力「ギフト」が発現したこともあり、家の手伝いや村に役立つ物作りをこなす手のかからない「良い子」として育った。
バスタードソードとの運命的な出会い
そんな「良い子」であった彼が、6歳の時に父親に連れられて初めて町へ出た際、武器屋の前の籠に乱暴に突っ込まれていた安物の剣に一目惚れし、激しく駄々をこねる出来事があった。
・店主によれば、その剣はショートソードの取り回しの良さも、ロングソードのリーチの長さもない、「どっちつかずの剣」と呼ばれる中途半端な造りの武器であった。
・魔力による身体強化を前提として武器が大型化しているこの世界において、日本の感覚を持つモングレルには主流のロングソードは長すぎると感じられた。
・この中途半端な長さの剣にこそ強いシンパシーを感じたのである。
・父親に買ってもらった彼は、この剣を「バスタードソード」として愛剣に定め、素振りや試し切りを重ねて片時も離さず持ち歩くようになった。
現在の愛剣への思いと信頼
剣を買ってから20年以上が経過し、29歳になった今でも、モングレルは元気にバスタードソードを振り回している。自分の背が伸びるにつれて「確かに中途半端だな」と実感する機会も増えたが、それでも彼がこの剣を使い続けるのには大きな理由がある。
・この世界での父親が買ってくれた、家族が関わる数少ない思い出の品であるため。
・装飾のないシンプルな機構ゆえに壊れにくく、魔力で剣をガチガチに強化して物理で押す彼の実用性重視のスタイルにおいて「優秀な相棒」となっているため。
まとめ
モングレルは、初めて手に入れたファンタジーらしい武器に対する思い入れを今も大切にしており、これからもずっとこの愛剣と一緒にいるつもりだと固く心に決めている。
ギルドマンの冬稽古
冬場は雪の影響で馬車の往来が減って護衛任務がなくなり、魔物の出現頻度も下がるため、ギルドマンの仕事は激減して非常に暇になる。
そのためギルドでは、新人たちを遊ばせておくのを防ぎ、秋口に加入したルーキーたちの実力を再評価するために「冬季の昇級試験」を実施している。
ある冬の日、モングレルはミレーヌから依頼を受け、アイアンランクの新人たち(近接役)の昇級試験の試験官を務めることになった。その試験の具体的な内容は以下の通りである。
基本試験(ゴブリンを想定した近接戦闘)
新人たちが各々得意な木製武器で攻めかかり、練習用鎧とカイトシールドを装備したモングレルがそれを受けて評価するという内容である。
・モングレルはゴブリン程度のスピードで乱打を繰り出すが、新人の動きが隙だらけであれば剣で反撃した。
・活きの良い相手にはシールドバッシュで転ばせるなど、実戦的な指導を行った。
・農家出身で力仕事に慣れている者やゴブリン駆除の経験者が多かったため、約9割の者が最低限のラインをクリアして合格した。
追加の適性試験(サングレール軍を想定した実戦訓練)
基本試験の合格者には、国から委託されている適性試験が追加で行われた。これに合格すれば技能の加点が認められ、今後の昇格に有利になる。
・敵国であるサングレール聖王国軍の主兵装であり恐怖の象徴でもある長大な武器「モーニングスター」の木製模造品(棘は丸められている)が使用された。
・モングレルがサングレール軍人を意識した本気のスピードでモーニングスターを振り回し、新人たちはそれを掻い潜って懐に入り一撃を決めるか、鉄球に当たらずに柄を切ることが求められた。
まとめ
恐怖を感じさせるこの追加試験は、国が若いうちからサングレール軍との実戦に慣れさせようとする意図のもと行われており、合格できたのは参加者のわずか約一割にとどまった。
モングレルは試験後、失敗した者にも悔しさをバネにするよう励ましつつ、「試験で負けたからといって、自分をサングレール人のように恨むのはやめてくれ」としっかり釘を刺している。
ケイオス卿の技術革新
ケイオス卿は、レゴールに数年前から存在する謎の発明家であり、その正体は前世の知識を持つ主人公・モングレルである。彼は特許や権利料を一切取らず、色鮮やかなマーブル模様と独自の封蠟が施された匿名の手紙で、工房や商会、領主などに設計図やアイデアを無償で提供している。
彼がもたらした数々の技術革新は、レゴールという街の社会・経済・生活様式を劇的に変えた。
農業と酒造技術の革新
ケイオス卿はレゴール伯爵に対し、農業技術である塩水選と種子消毒の知識を伝え、小麦の収量を二割増加させることに成功した。
・余剰作物を利用するための蒸留機の設計図や、樽の中に焦がした棒材を入れて風味を促進させる熟成手法を伝授し、この世界にはなかった蒸留酒(ウイスキー)を完成させた。
・この強い酒は精霊祭で市民に振る舞われ、今後はレゴールが外貨を獲得するための強力な特産品になると期待されている。
労働環境・安全性の向上
過酷な肉体労働を支える道具も開発している。
・つま先を補強した安全靴を普及させ、作業現場での不幸な事故を減少させた。
・林業向けにはリフティングトングの設計図を提供した。これはハサミのような機構で丸太を挟み、立ったまま持ち上げることができる鉄製器具である。
・この道具により作業員の腰への負担が劇的に軽減され、腰痛で引退していた職人が復職を果たすほどの効果をもたらした。
日常・事務用品の普及
・先端の捻れた溝にインクを溜めて書くガラスペン(廉価版は陶器製)を考案した。
・このペンは使い勝手の良さからギルド等に大量に卸されており、街全体のインク需要が急増した結果、刀剣の整備油の価格まで値上がりしてしまうほどの社会的ブームを引き起こしている。
医療分野への貢献
・水、塩、砂糖(または蜂蜜)を混ぜて作る経口補水液のレシピを、複数の治療院へ匿名で送付した。
・下痢、嘔吐、脱水症状に効くこの特効薬は、魔法(ヒール)を使わずとも多くの命を救うことができる。
・慢性的に不足しているヒーラーたちの負担を劇的に減らす画期的な知識として、警備隊のヒーラーであるカスパルらに希望を与えた。
まとめ
これらの技術革新により、中途半端な地方都市だったレゴールは未曾有の好景気に沸き、他国からも交易団が訪れるほどの活気ある都市へと急成長している。また、ケイオス卿が意図的に複数の店へアイデアをばら撒いたことで、かつて市場を独占して不当な価格操作を行っていたハギアリ商会のような悪徳業者が競争に敗れて凋落した。レゴール伯爵(ウィレム)は、ケイオス卿が裏から既得権益を崩し、自分が表の政治を整えるという暗黙の連携を感じており、正体不明の彼に強い感謝と信頼を寄せている。
創作料理と再現
モングレルは、異世界の不味い食事(特に酸っぱいパンや味気ないポリッジなどの炭水化物)に不満を抱いており、前世(日本)の味や美味しい料理を求めて、独自の創作料理や味の再現に日々挑戦している。
彼の創作料理と前世の味の再現にまつわる主なエピソードは以下の通りである。
醤油(タレ)への渇望とヤツデコンブの発見
・モングレルは「塩派」を自称しているが、本音では焼鳥などに合う「タレ(醤油)」を渇望している。
・しかし、醤油作りに不可欠な「麹菌」が乾燥して涼しいレゴールの気候には存在しないため、自作を断念せざるを得なかった。
・そこで彼は故郷の味を再現するため、ライナとウルリカを連れて市場へ調味料探しに出かけた。
・魚醤などの代用品を探す中で、水で戻して焼くと肉の味がするという連合国由来の海藻「ヤツデコンブ」を発見し、昆布出汁の代わりになるかもしれないと期待して大量に購入した。
ヤツデコンブの試行錯誤と肉モドキ
・購入したヤツデコンブを煮出して出汁を取ってみると、肉の味にはならなかったものの、昆布に近い旨味と磯の香りを得ることに成功した。
・その後、油で炒めたり水で戻したりと調理法を試行錯誤し、通りかかったバルガーの提案で「獣脂」を使って炒めることで、ベーコンのような風味を持つ「肉モドキ」料理を作り上げた。
まとめ
最終的には「普通に本物の肉(燻製肉)にスパイスをかけて食う方が美味い」という身も蓋もない結論に至ったが、彼はこの悪ふざけじみた創作料理の過程そのものを楽しんでいた。
バッソマン 1巻レビュー
バッソマン まとめ
バッソマン 3巻レビュー
展開まとめ
プロローグ
六歳のモングレルと剣との出会い
モングレルは六歳の頃、この世界での父親に連れられて、辺境の開拓村から初めて町へ出た際、武器屋の前の籠に乱暴に放り込まれていた安物の剣に強く惹かれた。店の中にも入っていない段階でその剣を欲しがり、並んでいる中で一番格好良いと感じて譲らなかったため、父親や店主を驚かせたのである。
前世の記憶と異世界での成長
モングレルはハルペリア王国辺境の貧しい開拓村に生まれたが、中身は日本で数十年生きた記憶を持つ人間であった。前世の知識から自らが異世界転生したことを早くに察していたが、幼い頃はまず両親の言葉を理解するために必死であり、転生を深く考える余裕はなかった。そうした環境の中で言語と生活様式を身につけ、家の手伝いや村で役立つ物作りにも励み、さらに五歳の頃にはギフトという先天能力も判明していたため、周囲からは手のかからない子供として見られていた。
中途半端な剣への強い執着
普段は聡明で聞き分けの良いモングレルであったが、その日だけは珍しく強く駄々をこねた。店主は、その剣はショートソードより長くロングソードより短い半端な長さであり、兵士や剣士にはあまり使われず、子供や非力な大人にも一般的ではないと説明した。それでもモングレルは、その中途半端さにかえって強い魅力を感じ、他の剣ではなくそれでなければ嫌だと言い張ったのである。
バスタードソードという名への共感
父親が代金を払い、剣の名を尋ねると、店主はその剣をバスタードソードと呼ぶのだと説明した。それはショートソードの取り回しの良さもロングソードの長い間合いも持たず、片手でも両手でも使える一方で、全てが中途半端な造りだからであった。モングレルはその意味を聞き、自分にぴったりだと感じてますます気に入り、重さをものともせず実際に振って見せたため、店主をさらに驚かせた。
長年使い続けた愛剣への思い
それ以来、モングレルはそのバスタードソードを愛剣として、素振りや試し切りを重ね、いつでもどこでも持ち歩いて常に一緒に過ごした。初めて手にしたファンタジー世界らしい武器であったことに加え、不遇な立場にあるようにも思えたその剣に深く思い入れを抱いていったのである。
二十九歳になっても変わらない絆
剣を買った当時は六歳だったが、今のモングレルは二十九歳になっていた。年齢による衰えを少しずつ感じながらも、ギルドマンとして今なおそのバスタードソードを振るい続けていた。成長するにつれて、その剣が確かに中途半端な存在であると実感する機会は増えていたが、それでも使い続けていたのは、家族が関わった数少ない思い出の品であり、自分にとってかけがえのない存在だったからである。
第一話 試験官と忌むべき太陽
冬場のギルドマン事情
冬になると、モングレルはギルドマンの仕事が激減すると語った。雪の影響で馬車の往来が減るため護衛任務がなくなり、さらに魔物の出現頻度も下がることで討伐依頼も少なくなっていた。その結果、街中での荷運びや警備程度しか仕事が残らなかったが、その警備も専門の警備部隊が担うことが多く、ギルドマンの入り込む余地は少なかったのである。
一方で、景気自体は良かったため、期間工など別の仕事はいくらでも存在していた。しかし、それでも冬場は寒さを理由に働きたがらないギルドマンも多く、モングレル自身もその一人であった。
昇級試験の試験官就任
そんな冬のある日、ギルドの酒場で暖炉のそばにいたモングレルは、ミレーヌからアイアンランク新人たちの昇級試験の試験官を依頼された。冬場はギルドも暇になるため、新人たちの再評価を兼ねた昇級試験が行われていたのである。
秋口に加入した新人たちは、数か月の経験を経て多少は傭兵らしさを身につけており、今後の昇格に繋がる重要な機会としてこの試験を待っていた。モングレルも、暇つぶしと手当、そして先達としての役目を理由にこの依頼を引き受けた。
近接役の新人たちへの試験開始
修練場に集められたのは、近接役を志望する新人二十人であった。モングレルは、自分がブロンズ3の先輩であることを誇示しつつ、新人たちに試験の趣旨を説明した。弓も魔法も扱えず、接近して敵を抑える力こそが近接役に必要な資質であり、それができない者には厳しい役割だと告げたのである。
試験内容は単純で、新人たちがそれぞれ得意な武器で攻めかかり、それをモングレルが受けて評価するというものだった。木製武器と練習用装備によって危険は抑えられていたが、隙の大きい動きには反撃も加えられた。近接役は簡単に倒れてよい立場ではないため、その点も厳しく見られていた。
新人たちの実力評価
試験を進める中で、モングレルは多くの新人が最低限の実力を備えていると判断した。農作業で鍛えられてきた者が多く、力のある一撃を出せる者も少なくなかったうえ、ゴブリン駆除などの経験者も多かったからである。
剣術経験のある者や気迫のある者には、モングレルも一定の評価を与えた。勢いのある相手にはシールドバッシュで転ばせる場面もあったが、それすら前向きに受け止められるような活気があった。最終的に、全体の九割ほどは合格に値すると見なされた一方で、落ちた者については根本的な適性不足があると感じていた。命を預かる仕事である以上、向いていない者を無理に通すわけにはいかなかったのである。
追加試験としての対人適性試験
基本試験の合格者に対し、モングレルはさらに上位の追加試験を提案した。これはギルドが国から委託されている適性試験であり、合格すれば今後の昇級で有利になる技能加点が得られるものであった。
その試験で使われたのは、サングレール聖王国軍の主兵装であるモーニングスターであった。この国においてそれは、過去に多くのハルペリア人を虐殺してきた忌まわしい武器として恐れられていた。前世の知識にある棍棒型の印象とは異なり、この世界のモーニングスターは長大で、棘の形も不揃いな不気味な武器であった。
忌むべき武器への挑戦
追加試験では、モングレルがモーニングスターを振るう中で、新人たちはその攻撃をかいくぐって懐に飛び込むか、鉄球に当たらず柄を木剣で切ることを求められた。今度は先ほどのようにわざと遅く動くことはなく、サングレールの兵士を想定した本気の速さで相手をすると宣言されたため、試験の緊張感は大きく高まった。
