物語の概要
本作は和風あやかし恋愛ファンタジーに分類されるライトノベルである。
鬼の花嫁として鬼龍院玲夜と結ばれた柚子は、新婚生活を送りながらも、人とあやかしの世界が交錯する中で様々な出来事に巻き込まれていく。新婚編第五巻では、天狗一族が関わる新たな騒動が発生し、柚子の前に「天狗からの求婚」という予想外の事態が持ち上がる。鬼の花嫁という立場が他種族にも影響を与える現実が描かれ、夫婦としての絆と覚悟が改めて試される展開となっている。
主要キャラクター
- 柚子:
本作の主人公であり、鬼の花嫁である少女。人間でありながらあやかしの世界に深く関わり、新婚編では花嫁としての自覚と成長が描かれる。 - 鬼龍院玲夜:
柚子の夫であり、鬼の頂点に立つ存在。花嫁を守る強い意志を持ち、他種族からの干渉にも毅然と対応する。
物語の特徴
本作の特徴は、和風あやかし世界観と一途な夫婦愛を軸に物語が展開される点にある。新婚編第五巻では、恋愛要素に加えて他種族との関係性や立場の違いが強調され、花嫁という存在が持つ意味がより明確になる。甘さと緊張感が同時に描かれ、単なる恋愛譚に留まらない広がりを見せている点がシリーズの魅力である。
書籍情報
鬼の花嫁 新婚編五~天狗からの求婚~
著者:クレハ 氏
イラスト:白谷ゆう 氏
出版社:スターツ出版
レーベル:スターツ出版文庫
発売日:2025年12月28日
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あらすじ・内容
玲夜そっくりな鬼のあやかしによる襲撃が落ち着き、ひと段落した柚子と玲夜。しかし、息をつく間もなく、今度は天狗のあやかし・烏羽家が鬼龍院家に襲い迫る。過去の因縁から鬼への復讐を企んでいた烏羽家だったが、その事情は大きく変わる。「柚子は俺の花嫁だ」なんと、柚子は烏羽家当主の”花嫁”でもあった――。本気で柚子を求める恋敵に、玲夜の柚子への独占欲と愛はさらに加速し…。「柚子は俺の花嫁だ。なにがあろうとな」天狗と鬼、二人のあやかしが花嫁を奪い合う、天狗編開幕。
感想
物語が一段深い神話領域へ踏み込んだ転換点の巻であると感じた。
新婚編でありながら、緊張感が前に出ており、「天狗編」と呼ばれるのも納得であった。
本巻で大きく変わったのは、柚子が鬼の玲夜だけでなく、天狗の朝霧にとっても花嫁であると判明した点であった。
この事実が物語全体に重くのしかかり、単なる恋敵の構図では終わらない運命性を帯びてくる。
神器を失った天狗が、神子である柚子という花嫁を見付けたとうい構図には、背後に神の意思があるのではないかと考えさせられ、玲夜が神へ悪態をつくのも頷ける。
龍との口喧嘩がセットだが‥
そして、天狗たちが再び鬼龍院家の防衛網に襲いかかる展開は、先代の悲劇を思い起こさせるものであり、「今度こそ鬼は花嫁を護れるのか」という不安が常につきまとう。
新婚という安らぎの時間がほとんど与えられず、試練が連続する構成は気の毒に思えて来る。
柚子自身の立ち位置も重要である。
攫われる可能性や、天狗に靡くのではないかという疑念が示されつつも、彼女が神子として、そして一人の人としてどう在るのかが静かに問われているように感じた。
ただ守られる存在ではなく、選ばれる存在であることの重さが、行間から伝わってくる。
また、玲夜の側も印象的である。柚子への独占欲と愛情はさらに強まりつつも、それが単なる激情ではなく、「護る覚悟」として描かれており重いヤンデレとは一線を画すようになった。
鬼と天狗という種族間の因縁を背負いながら、それでも花嫁を守り抜こうとする姿勢が、この新婚編の核になっていると思う。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
鬼龍院家(本家・関係者)
柚子
人間でありながら神子の素質を持ち、複数の勢力から「花嫁」として狙われる存在である。護衛と結界に守られつつも、自立の形を模索している。
・所属組織、地位や役職
鬼龍院家当主家の屋敷に身を寄せる人間。玲夜の花嫁として扱われる。
・物語内での具体的な行動や成果
襲撃後も学校へ復帰し、将来と店の計画を考え直した。花茶会で花嫁たちの技術を集める拠点案を出し、場を動かした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
烏羽家当主からも花嫁と断言され、争いの中心性が増した。
鬼龍院玲夜
次期当主として後始末と防衛を担い、柚子を「渡さない」と明確に宣言する者である。強い独占欲と責任感が同居している。
・所属組織、地位や役職
鬼龍院家の次期当主。柚子の夫として行動する。
・物語内での具体的な行動や成果
本邸襲撃では青い炎で侵入者を結界外へ追い出し、追撃を指示した。柚子の罪悪感を否定し続け、守りの方針を本家移動へ切り替えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「神であろうと排除する」と言い切り、神の領域に踏み込む敵意を示した。
鬼龍院千夜
当主として卓越した結界技量と人心掌握を見せる者である。軽い態度の裏で冷静に核心へ踏み込む。
・所属組織、地位や役職
鬼龍院家の現当主。
・物語内での具体的な行動や成果
結界破壊直後に新たな結界を張り直し、侵入の異常事態を収束へ向けた。座敷牢で夜斗から朝霧の正体を引き出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
