小説【よう実】「ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 2」感想・ネタバレ

小説【よう実】「ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 2」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンル:高度育成高校という学園を舞台とする、心理戦・策略のダーク・学園異文系ファンタジーである。主人公・綾小路清隆が“実力”を巡る生徒間の競争の泥沼に身を置きながらも、自らが演じ続ける“普通の生徒”像を通じて、「本当の力とは何か」を問い続ける物語である。

内容紹介
第2巻において、綾小路はCクラスのリーダーとして完全に認められ、これまで無縁だったCクラスの面々と関係を構築し始める。同時に、担任教師より「明日から新試験、詳細は一週間後発表のみ」と告げられた状況下で、クラス全体が試験内容を推察しつつ戦略を練る。対照的に、Aクラスを率いる堀北鈴音らは春以降の累積ストレスにより精神的に分断され、蛇行する中で仲間との協議や生徒会メンバーとの協力を通じて揺れる結束に小さな亀裂と修復を繰り返す展開となる。

主要キャラクター

  • 綾小路 清隆:Cクラスのリーダーとしての器量を認められる策略家。自身の“普通の人”という仮面の下、常に合理と強さを持って環境を制御する存在である。
  • 堀北 鈴音:以前はDクラスから一転してAクラスに君臨する高評価生徒会長。高い知性と責任感を持つ一方で、人間関係と自身への期待に葛藤するキャラクターである。
  • 龍園 祥:Bクラスの覇者とされる武闘派リーダー。冷酷かつ策略に富んだ統率力を持ち、綾小路とは直接対決する可能性も孕む競争相手である。
  • 櫛田 桔梗:元Dクラスに所属した生徒会メンバー。表面的な穏やかさの裏に強さと硬い意志を秘め、堀北らとの結束にも影響を与える“校内の重石”である。
  • 一之瀬 帆波:Dクラスから学生会長へ就任し、情報操作と交渉力を駆使して校内の最重要ポジションを占める実力者。綾小路や堀北と密やかな駆け引きを展開する陰のフィクサーである。

物語の特徴

本巻は最終学年を舞台とし、「Aクラスで卒業できるのはただ一クラスのみ」という極限的競争が全生徒を心理的・戦略的に波立たせる展開が最大の魅力である。情報が限定された試験を前にしてCクラスが統一戦略を立案する一方、Aクラスは内部の軋轢によって結束を乱される。学力だけでなく洞察力・仲間内政治・時には“嘘”への対応力も問われる、徹底した心理戦の構造が他作品と一線を画す。さらに、綾小路内に芽生えた“恋に近い情感”の描写が、従来の理性的イメージに対する揺らぎを生じさせるなど、心理描写にも深みが加わっている(挫折と覚醒、成長と裏切りの並走が読者の知的好奇心を刺激する)。

書籍情報

ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編2
著者 衣笠彰梧 氏
イラスト トモセ シュンサク 氏
出版社 KADOKAWAMF文庫J
発売日 2025年7月25日
ISBN 978‑4046849762

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あらすじ・内容

「今日は徹底的におまえの秘密を白状してもらうつもりだ」
リーダーと認められた綾小路。これまで関わりのなかったCクラスの面々、島崎や吉田、白石、西川たちとも交流を深めていく。そんな中、謎に包まれた新たな試験が発表された。与えられたのは2つの情報「明日から新たな試験が始まる」「詳細発表は一週間後」のみ。様々な試験の可能性と対応を即座に話し合うなど優秀性を発揮するCクラス。
一方堀北たちAクラスは春からのダメージが蓄積し茶柱に当たるなど、結束することができない。しかし堀北もクラス、生徒会の問題を一人ではなく軽井沢や櫛田、伊吹に相談するなど成長を見せ始め――。シリーズ絶好調! 生徒たちの想い入り乱れる、3年生編第二弾!

ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編2

感想

今巻では、綾小路がCクラスに溶け込むために様々な試みをする一方で、堀北率いるAクラスは足並みが揃わず、苦戦を強いられている様子が描かれている。そんな中、詳細不明の試験が突如発表され、各クラスのリーダーたちが対応に追われる。その裏で、綾小路に初恋とも言える感情が芽生え始めるという展開には、正直驚きを隠せない。

しかし、綾小路は信頼できない語り手だと思っている。彼の言葉や行動の裏には常に別の意図が隠されている可能性があり、今回芽生えた感情もまた、何らかの戦略の一環なのではないか、という疑念が拭えない。
彼に心が?本気で怪しい。
作中で不穏な形で忠告された日和のことや、「初恋は実らない」という言及も、綾小路の感情が今後の展開においてリスクとなり、弱点となる可能性を示唆しているように思える。彼の計算された行動の中に生まれた「バグ」が、どのような影響を及ぼすのか、非常に楽しみである。

そして、今巻で最も印象的だったのは、堀北の著しい成長だ。春からのダメージを引きずりながらも、軽井沢や櫛田、伊吹に相談するなど、一人で抱え込まずに周囲を頼る姿は、これまでの彼女からは想像もできなかった。まだまだ未熟な部分もあるかもしれないが、いつか綾小路に肩を並べられるような存在になってほしいと、心から願っている。特に、櫛田や伊吹との交流は、読んでいて心が温まるような、好きな空間だった。

また、日和にスポットライトが当たり始めたことも見逃せない。綾小路が彼女のことを内心良く思っていたという事実に、正直驚いた。読書仲間だと思っていたのだが、いつの間にそんな感情が芽生えたのだろうか。もし日和に何か起きたら、さすがに綾小路を恨んでしまうかもしれない。

今巻は、詳細不明の試験を前に、各クラスの思惑が交錯する、いわば「溜め」の巻と言えるかもしれない。しかし、その情報量は多く、今後の展開への期待感を高めてくれる内容だった。特に、綾小路の初恋、そして再び浮上してきた「退学」の陰謀は、今後の物語を大きく揺るがす可能性を秘めている。果たして、綾小路たちは無事に卒業できるのだろうか。次巻が待ち遠しい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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展開まとめ

〇七瀬翼の独白

病室での後悔と悲嘆

七瀬翼は、病室で昏睡状態にある松雄栄一郎を前に、自責と後悔の念に囚われていた。医師からは遷延性意識障害、いわゆる植物状態と診断され、回復の見込みは限られていた。七瀬は自らの不注意を悔やみ、涙を流していた。そんな彼女の前に現れた男は、淡々と現実を語りながらも、松雄に深い理解を示すような態度を取っていた。

