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奈須きのこ魔法使いの夜

小説「魔法使いの夜 上」感想・ネタバレ

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魔法使いの夜 上の表紙画像(レビュー記事導入用) 奈須きのこ

Table of Contents

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. ストーリー・プロット
        1. 第1幕:はじまりの朝(プロローグ)
        2. 第2幕:ストレンジャーの来訪
        3. 第3幕:丘の上の魔女
        4. 第4幕:森の監視と予兆
        5. 第5幕:目撃の瞬間
        6. 第6幕:決意と沈黙
      1. 主要な転換点
        1. 草十郎の転入
        2. 外敵の排除
        3. 魔術行使の目撃
      2. 主人公を中心とした人物関係の変化
        1. 青子と草十郎の関係性の推移
        2. 青子と有珠の関係性の深化
      3. 主人公の認識と周囲の評価
        1. 蒼崎青子の自己認識
        2. 周囲からの評価
      4. クライマックス
        1. 発生原因
        2. 戦闘描写
        3. 想定外の事態
        4. まとめ
      5. 巻末時点の状況
        1. 青子の決断
        2. 草十郎の状況
        3. 未解決の課題
    2. 魔術の秘匿義務
        1. 魔術の秘匿義務の定義と背景
        2. 人避けの結界の機能と静希草十郎による突破
        3. 規律と個人の感情との衝突
        4. 未解決のまま継続する対立構図
    3. 静希草十郎
        1. インフラの存在しない山奥から来た異邦人としての素朴さと生命力
        2. 常識の欠如が引き起こす規格外の認識と結界の突破
        3. 特別な力を持たない一般人としての泥臭い行動
        4. 虚飾のない内面と周囲の人間関係に与える影響
    4. 蒼崎青子
        1. 宿命と半端な立場への葛藤
        2. 鉄の生徒会長と理由なき反感
        3. ライオンと子猫を巡る倫理観
        4. 反転と共闘による甘さの露呈
    5. 非日常の接触
        1. 日常の裏側に潜む非日常の構造
        2. 境界を破る偶発的な接触の要因
        3. 秘匿義務を巡る葛藤と対比
        4. 反転する立場と泥臭い共闘
        5. 解決をみない均衡と今後の展開
    6. 三咲町の抗争
        1. 抗争の対立構図
        2. 劇中で発生した三つの具体的衝突
        3. 日常生活に侵入する抗争の影
        4. まとめ
        5. 廃遊園地の死闘
        6. 舞台設定の意図と背景
        7. 狩りの開始と草十郎の限界
        8. 自動人形の奇襲と共闘への反転
        9. 地下最深部での激突と自爆作戦
        10. 日常の日用品による介入と脱出
        11. 死線を越えた連帯と冷酷な現実
  6. 登場キャラクター
    1. 久遠寺邸(魔術師防衛陣営)
      1. 蒼崎青子
      2. 久遠寺有珠
      3. 蒼崎の祖父
      4. 青子の父
    2. 私立三咲高等学校(日常・学校関係者)
      1. 静希草十郎
      2. 山城和樹
      3. 里中
      4. 槻司鳶丸
      5. 木乃美芳助
      6. 有里
      7. 藤代
    3. 合田教会
      1. 周瀬唯架
      2. 律架
      3. エイリ
    4. 外敵(人形使い・侵入者陣営)
      1. 緑の服の女
    5. その他の一般関係者
      1. 吉田
      2. 恒河
      3. パチンコ店の店長
      4. 中華飯店の店長
      5. 花澤
      6. 土桔由里彦
      7. トッキー・ユーリッヒ
    6. 使い魔・集団
      1. ロビン
      2. 口裂け男の使い魔
      3. トゥイードル・ダムとトゥイードル・ディー
      4. テムズ・トロル
      5. 自動人形
      6. シックス・スウィング・チョコレート
  7. 展開まとめ
    1. 1/普通じゃないひと
    2. 2/昨日、こんな事があった。
    3. 2.5/それまでの話
    4. 3/その夜
    5. 4/蒼崎青子、その二
    6. 5/魔法使いの夜 前編
  8. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

1980年代後半、地方都市・三咲町における「日常(世俗圏)」と「非日常(魔術圏)」の衝突、およびその結果生じた秘匿事項の漏洩に関する記録をまとめたものだ。
山奥の未開地域から転入した静希草十郎という異分子が、三咲高校の管理体制(日常)に組み込まれる過程で、町の管理者である魔術師・蒼崎青子および久遠寺有珠の防衛活動(非日常)と接触を果たす。
そして深夜の公園において、魔術行使の現場が外部者に目視される重大な「セキュリティ・ブリーチ」が発生した。本巻は、秘匿義務に基づく目撃者の排除、あるいは共生という選択を巡る意思決定プロセスの中盤までを描き出している。

■ 主要キャラクター

  • 蒼崎 青子  三咲高校生徒会長。表面的には「鉄の生徒会長」として規律を維持する優等生を演じるが、本質は第五魔法の継承者たる「魔法使い」の孫であり、現在は「魔術師(メイガス)」としての修行段階にある。攻撃的な気質に起因する「魔力の出力不安定」を抱え、「暗示」が「呪詛」に変質しやすい傾向がある。久遠寺邸での共同生活において、隠匿と防衛の任務に従事する。
  • 静希 草十郎  インフラ未整備の山奥から転入した外部者。現代文明の常識、利便性、倫理観に対する認識が著しく欠如しており、複数のアルバイトによる自活を優先する。深夜の公園における魔術行使を、結界の論理を無視した状態で「ただそこに居合わせる」という形で目撃し、隠匿対象者となる。
  • 久遠寺 有珠  久遠寺邸の本来の主であり、現代に生きる純血の魔女。魔術師としての冷徹な合理性を持ち、使い魔「プロイキッシャー」を用いた広域監視・迎撃を専門とする。目撃者(草十郎)の即時排除を規定に基づき主張し、青子の意思決定に圧力をかける。
  • 槻司 鳶丸  三咲高校生徒会副会長、理事長の息子。青子の「鉄の生徒会長」という仮面を見抜き、その攻撃性を理解する非公式のオブザーバー。草十郎の適応を支援しつつ、青子が過去に引き起こした「血の公会堂事件」等の内部情報を保持する。
  • 山城 和樹  三咲高校教諭。草十郎の転入に伴う事務手続きを担当。青子に対し、教育的配慮を名目とした草十郎の指導を依頼し、結果として mundane(世俗)と magus(魔術)の接点を作り出す要因となった。

書籍情報

魔法使いの夜 上
著者:奈須きのこ 氏
イラスト:やまひろかず  氏
出版社:星海社星海社FICTIONS
発売日:2026年8月27日
ISBN:978-4-06-544395-8

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あらすじ・内容

小説『魔法使いの夜』、星海社FICTIONSより全3巻、2026年8・9・10月連続刊行決定!

奈須きのこ最新小説
ーーー坂の上のお屋敷には、二人の魔女が住んでいるーーー

1980年代後半。華やかさと活力に満ちた時代の黄昏時。
都会におりてきた少年は、現代に生きる二人の魔女とすれ違う。

TYPE-MOONのノベルゲーム『魔法使いの夜』が、奈須きのこ自身の手によって小説としてここに新生!
これぞ奈須きのこ至上の青色(はじまり)の物語にして青春小説。

