前巻までのあらすじ
王子暗殺を目論んでいたのは親しくしてくれていたケティーだった。
辺境でドラゴンに苦しんでいた彼女達を援護してくれたのは隣国の騎士達だった。
そして、王子暗殺の計画に乗ってしまったようだ。
そんな彼女に利用された沈黙の魔女は人間不信になるかと思ったが、、
どんな本?
「サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと」は、モニカ・エヴァレットという無詠唱魔術を使える世界唯一の魔術師を主人公にしたファンタジー小説。
彼女は伝説の黒竜を一人で退けた英雄であり、極度の人見知りの天才魔女でもある。
しかし、彼女は無詠唱魔術を練習しているのは、人前で喋らなくて良いようにするためで。
無自覚なまま「七賢人」に選ばれてしまい、第二王子を護衛する極秘任務を同僚の七賢人に押しつけられることになり、気弱で臆病ながらも最強の力を持つ彼女が、王子に迫る悪をこっそり裁く痛快な物語が展開している。
読んだ本のタイトル
サイレント・ウィッチ III 沈黙の魔女の隠しごと
著者:#依空まつり 氏
イラスト:#藤実なんな 氏
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あらすじ・内容
王子暗殺を目論んでいた意外な犯人にショックを受けるモニカ。だが次の試練――チェス大会は目前に迫っていた。
三大名門校が覇を競うこの大会、モニカの母校・ミネルヴァも参加するのだ。旧友との再会を恐れ精一杯の変装を試みるモニカだったが、すぐに見抜かれてしまい……?
「わたしの、嘘の学園生活……これで、終わりみたい」
しかし、たとえ秘密が暴かれようと、大会に紛れ込んだ悪意は討つ! 無詠唱の魔女の決意が煌めく極秘任務・第三幕!
サイレント・ウィッチ III 沈黙の魔女の隠しごと
感想
自身に優しくしてくれた女子が実は王子暗殺を企てる暗殺者だった。
そんな精神的ショックを抱えながらも彼女と共に学ぼうと約束した乗馬を続けるが、、
運動神経が無いためか落馬してばかり。
そこに護衛対象の王子が沈黙の魔女をエスコートする。
もう一つの選択授業のチェスで、演算力が図抜けている彼女は他学園との対戦の学園代表になってしまう。
対抗試合の最初の対戦相手は最強と謳われる1年生だと言われていたが、、
そんな相手に魔女は高度な戦術を駆使(無自覚)して勝利を捥ぎ取る。
そんなチェスの会場にかつて彼女に親切にしていた男子生徒が現れる。
だが彼は彼女に悪意を持っていた。
そして彼女に「山小屋に籠らず、正体を隠して学園生活のやり直し、贅沢なお遊び」なと攻撃的な言葉を彼女に浴びせる。
それにテンパって泣きそうになる彼女だったが、そんな彼女の今の友達のラナが立ち塞がる。
そのあと、男子生徒は魔女とチェス対戦するために強引に順番を変えて。
対戦するがチェスに集中する魔女にコテンパにやられてしまう。
あまりの結果に逃げ出してしまう男子生徒だったが、、
その時に強引に順番を変えた時の矛盾にハタと気が付いてしまう。
その矛盾を引率の先生に突き付けたら、彼は帝国の暗殺者が変装した者だった。
それに気づいてしまった男子生徒は殺されそうになるが、そこに魔女が追いかけて来て暗殺者は、彼女を水魔法で覆い魔法詠唱が出来ないようにしたが、、
彼女は無詠唱魔法の使い手、呆気なくカウンター攻撃を喰らい暗殺者は撃退されてしまう。
コレが表沙汰になったら、王子の護衛役である彼女の身分がバレて学園生活が終わってしまう。
「学園生活が終わっちゃった」とポロっと言った彼女を見た男子生徒は、彼女の任務に気が付いてサポートしてしまう。
だが、帝国の暗殺者には逃亡されてしまう。
その次は突然。
星読みの魔女に招待されだと思ったら突然仕事を手伝わせられてしまう。
古代魔導具「星紡ぎのミラ」を祭りのクライマックスに使うお手伝いなのだが、その会場に第二王子を見付けてしまい。
彼を護衛するために、共に行動をするが、、
途中で古代魔導具「星紡ぎのミラ」が盗まれたと星読みの魔女から連絡があり捜査をする事になる。
そしたら、古代魔導具をコピーしようと触ったせいで星紡ぎのミラに拘束され空を飛んでいる男を見付け。
杖に跨って飛行魔法を使い飛ぶが・・
運動神経ゼロな沈黙の魔女は真っ直ぐ飛べなかった。
だがそこで乗馬の注意点を思い出したら突然真っ直ぐ飛ぶ事が出来て古代魔導具を捕まえる事に成功する。
でも、置いて行ってしまった第二王子とギクシャクしてしまったが、、
彼が連れてきた古本屋に来たらギクシャクしていた雰囲気は雲散霧消してしまった。
そして第二王子が魔術に憧れおりその中でも、特に沈黙の魔女に憧れていると知って、内心絶叫してしまう第二王子のお気に入りの生徒会会計係。
そして、彼女も目の前で殺された父親の著作を見付けて本を購入しようとするが、、
金貨2枚と高額のため取り置きをお願いしたが第二王子が支払ってしまった。
そんな本を2人きりで読んでいたが、、
ワインを飲んでしまい、、
第二王子を猫と勘違いして寝てしまう。
そして、星読みの魔女の占いが当たってしまうw
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展開まとめ
プロローグ
バーニー・ジョーンズと無言のエヴァレット
名家出身のバーニーとその野心
バーニー・ジョーンズはリディル王国の名門、アンバード伯爵家の次男として生まれた。家を継げない立場である彼は、魔術の道で成り上がることを決意し、十歳で最高峰の魔術師養成機関ミネルヴァに入学した。彼の目標は、王国最高位の魔術師である七賢人であった。入学後すぐに頭角を現し、学年首席の成績を収めていた。
〈無言のエヴァレット〉との出会いと救出
十三歳のある日、バーニーは教室で平民の少女モニカ・エヴァレットが男子生徒たちに虐げられている場面を目撃した。彼女は無口で目立たぬ存在だったが、男子たちの悪質な行為に対し、バーニーは短い詠唱で小さな火を起こして制止した。その後、彼はモニカと言葉を交わし、彼女が人前で話すのが極端に苦手であること、過去に辛い経験をしてきたらしいことを知った。
始まった奇妙な友情と依存関係