月城との邂逅と復讐の誘い

その男は月城と名乗り、七瀬と松雄のことを幼少期から知っていると語った。彼は、優しさだけでは生き残れない世界の理を語りながら、七瀬に復讐の機会を与えると言い、「入学届」と写真を差し出した。写真の少年は綾小路清隆と呼ばれ、松雄を追い込んだ人物に繋がる鍵とされていた。月城は七瀬に、復讐を成すため綾小路に近づくよう促し、慎重に行動するよう忠告した。

計画への加担と葛藤の兆し

七瀬は、松雄のために復讐を果たしたいという思いから、月城の提案に頷いた。彼女は自分の感情を土台に新たな人格を構築し、正体を悟られないようにすることを決意した。月城は、七瀬が善悪のどちらにも傾いていない「中間」に位置する存在であることから、復讐の担い手として選んだのだと語った。

揺らぎ始めた復讐心と新たな決意

かつては復讐に心を傾けていた七瀬であったが、現在では綾小路清隆を助けたいという感情が芽生え始めていた。彼がこのまま卒業すれば新たな犠牲者が生まれる可能性があると考え、それを止めるべきは自分であると自覚していた。そして彼女は、真実を見極めるための手がかりを探し続けていた。

◯馴染む

雨の日の再会と受験意識の違い

日曜日の朝、小雨の降る中、綾小路はクラスメイトの吉田と島崎にロビーで合流した。島崎は英語のリスニングをしており、受験勉強に日々励んでいる様子を見せた。吉田はそこまで勉強に熱意を向けておらず、大学にも「そこそこでいい」と語る。島崎は自らの学力向上のために塾にも通っており、吉田にも勉強の必要性を示唆したが、吉田は頑なに拒んだ。

相談の目的と参考書選び

島崎が綾小路を呼び出した真の目的は、彼の学習法を知るためだった。勉強面での成績差を埋めたいという真摯な意図からの行動であり、本屋に連れてきて参考書を見せてほしいと依頼する。だが、綾小路は独自の学習背景により、現在では参考書をほとんど使っていないことを打ち明けた。代わりに、過去に役立った参考書を勧め、島崎と吉田に応じた本を探すことにした。最終的に協力して吉田にも適切な参考書を選び、3人は小さな達成感を共有した。

白石を巡る噂と恋愛感情の揺れ

本屋を出た後、島崎の提案で3人は休憩スペースに立ち寄り、吉田の恋愛感情が話題となる。白石に対する吉田の動揺から、彼が白石に好意を抱いていることが明らかになった。島崎は、白石にまつわる「100人斬り」の噂は、西川が意図的に広めた嘘であり、白石本人もその意図を理解して乗った可能性があると語った。その目的は、異性を遠ざけるためであり、白石が同性に関心を抱いている可能性も示唆された。吉田は戸惑いを見せたが、最終的にはその説明を受け入れる姿勢を見せた。

観察眼と動機の明示

島崎が白石に関する事情を知っていた理由については、「クラスメイトを観察しているから」と弁明したが、綾小路と吉田はそれ以上深く追及しなかった。最終的に、島崎が参考書選びに協力したのも、綾小路から勉強法を引き出すためであると明言される。綾小路は依然として本質的な学習法については明かさなかったが、島崎はそれを強要することなく受け入れた。将来的に情報を返してもらうという形で、このやり取りは一段落を迎えた。

信頼と理解の兆し

一連のやり取りを通じて、3人の間には微かな信頼と理解が生まれていた。吉田の恋愛感情や白石への疑問、島崎の観察眼、綾小路の秘密主義、それぞれが絡み合いながらも衝突せずに受け止められたことにより、人間関係が一歩深まる結果となった。場の空気や感情の機微を理解する綾小路自身の変化も、静かに進行していた。

島崎の退場と吉田の葛藤

島崎が勉強を理由に先に帰った後、吉田はベンチに座ったまま落ち込んでいた。白石が同性を好む可能性に悩み、自分が異性であることに引け目を感じていた。綾小路は、恋愛とは予期せぬ過去や事実に直面する覚悟が必要であり、心の準備ができていないなら引くことも一つの選択だと諭した。吉田は、それでも前に進むべきと自らを鼓舞しようとするが、島崎が白石を想っている事実に打ちのめされ、感情を露わにした。

本心の吐露と恋愛観の相違

島崎が恋愛よりも受験を優先していることを受けて、吉田は焦りと不安を募らせた。白石への想いを認めた吉田に対し、綾小路はその素直さに羨望の念を抱いた。自分には恋愛感情が理解できておらず、軽井沢との交際も形式に過ぎなかったと語った。その正直な告白に吉田は困惑しつつも、綾小路に恋愛を経験してほしいと願った。

白石への想いと綾小路の距離感

白石の魅力について問われた吉田は、外見だけでなく「ミステリアスな雰囲気」に惹かれると答えた。対照的に森下については「理解不能な変人」と評し、明確な線引きを示した。吉田は綾小路が白石に想いを寄せる可能性を心配したが、綾小路は明確に否定した。その発言に安心した吉田は、軽井沢との関係にも触れたが、綾小路はやはり恋愛感情としての理解には至っていなかった。

互いの認識と人間理解の深化

吉田は綾小路の優れた外見や能力を羨む一方で、自分の一方通行な恋心に自信を失っていた。だが綾小路は、感情を持てること自体を尊重し、吉田の純粋さを本気で羨ましく思っていた。恋愛を知らない自分と、恋に悩み苦しむ吉田。その対比が浮き彫りになる中、綾小路は吉田が本気で人を好きになれる存在であることに価値を見出した。

人物分析と信頼の確立

談笑の後、2人は雨の中を寮へと戻った。綾小路は、島崎と吉田それぞれの人間性を把握したと認識した。吉田は裏表が少なく、感情表現が豊かで世話好きな一面を持ち、島崎は距離感を適切に保ちつつもクラスに貢献できる人物であると結論付けた。今後、クラスの中で彼らが重要な存在であり、必要に応じて守るべき仲間であると心に留めた。強まる雨の中、2人は静かに寮へと歩を進めた。

