物語の概要
本作は、悪役令嬢ファンタジーの要素を取り入れた痛快な物語である。公爵令嬢スカーレット・エル・ヴァンディミオンは、舞踏会の最中に第二王子カイルから理不尽な婚約破棄を告げられ、さらには無実の罪まで着せられる。長年の我慢が限界に達したスカーレットは、貴族たちに拳で制裁を加えることを決意する。その後、第一王子ジュリアスと共に国の腐敗を正すために立ち上がり、様々な陰謀に立ち向かっていく。
主要キャラクター
• スカーレット・エル・ヴァンディミオン:本作の主人公。公爵令嬢でありながら、武闘派の一面を持つ。理不尽な扱いに対して自らの拳で立ち向かう強さと正義感を持つ。 
• ジュリアス・フォン・パリスタン:第一王子。文武両道で冷静沈着。スカーレットの行動を理解し、共に国の改革に取り組む。 
• レオナルド・エル・ヴァンディミオン:スカーレットの兄。王宮の秘密調査室の室長として、妹の行動を陰ながら支える。 
• ナナカ:ディアナ聖教の現任聖女。スカーレットを姉のように慕い、共に行動することが多い。 
• カイル・フォン・パリスタン:第二王子。スカーレットの元婚約者で、彼女に理不尽な仕打ちをするが、後にその報いを受ける。 
• テレネッツァ・ホプキンス:ホプキンス男爵家の令嬢。カイルの新たな婚約者であり、スカーレットに対して陰謀を巡らせる。
物語の特徴
本作の最大の魅力は、従来の「悪役令嬢」ものとは一線を画す、主人公スカーレットの行動力と痛快な展開である。理不尽な状況に対して、言葉ではなく拳で立ち向かう彼女の姿は、読者に爽快感を与える。また、恋愛要素や陰謀劇も織り交ぜられ、物語に深みを加えている。
書籍情報
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
著者:鳳ナナ 氏
イラスト: 沙月 氏
出版社:アルファポリス(レジーナブックス)
発売日:2018年8月6日
コミカライズ:作画:ほおのきソラ、既刊9巻(2024年10月現在)
アニメ化:2025年秋にTVアニメ放送予定。制作:ライデンフィルム京都スタジオ
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あらすじ・内容
美しき悪役令嬢が悪をブン殴る!?
舞踏会の最中に、第二王子カイルからいきなり婚約破棄されたスカーレット。さらには、あらぬ罪を着せられて悪役令嬢呼ばわりされ、大勢の貴族達から糾弾される羽目に。今までずっと我慢してきたけれど、おバカなカイルに振り回されるのは、もううんざり! アタマに来た彼女は、あるお願いを口にする。――最後に、貴方達をブッ飛ばしてもよろしいですか? こうしてスカーレットは、カイルと取り巻きの貴族達を拳で制裁することにして……。華麗で苛烈で徹底的――究極の『ざまぁ』が幕を開ける!? 痛快すぎる悪役令嬢ファンタジー!
感想
本作の主人公スカーレット・エル・ヴァンディミオンは、一見してお淑やかで美しい令嬢に見えるが、その内面はまるで対極であった。特に印象に残ったのは、「顔面を殴るのが大好きな令嬢」という常識外れな設定である。第二王子から婚約破棄を突き付けられ、悪役令嬢として糾弾された彼女が、静かに「お願い」を口にしながら暴力によって制裁を下す展開には、度肝を抜かれるばかりであった。読者の期待を良い意味で裏切るその姿勢は、アルファポリス作品の中でも特に異質であり、冒頭から一気に引き込まれる要素となっていた。
スカーレットの行動理念はきわめてシンプルである。「ムカついたから殴る」。これは正義感でも復讐でもなく、己のストレス発散という動機に支えられており、そこにこそ本作の痛快さが詰まっている。読者としては、正論ではなく本音で動く彼女の姿に笑いがこみ上げると同時に、どこか憧れすら感じた。
また、スカーレットはかつて「狂犬姫」と呼ばれた過去を持ち、幼少期から貴族の顔面を拳で砕いていたという経歴がある。そんな彼女が、婚約者である第二王子カイルに従順な令嬢を演じ続け、感情を押し殺してきたというギャップが非常に印象深かった。暴力的ではあるが、彼女の行動の裏には長年の我慢と屈辱が積み重なっており、その反動として一気に解放される様子には説得力があった。
