物語の概要
本作は、読心能力を持つ女子高生・大葉香夏子が主人公の新感覚ミステリーコメディである。彼女は人の心を読む能力を活かして探偵業を始めるが、致命的な欠点として「頭がわるい」ため、犯人の特定はできても証拠を見つけ出すことができず、事件解決に苦戦する。密室殺人や遺言書紛失事件など、さまざまな難事件に挑むも、証明方法がわからず苦悩する姿が描かれる。
主要キャラクター
- 大葉香夏子:主人公。人の心を読む能力を持つ女子高生探偵。犯人の特定は得意だが、証拠を見つけるのが苦手
物語の特徴
本作は、従来のミステリー作品とは一線を画す「謎解きコメディ」である。犯人の心を直接読むという掟破りの設定により、トリックや犯人はすぐに判明するが、証拠が見つからないというジレンマが物語の中心となる。主人公の香夏子は、読心能力という強力な武器を持ちながらも、その能力を活かしきれない「宝の持ち腐れ」状態であり、そのギャップが笑いを誘う。また、彼女を支える暦ちゃんとのやり取りも魅力の一つである。
書籍情報
読心探偵・大葉香夏子は頭がわるい ~心が読めるから真犯人特定までは余裕ですけど証明方法が全然わかりません~
著者:サトウとシオ 氏
イラスト:日下氏 氏
出版社:SBクリエイティブ(GA文庫)
発売日:2025年5月15日
ISBN:978-4-8156-2814-7
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あらすじ・内容
これをミステリーと呼んだら怒られますか!? 新・謎解きコメディ開幕!
『ラスダン』サトウとシオ最新作は、心が読める女子高生名探偵!?
「真犯人の心が読める! 私、探偵としてサイキョーなのでは!」
「でも所長、残念ながらバカなんですよね……」
人の心が読める不思議な力をもった女子高生、大葉香夏子。この能力があれば一攫千金! 探偵としてビシバシ犯人を特定しまくってやる! と意気込んだものの残念無念、なんと夏菜子は大のつくバカなのだった!
容疑者がそろえばたちどころに真犯人をしぼりこめる――なのに、肝心の証明方法が全然わからないんですけど!
嗚呼っ、宝の持ち腐れ! 読心能力者なのにバカJK!
クールな助手の暦ちゃんに頼りまくって迷宮入り一歩手前でギリ解決にすべりこめ!
「トリックも犯人も分かる。だけど証拠がどこにもないのよ!」
これをミステリと呼んだら怒られますか?
新・謎解きコメディ、ここに開幕!
感想
本作は、読心という強力な能力を持ちながらも、致命的な“頭の悪さ”によって事件解決に四苦八苦する女子高生・大葉香夏子の活躍を描いた、痛快コメディの探偵物であった。
まず、登場人物の名前からして笑いを誘う。
「大葉香夏子」は略せば“おおばかなつこ”、黒幕の“阿田岡博士”は“あたおか”にしか見えず、名前だけで世界観が出来上がっている。
だが、そうしたネーミングの軽妙さと裏腹に、物語は意外と構造が緻密であり、事件の仕組みや読心による情報の切り出し方には、しっかりとしたロジックが通っている点が印象深い。
物語の根幹を成すのは「答えだけ分かる」というアンバランスな能力設定である。
犯人の心を読めることで、真犯人やトリックは即座に判明する。
しかし、香夏子は証拠の見つけ方や動機の読み解きがまったくできず、推理を成立させるために周囲を“誘導”するかたちで、ようやく解決に漕ぎつけていく。
このギャップが非常にユニークであり、笑いと同時に一種の知的快感をもたらす仕組みとなっている。
特に印象深いのは、ロジクコンサルの遺書紛失事件における“秋田弁”の伏線である。
犯人である有馬弁護士の思考が外国語のように理解できなかった理由が、まさかの“方言”だったという展開には脱帽である。
読心能力というファンタジー設定を、方言というリアルな言語感覚に落とし込む構成には、作者の技量と遊び心が強く感じられた。
秋田弁の習得過程も含め、香夏子の成長と努力が、単なるギャグ要員ではない探偵としての魅力を裏打ちしていた。
また、香夏子と暦(こよみん)との関係性も魅力的である。
一見すると探偵と助手の関係に見えるが、実際にはこよみんの方が明らかに有能で、冷静沈着に香夏子を支えている。
だがその構図もまた“異能のすり替え”によって覆される仕掛けが用意されており、単なるギャグでは終わらない人間関係の深さが感じられる。
姉妹のような絆の描写も物語後半で強く意識され、感動的な余韻を残した。
事件そのものは、密室トリックやアリバイトリック、そしてダイイングメッセージの解釈対決など、古典的なミステリ要素をふんだんに取り入れながらも、読心というチート能力と“おバカ”という致命的欠点で絶妙に中和されていた。
まさに“答えがわかるのに、なぜか解けない”という新感覚の謎解きコメディであった。
最後には因縁の阿田岡博士との決着が描かれ、すべての事件と過去が一本の線でつながる感触があった。
阿田岡博士の誤認を利用した逆転劇や、塩コーヒーでの反撃、くすぐりとジャンプによる決着など、バカバカしさ全開ながらも物語の収束として爽快感があった。
バカであるがゆえに真っ直ぐで、失敗してもめげず、勢いとハッタリで突き進む香夏子の姿には、とても元気づけられるものがある。
能力や知識よりも、度胸と人との絆が道を切り開く――そんなメッセージが、笑いの中に確かに込められていた。
この先、彼女がどのような事件に挑み、どんなバカっぷりを見せてくれるのか。
次巻も楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
大葉探偵事務所
大葉香夏子
