物語の概要
ライトノベル作品であり、異世界ファンタジーのジャンルに属する。
前巻にて“家庭教師”アレンの生死が不明となり、王国全土で陰謀と戦端の危機が拡大していく中、リディヤは教え子を支える者として己の剣を抜いて南方戦役に赴く。侯国との開戦が迫る中で、王都や辺境の情勢が大きく動き出す世界観を描き出す。
主要キャラクター
- アレン:主人公であり“規格外家庭教師”たる狼族。教え子を守るため戦地に赴き、生死不明となる。
- リディヤ:魔法の使えない公女殿下。アレンの教え子の一人であり、彼の不在に奮い立ち、自ら剣を握る決意を見せる。
物語の特徴
本作はシリーズ既刊中盤に位置する巻であり、各教え子の視点が交錯する群像劇的構成が魅力である。特に、“家庭教師”であるアレンの存在が欠落したことで、個々のキャラクターが内面と信念を試される展開が強調される。また、侯国との開戦、陰謀の深まりといった戦記的要素が加わり、単なる学園ファンタジーに留まらないスケール感が生じている。
書籍情報
公女殿下の家庭教師 6 慟哭の剣姫と南方戦役
著者:七野りく 氏
イラスト:cura 氏
レーベル:富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)
発売日:2020年07月17日
ISBN:9784040735849
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あらすじ・内容
あいつが隣にいない世界なんて、私はいらない
アレン、生死不明。凶報を受けた彼の教え子たちは、それぞれ王国を巡る陰謀が動いていることに気づく。リディヤがいる南都でも、侯国との開戦が近づき――。アレンの隣に立つため、リディヤは自ら剣を握る!
感想
今巻は、アレンの生死不明という衝撃的な展開から幕を開ける。
彼の不在が、物語全体に重苦しい影を落としている。
特に、アレンを慕うリディヤの悲痛な叫びは、読んでいるこちらの胸も締め付けられるほどだ。
「あいつが隣にいない世界なんて、私はいらない」という言葉が、彼女のアレンへの深い愛情を物語っている。
アレンは、取り残された住民を救うために決死の殿を務める。
共に戦っていたリチャードが大樹へと撤退する知らせを、アレンから託されたリボンと共に聞いたリディヤの心情を思うと、言葉を失ってしまう。
彼女は、その悲しみを乗り越え、自らの決意を示すように髪を切る。
そして、炎羽を纏いながら、王都と東都への進撃を宣言する姿は、まさに「慟哭の剣姫」と呼ぶにふさわしい。
アレンの生死に自身の命を重ねるほどの強い覚悟は、彼女の愛の深さを改めて感じさせる。しかし、その覚悟の裏には、心の均衡を失った危うさも感じられる。
白が紅蓮に、そして黒に染まっていくような、彼女の心の変化が、世界の全てを燃え落としてしまうのではないかという不安を覚える。
アレンの生死不明という状況下で、各公爵家がそれぞれの思惑で動き出す。
リディヤの心が闇に堕ちていく中で、動乱は激しさを増し、公爵家の面々も無関係ではいられないと、それぞれが参戦していく。
アレンが仲間と分断され、リディヤが教え子たちの慟哭に心を痛める姿は、痛ましさと重さを増していく。
侵攻される東部を救うため、自ら身体を張って奮闘するアレンの苦境も描かれる。
時を同じくして王都が陥落し、王族が行方不明となる。
北部ではハワード家が帝国と対峙し、南部ではリンスター家が侯国の圧力を受けるという、まさに絶体絶命の状況だ。
そんな中、リンスター家とハワード家は、アレンの奮闘を知り、ついに宣戦布告を決意する。
アレンのために皆が動き出す展開は、胸を熱くさせる。勇者アリスが登場し、色々と助言を残していくが、どこか敵として登場しそうな雰囲気も漂わせているのが気になる。
アレンが死地に臨むシーンは、胸に迫るものがある。リディヤの内に秘めた心情の吐露も、心に深く響く。
しかし、リディヤが完全に危うい状態になっていることが気がかりだ。アレンも生きているものの、囚われの身となっている。
まだ終わりが見えない動乱の中、囚われたアレンを何が待っているのか。
リディヤは、この状況をどう乗り越えていくのか。そして、アレンとの再会はいつ訪れるのか。次巻の展開が、今から待ち遠しい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
アレン
冷静かつ柔軟な戦術指揮能力を持つ青年。複数の種族を率い、戦場の最前線で殿を務めるほどの覚悟を有している。仲間や教え子との信頼関係が深く、彼の行動は他者に希望と影響を与えている。
・所属組織、地位や役職
アレン商会、リンスター公爵家家庭教師、近衛騎士団指揮官的立場(非公式)
・物語内での具体的な行動や成果
獣人族新市街の包囲戦において指揮を執り、数千の敵軍を相手に近衛騎士団を率いて突破。殿を務め、住民と部下の避難を成功させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
消息不明となり、死を覚悟した最後の戦いは多くの者に衝撃を与え、彼の言葉と遺志はリンスター家や教え子に深く刻まれた。
リディヤ・リンスター
かつて「忌み子」と呼ばれた紅髪の女性。アレンの安否不明を契機に覚醒し、母リサの意志と剣技を受け継いで戦場に復帰した。戦局を一変させる圧倒的な実力を示し、精神面でも急速な成長を遂げている。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家長女、南方戦線先遣部隊隊長
・物語内での具体的な行動や成果
敵総司令部を単騎強襲し、異端審問官ラコムおよびロログを撃破。拘束結界「八神絶陣」から脱出し、魔導兵および巨大魔導兵との交戦に勝利。禁忌魔法「炎魔殲剣」により敵軍数万を無力化。戦術禁忌の行使により包囲された戦場を制圧し、捕虜多数を獲得した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アレンの死を受け入れられぬまま髪を切り、母の黒戦装束を着用して戦場復帰。死者ゼロでの大勝により、「剣姫」の名を実質的に継承。戦略的勝利と倫理的抑制を両立したことにより、南方連合内での象徴的存在となった。
