物語の概要
夏休みの帰省期間、アレンは妹カレンと兄妹だけの平穏な時間を過ごす。一方ティナたちもそれぞれの実家で安らぎの時間を得ていた。しかしその静けさは破られ、東都で動乱が起こり始める予兆が……。これまでの事件を踏まえ、新たな波乱が巻き起こる予感と共に、王国動乱編が幕を開ける。
主要キャラクター
- アレン:主人公で家庭教師。冷静かつ実力派の魔導士。
- カレン:アレンの妹で、彼を「世界で一番の兄さん」と慕う。兄妹の絆が本巻の重要要素となる。
- ティナ:アレンが教える公女。成長著しく、自立に向かいつつある。
- リディヤ:剣姫として活躍する公女。王宮魔法士の就任式にて暴走し、アレンと再び対峙する場面が描かれる
物語の特徴
本作は“王国動乱編”としてシリーズに転機をもたらす巻である。
- 兄妹の絆が深く描かれ、アレンとカレンの関係性が感動をもって描写されている。
- 世界情勢の不安定化により、人物同士の関係や立場が軋み始め、物語に緊張感が加わっている。
- 魔法革命ファンタジーとしての魅力を保ちつつ、政治的な側面や家族愛、友情が濃縮されている点が他作品との違いである。
書籍情報
公女殿下の家庭教師5 雷狼の妹君と王国動乱
著者:七野りく 氏
イラスト:cura 氏
レーベル:富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)
発売日:2020年03月19日
ISBN:9784040735832
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
だって、兄さんは――世界で一番の私の兄さんなんだから。
夏休み後半戦。ティナたちがそれぞれの実家に帰省する中、先日の事件を受け療養中のアレンは、カレンと兄妹水入らずの穏やかな時間を過ごしていた。しかしそれは、嵐の前の静けさで――!? 王国動乱編、始動!
感想
夏休み後半戦、ジェラルド元王子の謀反事件から療養中のアレンは、いつも以上にベッタリなカレンと兄妹水入らずの時間を過ごす。
しかし、それは嵐の前の静けさだったとは……。第五弾となる今巻は、いよいよ王国動乱編が幕を開ける。
前半は、カレンが兄に甘える様子や、ハワード公爵家のほのぼのとした日常、そしてリディヤたちが実家で騒動を巻き起こすエピソードが描かれる。正直なところ、やや冗長に感じられる部分もあった。しかし、それは第四章からの激動の展開を際立たせるための、静かな助走だったのだろう。
リディヤの実家での騒がしさは、想像を絶するものだ。母親と祖母を相手に大暴れする彼女の姿は、まるで修羅の住む屋敷のよう。これが彼女にとっての日常なのだろうか。少しばかり同情してしまう。リディヤの寝間着姿の挿絵は最高だったが。
一方、アレンは東都で巻き起こった反乱に巻き込まれ、獣人族を守るために立ち上がる。罠だと分かっていながらも、自らの危険を顧みずに行動する姿は、まさに獣人の心を宿していると言えるだろう。窮地に陥ったアレンたちが、ここからどう反撃するのか、次巻への期待が高まる。
今巻では、アレンとリチャードの共闘も見逃せない。最初はぎこちなかった二人の関係が、共に戦う中で徐々に変化していく様子が丁寧に描かれている。互いを認め合い、信頼を深めていく過程は、読んでいて心が温まる。
『公女殿下の家庭教師5 雷狼の妹君と王国動乱』は、平和な日常から一転、シリアスな展開へと突入する、新たな始まりを告げる一冊である。今まで溜まりに溜まってきた火種が一気に炸裂し、王国全土を反乱の火が包み込む。アレンたちは、この動乱を生き延びることができるのか。次巻が待ち遠しい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
登場キャラクター
アレン
冷静かつ献身的な教育者であり、家族や仲間に深い信頼を寄せられている。魔法に秀でた実力者として戦場でも指揮を執るほか、獣人社会でも尊敬を集めている。
・所属組織、地位や役職
王立学校教師、近衛騎士団に協力する魔法士
・物語内での具体的な行動や成果
東都において暗殺者を退けた後、戦乱に巻き込まれた旧市街で近衛騎士団と共に市民救助と防衛を遂行した。グリフォンの幼獣救出や妹カレンとの魔法訓練、商談における交渉成功など、多岐にわたる活躍を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