当主としての技術と統率が示され、玲夜に当主像の重さを理解させた。
夜斗
鬼の気配を持ち、天狗の里で酷い扱いを受けた過去を語る捕虜である。朝霧の侵入手口の鍵を握る。
・所属組織、地位や役職
鬼龍院本家の座敷牢に置かれた捕虜。
・物語内での具体的な行動や成果
朝霧が烏羽家当主であり、結界破壊が内側からの攻撃だったことを認めた。自分に子も孫もいないと述べ、朝霧の血縁疑惑を否定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
処遇は保留となり、情報源として扱われる局面が強まった。
沙良
柚子の護衛として側に付き、強い霊力で警戒と捜索に関わる者である。状況判断が早い。
・所属組織、地位や役職
柚子の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
朝霧失踪の捜索を担い、結界内にいる可能性を説明して柚子を落ち着かせた。朝霧の正体判明後は千夜へ確認に走った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
玲夜が仕事に集中できる護衛戦力として重用されている。
桜子
柚子の護衛として同席し、強さの背景を説明して状況整理を助ける者である。
・所属組織、地位や役職
柚子の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
夜斗の頑強さを「先代当主と花嫁の子なら不思議ではない」と説明した。子鬼たちの規格外さを指摘し、柚子の自由への影響を共有した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
護衛としての存在が、柚子の行動範囲の議論に直結した。
アオ
黒髪の子鬼であり、柚子の側に常に付き従う使役獣である。守護のため容赦がない。
・所属組織、地位や役職
柚子の使役獣。
・物語内での具体的な行動や成果
蒼い炎で夜斗を吹き飛ばし、部屋を貫く大穴を作る結果となった。柚子に頭を撫でられ、守れたことを喜んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
霊獣由来の力を疑われるほどの戦闘力として警戒対象になった。
ソウ
白髪の子鬼であり、アオと共に柚子の護衛の中核を担う使役獣である。
・所属組織、地位や役職
柚子の使役獣。
・物語内での具体的な行動や成果
アオと連携して夜斗を瞬殺し、柚子への脅威を排除した。柚子の言葉で表情を明るくした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「使役獣の範疇を超える」と評され、柚子の護衛体制を過剰にする要因になった。
高道
玲夜の実務を引き継ぎ、後処理を支える者である。
・所属組織、地位や役職
鬼龍院本家側の実務担当。
・物語内での具体的な行動や成果
玲夜から書類を引き継ぎ、千夜の「休憩」中も処理を進めた。襲撃時は追撃を命じられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
玲夜の指示系統の一部として戦力運用に組み込まれている。
成道
高道の父であり、千夜への敬意を強く示す者である。
・所属組織、地位や役職
高道の父。鬼龍院本家側の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
後処理の場に同席し、千夜を崇拝に近い形で評価した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
千夜の当主としての威信を周囲へ補強する立場になった。
道空
屋敷の出入り口で警戒に当たり、偽装侵入で判断を誤らされる者である。
・所属組織、地位や役職
屋敷の警備・対応役。
・物語内での具体的な行動や成果
「玲夜の車」を招き入れかけ、霊力の酷似で黒スーツ集団を通してしまった。柚子と龍の制止が入ったことで異常に気づいた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
敵が霊力偽装を使う危険性を示す事例となった。
雪乃
柚子の自責を即座に否定し、精神面を支える使用人側の存在である。
・所属組織、地位や役職
鬼龍院家の使用人側。
・物語内での具体的な行動や成果
柚子の「荷物」発言を否定し、責任の所在が天狗にあると釘を刺した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子の心理を止めるブレーキとして機能した。
玖蘭
朝霧の背景に関わる過去を明かし、血縁推定の材料を提供した者である。
・所属組織、地位や役職
立場の詳細は本文内で限定される。
・物語内での具体的な行動や成果
先代当主に花嫁がいた事実や、天狗による連れ去りの経緯を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朝霧が花嫁の血縁者である可能性を高める情報源となった。
烏羽家(天狗側)
鳥羽朝霧
烏羽家当主であり、姿を偽って柚子の周囲へ入り込む者である。柚子を自分の花嫁と断言し、奪取計画を進める。
・所属組織、地位や役職
烏羽家当主。天狗の隠れ里の統率者。
・物語内での具体的な行動や成果
天狗の神通力で五歳児の姿を演じ、鬼龍院側を欺いた。柚子を傷つけない方針へ切り替え、最高の待遇を命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