それでも、先ほどシールドバッシュで転ばされた者を筆頭に、多くの新人がひるまず参加を表明した。モングレルは、彼らの戦意の強さを認めつつも、国が若いうちからサングレールとの戦いに慣れさせようとしている現実に、世知辛さも感じていた。
試験の結果とモングレルの釘刺し
こうして行われた追加試験では、合格できたのは全体のおよそ一割にとどまった。難度の高い試験であっただけに、突破した者には十分な価値があったが、失敗した者にも今後の糧として受け止めるよう求められた。
試験後、モングレルは新人たちに対し、自分をサングレール人のように恨まないよう釘を刺した。あくまで自分は試験官として役割を果たしただけであり、変な差別意識を持たれては困ると考えていたのである。
第二話 ギルドで作るハニータフィー
昇級後に起こる新人の再編
アイアンランクの者たちが昇級すると、それをきっかけにパーティー間での勧誘や引き抜きが活発になっていた。ギルドマンになったばかりの頃は、故郷を出た若者同士で組むしかなかったが、一定期間を経て自分の身を守れる程度の実力がつくと、より良い環境を求めて別の道を選ぶ者が増えていったのである。
特にこの時期は、収穫の剣が若者たちから強い人気を集めていた。ハーベストマンティス討伐の武勇が広まり、吟遊詩人にまで語られるほどの名声を得ていたためである。その一方で、優秀な仲間を引き抜かれた側のパーティーは再編を余儀なくされ、取り残された者同士で新たな集団を作ろうとする姿も見られた。
暖炉の前で見守るモングレル
そうした出会いと別れを、モングレルはギルドの暖炉側の壁にもたれながら眺めていた。そこへライナが声をかけ、暖炉のそばでぐつぐつ煮えている小鍋について尋ねた。モングレルは、それが自分特製の蜂蜜であり、エレナから常識的な範囲なら許可を得ているのだと答えた。
その蜂蜜には、ハーブや数種類の香辛料、さらに柑橘類の汁が加えられており、ただ甘いだけではない工夫が施されていた。モングレルは様子を見極めると、料理を焦がさないうちに次の工程へ移ろうとした。
雪を使った菓子作り
モングレルは大きめのボウルを持って外に出ると、誰にも踏まれていない新雪をぎゅうぎゅうに詰めて戻ってきた。そして、雪を満たしたボウルの上に、煮詰めて粘り気を増した蜂蜜を短い線を描くように何本も垂らしていったのである。
さらに、雪の上にできた蜂蜜の端に棒を当ててくるくると巻き取ることで、わずかに雪を含んだ蜂蜜の飴を作り上げた。モングレルはそれを、前世の知識にある菓子になぞらえてハニータフィーのようなものだと捉えていた。ただし本来の材料であるメープルシロップの代わりに、この世界では蜂蜜を用いていた。
ライナと仲間たちの反応
できあがった蜂蜜飴を受け取ったライナは、口にした瞬間に強い満足を示した。モングレルもまた、自分で味見をしつつ、蜂蜜の濃さや香辛料の利き方に一定の手応えを感じていた。新しい養蜂箱の導入で蜂蜜の生産量が増えたこともあり、こうした甘味を気軽に楽しめる余裕が生まれていたのである。
やがてバルガーらも匂いにつられて近寄ってきて、移籍や入団を記念する名目で蜂蜜飴を受け取った。ライナもまた、棒で蜂蜜を巻き取る作業を試してみたいと言い出し、モングレルに教わりながら一緒に作るようになった。寒い日に暖かい場所で冷たい甘味を楽しむ感覚は、モングレルにとっても心地よいものであった。
エレナへの振る舞いと受付嬢たちの好評
皆で賑やかにしているうちに、エレナが暖炉の前までやって来て、蜂蜜の匂いを漂わせていることに不満を口にした。しかしその本音が甘味を欲していることだと察したモングレルは、棒にまとめたハニータフィーを三本差し出した。エレナはそれを受け取ると、表向きは注意を続けながらも満足げに受付へ戻っていった。
受付嬢たちにもその蜂蜜飴は好評であり、受付の空気も和らいでいた。こうした狭い共同体では、ちょっとした食べ物の振る舞いが人間関係を円滑にすることを、モングレルはよく理解していたのである。
冬の甘味を皆で楽しむ時間
その後、モングレルとライナたちはミルクを用意し、ハニータフィーと一緒に冬の甘味を楽しんだ。雪の入ったボウルを何度か補充しながら、蜂蜜飴を量産し、ギルド内の仲間たちにも分け与えていったのである。
途中で他のパーティーの男たちにもねだられたが、量自体は大したものではなかったため、モングレルは寛大に振る舞った。その日は移籍や新しい門出が重なる日でもあり、甘味を囲んで過ごす穏やかな時間が、冬のギルドを満たしていた。
第三話 最強の矛もついてる盾
冬のギルドに集まる理由
冬場は任務がほとんど存在しなかったが、完全になくなるわけではなかった。まれに寒さの厳しい屋外で賊が出ることもあり、そのようなわずかな任務に備えてギルドマンたちは雪深い日にもギルドへ足を運んでいたのである。
しかし実際には、単純に暇だから来ている者も多かった。宿や拠点で過ごしていても話し相手は限られ、しかも自前の薪代までかかるため、保温性の高い石造りのギルドで他人の薪に当たりながら過ごす方が得だと考えられていた。
虫系魔物への対策談義
暇を持て余したギルドマンたちは、装備の手入れをしながら自然と仕事の話を始めていた。その中でも話題の中心となっていたのは、虫系魔物への対処法であった。収穫の剣の面々は、以前のハーベストマンティスとの遭遇以来、虫系魔物に対する警戒を強めており、斬撃や突きが甲殻にうまく通らない厄介さを語っていた。
ハルペリアでは虫系魔物が少なく、主に獣や人型の魔物と戦う機会が多いため、刀剣類が通じにくい虫系への対処経験は不足しがちであった。そのため、実戦経験の豊富な大地の盾に助言を求める声が上がっていた。
大地の盾とアルテミスの実戦的助言
大地の盾のアレックスは、虫系相手には突くか叩くのが有効であり、柔らかい部位があれば斬るのも悪くないと答えた。特に蜘蛛型の魔物であるバイザーフジェールのように柔らかい部位の多い相手は戦いやすいと説明し、護衛任務などで得た経験をもとに現実的な意見を示していた。
さらに、収穫の剣はアルテミスにも弓による対処法を尋ねた。アルテミス側は、通常の射撃では甲殻に阻まれて効果が薄く、スキルを使っても当たりどころが悪いと怯ませにくいため、毒矢を使うのが基本だと答えた。ただし毒も即効性はなく、基本的には逃げるか、魔法や近接役に任せる方針であり、近接役には盾が必須だと強調していた。
盾の必要性とモングレルへの視線
虫系魔物の話から、自然と盾の話題へと移っていった。剣使いにとってはカイトシールドのような頑丈な盾が有力だが、重量が負担になるため持ち歩きたくはないという本音も漏れていた。それでも森に入る以上、剣一本だけでは危険だという認識は共有されていた。
そうした流れの中で、盾も仲間も持たずに森に入る変わり者としてモングレルが話題に上った。新人教育の題材としてまで引き合いに出され、モングレル自身も自分の戦い方を真似すべきではないと認めつつ、不本意ながらもその扱いを受け入れていた。
秘蔵の盾を取りに行く決意
仲間たちから、防具も盾もろくに使わず、剣も買い替えない変人扱いをされたモングレルは、自分にもちゃんと盾があると反論した。しかし誰も信じず、どうせ変なものだろうと好き勝手に言われたため、意地になったモングレルは宿までその盾を取りに行くことを決めた。
冬の寒さに耐えながら宿屋へ走る道中、そこまでして見せる必要があるのかと迷いもしたが、これはギルドマンとしての面子の問題だと考え直し、現代人らしい実用性を見せつけてやるつもりで戻ってきた。
ランタンシールドの披露
ギルドへ戻ったモングレルは、大きな包みを広げて秘蔵の盾を披露した。それはランタンシールドと呼ばれる装備で、腕を覆う籠手に大きな丸盾が一体化した構造を持ち、さらにショートソード程度の剣を飛び出させることもでき、複数の刃や棘も備えた攻防一体の防具であった。
加えて、盾の中央部分は蓋になっており、中に火種を入れれば光源としても使える仕様であった。モングレルはその多機能さに強い自信を持っており、内側の鏡面で光を反射させて目潰しにも使えると熱弁した。
仲間たちの酷評とモングレルの落胆
しかし、周囲の反応は冷ややかであった。盾としては重すぎるうえ、棘が引っかかりやすく、籠手との接合部にも不安があり、整備も面倒であると次々に欠点を指摘された。さらに、ランタンと盾と剣を別々に持てば済むのではないかという根本的な意見まで出され、モングレルにとっては痛烈な一言となった。
モングレルは、一つの装備に全てが調和しているところが良いのだと反論したが、仲間たちにはごてごてしているだけだと受け取られた。結局、そのランタンシールドは珍妙な買い物として笑いの種にされ、酒の肴にまでされてしまった。耐えかねたモングレルはミレーヌに助けを求めたが、ミレーヌはただ営業用の笑みを浮かべているだけであった。
第四話 幻のフランスパン
宿屋への雪かきと長年の関係
モングレルは宿屋の周囲で雪かきをしていた。レゴールは日本の雪国ほど雪が積もるわけではなかったが、自分が暮らす宿の周りくらいは整えておきたいと考えていたのである。宿屋は男手が足りず大変そうであり、近所付き合いとしても好感を得る意味でも、この手伝いには十分な価値があった。
この宿を切り盛りしている女将は、六年前に夫を病気で亡くして以来、一人でほとんど全ての仕事を担っていた。長女ジュリアは真面目に手伝っていたが、妹や弟の世話にも追われていた。夫の死後は料理の一部のレシピが失われ、力仕事も難しくなったことで宿のサービスは落ち、評判もやや下がっていた。しかし、その閑散とした環境は、長期滞在先を求めていたモングレルにとって都合が良く、双方の利害が一致した結果、彼はこの宿に六年間住み続けていたのである。
女将の縁談話と白い小麦粉
雪かきを終えたモングレルに対し、女将は年齢のわりに若々しいのだから早く良い相手を見つけろと軽口を叩き、娘のジュリアまで勧め始めた。しかし、当のジュリアは宿の奥からそれを強く否定し、ありがた迷惑だと怒鳴り返した。ジュリアには近頃仲の良い同年代の男がいるため、その反応は当然のものであった。
その後、女将は厨房から陶器の壺を持ってきて、以前モングレルが話していた白い小麦粉を分けてくれた。親戚から特別にもらったものだが、自分たちではそうしたパンを作らないため持て余しているのだという。モングレルはこれを非常に喜び、女将から前に作った硬いやつよりもっと美味しいものを作るよう期待をかけられた。
フランスパンへの挑戦
部屋に戻ったモングレルは、ついにこの時が来たと意気込んだ。この国でもパンは一般的な食べ物だったが、使われる小麦は白くなく、臭いや硬さ、喉の渇きやすさなどが現代人の感覚には合わなかったのである。栄養面では問題なくとも、好みに合わないパンを健康食だと思い込んで食べ続けるのには限界があり、今回は自分で理想のパンを作ることにした。
彼が選んだのはフランスパンであった。小麦粉、水、塩、酵母だけで作れるうえ、卵や砂糖のような高価な材料を必要としない点が魅力であった。暖炉のそばで焼く都合上、細長いバゲットではなく、やや短めのバタールを作る方針とした。発酵や寝かせる時間は長く手間もかかるが、そのぶん美味しさには期待が持てた。冬場は暖炉で発酵させ、雪で冷やすこともできるため、パン作りには都合の良い季節でもあった。
蜜蠟ラップと自家製酵母の準備
異世界でパン作りをするうえでの大きな障害の一つが、発酵の際に使うラップの不在であった。そこでモングレルは、布に蜜蠟を染み込ませた蜜蠟ラップを用意していた。これは手の温度で柔らかくなり、容器の形に沿って密着させることができる便利な代物であった。発明品として広めることも考えられたが、蜜蠟自体が高価で供給も十分ではないため、現状では出し渋っている品であった。
さらにパンを膨らませるため、自家製酵母も仕込んでいた。この世界にはドライイーストが存在しないため、果物や穀物を使って自分で酵母を育てる必要があった。これには定期的な世話が必要で面倒ではあったが、蜜蠟ラップのおかげで作業は多少楽になっていた。モングレルは、ようやくこれらの準備が整い、夢の広がるフランスパン作りに取りかかれると期待していた。
自家製酵母の失敗と計画変更
モングレルは期待に胸を躍らせながら、自家製酵母の入った容器のラップを外した。しかし、中にあったのは発酵の進んだ酵母ではなく、カビだらけになった失敗作であった。フランスパン作りに不可欠な酵母が台無しになってしまい、その時点で計画は頓挫したのである。
そこでモングレルはすぐに方針を切り替え、発酵を必要としないフォカッチャを作ることにした。本来の目的であったフランスパンを諦めざるを得なかった悔しさを抱えつつ、特別好きでもない無発酵パンを作って食べ、不貞寝するという結末に終わった。
フォカッチャへの淡い評価
後日、モングレルは作ったフォカッチャを女将にも分けた。女将の反応は、まあ美味しいという程度の淡いものであった。その感想に対してモングレルは不満を覚えつつも、内心では自分自身もそこまで強くフォカッチャを好んでいるわけではないため、その評価は理解できるものでもあった。フランスパンへの期待が大きかったぶん、その代用品では満足しきれなかったのである。
第五話 レゴール雪まつり
雪の日の退屈と雪像作りの発案
雪は春になれば雪解け水として役立つ一方、降り続いている間は厄介な存在であった。レゴールの建物は傾斜のある屋根で雪に備えていたが、それでも雪下ろしが必要になることがあり、高所からの転落や雪庇の崩落といった危険も伴っていた。雪は決して楽しいだけのものではなかったが、それでもモングレルは暇を持て余し、雪像を作って遊ぶことにした。
作業場所に選んだのは、自分が世話になっているスコルの宿の前の通りであった。そこは普段から都市清掃で綺麗にしている場所であり、雪玉を転がしても馬糞などを巻き込む心配が少なかったためである。
タックの参加と子供らしい退場
雪像作りを始めると、宿屋の末っ子タックもやって来て一緒に遊び始めた。モングレルはタックに雪玉を転がして大きくする役目を任せたが、タックは夢中で転がした末に、歪な小さな雪だるまを作るだけで早々に飽きてしまった。
その後、宿の女将が外に出て、寒い中にいると熱を出すと叱り、タックをすぐに中へ引き上げた。この世界では風邪も軽視できず、薬はあっても医療費や危険は前世の日本より大きかったため、子供を外で長く遊ばせたくないという女将の判断はもっともであった。
一人で進める雪像の制作