心を読む特殊能力「読心術」を持つ改造人間。事件の証拠が乏しい状況でも、心の声を手がかりに真相へ迫る姿勢を持ち、本人の理解力は乏しいが思考誘導には長けている。人との距離感には不器用だが、相手の心を読むことで少しずつ関係を築いていく。
・所属:大葉探偵事務所、名義上は所長
・壱和田家での密室事件を読心術により解決した
・ロジクコンサルの遺書事件で犯人特定と遺書奪還に成功した
・終盤では阿田岡博士に対抗し、薬剤で思念体を排除した
安藤暦
香夏子の助手であり、同じく阿田岡博士に改造された異能者。筋力強化の身体改造を受けており、サイボーグ的な身体能力を有する。感情の起伏が乏しく、心を読まれない特性を持つ。香夏子にとって唯一安心できる存在であり、姉妹のような関係を築いている。
・所属:大葉探偵事務所、助手兼実務担当
・事件解決において推理面・実務面で香夏子を支えた
・阿田岡博士に憑依されたが、最終的に意識を取り戻した
・香夏子との身体入れ替わりが事件解決の鍵となった
警視庁関係者
寺林直美
警視庁の警視正であり、香夏子の命の恩人。豪快かつ率直な性格であり、香夏子の能力を信頼し、重要事件にたびたび協力を依頼する。警察内部の不正や黒幕の存在を追い続けた。
・所属:警視庁、警視正
・ロジクコンサルの不正調査を主導し、香夏子を支援した
・謹慎処分を受けたが、博士の憑依により一時的に乗っ取られた
・終盤で覚醒し、事件の幕引きに関わった
郷田(ゴリ警部)
警視庁の中堅刑事であり、競馬好きの陽気な人物。香夏子や直美からは「ゴリ警部」と呼ばれている。阿田岡博士に一時的に憑依された経験を持つが、最終的には記憶の飛びに気づき協力者に回った。
・所属:警視庁、刑事課警部
・壱和田家事件やロジク関連の調査に参加した
・記憶喪失の兆候から博士の存在に気づいた
・警備員からの聞き取りに貢献し、有馬の背景調査を支援した
羽後本荘由利
警視庁第三課の刑事で、秋田出身。有馬の逃走を手引きしたとされたが、実際には阿田岡博士に憑依されていた。記憶喪失状態にあり、香夏子に秋田弁の指導を行った。
・所属:警視庁第三課、刑事
・香夏子に秋田弁を教え、有馬の読心解読に貢献した
・黒幕の手引きで逃走補助を強制されていた
・真相判明後は釈放され、精神的ケアが施された
壱和田家
壱和田良介
壱和田家の家長であり、事件現場となった豪邸の主人。妻の仏子が重体となった密室事件に動揺しながらも、家族の証言と状況整理に努めた。
・所属:壱和田家、企業経営者
・事件の発端となる現場の主として警察に協力した
・執事・半沢の過去と動機を明かす証言を行った
壱和田仏子
事件の被害者であり、密室で頭部を殴打されて重体となった。元々は会社の経営者であり、加害者である半沢を解雇した過去を持つ。
・所属:壱和田家、良介の妻
・半沢の動機の中心人物となった
・命に別状なく回復し、事件後は家族と再会した
壱和田瞳
壱和田家の長女であり、美容整形業を営む観察眼の鋭い女性。犯人の変装を見破るなど、事件解決に間接的に貢献した。
・所属:壱和田家、良介の娘
・半沢の白髪染めと変装を暴いた
・香夏子との関係を通じて人間関係に変化があった
壱和田綾志
壱和田家の長男であり、事件当時は包帯を巻いた状態で登場した。最後に犯人の襲撃を止める役割を果たした。
・所属:壱和田家、良介の息子
・事件の終盤で半沢を取り押さえた
・猫を内緒で飼っていたことが香夏子に読心で知られた
半沢
壱和田家の執事であり、かつて仏子の会社で不正を働いた元取締役。変装と密室トリックを用いて犯行を遂行したが、読心術により動機と手口が暴かれた。
・所属:壱和田家、執事(元取締役)
・凶器や密室トリックに氷と釣り糸を使用した
・逆恨みから仏子を襲撃し、事件の犯人となった
ロジクコンサル関係者
赤路英二郎
ロジクコンサルの現社長であり、故・景太郎の息子。表向きは温和だが、内心では父の遺書に記された内容に苦悩していた。最終的には記者会見で粉飾決算の全容を公表し、責任を取る道を選んだ。
・所属:ロジクコンサル、代表取締役社長
・父の遺書紛失事件を香夏子に依頼した
・社長室の金庫に保管していた遺書の所在不明に焦りを見せた
・記者会見で粉飾の全容と自らの関与を認め、社長を辞任した
赤路景太郎
英二郎の父であり、故人。生前に会社の不正を遺書に記し、息子に真実を託した。英二郎の公表行動に大きな影響を与えた人物。
・所属:ロジクコンサル、元社長
・粉飾決算の経緯と社内外の関係者を遺書に記録していた
・遺書を通じて会社の再生と息子の決断を促した
艶野不二子
ロジクコンサルの秘書であり、美貌と冷静な判断力を備えた女性。自身の年齢や経歴を隠していたが、香夏子の読心によってその秘密が明らかになった。
・所属:ロジクコンサル、社長秘書
・容疑者の一人として事情聴取を受けた
・有馬の人柄や社内の状況について証言を行った
・美容整形に莫大な投資をしていたことを心で語っていた
六樫野友樹
ロジクコンサルの広報担当であり、軽妙な口調と観察力を持つ人物。事件後、赤路英二郎の後任として社長に就任した。
・所属:ロジクコンサル、広報部 → 代表取締役社長
・事件当初は香夏子らに協力的な立場をとった
・景太郎に次期社長補佐として信任されていた
・英二郎の辞任後、正式に社長に指名された
有馬駆
ロジクコンサルの顧問弁護士であり、秋田弁による思考を持つ人物。遺書を奪って隠匿し、密室トリックを構築した主犯であった。逃亡後、黒幕の指示により事故死として処理された。
・所属:ロジクコンサル、顧問弁護士
・遺書の内容を見て金に変えるために隠匿した
・秋田弁による読心混乱を狙ったが、香夏子に解読された
・逃走中に黒幕の命令で処分された
警備員
ロジクコンサルの中年男性職員であり、競馬好きな人物。有馬との交流があり、防犯カメラの死角に関する情報を与えるきっかけを作った。