リサ・リンスター
かつて「剣姫」と呼ばれた元戦士。娘リディヤと共に先陣を務める。冷静な戦略眼を持ち、情報戦でも卓越した手腕を見せる。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家公爵夫人、南方連合軍総司令官
・物語内での具体的な行動や成果
兵力差に劣る中で敵軍を分断し、空中兵力や通信暗号の優位性を活かして開戦初日での戦線突破を成功させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦列への復帰により、軍全体の士気を高めた。母としての決意と戦士としての覚悟を兼ね備えている。
ワルター・ハワード
王国北部の守護者として知られるハワード公爵。帝国大使との外交交渉で強い意志を見せ、戦わずして譲歩することを拒否した。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家当主、北方防衛の主導者
・物語内での具体的な行動や成果
帝国の圧力に屈せず領土要求を一蹴。南方と連携しつつ、北方の戦時体制を整備した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
勇者アリスとの関係や、娘ステラへの信頼により、家族の絆と政治的判断を両立させる指導者としての重みを増した。
フェリシア・フォス
体が弱く繊細な少女だが、王都からの脱出と報告任務を果たした意志の強さを持つ。アレンに対する感情を自覚し、自らの立場でできる支援を誓っている。
・所属組織、地位や役職
アレン商会・番頭代理、リンスター家支援任務従事
・物語内での具体的な行動や成果
王都脱出後、叛徒軍の兵站分析をまとめた報告書を提出。南方諸侯の会議における戦略判断の基礎を築いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アレンの死報に涙しながらも決意を固め、後方支援の要としての役割を担う覚悟を示した。
サリー・ウォーカー
東都のメイド長の孫にして、ハワード家に仕えるメイド。卓越した身体能力と戦闘力を有し、アレンの教えに深い恩義を感じている。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家所属メイド、アレン商会協力戦力
・物語内での具体的な行動や成果
王都脱出時にエマと共に殿を務め、軽騎士隊を圧倒。フェリシア護衛任務を成功させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
祖父“深淵”グラハム・ウォーカーの名により畏怖されるが、自身の実力でも戦場にて名を知られるようになる。
エマ
リンスター家メイド隊第四席。冷静な判断力と高い戦闘能力を持ち、フェリシア護衛任務の中心人物として活躍する。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家・メイド隊第四席
・物語内での具体的な行動や成果
王都脱出作戦を指揮し、追手を迎撃。不可視の黒糸を用いて敵騎士を一斉に落馬させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
殿を務める覚悟を示し、サリーとの連携により戦術的勝利を収めたことで、戦場での存在感を高めた。
ステラ・ハワード
ハワード公爵家の娘であり、王立学校に在籍する才女。帝国大使との会談に臨むなど、外交の場にも立つ責任ある立場を担う。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家令嬢、王立学校学生
・物語内での具体的な行動や成果
帝国大使との交渉に参加し、父と共に王国の立場を表明。妹ティナやエリーへの信頼を言葉にし、士気を保った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アレン不在の中でも冷静に振る舞い、家族を支える精神的支柱として描かれている。
ティナ
アレンの教え子であり、極致魔法「氷雪狼」を習得した才能ある少女。姉ステラと共に成長を重ねている。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家次女、王立学校学生
・物語内での具体的な行動や成果
魔法訓練中に暴走しかけたが、ステラにより収束。勇者アリスから強い魔法的素質と呪いの存在を指摘される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アレンへの思慕を公言する場面が描かれ、彼女の将来や戦場参加が懸念される重要人物となっている。
エリー
ティナの専属メイドであり、魔法修練にも積極的に取り組む努力家。光属性魔法を発現し、アレンの教えを忠実に実行している。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家所属メイド、ティナ付き専属侍女
・物語内での具体的な行動や成果
訓練中に暴走しかけた魔力の制御に苦戦しつつも、ステラと共に克服。ティナと共にアレンの教えを反復し、魔法修得に努めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
光属性の発現により、才能を認められ、今後の成長が期待される存在として描かれている。
勇者アリス・アルヴァーン
白金髪の少女で、勇者として帝国から派遣された存在。アレンへの個人的な感情を抱えており、王国側にも深い影響を与える。
・所属組織、地位や役職
ユースティン帝国勇者、特命任務従事者
・物語内での具体的な行動や成果