鬼龍院の結界破りが「内側からの攻撃」だった疑いを確定させる存在となった。
綿理
朝霧に仕え、奪取計画の実務を担う者である。手段が苛烈になりやすい。
・所属組織、地位や役職
烏羽家当主側近。
・物語内での具体的な行動や成果
柚子の扱いを残忍に提案し、朝霧に制止された。柚子を傷つけられない制約を難題として計画を練り直した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朝霧の方針転換により、実行手段の再設計を強いられた。
霊獣・超越存在
龍
霊獣として介入し、戦闘・治癒・情報提供で物語を押し動かす存在である。柚子と玲夜に「選ぶ権利」を突きつける。
・所属組織、地位や役職
霊獣。鬼龍院側に現れるが独自の判断で動く。
・物語内での具体的な行動や成果
朝霧は逃げたと告げ、侵入の理解を促した。天狗襲撃では清廉な力で敵を吹き飛ばし、護衛の傷も癒した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
花嫁は柚子が選ぶと断じ、玲夜の独占を揺らす論点を固定した。
学校・友人(人間側)
芽衣
柚子へ現実的な助言を叩き込み、将来設計の甘さを指摘する友人である。言葉は辛いが方向性を示す。
・所属組織、地位や役職
柚子の料理学校の友人。
・物語内での具体的な行動や成果
欠席による卒業危機を告げ、柚子に自己優先を促した。動機の浅さを指摘しつつ、試して探せと諭した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子の「精神的自立」へ思考を切り替えるきっかけになった。
澪
柚子の友人として訪れるが、天狗側の手で拉致の導線にされる人物である。感情が歪んだ形で表に出る。
・所属組織、地位や役職
柚子の料理学校の友人。
・物語内での具体的な行動や成果
黒い羽を取り出し、転移で柚子を竹林へ移した。柚子を憎むように睨み、友人らしさを失っていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
拉致成立の直接要因となり、柚子が敵側へ引き込まれた。
猫田家(猫又側)
透子
柚子の友人であり、家庭事情を理解して守ろうとする者である。言葉と行動が一直線で、場を動かす。
・所属組織、地位や役職
猫田家の関係者であり、東吉の妻。柚子の友人。
・物語内での具体的な行動や成果
柚子の家庭が「妹中心」だと語り、怒りを隠さなかった。柚子を猫田家へ招き、安心できる居場所を作ろうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子の支援ルートを家庭外へ広げ、物語の安全網を増やした。
東吉
猫又であり、透子の言動に振り回されながらも柚子を受け入れる者である。過保護と警戒が混ざる。
・所属組織、地位や役職
猫田家の者。透子の夫。
・物語内での具体的な行動や成果
透子の通話内容から柚子の存在を疑い、面会を要求した。柚子と対面後は「透子の友人なら俺の友人」と受け入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
猫田家が柚子の出入り先となり、対外的な支えになった。
花嫁たち・周辺
撫子
花茶会を主導し、柚子の計画へ辛口評価も含めて介入する者である。現実と安全を優先する。
・所属組織、地位や役職
花嫁側の中心人物として花茶会を回す。
・物語内での具体的な行動や成果
柚子の店計画を「甘くない」と切り捨てた。柚子の拠点案へ賛同し、狐雪家から護衛を出すと後押しした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子の構想を現実の運用へ近づける後ろ盾となった。
藤史郎
撫子から「嫁馬鹿」扱いされるほど偏った愛情表現をする者である。空気を甘く変える側にいる。
・所属組織、地位や役職
撫子の夫。
・物語内での具体的な行動や成果
花茶会前に撫子へ絡み、追い払われて退場した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家庭内の空気変化を象徴する存在として扱われた。
菜々子
花嫁になる前に資格を取った経験を持ち、「できなくなった好き」を共有する側に立つ者である。
・所属組織、地位や役職
花嫁の一人。
・物語内での具体的な行動や成果
フラワーアレンジメント講師資格の取得を明かし、場の沈みを具体化した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子の提案が刺さる土台を、体験談で作った。
蛇塚
結婚式の準備で「正装耐性」が問題視される側の者である。
・所属組織、地位や役職
結婚式の当事者。
・物語内での具体的な行動や成果
杏那の暴走により本番の混乱が予測され、事前対策の対象となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
準備段階の危機管理を促す話題の中心となった。
杏那
結婚式準備で周囲を凍らせる比喩が出るほど暴走する者である。
・所属組織、地位や役職
結婚式の当事者。
・物語内での具体的な行動や成果
ドレス採寸だけで場が凍るほどの過剰反応が語られ、対策が必要とされた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
