- 忍の生みの親が食中毒でミイラに!? 大学生になった阿良々木暦と吸血鬼事件の真相
- ※以下、『忍物語』の結末までのネタバレを含む感想である。
- 大学生になった阿良々木暦。結局、怪異から逃れられない
- 臥煙伊豆湖の「4年間は関わらない」という約束。あれ、前巻との時間軸は?
- 女子高生が次々とミイラに。吸血鬼事件なのに何かがおかしい
- 「B777Q」の暗号。大学の友人・食飼命日子が頼もしい
- スーサイドマスター登場。忍を吸血鬼にした存在とは
- 吸血鬼なのに食中毒!? 伝説の存在にも胃袋の限界があった
- 北白蛇神社にスーサイドマスター。怪異が集まりすぎでは?
- 地獄へ行くはずが天国へ。暦の死に方が相変わらず無茶苦茶
- 天国でアセロラ姫と再会。忍の過去を別の角度から見る
- 忍と八九寺が泣いていた。暦の善意だけでは済まされない
- スーサイドマスターの来日理由。忍を心配していたとは
- 被害者は全員バスケ部員。神原駿河の栄光が残したもの
- 辞めたいのに辞められない。貼交帰依の追い詰められた気持ち
- 神原駿河と日傘星雨。卒業生が後輩の問題に向き合う
- 日傘家のパジャマパーティ。事件の最中に何をしているんだ
- ミイラの身元は本当に正しいのか。事件の見方がひっくり返る
- 本当の加害者は貼交帰依。被害者だった少女が復讐を始めた
- スーサイドマスターが貼交に迫る選択。吸血鬼として生きる意味
- 暦は貼交を責めきれない。自分も吸血鬼になったことがあるから
- 影縫余弦が空から登場。結局、物理で解決するのか!
- 貼交は処分されず、被害者を救う道へ。簡単には終わらない事件
- スーサイドマスターは国外退去。え、それでいいんだ?
- 忍とスーサイドマスター。六百年の時間が変えた関係
- 戦場ヶ原ひたぎへの報告。大学生になっても暦は怒られる
- 大学生になっても、暦はまだ大人になりきれない
- まとめ|伝説の吸血鬼が食中毒になる一方、暦は大人になる難しさを知る
物語の概要
■ 作品概要
国立曲直瀬大学1年生となった阿良々木暦は、怪異の専門家の元締めである臥煙伊豆湖に呼び出され、直江津総合病院で全身の水分を失って木乃伊(ミイラ)化した私立直江津高校の女子生徒を見せられる。
直江津高校では女子生徒が相次いで木乃伊化する事件が発生しており、現場に残された暗号から、かつて忍野忍(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)を生み出した太古の吸血鬼デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターの関与が疑われる。
暦は大学の友人・食飼命日子に暗号解読を依頼するとともに、母校の女子バスケットボール部元キャプテンである神原駿河や日傘星雨から部員名簿を入手し、部内の過酷なトレーニングと同調圧力、そして5名の行方不明者の存在を知る。
その後、北白蛇神社で乾眠状態のスーサイドマスターが発見され、暦が天国でアセロラ姫から授かった唾液によって彼女を回復させたことで、スーサイドマスターは最初の一人を吸血した直後に拒絶反応(食中毒)を起こして倒れていたこと、そして吸血鬼化に成功した女子生徒が真犯人として他の部員を襲っていたことが判明する。
暦は所持品の共通点から身元のすり替えを見破り、真犯人である貼交帰依と神原家で対峙する。
説得に応じず襲いかかってきた貼交は、駆けつけた影縫余弦の一撃によって制圧される。最終的に被害者と貼交を元に戻す施術が行われることとなり、スーサイドマスターは国外へ退去した。
■ 主要キャラクター
阿良々木暦
- 立場・所属:国立曲直瀬大学理学部1年生。
- 主人公との関係:主人公自身。
- この巻での主な役割:臥煙伊豆湖の要請を受けて母校の生徒が巻き込まれた連続木乃伊化事件の調査を行い、暗号解読や関係者への聞き取りを通じて真相に迫る。
- この巻で起きた重要な変化や行動:大学の友人である食飼命日子に頼んで現場の暗号を解読し、神原駿河から女子バスケットボール部の名簿を入手。北白蛇神社で乾眠状態のスーサイドマスターを救うため一時的に死亡して天国へ赴き、アセロラ姫から得た唾液を口移しで与えてスーサイドマスターを回復させた。被害者の持ち物の共通点から木乃伊の身元すり替えを見破り、真犯人の貼交帰依と対峙した。
貼交帰依
- 立場・所属:私立直江津高校1年生、女子バスケットボール部員。
- 主人公との関係:母校(直江津高校)の後輩。
- この巻での主な役割:部活動の厳しさと同調圧力に追い詰められ、暴漢や怪異に襲われて部を辞める口実ができることを願っていた中でスーサイドマスターに遭遇し、吸血鬼化に成功した真犯人。
- この巻で起きた重要な変化や行動:吸血鬼化に成功した後、食中毒で倒れたスーサイドマスターの名を騙りながら、部活動への不満から他の部員(本能あぶり、日本教実、官宮鶚)を襲って木乃伊化させた。最初に木乃伊化した木石総和に自身の所持品を持たせて自分の木乃伊であるように偽装し、携帯電話を通じて捜査情報を盗聴していた。最後にスーサイドマスターを食らい尽くそうとしたところを暦に追いつかれ、影縫余弦に倒された。
忍野忍(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)
- 立場・所属:暦の影に潜む吸血鬼のなれの果て。
- 主人公との関係:暦のパートナー(従属関係)。
- この巻での主な役割:かつての吸血主であるスーサイドマスターの過去や、アセロラ姫の血しか受けつけない特殊な食性について暦に伝えた。
- この巻で起きた重要な変化や行動:北白蛇神社で600年ぶりにスーサイドマスターと再会し、異国語で言葉を交わした。
デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター
- 立場・所属:かつてキスショットを生み出した太古の吸血鬼(「決死にして必死にして万死の吸血鬼」)。
- 主人公との関係:忍のかつての吸血主。
- この巻での主な役割:忍の安否を確認するために来日したが、飢えのために貼交帰依を吸血した直後、アセロラ姫以外の血を受けつけない身体の拒絶反応により乾眠状態(木乃伊化)に陥った。
- この巻で起きた重要な変化や行動:北白蛇神社で八九寺真宵に保護され、暦から与えられたアセロラ姫の唾液によって回復。真犯人である貼交帰依に自分を食らうか吸血するかの選択を委ねた。事件解決後は臥煙らの手配により国外へ退去した。
臥煙伊豆湖
- 立場・所属:怪異の専門家の元締め。
- 主人公との関係:暦が頭の上がらない大人・指揮役。
- この巻での主な役割:連続木乃伊化事件の指揮を執り、土地勘のある暦に調査協力と忍の隔離を依頼した。
- この巻で起きた重要な変化や行動:被害者のDNA解析やロッカーの捜査、結界の構築などを行ったが、真犯人による所持品のすり替えや携帯電話を使った情報漏洩に当初惑わされた。事件解決後はスーサイドマスターを国外へ送還した。
食飼命日子
- 立場・所属:国立曲直瀬大学1年生(数学科)。
- 主人公との関係:暦が大学で得た怪異と無関係な友人。
- この巻での主な役割:暗号マニアとしての能力を活かし、現場に残されていた暗号(「B777Q」および「820/280/610/160」)を即座に解読した。
神原駿河
- 立場・所属:私立直江津高校3年生、女子バスケットボール部元キャプテン。
- 主人公との関係:暦の高校時代の部活の後輩。
- この巻での主な役割:暦に女子バスケットボール部の部員名簿を提供し、同級生の日傘星雨を紹介した。
日傘星雨
- 立場・所属:私立直江津高校3年生、女子バスケットボール部元キャプテン(神原引退後)。
- 主人公との関係:神原の同期で暦の母校の後輩。
- この巻での主な役割:個人的に作成していた部員名簿を暦に貸し出し、黄金世代が抜けた後の女子バスケットボール部の厳しい環境と同調圧力の現状、5名の行方不明者がいることを説明した。
八九寺真宵
- 立場・所属:北白蛇神社の神。
- 主人公との関係:暦の友人である町神。
- この巻での主な役割:着地に失敗して乾眠状態となったスーサイドマスターを境内で保護し、斧乃木余接を通じて暦と忍を呼び寄せた。
影縫余弦
- 立場・所属:不死身の怪異を専門とする陰陽師。
- 主人公との関係:暦と顔見知りの専門家。
- この巻での主な役割:斧乃木余接に遠方から投げ飛ばされて現場に駆けつけ、貼交帰依を一撃の膝蹴りで制圧した。
書籍情報
<物語>忍物語
著者:西尾維新 氏
イラスト:VOFAN(ヴォーファン) 氏
出版社:講談社
発売日:2017年7月20日
JDCN:06A0000000000003978H

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あらすじ・内容
“たまには縁もゆかりもない女子を助けてみるのも乙だろう”直江津高校の女子生徒が、相次いで失踪する事件が発生した。ミイラ化した状態で発見された少女達の首筋には、特徴的な傷痕があって――?大学一年生になった阿良々木暦は、犯人を突き止めるべく走り出す!〈物語〉シリーズモンスターシーズン、開幕!