モニカを助けたことをきっかけに、バーニーは彼女の面倒を見るようになり、モニカも彼を頼るようになった。モニカは魔術式の理解に優れていたが、一般教養科目には著しく弱く、バーニーが勉強を教えることで二人の距離は縮まった。しかし、バーニーは次第にモニカが自分に依存していることに満足を覚え、無意識のうちに彼女が孤立したままであることを望むようになっていった。
モニカの才能と無詠唱魔術の衝撃
モニカは初めての実技訓練で緊張から何もできなかったが、バーニーの助言により短縮詠唱の習得を目指すこととなった。だが、次の訓練の場でモニカが披露したのは、詠唱を一切行わずに魔術を操る「無詠唱魔術」であった。これは歴史上誰も成し得なかった奇跡であり、彼女が本物の天才であることが明白となった。それを目の当たりにしたバーニーは驚愕し、嫉妬と劣等感に支配される。
圧倒的才能に対する絶望と執着
モニカが無詠唱魔術を披露してから彼女の扱いは一変し、ミネルヴァ最高の教授ラザフォードの下で特待生として指導を受けるようになった。バーニーはその後も努力を重ねたが、魔力中毒を起こすほど無理をして身体を壊し、さらにモニカへの憎しみを深めていった。自分の理想的な未来を壊したのはモニカだという思い込みが、彼の精神を蝕んでいった。
七賢人となったモニカと決定的な断絶
モニカが最年少で七賢人に選ばれた冬の日、バーニーは学校中に広がる称賛の声に耐えられず一人になろうとしていた。そんな彼の前に、七賢人の正装に身を包んだモニカが現れ、感謝の言葉を伝えようとした。しかしバーニーはそれを冷たく突き放し、彼女を侮辱し涙を流させた。その様子に満足しながら、バーニーは彼女の前から立ち去った。
モニカの消息とバーニーの安堵
その後、モニカが公の場に姿を見せることは無くなった。噂では山中で隠者のような生活をしているとされている。バーニーはようやく心の平穏を取り戻したと感じていたが、それはモニカという存在を完全に切り捨てた結果であった。
一章
理由なんて、いらない
友人の喪失とモニカの変化
セレンディア学園高等科に通うラナ・コレットは、親友モニカ・ノートンの沈んだ様子に気づいていた。モニカは、選択授業の乗馬をケイシーと共に受ける予定であったが、ケイシーが家の事情で退学したことで孤立感を深めていた。気落ちするモニカに対し、ラナは舞踏会の話題を振って元気づけようとし、ドレスの準備がないことを知ると、自分の古いドレスを貸すと申し出た。モニカは気後れしつつも、ラナの真意を受け取り、感謝の気持ちを表した。
乗馬への挑戦と失敗
極度の人見知りでありながらも、生徒会役員としての責任と、去った友人への思いを胸に、モニカは乗馬の授業に臨んだ。自己紹介は上手くこなしたものの、実技ではバランス感覚の悪さが仇となり、立て続けに落馬した。痛みと周囲の嘲笑に耐えながらも、彼女は乗馬の技術を習得し、ケイシーにその成果を伝えたいという目標を強く抱くようになった。
フェリクスの指導と乗馬の上達
授業中、モニカは護衛対象である第二王子フェリクス・アーク・リディルと遭遇する。彼の丁寧な指導のもと、モニカは馬上での姿勢や動作を学び、落ち着いて乗れるようになっていった。フェリクスは馬との接し方を通じて、乗馬の本質を伝え、モニカもその中で手応えを感じ始めた。彼女は馬への接し方や自身の緊張が馬に与える影響を理解し、着実に進歩していた。
秘めた動機と友情への決意
フェリクスの問いに対し、モニカは乗馬を選択した動機を語った。それは、乗馬を得意としていたケイシーに、上達した姿を伝えたいという思いからであった。フェリクスはその気持ちを受け止め、彼女の成長を喜んだ。一方、ケイシーが起こした事件の真相は未だ伏せられており、モニカの胸には葛藤が残っていた。それでもモニカは、支えてくれる周囲の人々に報いるため、成長しようと努めていた。
実践魔術の授業見学と魔法戦の記憶
フェリクスに連れられ、モニカは実践魔術の授業が行われている森の奥へと向かった。そこでは、魔法戦と呼ばれる模擬戦が行われており、副会長のシリル・アシュリーが見事な戦いぶりを見せていた。魔法戦に対してトラウマを抱えていたモニカはその光景を懐かしみながらも、過去の失敗や自らの弱さを思い出していた。
事件の記憶と感謝の思い
かつてケイシーが引き起こした事件を回想し、モニカは自らの無力さと、真実を語れない現実に苦しんでいた。しかし、シリルやラナ、ニール、イザベルなど、多くの仲間に助けられてきたことを改めて思い出し、いつか自分もその恩に報いたいと願っていた。ラナの言葉を胸に、モニカは理由なく人に親切にできる強さを求めるようになっていた。
魔術への関心とフェリクスの意図
モニカはフェリクスが実践魔術の授業を観察している理由に興味を持つが、彼は「これも勉強」としつつ、表情からは純粋な好奇心が垣間見えた。魔術を使えないはずのフェリクスが、魔術や魔法戦に詳しい点にモニカは違和感を覚えたが、問い詰めることはなかった。
乗馬練習への集中と前向きな意志
考え事をして背中が丸まってしまったモニカは、フェリクスの指摘に従って姿勢を正し、再び乗馬に集中した。複雑な思考や過去の記憶は尽きなかったが、今は目の前の課題に取り組むことこそが、彼女自身を強くする第一歩であると理解していた。
二章 成り上がり
チェスの授業と出会いの再開
モニカは選択授業として乗馬とチェスを選び、初回のチェス授業に向かっていた。廊下でグレン、ニール、クローディアに遭遇し、授業の話題を交わした。その際、クローディアがチェスに反応し、明らかに気分が沈む様子を見せた。モニカが戸惑っていると、生徒会書記のエリオットが現れ、共にチェスの授業へ向かった。
対局とキャスリングの告白
教室でエリオットはモニカにチェスの対局を持ちかけた。かつての見学会でエリオットが使ったキャスリングについて、モニカが指摘しなかった理由を問いただす。モニカは自分の無知が原因であり、相手を責める理由がないと答えた。この言葉にエリオットは少年時代の記憶を重ね、かつて出会った優しい王子フェリクスとの一件を思い出した。
少年時代の回想と過去の罪
幼い頃、エリオットは第二王子フェリクスに対して苛立ちと侮蔑を抱き、意地悪を繰り返していた。ある時、フェリクスが大切にしていた天文学の本を木の上に隠し、無理に登らせて落下させてしまった。フェリクスは怪我を負ったが、自分のせいだと嘘をついてエリオットを庇い、そのことでエリオットの処罰は免れた。この出来事はエリオットの中に深く刻まれていた。