◯穏やかな試験

進路選択と慌ただしい3年生の日常

5月中旬、高校3年生たちは受験や就職に向けた準備で慌ただしい日々を過ごしていた。志望校の選定、パンフレット請求、オープンキャンパスの準備に加え、就職希望者は企業説明会やインターンシップへの参加も視野に入れていた。生徒の進路は多様化しており、家業の継承や進学・就職を保留する者も存在する。いずれにせよ、3年生はこれまでの学年とは比にならない忙しさに見舞われていた。

森下との軽妙なやり取り

ホームルーム中、森下が綾小路に対してクラスへの馴染み具合を尋ねてきた。表面上は心配を装いながらも、実際にはからかいの意図が強く、軽口の応酬が続いた。綾小路はこのやり取りに深入りすることを避け、会話を打ち切った。

試験告知と曖昧な説明

ホームルーム終了間際、担任の真嶋から突如「試験が始まる」との告知がなされた。報酬とペナルティの配分だけが示され、試験内容や実施時期の詳細は1週間後に発表されるとのことで、生徒たちは混乱と困惑を抱えたまま説明を終えられた。加えて「学生らしい行動を心がけるように」との言葉も残され、意味深な空気が漂った。

意見の分裂と推測の議論

教室内ではすぐに意見交換が始まり、生徒たちは試験の実施時期をめぐって2つの見解に分かれた。1つは「明日からの1週間が試験期間」であるという立場、もう1つは「明日からは準備期間で、1週間後に試験が始まる」とする立場である。挙手によって前者は12人、後者は19人と、後者が多数を占めたが、意見の強制や対立は生じなかった。

生活態度という仮説

島崎は、今回の試験はシンプルな形式であり、内容としては生活態度が評価対象になる可能性が高いと指摘した。過去に行われた非公開の生活態度評価を根拠に、今回も特別試験ではなく「試験」としての運用があると読み取った。挨拶や時間厳守、校外での振る舞いなど、日常の行動すべてが対象になり得るという見解は、他の生徒たちにも支持された。

綾小路の見解とクラスの方針

意見を求められた綾小路は、学校があえて詳細を伏せた意図を読み取り、試験内容が明示されずとも成立する形式、たとえば筆記テストやスポーツ、さらには生活態度の評価などが候補に挙がると述べた。また、生徒たちの行動や判断自体が試験として評価される可能性にも言及し、仮の目標を持つことの意義を説いた。

意見の収束と共有された準備意識

最終的に、生活態度の仮説は島崎や真田、西をはじめとする多くの生徒に受け入れられた。理由は、時間的コストが少なく、かつ全員が平等に取り組めるためである。結果として、試験の具体内容が不明なままでも、生徒たちは生活態度に注意を払いながら1週間を過ごすという方針を共有し、クラスは穏やかな結束を見せた。

学食での集まりと鬼頭の参加

昼休み、白石の誘いで綾小路、吉田、西川、そして鬼頭の5人が学食で昼食を共にすることになった。吉田は白石の誘いに割って入ろうとしたが、むしろ白石や西川の反応は好意的で、鬼頭の参加も快諾された。吉田は戸惑いながらも、女子たちの好奇心と肝の据わった態度に流される形となった。

OAA評価と綾小路の変化への関心

食事中、吉田は綾小路の最新OAAを話題にした。総合B+という成績に吉田は素直に驚きと称賛を口にし、西川は冷静に懐疑的な視点を保ち、白石は感心を示しつつも行動の変化に疑問を抱いていた。一方、鬼頭は他人の成績に関心はないとしつつも、綾小路が2年間実力を隠していた理由と、今になって力を発揮し始めた動機には興味を示した。

綾小路の弁明とクラスメイトの反応

綾小路は、目立ちたくなかった過去と、橋本の要請によってCクラスのリーダーとして力を発揮する決意に至ったと説明した。吉田はその意志を支持し、西川と白石は移籍の動機にいまひとつ納得できない様子を見せたが、やがて西川も理解を示す姿勢を見せた。白石は私生活の共有を通じて相互理解を深めることを提案し、場の雰囲気は次第に和やかになっていった。

自己紹介とプライベートの共有

白石は平日は真っ直ぐ帰宅することが多く、休日にはカフェや雑貨屋を訪れるなど私生活を素直に語った。西川は主にケヤキモールを利用し、友人との交流も多いと明かす。綾小路は平日休日を問わず、時間がある時はジムを利用していると述べ、他の生徒にとっては珍しい習慣に映ったようだった。ジムの会員数は少ないものの、綾小路は積極的に利用しているという。

鬼頭の無言と沈黙の退席

その最中、鬼頭はほとんど発言することなく食事を終えると、静かに席を立って退席した。他の生徒たちは彼の参加の意図に首をかしげ、依然として距離があることを実感した。吉田と西川の掛け合い、白石の冷静な提案が場の空気を保ちつつも、鬼頭の沈黙は重く残った。

放課後への思案とひよりとの予定

食事を終えた綾小路は、放課後の行動を検討した。図書室に顔を出す予定だったが、試験が発表されたばかりという事情を踏まえ、情報収集に時間を割くことを優先し、図書室へ行くのは翌日に延期することにした。ひよりとの会話も、明日の方がゆっくりと時間が取れるだろうと考えた。

◯相手を知ること

Aクラスの動揺と茶柱の通達

朝のホームルームで突如「試験開始」の通達が下されたが、ルールの説明は一切なく、質問も受け付けられないという異例の対応に、生徒たちは困惑と不満を募らせた。池や篠原は強く反発し、須藤や平田がそれを宥めるも、茶柱の冷たい態度は騒動を沈めるには至らなかった。堀北は、説明不足による混乱を予見し、昼休みや放課後に個別対応で事前に話し合いの準備を進めることを決断した。

高円寺の離脱と堀北の追跡

放課後、話し合いの時間になると、高円寺は教室を出て行った。協力を拒む彼に対し堀北は思い立ち、単身で追いかけ説得を試みる。堀北は、協力ではなく「参加」だけでもして欲しいと穏やかに懇願するが、高円寺は終始上から目線で聞き流し、クラスの結束の意味を切り捨てるように語る。

堀北の信念と高円寺の拒絶

堀北はクラスの結束を重視し、高円寺の不参加が全体の士気や規律に影響すると説くが、高円寺はその主張を一蹴し、堀北の実力不足を指摘する。さらに綾小路の影響力を引き合いに出し、彼抜きでの勝利がいかに現実的でないかを突きつける。堀北は懸命に食い下がるが、説得は通じず、逆に「煽動や懐柔は無駄」と断言されてしまう。