感想
忍の生みの親が食中毒でミイラに!? 大学生になった阿良々木暦と吸血鬼事件の真相
今回の阿良々木暦は、国立曲直瀬大学に入学したばかりの大学1年生である。
高校を卒業し、ようやく新しい生活が始まった。
これで少しは怪異から離れ、普通の大学生活を送れるのだろうか。
……と思っていたら、早速、臥煙伊豆湖から呼び出されてしまった。
相変わらずである。
しかも、今回の事件はかなり不気味だ。
私立直江津高校の女子生徒が、全身の水分を失って木乃伊(ミイラ)のようになってしまったという。
それなのに、まだ生きている。
原因として疑われたのは、吸血鬼による襲撃だった。
そして、その吸血鬼の正体として浮かび上がったのが、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター。
かつて忍野忍、つまりキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを吸血鬼に変えた存在である。
……マジか。
忍の生みの親ともいえる太古の吸血鬼が、ついに登場するのか。
これは相当な強敵なのではないか。
そう身構えていたら、まさかの食中毒である。
吸血鬼が人間の血を飲んで食中毒になるとは、どういうことだ。
さらに、衰弱したスーサイドマスターが北白蛇神社で保護されていたり、暦が地獄へ行こうとして天国に到着したりと、今回も予想外の展開が続く。
そして、事件を追っていくうちに見えてくるのは、直江津高校女子バスケットボール部が抱えていた問題だった。
厳しい練習、連帯責任、辞めたくても辞められない空気。
吸血鬼による事件でありながら、その背景には現実にもありそうな息苦しさがある。
大学生になった暦の変化と、変わらない危なっかしさ。
忍の知られざる過去。
そして、強大な吸血鬼が引き起こした、どこか情けない騒動。
『忍物語』は、そんな要素が詰まった一冊だった。
※以下、『忍物語』の結末までのネタバレを含む感想である。
大学生になった阿良々木暦。結局、怪異から逃れられない
まず印象に残ったのは、暦が大学生になっていることだった。
高校時代には、さまざまな怪異に巻き込まれてきた。
吸血鬼になり、怪異に襲われた少女たちと出会い、何度も命を落としかけた。
そんな高校生活を終え、ようやく大学へ進学したのである。
今度こそ普通の生活を送ってほしい。
そう思う一方で、暦が怪異と無関係に暮らしている姿も、なかなか想像できない。
そして案の定、臥煙伊豆湖から呼び出される。
……やっぱりか。
しかも、呼び出された場所は直江津総合病院。
そこで暦が見せられたのは、全身の水分を失って干からびた女子高生だった。
まるでミイラである。
しかし、心臓は動いている。
呼吸も続いている。
つまり、死んでいない。
この状態だけでも十分に恐ろしい。
さらに、同じような被害者が複数いるという。
暦にとっては、かつて通っていた高校の後輩たちである。
放っておけるはずがない。
ここは、高校時代からまったく変わっていなかった。
誰かが困っていると知れば、自分の事情を後回しにしてでも助けようとする。
大学生になったからといって、急に性格が変わるわけではないのだ。
臥煙伊豆湖の「4年間は関わらない」という約束。あれ、前巻との時間軸は?
今回、個人的に気になったのが、臥煙伊豆湖との約束だった。
暦は大学生活を優先したい。
これ以上、怪異事件に振り回されたくない。
そんな暦に対して、臥煙は今回の事件に協力すれば、大学卒業までの約4年間は怪異の仕事に関わらせないという条件を提示する。
なるほど。
それなら、今回だけ頑張ろうと思うかもしれない。
しかし、ここで『結物語』を思い出した。
あちらでは23歳になった暦が警察官となり、研修のため4年ぶりに故郷へ戻っていた。
……あれ?
今回の事件は、その4年間に含まれるのだろうか。
それとも、この事件が終わってから4年間戻らなかったということなのか。
時間軸を整理すると、何となく引っかかる。
『結物語』で描かれた暦の姿を先に知っているだけに、今回の大学1年生の出来事がどこに収まるのか気になってしまった。
もっとも、『物語シリーズ』は刊行順と作中の時間軸が必ずしも一致しない。
後から過去の出来事が語られることも多い。
だから、単純な矛盾と決めつけるのは早いのだろう。
それでも、思わずツッコミたくなった。
「4年間は関わらないって、これの後から数えるのか?」
……まあ、いいか。
こういう細かい引っかかりも含めて、シリーズを読み続ける面白さなのかもしれない。
女子高生が次々とミイラに。吸血鬼事件なのに何かがおかしい
今回の事件では、直江津高校の女子生徒が次々と木乃伊化していく。
最初に暦が見せられたのは、貼交帰依という1年生だと説明された少女だった。
首筋には吸血鬼に噛まれたような傷がある。
身体は干からびているのに、生きている。
吸血鬼化に失敗した結果ではないかと考えられていた。
さらに、別の女子生徒も同じ状態で発見される。
その後も被害は増え、事件は連続吸血事件として調査されることになった。
ここで興味深かったのは、吸血鬼に襲われたという説明だけでは、すべてが解決しないことだった。
なぜ、被害者は直江津高校の女子生徒ばかりなのか。
なぜ、吸血鬼にならずに木乃伊化しているのか。
そして、なぜ被害者の持ち物から暗号が見つかるのか。
怪異が関わっているのは間違いなさそうだ。
しかし、単に吸血鬼が空腹を満たすために人間を襲っているという話ではない。
調べるほどに、不自然な点が増えていく。
この謎の積み重ねが面白かった。
「B777Q」の暗号。大学の友人・食飼命日子が頼もしい
事件の現場から見つかったのは、「B777Q」と書かれた単語帳だった。
一見すると、意味のわからない文字列である。
しかし、暦はこれを事件に関係する暗号ではないかと考える。
そこで頼ったのが、大学で知り合った食飼命日子だった。
彼女は暗号に関心があり、文字列の解読を手伝ってくれる。
この人物の登場が新鮮だった。
高校時代の暦は、怪異に詳しい専門家や、怪異そのものになった人物たちに助けられることが多かった。
しかし、今回は大学の友人である。
しかも、怪異の専門家ではない。
普通の大学生活で知り合った友人が、自分の得意分野で事件の解決に協力してくれる。
この関係がよかった。
暗号を解読すると、「D・V・S」という頭文字が浮かび上がる。
それが、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターにつながっていく。
なるほど、犯人の名前を示しているのか。
そう思った。
しかし、後になって、この暗号の意味が変わってくる。
暗号が誰かの名前を示していることと、その人物が犯人であることは別問題なのだ。
ここが今回のミステリーとして面白い部分だった。
スーサイドマスター登場。忍を吸血鬼にした存在とは
今回の大きな見どころは、やはりスーサイドマスターの登場だろう。
正式な名前は、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター。
長い。
そして、名前の響きがとんでもなく物騒である。
この吸血鬼は、かつて人間だったアセロラ姫を吸血鬼に変えた存在だという。
そのアセロラ姫こそ、後のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
現在の忍野忍である。
つまり、忍にとってスーサイドマスターは、単なる古い知人ではない。
自分の人生を根本から変えた存在なのだ。
忍がどのように吸血鬼になったのか。
なぜ、あれほど強大な存在になったのか。
シリーズを読んできた身としては、気にならないはずがない。
しかも、スーサイドマスターは太古から生きる吸血鬼である。
どれほど恐ろしい力を持っているのだろう。
そう期待していた。
ところが、実際に見つかった姿は、金髪の幼女のような木乃伊だった。
……え?
何があった?
伝説の吸血鬼が、いきなり干からびているのである。
この落差には驚かされた。
吸血鬼なのに食中毒!? 伝説の存在にも胃袋の限界があった
スーサイドマスターが衰弱していた理由を知ったときは、思わず笑ってしまった。
なんと、人間の血を飲んで食中毒のような状態になっていたという。
……吸血鬼だろ?
血を飲むのが仕事ではないのか。
いや、仕事という表現もおかしいが。
それにしても、吸血鬼が吸血によって体調を崩すとは思わなかった。
しかも、原因を知るとさらに驚く。
スーサイドマスターは、かつてアセロラ姫の血を味わっていた。
その血があまりにも特別だったため、ほかの血を受けつけなくなってしまったという。
つまり、究極の美食家である。
あまりにもおいしいものを知ってしまったせいで、普通の食事ができなくなった。
……贅沢にもほどがある。
ただ、笑える一方で、少し考えさせられる設定でもあった。
特別な経験をしたことで、それ以外を受け入れられなくなる。
一度手に入れた理想を忘れられず、現在の自分を苦しめてしまう。
そんな話にも見えてくる。
しかも、スーサイドマスターは長い年月を生きる中で、何度も死と再生を繰り返し、かつての力を失っていた。
本人は自分の衰えを十分に理解していない。
それでも、昔の自分と同じように行動しようとする。
強大な吸血鬼にも、老いや衰えに似た問題があるのだ。
この設定が興味深かった。
北白蛇神社にスーサイドマスター。怪異が集まりすぎでは?
衰弱したスーサイドマスターを保護していたのは、北白蛇神社の神となった八九寺真宵だった。
ここでも、思わずツッコミたくなった。
また北白蛇神社か。
以前には、死屍累生死郎の灰が関わる騒動もあった。
そして今度は、忍を吸血鬼にした太古の吸血鬼である。
……この神社、いったい何なのだろう。
怪異にとっての観光名所なのか。
それとも、何かあると集まってくる避難所なのか。
八九寺が神になってから、ますます重要な場所になっているように感じる。
ただ、八九寺がスーサイドマスターを匿っていた理由には納得できた。
町の神として、助けを求めてきた存在を見殺しにはできない。
たとえ相手が危険な吸血鬼でも、事情を知らないまま排除することはできない。
この考え方が八九寺らしい。
かつては道に迷い続けていた少女が、今では誰かの居場所を守る側になっている。
そう考えると、感慨深いものがあった。
しかし、保護した相手がスーサイドマスターというのは、さすがに大物すぎる。
北白蛇神社の怪異密度が心配になってくる。
地獄へ行くはずが天国へ。暦の死に方が相変わらず無茶苦茶
スーサイドマスターを回復させるため、暦は血の池地獄から血を持ち帰ろうとする。
……また地獄へ行くのか。
高校時代にも地獄を訪れたことがあるとはいえ、普通は何度も行く場所ではない。
しかも、今回の方法が無茶苦茶である。
妖刀を使って暦を一度殺し、地獄へ送り、その後で蘇生させる。
文章にすると、何とも恐ろしい計画だ。
それを実行しようとする暦も暦である。
大学生になったのだから、もう少し自分の命を大切にしてほしい。
ところが、計画は思い通りに進まない。
暦が到着したのは、地獄ではなく天国だった。
……そっちか!