・所属:ロジクコンサル、施設警備員
・有馬と詰所で競馬談義を交わしていた
・監視カメラに布をかけてしまい、録画が中断された
・事件解明の端緒となる重要な証言を残した
医療機関(病院関係者)
志茂田平助
総合病院の院長であり、紅茶に混入された異物により倒れた人物。事件の被害者であったが、後に睡眠薬を悪用しようとしていた事実が判明した。
・所属:病院、院長
・次期院長候補らとの関係悪化がみられた
・雑巾に含まれた劇薬により意図せず中毒を起こした
・婦女暴行未遂に使う薬を所持していたことが発覚した
桂龍馬
次期院長候補の一人であり、院長に反発していた人物。恋愛と出世を巡って甲斐と対立していたが、犯行には関与していなかった。
・所属:病院、医師
・甲斐とともに遺書に関する言い争いを繰り返した
・推理合戦において誤ったダイイングメッセージ解釈を披露した
甲斐五郎丸
もう一人の次期院長候補であり、桂のライバル。事件を解決のチャンスとして利用しようとしたが、犯人ではなかった。
・所属:病院、医師
・ダイイングメッセージの解釈で桂と対立した
・犯行の疑惑をかけられるが、真相からは外れていた
優乃風子
事務員として院長に仕えていたが、過去にセクハラ被害を受けていた。意趣返しとして紅茶に雑巾の絞り汁を入れたが、それが事件の引き金となった。
・所属:病院、事務員
・殺意はなく、無自覚な事故で中毒を引き起こした
・犯行を黙認され、精神的負担を抱えたまま真実が隠された
壁村三実
病院の看護師長であり、院内のゴシップに詳しい人物。腐女子的傾向を持ち、妄想を膨らませがちであるが、事件解明には貢献しなかった。
・所属:病院、看護師長
・事件においては証言役として登場した
・香夏子の行動を「推し」として熱心に追っていた
黒幕・敵対者
土方
警察内部の幹部であり、阿田岡博士に取り憑かれていた人物。腐敗警官として香夏子たちの捜査の妨害に関与していたが、博士の危機により毒殺された。
・所属:警視庁(元幹部)
・阿田岡博士に憑依され、警察上層部の腐敗に加担した
・羽後本荘を通じて有馬への情報流出を支援した
・直美の捜査が進展した直後、自宅で服毒死した
阿田岡博士
物語における黒幕であり、香夏子と暦を改造した張本人である。現在は実体を持たない思念体であり、人の身体に憑依して活動していた。研究資料と暦の身体を狙って暗躍した。
・所属:元・研究機関の科学者(現・思念体)
・直美や羽後本荘、ゴリ警部の身体を一時的に支配した
・有馬を事故死に見せかけて処分した
・暦の身体に憑依したが、香夏子の策により撃退された
展開まとめ
第一話 心が読めるので豪邸密室事件の犯人もトリックも分かってるのにバカだから証明方法が分かりません!
豪邸での事件現場と登場人物の紹介
事件の発端は、豪奢な屋敷で起きた傷害事件であった。被害者は家主・壱和田良介の妻・仏子であり、密室状態の部屋で頭部を殴打され重体に陥っていた。女子高生探偵・大葉香夏子は、警察関係者の依頼でこの現場に招かれ、現場には良介、長女の瞳、老執事・半沢、そして血塗れ包帯姿の長男・綾志が揃っていた。
密室とアリバイの説明
事件現場は密室状態であり、出入口のドアは破壊され、窓も内側から施錠されていた。花瓶の転倒とドア破損が確認されており、容疑者全員が「音がした時は居間にいた」と証言していた。警部・郷田(通称ゴリ警部)による状況整理により、外部犯の可能性は排除され、容疑者は家族および執事の四人に絞られた。
読心による犯人特定
香夏子は特異な能力「読心術」を用い、容疑者たちの心の声を読むことで真犯人を即座に特定した。執事の半沢は心中で犯行への自負やトリックの成功を誇っており、彼の内面から密室トリックやアリバイ偽装、凶器に関する情報を次々に把握することができた。
密室トリックと証拠探し
半沢が使用した密室トリックは、窓の外からテグス(釣り糸)で施錠を行い、花瓶の転倒音で犯行時刻を偽装するという古典的なものであった。凶器は塩水で作った氷で、解けて跡形もなくなる仕組みであった。香夏子は犯人の脳内から「塩の痕跡」を見抜き、それを現場で探させることで物証を得ることに成功した。
推理の演出と誘導
推理力に乏しい香夏子は、自らの推理を装いながらも、読心によって得た情報を少しずつ現場に投げかけ、周囲の人々や犯人自身の思考を誘導することで自白や証拠発見を促していった。その結果、犯人自身が密室トリックに使用した「テグス」という単語を不用意に口にし、決定的な失言をしたことで追い詰められる。(警察、香夏子は太い糸など「テグス」という名称は言ってない)
動機の発覚と犯人の正体
美容整形業を営む瞳による観察で、半沢の変装(アイプチや白髪染め)が暴かれた。さらに、良介の証言により、かつて仏子の会社で不正を働いて解雇された元取締役であることが判明し、犯人の正体と動機が明らかになった。半沢は仏子への逆恨みから家族を破滅させようと犯行に及んでいた。
犯人の逮捕と事件の終結
追い詰められた半沢は香夏子に襲いかかろうとするも、長男の綾志に取り押さえられ、無事確保された。被害者の仏子は命に別状がなく回復し、壱和田家は安堵に包まれた。香夏子は「読心術」というチートスキルを持ちながらも、証拠がなければ事件を解決できない現実に直面しつつ、名探偵としての役割を果たした。
エピローグと人間関係の和解
事件後、香夏子は人見知りの瞳や、猫を内緒で飼っていた綾志との間に信頼関係を築くきっかけを提供した。人の心を読むことに長けていても、証拠を得ることに苦労する香夏子の姿が、コミカルながらもリアルに描かれており、彼女の苦悩と成長が余韻として残った。
第二話 心が読めるので窃盗犯は分かりましたが脳内で知らない言語を使っているので捜し物が見つかりません!