こうして外に残ったのは大人であるモングレル一人となったが、彼は人目を気にせず作業を続けた。雪玉を転がして積み上げるだけでは雪だるまにしかならないため、桶に詰めた雪を叩きつけるように加えて塊を大きくし、途中からは縦に積み上げる方が安定すると気づいて方式を切り替えた。
十分な大きさの塊を作った後は、ソードブレイカーを使って彫刻に取りかかった。正面、横、俯瞰といった大まかなシルエットを意識しながら削り出していく方針を立て、自分の美意識と彫刻の腕前を試すつもりで本格的に雪像作りに打ち込んでいった。
ユースタスの登場と題材の判明
作業の途中で、雑貨屋のユースタスが通りかかり、寒い中で何をしているのかと声をかけてきた。彼は背嚢を背負っており、冬でも店の仕事に奔走している様子であった。モングレルが雪像を作っていると説明すると、ユースタスはその形を見て、題材がクレセントグリズリーだと見抜いた。
クレセントグリズリーはラトレイユ連峰に棲む熊の魔物であり、レゴールでは馴染みが薄い存在であったが、ユースタスは贔屓の客の邸宅に飾られた剥製を見たことがあったため分かったのである。ただし本物は黒い毛皮と黄色い三日月模様を持つため、雪で再現した白い姿はどうしても別の魔物のようになってしまっていた。
二人がかりでの修正と完成
ユースタスは雪像の鼻の形や背中の丸みなどについて助言し、モングレルも文句を言いながらその意見を取り入れた。剥製を見た経験をもとにした助言は意外と的確であり、二人はやいのやいの言いながら雪像を修正していった。
毛並みを表現しようとして失敗したり、耳の造形に苦戦したりしながらも、身体が冷え切る前になんとかクレセントグリズリーらしい雪像を完成させることができた。完成した雪像は完璧ではなかったが、二人で手を加えたぶん、それなりに満足のいく出来になっていた。
雪像から転がり込んだ日雇い仕事
完成後、ユースタスは改めて、これほど暇なら自分の店で荷物整理を手伝ってほしいと頼んできた。力仕事だが一日分の金は出すと言われ、モングレルは温かい飲み物まで付けば完璧だと応じた。冬場の臨時収入はありがたく、モングレルはそのままユースタスの仕事を少し手伝うことになった。
雪像作りからそのまま日雇い仕事へ話が繋がるとは、モングレルにとっても予想外であったが、結果として実利を伴う一日になったのである。
雪像の損壊と苦しい修正
仕事を終えて夕暮れ前に宿へ戻ると、モングレルが作ったクレセントグリズリーの雪像は、顔の部分だけが崩れ落ちていた。最初は誰かの悪戯や嫌がらせを疑ったが、落ちた雪の形跡から見て、飛び出していた鼻などが重力に耐えきれず自然に壊れたのだと判断した。
しかし、そのままでは宿の前に顔のない熊の雪像が残ることになり、見た目にも良くなかったため、モングレルは応急処置として顔の部分にスマイルマークを彫り込んだ。だが、獣の体に笑顔だけが浮かぶその姿はかえって不気味であり、通りかかった女将を驚かせてしまった。
自作雪像の撤去
不気味な雪像は女将にしっかりと怒られる原因となり、その夜のうちにモングレルは自分で作った雪像を壊すことになった。暇つぶしと遊び心から始めた雪像作りは、最後には自分の手で撤去する形で終わったのである。
モングレルはその結末を残念に思いつつも、題材に怖い魔物を選んだ自分に非があったと認め、文句を言えないまま受け入れていた。
第六話 猥談と漢の中の漢
空き巣事件が酒場の話題になる
つい先日、雪の夜に穀物店の倉庫を狙った空き巣事件が起きていた。犯人は盗みに不慣れだったのか物音を立ててしまい、すぐに逃げ出したものの、明るい雪の上には足跡がはっきり残っていたため、明け方までに袋小路へ追い詰められて捕まったのである。そのため、この事件は朝からギルドマンたちの格好の話題になっていた。
収穫の剣が中心となる酒場の空気
その日のギルド酒場では、大地の盾とアルテミスの面々がほとんどおらず、収穫の剣の一団が十五人近く集まっていたため、中央の空間はほぼ彼らに占拠されていた。普段は統率力に欠ける収穫の剣も、これだけ人数が集まると存在感は大きく、自然と酒場の話題も彼らを中心に回っていた。
その中心で騒いでいたのは、赤い短髪の若者チャックであった。彼は犯人の動機が色街で女を買いすぎて金に困ったことだと聞いて呆れつつ、金もないくせにそういう店に通う愚かさを語っていた。しかしその一方で、自分は稼いでいるから問題ないと平然と言い切るあたりに、彼らしい軽薄さもにじんでいた。
チャックの軽薄さとモテなさ
チャックは荒っぽく喧嘩っ早い、まさに典型的なギルドマンらしい男であった。冒険者ギルドに入った転生者に真っ先に絡んできそうなタイプそのものであったが、剣の腕はシルバー1と確かであり、よく聞けば筋の通ったことを言う場面も多かった。
しかし、その軽薄さのせいで女性にはまったくモテていなかった。若手に色街の店を紹介してやるなどと気軽に口にしていたが、ライナとウルリカのような女性が近くにいる場でそうした猥談を平然と始めてしまうところが、まさに駄目な点であった。
モングレルの盤上での敗北と周囲の嫉妬
その頃、モングレルはライナとウルリカのいるテーブルでムーンボードをしていた。ムーンボードはこの世界独自の盤上遊戯であり、モングレルはその場で三連続でウルリカに敗れていた。ライナが強いのはともかく、ルールを覚えたばかりのウルリカにまで負けたことで、モングレルは納得のいかない思いを抱いていた。
そこへチャックが恨めしそうに視線を向け、自分たちの周囲は男ばかりなのに、モングレルのテーブルだけは女がいて勝ち組のようだと絡んできた。実際には、中央を収穫の剣が占拠しているせいで自然と端に寄っているだけであったが、男たちの嫉妬を前にしてはその弁解も意味を持たなかった。
女への幻想を語るチャック
チャックは、ソロで動くモングレルは他のパーティーの助っ人にも入りやすく、女のいる場にも自然と混ざれるから得だと愚痴をこぼした。半端に人数が揃っている自分たちは他との交流もしにくく、しかも女の縁がないのだと不満を募らせていたのである。
さらに、収穫の剣の副団長の存在を指摘されても、それは女とは言えないと切り捨てたうえで、女とはもっとお淑やかで男に献身し、奉仕してくれるものだと語り始めた。この発言は、女性たちの反感を買うには十分であった。
ディックバルトの重々しい反論
その時、今まで黙っていた収穫の剣の団長ディックバルトが低い声で口を開き、酒場の空気を一変させた。黒髪短髪で二メートル十センチを超える巨体を持ち、巨大なグレートシミターを背負った彼は、普段から圧倒的な強者の気配を放つ男であり、軽口ばかりのチャックすら萎縮させる存在であった。
ディックバルトは、女は決して献身や奉仕だけをする存在ではないと厳格に言い切った。その重々しい口調と威圧感により、真面目で堅物な人物であるかのような印象が一瞬広がった。
真面目な顔で語られる下ネタ
しかしディックバルトの話は、そこから奇妙な方向へ進んでいった。彼は、時には男が女に奉仕することもあり、跪き、鳴き、舐めることすらあるのだと、極めて真面目な表情と厳粛な声音のまま語り出したのである。さらに、昨夜捕まった空き巣も、情熱を間違った形で暴走させてしまった哀れな奉仕者だったのかもしれないとまで述べた。
ディックバルトは、日々の時間の大半を娼館通いに費やしていることで知られていた。高難度任務で莫大な稼ぎを得ては、それを色街に注ぎ込み、遠征先でも宿場町の娼館を渡り歩き、街へ戻ってからもほとんどの時間をそこで過ごすという、常軌を逸した遊興の怪物であった。そのため、彼の真面目さは確かであっても、思考が常に色情へ結びつく独特さを持っていた。
ライナの拒絶とディックバルトの本性
ライナは、当初はディックバルトをがっしりしていて真面目な人物だと見ていたが、その発言を聞くうちに次第に嫌悪感を募らせていった。モングレルとウルリカは事情を知っていたため言葉を濁していたが、ライナはついに気持ち悪い人だとはっきり口にしてしまった。
するとディックバルトはその発言を咎めつつも、君の罵倒は自分が無料で受け取っていいものではない、あまりご褒美を安売りしてはいけないと返したため、ライナは完全に鳥肌を立てて怯えた。モングレルはライナをなだめながら、ディックバルトは少し気持ち悪いだけで悪い人ではないと説明した。
気持ち悪さと実力を併せ持つ男
ディックバルトは、ハーベストマンティスとの戦いでも何度も味方を庇い、任務にも真面目に向き合う優秀な男であり、戦闘力も抜群であった。ただし、下半身に正直すぎて発言がひたすら気色悪いだけであった。収穫の剣の面々も、その奇妙さを承知のうえで彼に畏敬と親しみを抱いていたのである。
ウルリカまでもがキモいと漏らしたが、ディックバルトはそれすら喜んで受け止めていた。結局モングレルは、冬とはこうして普段ならあまり長く接しないような相手とも同じ空間で過ごす時間が増える季節なのだと、ライナに半ば諦めるように伝えるしかなかった。
第七話 氷室作りのお手伝い
冬の雪を蓄える氷室作り
レゴールでは、春が来て雪が解ける前に、ある程度積もった雪を集めて地下空間へ詰め込む慣習があった。こうして作られる氷室によって、暑い季節でも雪や氷を長持ちさせ、冷蔵保存や氷としての利用が可能になっていた。万年雪の残る土地なら不要な仕組みだが、レゴールでは雪が解けてしまうため、この作業が必要だったのである。
ただし、そのための雪集めは簡単ではなかった。街中の雪は汚れているため使えず、休耕中の田畑や放牧地などから上澄みのような綺麗な雪だけを集めなければならなかった。しかも寒さの中での重労働であり、機械もないため、極めて過酷な作業になっていた。
犯罪奴隷たちが担う重労働
この厄介な作業に動員されていたのは、服役中の犯罪者である犯罪奴隷たちであった。休耕地に並んだ彼らは、新雪を踏み荒らさないよう端から慎重に雪をかき集め、一箇所にまとめていく作業を延々と続けていた。現場には衛兵が監督として立ち、サボれば余計に身体が冷えるから動けと声をかけていた。
犯罪奴隷が関わるため、民間人が深く関わるのは難しかったが、それでも人手不足は深刻であり、この仕事はギルドマンでも請け負うことができた。モングレルもまた、その一人として現場に出ていた。
モングレルの雪運び作業
モングレルは犯罪奴隷たちとは少し離れた場所で、集めた雪を運び出す作業を担当していた。遠くから雪を集めるには馬車を何度も往復させる必要があり、特に積み込みや積み下ろしは相当な重労働であった。しかしモングレルにとっては、その程度の力仕事は苦にならず、衛兵からも一気に持っていくのかと驚かれるほどの働きを見せていた。
集めた雪は突き固めることで白く濁った塊となり、運びやすくなっていた。モングレルはその塊を荷台の衛兵へ渡したり、大きなものは道具を使って持ち上げたりしながら、雪集めの現場そのものにも余裕を持って加勢していた。
珍しい仕事への興味で受けた依頼
衛兵から、儲かるわけでもないのになぜこの仕事を受けたのかと聞かれたモングレルは、珍しい仕事だから一度やってみたかっただけだと答えた。実際、この依頼は冬場に食い扶持に困ったアイアンクラスが受けるような安価な仕事であり、ブロンズ3のモングレルにはまったく割に合わない内容であった。
それでもモングレルは、去年も同じ仕事を経験しており、氷室作りそのものを体験できることに価値を感じていた。一日だけなら新鮮で楽しいと考えていたのである。
犯罪奴隷との噛み合わない会話
そんな中、隣で雪を慎重に掬っていた犯罪奴隷の男が、モングレルに声をかけてきた。男は、ブロンズ3のギルドマンがこんな仕事をしているのは、誰かの脱走を手助けするために潜り込んでいるのではないかと疑ったのである。
しかしモングレルは、ただ氷室作りをやってみたいだけだと正直に答えた。去年も同じ仕事をしていたのだから衛兵に聞けばわかるとも説明したが、犯罪奴隷の男はその理由を理解できず、氷室作りをしたいからわざわざ来るなど正気ではないというような顔をして仕事に戻ってしまった。モングレルは、その反応によって地味に心を傷つけられていた。
酒場での反応と変人扱い
後にギルドの酒場でその話をすると、バルガーはそれを変人の所業だと即座に断じた。アレックスも、軍にいた頃に氷室作りには関わったことがあるが、それはあくまで監督役としてであり、実際に作業する側になりたいとは思わないと語った。モングレルも、監督は見ているだけで済むことを改めて実感することになった。
こうして、氷室作りを珍しい経験として面白がるモングレルの感覚は、周囲から見ればやはり相当に変わっているものとして扱われていた。
外壁の魔物と飛び道具の話題
話題はそのまま、少し前に外壁際まで迷い込んできた魔物の件へ移った。ギルドから慌てて出て行った者もいたが、結局はギルドマンが駆けつける前に衛兵が仕留めてしまったため、モングレルは最初から動かなかったのだと胸を張って語った。周囲には何もしなかったことを偉そうに言うなと呆れられたが、モングレルとしては飛び道具を持たない自分にできることも少ないという認識であった。
そこから、モングレルが以前弓の練習をしていたという話が持ち出された。だが本人は、弓は持っていても五メートル先の木にも当たらない程度の腕前であり、とても扱えるとは言えないと認めた。矢をそのまま投げた方がまだ強いかもしれないと開き直るほどであった。
弓の練習を考え始めるモングレル
それでも周囲は、弓が使えるだけで狩れる獲物は増えるのだから、せっかくアルテミスのライナやウルリカと親しくしているのなら教わればいいと勧めた。モングレルは矢の回収が面倒で弓を嫌がっていたが、春になればまた忙しくなるのだから、暇な今こそ練習には向いているという意見には一理あると感じていた。
さらに最近は、酒場にディックバルトがいる時間が長く、場の雰囲気が妙に重たくなることも増えていた。バルガーも同じパーティーでありながら団長には慣れていない様子であり、ライナたちにとってもセクハラめいた空気の酒場より、修練場でモングレルに弓を教える方が気楽かもしれないという話になった。そうした流れの中で、モングレルは面倒だと思いつつも、弓の練習を少し考えてみる気になっていた。
第八話 エイムに神々が宿っている
太陽神から月神へ移った信仰
この世界にも神への信仰は存在していたが、ハルペリア王国ではここ数百年で宗教色が薄れていた。もともと農耕国家であるこの国では太陽神が信仰されていたものの、サングレール聖王国から侵略を受け続けるうちに、敵国の主祭神でもある太陽神そのものが憎まれるようになったのである。