ここは予想外だった。
地獄へ行くつもりで死んだのに、天国へ行ってしまう。
しかも、自分では簡単に帰れない。
現世では忍や八九寺が慌てることになる。
この展開には笑ってしまったが、同時に暦の危なっかしさも感じた。
本人は誰かを助けるために行動している。
しかし、その行動が周囲の人たちを心配させ、危険に巻き込んでしまう。
高校時代から続く暦の問題点が、今回も表れていた。
天国でアセロラ姫と再会。忍の過去を別の角度から見る
天国で暦が出会ったのは、吸血鬼になる前のアセロラ姫だった。
ここは今回、特に印象に残った場面の一つである。
現在の忍野忍は、尊大で口が悪く、ドーナツが大好きな少女の姿をしている。
しかし、かつては美しすぎるがゆえに、多くの人々を死へ追いやってしまった姫だった。
本人が望んだわけではない。
それでも、彼女の美しさは周囲に大きな悲劇をもたらした。
そんなアセロラ姫と、暦が直接会話するのである。
不思議な感覚だった。
忍とアセロラ姫は、同じ存在の過去と現在につながっている。
しかし、まったく同じ人物として見ることもできない。
長い年月の中で、さまざまな経験を重ね、変化してきたからだ。
暦が知っている忍は、アセロラ姫だった頃の自分をすべて表に出しているわけではない。
だからこそ、天国での出会いには意味があったと思う。
そして、スーサイドマスターを救うために、アセロラ姫は暦へ唾液を口移しで渡す。
……また、すごい方法だ。
血の池地獄から血を持ち帰るつもりが、天国で姫から唾液をもらうことになるとは。
目的は達成できそうだが、経緯があまりにも予想外である。
ひたぎに説明するのが大変そうだと思ってしまった。
忍と八九寺が泣いていた。暦の善意だけでは済まされない
暦は何とか現世へ戻る。
しかし、予定していた方法では帰ってこられなかったため、忍や八九寺は大いに心配していた。
暦が目を覚ますと、二人は安堵して泣いている。
この場面が印象に残った。
暦にとっては、誰かを救うための行動だった。
しかし、待っている側にとっては違う。
大切な人が死んで、戻ってこないかもしれない。
そんな状況に置かれていたのである。
しかも、臥煙にも相談せずに危険な計画を進めていた。
臥煙が不満を示すのも当然だろう。
暦は、自分が正しいと思ったことを実行しようとする。
それ自体は悪いことではない。
しかし、周囲の人間にも事情がある。
誰かを助けるために、別の誰かを不安にさせてよいわけではない。
高校時代なら、暦の無茶がそのまま物語を動かしていた。
しかし、大学生になった今は、その無茶を振り返る必要がある。
この場面には、そんな成長の課題が見えた。
スーサイドマスターの来日理由。忍を心配していたとは
回復したスーサイドマスターは、日本へ来た理由を明かす。
それは、忍の安否を確かめるためだった。
忍が日本で退治されたという噂を聞き、心配して訪ねてきたのである。
……え?
女子高生を襲うためではなかったのか。
もちろん、来日後に吸血した事実はある。
しかし、そもそもの目的は忍との再会だった。
この事実が意外だった。
名前も物騒で、太古から生きる恐ろしい吸血鬼。
そんな存在が、かつて自分が吸血鬼に変えた相手を心配して日本へやって来た。
少し人間味がある。
しかも、忍もスーサイドマスターも、昔のような強大な姿ではない。
長い年月を経て、互いに弱体化している。
それでも、二人の関係は消えていなかった。
六百年という時間の重みを感じる再会だった。
忍にとって、スーサイドマスターは過去そのものに近い存在なのだろう。
そんな相手と、今の姿で向き合う。
この場面には、怪異事件の謎解きとは違う魅力があった。
被害者は全員バスケ部員。神原駿河の栄光が残したもの
事件の調査が進むと、木乃伊化した女子生徒たちに共通点が見つかる。
全員、直江津高校の女子バスケットボール部に所属していたのである。
ここから、物語の印象が大きく変わった。
最初は、吸血鬼が女子高生を次々と襲う事件だと思っていた。
しかし、実際には部活動の問題が深く関わっていた。
しかも、その背景には神原駿河の存在がある。
神原は高校時代、女子バスケットボール部の中心選手として活躍していた。
優れた選手であり、チームを引っ張る存在だった。
しかし、彼女が卒業した後も、当時の厳しい練習方法や連帯責任を重視する空気が残っていた。
神原のような選手がいないにもかかわらず、神原がいた頃と同じ水準を求められる。
これでは、後輩たちが苦しくなるのも無理はない。
ここが興味深かった。
優秀な人が作った成功体験が、後の世代にとって負担になることがある。
本人に悪意がなくても、結果として誰かを追い詰めてしまう。
しかも、組織の中では、昔のやり方が簡単には変わらない。
「以前はこれでうまくいった」
「先輩たちも同じ練習をしていた」
そんな理由で、厳しいやり方が続いてしまう。
これは、部活動だけの話ではないと思った。
仕事でも、似たようなことは起こり得る。
昔の成功例をそのまま押しつけられても、状況が違えば同じ結果にはならない。
その現実が、怪異事件の背景として描かれていた。
辞めたいのに辞められない。貼交帰依の追い詰められた気持ち
事件の中心にいた貼交帰依は、女子バスケットボール部を辞めたがっていた。
しかし、簡単には辞められなかった。
厳しい練習についていけない。
成績も下がっている。
それでも、自分が辞めれば仲間に迷惑がかかる。
そう考えてしまうのである。
そして、彼女は恐ろしいことを願うようになる。
何者かに襲われて大怪我をすれば、正当な理由で部活動を辞められるのではないか。
ここが、今回の事件で最も考えさせられた部分だった。
部活動を辞めるために、怪我をしたいと願う。
普通に考えれば、おかしい。
しかし、本人にとっては、それほど追い詰められていたのだ。
辞めたいと言っても認めてもらえない。
自分の意思だけでは抜けられない。
そんな状況では、外から何かが起きることを期待してしまうのかもしれない。
怪異よりも、こちらのほうが怖く感じた。
本来、部活動は自分の成長や楽しみのためにあるはずだ。
しかし、いつの間にか、辞めることすら許されない場所になっている。
その息苦しさが、貼交の行動につながっていた。
もちろん、その後の彼女の行動を正当化できるわけではない。
しかし、なぜ彼女がそこまで追い詰められたのか。
そこを考えずに、単なる悪人として片づけることもできなかった。
神原駿河と日傘星雨。卒業生が後輩の問題に向き合う
暦は事件を調べるため、神原駿河と日傘星雨に協力を求める。
この二人の登場もうれしかった。
神原は相変わらずの調子で、暦との会話も懐かしい。
一方、日傘は部活動の事情を詳しく知っており、調査に役立つ情報を提供してくれる。
そして、二人は現在の女子バスケットボール部が抱える問題を知ることになる。
ここで印象に残ったのは、神原が自分の過去の活躍と向き合うことだった。
神原自身が、後輩たちを苦しめようとしたわけではない。
むしろ、当時は全力で部活動に取り組んでいただけだろう。
しかし、その成功が後輩たちの負担になっていた。
これは、なかなか難しい問題だと思う。
自分が努力して成功したことは、悪いことではない。
けれども、その努力を次の世代にも当然のように求めると、苦しむ人が出てくる。
神原は、自分の知らないところで起きていた問題に向き合わなければならなくなった。
高校を卒業しても、過去との関係が完全になくなるわけではない。
この点も、大学生になった暦の物語らしいと感じた。
日傘家のパジャマパーティ。事件の最中に何をしているんだ
女子バスケットボール部の卒業生たちは、日傘の家に集まっていた。
しかも、パジャマパーティである。
……事件の最中に、ずいぶん楽しそうだな。
もちろん、後輩たちの問題について話し合う目的もある。
しかし、暦がそこへ参加する展開には、思わず笑ってしまった。
女子バスケットボール部の卒業生たちがパジャマ姿で集まっている。
そこへ、大学生の暦がやって来る。
どう考えても場違いである。
しかも、暦は事件の真相をすべて説明できないまま、部活動について質問を続ける。
相変わらず、変な状況に巻き込まれる男だ。
ただ、この場面にも重要な意味があった。
卒業生たちの話を聞くことで、暦は被害者たちの人間関係を整理していく。
同じ部活動に所属していたからといって、全員が同じ悩みを抱えていたわけではない。
仲がよかったとも限らない。
一人ひとりの事情は違う。
このことが、事件の真相へつながっていく。
笑える場面なのに、推理のためには欠かせない。
こうした緩急のつけ方が面白かった。
ミイラの身元は本当に正しいのか。事件の見方がひっくり返る
今回の謎解きで、特に面白かったのが被害者の身元に関する仕掛けだった。
木乃伊化した女子生徒たちは、身体が干からびている。
そのため、顔を見ても誰なのか判別しにくい。
では、どうやって身元を確認していたのか。
制服や携帯電話、鞄などの持ち物である。
ここに落とし穴があった。
持ち物がその人物のものだからといって、身体まで本人とは限らない。
なるほど。
言われてみれば、その通りである。
しかし、事件を追っている間は、そこまで疑っていなかった。
最初に貼交帰依として紹介された木乃伊は、実際には木石総和だった。
本物の貼交は、スーサイドマスターに襲われた後、吸血鬼化に成功していたのである。
そして、ほかの女子バスケットボール部員を襲っていた。
この真相には驚かされた。
最初から、被害者と加害者の立場が入れ替わっていたのだ。
しかも、現場に残された暗号も、スーサイドマスターへ疑いを向けるために利用されていた。
怪異の能力だけではなく、人間的な偽装工作が事件を複雑にしていたのである。
ここは、ミステリーとしても楽しめた。
本当の加害者は貼交帰依。被害者だった少女が復讐を始めた
貼交帰依は、スーサイドマスターによって吸血鬼になった。
そして、強大な力を手に入れたことで、自分を苦しめた部活動の仲間たちを襲うようになった。
この変化が恐ろしかった。
もともとの貼交は、誰かに襲われて怪我をすれば部活動を辞められると考えていた。
つまり、自分が被害者になることを望んでいたのである。
しかし、実際に吸血鬼の力を得ると、今度は自分が加害者になってしまった。
この逆転が印象に残った。
苦しんでいたことは事実だ。
部活動に問題があったことも間違いない。
しかし、だからといって、ほかの部員たちを襲ってよいわけではない。
貼交自身も、復讐を重ねることで満足できたわけではなかった。
むしろ、何をしたいのかわからなくなっていく。
ここに、怪異の力の怖さを感じた。
力を手に入れれば、問題が解決するとは限らない。
むしろ、力があることで、それまで抑えていた感情を行動に移してしまうこともある。
貼交は、部活動から逃れたかった。
しかし、吸血鬼になっても、自分の苦しみから自由にはなれなかったのである。
スーサイドマスターが貼交に迫る選択。吸血鬼として生きる意味
事件の終盤、スーサイドマスターは貼交と向き合う。
そして、ある選択を迫る。
吸血主である自分の血を吸い、人間に戻るのか。
それとも、自分を食らい尽くし、さらに強大な吸血鬼になるのか。
どちらを選ぶのか、という問いである。
ここが興味深かった。
スーサイドマスターは、貼交を単純に叱りつけるわけではない。
吸血鬼として生きることの意味を、本人に考えさせようとする。
貼交は、強い力を手に入れた。
しかし、その力を何のために使うのか決められていない。
復讐しても満足できない。
人間に戻りたいのかどうかも、はっきりしない。
そんな状態で、さらに強くなっても意味があるのだろうか。
この問いが印象に残った。
そして、スーサイドマスター自身も、長い年月を生きる中で疲れ切っていた。
何度も死と再生を繰り返し、かつての力を失っている。
自ら命を絶つのではなく、別の吸血鬼に殺されることを望んでいる。
名前に「スーサイド」とあるだけに、何とも重い話である。
最初は食中毒で倒れた情けない吸血鬼だと思っていた。
しかし、その内側には、長く生きすぎた存在の疲労があった。
笑えるだけのキャラクターではなかったのである。
暦は貼交を責めきれない。自分も吸血鬼になったことがあるから
貼交とスーサイドマスターの間に、暦が割って入る。
ここは、暦らしい場面だった。
貼交は、ほかの部員たちを襲っている。
その行動は許されない。
しかし、暦は彼女を一方的に責めることができない。
自分自身も、かつて吸血鬼になった経験があるからだ。
しかも、暦は多くの人に助けられてきた。
もし、あのとき誰にも助けてもらえなかったら。
もし、別の選択をしていたら。
今の自分とは違う存在になっていたかもしれない。
だから、貼交を完全な悪人として切り捨てることができない。
この迷いが印象に残った。
ただ、貼交の側にも言い分がある。
大学生になった暦には、今の高校生が抱える苦しみはわからない。
そう反発するのである。
ここも考えさせられた。
暦は高校時代に多くの問題を経験してきた。
しかし、だからといって、ほかの高校生の気持ちをすべて理解できるわけではない。
同じ学校に通っていても、置かれた状況は違う。
卒業してしまえば、なおさらだ。
暦が大学生になったことによって、高校生との間に新しい距離が生まれている。
そのことが、今回の事件ではっきりと描かれていた。
影縫余弦が空から登場。結局、物理で解決するのか!
