小説(つよサガ)「強くてニューサーガ 6」感想・ネタバレ

小説(つよサガ)「強くてニューサーガ 6」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンル
時間遡行ファンタジーである。かつて魔王を討伐した英雄カイルは、瀕死の瀕狂の末、魔王が守っていた深紅の宝石「神竜の心臓」に触れたことで、自らの記憶と意識を携えたまま、悲劇の始まる世界に戻された。過去の経験を武器に、人類滅亡を阻止すべく再び立ち上がる「二周目攻略型」英雄譚である。
内容紹介
前巻までに実績と雷名を得て決戦の準備を整えていたカイルのもとへ、突如として凶報が届く。魔族との戦いにおいて最も頼りとなるガルガン帝国の第一皇子が急逝したというのだ。真相究明のため帝都へ侵入したカイルは、次期皇帝の座を巡る争いに巻き込まれ、さらには事件の裏に“最悪の人物”が関与している可能性を突き止める。人族の未来を左右する究極の選択が、英雄の手に委ねられる第六章である。

主要キャラクター

  • カイル:本シリーズの主人公であり魔法剣士。前世を活かし、戦略的かつ冷静に戦局を切り開く英雄である。

物語の特徴

本作は、ただの力任せな“俺TUEEE”ものではなく、「前世のトラウマから学び、未来を変えるために合理的に動く」カイルの姿が、知的戦略と感情的葛藤を両立させている点が最大の魅力である。第6巻では「王族内部の権力争い」と「人族の未来の天秤にかけた選択」という深いテーマが重なり、物語に緊張と重厚さをもたらしている。

書籍情報

強くてニューサーガ 6
著者:阿部正行 氏
イラスト:布施龍太 氏
出版社:アルファポリス
発売日:2015年12月29日

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あらすじ・内容

“強くてニューゲーム”ファンタジー、驚愕の第六章!
累計15万部突破! “強くてニューゲーム”ファンタジー、驚愕の第六章! 実績と雷名を手に入れ、決戦の準備を着々と進めつつあったカイルの元に、突然の凶報が舞い込む。魔族との戦争において最も大きな戦力となる、ガルガン帝国の第一皇子が急逝したというのだ。真相を掴むため侵入した帝都では、次期皇帝の座を巡る争いが勃発。しかも、事件の裏で最悪の人物が関与している可能性が発覚する。誰に手を貸すかが人族の未来を左右する究極の選択が、カイルの手に委ねられる――

強くてニューサーガ 6

感想

読み終えて、まず感じたのは、物語の急展開に戸惑った。冒頭からいきなり覚えのない戦闘シーンが繰り広げられ、確認のため前の巻を読み返した。しかし、すぐに物語は新たな局面へと進んでいく。

今巻では、ガルガン帝国という重要な国の皇太子が突然亡くなり、高齢の皇帝も病で意識不明という状況から、次期皇帝の座を巡る争いが勃発する。カイルたちは、皇帝の末っ子に関わることになり、否応なくこの内乱に巻き込まれていく。

物語は、まさにその内乱へと繋がっていくのだが、その過程が非常にスリリングであった。誰が皇帝になるかで、人族の未来が大きく左右されるという状況は、読んでいるこちらまで緊張感でいっぱいになる。カイルがどのような選択をするのか、固唾を飲んで見守った。

今巻は、戦いだけでなく、人間関係も深く描かれていると感じた。特に、カイルと皇帝の末っ子との関係は、物語が進むにつれて変化していく。最初は戸惑っていたカイルが、次第に彼を支えようとする姿は、胸を打つものがあった。

『強くてニューサーガ』シリーズは、主人公カイルの強さだけでなく、彼を取り巻く人々の成長や葛藤も魅力の一つである。今巻では、特にその人間ドラマが際立っていたように思う。

次巻では、カイルがどのような決断を下し、人族の未来をどのように導いていくのか。今からその展開が楽しみでならない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

カイル

冷徹な戦術家でありながら人族を救う使命感を抱く人物である。恐怖を利用する戦法を選び、戦争を一刻でも早く終わらせることを目的としている。仲間や家族を守る意志を持ちつつ、過去の記憶と現実の狭間で葛藤している。
・クラウス商会の護衛として帝都に潜入した。
・セランやミナギと連携し、内戦の大局を変える作戦を実行した。
・マイザーやコンラートとの接触を通じて帝位継承問題に関与した。
・戦場で恐怖を広める残虐な戦法を用いながらも、矛盾に苦悩している。
・父ロエールや母セライアとの再会を果たし、家族との絆を確認した。

セラン

剛剣と雷魔法を駆使する戦士である。大胆で自信に満ちた性格を持ち、戦場で目立つ行動を取ることが多い。養母レイラに育てられた過去を持ち、彼女との関係が物語に影を落としている。
・戦場で百秒足らずで敵兵を殲滅した。
・帝都潜入の際は護衛に変装して行動した。
・囮作戦を自ら買って出て、浴場で襲撃を受けた。
・マイザーとの戦いにおいて「アンジェラを守れ」と託された。
・終盤ではレイラと再会し、彼女が敵対勢力に属することを知った。

ミナギ

奇襲と暗殺を得意とする女性である。冷静かつ無慈悲な戦法を取り、背後から敵を排除することを常とする。かつての師ソウガの存在が彼女の内面に大きな影響を及ぼしている。
・敵兵を布を使った暗闇の中で次々と消し去った。
・帝都に潜入して情報収集を行い、内戦の火種を報告した。
・嵐の夜には要人十三人を暗殺し、敵軍の混乱を誘った。
・師ソウガの手口による暗殺を見抜き、黒幕の存在を示唆した。
・ダルゴフを狂戦士に変え、戦場へと送り込む役割を果たした。

アンジェラ皇女

ガルガン帝国の皇女であり、帝位継承権を持たない立場ながら政変の渦中に巻き込まれた人物である。強い意志を持ち、国の行く末を案じている。
・石材の中に隠され、カイル達と共に帝都へ潜入した。
・父皇帝ベネディクスとの再会を果たし、娘としての情を示した。
・ミレーナ王女脱出のため、影武者として行動した。
・マイザーと共に兄コンラートを弔い、帝国の安定を願った。

マイザー皇子

皇帝ベネディクスの第三皇子である。兄エルドランドの死後、帝位継承を巡る争いに巻き込まれた。性格は葛藤に満ち、帝国の分裂を望まず、カイルに協力を求めた。
・カイルとの謁見で同盟を結び、帝国を守る意志を示した。
・豪雨の戦で親征旗を掲げ、コンラート軍を鎮圧した。
・暴走したダルゴフを一刀両断に討ち取り、皇帝の後継者としての正当性を示した。
・内戦終結後は国葬を取り仕切り、次代の皇帝として認められた。

コンラート皇子

皇帝ベネディクスの第二皇子である。真面目で民を想う気質を持ち、兄の死後は自らが帝国を導く決意を示した。だが策謀に巻き込まれ、最後は暗殺により命を落とした。
・スラム街の隠れ家でカイル達と会談した。
・ダルゴフ将軍と合流し五万の軍を率いた。
・敗戦の中で救出されたが、ソウガの毒により死亡した。
・死後はマイザーの評価を高める結果となった。