第一王子ジュリアスの存在も、物語に一筋縄ではいかない魅力を添えている。王子としての冷静さと皮肉を兼ね備えた彼が、スカーレットに対して「面白い」と興味を抱く様子は、まるで人間観察を楽しむかのようであり、ある種の知的変態さすら感じさせた。二人のやり取りは緊張と冗談が交錯しており、その絶妙な距離感が読者にとっては癖になる要素である。
物語が進むにつれ、政治の闇や奴隷制度といった重いテーマにも触れつつ、暴力・知略・義憤の全てを駆使して悪徳貴族に立ち向かう展開は、読後にスカッとした解放感をもたらしてくれる。特に奴隷オークション会場での大立ち回りや、飛竜の上での戦闘は、まさに「爽快」の一言に尽きる。
ただし、スカーレットのような強烈なキャラクターを受け入れられるかどうかは、読者の好みに大きく左右されるだろう。常識的なヒロイン像とは一線を画しているが、そこに惹かれる読者にとっては、彼女の存在が癖になる魅力として記憶に残るはずである。
総じて本作は、既存の悪役令嬢モノとは一線を画す、「拳によるざまぁ」の快作であった。笑いと驚き、そして爽快感が絶妙に組み合わさった物語であり、続巻への期待を抱かせるに十分なインパクトを持っていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
第一章 最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか。
舞踏会での婚約破棄
舞踏会の最中、第二王子カイル・フォン・パリスタンは、公爵令嬢スカーレット・エル・ヴァンディミオンとの婚約を一方的に破棄した。カイルはその場で新たな婚約者として、ホプキンス男爵令嬢テレネッツァを紹介し、場内の注目を浴びながら婚約宣言を行った。会場にいた貴族たちは祝福の拍手を送ったが、その多くは第二王子派の取り巻きであり、形式的な支持であった。
スカーレットへの不当な告発
スカーレットは、王家とヴァンディミオン公爵家との間にかねてより取り交わされていた婚約が、王子の独断で破棄できるものではないと諭した。これに対しカイルは、スカーレットが学院内でテレネッツァに対して嫌がらせを行っていたと主張し、彼女を罪人と断定した。だがスカーレットは、テレネッツァと実際に顔を合わせたのはその日が初めてであり、校舎も違うため面識すらなかったことを根拠に否定した。
根拠なき非難と矛盾の露呈
カイルは証拠もないまま、スカーレットがテレネッツァに対して行ったといういじめの具体例を列挙したが、それらは荒唐無稽で根拠に乏しく、すべてテレネッツァの証言のみを根拠としたものであった。さらに、カイルは特別科から一般科に成績不振で降格した経緯を持ち、彼自身が学院での規範を守っていなかったことも明らかとなった。
最後の「お願い」と衝撃の制裁
一方的な告発が続く中、スカーレットは静かに「最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか」と言い放ち、テレネッツァの顔面に拳を叩き込んだ。この突如の制裁により、会場は混乱に包まれた。スカーレットは長年抑えてきた感情を爆発させ、悪意に満ちた者たちに対して真っ向から立ち向かう姿勢を見せた。
自我の解放と敵対宣言
スカーレットは、婚約者として従順に振る舞い続けてきた自分を脱ぎ捨て、第二王子派の貴族たちに対して「最低の豚野郎」と断じた。そして、自身の努力と忍耐を踏みにじった彼ら全員を殴る覚悟を宣言し、堂々と手袋を装着して挑戦の構えを見せた。その姿には、かつて“狂犬姫”と呼ばれた過去の面影が蘇っていた。
第二章 覚悟はよろしいですか、泥棒猫さん。
初めての夜会と婚約者との出会い
スカーレット・エル・ヴァンディミオンは七歳のとき、社交界デビューとして夜会に出席した。初参加の場で出会った同年代の少年は、礼儀知らずで粗暴な言動をとる無礼な相手であった。のちに、その少年が第二王子カイル・フォン・パリスタンであり、自身の婚約者であることを父から知らされた。
執拗な付きまといと精神的な抑圧
婚約者として出会った日以来、カイルはスカーレットに付きまとい、暴言や嫌がらせを繰り返した。スカーレットは婚約の白紙撤回を父に何度も願い出たが、王家との結びつきゆえに受け入れられなかった。その結果、彼女は無表情と無反応で感情を押し殺し、耐え続けることで自らを守る術を身につけた。
学院生活の始まりと理不尽な命令