貼交が暦へ襲いかかろうとした、その瞬間。
影縫余弦が現れる。
しかも、上空からである。
そして、強烈な膝蹴りで貼交を一撃で制圧してしまう。
……強すぎる。
暦があれほど悩み、説得しようとしていた相手を、ほぼ一瞬で止めてしまった。
ここは思わず笑ってしまった。
やはり、影縫余弦は格が違う。
不死身の怪異を相手にする専門家として、まったく容赦がない。
しかも、彼女を運んできたのは斧乃木余接だった。
なるほど。
そういう登場方法もあるのか。
暦が悩み続けていた問題を、影縫は迷わず行動して解決する。
この違いが面白かった。
もちろん、影縫の方法がすべて正しいとは限らない。
しかし、危険な相手を前にしたとき、迷っているだけでは誰かが傷つく可能性もある。
暦には、まだその決断が難しい。
そして、影縫が迷わず行動できる理由を尋ねると、大人だからだという答えが返ってくる。
この言葉が印象に残った。
大人になるとは、迷わなくなることなのだろうか。
それとも、迷いながらも必要な行動を選べるようになることなのだろうか。
暦にとっては、まだ答えの出ない問題なのだと思う。
貼交は処分されず、被害者を救う道へ。簡単には終わらない事件
事件が解決した後、貼交はすぐに処分されるわけではなかった。
彼女に吸血された女子生徒たちを元に戻すため、まず貼交自身を人間へ戻す必要があったからだ。
ここが興味深かった。
加害者を倒せば、すべてが終わるわけではない。
被害者たちの身体を元に戻さなければならない。
そして、事件の原因となった部活動の問題も残っている。
貼交が吸血鬼ではなくなったとしても、女子バスケットボール部の環境が変わらなければ、また別の誰かが苦しむかもしれない。
だから、神原や日傘たちも、部活動のあり方を見直すことになる。
ここがよかった。
怪異事件の解決と、現実の問題の解決は同じではない。
吸血鬼を止めても、部活動の厳しい空気がそのままなら、根本的な問題は残ってしまう。
貼交の行動は許されない。
しかし、彼女を追い詰めた環境についても考える必要がある。
そんな落としどころに、今回の物語らしさを感じた。
スーサイドマスターは国外退去。え、それでいいんだ?
そして、もう一つ驚いたのが、スーサイドマスターの処遇だった。
最初に貼交を吸血した責任はある。
しかし、連続吸血事件の直接の実行者ではなかった。
さらに、忍との関係や事件の事情も考慮され、最終的には国外へ送り返されることになる。
……国外退去?
それでいいのか。
太古の吸血鬼である。
忍を吸血鬼に変えた存在である。
しかも、今回の事件の発端にも関わっている。
それが、国外退去という処分で収まるとは。
何とも現実的なようで、現実離れした結末である。
ただ、スーサイドマスターが最初から悪意を持って事件を起こしたわけではないことを考えると、納得できる部分もある。
忍の安否を確かめるために来日した。
しかし、衰弱していたために人間の血を飲み、食中毒のような状態になった。
その結果、吸血鬼化した貼交が別の事件を起こしてしまった。
……改めて整理すると、何とも締まらない話だ。
伝説の吸血鬼が引き起こした騒動としては、あまりにも情けない。
それでも、最後に忍と二人だけで話す時間が設けられたことには、少し安心した。
六百年ぶりの再会である。
互いに昔とは違う姿になっている。
何を話したのかは明かされない。
しかし、その時間には大きな意味があったのだろう。
忍とスーサイドマスター。六百年の時間が変えた関係
今回、スーサイドマスターの登場によって、忍の過去がまた一つ見えてきた。
忍は、かつてアセロラ姫だった。
そして、スーサイドマスターによって吸血鬼となった。
その後、長い年月を生き、キスショットとして恐れられる存在になった。
しかし、現在は暦の影に潜む幼女の姿である。
一方のスーサイドマスターも、かつての力を失い、幼女の姿になっていた。
二人とも、昔とは大きく変わっている。
それでも、過去の関係が完全に消えたわけではない。
この点が印象に残った。
長く生きていれば、誰でも変わる。
昔は強かった人が、弱くなることもある。
かつて誰かを導いていた存在が、今度は助けられる側になることもある。
今回のスーサイドマスターは、まさにそんな存在だった。
忍を吸血鬼にした側だったはずなのに、今では忍や暦たちに助けられている。
その逆転が面白かった。
そして、忍自身も、昔の自分とは違う生き方を選んでいる。
暦と共に暮らし、ドーナツを食べ、八九寺たちとも関わっている。
かつての強大な吸血鬼ではなくなった。
しかし、それが不幸だとは限らない。
むしろ、今の忍には、昔とは違う居場所がある。
そんなことを感じた。
戦場ヶ原ひたぎへの報告。大学生になっても暦は怒られる
事件が終わった後、暦は戦場ヶ原ひたぎに一連の出来事を報告する。
二人の間には、怪異に関することを隠さないという約束がある。
そのため、暦は今回の事件についても説明することになった。
しかし、内容が問題である。
天国でアセロラ姫に会った。
しかも、口移しで唾液をもらった。
女子バスケットボール部の卒業生たちが集まるパジャマパーティにも参加した。
……ひたぎにどう説明するつもりなのだろう。
どちらも、言葉だけ聞けば相当に怪しい。
もちろん、暦には事情がある。
事件を解決するために必要だった行動だ。
しかし、ひたぎが厳しい言葉を返すのも無理はない。
ここは、二人の関係が相変わらずで安心した。
大学生になっても、暦は暦である。
そして、ひたぎもひたぎだった。
ただ、ひたぎは新しい大学生活を充実させ、将来を見据えて勉強している。
その姿と比べると、暦はまだ高校時代の怪異との関係に引っ張られているようにも見える。
ここにも、二人の成長の違いが感じられた。
大学生になっても、暦はまだ大人になりきれない
今回の『忍物語』で印象に残ったのは、暦が高校を卒業しても、まだ大人になりきれていないことだった。
もちろん、以前より成長している。
大学に進学し、新しい友人もできた。
怪異とは無関係の人間関係も築き始めている。
しかし、困っている人を見れば、自分の命を危険にさらしてでも助けようとする。
その危うさは変わっていない。
しかも、今回はその行動によって、忍や八九寺を泣かせてしまった。
自分の善意だけでは、すべてを正当化できない。
誰かを助けるためには、周囲の人たちのことも考える必要がある。
そんな問題に、暦は向き合うことになった。
そして、貼交の事件でも同じことが言える。
彼女を助けたい。
しかし、彼女はほかの人たちを傷つけている。
どこまで許し、どこから責任を取らせるべきなのか。
簡単には決められない。
高校時代の暦なら、まず身体を張って助けようとしただろう。
しかし、大学生になった暦には、その後のことまで考える必要がある。
ここが、今回の物語の大きなテーマだったように感じた。
まとめ|伝説の吸血鬼が食中毒になる一方、暦は大人になる難しさを知る
『忍物語』は、大学1年生になった阿良々木暦が、直江津高校の女子生徒たちを襲う連続吸血事件に関わる物語だった。
全身の水分を失って木乃伊化した女子生徒。
現場に残された暗号。
そして、忍を吸血鬼に変えた太古の吸血鬼、スーサイドマスターの登場。
序盤から、不気味な事件が続く。
しかし、実際にスーサイドマスターが登場すると、予想とは随分違っていた。
まさかの食中毒。
しかも、アセロラ姫の血が特別すぎて、ほかの血を受けつけなくなっていたという。
……吸血鬼として、それはどうなのだろう。
思わず笑ってしまった。
さらに、北白蛇神社で保護されていたことにも驚かされた。
生死郎の灰といい、今回のスーサイドマスターといい、あの神社には重要な怪異が集まりすぎである。
八九寺の仕事が増え続けているような気がする。
一方、事件の真相には、女子バスケットボール部が抱える問題が深く関わっていた。
厳しい練習。
連帯責任。
辞めたくても辞められない空気。
そして、過去の成功体験を後輩たちへ押しつけてしまう組織の問題。
貼交帰依の行動は許されない。
しかし、彼女が追い詰められていたことも事実だった。
怪異を倒すだけでは、問題は終わらない。
部活動の環境そのものを見直す必要がある。
この点が、今回の物語で特に考えさせられた。
また、暦自身の成長も印象的だった。
高校生から大学生になり、新しい友人ができた。
しかし、困っている人を放っておけない性格は相変わらずである。
スーサイドマスターを助けるために地獄へ行こうとして、なぜか天国へ到着する。
しかも、帰ってこられず、忍や八九寺を泣かせてしまう。
……本当に、もう少し自分の命を大切にしてほしい。
それでも、暦は少しずつ学んでいる。
自分の善意だけでは解決できないことがある。
相手の事情を理解しようとしても、すべてを許せるわけではない。
そして、誰かを助けるためには、自分の行動に責任を持たなければならない。
大学生になった暦は、そんな大人になる難しさと向き合い始めている。
そして、最後にもう一つ。
スーサイドマスターの処遇が国外退去で済んだことには、やはり驚いた。
伝説の吸血鬼が来日し、女子高生を吸血し、食中毒で倒れ、神社で保護され、最後は国外退去。
……改めて考えると、すごい話である。
しかし、その騒動を通じて、忍の過去や暦の成長、そして部活動の息苦しさまで描かれていた。
笑える場面も多いが、読み終えると意外なほど考えさせられる。
そんな『物語シリーズ』らしい一冊だった。
そして何より、大学生になっても阿良々木暦は相変わらずだった。
それが少しうれしくもあり、心配でもある。
せめて次に誰かを助けるときは、いきなり死ぬ以外の方法から考えてほしい。
最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察・解説
ストーリー・プロット
第1幕:木乃伊事件の発生と調査協力の依頼
阿良々木暦は大学生活を開始していたが、臥煙伊豆湖に直江津総合病院へ呼び出される。
- 発端:直江津高校1年生の貼交帰依が下校途中に吸血鬼に襲われ、全身が干からびた木乃伊(心臓は動いているが血液が流れていない状態)で発見される。さらに2年生の本能あぶりも自室で同様の木乃伊となって発見されていた。
- 行動:臥煙は影縫余弦が到着するまでの間、土地勘のある暦に捜査協力を要請。大学卒業まで怪異に関わらせないという約束と引き換えに暦は承諾する。
- 変化:第3の被害者(日本教実)が掘っ立て小屋で発見され、襲いかかってきた木乃伊を日光で制止した際、現場から「B777Q」と書かれた単語帳が回収される。