帝国大使の脅迫を一蹴し、ティナの魔力状態を確認。ティナにかけられた呪いの存在を見抜き、戦場への参加を否定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アレンに対する強い想いを吐露し、ティナが“手を離すことができない”相手であることを警告。帝国との立場を超えた行動を取っている。
リィネ・リンスター
リンスター家の次女であり、姉や母を尊敬しつつも、自らの未熟さを自覚する少女。報告と連絡、会議対応などを担い、実務的な動きが多い。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家令嬢、南方戦役連絡調整役
・物語内での具体的な行動や成果
フェリシアの報告を各家に共有し、戦況の分析と判断材料の提供を行った。姉リディヤの動向を見守りつつ、会議対応を任される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
姉の失踪時には捜索を指揮し、後には戦場にも同行。家族を支える存在として成長の兆しを見せている。
リリー
リンスター家メイド隊第三席で、明朗快活な性格。空気を和ませる陽気さを持つ一方、戦局の分析にも優れている。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家メイド隊第三席、副メイド長補佐
・物語内での具体的な行動や成果
南都到着時、フェリシアの無事を伝達。情勢分析において王族の動向やアレンの存在を根拠に提言を行った。リディヤの戦場行きにも同行。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦闘・連絡・分析のいずれにも対応できる有能な存在として、メイド隊の中でも高い信頼を得ている。
展開まとめ
プロローグ
メイド隊による王都脱出作戦
王都にて守旧派貴族による叛乱が勃発し、リンスター公爵家とハワード公爵家が合同で運営するアレン商会も襲撃を受けた。リンスター公爵家メイド隊第四席のエマ率いる一隊はこれを撃退し、番頭フェリシア・フォスを守護して南方へ向け脱出中であった。フェリシアは体が弱いため、エマが彼女を背負いながら一同は丘を登っていた。
アレンから事前に演習中部隊の調査を命じられていたことが功を奏し、事態の悪化に迅速に対応することができた。一行は小休止を取り、メイド達が交代でフェリシアの世話を焼くが、本人は過剰な世話に恥じらいを見せていた。エマはそんな姿に感動し、士気を高めていた。
追撃の報告と決意
メイド隊第八席のコーデリアから、リンスター家の本邸にいた仲間たちの無事が確認された直後、王宮から立ち上る黒煙が目撃され、叛徒の激しい攻勢が推測された。さらに、魔法生物で偵察を行っていたベラが軽騎士約五十の追手を発見する。魔力を酷使していたベラを気遣い、エマは無理をさせず偵察を中止させた。
追手に備え、エマはフェリシアに先行を促し、自らが殿を引き受ける決意を示す。そこへハワード公爵家のメイド・サリーが加勢を申し出る。フェリシアは友人として二人の無事を強く願い、メイド達とともに先行した。
揺るがぬ忠誠と過去の恩義
エマとサリーは残り、追手への対応に備えつつ語らう。サリーはリンスター家やアレンへの深い忠誠心と、フェリシアをはじめとする教え子達への思いを語った。二人はアレンに救われた過去を共有しており、それぞれが彼の教えを守ることを誓っていた。サリーは東都のメイド長である祖母からの指示も受けており、アレンの命令は絶対としていた。
追手との戦闘と圧倒的な力
丘に現れた追手は、ベルジック子爵に率いられた軽騎士隊であった。子爵は投降を勧告するが、エマとサリーはあくまで徹底抗戦の構えを取る。先制攻撃を仕掛けた騎士達に対し、サリーは槍を手で受け止めて砕き、続けて騎士を吹き飛ばして戦闘不能にした。
続いて残りの騎士がエマへ突撃するが、彼女は不可視の黒糸を用いて全員を落馬させた。互いの技量を称え合いながらも、冗談めいた応酬を続ける二人は敵の戦意を完全に喪失させた。
恐れられる名と誇り
エマとサリーが名乗ると、ベルジック子爵とその部下たちは恐怖に顔を引きつらせた。特に、サリーの姓“ウォーカー”は、祖父である“深淵”グラハム・ウォーカーの名声によって強い威圧力を持っていた。サリーはそれに苦笑しつつも、自分自身が恐れられていることに少なからず戸惑いを覚えていた。
再び情報の回収に向けた準備を整える二人は、互いに信頼を寄せながら連携し、迅速に任務を完了させる決意を新たにしていた。
第 1章
王都陥落の報とハワード公爵家の動揺
北都のハワード公爵家に、王都陥落と陛下の安否不明を知らせる急報が届いた。叛乱の首謀者はオルグレン公爵であり、貴族守旧派と結託して王宮を制圧した。ワルター・ハワード公爵は憤慨しながらも情報不足に苦悶し、参謀である大魔法士・教授と執事長グラハムと共に、今後の動向を模索した。ステラ・ハワードは、教授の進言により緊急会議に参加し、状況の重大さを知ることとなった。
王国情勢の可視化とオルグレンの意図
教授は魔法によって地図を展開し、オルグレン公爵が率いた紫備えの部隊により王都が制圧され、交通と通信が遮断されている実情を説明した。これにより、各公爵家との連絡手段は失われ、東都からの返答も途絶していた。ガードナー、クロム両侯爵家は中立を保っており、オルグレンの勢力拡大は一時的に留まっていると推測された。
帝国と叛乱の連携疑惑
ユースティン帝国が北方国境で演習を行っていたことも判明し、叛徒との連携が疑われた。諜報活動の結果、指揮官が皇太子であることが明かされ、帝国の本格的な関与が浮き彫りとなった。教授は侯国連合の動きも含め、王国に対する外敵の脅威として一括して排除する意志を示した。
アレンの警告と過失の自覚
教授はかつてアレンからオルグレン謀反の可能性を警告されていたことを告白し、その忠告を無視したことに強い後悔を示した。ジェラルドの炎の短剣まで預かっていた事実が語られ、アレンの信頼に応えられなかったことへの悔恨が重くのしかかった。これにより、王国中枢の対応の遅れが浮き彫りとなった。