魔法使いの夜 上

感想

魔術を見たから口封じ。共闘したのに今度は有珠が出てくるのか

『魔法使いの夜 上』を読み終えて感じたのは、「ようやく物語が動き始めたところで終わった」という感覚である。

自分はゲーム版をプレイしていないので想像になるが、ゲームのシナリオでいえばプロローグから第一章あたりまでを読んだような印象だった。

蒼崎青子と静希草十郎が出会う。

学校で少しずつ関わる。

ところが草十郎が、偶然にも青子の魔術を目撃してしまう。

秘密を知られた以上、口封じしなければならない。

そして殺そうとしたところへ第三者が乱入し、今度は二人で協力して戦うことになる。

ようやく助かった。

これで少し関係も変わるのかなと思ったところで、

「何をしているの」

と久遠寺有珠が登場。

いや、そうなるよな。

青子が勝手に見逃していい問題ではなかった。

ここからどうやって草十郎を生かすのか。

もう結婚して身内にするくらいしかないのではないか。

ボーイミーツガールなのに、最初から青子が草十郎を気に入らない

二人の出会いからして面白い。

山奥から三咲町へやって来た草十郎は、都会の常識をほとんど知らない。

電話も電気も学校生活も、彼にとっては新しいものばかりである。

そんな草十郎の学校案内を任されたのが、生徒会長の青子だった。

草十郎は青子を初めて見た瞬間に、綺麗だと思う。

少し運命めいたものまで感じている。

一方の青子は、なぜか初対面から草十郎が気に入らない。

特に何かされたわけでもない。

草十郎はむしろ礼儀正しく、悪意もない。

それでも妙に苛立つ。

この最初から噛み合っていない感じが面白かった。

しかも草十郎には嫌味がほとんど通じない。

青子が睨んでも、

「何か悪いものでも食べたのか?」

くらいに思われてしまう。

攻撃が全部空振りしている。

青子からすれば相当疲れる相手だろう。

草十郎の「都会ではこれが普通なのか?」が強すぎる

草十郎は世間知らずなのだが、単純に頭が悪いわけではない。

知らないから、自分の知識だけで勝手に決めつけないのである。

これが魔術と遭遇した時にも出ている。

深夜の公園で、人間離れした者たちが戦っている。

炎まで使っている。

普通なら、

「そんなものが現実に存在するわけがない」

と考えるところだろう。

ところが草十郎は、

「都会なら、こういう人間もいるのかもしれない」

と考える。

いや、いない。

都会を何だと思っているんだ。

鳶丸へ相談して、

「そんな魔法使いみたいな奴はいない」

と言われて、ようやく疲れて幻覚でも見たのだろうと納得しようとする。

このズレ方が草十郎らしい。

ただ、この「常識がない」という性質が、有珠の人避けの結界さえ抜けてしまう原因につながっているように見えるのが興味深かった。

魔術を見られた。だから殺す。この世界、結構怖い

日常パートが面白いので忘れそうになるが、魔術師側の世界はかなり物騒である。

草十郎は偶然見ただけである。

青子の正体を探ったわけでもない。

魔術を盗もうとしたわけでもない。

ただ公園にいただけ。

それでも魔術を見てしまった。

だから秘密を守るために殺す。

厳しい。

青子自身も一般人を殺すことには迷っている。

それでも魔術師として生きるなら、秘密を守らなければならない。

最終的には自分で草十郎を殺すと決める。

しかも騙し討ちは嫌だから、正面から事情を説明して殺そうとする。

そこだけ妙に律儀なのも青子らしい。

殺されるために呼び出されているのに、普通に来る草十郎

舞台となるのが廃遊園地キッツィーランド。

青子から夜中に呼び出され、草十郎は普通にやって来る。

疑えよ。

そして青子から、

「魔術を見たから死んでもらう」

と告げられる。

ここから始まるミラーハウスでの追跡は、それまでの学校生活とは一気に雰囲気が変わる。

青子は本気で魔弾を撃つ。

草十郎は逃げる。

ただ、鏡の迷路に慣れていないので、何度も壁へぶつかる。

泥臭い。

特殊能力を覚醒させて華麗に逃げるわけではない。

傷だらけになりながら、とにかく走る。

そのうち精神的にも疲れ切り、

「もう青子に殺されるならそれでもいいか」

というところまで追い詰められる。

ボーイミーツガールから、どうしてこうなった。

殺そうとしていた相手と、今度は一緒に戦う

ところが青子が草十郎を仕留めようとした瞬間、女性型の自動人形が襲ってくる。

ここで状況が反転する。

さっきまで、

青子=殺す側
草十郎=殺される側

だった。

それが突然、

青子と草十郎=逃げる側

になる。

しかも青子は最初の攻撃で魔術回路を乱され、思うように魔術を使えない。

草十郎を殺そうとしていた青子が、今度は草十郎を守りながら逃げる。

そして草十郎も一人で逃げるのではなく、青子と協力することを選ぶ。

この急激な関係の変化が面白かった。

消火器を持って戻ってくるのが草十郎らしい

最終的に青子は、自分が草十郎を逃がさないために仕込んでいた術式を逆利用し、ミラーハウスそのものを崩壊させる。

殺すために準備した罠が、二人を助けるために使われる。

この反転も良かった。

さらに印象に残ったのが草十郎である。

青子は一人で逃げろと言う。

それでも草十郎は完全には逃げない。

最後には消火器を持って戻ってきて、人形の攻撃を叩き落とす。

魔術も使えない。

特別な武器もない。

持ってきたのが消火器。

そこが良い。

魔術師たちの派手な世界に、ものすごく現実的な物体を持って割り込んでくる。

山奥から来た世間知らずなのに、こういう場面では妙に頼りになる男である。

一緒に死線を越えたから、もう殺せないよな……と思ったら

自動人形を倒し、崩壊するミラーハウスから二人は脱出する。

草十郎は青子を助けた。

青子もそれを認める。

そして、

「今夜だけは殺さない」

という形になる。

ここまで一緒に戦ってしまったら、青子としても直後に、

「じゃあ予定通り殺すわ」

とはなかなかできないだろう。

最初はただの目撃者だった草十郎が、一晩で共闘した相手になってしまった。

これでようやく一件落着。

今後は少しずつ秘密を共有する関係になるのかな。

そう思った。

そこで有珠が出てくる。ですよね

だが、そう簡単には終わらない。

久遠寺有珠が現れる。

青子が草十郎を見逃したとしても、有珠まで同意したわけではない。

むしろ有珠は最初から、

「秘密を見た一般人は処分する」

という立場である。

青子が一晩一緒に戦って情が移ったところで、魔術師側の事情は何も解決していない。

読んでいて、

「ああ、そうだった」

となった。

青子だけの秘密なら、青子が許せば済んだかもしれない。

しかし有珠もいる。

さらに三咲町では別の魔術師が動いている。

草十郎を巡る問題は、むしろここからだった。

秘密を守るなら、もう結婚して身内にするしかないのでは?

上巻を読み終えて一番気になるのは、結局これである。

草十郎をどうするのか。

殺す。

記憶を消す。

監視する。

仲間にする。

いろいろ方法はありそうだが、これだけ秘密を知ってしまった人物を普通の生活へ戻すのは難しそうである。

だったらもう、

「身内だから問題ありません」

にするしかないのではないか。

つまり結婚。

もちろん半分冗談である。

ただ、ボーイミーツガールとして見ると、かなり変な始まり方をしている。

出会う。

少し気になる。

魔術を見られる。

殺そうとする。

第三者に襲われる。

共闘する。

助けられる。

見逃す。

同居人に怒られる。

恋愛以前に越えなければならない壁が多すぎる。

ゲーム未プレイなので、この先どう転がるのかはまったく分からない。

ただ、上巻は大きな物語の導入を読み終えたような感覚が強かった。

青子と草十郎が出会い、日常と魔術の世界がぶつかり、もう無関係には戻れなくなった。

そして最後に有珠が、

「何してるの」

とばかりに登場する。

ここで終わるのはズルい。

一件落着どころか、本当の意味での三人の物語はここからなのだろう。

ゲームでいえばまだ序盤なのではないか、と思ってしまうほど「始まり」の感触が強い上巻だった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察・解説

ストーリー・プロット

三咲町を舞台に繰り広げられる魔術師たちの動向と、一般人の遭遇によって生じた事態の推移を時系列に沿って整理する。

第1幕:はじまりの朝(プロローグ)

8年前の冬、青子が祖父を訪問した際の記録となる。

  • 事故により瀕死となった子猫の運命を巡り、青子は祖父へ救済を懇願した。
  • 結果として命は救われたものの、死の不可逆性と魔術の非情さを認識する結果に終わった。
  • この経験を通じ、青子の魔術的な原風景が形成された。
第2幕:ストレンジャーの来訪

静希草十郎が三咲高校へ転入してきた場面の記録となる。

  • 山城教諭の要請を受け、青子は案内役として接触を開始した。
  • 草十郎が抱える常識の著しい乖離により、青子は案内業務において多大な負荷を強いられた。
第3幕:丘の上の魔女

三咲町の高台に位置する久遠寺邸における、青子と有珠の共同生活の記述となる。

  • 魔術師間に存在する厳格な隠匿ルールが適用されている。
  • 有珠を師とした青子の魔術修行を軸とする日常が展開された。
第4幕:森の監視と予兆

領域内へ侵入した外敵に対し、有珠が迎撃を実行した経緯となる。

  • 口裂け男の使い魔を、使い魔トゥイードル・ダムとトゥイードル・ディーによって捕捉した。
  • テムズ・トロルによる物理的破砕を用い、侵入者を排除した。
  • 一連の交戦を通じ、領土侵犯が激化している事実が確認された。
第5幕:目撃の瞬間

深夜の公園において発生した敵性存在との交戦と、それに伴う不測の事態に関する記録となる。

  • 敵対する人形使いのデコイを青子が撃退した。
  • 血流を魔力へと変換し、物理的な炎を放射するプロセスを実行した。
  • 人避けの結界の論理を感知せず侵入していた草十郎が、魔術行使の現場を至近距離から目撃した。
  • 草十郎は現場から逃走し、青子は追跡に失敗した。
第6幕:決意と沈黙

秘匿保持を目的とした対応方針の決定に関する記録となる。

  • 秘匿の保持を完遂するため、目撃者の物理的排除が不可欠な状況に陥った。
  • 有珠が迅速な実行を促す一方、青子側には意思決定の遅延が生じた。
  • 最終的に、青子は回避不能な規律に従い、草十郎の排除を自らの手で完遂する決断を下した。

平穏な日常の裏で激化していた魔術師同士の領域争いは、一般人である草十郎の偶発的な目撃によって決定的な破綻を迎えた。魔術の秘匿という絶対的な規律に直面した青子は、避けて通れない結末に向けて自らの手で事態を収束させる選択を強いられる運びとなった。

主要な転換点

三咲町における魔術師たちの管理体制と領域防衛の推移を整理し、事態が急速に悪化した要因を分析する。平穏な日常の裏で進行していた領土を巡る抗争と、一般人の介入によって生じた環境の変化について、三つの転換点を軸に検証を進める。

草十郎の転入
  • それ以前の状況:魔術師2名による閉鎖的な管理体制
  • 出来事の内容:世俗のルールを逸脱した山の人間が介入
  • 発生した変化:青子の日常タスクに制御不能なノイズが発生
  • 次への影響:隠匿対象者としての草十郎の接近を許容する環境が形成
外敵の排除
  • それ以前の状況:断片的な敵意を観測
  • 出来事の内容:有珠による森の侵入者の物理的抹殺
  • 発生した変化:三咲町領土を巡る魔術的抗争の激化が確定
  • 次への影響:公園における迎撃トラップの設置へと進展
魔術行使の目撃
  • それ以前の状況:秘匿事項の完全性を保持
  • 出来事の内容:結界の論理を無視して侵入した草十郎が青子の魔術行使を視認
  • 発生した変化:秘匿保持におけるセキュリティ・ブリーチが発生
  • 次への影響:草十郎が排除・抹殺の対象へと移行

閉鎖的に維持されてきた管理体制は、規格外の一般人による接近と、激化する領土侵犯が重なった結果として決定的な破綻を迎えた。結界を突破した偶然の目撃により、秘匿保持の規則に則った実力排除への移行が確定する事態を招いた。

主人公を中心とした人物関係の変化

三咲町を舞台に繰り広げられる人間模様において、主人公の蒼崎青子を取り巻く関係性は、日常と非日常の境界が崩壊する過程で大きな変容を見せる。特に一般人である静希草十郎の介入と、同居人である久遠寺有珠との連携は、魔術の秘匿義務を巡って急速に再定義されていく。