式の安全運用という観点で問題人物として扱われた。
花梨
過去に問題を起こし、反省の上で扱いが揺れる者である。柚子の割り切りを試す存在になる。
・所属組織、地位や役職
花嫁候補として話題に上がる。
・物語内での具体的な行動や成果
反省しているとされ、迎える案が検討されていると語られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子が「口出ししない」と線を引く判断材料になった。
瑶太
花梨と並んで反省が語られ、接触禁止令の解除で動く側の者である。
・所属組織、地位や役職
花梨の関係者として扱われる。
・物語内での具体的な行動や成果
接触禁止令が解けるとすぐ動いたと語られ、空気の変化を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去の問題が「未来へ進む」話題へ転換する引き金になった。
伝承・因縁(最初の花嫁周辺)
サク
最初の花嫁として、鬼と天狗の双方に花嫁と認識された前例を示す存在である。
・所属組織、地位や役職
「最初の花嫁」として語られる人物。
・物語内での具体的な行動や成果
花嫁が複数に認識され得る根拠として挙げられ、柚子の状況説明に使われた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子を巡る是非の議論を、前例として固定した。
一龍斎
「最初の花嫁」に関わる神子の系譜として語られる存在である。柚子の血筋説明の核になる。
・所属組織、地位や役職
一龍斎の神子として言及される。
・物語内での具体的な行動や成果
鬼龍院を選んだ神子として語られ、天狗との確執の起点になった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
柚子がその血を引くという主張の根拠に使われた。
展開まとめ
プロローグ
世界大戦後の日本と復興の始まり
多くの国を巻き込んだ世界大戦は、日本にも甚大な被害と深い悲しみを残した。人々は戦争の終結に安堵しつつも、変わり果てた町の姿を前に復興の困難さと喪失感に沈んでいた。
あやかしたちの表舞台への出現
そのような状況の中、日本の復興を支えたのは、これまで人に紛れ陰で生きてきたあやかしたちであった。彼らは人を魅了する美しい容姿と人間ならざる能力をもって陽のもとへ現れ、戦後復興に大きく貢献した。
現代社会におけるあやかしの地位確立
時代が進み、あやかしたちは政治、経済、芸能など多方面で能力を発揮し、社会の中で確固たる地位を築いていった。彼らは時に人間の女性を花嫁として選び、その行為は人間側にとって大きな名誉と受け止められていた。
花嫁という唯一無二の存在
あやかしにとって花嫁は本能によって選ばれる唯一無二の存在であり、深い愛情をもって大切にされる存在であった。その在り方は、多くの人間の女性が憧れるものとなっていた。
最初の花嫁と二つの一族の確執
その昔、「最初の花嫁」を巡り二人のあやかしが存在した。最終的に花嫁が選んだのは鬼であったが、選ばれなかった天狗もなお花嫁を愛し続けた。その結果、天狗は花嫁を守りきれなかった鬼を許さず、両者の一族は深い確執を残した。
花嫁の幸福と残された問い
花嫁は短い生涯ではあったものの、最愛の相手に抱かれ看取られて生を終えた存在であった。また、天狗に対しても恋慕とは異なる愛情を抱いていた。自らを巡る争いによって二つの一族が仲違いした事実を、花嫁が悲しまなかったはずがないという問いが、物語の根底に残された。
一章
襲撃事件の終結と本家の警戒強化
本家が他のあやかしに襲撃された事件は、先代当主の花嫁の息子であり現当主でもある千夜の異母兄弟を捕らえたことで、ひとまず終結していた。千夜は前より厳重にすると言い、さらに強固な結界を張ったため、表向きは落ち着きを取り戻しつつあった。
柚子の護衛体制と残敵への懸念
柚子はひとりにならないよう、黒髪のアオと白髪のソウを肩に乗せ、念のため桜子も付き添っていた。神子の素質があっても柚子は人間であり、あやかしに抗う術がないためである。侵入者は捕らえたが、千夜の結界を破られる異例の状況があった以上、気付かれず潜む者がいないとも限らず、調査が続いていた。襲撃の目的が柚子の誘拐であった可能性もあり、琮夜にとっての弱みである柚子を放置できない状況であった。
玲夜の離席と大穴の残骸
玲夜は付き添いたい気持ちを抱えつつも、次期当主として事件の後始末があり、千夜とともに外へ出ていった。部屋に残った柚子は、隣室まで突き抜ける大穴を前に唖然としていた。それはアオとソウが柚子を守るため、千夜の異母兄弟を蒼い炎で吹き飛ばした際に生じたものであった。
子鬼への感謝と恐怖の緩和
アオとソウはやりすぎたと反省してしょんぼりしていたが、柚子は責任を感じる必要はないと告げ、守ってくれた礼を述べて頭を撫でた。子鬼たちは柚子の言葉で表情を明るくし、柚子もふたりの笑顔を見て気持ちが和らぎ、襲われかけた恐怖心が薄れていった。
捕虜の異母兄弟の頑強さと子鬼の規格外
柚子は捕らえた千夜の異母兄弟が攻撃直後は気絶していたのに、座敷牢で会った時には大きな怪我もなく平然としていたことを思い出し、感心していた。桜子は、彼が先代当主と花嫁の子であるなら強く生まれても不思議ではないと説明した。柚子は神様から名をもらって強くなったらしい子鬼たちがそれでも瞬殺した事実に驚き、桜子はもはや使役獣の範疇を超えていると述べた。柚子と桜子は、子鬼たちの存在が玲夜の安心にもつながり、柚子の行動の自由にも影響すると理解して苦笑していた。