ハワード家の戦時体制移行
ワルター公爵はついに決断し、北方地域に戦時態勢を布告。北方諸家の動員を命じ、敵対行動を取れば敵と見なすと通告した。グラハムは外部活動を志願し、兵站はシェリーに一任されることとなった。教授はさらにティナを後方教育任務に配属するよう提案し、その非凡な才能を活かすべきだと訴えた。
ティナとエリーの魔法訓練
ステラは温室を訪れ、ティナと専属メイドのエリーが魔法の制御訓練をしている場に遭遇した。訓練は制御困難に陥り暴走寸前であったが、ステラの魔法によって事態は収束した。ティナとエリーはアレンからの指導内容に基づき、懸命に修練していた。エリーは新たに光属性を発現させ、その努力が認められた。
アレンの消息と姉妹の信頼
ステラは二人にアレンの安否不明という事実を告げたが、ティナとエリーは取り乱すことなく、アレンを信じていると断言した。その純粋な信頼にステラは救われつつも、自身の不安を抑え込んだ。二人の励ましを受け、ステラもまた前向きに努力する決意を固めた。
眠れぬ夜と祈り
その夜、ステラは眠れずにアレンから送られた課題ノートを読み返した。そこには新たな魔法理論が記されていたが、気持ちは沈んだままであった。アレンの無事を願い、彼からもらった羽と母の形見のリボンを抱きしめながら、静かに祈りを捧げ続けた。月と星は見えず、夜は深まっていった。
帝国皇帝の沈思と決断
ユースティン帝国皇帝ユーリー・ユースティンは、皇宮の内庭で午睡を楽しんでいたが、老大元帥モス・サックスの急報によって目覚めさせられた。モスは、ウェインライト王国の動乱に対して南方方面軍を動かす皇太子ユージンの提案を直ちに止めるよう進言した。しかし、ユーリーは愚息の提案を完全には否定せず、皇太子に経験を積ませる意図を明かした。
ユーリーは、自身の後継者であるユージンの凡庸さと、それに比して分家筋の優秀さを理解していた。ハワード家を敵に回す危険をモスが強調したにもかかわらず、ユーリーは敢えて賭けに出る決意を示し、モスの孫と自らの孫を前線へ送ると語った。最悪の場合、皇帝として親族を排除せねばならない覚悟すら吐露した。
英雄の出発と帝国の内情
ユーリーは、自身がかつて兄を倒して皇帝となった経緯を回想し、時代の変化と共に減じていく古き力の存在を憂いた。また、先日訪れた「勇者」も北都へ向かったことを明かし、その動きが示す事態の重大さを示唆した。老元帥モスは驚愕しつつも忠誠を誓い、ユーリーは改めて戦乱と後継の行方に思いを馳せた。
ステラの決意と妹ティナの失踪
翌朝、ステラは帝国大使との会談に備えて王立学校の制服に身を包み、緊張しながら自室で準備を進めていた。だが、ティナが部屋から姿を消したとの報告を受け、会談よりも妹の捜索を優先することを決断した。専属メイドのエリーと共に温室へ向かう途中、執事のロランと役割分担し、それぞれが捜索を開始した。
温室での邂逅と謎の美少女
温室内でティナは見知らぬ白金髪の少女と親しげに会話していた。彼女は帝国人と見られ、小柄ながらも人形のような容姿と古風な剣を携えていた。二人は蜂蜜の話で盛り上がり、ティナは将来の夢を語った。その中でティナがアレンへの思慕を口にすると、美少女は意味深な忠告を与えた。
美少女はティナの幸運と「星」との縁について言及し、手に入れたものを決して手放すなと告げて姿を消した。ステラとエリーはその場に駆けつけ、姿を消した少女の正体と意図に困惑したが、再び会える保証はなかった。
家族の絆と帝国大使との会談へ
妹を見つけ安堵したステラは、帝国大使との会談に臨むため、父と共に屋敷へ戻る準備を進めた。ティナとエリーには後で話すことを伝え、ステラは気丈に前を向いた。未知の存在が現れ、世界が動き出す中で、ステラは家族と仲間の未来を守る覚悟を新たにした。
帝国大使との交渉と脅迫的要求
帝国大使ヒューリック・チェイサーは、ワルター・ハワード公爵とステラの前に現れ、丁寧な挨拶を装いつつも、終始傲慢な態度を示した。帝国は、国境線をリニエ川まで下げるという領土譲渡を要求し、過去の敗北の地であるガロア地区の放棄を強要した。さらに、帝国軍が南方国境沿いで大演習を実施していることを暗示し、軍事的圧力をかけた。
ハワード公爵の拒絶と威圧
ワルターは要求に一時応じるそぶりを見せつつ、真意を突きつけた。自らを王国北方の守護者と名乗り、戦わずして領土を明け渡すつもりは一切ないと断言した。さらに、帝国が軍事力で圧倒できると見ている点について、領民と恩人への恩義を理由に一蹴し、戦う覚悟を明らかにした。激高した大使が再び脅迫するが、ワルターの威圧により完全に押し込まれた。
勇者アリスの出現と帝国大使の屈服
会談の最中、突如として白金髪の少女、勇者アリス・アルヴァーンが現れた。彼女はハワード公爵とも旧知の関係であり、帝国大使を一瞥しただけで怯えさせ、圧倒した。アリスは帝国の命令に従っていないと断言し、ティナが極致魔法「氷雪狼」を使えることを確認するために来訪していた。彼女は、ティナにかけられた呪いが未だ解けていないことを指摘し、戦場に出すべきではないと警告した。
勇者の告白とアレンへの想い
アリスは、かつて自分を救い、泣いてくれた「ある人物」との再会を強く望んでおり、その人物がアレンであることを暗示した。また、ティナがその人物の「手」を離して歩くことはできないとし、もしティナが「暗闇」に呑まれた場合には、彼女を斬らねばならなくなる可能性があると語った。アリスの言葉は、ステラとワルターにとって予想外の重さを持ち、会談の結末に深い影を落とした。
会談の決裂と覚悟の表明
帝国大使は最終的に地面に這いつくばるまで屈服しながらも、王国と開戦すれば後悔すると叫んだ。しかしワルターは、恩義を果たせぬことこそが最大の恐怖であると語り、会談の打ち切りを宣言した。ステラも父の意志に同意し、アレンへの強い想いを胸に誓いを新たにした。勇者アリスは戦場での再会を示唆しつつ、その場を去った。