十五歳となり王立貴族学院に入学したスカーレットは、父からカイルの支え役を命じられた。学院でもカイルの付き人として動かされ、理不尽な命令と侮辱に耐える日々が続いた。スカーレットは心を殺して従いながらも、その鬱屈した感情を学業に注ぎ、やがて学院一の才女として頭角を現していった。
評価の変化と孤立の終焉
才能を発揮したことで、スカーレットの評価は上がり、孤立状態から脱しつつあった。才女としての評判が広がる一方で、カイルは成績不振によって特別科から一般科への降格が決まり、自尊心を傷つけられていた。これにより、彼のスカーレットへの敵意はさらに増した。
昼食事件と公然の恫喝
ある昼休み、カイルは教室に乱入してスカーレットに暴言を浴びせ、腕を掴んで校舎裏へ連れ出した。取り巻きと共に威圧的な態度をとり、ついにはスカーレットの銀髪を切ろうと短剣を抜いた。スカーレットは怒りを抑えながらも反撃の決意を固めたが、その直前、ある人物によって状況が変わった。
第一王子ジュリアスの登場
カイルの暴走を止めたのは、第一王子ジュリアス・フォン・パリスタンであった。木の上から登場したジュリアスは、冷静かつ的確にカイルを言い負かし、短剣を捨てさせた。さらに、騎士見習いであるシグルドもジュリアス側に立ったことで、カイルは完全に劣勢に追い込まれた。
暗黙の理解と新たな標的
ジュリアスはスカーレットに謝罪しつつも、彼女が抱える怒りや本性を見抜いていた。皮肉と余裕を漂わせる態度で、今後の彼自身の興味対象としてスカーレットを見定めた様子であった。その言動から、彼もまたスカーレットに対する関心を抱き始めたことが窺えた。
新たな脅威と決意の継続
この一件を契機に、スカーレットは第二王子に加え第一王子からも目をつけられることとなった。怒りとストレスはさらに募ったが、公爵家の令嬢としての立場を守るため、本性を隠しながら学院生活を続けることを選んだ。しかし、第一王子の存在によって、平穏な日々はもはや望めないものとなっていった。
能力測定試験と学年首席の交代
学院で行われた能力測定試験において、それまで主要三科目で常に首位を維持していたスカーレットの記録が、ジュリアスによって破られた。ジュリアスは全科目満点という異例の結果を出し、スカーレットの競争心に火をつけた。彼女は徹底した努力の末、再び一位の座に返り咲いたが、ジュリアスの軽口により怒りと屈辱が募った。
嫌がらせと誤解の積み重ね
スカーレットはジュリアスのたび重なる挑発や不意の接近に辟易しつつも、無視を貫こうとした。しかし彼はあらゆる場面に出現し、彼女の表情や思考を見抜いた発言を繰り返したことで、スカーレットの怒りと警戒心はさらに高まった。一方でジュリアスは、彼女の本質を楽しんでいる様子を見せ、突如として婚約を提案するなど、奔放な振る舞いを続けた。
婚約破棄後の暴走と貴族たちへの制裁
舞踏会でのカイルとテレネッツァによる婚約破棄宣言を受け、スカーレットはついに蓄積した怒りを爆発させた。彼女はテレネッツァを殴り飛ばした後、近衛兵の制止を睡眠魔法で退け、続けて第二王子派の貴族たちを次々に拳で叩きのめした。暴力を恐れ逃げ惑う貴族たちは、妻や娘、さらには奴隷までを差し出すと叫びながら、混乱の中で自己保身に走った。
兄と第一王子の登場と事後の混乱
その騒動の最中、兄レオナルドが現れ、会場の惨状に驚愕した。続けてジュリアスも到着し、暴れたスカーレットに対して興味と賞賛を交えた反応を見せた。スカーレットはすべてを「ムカついたから殴った」と言い切り、兄と第一王子をさらに呆れさせた。
戦闘後の脱力と一時の安らぎ
怒りの解放によって疲弊したスカーレットは、その場に倒れた。レオナルドは彼女を抱きかかえて労わり、ジュリアスは事後の処理を騎士シグルドに一任した。こうしてスカーレットは混乱の中心にありながらも、一瞬の安らぎに包まれ、意識を手放した。
第三章 そんなに私は喧嘩っ早くありませんよ。
幼少期の素行と兄の観察
スカーレット・エル・ヴァンディミオンは幼少期において非常に攻撃的な性格を持ち、人の顔面を拳で殴ることに快感を覚えていた。暴力の標的は貴族の子女が中心であり、週に一度は抗議を受ける事態となっていた。礼儀作法や容姿、立ち居振る舞いに関しては完璧であり、それゆえに周囲からの評価は高く、処罰を免れていた。また、殴られた者の周囲にはスカーレットを擁護する人物も現れ、人助けを理由に彼女を支持していた。兄はこうした背景を理解しつつも、スカーレットの本心がただの欲求発散であることを見抜いていた。