読心能力の発端と探偵への道
大葉香夏子は、かつて生キャラメルに釣られて悪の科学者・阿田岡博士に誘拐され、改造人間にされてしまった。改造の最中に警察が突入し、半日で保護されたが、その際に「読心能力」が備わった。この能力は常時発動ではなく、集中して心を読める仕組みであり、日常生活にはさほど支障をきたさなかった。香夏子はその能力を活かし一儲けを狙い、探偵業を始めるに至った。
探偵事務所での日常と助手・こよみんの紹介
香夏子の事務所はレトロな喫茶店の上にあり、元はベンチャー企業のオフィスであった。掃除を担当する母の影響で室内はミスマッチな装飾となっていた。助手の安藤暦(こよみん)は、香夏子と同じく改造人間で、ナノマシンを注入された結果、筋力が強化されている。感情の起伏が乏しいため心が読めず、香夏子にとって自然体で接することのできる数少ない存在であった。
探偵業の現実と自虐的な回想
探偵としての活動は理想とは異なり、地味で苦労が多く、証拠集めや聞き込みの難しさに頭を悩ませていた。心が読めても、それを証拠として提示することはできず、毎回「脳内操作」に近い策を講じて事件を解決していた。また、浮気調査や猫探しなどの地味な案件が多く、こよみんの方が実質的に探偵として機能している場面も多かった。
寺林直美警視正の登場と新たな依頼
ある日、香夏子とこよみんの前に、警視庁の警視正・寺林直美が登場した。直美は、心を読まれたことすら気にしないほど本音で生きる豪快な人物で、香夏子の命の恩人でもあった。彼女は香夏子に新たな依頼を持ち込み、「事件の詳細は現場で伝える」とだけ告げて連れ出した。
ロジクコンサル社での依頼開始
一行が向かったのは、オフィス街にある大手コンサル会社「ロジクコンサル」の本社ビルであった。直美はその場で香夏子とこよみに依頼内容の調査を任せ、自身は現場から離れることを告げた。依頼人は警察の介入を避けたがっており、依頼内容も曖昧にされたままだった。香夏子たちは高性能集音機を仕込み、慎重に社長室へと向かった。
社長・赤路英二郎との対面
香夏子とこよみんは、ロジクコンサルの社長・赤路英二郎と対面した。英二郎は穏やかで礼儀正しい中年男性であり、二人を丁寧に迎え入れた。紅茶と共に出された菓子を前に緊張しながらも、香夏子は本題に備えて身構えた。ここから、依頼の核心に迫る話が始まろうとしていた。
遺書紛失の依頼と依頼人の焦り
ロジクコンサル社長・赤路英二郎は、大葉香夏子と助手・こよみんに対し、父・景太郎の遺書紛失の調査を依頼した。社長室の金庫に保管していたはずの遺書が見つからず、警察に届ければ会社の信用に関わるとの理由で、香夏子を通じて秘密裏に調査を依頼した。英二郎は遺産相続や経営引継ぎに問題はないと述べたが、内心では遺書に会社の粉飾決算に関する記述があることを懸念していた。
現場確認と防犯設備の状況
香夏子とこよみんは社長室に設置された金庫を調査した。金庫はこじ開けられた形跡もなく、遺書以外の貴重品はそのまま残されていた。金庫を開けられるのは社長を含む4名に限られ、外部犯の可能性は低いと見られたが、英二郎は気づかぬうちに遺書が消えていたことを恥じていた。防犯カメラの映像には異常がなく、不審な出入りも確認できなかったが、調査を進めるうちに、カメラがフリーズしていた一時間の空白期間が存在することが判明した。
警察との連携と粉飾疑惑の浮上
香夏子たちが調査報告のため事務所へ戻ると、警視正・寺林直美が登場した。彼女は警察がロジクコンサルの粉飾決算疑惑を追っていた事実を明かした。ロジクはコンサルタントの立場を利用し、顧客企業に粉飾手法を指南していた可能性があり、同社および警察幹部の一部も不正に関与していた。直美はその遺書が粉飾の証拠となると睨み、香夏子に入手を依頼した。
社内関係者の集結とアリバイの提示
後日、金庫を開けられる4名──英二郎、弁護士の有馬駆、秘書の艶野不二子、広報担当の六樫野友樹──が社長室に集められた。有馬は冷静沈着で寡黙、不二子は魅力的で冷静な判断力を持つ秘書、六樫野は軽妙な口調の広報担当であった。彼らは全員、問題の時間帯にレストランで打ち合わせをしていたと証言し、アリバイが成立していた。
防犯カメラの盲点と外部犯の可能性
防犯カメラは遺書紛失の2日前、約1時間の間にフリーズしており、その間の映像は残されていなかった。この事実により、内部犯ではなく外部犯の可能性も浮上したが、金庫の開錠権限者が限定されているため、こよみんはアリバイトリックの存在を疑った。香夏子は心を読むことで犯人と遺書の在処を突き止める覚悟を固めた。
心理戦の始動と香夏子の策略
香夏子は一見すると探偵らしい振る舞いで、関係者たちに動揺を与えることを狙った。まずは六樫野の心を読んだが、彼の思考は冷静で、むしろ早期解決を望んでいる様子であった。以降、他の関係者の心を読みながら、犯人と遺書の所在を暴くための心理戦に踏み出していくこととなった。
容疑者の心を読む推理ショー
香夏子は読心能力を用いて、容疑者三人の心の声を確認した。六樫野は軽薄な性格に反して用心深く、内心では香夏子を高く評価していた。艶野秘書は外見年齢を大きく偽っており、美魔女であることが判明したものの、事件とは無関係であった。最後に心を読んだ有馬弁護士は、犯人であることを心中で明かしていた。だが、彼の思考は異常に早口で外国語であり、香夏子には内容が全く理解できなかった。
推理失敗と仮解散
有馬の心の中で遺書の隠し場所についての思考が活発に行われていたが、すべて外国語であったため、香夏子は要点を聞き取れなかった。焦った彼女は探偵としての威厳を保つために“トランス状態”と偽って場をしのぎ、一時的な解散を提案して社長室を後にした。
喫茶店での情報整理と作戦会議
香夏子とこよみんは事務所下の純喫茶「マリポーサ」で寺林直美と合流し、今回の経緯を報告した。犯人が有馬であると突き止めたものの、外国語思考のために遺書の在処がわからない現状に、直美も危機感を募らせた。香夏子の外国語アレルギーが問題であることを再認識しつつも、こよみんの提案で“トリック解明”と“脳内言語の正体解明”の二方面作戦に方針を定めた。
再調査の開始と美魔女との接触
週末、香夏子とこよみんはロジクコンサル社を再訪し、関係者への聞き込みを開始した。再会した艶野不二子は、香夏子たちの年齢に動揺しながらも、こよみんの巧みな話術により心を開いた。彼女は有馬が十年来の真面目な人物であり、プライベートを語らない性格であったと述べた。
謎の接点と警備員の存在
艶野は、過去に有馬が社内の無口なベテラン警備員と笑顔で言葉を交わしていたのを目撃したことを語った。その際、有馬は迷惑そうな反応を示していたが、警備員は満面の笑みを浮かべていたという。普段は競馬のことで頭がいっぱいのこの警備員との異常な接点は、有馬の背景を探る新たな手がかりとなった。
今後の展開と決意
艶野との会話の終盤、香夏子は彼女の心の声から、莫大な金額を美容に投じている現実を知った。読心によって得られる断片的な情報が、事件の真相に近づく足がかりになることを改めて認識した香夏子は、トラウマを乗り越え、有馬の脳内外国語を理解すべく決意を新たにした。今後の鍵は、警備員との関係、犯行の動機、そして有馬の隠された過去にあると推察された。