第 2章
王都からの来訪と安堵
王都での謀反によって安否が不明となっていた面々の中で、フェリシアの無事な帰還が南都リンスター家に報告された。リィネはメイド見習いのシーダの報告により、天鷹商会のグリフォンでの移動を経てフェリシアが到着したことを知り、強い安堵を覚えた。かつて王都で勃発したオルグレン公爵による反乱は王宮を炎上させ、リチャードとアレンの消息は不明のままであった。姉であるリディヤは兄の不明に深く傷つき、以来、部屋に閉じ籠もっていた。
フェリシアの帰還と報告書の託し
玄関で担架に乗せられたフェリシアを見つけたリィネは、彼女の手を取り再会を喜んだ。フェリシアは過労により意識を失いかけていたが、事前に準備した叛徒軍の兵站状況に関する詳細な報告書をリィネに託した。フェリシアを守って王都から戻ったのは、ハワード公爵家のサリー・ウォーカーをはじめとするメイド隊であった。リィネは彼女らの働きに感謝の意を示し、今後の対応のため報告書を確認する決意を固めた。
リリーの登場と日常の緩和
リンスター家メイド隊第三席のリリーが浮遊魔法を使って中二階から登場し、リィネとシーダに元気に絡んだ。リリーはリィネを強引に抱きしめ、場を和ませる一方、伝令として母リサからの呼び出しを伝える。シーダはリィネのメイドとして成長を誓い、リィネはその姿勢を認めた。リリーの陽気な振る舞いは緊張の中に一時の安らぎをもたらしつつ、リィネにとっては複雑な感情も呼び起こした。
使者との対面と緊迫する外交
アトラス、ベイゼル両侯国の使者がリンスター家を訪れ、旧領土の順次返還を要求した。リンスター公爵リアムと公爵夫人リサは冷静に応対し、即答を避けて各家との協議を優先すると伝えた。会議室にはリディヤの元専属メイドであったマーヤも復帰しており、情勢の深刻さを象徴していた。両侯国が反乱の情報を事前に知っていた可能性が示唆され、外交的圧力が高まる中での対応が迫られていた。
フェリシアの報告による戦況分析
リィネはフェリシアの報告書を元に、叛徒側の兵站と組織の脆弱性を会議で説明した。記録には物資量、汽車の運行状況から推察される敵軍の兵站能力の欠如が明記されており、飛竜やグリフォンの利用も見られないと結論づけられていた。リサはこの内容を高く評価し、リンスター家の後方支援をフェリシアに任せる旨を表明。文書は各家に配布されることとなった。
地図上の情勢整理と戦略立案
リンスター公爵は王国全図を用いて、敵勢力の位置関係を説明した。王都を占拠した叛徒に加え、北・西・南の各方面で敵対勢力が展開し、リンスターおよびハワード家が挟撃される恐れがあることを指摘した。王都で王族の安否が不明な現状を受け、リサは敵側が王族の所在を把握していない可能性に言及し、希望的観測と分析が交錯する中での判断が求められた。
リリーの推察と周囲の反応
リリーは王族が西方に退避した可能性を提示し、叛徒が王族を捕らえていないからこそ大々的に宣伝していないと分析した。東都では依然戦闘が続いていると推測し、その根拠としてアレンとリチャードの存在を挙げた。ロミーは当初懐疑的であったが、リリーの確信に押される形となった。リィネはリリーの兄への信頼に複雑な感情を抱きつつ、自身の未熟さを痛感した。
姉リディヤの様子と家族の想い
リサはリディヤの様子をリィネに定期的に見に行くよう依頼した。リディヤはアレンの安否不明に深く傷ついており、部屋に閉じ籠ったままであった。母としてのリサも、アレンの存在がリディヤにとって如何に大きかったかを実感していた。リィネはその役目を引き受けることを誓い、家族の絆を改めて胸に刻んだ。
姉の失踪と禁忌魔法の痕跡
リィネは姉リディヤを心配し、シーダと共に部屋を訪ねたが、姉の姿はなく、部屋は荒れていた。丸テーブルに兄アレンの筆跡による魔法式のメモと、姉の誕生日に赤丸が付けられた手帳が残されていた。さらに古い禁忌魔法に酷似した炎属性の魔法式が見つかり、リィネはこれを否定すべく焼却した。リディヤの魔力痕も残っておらず、居場所の特定はできなかった。
遺跡への探索と祈る剣姫
元メイドのマーヤに導かれ、リィネたちは南都郊外の古代遺跡へ赴いた。その場所は魔王戦争以前の聖堂跡であり、内部は朽ちかけていたが神秘的な雰囲気を残していた。そこでリディヤは一人、祈りを捧げていた。彼女は紅髪を光を失ったように垂らし、裸足のまま神に兄アレンの無事を祈っていた。リリーが彼女にケープをかけ、姉妹たちは彼女の傍に寄り添った。
リディヤの帰還と姉妹の決意
リディヤは静かに立ち上がり、夜空を見つめながら歩き出した。マーヤが靴を差し出し、姉はそれを履いて屋敷への帰途についた。リィネたちも後を追い、リリーの軽口や悪戯に和らぎながらも、姉を守ろうとする強い気持ちを抱き続けていた。
アレンの幻とフェリシアの自覚
場面は王都へと転じ、フェリシアはアレンとの夢を見ていた。再会を喜ぶ中、アレンは再び戦地へ向かうことを告げ、フェリシアは追いかけようとするが、彼は闇の中へ消えていった。目覚めたフェリシアは南都のリンスター公爵家の客間にいた。アンナにより汗を拭かれ、からかわれつつも、アレンが東都での任を果たしたことを知らされ、彼の無事を願う気持ちと共に、自らの無力さに悔しさを覚えた。
涙から決意へ、フェリシアの変化
アレンへの思いを自覚したフェリシアは涙を流しながらも、今は泣く時ではないと気持ちを切り替えた。戦場には出られずとも、自分にできる方法で彼を支えると誓い、アンナに仕事を求めた。アンナはその強さを認め、彼女を支援すると約束した。
仲間たちとの再会と前進
エマとサリーがフェリシアのもとを訪れ、再会を喜び合う。フェリシアは食事をとり、再び気力を取り戻し、アレンのため、皆のために自分がすべきことを考え始めた。そして、二人のメイドに協力を求め、『アレン商会』の力を借りて、前へ進む覚悟を示した。
南方貴族会議の開催と持久戦方針の確認