- 原因:現場に残されたメッセージの解読が必要となる。
第2幕:暗号解読と女子バスケットボール部の実態
暦は暗号解読のため大学へ向かう。
- 発端:暦は大学の友人・食飼命日子に単語帳を見せ、解読を依頼する。
- 行動:命日子はアルファベットの置換と素数の順序から「B777Q」を「D・V・S」と解読。臥煙はこれが「デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター」の頭文字であると指摘する。
- 変化:被害者全員が直江津高校の女子バスケットボール部員であることが判明。暦は神原駿河と日傘星雨から部員名簿を入手し、部内の過酷な練習と同調圧力、連帯責任に苦しむ部員の現状と、5名が行方不明(貼交、本能、日本、官宮、木石)になっている事実を知る。
- 原因:事件の背景に部活動のトラブルが存在することが判明し、臥煙は暦に夜間、忍野忍を押さえつけておくよう命じる。
第3幕:スーサイドマスターの発見と天国への迷い込み
暦は自室で忍野忍にスーサイドマスターについて尋ねる。
- 発端:忍からスーサイドマスターの過去や拒食傾向を聞いていたところ、斧乃木余接が現れ北白蛇神社へ誘う。
- 行動:北白蛇神社に向かうと、神となった八九寺真宵が境内で乾眠状態の幼女の木乃伊(スーサイドマスター)を保護していた。八九寺と忍の提案で、回復の薬(血の池地獄の血)を得るため忍の「心渡」で暦を斬り地獄へ送ろうとする。
- 変化:地獄ではなく天国に到達した暦は、忍の前身であるアセロラ姫に出会う。アセロラ姫は自身を食したことでスーサイドマスターが他の血を受けつけなくなった背景を語り、回復の特効薬として唾液を口移しで暦に託す。
- 原因:現世で蘇生が難航して泣いていた忍と八九寺のもとへ臥煙が妖刀「夢渡」で暦を蘇生させ、暦は口移しでスーサイドマスターに唾液を与えて完全復活させる。
第4幕:第4の被害者と犯人像の転換
スーサイドマスターが回復し、夜の神社で忍と異国語で会話を始める。
- 発端:第4の木乃伊として官宮鶚が貯水湖の底から発見され、現場の携帯電話に「820/280/610/160」という数字が残されていた。
- 行動:命日子に解読を依頼すると、摂氏と華氏の気温表記から「F/C」が導き出される。しかし名簿にイニシャル「F・C」の部員は存在しなかった。被害者のDNA鑑定結果がスーサイドマスターのものとほぼ一致したと臥煙から告げられる。
- 変化:スーサイドマスターは「一週間前に着陸失敗で粉々になり、飢えから女子高生を吸血したが食中毒を起こして乾眠した」と告白。臥煙と暦は、スーサイドマスターが最初の一人を吸血した後、吸血鬼化に成功した女子高生が他の部員を襲っていたという真相に気づく。
- 原因:行方不明者のうち誰が吸血鬼化に成功した真犯人なのかを特定する必要が生じる。
第5幕:真犯人の特定と結末
暦は真犯人が神原駿河を狙うのではないかと考え、日傘の家で行われているOGのパジャマパーティへ向かう。
- 発端:神原家を離れて日傘の家に向かった暦は、被害者の携帯電話のストラップの共通点(貼交帰依の木乃伊だけストラップがなく、他はついていた)から、最初に発見された木乃伊が貼交ではなく木石総和であり、貼交帰依自身が吸血鬼化に成功した真犯人であると見破る。
- 行動:貼交が自分の捜査情報を木乃伊の携帯電話を通じて盗聴していたこと、そして神原家へ向かったことに気づいた暦は、自転車を借りて神原家へ急行する。
- 変化:神原家の庭で、貼交帰依はスーサイドマスターに自分を食らい尽くさせ強大な力を得ようとしていた。暦が割り込んで説得を試みるが、貼交は部活動への不満や閉塞感を語り、暦へ襲いかかる。
- 原因:貼交の攻撃に対し、上空から影縫余弦が膝蹴りで飛び込み、貼交を一撃で押し潰して制圧する。
主要な転換点
転換点:現場の暗号から「D・V・S」が解読されたこと
- それ以前の状況:単なる女子生徒の奇病・怪異現象として調査が行われていた。
- 出来事:第3の木乃伊(日本教実)の現場に残された暗号「B777Q」を命日子が解読し、「D・V・S」すなわちスーサイドマスターの名が浮上した。
- 変化:太古の吸血鬼の関与が強く疑われ、臥煙は忍野忍を事件から隔離する方針をとった。
- 次への影響:暦が忍を押さえつける役割を担うことになり、夜間に自室で忍からスーサイドマスターの食性についての情報を引き出すことにつながった。
転換点:北白蛇神社でのスーサイドマスターの発見とアセロラ姫との遭遇
- それ以前の状況:スーサイドマスターは町中を徘徊して女子生徒を襲っている犯人と考えられていた。
- 出来事:八九寺真宵が北白蛇神社で乾眠状態のスーサイドマスターを保護しており、回復のため地獄へ向かおうとした暦が天国でアセロラ姫から唾液を受け取って現世で口移しにより復活させた。
- 変化:容疑者本人が動けない状態(木乃伊)であったことが明かされ、さらにアセロラ姫の唾液で回復したことで本人からの事情聴取が可能になった。
- 次への影響:スーサイドマスター本人から一週間前の着陸失敗と食中毒の経緯が語られ、事件の構図が見直されることになった。
転換点:スーサイドマスターの自白と「吸血鬼化成功者」の存在の発覚
- それ以前の状況:被害者全員が吸血鬼化に失敗して木乃伊化し、スーサイドマスターが一人で全員を襲ったと思われていた。
- 出来事:スーサイドマスターが「飢えから女子高生を吸血したが食中毒を起こして乾眠した」と告白。DNA判定の一致と合わせて、最初の被害者が吸血鬼化に成功し、他の部員を襲っていたことが判明した。
- 変化:犯人像がスーサイドマスターから「吸血鬼化した女子高生」へと入れ替わった。
- 次への影響:真犯人の特定と、真犯人が残した人間的な偽装工作(持ち物のすり替えや盗聴)の解明につながった。
転換点:ストラップの共通点からの身元すり替えの見破り
- それ以前の状況:最初の木乃伊が貼交帰依であり、木石総和が最後の行方不明者と考えられていた。
- 出来事:日傘の家でOGと話していた暦は、被害者の携帯電話のストラップの有無(貼交の木乃伊だけストラップがなく、他はついていた)から、第一の木乃伊が実際には木石総和であり、貼交帰依自身が吸血鬼化に成功した真犯人であると見破った。
- 変化:真犯人の正体が貼交帰依であると特定され、彼女が木乃伊の携帯電話を通じて捜査情報を盗聴していたことが明かされた。
- 次への影響:暦が貼交の狙う先(神原家)へ急行し、直接対峙することにつながった。
阿良々木暦を中心とした人物関係の変化
忍野忍
- 開始時:大学生活を送りつつも影の中で繋がるパートナー関係。
- 主な出来事:臥煙の指示で事件を隠そうとしつつも、過去の吸血主についての話を聞き出し、スーサイドマスターとの再会や蘇生に協力した。忍が主従関係の見栄を張ろうとしたことにも付き合った。
- 巻末時:パートナー関係は維持され、忍が600年ぶりの旧友との再会を果たしたことを見届けた。
臥煙伊豆湖
- 開始時:頭の上がらない協力関係(事件解決後に卒業までの不干渉を約束)。
- 主な出来事:要請を受けて捜査に協力したが、暦が独断で地獄(天国)へ向かったことで一時は不満を示された。すり替え工作により当初は犯人像を見誤ったが、最終的に事件を解決した。
- 巻末時:約束通り大学卒業まで関わらないことになった。
貼交帰依
- 開始時:面識のない母校(直江津高校)の1年生の後輩。
- 主な出来事:部活動の苦痛から吸血鬼化し、仲間を襲ってすり替え工作を行っていた貼交に対し、暦が説得を試みたが反発された。
- 巻末時:影縫に制圧された後、被害者達を人間に戻すための措置(治療実験)を受けることとなり、暦も神原らとともに部活動の環境改善に関わることとなった。
食飼命日子
- 開始時:大学でできた怪異と無関係な数学科の友人。
- 主な出来事:2度にわたり現場の暗号の解読を依頼し、迅速に解いてくれた。
- 巻末時:怪異への巻き込みを避けつつも、大学生活での貴重な友人関係が継続している。
主人公の認識と周囲の評価
主人公自身の認識
大学1年生となり、高校時代のようなトラブル解決(「ハリキリボーイ」)から落ち着き、怪異や専門家と無縁のキャンパスライフを送りたいと考えている。自分を「ただの人間」「素人大学生」と捉えており、過去の自分の軽率な行動(死亡中毒、不死身への依存)を反省している。
周囲からの評価
- 臥煙伊豆湖:フットワークが軽く頼れる存在と見なしつつも、計算通りに動かない不確定要素として評価。「思っている以上に信頼している」と語る。
- 日傘星雨・直江津高校の生徒等:「直江津高校を卒業した唯一の不良生徒」「変態と名高き阿良々木先輩」などの噂が流れている。
- 貼交帰依:人助け気取りで自分達の閉塞感や苦痛を理解していない「特別な存在」として見なす。
認識の差が現れた場面
貼交帰依と対峙した際、暦は「やり過ぎだ、取り返しがつく」と説得を試みたが、貼交から「高校生の閉塞感や苦痛を忘れた」「自分達の泥のような感情を分かっていない」と反発され、暦自身も自分がすでに高校生ではなく無関係な大人・第三者になりつつあることを痛感した。
登場キャラクター
私立直江津高校(女子バスケットボール部員・OG)
貼交 帰依
私立直江津高校の1年生。部活の厳しい練習に追い詰められ、怪異に遭遇して吸血鬼化を選ぶ。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・1年生部員。
・物語内での具体的な行動や成果 デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターに遭遇して吸血鬼化する。自身の所持品を木石総和の木乃伊へ持たせる偽装工作を行う。自らを第一の被害者に見せかける。他の部員たちを次々と襲撃して木乃伊化させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 阿良々木暦と影縫余弦により制圧される。事件後に人間に戻るための処置を受ける。部活動の体制を見直すきっかけを作る。
木石 総和
私立直江津高校の2年生。女子バスケットボール部に所属する。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・2年生部員。
・物語内での具体的な行動や成果 貼交帰依により最初の被害者として襲われる。木乃伊化させられた上で貼交の所持品を持たされる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 体育館の個人ロッカーに制服やスクールバッグを残す。事件の真相解明により、実際の第ゼロの被害者と判明する。