各地でその実力が広まり、王家や貴族、一般市民からも信頼を得ており、社会的地位の変動が予見されている。
リディヤ・リンスター
元「剣姫」と呼ばれた武闘派の貴族令嬢。戦闘能力に秀で、感情表現は激しいが仲間への想いは深い。アレンに対して特別な感情を抱いている。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家長女、元剣姫、旧南方戦線指揮官
・物語内での具体的な行動や成果
実家で母や祖母と衝突する中で、アレンへの感情を自覚。王都炎上の報せを受けて崩れ落ちる場面では、人間的な脆さも露呈した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつての軍功と家格により高い評価を受けており、家の意向ではアレンとの関係が将来的な政治判断に関わる要素として扱われている。
リィネ・リンスター
リディヤの妹で、内省的かつ繊細な性格。兄アレンへの憧憬と恋心を抱きつつ、家の在り方や周囲の動向を冷静に観察している。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家次女、王立学校生
・物語内での具体的な行動や成果
メイド見習いの教育や、妹として家の者とのやりとりを通じて成長を遂げた。また、兄に好意を寄せる複数の女性たちの存在に気付き、対抗心を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
母や祖母からも将来を期待されており、王都配属予定のメイド隊の一部指揮にも関わる立場へ移行しつつある。
カレン
アレンの義妹で、雷属性の魔法を操る明朗快活な少女。兄への好意を隠そうとせず、愛情表現が率直である。
・所属組織、地位や役職
アレンの義妹、王立学校生
・物語内での具体的な行動や成果
旧市街での魔法訓練や、兄との森での追いかけっこ中の事故を通じて絆を深めた。御魂送りでは感情が昂り、思いを口にしかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
兄に強く依存する傾向がありながらも、魔力操作に優れる点で将来的な実力者としての片鱗を見せている。
ステラ・ハワード
ハワード公爵家の長女であり、妹たちを引率する立場。知性と統率力を兼ね備えつつも、アレンへの恋心に揺れる一面を持つ。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家長女、地方政務を担う立場
・物語内での具体的な行動や成果
妹ティナやエリーと共にアレンへの支援計画を構想。課題提出や私服購入などを通じて交流を深めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地方の統治を一部任されており、政治的な影響力を備えつつある。アレンの社会的地位向上を模索している。
ティナ・アルバレット
氷魔法に優れた才を持つ努力家で、アレンへの好意を積極的に示している。姉ステラや妹エリーと共に行動することが多い。
・所属組織、地位や役職
アルバレット公爵家長女、王立学校生
・物語内での具体的な行動や成果
アレンに杖のリボンを託すなど恋心を隠さず表現した。ステラやエリーと共にアレンの地位向上計画を話し合い、蒼い鳥の紋章「氷鶴」の出現を体験した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
氷鶴の適合者としての兆候を示したことで、今後大魔法との関係が深まることが示唆されている。
エリー
無邪気かつ攻撃的な一面を持つ少女で、魔力の特異性が指摘されている。アレンへの忠誠と好意を内包しつつ、ティナと共に行動する。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家次女、王立学校生
・物語内での具体的な行動や成果
ティナとともにステラの私服選びに同行し、ステラへのアレンの好意を探る場面もあった。深夜の温室で姉妹と語り合い、将来的な協力を誓った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔法能力の発展途上にありつつも、アレンの指導のもとでさらなる成長が期待されている。
