物語の概要
ジャンル:
悪役令嬢リベンジファンタジー。本作は、婚約破棄された令嬢が強さと信念を持って貴族社会の闇に立ち向かう構造を持ちつつ、魔法・陰謀・王国編といったファンタジー要素が織り込まれた物語である。
内容紹介:
“聖地巡礼”を妨害する勢力、そして皇帝の死と捏造遺書という陰謀が明るみに出て、スカーレットはそれらの黒幕を追い詰める。敵を殴破しながら真実に迫る彼女の前に、予想外の人物が立ちはだかり、物語はさらなる展開を迎える。
主要キャラクター
- スカーレット・エル・ヴァンディミオン:本シリーズの主人公である令嬢。婚約破棄から始まった逆境を拳で切り開き、国を取り戻そうと邁進する。
- テレネッツァ:物語の黒幕の一人として登場し、その正体や過去が本巻で注目される立ち位置にある。
- 第一王子 ジュリアス:スカーレットを支持しつつ、王族としての重責と政治的立場に揺れる人物である。
- 竜 レックス:スカーレットの“家族”的存在であり、本巻でもその病や状態が物語の鍵となる要素として描かれる。
物語の特徴
本巻の特色は、これまで積み重ねられた復讐・支配・正義といったテーマを、対立と解放のクライマックスへと収束させる点にある。また、拳で叩きのめすだけでは終わらず、裏で渦巻く陰謀・捏造・人物の二面性が構成に奥行きを与えている。読者は“ざまぁ”を楽しむとともに、各キャラクターの信念と裏切り、愛憎の絡みを追う楽しみを得るであろう。さらに、黒幕の正体や新たな衝撃展開を匂わせる仕掛けが、先へ読み進める動機を強く残す作りである。書籍情報
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか 5
著者:鳳ナナ 氏
イラスト: 沙月 氏
レーベル/出版社:Regina Books/アルファポリス
発売日:2024年10月5日
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あらすじ・内容
爽快ファンタジー、竜帝国編ついにクライマックス!
「この国の平和を拳で取り戻しましょう――」 婚約破棄をきっかけに国内の貴族を拳で制裁した令嬢・スカーレット。家族である竜のレックスが倒れたことをきっかけにヴァンキッシュ帝国を訪れた彼女は、皇子アルフレイムや彼に協力している第一王子ジュリアスと共に皇位争いに巻き込まれてしまう! 突然の皇帝の死や捏造された遺書……どこか違和感を抱きつつも、数多の敵をぶっ飛ばし、ついに全ての元凶である後継者候補を追い詰めたスカーレット。これで一件落着と思いきや、予想外の人物が現れて――? 元祖ざまぁ系の爽快ファンタジー、待望の第5弾!
感想
今巻もまた、彼女の豪快な生き様に圧倒されるばかりである。竜帝国編というだけあって、今回は竜が重要な役割を担っているのだが、まさかスカーレットがドラゴンをボコボコにするとは予想外だった。彼女の規格外な強さには、いつも驚かされる。
力を失ってしまうという反動はあったものの、スカーレットの気性は少しも変わらない。どんな困難に直面しても、彼女は決して諦めない。その不屈の精神こそが、この物語の魅力のひとつだろう。
そして、最後のドーピング(?)からの人間お手玉は、まさに圧巻の一言に尽きる。彼女の強さがこれでもかとばかりに表現されていて、思わず笑ってしまった。民衆から「鉄拳姫」と呼ばれるようになったというのも、彼女にぴったりな呼び名だと思う。その強さと、どこか憎めない愛嬌が、彼女を唯一無二の存在にしているのだろう。
今巻では、スカーレットの戦いだけでなく、彼女を取り巻く人間関係も深く描かれている。アルフレイムやジュリアスとの協力関係、そして家族であるレックスとの絆。これらの人間関係が、物語に深みを与えていると感じた。
全体を通して、今巻もまた爽快感あふれる物語だった。スカーレットの活躍を見ていると、日頃のストレスも吹き飛んでしまうようだ。次巻では、彼女がどんな活躍を見せてくれるのか、今からとても楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
スカーレット
理知と実行を両立する戦闘者である。仲間との信頼を重んじ、加護を失っても前進を選んだ。ジュリアスとの関係は相互の敬意と情が基盤である。
・所属組織、地位や役職
パリスタン王国・王宮秘密調査室関係者と協働する立場。
・物語内での具体的な行動や成果
皇宮前での制圧、墓所戦でルクの逆鱗を打ち抜き撃墜、商業区で“蠍”を無力化。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クロノワにより加護が剥奪されたが、竜魔晶石と技量で戦線に復帰した。
ジュリアス
冷静な戦略家である。政治と戦術の両面で結果を出す指揮者である。スカーレットへの想いを告白した。
・所属組織、地位や役職
パリスタン王国・宰相格。
・物語内での具体的な行動や成果
同盟可決の主導、“元素崩壊”と「英雄譚」による防衛、情報操作で世論形成。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
“金色の君”の通称が定着し、国内外の求心力が強化された。
レオナルド・エル・ヴァンディミオン
実務に長けた調整役である。冷静な観察と支援で戦線を支えた。
・所属組織、地位や役職
王宮秘密調査室・室長。
・物語内での具体的な行動や成果
千里眼で戦局把握、門前と夜会の危機対応、聖教区での随行。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
調停と現場指揮の信頼が高まり、対外折衝の窓口も担った。
アルフレイム
覇気と実行力を備える皇族である。力の象徴として軍を牽引した。
・所属組織、地位や役職
ヴァンキッシュ帝国・皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
竜帝の腕輪で竜騎兵を招集し波状攻撃を指揮。前線で突撃を敢行。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
共同統治案を提示し、次期国政の柱として受容が進んだ。
フランメ
理性的な統治者である。安全保障と外交を両立させた。
・所属組織、地位や役職
ヴァンキッシュ帝国・皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
同盟交渉を推進し、離反の抑止と治安回復を実行。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
共同統治の枠組みで国内の合意形成を進めた。
ヘカーテ
強靭な加護と判断力を持つ竜である。戦術級の拘束と飛行支援を担当した。
・所属組織、地位や役職
ヴァンキッシュ側戦力。
・物語内での具体的な行動や成果
黒鉄の縛鎖でルクを拘束し、空戦でスカーレットを運用支援。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アルフレイムと心臓の誓いを交わし、命を共有する関係となった。
レックス
忠誠と情に厚い飛竜である。前線と後方の連絡を担った。
・所属組織、地位や役職
ヴァンキッシュ・紅天竜騎兵団関連。
・物語内での具体的な行動や成果
皇宮戦と市街での機動支援、スカーレットの救援。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
低地病の問題を抱えるが、士気面での寄与が大きい。
ナナカ
機転に優れた実務担当である。護衛と支援に徹する。
・所属組織、地位や役職
王宮秘密調査室・随員。
・物語内での具体的な行動や成果
影潜りで奇襲支援、体調管理と連絡役を担当。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実戦での即応力が評価された。
シグルド
迅速な剣技で要人を護る実戦家である。
・所属組織、地位や役職
王宮秘密調査室・隊長格。