ミレーナ王女

ジルグス国の王女である。聡明で冷静な判断力を持ち、帝国とジルグスの戦争を回避するために行動した。
・帝都に滞在中に暗殺疑惑を受けたが、冷静に立場を保った。
・カイルとの会談で協力を約束し、友誼を示した。
・影武者作戦により帝都を脱出し、祖国に帰還した。
・ジルグスでの挙兵を阻止し、国を戦争から救った。

皇帝ベネディクス

ガルガン帝国の皇帝である。重病により床に伏せていたが、意識を取り戻し一時的に政治の場に復帰した。
・後継者問題で迷い、コンラートとマイザーのいずれも認められなかった。
・アンジェラとの再会で父としての情を示した。
・マイザーを後継者に指名する公文書が発表され、帝国の内乱を終結させた。

コロデス宰相

ガルガン帝国の宰相である。猫頭の獣人であり、帝国政治を実質的に操る辣腕の政治家である。
・エルドランド暗殺後の混乱を利用し、帝位継承に介入した。
・マイザーを後継者に推したが、同時に交渉を妨害した。
・礼拝堂でアンジェラの影武者作戦に立ち会った。
・マイザーに忠誠を誓うも「次はない」と警告を受けた。

クラウス

商人であり、マルニコ商会を率いる人物である。冷静で計算高く、帝都でも影響力を発揮する立場にある。
・豪華な石材を運び、皇后アスメリアの霊廟建築を名目に帝都へ入った。
・アンジェラを石材の中に隠して潜入させた。
・兵站を担い、マイザー派の補給を支えた。
・内戦後も商機を広げ、今後もカイル一行と協力関係を持つ姿勢を見せた。

ロエール

カイルの父であり、温厚な性格の持ち主である。家族を大切にし、息子の成長を静かに見守る存在である。
・帝都で妻セライアの出産を支えるため滞在していた。
・ベアドーラの護符を所持し、カイル達を屋敷へ案内した。
・故郷リマーゼの様子や家族の近況を語り、カイルとの再会を果たした。

セライア

カイルの母であり、かつてベアドーラの弟子であった才媛である。穏やかでありながらも芯の強さを持つ女性である。
・ベアドーラ邸に滞在し、出産を控えていた。
・カイルを温かく迎え、仲間達を見定めるように紹介を求めた。
・かつて宮廷魔道士として有望視されていた経歴を持つ。
・コンラートと接触しており、その縁で医療神官ロレッタを紹介された。

ベアドーラ

帝国宮廷魔道士であり、特級魔法の使い手である老女である。帝国の中枢を支える存在である。
・アンジェラの無事を喜び、カイル達を屋敷に迎え入れた。
・エルドランド急死の真相を語り、暗殺の疑念を共有した。
・ミレーナ王女の扱いについてカイルに依頼し、戦争回避の調停を託した。
・【コントロール・ウェザー】を行使して豪雨を止め、マイザーの登場を支援した。

ダルゴフ将軍

帝国五将軍の一人であり、忠誠心の強い軍人である。武勇に優れるが、激情に流されやすい面を持つ。
・当初はクラウスの通行を拒んだが、特例として通過を許可した。
・コンラートと合流し、五万の軍勢を率いた。
・敗走の際にミナギにより狂戦士化させられ、味方をも斬り伏せた。
・最期はマイザーに一刀両断され、反逆者として討たれた。

エルドランド皇子

ガルガン帝国の第一皇子である。兄弟の中心的存在であったが、暗殺により早世した。
・表向きは急死とされたが、実際には特殊な毒で暗殺された。
・帝国にとって後継者問題を引き起こす要因となった。
・死後もその存在は内戦の火種として大きな影響を及ぼした。

ノルド皇太孫

エルドランドの遺児であり、幼い身ながら継承権を持つ存在である。
・年齢が四歳であり、皇位継承は現実的でないとされた。
・母の意向により継承権を放棄することとなった。
・その立場は派閥間の不満を呼び、新たな争いの火種となった。

レイラ

セランの養母であり、剣の師でもある人物である。表向きはセランの恩人であるが、実際には敵対勢力に属していた。
・十年前の親征で皇帝ベネディクスの命を救いながらも、同時に命を狙った過去を持つ。
・セランを襲撃した刺客を操っていた。
・帝国内乱の終盤で姿を現し、ソウガと共にメーラ教徒であることを明かした。
・去り際にカイルへ手紙を残し、次の戦いを示唆した。

ソウガ

ミナギの師であり、かつて親代わりの存在であった暗殺者である。冷徹かつ熟練した暗殺技術を持つ。
・エルドランドやコンラートを特殊な毒で暗殺した。
・帝都を去ったとされながら、再び姿を現した。
・ミナギやカイルにとって重大な敵対者となった。

展開まとめ

プロローグ

セランによる死の奔流
豪雨と闇に包まれた戦場で、統率を失った兵士達は恐怖に駆られて明かりの下に集まっていた。そこへセランが現れ、剛剣と魔石を駆使して次々と敵を討ち倒した。瞬時に状況を把握し、雷魔法を用いて逃亡兵を足止めしながら順に仕留めていった。百秒足らずで周囲の兵を全滅させた後も警戒を怠らず、武器と体力を確認しつつ次の標的を求めて闇に消えていった。

ミナギの忍び寄る死
別の場所では、二十人ほどの兵が隊長の指揮のもと明かりの下で固まっていた。そこに布が投げ込まれ、明かりが遮られた隙に兵が次々と姿を消していった。恐怖と混乱の中で残兵は減り続け、最後には全員が闇に呑まれた。これを仕掛けていたのはミナギであり、彼女は奇襲を得意とし、背後からの襲撃で無力化した。目的は軍の医薬品を爆破して敵戦力を削ぐことであり、邪魔な隊を殲滅した後、さらなる破壊活動に向かった。

カイルの凄惨な死の演出
戦場を駆けるカイルは、即死させず苦しませる戦い方を選んでいた。腕を斬り落とした兵を放置し、内臓を露出させた者を苦悶させるなど、残虐な手法を用いた。毒や酸の魔法を駆使して兵を苛み、その断末魔を広めることで戦意を削ぐことを狙ったのである。三人の兵に致命傷を与えながらも止めを刺さず放置し、恐怖を拡散させることに徹した。彼の目的は一秒でも早く戦争を終結させることであり、そのために恐怖を利用する戦い方を選んでいた。

三つの死の広がり
セランの力による死、ミナギの忍び寄る死、カイルの凄惨な死が、戦場で恐怖を増幅させた。その恐怖は毒のように広まり、ガルガン帝国を揺るがす内戦の最前線に浸透していったのである。

1

帝都ルオスの緊迫
舞台は人族最大の都市であるガルガン帝国の帝都ルオスであった。五十万とも言われる人口を抱える雑多な大都市は、第一皇子エルドランドの急死と皇女アンジェラの行方不明という事態により、異常な静けさと緊張感に包まれていた。軍が帝都を完全に封鎖し、商人や旅人は城外で立ち往生し、城門周囲は野営地のような状態となっていた。