リチャード・リンスター
リンスター公爵家の公子であり、近衛騎士団の副長。アレンとは長年の信頼関係で結ばれた友人でもある。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家公子、近衛騎士団副長
・物語内での具体的な行動や成果
東都の防衛戦にて指揮官として奮闘し、アレンと共に戦局を支えた。突撃の檄を発し、兵士たちの士気を高めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
公子としての地位と副長としての責務を果たし、戦場における精神的支柱として機能している。
ロラン
ステラに仕える忠実な執事であり、責務に対して誠実な態度を貫く青年。ステラからの信頼も厚い。
・所属組織、地位や役職
ハワード公爵家専属執事
・物語内での具体的な行動や成果
ステラ姉妹の北都訪問に同行し、買い物や茶会を支えた。ステラの恋心に気づいて動揺する場面も見られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ハワード家の内政補佐としての信頼を受けており、今後の重責を担う可能性がある。
リサ・リンスター
リディヤとリィネの母であり、かつての剣姫。現在は政治的責任者として一家を率いている。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家当主代行
・物語内での具体的な行動や成果
リディヤやリンジーとの模擬戦にて圧倒的な実力を示し、娘たちの恋心や進路に干渉しつつ導いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家の決定権を握る存在としてアレンを将来的な選択肢に含める意向を示し、家の行く末を見定めている。
アンナ
リンスター家メイド隊の長であり、アレンに深い恩義と忠誠心を抱く実力者。冷静な判断力に優れている。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家メイド長
・物語内での具体的な行動や成果
リディヤの世話や作戦遂行を支えつつ、リィネやシーダの教育にも尽力した。王都配属計画にも関与している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
公爵家の信任を受けて王都転属が決定されており、リンスター家の内政実務を担う柱の一人である。
ロミー
褐色の肌と短髪が特徴的なメイドで、眼鏡をかけた実務的な女性。儀礼や礼節を重んじ、任務に忠実である。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家メイド隊、筆頭補佐
・物語内での具体的な行動や成果
リディヤとリィネの帰還に際し、メイド隊の整列儀礼を主導した。マーヤの復職に対して対抗意識を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アンナとともに王都配属が予定されており、今後の中核的な実務担当として期待されている。
マーヤ
リンスター家元第三席のメイドで、現在は引退し育児中。過去の功績により今なお尊敬を集めている。
・所属組織、地位や役職
元リンスター公爵家第三席メイド、現在は家庭に専念
・物語内での具体的な行動や成果
娘リネヤを連れてリディヤと再会し、温かい祝福を受けた。第三席への復職を打診されたが、明確な返答はしていない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去に旧二侯国の統治を支えた経歴を持ち、再登用の可能性も示唆されている。
リリー
張り切り屋の少女メイドで、第三席として配属されたばかりの新人。活発な性格で周囲を振り回すこともある。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家メイド隊第三席
・物語内での具体的な行動や成果
リディヤの人形を無断で持ち出し怒りを買った。暴露癖があり、リディヤが人形に「アレン」と名付けていたことを暴いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都への異動が決まっており、未熟ながらも将来性を見込まれている。