警備員の正体と新たな接点
香夏子と暦は、美魔女・艶野の証言をもとに、警備員が有馬弁護士と親密である可能性を探るべく接触を試みた。しかし、香夏子の「女子高生としての魅力」作戦は通用せず、警備員はまったく相手にしなかった。これに対抗意識を燃やした香夏子は、直美警視正の部下であるゴリ警部に協力を要請し、競馬好きという共通点を利用して警備員との会話に成功させた。
警備員との会話と得られた情報
ゴリ警部の競馬談義により警備員は心を開き、香夏子たちの質問に応じた。有馬とは競馬場で意気投合した仲であり、社内でも詰め所でよく競馬の話をしていたと明かされた。また、監視カメラが故障していた理由として、警備員が誤って布をかぶせてしまったことが判明した。さらに、警備員は有馬が東北出身で、外国人でも帰国子女でもないと証言した。
言語の謎と暦の閃き
帰り道、香夏子と暦は有馬の思考が「外国語にしか聞こえないが日本語でもない」という特徴的なものであったことを再確認した。暦はその曖昧な言語の印象に着目し、香夏子の証言からヒントを得て、一つの仮説に辿り着いた。そして、行きつけの喫茶店で店内に流れる音楽に似た響きがあると気づいた香夏子の情報を基に、検証を試みることとなった。
店内での検証と直美の召喚
直美を呼び出し、店内の音楽を使って検証を開始した。まず流したのは「大きなのっぽの古時計」の日本語版。次に流したのは、同曲の「秋田弁」バージョンであった。その歌詞が、香夏子の記憶する有馬弁護士の思考と極めて類似しており、直美も驚愕した。
謎の言語の正体と真相の核心
暦はその正体を「秋田弁」であると断言した。有馬弁護士の思考は標準語ではなく、秋田弁で表現されていたことが、香夏子の読心において“外国語”のように感じられた原因であった。この種明かしにより、有馬が外国語を使っていたという仮説は完全に否定され、言語の違和感は方言に由来するものであると証明された。香夏子はこの事実に驚きつつも、長く続いた違和感の正体にようやく辿り着いた。
脳内言語の正体と秋田弁レッスン
有馬弁護士の読心結果に含まれていた「外国語のような言語」は、暦の指摘により秋田弁であることが判明した。警視庁の直美は、部下で秋田出身の羽後本荘由利刑事を呼び出し、香夏子に秋田弁を習得させるよう依頼した。十五連勤で疲労困憊の羽後本荘は、それでも香夏子の訓練に応じ、深夜までレッスンを行った。その結果、香夏子は秋田弁の聞き取り能力を得た。
再びロジク本社へ
翌日、香夏子と暦はロジクコンサル本社に赴き、社長室で英二郎、艶野、六樫野、有馬を前に「名探偵推理ショー」を開始した。防犯カメラには金庫に遺書を入れる有馬の姿が記録されていたが、香夏子は遺書が最初から金庫に入っていなかったと断定した。読心により、有馬は封筒をジャケットの袖に隠し、眼鏡を押さえる動作で袖を上に向けたまま持ち帰ったことを突き止めた。
犯行トリックの暴露と証拠の提示
香夏子は有馬が警備員と談笑する中で監視カメラの死角を確認し、カメラがフリーズする時間帯を狙っていたと指摘した。また、金庫に遺書を入れた後は社長室に近づかず、疑いを避けていた。有馬は犯行を否定しつつも動揺し、やがて香夏子は彼の心から借金と競馬・闇カジノへの関与を読み取った。彼は遺書の内容を見てしまい、それを金銭に変えようと考えていた。
遺書の発見とカツラのトリック
証拠の提示を求められた香夏子は、証拠はないが読心で遺書の場所を突き止めると宣言した。読み取った結果、有馬の心にあった「頭の中」という表現を受けて、暦が有馬の頭に直接アプローチ。驚異的な跳躍力で彼の背後に回り、カツラを剥ぎ取った。その裏には封筒が隠されており、そこに遺書が貼り付けられていた。
直美たちの突入と新たな局面へ
遺書を確保した直後、直美と警視庁の面々が現場に突入し、有馬を確保した。香夏子が関わる一連の騒動の裏で、直美たちはロジクの不正全体を追っていたことが明らかになった。これにより、遺書事件は単なる一件の窃盗ではなく、企業ぐるみの粉飾や情報隠蔽といった大規模な事件の一端を成すことが判明し、物語は新たな段階へと進んだ。
英二郎の決断と遺書の返却
香夏子は読心により英二郎の誠実な覚悟を確認し、遺書を彼に手渡した。直美は強く反発したが、香夏子は英二郎の決意を信じ、行動を見守ると語った。英二郎はその場で遺書を確認し、父・景太郎の優しさと罪を受け止める覚悟を胸に記者会見の場へと臨むこととなった。
記者会見での全告白
ロジクコンサルの新体制発表記者会見の場において、英二郎は記者たちを前に遺書の内容を公表した。遺書には粉飾決算の手口、取引先、関与した政治家や警察関係者の実名が記されており、英二郎はそれを全面的に明かした。記者たちは衝撃を受けるが、彼は父が遺した指示通り、テレビ中継を通して隠蔽の可能性を断ち切る形で公表に踏み切った。
自身の罪と責任の告白
英二郎は自身も粉飾に加担していたと認め、追及を避けられなかったことを「同罪」として謝罪した。そして、自らが罪を被ることで会社と社員を守ろうとする父の遺志に反して、真実を公表する道を選んだことを語った。最後に、自ら社長職を辞任し、六樫野を後任に指名した。
探偵事務所での記者会見視聴
探偵事務所では、香夏子、暦、直美が中継を見守っていた。直美は不満を漏らすが、こよみんは英二郎の正義感と決断を評価した。香夏子も直美に同意し、今回の行動がロジクの未来を守る選択であると語った。
六樫野の就任と新体制
新社長には六樫野が指名され、香夏子たちは彼が景太郎の信頼に応え得る人物であると推察した。六樫野が次期社長補佐であったため金庫の開錠権を持っていたことも、景太郎の計画の一端であったと理解された。
直美の回想と決意
直美は記者会見を通じて英二郎と景太郎の親子が互いを深く理解し合っていたことを実感した。警察官としての手柄は逃したものの、英二郎の協力で悪徳警察幹部を一掃できると意気込んだ。彼女は香夏子に再び協力を求め、難事件への備えを宣言した。
直美視点の異変と不穏な兆候
場面は切り替わり、直美が目覚めると部屋が荒らされていた。異常な状況に困惑しつつも、金目の物が盗まれていないことから陽動の可能性を疑った。机の上には「復讐」と書き殴られたメモがあり、筆跡は自分自身のものであった。夢遊病の疑いが浮かびつつも、警察官としての直感が警鐘を鳴らしていた。
ロジク関係者の急死と資料の保全
直美は部下の羽後本荘から、ロジクの不正に関わっていた警察官僚が服毒自殺したという報告を受けた。不審を覚えた直美は、彼が香夏子と暦の誘拐事件にも関与していた可能性を指摘し、重要証拠である資料を探偵事務所に預ける決断を下した。
新たな脅威への備え
直美は高級ウィスキーの箱に偽装した証拠品を持ち、大葉探偵事務所に急行した。不安を口にしながらも、敵の正体に迫る手がかりを守るために行動する直美の背には、これから始まる新たな陰謀への覚悟がにじんでいた。
第三話 心が読めるのに犯人がミラクルを起こしすぎて真相を話しても誰も信じてくれません!