メイドによる襲撃と反撃
ある日、スカーレットが目覚めると、自身の上に見知らぬメイドが馬乗りになり、ナイフを構えていた。スカーレットは反射的に拳を振るい、メイドを壁に叩きつけた。現場に駆けつけた兄レオナルドは、メイドの様子を見て頭を抱えた。スカーレットは舞踏会後に三日間も意識を失っていたことを知り、自身の行動が周囲に心配をかけていたことを謝罪したが、暴力の意志だけは撤回しなかった。
婚約破棄の正式通達と状況説明
ジュリアスはスカーレットに対し、王家からカイルとの婚約破棄が正式に決定されたことを伝えた。王家は、第二王子派貴族による不正の数々を把握しており、今回の舞踏会の件を契機に一斉摘発を開始していた。カイルは王位継承権を剥奪され、今後は離宮に幽閉される運命となった。ジュリアスはスカーレットを国の重要な存在として認識しており、王家との縁を維持し続けることを望んでいた。
「鮮血姫」の二つ名と兄の嘆き
舞踏会でのスカーレットの暴れぶりは世間に広まり、彼女は「鮮血姫」として市井で語られる存在となった。この事実に兄は大きく落胆し、再び二つ名が付いたことに頭を抱えた。一方でスカーレットは、学院の友人たちへの説明や、自由な時間を得たことに満足していた。
第二王子派摘発と宰相の存在
ジュリアスとレオナルドは、第二王子派の背後に宰相ゴドウィン・ベネ・カーマインがいると断定し、その処罰を進めるべく動いていた。レオナルドは王宮秘密調査室の室長として活動しており、この機関はジュリアスと国王が極秘裏に設立したものであった。
スカーレットの性格に起因する兄とのやり取り
スカーレットはレオナルドとジュリアスの関係が兄に悪影響を与えていると考え、二人を引き離すことを画策していた。彼女は兄が自分のことを常に気にしてくれていたと主張したが、兄はジュリアスと共にスカーレットの行動に翻弄され続けていると指摘した。
シグルドの正体と謝罪
シグルド・フォーグレイブが現れ、自身が第一王子派のスパイであったことを明かした。彼は学院での無礼な振る舞いについて謝罪し、スカーレットに殴られる覚悟を示した。スカーレットは軽いパンチで許しを与え、過去の借りを帳消しにした。シグルドはその態度に感激し、周囲の者たちは各々の感情を露わにした。
今後の展望とスカーレットの決意
情報提供を受けたスカーレットは、病み上がりの身体をいたわるため席を外した。ジュリアスとレオナルドは、宰相の摘発を含めた政治改革を進める意向を明かし、スカーレットの存在が今後の国政においても重要な役割を果たすであろうことが示唆された。
宰相の陰謀と真の標的
スカーレットは舞踏会後の事件の背後に、宰相ゴドウィン・ベネ・カーマインが関与していると知り、彼がカイルを増長させ、国の実権を握ろうとしていた事実に憤りを覚えた。彼女はその責任がカイルではなくゴドウィンにあると断じ、自らの手で制裁すべき相手であると決意した。
メイド襲撃の真相と尋問の決意
スカーレットは、自身を襲撃した黒髪のメイドが拘束されている物置小屋へと向かった。同行した執事セルバンテスから、メイドの名がナナカであり、異民族の出身で三か月前に派遣されてきたことを聞かされた。スカーレットは、自分の命が狙われたこの時期と、第二王子派貴族の摘発が重なったことに不自然さを感じ、尋問によって真相を明らかにしようと決意した。
同僚メイドの証言とナナカへの疑念
物置に向かう途中、ナナカを擁護する同僚メイドが現れ、彼女が心優しく同僚思いの人物であると主張した。スカーレットは一方的に断罪せず、ナナカの真意を見極めようと考えた。セルバンテスもナナカが暗殺者には見えなかったと認めつつ、用心深く判断を保留した。
黒狼との対峙と正体の判明
物置小屋に到着したスカーレットは、黒い獣の姿となったナナカに襲われるも、これを即座に撃退した。ナナカはスカーレットの呼びかけに応じ、人間の姿へと戻ったが、それは少女のような外見をした少年であった。彼は獣人族であり、変身能力を持つ希少な亜人種であると判明した。
奴隷紋の発見と解放の交渉
スカーレットはナナカの胸に刻まれた奴隷紋を見つけ、それが暗殺という命令に逆らえない原因であることを理解した。彼女は自身の力によって奴隷契約を解除することを提案し、解放と引き換えに雇い主の情報を提供するよう交渉した。ナナカは懐疑的ながらも、その提案に同意した。