リィネは王立学校の制服を身に着け、大会議室へ向かった。南方の諸侯が集まる会議には、リンスター家の当主夫妻とリュカ副公も参加していた。会議ではオルグレン公爵家と貴族守旧派による謀反が報告され、既に王都は陥落し、王族の安否も不明とされた。さらに、侯国連合が副公爵領国境に軍を展開していることが明かされ、エトナとザナの返還を要求していると伝えられた。二侯爵を含む諸将は慎重姿勢を示し、陛下の安否が判明するまでは持久戦を選ぶ意見で一致した。
東都からの報告者と戦況の緊迫
会議の最中、『天鷹商会』のグリフォンが傷ついた姿で飛来し、その直後、東都からライアン・ボルが帰還したと報告された。重傷のライアンは、光属性の治癒魔法を施されて回復し始めた。父であるボル伯爵は激昂し、逃亡を疑ったが、副メイド長リリーがこれを制止し、アレンと共に戦った者が臆病であるはずがないと主張した。ライアンは涙ながらに、自らが何も果たせなかったと悔恨を語りつつ、東都での戦闘の詳細を語り始めた。
東都の戦闘とアレンの戦術指揮
アレンは近衛騎士団と共に、獣人新市街の包囲を突破すべく決死の行軍を続けていた。敵は数千に及ぶ大軍で、各地に罠を仕掛けていたが、アレンは魔法生物と偵察魔法を駆使して敵情を把握し、前方に展開するザニ伯爵家の部隊との戦闘を開始した。魔法と剣技を融合させた攻撃により敵陣を突破しつつ、毒を含む水棘や氷鏡、魔法介入で敵の術式を封じ、的確に敵の戦列を切り崩していった。
ザニ伯爵との一騎討ちと重圧の応酬
戦局はさらに激化し、ザニ伯爵は雷帝轟槍を発動。アレンは持てる魔力と魔法技術の全てを用いてこれを凌ぎ、近衛騎士団の安全を確保した。戦闘の最中、獣人族の青年スイが現れ、アレンを支援して上級魔法の直撃を阻止した。さらに、アレンはローザ・ハワード公爵夫人が遺した暗号式を用い、敵魔法式の妨害にも成功した。しかし、その効果が長くは続かないと見て、リチャードの連絡を受け、撤退を決意する。
撤退と戦いの動機
アレンはスイや近衛騎士達と共に撤退を開始。ザニ伯爵から「なぜそこまで獣人族のために戦うのか」と問われたが、アレンは答えを明言せず、かつての家族や過去の記憶、そして友との約束を胸に抱えたまま戦い続けた。戦場の混乱の中、仲間とともに敵の追撃をかわしつつ、命を懸けた救援作戦は続けられた。
第3章
高台での再会と救援の準備
アレンとスイは獣人新市街の高台に辿り着いた。そこは自警団が緊急避難所として確保していた場所であり、植物魔法による結界が張られていた。だがアレンは深手を負っており、スイは動揺しながら応急処置を試みた。治癒魔法の使い手である少女ヴァレリーとシズクによってアレンの手当が行われ、落ち着きを取り戻した彼は状況の把握を急いだ。
スイの説明によれば、住民達は当初大樹を目指していたが、突如届いた魔法通信によって高台へ避難したという。通信の出所は不明であり、信号弾による「決別」の合図も前族長達の意向によるものであった。アレンは孤立した現状と敵の存在を確認し、戦況の深刻さを再認識する。
前族長達との対立と説得
狐族と山羊族の前族長が現れ、スイの行動を咎めた。彼らは救援に来たアレンと近衛騎士団を罠に誘導したことを問題視せず、種族の名誉を盾に冷淡な態度をとった。だが近衛副長リチャードは、自らの社会的立場を明かしつつ、前族長達の不作為を厳しく非難した。彼はアレンの行動が幾多の命を救った事実を突きつけ、前族長達の態度を「獣人族らしからぬ」と断じた。
アレンもまた、彼らの「名誉の死」という考えに反論し、幼子達の命を犠牲にする選択は許されないと主張した。その上で、彼は撤退計画を提示し、獺族の前族長デグや副族長ダグの協力を得たことを明かした。鼬・山羊・牛族の前族長は同意を示し、狐族の前族長は殿を誰が務めるかと反発したが、アレンが自ら引き受けることで説得を完了させた。
子供達との出会いと信念の継承
アレンは避難民の中から幼い狐族の姉妹、チホとイネを探し出し再会を果たした。チホは孤児でありながらアレンに強い憧れを抱いていたことを語り、アレンは魔法士を志す彼女に励ましと指導の言葉を贈った。その姿は周囲の近衛騎士や自警団員達にも深い感動を与えた。ベルトランもまた、アレンの行動が子供達の人生に与える力を肯定し、その信念を支える姿勢を見せた。
最終防衛と希望の発光
アレンは高台の西坂に唯一の退路を見出し、大樹の子を用いた魔法で道を切り拓いた。その過程で結界と一体化し、圧倒的な魔力を用いて敵陣を攻撃した。スイの信号弾が作戦開始を告げ、大樹からも呼応の合図が返された。住民達は自警団の楔形陣形に守られながら退避を開始し、アレンとリチャードは後方に残り、殿として敵の進軍に立ち塞がった。
リチャードはアレンにリンスター家への婿入りを打診し、彼の存在が人々にとって希望であると伝えた。アレンはそれを丁重に断りつつも、感謝の意を示し、共に決戦の地へと立った。近衛騎士団と共に魔法と剣を構えたアレンは、今日何度目かの武勲を得るべく、迫る敵軍を迎え撃つ決意を固めた。
大樹への退避とアレンの決意
東都新市街の外れに設けられた臨時船着き場では、獣人族の導きにより住民の大樹への避難が進められていた。アレンは負傷しながらも陣地の指揮を続け、避難を促す立場を貫いた。治癒騎士ヴァレリーとシズクの懇願にも応じず、最後まで戦う意志を示した。
チホとロッタへの託し
避難列に並ぶ狐族の少女チホとその姉ロッタと再会したアレンは、彼女たちの無事を確認し、ロッタに妹と母の捜索を託した。別れに際し、王都での再会を約束し、避難を促した。
ヴァレリーとシズクの退避命令
アレンは、近衛騎士団副長リチャードの命令を通じて、十代の若き騎士ヴァレリーと最年少の自警団員シズクを強制的に退避させた。二人は涙を浮かべながらも指示に従い、避難の列に加わった。
敵将グラントとの交戦
避難作業が進む中、叛乱軍総大将グラント・オルグレンが現れ、雷属性の上級魔法で攻撃を仕掛けてきたが、アレンの魔法介入によって無効化された。リチャードとスイの連携攻撃により、グラントは動揺し撤退しかけるも、突如現れた老騎士ヘイグ・ヘイデンに守られた。
大騎士ヘイグ・ヘイデンとの死闘