シーダ
平民出身のメイド見習いで、リィネに仕えている。控えめな性格だが、成長意欲は高い。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家メイド見習い
・物語内での具体的な行動や成果
緊張の中でリィネに仕えながらも、彼女の励ましによって自信を得た。人形騒動にも関与し、事態の収拾に協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
未熟ながらもリィネに認められつつあり、教育の進捗次第で今後の昇格が期待されている。
フェリシア
商会で働く有能な少女で、過去には魔法を志していた。現在は多忙な日々を送っているが、アレンに強い感謝と好意を抱いている。
・所属組織、地位や役職
王都の商会所属、元王立学校生
・物語内での具体的な行動や成果
手紙で近況をステラへ報告し、アレンによって人生が好転したことへの感謝を綴った。妹カレンへの嫉妬も滲ませた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
多忙な中でもアレンへの想いを抱き続けており、今後の再登場や政治的関与の可能性がある。
スイ
狐族の青年で、アレンの旧友。商才に長け、「スイ商店」を経営している。
・所属組織、地位や役職
獣人街商店主
・物語内での具体的な行動や成果
アレンとの商談を成立させ、彼の信頼を得た。婚約者モミジの処遇についても配慮を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
獣人街で信頼される人物であり、今後の経済的・情報的支援者となる可能性がある。
モミジ
スイの婚約者で、トレット家に育てられた女性。感受性が高く控えめな態度を取る。
・所属組織、地位や役職
スイの婚約者、トレット家育ち
・物語内での具体的な行動や成果
アレンとの初対面では丁重に挨拶し、結婚後に家を出る意向を明かした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
獣人社会においても立場の変動が予想され、スイとの婚姻によって独立の道を歩む予定である。
グラント・オルグレン
オルグレン公爵家の当主であり、王家への謀反「義挙」を主導した張本人。実力主義と下層階級登用に強く反発する保守派の急先鋒である。
・所属組織、地位や役職
オルグレン公爵家当主、公爵派反乱軍指導者
・物語内での具体的な行動や成果
山荘の密会にて有力貴族を糾合し、反乱を宣言。鉄道と魔法通信を組み合わせた新戦略を導入した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
旧貴族連合と聖霊教との連携を通じて大規模な戦争を起こし、王国全土に動乱をもたらした張本人として中心的な存在となっている。
グレゴリー・オルグレン
オルグレン家の親族で、グラントの命を受けて陰謀の実行と「剣姫の頭脳」の排除を任される。知略に長けた一方で、葛藤も抱える人物である。
・所属組織、地位や役職
オルグレン家幹部、密偵的立場
・物語内での具体的な行動や成果
コノハとの密談にて、作戦の甘さと内部の脆さを語った。聖霊教と通じていることが示唆され、複数の駒を裏で動かしていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
反乱側に属しながらも、独自の懸念と計算を抱いて行動しており、反逆陣営内でも異質な存在である。
コノハ
オルグレン家に仕える女性で、ギルの監視役を務める。表向きは忠実な部下だが、内心では動揺と疑念を抱いている。
・所属組織、地位や役職
オルグレン家所属の女性監視役
・物語内での具体的な行動や成果
グレゴリーとの密談にて彼の思惑を探りつつ、ギルを守ることを決意した。灰色ローブの魔法使いを目撃し、その脅威を認識した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
内部からの離反の可能性を示す存在として、今後の展開において鍵となる人物の一人である。
リンジー
リディヤとリィネの祖母で、かつて国家を滅ぼしたという異名「緋天」を持つ伝説的な魔法使い。現在も魔力は衰えていない。