・物語内での具体的な行動や成果
商業区での投擲迎撃、市街の護衛任務を遂行。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
市民保護の実績で信頼を得た。
ジン
攻守の切替に長けた竜騎兵である。
・所属組織、地位や役職
紅天竜騎兵団・四騎士の一人。
・物語内での具体的な行動や成果
短槍の同時着弾で合成攻撃に参加。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
波状攻撃の要として評価が上がった。
ノア
飛行戦闘に適応した射撃手である。
・所属組織、地位や役職
紅天竜騎兵団・四騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
強酸性の“どらごんふぁいや〜”で面制圧に寄与。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
合成火力の一角として位置づけられた。
ランディ
貫通力に優れる前衛投射の使い手である。
・所属組織、地位や役職
紅天竜騎兵団・四騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
砕岩槍で装甲破壊に参加。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
対巨躯目標への有効打で評価が向上した。
ジェイク
風属性の槍撃を担う機動アタッカーである。
・所属組織、地位や役職
紅天竜騎兵団・四騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
“嵐風槍”で多方向からの圧力を形成。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
連携火力の鍵として注目を集めた。
ヴァルガヌス・ワイザード
策謀を旨とする野心家である。利害優先の合理主義者である。
・所属組織、地位や役職
ヴァンキッシュ帝国・宰相格。
・物語内での具体的な行動や成果
後継争いを操作し、宝物庫から竜帝の腕輪を入手。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
墓所で黒焦げ死体として発見され、勢力は崩壊した。
ルク(ロキ)
紫紺の魔力を持つ脅威である。人心掌握と魅了を併用した。
・所属組織、地位や役職
形式上はヴァルガヌス配下の少年。真実は上位存在の黒幕。
・物語内での具体的な行動や成果
皇帝や近衛を操り、始祖竜の鱗で真の姿へ移行。広域殲滅級の攻撃を展開。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クロノワにより時の牢獄へ封印された。
イフリーテ
高火力の近衛戦力である。介入時に操りの痕跡があった。
・所属組織、地位や役職
ヴァンキッシュ帝国・近衛出身。
・物語内での具体的な行動や成果
竜人化で洗脳を突破し、北部前線へ自発的に従軍。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
近衛離脱後も単独で国境防衛に寄与した。
グラハール
老練の導き手である。圧倒的な力で危地を救った。
・所属組織、地位や役職
スカーレットの元家庭教師。
・物語内での具体的な行動や成果
兵力壊滅級の介入で戦局を反転。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔大陸へ帰還し、今後の関与は限定的となった。
ダンテロード
黒衣の観察者である。誘惑と取引を好む。
・所属組織、地位や役職
魔大陸側の上位存在。
・物語内での具体的な行動や成果
スカーレットへ魔眼“イビルアイ”を一時付与。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
目的は不明だが、戦局に影響を与える立場である。
ディアナ
癒やしと支援を担う宗教的中枢である。
・所属組織、地位や役職
ディアナ聖教団・聖女。
・物語内での具体的な行動や成果
加護分配の儀を実施し、精神的支柱として寄り添った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
信頼を厚くし、組織の顔として成長した。
パラガス
護衛と礼節を重んじる騎士である。
・所属組織、地位や役職
ディアナ聖教団・守護騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
聖堂での随行と送迎、秩序維持に努めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
進退の判断で評価が安定した。
エンヴィ
友情に厚い学院時代の友である。
・所属組織、地位や役職
市井の令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
祝祭で同行し、スカーレットの心理を支えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
私生活の転機を経て自立志向を強めた。
ローザ
探究心の強い友である。将来設計が明確である。
・所属組織、地位や役職
錬金術アカデミー進学予定。
・物語内での具体的な行動や成果
祝祭同行と励ましで同行者の心を支えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
学術の道へ進む決断を示した。
展開まとめ
第一章 朝食には丁度良い量でした
廊下で眠るレックスと「心臓の誓い」の逡巡
スカーレットは業火宮の廊下で眠るレックスを見つけ、客室で休ませた。低地病の唯一の治療法とされる竜人族の秘術「心臓の誓い」は、どちらかが死ねば他方も死ぬ危険な術であり、スカーレットは受け入れ難いと結論していた。
後継者争いの回顧と四騎士への感謝
レオナルドとシグルドが対応を協議する様子を遠目に見つつ、スカーレットはバーン皇帝急逝、偽の遺書によるフランメの即位、ヴァルガヌスとイフリーテの策動、蒼天翼獣騎兵団の襲撃を回想した。近衛兵団詰所での戦闘を支えた紅天竜騎兵団「紅の四騎士」への謝意を新たにした。
フランメ救出と決意の共有
皇宮から救出されたフランメは業火宮で、現皇帝としてヴァルガヌス打倒に尽力すると宣言。スカーレットはこれに同調し、皇宮突入への意欲を示した。
ナナカの気遣いと体調不良の余波
寝所に戻る途上、ナナカがスカーレットの体調を案じた。詰所の戦闘で一時的に加護を失い消耗した件が尾を引いており、スカーレットは早めの休息を受け入れた。
グラハールとの再会と「白夜の君」疑惑
部屋で黒手袋を前に、スカーレットは家庭教師だったグラハールとの再会を想起した。彼は圧倒的な力で危地を救い、失われた加護まで回復させた。一方、周囲はグラハールを魔族「白夜の君」ではないかと疑うが、スカーレットは恩師を信じ、むしろ黒衣の男こそ邪なる存在と見なした。
赤いドレスの由来と揺れる情
翌朝、スカーレットは赤いドレスに身を包み、色への嗜好が幼少期の薔薇の記憶—そしてジュリアスが愛でた薔薇—に由来することを思い出した。前夜の諍いを省みて感情を整え、戦いに備える決意を固めた。
「撲殺の日」の宣言と出撃準備
アルフレイムの覚醒次第で皇宮に乗り込む段取りを確認し、フランメの投降勧告は奏功しないと見て、スカーレットは戦闘に備えた。
レックスの告白未遂と騒擾の兆し
朝、レックスが「心臓の誓い」について昨夜の会話を聞いたと切り出しかけた矢先、業火宮の門外が騒然となる。スカーレットはレックス、ナナカとともに急行した。
門前に集う民衆と誤解の解消
門外には武装した帝都の民が押し寄せ、ヴァルガヌスの非道に義憤を示し同行を志願。フランメは民の動員を戒めたが、これはアルフレイムが現状を国中に布告した結果であった。
アルフレイムとフランメの対立軸