交渉の決裂と静かな警告

最後に高円寺は、これ以上の説得を「警告」として断じ、自らに敵意を向けるならば容赦しないと明言した。言葉に含まれる静かな殺気と睨みに、堀北は圧倒され、追跡を断念するしかなかった。説得の失敗は、堀北の無力さとクラス内にある深い隔たりを改めて浮き彫りにした。堀北は悔しさを胸に、無言で高円寺の背を見送るしかなかった。

生徒会の任務と1年生の暴力事件

堀北は特別試験の話し合いがまとまらぬまま、七瀬と共に生徒会の案件処理のため生徒会室へと向かった。そこで提示されたのは、1年生同士による暴力事件に関する資料であった。Aクラスの草薙とDクラスの牧が寮裏で殴り合いに至り、双方怪我を負っていた。映像記録が残っていないため、生徒会が当事者からの事情聴取を行い判断を下すこととなった。

過去の類似事件と堀北・七瀬の回想

七瀬は過去に類似した事件を生徒会で経験したことを語り、堀北も1年時に起きた須藤の暴力沙汰に言及した。これらを通して、暴力事件が毎年のように発生していることを再認識しつつ、生徒会長としての責任を堀北は噛みしめていた。七瀬の今後の進路にも触れながら、生徒会長としての素養を持つことを励まし、判断力と姿勢を共有していった。

両者の主張と平行線の応酬

草薙と牧が生徒会室に呼ばれると、両者はすぐさま互いを罵り合い、責任を押し付け合った。七瀬の静止も聞かず騒ぎ続けたため、堀北はあえて沈黙し、制止せずに言い合いを続けさせた。その態度が逆に2人に異様さを意識させ、やがて彼らは言い争いを止め、生徒会の判断を仰ぐ態度を見せるようになった。

真相の断片と沈黙の意図

両者の話を聞いた結果、草薙が先に侮辱的な発言をし、牧がその報復として呼び出し、暴力に発展したという構図が浮かび上がる。しかし、その後草薙が「ここまで殴ってはいない」と口を滑らせた発言と、それに対して牧が異議を唱えなかったことから、生徒会側は表に出ていない事実があると推察した。にもかかわらず、2人はそれ以上語ろうとせず、互いの罪を認めないまま議論は再び平行線に戻った。

最終判断と曖昧な和解

堀北と七瀬は、どちらか一方に明確な責任があるとは断定できないと判断し、双方に同程度の罰則を科す方向で処理を進めることを決定した。不満は残りながらも、両者はようやく了承し、生徒会室から退出した。堀北と七瀬は、内に複雑な感情を残しつつも、事件を一定の着地へと導いた。事件の根底には、表に出てこない何らかの事情があることを感じ取りながらも、表面上の処理にとどめざるを得なかった。

隠された真相への疑念と仮説

生徒会室での審議終了後、堀北は草薙と牧の間に残る違和感に思いを巡らせた。両者とも自らの正当性を主張していたにもかかわらず、草薙の不用意な発言「ここまで殴っていない」に牧が何も反応しなかったことから、二人の証言には隠された何かがあると察する。七瀬も、あの失言を境に両者が罰則を受け入れ始めたことに疑問を抱いていた。

堀北は第三者の介入の可能性を示唆し、例えば牧が誰かに敗北したことを隠すため草薙と共に沈黙を守った可能性や、女子生徒に敗北したことがプライドを傷つけ口をつぐませたのではという仮説を立てた。七瀬もその可能性に共感し、今後の学校生活に影響を及ぼす事態である以上、真相を追及すべきと判断。堀北は七瀬に調査協力を依頼し、七瀬も快諾した。

リーダーとしての迷いと支え

堀北は自らを「凡庸」と評し、過去の優秀な生徒会長たちと比較して無力感を口にするが、七瀬はその謙虚な姿勢を尊重し、「凡庸でもいい」と言葉をかけた。堀北も笑いを交えながら彼女の誠意を受け取り、改めて共に解決に向かう意思を固めた。

クラスの統率と情報戦の予感

生徒会の問題と並行し、堀北はクラスの特別試験準備にも尽力する。ケヤキモールで軽井沢と合流し、特別試験の内容やクラス内の現状、そして対抗クラスに関する情報共有を行った。軽井沢は今回の試験でも綾小路が一之瀬に情報提供している可能性を示唆し、CクラスとDクラスの結託を疑った。

堀北は綾小路の意図を測りかねつつも、その仮説の可能性を否定できず、クラスを勝たせたくない彼がCクラスを勝利に導くために裏から支援しているという見方も理解した。ただし、Cクラスに移籍した動機や、なぜDクラスでなかったのかという点には結論を出せず、綾小路の真意に迫るのは困難だった。

準備の重要性と変化への意志

特別試験の形式は筆記、スポーツ、面接、プレゼンなど多岐にわたると予想されており、堀北はあらゆる可能性を想定して準備する必要性を強く感じていた。軽井沢も試験に対する自分なりの考察を交えながら真剣に耳を傾け、堀北の変化と努力を受け止めていた。

試験の形式が不明な中で先手を打つことの重要性を堀北は再認識し、これまでとは違う方法で物事に取り組む姿勢が、遅ればせながらも自分自身を変えていく第一歩であると実感していた。

再び平静を装える日常と友情の変化

堀北は、綾小路の移籍による喪失感をいまだに拭いきれずにいたが、それでも以前に比べれば気持ちは前を向いていた。軽井沢と互いに平静を装えるようになったことも、回復の証として感じていた。その日の夕方、堀北の部屋には伊吹と櫛田が訪れ、騒がしいながらも以前にはなかった穏やかで自然な時間が流れた。

綾小路の強さの根源を探る議論

夕食後、話題は綾小路の“強さ”の本質へと移る。伊吹は肉体的な強さに焦点を当て、彼がまるで化け物のように格闘戦で誰にも敵わなかった経験から「倒すのは無理」と断じた。堀北はそれに対し、頭脳と戦略も含めた「異質な強さ」に疑念を抱きつつ、鍛錬では到達し得ない才能の存在を認めざるを得なかった。

綾小路の過去とルーツの手がかり

さらに話題は、綾小路の過去にまで及ぶ。堀北は彼の父親に面談で会ったことを語るが、そこに特筆すべき教育方針や英才教育の痕跡は見られなかったという。一方で、伊吹や櫛田は綾小路の異常な強さや知識に見合う家庭環境とは思えないと疑いを深め、隠された出身中学や過去に注目が集まった。