・所属組織、地位や役職
リンスター公爵家祖母、元高位魔導士
・物語内での具体的な行動や成果
リディヤとの模擬戦にて『火焔鳥』を顕現させる。娘リサと共に孫の恋心をあからさまに語り、挑発した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
その魔力と存在感は今なお家の精神的支柱であり、リディヤの成長を促すために敢えて干渉を行っている。
ベルトラン
近衛騎士団の中堅指揮官で、アレンとリチャードの信頼を受けて後方陣地の構築を任された。冷静沈着な現場指揮者である。
・所属組織、地位や役職
近衛騎士団所属、陣地構築責任者
・物語内での具体的な行動や成果
第二陣地から第三陣地への撤退戦を円滑に進行させるため、罠の設置と防衛線の整備を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦場における信頼性と実務能力が評価されており、今後さらに高位の役職を担う可能性がある。
ギド
病に伏した老公で、グラント・オルグレンの父と推察される立場。名目上は公爵家内で重きを持つ存在とされているが、病状が不明瞭である。
・所属組織、地位や役職
オルグレン公爵家・前当主(推定)
・物語内での具体的な行動や成果
直接の登場は無いが、グレゴリーがその病状の虚偽を示唆しており、権威として利用されている可能性がある。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
反乱計画の陰で象徴的存在とされているが、実態は不透明であり、家中の正統性を支える道具と化している。
ギル・オルグレン
オルグレン家の若手当主候補と思しき青年。表向きは会議に関与していないが、コノハによって守られている。
・所属組織、地位や役職
オルグレン公爵家・後継候補
・物語内での具体的な行動や成果
グレゴリーの発言やコノハの動向から、戦略的な要衝と目されている。現在は静観している立場にある。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
今後の家中動向や反乱の帰趨によって大きく役割が変動する可能性があり、注視すべき立場にある。
イネ
狐族の幼い少女で、戦火の中でアレンと出会い救われた存在。新市街の一般市民でありながら、物語に温かみを与える存在となっている。
・所属組織、地位や役職
新市街在住の狐族の少女
・物語内での具体的な行動や成果
戦後、大橋の向こうに取り残された姉の救助をアレンに依頼し、彼の決意を促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
直接の戦力ではないが、アレンの行動動機に大きな影響を与える触媒として登場した。
トネリ
狼族の少年で、戦時下の新市街において恐怖と不安に怯える様子が描かれた。戦災民の象徴として描写されている。
・所属組織、地位や役職
新市街在住の狼族の少年
・物語内での具体的な行動や成果
アレンの橋渡りを止めようとしたが、最終的には彼の覚悟に道を譲った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
無名の少年ながら、戦争によって傷つく市民の姿を象徴する立場にあり、物語の情緒的側面を担っている。
展開まとめ
プロローグ
謀反の会議と「義挙」の決定
オルグレン公爵家のグラント・オルグレンは、東都近郊の山荘地下に設けた密会の場で、有力貴族や武闘派騎士らを招集し、長年画策してきた王家への反逆、「義挙」を正式に宣言した。招集に応じた貴族たちは、現王家が進める実力主義と下層階級の登用に危機感を抱いており、反発の姿勢を明確にしていた。会議では、ジェラルド元王子の暴走と失敗、ならびにその混乱を利用した作戦遂行の障害排除が報告された。また、近衛騎士団や強力な魔法士たちが既に東都を離れたことが確認され、作戦実行の障壁がほぼ消えたと判断された。
軍事計画と老騎士の懸念
作戦においては、鉄道と長距離魔法通信を活用するという新しい兵站戦略が導入され、老騎士ヘイグによる補給や通信網への懸念に対しても対応が示された。さらに、グレゴリー・オルグレンが獣人族との古い誓約を懸念として提示したが、グラントは無抵抗であれば寛容に処するが、抵抗すれば容赦なく殲滅すると応じた。公爵派の間には強い獣人差別感情が存在し、大樹の利権獲得も目的の一つとなっていた。