定期検診の待ち時間と直美の監視活動
香夏子と暦は、改造体の定期検診のため都内の総合病院を訪れていた。待合室では他愛もない会話を交わしていたが、同行していた直美は病院内でノートパソコンを操作し、本庁の内部監視映像を確認していた。ロジク関連の汚職事件に絡む関係者の不審死や証拠隠滅が相次ぐ中、直美は黒幕の存在を疑っていた。
土方警察官僚の自殺と有馬弁護士の関与
直美は、先日服毒自殺したとされる悪徳警察幹部・土方の件に疑念を抱いていた。土方は押収薬物で自殺したとされていたが、遺書が隠され、毒がワイン瓶に入っていたなど不審点が多く、自殺を偽装した他殺の可能性が示唆された。また、有馬弁護士が土方に顧客情報を横流ししていた事実も明らかになり、直美はこの一連の事件に背後の黒幕が関わっていると推測していた。
検診後の異変と新事件の発生
香夏子が診察を終え、待合室で暦を待っていた頃、病院内から女性の悲鳴が響いた。香夏子が駆けつけると、院長・志茂田平助が正座の姿勢で泡を吹いて倒れていた。医師たちによって毒物による中毒が疑われ、現場には紅茶と思しき青い液体が残されていた。
登場人物の紹介と事件構造の把握
次期院長候補の桂龍馬と甲斐五郎丸、そして冷静な事務員・優乃風子が現場に居合わせていた。加えて、ミーハーで情報通な看護師長・壁村三実が病院内事情を香夏子に語った。状況を整理する中で、香夏子は名探偵として事件の調査に協力することを求められた。
関係者への読心と容疑者絞り込み
香夏子は壁村、桂、甲斐、優乃の心を読んで容疑を絞った。壁村は完全なミーハーであり、事件とは無関係。桂と甲斐は互いを犯人と疑い、風子を巡る恋愛感情と出世争いに巻き込まれていたが、いずれも犯意は確認できなかった。唯一、優乃の心からは「セクハラの腹いせでお茶に雑巾の絞り汁を入れた」ことが明かされ、事故である可能性が浮上した。
事故の真相と伝えにくい事情
優乃は職場でのセクハラへの仕返しとして、雑巾の絞り汁を院長の紅茶に混入したが、偶然その雑巾に劇薬成分が付着していたため中毒を引き起こした。殺意はなく、完全な事故であった。香夏子は真相に辿り着くも、周囲の医師たちが「これは事件」と断定し対立を始めたため、真実を語ることが困難となっていた。
推理の難航と誤解の拡大
桂と甲斐は互いを陥れようとし、殺人罪での告発を仄めかすが、その言動は優乃の心に深い傷を与えていた。二人は自らの出世や恋愛を巡って争っているが、真の被害者は無実の優乃であった。香夏子は事件の深刻さより、優乃の精神的負担を憂慮していた。
誤解による被害と葛藤
医師たちの罵り合いはエスカレートし、優乃は内心で強く傷ついていた。計画殺人ではないと分かっていながらも、香夏子は口にすればかえって疑念を深めると判断し、伝え方に苦慮した。偶発的な事故であり、真実をどう告げるかが次の焦点となっていた。
誤解の連鎖と読心探偵の苦悩
香夏子は優乃の心の声から事故の真相を把握していたが、医師二人の推理合戦により優乃は完全に萎縮し、自白の機会を失っていた。壁村看護師の暴走する腐女子妄想が事態をさらに混乱させ、事件の真相は遠ざかるばかりであった。
ダイイングメッセージの解釈合戦
甲斐は正座を将棋になぞらえ、桂馬=桂先生が犯人と主張。一方、桂は囲碁に結びつけて「いご」を含む甲斐こそが犯人であると逆主張した。だが、院長が実際には囲碁将棋部所属だったことが判明し、両者の主張は共に崩壊した。結局、正座の意味は不明のままとなった。
真相の発覚と推理の復元
香夏子が読んだ優乃の心から、正座は院長を運ぶ途中に体重の重さから断念し、床に座らせた結果であったことが明かされた。また、睡眠薬を含む紅茶を入れ替えた事実も判明し、院長が意図せずそれを飲んだことが分かった。すべては偶然が重なった末の事故であった。
睡眠薬の正体と動機の浮上
院長が口にした睡眠薬は、催淫作用を持ち婦女暴行未遂に使用されるベンゾジアゼピン系であり、彼の計画は女性職員への性犯罪であったと推測された。直美の調査で、院長はこれを故意に使用しようとしていた事実が判明し、結果的に自業自得の報いを受ける形で倒れたことが判明した。
事件の真相と院長の末路
事件は計画的な犯行ではなく、院長が仕掛けた未遂犯罪が自身に跳ね返ったものだった。雑巾に含まれていた成分は本来、院長が風子に飲ませようとした薬であり、入れ替えの結果として彼自身が摂取してしまった。院長は後日、婦女暴行未遂で書類送検されることとなった。
病院での検査結果と一件落着
香夏子と暦は事件解決後、検査結果を確認し「異常なし」と告げられた。ふたりは大葉探偵事務所に戻り、今回の出来事を振り返りながら直美に連絡を入れた。しかし、その電話で再び新たな事件が発覚する。
新たな衝撃と黒幕の影
直美の報告によれば、有馬弁護士が警察の取り調べ中に脱走したとのことであった。内部に手引きした協力者が存在し、その人物が羽後本荘由利であったことが明かされた。有馬はロジク関連の警察汚職事件に深く関与しており、その背後には未だ正体不明の黒幕が存在していた。
第四話 黒幕が分からないので誰の心を読めばいいのか分かりません!