青子と草十郎の関係性の推移
  • 初期の段階では、学校生活の案内対象として接触が始まる。
  • 世俗の常識が通じない相手に対し、青子は多大な対応負荷を強いられる。
  • アルバイトの相談などの日常的な関わりを通じ、論理的な理解は及ばないものの憎むこともできない特異な存在として認識が変化する。
  • 深夜の公園で魔術行使を目撃されたことを機に、迅速に排除すべき機密漏洩源へと立場が転換する。
青子と有珠の関係性の深化
  • 洋館における形式的な共同生活者、および魔術修行における利害関係者として生活を共にする。
  • 目撃者の処理という重大な判断を前に、殺人を伴う機密保持の共犯者としての側面を強める。
  • 外部からの侵入者を迎撃し、町の領土を守る隠匿任務のパートナーとして結束を深める。
  • 協力関係を構築する一方で、根底に存在する魔術師同士の不倶戴天の競争者という本質は損なわれない。

偶発的な目撃事件を契機に、学校生活における緩やかな繋がりは命を懸けた攻防へと塗り替えられる。相容れない三者の距離感は、魔術世界の厳しい掟と個人の感情が交錯する中で、極めて緊張感に満ちた独自の均衡を保ち続ける。

主人公の認識と周囲の評価

三咲高校で生徒会長を務める蒼崎青子は、立場や相手によって異なる側面を見せる。彼女自身が捉える内面と、周囲の人物が下す評価には明確な隔たりが存在し、その多面性が行動原理を形成する。

蒼崎青子の自己認識
  • 自己を未熟で不安定な魔術師と位置づける。
  • 学校生活においては優等生としての仮面を機能させる。
  • 内面は攻撃的かつ合理主義的な行動原理に支配されている。
周囲からの評価
  • 静希草十郎は、彼女を心配性で世話焼きな人間と捉える。
  • 槻司鳶丸は、外部を威圧する生徒会長としての姿の奥に秘められた暴力性を見抜く。
  • 山城和樹は、校内の規律を保つ厳格な執行官として一目置く。

本人が抱く魔術師としての危うさや攻撃性は、日常の場において巧みに隠蔽される。周囲は彼女の表層的な振る舞いや断片的な一面を捉え、それぞれの視点に応じた人物像を読み取っていく。

クライマックス

三咲町の平穏を揺るがす魔術師同士の抗争において、深夜の公園で起きた交戦と一般人による目撃は、物語の展開を決定づける転換点となった。防衛を目的とした迎撃行動が予期せぬ情報漏洩へとつながる経緯を以下に整理する。

発生原因
  • 領土侵犯を繰り返す人形使いを誘引し、捕捉するための迎撃トラップを運用した。
戦闘描写
  • 青子が体内の回路を接続し、血液を熱量へと変換した。
  • マネキン型の人形に向けて術式を行使し、焼却処分を完了した。
想定外の事態
  • 有珠が展開した人避けの結界による認知改変効果が、草十郎には機能しなかった。
  • 結界の論理の外側から草十郎が物理的に侵入し、その場に待機していた事実が判明した。
まとめ
  • 現場を目撃した草十郎がその場から逃走した。
  • 青子は魔術行使に伴う足の痺れという身体的負荷により、追跡と捕捉に失敗した。
  • 魔術の秘匿保持において取り返しのつかない致命的エラーが確定した。

外敵の排除という当初の目的は達成されたものの、常識の枠に収まらない一般人の偶然の立ち入りにより、事態は機密の保持と目撃者の処分を巡る深刻な局面へ移行した。張り巡らされた防衛網の綻びは、平穏な日常と隠匿された魔術世界の境界を完全に崩壊させる契機となった。

巻末時点の状況

深夜の公園で起きた魔術の目撃事件を経て、三咲町の秩序を巡る状況は重大な局面を迎える。秘匿の保持を義務づけられた魔術師側の動きと、意図せず事件に巻き込まれた一般人の動向が交錯し、緊張感が高まる。巻末時点における各陣営の状況と残された課題について整理を行う。

青子の決断
  • 目撃者を抹殺するための物理的な準備を開始する。
  • 対象を確実に捉えるため「檻の魔術」の術式を確認する。
  • 有珠から貸与された「羊脂玉の浄瓶」の機能と使用条件を検証する。
草十郎の状況
  • 現場からの逃走後、表面的には普段通りの日常を維持する。
  • アルバイト先のパチンコ店での勤務中、赤髪に眼鏡をかけたモデル体型の「緑の服の女」と遭遇する。
  • その女性を目にした際、強い本能的な拒絶と悪寒を覚える。
未解決の課題
  • 規則に基づいた目撃者・静希草十郎の処刑実行。
  • 三咲町の領域に魔術的な圧力をかけ続ける「人形使い」の特定と排除。

目撃者の排除という内部的な機密保持の規律と、外部から町を脅かす敵対魔術師の排除という二つの問題が同時に進行する。逃走した草十郎を巡る葛藤と未知の脅威への対処が重なり、事態は避けて通れない衝突へと向かう。

魔術の秘匿義務

『魔法使いの夜 上』において描かれる魔術の秘匿義務は、物語を駆動する最大のサスペンスであり、登場人物たちの日常と非日常を分かつ最も冷酷な境界線として機能する。魔術の秘匿義務の実態と、それが登場人物たちに強いる葛藤について、複数の側面から整理し考察を進める。

魔術の秘匿義務の定義と背景

魔術の秘匿は個人的なマナーや信条の類にとどまらない。それは魔術師たちの社会における絶対的な規律であり、魔術協会の十戒条の筆頭には、魔術師はその御業をすべて隠匿すべしという旨が掲げられている。

  • 魔術という幻想を形にする行為が現実を侵すことを世界は容認しない構造を持つ。
  • 神秘を維持するためにも魔術は徹底して隠匿される必要がある。
  • 外部の一般人に目撃された場合は、秘密保持のために目撃者を物理的に排除するという掟が存在する。
人避けの結界の機能と静希草十郎による突破

通常、魔術師が魔術を行使する際には結界を展開し、一般人の立ち入りを未然に防ぐ処置をとる。久遠寺有珠が展開する人避けの結界は極めて高い完成度を誇り、その場所に用がある人間であっても立ち入りを控えさせようとする意識改変を促すことで、外界に異変を察知させずに内部を隔離する効果を発揮する。

  • 深夜の公園において、山奥から来た転入生である静希草十郎がこの結界をすり抜け、青子の魔術行使を目撃する事態が発生する。
  • 草十郎が結界を通過できた背景には、都会の常識や魔術的な論理の外側に位置する特異な性質が関係する。
  • 未知の事象をありのままに受け入れてしまう独自の認識が結界の誘導効果を無効化し、偶発的な侵入を成立させる。
規律と個人の感情との衝突

秘匿義務という重い掟を前にして、町の管理者である二人の魔女は異なる姿勢を示す。

  • 久遠寺有珠における魔術師としての冷徹な合理性 純血の魔女である有珠は掟に対して忠実に行動する。秘密を見た一般人は処分するという立場を最初から崩さず、青子に対して目撃者の即時排除を規定に基づいて厳しく要求する。
  • 蒼崎青子における魔術師の矜持と人間的な葛藤 青子もまた、魔術師として生きる以上は隠匿の掟を受け入れざるを得ず、排除の必要性を認める。しかし、無罪の一般人を手にかけることに対する強い迷いも生じる。
  • 不意打ちを好まない青子は、草十郎に対して正面から理由を宣告して排除するという、極めて不器用な対決形式を選び、ミラーハウスへ呼び出す行動に出る。
未解決のまま継続する対立構図

物語終盤のミラーハウスにおける戦闘では、予期せぬ第三者の自動人形の襲撃を受け、青子と草十郎は協力して危機に立ち向かう展開へ移行する。死線を共に乗り越えた結果として青子は一夜限りの見逃しを認め、両者の間には一時的な連帯感が芽生える。

  • 戦闘の直後に久遠寺有珠が現れ、私情による見逃しを認めない冷厳な現実を突きつける。
  • 青子が個人の判断で見逃したとしても、厳格な魔術師である有珠が納得しない限り、問題の本質は何も解決しない状況が浮き彫りとなる。
  • 秘密を守るための緊張関係は解消されず、次なる局面へと持ち越される結末を迎える。

魔術の秘匿義務という概念は、単なる背景設定にとどまらず、登場人物たちの倫理観や行動選択を規定する中核として機能する。魔術世界の絶対的な掟と一人の少年の生命という二者択一の行方は、関係性の変化とともにさらなる波乱を予感させる要因となり続ける。

静希草十郎

本作の主人公である静希草十郎は、単なる無知で純朴な田舎者という枠に収まらず、特異な認識能力と泥臭い生命力を備えた異邦人として描かれる。その魅力と特異性について、多角的な視点から整理を行う。

インフラの存在しない山奥から来た異邦人としての素朴さと生命力

電気や電話が通っておらず、学校という仕組みすら存在しない隔絶された山奥から、物語開始のわずか2週間前に都会の三咲町へ降り立った経緯を持つ。

  • 蛇口から流れる水や貨幣制度、壁を隔てて他人が暮らす集合住宅など、近代文明のあらゆる仕組みに新鮮な驚きを示す。
  • 暖房のない室内で1時間以上放置されても不満を漏らさず静止し続ける強い忍耐力を発揮する。
  • 実家からの援助を受けず、生活費と学費を賄うために複数の仕事を掛け持ちして自活するなど、優れた適応力と強靭な身体性を維持する。
常識の欠如が引き起こす規格外の認識と結界の突破

世俗的な常識に囚われない思考形式は、自身の知識のみに依拠した偏見を持たない独自の精神構造に由来する。

  • 深夜の公園で放たれた超常的な炎を目撃した際、非現実的と否定せず、都会にはそうした人間も存在する可能性があると受け止める。
  • 一流の魔女である久遠寺有珠が展開した人避けの結界を意図せず突破する要因となる。
  • 立ち入りを回避させようとする意識改変の論理を感知せず、ただその場に居合わせる形で魔術の秘匿を破る事態を招く。
特別な力を持たない一般人としての泥臭い行動