アルフレイムは「これは民衆の戦いでもある」と主張し、綺麗事では国を守れないと弟フランメを叱咤。ヴァンキッシュでは力なき支配者打倒に民が立ち上がることが正当とする価値観が示され、両者の政治観の差異が浮き彫りとなった。
現状の帰結と次段の火蓋
皇宮に孤立したヴァルガヌスを討つ機運が熟し、民衆の支持と紅天竜騎兵団の戦力が合流しつつあった。スカーレットは私情と義の両面から決着を誓い、拳で道を開く覚悟を固めた。
民衆の蜂起とアルフレイムの求心力
アルフレイムが「ヴァンキッシュの民は皆戦士である」と鼓舞し、門外の群衆と宮内の兵が一体となってヴァルガヌス討伐を唱和した。民の闘志を喚起するこの手法は、苛烈な環境で鍛えを旨とする国是に合致しており、フランメは自らの器を省みて兄を皇帝に相応しいと認めたのである。
ジュリアスの策と即時突入方針
民衆への情報流布はジュリアスの発案であり、戦力としてではなく威圧と離反誘発を狙う予備戦力と位置付けられた。アルフレイムは高揚を冷ますなと即時突入を主張し、ジュリアスも「相手に策を練る暇を与えぬ」合理性から同意した。スカーレットは私情と大義の双方から参陣を決めた。
紅天竜騎兵団の復帰と軽口
ジンら四騎士がアルフレイムの復帰を喜び、軽口を交わしつつ戦意を整えた。ジュリアスは人前でスカーレットに含みを持たせる発言をし、応酬があったが、最終的に両陣営は皇宮突入で一致した。
イフリーテとヘカーテの来訪、告白
出撃号令の直前、イフリーテとヘカーテが広間に現れる。イフリーテは「バーン陛下に手をかけようとしたのは自分」と告白しつつ、紫色の羽根の幻覚とともに他者の声に操られていたと述べた。ヘカーテは身体に強力な魔力残滓を確認したと証言し、洗脳・催眠に類する干渉を示唆した。
操りの連鎖とヴァルガヌス疑惑の再定義
イフリーテは竜人化で靄のような魔力が晴れ、まず討つべきはヴァルガヌスだと決意して去った。スカーレットは動機を測りかねたが、レックスは詰所で救われた借りを返したのだと推測した。ジュリアスは「魅了級の力を使えるなら計画はもっと洗練されているはず」とし、合理主義者ヴァルガヌス本来の性格とも齟齬があることから、目的が“ずらされた”可能性――上位の黒幕の存在――を指摘した。
緊張管理と最終確認
ジュリアスは「皇宮でのイレギュラーに取り乱すな」と全員を引き締めた。スカーレットは「急がねば城兵がイフリーテに狩り尽くされる」と皮肉を交えつつ、皇宮への殴り込みに向けて歩を進めた。
挫折した計画と憤怒
ヴァルガヌス・ワイザードは玉座の間で、自らが玉座に座しているはずだった未来が潰えたことに激怒していた。皇帝や皇子達を策で翻弄していたはずが、突如現れたグラハールによって兵千人が壊滅し、計画は崩壊したのである。奇襲で得た勝利も再現できず、ファルコニアの戦力も離反し、全てが狂い始めていた。
スカーレットへの怨恨
計画を妨害した要因としてヴァルガヌスが最も憎悪したのはスカーレットであった。彼女は蒼天翼獣騎兵団の元副隊長ガンダルフを討ち倒し、自身の誘いをも拒絶した存在であった。ヴァルガヌスは彼女を必ず捕らえ、後悔させると誓った。
ルクへの苛立ちと虐待
そこへ紫髪の少年ルクが現れた。彼は竜を害する血、加護を打ち消す結界、魅了の力を持ち、ヴァルガヌスにとって利用価値のある存在であった。しかし力の効果が限定的であったことから無能と断じられ、奴隷紋を刻まれた上に踏みつけられた。ヴァルガヌスの苛立ちは彼へと向けられ、激しい暴力となって発散された。
新たな報告と怒号
追い詰められた状況の中、兵士が駆け込み、皇宮正門で赤いドレスの女が暴れていると報告した。スカーレットの出現を知ったヴァルガヌスは、怒りを爆発させて絶叫した。
皇宮前の乱戦と小競り合い
スカーレットは正門前で衛兵を次々と叩き上げ、一帯を“前衛芸術”と化す。駆け付けたレオナルドは制止と叱責、スカーレットは軽口でかわす。
合流—求心力・宣言・策
アルフレイム、ジュリアス、フランメ、エピファー、そして帝都の民が到着。ジュリアスは人前でスカーレットを「大切な人」と抱き寄せ明言、アルフレイムは好敵手として応じる。実はジュリアスの指示でシグルド隊と紅天竜騎兵団が抜け道から先行潜入しており、門前の“狂犬(スカーレット)”に注意が向いた間に宮内制圧を進めていた。結果、宮内の兵は民意を前に投降。
標的の所在—炎帝殿へ
文官情報からヴァルガヌスは炎帝殿にいる可能性が高く、一行はアルフレイム先導で追撃。フランメとエピファーは後事を担当。レックスは匂いからイフリーテの存在を感じ取るが所在は不明。
もぬけの殻—不穏の兆し
炎帝殿・玉座の間は空。レオナルドの千里眼にも反応なし。そこへヘカーテが合流し、玉座裏から皇帝私室へ直行。壁の槍棚を見て「悪い予感が当たった」と告げる。
秘密の宝物庫—“槍”は鍵
欠けている一本は、皇帝のみが知る秘密宝物庫の“鍵”だったとヘカーテが明かす。ヴァルガヌスはバーンから魅了で所在を聞き出していた可能性が高い。
国家級禁忌—竜帝の腕輪
宝物庫には誰でも使える唯一の国宝級魔道具「竜帝の腕輪」があるという。過去にただ一度だけ使用され、ヴァンキッシュは滅亡寸前まで追い込まれた——アルフレイムがその効力の説明に入ろうとするところで場面は切れる。
竜帝の腕輪の入手
ヴァルガヌスは炎帝殿を抜け出し、地下の秘密の宝物庫に辿り着いた。数多の国宝の中から黄金の腕輪を取り出し、これこそが伝説の国宝「竜帝の腕輪」であると確信した。遥か昔、この腕輪は大陸中の竜を操り魔物の大侵攻を退けたが、使用者の魔力を枯渇させ、飛竜の暴走で国が滅亡寸前に陥ったと伝えられていた。ヴァルガヌスはそれを承知の上で腕輪を嵌め、飛竜を呼び出して逆境を覆そうと決意した。
ルクの異変
その時、宝物庫にいるはずのないルクが姿を現した。彼は紫色の鱗を手にしており、命令に従わず勝手に行動していた。ヴァルガヌスが問い詰めると、ルクは低い声で「ようやく見つけた」と呟き、別人のような態度を見せながら振り返った。
墓所への急行
一行は皇族の墓所に宝物庫の入口があるとヘカーテから聞き、北東の墓地へ走った。レオナルドの千里眼で入口の存在と内部の生者の反応一つを確認したが、詳細は封印で不明であった。ジュリアスは腕輪を使わせぬため、ヴァルガヌスを発見次第捕縛するよう命じた。
黒焦げの死体の発見
墓地に先着したスカーレットとレックスは傷だらけのルクを発見し、その足元に黒焦げの死体を見た。鎧が不死竜の赤鱗であったことから、死体はヴァルガヌスと断定された。ルクは扉から出た際にヴァルガヌスが突然燃えたと証言したが、ジュリアスは疑念を抱いた。
証言の矛盾と疑惑
レオナルドが千里眼で見た反応は宝物庫の最奥に一つのみであり、扉前で燃えたという証言と食い違っていた。ジュリアスはルクを追及し、虚偽の説明を指摘した。ルクがヴァルガヌスを殺したのではないかという疑念が浮上した。
正体の露見
ヘカーテとレオナルドがルクの異常な魔力量を検知し、紫色の魔力があふれ出た。ルクは演技を捨て、始祖竜の鱗を手にして本性を現した。彼はバーンへの魅了、ヴァルガヌスとイフリーテの操り、後継者争いまでも裏から操っていたと嘲笑した。
全面対決の勃発
アルフレイムと四騎士は激怒し、ルクを国賊として討伐すると宣言した。レックスは悲しみと怒りを込めて叫んだが、ルクは人間を猿と蔑み、圧倒的な魔力で威圧した。最終的にアルフレイムが炎を放ち、戦闘が開始されようとする中、ルクは始祖竜の鱗を口に放り込んだ。
第二章 拳一発で十分です
開拓地での境遇と反発
テレネッツァ・ホプキンスは爵位を剥奪され、パリスタン王国南端の開拓地で労働刑に服していた。劣悪な環境と作業に強い不満を示し、鍬を投げ捨てるなど反発的であった。
囚人頭の威圧と危機
作業を怠ったことで囚人頭の大男に咎められ、殴打の危機に陥った。テレネッツァは威勢よく罵倒する一方で、加護を失った現状を嘆いていた。
カイルの介入と献身
元第二王子カイルが身を挺して割って入り、代わりに殴打を受けたうえで、彼女の分まで倍働くと頭を下げて赦しを乞うた。カイルは魅了の有無を意に介さず、テレネッツァの「心」を愛していると明言した。
動揺と拒絶の綱引き