その結果、ハルペリア王国はサングレールとの決別の意味も込めて、主祭神を月神へと切り替えた。当初は農民を中心に天罰や不作を恐れる混乱も生じたが、実際には豊作が続き、むしろサングレール側が飢饉に見舞われたことで不安は急速に薄れていった。こうして現在では、行事としては宗教を守るが信仰心自体は比較的緩やかという空気が国全体に定着していた。
弓と月神への祈り
現在信仰されている月神ヒドロアは、狩猟や魔法を司る女神とされ、杖や弓が象徴として扱われていた。そのため、弓を扱ううえでは縁起の良い神と考えられていた。
そこでモングレルは、二十メートル先の藁山の中心に矢を当てられるよう、月神へ大仰な祈りを捧げてから弓を引いた。しかし放たれた矢は的よりはるか手前の地面に突き刺さり、弓の才能のなさを早々に露呈する結果となった。
ライナとウルリカによる厳しい指導
モングレルは現在、ギルドの修練場でライナとウルリカから弓の指導を受けていた。思い切って教えを請うたところ、二人は意外なほど乗り気で引き受けてくれたのである。しかし実際に始めてみると、助言をもらう以前にモングレルのやる気の方が先に折れかねないほど、弓の難しさが身に染みていた。
ライナは弓を支える左手がふらついていることを致命的だと指摘し、ウルリカは矢のつがえ方自体が逆になっていると指摘した。さらに姿勢も浮ついていると評され、二人は遠慮なく欠点を並べ立てた。モングレルは圧の強い指導に少し気圧されつつも、少しずつ矢が狙った方向へ飛ぶようにはなっていった。
初心者には厳しい距離感
モングレルは二十メートルという距離が初心者向けではないのではないかと疑問を呈したが、ライナはこれでもかなり短い方だと答えた。森の中で実際に狩りをすることを考えれば、この程度の距離はむしろ最低限に近かったのである。
モングレルは、二十メートル先にクレイジーボアやチャージディアがいても、一射できるかどうかの距離だと感じていた。しかも一撃で仕留められるわけでもないため、本来ならもっと遠くから当てられなければならず、弓の実用性の高さと同時に習得の難しさも思い知らされていた。
二人の実力とアルテミスの強さ
モングレルが二人にどの程度の距離まで当てられるのか尋ねると、ライナは無風なら六十メートル程度だと答えた。ただしそれはスキル込みでの話であり、彼女の照星というスキルは手ブレを完全に抑え、安定した構えを保つことができるものであった。自動追尾のようなものではないが、長く正確に狙い続けられるため、実戦では非常に有効なのである。
ウルリカもライナと同程度の射程を持っていたが、照準系ではなく、生き物の弱点を見抜くスキルや、矢の威力を高めるスキルに優れていた。ライナによれば、ウルリカは突進してくる獣すら矢で弾き返すほどの威力を出せるという。モングレルは、アルテミスにはやはり天才が多いと感じていた。
手本として示された技術差
モングレルは試しに、自分の弓で二人に射ってみてほしいと頼んだ。ライナもウルリカも慣れない弓なので二射ずつだけと前置きしてから矢を放った。
すると二人とも一射目は的を外したものの、モングレルよりはずっと近い位置に矢を落とし、二射目ではきっちりと藁山へ当ててみせた。どうやら一射目で感覚を掴み、二射目で修正しているらしく、その技術はモングレルから見ればまるで別次元であった。
弓の練習と今後の約束
ライナは春になれば獣も増えるため、それまでに形だけでも弓をものにできれば良いと話した。一方ウルリカは、真面目にやれば間に合うかもしれないが、モングレルはどうせあまり練習しないだろうと半ば見抜いたように笑った。実際、モングレル自身も弓を必須とは考えておらず、あくまで趣味の一環という認識であった。
それでもウルリカは、今回の指導に金は取らないから、今後も暇な時に気軽に教わればいいと提案し、終わった後にエールを一杯奢ってくれれば十分だと付け加えた。ライナもそれに賛成し、モングレルもその条件なら安いものだと受け入れた。
春を前にした期待と小さな成果
会話の流れの中で、ライナが剣術を習うことはできるのかと尋ねたが、モングレルは自分の剣は完全な我流であり、学ぶなら軍の技術を身につけたアレックスの方が良いと答えた。自分の戦い方は強化頼みの押し切りが多く、真似されると危険だと理解していたのである。
そして春になれば、人も金も魔物も動き出し、ギルドマンにとっての稼ぎ時がやって来るという話になった。そんな中で、ようやくモングレルの矢が藁山に当たり、ライナとウルリカから素直に褒められた。モングレルは、月神が自分を見放していなかったのだと満足げに受け止め、三人は笑い合った。雪解けが進み、水たまりが増えれば、今年もまた忙しい季節が始まるのだった。
第九話 第一回熟成生ハム猥談バトル
弓練習の成果と酒場でのひととき
モングレルは数日間弓の練習を続けた結果、矢がそれなりに真っ直ぐ飛ぶようにはなっていた。ただしそれはあくまで方向が合う程度であり、的に当たる精度には程遠かった。それでもライナとウルリカの丁寧な指導によって、基礎的な扱いは身につきつつあった。
練習後には三人で酒場に寄り、モングレルが奢る形で軽く飲むのが習慣となっていた。二人との練習は居心地が良く、厳しさと楽しさが両立した時間であった。
絶品生ハムの登場
ある日、酒場にチャックが現れ、マーゴット婆さん特製の生ハムを持ち込んだことで場の空気は一変した。この生ハムは通常の塩漬け肉とは異なり、腐敗寸前まで塩分を抑えて熟成させた逸品であり、極めて高い評価を受けていた。
普段は保存食としての肉に飽きているギルドマンたちも、この生ハムには強く惹かれ、酒場全体が活気づいた。モングレル自身もこの生ハムを好んでおり、入手できる機会を強く望んでいた。
猥談バトルの開催
しかしチャックは生ハムを無条件では配らず、「スケベ雑学バトル」と称する勝負を提案した。参加者同士が猥談的な知識を披露し、より優れた内容と認められた者が多くの生ハムを獲得するというものであった。
審判には団長ディックバルトが指名され、酒場は低俗ながらも熱狂的な盛り上がりを見せた。内容は主に色街や娼館に関する情報であり、体験談を交えた生々しい話も飛び交う、混沌とした状況であった。
モングレルの参戦決意
当初モングレルは離れて見ていたが、生ハムへの欲求に抗えず参加を決意した。ライナとウルリカの前であることも一切気にせず、勝利のために猥談に身を投じる覚悟を固めたのである。
対戦相手はチャックとなり、周囲の期待と嘲笑が入り混じる中、勝負が開始された。
知識の差による逆転勝利
チャックは娼館の具体的なサービス情報を披露し優位に立ったかに見えたが、モングレルは現代知識に基づく突飛な内容を提示した。それはこの世界の者にとって衝撃的であり、ディックバルトによって高く評価された。
結果としてモングレルが勝利し、生ハム四切れを獲得することに成功した。チャックは敗北に衝撃を受け、場はさらに混乱と歓声に包まれた。
代償と満足
勝利したモングレルは生ハムを持って元の席へ戻ったが、ライナからは冷ややかな視線を向けられ、ウルリカは顔を赤らめていた。勝利と引き換えに、多少の信頼や印象を損なった可能性を感じていた。
それでも生ハムの味は確かに絶品であり、三人で分け合って食べることで満足を得た。モングレルは、その価値だけは確かだったと納得するのだった。
第十話 出会いと別れの春
春の到来とレゴールの再始動
待ちに待った春が訪れ、レゴールにも活動再開の季節がやってきた。雪解けによって街道の往来が活発になると、交易が再開され、冬の間に作られた商品が王都や各地へと運び出され始めた。新商品発祥の地として栄えるレゴールにとって、それはまさに待望の時期であった。
同時に、人の動きも大きくなる季節であった。就職や拠点変更の時期にあたり、他所からギルドマンが流入し、逆にレゴールから遠征へ向かう者たちも増えていく。冬の間に深まった親交は、新たな出会いや別れの季節へと移り変わろうとしていた。
ブリジットの正体と旅立ち
西門近くの馬車駅では、ブリジットの見送りが行われていた。華美な装飾の施された貴族用の馬車が並び、その前でシーナとナスターシャが、男爵家に連なる身分であったブリジットに向き合っていた。ブリジットは騎士装束ではなく儀礼用の服をまとっており、完全に貴族の令嬢としての姿を見せていた。
ブリジットは、自らの身分を偽っていたことや任務を果たせなかったことを詫びつつ、それでも平民としての職務経験は自分の糧になったと語った。そして、身分に関係なく一人のブリジットとしてまた共に任務に臨みたいと願いを述べた。シーナもそれを受け止め、行軍に慣れていてほしいと軽く釘を刺しながら見送った。こうしてブリジットは王都へ向けて出発し、春の別れの一つが静かに終わった。
モングレルの距離感と仕事への専念
その別れの場面を、モングレルは積荷の陰からひっそりと見守っていた。ブリジットに悪感情は持たれていないだろうと理解しつつも、自分から声をかけるつもりはなかった。貴族と深く関わることを避けたいという思いが強く、遠くから見送るだけで十分だと考えていたのである。
彼は現在、馬車駅で交易品の積み込みや積み下ろし作業に従事していた。ブロンズランク向けの力仕事でありながら報酬も良く、春の忙しさの中でしっかり稼げる仕事として真面目に取り組んでいた。
新型鏃への評価と道具の信頼性
作業の最中、モングレルはシーナに対し、以前仕入れた新型の鏃を返品した理由を尋ねた。シーナは、鏃の付け根が脆く、鏃そのものだけでなく柄まで駄目にしかねない欠点があったため、採用を断念したのだと説明した。春は小型の獲物が多く、耐久性の高い道具の方が使いやすいため、性能だけでは採用できないという判断であった。
その話を受けて、モングレルも武器の信頼性の重要さには強く同意した。シーナはその流れで、モングレルのバスタードソードも特別造りが良いわけではないのではないかと指摘したが、モングレルは実用性重視で装飾のない自分の剣を優秀な相棒だと捉えていた。壊れにくいのは自身の強化によるところも大きかったが、それでも彼にとっては信頼できる武器であった。
ライナの成長とモングレルへの忠告
シーナは、きっと今年中にライナがシルバーへ昇格すると語った。現在はブロンズ3でありながら成長は早く、新たなスキルを習得する頃には昇格の時期が来るだろうと見ていたのである。モングレルもそれを聞いて、後輩の成長の早さに素直に感心していた。
しかしシーナは、ライナやウルリカがモングレルのランクがブロンズ止まりであることを気にしているとも告げた。頼れる先輩でいたいのなら、そろそろ覚悟を決めるべきではないかと促したが、モングレルはそこだけは譲れないと拒んだ。徴兵を避けたい気持ちが背景にあり、それだけでなく、出世や国家への隷属そのものを望んでいなかったからである。
ハーフとしての警戒心と軍への拒絶
モングレルは、ハーフである自分が徴兵されれば最前線で使い潰される危険があると考えていた。シーナは、今ではサングレール人とのハーフも珍しくなく、そこまで恐れる必要はないと返したが、モングレルは貴族や国家を恐れすぎるくらいでちょうどいいと考えていた。
たとえ戦場に出ても死ぬつもりはないが、そこで英雄として祭り上げられ、百人隊長や軍団長への道を歩まされるのは真っ平だと断じた。平民には過ぎた出世であっても、国に縛られる未来など少しも望んでいなかったのである。
アルテミスへの忠告と移籍組への警戒
モングレルは、シーナに対して、団長を名乗る以上は後輩を死なせないよう立ち回れと忠告した。春から夏にかけては、好景気に沸くレゴールへ他所から多くのギルドマンが流れ込んでくる。そうした移籍組は、既存のパーティーとの諍いを引き起こすことも多く、女だけのパーティーであるアルテミスは特に騒動の的になりやすかった。
シーナもその危険性は理解しており、しばらくは集団行動を徹底させていると答えた。さらにナスターシャからは、ソロでありハーフでもあるモングレルこそ、他所のギルドマンに付け込まれやすい立場だと指摘されたが、モングレルはその点については心配無用だと答えた。外で絡んでくる相手には、穏当にボコボコにしてやるだけだと軽く言い放ったのである。
再び仕事へ戻る春の始まり
そうして会話を終えると、モングレルは積荷作業へと戻っていった。春の訪れとともに、人も物も動き始め、街全体が再び活気づいていた。別れを見送り、新しい季節の緊張を交わしながらも、彼にとって今大切なのは目の前の仕事であった。
そして作業の合間には、目ぼしい宛先にケイオス卿の手紙を紛れ込ませることまで考えており、春の始まりは忙しさとしたたかさを伴って進んでいくのであった。
第十一話 春の風物詩
春に活発化するレゴールのパーティーたち
春を迎え、レゴールを拠点とする各パーティーは一斉に活動を本格化させていた。アルテミスは冬眠明けで動きの鈍い魔物を狙い、通常より深いバロアの森へ入って討伐任務にあたっていた。大地の盾は複数班に分かれ、外部から来たギルドマンを狩場候補地へ案内したり、馬を使って離れた依頼をこなしたりしていた。
収穫の剣は相変わらず各自の裁量で動いており、団長たちの班は早々に遠征へ出発し、別の者たちは近場の依頼を受けていた。少人数のパーティーもそれぞれに合った仕事を取り始めており、かつてモングレルを勧誘した最果ての日差しも、他の弱小パーティーを吸収して六人へと増え、危うさを抱えながらもしぶとく生き残っていた。
春の野草を求めた森での遭遇
モングレル自身は、春の美味い野草を摘むことを主目的に、森や川辺に関わる依頼を選んでいた。癖のある野草ほど天ぷらにすると美味いという理由から、今回もバロアの森へ出向いていたのである。
しかし森へ入って間もなく、見知らぬ二人組のギルドマン風の男に声をかけられた。見た目からして人相が悪く、剣の柄に手をかけながらいかにも犯罪に及ぶつもりの笑みを浮かべていたため、モングレルはただの道案内依頼ではないと即座に察した。二人はショートソードと投げナイフを持ち、認識票はブロンズであったが、本物かどうかも怪しい有様であった。
盗賊の脅迫とモングレルの応戦
二人は、金を差し出せば命だけは助けると脅し、逃げれば殺すと露骨に恫喝してきた。自らを抹殺のロキール、瞬殺のカルロと名乗り、いかにも凶悪さを誇示しようとしたが、武装の軽さからして大した実力ではないことは明らかであった。