魔弾を放つ青子や強力な使い魔を行使する有珠と異なり、特殊な能力を持たない一般人として事態に対処する。

  • 呼び出された廃遊園地の鏡の迷路では、壁面に衝突を繰り返して負傷しながら必死に逃走を図る。
  • 極限状態で一度は諦めかけるものの、自動人形の襲来によって状況が一変した際、逃走を促されながらも現場へ戻る選択をとる。
  • 洗練された魔術戦闘の只中に日用品の消火器を携えて介入し、人形の攻撃を阻んで青子を救出する実直な生存本能を発揮する。
虚飾のない内面と周囲の人間関係に与える影響

青子に対して抱く好意は、恋愛感情や交際の希望とは一線を画した純粋な感嘆と感謝に起因する。冷淡な態度を取りつつも転入生の自身を気遣う青子の本意を捉え、素直な感謝を向ける。

  • 槻司鳶丸からは裏表のない性格を評価され、学校生活への適応に向けて親身な支援を受ける関係を築く。
  • 蒼崎青子からは当初こそ理不尽な苛立ちを向けられるものの、死線を共に乗り越えたことで存在を認められ、一夜限りの猶予を獲得する。
  • 久遠寺有珠にとっては排除対象の機密漏洩源としての位置づけから始まり、直接の遭遇を経てその特異な佇まいを観察される対象へと変化する。

どれほど過酷な魔術世界の抗争に巻き込まれようとも、自身の歩調を乱さず、実直な論理に基づいて歩みを進める姿勢を崩さない。異常な状況下においても一貫して自然体であり続ける異質さが、物語の骨格を強固に支える。

蒼崎青子

作品のヒロインであり実質的な主人公でもある蒼崎青子は、端正な鉄の生徒会長という世俗の姿と、突如として宿命を背負わされた未熟な魔術師という二つの立場の狭間で激しく揺れ動く人物として描かれる。過酷な規律に縛られながらも人間味を失わない彼女の特質について、複数の視点から考察を進める。

宿命と半端な立場への葛藤

青子が超常の世界へ足を踏み入れた契機は、中学を卒業した当日に遡る。それまでは自由な進路を思い描いていたものの、後継ぎとなるはずだった姉の失踪を受け、祖父から後継者への指名を突如として受ける運びとなった。

  • 修行開始から一年半余りしか経過しておらず、自身の力量を未熟で不安定な魔術師と捉えている。
  • 攻撃的な気質に起因して出力調整が難しく、暗示が呪詛へ変質しやすい危うさを抱える。
  • 同居人の久遠寺有珠とは領土防衛の協調関係を結びつつも、本質的には互いに妥協を許さない競争者としての緊張関係を維持している。
鉄の生徒会長と理由なき反感

学校における青子は、規律を厳格に順守させる鉄の生徒会長として周囲から強い一目を置かれている。冷徹な執行官としての職務を遂行する一方、引き受けた役目を投げ出さない公正さも併せ持つ。

  • 転入生の静希草十郎に対しては、初対面の段階から激しい反感を抱く。
  • その感情の背景には、かつて心をかき乱された苦手な人物像と草十郎が重なるという個人的な要因が存在する。
  • 打算なく好意を向け、噂に惑わされず気遣いを正しく受け止める草十郎の態度が、冷徹な仮面を維持しようとする彼女の内心を激しく乱す要因となる。
ライオンと子猫を巡る倫理観

公園での交戦現場を目撃された事態を受け、青子は機密漏洩の防止という掟に従い、草十郎を自らの手で排除する決断を迫られる。

  • 一般人を手にかける迷いを抱えつつも、魔術師の道を選ぶ以上は避けて通れない義務として受け止める。
  • 無抵抗な相手への不意打ちを拒み、正面から宣告して命を奪う方針を選び、廃遊園地の鏡の迷路へ呼び出す行動に出る。
  • 決行直前に投げかけたライオンと子猫の問いに対し、草十郎から双方を撃たないという予想外の返答を受け、選択の理不尽さを前に動揺を深める。
反転と共闘による甘さの露呈

鏡の迷路での追跡中に自動人形の強襲を受け、背中に攻撃を受けた青子は術式の行使が困難な状況へ陥る。

  • 排除を試みる立場から一転して追われる立場となり、草十郎との間に協力体制が結ばれる。
  • 本来は逃走を防ぐ目的で仕掛けていた爆破術式を転用し、建物を倒壊させて人形を打ち破る作戦を実行する。
  • 消火器を手にして救援に戻った草十郎の行動を受け、死線を越えた代償として一夜限りの見逃しを認める決定を下す。

魔術師としての冷徹さに徹しきれず、自身の良心や公平さを捨て去ることができない青子は、規格外の一般人との関わりを通じて内面の揺らぎを深めていく。私情を挟んだ見逃しの判断に対し、冷厳な魔術師である有珠が突きつけた問いは、甘さの代償がもたらす更なる困難を暗示している。

非日常の接触

『魔法使いの夜 上』において、非日常との接触は物語を牽引する最大の要素となり、登場人物の行く末を決定づける転換点として機能する。近代化が進む1980年代後半の地方都市である三咲町を舞台に、日常の世俗圏と隠匿された魔術圏が交錯し、臨界点へと達する過程を整理していく。

日常の裏側に潜む非日常の構造

三咲町には駅前デパートや商店街、私立三咲高校といった活気ある日常が広がる一方、高台には洋館の久遠寺邸が佇み、郊外には人を寄せつけない森が広がる。

  • 蒼崎青子は学校で生徒会長として規律を守りつつ、放課後は洋館で魔術の修練を重ねる生活を送る。
  • 教師の山城和樹が転入生の静希草十郎の校内案内を青子へ依頼したことで、日常の場に最初の接点が生じる。
  • 世俗の秩序と隠された魔術世界の境界線上に、予期せぬノイズが持ち込まれる結果となる。
境界を破る偶発的な接触の要因

決定的な接触は、深夜の公園で青子が敵対する人形使いの囮を撃退した現場で生じる。

  • 魔術を行使する際、久遠寺有珠が展開する人避けの結界によって通常は一般人の接近が遮断される。
  • 現代文明の常識を持たない草十郎には、結界がもたらす認知改変の論理が作用しない。
  • 草十郎は結界の効力を意識することなく侵入し、至近距離から魔術行使を目撃する事態に至る。
  • 規格外の認識を持つ一般人の立ち入りにより、魔術の秘匿体制に重大な破綻が生じる。
秘匿義務を巡る葛藤と対比

魔術を目撃された以上、魔術協会の絶対的な規律に基づき、目撃者の物理的な排除が求められる。

  • 草十郎は遭遇した超常の光景に困惑しつつ、余計な関与を避けて日常に留まろうと努める。
  • 青子は魔術師の掟に従い排除を決意しながらも、相手を騙し討ちにすることを拒絶する。
  • 正面から理由を告げて命を奪う方針を選び、廃遊園地のミラーハウスへ相手を呼び出す手続きを踏む。
  • 決行直前の問答には、一方的な排除の論理と自身の倫理観の間で苦悩する内面が色濃く反映される。
反転する立場と泥臭い共闘

廃遊園地で始まった追跡劇は、正体不明の自動人形による急襲を受けて劇的に変化する。

  • 青子が魔術回路を乱されて窮地に陥った際、逃走可能だった草十郎が現場へ戻り共闘を申し出る。
  • 草十郎は魔術の戦いに日用品の消火器を携えて割り込み、青子を救出する行動に出る。
  • 仕掛けられていた術式で施設を崩壊させ、人形を撃破したことで、二人は危機を乗り越える。
  • 日常的な手段による救援が、殺す側と殺される側の関係を一時的な協力体制へと塗り替える。
解決をみない均衡と今後の展開

崩壊する施設から脱出した青子は、命を救われた事実を認め、一夜限りの見逃しを提示する。しかし直後に現れた久遠寺有珠の存在が、規律の厳しさを即座に突きつける。一度交わった境界は元に戻らず、甘さを指摘された青子と日常を逸脱した草十郎の行く手には、さらなる波乱が待ち受ける。

三咲町の抗争

『魔法使いの夜 上』の物語の裏で静かに、激しく進行していく事象として、魔術師たちによる三咲町の抗争が挙げられる。これは単なる超常能力の戦闘にとどまらず、土地の所有権と魔術的な管理体制を巡る防衛戦としての側面を持つ。この抗争の構図、具体的な衝突、日常世界へ及ぼした影響について以下に整理する。

抗争の対立構図

三咲町における抗争は、土地の管理者と領域侵犯を企てる外敵という二大陣営によって繰り広げられる。

  • 防衛側(三咲町の管理者) 三咲高校の生徒会長を務める蒼崎青子と、洋館の本来の主である久遠寺有珠の二名が担当する。高台の久遠寺邸を拠点とし、三咲町の領域を外部の魔術的脅威から保護・管理する任務を担う。青子は実戦力として機能し、有珠は強力な監視・迎撃用の使い魔を操ることで防御網を敷く。
  • 攻撃側(侵入者・外敵) 三咲町の支配権を奪う目的で外部から圧力をかけ続ける人形使いを首謀者とする勢力が該当する。無貌の口裂け男や精巧に作られた自動人形などの使い魔を領地内へ送り込み、領土侵犯と偵察を繰り返す。
劇中で発生した三つの具体的衝突

作中の時系列に沿って、抗争は段階的に深刻さを増していく。

  • 森における有珠の迎撃戦 領域内に侵入した口裂け男の使い魔に対し、有珠が単独で迎撃を実行した。使い魔トゥイードル・ダムとトゥイードル・ディーを呼び出して敵を拘束し、テムズ・トロルによる物理的破砕を用いて侵入者を完全に抹殺した。
  • 深夜の公園における青子の初陣 敵を誘引・捕捉するための迎撃トラップを深夜の公園に設置した。襲撃してきたマネキン型の自動人形に対し、青子は体内の血流を魔力へ変換して炎を放射し、撃退に成功した。しかし、人避けの結界をすり抜けた一般人の静希草十郎に現場を目撃され、致命的な機密漏洩が発生した。
  • ミラーハウスにおける自動人形の強襲 草十郎の排除を目的として青子が彼を廃遊園地のミラーハウスへ呼び出した際、敵対勢力の女性型自動人形が急襲を仕掛けた。伸縮する腕や呪詛による攻撃を受け、青子は魔術回路を乱されて窮地に陥った。草十郎が消火器を用いて人形の攻撃を阻むなど共闘した末、青子は地下の爆破術式を起動して建物を倒壊させ、人形を辛うじて撃破した。
日常生活に侵入する抗争の影