八神と天沢、過去の事件と交錯する記憶

伊吹の一言をきっかけに、堀北はかつて退学となった八神指也と天沢一葉の存在を思い出す。二人は綾小路に執着していた様子があり、何らかの因縁があると予想された。さらに、堀北は八神が自分と同じ中学出身だったと記憶していたが、櫛田が驚愕の事実を語る。実は櫛田と八神は同じ中学ではなく、櫛田は過去を知られることを恐れて“同中出身”と嘘をついていたのだった。

櫛田の告白と綾小路の暗躍の記録

櫛田の口から語られたのは、綾小路が八神を退学に追い込んだ事実、そしてその動機が「櫛田を救うため」だったということ。また、八神と天沢は幼少期から綾小路と接点があり、八神は執念深く復讐のために櫛田の過去を調べ上げていたらしい。櫛田はそれを隠していた理由を率直に語り、堀北たちはその重さを受け止めた。

断片の再構築と次なる一手

過去の出来事から導き出されるのは、綾小路・八神・天沢が幼少期、あるいは中学時代に深い関係を持ち、何らかの因縁や因果を抱えていたという可能性である。その中で、綾小路は2人の敵意を受けながらも退け、なお彼らに対してある種の情を持っていたようにも見えた。

堀北は、真実を探るために天沢への接触も視野に入れたが、伊吹と櫛田は関わりを拒否。慎重な判断を求められる中、堀北は情報を整理し、あらゆる仮説を立て直す必要性を痛感していた。

過去を紐解くことが、未来への鍵になる——

それは、堀北がリーダーとして再び動き出すための、そして綾小路という“異物”を理解し、対峙するための第一歩であった。

見せかけと本心のはざまで

夕食を終えた伊吹が去り、櫛田も続いて帰ろうとする中で、堀北は彼女から無意識に発された「ありがとう」という言葉に対して、ある種の感謝を抱いていた。櫛田は「言葉にするよう心がけているから自然に出ただけ」と語るが、それでもその一言は、堀北の心に小さな癒やしを与えていた。

櫛田は帰り際、特別試験について尋ね、堀北がいくつかのルールを候補として想定していると知る。伊吹と違い、警戒心を持って振る舞いを選んでいた櫛田の配慮に堀北は安堵し、互いに競い合いながらも協力を惜しまない関係が成立しつつあることを感じていた。

恐怖の象徴となった綾小路の名

会話は自然と綾小路の話題へ移る。櫛田は、かつては想像もできなかったが、今では彼の名を聞いただけで本能的に恐怖を覚えるほどになっている自分の変化を率直に語る。その恐怖を認めながらも、堀北は「それでも勝つ」と宣言し、気概を示す。櫛田も、自身のプライドのため、そしてAクラスの地位を守るために本気で戦う意思を見せる。

特別試験の本質にたどり着く仮説

リビングでの食事の痕跡を片付けようとした堀北は、不意に重要な着想に至る。ルール未提示のまま与えられた“1週間”という期間、それ自体が特別試験の本質ではないか。過去、入学直後にクラスが陥った初期の特別試験——遅刻・欠席・授業態度など、日常の規律を評価されたあの試練——が再び課されているのではないかと考えたのだった。

須藤と小野寺への共有と理解

午後8時過ぎ、堀北は急ぎ須藤の部屋を訪ね、同席していた小野寺も含めて自身の推論を伝えた。かつてのDクラスが罠に嵌り、クラスポイント0に陥った初期の試験と酷似する条件に着目し、今回も同様の評価基準が課されているのではと示唆した。

須藤と小野寺はその可能性に納得し、明日からの生活態度の厳格な管理の必要性を理解する。クラス全体に周知することで対応可能だが、最大の難点は“問題児”の存在だった。

最大の障害、高円寺への説得へ

それが高円寺六助のことである。彼は無遅刻無欠席こそ保っているが、日常生活における態度や行動に問題があり、1人の逸脱がクラスの命取りとなる可能性が高い。堀北は彼を説得すべく動き出すが、その気まぐれさと予測不能な行動を鑑み、1人での訪問は危険と判断。須藤に付き添いを依頼し、了承を得る。

こうして堀北は、次なる戦いのための準備として、最も制御困難な協力者の攻略へと乗り出すこととなった。全ては、Aクラスの地位を守り、綾小路という絶対的存在に一矢報いるために——。

高円寺の説得と破格の契約

堀北と須藤は、特別試験の勝利のため、最も制御が困難な存在・高円寺の元を訪れた。最初は無反応だったが、須藤の強引なノックにより、高円寺はついに姿を現した。堀北は「規律を守るだけで良い」と簡潔に要請し、その対価として20万プライベートポイントを提示する。高円寺はその意図を察知していたようで、すでに特別試験のルールを予見していた。

しかし彼が提示した報酬額は50万ポイント。堀北は一瞬戸惑うも、確実な勝利を得るためにはこの条件も飲むと即答する。須藤は憤るが、堀北はクラスの勝利を優先し、自腹での支払いも辞さない姿勢を示す。そしてこの契約は完全な秘密とすることを条件に、高円寺は「自分の規律」を売ると宣言し、交渉は成立した。

須藤との信頼と仲間意識の確かさ

交渉の帰り道、エレベーター前で須藤は堀北に疑問をぶつける。報酬の高さに加え、他のクラスメイトがこの事実を知れば納得しない者もいるという懸念だった。堀北は「須藤なら黙っていてくれる」と信じ、同行を頼んだことを打ち明ける。須藤はその期待に応え、「誰にも言わない」と約束した。

その別れ際、須藤は一歩踏み出し、綾小路の不在を補おうとする自身の覚悟を告げた。綾小路ほど強くも賢くもないと前置きしながらも、「困った時は必ず今日みたいに頼ってくれ」と真摯に言葉を伝える。堀北はその言葉を厳しくも温かく受け取り、「最後までちゃんと頑張ってもらう」と返した。

受け取った想いと責任の重さ

須藤とのやりとりを終え、堀北は一人非常階段を使って戻る。その途中、須藤の「ずっと味方でいる」という言葉が心に染み渡り、胸が熱くなるのを感じた。綾小路の不在に沈むだけでなく、自分には仲間がいること、そしてその信頼に応える責任があることを実感する。