クラウス商会の登場
その状況下で、マルニコ商会を率いるクラウスが豪華な石材を載せた荷車の隊列を伴い城門に現れた。彼は皇后アスメリアの霊廟建築に必要な最高級の石材を持参したと告げ、皇帝ベネディクスの署名入りの書状を示して通行を求めた。兵士は判断に迷い、上官に確認を取ることとなった。

変装した一行
クラウスに随伴していたのは使用人や護衛に扮したカイル、セラン、ウルザ、リーゼであった。クラウスは袖の下では通じない帝都の厳格さを評しつつも、状況を注視していた。やがて現れたのは五将軍の一人ダルゴフであり、彼は当初頑として通行を拒否したが、耳打ちを受けると不本意ながら特例として通過を許可した。

石材に隠された皇女
荷車の石材内部には、行方不明とされていたアンジェラ皇女が隠れていた。彼女はかつて命を狙われ、黒幕も不明なまま味方と敵の区別がつかなくなったため、失踪してカイル達と行動を共にしていた。正体を隠して帝都に潜入するのはそのためであった。

暗殺の謎
カイルは、一度目の人生でもエルドランドが暗殺された事実を思い返していた。当時の黒幕はジルグス王国のレモナス王であり、実行犯はミナギであった。しかし今世ではレモナス王は既に死亡し、ミナギもカイルと同行している。それにもかかわらず暗殺は早い時期に実行されていたため、黒幕の正体は不明であった。

不穏な予感
帝都に潜入することに成功した一行であったが、カイルはなおも胸騒ぎを覚えていた。視線の先には、無骨ながら威厳を放つ巨大な宮殿が聳え立ち、そこで起こるであろう騒動を予感させていた。

2

倉庫での再会と安堵
マルニコ商会の支店倉庫に到着した一行は、細工された石材からアンジェラを解放した。短い潜伏であったが、活動的な彼女にとって石の中で大人しくしているのは苦痛であり、安堵の伸びを見せた。クラウスは労いの言葉をかけつつ、これで貸しを作れたことを心中で計算していた。アンジェラは改めてカイル達に感謝を述べ、彼らを高潔な英雄と評した。カイルは困惑しながらも、帝国の騒動に介入する意思を示した。

変装と仲間達の様子
一行は変装して帝都に潜入したことから、普段とは違う人目を忍ぶ行動を体験していた。ウルザやリーゼはそれぞれの変装について感想を口にし、セランは軽口を叩いて相手にされなかった。シルドニアは変装不要ながらも不満を漏らしたが、仲間達はいつも通り余裕を保っていた。カイルはその信頼に応えようと自問を抱きつつも、仲間の支えを感じていた。

ミナギの潜入と情報収集
既に帝都に潜入していたミナギが姿を現し、情報を持ち帰った。彼女は封鎖された帝都にも問題なく入り込み、短期間で重要な情報を収集していた。会議の場で報告されたのは、帝国が内戦寸前の状況にあるという厳しい現実であった。

暗殺と後継者問題
公式にはエルドランド皇子は急死とされていたが、実際には暗殺と広く認識されていた。さらにアンジェラ皇女は既に死亡したものとして扱われていた。最大の問題は皇帝の後継者を巡る争いであり、第二皇子コンラート、第三皇子マイザー、第一皇子の遺児ノルドが候補とされ、暗殺の黒幕もこの三者に疑いが向けられていた。

アンジェラの推測
アンジェラは、帝位継承権のない自分が狙われたことから、暗殺の黒幕はこの三人ではないと主張した。特にノルドはまだ四歳であり、皇位を狙って父を暗殺することは不可能であった。そのため別の勢力の存在が示唆された。

皇帝ベネディクスの病状
混乱に拍車をかけているのは、皇帝ベネディクスからの正式な発表がないことだった。通常なら後継者指名で収束するはずが、何も決まらないままである。理由を説明したアンジェラは、ベネディクスが重病で意識が混濁し、既に床から起き上がることすら困難であると語った。医師の診断では余命は二、三か月とされ、帝国の存亡を揺るがす危機が目前に迫っていたのである。

3

皇帝の病状と跡継ぎ問題
アンジェラは皇帝ベネディクスの病状を明かした。神聖魔法や希少な薬で命を繋いでいる状態で、意識不明となることもしばしばであった。彼の存命中に後継者を決める時間を稼ぐために延命されているが、エルドランド暗殺によりその努力も水泡に帰した。カイルは帝国の国力を保ち「大侵攻」に備えるため、何としても内戦を避ける必要を感じていた。

帝国内部の動揺
後継者を巡り、貴族や有力者の間では揺れが広がっていた。候補はコンラート、マイザー、ノルドであり、暗殺の黒幕としても疑われていた。混乱を支えているのは宮廷魔道士ベアドーラと宰相コロデスのみで、二人が辛うじて帝国を保っていた。クラウスのもとにも既に誘いが来ており、経済的影響力の大きさを示していた。

後継者候補の動向
マイザーは宮殿に留まり、厳重な警備下にあった。一方コンラートは所在が不明で、領地に戻ったとも言われていた。情報が不十分な中で、シルドニアは軍部、とりわけ五将軍の動向が帝国の命運を握ると指摘した。アンジェラも内戦の危険性を認め、カイルは一年以上続く泥沼の内戦を予感した。

新たな火種――ミレーナ王女の存在
さらにミナギは驚くべき情報をもたらした。ジルグス国のミレーナ王女が帝都に滞在しており、近衛騎士団を率いて一区画に立て籠もっていたという。彼女はエルドランドと会談するために訪れていたが、その直前に暗殺が起き、帰国できずにいた。帝国側は暗殺関与を疑って引き留め、両国の関係は一触即発の様相を呈していた。

カイルの決意と行動開始
カイルは歴史で経験した帝国内戦と大侵攻の流れを思い出し、何としても繰り返させないと誓った。そのためには中枢の情報を掴む必要があり、重鎮ベアドーラとの接触を模索する。アンジェラは守番として残り、カイル達は変装して行動を開始することになった。

予期せぬ再会
人目を避けつつ商会を出発しようとした矢先、通行人の男がカイルに声をかけた。その人物は敵意なく親しげで、カイルは戸惑ったが、リーゼの一言で正体が明らかとなった。それはカイルの父、ロエールであった。

4

父との再会
カイル達は商会内の部屋に移り、ロエールと腰を落ち着けて話を交わした。ロエールは故郷リマーゼの様子や家族の近況を穏やかに語り、息子の成長を感慨深く見つめていた。対するカイルは落ち着かず、父親を思い出す機会の少なさを内心で自覚していた。やがてロエールは、妻セライアの体調不良と難産の恐れを理由に、神聖魔法の助けを得るため帝都に滞在していることを明かした。

母の消息とベアドーラの名
セライアは現在ベアドーラ宮廷魔道士の屋敷に滞在していると知らされ、カイルは驚愕した。セライアはかつてベアドーラの弟子であり、その縁によって保護されていたのだった。カイル達は本来ベアドーラとの接触を模索していたため、偶然にも望んだ道が繋がったことになる。ロエールの案内により、一行は屋敷へ向かうこととなった。