朝霧失踪の発覚と捜索の難航
そこへ沙良が現れ、朝霧がどこを捜しても見つからないと報告した。柚子は朝霧が見つからないことに動揺し、沙良も捜せない事態に困惑していた。沙良と桜子はいずれも柚子の護衛として側についており、強い霊力を持つため、玲夜が任せて仕事に集中できていた。沙良が一時的に離れていたのは、本家襲撃後に姿を消した朝霧を捜すためであった。
朝霧の背景整理と本家預かりの決定
朝霧は柚子に異常に懐き、玲夜の隠し子疑惑まで出るほど玲夜に似た顔立ちであったが、玖蘭が明かした過去により、先代当主に花嫁がいたことや天狗による連れ去りなどが判明し、朝霧はその花嫁の血縁者である可能性が高いとされた。玲夜や千夜の子ではないと結論づけられ、本家で預かることが決まった直後に襲撃が起き、柚子は朝霧を思い出して屋敷内を捜したが見当たらなかった。
結界内にいる確信と千夜の状況
本家の敷地は広大で、人手も後始末に取られ捜索が進みにくかった。桜子は千夜なら把握できるのではないかと問うたが、沙良は千夜が大事な話の最中で動けないと答えた。沙良は、結界が破られてから千夜が新たな結界を張るまでの短時間で子供が敷地外へ出るのは不可能であり、朝霧は敷地内のどこかにいるはずだと説明し、柚子はようやく安堵した。
神が三家に与えたものと因縁の継承
遥か昔、神は鬼龍院に神子を花嫁として、狐雪家に分霊した社を、烏羽家にあやかしの本能を消す神器を与えた。最初の花嫁である一龍斎の神子は鬼龍院を選び、天狗側は意思を尊重して身を引いたが、花嫁は結果として非業の死を遂げ、天狗は守れなかった鬼龍院を深く恨んだ。以後、鬼と天狗の交流は途絶え、烏羽家当主は表に出ず、現当主の素性は千夜や撫子ですら知らなかったが、最近代替わりしたという情報だけが伝わっていた。
隠れ里の鳥羽家と朝霧の帰還
天狗の住まう隠れ里は木々に覆われ、強い結界に守られていた。竹林の中の屋敷で、綿理が朝霧に帰宅を告げた。そこでの朝霧は柚子に懐いていた五歳児の姿とは違い、大人びた言葉と険しい表情を見せ、鳥羽家当主としての立場を示していた。
偽装解除と鬼への嫌悪
朝霧は鬼の気配が不快だとして、人差し指を噛んで血を流し、偽装を解いた。姿は一気に大人のあやかしへ変わり、玲夜に似た顔立ちも消えた。朝霧は一時的に鬼の血を取り込むことへの嫌悪を露わにし、綿理は鬼龍院の当主を欺くには鬼の気配を宿す必要があったと説明した。
千夜評と神器の行方
綿理の問いに、朝霧は千夜を馬鹿っぽいが表面だけで、笑顔の下で冷静かつ冷酷に判断する者だと評した。目的であった神器については、噂通り神に返されたらしいと述べ、綿理は鬼が隠している可能性を疑ったが、朝霧は本当のようだと判断した。
花嫁発見による方針転換
神器喪失にもかかわらず朝霧は機嫌が良く、花嫁が見つかったと告げた。綿理が鬼龍院の花嫁の扱いを残忍に提案すると、朝霧は柚子に手を出すなと激しく制止し、奪う計画は続けるが指一本触れず丁重にもてなせと命じた。
柚子が朝霧の花嫁であるという断言
綿理が理由を問うと、朝霧は柚子が自分の花嫁であり、鬼龍院の次期当主である玲夜の花嫁でもあると断言した。綿理は混乱し、妄想ではないかと疑ったが、朝霧は柚子が一龍斎の血を引き霊獣の加護も持つこと、最初の花嫁が鬼と天狗両方の資質を持っていたことを根拠に挙げた。
神の存在を巡る認識と霊獣の示唆
綿理は神の存在自体に懐疑的であったが、朝霧は鬼と妖狐の当主が神を認めたこと、霊獣が神の存在を幾度もほのめかしたことを理由に、神はいると述べた。朝霧は、柚子の存在こそが神の存在を証明し、普通ではあり得ない関係を成立させていると語った。
奪取計画の再設計と警戒対象
朝霧は柚子を手に入れるため計画を進め、最高の部屋ともてなしを用意するよう命じた。さらに、柚子と常にいる子鬼の使役獣が夜斗を瞬殺するほど強く、霊獣から力を与えられている可能性があるとして、なめるなと綿理に警告した。綿理は柚子を傷つけられない制約を最大の難題として計画を練り直し、朝霧は最終的に「あれ」を使うよう指示し、できなければ捨てるだけだと冷淡に言い放った。
二章
本家の後処理と千夜の異質な当主像
朝霧が天狗の里へ戻った頃、鬼龍院本家では玲夜と千夜が後処理に追われていた。玲夜が淡々と指示を出す一方、千夜はへらへらと緊張感のない表情で、命令ではなくお願い口調で人を動かしていた。それでも誰ひとり千夜を侮らず、当主としての地位に異論は出なかった。玲夜は、結界を破られた直後に千夜が即座に新たな結界を張り直した異常な技量を思い、力だけではなく経験と技術、そして人をまとめる術が当主に必要なのだと痛感していた。
休憩の名目と座敷牢への移動
千夜は「休憩」を提案し、玲夜は書類を高道へ引き継いだ。高道の父である成道も同席し、千夜への敬意を崇拝に近い形で示していた。千夜の向かう先が当主の屋敷ではないと気づいた玲夜が問いかけると、千夜は座敷牢に置いた異母兄弟の元へ行くと答え、加えて朝霧が見つからない件も聞くつもりだと告げた。玲夜は朝霧に対して理由の分からぬ警戒心を抱き、千夜はその反応を含み笑いで眺めていた。
夜斗への面会と千夜の主導権
座敷牢は幾重にも結界が施されていたが、夜斗は予想外に強くないように見えた。玲夜は「千夜より弱い夜斗が、どうやって千夜の結界を破って侵入したのか」という疑問を強く抱いていた。千夜は陽気に夜斗へ絡み、兄と呼ぶか兄ちゃんと呼ぶかと揶揄し続け、夜斗は激昂しつつも押し切られ、名を「夜斗」と吐き捨てる形で名乗らされた。玲夜は短時間で度量の差を見せつけられ、夜斗にわずかな憐憫すら覚えた。