遡行の加護と奴隷契約の解除
スカーレットは自身に宿る“時の神クロノワ”の加護によって、ナナカに刻まれた奴隷紋を解除した。この加護は物体を元の状態へ戻す力を持ち、極めて希少で国にも秘匿されている能力であった。彼女はこの力を行使する代償として生命力を消費することを認識しつつ、今回は意図的に使用した。
雇い主の告白と新たな標的の確定
奴隷紋から解放されたナナカは、獣人族の誓いに従い、契約を果たしたスカーレットに真実を語った。彼の暗殺依頼の依頼主は、国の宰相ゴドウィン・ベネ・カーマインであった。この告白により、スカーレットは自身が狙われた理由と、真の敵の所在を明確に把握したのである。
第四章 これは淑女の嗜みですわ。
貧民街への潜入と変装の失敗
スカーレットたちは、王都近郊の貧民街に潜入した。彼女は目立たない格好をしていたつもりだったが、銀髪の目立つ容姿から、周囲には正体をすぐに見抜かれていた。同行していた第一王子ジュリアスも変装せずにいたため、早々に正体が露見してしまった。ナナカは二人に冷静さを促し、目的が奴隷仲介人との接触であることを再確認させた。
ナナカの告白とゴドウィンの陰謀
三日前の物置小屋での会話により、ナナカがかつて宰相ゴドウィンの命令でスカーレット暗殺を命じられていたことが発覚した。ゴドウィンは奴隷に諜報活動をさせて貴族の弱みを握り、勢力を拡大していた。スカーレットはその悪事に憤り、直接的な制裁を決意した。ナナカはゴドウィンが姿を現す唯一の機会として、月に一度の奴隷オークションを提案し、協力を申し出た。
王都へ向かう決意とジュリアスの同行理由
スカーレットはナナカの協力を受け入れ、王都での直接対決を目指して出発した。ジュリアスはその計画に同行し、理由を「社会勉強」と称したが、真意は「面白そうだから」であった。道中、三人は貧民街を歩きながら、王都の現実と向き合う機会を得た。
悪漢との遭遇と暴力による制裁
スラムの路地で、三人は悪漢たちに襲撃された。スカーレットは圧倒的な力で彼らを撃退し、その一部始終は「撲殺姫」の異名にふさわしいものであった。悪漢の一人から目的の仲介人の情報を引き出すと、容赦なく気絶させて情報の処理を終えた。
酒場での情報収集とジュリアスの手腕
情報を元に向かった地下酒場では、ジュリアスが単独で交渉に臨み、暴力を使わずに奴隷商の情報を引き出すことに成功した。ナナカはその鮮やかな手並みに驚き、スカーレットは情報の入手法に疑念を抱いたが、結果的にはジュリアスの機転と詐術による勝利であった。
次なる標的への期待
一行は酒場を後にし、さらなる行動へと踏み出した。スカーレットは、次はより手強い貴族たちを標的とし、拳を振るうことに胸を躍らせていた。ナナカの冷静さとジュリアスの策略、そしてスカーレットの暴力衝動が交錯するなか、彼らはゴドウィンの元へと着実に近づいていた。
第五章 やはり油断なりませんね。
仮面の王子と銀髪の令嬢の出会い
第一王子であるジュリアスは、愚か者たちの醜態を楽しむために夜会に通っていた。ある日、夜会の隅に立つスカーレットという銀髪の少女に目を奪われた彼は、彼女が弟カイルの婚約者であることに気づいた。カイルは彼女に理不尽に手を上げるが、スカーレットはそれに黙って耐えた。その態度に違和感を抱いたジュリアスが皮肉を投げかけると、スカーレットは冷笑を浮かべ、内に秘めた歪さを見せた。ジュリアスは彼女を同類と感じ、愚か者以外で初めて人間を愛おしいと感じた。
貴族街に潜む奴隷商への接触
ジュリアスの調査情報を受け、スカーレットとナナカは奴隷商ザザーランの邸宅を訪れた。ザザーランは一見紳士だが、裏では違法な奴隷取引を行っていた。スカーレットはナナカを奴隷として譲る代わりに、奴隷オークションへの参加を求める。ザザーランは条件としてナナカを引き渡すことを提案し、スカーレットは作戦成功を確信した。
取引成立とオークション招待の確約
ナナカが獣人族である証明として獣化を行い、取引は成立した。スカーレットはナナカを奴隷として引き渡すと装い、オークションへの招待を確保した。ただし奴隷紋は刻まれていないと偽り、翌日の譲渡とすることでナナカの安全を確保した。
市場での甘味と再接近