内部の不安と「剣姫の頭脳」の警戒
会議の末、グレゴリーが「剣姫の頭脳」と呼ばれる存在の動向について言及し、その危険性を示唆したが、他の者たちは脅威と見なさなかった。処理を命じられたグレゴリーは動揺しつつも引き受けた。その後、グレゴリーは監視役の女性コノハと密かに会い、戦力配置を示す駒と盤面を前に作戦の甘さを語った。彼は「剣姫の頭脳」の能力を恐れており、グラントらがそれを軽視していることを愚かと考えていた。
裏切りの兆しと謀略の布石
コノハはギル・オルグレンを守る使命感を抱きつつ、グレゴリーの言葉や行動に不信感を募らせていた。グレゴリーは彼女の動機を読み取り、老公ギドの病状についての虚偽を指摘した上で、アレンとギルを会わせるべきだと示唆した。さらに、グレゴリーの背後には聖霊教の騎士と灰色ローブの魔法使いたちが現れ、グレゴリーが彼らと通じていることが明らかとなった。コノハはその脅威を前にしてもギルを守る決意を固め、その場を離れた。
終盤の暗示と駒の配置
グレゴリーは一連の準備を整えた後、盤面を見渡しながら満足げに微笑み、すべての駒が配置されたことを確認した。反乱の「義挙」は表向き整って見えるものの、内部では不安の芽と伏線が交錯しており、複数の思惑と謀略が裏で進行していたことが明白となった。
第 1章
入院先での再会と心の揺れ
アレンは東都最大の病院で療養中であった。彼を見舞ったリンスター家のメイド長アンナとのやりとりの中で、リディヤを戦いに巻き込んだことへの後悔を吐露した。そこにリディヤ本人が現れ、冗談交じりに彼の浮気を責めながらも、自身の怪我を気にする素振りは見せなかった。二人は互いに寄り添いながら、東都で起きた一連の事件や今後への不安について語り合い、リディヤはアレンに対する想いを一層強くした。
教え子達の見舞いと賑やかな騒動
リディヤとアレンが親密な時間を過ごしていた最中、ティナ、カレン、リィネが突入し、修羅場となる。そこに更にエリーと母エリンが現れ、事態は一旦収束した。アレンが隠れて仕事をしていたことも発覚し、母と皆から叱責を受けた。その後、退院したアレンは東都駅で教え子達を見送るために準備を整える。
列車の出発と別れの時
汽車でそれぞれの故郷へ帰る教え子たちとアレンは、別れを惜しみつつ挨拶を交わした。エリーは手紙を書くことを申し出、ティナ達も課題に取り組むことを約束した。出発前、リディヤはアレンに自身の魔法杖を預け、リボンにお守りの意味を込めた。ティナもまた自分のリボンを同様に杖に結び付け、二人の少女の気持ちは競うように表れた。
教授達との対話と懸念の共有
アレンはティナ達を見送った後、教授と学校長に対し、ジェラルドの事件の背景と今後の懸念を追及した。教授は危険な魔法短剣の存在と、それに込められた魔力の強大さを示し、アレンも『氷鶴』『炎麟』という大魔法の安全な管理の必要性を訴えた。エルフの長老たちへの調査依頼や、「エーテルハート」という姓、「鍵」という言葉についても言及された。オルグレン家の動向に関しては決定的な証拠はないが、名高き大騎士たちの誓約書が教授側の信頼を支えていた。
秘密の会話と後に残された者たち
ティナ達を乗せた汽車が出発する直前、アレンの元にリチャードとその婚約者サーシャが現れ、駅で一幕の騒動を巻き起こした。アンナによって制止され、彼らも別れを告げた。汽車が出発すると、母とカレンがアレンの傍に寄り添い、リディヤがエリンに宛てた謝罪の言葉を伝えたことが明かされた。リディヤが残した杖のリボンと、ティナが後から駆け戻って結び付けたリボンが象徴するように、それぞれの想いがアレンに託された。別れの汽車を見送った後、アレンは再び家族と共に東都での日常へ戻っていった。
家庭教師としての日常と妹との関係
アレンはティナたちの帰省後、四人の教え子にそれぞれ異なる方針で指導を続けていた。中でもエリーの攻撃性と魔力の特異性に懸念を抱きつつも、飛翔魔法を目指す方向性を保った。また、カレンからの魔法強化の要求には応じず、新しい短剣の必要性を説いたが、彼女は思い出の品である短剣に執着を見せた。兄として妹を甘やかさないと決めつつも、結果的にはクッションを並べて共に昼寝することになり、兄妹としての微笑ましいやり取りが繰り広げられた。