ベアドーラ邸への訪問
屋敷は帝都でも屈指の警戒態勢が敷かれていたが、ロエールが持つ護符により難なく通過できた。離れ家に案内された一行は、かつてセライアが暮らしていた書庫を思わせる空間に辿り着いた。そこではセライアがベアドーラと談笑しており、扉が開かれると息子の姿に驚き、喜びの声を上げた。

母との再会
セライアは満面の笑みでカイルを迎え、膨らんだ腹を抱えながらも息子に抱きついた。無事を気遣う母の言葉に、カイルは素直に応じた。母子の温かな抱擁は、同行者達の前で少しばかり気恥ずかしいものであった。仲間達は微笑ましく見守る者、面白がる者、からかおうとする者と反応は様々であり、カイルは一人で来ればよかったと悔やんだ。

5

母と仲間達の紹介
セライアは息子を抱きしめた後、リーゼやセランに感謝を伝え、さらに仲間達へと視線を向けた。彼女は一人ずつ紹介を求め、ウルザは仲間としての立場を簡潔に説明し、シルドニアは保護者を自称し、ミナギは雇われの身だと述べた。セライアはそれぞれの反応を冷静に見極め、満足そうに微笑んだ後、カイルに対して仲間達に不義理を働かぬよう釘を刺した。

噂話と母の忠告
セライアはカイルが各地で女関係の噂を立てられていることを耳にしており、それを引き合いに注意を与えた。カイルは根も葉もない噂だと必死に否定するが、リーゼやウルザは複雑な表情を浮かべ、ミナギもまた疑惑を含んだ視線を向けた。母の真剣な忠告に、カイルは冷や汗を流すしかなかった。

医療神官ロレッタの診断
同席していた医療神官ロレッタは、診断魔法【ボディ・リーディング】によりセライアと胎児が順調であることを告げた。生まれてくる子は女児の可能性が高く、リーゼは弟妹ができるように喜びを示した。ロレッタはカイルの寄付に感謝を伝えたが、カイルは照れ混じりに応じ、複雑な心境を抱いていた。

セライアの過去とアンジェラの驚き
アンジェラはセライアがかつて宮廷魔道士であり、ベアドーラの後継者と目された才媛であったことを知り驚嘆した。セライア自身は謙遜し、ロエールも懐かしげに語ったが、その経歴の重さに周囲は感銘を受けた。

ベアドーラへの連絡
カイルは本題としてベアドーラに会う意向を示した。セライアは息子の願いを快諾し、水晶球を用いて師匠に連絡した。ベアドーラは疲れを滲ませつつも、アンジェラの名が出された途端に声を荒げ、すぐに赴くと告げた。両親が喜びの声を上げる中、カイルは苦笑を浮かべるしかなかった。

6

ベアドーラとの対面
カイル達はセライアの元を離れ、ベアドーラの案内で本邸へと移った。帝国の重鎮である彼女は、外見こそ小柄な老女であったが、人族に三人しかいない特級魔法の使い手であり、その存在は国家の要であった。ベアドーラはアンジェラの無事に安堵を示し、彼女を伴って本邸の客室で改めて話を始めた。

エルドランド急死の経緯
アンジェラが兄の死の真相を問うと、ベアドーラは困惑を隠さず答えた。エルドランドは普段通り公務に向かう途中で突然倒れ、高位神官の治療も虚しく息絶えた。検死でも異常はなく、直前に【ボディ・リーディング】を受けて健康体と診断されていたため、自然死とは考え難かった。さらに宮殿内の出来事が不自然なほど早く帝都中に広まり、暗殺の疑いが強まったが、決定的な証拠はなかった。

黒幕と噂
実行犯や黒幕についても混迷していた。マイザー皇子やコンラート皇子に加え、アンジェラ自身までも疑われ、他国や魔族の陰謀説、さらには皇帝ベネディクスの嫉妬による殺害説といった荒唐無稽な噂まで流れていた。真相は掴めず、帝国は完全に手玉に取られている状況であった。加えて、ノルド皇太孫は母の意向で継承権を放棄することとなり、派閥間の不満が新たな火種となっていた。

軍部とミレーナ王女の問題
軍部は静観していたが、一部将軍の動きには不穏な兆しが見えていた。さらに、帝都に滞在しているジルグス国のミレーナ王女の扱いが難題となっていた。暗殺と無関係であることは明らかであったが、疑う声も根強く、下手をすれば両国間の戦争に発展しかねない状況であった。

皇帝の覚醒と謁見
暗澹たる話の中で、ベアドーラは朗報を告げた。長らく意識不明だった皇帝ベネディクスが目覚めたのである。アンジェラは父に会う決意を固め、カイルも同行を望んだ。さらにアンジェラに腕を掴まれたセランも渋々加わることとなった。

ミナギの疑念
一行が宮殿に向かう準備を進める中、ミナギだけが動かずにいた。彼女は、エルドランドを暗殺できる人物に心当たりがあると告げる。その名はソウガ――彼女の師であり、かつて親代わりであった人物である。もし関与が事実ならば、帝国の暗殺劇の裏にソウガがいることになり、そしてそれはミナギとカイルにとって重大な敵対を意味していた。

7

皇帝との謁見
カイルとセランは、アンジェラとベアドーラに伴われてガルガン帝国宮殿へ。そこは要塞のような厳重な構えとなり、第一皇子急死の緊迫感が更に警備を強化していた。圧倒的な眼光を放つ皇帝ベネディクスと対面した二人は、その衰えた外見にもかかわらず、積み重ねた威厳に圧倒される。
アンジェラは父の前で涙を流し、皇帝もまた父として娘を抱きしめる。だがすぐに後継者の問題が話題となり、皇帝は「コンラートでは帝国を弱らせ、マイザーでは帝国を割る」と迷いを吐露した。

カイルとセランへの評価
アンジェラの紹介でカイルとセランは皇帝に謁見。ベネディクスはカイルを「竜殺し」として評価し、その眼の奥に野心を見抜くが「好ましい」と言い放つ。
一方でセランには、義母レイラの名を聞いて強い反応を示す。十年前の親征でレイラに命を救われたが、同時に命を狙われた過去があるという。複雑な感情を見せた後、皇帝はセランに「アンジェラを頼む」と言い残すのだった。

ベアドーラの依頼
謁見を終えた後、ベアドーラはカイルに密かに依頼をする。内容は、帝都に滞在中のジルグス国のミレーナ王女を説得し、事態を悪化させないよう取り計らうことだった。
エルドランドの忠臣であったダルゴフ将軍が、王女を暗殺の黒幕として扱い、決して帰国させまいとしているのだ。彼は忠誠心から「仇討ち」を望み、同時に戦争を大義名分とする主戦派。帝国にとって大きな脅威であり、ベアドーラも頭を抱えていた。

「これは強制ではなく要請」と言いつつ、彼女はカイルの両親セライアとロエールを庇護しており、実質的に断れない状況。さらに「以前、力になると言ったではないか」と釘を刺し、帝国にとって都合の良すぎる大役を押し付けた。