ナナカを宿で休ませたスカーレットは、商業区で散策を楽しもうとする。しかしジュリアスが同行し、彼女をからかいながらも楽しげに振る舞った。商人とのやり取りの中でスカーレットの感情は揺れ動き、ジュリアスが真剣な告白をするに至ってさらに困惑した。彼は自らの歪さと退屈への嫌悪を語り、スカーレットに愛情を告げた。
翌朝の交渉と暴力への反撃
翌朝、スカーレットとナナカは再びザザーラン邸を訪れる。ザザーランは用心からナナカの獣化を求め、スカーレットは応じた。だがザザーランの奴隷ドノヴァンがナナカを虐げようとしたことで、スカーレットは鞭を素手で受け止め、圧倒的な力で彼を撃退した。その力に怯えたザザーランは全面的に服従し、取引条件を呑んだ。
傷の癒やしと主従の信頼
ナナカの首に残る傷を癒やしながら、スカーレットは彼に感謝と信頼を寄せた。ナナカもまた彼女を気遣い、強く絆を深めた。すべてが順調に進んだ今、あとはオークション本番を待つのみとなった。
馬車の前での兄との再会
邸宅を出たスカーレットは、宿の前で見慣れた馬車と兄レオに出くわした。ジュリアスの潜伏先を知られた彼女は、問い詰められることとなる。馬車の窓から観念したジュリアスの姿を見つけ、スカーレットは内心で怒りを募らせるのだった。
第六章 彼らは私のお肉です。
王宮での報告と潜入作戦の可否
スカーレットとジュリアスは、兄レオに保護され王宮の調査室に連行された。二人の行動を知ったレオは激しく叱責したが、奴隷オークションの開催地が判明したことから一定の成果は認めた。オークション主催者がゴドウィンであるという確証が得られたため、調査室では即座に対策準備が開始された。しかしレオは妹の危険を案じ、潜入を断念させようとした。
スカーレットの決意と主張
スカーレットは、カイルとの婚約破棄以降に見聞きした不正と不条理を語り、自らの手で悪を討つ覚悟を訴えた。表向きでは無力に見える者ほど理不尽に虐げられている現実に憤りを覚え、自らが加護と戦闘能力を持つ貴族であることを理由に、潜入を志願した。ジュリアスは彼女の戦闘力を評価し、現場に投入する意義を説いた結果、レオは条件付きで潜入を許可した。
オークション会場への潜入開始
オークション当日、スカーレットは仮面舞踏会用の装いでザザーランと共に馬車で会場に向かった。会場は王国の大講堂地下二階のホールで、表向きは厳重な警備に見えるが、実際には貴族たちによる違法な取引の場となっていた。ホールには仮面を付けた上位貴族たちが集い、奴隷を品定めしていた。
会場での情報収集と不快な現実
スカーレットは醜悪な売買の会話が飛び交う中、司会の奇術師による派手な演出のもと、オークションの開始を見届けた。最初に登場したのは希少種である片翼の有翼人であり、会場の熱気は高まっていた。そんな中、スカーレットはジュリアスと再会し、潜入してきた彼と状況を共有した。
殴打の交渉と忠誠の取引
スカーレットは、ゴドウィンを殴るまで突入を待つようジュリアスに要請した。ジュリアスはその条件を受け入れる代わりに、彼個人への忠誠を誓うよう求めた。スカーレットは躊躇しつつも同意し、忠誠を口にすることで取引が成立した。ジュリアスは満足し、突入の合図を遅らせることを了承した。
最後の準備と標的の特定
ゴドウィンがいると推察される地下一階の特別席をスカーレットが指し示し、ジュリアスもそれを支持した。仮面の客人たちに混じる護衛の存在からも、その席が重要人物のものであると判断された。スカーレットは標的に接近する準備を整え、舞台が整ったことを確認した。
地獄の幕開けを告げる宣言
ジュリアスの後押しを得たスカーレットは、己の拳を以て悪徳貴族を打ち倒すことを決意した。すでに覚悟は固まり、会場全体を地獄に変える準備は整っていた。こうして、狂犬姫による一世一代の殲滅劇が、いよいよ始まろうとしていた。
兵士の突破と催眠魔法の使用
スカーレットとジュリアスは、地下での兵士による通行止めに直面した。騒ぎを避けるため、ジュリアスが催眠魔法で兵士たちを眠らせ、二人は内部へ進入した。この魔法は以前にも使われた方法であり、スカーレットは嫌悪感を覚えながらも、効率を重視して受け入れた。
黒服の敵との戦闘とゴドウィンの登場
廊下の先で黒服の男に遭遇したスカーレットは、一撃で相手を蹴り飛ばし、ボックス席付近の観客を巻き添えにした。その場にいた悪徳貴族風の男がゴドウィンであり、スカーレットはついに仇敵と対面した。
王子ジュリアスの正体の暴露と混乱