幼馴染との再会と和やかな団欒
カレンとアレンの昼寝中に、幼馴染のカヤとココが家に訪れ、カレンは慌ててアレンを起こさないよう配慮しつつ対応した。彼女は幼馴染達と共に茶と菓子を囲んで談笑し、アレンの凄さについて語った。彼が王立学校の教鞭を執るほどの実力者でありながら、獣人社会から一部認められていない現状について言及し、その不条理さに対して憤りと誇りを同時に抱いていた。話題はやがてカレンがアレンを「兄さん」と呼ぶようになった経緯に移り、彼女は過去の記憶を語り始めた。
過去の記憶と兄妹の絆
カレンがアレンを「兄さん」と呼ぶようになったきっかけは、彼の名誉を守るために行動した出来事に遡る。当時八歳だったカレンは学校の正門で待ちぼうけをしていたが、校舎で兄が上級生に囲まれていると知り、怒りに任せて間に割って入った。兄の本を奪おうとする同級生に果敢に立ち向かい、彼を守ろうとした。アレンは争いを好まず、冷静に事態を収めようとし、スイという六年生の登場により騒動は終息した。この一件からカレンは兄に強く惹かれ、彼を守る存在でありたいと願うようになった。
日常のやり取りと兄への想い
帰宅後、カレンはアレンに髪を結ってもらい、幼少期からの習慣を大切にしていた。彼の温かい言葉に頬を緩めながらも、彼女は兄が自分を子供扱いすることに不満を抱いていた。アレンが部屋を分けようとしていることを知って動揺し、彼との時間を確保するため、翌日の光曜日に勝負を申し込んだ。アレンはすぐに応じ、カレンは満足げにその日の晴天を祈りながら眠りについた。兄妹の間には、互いに対する深い信頼と絆が静かに築かれていた。
東都の歴史と森への小旅行
カレンは兄アレンと共に旧市街を出発し、「大樹の森」へ向かった。旧市街と新市街に分かれた背景には、かつての戦争で東都が魔法によって焼かれた歴史があり、旧市街のみが大樹に守られ焼け残ったという。目的地に向かう途中、獺族の老人ダグと遭遇し、かつての副族長である彼とアレンとの親しい関係が明かされた。ダグの勧めを断り、二人は徒歩で森へ向かい、カレンは雷属性中級魔法を使って安全を確認した上で、結界内で遊ぶことにした。
森での追いかけっこと事故
カレンは兄との時間を引き延ばすため、追いかけっこを提案し、魔法で強化した速度で逃げ出した。アレンもまた魔法を用いて追跡し、互いに能力を駆使しながら遊びを楽しんだ。しかし、カレンは結界の隙間から外へ落下し、負傷して動けなくなってしまう。治癒魔法を使えない状態で助けを求め、恐怖と痛みに泣き叫んだ。絶望しかけたその時、結界外にもかかわらずアレンが彼女の元に駆けつけ、救出に成功した。
幼馴染との語らいと兄への想い
現在に場面が戻り、カレンは幼馴染のカヤとココに当時の体験を語っていた。二人は驚きと関心を示しつつも、結界の一部がなぜ解けていたのかには納得できない様子だった。アレンはその後も毎週カレンと共に魔法の練習を行っており、当時の記憶は彼女にとって大切な思い出となっていた。話の途中、アレンが部屋に現れ、カレンは兄に過去の出来事を軽々しく語られたことに抗議した。
グリフォンの登場と幼獣の救助
突如、空に野生の蒼翠グリフォンが現れ、その背から幼獣が落下する様子をカレンたちは目撃した。アレンは風魔法と浮遊魔法を用いて幼獣を受け止め、カレンたちの前に安全に着地させた。その幼獣はアレンに懐き、幼馴染たちはその様子に驚愕し、蒼翠グリフォンの人懐こさに対して疑問を抱いた。アレンは幼獣を親元に返すため、旧市街のゴンドラ使いダグの元へ向かう準備を始めた。
幼獣の返還と仲間たちの体験
アレンとカレン、幼馴染たちは母グリフォンの元へ幼獣を返すため、植物魔法と認識阻害魔法を駆使して屋根伝いに移動し、ゴンドラで郊外へ向かった。道中、カヤとココはアレンに抱きかかえられる場面もあり、彼の行動に対して好意を露わにした。グリフォンの親子に幼獣を返した後、母グリフォンは礼として旋回飛行を行い、彼らに感謝を示して去っていった。帰りのゴンドラ内で、幼馴染たちはアレンを称賛し、カレンは誇らしげにその言葉を受け止めた。
第 2章
駅での再会とステラの想い
王国北都中央駅にて、ステラは妹ティナとエリーの到着を待っていた。汽車が遅れる中、執事ロランに冷静に指摘され、やがて汽車が到着。ティナとエリー、そして教授が姿を見せる。三人は笑顔で再会を果たし、教授はロランに「坊」呼ばわりするなど、親しみを込めたやりとりが交わされた。ティナとエリーはロランがステラ専属の執事になったことを知り、応援の言葉を送る。