羽後本荘の逃走補助事件と本庁の混乱
二日前、拘留中の弁護士・有馬駆が逃走する事件が発生した。逃走を手助けしたのは、警視庁第三課の刑事・羽後本荘由利であり、彼女は取り調べ後に有馬をトイレに連れていくふりをして車で逃走させたとされていた。この前代未聞の事態に、本庁は混乱の渦中にあった。
羽後本荘の取り調べと記憶喪失の主張
香夏子と暦は直美と共に本庁を訪れ、拘束された羽後本荘のもとを訪ねた。羽後本荘は驚きと混乱の中、逃走補助について完全に記憶がないと主張した。香夏子が読んだ彼女の心は偽りがなく、確かに記憶を喪失しているようであった。さらに、香夏子らとの面識も忘れており、秋田弁の指導経験すら記憶していなかった。
緊急会議と心証の確認
取調室の帰り道、三人は近隣のカフェで緊急会議を開いた。香夏子は羽後本荘の証言が本心であることを再確認し、記憶喪失の線を視野に入れた。盗撮映像という明確な証拠と本人の証言の齟齬が、事件の複雑さを浮き彫りにしていた。直美は自らの部下の犯行を信じきれず、混乱していた。
寺林直美への謹慎処分と上層部の動き
その最中、ゴリ警部を含む刑事たちが現れ、寺林直美に対する謹慎処分を伝達した。違法な盗撮や強引な捜査を理由に処分が下されたとされたが、タイミングが不自然であり、何者かが直美を排除しようとしているように見えた。香夏子と暦は、直美が調査していた事件の裏に、巨大な黒幕が存在する可能性を感じ取った。
ゴリ警部の違和感と協力依頼
ゴリ警部もまた、謹慎命令を受けた時の詳細な記憶が曖昧であり、不自然な流れに疑念を抱いていた。さらに、羽後本荘も記憶を失っていたことから、何者かが意図的に記憶操作を行っている可能性が浮上した。ゴリ警部は香夏子と暦に捜査協力を正式に依頼し、二人はそれを快諾した。
寺林直美の残した資料と“連続異能誘拐事件”
大葉探偵事務所に戻った香夏子は、直美から預かっていたウィスキーの箱を開封した。中には大量の資料、SDカード、そして謎のシルバーアクセサリーが入っていた。アクセサリーには仕掛けがあり、何らかの機密を内包している様子であった。そして、資料の中には「連続異能誘拐事件」の名が記されていた。
自身の過去と事件の接点
資料名を目にした暦は、それがかつて自分と香夏子が巻き込まれた誘拐事件であると即座に認識した。その記述は、これまでの事件と過去の誘拐事件が密接に関係していたことを示唆しており、香夏子たちは黒幕の正体と事件の核心に、ついに触れ始めたのであった。
有馬の逃亡と羽後本荘の逃走補助
二日前、収賄容疑で拘留されていた弁護士・有馬駆が逃亡した。手引きをしたのは警視庁第三課の刑事・羽後本荘由利であり、取り調べ終了後にトイレへ連れていくふりをしてそのまま車で逃走させたとされる。証拠映像にはその様子が映っており、本庁は未曾有の混乱に陥った。
羽後本荘の取り調べと記憶喪失
香夏子、暦、直美は本庁を訪れ、羽後本荘と面会した。彼女は泣きながら無実を訴え、事件当日の記憶が完全に欠落していると述べた。さらに、香夏子たちとの面識すら「初対面」と主張し、以前の秋田弁指導の記憶すらなかった。香夏子が読んだ心の声も、すべてが真実であることを示していた。
緊急会議と謎の深まり
直美はカフェにて香夏子たちと緊急会議を行い、羽後本荘の記憶喪失が本当であることを確認した。映像証拠がある以上、擁護は困難であるが、直美は部下を信じたい一心で事件の再調査を決意した。香夏子は「なりすまし」や「記憶操作」など、複数の仮説を提示し、事件の不可解さに拍車をかけた。
寺林直美への謹慎処分と上層部の圧力
その場にゴリ警部と刑事たちが現れ、直美に対して正式な謹慎命令を通達した。盗撮や違法押収といった職務違反が理由とされたが、直美はそのタイミングに不自然さを感じた。彼女は自らが追っていた上層部の不正調査を妨害されたのではないかと確信しつつ、憤りを隠せなかった。
ゴリ警部の記憶喪失と依頼の正式化
ゴリ警部は直美への処分命令を受け取った際の記憶が曖昧であった。羽後本荘と同様、記憶に“飛び”が生じており、これが偶然とは思えない状況であった。ゴリ警部は香夏子と暦に正式に協力を依頼し、二人はそれを快諾した。こうして“読心探偵”としての新たな捜査が始動した。
謎の箱と隠された資料
事務所に戻った香夏子たちは、直美から託されたウィスキーの箱を開封した。中には紙資料、SDカード、押収品のような十字架型のシルバーアクセサリーが入っていた。アクセサリーにはギミックが仕込まれており、何らかの情報記録装置の可能性が示唆された。
「連続異能誘拐事件」と過去の記憶
資料の表紙には「連続異能誘拐事件」と記されていた。香夏子がその名を読み上げた瞬間、暦が反応を示した。その事件は、かつて香夏子と暦自身が巻き込まれた誘拐事件であり、過去と現在の事件が密接に関係していることが明らかとなった。
本庁での陽動作戦と黒幕への挑発
香夏子と暦は警視庁本庁に乗り込み、あえて目立つ言動と大胆な宣言により黒幕を誘き出す作戦に出た。香夏子は「謎は全て解けた」と大見得を切り、一連の事件の真相と黒幕の存在を公言した。この行動は、研究資料の所在に固執する黒幕の動揺を狙ったものであった。
直美の再登場と違和感の芽生え
その後、事務所に戻った香夏子と暦の前に、謹慎処分を受けていたはずの寺林直美が現れた。直美はいつもと異なる落ち着いた態度を見せ、証拠品であるウィスキーの箱の返還を求めた。しかし、その言動や態度に違和感を覚えた香夏子は、読心により彼女の心が眠っていることを確認した。