新たな動き
苦渋の思いで依頼を受けたカイルだが、話の最後にベアドーラから衝撃の知らせを受ける。
「マイザー殿下がお主をお呼びだそうだ」

コンラートの不穏な動きが伝えられる中、ついに渦中のマイザー本人からの接触が始まろうとしていた。

8

マイザーとの再会
女官に案内されたカイルは、マイザーの私室へと通された。部屋ではマイザーが気さくに声をかけ、その傍らには宰相コロデスが控えていた。彼は猫の頭を持つ獣人でありながら、帝国の政治を裏から支配する辣腕の持ち主であった。過剰なほど礼を尽くす一方、その笑みには猛獣を思わせる不気味さが漂っていた。マイザーは彼を「帝国で一番性格が悪い」と評し、カイルもその危険性を理解した。

帝位継承の葛藤
コロデスが退室した後、マイザーはアンジェラ救出に対する礼を述べ、さらに本題に入った。彼は兄エルドランドを殺したのは自分でもコンラートでもないと否定し、だが真犯人の問題はすでに枝葉に過ぎず、帝国が混乱することこそが本質だと語った。
マイザーは「自分が継げば帝国は割れる、コンラートが継げば弱体化する」と吐露し、どちらに転んでも破滅の芽があることを認めた。兄への依存を失い、彼自身も決断できずに揺れていたが、それでも「帝国を内戦に巻き込みたくない」という思いから、カイルに協力を求めた。カイルは即断を避けつつも「帝国を守るためなら力を貸す」と答え、暗黙の同盟が結ばれた。

暗殺の真相
宮殿を出たカイルは、エルドランドの遺体を調べてきたミナギと合流した。彼女は「くるぶしに小さな傷があり、そこから特殊な毒を注入された」と報告した。その毒は体内を巡り、半日後に心臓を止める仕組みであり、苦しまずに死に至るという。これはまさに暗殺者ソウガの得意とする手口であった。
ミナギは「ソウガはすでに帝都を去った」と断言し、カイルは安堵を漏らした。もしこの都市に残っていれば、師弟であるミナギと衝突し、自分も巻き込まれる危険があったからである。だが同時に「誰がソウガに依頼をしたのか」という新たな疑念が、カイルの胸に重くのしかかっていた。

9

セライアの口から出た名
一日の疲れを抱えてベアドーラ邸に戻ったカイルを待っていたのは、母セライアの「コンラート皇子と話した」という衝撃の告白だった。行方不明とされる皇子が密かに訪れ、かつて教師を務めた縁からセライアを気遣っていたのだ。彼はセライアの出産準備を整え、ロレッタを紹介するなど尽力していた。
母と妹の恩人となったコンラートに対し、カイルは感謝の念を抱くが、同時に母の「困っている彼を助けてほしい」という願いに、迷いと葛藤を覚えるのだった。

ミレーナ王女との会談
翌日、帝都に留め置かれているジルグス国のミレーナ王女を訪ねたカイルは、近衛騎士達の敵意に晒される。中でも侍女ニノスは裏切られたとばかりに怒りを隠さず、強い不信感を露わにした。だが、ミレーナ自身は凛として落ち着き、むしろカイルを歓迎する態度を崩さなかった。

カイルは帝国の意向を伝え、「事態が収束するまで大人しくしてほしい」と説得を試みる。するとミレーナは驚くべき言葉を返した。
「私も戦争は望みません。そのためなら協力を惜しみません」と。

彼女は帝国内の情勢を正確に見抜き、自身の存在が抑止力として働いていることも理解していた。さらに「帝国に恩を売る」という計算も示し、戦争を避ける意志を明確にした。その冷静さと視野の広さに、カイルも改めて女王に相応しい人物だと実感する。

意外な提案
和やかな雑談に移った後、ミレーナは唐突に切り出す。
「マイザー殿下は元婚約者でしたが、今は別の王配を考えねばなりません。そして……カイル様、あなたも候補の一人なのですよ」

さらりと放たれた言葉にカイルは絶句する。ジルグス国内では「竜殺し」の英雄譚が演劇や書物で大流行しており、国民人気の面からも王配候補として名前が挙がっていたのだ。ミレーナは「戯言として聞き流して構いません」と締めくくったが、確かな眼差しで「忘れるな」と告げているように感じられた。

美姫からの笑みは誰もが憧れるはずのもの。しかし、カイルには微かな寒気を伴って迫るのだった。

10

ミレーナ王女の見送りと不穏な視線
会談を終えたカイルを、ミレーナ王女は玄関ホールまで見送った。立場を考えれば異例の振る舞いであり、彼女がどれだけカイルを評価しているかが明確であった。さらに友誼を強調し、カイルと仲間達を「友人」と呼んで別れを告げた。だがその場で、カイルは一人の女性近衛騎士から異様な視線を感じ取った。警戒や敵意ではなく、憎悪に近い眼差しである。顔に見覚えがあったカイルは訝しんだが、ミレーナは彼女の正体を明かした。それはフレデリカ・オルディ、かつてカイルが殺さざるを得なかったゼントス・オルディの妹であり、兄の最期を含む全てを知る人物であった。カイルは新たな重荷を背負うことになった。

複雑な情勢の整理
仲間達と合流したカイルは、今後の行動について苦悩を吐露した。マイザーを支援すれば、魔族との戦いで心強い存在となるが、内戦の泥沼化は避けられない。一方、コンラートを支持すれば内戦を回避できる可能性が高いが、帝国の弱体化と魔族への備え不足が懸念された。さらにミレーナ王女を放置すれば、彼女が戦火の口実にされる危険がある。いずれの選択にも利害が交錯し、安易な決断はできなかった。最終的にカイルは「全てに味方し、調整を図る」という八方美人的な方針を取る決意を固めた。

仲間への指示と役割分担
カイルは翌日の行動を決め、仲間に役割を与えた。セランとミナギ、リーゼとウルザを二組に分け、それぞれに任務を割り振った。セランには危険が伴うことを警告したが、本人は自信を崩さなかった。シルドニアには待機を命じ、拠点の守りと休養を任せた。仲間達は各自の役割を受け入れ、行動に備えた。

マイザーとの再会と皇帝問題
翌日、カイルはマイザーを訪ね、皇帝となる決意を問うた。マイザーは即答を避けつつも、カイルの「帝国のため、自分のために望む」という率直な言葉に一定の信頼を寄せた。ただし決定権は皇帝ベネディクスにあると明言し、自らが独断で動く意思はなかった。マイザーの懸念はコンラートの動向にあり、彼が積極的に支持基盤を拡大していることを問題視していた。

コンラートへの接触の提案
カイルはセライアを通じてコンラートに会える可能性を示した。マイザーは驚きつつも、この機会を利用するために書状を託すことを提案する。さらに妹アンジェラ皇女を同行させてほしいと依頼した。コンラートが妹に甘いことを理由に、交渉の安全性を高める狙いであった。カイルはこれを承諾し、両者の間に接点を作る役割を担うことになった。その後は世界各地の情報を語り合い、昨日のミレーナとの会談とは異なり、心から楽しめる時間を過ごした。

11

セランの囮作戦
カイルがマイザーに接触していた頃、セランは帝都の大通りを堂々と歩いていた。これは敵を誘い出すための囮作戦であり、セラン自身が「餌」となることで、アンジェラ襲撃やエルドランド暗殺に関わった者を炙り出すのが狙いであった。ベアドーラの協力により「アンジェラ皇女から密命を受けている」という虚偽情報も流されており、危険な動きを見せる相手を捕縛する計画であった。
しかし、この日の成果は小者ばかりであり、セランの報告も「雑魚ばかりだった」と不満を隠さなかった。ミナギは僅かな異様な気配を感じ取ったが、正体を掴むには至らなかった。