魔術世界の闘争は世俗の日常の裏側にも影響を及ぼす。

  • 草十郎がアルバイト先のパチンコ店において、赤髪に眼鏡をかけた緑の服の女を目撃した。
  • 彼女と目が合った瞬間、草十郎の背中に激しい悪寒が走り、本能的な恐怖と拒絶反応が生じた。
  • 草十郎は直感的に危険人物と察知し、その場から立ち去る対応をとった。
まとめ

建物の倒壊によって自動人形は破壊されたものの、抗争そのものは収束を迎えていない。防衛陣営には以下の課題が残される。

  • 町の領域に圧力をかけ続ける人形使いの特定と排除。
  • 草十郎の処分を巡る青子と有珠の意見対立。

日常の裏側で繰り広げられる領域争いは、一般人を巻き込みながら本格的な衝突へ向けて推移していく。

廃遊園地の死闘

『魔法使いの夜 上』のクライマックスを飾る廃遊園地キッツィーランド・ミラーハウスの死闘は、日常と非日常が激突する本作最大の山場となる。魔術の秘匿義務、草十郎という異分子の存在、青子の内面にある葛藤、三咲町の領土抗争というすべての要素が一点に収束し、激しい火花を散らす戦闘の全容を紐解く。

舞台設定の意図と背景

青子が草十郎の排除場所として選んだのは、数年前に閉園した廃遊園地キッツィーランドのミラーハウスであった。この場所の選定には、明確な戦術的計算が働いている。

  • 有珠から貸与された羊脂玉の浄瓶は使用条件が厳しく、相手の抵抗や不純物で破損する恐れがあり、実用性に乏しい欠点を抱えていた。
  • 青子は確実に目的を果たすため、ミラーハウスの地下支柱に自力で展開可能な爆破用の発火術式を敷設した。
  • 構造を把握している青子にとって、奥行き100メートルに及ぶ多層の鏡張り迷路は、素手での抵抗を封じて追い詰める檻として機能するはずであった。
  • 閉鎖された特殊空間は、土地の支配を狙う敵対魔術師にとっても戦力を各個撃破するための好都合な待ち伏せ地点となる危険性を孕んでいた。
狩りの開始と草十郎の限界

青子は騙し討ちを拒絶し、正面から魔術を目撃されたことによる死を宣告して魔弾による追撃を開始する。

  • 超能力を持たない草十郎は、壁面へ激突を繰り返して負傷しながら、生存本能のみで迷路を疾走する。
  • 天窓から見上げた都会の夜空を目にした瞬間、都会の過酷な規則に疲弊していた草十郎の緊張の糸が切れる。
  • 青子に殺されるなら受け入れるという境地に達し、逃走を断念して床に倒れ込む。
  • 相手の予想外の諦めに青子が困惑した矢先、予期せぬ第三者の介入によって追走劇は突如として瓦解する。
自動人形の奇襲と共闘への反転

倒れた草十郎に青子が止めを刺そうとした直後、鏡の奥から女性型の自動人形が急襲を仕掛ける。

  • 10メートル以上伸びる関節腕による背後からの強打を受け、青子は魔術回路を激しく乱されて魔弾の行使を封じられる。
  • 狩る側と狩られる側という立場が一転し、二人は人形から逃れる側として行動を共にする展開を迎える。
  • 出口を人形に塞がれた草十郎は現場へ戻り、人形が放つ呪詛の霧に晒されながらも青子へ共闘を持ちかける。
  • 自身の無力を認めつつ青子の統率力に委ねる草十郎の提案に応じ、青子は命を預け合う協力関係を結ぶ。
地下最深部での激突と自爆作戦

地下支柱の爆破術式を起動して建物全体を倒壊させ、人形を生き埋めにする作戦が開始される。

  • 草十郎が2階で囮を務める予定であったが、人形は六足の蜘蛛型へと変形し、音波探知を駆使して最速で青子を追跡する。
  • 青子は地下へ滑り込んで柱に魔力を送り込み、施設の倒壊機構を作動させる。
  • 人形は全動力を注ぎ込み、心臓麻痺をもたらす呪いであるフィンの一撃を放つ。
  • 青子は魔力防御で呪詛を防ぎつつ、全魔力を注ぎ込んだ渾身の右脚による蹴りを心臓部へ炸裂させる。
  • 天井へ激突した人形は内部機構を激しく損傷し、機能停止に追い込まれる。
日常の日用品による介入と脱出

秒単位で崩壊が進む迷路から脱出しようとする青子の背後へ、破損しながらも執念深く稼働する人形が最後の腕を伸ばす。

  • 瓦礫に圧殺される危機の中で青子が死を覚悟した瞬間、武器を探して館内に残っていた草十郎が消火器を振り下ろし、人形の腕を叩き落とす。
  • 極めて日常的な日用品による一撃が呪詛の執念を打ち砕き、青子の手を引いて外の芝生へと連れ出す。
  • 崩落の危機を脱した二人は、間一髪で生還を果たす。
死線を越えた連帯と冷酷な現実

崩壊した建物を背に芝生へ倒れ込んだ二人の間には、生き延びた安堵と穏やかな連帯感が流れる。草十郎の支援を認めた青子は、今夜限りの見逃しを提示する。しかし安堵の空気を切り裂くように現れた久遠寺有珠の冷徹な追及により、状況は再び凍りつく。

共闘によって築かれた脆い和解の裏で、魔術世界の絶対的な規律である秘匿義務は何一つ解消されていない。個人の感情を超えた過酷な掟との対立は、更なる波乱に満ちた展開へと持ち越される。

登場キャラクター

久遠寺邸(魔術師防衛陣営)

蒼崎青子

蒼崎青子は三咲高校の生徒会長を務める。彼女は表面的には規律を維持する優等生を演じる。しかし、彼女の本質は魔法使いの孫だ。彼女は現在、魔術師としての修行段階にある。彼女は攻撃的な気質を抱えている。そのため、彼女の魔力の出力は不安定だ。彼女は久遠寺邸で共同生活を送る。彼女はそこで隠匿と防衛の任務に従事する。彼女は草十郎に対して理由のない反感を抱く。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・生徒会長。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女は休日に草十郎の校内案内を行った。  彼女は深夜の公園で敵の人形を撃退する。  彼女は魔術を目撃した草十郎をミラーハウスに呼び出した。  彼女はそこで草十郎を殺そうと試みる。  彼女は襲撃してきた自動人形と草十郎と共に戦った。  彼女はミラーハウスを自爆させて人形を大破させる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼女は全校生徒から恐れられている。  彼女は魔術の秘匿義務に従い、草十郎の排除を決断した。  彼女は最終的に草十郎の一夜限りの見逃しを認めた。

久遠寺有珠

久遠寺有珠は久遠寺邸の本来の主だ。彼女は現代に生きる純血の魔女を名乗る。彼女は魔術師としての冷徹な合理性を持つ。彼女は使い魔「プロイキッシャー」を専門的に操る。彼女は青子の共同生活者だ。彼女は青子の意思決定に圧力をかける。彼女は目撃者である草十郎の即時排除を主張する。

・所属組織、地位や役職  魔女。久遠寺邸の主。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女は三咲町の領域を広域監視する。  彼女は領土に侵入した口裂け男の使い魔を迎撃した。  彼女は使い魔を操って侵入者を完全に抹殺する。  彼女は青子に羊脂玉の浄瓶を貸し出した。  彼女はミラーハウスの戦闘直後に姿を現す。  彼女は独断で草十郎を見逃した青子を追及した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼女は青子から魔術の得難い教師とみなされている。  彼女は魔術世界の規律を厳格に順守する。  彼女は草十郎を巡る状況に緊張感をもたらした。

蒼崎の祖父

蒼崎の祖父は別奥の山に住む魔法使いだ。彼は何でもできる存在として知られている。彼は洞窟のような場所に籠っている。彼は心のない声で話す。彼はかつて幼い青子と接した。彼は霊的進化論の偽作を所有していた。

・所属組織、地位や役職  魔法使い。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は瀕死の猫を助けたいという青子の願いを聞き入れた。  彼はあっさりとその願いを叶えてみせる。  彼は青子の頭に優しく手を乗せた。  彼は青子に不吉な言葉を伝えて家へ突き返す。  彼は現在も週に一度の便りを送っている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は青子の魔術的な原風景に強い影響を与えた。  彼は青子の姉が旅に出た後に青子を後継者に指名した。

青子の父

青子の父はかつて山の中腹にある一軒家に住んでいた。彼は自家用車を所有している。彼は朝のエンジン始動を幼い青子に任せていた。彼は優しい声をかける。彼は祖父や教会と長い付き合いを持つ。

・所属組織、地位や役職  青子の父親。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は車のエンジンルームに巻き込まれた猫たちを発見した。  彼は傷ついた子猫を悼む。  彼は自分を責める青子を慰めた。  彼は山奥の祖父のもとへ走る青子を引き止めようとする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

私立三咲高等学校(日常・学校関係者)

静希草十郎

静希草十郎はインフラ未整備の山奥から転入した。彼は現代文明の常識をほとんど知らない。彼は物欲を持たない穏やかな性格だ。彼は複数のアルバイトを掛け持ちしている。彼は自力で学費と生活費を稼ぐ。彼は有珠の結界をすり抜けて青子の魔術を目撃した。彼はそのために命を狙われる対象となる。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・二年C組生徒。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は学校の会議室で一時間以上静かに待ち続けた。  彼は青子に命を狙われながらミラーハウスを逃げ回る。  彼は急襲してきた自動人形に対して青子と共闘した。  彼は消火器を武器にして人形の腕をはたき落とす。  彼は崩落する建物から青子を救い出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は都会のルールを少しずつ学習している。  彼はその素朴さからクラスメイトたちに善良な人物として受け入れられた。  彼は学校の校則に基づき水泳部へ体験入部する。  彼は泳げないため入部を断られた。