本能 あぶり
私立直江津高校の2年生。女子バスケットボール部に所属する。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・2年生部員。
・物語内での具体的な行動や成果 自宅の布団で木乃伊化した状態で発見される。母親が発見を警察へ報告する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 事件の第二の被害者として直江津総合病院へ搬送される。
日本 教実
私立直江津高校の1年生。女子バスケットボール部に所属する。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・1年生部員。
・物語内での具体的な行動や成果 通学路脇の掘っ立て小屋で木乃伊化して横たわる。調査に訪れた阿良々木暦へ襲いかかる。現場に「B777Q」と書かれた単語帳を残す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 第三の被害者として発見される。残された単語帳の暗号が事件調査の足がかりとなる。
官宮 鶚
私立直江津高校の2年生。女子バスケットボール部に所属する。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・2年生部員。
・物語内での具体的な行動や成果 重りをつけられた状態で貯水湖の底へ沈められる。携帯電話の画面に数字の暗号を残す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 第四の被害者として引き上げられる。
神原 駿河
私立直江津高校の3年生。女子バスケットボール部の元キャプテン兼エース。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・3年生。女子バスケットボール部元キャプテン。
・物語内での具体的な行動や成果 阿良々木暦からの相談を受ける。同期の日傘星雨を紹介する。女子バスケットボール部の現状や部員消失の情報を共有する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 怪異「左腕」をすでに失っている。過去に築いた黄金時代の練習体制が後輩部員の重圧となる。
日傘 星雨
私立直江津高校の3年生。神原駿河の同期で女子バスケットボール部前キャプテン。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・3年生。女子バスケットボール部前キャプテン。
・物語内での具体的な行動や成果 部員百人分の個人情報を記載した名簿を管理する。阿良々木暦へ名簿を提供して部活動の現状を説明する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 引退後も後輩たちの状況を懸念する。3年生OG会を集めて対策を議論する場を設ける。
忍野 扇
私立直江津高校の生徒。ミステリマニアの暗黒少女。
・所属組織、地位や役職 私立直江津高校・生徒。
・物語内での具体的な行動や成果 過去に忍野メメや影縫余弦を排除するための結界を町に張る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 執行猶予期間中として扱われる。今回の事件では阿良々木暦の相談対象から除外される。
国立曲直瀬大学
阿良々木 暦
国立曲直瀬大学理学部1年生。かつて吸血鬼化した経験を持つ本編の主人公。
・所属組織、地位や役職 国立曲直瀬大学・理学部1年生。
・物語内での具体的な行動や成果 臥煙伊豆湖から依頼を受け、女子生徒の木乃伊化事件を調査する。現場で発見された暗号の解読を試みる。天国でアセロラ姫から唾液を受け取り、スーサイドマスターを乾眠から回復させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 高校時代は自転車通学を行う。大学入学後はフォルクスワーゲン・ニュービートルに乗る。怪異事件からの引退を目指しつつも解決へ奔走する。
食飼 命日子
国立曲直瀬大学数学科1年生。阿良々木暦が大学で得た友人。
・所属組織、地位や役職 国立曲直瀬大学・数学科1年生。
・物語内での具体的な行動や成果 暗号マニアの知識を活かす。暦から持ち込まれた「B777Q」や「820/280/610/160」の暗号を短時間で解読する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 警視庁サイバー犯罪対策課への就職を目指す。怪異とは無関係な友人として暦と交流する。
怪異の専門家・陰陽師
臥煙 伊豆湖
怪異の専門家の元締め。あらゆる知識を持つ女性。
・所属組織、地位や役職 怪異の専門家・元締め。
・物語内での具体的な行動や成果 直江津総合病院へ阿良々木暦を呼び出す。木乃伊化した女子生徒たちの防衛や調査の指揮を執る。吸血鬼遺伝子の解析を行い、犯行の共通点を特定する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 事件解決への協力と引き換えに、暦の大学卒業まで姿を現さない約束を交わす。神原駿河の母である臥煙遠江の妹。
影縫 余弦
不死身の怪異を専門とする暴力陰陽師。圧倒的な格闘能力を持つ。
・所属組織、地位や役職 怪異の専門家・陰陽師。
・物語内での具体的な行動や成果 北極から斧乃木余接の能力により移動する。神原家の庭へ降下し、吸血鬼化した貼交帰依を一撃で制圧する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 道を歩けない呪いを保持する。スーサイドマスターとの間に過去の因縁が存在する。
斧乃木 余接
影縫余弦の式神である死体人形。無表情な童女の姿を保つ。
・所属組織、地位や役職 影縫余弦の式神。憑喪神。
・物語内での具体的な行動や成果 阿良々木暦の自室へ現れ、八九寺真宵からの伝言を届ける。影縫余弦を北極から現地へ高速輸送する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 普段は阿良々木月火の部屋で等身大のぬいぐるみとして過ごす。
怪異・吸血鬼・神
デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター
太古の吸血鬼。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの吸血主兼名付け親。
・所属組織、地位や役職 太古の吸血鬼。「死体城」の城主。
・物語内での具体的な行動や成果 忍野忍の安否確認のために来日する。弱体化した状態で貼交帰依を吸血し、食中毒を起こして乾眠状態に陥る。北白蛇神社で阿良々木暦から与えられたアセロラ姫の唾液により回復する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 かつてアセロラ姫の血を味わって以来、他の血を受けつけない拒食症となる。事件解決後に国外退去処分となる。
忍野 忍(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)
阿良々木暦の影に潜む吸血鬼のなれの果て。金髪金眼の幼女の姿をとる。
・所属組織、地位や役職 怪異(かつての吸血鬼の王)。阿良々木暦のパートナー。
・物語内での具体的な行動や成果 暦の自室で監禁状態となる。スーサイドマスターの過去や性質を暦へ語る。北白蛇神社でかつてのあるじと600年ぶりに再会する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 かつては「鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼」と恐れられた。現在はミスタードーナツを好む。
アセロラ姫(うつくし姫)
キスショットが人間だった頃の美しい魂。天国に存在する。
・所属組織、地位や役職 元・人間。天国の住人。
・物語内での具体的な行動や成果 地獄へ向かおうとした阿良々木暦を天国へ引き上げる。スーサイドマスターを回復させる特効薬として自身の唾液を暦へ託す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 類まれなる美しさゆえに国々を滅ぼした過去を持つ。スーサイドマスターに血を吸わせたことを自らの罪として背負う。
八九寺 真宵
北白蛇神社の神。元は蝸牛の迷子霊。
・所属組織、地位や役職 北白蛇神社・神。
・物語内での具体的な行動や成果 境内で倒れていたスーサイドマスターを保護し、本殿に安置する。斧乃木余接を通じて阿良々木暦へ連絡を入れる。地獄から回復薬を得る提案を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 町の平和を統治する。阿良々木暦の苗字を間違えるやり取りを継続する。
私立栂の木高校 / 中学校(阿良々木家)
阿良々木 火憐
私立栂の木高校1年生。阿良々木暦の大きい方の妹。
・所属組織、地位や役職 私立栂の木高校・1年生。元「ファイヤーシスターズ」実動担当。
・物語内での具体的な行動や成果 帰宅した阿良々木暦から神原駿河のファンクラブについて質問を受ける。ファンクラブが既に解散している状況を説明する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 身長が非常に高く、打撃系格闘技の道場に通い続ける。
阿良々木 月火
栂の木第二中学校3年生。阿良々木暦の小さい方の妹。
・所属組織、地位や役職 栂の木第二中学校・3年生。元「ファイヤーシスターズ」参謀担当。
・物語内での具体的な行動や成果 自宅の部屋で真面目に勉強に取り組む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 自分の部屋に斧乃木余接を等身大のぬいぐるみとして置く。

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展開まとめ
第一話 しのぶマスタード
女子バスケットボール部の苦悩