朝霧の所在を巡る否定と混乱
玲夜は夜斗に、行方不明の五歳ほどの子供の所在を問い詰めた。鬼の気配を持つ以上、夜斗の血縁者だと判断するしかないからである。しかし夜斗は子も孫もいないと否定した。玲夜は「玲夜に似た子供は誰なのか」という混乱に沈み、千夜は当主としての含みを帯びた笑みで、その動揺を見透かすように振る舞った。
龍の登場と「逃げられた」という答え
霊獣である龍が現れ、朝霧は既に逃げたと告げた。玲夜は置いてけぼりにされ、苛立ちをぶつけるように龍を掴み上げて説明を迫った。千夜は玲夜を宥めつつ、夜斗から必要な情報だけ引き出す方針へ切り替え、朝霧を知っているかと問いかけた。夜斗の表情で千夜は察し、ポーカーフェイスの欠如を指摘した上で核心に踏み込んだ。
朝霧の正体の判明と侵入手口
千夜が「朝霧は烏羽家の当主だね」と問うと、夜斗は現当主が鳥羽朝霧であると認め、結界を破って自分たちを招き入れたのもその当主だと明かした。夜斗は朝霧が五歳児ではなく玲夜と同年代の男だと主張したが、千夜は天狗の神通力なら姿を変えるのは容易だと説明し、龍もそれを肯定した。結界が破れたのは内側から攻撃されたためだという千夜の推測に玲夜も納得し、自分が見抜けなかった事実に苦さを覚えた。
烏羽家の狙いと柚子の位置づけ
玲夜が目的を問うと、千夜は神器か柚子が妥当だと述べ、襲撃時の発言から柚子を引き渡す約束があった可能性にも触れた。龍は、神器はおまけで柚子を狙う意図が大きかったと見立てつつ、朝霧は柚子を傷つける意思を失い、真綿で包むように大事にするだろうと断じた。千夜もそれを裏づけるように反応し、玲夜は「天狗が柚子を花嫁と認識した」という示唆を受けて、胸の奥に嫌な鼓動を覚えた。
花嫁はひとりではないという現実
玲夜は花嫁が複数のあやかしに認識されることの是非を問うたが、龍は最初の花嫁サクが鬼と天狗の双方の花嫁であった事実を挙げ、神子の素質を持つ柚子なら不自然ではないと答えた。玲夜は「柚子は俺だけの花嫁だ」と強い意志を言葉にしたが、龍は決めるのは柚子だと突き放し、花嫁にも選ぶ権利があると説いた。玲夜は否定しきれない視線に言葉を失い、龍は嘲るように笑った。
夜斗の処遇保留と別問題への移行
夜斗は自分の処遇を問うたが、千夜は曖昧に笑いながら思案し、夜斗が天狗の里を逃げ出した後の経緯を尋ねた。夜斗は外の世界を知らず、天狗の里で鬼として酷い扱いを受けていたと語り始め、玲夜は話の先に危うさを感じつつも、今は口を挟むべきではないと判断して黙っていた。
柚子の待機と帰還の気配
一方、当主の屋敷で柚子は沙良と桜子と茶を飲みながら朝霧を案じていた。沙良が話を止め「帰ってきた」と告げると、アオとソウが跳ねて玲夜の帰還を伝えた。桜子は、霊力が尋常でない二人が揃って近づけば気づかぬあやかしはいないと説明し、柚子は玲夜と千夜の格を改めて思い知らされた。子鬼たちは柚子の神気を称え、沙良と桜子も同調し、柚子は羞恥と困惑で顔を伏せた。
玲夜の帰還と朝霧の正体の共有
騒ぐ龍の声と共に玲夜が現れ、柚子は安堵したが、朝霧の名で玲夜が眉をひそめたことに気づいた。玲夜は朝霧が鳥羽家当主本人だと告げ、柚子だけでなく沙良と桜子も衝撃を受けた。沙良は千夜に話を聞くため飛び出し、玲夜の目配せで桜子も退出し、柚子は玲夜が視線だけで人を動かす力量に感心した。
柚子の自責と玲夜の否定
柚子は、懐いていた朝霧が自分を連れていくためだったのかと理解し、自分のせいで騒ぎが起きたのではと責めかけた。玲夜は即座に否定し、夜斗の恨みが根にあり、烏羽家の思惑が重なって利用されたのだと整理した。柚子がなお罪悪感を抱くと、玲夜は優しい口づけで気持ちを鎮め、柚子を争いに巻き込んだのは自分の方だと謝った。
玲夜の独占と神への敵意
玲夜は柚子を誰にも渡さないと強く宣言し、神であろうと排除するとまで言い切った。龍は神への不敬に激昂したが、玲夜は意に介さず、柚子を守ることだけが全てだと言い放った。挑発した龍は尻尾を掴まれて投げ飛ばされ、子鬼たちが回収に走った。玲夜は柚子を強く抱きしめ、柚子は安心と同時に「いつもの玲夜とどこか違う」不安を覚えた。玲夜の鋭い眼差しは、抱かれている柚子からは見えぬまま、外へ向けられていた。
三章
学校復帰と「普通に生きろ」圧
本家の後始末を経て、柚子は久々に学校へ復帰する。事件があったのに登校許可が出たのは、沙良の「普段通りでいろ」「相手のせいでこちらが縮こまるな」という主張が玲夜に刺さったからである。柚子はありがたい反面、どこか上の空で落ち着かない。
芽衣の冷徹な現実パンチ
芽衣と会い、休んでいる間に授業が進みすぎて卒業が危ういと告げられる。さらに澪も同時期から欠席していると分かり柚子は心配するが、芽衣から「他人より自分の卒業を心配しろ」と切られる。
「料理人になる理由」を根本から疑われる
芽衣は柚子の将来計画を聞き、富裕層向けの店を一年程度の学習で回せるのかと詰める。柚子が「玲夜と対等でいたい」「依存したくない」と語るほど、芽衣は「その動機で料理を選ぶのは浅い」「続かない」と断言する。柚子は“自分の武器がない恐怖”を自覚し、焦りが露呈する。
芽衣の「焦るな」処方箋
芽衣は父が転職を繰り返した話を出し、天職は最初から見つかるものではない、試していいと諭す。柚子は「ゆっくり考える」方向へ一度持ち直す。
猫田家での人生会議(透子は通常運転)