モングレルは自ら名乗り返し、二人を衛兵に突き出す者として立ち向かう姿勢を示した。相手はすぐに襲いかかり、カルロが投げナイフを放ったが、モングレルはそれをバスタードソードの先で軽く弾き返した。この時点で相手は実力差を悟ったが、既に遅かった。
実力差の明白な制圧
モングレルは、ショートソードしか持たず強化もろくに使えない相手が、春先の未熟なギルドマンではなく自分を狙った時点で運が悪かったと告げた。そして逃げようとしたカルロの頭部をバスタードソードの腹で叩きつけ、一撃で気絶させた。
残ったロキールは見逃しを求めたが、モングレルは先ほどの抹殺という名乗りや、その怯え方からして実際に人を殺している可能性が高いと察した。するとロキールは気絶した仲間を置いて逃げ出したが、モングレルは素早く追いついて殴り倒し、こちらも気絶させた。こうして二人の盗賊は無傷のまま制圧された。
盗賊の連行と衛兵への引き渡し
モングレルは二人を縛り、天秤棒の前後に一人ずつ吊るしてレゴールへ運んだ。魔物なら内臓を抜いて軽くするところだが、人間相手にそうもいかず、面倒なまま連行することになったのである。
門番たちは、森で待ち伏せしていた卑劣な犯行であること、認識票も他人から奪った可能性が高いことを察し、真剣な態度で対応した。二人はこれから尋問にかけられ、余罪を追及されることとなった。モングレルには、余罪の内容次第で報奨金が出ると告げられたが、彼自身はその先の尋問や処遇には関わりたくないと考えていた。
再び森へ向かうモングレル
引き渡しを終えたあと、モングレルは衛兵から怪我の有無を気遣われたが、無傷で制圧したと答えたうえで、再び森へ入って浅い場所で野草を採ってくるつもりだと告げた。衛兵たちは街の外では守れないから気をつけろと声をかけ、軽口を交わしながら見送った。
春は人も物も金も活発に動く季節であったが、それに合わせて悪党まで動き出すのもまた避けがたい現実であった。珍しくもないその光景を、モングレルは苦々しくも春の風物詩の一つとして受け止めていた。
第十二話 ハルペリアの注目株
春のギルドに漂う緊張感
春を迎えたギルドには見知らぬ顔が増え、賑わいと同時に張り詰めた空気も生まれていた。身内ばかりの時期に比べて、何を考えているのかわからない他所者が増えたことで、無意識の警戒がギルド全体に広がっていたのである。しかもギルドマンは舐められれば仕事に差し支えるため、些細な評判や喧嘩の勝敗ですら商売に影響を及ぼしかねなかった。
そうした中、外から来たシルバーランクのギルドマンたちは、レゴール周辺の討伐任務は実入りが悪く、魔物も小物ばかりで田舎じみていると語っていた。その言葉に明確な悪意はなかったが、地元のギルドマンたちには侮られたようにも聞こえ、今にも諍いへ発展しそうな、ひりついた空気が酒場に漂っていた。
サリーとの再会
その空気の中でモングレルに声をかけてきたのは、かつてレゴールを拠点としていた実力派パーティー『若木の杖』の団長サリーであった。彼女は王都へ拠点を移していたはずだったが、護衛の仕事を兼ねて再びレゴールへ戻ってきたのだという。
サリーは、王都にもやりがいのある仕事は多かったが、最近はレゴールの方が勢いを感じるため、この流れに乗るために拠点を戻すことにしたと語った。ケイオス卿が生み出した新商品群により、レゴールは王都から見ても明らかに伸びている街として映っており、貴族たちの嫉妬さえ招いているのだと明かした。
王都から見たレゴールの価値
サリーの話によれば、王都から見るレゴールは人と物の流入が著しく、今後さらに発展していくと予想されていた。貴族街ではバロアの森までの道路整備の話も出ており、それに伴ってギルドマンの仕事も今後増える可能性が高かった。
さらに彼女は、ここだけの話として、アマルテア連合国の交易団までもがレゴールへ足を延ばしていることを伝えた。若木の杖はその交易団の護衛として来ており、加えて他の大きな商会もレゴールへ支店を構える予定だという。これにより、レゴールの景気はこれまで以上に上向き、街の規模そのものが大きく変わっていく可能性が見えてきた。
モングレルの警戒と計算
サリーの情報を聞きながら、モングレルはレゴールの発展がさらに加速することを理解していた。それはギルドマンとしての仕事が増える好材料である一方、ケイオス卿として街を裏から誘導してきた自分にとっては、街の規模と注目度が大きくなりすぎることで、思い通りに制御しづらくなる危険も意味していた。
そのためモングレルは、今後世に流すべき発明品の優先順位や、街をどう伸ばしていくかを改めて慎重に考える必要を感じていた。活気があること自体は歓迎していたが、それが大きくなりすぎれば、自分の手を離れて暴走する恐れもあると見ていたのである。
サリーの勧誘と距離感
会話の中でサリーは、モングレルが未だにソロで、しかもブロンズのままでいることに感心しつつも、今のレゴールに詳しいギルドマンを何人か自分のパーティーへ取り入れたいと考えていると打ち明けた。しかしモングレルの生き方を見て、それを本気で勧誘するのは無理だとすぐに察した。
モングレルにとってサリーは、昔から話の波長が合う相手であったが、同時に鋭さを持つ危険な存在でもあった。懐を開きすぎれば、自分の裏の顔に気づかれかねないため、彼は昔馴染みでありながらも最も警戒している相手の一人として接していた。
魔法用品店の進出情報
一度はギルドを出たサリーだったが、すぐに戻ってきて、王都で聞いた追加の情報をモングレルへ伝えた。それは近いうちに王都の魔法用品店がレゴールへ支店を出すという話であった。弟子の一人が独立を許され、その店を任される予定だという。
サリーは、かつてモングレルが黒靄市場で怪しい魔法の入門書を買い、無駄な瞑想を続けていたことを覚えており、もしまだ魔法に興味があるなら、その店で初心者向けの道具を見てみると良いと勧めた。値段は張るが品質は良い店らしく、モングレルも水魔法に再挑戦する気を少し起こしていた。
活気ある未来への期待
サリーが去った後、モングレルはミルクを飲み干しながら、連合国の交易と魔法商店の進出という二つの大きな変化について思いを巡らせた。レゴールはこれからますます注目を集め、街の形も大きく変わっていくだろうと感じていた。
その変化は、自分の計画を慎重に進める必要性を強く意識させるものであったが、それでも活気があること自体は悪くないと受け止めていた。とりわけ交易の活発化によって、連合国産の魅力的な武器などが流れ込んでくるかもしれないという期待もあり、モングレルは複雑な警戒心とともに、これからの変化を前向きにも見ていた。
第十三話 タレはタレの味しかしない
塩への信仰とタレへの未練
モングレルは塩派であると自認していた。素材の味を楽しめることや、最後に行き着くのは塩だという考えから、それを通の境地として信じていたのである。しかし屋台で鶏肉の塩串焼きを食べるたびに、やはりタレがないと物足りないという本音も抱えていた。
醤油の不在が生む料理の限界
モングレルは焼鳥のタレを例に挙げ、その味の要となるのが醤油であると整理した。そして醤油の材料自体はこの世界でも揃いそうに見えたが、決定的に欠けているのが麹菌であると気づいていた。日本や湿度の高い東アジア、東南アジアには存在しても、レゴールの気候ではそれが望めないため、醤油も作れず、ひいてはタレも再現できなかったのである。
そのため日本食に偏りがちな自分の料理欲求はたびたび頓挫していた。味噌も麹菌なしでは作れず、味噌汁すら飲めない現実に、モングレルは強いもどかしさを感じていた。
故郷の味を求める市場探索
ないものを嘆いていても仕方ないと考えたモングレルは、市場で調味料探しを始めることにした。同行したのはライナとウルリカであり、三人は黒靄市場ではなく、賑わっている正規の市場を歩き回ることになった。
モングレルの目的は、魚料理に使える調味料を探すことだけではなく、できる限り故郷の味を再現することにもあった。醤油や味噌そのものがなくとも、代用品として使えそうな魚醤やガルムのようなものを集めておけば、いざという時に役立つと考えていたのである。
市場で目立つ粉物と魚醤の癖
市場を見て回ると、目立つのは粉状のハーブやスパイス、香辛料ばかりであった。液体調味料は輸送の都合から少なく、たまに見つかっても大半は魚醤に近いもので、塩気はあるものの生臭さが強かった。モングレルはその扱いに詳しくなく、火を入れて酒や砂糖を加えた時にどのような味になるのか見当がつかなかった。
ライナとウルリカも味見をしたが、匂いの強さに慣れず、特に気に入る様子は見せなかった。その結果、モングレルの荷物には当初の目的とは少し外れた乾燥スパイスばかりが増えていった。
妥協しかけた末の海藻との出会い
調味料探しが難航し、もう手持ちのスパイスで妥協しても良いのではないかと諦めかけた時、モングレルは干した海藻を見つけた。それは昆布とは異なる形をしていたが、表面が白く塩を吹いたようになっており、肉厚で硬い感触を持つ海藻であった。
売り手によれば、それは連合国から来た保存食であり、水で戻して焼いて食べるものだという。しかも肉に似た味がすると聞き、モングレルはそれを旨味のある素材と見なした。そして昆布出汁のように使えるかもしれないと考え、一気に三十枚を買い込んだのである。
新しい素材と創作料理への期待
こうしてモングレルは、故郷の味に少し近づけるかもしれない海藻と、いくつかのスパイスを手に入れた。醤油の代用品そのものは見つからなかったが、この世界の適当なソースである程度は我慢できるとも考えていた。
ライナとウルリカにも礼を述べたうえで、二人の買い物の荷物持ちまで引き受けながら、モングレルはしばらく新しい素材を使った創作料理に没頭できるだろうと前向きに受け止めていた。
第十四話 ヤツデコンブを最も肉っぽくする方法
ヤツデコンブへの期待と疑念
モングレルは、以前市場で買った昆布のような海藻を観察し、その形がヤツデの葉に酷似していることから、ヤツデコンブと仮に呼んでいた。表面の白く塩を吹いたような部分を舐めると、昆布に近い旨味が感じられたため、日本食の基本となる出汁素材としての可能性に期待を抱いた。
しかし同時に、水で戻してから焼くと肉の味がするという売り文句には強い疑念を抱いていた。昆布に似た海藻が肉の味になる理屈がまるで理解できず、出汁としても本当に思ったような味になるのか不安を感じていた。
出汁取りによる味の確認
まずモングレルは、小鍋に水とヤツデコンブを入れ、昆布出汁を取る時と同じように加熱していった。沸騰前に取り出してみると、海藻は柔らかくなっていたが、当然ながら肉のような姿にはなっていなかった。ただし、磯の香りと旨味を含んだ懐かしい匂いは確かに立っていた。
その出汁を味見すると、昆布とはやや異なるものの、十分に旨味があり、出汁素材として使える手応えがあった。肉の味には程遠かったが、昆布出汁に近いものとして使えると判断し、モングレルはこの点に大きな価値を見出した。
油で焼いた最初の試作
次にモングレルは、出汁を取った後のヤツデコンブを油を引いたフライパンで焼いてみた。海藻は薄いため焦げやすく、早めにひっくり返しながら慎重に加熱していったが、期待していたような肉の匂いは立たなかった。
完成した焼きヤツデコンブを食べてみると、確かに昆布とは異なるが、やはり肉とは呼べない味であった。予想通りの結果ではあったものの、売り文句ほどの変化はなく、モングレルはこの時点で半ば諦めに近い気分になっていた。
水戻しのみでの再挑戦
そこでモングレルは、先に加熱して出汁を取ったことが旨味を逃した原因ではないかと考え、新たなヤツデコンブを今度は水で戻すだけに留めた。十分に柔らかくなった段階で、再び油で炒めて変化を見ようとしたのである。
加熱中の匂いは、先ほどよりは少し良くなったようにも感じられたが、決定的に肉らしいとまでは言えなかった。その途中で、燻製を作っていたバルガーが現れ、興味を示して試食に加わることになった。
バルガーとの試食と評価
バルガーは、小盾を加工して作ったフライパンの上でヤツデコンブを切り分けながら、その見た目の奇妙さに呆れつつも、海藻を肉のように調理するという話には冒険心をそそられていた。切り分けられたヤツデコンブは、形だけならどことなくベーコンにも見えるものになった。
二人で実際に食べてみると、油で焼いたことや焦げ目、旨味の影響もあって、確かに少しだけ肉らしい食べ応えはあった。しかしそれはあくまで肉っぽさを感じる程度であり、本物の肉とは全く異なる食感であった。二人とも、面白い食材ではあるが、普通に肉を食べられるならそちらで良いという感想に落ち着いた。
獣脂による肉らしさの強化
そこでバルガーは、炒める時に獣脂を使えばもっと肉っぽくなるのではないかと提案した。モングレルは、それではほとんど肉の力を借りているだけでずるいのではないかと苦笑しつつも、実験として試すことにした。
フライパンに獣脂を入れてヤツデコンブを再加熱すると、漂ってくる匂いは完全に肉そのものとなった。食べてみると、確かにベーコンのような風味が加わり、先ほどよりも格段に肉らしさは増していた。しかしそれは獣脂の力によるところが大きく、モングレルはやはりこれは少し反則だと感じていた。
創作料理の果ての結論
その後もモングレルとバルガーは、買ってきた肉用のスパイスを振りかけたり、さまざまな調理法を試したりして、ヤツデコンブをより肉らしく、美味しく仕上げる方法を探っていった。創作料理としての試行錯誤そのものは楽しく、連合国を越えるほどノウハウを蓄えたかもしれないとさえ思えた。
しかし最終的に二人がたどり着いた結論は、バルガーが持ってきた燻製肉にスパイスをかけて食べるのが一番美味いという、あまりにも身も蓋もないものであった。ヤツデコンブの研究は面白くはあったが、結局本物の肉の前には及ばなかったのである。
第十五話 先を見据えた金稼ぎ
春の稼ぎ時とパイクホッパー討伐
春はギルドマンにとって仕事の季節であり、モングレルにとっても嬉しい時期であった。バロアの森では狩猟や野草採取が楽しくなる一方で、この時期はパイクホッパー討伐が大々的に行われる季節でもあった。パイクホッパーは犬ほどの大きさを持つバッタ型の魔物であり、小麦を主食とするため農業国家ハルペリアでは特に忌み嫌われていた。
この魔物は正面からの突進こそ危険だったが、小回りが利かず、側面を取れば対処しやすい相手でもあった。モングレルにとっては攻撃力も中途半端で返り血も少なく、しかも逃げないため、非常に戦いやすい相手であった。そのため金欠気味だった彼は、こいつらをまとめて狩れれば良い稼ぎになると考え、日暮れまで討伐を続けた。