モニカの才能と価値観の違い
対局の結果はステイルメイト。モニカは勝敗よりも検証を優先した結果であり、エリオットはそれを手加減と見なした。エリオットはモニカの駒の扱い方に感銘を受けつつ、自身の「成り上がり」を嫌う姿勢が彼女と対照的であると認識した。モニカは駒の価値に固執せず、勝利に向けて合理的に動く。一方エリオットは、過去の苦い経験から階級や役職にこだわっていた。
チェス大会代表への選出
ボイド教諭が突如として黒板にチェス大会の代表選手を記し、モニカが先鋒に選出された。プレッシャーで硬直するモニカに、エリオットは励ましを交えつつ冷やかし、ボイド教諭も期待を寄せた。かつて七賢人に推薦された際と同様に、モニカは戸惑いながらもその任を受けることとなった。
生徒会での報告と理解者たち
モニカとエリオットは代表選手となったことを生徒会で報告し、フェリクスとシリルから理解と協力の言葉を受けた。シリルは厳しくも温かくモニカの専念を促し、フェリクスも過去の経験をもとに支援を申し出た。モニカは素直に感謝を述べ、その言葉を噛まずに言えたことにささやかな誇りを感じた。
フェリクスとの対局と願い
フェリクスは気まぐれにモニカとチェスで対局し、勝った際には願いを一つ叶えるという条件を提示した。モニカは見事に勝利し、フェリクスに「子リス」という愛称をやめるよう願った。しかしフェリクスはその願いを逆手に取り、「モニカ」と名指しするにとどめた。条件設定の曖昧さを悔やみつつ、モニカはその理不尽さを嚙み締めた。
変化する関係と内面の変容
モニカは代表に選ばれたことで自らの立場や周囲との関係に変化を感じ始めた。エリオットやフェリクスの態度は以前より柔らかくなり、彼らはモニカの資質を正面から受け入れつつある。かつて「成り上がり」を拒んでいたエリオットも、モニカの中に自分の想定外の存在を認識し始めていた。モニカ自身もまた、自分が注目される立場に置かれることを、少しずつ受け止めようとしていた。
中堅ベンジャミンとの初対局と大将問題
モニカはチェス大会に向けた特別訓練で、中堅代表のベンジャミン・モールディングと初めて対局し、全力で挑んだ末に勝利した。音楽家の家系に育ち、芸術的観点からチェスを捉えるベンジャミンは、モニカの手筋を絶賛し、彼女を大将に推した。エリオットもこれに同意し、モニカは強く拒否したが、申請済みの順番変更は難しいという理由で却下された。プレッシャーに弱いモニカは、過去の面接や式典の記憶を思い出し、強い不安に襲われた。
前回大会の構成と生徒会メンバーの実力
前回のチェス大会ではフェリクスが中堅、ニールが大将として出場し、セレンディア学園は圧勝していた。ニールの実力は見た目の印象とは裏腹に、的確な対応力を持つ高レベルであり、ベンジャミンは彼を即興曲に喩え称賛した。また、フェリクスのチェスは無駄がなく正確であり、ベンジャミンはモニカのチェスに近いと評した。これにより、モニカの内心に複雑な驚きが走った。
チェス大会目前の日常と友人たちの反応
大会二日前の昼休み、ラナはモニカを買い物に誘ったが、予定が合わないと断られた。ラナはモニカがチェス大会の代表選手であることを初めて知り、驚きとともに素直に賞賛し、応援を申し出た。モニカは過去の心ない言葉の影響で、人前で評価されることを苦手としていたが、ラナの反応に戸惑いながらも安堵を覚えた。クローディアも出場経験があり、ニールの言葉に促されて手抜きを忘れて全力を出してしまったことを明かした。
対戦校の判明と動揺するモニカ
今年の対戦校も昨年と同様に、セレンディア学園・院・ミネルヴァで構成されるとクローディアが言及したことで、モニカは動揺した。自身がかつて通っていたミネルヴァが対戦校であると知り、彼女の中で過去の記憶が一気に蘇った。飛び級で七賢人に選ばれた当時、モニカは研究室に引きこもっていたが、過去の友人や否定的な言葉を思い出し、過呼吸寸前にまで追い込まれた。
ラナとの約束と支えの手
モニカの異変に気づいたラナは彼女を支え、チェス大会当日の朝に自室を訪れるよう約束を交わした。ラナの毅然とした態度にモニカは促され、戸惑いながらもその申し出を受け入れた。モニカにとって、周囲の支えはかつての自責と怯えから一歩踏み出すための、静かな励ましとなっていた。
三章
ノンフラグ・トライアングル ~三角関係の様式美 ~
チェス大会前夜の不安と日常風景
モニカはミネルヴァの生徒がチェス大会に来ると知ってから不安に苛まれ、過去の記憶に苦しみながら眠れぬ夜を過ごしていた。大会当日も早朝に目を覚まし、毛布の中で過去の言葉を反芻していた。屋根裏ではネロとリンが独自ルールでチェスの駒を積む遊びをしており、モニカは呆れながらも日常の安堵を感じていた。リンは護衛任務のために来訪しており、フェリクスの安全確保を命じられていた。ケイシーの件について問われると、リンは取り調べの進展とケイシーの処遇を説明した。モニカはそれを聞き、ランドール王国を巡る政治的緊張とクロックフォード公爵の意図、フェリクスの立場に思いを巡らせた。
護衛計画と変装作戦の準備
モニカはチェス大会と学園祭を安全に終えるため、ネロとリンに護衛任務を指示した。二人は変装案を実行に移し、黒と金の霧に包まれて成人男性の姿へと変化した。しかし、制服姿がかえって目立つことに気づかされ、代わりの服装について議論を始めた。モニカはその様子を見守りながら、日課のコーヒー準備に取りかかった。
モニカの変身と心の準備
ラナはモニカにコルセットと化粧を施し、姿勢と印象を整える指導を行った。モニカはコルセットの苦しさとともに、化粧と髪型で印象が大きく変わることに驚きを覚えた。さらに眼鏡を加えることで大人びた外見を獲得し、会いたくない人への対策として自信を得た。ラナの助言により、姿勢と表情の重要性を再認識し、化粧の仕上がりに勇気づけられた。
生徒会メンバーの反応とフェリクスの評価
チェス大会当日、生徒会室に現れたモニカの変貌に一同は驚愕した。エリオットやシリルは彼女の印象が大きく変わったことを認め、フェリクスも詩的な賛辞を述べた。モニカは自身の姿に自信を深め、ラナの教えに感謝しながら、自らの変化を肯定するようになっていた。
ミネルヴァの代表との再会と緊張の対面