放課後、柚子は透子と東吉に相談する。透子は芽衣の率直さをむしろ称賛し、東吉は「混ぜるな危険」と警戒する。透子は柚子の“反抗期っぽさ”も指摘しつつ、「最終的には柚子優先」と言い切る。
「精神的自立」なら、試行で良いという結論
透子と東吉は、柚子の求めているのは金銭的自立より精神的自立だと整理する。店は鬼龍院の財力なら赤字でも回せる、経験として試していけばいい、という方向で柚子を支える。透子は「自信を持て」「横柄になれ」と背中を押し、花茶会で義母や撫子に相談する案も出る。
蛇塚・杏那の結婚式が氷河期すぎる問題
話題は蛇塚と杏那の結婚式へ。杏那はドレス採寸だけで店内を冷凍庫にするレベルで暴走し、対策が必要。柚子が「蛇塚の正装耐性も先に付けさせないと本番が吹雪でチャペル崩壊」と気づき、東吉が慌てて連絡する。結果、事前に気づけて一同安堵する。
花梨の“更生”と、柚子の割り切り
柚子は花茶会で撫子に「花梨をまだ恨むか」と問われたことを話す。花梨と瑶太が反省しているため、花嫁として迎える案があり、柚子は「私が花梨の幸せを決める権利はない」と口出ししない姿勢を示す。ただし、今後パーティー等で会う可能性に気づいておらず、透子と東吉に呆れられる。
玲夜の異変(睡眠と弱音)
屋敷に戻ると玲夜が珍しく熟睡しており、柚子はそばで見守る。柚子は「力が欲しい」「守られるだけでは足かせ」と思い詰めるが、玲夜は起きて「柚子がそばにいるのが一番」と言う一方、他の男に靡くなと弱さも見せる。龍の言葉で“柚子にも選ぶ権利がある”と突きつけられ、玲夜は自分の傲慢さを自覚して揺れている。
夫婦の距離を詰める会話と、柚子の宣言
柚子は「一方通行は嫌」「共有してほしい」と訴え、玲夜も葛藤を吐露する。柚子は「玲夜に守られていればいいと言わせない」「いつか私がいなきゃ回らないと思わせる」と壮大に宣言し、無計画さで玲夜に笑われる。それでも柚子は料理学校は卒業したい、店のことも花茶会で相談して玲夜とも改めて話す、と前向きに締める。
四章
花茶会前の空気変化
撫子は藤史郎の「嫁馬鹿」ぶりが以前より悪化したと呆れるが、当人は褒め言葉として受け取った。柚子が到着すると、菜々子と藤史郎の間の険悪さは消え、甘ったるいほど穏やかな空気に変わっていた。花嫁たちもそれを微笑ましく眺め、藤史郎は撫子に追い払われて花茶会が始まった。
花茶会の雑談と柚子の悩み
沙良と撫子は藤史郎の変化を話題にしつつ、柚子へ卒業後の店の計画を尋ねた。柚子は高級志向の店を考えていたが、自分の料理技術が追いつかず迷っていると打ち明ける。撫子は辛辣に「素人が成功できるほど甘くない」と切り捨て、柚子は落ち込んだ。
花嫁たちの“できなくなった好き”の共有
菜々子が花嫁になる前にフラワーアレンジメント講師資格を取っていたと明かし、他の花嫁たちもパティシエ経験、ラテアート経験、動画編集の職歴などを次々に語った。しかし花嫁となってからは自由に働けず、好きなことができない現状に皆が沈んでいった。
柚子の提案で場が一転する
柚子は提供された好立地を「レストラン」ではなく、花嫁たちが技術を持ち寄るワークショップ兼憩いの場にする案を提案した。料理・菓子・飲み物・花などを互いに振る舞い、好きな時に集える場所にする構想に花嫁たちは熱狂する。撫子と沙良も賛同し、狐雪家からも護衛を出すと撫子が後押しした。
接触禁止令の解除と柚子の心境
花茶会後、撫子は「接触禁止令を解いたら瑶太がすぐ飛んでいった」と愉快そうに語り、柚子は過去は変えられないが未来を見るべきだと自分に言い聞かせた。子鬼たちは「守る」と息巻き、柚子は温かい気持ちになった。
車への襲撃と天狗の拉致未遂
帰路の車が衝撃を受け、外に出ようとした柚子は護衛の鬼に止められる。黒スーツの男たちが現れ、柚子を「花嫁」と呼んで連れ去ろうとする。護衛の鬼の炎は錫杖の音で霧散し、相手が「天狗」であることが判明する。柚子は逃げ場を塞がれ、危機が迫った。
龍の救援と撤退
別行動していた龍が現れ、清廉な力で天狗を吹き飛ばして次々に気絶させたうえ、鬼の護衛の傷まで癒した。柚子は龍の背に乗って結界のある屋敷へ退避し、使用人たちに保護される。
偽装侵入と本邸襲撃
屋敷前に「玲夜の車」が到着し、道空が警戒しつつも招き入れようとしたが、柚子と龍が同時に制止する。間に合わず車が門内へ入ると、黒スーツ集団が雪崩れ込み、さらに玲夜そっくりの個体が混じっていた。霊力が玲夜と酷似していたため道空たちは騙されたが、柚子は直感で別人と見抜いた。
玲夜の帰還と制圧
門側に青い炎が燃え上がり、玲夜が厳しい表情で登場して侵入者を結界の外へ追い出した。高道に追撃を命じつつ深追いは禁じ、玲夜は柚子を抱きしめて遅れたことを詫びる。柚子はその温もりでようやく心から安堵した。
五章
襲撃後の緊張と本家への退避方針
二度の天狗襲撃から二日が経ち、屋敷は警戒一色となった。柚子は登校を控え、玲夜も仕事どころではなく常にそばで守りに徹していた。玲夜は千夜と電話し、屋敷の安全が確保できるまで本家の結界内に移り、より厚い戦力で守る方針を固めた。移動時は千夜の同行まで頼み、危機感の強さが示された。
柚子の罪悪感と玲夜の否定
柚子は自分が「荷物」ではないかと呟き、雪乃が即座に否定する。玲夜も電話を切って柚子の前に膝をつき、襲撃の原因は柚子ではなく天狗だと言い切った。龍や使用人も同調し、柚子の自責を止めようとする。柚子は納得しきれないが、玲夜の言葉を信じるしかない状況に押し戻された。
友人来訪の申し出と短時間の面会