山城和樹

山城和樹は三咲高校の教諭を務める。彼はこの高校の卒業生だ。彼は他の教師より生徒に慕われている。彼は穏やかで話題が豊富な人物だ。彼は青子に対して全幅の信頼を置いている。彼は草十郎の扱いに困っていた。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・教諭。生徒会顧問。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は休日に青子を呼び出して草十郎の案内を依頼した。  彼は二人の対面を見届けてから職員室へ退散する。  彼は草十郎の掛け持ちアルバイトを問題視した。  彼は青子の抗議を受けて教会の奉仕活動を草十郎に提案する。  彼は土曜日の帰りの会を欠席した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は青子と草十郎を接触させる最初のきっかけを作った。  彼は彼女から「昼行灯」と評されている。

里中

里中は三咲高校の教諭だ。彼は休日の学校にいたはずの人物だ。彼は山城から草十郎の話し相手になるよう頼まれていた。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・教諭。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は会議室で草十郎の話し相手にならなかった。  彼は山城が来た時にその場に不在だった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

槻司鳶丸

槻司鳶丸は三咲高校の生徒会副会長だ。彼は理事長の息子でもある。彼は整った美形でありながら荒々しい目つきを持つ。彼は青子の表の顔の奥にある本性を見抜いている。彼は草十郎の学校生活への適応を支援する。彼は草十郎の良き話し相手だ。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・生徒会副会長。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は昼休みに草十郎を生徒会室へ連れて行った。  彼は草十郎とおにぎりやブロック菓子を交換して食べる。  彼は草十郎に青子の過去の事件について語った。  彼は青子に頼まれて全校生徒の行動記録を調査する。  彼は目撃者に関する詳細なデータを青子に渡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は草十郎にとって数少ない信頼できる友人となった。  彼は青子から「友達思い」と評されている。

木乃美芳助

木乃美芳助は草十郎のクラスメイトだ。彼は草十郎と同じ中華飯店で働いている。彼は口が悪くて根性がないと評される。しかし、彼はさっぱりした性格で敵が少ない。彼は都会の不穏な噂に詳しい。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・二年C組生徒。アルバイト店員。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は昼休みに草十郎を缶詰祭りに誘った。  彼は草十郎に通り魔事件や口裂け女の噂を語る。  彼は土曜日にベランダで草十郎たちと週末の予定を話した。  彼は生徒会の冬期特別清掃班への推薦に怯える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は草十郎にとって都会で最初のバイト仲間となった。

有里

有里は草十郎のクラスメイトだ。彼は出席番号について詳しい。彼は青子に対して緊張した様子を見せる。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・二年C組生徒。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は昼休みに出席番号十二番の草十郎の居場所を青子に教えた。  彼は鳶丸が草十郎を連れて行った事実を彼女に伝える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

藤代

藤代は三咲高校の古参教師だ。彼女は古典の授業を担当している。彼女は生徒会長の青子を嫌っている。

・所属組織、地位や役職  私立三咲高等学校・教諭。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女は五時限目の古典の授業を行う。  彼女は遅刻してきた青子の対応をしたと推測される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

合田教会

周瀬唯架

周瀬唯架は合田教会のシスターだ。彼女は常に両目を閉じている。彼女は穏やかな声で酷薄な発言をする。彼女は青子に対して非常に冷淡な態度を取る。彼女は草十郎の素朴さを評価している。

・所属組織、地位や役職  合田教会・シスター。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女は教会の玄関で青子と草十郎を出迎えた。  彼女は青子に対して厳しい嫌味を口にする。  彼女は草十郎に窓拭き奉仕の作業を指示した。  彼女は奉仕活動の後に草十郎へ謝礼を渡す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼女は草十郎の物静かな人柄を気に入った。

律架

律架は合田教会の関係者だ。彼女は青子が非常に嫌っている人物だ。彼女は普段教会に滞在している。

・所属組織、地位や役職  合田教会関係者。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女は青子たちがボランティアに来た日に留守だった。  彼女は劇中での直接の行動が確認されていない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

エイリ

エイリは合田教会の神父だ。彼は美形として街で有名だ。彼は青子と夜間によく話をしている。彼は物好きな性格として知られている。

・所属組織、地位や役職  合田教会・神父。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は裏手の空き地の野犬にパンを与えていた。  彼は劇中での直接の行動が確認されていない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

外敵(人形使い・侵入者陣営)

緑の服の女

緑の服の女はパチンコ店に現れた不審な女性だ。彼女はモデルのような引き締まった体型を持つ。彼女は赤みがかった短い髪にメガネをかけている。彼女はパチンコ台の電気系統にアクセスする。彼女は草十郎に強い悪寒と本能的な拒絶感を抱かせた。

・所属組織、地位や役職  不明(人形使い・外敵陣営)。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女はパチンコ店で異様な連勝を記録した。  彼女はタバコを吸いながらパチンコを打つ。  彼女は自分を見つめる草十郎を鋭く睨んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼女は草十郎に昨夜の公園の殺人者を連想させた。

その他の一般関係者

吉田

吉田は草十郎と同じアパートの住人だ。彼は早起きな人物だ。彼は自動二輪車を所有している。

・所属組織、地位や役職  アパートの隣人。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は陽が昇る前の早朝に出勤した。  彼はバイクのエンジン音を立てて草十郎を目覚めさせる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

恒河

恒河は草十郎の父親の遠縁だ。彼は草十郎を都会まで連れてきた恩人だ。彼は複雑な手続きを代行した。彼は草十郎に厳しい教訓を教える。

・所属組織、地位や役職  草十郎の親戚・恩人。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は草十郎のアパート契約や学校手続きを済ませた。  彼は住民票の手続きなどは草十郎自身で行うよう叱る。  彼は草十郎に文明のあり方について教えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は草十郎の都会進出の最大の支援者となった。

パチンコ店の店長

パチンコ店の店長は人の良さそうな元会社員だ。彼は草十郎の苦学生ぶりに同情して採用した。彼は店内に安心できる雰囲気を求めている。

・所属組織、地位や役職  パチンコ店店長。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は店外の掃除を終えた草十郎を労った。  彼は草十郎に二階の不審な客の確認を依頼する。  彼はゴト師の発見における草十郎の的中率を信頼していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

中華飯店の店長

中華飯店の店長はたくましい人物だ。彼は木乃美芳助の親と顔見知りだ。彼は未成年の草十郎をアルバイトとして雇っている。

・所属組織、地位や役職  中華飯店店長。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は不真面目な木乃美に対して鉄拳を振るう。  彼は厨房で特定の不適切な言葉を口にすることを禁止した。  彼は木乃美の後頭部をフライパンで叩く。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は厳しくも草十郎の労働環境を支えている。

花澤

花澤は教会の近くを通りかかった二十代後半の女性だ。彼女はだらしなさそうな雰囲気を持つが美人だ。彼女はかつて留学生活を経験した。彼女は肉体労働が苦にならない。彼女は鋭く見る者を威圧する表情を見せる。

・所属組織、地位や役職  通りすがりの女性。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女はハシゴの上の草十郎を見上げて話しかけた。  彼女は草十郎の窓拭き作業を自主的に手伝う。  彼女は草十郎に教会や久遠寺邸の不穏な噂を語った。  彼女は三時前に急用を思い出して走り去る。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼女は草十郎に親戚のような親近感を抱かせた。

土桔由里彦

土桔由里彦は土桔製パン株式会社の経営者だ。彼はキッツィーランドの建設時において五十六歳だった。彼は強い使命感を抱いていた。

・所属組織、地位や役職  土桔製パン株式会社・経営者。キッツィーランド創設者。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は所有地を開放してキッツィーランドの建設に着手した。  彼は遊園地の完成に三年の月日を費やす。  彼は一九八六年に経営不振と高齢を理由に引退した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は三咲市最大の不良債権と呼ばれる遊園地を遺した。

トッキー・ユーリッヒ

トッキー・ユーリッヒはパリ在信を自称するアーティストだ。彼はマスコットキャラクターのデザインを担当した。

・所属組織、地位や役職  アーティスト。

・物語内での具体的な行動や成果  彼はパチモン臭い「キッツィーちゃん」をデザインした。  彼は遊園地の閉園に伴い自身の筆を折る。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  特になし。

使い魔・集団

ロビン

ロビンは久遠寺邸の見張り役の使い魔だ。彼は駒鳥の姿をしている。彼は普段有珠の近くに滞在する。

・所属組織、地位や役職  有珠の使い魔。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は青子の書斎の机の上で毛繕いをした。  彼は青子の失敗を嘲笑うように飛び去る。  彼は公園の目撃者である草十郎の後を辿ろうとした。  彼は草十郎から魔力の気配を感知できず追跡に失敗する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は有珠から信頼される見張り役としての役割を持つ。

口裂け男の使い魔

口裂け男の使い魔は外敵が送り込んだ不気味な存在だ。彼らは貌がなく、口元だけが裂けた姿をしている。彼らは意思を持たない墓守のような存在だ。彼らは人間の心臓を停止させる魔眼を持つ。

・所属組織、地位や役職  外敵の人形使いの使い魔。

・物語内での具体的な行動や成果  彼らは三咲町の管理領域へ侵入した。  彼らは森の中で有珠に遭遇し迎撃される。  一方は子豚の怪異に噛みつかれて手足を拘束された。  一方は自らの両腕を破壊して少女へ襲いかかる。  彼らは最終的にテムズ・トロル等に粉砕された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼らは三咲町の領土を巡る領域争いの先兵となった。

トゥイードル・ダムとトゥイードル・ディー

トゥイードル・ダムとトゥイードル・ディーはマザー・グースの童話を具現化した存在だ。彼らは一メートルほどの丸いぬいぐるみの姿をしている。彼らはお喋りで騒がしい性格を持つ。彼らは文房具の化け物としての性質を秘めている。