ミレーナ王女の監視
一方、リーゼとウルザはミレーナ王女のもとを訪れ、表向きは楽しい茶会に参加していた。王女は非常に協力的に振る舞い、二人の出入りも歓迎していた。だが、その護衛騎士の一人からは明確な敵意が向けられており、カイルはそれがフレデリカの感情によるものだと理解した。

浴場での襲撃
作戦開始から三日目、セランは決定的な行動に出た。帝都の公浴場に赴き、武器を番台に預けて入浴することで、最も無防備な状態を意図的に晒したのである。やがて他の客が消え、二人組の襲撃者が現れた。彼女たちは短剣と投げナイフを駆使し、息の合った連携でセランを圧倒した。
セランは聖剣ではなく予備の剣を手にしていたため劣勢に立たされ、加えて殺意が薄いながらも的確な攻撃に「このまま戦えば危険」と直感する。彼は瞬時に撤退を決意し、浴場の厚い石壁を斬り破って脱出。ほぼ裸のまま大通りに飛び出し、衛兵や市民に追われながらミナギと合流した。

裸の帰還と手がかり
混乱の末、セランは布一枚の姿でマルニコ商会へ逃げ込み、カイルに叱責される羽目となった。だが彼は襲撃者が使用した特殊な投げナイフを回収しており、それが唯一の手掛かりとなった。セランは「声を出さなかったこと」や「殺意が希薄であったこと」にも疑念を抱き、彼女たちが既知の人物である可能性を示唆した。

新たな展開
そのとき、セライアからの手紙が届いた。内容は「コンラート皇子から連絡があり、会うことができる」というものであった。だが、その場所はスラム街であり、カイルの胸に不穏な影が広がっていった。

12

スラム街での潜入
カイル達は帝都ルオスのスラム街に潜入し、第一皇子コンラートと接触を図った。同行したのはリーゼ、ウルザ、アンジェラ皇女、ミナギ、セラン、シルドニアであった。治安が悪い環境に不安を抱くカイルに対し、仲間達は反発しつつも進行を続け、やがて隠れ家に到達した。内部は堅牢な造りとなっており、そこでついにコンラートと再会を果たした。

コンラートとの対話
コンラートは痩せ衰えながらも鋭い眼光を保ち、妹アンジェラの無事に安堵した後、カイル達と対面した。マイザーからの書状をカイルが差し出したが、コンラートは受け取りを拒絶した。彼はマイザーを信用せず、皇帝ベネディクスがマイザーを指名する可能性に強い危機感を抱いていた。エルドランド亡き今、帝国を導けるのは自分しかいないという決意を示し、ダルゴフ将軍の支持を背景に退くつもりはないと明言した。

説得と決裂
アンジェラやカイルは、内戦を避けるため退くよう説得を試みた。カイルは「もし勅命に逆らえば謀反人になる」と警告し、アンジェラも涙ながらに内戦回避を訴えた。コンラートも動揺を見せたが、その最中に隠れ家が襲撃を受け、彼とダルゴフは緊急脱出路を使って去った。結果、襲撃の責任がカイル達に転嫁され、マイザーとコンラートの交渉の道は絶たれた。

マイザーの決断
カイル達はアンジェラを守って脱出し、事の次第をマイザーへ報告した。襲撃は自作自演の可能性も疑われ、結果としてコンラートに挙兵の大義名分を与えてしまった。そこへ皇帝ベネディクスの再びの昏睡という凶報が伝わり、もはや帝位継承の決断は不可能となった。マイザーは「生き残るためには皇帝になるしかない」と決意を固め、ノルド皇太孫の身柄を確保して大義を構築する方針を示した。

帝国の分裂
二日後、コンラートが領地に戻って挙兵したとの報が広まった。名目は「逆賊マイザーに軟禁された皇帝とノルドを救い、帝都を開放する」というものであった。これにダルゴフ将軍が軍を率いて合流し、瞬く間に五万規模の軍勢へと膨れ上がった。マイザーもまた檄文を放ち、コンラートを謀反人として断罪した。こうしてガルガン帝国は、ついに避けられぬ内戦に突入したのである。

13

帝国軍の戦況分析
マルニコ商会の会議室で、カイル、ベアドーラ、シルドニア、クラウスが戦略会議を開いた。現状、マイザー派は兵力が少なく、コンラート軍(ダルゴフ将軍を含む)に大きく劣っていた。有力者の多くは様子見で動かず、内戦は不利な形で始まろうとしていた。クラウスが兵站を担当し、シルドニアは軍師として助言を行うが、兵力差は依然として大きい。

カイルの策
本来の歴史では、マイザーは初戦で引き分け、内戦が一年続いた。しかしカイルは「今回は完勝しなければならない」と考えた。そのため彼は逆転の発想で「コンラートの進軍を早めさせる」策を提案。クラウスに金を投じさせて兵站物資をコンラート軍に提供し、二日早く戦場に到着させる計画を立てた。そこにはカイルが未来の知識から掴んだ“ある自然現象”を利用する狙いがあった。シルドニアは賭けすぎると警告するが、カイルは迷わず受け入れる。

新たな脅威 ― ジルグスとタイホン
その矢先、リーゼとウルザが飛び込んできて「ジルグス国が挙兵準備をしている」と報告。さらにタイホン国がジルグスと共同で帝国へ宣戦布告する密書を送りつけてきたことが判明する。これはジルグスを強制的に戦争に巻き込む罠であり、帝国内で孤立しているミレーナ王女は激しく動揺した。

ミレーナの決断とリーゼの機転
ミレーナは「責任は自分にある」と強く自責し、近衛兵に守られ強行突破で帰国する決意を固める。だがそれは帝国との衝突を不可避とし、カイルの努力を無にする行為だった。そこでリーゼが咄嗟に「帝都の検問を突破した方法を応用して、被害なく秘密裏に脱出できる」と虚勢を張り、時間を稼ぐ。ミレーナはその提案を受け入れ、「夜半までに具体案がなければ強行突破」と期限を区切った。

策を練る仲間達
報告を受けたカイルは頭を抱えつつも、リーゼの機転を称えた。焦るカイルをウルザが冷静に諭し、皆で策を練ることに。ウルザは精霊魔法【ウィンド・ウォーカー】で移動速度を飛躍的に高め、二日でジルグスに到着させる案を出す。しかし問題は、脱出が発覚した瞬間に追撃されれば逃げ切れないこと。そこでシルドニアが「影武者で時間を稼ぐ」策を示すが、リスクの高さを指摘する。

そんな中、リーゼが無邪気に「命の危険がない影武者なら問題ない」と言い出し、皆の視線が集まる――。

14

コロデスの疑念と監視
帝国宰相コロデスは、ミレーナ王女が「エルドランドへの別れの儀」を申し出たとの報告を受け、真意を疑った。表向きは非礼にあたらない行為であり拒否できなかったが、裏があると考え自ら同行を決断。帝国兵を護衛兼監視として従え、ミレーナを礼拝堂へ案内した。礼拝堂には近衛騎士二名のみが残り、内部での儀式は神官のみが立ち会う形となった。