討伐の成果と限界
モングレルは日が暮れるまでパイクホッパーを斬り続けたが、倒せた数は二十匹弱に留まった。ソロでも十分に討伐可能な相手であるため報酬自体は高くなく、素材も人気がないため、大きな儲けにはならなかった。後ろ脚を武器の柄に加工する使い道もあるにはあったが、それも特別需要が高いわけではなかったのである。
そのためモングレルは、これだけでは満足な稼ぎにならないと判断し、尖った額の甲殻をズダ袋に詰めてギルドへ戻ることにした。
ギルドの繁忙とエレナへの相談
春のギルドは非常に忙しく、受付にはエレナやミレーヌだけでなく、普段は裏方の職員まで駆り出されていた。依頼主との対応がひっきりなしに続き、建物内を行き来する職員も絶えない状況であった。そんな中でモングレルは、列が落ち着くのを待ってからエレナに声をかけ、自分でも受けられて金になる力仕事がないか相談した。
エレナは、近頃市場が賑わい、モングレルがまた無駄遣いしているのではないかと呆れつつも、ちょうど良い仕事を思い出した。それは路地奥にある共同倉庫が商社へ売られることになり、その中に入っている重い道具類を持ち主のもとへ運び出す仕事であった。本来は三人ほど必要な作業だったが、モングレルなら一人でこなせると判断され、調整のうえ二日後に依頼が回されることになった。
共同倉庫の運搬作業
二日後、モングレルは依頼主のもとを訪れた。共同倉庫には鉄床をはじめとする重い道具類が置かれており、狭い路地と新しく建った家屋のせいで運び出しが難航していた。若い者たちは力が足りず、依頼主自身も年齢のために運搬が難しい状況であった。
モングレルは、持ち主ごとに札を付けてくれれば、自分が一つずつ運び出して指定場所まで届けると申し出た。地下倉庫に入れる必要がある荷物についても、一旦手前に集める形で良いかと確認し、効率よく作業を進める方針を固めた。
圧倒的な力仕事と一日の完遂
作業が始まると、モングレルはその怪力を存分に発揮した。共同倉庫の利用者は四人であり、荷物は地下倉庫や狭い路地の奥にある各店舗へ運ばなければならなかったが、彼にとっては大した問題ではなかった。着実に荷物を運び出し、午前中には倉庫を空にしてしまったのである。
その後は依頼主の厚意で昼食まで奢られ、午後には各店舗前にまとめた荷物を個別の倉庫へ下ろす作業に取りかかった。それも一時間ほどで終わり、結局この依頼は一日で無事完了した。依頼主たちは、ギルドマンは高いと思っていたが頼んで正解だったと感謝し、モングレルも報酬分はしっかり働いたと応じた。
直接依頼の可能性
仕事を終えた後、依頼主の一人は、ギルドを通さず直接頼めば安くしてもらえるかとモングレルに尋ねた。モングレルは、ギルドに睨まれない程度の仕事なら友達の手伝いという形で引き受けられると答えた。ギルドを通すと小さな店ほど負担が大きいため、個人で動く形なら双方に都合が良いと考えていたのである。
もちろん、報酬面で揉めた際に仲裁が入らないという問題はあるが、少なくともレゴール内であれば大丈夫だろうと見込んでいた。もし支払いを渋られたとしても、その時は自分なりの手段で対処するつもりであった。
次の買い物資金への手応え
こうしてモングレルは、先日のスパイスや昆布のような食材の買い込みで減っていた所持金を持ち直すことができた。まだ彼には魔法の教科書や新しい装備など、買いたいものがいくつも残っていた。そのため、しばらくはこうした力仕事で堅実に金を稼ぐのも悪くないと考えていたのである。
第十六話 世直しモングレルさん
若木の杖への注目と反感
王都から戻ってきた熟練パーティー『若木の杖』は、レゴール支部のギルドで大きな注目を集めていた。複数の魔法使いを擁する構成だけでも珍しいのに、王都帰りであり、しかも出戻りでもあるという事情がさらに話題性を高めていたのである。三年前までレゴールを拠点にしていたため顔見知りも多く、歓迎する声が大勢を占めていたが、そのぶん彼らを知らない者はモグリのように見られる空気も生まれていた。
一方で、都合の良い時だけ戻ってきたように見えることや、魔法使い中心の構成がいかにも理想を追い詰めた強パーティーに映ることから、反感ややっかみも生じていた。地道にレゴールでやってきた者たちからすれば、垢抜けた雰囲気をまとった若木の杖は親しみにくく、結果としてギルド内で孤立気味になっていた。
路地裏での嫌がらせの発生
そうした空気の中、モングレルはギルドの外で不穏なやり取りを耳にした。人通りの少ない路地で、三人組の男たちが若木の杖の若い魔法使いらしき少女に絡んでいたのである。男たちは外見や装備から見て隣街ベイスンから来た移籍組らしく、若木の杖の一員なら金も持っているだろうとか、街に不慣れだろうから案内してやるなどと軽薄な口実を並べていた。
しかし実際には、若木の杖なら多少乱暴に扱っても構わないというような甘えと悪意が透けて見えていた。弱い者を理屈をつけていじめるような振る舞いを、モングレルは最も嫌っていたため、その光景に強い苛立ちを覚えた。
モングレルの介入と少女の脱出
モングレルはバスタードソードを肩に担いで路地へ踏み込み、三人組にやめるよう声をかけた。ところが男たちは少しも怯まず、モングレルの存在をほとんど無視したまま少女への威圧を続けた。そこでモングレルは少女に対し、自分に任せてそのまま帰るよう指示した。
少女はその隙を逃さず、すぐ脇を抜けて走り去った。咄嗟の状況で素早く動けたあたりに、魔法使いであっても実戦慣れしている様子がうかがえ、モングレルは若木の杖らしい対応だと感じていた。
三人組との乱闘
少女を逃がしたことで男たちはモングレルに矛先を向けた。モングレルがレゴールで一番強いギルドマンだと名乗ると、相手は白髪混じりのブロンズ野郎と嘲りつつ、女を逃がした責任をどう取るのかと逆上した。三人のうち二人はブロンズ3で、一人だけシルバー1だったが、全員がロングソードを背負っており、腕に覚えはあるようだった。
モングレルは本来ならもっと言葉の応酬を楽しみたかったが、先に顔を殴られ、その後も三人がかりで腹や脇腹に容赦なく攻撃を加えてきた。その乱暴さに呆れつつも、前髪を掴まれたことで容赦を忘れ、一人に強烈なボディーブローを叩き込んで一撃で沈めた。そこからは速攻で決着をつける方針に切り替え、もう一人には腹への蹴りを入れ、さらに剣を抜こうとした最後の一人にも蹴りを叩き込んで制圧した。
敗北した男たちへの警告
モングレルは、もう二度とこの街で姑息な真似はしないと誓うよう三人に迫った。もし従わないなら何度でも相手をしてやると凄むと、男たちはついに完全に気圧され、もう卑怯な真似はしないと謝罪して逃げ出していった。
モングレル自身は、殴られた分をまだ返しきれていないという気分も残していたが、これ以上エスカレートして抜剣沙汰になる前に終わらせたことを良しとした。刃傷沙汰に発展すれば本当に犯罪になるため、あくまで穏当な喧嘩の範囲で片付けるつもりだったのである。
助けられた少女との再会
乱闘が終わったあと、モングレルは少女が危険を避けて徹底的に逃げ切ったのだろうと考え、その判断を正しいものだと評価していた。ところが表通りへ出ると、少女はそこで待っており、改めて礼を述べた。
モングレルは気にするなと返し、団長のサリーにモングレルが助けたから貸し一つだと伝えておくよう告げた。そして、しばらくは横着せず大通りを歩くよう忠告すると、少女は素直に頷いて再び礼を言った。モングレルは軽く応じ、その場を後にした。
レゴールの未来を見据えた行動
モングレルにとって若木の杖は、こんな嫌がらせごときで足踏みしていてよいパーティーではなかった。彼らには早くレゴールでの地盤を固めてもらい、その先にある開拓事業や大規模工事へ街全体が集中できる状況を作ってほしいと考えていたのである。
レゴールをさらに発展させ、人を増やし、生産能力を高めれば、ケイオス卿の商品開発を支えられる店も増えていくはずだった。モングレルは、街がもっと住みやすくなってほしいと願う一方で、こうした揉め事を防ぐためにも、衛兵の巡回がもっと増えてほしいとも感じていた。
第十七話 装備は見た目も大事
春の市場と装備探し
春になって魔物との戦闘が増えると、どれほど大切に使っていても装備は少しずつ消耗していった。盾は歪み、剣も使い方を誤れば折れたり曲がったりするため、修理でどうにもならなくなれば新調するしかなかった。そうして愛用品との別れを惜しみながらも、新しい装備を選ぶ楽しさが始まるのである。
モングレルは、ライナとウルリカを連れて再び市場へ出向いていた。最近は連合国から流れてくる装備品が増え、それに対抗するように国内の質の良い装備も並ぶようになっており、市場は武具に関しても大いに賑わっていた。モングレルは働いて得た金で物欲を満たすつもりであり、ライナも指先が擦れてきたグローブの予備を、ウルリカも肌当たりの良い胸当てを探していた。
ライナとウルリカの新装備
市場を見て回る中で、ライナとウルリカは最近広まっていたモングレルの喧嘩話を持ち出した。ベイスンのパーティーと揉めて勝ったという噂はすでに広まっていたが、モングレル自身は無傷勝利のような話が広まるのを避けるため、わざと自分も殴られて痛かったと周囲に話していた。強さは匂わせつつも、必要以上に大きな噂になるのを防ぎたかったのである。
やがて二人は弓使い向けの装備を見つけ、ライナは細身で指の動かしやすい新しいグローブと、腰に小さなポケットが並んだ革ベルトを身につけて見せた。モングレルはその軽快で実用的な装備を素直に良いと評価したが、思わず腰が細いからもっと飯を食えと言ってしまい、何やら空気を微妙にしてしまった。
続いてウルリカは、表面が滑らかで弦が擦れにくい胸当てを見せた。見た目は革製だが、内側には金属が仕込まれており、防具としての役割も備えていた。弓使いにとって胸当ては防御のためだけでなく、弦が当たった際の抵抗を減らし、射撃を安定させる意味もある装備であった。モングレルは、着け心地が大事だというウルリカの説明に納得し、二人が満足げに新装備を選んでいる様子を見て、自分も新しい武器を探す意欲を高めていた。
鎖鎌への失望
その後、三人は珍しい武器を扱う店へ足を運んだ。そこでモングレルの目に留まったのは、鎌の柄尻に鎖が繋がれ、その先に鉄の錘がついた武器、鎖鎌であった。前世の日本由来の武器であり、時代劇や忍者の得物として知っていたモングレルは、一見しただけで仕組みを理解した。
しかし彼は、その武器を見て一切心を動かされなかった。錘を振り回して攻撃し、鎌の方は絡め取った相手を切るという実用的な構造は理解していたが、鎖のついた鎌でありながら主役が鎌ではなく錘であることに強い不満を抱いたのである。鎌の方を豪快に振り回さず、地味な使い方しかできない点を、モングレルは戦闘面でのビジュアルが足りないとして切り捨てた。
ライナとウルリカは、モングレルならこういうゴテゴテした武器を何でも喜ぶと思っていたが、彼はただ複雑な武器が好きなわけではなく、見た目と実用性の両方を見て選んでいるのだと主張した。
理想の武器との遭遇
そんな中、ウルリカが壁に立てかけられていた別の武器を指さした。それは斧、槍、そして鎌が長柄の先に一体化した、美しい長柄武器であった。ハルペリアの馬上騎士が採用しているという、幻のハルバード、グレート・ハルペであった。
それを見た瞬間、モングレルは完全に心を奪われた。そして先ほどまでの冷静さを失い、その武器を言い値で買うと叫んだ。ライナには結局ゴテゴテした武器が好きなのではないかと呆れられ、ウルリカにも値段の高さを指摘されたが、モングレルの決意は揺らがなかった。
再び始まる金欠生活
こうしてその日、モングレルの武器コレクションには新たにグレート・ハルペが加わった。その代償として所持金は一気に減り、彼はまたしても金欠生活へと逆戻りすることになった。
それでも、心から気に入った武器を手に入れた満足感は大きく、装備選びにおいて見た目がどれほど大事かを、モングレルは改めて実感していたのである。
第十八話 黒靄市場で小遣い稼ぎ
金欠と新たな資金調達の必要
モングレルは最近働いて稼いだはずなのに、なぜか人に見せづらいほど所持金が減っている現実に直面していた。原因を深く考えるのはやめたが、魔法商店での買い物や服の生地、個人的な製作物の材料費など、今後も金が必要であることは明らかであった。とっておきの裏金には手をつけたくなかったため、別の方法で稼ぐ必要に迫られていた。
討伐依頼の取りこぼし
春らしく討伐依頼で稼ごうとしたモングレルであったが、狙っていたクレータートード討伐はすでに全地区で受注済みであった。クレータートードは春の水辺に現れる蛙の魔物であり、脚肉が美味く、分泌液も良質な油として使えるため人気が高かった。ミレーヌもモングレル向きの仕事だと思っていたが、他のパーティーが一斉に押さえてしまっていたため、今回は出遅れた形になった。
委託販売という稼ぎ方
ギルド経由の仕事が取れない以上、モングレルは独自の金策に切り替えた。その手段の一つが委託販売であり、彼は黒靄市場の露天商メルクリオのもとを訪れた。メルクリオは胡散臭いながらも商売そのものを楽しむ男であり、モングレルの持ち込む変わった商品を面白がって扱ってくれる存在であった。
発火器の売上回収
メルクリオは、以前モングレルが預けていた発火器がそこそこ売れたと報告した。原始的なファイアピストンである発火器は、構造こそ単純だが便利さが少しずつ広まったらしく、似たような男たちが何日か続けて買いに来ていたという。メルクリオは売値が安すぎたので次はもっと値を上げるべきだと助言し、売上として千六百六十ジェリーをモングレルに渡した。
新商品としての洗濯板
さらにモングレルは、新たな委託品として洗濯板を持ち込んだ。表面に山型の溝を並べた木の板であり、タライの中で衣類をこすりつけて洗うための単純な道具である。実際に使ってみたモングレルの感触では、手足や棒で踏んだりこねたりするより三倍は楽であった。メルクリオも仕組みを理解し、宿屋や鞣し屋には売れるかもしれないと見込んだ。
価格設定と追加販売の布石
メルクリオは、洗濯板は真似しようと思えば作れそうだが、滑らかな仕上げには手間がかかると見て、一枚五百ジェリー、少し下げて四百五十ジェリー程度で売るのが妥当だと判断した。モングレルは板の用意が難しいため量産には乗り気ではなかったが、売れ行きが良ければ板はメルクリオ側で調達するという話にもなり、次の収入に繋がる布石も打たれた。