希望と再起への第一歩

綾小路という巨大な存在を失っても、堀北のもとには力を貸してくれる仲間が確かに存在していた。須藤、高円寺、そして軽井沢や櫛田たち。堀北は、その支えに応えるべく、特別試験に全力で立ち向かう決意を新たにした。自分の限界を認めながらも、それでも前へ進もうとする彼女の歩みが、Aクラス維持への鍵となる。

◯知識の探求

特別試験への慎重なアプローチ

試験初日、綾小路清隆は、あえて特別な行動を起こさず、普段通りに登校し、授業を受け、静かに日常を送っていた。彼が唯一クラスに対して発した指示は「生活態度に注意せよ」というもの。あとは各人の自主性に委ねられ、強制的な勉強会などは行われていない。

朝の登校時、エレベーターで椎名ひよりと偶然出会った綾小路は、ぎこちないながらも会話を交わすが、満足な言葉を続けることができず、自らの変化に戸惑いを覚える。ひよりへの謝罪と対話の機会を図書室で設けようと考えていたが、それも先延ばしにしていた矢先、Cクラスの橋本・森下・白石に呼び止められる。

橋本たちとの情報共有と試験への見解

橋本は、綾小路の試験方針を再確認すべく近づき、森下と白石も同席。橋本は、生活態度を重視した試験だとする綾小路の仮説を受け、勝敗にこだわらないという姿勢に一度は疑問を抱くが、綾小路は「こだわりようがない試験だからだ」と明言する。

白石が発言の根拠を求めた際、綾小路は各クラスの担任教師が生徒に発した言葉の共通性に注目し、真嶋・星之宮・袋谷の発言から、「生活態度が試験の評価対象である」と結論づけた。特に「学生らしい行動」や「普段の君たちなら大丈夫」といった表現が意図的に共通していることを指摘し、試験内容の確度を90%以上と推定したのである。

次の特別試験への警戒と準備

さらに綾小路は、今回の試験が軽い内容であるがゆえに、次に控える特別試験は重いもの、すなわち退学リスクを含むものになる可能性が高いと警告した。森下も、過去の3年生(堀北学・南雲雅の代)における大量退学の事実を引き合いに出し、彼の見解に同意する。

森下とのやり取りとチームの空気感

その後、カフェでのやり取りは時折ユーモアも交えながら進んだ。特に橋本の奢りで注文した森下のイチゴフラッペに関する小競り合いや、森下の意図的なおしゃべり封印(チャック動作)など、チーム内の信頼関係と軽妙な空気感がうかがえる場面でもあった。

最後には、白石が改めて綾小路の仮説に理解を示し、橋本も生活態度の試験という見立てに納得する流れで、会話は締めくくられた。次なる試験へ意識を向けるべきという綾小路の提言は、3人の意識にも確実に影響を与えていた。

綾小路の目的は単なる勝利ではない。未来を見据え、無駄な動きを省き、最も効率の良い一手を選ぶ。その選択こそが、彼にとっての「実力」だった。

Cクラスの情報と交錯する旧友との再会

綾小路は、カフェにて橋本・白石らと共にCクラスの現状を共有し、OAAや筆記成績だけでは測れない生徒同士の関係性や空気感など、より細やかな情報の収集に努めていた。特に白石からは、女子目線での見えにくい人間関係のヒントも得られ、有意義な時間となる。

しかし夕方、再び池と本堂という旧友たちと出くわす。彼らは綾小路のCクラス移籍を裏切りと受け取り、怒りと失望をぶつける。山内春楜の退学についても責任を追及されるが、綾小路はあえて否定せず、冷淡な態度でヘイトの受け皿となる。その姿勢には、Cクラスを守る意図と、敵意を集中させることでAクラスの結束を強めさせる狙いがあった。

図書室へ向かう直前の寄り道と白石との対話

その後、図書室へ向かうと宣言した綾小路に対し、白石が「もう少し話したい」と同行を申し出る。2人きりの道中で、綾小路は自らの移籍に対して白石が抱いた印象について問いかける。白石は、「希望を持ちたいという気持ちから、歓迎した」と述べ、クラスの中でも前向きな存在であることが明かされる。

さらに綾小路が「以前から自分を意識していたのではないか」と踏み込んだ問いを投げかけると、白石は意味深に「私は白石飛鳥です」と名乗り直し、「あなたは誰ですか?」と問い返すという、不可解な言動を見せた。その真意は曖昧なままであり、ミステリアスな雰囲気をさらに強める形となった。

すれ違う想いと遅れ続ける邂逅

図書室へと向かった綾小路だったが、そこに椎名ひよりの姿はなかった。司書の話では、ひよりはすでに帰宅していたという。再会と謝罪を果たす機会はまたしても訪れず、綾小路は「今日もまた一歩、機会が遠のいた」と静かにその事実を受け入れるのだった。

◯山村の勇気

山村の決意と変化の兆し

月曜の放課後、森下の案内で綾小路は山村美紀との面会に向かう。初めは待ち合わせ場所に現れず右往左往させられるが、最終的に山村が姿を現し、移籍後初めて綾小路と対話を交わす。目立つことを避けてきた山村にとって、それは大きな一歩であり、「もっと自信をつけて人前で笑いたい」という想いが語られた。綾小路はその勇気に応え、山村にクラス内で最も捉えどころのない存在である白石飛鳥の観察を依頼する。

森下と橋本の反応

森下はいつもの調子で山村をからかいながらも、緊張を解す役割を果たす。一方、後から現れた橋本は、山村が綾小路に近づいたことで若干の嫉妬をのぞかせつつも、クラスの勝利に貢献したいという意思を率直に告げる。綾小路もその真意を理解しつつ、橋本を遠ざけすぎない距離で受け入れる。

ひよりとの邂逅はまたしても失敗

その後、綾小路は再び椎名ひよりに会うため図書室を目指す。しかし向かう途中、かつての堀北クラスの仲間である長谷部に呼び止められ、佐倉愛里の近況について知らされる。テレビ出演を果たし、芸能界で成功を掴みつつある佐倉の姿に、綾小路は感慨を抱きつつも、それが何らかの突破口になる可能性を模索する。
だが図書室に辿り着いた時にはすでにひよりは帰宅しており、会うことは叶わなかった。

心の整理と問いかけ

移籍を自ら選び、ひよりの誘いを断った綾小路であったが、その後悔や罪悪感が行動を鈍らせていたことを自覚する。自分の心を探る中で、「なぜ彼女だけを気にしているのか」という問いに辿り着くが、答えは見出せないまま。ただ、次こそは会って向き合うという決意を新たにする。