代表選手としての応接室に向かったモニカは、フェリクスの陰に隠れながらもミネルヴァの引率教員と生徒たちを確認した。そしてその中に、かつての友人であり因縁の相手であるバーニー・ジョーンズの姿を認めた。記憶に残る憎悪の眼差しと発言が蘇り、モニカは震える心を押さえて姿勢を正し、挨拶を交わした。
教師陣の火花と選手紹介
院・ミネルヴァ・セレンディアの三校による代表選手の紹介と握手が行われ、教師陣も昨年の成績や今年の展望について応酬を交わした。特にボイド教諭とレディング教諭の間では静かな対抗心が垣間見えた。モニカはレディングから直接名を呼ばれ注目されるが、ボイド教諭の後押しを受けてなんとか平静を保った。
仲間たちとのやり取りとモニカの集中法
緊張で限界に達したモニカは、場の空気を読みながら円周率の暗唱で意識を保とうとし、周囲との会話を遮断していた。エリオットやベンジャミンの軽妙なやり取りが場を和ませようとする中、モニカは心を強く持ち、外見の変化と仲間の支えに勇気をもらっていた。
かつての記憶とチェスへの導入
バーニーとの過去を思い出したモニカは、彼がチェスを馬鹿にしていたことや、ミネルヴァのチェスクラブに否定的だった態度を思い出す。そのバーニーが代表選手として現れたことに戸惑いながらも、モニカは冷静に今の自分を見つめ直し、目の前の対局に備える覚悟を固めた。
試合直前の準備と自信の獲得
チェス大会の組み合わせ抽選により、第一試合はセレンディア学園と院、第二試合がミネルヴァとセレンディア学園、第三試合が院とミネルヴァに決定した。モニカは先鋒であるため、ミネルヴァ大将のバーニーとは対局しない見込みであった。第一試合開始前、モニカは化粧部屋で身だしなみを確認し、整えた姿に自信を抱いた。社交界では外見が一種の武装であると理解し、コルセットの存在が心の支えに変わっていた。
バーニーとの偶然の再会と動揺
化粧部屋を後にしたモニカは、廊下でバーニーと鉢合わせた。彼は社交的な笑みを浮かべつつ、かつての友人モニカ・エヴァレットに似ていると話題を向けた。モニカは返答に迷いながらも動揺し、かつての友情を思い出して言葉を失った。編入生であることを隠そうとしたが、曖昧な態度が逆にバーニーの疑念を深めてしまった。彼はモニカに詰め寄り、冷ややかな視線を向けて真偽を探ろうとした。
精霊たちの乱入と強引な救出劇
緊迫した空気の中、ネロとリンが突如現れ、モニカを護るように左右から抱き寄せた。二人は華美な礼服姿で、朝の演劇的やりとりを再現し、モニカの恋人を自称した。ネロとリンは台詞を重ねつつ三角関係を演出し、バーニーに四角関係の不要さを語って退場を迫った。その場の勢いと異様な状況に押されたバーニーは、半ば呆れた様子で場を離れた。
護衛姿の迷走とモニカの嘆き
事態が落ち着くと、モニカは地面にへたり込み、精神的疲労を滲ませた。ネロとリンは自らの演技と護衛任務を誇りに語ったが、モニカは彼らの服装が場違いであることに頭を抱えた。二人は制服では年齢に無理があるとの指摘を受け、礼服姿での変装に切り替えていた。今回の衣装は、学園祭前に浮かれた生徒を装うものとされていたが、あまりに派手で目立つものであった。モニカは今後の混乱を避けるため、猫と鳥の姿でいてほしいと懇願し、朝に念押しを怠ったことを深く後悔した。
四章 わたしの友達
チェス大会の開幕と観戦席の賑わい
セレンディア学園でチェス大会が始まり、観戦席には試合に出ない生徒会役員たちが集まっていた。ラナ、グレン、クローディアは迷うことなくニールの隣に座り、シリルはグレンに対し秩序ある行動を求めていた。モニカは観戦席から離れた選手席に座り、ラナに手を振り返すなど、緊張の中にも交流が見られた。観戦用の大きなボードが用意され、ニールはそれが実況と解説のためのものだと説明した。
強敵ロベルトの紹介とモニカへの懐疑
セレンディア学園の対戦相手である「院」の教師は、自校にいる留学生ロベルト・ヴィンケルの強さを誇示し、彼がモニカの対戦相手であることを明かした。院の教員はモニカを軽んじ、女子生徒が先鋒に選ばれたことに疑念を抱いたが、ボイド教諭はモニカが経験不足ゆえに先鋒に据えられたと説明した。チェス歴が二週間であることが判明し、観戦者たちは驚きを隠せなかった。
モニカとロベルトの対局開始
モニカは試合前にロベルトと簡単な挨拶を交わし、緊張の中で試合を開始した。彼女の指し手は極めて速く、観戦席ではその異常な速度が話題となった。思考時間は常に数秒以内で、観戦者たちはただの早指し戦法以上のものを感じ取り始めた。
圧巻の対局とモニカの勝利
モニカとロベルトの対局は、他の卓を圧倒する速度と技術で進行した。ロベルトの攻勢に対し、モニカは的確な受けと返しを連続させた。高度な読み合いの末、モニカはロベルトを破り、「チェックメイト」で締めくくった。先鋒戦はモニカの勝利となり、以降の中堅・大将戦では院が勝利して、最終的にセレンディアは二敗一勝で敗北した。しかし、観戦者の多くが最も注目したのはモニカの圧巻の対局であった。
交流会とロベルトの突飛な婚約申込み
交流会の場において、モニカは他校の代表者ロベルトから突如婚約を申し込まれた。彼はチェスをするための継続的な接点として婚約を提案し、家柄や将来の安定性まで語った。モニカは極度の人見知りから逃走を試みたが、その後フェリクスとシリルが彼を止め、生徒会としての礼節を求めた。
モニカとバーニーの再会と対立
逃げ出したモニカは階下で元友人バーニー・ジョーンズと遭遇した。バーニーはかつての親しさを裏切るようにモニカを罵倒し、過去の関係を否定した。彼はモニカが他人に依存しながら偽りの学生生活を送っていると批判し、精神的に追い詰めようとした。
ラナの介入と友情の証明
そこへ駆けつけたラナが割って入り、バーニーの行為を咎めた。モニカを擁護する言葉にバーニーが反論するも、ラナは毅然と反論し、モニカを侮辱する彼の態度を否定した。ラナはモニカを「自慢の友達」と表現し、モニカ自身も涙ながらに自分の気持ちを初めて口にした。かつての憧れと友情の記憶を断ち切る形で、モニカはバーニーとの関係に終止符を打った。
バーニーの執着と対戦への布石
バーニーはモニカからの断絶宣言を受け入れられず、次の試合で彼女と戦うために先鋒に立候補した。顧問のピットマンを引きずり、会場校の教員から必要なサインを得て出場申請を強行した。モニカを再び自身の影に戻そうとする執着が、彼を突き動かしていた。