ジュリアスが仮面を外し、第一王子であることを宣言すると、宰相ゴドウィンとその息子ハイネは狼狽した。だが、居合わせた貴族達は半信半疑で、ジュリアスの持つ「王帝印の指輪」によって初めてその真実を認識した。
ハイネとゴドウィンの往生際の悪さ
ハイネはなおもジュリアスを偽物と断じて魔法を放つが、王帝印によって無効化された。スカーレットとジュリアスは、賄賂による保釈やカイルの廃嫡といった腐敗の事実を暴露し、貴族たちの動揺を誘った。なおも現実を受け入れられないゴドウィンとハイネは、騒ぎのなか逃亡を図る。
改造されたドノヴァンの登場とシグルドの参戦
ゴドウィンが放った改造済みのライカンスロープ、ドノヴァンが暴れ始めるが、騎士団のシグルドが介入し一撃で撃退した。シグルドはジュリアスの護衛であり、王宮秘密調査室の一員であった。スカーレットはシグルドの介入に不満を示し、自らの「お肉」として彼の戦闘を止めさせた。
決闘騒ぎとスカーレットの反撃
スカーレットは囲んできた貴族たちに対し、「決闘」を申し込んだ。彼女は倒れていた貴族・バルバロッサの足を武器にして次々と敵を叩き潰し、魔法に頼らぬ強さを見せつけた。魔法使用を再開しようとした敵の呪文も、ジュリアスの指輪により再び無効化された。
兄レオの登場とスカーレットの誓いの発覚
スカーレットの兄レオが遅れて到着し、その惨状に驚愕したが、スカーレットがジュリアスと誓いを交わしていたことを知ると一転して感涙に咽んだ。カイルとの婚約解消後も将来を悲観していた妹の幸福を、兄として心から祝福した。
逃亡するゴドウィンと飛竜の接近
千里眼を持つレオの能力により、ゴドウィンとハイネが三階から四階へ向かっていることが判明した。その目的は、屋上に接近している飛竜への合流であった。ジュリアスは、ゴドウィンが隣国ヴァンキッシュと繋がり、亡命しようとしていると推察した。
突入の合図と追撃の開始
ジュリアスが魔道具による光の信号で警備隊に突入の合図を送り、レオに追撃を命じた。スカーレットもその後に続き、逃げるゴドウィンを逃さぬ決意を固めた。ついに主催者であるゴドウィンとの本格的な対決が近づいていた。
第七章 ごちそうさまでした。
ゴドウィンの逃走と飛竜への接近
ゴドウィンとハイネは屋上を目指して逃走を続けていた。途中で兵士に足止めされたが、裏切りを危惧したハイネが兵士を射殺し、スカーレットたちの追撃を許す結果となった。スカーレットはジュリアスとレオに追従し、屋上の飛竜に辿り着いたゴドウィンに迫った。
スカーレットの飛行魔法とジュリアスの突撃
ゴドウィンが飛竜に跨り逃げようとする中、スカーレットは飛行魔法で直接飛竜の上に飛び乗り、ジュリアスも援護のため屋上から飛び移った。だが飛竜の急旋回によりジュリアスが振り落とされそうになり、スカーレットは彼を必死に支えた。
カイルの登場と危機の回避
落下寸前のジュリアスを救ったのは、覚醒したカイルであった。彼は剣で飛竜の脚を突き刺し、無理やり飛行を阻止した。落下中の三人を、カイルは自身の魔法によって安全に着地させた。スカーレットとジュリアスは感謝の意を伝えたが、カイルはかつての傲慢な態度を悔い、スカーレットへの謝罪を述べた。
飛竜の墜落とゴドウィンの捕縛
飛竜は屋上に墜落し、ゴドウィンとハイネは脱出できず取り押さえられた。飛竜が連れていた子竜も警備隊により保護された。ハイネはなおも父の潔白を主張したが、スカーレットは冷静に非を指摘し、民の痛みを理解しようとしない姿勢を厳しく批判した。
スカーレットの義憤とジュリアスの賛同
ハイネの言動に怒りを覚えたスカーレットは、階級や血統に甘えるだけの者たちに毅然とした態度で臨んだ。ジュリアスは彼女の言葉に賛同し、現体制の腐敗に強く反省の念を抱いた。そして、正統な改革と王国の再建に向けて、貴族たちの自浄作用を求めた。
ヴァンキッシュとの関係と責任の追及
宰相ゴドウィンと飛竜がヴァンキッシュとの繋がりを持っていた可能性が浮上し、国家的な問題に発展する恐れが示された。ジュリアスはこの件を王国の最優先課題として、真相究明と処罰を徹底する意志を表明した。
スカーレットとジュリアスの連携と未来の誓い
事件の収束後、スカーレットはジュリアスの側に立ち、王国再建の支えとなる覚悟を語った。ジュリアスは彼女に深く感謝し、正式にスカーレットを「婚約者」として紹介した。二人は信頼と未来への希望を胸に、困難な道のりを共に歩む決意を新たにした。
第八章 もういいですよね?