テレネッツァは感情を揺さぶられつつも、金持ちの王子との幸福という旧来の夢に固執し、カイルを突き放す姿勢を取った。内心では彼の献身に心が傾きかけていた。
鍬の一撃と地割れ
憂さ晴らしに鍬を振り下ろすと異常な力が発揮され、地面に放射状の亀裂が生じた。直後、足元の地面が崩落し、テレネッツァは地下へ落下した。
軽傷での生還と洞窟
落下の衝撃はあったが致命傷は避けられた。加護消失後も身体強化の効果が残っている示唆があった。そこは高さ二メートルほどの通路状の洞窟で、壁一面に壁画が描かれていた。
壁画の神話と竜の系譜
合流したカイルは、王室教育の記憶から壁画を「神々に天界を追放された始祖竜の神話」と説明した。竜は女神の林檎で欲を知り堕落、創造神オリジンの慈悲で絶滅は免れるも、人化を奪われ地上に落とされたという内容であった。ヴァンキッシュの飛竜はその末裔と語られた。
ローマ字“Loki”の発見
テレネッツァは壁画中に消えかけたローマ字“Loki”を見つけ、地球神話との連想を示した。竜の巨大さ表現に疑義を呈しつつ、発見の価値が自らの減刑につながる可能性を期待した。
墓場炎上と撤退
スカーレットらはアルフレイムの過剰な炎撃を避けて皇宮庭園に退避した。アルフレイムは「墓も城も建て直せば良い」と強弁しつつも、居城延焼の危険を前に水魔法での消火を要請した。スカーレットとジュリアスは、炎中でルクが口にした「始祖竜の鱗」に着目し、事態収束には至っていないと警戒を強めたのである。
不意打ちと士気の立て直し
突如としてアルフレイムが視認不能の速度で吹き飛ばされ、皇宮屋根に激突した。動揺が広がる中、ヘカーテが鋼体の加護による生存を断言して全員を叱咤、戦列を立て直させた。
ルクの変貌と威圧
炎が収束して消えた中心に、紫紺の長髪と同色の翼、上半身に紋様を刻む長身のルクが現れた。彼は「本来の力の一割未満でも国を皆殺しに足りる」と宣言し、濃密な魔力のオーラを噴出した。スカーレットは、その魔力が神器を持つ自分を凌ぐどころか「神の顕現」に等しいと判断した。
ヘカーテの拘束と総攻撃
ルクの足元に黒の魔法陣が展開し、漆黒の鎖が全身を束縛、放射される魔力波動までも抑え込んだ。ヘカーテは「今じゃ」と号令し、遠距離からの最大火力を指示。ランディが“砕岩槍”、ジェイクが“嵐風槍”を投擲し、ノアは飛竜から強酸性の“どらごんふぁいや〜”を放射、ジンが短槍を同時着弾させた。レオナルドが“アクアパレット”の水弾で土煙を晴らしつつ連続打撃を与え、シグルドは音速居合で風刃を叩き込んだ。
四属性合成――「元素崩壊」
ジュリアスは掌上に火・水・風・雷を安定合成し、全員を退避させてから「元素崩壊」を起動。白色閃光と轟爆が半径二十メートル級の領域を更地化し、庭木と建物は瞬時に崩壊した。ジュリアスのみ台風の目のごとく無傷で中心に立ち、効果終了を確認した。
無傷の敵と決着持ち越し
土煙が晴れると、ルクは無傷で直立していた。スカーレットたちの総攻撃と四属性合成魔法をもってしても決定打とはならず、始祖竜ルクの圧倒的耐久と脅威が一層明白になったのである。
魅了の羽根と混乱
ルクは「遊びは終わり」と宣告し、紫紺の羽根を降らせて魅了を発動した。ジェイクとノア、ランディとジンが同士討ちに陥り、スカーレットは大本を断つ決意を固めた。
加護遮断結界と格の差
ルクが皇宮全域級の加護遮断を展開し、ヘカーテは「魔力差が大きすぎる」と評した。ルクは「人の魔法も加護も想像で再現できる」と嘲弄し、黒鉄の縛鎖を次々破砕。反動でヘカーテが負傷した。
影潜り奇襲と不可視の一撃の正体
ナナカとレックスが影潜りで背後から接近するも、超速の不可視攻撃によりシグルドを含む三名が弾き飛ばされた。シグルドは敢えて大振りで受けて「攻撃は尻尾」と看破し、気絶。スカーレットは二人の救出を仲間に託し、時間稼ぎを請け負った。
身体強化の再起動と五感加速
ヘカーテが限界を押してスカーレット個体への加護阻害のみを無効化。スカーレットは「加速三倍」「五感加速」で時間知覚を伸ばし、尻尾の軌道を捉える。部位加速で回避し、膝蹴りをルクの顔面へ命中させた。
連携の追撃とルクの耐性
落下復帰のアルフレイムとイフリーテが炎纏いの“槍”で胸を同時貫通。だがヘカーテの黒鉄の縛鎖は全破砕され、同術は対象再使用不可と判明。土煙内からルクは健在を示し、上空へ退避して巨大飛竜へ顕現した。
滅界級の吐息と絶対防御
全長四十メートル級の飛竜ルクが大陸殲滅を宣言し、空一面を覆う紫紺のブレスを放つ。アルフレイム・イフリーテ・ヘカーテの合成火力でも相殺不能。ジュリアスは創造神オリジンの加護「英雄譚」で“聖女守護結界”を再現し、半球結界で直撃を受け止めた。結界は亀裂の末に崩落したが、致命打は回避した。
被害と反撃の“愛の光”
周辺百メートルが焦土化。催眠は解け、各員が立ち上がる。ジュリアスは神器再現の桃色の光を上空のルクへ撃ち込み、胸と前肢に明確な損傷を与えたが、ルクは即時再生した。ジュリアスの加護は時間切れとなる。
制空権喪失と“神の裁き”規模の魔法陣
ルクはさらに上空で多数の魔法陣を展開。ジュリアスは「皇宮どころか国が吹き飛ぶ」と評し、絶望が広がる。ヘカーテは疲弊で飛行支援不能、レオは回復に回る。
神への祈りの不在と自力決着
スカーレットはクロノワへの祈りを試みるも応答なし。善神に頼れぬ現状を受け入れ、「第三者の助力なしで突破する」方針を固める。
黒衣の男の介入と即断拒否
漆黒の意識空間で黒衣の男が「すべてを捧げよ、力を授けよう」と誘惑する。スカーレットは即座に「お断り致します」と一蹴。外界では、秒読みで降り注ぐ殲滅魔法に対し、彼女の“自力で殴り抜く”決意が明確となった。
黒衣との取引は拒否、条件は「友人」
スカーレットは黒衣の殿方の「すべてを捧げよ」を二度拒否した。相手は譲歩して「友となれ」と条件を緩和し、名をダンテロード(ダンテ)と明かした。恩義と直情的な寂しさに応じ、スカーレットは友人関係を承諾したのである。
授かった“イビルアイ”と即応用
ダンテは666の魔眼の一つ“イビルアイ”を付与した。魔力の流れを支配・攪乱するこの魔眼により、スカーレットはルク上空の大量の魔法陣と加護阻害結界を一挙に崩した。ヘカーテは代償の大きさを警告したが、スカーレットは「友人になる」という代価で押し切った。
ヘカーテを“翼”に接近、ブレス潰し
黒竜化したヘカーテの背で接敵。ルクのブレスは魔眼で逆回転させて霧散させた。続けて「加速十倍」を重ね、眉間へ音速超過の膝撃を命中させたが、反動で硬直し、ヘカーテが救出した。
竜帝の腕輪による全軍招集
アルフレイムが“竜帝の腕輪”で国内の飛竜を強制召集。竜騎兵が数千規模で集結し、フランメは左翼を率い、ジンが散開・波状攻撃を指揮した。魔眼で装甲を剥いだ直後の一斉射で、ルクに初めて広域ダメージが通った。
はばたきと尾撃の災厄、再び至近へ
ルクは圧倒的な風圧とはたきで竜騎兵を弾き飛ばす。ヘカーテが顎下まで潜り込み、スカーレットは再度「加速十倍」アッパーで顎を跳ね上げ白目硬直を誘発した。
停滞領域での乱打と墜落
時を停滞させる加護と併用し、眉間・鼻先・喉・胸へ連撃を叩き込む。時間再開と同時に衝撃が爆ぜ、ルクは大量出血で落下した。なお再生は継続している。
限界接近
魔眼と加護の過負荷でスカーレットは激しい頭痛と眩暈に襲われ、「魔眼も加護もあと一度が限界」と自己判断した。ヘカーテは「あと一息」と鼓舞し、決着圏へ踏み込んだのである。
墓場の炎と始祖竜の出現
スカーレットたちは皇宮の墓場でルクの放った強大な炎に直面したのである。アルフレイムは炎で事態を一掃しようとし、墓場は瞬時に焦土となったが、その炎を受けてアルフレイムが屋根に吹き飛ばされるという異常事態が発生した。ルクは自身の真の姿を取り戻して紫紺の翼と圧倒的な魔力を顕現させ、我々の側は一気に窮地に陥ったのであった。
魔力封縛と四騎士の動揺
ヘカーテは当初ルクを黒鉄の縛鎖で拘束したが、ルクの力が強すぎて術式は崩壊し、四騎士は魅了や幻惑によって互いに攻撃し合う危機に陥った。スカーレットは加護を失いながらも臨機応変に動き、仲間を守るための判断を下したのである。