・所属組織、地位や役職  有珠の使い魔(プロイキッシャー)。

・物語内での具体的な行動や成果  彼らは森の中で口裂け男の使い魔の前に現れた。  彼らは木々の合間を踊るようにすり抜ける。  彼らは口裂け男の鋭い刃物で真っ二つに両断された。  彼らは瞬時に巨大なワニの口に変身して敵の腕に噛みつく。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼らは戦闘後に有珠の手のひらで赤い賽子二つに戻った。

テムズ・トロル

テムズ・トロルは巨大な泥の怪物だ。彼は川や地中から現れる。彼は強大な物理的破壊力を誇る。

・所属組織、地位や役職  有珠の使い魔(プロイキッシャー)。

・物語内での具体的な行動や成果  彼は森の地中から無数の蔓を伸ばした。  彼は逃走する口裂け男の使い魔の前に立ちふさがる。  彼は巨大な腕のような姿で敵を捉えた。  彼は敵を跡形もなく押し潰して完全に抹殺する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼は有珠から「高価な使い魔」とみなされている。

自動人形

自動人形は不気味な女性型の精巧な人形だ。彼女は一糸まとわぬ球体関節の姿をしている。彼女は自らを呪うことで動く永久機関を内蔵する。彼女は腕を十メートル以上も伸縮させることができる。彼女は対象の魔術回路をマヒさせる能力を持つ。

・所属組織、地位や役職  外敵の人形使いの超一級品アンティーク。

・物語内での具体的な行動や成果  彼女はミラーハウスで青子と草十郎を強襲した。  彼女は背後からの奇襲で青子の魔術回路を混乱させる。  彼女は六足の蜘蛛型に変形して青子を追跡した。  彼女は青子の強力な蹴りを受けて大破する。  彼女は崩壊する建物の中で最後まで青子を道連れにしようとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼女はミラーハウスの戦闘で完全にスクラップとなった。

シックス・スウィング・チョコレート

シックス・スウィング・チョコレートは一口サイズの高級洋菓子だ。それらは有珠の命令一つで鳥に変身する。それらは町を広域監視するための使い魔だ。それらは椋鳥の姿をしており夜目がきかない。

・所属組織、地位や役職  有珠の監視用使い魔。

・物語内での具体的な行動や成果  それらは有珠の宝箱を巣にして飛び立つ。  それらは町の情報を見張り有珠に伝えた。  それらは夜間飛行中に電柱に激突して死んでしまう。  それらは劇中において六個減少していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  それらは質より量の広域監視用システムとして機能する。

展開まとめ

1/普通じゃないひと

灰色の冬の記憶

八年前の冬、幼い少女は父の車のエンジンをかけたことで、暖を取っていた母猫と二匹の子猫を機械に巻き込んでしまった。瀕死の子猫を救おうと祖父のもとへ運び、魔法使いである祖父に運命を変えてほしいと願った。しかし、少女の記憶には空白だけが残り、気づいた時には冷えきった子猫の亡骸を抱えていた。その日、彼女には説明できない存在との出会いだけが残った。

創立記念日の呼び出し

徹夜明けの蒼崎青子は創立記念日の朝を眠って過ごそうとしていたが、学校からの電話で起こされた。山城教師に呼び出された青子は、電気も通わない山奥から転入してきた静希草十郎の校内案内を頼まれた。草十郎は学校そのものをほとんど知らず、都会の常識にも疎かったため、教師たちは扱いに困っていた。

青子と草十郎の初対面

会議室で待っていた草十郎は、二時間近く放置されても不満を見せず、雨音を聞きながら静かに待っていた。そこへ現れた青子を見た瞬間、草十郎は運命めいたものを感じた。一方の青子は、自然に周囲へ溶け込む草十郎に理由のない反感を覚えた。

青子は草十郎を睨みつけながら案内を始めたが、草十郎は嫌味や敵意を理解できず、青子の苛立ちは空回りした。草十郎は学校の仕組みや教室の用途を一つずつ尋ね、青子は彼が単なる鈍感ではなく、文明そのものへの経験が欠けているのだと理解した。

草十郎のアルバイト

案内に三時間近くかかった頃、草十郎は午後一時からアルバイトがあると明かした。生活費と学費を自分で稼ぐため複数の仕事を掛け持ちしていたが、学校から許可を得られた職場は一件だけだった。青子はその事情には理解を示し、案内を切り上げた。

しかし草十郎は急ぐあまり二階の窓から外へ出ようとし、青子に止められた。都会では窓から出入りしないと教えられた草十郎は素直に従い、階段から走り去った。青子は呆れながらも、妙に草十郎のことが気に掛かった。

久遠寺邸への帰宅

青子は雨の三咲町を歩き、丘の上にある久遠寺邸へ帰った。久遠寺邸は町で幽霊屋敷と噂される古い洋館であり、青子は同い年の久遠寺有珠と暮らしていた。

青子は書斎で、自分が徹夜で調整した術具が壊れていることを確認した。その後、居間で眠り込み、帰宅した有珠に起こされた。青子は草十郎について、常識が通じず、説明しなければ何も疑問に思わない妙な転入生だったと愚痴をこぼした。

魔術師としての決意

青子は学校に呼び出されたことで予定していた作業を失敗したと有珠に話した。有珠はそれを責めず、学校生活と魔術師としての生き方のどちらを優先するのか決める必要があると暗に迫った。青子は自分の半端さを認め、来週中に決着をつけると決意した。

その後、有珠は帰宅途中に人間ほどの大きさの猫が出前をしているのを見たと話した。青子は奇妙な話として受け流したが、有珠はその猫から余った料理をもらい、すでに夕食を済ませていた。

2/昨日、こんな事があった。

転入後の草十郎

草十郎が三咲高校へ転入して十日が過ぎた。授業についていくため必死に暗記を続けていたが、この日は昨夜の出来事が頭から離れず、集中できなかった。

昼休みになると、草十郎は木乃美芳助をはじめとするクラスメイトに食事へ誘われた。草十郎は学校生活に少しずつ馴染み、周囲からも変わっているが善良な人物として受け入れられていた。

槻司鳶丸との昼食

生徒会副会長の槻司鳶丸が草十郎を生徒会室へ連れていった。鳶丸は理事長の息子であり、青子から草十郎の面倒を見るよう命じられていた。二人は昼食を交換しながら話し、草十郎は青子と鳶丸が自分を気遣ってくれていると素直に感謝した。

鳶丸は青子が草十郎をほとんど放置していると反論し、青子が過去に告白してきた生徒を徹底的に撃退した事件や、自分が青子と衝突した経緯を語った。草十郎はそれでも青子への好意を変えず、彼女が自分を見守ってくれていることに助けられていると話した。

青子への好意

鳶丸は草十郎が青子に惚れていると解釈した。草十郎自身は、青子を一目見て綺麗だと思い、彼女の心配が本物だから好意を持っているだけで、恋人になりたいという願望までは持っていなかった。

しかし鳶丸はその違いを理解せず、青子の好き嫌いの基準は普通ではないと忠告した。草十郎はその話を参考にすると答えた後、昨夜目撃した出来事について相談を始めた。

青子と鳶丸のすれ違い

昼休みの終わり頃、青子は草十郎を探して二年C組を訪れた。草十郎が鳶丸と生徒会室にいると知り、そちらへ向かった。

青子は草十郎に部活動へ入るよう告げた。草十郎は忙しくて時間がないと訴えたが、校則で全生徒の所属が義務づけられていたため、受け入れた。その後、青子と鳶丸は草十郎について話し、鳶丸は勢いで草十郎が青子に惚れていると明かした。

青子は草十郎の好意そのものには関心を示さなかった。しかし、草十郎が理由もなく青子を好み、青子の心配に助けられていると話していたことを聞くと強い反発を覚えた。草十郎が、かつて青子の心を乱した人物と似ていることに気づいたからだった。

昨夜の目撃談

草十郎は鳶丸に、昨夜の公園で人間離れした二人が戦い、一方が炎を操り、もう一方が異様に伸びる武器を使っていたと話した。鳶丸は幻覚だと考えたが、草十郎は都会ではそうした存在もあり得るのではないかと真剣に考えていた。

鳶丸から都会にそんな魔法使いはいないと言われ、草十郎はいったん疲労による幻覚として受け入れた。しかし本人は、目撃した出来事が現実だったと理解していた。

パチンコ店の女性

放課後、草十郎は秘密にしているアルバイト先のパチンコ店へ向かった。店長から不正客らしき女性を確認するよう頼まれ、二階へ行くと、眼鏡をかけた美しい女性を見つけた。

その女性を見た瞬間、草十郎は昨夜見た人物ではないかと直感した。恐怖に駆られて店を早退し、駅まで逃げたものの、落ち着くにつれて顔を確認したわけではないと気づいた。それでも昨夜の出来事と、目撃者を捕まえて始末するという言葉が頭から離れなかった。

2.5/それまでの話

都会での生活

三咲町へ来て二週間ほどの草十郎は、電気、水道、貨幣制度など山にはなかった仕組みに感心しながら生活していた。中華飯店で働き、木乃美から夜道では通り魔に気をつけるよう忠告されたが、都会の常識を知らない草十郎は、その話も一つの生活規則として受け入れた。

草十郎は多くのアルバイトを掛け持ちし、学費と生活費を稼いでいた。体力には余裕があったが、都会の複雑な規則や未知の出来事に精神的な負担を感じ始めていた。

青子と教会のボランティア

学校では草十郎が複数のアルバイトをしていることが問題となった。青子は、生活費と学費を自力で稼ぐ草十郎に一件しか仕事を認めない校則の方がおかしいと山城教師に抗議した。

青子は教会の奉仕活動を学校公認の仕事として利用し、アルバイト許可を増やす前例を作ろうと提案した。山城はその案を受け入れ、草十郎と青子を教会のボランティアへ参加させた。