ヘイデンは圧倒的な実力でアレンたち三人を防ぎ、魔法障壁と槍術で攻撃を無力化した。アレンは魔法式を凍結させ拘束し、スイとともに連携攻撃を仕掛けたが、ヘイデンは肉体強化魔法でそれすらも凌いだ。スイの決死の一撃の隙を突き、リチャードが斬り込むも決着には至らなかった。
灰色ローブの奇襲とリチャードの重傷
突如転移したグレゴリー・オルグレンと灰色ローブの魔法士たちにより、リチャードが闇属性魔法で重傷を負った。アレンも魔力切れにより防御が限界を迎え、治癒魔法による応急処置が施される中、アレンは最後の決意を固めた。
アレンの殿残留と騎士団の撤退
アレンは仲間たちを強制的に避難させ、古参騎士たちとともに殿を務めることを選んだ。リチャードをゴンドラへ強制退避させ、自らの夢と遺志を託した。ライアンとケレリアンという若き騎士にも希望を託し、リボンと伝言を託した。
前族長たちの参戦と奇跡の支援
最後のゴンドラが出発した後、脱出したはずの前族長と老人たちが戻り、アレンとともに最終防衛に参加することを決意した。彼らは己の過ちと責任を認め、獣人族として子らを守る覚悟を示した。
ギル・オルグレンとの対峙
敵戦列の最後方から、アレンの後輩ギル・オルグレンが現れた。彼は涙ながらにアレンの行動に問いかけるが、アレンはそれを受け止め、信念を貫くことの正しさを語った。両者は名乗りを交わし、激突の構えを取った。ギルは大魔法『光盾』を展開し、アレンと老兵、騎士団は最後の突撃へと向かっていった。
アレンの消息と遺された者たちの絶望
ライアンは東都からの報告を終え、大会議室には深い沈黙が広がった。アレンが殿として残ったこと、リチャードが大樹に撤退したこと、残留者の生還者が確認されていないことが告げられると、リィネや母リサらの悲嘆は極まり、会場には嗚咽が満ちた。リディヤも動揺を隠せず、ライアンからアレンの最期の伝言とリボンを受け取ると、慟哭しながら心の底からの怒りと悲しみを爆発させた。
リディヤの決意と変貌
アレンの死を受け入れられぬまま、リディヤは自らの髪を切り、両親に向かってリンスターとしての行動を明言した。炎羽を纏いながら、王都と東都への進撃を宣言し、アレンの生死に自身の命を重ねた。この発言により家族や側近たちは衝撃を受け、リディヤの覚悟の深さが明らかとなった。
両侯国使者との対立とリンスターの決起
その場に踏み込んできたアトラスとベイゼル両侯国の使者たちは、エトナとザナの返還交渉を求めたが、リサとアーノルドはこれを一蹴した。会議室内では南方諸家の主たちが次々と立ち上がり、全面戦争の決意を表明した。リサの号令で「鐘」が鳴らされ、南都に総動員令が発せられた。アーノルドはリンスター公としての威厳を示し、両侯国使者に対し威圧と共に断固たる態度で反撃を宣言した。
全面戦争への布告と先制行動の準備
アーノルドは叛徒への報復と自らの子を守るための戦争を公言し、敵対者を「剣と炎で滅する」と布告した。さらに、リンスター家の家訓を示し、身内に手を出された報復を明言すると、使者たちは恐怖で言葉を失い、メイドのリリーによって物理的に会場から排除された。アーノルドは義父である大旦那に本営を任せ、作戦の陣頭指揮を委ねる判断を下した。
アレンの権限移譲とメイド隊の作戦始動
アンナはアレンの全権限を臨時で別の者に移譲することを進言し、サイモン・サイクス伯の娘サーシャをその補佐に付ける案を提出した。サイモンはこれを快諾し、リサも承認した。その後、アンナは王国全図を空間に投映し、王都および東都を目標とした先行作戦を宣言した。自らは先遣隊として敵地への潜入と情報収集を担うことを誓い、リチャードとアレンの安否確認を全軍に先んじて果たす決意を表明した。
第 4章
リンスターとの対立と開戦決定
水都の秘密会議室で、十三人委員会による激しい議論が三日間続いていた。議題はリンスター公爵家に対する旧エトナ、ザナ両侯国の返還要求についてであった。北部五侯は若年で強硬派、南部六侯は高齢で慎重派という構図が形成されていた。南部最大の経済力を誇るロンドイロ侯爵レジーナは、軍事的衝突を回避すべきとの立場を明示したが、北部のアトラス侯、ベイゼル侯を中心に強行路線が支持されていた。議論が進む中、両侯爵がすでに十数万の傭兵を雇い入れているという情報が明かされ、事実上の開戦準備が整っていることが発覚する。委員会が緊迫する中、リンスターがアトラス・ベイゼル両侯国に宣戦布告を行ったとの報告が入り、場内は騒然となった。
魔女との邂逅と南部への警告
会議散会後、ロンドイロ侯レジーナと孫娘ロアは宿へと向かっていた。途中、結界を破って近づく謎の人物──リンスターの元副メイド長ケレブリンと、かつて「緋血の魔女」と恐れられたリンジー・リンスターが出現する。リンジーは強大な魔力を放ち、リンスターが本気で戦争に臨んでいること、そして「北部五侯国と水都を燃やし尽くす」まで南部は静観するよう要求した。その要求は事実上、侯国連合の分断を意味し、ロンドイロ侯を苦悩させた。さらにリンジーは、リンスターが過去に受けた「忌み子の呪い」を止めた人物への恩義に基づいて動いていると語った。この発言により、レジーナは深い衝撃を受けた。
リディヤの覚悟と再起
開戦の決定を受け、リンスター家では戦支度が急速に進められていた。リィネはメイド見習いのシーダを説得し、屋敷に残すことに成功する。その後、姉リディヤの部屋を訪れると、リディヤは髪を切り、母リサがかつて着用していた黒の戦装束を身に纏い、軍務への復帰を表明した。彼女は兄アレンの形見である赤いリボンを手首に巻き、悲しみを胸に秘めながら戦場に赴く覚悟を示した。
母リサの出陣と戦略構想
大会議室では、南方軍の将軍達が先陣を争っていたが、父リアム・リンスターは既に先陣は決まっていると告げる。現れたのは前『剣姫』リサ・リンスターであり、彼女とその配下であるメイド隊が先陣を務めることが発表された。軍は約三万と敵の十五万に対して圧倒的劣勢だが、敵軍の分散、空中兵力の欠如、通信暗号の解読といった情報優位を活かし、各個撃破を目指す作戦が立案された。兵站は前公爵リーン・リンスターが統括することとなり、戦体制は万全を期して整えられていく。