合成魔法と英雄譚による反撃
ジュリアスは異属性を合成した圧倒的な一撃「元素崩壊」を発動して広範囲を破壊し、ルクに致命的とは言えないまでも初めての傷を与えた。だがルクは自己再生と魔力の圧で反撃し、戦局は依然として膠着状態にあった。
魔眼「イビルアイ」とダンテの介入
スカーレットは意識内で黒衣の男ダンテと接触し、友誼を結ぶことで「イビルアイ」と呼ばれる魔眼の力を一時的に授かった。魔眼はルクの大量の魔法陣と結界をひとつずつ破壊し、加護阻害を解除して仲間の加護を回復させるという決定的な役割を果たしたのである。
加護と魔眼の代償
魔眼の発動は強大な効果をもたらしたが、ヘカーテやレオらは代償の大きさを懸念した。スカーレット自身も魔眼と加護の併用で肉体に負荷がかかり、使用回数を温存せねばならない状況に追い込まれたのであった。
空中戦と飛竜の大軍
ルクは上空に飛翔して圧倒的なブレスを構え、ヘカーテの拘束や各騎士の連携だけでは対処困難となった。アルフレイムは竜帝の腕輪で国内の竜騎兵を召集し、千を超す飛竜と騎兵の大軍が一斉に参戦して戦局を覆す契機を作ったのである。
集中攻撃と一時的な優位
ジュリアスと連合軍は魔眼でルクの魔力の鎧を乱し、その隙に竜騎兵と炎を集中させてルクの腹部に深い損傷を与えた。アルフレイムの体当たりと各軍の連携は有効であり、ついにルクは深手を負って苦悶したのであった。
逆鱗の欠如とレオの千里眼
ルクには通常存在するはずの「逆鱗」が見当たらず、一時は弱点の特定が絶望視された。だがレオが千里眼の加護でルクのわずかな十字状の傷痕を目印として観測しており、ジュリアスの放った「パルミアの光」がその目印を残していたことで、逆鱗の位置が特定されたのである。
決定的な一撃とルクの撃破
スカーレットはヘカーテの背に乗って接近し、魔眼で魔力の鎧を剥がしつつ加護を最大限に高めて十倍加速の一撃を放った。最終的に逆鱗に左拳を深く打ち込み、地面へ強烈に叩きつけることでルクは致命的な打撃を受け、地上へと打ち落とされた。スカーレットは全ての力を出し切り、満足げに「スカッとした」と述べて意識を薄れさせたのであった。
余波と代償の重さ
戦いは勝利に終わったが、ジュリアスやヘカーテ、アルフレイムら多くが消耗し、スカーレットも魔眼と加護の併用により深い疲弊を抱えた。ダンテから得た力の代償や神々の干渉、各人物の負傷は今後の物語に重く影響を与えることが示唆されたのである。
戦いの余韻と驚愕
ジュリアスは地上に降り、加護の消耗でふらつく身体をレオナルドに支えられながら倒れ伏すルクとスカーレットの姿を見つめていた。国を滅ぼすほどの存在を拳で地に叩き落とし、足蹴にして満足そうな表情を浮かべる彼女の姿は、目の前にありながら信じ難い光景であった。レオナルドは呆れと安堵の入り混じった声を洩らし、ジュリアス自身も窮地を脱したことに深い実感を覚えていた。
アルフレイムの強がり
そこへアルフレイムが現れ、満身創痍の体で地に降り立ち、堂々と笑って自らの勝利を誇示した。両足は震えていたが、その強がりは次期国王として弱さを見せまいとする決意の現れであった。ジュリアスは内心で彼を一人の王の器と認め、従来の印象とは異なる敬意を抱いた。
英雄と喝采
アルフレイムはスカーレットに視線を向け、「世界を滅ぼす災厄を拳で殴り倒すとはな」と微笑を浮かべた。人化したレックスに抱きつかれるスカーレットの周囲では、紅天竜騎兵団をはじめとする竜騎兵たちが喝采を送っていた。かつては敵対していた者たちまでもが彼女に心惹かれ、目を離せなくなっていたのである。
愛と自覚
ジュリアスは「そんなことは不思議ではない」と言い切り、スカーレットが世界で最も美しく、暴力的で、愛おしい存在であると断じた。アルフレイムもまた同意し、互いに「とんでもない女に惚れた」と口にした。二人の心は、戦場で示された彼女の圧倒的な力と存在感に強く結びつけられていたのである。
白き霧の世界
スカーレットが意識を取り戻すと、そこは一面が霧に覆われ、大きな砂時計が浮かぶ白の世界であった。現れたのは時の神クロノワであり、彼は「ロキ」すなわちルクの件について話を切り出した。
ルクの再生と脅威
クロノワが映し出した鏡には、牢に繋がれたルクが映っていた。彼の身体は重傷を負っていたが、すでに再生が始まっており、魔力すらも急速に回復していた。このままでは封印も枷も無意味となり、再び暴虐を振るうことは必定であった。
神の封印
クロノワは責任を取るとしてルクを白光に包み、時間を止めて時の牢獄に封じた。永遠に目覚めぬと告げる彼の表情には、どこか別れを惜しむ憂いが漂っていた。
一方的な別れ
クロノワは「我が愛し子」と呼びかけ、別れの言葉を残すと、白の世界は一瞬で漆黒に変貌した。困惑するスカーレットを残し、彼の声だけが闇に響き渡った。
現世への帰還と喪失
次に目を開けた時、スカーレットは業火宮の寝室にいた。怪我は癒えていたが疲労は残り、加護も回復していなかった。そして両掌を見つめた彼女は、自らの内にあったはずの力が消失していることを悟った。
第三章 らしくありませんわね
ルクの脱走と兵士の動揺
ヴァンキッシュ帝国の帝都郊外にある監獄で、兵士達はルクの牢が空になっていることに気づき動揺していた。魔力封じの拘束具を付けていたにもかかわらず、ルクが忽然と消えたためである。彼らは事態を急ぎフランメへ報告すべきだと口にしていた。
ダンテロードの観察と嘲笑
監獄の上空には黒衣を纏うダンテロードが浮かび、透視の魔眼で内部の様子を見通していた。彼はルクがクロノワにより時の牢獄へ封印されたことを把握していた。計画は阻まれたが、クロノワの加護を持つスカーレットを堕としたことで目的は果たせたと笑みを浮かべた。
グラハールとの対峙
空間の歪みから執事姿のグラハールが現れ、ダンテロードがスカーレットに魔眼を与えていたことを指摘した。彼は教え子への干渉を看過できないと静かに怒りを示した。ダンテロードは、与えたのは選択肢であり、力を望んだのは彼女自身だと主張した。
撤退の決断とグラハールの思い
リンドブルグから客人が来ていると告げたダンテロードは、グラハールを伴い魔大陸へ帰還することを決めた。グラハールは地上のヴァンキッシュ宮殿を一瞥し、スカーレットが困難を乗り越えると信じていた。二人は空間の歪みに呑まれ、夜空から姿を消した。
出発の朝と同盟調印に向けた動き
スカーレットが業火宮で目覚めてから一週間余りが過ぎ、戦いの傷が癒えたパリスタン一行は帰国の途に就くことになった。ヴァンキッシュ城の城門前でフランメがジュリアスに手を差し出し、両者は握手を交わして同盟の調印式までの別れを告げると説明がなされた。ジュリアスとレオはこの一週間、ヴァンキッシュ側と幾度も会合を重ね、経済・軍事を含む二国間同盟の締結に向けた調整を行っていた。多くの重臣が内戦とルクの混乱のため同盟に難色を示したが、フランメは利点を理路整然と説き折衷案を提示して事態を収め、同盟成立の基盤を築いたと伝えられた。
フランメの統治と共同統治案の議論
スカーレット達の会話の中で、フランメがその政治手腕により同盟成立を導いたことが評価された。ジュリアスやナナカはフランメが皇帝のままであれば対ヴァンキッシュ関係はより安定するのではないかと述べたが、フランメは皇帝位を退く意向を示していた。そこへアルフレイムが登場して自らを強さの象徴として残しつつ内政はフランメに任せる副帝あるいは共同統治の形を提案し、国の安定に資するとしてこれを主張した。ヘカーテはフランメがあまりに有能であるため、不適当な役職を与えれば不満が出ると述べ、結局副帝の位は事実上受け入れられないが、共同で国を治める藍は生じたと報告された。
アルフレイムの覚悟と国民の反応
アルフレイムはヴァンキッシュを最強の国にするためなら手段を選ばぬ覚悟を示し、フランメに副帝として共に歩むよう強く求めた。フランメはその提案を受け入れる旨を表明し、両者は拳を合わせて結束を示した。これにより周囲の兵士達は歓声を上げ、ヴァンキッシュの安泰を喜んだ。ヘカーテは国民が勢いで動く傾向を嘆き、共同統治というパリスタンでは考えられない慣行がここでは現実となったと述べた。