金田と椎名の待ち合わせ、石崎の乱入

午後8時に龍園の呼びかけで開催されるカラオケでの会議に向け、金田は緊張しながら集合場所に早く到着。同じく早く来ていた椎名と合流し、わずかな二人きりの時間を過ごすも、そこに石崎が派手な登場を見せて空気が変わる。3人で待つうちに、龍園が現れ会議が始まった。

龍園の目的と綾小路への評価

龍園はまず、橋本が綾小路側に傾いたことで連絡を絶ったことを確認し、「橋を渡る覚悟を決めた」と解釈する。それに対して金田はまだ完全には理解できず、綾小路の真価を測りかねていた。一方で龍園は椎名にも綾小路への見解を尋ねるが、椎名はうまく答えられず、石崎に「特別なフィルター越しに見てる」と茶化される。

クラスのための覚悟を問う龍園

龍園は私情に関係なく、椎名にも「クラスのために役に立て」と要求し、椎名はそれを受け入れる姿勢を示す。綾小路への感情が邪魔になると自覚しつつも、それを押し殺して行動する覚悟を固めていた。

葛城・時任の合流と特別試験の展望

続いて葛城と時任が到着。龍園は綾小路の解体と次の特別試験に関する議論を展開する。今回の試験は序章にすぎず、次の大規模試験での勝敗が本当の意味での命運を分けると全員が認識する。クラスポイントが大きく変動するであろう次回に向け、リスクを承知のうえで手段を選ばぬ構えの龍園に対し、葛城はあくまでルールの範囲内での戦いを主張する。

椎名の苦悩と金田の変化

会話の隙間で、椎名は龍園に「私に綾小路の弱みを探らせたいのでは」と問いかけるが、龍園は「役に立てば何でもいい」と突き放す。椎名は、自分の淡い想いが綾小路にとっては重荷であるかもしれないと気づき、感情を断ち切る覚悟を作ろうとしていた。そんな椎名を、金田は複雑な感情と共に見守る。これまで争いを避けてきた彼にとって、初めての「戦い」の空気が胸中で渦巻き始めていた。

◯禍福は糾える縄の如し

静まり返る試験期間と森下との戯れ

特別試験の発表から5日が過ぎ、全クラスは生活態度の改善に努め、無遅刻無欠席を維持していた。綾小路は平穏な午後の放課後を迎え、森下との軽口を交わしつつ過ごすが、その空気を破ったのは里中からの誘いだった。グループに加わらないかとの誘いを快く受けた綾小路に対し、森下は関心を示さず独自の距離感を保った。

星之宮との接触と試験の本質

星之宮からの呼び出しに応じ、綾小路は特別棟へ向かう。星之宮は教師という立場を超えた過度な接触を試みるが、綾小路は冷静に対応し、その意図を見抜く。今回の試験は生活態度が主な評価対象であり、日常の行動こそが鍵となると確信する。星之宮は自らのクラスを上位に導くために綾小路を試すが、綾小路は同盟関係を維持しつつも試験結果の操作を否定し、自主性を促す姿勢を見せた。

図書室での再会と和解

放課後、綾小路はついに椎名ひよりとの再会を果たす。ひよりは綾小路の移籍に対し距離を感じていたが、綾小路の率直な謝罪と言葉によって誤解は解け、以前のような関係が再び築かれた。2人は図書室で語らい、積もる想いを静かに共有する。

金田の本音と嫉妬心

そこに金田が現れ、綾小路との対話が始まる。表向きは冷静な金田であったが、内心では綾小路への強い羨望と劣等感を抱いていた。自らの無力さを認めつつも、椎名の笑顔が綾小路によって引き出されたことに複雑な感情を露わにし、最後にはその場を去った。

感情の変化と幸福の共有

再び2人きりとなった綾小路とひよりは帰路につく。道中、偶然出会った花売りの女性から、綾小路はひよりに一輪のひなげしを贈る。小さな贈り物ではあったが、ひよりは感極まり、思わず涙を流す。それは綾小路にとっても同様であり、当たり前の放課後が一変して特別なひとときへと変わったことを実感した。

橋本の問いかけと懸念

寮に戻った綾小路は、ロビーで待ち構えていた橋本に呼び止められ、外へと連れ出される。橋本は、綾小路と椎名ひよりとの距離感について強く関心を抱いており、最近の二人の様子から、特別な感情があるのではと問い質す。綾小路はその核心に即答はしないが、橋本の指摘と自問によって、自身がひよりに特別な感情を抱き始めていることを徐々に認め始める。

一之瀬との関係との対比

橋本は、一之瀬が綾小路に想いを寄せているという噂を持ち出し、彼女との関係進展を期待していたことを明かす。しかし、綾小路は一之瀬との間にはあくまで「同盟関係」しかないと否定し、恋愛感情は存在しないことを明確にした。これにより、橋本は椎名ひよりこそが“本命”であると察する。

“初恋”という未体験の感情

綾小路は、自身のひよりへの想いが他の人間には抱いたことのない感情であることに気付き、「好きなのかもしれない」と言葉にする。過去に軽井沢と交際していたにもかかわらず、それとは異なる感覚であること、初恋という未体験の感情である可能性に気付き、強い興味と知的好奇心を持ってその感情を見つめ始める。

橋本の警告と“忠告”

橋本は、椎名との関係がCクラスの運営に影響を与えることを強く危惧しており、「軽井沢とよりを戻してもいい、他の女子でもいい、でも椎名だけはやめておけ」と忠告する。参謀、友人、そしてAクラスを目指す仲間としての立場からの助言だったが、綾小路はその忠告を受け止めつつも、感情に抗う気はないことを示唆する。

感情への没入の予兆

綾小路は、自身に芽生えつつあるこの“初恋”とも言える感情に深く惹かれており、それがどこへ至るのかを経験し、確かめたいと強く望むようになっていた。橋本の忠告を理解しながらも、既に綾小路の中では“ひよりという存在”が、欠くことのできない特別なものへと変わり始めている。

◯観察者

六角と矢野の離脱と試験結果

試験発表から1週間。ついに迎えた判定日、綾小路クラスでは六角と矢野が体調不良で欠席するという不運に見舞われる。不可抗力であるため非難の余地はないものの、生活態度が評価される今回の試験では致命的となった。最終結果は一之瀬クラスが1位、堀北・龍園が2位タイ、綾小路クラスは最下位となり、クラスポイントは-25。だが順位変動はなく、今後の挽回が可能な範囲であった。