教師たちの静かな観察と回想
一方、職員室では教師リンジーとマクレガンが午前の試合内容について語っていた。リンジーはモニカの勝利を誇らしく思い、モニカのチェスの才能にも驚いた様子であった。そこへバーニーが書類を持って現れ、マクレガンからサインを得て立ち去った。バーニーは、あくまでもモニカを自分の視線の中に留めておこうとしていた。
五章 紛れ込む悪意
反省中のロベルトと試合開始前の混乱
モニカがラナと共に化粧を整えて戻ると、観客席ではロベルトが「反省中」と書かれた紙を背負い正座していた。彼は試合前にもかかわらず再びモニカに発言し、周囲の教員や生徒会役員から厳しく叱責された。モニカは空気の重さに戸惑いながら、エリオットとベンジャミンのもとへ避難した。
バーニーの異常な選手変更と執着の表出
ミネルヴァの試合直前、先鋒として現れたのは本来大将であったバーニーであった。バーニーは正式な手続きを経て先鋒に立ち、明らかにモニカを標的にした意図的な配置変更を行っていた。周囲はその独断に困惑し、エリオットも不快感を示したが、モニカはすでにバーニーへの執着を断ち切っていた。
バーニーとの対局と徹底した勝利
バーニーの攻撃的かつ強引な指し回しに対し、モニカは冷静かつ容赦のない手で応じた。盤上での圧倒的な実力差により、モニカはバーニーの戦略を逐一潰していき、周囲もすでにモニカの勝利を確信していた。やがてモニカは静かにチェックメイトを宣言し、バーニーは敗北を受け入れられず会場を飛び出した。
偽ピットマンの正体とバーニーの疑念
敗北の怒りに任せて控え室に戻ったバーニーは、ピットマン教師の言動に不自然さを覚えた。彼は詰問を通して、目の前のピットマンが本物ではなく、何者かが成りすました存在であることを確信した。詠唱によって正体を現した偽ピットマンは、シュヴァルガルト帝国の魔術師であり、禁術である肉体操作魔術――通称「竜化」を操っていた。
魔術戦の勃発とモニカの参戦
バーニーは雷の魔術で応戦するが、偽ピットマンは竜化によりそれを無効化し、反撃でバーニーを圧倒した。そこにモニカが現れ、敵の魔術で水球に閉じ込められるも、無詠唱の魔術で結界を破り脱出し、風の弾で眉間を撃ち抜いて魔術師を気絶させた。バーニーはその姿を見てモニカの本当の任務を理解した。
バーニーの偽証とモニカの正体の隠蔽
直後に控え室に駆けつけたシリルとニールに対し、バーニーは偽ピットマンの正体と自らが制圧した経緯を説明し、モニカをただの巻き込まれた被害者と偽って庇った。その場にいた精霊も鳥に姿を戻され、正体の証拠を隠匿された。バーニーの配慮により、モニカの正体は伏せられることとなった。
モニカの護衛任務と終わりゆく学園生活
モニカはバーニーの行動に困惑しながらも、その言葉と行動に感謝し、静かに頭を下げた。フェリクスの暗殺未遂を阻止したが、この事件によりモニカの正体が明かされるのは時間の問題であった。自らの偽りの学園生活の終焉を覚悟し、モニカはその現実を受け入れていた。
医務室での一時の安堵と仲間たちの絆
モニカは医務室でラナ、クローディア、グレンの三人に見守られながら、濡れた制服を乾かし、簡素な衣服に着替えて体を温めていた。仲間たちはモニカの安全を喜び、些細な誤解や騒動を交えつつも、彼女に寄り添った。モニカは事情を大まかに説明し、クローディアからは事件後も学園祭が強行されることを告げられた。
クロックフォード公爵の思惑と第二王子の立場
クローディアは、学園祭が第二王子フェリクスの政治的お披露目の場であり、後ろ盾であるクロックフォード公爵の意向により中止は不可能であると断言した。公爵は第二王子を王位に就けることで権力を拡大しようとしており、フェリクスはその傀儡として振る舞っているとされた。モニカはその言葉に違和感を抱きつつも、胸のざわつきを拭いきれずにいた。
六章 この名を歴史に刻むため
クロックフォード公爵の来訪と学園祭決行の命令
チェス大会の翌日、セレンディア学園を訪れたのは、第二王子フェリクスの祖父にして、王国屈指の大貴族クロックフォード公爵であった。侵入事件により学園の警備体制の甘さが露呈した直後であり、学園長はその威圧的な存在感に恐れ慄いていた。公爵は、事件にかかわらず学園祭を中止することなく決行するよう命じ、さらには王族や諸侯が出席する以上、フェリクスの名を高める機会とするよう命じた。学園長は逆らうことができず、即座に従った。
フェリクスと公爵の対話、そして命令の真意
フェリクスが到着すると、祖父に対して礼儀正しく振る舞ったが、公爵は冷淡に叱責し、学園祭で自身の権威と孫の価値を示すよう厳命した。フェリクスは無表情に従う意を示したが、その内面には感情が乏しく、深い決意が潜んでいた。彼は祖父の命令の裏にある政治的意図を理解し、粛々と役割を果たす構えを見せていた。
生徒会での対応と警備強化の決定
同日、生徒会ではフェリクスを除く役員たちが召集され、事件を受けて今後の対応を話し合っていた。フェリクスが現れると、学園祭は予定通り開催すると告げられたが、警備体制は大幅に強化されることが決まった。フェリクスはその手配を自ら行うとし、他の役員には休息を命じた。シリルはその命令に従いつつも、力になれないことに苦悩を覚えていた。
モニカの葛藤とシリルへの想い
モニカはチェス大会で借りた上着を返すため、廊下でシリルを待っていた。リンからの密命で〈星詠みの魔女〉の屋敷へ招かれることになったが、シリルへのお礼を忘れず伝えようとする姿が描かれた。モニカは彼の優しさに触れ、自身の正体を明かせないことに罪悪感を募らせながらも、生徒会役員として学園祭の成功に尽力する決意を口にした。シリルはその言葉に応じ、高慢ながらも励ましを与えた。
フェリクスの内面と決意、精霊との会話
学園祭の準備を進めるフェリクスは、契約精霊ウィルディアヌと共に書類を処理していた。彼は〈星詠みの魔女〉の招待を受ける準備をしつつ、厳しい祖父の命令をも利用する覚悟を見せた。フェリクスは自らの名を歴史に刻むためなら手段を選ばないという強い意志を秘めており、その目には暗い光が宿っていた。
イザベルとの会話とモニカの心情