戦力の配置と治安の問題
ジュリアスは魔物の狂暴化と襲撃増加について指摘し、アルフレイムはルク討伐のために国内各地から兵が動員された結果、特に北部海岸線で防衛が手薄になっていると説明した。紅天竜騎兵団など主要部隊の多くが討伐に回されているため、海岸線防衛に苦慮しているとの報告が行われた。ヴァルガヌスやイフリーテの不在についての言及があり、イフリーテは自らの意思で近衛を辞して北部の前線で一兵士として戦っていると伝えられた。
別れとレックスへの決意
和やかな雰囲気の中でスカーレットは仲間に別れを告げる場面が描かれた。スカーレットは低地病の治療法が見つからなかったため、自ら遠方へ出向いて治療法に詳しい者を探す決意を固め、レックスにしばしの別れを頼んだ。レックスは寂しげに彼女の言葉を受け入れ、週に一度程度はパリスタンに戻れる旨が説明されると喜びを見せた。レックスとナナカの軽妙なやり取りに一同が和み、パリスタンとヴァンキッシュの間で築かれた友好の象徴的な別れの場面で章は締めくくられた。
見送りを見つめながらの内省
パリスタン一行を乗せた馬車が城門から去っていくのを見送りながら、アルフレイムは出会いからの軌跡を頭の中で辿っていた。最初は皇位獲得のために利用しようと接近した相手であったが、いつの間にか別れが惜しいと感じるほどに彼らを気に入ってしまっていた。
我が野望とヘカーテの咎め
アルフレイムはその場で大陸制覇の夢を昂らせ、パリスタンと手を取り合うことを冗談交じりに口にした。ヘカーテは尾で彼の腹を強く打ち据え、その愚考を一喝した。ヘカーテはかつて交わした誓約を思い起こさせ、アルフレイムの軽率な発言を戒めた。
心臓の誓いによる命の継承
アルフレイムは跪いてヘカーテに誓約の紋章を差し出し、彼がヘカーテにのみ命を賭して誓ったことを改めて告げた。ヘカーテはアルフレイムの手を取り、互いに心臓の誓いの紋章が浮かんでいることを確認した。彼がルクとの戦いで瀕死になった際、ヘカーテは自身の命を分け与えて彼を救い、その結果アルフレイムの命は半分がヘカーテのものであると示された。
竜帝としての覚悟と呼称
ヘカーテは自身の長き寿命の大半を差し出した責務を果たすようアルフレイムに求め、彼はヴァンキッシュによる大陸制覇の野望をますます固めた。ヘカーテが耳元で我が愛しの竜帝よと囁いた言葉を受け、アルフレイムは将来成就した暁には竜帝アルフレイムとして大陸にその名を刻むと心に誓った。
野営地での会合
ヴァンキッシュを出発したスカーレットは、山中での野営の折に一行を集め、これからの旅路に関わる重要な話を切り出した。ジュリアス、レオ、ナナカがテント内に揃い、シグルドが入口で警戒に当たった。皆はただならぬ雰囲気に緊張を覚えていた。
クロノワの夢と加護の消失
スカーレットは業火宮で眠っていた際、夢にクロノワが現れたことを改めて語った。そして、ルクを封印するために現れたその時、自身の加護が剥奪されたと告げた。遡行や加速を含めたすべての加護が完全に失われ、力そのものが消滅していることを打ち明けた。
一行の衝撃と危機の認識
レオとナナカは呆然とし、ジュリアスは沈黙ののちに深刻な表情で問いただした。加護を使えぬ現実がもたらす影響は計り知れず、やがて彼は天を仰ぎながら、この事態がパリスタン王国の存続そのものを揺るがす危機に繋がりかねないと口にした。
野営地での会合
ヴァンキッシュを出発したスカーレットは、山中での野営の折に一行を集め、これからの旅路に関わる重要な話を切り出した。ジュリアス、レオ、ナナカがテント内に揃い、シグルドが入口で警戒に当たった。皆はただならぬ雰囲気に緊張を覚えていた。
クロノワの夢と加護の消失
スカーレットは業火宮で眠っていた際、夢にクロノワが現れたことを改めて語った。そして、ルクを封印するために現れたその時、自身の加護が剥奪されたと告げた。遡行や加速を含めたすべての加護が完全に失われ、力そのものが消滅していることを打ち明けた。
一行の衝撃と危機の認識
レオとナナカは呆然とし、ジュリアスは沈黙ののちに深刻な表情で問いただした。加護を使えぬ現実がもたらす影響は計り知れず、やがて彼は天を仰ぎながら、この事態がパリスタン王国の存続そのものを揺るがす危機に繋がりかねないと口にした。
王都の空気と世論操作
帰国から三週間後、スカーレットはヴァンディミオン家の馬車でグランヒルデの商業区を通過し、同盟発表で活気づく街の様子を目にしていた。ヴァンキッシュ産の物資が解禁され、報道は竜騎兵団の国境防衛の功績を称え、世論は同盟支持へ傾いていた。これはジュリアスが情報屋を使って時機を図り、好意的な記事と噂を流した結果であるとスカーレットは理解していた。
聖教区での儀式と失敗
スカーレットはディアナ聖教団の聖堂で、ディアナの加護分配の儀を受けた。しかし緑のオーラは温もりを残したのみで、加護は一切戻らなかった。入室してきたジュリアスは、加護枯渇説なら回復もあり得たが、加護の概念自体が取り上げられたと見るべきだと述べ、早々に退室した。ディアナは落ち込む姉を抱きしめ、次代聖女探索が急務である現実を踏まえつつも友として支えると誓った。
守護騎士の感謝と内省
パラガスは聖堂外までスカーレットを送り、パルミア教事件以降のディアナの成長を称え、模範としてのスカーレットに礼を述べた。馬車に戻ったスカーレットは、加護が戻らずとも自分の責務は果たすと自らを励ましつつ、ジュリアスの素っ気ない態度に一瞬揺らいだが、らしくない感傷を打ち消した。
研究と行き詰まり、外への意思
ヴァンディミオン邸では研究者による検分や食事・薬による回復策を試みたが成果は無かった。調印式当日、式典出席より加護回復を優先せよというジュリアスの方針に従い在邸する中、最後の研究者も退出し、スカーレットは加護を失わせた当人に会いに行く決意を固めた。
学院の友の来訪と行き先の転換
出立の支度を整えた矢先、学院時代の級友エンヴィとローザが来訪した。二人はレオからの頼みでスカーレットを励ましに来たと明かし、同盟調印を祝う一週間の祝祭で賑わう王都へ誘った。上級貴族御用達の宿も手配済みで、ヴァンキッシュやリンドブルグからも商隊・雑技団が集うという。スカーレットは国外行きを一旦改め、二人とともに王都へ向かうことを選んだ。ジュリアスへの不満を胸の底に押し込みつつも、スカーレットは友の支えと祭の熱気の中で、次なる加護奪還の手掛かりを求めて歩み出すのであった。
山中の野営地での密談
アルフレイムに見送られて一行が帰路につく途中、山中の野営地でスカーレットはジュリアス、レオ、ナナカをテントに集め、シグルドが入口で見張りに就いていた。誰にも聞かれたくない話として、場は緊張に包まれていたのである。
クロノワの告知と加護消失の告白
スカーレットは業火宮で眠っていた折に時の神クロノワが現れ、再生しかけていたルクの封印を告げた件を前置きとして、自身の加護が剥奪されたと明かした。遡行や加速を含む全加護は発動不能ではなく、力そのものが体から跡形もなく消滅していたと説明したのである。
指導層の衝撃と国家的リスクの認識
レオとナナカは呆然とし、ジュリアスは沈黙ののち事態の深刻さを確認した。加護喪失は一難去ってまた一難どころではなく、放置すれば国防と国家運営に重大な支障を来すとして、パリスタン王国存続の危機と断じたのである。
帰国三週間後の王都の空気
スカーレットはグランヒルデの商業区を馬車で通過し、曇天にもかかわらず活気づく街並みを目にしていた。パリスタンとヴァンキッシュの恒久同盟が発表され、関税緩和や取引制限撤廃が見込まれ、国民の期待は高まっていた。報道は竜騎兵団の国境防衛を大きく称え、世論は同盟支持へ傾いた。これはジュリアスが情報屋を用いて発表の時機に合わせて噂と記事を流した結果であるとスカーレットは理解していた。
聖教区での加護分配の儀
スカーレットはディアナ聖堂の聖女の間で、ディアナからクロノワの加護分配の儀を受けた。緑のオーラは温もりを残したが、加護は戻らなかった。入室したジュリアスは、加護枯渇なら回復もあり得たが、今回は概念ごと剥奪された可能性が高いと示唆し、部屋を辞した。ディアナは友として支えると誓い、スカーレットは感謝を述べた。