異様な長時間の祈り
礼拝堂で祈りを捧げるミレーナの姿を神官は「真摯で敬虔」と評したが、半日経っても姿を現さず、コロデスは「時間稼ぎではないか」と疑念を強めた。緊張が高まる中、ついに黒衣の女性が現れ、帝国兵に囲まれる。

正体の露見
女性は顔を隠していたが、ベールを外すとそれは帝国皇女アンジェラであった。帝国兵達は動揺し剣を収めざるを得ず、コロデスも驚愕する。アンジェラは「兄エルドランドと最後の別れをしたかった」と説明しつつ、ミレーナが既に馬車で帝都を脱出したことを示唆した。コロデスは国家反逆に近い行為だと警告するが、アンジェラは「帝国のためを思っての行動」と静かに語り、皇族同士の決着に委ねると告げた。

残された者たちと今後
ジルグスの近衛兵達は抵抗しないよう命じられており、コロデスも彼らを外交の駒として扱うことを選んだ。去り際、アンジェラは「叱責を受けるなら父ベネディクスからが望ましい」と寂しげに呟き、コロデスもその思いを共有した。

影武者作戦の成功
その後、近衛兵に扮していたカイルとセランが合流し、アンジェラはリーゼの提案で自ら身代わりを務めたことを明かす。危険を避けつつ、皇女だからこそ可能な策が成功したのである。アンジェラは短いながらミレーナと馬車内で語り合えたことを「有意義だった」と振り返り、帝国とジルグスの関係を思案しつつ彼女の無事を祈った。

15

アンジェラの心境
アンジェラは影武者として帝都に残ったことで、短いながらもミレーナと語り合えた時間を思い返していた。セランの協力を得て危険な策に臨んだが、結果的にジルグス王女との有意義な交流を得たことに満足していた。彼女の心は、今まさに祖国のために駆けているであろうミレーナを案じていた。

ジルグス国内の動揺と挙兵
その頃、ジルグス東部の砦には二万五千の兵が集結していた。指揮を執ろうとしたのは、かつて帝国を訪れた経験を持つオーギス大臣である。彼は王女不在の事態に乗じて「ミレーナ救出のため」と称し挙兵を主張し、温厚なボロルー公爵らも反対しきれなかった。諸侯たちは王女の安全を大義名分に動員され、国は不安定さを増していた。

ミレーナの帰還と歓喜
しかし、出陣を号令しようとしたその時、本人であるミレーナが帰還し、二万五千の兵の前に姿を現した。疲労困憊の身でありながらも毅然とした振る舞いで国の至宝としての威光を放ち、兵達は歓声を上げて歓喜した。オーギスは狼狽しつつも、彼女が紛れもなく本物であることを認めざるを得なかった。

厳命違反への断罪
ミレーナは兵達の熱狂を受け止めつつも、集まった諸侯を冷厳に叱責した。彼女は「帝国とは争わない」と明確に命じていたにもかかわらず、その命令に背いて挙兵したことを罪と断じた。主導者として責めを負うべきは誰かという問いに、諸侯は自然とオーギスを指した。オーギスは涙ながらに「タイホンからの偽情報に騙された」と弁明し、忠誠を強調した。

ミレーナの冷徹な判断
ミレーナはその弁明を受け入れる素振りを見せ、忠誠心を評価すると告げた。しかし内心では、オーギスが事前に情報を把握していた疑念を抱き、彼の行動の手際の良さに不審を募らせていた。彼女は表面上は許したものの、その場にいた一部の貴族が安堵を漏らしたことを見逃さず、後に複数の当主が隠居や急死を理由に交代する結果へと繋がった。

ミレーナと同行者の疲労
強行軍で帰還を果たしたミレーナを支えたのは、精霊魔法【ウィンド・ウォーカー】を使い続けたウルザと護衛を務めたリーゼであった。ウルザは魔力回復薬を飲み干しながら耐え抜いた末に疲労困憊となり、リーゼも彼女を支えつつ無事の帰還を果たした。二人は本来ならカイルの側にいたいと願ったが、今回は役割を全うすることで勝利を信じていた。

少女たちの会話
休息の中、ミレーナはリーゼとウルザに「カイルは二人にとってどのような存在か」と問いかけた。リーゼは「放っておけず一緒にいたい人」と答え、ウルザも「放っておけず共にいて楽しい人」と語った。ミレーナはその言葉に満足した様子を見せ、深く礼を述べた。

戦争回避と恩義
こうしてミレーナは国内の挙兵を抑え、ジルグスを戦争の危機から救った。結果としてカイルは彼女に、そしてジルグス国に大きな恩を売ることとなり、今後の戦局に有利な基盤を築くこととなった。

16

コンラート軍の布陣と楽観
コンラート率いる五万の軍はゴホロ平野に布陣し、ダルゴフ将軍の説明のもと軍議が行われた。兵站の問題はマルニコ商会の協力で解決され、予定より三日も早く布陣を完了したことに諸侯は歓喜した。将たちは圧倒的優位を確信し、勝利を疑わぬ明るい雰囲気に包まれていた。

コンラートの不安と決意
一方で、コンラートは「上手く行きすぎている」と不審を抱き、罠の可能性を疑った。しかし周囲はこれを否定し、天が味方していると楽観的に解釈した。協調性を重んじる彼は強く主張せず疑念を抑えたが、父ベネディクス皇帝への思いを胸に「父上とノルドの安全を最優先とし、帝国民に被害を出さぬ」と厳命し、皆を引き締めた。その姿は侮られていた彼の印象を一変させ、皇帝の血を引く威厳を示した。

不穏な兆しとコンラートの内面
軍の支持が広がる中、マルニコ商会提供の酒も振る舞われ、兵士たちは緩んだ空気に包まれた。コンラートは側近に感謝の言葉を告げ、外に出て空を見上げた。そこには暗雲が立ち込め、雷鳴が不吉に響いていた。彼の不安を裏付けるかのように、天候は急速に悪化していた。

カイルの計略と嵐の夜
一方、山上から平野を望むカイルは嵐の到来を見届けて安堵していた。これは彼が望んだ状況であり、クラウスの手配した酒によって兵達が酔っている今こそが好機だった。嵐と豪雨は敵の視界を奪い、三人での襲撃を可能にする条件を整えていた。

ミナギの暗殺と敵の混乱
嵐の夜、ミナギは敵陣に潜入し、雷鳴と雨音に紛れて要人を暗殺した。十三人もの貴族や指揮官を仕留め、発覚を遅らせるため痕跡も残さなかった。これによりコンラート軍の指揮系統は大きく崩壊し、混乱が広がり始めていた。

戦いの本質と作戦の目的
セランは「コンラートを暗殺すれば楽だ」と疑問を口にしたが、シルドニアは「国柄上、武を以て討たねば帝位は認められぬ」と説明した。ゆえに今回の目的はあくまで軍の弱体化に徹し、決戦は正面から行う方針だった。