私立直江津高校に入学した貼交帰依は、女子バスケットボール部に所属したことを後悔していた。かつて神原駿河が活躍した名門の面影を残す部には、厳しい練習と強い連帯意識だけが受け継がれていた。貼交は練習についていけず、成績も下がり続けていたが、仲間への負担を考えると退部を申し出ることもできなかった。
追い詰められた貼交は、何者かに襲われて大怪我をすれば、正当な理由で部活動を辞められると考えるほどになっていた。その願望は人間の暴漢だけでなく、妖怪や怪異にまで向けられた。
そんな貼交の前に、金髪金眼の吸血鬼が現れた。吸血鬼はデストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターと名乗り、貼交に牙を向けた。
直江津高校の女子生徒の木乃伊化
大学一年生になった阿良々木暦は、臥煙伊豆湖に呼び出され、直江津総合病院を訪れた。そこで見せられたのは、全身から水分を失い、木乃伊のように干からびた女子生徒であった。
臥煙によれば、少女は直江津高校一年生の貼交帰依であり、下校途中に吸血鬼に襲われたという。身体は乾燥していたが、心臓は動き、呼吸も続いていた。首筋には吸血鬼に噛まれたような傷があり、吸血鬼化に失敗した状態と考えられていた。
さらに、同じように木乃伊化した女子生徒がもう一人入院していた。臥煙は被害の拡大を警戒し、不死身の怪異を専門とする影縫余弦を呼び戻そうとしていた。しかし、影縫の到着には時間がかかるため、それまでの調査に暦の協力を求めた。
暦は大学生活を優先したいと考えていたが、母校の生徒が次々に襲われている状況を放置できなかった。臥煙が提示した、大学卒業まで怪異の事件に関わらせないという条件もあり、調査への参加を承諾した。
第三の木乃伊と暗号
調査を始めた矢先、第三の被害者が発見された。直江津高校一年生の日本教実であり、人目につかない小屋の中で木乃伊化していた。
暦が不用意に近づくと、日本の身体は突然動き出し、爪と牙で襲いかかってきた。臥煙の助けで難を逃れたものの、意識を失ったように見える木乃伊にも吸血鬼の危険性が残っていることが明らかになった。
現場には、B777Qと書かれた単語帳が残されていた。暦はその文字列が事件に関係する暗号ではないかと考え、大学の友人である食飼命日子に解読を依頼した。
暗号学に関心を持つ命日子は、アルファベットの形を数字に置き換え、素数の順序を利用して文字へ戻す方法を考えた。その結果、B777QはD・V・Sという頭文字に変換できた。
暦が解読結果を臥煙に伝えると、彼女はデストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターの名前を挙げた。暗号は、太古の吸血鬼を指し示している可能性があった。
神原駿河と日傘星雨
暦は、被害者に直江津高校の女子生徒という共通点があることから、母校の事情を調べ始めた。そこで協力を求めたのが、女子バスケットボール部の元主将である神原駿河だった。
神原は受験勉強を続けながら、以前と変わらない様子で暦を迎えた。さらに、部活動の事情に詳しい元部員の日傘星雨を紹介した。
日傘が保管していた部員名簿を調べると、木乃伊化した女子生徒はいずれも女子バスケットボール部に所属していたことが分かった。しかも、現在所在を確認できない部員は五人いた。
すでに発見された貼交帰依、本能あぶり、日本教実に加え、二年生の官宮鸚と木石総和も行方が分からなくなっていた。
暦は、単に同じ学校の女子生徒が狙われているのではなく、女子バスケットボール部そのものが事件の中心にあると考えた。
神原の栄光が残した部活動の重圧
神原と日傘から事情を聞いた暦は、現在の女子バスケットボール部が抱える問題を知った。
神原の在籍中、部は優秀な選手の活躍によって高い評価を得ていた。しかし神原が引退した後も、当時の厳しい練習方法や連帯責任を重視する雰囲気が残っていた。現在の部員達は、かつての成功を再現するよう求められながら、その重圧に苦しんでいた。
暦は、神原自身が悪意を持って後輩達を苦しめたわけではないと理解していた。それでも、優れた選手の存在が後の世代に負担を残すことはあり得た。
神原と日傘も、後輩達が置かれた状況を知り、部活動のあり方を考え直す必要を感じた。暦は事件の調査だけでなく、部員達が抱える問題の改善にも協力しようとした。
忍野忍と吸血鬼の血筋
暦は自分の影に潜む忍野忍に、スーサイドマスターについて尋ねた。
忍にとってスーサイドマスターは、単なる知人ではなかった。かつて人間だった忍を吸血鬼へ変え、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという名前を与えた存在だった。
忍は、スーサイドマスターが強大な吸血鬼である一方、長い年月を経て特殊な食性を持つようになったことを語った。かつて口にした「うつくし姫」の血があまりにも特別だったため、それ以外の血では満足できなくなっていたのである。
そのような吸血鬼が、現代の女子高生を次々に襲っているという状況は不自然だった。しかし、現場の暗号がスーサイドマスターを指している以上、無関係だと断定することもできなかった。
北白蛇神社の謎の木乃伊
夜になり、暦のもとへ斧乃木余接が現れた。余接は北白蛇神社の神となった八九寺真宵からの伝言を届け、暦と忍を神社へ呼び出した。
二人が神社を訪れると、八九寺は本殿に匿っていた奇妙な存在を見せた。それは金髪の幼女の姿をした木乃伊であり、忍はすぐにスーサイドマスターだと見抜いた。
暦達が連続吸血事件の容疑者として追っていた吸血鬼自身が、被害者達と似たような姿で倒れていたのである。
忍によれば、スーサイドマスターは単純に吸血鬼化に失敗したのではなく、生命を維持するための乾眠状態に入っていた。極端な衰弱から身を守るため、活動を停止していると考えられた。
八九寺は町の神として、訪問者を見殺しにはできないと考えていた。事件の真相を知るためにも、スーサイドマスターを回復させる必要があった。
血の池地獄への再訪
八九寺は、スーサイドマスターを回復させるため、暦に血の池地獄から血を持ち帰るよう求めた。
暦は以前、地獄を訪れた経験があった。しかし今回は、吸血鬼を救うために自ら地獄へ向かわなければならなかった。
忍と八九寺は妖刀を用い、暦を一度殺して地獄へ送り、その後に蘇生させる方法を試みた。ところが、暦は予定していた地獄ではなく、天国へ導かれてしまった。
暦がそこで出会ったのは、吸血鬼になる前の忍であるアセロラ姫だった。
天国のアセロラ姫
アセロラ姫は、かつて美しすぎるがゆえに周囲の人々を死へ追いやり、国々を滅ぼす結果となった女性であった。現在の忍とは異なり、穏やかで気品に満ちた姿をしていた。
姫は暦を迎え、自分の故郷を模した天国の風景を案内した。暦は、彼女が自分の美しさによって起きた悲劇を背負い続けていることを知った。
また、アセロラ姫はスーサイドマスターについても語った。かつて彼女の血を味わった吸血鬼は、その特別な味を忘れられず、ほかの血を受けつけなくなっていた。
暦が血の池地獄の血を持ち帰ろうとしていることを知った姫は、それでは十分な効果を得られない可能性を示した。
アセロラ姫の唾液
暦は、スーサイドマスターを救うために必要なものをアセロラ姫から受け取った。
姫は暦に口移しで唾液を含ませた。それは、スーサイドマスターがかつて味わった特別な存在に由来するものであり、血の池地獄の血に代わる手段となった。
しかし暦は、天国から戻る方法を自分で選べなかった。地獄へ行くはずだった計画が狂い、現世で待つ忍達は暦が帰ってこないことに動揺していた。
忍と八九寺は余接を通じて臥煙に助けを求め、臥煙は妖刀を使って暦を蘇生させた。
暦が目覚めると、忍と八九寺は安堵して泣いていた。一方の臥煙は、重要な調査を任せた暦が相談もなく危険な行動を取ったことに不満を示した。暦は、自分の行動が仲間の信頼を損なったことを反省した。
スーサイドマスターの回復
暦は天国で得たものを使い、乾眠状態のスーサイドマスターを回復させた。
蘇った吸血鬼は、幼女の姿でありながら尊大な態度を崩さず、暦や臥煙に接した。忍との再会も果たし、長い年月を経て変わり果てた互いの姿を目にした。
忍はかつての強大な吸血鬼ではなく、スーサイドマスターもまた著しく弱体化していた。それでも二人の間には、六百年前から続く特別な関係が残っていた。
スーサイドマスターは、忍が日本で退治されたという噂を聞き、その安否を確かめるために来日したと説明した。忍の血を求めて襲撃に来たわけではなく、古い友人を訪ねたのであった。
ただし、来日した理由が明らかになっても、女子生徒達の吸血事件との関係は解決していなかった。
第四の木乃伊と新たな暗号
調査を続けていた臥煙のもとに、第四の木乃伊が発見されたという知らせが届いた。被害者は行方不明になっていた官宮鸚であり、貯水湖に沈められていた。
これによって、所在が分からない女子バスケットボール部員は木石総和だけとなった。
官宮の所持品からも数字を使った暗号が見つかり、暦は再び命日子の協力を得て解読を進めた。暗号が示す意味や、被害者達の持ち物に残された痕跡を調べるうちに、事件には意図的な偽装が含まれている可能性が浮かび上がった。
臥煙は、単に吸血鬼が人間の血を求めているだけでは説明できない点に注目した。被害者の発見場所や所持品の扱いには、追跡を妨害するための細工が見られたのである。
神原家での事情聴取の準備
暦はスーサイドマスターと忍を再会させるため、神原の協力を得て場所を確保した。
忍は、かつての自分がスーサイドマスターの眷属だったことを意識し、再会に際して暦を従者のように振る舞わせようとした。現在の弱体化した姿を見られることへの抵抗もあり、昔の関係を再現しようとしたのである。
一方、臥煙はスーサイドマスターを容疑者として調べる必要があると考えていた。忍との関係を考慮し、強引な討伐ではなく事情聴取によって真相へ近づこうとした。
暦も、吸血鬼が本当に事件を起こしたのかを見極めるまでは、安易に敵と決めつけるべきではないと考えた。
吸血鬼の遺伝子と疑惑
臥煙の調査によって、被害者達から検出された吸血鬼の遺伝的特徴が、スーサイドマスターのものとほぼ一致していることが分かった。
この結果はスーサイドマスターの関与を強く疑わせた。しかし暦は、吸血鬼が眷属を作る性質を持つことを考えれば、同じ特徴が検出されても本人の犯行とは限らないと考えた。
また、スーサイドマスターは美食家であり、アセロラ姫以外の血を受けつけなくなっていた。そんな吸血鬼が、女子バスケットボール部員だけを狙って次々に吸血することにも疑問が残った。