守護騎士の言葉と内省
パラガスはスカーレットを外まで送り、パルミア教事件以降のディアナの成長を讃え、模範としてのスカーレットに礼を述べた。馬車の中でスカーレットは、加護を失っても為すべきを果たすと自らを律したが、ジュリアスの素っ気ない態度を思い返し、一瞬揺らぎを見せたのち、らしくない感傷を退けた。
研究と行き詰まり、外へ向かう決意
ヴァンディミオン邸では研究者の検分や食事・薬による回復策を試したが成果は無かった。調印式当日、在邸を命じたジュリアスの方針に従いつつも、スカーレットは加護喪失の原因たる相手に会いに行く決意を固めた。これはレックスの病、国益、そして自身の矜持のためである。
学院時代の友との合流と進路変更
出立準備の直後、エンヴィとローザが来訪した。二人は夜会でレオから頼まれ、落ち込むスカーレットを励ますために迎えに来たと語った。同盟調印を祝う一週間の祝祭で王都は毎日賑わい、ヴァンキッシュやリンドブルグから商隊や雑技団が集うという。宿も手配済みであり、スカーレットは国外行きをいったん改め、二人とともに王都へ向かうことを選んだ。ジュリアスへの不満を胸に秘めつつも、友の支えと祝祭の熱気の中で、次なる加護奪還の手掛かりを求めて歩み出したのである。
第四章 覚悟してくださいね
王都への到着と疲労
ヴァンディミオン邸を出発して三日後、スカーレット達は夕方に王都へ到着した。街道の渋滞で到着は遅れ、祝祭の賑わいで商業区は混雑していた。長時間の移動でエンヴィとローザは疲労困憊だったが、スカーレットは日々の鍛錬のおかげで元気な様子を見せた。三人は予約済みの豪華なホテルに宿泊した。
進路の語らい
夜、三人は同じベッドで過ごし、将来について語り合った。ローザは錬金術に惹かれ、リンドブルグの錬金術アカデミーへの入学を決めていた。自由人らしい選択にエンヴィは感心した。エンヴィは一方で婚約の話が破談になったと明かし、相手の優柔不断さに失望して自ら断ったと語った。
ジュリアスへの想い
話題はスカーレットに移り、エンヴィとローザは彼女の相手はジュリアスだと断言した。スカーレットは否定しつつも、自身の気持ちを語る中で、彼だけは気になる存在であると認めた。しかし、ジュリアスの言葉の真意が掴めず不安を抱いていた。
親友の支えと秘密の告白
エンヴィとローザはスカーレットを励まし、最も大切なのは自分の気持ちだと告げた。そして二人は、祝祭に誘うよう頼んだのはレオナルドではなく、ジュリアス本人だったと秘密を明かした。スカーレットはその事実に驚きを隠せなかった。
祝祭の喧騒とスカーレットの決意
昼の商業区は各国の出店と来訪者で溢れ、エンヴィとローザは上機嫌で歩き回った。スカーレットは昨夜知った事実を反芻し、ジュリアスが自分を祝祭へ誘った黒幕であったことを理解したうえで、冷淡な距離の取り方も含めて腹黒い策と断じ、本人に会って後悔させると心に決めたのである。
人波ではぐれ、雑技団“蠍”の急襲
人混みで二人とはぐれたスカーレットの前に、砂漠風の衣装を纏う雑技団の一団が現れた。踊り子ミザリィが名指しで挑発し、曲刀と体術、さらには口腔から射出する槍まで用いて不意打ちを仕掛けた。周囲の避難が進まず、加護を失った現状では全力が出せないと見たスカーレットは、場所の変更を提案したが、相手は聞き入れなかった。
“蠍”の増援と内輪の蹴散らし
スカーレットが魔眼の使用を決断しかけた時、雑技団の男二人が前に出て、加護を使えないことまで把握していると示唆した。しかしミザリィは興を削がれたとして鉄棍で二人を背後から殴打し、続行を要求した。避難の最中、エンヴィとローザに向けて曲刀が投擲されたが、王宮秘密調査室のシグルドが一閃でそれを弾き、民に傷一つ付けさせないと宣言した。
飛竜の帰還とヘカーテの来訪
上空から飛来した赤い飛竜レックスに騎乗し、ヘカーテが降り立った。彼女はジュリアスの強い依頼と借りを理由に来訪したと明かし、飛竜の魔力を結晶化した竜魔晶石をスカーレットへ授与した。スカーレットは手順を待たず宝石を直接飲み込み、暴走する魔力を魔眼で圧縮・循環させて制御した。髪は赤く染まり、肉体強化が顕著に発現したのである。
圧倒的な制圧と“人間お手玉”の開幕
力を得たスカーレットは一瞬でミザリィの背後を取り、横面への一撃で彼女を数十メートル吹き飛ばして戦闘不能にした。続く雑技団の斬撃は指先で受け止められ、背後からの一撃も指で刃を摘まれて無効化された。曲刀は握力で真っ二つに折られ、雑技団は動揺を抑えつつも構えを崩さなかった。スカーレットは鬱屈を晴らすと宣言し、空中膝蹴りで一人を石畳に沈めた後、次は自分の演目だとして“人間お手玉”の開始を高らかに告げたのである。
夜会準備と過密日程
レオナルドはエピファーと王宮の廊下を進み、最終日の夜会会場チェックに備えて動いていた。ヴァンキッシュ帝国の特使団を招く夜会は同盟締結の掉尾を飾る場であり、主催のジュリアスを支える立場として、準備の不備を許さない決意を新たにしていた。
フランメ陛下との再会
背後から声を掛けられ、レオナルドはフランメ陛下と対面した。国賓待遇への満足と感謝が示され、同盟の道のりに対して労いの言葉が贈られた。レオナルドは礼を尽くしつつ、滞在中の不便がないかを確認した。
同盟を巡る現実的懸念
話題は同盟の障害へ移った。国防上の機微情報の共有が侵略の容易化に繋がるとの懸念から、議会では保守派が難色を示していた事実が整理された。レオナルドは、ジュリアスが理路整然と利害を提示し、反対派をも納得させて可決に導いた政治手腕を内心で天才的と評していた。
“金色の君”の二つ名
フランメ陛下がジュリアスを金色の君と呼んだことで、レオナルドは驚いた。その呼称が国内の一部でのみ流通している通称であるためで、由来はスカーレットの“説明”によるものと知り、愚妹の悪戯に頭を抱えた。
商業区の騒擾報告
騎士団が廊下を駆け抜け、レオナルドは事態を聴取した。商業区の大通りで雑技団風の集団が剣を振るって騒乱を起こしているという。衛兵では対処不能の手練である可能性が示され、背後関係の有無については未判明ながら、ただの荒事ではないと見立てた。
飛竜出現と外交上の火種
報告は続き、巨大な飛竜の出現で市民が混乱していると知らされた。フランメ陛下は事前指示を否定し驚愕した。市街地での飛竜騒動は同盟に致命的な禍根を残しかねず、レオナルドは即応の必要性を痛感した。
“鉄拳姫”コールと兄の嘆き
さらに、赤いドレスの貴婦人が暴れる集団に対して殴打蹴撃で応戦し、市民が鉄拳姫と歓声を上げているとの続報が入った。対象がスカーレットと悟ったレオナルドは、同盟の行方と現場収拾を案じつつ、思わず嘆声を上げざるを得なかったのである。
群衆の歓声と“人間お手玉”の終幕
商業区の大通りでは鉄拳姫の掛け声がこだまし、スカーレットは雑技団の面々を拳で次々と打ち上げ、人間お手玉のように制圧してみせた。最後の一人を高く弾き上げて会釈し、観衆は演目と誤解したまま喝采したのである。
レックスとの抱擁と再会の喜び
騒擾の収束直後、人型のレックスが駆け寄り、再会を喜んだ。スカーレットは体調を確かめ、エンヴィとローザへの紹介を約した。
レオナルドの急報と不在者の謎
現場に到着したレオナルドは事情聴取を行ったが、倒れていたはずの雑技団の姿は一人残らず消えていた。ヘカーテは魔力痕が皆無である点を指摘し、人知を超えた消失だと評した。
調査室での整理と“蠍”の手掛かり
王宮秘密調査室での聴取により、衣装や曲刀の型からリンドブルグ南部由来の集団である可能性が高いと整理された。彼らが“蠍”を名乗り、スカーレットの加護喪失という国家機密を把握していた事実が最重要の懸案となった。
身柄保全を巡る兄妹の応酬
レオナルドは宿舎待機と騎士護衛を提案したが、スカーレットは祝祭を楽しむ意志と自衛の自信を示して拒んだ。レオナルドは家族としての情と国務の両面から説得を続けた。
ジュリアスの介入と方針決定