渡辺の恋心と“ジム作戦”の始動

ケヤキモールのジム前では、渡辺が入会を迷う姿を見かけた綾小路が、その背中を押す。目的は網倉との接点を増やすためであったが、露骨な行動に渡辺は逡巡。そこで綾小路は「集団入会」によるカモフラージュを提案し、ジムをDクラス内の交流の場とする案を打ち出す。神崎・姫野・浜口らをターゲットに挙げ、戦略的な動きが始まる。

宇都宮の不自然な行動と1年女子の登場

ジムでは、2年Cクラスの宇都宮が現れたが、落ち着かない様子ですぐに立ち去る。秋山によると、最近入会した1年女子との関係が原因のようで、宇都宮の恋愛模様も暗示される。女子生徒は卓越した身体能力の持ち主で、真嶋先生も注目していた。彼女の存在は今後物語に新たな波紋を広げる可能性がある。

一之瀬との時間と交錯する想い

ジム後、一之瀬との帰路で親密な時間を共有する綾小路。手が触れ合う一瞬の接触に、一之瀬は自らの感情の高ぶりを隠しきれずに謝罪する。綾小路は彼女を好意的に見ており、その器の大きさも認めているが、“恋愛”という観点では心を動かされていないと自覚する。思い浮かぶのは、先日の椎名ひよりとの放課後と一輪の花を手にした光景であり、それが「初恋」と呼べる感情である可能性に強く惹かれていた。

感情の目覚めと分岐の兆し

一之瀬は綾小路の変化を察知しつつ、答えを求めずにそっと背を押す姿勢を見せる。綾小路は自分の中に芽生えた感情を観察し、それが今後どのような未来を導くのかを静かに見守る姿勢を貫く。そして、戦略・恋愛・友情が複雑に絡み合う中でも、今という瞬間に確かな満足と充足を感じていた。

背中合わせの密談と警戒心

午後4時半過ぎ、レストランに現れた白石は、背中合わせで座るという形で七瀬との密会に応じた。会話は互いの顔を見ずに進行されることで第三者への警戒と偽装を図っていたが、七瀬は“綾小路に目撃された場合”を強く懸念していた。白石は、綾小路が現在ジムにいると把握しており、遭遇のリスクは排除済みと伝えるが、その情報入手経路には伏せが入る。

七瀬の動機と提案

七瀬は白石に対し、綾小路を「予想外のタイミングで退学に追い込みたい」と明言。その協力を求めるが、白石は即座に拒否する。自らを「観察者」と称し、2年間何事にも関与しなかった立場を貫くとし、「ただのクラスメイトとして彼との学校生活を楽しみたい」と語る。その言葉には、彼女自身の中に芽生えた個人的な感情も滲んでいた。

白石の立場と七瀬の揺さぶり

七瀬は白石の「観察者としての立場」を突きつつも、橋本・森下との接触や2台目の携帯が露呈した件での失点を謝罪。そして白石の協力が得られない場合は「別の協力者を探す」と明言。白石はその脅しに動じず、「私はあなたに協力するつもりはない」と断言する。さらに、七瀬の言う「自分はそちら側の人間」という主張に対し、「一応、ですよね?」と切り返し、七瀬の中途半端な立ち位置を暗に指摘した。

暗躍する“R城”と白銀の影

七瀬は白石から「仲間の名前だけでも知りたい」と迫るが、白石はそれを断り、「R城」という上位者に聞けばよいと突き放す。七瀬が口にした「白銀先生の望まない方向に流れるかも知れない」という警告にも、白石は淡々と「覚えておきましょう」と返答し、その場を先に立ち去る。

◯動きだすもう1つの物語

軽井沢との協力関係

5月下旬の土曜日、堀北は軽井沢を呼び出し、綾小路に関する情報収集の協力を依頼した。軽井沢は好意的に応じ、自分の知る限りの彼の個人情報や態度、過去への関心などを語ったが、綾小路の中学や出身地などの核心部分には触れられていなかった。堀北はその情報をもとに、綾小路のルーツを探ることが今後の戦略上重要だと考えていた。

天沢の尾行と突然の呼び出し

モールでの会話中、堀北は天沢という生徒が綾小路と旧知である可能性に注目し、尾行を開始する。軽井沢もそれに協力的な姿勢を示したが、その途中、堀北の携帯に「生徒会室で待っています」との匿名メッセージが届いた。堀北は追跡を一時中断し、生徒会室へ向かうが、誰もおらず、悪戯かと疑念を抱く。

石上との再会と意外な情報提供

生徒会室を後にした堀北は、校内で偶然石上と遭遇する。石上は堀北の天沢に対する調査に気づいており、その理由を問い質す。堀北は綾小路の過去を調べている中で、天沢が過去を知る人物かもしれないと説明し、天沢に問題がある訳ではないと釈明する。

石上は、自分は直接の情報を持っていないが、綾小路の過去を知る可能性のある人物として、2年Dクラスの七瀬の名前を挙げる。ただし、自分の関与は伏せるようにと条件を提示し、それを了承した堀北に対し、情報提供を行った。

七瀬への疑念と新たな協力体制

堀北は、七瀬とは既に会話をしており、彼女は綾小路の過去について「知らない」と答えていたと説明する。しかし石上は、それが真実とは限らず、彼女が綾小路に早くから接触していたことに不審を抱いている様子だった。堀北はその可能性を否定しきれず、七瀬を含めたさらなる調査を進めるため、石上に協力を依頼する。

石上は七瀬に嫌われているとしつつも、直接的な協力ではなく、自らの身元が明かされない範囲で調査に協力する意向を示した。堀北はその申し出を受け入れ、互いの立場と役割を確認して別れる。

綾小路の正体と堀北の覚悟

堀北は、自身の行動が綾小路という人物の深層に触れようとする危険な試みであると自覚していた。彼が育った非現実的な環境や施設の存在、常人では耐えられない過酷な教育を生き延びた事実。その事実に堀北はまだ辿り着いておらず、石上との再会が自身の人生を大きく変える分岐点であることも、まだ知らなかった。

すべては、綾小路清隆という1人の人間の過去と向き合うためにー。仕組まれた出会いが、物語のもう1つの歯車を静かに動かし始めていた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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