任務の報告のためイザベルの部屋を訪れたモニカは、祭りに誘われるも予定があると断らざるを得なかった。イザベルは落胆しつつも気丈に振る舞い、モニカとの将来の約束を嬉しそうに語った。モニカはその姿に心を痛めつつ、感謝の気持ちを伝えた。
〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイ邸の訪問
メアリーの屋敷を訪れたモニカは、七賢人の一人として親交を深めるよう招かれた。屋敷には同じ七賢人であるルイスもおり、形式ばらない宴が繰り広げられた。モニカは戸惑いつつも歓迎を受け、メアリーから第二王子フェリクスの運命が十年来読み取れなくなっているという不安を聞かされた。
魔術奉納と古代魔導具〈星紡ぎのミラ〉の予告
メアリーはその夜、魔素解放の魔術奉納を行う予定であり、モニカに見学を勧めた。使用されるのは強大な古代魔導具〈星紡ぎのミラ〉であり、封印解除はルイスが担当したという。人格を持つその魔導具は、男性の使用者に対して危険な性質を持っていた。モニカはその知識と実物への興味を抑えきれず、参加を決意した。
バルトロメウスの潜伏と計画
一方、宿場街コールラプトンでは、細工職人バルトロメウスが潜伏していた。以前、偽の紋章を製作した件で共犯の疑いを恐れ、逃亡中の身であった。彼はその場で古代魔導具を目撃し、模造品を製作して一儲けしようと企んでいた。盗みではなく模倣であると自己正当化しつつ、祭り会場へ向かった。
八章 モニカ、不良になる
古代魔導具〈星紡ぎのミラ〉とその性質
風の上位精霊リンによってコールラプトンの空へと移動中、モニカは〈星紡ぎのミラ〉の性質についてメアリーから説明を受けた。この古代魔導具は星の巡りに影響を受けるため、夜で星の位置が良い時には街二、三個分の土地の魔力を吸収する力を持つという。また、この魔力を攻撃魔術へと変換する機能も秘めており、条件が整えば一都市を消し飛ばすことさえ可能であった。この危険性から普段は封印されていることも明かされた。
教会裏への着陸と幻術による隠密行動
派手な着地を嫌がったモニカの希望により、一行は教会の裏手に着陸した。メアリーは幻術を使って周囲からの視線を遮断し、静かに式典会場の近くへと接近した。リンの慎重な操作により、モニカたちは人目を避けながら教会の壁際を歩くことに成功した。
人混みの中でのフェリクス捜索とモニカの過去の影
人混みの中に冥府の番人の仮装をしたフェリクスを見かけたモニカは、咄嗟に彼を追いかけたが見失ってしまった。混雑する祭りの通りに圧倒されたモニカは過去の忌まわしい記憶を想起し、動揺から過呼吸に陥った。そんな彼女を救ったのは、偶然通りかかった大道芸人風の男バルトロメウスであった。彼の道化的な振る舞いと人混みの配慮により、モニカは少しずつ落ち着きを取り戻した。
モニカとフェリクスの再会、そして「不良宣言」
モニカがようやく落ち着いたところへ、仮装姿のフェリクスが再登場した。モニカが任務を隠すために苦し紛れに「不良だから夜遊びしている」と虚勢を張った結果、フェリクスもそれに乗じて共に「夜遊びしよう」と提案した。モニカは彼と行動を共にすることで、護衛任務の遂行も兼ねられると考え了承した。
「夜遊び」の認識違いと防寒具探し
夜遊び経験に乏しいモニカは、以前メアリーの屋敷で美少年に囲まれた宴を思い出し、それを夜遊びと勘違いして発言したことでフェリクスに笑われた。その後、夜風に震えるモニカを見たフェリクスは、まずは防寒具を調達しようと誘導した。
バルトロメウスの侵入と古代魔導具との契約
一方、バルトロメウスは清々しい気分のまま、式典会場である教会に「修理業者」として侵入した。彼は〈星紡ぎのミラ〉が安置されている聖具室に辿り着き、宝石箱の中身を無断で開封した。その瞬間、魔導具が自動的に彼を使用者として認識し、契約を結んだ。古代魔導具は愛の言葉を囁きながら彼の身体を操作し、最終的にはバルトロメウスを教会のステンドグラスごと外へと強制的に飛び出させた。
九章 優しい幽霊
マダム・カサンドラの館への訪問
フェリクスはモニカに防寒具を選ぶと言って、大通りの華美な二階建ての店へ連れて行った。そこは衣類店ではなく、美しい女性たちと過ごす店であり、マダム・カサンドラが経営する館であった。モニカは驚き戸惑ったが、フェリクスはそこでマダムと面会した。彼はその場でクロックフォード公爵配下で叛意を抱く貴族たちの手紙を受け取った。フェリクスは、今後この店に来ることができなくなると告げ、マダムに金貨の入った袋を託した。
モニカの誤解と混乱
ドリスはモニカを売られた新入りと誤解し、露出の多いドレスを着せ、歓楽街向けの指導を施した。その刺激が強すぎたため、モニカは数字を呟きながら虚ろな様子に陥った。フェリクスは誤解を解き、モニカは我に返ると、自分の格好に気づき慌てた。ドリスは平謝りし、モニカに元の服とともにケープや手袋、鐘を吊るしたトネリコの杖を貸した。
仮装と「子リス」呼び
モニカはフード付きケープを被り、動物の耳飾りを馬の耳と思い込んでいたが、フェリクスをはじめ、ドリスやマダムまでもが「リス」だと断定した。フェリクスに再び腕を差し出されると、モニカは袖をつまんで歩き出し、二人は祭りの通りを巡った。
露店でのアクセサリー選びと記憶
通りの露店で、フェリクスは高名な魔術師の名が刻まれたブローチに目を留め、購入した。それは〈宝玉の魔術師〉エマニュエル・ダーウィンの名前を持つもので、モニカが見覚えのある装飾と一致していた。フェリクスはモニカにも贈り物をしようとしたが、モニカは過去に拾ってもらった木の実以上の感動を得られないと断り、自分にはまだアクセサリーは早いと語った。
伝統菓子と触れ合いの中の恐怖
フェリクスは焼き菓子を買ってモニカと分け合い、モニカの口元についた菓子屑を指で取った。だがその瞬間、モニカは無意識に肩を跳ねさせ、恐怖の反応を示した。モニカは人間、とりわけ背の高い男性に恐怖を抱いており、それは過去の経験に根ざすものであった。謝罪するモニカに対し、フェリクスは自分を幽霊だと思えばいいと優しく語りかけた。
盗まれた古代魔導具の報せ
フェリクスが果実水を買いに行った間に、風の精霊リンが現れた。彼女が運んできた手紙には、〈星詠みの魔女〉から〈星紡ぎのミラ〉が盗まれたという一報が記されていた。モニカはその重要性を即座に理解し、街を守る責任を自覚する。
魔力感知と犯人の追跡