姉妹の出陣と家族の決意
リディヤは父に対し、グリフォンを用いた敵後方への攪乱作戦への参加を志願した。当初は反対されたが、最終的に母リサの許可を得て出陣が認められた。リィネとメイド隊も共に同行することとなり、姉妹はそれぞれの思いを胸に前線へ向かう覚悟を固めた。父リアムの号令とともに、リンスター家は敵軍へ総攻勢を仕掛けるべく動き出した。
アヴァシーク平原の開戦と先制攻撃
アヴァシーク平原にて、リンスター家を中心とした南方連合軍は、三万という兵力で侯国軍十万に挑んだ。戦端を開いたのはリサ・リンスターであり、敵軍の挑発に乗った勇士達を瞬時に打ち倒し、極致魔法「火焔鳥」で敵軍を混乱させた。グリフォン騎兵や紅備え、魔法騎兵、騎馬隊が戦場を圧倒し、空中戦力を欠いた侯国軍は為す術なく崩壊していった。
総司令部への急襲と炎魔法による制圧
混乱する戦場を突き抜け、リディヤ・リンスターは敵総司令部に単騎で強襲を仕掛けた。炎魔法で敵陣を制圧しつつ、殺傷を極力避けるという精密な魔法制御を見せた。仲間の支援を得て司令部を制圧する過程で、彼女は八体の重装騎士に奇襲されるも、剣技と「火焔鳥」でこれを退けた。
転移魔法による襲撃と魔導兵との交戦
その後、転移魔法で現れた聖霊教異端審問官ラコムとロログが出現し、魔導兵を操りリディヤを捕縛。拘束結界「八神絶陣」により行動を封じられた彼女は、苦痛に耐えながらも拘束を破壊し、自らの覚悟と感情を叫びとともに炎の魔力へ昇華させた。結界は崩壊し、八体の魔導兵も撃破された。
覚醒と反撃、巨大魔導兵との死闘
ロログとラコムは自らを媒介とした魔力融合により、巨大魔導兵へと変貌。攻撃魔法や物理攻撃を繰り返すが、リディヤはこれに一歩も引かず、「紅剣」として顕現させた黒紅の双剣と六翼の炎翼により、彼らの攻撃を打ち破り、魔導兵を切断・炎上させた。短距離転移魔法を応用した超高速戦術によって『光盾』や『蘇生』を無効化し、従来の戦術を凌駕する力を発揮した。
自爆の阻止と追撃、敵将の殲滅
追い詰められたロログとラコムは、自爆による巻き添えを試みたが、リディヤはその魔力の奔流すら切り裂き、爆発そのものを封じた。逃走を図る敵を転移魔法ごと斬り落とし、情報を得ようとするも、自らの胸に手を突き刺した敵は殉教の言葉を残して消滅。彼女は最後まで敵の情報を引き出せなかった。
炎魔殲剣による敵軍壊滅
その直後、包囲していた数万の侯国正規兵が進軍するが、リディヤは超高位の戦術禁忌魔法「炎魔殲剣」を発動。炎の剣と荊棘により敵軍を殲滅寸前に追いやりながらも、誰一人として殺すことなく、士気と戦意を完全に奪った。この戦術魔法は人魔協約で禁じられていたが、先に禁忌を破ったのは侯国側であったため、使用は正当とされた。
戦後の静寂と剣姫の孤独
戦闘終了後、リディヤはリンスター軍に戦後処理を指示しつつ、雨の中で静かに空を見上げた。リリーの言葉に一瞬動揺を見せながらも、自らが歩む道を見据え、兄アレンへの強い想いを胸に、彼の不在を埋めるために進む決意を新たにした。戦場に横たわる彼女の姿は、かつて「忌み子」と呼ばれた過去の痛みと孤独を想起させるものであり、本陣の空気は勝利にもかかわらず、重苦しいものに包まれていた。
勝利と戦略的影響
この戦いでリンスター軍は、兵力差にもかかわらず死傷者ゼロの完勝を収め、大量の捕虜と物資を確保した。一方、捕虜の中には精神的外傷を負う者も多く、さらに聖霊教と侯国連合の関係という新たな懸念が浮上した。戦況の転機となったこの勝利の裏には、剣姫リディヤ・リンスターの犠牲的覚悟と、深い感情の昇華があった。
エピローグ
カレンの決意と出発
カレンは簡易病室で装備を整え、兄の形見の懐中時計を胸に戦場へ向かう決意を固めた。近衛騎士団、自警団、義勇兵らが大樹の防衛に奮闘する中、族長達は無意味な会議を続け、カレンはその指示を無視して兄の救出に向かおうとした。カヤとココは止めに入ったが、カレンは意志を曲げず、母エリンに別れを告げて出発した。
母エリンの想いと姉弟の絆
表門で近衛騎士と自警団の若い女性に制止されたカレンは、兄の想いと決意を語りながら戦場行きを主張した。だが、そこへ現れた母エリンが彼女を引き止め、自身の衰弱した身体で娘を抱きしめた。エリンはアレンとの思い出と、彼への愛情を涙ながらに語り、彼を英雄ではなく、ただ穏やかで優しい息子として育てたかった想いを吐露した。これによりカレンは短剣を落とし、雷槍の魔力も消失した。
救われた家族の感謝と新たな決意
その場に現れた狐族の女性ミズホは、自分とその一族を救ったアレンに深く感謝し、娘たちとともに頭を下げた。彼女の幼い娘たちはアレンの約束を涙ながらに語り、カレンは彼女たちを抱きしめ、兄の救出を誓った。ミズホは族長ハツホの妹として、「古き誓約」によりルブフェーラ公爵家へ援軍要請を提案することを申し出た。これにより状況に希望が生まれ、カレンは再び決意を固めて兄の救出へ向かう覚悟を示した。
アレンの拘束と絶望的な状況
一方、アレンは聖霊教に囚われ、四英海上の孤島にある旧時代の監獄へ連行されていた。魔法を封じる腕輪を嵌められた彼は、塔の最深部へと連れて行かれ、そこに封印された存在「炎魔」と対面させられる。聖霊教の使徒レフは、アレンを「使い捨ての鍵」として牢を開けさせ、死ぬよう命じた。彼は激しい拷問を受けており、満身創痍の状態だった。
炎魔の覚醒と運命の呼び声
アレンが牢に近づいた瞬間、内部から出現した炎蛇が聖霊騎士たちを瞬時に消し去った。この炎蛇はかつてアレンが見た短剣と同様の魔法であり、そこには明確な意思が宿っていた。炎蛇はアレンを見つめた後、彼を導くように牢内へ戻っていった。アレンは這うようにしてその後を追い、闇の奥へと足を踏み入れた。そこにはこの世のものとは思えぬ『獣』が唸りを上げていた。
同シリーズ









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