合田教会での奉仕

日曜日、草十郎と青子は合田教会へ向かった。青子は幼い頃から教会と縁があったが、周瀬唯架とは険悪なやり取りを交わした。

草十郎は教会外壁の窓拭きを任され、偶然通りかかった花澤と名乗る女性に手伝われた。花澤は草十郎の生活事情を推測し、教会や久遠寺邸のある丘について説明した。草十郎は久遠寺邸の森に興味を持ったが、私有地で危険だと聞き、それ以上近づかないと考えた。

草十郎への気遣い

奉仕活動の帰り、青子は草十郎の仕事ぶりを評価しつつ、勉強も怠らないよう注意した。また、草十郎が遊園地キッツィーランドで解体作業までしていると知って驚いた。

草十郎は廃園したことを知らず、青子からすでに閉鎖されていると教えられた。青子は草十郎の世間知らずぶりに呆れながらも、そのやり取りを以前ほど不快には感じなくなっていた。

有珠の監視と森の異変

久遠寺邸では、有珠が三咲市に不審な魔術師たちが入り込んでいると報告した。青子は魔術師として覚悟を決め、有珠と役割を分担することになった。

夜、有珠は郊外の森へ向かった。そこには人間とは異なる二体の口裂け男が潜んでいた。有珠は童話の怪物を思わせる使い魔を呼び出し、二体を圧倒した。

一体は子豚姿の怪異に拘束され、巨大な木の巨人テムズトロルによって倒された。逃走したもう一体も森の外へ出る前に同じ怪異に捕らえられた。有珠は外敵を排除すると、何者だったのかには関心を示さず帰宅した。

3/その夜

青子の初陣

月のない深夜、青子と有珠は公園で敵を待ち構えていた。この夜は、青子が正式に魔術師として戦う最初の日だった。

有珠から結界の感覚を受け取った青子は、侵入してきた人影を察知した。敵の攻撃を避け、あらかじめ公園に仕込んだ術式へ魔力を送り込み、人影を炎に包んだ。

青子は人を殺したと思い、動揺を押し殺して死体を確認した。しかし焼け残ったものは人間ではなく、人形だった。青子は再び敵に囮を使われたことを悟った。

逃走した目撃者

戦闘直後、青子は滑り台の陰に三咲高校の制服を着た人物がいることに気づいた。声をかけると相手は全力で逃げ出した。

有珠の結界の中に侵入していたにもかかわらず、二人とも存在を察知できていなかった。顔までは確認できなかったが、青子は目撃者が男子生徒だと判断した。

魔術師としての秘密を見られた以上、青子は噂を広められる前に目撃者を特定し、口を封じる必要があると決断した。

4/蒼崎青子、その二

蒼崎家の後継者

青子は自分を魔法使いだと認識していた。中学卒業の日、姉が姿を消したため、祖父から突然蒼崎家の後継者に指名され、それまで無関係だと思っていた魔術の世界へ入った。

それから一年半以上、青子は有珠と暮らしながら魔術を学んでいた。普通の高校生活も続けていたが、魔術師としての秘密は絶対に守るべきものだった。

目撃者の捜索

公園での一件の翌日、青子と有珠は目撃者を探した。有珠の使い魔では夜間の追跡ができず、青子は生徒会長として集めた全校生徒の行動記録を使い、鳶丸に該当者を調べさせた。

有珠は結界そのものに失敗はなかったと断言した。目撃者にも魔力の痕跡はなく、魔術師ではない一般人だと分かった。つまり青子たちは、偶然結界を抜けた一般人に魔術を見られたことになる。

一般人を殺す覚悟

有珠は青子に、目撃者を処分する覚悟を決めるよう迫った。敵対する魔術師を殺すこととは違い、今回は無関係な一般人を秘密保持のために殺す必要がある。

青子は迷いながらも、自分が引き受けると決めた。有珠から、相手の名前を呼ばせることで封じ込める小瓶も渡されたが、条件が厳しく実用性は低かった。

草十郎への反感

夕食中、青子は草十郎への苛立ちを有珠に話した。しかし有珠から具体的に何が嫌いなのか問われると、青子は理由を説明できなかった。

草十郎は常識こそ欠けているものの、本人に悪意はなく、環境へ適応しようと努力していた。公平に評価すれば善良な人物であり、青子自身もそれを認めざるを得なかった。それでも理由のない反感だけは消えず、自分でもその感情を理解できなかった。

正面からの決着

青子は目撃者を騙し討ちにすることを嫌い、正面から理由を告げて殺すと決めた。逃げ場をなくす場所として廃遊園地のミラーハウスを思いつき、そこで決着をつける準備を進めた。

一方、有珠は青子が一人で始末すると決めた以上任せるべきだと考えながらも、青子を完全には信用していなかった。

目撃者の正体

翌日、鳶丸の調査では、公園付近にいた生徒は見つからなかった。ただし、転入したばかりの草十郎だけは青子の記録に入っていなかった。

さらに鳶丸は、草十郎が人殺しを見たと話していたことを何気なく口にした。青子は目撃者が草十郎ではないかと直感した。

放課後、有珠は三咲高校の校門で生徒たちの気配を確かめていた。そこへ草十郎が現れ、有珠は彼こそ公園にいた目撃者だと確認した。

草十郎との選択問答

草十郎は水泳部への紹介について青子に礼を言った。しかし泳げないため入部を断られ、部長から個人的に泳ぎを教わることになったと話し、青子を呆れさせた。

別れ際、青子は草十郎に、空腹の自分の前にライオンと子猫がいた場合、どちらを撃つかと尋ねた。草十郎はどちらも撃たないと即答し、全員が空腹なら自分だけが選ぶ理由はないと答えた。

その答えによって青子の迷いはさらに深まった。しかし有珠から草十郎が目撃者だと告げられ、青子はその日の夜、キッツィーランドで草十郎を殺すと決めた。

5/魔法使いの夜 前編

キッツィーランドへの呼び出し

午後十時過ぎ、草十郎は自宅に戻ると、青子からの手紙を見つけた。深夜に廃遊園地キッツィーランドへ来るよう書かれており、草十郎は疑うことなく出発した。草十郎が去ると手紙はひとりでに燃え尽きた。

キッツィーランドはかつて地域振興のため建設された遊園地だったが、奇抜な設備と経営不振によって数年前に閉園していた。草十郎は地図に従い、巨大なミラーハウスへ向かった。

青子の宣告

草十郎は入り口付近に隠れていた青子を見つけた。青子は草十郎が中へ入った後で逃げ道を塞ぐ予定だったが、先に発見されてしまった。

青子は、自分の感情を乱す相手を敵とみなすと告げ、草十郎へ魔弾を放った。草十郎は二日前の公園で見た魔術師が青子だったと理解した。

青子は魔術の秘密を見られた以上、草十郎には死んでもらうと宣言した。草十郎は人殺しはいけないと訴えたが、青子はそれを承知した上で攻撃を続けた。

鏡の迷路の追跡

草十郎はミラーハウスへ逃げ込み、青子は一定の距離を保ちながら魔弾で追い立てた。鏡張りの迷路に不慣れな草十郎は何度も壁へ衝突し、傷を負いながら走り続けた。

やがて草十郎は精神的な疲労から逃げる意味を見失い、倒れた。青子に殺されるならそれでもいいと諦めかけたが、青子が自分を人でなしと評したことには反応し、人殺しはよくないと改めて告げた。

自動人形の襲撃

青子が草十郎を殺そうとした瞬間、背後から女性型の自動人形が現れた。人形の腕は十メートル以上伸び、青子を背後から攻撃した。

草十郎は青子を助け起こした。青子は人形へ反撃しようとしたが、最初の攻撃によって魔術回路を乱され、術式を正常に使えなくなっていた。

人形は腕だけでなく呪詛も使い、草十郎にも攻撃を向けた。青子は草十郎を守りながら逃走し、二人は一時的に追われる側となった。

草十郎との共闘

青子は草十郎だけを逃がそうとしたが、草十郎は出口を人形に封じられていたため戻ってきた。さらに人形は草十郎も殺すつもりだと判断し、青子へ共闘を提案した。

草十郎は、自分に何ができるかは青子が考えればいいと任せた。青子はその全面的な信頼を受け入れ、人形を倒すまで協力することにした。

ミラーハウス崩壊作戦

青子はもともと草十郎を逃がさないため、ミラーハウスの地下支柱に爆破用の魔術式を仕込んでいた。これを利用し、建物そのものを崩壊させて人形を倒す作戦を立てた。

草十郎には二階で人形を引きつけてもらい、その間に青子が地下へ向かう予定だった。しかし人形は六足の蜘蛛型へ変形し、草十郎を無視して青子を追ったため、囮作戦はすぐに失敗した。

青子はそれでも地下へ向かい、中央の支柱へ魔力を叩き込んで仕掛けを起動した。連鎖的に柱が破壊され、巨大なミラーハウスは倒壊を始めた。

青子と人形の決着

地下で人形に追いつかれた青子は、魔術を十分に使えないまま接近戦を選んだ。人形は心臓を止める呪いと伸縮する腕を使ったが、青子は攻撃をかわし、魔力を込めた蹴りで人形を天井まで吹き飛ばした。

人形は内部機構を損傷し、ほぼ停止した。青子は崩壊するミラーハウスから脱出しようと走ったが、人形は最後まで追いすがり、背後から腕を伸ばした。

その攻撃を、消火器を持って戻ってきた草十郎が叩き落とした。草十郎は囮役には失敗していたが、一人で逃げず、青子を待つため迷路に残っていた。

二人は崩壊寸前の通路を走り抜け、間一髪でミラーハウスから脱出した。

一夜限りの見逃し

芝生に倒れ込んだ二人は、生き延びたことを確認した。草十郎は自分が役に立てなかった以上、青子との取引は成立していないと考えていた。

しかし青子は、草十郎が最後に自分を助けたことを認め、今夜だけは殺さないと告げた。二人の間には、死線を共に越えたことで一時的な穏やかさが生まれた。

久遠寺有珠の登場

その直後、有珠が現れた。青子が独断で草十郎を見逃したことを指摘し、目撃者を逃がすつもりはないと示した。

青子は有珠の名を震える声で呼んだ。鏡の城での戦いは終わったが、草十郎を巡る夜はまだ終わっていなかった。

その他フィクション

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