ジュリアスが入室し、竜魔晶石の受領確認と現在の戦闘力をヘカーテに問うた上で、過度の匿いよりも警備強化と平時行動の両立を選ぶべきだと結論づけた。スカーレットはこれに同意し、逃避せず対処する姿勢を明言した。
夜会での“重要な話”
退出間際、ジュリアスは祝祭最終日の夜会で大切な話があるとスカーレットに耳打ちした。内容は伏せられ、レオナルドは新たな二つ名の増殖を警戒したが、スカーレットは否定した。
ヘカーテの忠告と去就
移動の途上、ヘカーテは竜魔晶石の反動による身体負荷を指摘し、安静を勧告した。また高純度魔力を体内強化に用いる際、加護との併用は致命的な反発を生むと警告した。竜魔晶石は長年の余剰魔力から作ったものであるが、常人では扱えず、スカーレットは魔眼と制御能力ゆえに使用可能だったと断じ、恩は今回限りとして去っていった。
再会と小さな家族時間
スカーレットは広場でエンヴィ、ローザ、そしてレックスと合流。二人は買い食いを満喫し、レックスともすっかり打ち解ける。四人で再び商業区へ向かう相談の最中、シグルドが護衛として背後に控えていることが判明し、エンヴィは礼を言う機会を窺う。
夜会へ—揺れる胸中と静かな気遣い
翌日昼、レックスは名残を惜しみつつ帰還。最終日の夜、赤いドレスのスカーレットはシグルドのエスコートで王宮へ。馬車内でシグルドは先日の救出は当然の務めだとしつつ、スカーレットを気遣う言葉を掛ける。夜会後の予定を問うが、スカーレットがジュリアスからの呼び出しを明かすと、シグルドは寂しげに身を引く。
皇帝フランメの腕—感謝と“変化”の告白
会場前でフランメが現れ、レオナルドの許可を得たうえでスカーレットを案内。ヴァンキッシュが“国のために手を取り合う国”へ変わったのはスカーレットらの働きによると謝意を述べる。スカーレットは「鬱憤晴らしにクズを殴っただけ」と平然と返し、フランメは屈託なく笑って去る。
謎の二人組とナナカの導き
会場で青髪の長身クリシュナと金髪の少年ブランに声を掛けられるが、急ぎ足で離脱。黒い獣姿のナナカを追い、上階のテラスへ。
テラスでの対峙—告白
ジュリアスが待っていた。スカーレットは「陰で気を回し表では素っ気ない」と怒りをぶつけるが、ジュリアスは謝罪し、「加護を取り戻すのは国のため以前に、スカーレットが“自分らしく生きる意義”を取り戻すため」と明言。さらに抱き寄せ、「会えないと会って抱きしめたくなる」「それが愛だと気付いた」と告白し、額に口づける。スカーレットも「愛していないわけでは……」と揺れるが、ジュリアスは「本調子を取り戻してから答えを」と保留を促す。
次の旅路—魔大陸へ
加護回復の手掛かりを求め、魔大陸行きを示唆。ロマンシアから魔大陸へ渡れるのはリンドブルグの武装船団のみで、準備含め長旅になると説明。スカーレットは“竜魔晶石”を携え、悪党は拳で正すと決意を固める。
急報—不穏の連鎖
そこへレオナルドが駆け込み、南端の開拓地が正体不明の集団に襲撃され多数死傷と報告。さらに「労働刑のカイル、テレネッツァ、元異端審問官らが失踪(脱走の疑い)」と告げ、緊張が一気に走る。
王都への到着と疲労
ヴァンディミオン邸を出発して三日後、スカーレットたちは夕刻に王都へ到着した。王都は建国祭の最中で人混みと渋滞が激しく、予定より大幅に遅れて到着した。長時間の馬車移動でエンヴィとローザは疲労困憊し、噴水前のベンチでぐったりしていた。スカーレットの提案でこの日は祝祭を諦め、宿泊先のホテルへと向かった。
豪華な宿泊と親友との語らい
宿泊先のホテルは王城のような豪華な内装で、各国から集まった貴族で満室だったが、エンヴィが事前に予約していたため無事入室できた。夜更け、三人は同じベッドに並び、眠る前に進路や結婚について語り合った。ローザは錬金術アカデミーへの進学を語り、エンヴィは婚約が破談となった理由を吐露した。
恋愛観の違いと揺れる気持ち
ローザは学問を優先し、エンヴィは良縁を望んでいた。それに対して二人は、スカーレットは既にジュリアスと結ばれる運命だと口にした。スカーレットは否定しきれず、ジュリアスとの関係について迷いを打ち明けた。彼の思わせぶりな態度に翻弄され、本心が掴めないと語ったのである。
親友たちの支えと告白
ローザとエンヴィはスカーレットの気持ちを重視すべきだと励ました。スカーレットは曖昧ながらも、唯一気になる殿方がジュリアスであると認めた。その告白を受けた二人は視線を交わし、隠していた事実を伝えた。実は今回の祝祭への誘いはレオナルドではなく、ジュリアスの計らいだったと明かしたのである。
祝祭五日目の賑わいと心中
正午頃、スカーレット、エンヴィ、ローザの三名は身支度を整えて商業区に出かけた。大通りは各国の出店と人波で溢れ、二人は軽口を交わしつつ歩いた。スカーレットは昨夜知ったジュリアスの策を思い返し、直接言わず誘いを仕組んだ態度に苛立ちを募らせていた。
雑技団との遭遇と急襲
雑技団が現れて人々の視線が集まる中、金髪の踊り子ミザリィが名指しでスカーレットを挑発し、曲刀で不意打ちを仕掛けた。石畳が砕け、群衆は悲鳴とともに退いた。スカーレットは最小限の回避に徹しつつ被害拡大を懸念し、場所替えを提案したが、ミザリィは殺し合いを望む姿勢を崩さなかった。
救援の一閃と飛竜の影
エンヴィとローザが駆け寄ると、ミザリィは投擲した曲刀で二人を狙った。そこへ王宮秘密調査室のシグルドが飛び込み、長剣で軌道を断ち切って救った。直後、上空から赤い飛竜レックスが降下し、背に乗るヘカーテが現れた。雑技団は飛竜と魔族の出現に緊張を強めた。
竜魔晶石の授与と暴走制御
ヘカーテはジュリアスの依頼を示しつつ、加護を失ったスカーレットに竜魔晶石を渡した。スカーレットは即時の戦闘を優先して石を直接嚥下し、全身に溢れる魔力の奔流を魔眼で圧縮・循環させて制御に成功した。髪は赤く染まり、身体能力は飛躍的に向上した。
優勢転換とミザリィ撃破
強化を得たスカーレットは超速で死角を取り、周囲への加害を顧みない態度を断じて拒絶したうえで、横撃の一撃でミザリィを吹き飛ばした。ミザリィは雑技団の面々を巻き込みながら十数メートル弾かれて沈黙し、戦意を喪失した。
“蠍”の正体の兆しと制圧開始
雑技団は口元を覆い、蠍の刺青を持つ集団として整然と構え直した。スカーレットは彼らの出自や目的を詰めるより、鬱積を晴らす制圧を選択した。空中からの膝撃で一人を地に沈め、連撃も指先で受け止めて曲刀を折り、主導権を完全に掌握した。以後は「人間お手玉」と称して連続的に無力化へ移行する構えであった。
王宮での業務と体調を押しての職務
祝祭五日目の昼過ぎ、レオナルドは秘書官エピファーと王宮の廊下を進み、最終夜会の会場チェック前に別業務を片付けようとしていた。多忙の続く日々で疲労は濃かったが、主催者ジュリアスの責務を思い直し、気を引き締めていたのである。
フランメとの再会と歓待の評価
廊下でフランメと護衛に遭遇し、調印式以来の再会を交わした。ヴァンキッシュ一行は国賓待遇に満足していると伝えられ、レオナルドは安堵した。フランメは遠路の歓待と同盟準備への尽力に謝意を示した。
同盟可決の障害とジュリアスの手腕
同盟は国防上の情報共有が障害となり、議会は賛否が割れた経緯が語られた。レオナルドは、ジュリアスが理路整然と反対論を退け、利点と不履行時の不利益を提示して可決へ導いた事実を回想した。フランメは金色の君の二つ名に触れ、由来をスカーレットから聞いたと述べ、レオナルドは内心で頭を抱えていた。
騎士団の急報と飛竜の影
そこへ騎士が駆け込み、商業区で雑技団風の集団が刃物で暴れていると報告した。さらに市街上空に巨大な飛竜が出現し混乱が拡大しているとの情報が続き、フランメは自らの関与を否定して動揺を見せた。レオナルドは同盟への悪影響を憂慮し、急行の必要を悟った。
“鉄拳姫”コールと絶叫
騎士は加えて、赤いドレスの淑女が暴れる集団を殴打しており、市民が鉄拳姫と歓声を上げていると伝えた。名指しこそされなかったが、人物像からスカーレットを察したレオナルドは、思わず嘆声を上げざるを得なかったのである。
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