道空の報告で、料理学校の友人である芽衣と澪が来ていると判明する。警戒中のため玲夜は「十分だけ」面会を許可し、その間は結界を強めると言った。柚子は負担を気にするが、玲夜は気分転換の必要を理由に押し切り、柚子も会うことを決めた。玲夜は天狗の狙いが柚子だけである点を根拠に、友人への危険は低いと判断した。
応接間での異変の兆し
応接間には芽衣と澪が揃って座っていたが、澪は暗く、視線も合わず不調が目立った。柚子が体調を案じて額に触れようとすると、澪が突然柚子の手首を強く掴み、異様な笑みを浮かべた。芽衣が止めるが澪は放さず、ポケットから黒い羽を取り出す。
黒い羽による転移と拉致成立
黒い羽から強風が巻き起こり、柚子は目を閉じた直後に場所が変わった。気付けば応接間ではなく、見覚えのない竹林の中に立っていた。そこには地面に座り込む澪と、背後から現れる見知らぬ若い男がいた。澪は柚子を憎むように睨み、以前の友人らしさは消失していた。
“隠れ里”と花嫁宣言
若い男はここを「隠れ里」と呼び、柚子に対して「俺のただひとりの花嫁」と告げた。柚子は状況を理解できないまま、完全に敵側の支配空間へ引き込まれた形で章が締められた。
外伝 猫又の花嫁~紹介編
東吉の嫉妬と疑念
透子が電話を切るなり、東吉は「柚子に会わせろ」と不機嫌に要求した。透子が会話で柚子の名を頻繁に出すのに、メッセージのやり取りを見たことがないことから、男や元カレを疑い始める。透子は呆れつつも、柚子はスマホを持っておらず学校でしか話せない事情を説明し、誤解を叩き潰した。
柚子の家庭事情と透子の怒り
透子は柚子の家が「妹(妖狐の花嫁)中心」で回っており、柚子が露骨にないがしろにされていると語った。東吉は花嫁が話題の中心になりがちだと受け止めるが、透子はそれを「異常」と断じ、両親と妹への怒りと無力感を吐露する。柚子が期待を諦めていく様子を見続けてきた透子の苛立ちが強調された。
“鬼ならどうにかなる”という現実と諦め
東吉は妖狐や鬼が最上位で、猫又は下位だと説明し、妖狐に楯突く無謀さを語る。透子は「柚子が花嫁になれば助かるかも」と願うが、東吉は花嫁の希少性を理由に現実的ではないと否定する。それでも透子は柚子を守りたい気持ちを抑えられず、東吉は「会わせるなら連れてこい」と牽制を口にしてスリッパを投げられる。
東吉の“余計な心配”と花嫁問題のこじれ
東吉は、あやかしの容姿が整っているため「紹介したら友人が惚れて修羅場になる」可能性を持ち出した。透子はナルシスト扱いで一蹴するが、東吉は過去に花嫁絡みで人間に言い寄られた経験があると示し、花嫁が「結ばれる可能性」を錯覚させる危険を語る。透子は苛立ちつつも、東吉側にも事情があると察して怒りを少し落とした。
猫田家での初対面と柚子の“距離感”
透子は東吉に柚子を会わせ、猫田家に招く。柚子は屋敷の規模に圧倒されるが、東吉には媚びも興味も示さず、礼儀正しく淡白に挨拶した。東吉は警戒していた分、拍子抜けする。一方で透子は、柚子が他人に深入りせず壁を作る癖を見抜き、それが自衛であることを理解して不安を抱く。
透子の宣言と“安心できる居場所”の芽生え
透子は「柚子を大切にできないなら花嫁を辞めて実家に帰る」と言い切り、柚子もそれに苦笑しつつ信頼を示す。東吉も「透子の友人なら俺の友人」と受け入れる姿勢を見せ、柚子は安心した。以後、柚子が猫田家に出入りしやすくなり、透子は「柚子が笑って安心できる場所になればいい」と願って締めた。
【もうひとつの鬼の一族】
透子との外出と過保護な護衛体制
柚子は透子と外出し、玲夜の付けた鬼の護衛に見守られていた。柚子側には子鬼と龍もおり、護衛の必要性すら薄い状況である。透子も東吉の過保護ぶりを笑いながら、今日は遊び尽くすと意気込んだ。
久々の“自由時間”と夫たちの迎え
ランチと買い物で気晴らしをし、カフェのテラスで休憩する流れとなった。帰宅時間を連絡すると玲夜と東吉が迎えに来ると言い出し、ふたりは苦笑しつつ待つことにした。透子は玲夜を“目の保養”扱いし、柚子は東吉の嫉妬を心配するが、透子は信頼関係が揺らがないと笑い飛ばした。
謎の美しい女性と“鬼の気配”
テラスから、赤い瞳を持つ美しい女性が歩く姿を透子が見つけた。柚子も直感的に鬼だと確信し、目の色の鮮烈さと雰囲気に引き込まれる。女性がこちらを見上げた瞬間、柚子は緊張を覚えた。
玲夜の到着と異例の挨拶
玲夜が背後に現れ、女性を見て「天鬼月の者」と断じた。女性は玲夜に軽く会釈し、玲夜も同様に頭を下げた。柚子と透子は、玲夜が“対等に挨拶した”事実に衝撃を受ける。女性はそのまま去っていった。
天鬼月という“もう一つの頂点”
玲夜は天鬼月を「鬼龍院と双璧をなす鬼の一族」と説明し、鬼の多くが鬼龍院か天鬼月のどちらかに属していると語った。鬼龍院が表であやかしをまとめる一方、天鬼月は裏から秩序を維持しているという。
女性の正体と柚子の今後
女性は天鬼月現当主の孫娘だが、玲夜自身は詳しく知らないという。天鬼月は宴や社交の場にほとんど出ず、表舞台に出ないため、柚子や透子が知らないのも自然であった。玲夜は柚子が今後天鬼月と会う機会が増えると示唆した。
“当主”への圧と柚子の複雑な気持ち
玲夜は天鬼月の当主を「天道を十人合体させたような威厳と威圧感」と評し、千夜と並べると同じ鬼の当主とは思えないと漏らした。柚子は会うことに気後れしつつも、先ほどの女性には会ってみたいという興味も抱いた。透子はどこか猫又の花嫁であることに安堵しているように見えた。
鬼の花嫁 一覧







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