モニカは魔力感知の術式を使い、街中から膨張する魔力の反応を発見した。それは古代魔導具が魔力を吸収している証であり、犯人は既に街外へと移動していた。迅速な対応が必要だと判断したモニカは、リンに自身を鐘楼へ向けて吹き飛ばすよう依頼した。
風に乗る決意と行動の開始
リンは即座に了承し、モニカを全速力で夜空へと放った。モニカは悲鳴を上げながら飛翔し、盗まれた古代魔導具の回収に向かった。フェリクスの護衛と街の守護、その両立のため、モニカは使命を胸に前へ進んだのである。
十章 空飛ぶ子リス、星空に舞う
お忍びで祭りを楽しむイザベル
イザベルは侍女アガサと共に、仮装姿でコールラプトンの祭りを楽しんでいた。地元とは異なり、本当に身を隠せるお忍びでの外出に心を躍らせ、モニカへの土産として伝統菓子を購入した。道中、兄弟喧嘩に遭遇したイザベルは、仲裁として菓子を分け与え、微笑ましい一幕を作り出した。
モニカの強制飛翔と鐘楼への着地
風の精霊リンによって鐘楼へ向けて打ち上げられたモニカは、猛烈な勢いで空を飛んだ。冷気と恐怖にさらされながらも落下地点を調整し、風の魔術で衝撃を緩和しつつ地面への激突を回避した。しかし着地には失敗し、地面に転がり落ちて涙をこぼした。
暴走する〈星紡ぎのミラ〉とバルトロメウスの苦境
一方、バルトロメウスは〈星紡ぎのミラ〉に勝手に引きずられ、制御不能な逃走劇を繰り広げていた。腕輪型の古代魔導具は、バルトロメウスに愛を語りかけながらも暴走を続けており、彼は追手から逃れるため鐘楼の茂みへ向かった。
モニカとの再会と窮地の連続
モニカは鐘楼の裏手でバルトロメウスと再会し、彼の右手に嵌められた装飾品が〈星紡ぎのミラ〉であると気づいた。バルトロメウスは誤解されないよう必死に弁明したが、魔導具は彼の言葉に反応し、激昂したまま彼の体を強引に空中へと浮かび上がらせた。モニカは即座に防御結界で対応したが、光の矢によって結界は破壊され、古代魔導具の脅威を目の当たりにした。
飛行魔術による追撃と幻術の支援
モニカは苦手な飛行魔術に挑み、空中の〈星紡ぎのミラ〉を追った。幻術師メアリーの支援により、コールラプトン上空には広範囲の幻術が張られ、町人から視認されることはなくなった。さらにリンの消音結界も加わり、モニカは空中戦に集中できる状況を得た。
精神干渉魔術による決着
モニカは飛行中に次々と放たれる光の矢を無詠唱の結界術で防ぎつつ、〈星紡ぎのミラ〉へ接近した。精神干渉魔術によって魔導具に夢を見せ、持ち主への妄執を緩和することに成功し、暴走を沈静化させた。夢の中で魔導具は愛する者と結ばれる幸福な幻想に包まれていた。
落下と救援、そして再会
暴走が止まったことでバルトロメウスの体重が戻り、飛行魔術に不慣れなモニカは共に落下しそうになるが、リンの風魔術によって路地裏に着地させられた。リンは無表情ながらも「お姫様抱っこ」を執拗に主張し、目的を果たしてバルトロメウスを連行していった。
フェリクスとの再会と告白
その後、モニカは心配して待つフェリクスと合流した。フェリクスは寂しげな態度でモニカの不在を咎め、モニカは罪悪感に苛まれた。だが、フェリクスの想いに応えるべく、モニカは勇気を振り絞って手を差し出し、共に夜を楽しもうと告げた。フェリクスはその手を取り、優しく感謝の言葉を囁いた。モニカの行動は、肩書きのない一人の少女としての真摯な応答であった。
十一章 本の価値
裏通りの古書店へ
フェリクスはモニカを連れ、祭りの喧騒を離れて裏通りにある古書店「ポーター古書店」へ案内した。彼はそこを特別な場所と語り、自身が夢中になれるものを求めている過程を語った。王位を望んでいるわけではなく、義務として王にならねばならないという内面を明かしたフェリクスに、モニカは彼の抱える空虚さを垣間見た。
魔術書への関心と〈沈黙の魔女〉への憧れ
古書店でフェリクスは、『ミネルヴァの泉』という魔術関連の学術雑誌を発見し歓喜した。その中に〈沈黙の魔女〉の論文が含まれていたことに強く反応し、彼が魔術に強い関心を持っていること、そして彼女の無詠唱魔術に魅了されていることを明かした。モニカは動揺しつつも、正体はまだ明かされていないと安堵するが、フェリクスの好意と憧れが自分に向いていることに困惑した。
父の遺した本との再会
モニカは古書店で、かつて禁術研究の罪で処刑された父ヴェネディクト・レインの著作を見つけた。その本は本来回収・焼却されたものであり、モニカは涙ながらに購入を申し出た。店主ポーターは金貨二枚を要求したが、モニカの思いを知ったフェリクスが代金を支払い、本を贈った。モニカはその行為に深く感謝し、本の価値を認められたことで感情が溢れ出した。
魔術奉納と亡き父への祈り
古書店を出た二人は、魔術奉納の儀に立ち会った。魔力の粒が夜空へと昇っていく幻想的な光景の中、モニカは亡き父を想い祈りを捧げた。一方、フェリクスも過去の友人に想いを馳せ、鐘を鳴らしてその想いを伝えた。互いに亡き者へ祈ることで、静かな感情の共有がなされた。
読書に没頭する夜と謎の奇行
宿へ戻った二人は、それぞれの本を読みふける読書会に没頭した。だが、差し入れに含まれていた酒によってモニカは酩酊し、奇行に及ぶ。フェリクスの手に肉球が無いと呟いて悲しみ、最後は「猫になりたい」と寝息を立てて眠ってしまう。ドリスの突っ込みにも、フェリクスは冷静に対応した。
フェリクスの回想と過去の傷
眠りについたフェリクスは、幼少期の記憶を夢で辿った。天文学を愛する彼は、祖父クロックフォード公爵の価値観に押さえつけられ、大切な本を暖炉で焼かされ、従者がそのことで鞭打たれる様を見せられた。その記憶は彼の心に深い傷を残し、本への執着と共感の根底となっていた。
〈星詠みの魔女〉の見守りと星の導き
教会では〈星詠みの魔女〉メアリーが、〈星紡ぎのミラ〉を封印しながら星の行く末を占っていた。彼女は〈沈黙の魔女〉の星と、それに隣接する危うい星を注視し、その人物の正体に関心を示した。その後、〈結界の魔術師〉の契約精霊リンと短いやりとりを交わし、〈星紡ぎのミラ〉を故意に盗ませた疑惑を投げかけられるも、星の導きに従ったと答えるのみにとどめた。
新たな一日の幕開け
夜が明ける頃、教会に伝令が駆け込んできた。〈結界の魔術師〉リィンズベルフィード宛ての急報が届けられ、事態の進展が暗示される。こうして、静かで深い夜の出来事は、次の運命を予感させながら終わりを迎えた。