秘密調査室と奴隷制度の余波
奴隷オークション事件から一ヶ月が経過し、王宮では裁判により貴族と兵士の多くが財産を没収され、爵位と領地を剥奪された上で投獄された。それに伴い人事が一新され、市井からも有能な人材が登用された。ジュリアスと国王による改革は成功を収めたといえる。一方、違法に所有されていた奴隷は約千人に上り、帰郷可能な者は故郷に戻されたが、帰る家を持たない者は保護され職を得ていた。事件の背後には他国の関与も疑われたが、取引組織や関係国は依然不明のままであった。
ゴドウィンの死と残された謎
主犯格のゴドウィンは投獄後に毒で自殺し、ヴァンキッシュとの密約や奴隷売買の詳細は不明のまま葬られた。彼の所持していた未知の魔道具や言動から、事件には国教であるパルミア教の関与が疑われるに至った。パルミア教は財力・権力・武力を兼ね備え、王国にとって手強い相手であるとされた。
スカーレットの容態と新たな日常
スカーレットは事件後長らく寝たきりであったが、自力で歩けるまでに回復した。彼女の手掛けたストレス解消用サンドバッグは商品化され、ジュリアスも興味を示した。療養中の彼女は黒狼ナナカやセルバンテスらと日常を取り戻し、明るく過ごしていた。ジュリアスは彼女を見舞いに訪れ、柔らかな一面を見せたが、彼の言動には相変わらずの皮肉と本音が混在していた。
飛竜レックスによる空の訪問
スカーレットは自ら設計した飛竜レックスに乗って空を翔け、友人のローザリアとエンヴィのもとへ赴いた。着地直後、誤って敵と認識されたため魔法で攻撃を受けたが、誤解はすぐに解け、三人は再会を喜び合った。彼女たちは王立学院での友人であり、互いに信頼を築いていた。
女子会の団欒と友情の深まり
久々の集まりでは互いの近況を語り合い、エンヴィはスカーレットの不在中、寮生活が快適だったと語る一方で、本当は寂しさを感じていた様子であった。ローザリアはそんなエンヴィをからかいながらも、彼女の本心を的確に突いていた。三人の関係は打ち解けたもので、スカーレットにとっても心休まる時間となっていた。
ジュリアスの登場と女子の反応
そこに突然ジュリアスが現れ、女子会の空気は一変した。普段から王子として完璧な態度を貫く彼に、ローザリアとエンヴィはすっかり魅了されてしまい、スカーレット一人が冷静さを保っていた。ジュリアスはスカーレットに二人きりの会話を求め、彼女もそれに応じた。
中庭での対話と髪の変化の理由
中庭での会話では、スカーレットの髪が事件によって変色したままであることが話題となり、彼女は湯治による回復を計画していると説明した。ジュリアスは彼女の健康を案じ、その存在を国にとってかけがえのないものだと語った。スカーレットもまた、ジュリアスの無茶な行動を諫め、自身の命を顧みるよう訴えた。
花冠の記憶と告白
ジュリアスは王妃と国王の出会いの逸話を語り、花冠をスカーレットに贈った。そして、彼女の存在が自身の人生を鮮やかに彩るものであったと明かし、深い愛情を込めて告白を行った。彼の真摯な言葉に、スカーレットは頬を赤らめ動揺するも、感情の高まりを抑えようとしていた。
玩具発言と怒りの爆発
だが、直後にジュリアスは「玩具」と称して彼女の感情を逆撫でし、恋愛感情を否定するような発言を続けたことで、スカーレットの怒りが爆発した。皮肉混じりに語る彼の態度に堪忍袋の緒が切れた彼女は、冷静に怒りを抑えながらも拳を握り、最後に「クソ王子をブッ飛ばしてもよろしいですか」と宣言した。
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