臥煙も、事件に関わる吸血鬼が一人だけとは限らない可能性を考え始めた。
スーサイドマスターの衰弱と食中毒
スーサイドマスターは、自分が来日してから弱体化していた経緯を語った。
長年にわたって強敵から逃れ、死と再生を繰り返すうちに、かつての力は失われていた。本人は衰えを十分に自覚しておらず、日本へ到着して初めて幼女の姿にまで退行していることを知った。
さらに、極度の飢えと衰弱に苦しんでいたスーサイドマスターは、従来の美食へのこだわりを曲げ、人間の血を口にしていた。
しかし、アセロラ姫の血に慣れきった身体は、それ以外の血を受けつけなかった。吸血によって回復するどころか、食中毒のような状態に陥り、乾眠するしかなくなったのである。
これによって、スーサイドマスター自身が木乃伊化していた理由は明らかになった。
吸血鬼化に成功した女子生徒
スーサイドマスターが衰弱した理由を知った臥煙は、事件の構図を考え直した。
それまで暦達は、襲われた女子生徒が全員吸血鬼化に失敗し、木乃伊になったと考えていた。しかし、吸血鬼化に成功した女子生徒がいたとすれば、その人物自身が次の被害者を襲うこともできた。
スーサイドマスターが最初の一人を吸血し、その少女が吸血鬼になった後で別の部員達を襲ったと考えれば、事件の不自然な点を説明できた。
吸血鬼の遺伝的特徴が一致していたことも、吸血主と眷属の関係によるものだった。
臥煙達は、スーサイドマスターを唯一の犯人と考えていた前提を改め、吸血鬼化に成功した女子生徒を捜すことにした。
木石総和への疑惑
行方不明になっていた木石総和の所持品は、直江津高校の女子バスケットボール部が使用する更衣室の個人ロッカーから発見されていた。
制服やユニフォーム、携帯電話などが残されていたため、暦達は木石も被害に遭ったと考えていた。しかし、木乃伊そのものは発見されていなかった。
臥煙は、木石が吸血鬼化に成功し、ほかの部員達を襲っていた可能性を考えた。部活動で抱えていた不満や人間関係の軋轢が、吸血鬼となった後の行動につながったとすれば、被害者が同じ部に集中していた理由も説明できた。
暦達は木石の捜索を進める一方、残る部員達を保護し、次の被害を防ごうとした。
日傘家のパジャマパーティ
神原と日傘は、現在の女子バスケットボール部の問題について話し合うため、卒業生達を日傘の家に集めていた。
暦は、木石が神原や部の関係者を狙う可能性を考え、集まった卒業生達の安全を確保するために日傘家を訪れた。
そこでは女子バスケットボール部の卒業生達がパジャマ姿で集まり、近況や後輩達の状況を話していた。暦は場違いな参加者となったが、事件の真相を伝えられないまま、部活動について質問を重ねた。
卒業生達との会話を通じて、木石を含む行方不明者達が必ずしも親しい仲間ではなかったことが分かった。また、部員達にはそれぞれ異なる悩みがあり、同じ部活動に所属しているという理由だけでは事情を説明できなかった。
暦は五人の共通点を探すうちに、むしろ一人だけ異なる存在がいる可能性へ考えを向けた。
被害者の入れ替え
暦は、木乃伊化した女子生徒の身元を確認した方法そのものに問題があったと理解した。
臥煙達は、木乃伊が着ていた制服や所持していた携帯電話、鞄などをもとに被害者の名前を判断していた。しかし、身体が干からびて容貌を判別できない以上、持ち物を入れ替えれば別人になりすますことができた。
最初に貼交帰依として紹介された木乃伊は、実際には木石総和だったのである。
事件の発端でスーサイドマスターに襲われたのは貼交であり、貼交は吸血鬼化に成功していた。一方、木石は貼交によって吸血され、木乃伊化していた。
貼交は木石の身体に自分の所持品を持たせ、被害者として扱われるよう偽装した。その後も、ほかの女子バスケットボール部員を襲っていた。
暗号に仕込まれた偽装
暦は、最初の現場で見つかった暗号も改めて考え直した。
B777Qから導かれたD・V・Sは、スーサイドマスターを示していた。しかし、それは犯人が残した署名とは限らなかった。
貼交はスーサイドマスターの名前を利用し、調査する者達の疑いを太古の吸血鬼へ向けさせようとしていたのである。
また、被害者達の携帯電話などを利用すれば、調査側の行動を把握することも可能だった。暦達は怪異の性質や暗号の意味に注目するあまり、持ち物のすり替えや情報収集といった人間的な偽装工作を見落としていた。
暦は、怪異の専門家である臥煙でさえ、通常の犯罪捜査とは異なる発想にとらわれていたことを理解した。
神原家へ向かう貼交帰依
貼交の目的を考え直した暦は、日傘家に集まった卒業生達よりも、神原家が狙われる可能性に思い至った。
女子バスケットボール部に残る厳しい練習や連帯責任の原点には、神原が築いた黄金時代があった。貼交が部活動への恨みを抱いているなら、神原自身が標的になっても不思議ではなかった。
暦は急いで神原家へ向かおうとした。しかし、移動手段がなく、時間も限られていたため、思うように動けなかった。
それでも暦は神原家へたどり着き、そこで金髪金眼の女子高生と、金髪金眼の幼女が向き合っている場面に遭遇した。
女子高生は、吸血鬼となった貼交帰依だった。
貼交帰依とスーサイドマスターの対話
貼交は、スーサイドマスターによって吸血鬼になった後、自分を苦しめた部活動の仲間達を襲っていた。
かつては何者かに襲われて部活動を辞める理由が欲しいと願っていたが、実際に強大な力を得ると、その力を使って自分の不満を晴らそうとしたのである。
しかし、仲間達への復讐を重ねても満足は得られなかった。吸血鬼として生きることにも明確な目的を見いだせず、空虚さを抱えていた。
スーサイドマスターは、貼交が自分の力を復讐に使っていることを聞き、その生き方を問いただした。貼交が自ら吸血鬼になることを望んだとしても、その後の行動まで正当化されるわけではなかった。
吸血主を食べる選択
スーサイドマスターは貼交に、自分を吸血するか、食らい尽くすかという選択を提示した。
吸血主であるスーサイドマスターの血を吸えば、貼交は人間へ戻ることができた。一方、吸血主を食らい尽くせば、さらに強大な吸血鬼になることができた。
どちらの道を選んでも、貼交にとっては現在の状況を変える機会となった。
スーサイドマスター自身は長い年月を生き、度重なる死と再生によって衰弱していた。自ら命を絶つのではなく、別の吸血鬼に殺されることを望み、貼交に選択を委ねたのである。
貼交はその提案を受け入れ、スーサイドマスターを殺すことを決めた。
暦の介入と迷い
貼交がスーサイドマスターを襲おうとしたところへ、暦が割って入った。
暦は貼交に、まだ取り返しがつくかもしれないと説得を試みた。襲われた部員達を元に戻し、貼交自身も人間に戻る方法を考えようとしたのである。
しかし貼交は、暦が自分の苦しみを理解していないと反発した。高校を卒業して大学生になった暦には、現在の高校生が抱える閉塞感や追い詰められた気持ちを簡単には理解できなかった。
暦自身も、かつて吸血鬼となり、多くの人々に助けられた経験があった。そのため貼交を一方的に責めることはできず、かといって彼女の行動を許すこともできなかった。
暦は、自分が高校生だった頃と同じように行動できないことを痛感した。
影縫余弦の到着
貼交が暦へ襲いかかろうとした瞬間、上空から影縫余弦が現れた。
影縫は強烈な膝蹴りを貼交の頭に叩き込み、吸血鬼となった女子高生を一撃で制圧した。
暦は影縫の到着が予想より早かったことに驚いたが、斧乃木余接が主人である影縫を運び、現場へ送り込んだことを理解した。
影縫は、不死身の怪異を相手にする以上、攻撃をためらう必要はないという姿勢を崩さなかった。暦はその容赦のなさに戸惑いながらも、事件の決着を迎えた。
貼交を見た影縫に何者かと尋ねられた暦は、彼女が自分と似た存在であると答えた。吸血鬼になり、間違いを重ねた貼交の姿に、かつての自分と重なる部分を見ていたのである。
貼交帰依と被害者達のその後
事件後、貼交は直ちに処分されることなく、被害者達を救うための措置を受けることになった。
貼交が吸血鬼のままでは、彼女に吸血された四人を元に戻すことができなかった。そのため、貼交を人間に戻すことが優先された。
貼交には、女子バスケットボール部の活動を見直すための取り組みに関わる役割も与えられた。部活動への不満が事件の発端となった以上、同じように苦しむ後輩を生まないための対応が必要だった。
暦もまた、神原達と協力して部の問題を改善することに意味があると考えた。
スーサイドマスターの国外退去
スーサイドマスターは、最初に貼交を吸血した責任を免れなかった。しかし、長年にわたって人間を襲っていたわけではなく、今回も連続吸血事件の直接の実行者ではなかった。
臥煙と八九寺の対応により、スーサイドマスターは国外へ送り返されることになった。
出国前には忍と二人だけで話す機会が設けられた。六百年ぶりに再会した二人が何を語ったのか、暦は知らなかった。
かつて忍を吸血鬼へ変えた存在との再会は、事件の解決だけでなく、忍自身の過去と現在をつなぐ出来事となった。
戦場ヶ原ひたぎへの報告
事件が終わった後、暦は大学のカフェテリアで戦場ヶ原ひたぎと会い、一連の出来事を話した。
暦とひたぎは、怪異に関わる出来事を互いに隠さないことを交際の約束としていた。暦は天国でアセロラ姫に会ったことや、神原達のパジャマパーティに参加したこと、貼交との対決までを説明した。
ひたぎは暦の行動に厳しい言葉を返しながらも、事件の結末に関心を示した。
大学生になったひたぎは、新しい生活を充実させ、将来を見据えて勉強を続けていた。暦はそんなひたぎと比べ、自分がまだ過去の経験にとらわれ、迷い続けていることを感じた。
新たな友人と大人への距離
暦は、事件を通じて大学の友人である食飼命日子の存在にも助けられた。
命日子は怪異とは無関係の場所で知り合った友人であり、暗号の解読を通じて暦の調査を支えていた。暦にとって、怪異に関わらない普通の人間関係を持てたことは、大学生活で得た大切な変化だった。
一方、事件では臥煙や忍、八九寺との信頼関係を危うくする行動も取っていた。暦は、自分の善意だけでは問題を解決できず、周囲への責任も考えなければならないと実感した。
影縫が迷わず行動できる理由を尋ねたとき、彼女は大人だからだと答えていた。
暦は、自分が正しいと信じ切ることも、迷いを捨てることもできなかった。高校を卒業し、大学生になってもなお、何を選ぶべきか悩み続けていたのである。
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