阿田岡博士の正体と告白
直美の身体に憑依していたのは、かつて香夏子たちを改造した科学者・阿田岡博士であった。彼は自らが思念体として他人の身体を乗っ取り続けていたこと、そして羽後本荘やゴリ警部にも取り憑いていた過去を明かした。博士は、研究資料の奪還と暦の身体を目的としていた。
博士の過去と警察上層部への侵食
阿田岡博士は、かつて人体強化や異能研究に関わっており、悪徳警官・土方をはじめとした複数の警察上層部に取り憑いていた。彼は直美の調査によって窮地に追い込まれ、土方を毒殺。有馬弁護士の逃走も羽後本荘の身体を通じて主導し、最終的には有馬を事故死に見せかけて始末していた。
香夏子と暦の機転と十字架の使用
博士の本性を見抜いた香夏子と暦は、隙を突いて直美の額に十字架を押し当てた。博士は一時的に苦しむ様子を見せたが、次の瞬間スプレー攻撃と首締めで二人を制圧し、暦の身体に憑依することに成功した。暦の高性能身体と読心能力を得た博士は勝ち誇った。
入れ替わりの真実と香夏子の逆転機
だが博士は、香夏子と暦の身体能力と異能が入れ替わっていたことを知らなかった。かつて生キャラメルをきっかけに施術直前で交代していた事実を見落とした彼は、香夏子を読心能力者、暦をサイボーグと誤認していた。つまり、手に入れたのは“ただの人間の体”であった。
博士の油断と“塩コーヒー”作戦
暦の身体を得て優位に立ったかに見えた博士だったが、香夏子と暦(身体は香夏子)の協力により、塩入りコーヒーを使った奇襲に引っかかった。博士はプライドの高さから挑発に乗ってコーヒーを飲み、激しく咽せた隙に香夏子が十字架を額に押し当てた。
憑依完了とさらなる脅威
しかし、その行動は裏目に出た。博士は暦の身体への完全な憑依を成し遂げ、直美の身体から離脱。十字架は直美には効果を発揮したものの、博士の意識は既に暦に乗り移っており、状況はさらに悪化した。
誤認された読心能力と博士の誤算
香夏子は、博士が“読心能力”を得たと思い込んでいる事実を逆手に取ろうと試みる。実際には読心能力は香夏子のものであり、博士は完全に誤解していた。この誤認が今後の反撃の鍵となる可能性を香夏子は見出し、反撃の糸口を探るのであった。
誤認読心と香夏子の演技
阿田岡博士は暦の身体に憑依し、読心能力を得たと誤解した。その錯誤に乗じて、香夏子は読心防止装置のスイッチが切れていたことに気づき、博士の心を逆に読み始めた。博士は自信満々に自らの知識を漏らし、十字架のパズルの解法までも心中で語ったことで、香夏子に逆転の機会を与えてしまった。
くすぐり攻撃と跳躍事故
博士の慢心と油断を突いた香夏子は、暦の身体の弱点である脇をくすぐり、激しく悶絶させた。その勢いで博士は天井に頭から突き刺さるという珍事を起こした。過去にも見られた光景が再現され、香夏子は懐かしさを覚えながら博士の失態を見逃さなかった。
パズルの解明と薬剤の取り出し
博士の心を読んで得た知識により、香夏子は十字架型装置の中に仕込まれた「思念体除去用薬剤」を取り出すことに成功した。博士は否定しつつもその光景を目の当たりにして愕然とし、ついに香夏子が本物の読心能力者であることを認めた。
真相の暴露と最後の攻防
香夏子は自らが読心能力者である理由、そして暦と身体が入れ替わった経緯が生キャラメルを巡る偶然だったことを明かした。博士は自らの計画が、まさかの食い意地によって崩れた事実に絶望し、怒りに任せて香夏子に掴みかかる。香夏子は博士に全力で薬剤を押し当て、思念体を除去する最終手段に打って出た。
思念体の除去と博士の最期
薬剤を浴びた博士は暦の身体の中で苦しみ悶絶した。高出力サイボーグの力で室内は荒れに荒れたが、ついに博士の意識は追い出され、暦は元の自我を取り戻した。香夏子は全力で抱きつきながら「妹を返せ」と叫び、妹想いの姉としての姿を見せつけた。
姉妹の再会と直美の覚醒
香夏子と暦は改めて姉妹の絆を再確認し、こっそり漏れた「ありがとうお姉ちゃん」の心の声が読めたことで、香夏子は感極まって抱きつこうとする。直後に目を覚ました直美が騒ぎに割って入り、事務所は騒然としたが、事態は無事収束した。
事件の総括と釈放処分
有馬弁護士の逃亡は「闇社会の人間による羽後本荘へのなりすまし」ということにされ、羽後本荘は無事釈放された。闇カジノ関係者による犯行という“表向きの真相”は直美の配慮であり、羽後本荘への精神的配慮がなされていた。
喫茶店での祝勝会と日常への帰還
一連の事件が終息したことを記念し、香夏子たちは事務所下の喫茶店で祝勝会を開いた。香夏子はナポリタンを口いっぱいに頬張り、暦に呆れられながらも幸せを感じていた。直美は事件を締めくくりつつ、博士の実験を悪用する者がいなくなったことに安堵していた。
再発防止と笑顔の結び
博士に長く取り憑かれていた事実に警察は誰も気づけなかったことに直美は悔しさを滲ませたが、それでも今は円滑に業務が回っていると語った。香夏子と暦は、姉妹として、探偵として、これからも共に歩んでいくことを誓うように、明るく笑い合っていた。事件は終わり、穏やかな日常が再び戻ってきたのである。
その他フィクション

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