過去の失敗作と商人の評価
メルクリオは、今回の洗濯板はモングレルにしてはまともな発明だと評し、昔のような頭のおかしい商品も見たいと笑った。その例として話題に上がったのが、マイナスドライバーやプラスドライバー、缶切りまで付けた十徳ナイフであった。モングレルは思いつきで量産したものの、未だに一個しか売れておらず、自分でも時代が早すぎたと認めざるを得なかった。メルクリオからも、そのナイフの時代は来そうにないと断言されてしまった。
品評会の誘いと貴族への忌避感
会話の中でメルクリオは、貴族街で発明家向けの品評会が毎月開かれており、ケイオス卿をあぶり出すための場ではないかという噂を伝えた。もし貴族の目に留まれば、お抱え発明家として成り上がる道もあると語ったが、モングレルは貴族との付き合いは面倒だとして興味を示さなかった。自分が出れば周りが可哀想になると冗談めかしつつも、実際には身バレを避けたい気持ちが強かった。
臨時収入と広まらない発明品への複雑さ
こうしてモングレルは、発火器の売上という臨時収入を得たうえ、洗濯板という新たな商品を委託することで次の収入の種もまいた。しかしファイアピストンや洗濯板のような品は、自分が作れば金にはなるものの、広く普及するまでには時間も手間もかかる。モングレルは、むしろ誰かがさっさと模倣して広めてくれればいいのにと考えつつ、なかなかそううまくは広がらない現実に面倒くささも感じていた。
第十九話 魔法のお勉強
祭り前の活気と自己研鑽への転換
レゴールでは祭りの準備が進み、観光客も増え始めて街全体が賑わいを見せていた。一方で収穫期に備えた魔物討伐も継続されており、依然として忙しい季節であった。モングレルは討伐にも参加していたが、小物相手では収益が乏しいため、自己研鑽に時間を使う方が有意義だと判断していた。手元の資金にも余裕があったため、祭り前に新たな挑戦へ踏み出すことにした。
魔法商店への訪問とミセリナの案内
モングレルは“若木の杖”のミセリナに案内され、新たに開店した魔法用品店を訪れた。店は防犯に適した立地にあり、清潔で敷居の高い雰囲気を持っていた。ミセリナは以前助けた縁から案内役を務めており、内向的ながらも実力ある風魔法使いであった。
店主ギルバートとの対話と魔法の現実
店主ギルバートは、魔法は適性と長年の研鑽が必要な分野であり、成人してから大成するのは困難であると現実的な説明を行った。モングレルは職業としてではなく、水を出す程度の実用的な魔法を習得したいと考えていたが、それでも習得できる保証はないと釘を刺された。それでもモングレルは挑戦を選び、見習い用の杖や触媒、教本を一式購入した。
魔法習得への期待と初期の試行
宿に戻ったモングレルは、購入した教材を広げて学習を開始した。前世の知識を活かせば容易に魔法が扱えるのではないかと期待し、強力な魔法を扱う可能性すら想像していた。しかし実際には瞑想やイメージといった抽象的な訓練が中心であり、習得の手応えは得られなかった。
短期間での挫折と現実の認識
魔法修練を始めて三日後、モングレルはすでに練習を中断していた。瞑想中心の訓練に成果を感じられず、自身には魔法の才能がない可能性を認めたのである。ライナには単なる飽きだと指摘されつつも、それを否定しきれず、結果として魔法習得は早々に頓挫した。
他者への転用と軽い締めくくり
その後モングレルは、かじった程度の魔法理論をライナに教えながら酒を飲んだ。自身は挫折したものの、集中力のあるライナの方が適性を持つ可能性を感じており、魔法への挑戦は別の形で続いていく余地を残したまま終わったのであった。
第二十話 空を泳ぐクラゲたち
精霊祭とジェリースライムの出現
春のレゴールでは精霊祭が行われ、空飛ぶクラゲのような魔物ジェリースライムが街中に現れるようになっていた。実態はスライムであり、虫を捕食する穏やかな生態を持つため人への害はほとんどなく、小動物のような扱いを受けていた。その幻想的な姿から月や精霊と結び付けられているが、実際には飾り付けや遊びの対象として扱われ、畏敬の念は薄かった。
ジェリースライム捕獲と利用目的
モングレルは自作の捕獲ネットを用い、ジェリースライムを集める任務に従事していた。捕獲されたスライムは下水道に放たれ、水質や空気の浄化に利用されるほか、祭りでは色を付けて空へ放つ演出にも使われていた。作業は単調ながらも遊び感覚で進められ、癒やしのある任務であった。
祭りの予定とライナとの約束
作業の合間、モングレルはライナと祭りの過ごし方について話し合った。ライナは所属する“アルテミス”で肉の寄付を終えた後は自由になる予定であり、モングレルと共に祭りを回ることを提案した。モングレルもこれを受け入れ、弓の練習を兼ねた狩りに同行する約束を交わした。
精霊祭の楽しみと日常の思考
モングレルにとって精霊祭の本番は、振る舞われる酒や料理であった。特にクラゲの塩漬けは好物であり、祭りの楽しみの一つとなっていた。一方で料理への関心も強く、鶏ガラスープや麺類の構想を巡らせる中で、再び醤油の不在に不満を抱く様子も見られた。
任務完了と花の贈与
ジェリースライム三十体の捕獲を終えたモングレルは、報酬として花を受け取った。この花は祭りに関連する任務の証として配られるもので、装飾用途に使われるものであった。モングレルはそれを子供に分け与え、髪に挿してやることで小さな喜びを与えた。
祭り前の街の賑わい
街では子供たちがジェリースライムを追い回し、活気ある光景が広がっていた。モングレルはその様子を眺めながら、祭りの到来とクラゲ料理への期待を胸に、春の賑わいを実感していたのであった。
第二十一話 精霊祭の食い気デート
祭りの熱気とライナの装い
精霊祭当日のレゴールは、例年以上の人出で大いに賑わっていた。観光客が明らかに増えており、通りには露店や土産物売りが並び、宿屋もすでに満員となっていた。そんな祭りの朝、ライナはウルリカやジョナに背中を押され、普段とは違う薄黄色のワンピース姿で待ち合わせ場所に現れた。
モングレルは、仕事着しか見慣れていなかったライナの格好に新鮮さを覚え、素直に可憐で似合っていると褒めた。ライナの反応はどこか渋かったが、二人はそのまま祭りの屋台を端から見て回ることにした。
露店巡りと気ままな食べ歩き
人の流れは遅く、飾り付けられたジェリースライムを見上げながら歩く人々に合わせて、モングレルとライナの足取りものんびりしたものになっていた。露店では苦味の強いスパイス入りのローリエ茶を見つけ、モングレルが試しに買ってライナにも飲ませたが、予想通りかなり苦く、二人とも微妙な反応に終わった。
その後は飴屋の屋台へ向かい、ドライフルーツを中心に入れた柔らかな飴を何種類も試した。デーツやレーズン、ベリー味の飴を食べ比べた結果、最も好評だったのは酸味のあるベリー味であった。モングレルは、こうして食べ物を買い漁って回るのが祭りでは一番楽しいと改めて感じていた。
吟遊詩人の見世物と昔話
通りの先では音楽が鳴っており、二人は吟遊詩人の演奏を見物することにした。祭りの日の吟遊詩人たちは稼ぎ時であり、レゴールの武勇や英雄譚を大げさに歌い上げては客からおひねりを受け取っていた。演奏はそれなりに盛り上がっていたが、モングレルとライナは顔を見合わせ、低めの点数をつけながら、それでも一ジェリーずつ投げてやった。
その流れで、モングレルは自分も昔ギターを弾いていたことや、学生時代に軽音楽部で思わぬ形でフォークバンドを組んだ過去を語った。さらに、かつてギルドでふざけ半分に弾き語りを披露し、おひねりをぶつけられまくったことまで打ち明けたため、ライナは強い興味と不安の入り混じった反応を示していた。
バルガーとの遭遇とギルドの無料酒情報
祭りの通りを歩いている途中で、すでに酒を楽しんで上機嫌になっているバルガーと遭遇した。串焼き肉と酒を手にしたバルガーは、めかし込んだライナの姿に感心しつつ、今年はギルドの酒場でもギルドマン限定で無料の酒が配られているという情報を教えてくれた。
外があまりに混雑しているため、配布場所を分散させる目的でギルドでも振る舞いが行われているらしく、バルガーは広場の催しを見終えたらギルドに来いと勧めて去っていった。モングレルとライナも、その話に乗って後でギルドへ向かうことに決めた。
祭りを満喫する二人
こうしてモングレルとライナは、祭りの賑わいの中で屋台を巡り、食べ歩きを楽しみながら一日を過ごしていた。人混みも、割高な屋台も、今日は祭りだからという理由で許される特別な空気がそこにはあった。
そして二人は、広場の舞いや見世物を見終えた後、ギルドで無料の美味い酒を飲むことを次の楽しみに定めた。つまみになりそうな屋台の品も買い揃えながら、精霊祭の一日を存分に味わおうとしていたのである。
第二十二話 琥珀色の感謝
祭りの夜のギルドの賑わい
モングレルとライナがギルドに入ると、酒場は見慣れた地元の顔ぶれで大いに賑わっていた。普段は鎧姿の男たちも今日はラフな服装で、女たちも祭り用に着飾っており、いつもとは違う華やかな空気が広がっていた。パーティーの垣根を越えて同じ席で酒を酌み交わす者も多く、祭りならではの開放感が満ちていた。
ウルリカとの合流と祭りの余韻
二人はウルリカに呼ばれて席に着いた。ウルリカも祭り用に肩の出た服を着ており、今日は三人で飲む流れになった。テーブルには無料で配られているビールとクラゲ料理が運ばれ、ライナはウルリカから飲ませる気満々で絡まれていた。ギルドの天井付近には黄色く染められたジェリースライムも漂っており、祭りの飾りつけが酒場の中にまで及んでいた。
ウルリカによれば、シーナやナスターシャ、サリー、アレクトラといった上位ランクの面々は一角で静かに詩を詠み合う遊びに興じていた。モングレルとライナは広場の舞いや色付きジェリースライムが空へ放たれる場面を見てきたことを話し、混雑の中をモングレルが力任せに押し進んでくれたおかげで良い場所まで辿り着けたのだと振り返った。
無料の酒とクラゲ料理を楽しむ時間
モングレルはクラゲ料理をつまみながら、祭りの酒場の空気を楽しんでいた。酢の物のようなクラゲは良いつまみであり、ぬるいとはいえ無料のビールと合わせれば十分に祭り気分を味わえた。ライナは先ほど買った菓子も食べようと言い出し、モングレルは持参していたスパイスをかけて楽しもうとするなど、三人は気ままに酒と食べ物を満喫していた。
伯爵の伝令と感謝状の読み上げ
そんな最中、鎧姿の従士がギルドへ現れ、酒場の空気を引き締めた。彼はレゴール伯爵の伝令として、その場にいる者たちへ祭りの祝いの言葉を伝えたうえで、ケイオス卿への感謝状を読み上げ始めた。卿の所在がわからないため各地で同時に読み上げているのだと説明されると、モングレルはそれが自分に向けられた言葉だと悟りつつ、表向きは平静を装って聞いていた。
感謝状では、塩水選と種子消毒によって今年の収穫がより良い結果となったことが報告され、その功績に対する感謝が述べられた。モングレルは、自分が伝えた知識を本当にレゴール伯爵が実施していたことに驚きつつも、素直に悪い気はしていなかった。
蒸留酒完成の報せとウイスキーの登場
さらに伝令は、ケイオス卿の知識をもとに開発を進めてきた蒸留酒が完成したことを告げた。そしてその新たな酒、ウイスキーを祭りの日にレゴールの民へ振る舞うと宣言し、琥珀色の液体が満ちた大瓶を取り出してみせた。モングレルはそれを見た瞬間に動揺し、咳き込みながらも、それがまさしく自分の知るウイスキーであると確信した。
伯爵は酒の量こそ限られているが、今後段階的に生産を増やしていく予定だと伝えさせていた。酒場の者たちは新しい強い酒に一斉に興味を示し、場は再び大きな活気に包まれた。
初めて味わうウイスキーへの反応
モングレルたちも列に並び、ようやく配られた小さなコップ入りのウイスキーを受け取った。量の少なさに周囲では不満も漏れていたが、ストレートの強い酒としては十分な量であった。モングレルはその香りを嗅いだ瞬間に懐かしさを覚え、口に含んだ酒精の強さや木の甘い香りに、間違いなくウイスキーだと確信した。
一口飲んだライナはその辛さに驚きつつも、すぐに美味さを理解した。一方のウルリカは薬のようだと感じて戸惑っており、飲み慣れない者には厳しい酒であることも明らかだった。モングレルとライナはクラゲ料理をつまみにしながら、ちびちびとその強い酒を味わった。
ケイオス卿への乾杯
ウイスキーを気に入った者たちは、酒場のあちこちで小さな杯を掲げ、ケイオス卿を讃え始めた。量が少ないため泥酔するほどではなかったが、それでも新しい酒の魅力は十分に伝わり、場には高揚感が広がっていた。
その光景を見ながら、モングレルもまた小さく杯を掲げた。表向きは皆と同じく発明家に感謝を捧げる形を取りながら、その実、自分へ向けられた感謝に静かに応えていたのである。
第二十三話 第二回熟成ウイスキー猥談バトル
ウイスキー争奪戦の再燃
ウイスキーは一人一杯までという制限に不満を抱いた飲兵衛たちは、他の配布場所を求めて再び祭りの外へと向かっていった。各所で配布されていることを利用し、複数回の入手を狙う者たちの行動に、酒場の中は一時的に人が減る状況となった。
そんな中、モングレルは警備部隊のヒーラーであるカスパルとその部下ユークスと出会う。彼らは祭りの最中でも勤務を控えており、酔客の急患に備えている状況であった。祭りの浮かれた空気の裏で、支える者たちの存在があることが示されていた。
ウイスキーへの関心と分析
外でウイスキーを入手したギルドマンたちが戻ると、酒場では再び熱気が高まった。一方、ゴールドランクの面々はその酒の風味について分析を始め、焦げた木材や樽による熟成が関係しているのではないかと推測した。モングレルはその推察の正確さに内心感心しつつ、自身が伝えた製法が正しく理解されていることを認識していた。
またライナはその強い酒を気に入り、購入を検討するほどの関心を示していた。モングレルは蒸留酒が今後の重要な産業になり得ると考え、さらなる発展の可能性を思案していた。
腕相撲優勝とウイスキーの追加報酬
夜が深まり人が増え始めた頃、収穫の剣の面々が帰還した。彼らのリーダーであるディックバルトは、祭りの催しである腕相撲大会で優勝しており、その賞品としてウイスキーの瓶を獲得していた。
ディックバルトはその酒を独占せず、ギルドの全員と分かち合うと宣言する。この行動により酒場は大いに沸き立ち、彼の人望と器の大きさが改めて示された。