エピローグ
子猫にリボンをつけるように
早朝の目覚めとペンダントの贈り物
モニカはフェリクスと同じベッドで目を覚ました。前夜に飲んだワインの影響で下着姿のまま眠ってしまっていたが、フェリクスは彼女にペリドットの首飾りを贈っていた。彼はそれをモニカへの贈り物ではなく、自分のための自己満足だと語り、モニカに忘れないでいてほしいと伝えた。モニカはその言葉を受け止め、首飾りを外さずに身につけることを選んだ。
傷痕の意味と静かな共感
モニカは自身の背中に残る古傷を見つめ、虐待の記憶を思い出した。一方、フェリクスの脇腹にも傷があり、彼はそれを「必要な傷」として受け入れていた。互いに言葉を交わさずとも、それぞれの過去が刻まれた傷に静かな共感が芽生えていた。
別れと変化の兆し
マダム・カサンドラの館を後にする朝、フェリクスとモニカはそれぞれの道へ向かった。モニカは護衛としての役割を終えたことを自覚し、フェリクスは再び王族としての立場に戻っていった。二人の時間は「アイク」としての仮初の関係であり、それが終わったことをモニカは理解していた。
潜入者の死と真相の発覚
セレンディア学園に侵入した偽ピットマンは服毒自殺と報告されたが、ルイスの調査により、その遺体は実際には本物のピットマンであると判明した。外部の共犯者によって遺体がすり替えられ、偽者の逃亡が成功していたと推定された。
窃盗犯バルトロメウスの再登場
前夜逃亡したバルトロメウスは、自身を救った女性に恋をしたことを動機にリディル王国に留まる決意を固めていた。そこへ現れた二人組の男女から制服製作の依頼を受け、大金の前金と引き換えに引き受けた。彼はその仕事がセレンディア学園に関係していると気づきつつも、想いを寄せる相手に会うため決意を固めた。
新たな敵の影と警戒
バルトロメウスに依頼を持ちかけた男女の一人ユアンは、顔を自在に変える特異な存在であり、セレンディア学園への再侵入を画策していた。彼は前回失敗の要因となったモニカを最大の障害と見なし、彼女の秘密を暴くことを目的に動き出していた。
モニカの帰還と使い魔の不満
学園へ戻ったモニカを出迎えた使い魔ネロは、置いてけぼりにされたことに怒りを露わにした。さらに、モニカが夜を過ごした娼館の様子を、リンが誇張して伝えたため、ネロは憤慨し、冒険小説の登場人物エイブラムを引き合いに出してモニカの行動を責めた。
ポーターの正体と新たな宝物
ネロの愛読書の登場人物と、古書店のポーターが同一人物である可能性にモニカは気づいた。ポーターはモニカの父の友人であり、小説家ダスティン・ギュンターであったことが暗示された。モニカはその事実に驚きつつも、フェリクスとの思い出の品である本と首飾りを大切に引き出しにしまい、静かに夜の記憶に別れを告げた。
【シークレット・エピソード】
北の地にて
リディル王国北部への到着と目的地への移動
ルイスは馬車を乗り継いでヴェランジェ山付近に到着し、目的地である山中の修道院に向けて飛行魔術を用いて空を飛んだ。飛行魔術と防寒結界を同時に維持しながら山を越える中、彼は雪景色の中に佇む古びた修道院──リシャーウッド修道院を視認した。この修道院には事情を抱えた女性たちが多く身を寄せており、ルイスの目的もその一人である女性への接触にあった。修道院前では若いシスターが雪かきをしており、それがブライト伯爵令嬢ケイシー・グローヴであると確認したルイスは、飛行魔術のまま彼女の前に着地した。
ケイシーとの再会と〈螺炎〉に関する追及
修道院の老シスターに案内を任されたケイシーは、無愛想な態度でルイスを応接室に通し、要件を尋ねた。ルイスは暗殺未遂事件に関して、ケイシーの父・ブライト伯爵が使用した禁術〈螺炎〉の残骸を示し、その出所に疑念を呈した。伯爵が旅商人から買ったという主張に対し、ルイスは〈螺炎〉の素材が帝国の鉱山グロッケン産の高純度ルビーであることを告げ、帝国製の魔導具がランドール王国を経由して伯爵に渡った可能性を指摘した。これにより、ランドール王国と帝国の間に裏の繫がりがある懸念が浮上した。
肉体操作魔術の存在と帝国との関係性の疑念
ルイスはさらに、チェス大会に現れた侵入者が使用した禁術・肉体操作魔術の出所にも言及した。肉体操作魔術は深刻な魔力中毒を引き起こすためリディル王国では禁じられているが、それを合法とする唯一の国が隣国・シュヴァルガルト帝国である。〈螺炎〉といい、肉体操作魔術といい、関与の背景には帝国の存在が見え隠れしていた。仮にランドールと帝国が水面下で結託していた場合、リディル王国は二国連合と対峙する恐れがあり、ルイスはその可能性を強く意識していた。
ケイシーの証言と限界
ルイスの詰問に対し、ケイシーは自身の知る範囲では帝国人の出入りや書簡のやりとりはなかったと証言した。ただし、彼女が知らぬところで何らかの接触があった可能性は否定できず、末端の貴族であるブライト家が帝国との関係を知らずに利用されていた可能性も考えられた。ルイスはさらなる情報が得られないと判断し、撤収の意を示した。
〈沈黙の魔女〉モニカへの話題転換とルイスの回想
ケイシーは引き留めるようにモニカの様子を尋ねた。ルイスは、モニカが最近も刺客と戦ったことに触れ、七賢人〈沈黙の魔女〉としての真の姿を語った。黒竜討伐に同行したモニカは、実際には黒竜そのものよりも討伐隊の竜騎士団の方に強い恐怖を抱いていた。対人恐怖症のモニカは、人を数字と見做すことで恐怖を乗り越えようとしていたのである。彼女は竜騎士団の情報を即座に記憶し、援護を拒否して単独でウォーガン山脈に入山し、黒竜を撃破した。
ルイスの評価とケイシーの行動
ルイスはモニカの異常な感性に触れつつ、情を捨てた冷酷な資質があるからこそ重要任務に適任であると語った。ケイシーはルイスの言葉に反発を覚えながらも、最終的にはモニカへの土産と茶を差し出し、自分の名を出さずにそれを届けるよう頼んだ。ルイスはその情に呆れつつも、それを受け取って立ち上がり、紅茶を啜りながら軽口を叩いた。
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サイレント・ウィッチ シリーズ











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