三人の決意と虐殺の始まり
準備を終えたカイルはミナギとセランに魔石や通信カードを渡し、死なないことを最優先にと告げた。セランは前回の失態を反省し、気を引き締めて臨む姿勢を見せた。ミナギもまた冷静に勝算を見極めていた。嵐、暗殺、酔った兵士たち。すべての条件が揃ったこの夜明け前、カイルは二人に向かって「行くぞ」と告げ、三人は五万の大軍を相手に虐殺を開始しようとしていた。

17

兵站破壊と大混乱
豪雨と稲妻に紛れ、ミナギは【エクスプロージョン】の魔石を投じて兵糧や医薬品、武具を破壊した。数百人分の糧食が吹き飛び、帝国軍の継戦能力は致命的に損なわれた。兵士達は闇の中で右往左往し、指揮官を失った部隊は統率を欠いて混乱に陥った。

恐怖に駆られる兵とセランの襲撃
混乱から逃げ出した五人の兵は本陣への報告を口実に退避を図ったが、セランに襲撃され全員が重傷を負った。セランは殺すのではなく戦えぬ重傷を負わせる戦法を選び、軍の再編を阻害するため負担を増やした。これにより兵達の恐怖と混乱はさらに拡大した。

カイルの葛藤と虐殺
カイルは豪雨の中で百人以上を斬り伏せ、惨殺と破壊を繰り返した。しかし救うべき人族を自らの手で斬る矛盾に苦悩し、近年迷いが生じていることを自覚した。それでも作戦遂行のため、夜明けまでの時間を戦い続けた。

帝国軍首脳部の動揺
本陣では兵站の壊滅、死傷者多数の報告にコンラートとダルゴフが衝撃を受けた。兵達の恐怖は拡大し、指揮官の不在もあり立て直しは不可能に近かった。ダルゴフは帝都への強行進軍を主張したが、コンラートは民を巻き込むことを拒絶し対立した。

皇帝の勅命とマイザーの登場
議論の最中、皇帝ベネディクスがマイザーを後継者に指名した公文書が宰相コロデスの署名入りで全帝国領に布告されたことが判明した。さらにマイザーが三万の軍勢を率いて進軍し、宮廷魔道士ベアドーラの【コントロール・ウェザー】によって豪雨が止むと、光の中に親征旗を掲げて姿を現した。

戦争から鎮圧へ
マイザーは「謀反人コンラート、ダルゴフの反乱軍を討伐する」と高らかに宣言し、戦の性質は戦争から鎮圧へと変貌した。兵士達はその光景に圧倒され、コンラート軍の士気は崩壊し始めた。カイルも予想外の展開に驚きつつ、これを好機と見て新たな行動へ移ろうとしていた。

18

ダルゴフの絶望と狂戦士化
敗走する軍を前に、ダルゴフは戦意を喪失し、自決を選ぼうとした。しかしミナギに襲われ、「ブラッドアイ」を濃縮した劇薬を強制注入される。これは痛覚を消し去り狂戦士へ変貌させる毒薬であり、彼は理性を失って暴走した。ミナギはさらに「すべてはマイザーのせい」と暗示を施し、彼を戦場へ送り出した。

マイザーの対決と討伐
暴走したダルゴフは味方すら斬り伏せる狂気の存在となり、兵達は恐怖に陥った。マイザーはこれを冷静に迎え撃ち、陽光を剣に反射させて視覚を封じたうえで、一刀両断に討ち取った。数千の兵がその場を目撃し、「謀叛人討伐」を高らかに宣言したマイザーは、圧倒的な歓声を浴び、皇帝への道を確固たるものとした。

カイル達の撤退とコンラート救出
戦場を離れたカイル、ミナギ、セランは集合場所で合流し、混乱する本陣から救出したコンラートを伴っていた。カイルはセライアの願いを理由に、敵である彼を生かそうと訴えた。コンラートもその真意を理解し穏やかな表情を見せたが、突如として力尽き、事切れた。その死は、エルドランド皇子と同じくソウガの手による暗殺であるとミナギは悟った。

レイラとソウガの出現
その場に現れたのは、セランの養母であり剣の師でもあるレイラ、そしてミナギの師ソウガであった。二人はメーラ教徒側に属することを明かし、コンラート暗殺の黒幕であることを示した。さらにレイラの弟子とされる二人の刺客も姿を現し、セランは過去に自分を襲ったのが彼女の差し金であったと知る。カイルとセランは問い詰めたが、圧倒的な戦力差の前に手出しできず、レイラは去り際にカイルへ手紙を残して姿を消した。

帝国反乱の終結と残された疑念
マイザー軍の勝鬨が響き渡り、帝国内乱は終結を告げた。しかしカイル達にとっては、味方であったはずの師と母に等しい存在が敵対陣営に属していたという衝撃だけが残り、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

19

マイザーとコロデスの対話
戦後の整理が終わった帝都で、マイザーは宰相コロデスを呼び出し、なぜ自分に大親征旗を委ねたのか問いただした。コロデスは「皇帝ベネディクスの意志」であり、帝国の安定のために兄弟のどちらかを早期に排除する必要があったと述べ、自らの行動は帝国への忠誠だと強調した。さらに彼はコンラートとの交渉を妨害したのも自分であると明かし、結果として短期で内戦を終わらせたカイルの働きを称えた。マイザーは彼の忠誠を信用せず、「次はない」と殺意を込めて警告した。

アンジェラとの語らい
一人になったマイザーのもとへ妹アンジェラが訪れ、兄の心情を抉るように言葉を投げかけた。彼女は「コンラートは自ら反逆者を集め、あなたに有利な状況を残したのではないか」と推測する。結果として反抗的な勢力は粛清され、マイザーの評価は急上昇した。マイザーはそれを美化しすぎだと疑いながらも、「兄は帝国のために身を挺した」と二人だけの解釈として受け入れ、亡き兄達の杯にワインを注ぎ、アンジェラと共に弔いの乾杯をした。

国葬と新たな評価
翌日、エルドランドの国葬が盛大に執り行われた。マイザーは堂々たる態度で儀式を取り仕切り、その姿は若き日の建国帝ベネディクスを思わせるものであった。彼は父の威光をも利用する覚悟を固め、国内外からも頼もしさを認められた。さらにジルグスからはミレーナの名代キルレンが参列し、両国の関係改善の意志を示した。

カイルの後悔と懸念
賓客席からその様子を見ていたカイルは、表向きには理想通りの展開に安堵しながらも、コンラートを救えなかった後悔に苛まれていた。母セライアへの約束を果たせなかったことが心を抉り、さらにソウガやレイラとの敵対が避けられない現実に思い悩んでいた。特にソウガは、カイルの秘密を知りながら庇うような行動を見せ、その真意が読めなかった。

新たな目的地へ
出発の準備を終えたカイル一行はクラウスと別れを交わした。クラウスは商機を広げ上機嫌であり、今後も協力関係が期待された。一方、セランやミナギは母や師と戦わねばならない葛藤に沈み、重苦しい空気が漂った。そんな中、ウルザが明るく声を上げ、次の目的地がスーラ聖王国であることが告げられた。レイラの手紙には「そこで待つ」と記されており、彼の地でついにメーラ教との決着をつける時が来るのだった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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