猥談バトルの再開
しかし酒の量は限られていたため、分配方法として「第二回熟成ウイスキー猥談バトル」の開催が決定された。参加者たちは己の知識を競い合う形で勝者を決めることとなり、酒場は一気に下品で騒がしい熱狂に包まれた。
男たちが次々と参加し、様々な知識を披露していく中、女性陣は距離を置いて冷ややかな視線を送る構図が生まれていた。モングレルもまた参加を決意し、ライナの期待を背負って前に出ることとなった。
モングレルとチャックの対決
対戦相手はチャックであった。彼は先攻を取り、独自の知識で会場を沸かせる。しかしモングレルはそれを一蹴し、さらに上回る知識を提示することで圧倒した。
ディックバルトの判定により勝者はモングレルと決まり、チャックは敗北した。ディックバルト自身もその内容に理解を示し、場の空気は一層盛り上がった。
勝利とウイスキーの行方
勝利したモングレルは、報酬としてウイスキーを多めに注がれた。しかし女性陣からは冷ややかな視線を浴びる結果となり、場の温度差が浮き彫りとなった。
その後、モングレルは自分の取り分をライナに譲り渡した。酔いが回っていたこともあり、自身はそれ以上飲むことを控えたためである。ライナはそれを喜んで受け取り、結果としてウイスキーはすべて彼女の手に渡ることとなった。
こうして騒がしくも下品な競い合いは幕を閉じ、祭りの夜はさらに深まっていった。
第二十四話 二人の帰り道
酔いの帰路と立場の逆転
精霊祭の後、モングレルは酔いが回った状態で帰路に就いた。同行するライナはウイスキーを楽しみつつも冷静で、ふらつくモングレルを気遣いながら道を選んでいた。本来は送り届ける立場であるはずのモングレルが逆に世話を焼かれる形となり、二人の関係性が逆転した状況が描かれていた。
祭りの余韻と街の様子
夜の街は祭りの余韻に包まれており、多くの店は閉まっていたものの、飲み屋を探す人々が通りを彷徨っていた。昼間の賑わいとは異なり、後夜祭のような落ち着いた空気が広がっていた。二人も開いている店を探しつつ、見つからなければ広場に戻るという気楽な方針で歩みを進めていた。
ライナの心情と変化
モングレルが祭りの感想を尋ねると、ライナは強く楽しかったと答えた。彼女の故郷の祭りには楽しさがなく、今回の経験は新鮮で特別なものであった。その笑顔には年相応の落ち着きがあり、普段の幼い印象とは異なる一面が表れていた。
何気ない接触と距離感
歩きながらの会話の最中、ライナが装飾にぶつかりそうになり、モングレルは咄嗟に引き寄せて守った。その後も自然な流れで会話が続いたが、距離が近づいたことでライナはわずかに動揺を見せた。一方のモングレルは過去の記憶や酒の話に意識を向けており、微妙な温度差が存在していた。
別れ際のやり取りとすれ違い
別れ際、モングレルは酔いながらもライナを気遣い、大人としての忠告を口にした。しかしその言動は子供扱いに受け取られ、ライナは不満を示した。さらに頬についた装飾を取るという何気ない行動が引き金となり、ライナは照れ隠しのように蹴りを入れて立ち去る結果となった。
余韻と次への繋がり
最後にライナは振り返り、次の狩りの約束を交わして去っていった。モングレルは酔いの中でそのやり取りを受け止めつつ、充実した一日を振り返り、祭りの楽しさを再確認していた。こうして二人の距離はわずかに変化しながら、次の関係へと繋がっていった。
第二十五話 三英傑の負傷と対策装備
祭り翌日の異常事態
モングレルは都市清掃任務を受けるためギルドを訪れたが、そこで“収穫の剣”の面々が揃っている異様な光景に遭遇した。事情を聞くと、前日の酒席の後、三人のギルドマンが重傷を負うという事件が発生していた。
三英傑の奇妙な負傷理由
負傷した三人は互いに関係のない別パーティーの男たちであったが、共通して自らの体に剣の柄を挿入し、抜けなくなるという事態に陥っていた。本人たちは酔った勢いの悪ふざけと主張していたが、同時多発的に発生したことから、実態は未知の快楽を求めた結果であると推測された。この事件をきっかけに、彼らは皮肉を込めて「レゴール三英傑」と呼ばれるようになった。
再発防止のための啓蒙活動
ディックバルトは再発防止の必要性を訴え、アレクトラと共に注意喚起の文書を作成した。そこには安全性を確保するための条件や、適切な素材・形状、潤滑手段などがまとめられており、掲示板に貼り出されることとなった。異常な内容ではあるものの、被害を防ぐための現実的な対策として真剣に議論されていた。
モングレルの発想転換
モングレルはこの騒動を受け、危険を防ぐには専用の安全な道具を用意するのが有効であると考えた。前世の知識を踏まえ、形状を工夫すれば事故を防げると判断し、啓蒙と収益を兼ねた新たな商品開発へと発想を転換した。
専用装備の製作
モングレルはホーンウルフの角を素材に用い、滑らかで安全性を意識した形状の道具を製作した。図案を参考にしながら試行錯誤し、最終的に複数個の製品を完成させた。製作過程では虚無感を覚えつつも、目的のために作業を続けた。
黒靄市場での販売と予想外の結果
完成品を黒靄市場のメルクリオに委託すると、翌日にはすべて完売していた。高値で販売されたにもかかわらず需要は高く、購入者には男女が含まれていたことが示唆された。この結果により市場性の高さが確認されたが、モングレルは自身の評判や将来への影響を考慮し、この分野での量産は控える判断を下した。
実用品への回帰
一方で、洗濯板は順調に売れており、実用性の高さから安定した収益源となっていた。モングレルはより堅実な利益を見込み、洗濯板の増産に注力することを選択した。こうして彼は一時的な騒動を経て、より現実的な金稼ぎへと軌道修正していった。
第二十六話 平凡なるウィレム・ブラン・レゴール
精霊祭後の報告と不穏な動き
精霊祭が無事に終わり、ウィレム・ブラン・レゴールは安堵する間もなく執務に戻った。執事アーマルコからは、祭りに乗じた侵入未遂事件の報告が上がるが、それらはすべてケイオス卿の手紙に関係する場所を狙ったものであった。犯人は捕縛されたものの背後関係は不明であり、ケイオス卿の影響力を狙う動きが続いていることが示されていた。
平凡な三男から伯爵へ
ウィレムは自身の過去を振り返る。醜い容姿と内向的な性格を持ち、兄たちに虐げられて育った三男であり、本来は歴史に埋もれる存在であった。しかし長兄の戦死と次兄の急死により伯爵位を継承することとなり、望まぬ形で政治の場に立たされた。学者を志していた彼にとって、政治は苦痛でしかなかった。
ケイオス卿の手紙との出会い
転機はケイオス卿から届いた手紙であった。農作業の改善により収穫量を増やすという内容を最初は信じず保留したが、後にその価値を知り慌てて見直すこととなった。以降、ケイオス卿の知識が街に広まり、経済活動は活性化し、不正を行う商社が次々と淘汰されていった。
裏と表の連携による改革
ケイオス卿が裏から既得権益を崩し、ウィレムが表から環境を整えることで、レゴールは急速に浄化されていった。兄嫁勢力の影響も消え、ウィレムはようやく自身の政治を行えるようになり、結果として名君と呼ばれるようになったのである。
ケイオス卿を巡る混乱と詐欺
一方で、ケイオス卿の名声を利用した詐欺も増加していた。発明家を装い資金を集める者が現れ、真偽不明でも名を利用すること自体が価値を持つ状況となっていた。しかしウィレムは、ケイオス卿が自ら名乗ることはないと見抜いていた。
ウイスキー配布への批判と戦略
精霊祭でウイスキーを無償配布した件について、議会から批判が上がる。貴族側は価値の高い酒を平民に配ることを問題視していたが、ウィレムはこれを宣伝と市場拡大のための戦略と捉えていた。種子改良と蒸留酒の開発により、今後は外貨獲得を視野に入れた発展を目指していた。
凡人としての自己認識と責務
ウィレムは自身を凡人以下と評しつつも、状況に応じた調整によって政治を行っていた。発明による変革を担うケイオス卿とは異なり、利害をまとめる役割こそが自分の務めであると理解していた。
奇妙な噂と街の平和
最後にアーマルコから、ギルドマンたちが「スケベ伝道師」と呼ばれる人物を探しているという奇妙な報告が伝えられる。詳細は不明であったが、そのような噂が流れるほどレゴールは平和であるとウィレムは受け止めた。
止まらぬ政務と未来への懸念
街は発展を続けているが、王都との関係や内部の対立など課題は尽きない。ウィレムは休む暇もなく政務に追われながらも、ケイオス卿の存在に支えられつつ、レゴールの未来を見据えていた。
特別書き下ろし番外編 ①ブリジットと剣豪令嬢
ブリジットの境遇と志
ブリジット・ラ・サムセリアは男爵の庶子として生まれ、家督を継ぐ立場ではなかったため、自らの力で身を立てる必要があった。幼少より剣の才を持ち、ギフト「直剣の天賦」によって剣術の習熟に優れていた彼女は、その能力を武器に自立する道を志した。しかし最終的には家の意向に従い、中央貴族の護衛騎士として仕えることを選んだ。
王都での不安と新たな任務
春を迎え、ブリジットは王都インブリウムへと移り、クリストル侯爵家の令嬢の護衛に就いた。華やかな王都の空気に圧倒され、自身が務まるのか不安を抱えながらも、役目を果たす決意を固めていた。
剣豪令嬢ステイシーとの出会い
護衛対象であるステイシー・モント・クリストルは、病弱な令嬢という噂とは異なり、鍛えられた体躯と剣を携えた騎士のような人物であった。彼女はブリジットに対し、形式的な挨拶ではなく実力を示すよう求め、即座に模擬戦を申し出た。
初対面での模擬戦
ブリジットは正面から挑み、全力の一撃を放つが、ステイシーはギフト「孤城」によって強化された防御でこれを受け止めた。さらに背後からの攻撃もスキルによって察知され、隙のない応対を見せる。ブリジットは防御スキルや高速斬撃で対抗するが、最終的には再び発動したギフトによって押し返され、敗北した。
実力差の認識と評価
戦いを通じて、ブリジットはステイシーの圧倒的な実力を認め、自身の未熟さを痛感した。一方ステイシーは、ブリジットの素直な剣と性格を高く評価し、護衛騎士としての資質を認めた。護衛長もまた、迷いなく主に斬りかかった姿勢を評価していた。
主従関係の確立と今後の期待
ステイシーは「剣豪令嬢」と呼ばれる自身の立場を明かしつつ、今後も稽古に付き合うようブリジットに求めた。ブリジットはこれを喜んで受け入れ、全力で応える決意を示した。また、レゴールの話を聞きたいというステイシーの要望に応じることで、両者の関係はより深まっていくことが示された。
新たな環境への確信
護衛としての仕事は始まったばかりであったが、ブリジットはこの主のもとであれば充実した日々を送れると確信した。剣を通じて繋がった主従関係は、彼女にとって新たな成長の場となるものであった。
特別書き下ろし番外編②未亡人様は魔法使い
モングレルとサリーの出会い
モングレルがまだ若く、レゴールでの生活に慣れ始めた頃、ギルドで魔法の入門書を読んでいた際にサリーと出会った。サリーはその本が偽物であると即座に見抜き、遠慮なく指摘したことで二人は言葉を交わすようになった。彼女は王立学園出身の魔法使いであり、独特な言動ながらも知識と実力を兼ね備えた存在であった。
サリーの人物像と関係の深化
サリーは年齢の割に若く見える外見でありながら既に子を持つ母であり、自由奔放で物怖じしない性格であった。モングレルとは酒場で会話を重ねるうちに交流を深め、互いに気軽に話せる関係となっていった。彼女は偏食や奇妙な行動も多かったが、知的な会話が成立する貴重な相手であった。
共同任務での実力の発揮
討伐任務で共闘した際、サリーは高精度の光魔法や多属性の使い分けによって圧倒的な戦闘力を発揮した。大型の魔物であるクレセントグリズリーも短時間で討伐され、モングレルは彼女の実力を改めて認識した。同時に、サリーもまたモングレルの前衛としての能力を高く評価していた。
パーティー勧誘とすれ違い
サリーはモングレルを『若木の杖』に勧誘し、戦力として強く求めたが、モングレルはソロでの自由な活動を優先し、加入を断った。サリーは戦術的な観点から彼の必要性を理解していたため残念そうな様子を見せたが、それでも彼の意思を受け入れた。
別れと再会
その後、『若木の杖』は王都へ移籍し、二人は一時的に離れることとなった。だが数年後、再びレゴールで再会した際、サリーは以前と変わらぬ姿を保っており、モングレルはその変わらなさに安堵を覚えた。唯一の変化は、長年着続けていた学園のローブを破損により手放していたことであった。
変わらぬ関係性の確認
再会後も二人の関係は以前と同様に軽妙であり、互いに変わらぬ存在であることを確認した。長い時間を経ても変わらない繋がりが、モングレルにとってはどこか心地よいものであった。
特別書き下ろし番外編③孤高のソロチーム設立秘話
ソロ活動と勧誘の増加
モングレルはレゴールでの生活に馴染み、人間関係も広がっていたが、その結果としてパーティーへの勧誘が増えていた。彼は一人での活動を好み、また自身のギフトを隠す都合もあって加入を避け続けていたが、誘いを断り続けることに対して気後れを感じるようになっていた。
パーティーへの憧れと発想
酒場で他のパーティーのエンブレムや名前を眺める中で、モングレルは組織としての統一感や象徴に魅力を感じていた。そして、勧誘を避けつつその利点だけを得る方法として、「自分一人だけのパーティーを作る」という発想に至った。
“斑紋の犬”の構想
モングレルはパーティー名として“斑紋の犬”を考案し、自身の二つ名としても映える名称に満足していた。さらに白黒まだらの犬の頭部をモチーフにしたエンブレムを自作し、個人パーティーとしての体裁を整えようとした。
設立の挫折
完成した構想を持って受付のミレーヌに相談したが、パーティーは二人以上でなければ設立できないという規則を知らされる。一人だけのパーティーは認められず、構想はその場で頓挫した。
計画の終焉と自嘲
モングレルは静かにエンブレムをしまい込み、構想を諦めた。こうして“斑紋の犬”は誕生することなく終わりを迎え、彼は酒場でやけ気味に酒を飲み続けることとなった。
バスソマン 1巻レビュー
バスソマン まとめ
バスソマン 3巻レビュー
バスタード・ソードマン シリーズ







その他フィクション

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