その後、ティナがアレンの杖にリボンを結んだとエリーが暴露し、ステラは動揺するが姉としての立場を崩さずに受け止める。ティナはステラにアレンからの手紙とノートを渡し、ステラはその内容に歓喜した。ノートに添えられた蒼翠グリフォンの羽と優しい言葉は、彼女に深い幸福をもたらした。
温室での深夜の語らい
深夜、ティナがエリーを起こし、温室にある自室へと向かう。アレンの授業を受けていたその部屋で、過去の自分達を回想し、成長した今との違いを語り合った。ティナはアレンの怪我を思い出し、自責の念から不安を吐露するが、エリーは全力で否定し励ました。
ティナとエリーは互いの不安や過去の未熟さを共有し、今後さらに努力しアレンの力になりたいという決意を新たにした。そこにステラが現れ、三人で語らいを続ける。ステラはアレンから贈られたノートを見せ、課題の厳しさを語りながらも嬉しそうな表情を見せた。
アレンを巡る想いと将来への決意
三人は互いにアレンへの想いを語り合い、各々がアレンの隣に立つことを願っていることが明かされた。ステラはアレンの社会的地位の問題を指摘し、リディヤの協力を得て周囲を巻き込んだ支援を行うべきだと提案する。ティナは王家が実力主義を標榜していることに着目し、アレンの地位を向上させる構想を打ち出す。
エリーも仲間として加わり、カレンやフェリシア、リディヤ、大学校の後輩達の協力を視野に入れる計画が立てられる。ステラはその場にいないアレンに思いを馳せつつ、自らの努力を誓い、ティナとエリーもそれに続いた。
シェリーの介入と夜のお茶会
三人の会話が続く中、メイド長であるシェリーが登場。深夜の活動を咎めるかと思いきや、寛容な態度でお茶会を提案し、四人は夜のティータイムを楽しむ。お祖母ちゃんとお祖父ちゃんの馴れ初めが語られ、翌日の北都での買い物計画も決まる。
ステラ、ティナ、エリーは、それぞれが可愛い服を選び、アレンに見せたいという共通の願いを抱きつつ、未来への希望に胸を膨らませた。
北都への訪問と衣服購入の目的
ハワード家の娘たちは北都へ新しい私服を買うために訪れた。北都の都市構造は王都と似ており、王宮こそ存在しないが、建物は石造りで実用性重視の設計となっていた。ステラは祖父の教えを思い出しながら、専属執事ロランと妹ティナ、専属メイドのエリーと共に移動する。ティナとエリーの提案により、ロランも同行し、彼は職務を果たす覚悟を見せた。
到着した服屋「エーテルトラウト」は二百年以上の歴史を持つ老舗で、貴人専用の特別室へ案内されたステラは次々と服を試着させられ、戸惑いながらも妹たちの好意に応える。ティナとエリーは、彼女の私服選びに熱意を注ぎ、最終的にステラはアレンとの初デート時の服の新作を購入した。
カフェでの語らいと暴露された秘密
買い物の後、一行はメイドから薦められた新しいカフェへ寄り道した。ティナとエリーは氷菓子を楽しみ、ステラは紅茶を味わいながらアレンとの想像の会話に耽った。その様子に妹たちはすぐ気づき、からかうような視線を向ける。店員とのやり取りで、王都の水色屋根のカフェで起きた「相合傘事件」がこの店員の妹を通じて明かされ、ロランは精神的打撃を受けて硬直した。
その後、ティナとエリーによる尋問の末、ステラは自身の想いを半ば認める形となり、三人の間で和やかに情報交換が行われた。ロランは終始立ち直れず、ステラは後に彼へ弁明する必要を感じていた。
フェリシアの手紙とステラの心情
王都に残るフェリシアからの手紙には、商会での忙しさと、自分の進路に対する戸惑いが綴られていた。魔法を学びたかった彼女は、今では日々膨大な取引と業務に追われている。その中で彼女はアレンを「魔法使いのようだ」と称し、彼の影響によって人生が好転したことを感じていた。また、妹カレンに対する嫉妬や親友ステラへの信頼も語られていた。
ステラは手紙を読んで微笑みつつも、アレンとカレンが東都の御魂送りに一緒に出かけたことに嫉妬心を募らせていた。自身もアレンと出かけたことはあったが、正式な「デート」として意識されていなかったことに心を乱され、枕に顔を埋めて思いを募らせた。
雷雨の夜と紋章の兆候
その夜、雷鳴に怯えたティナとエリーがステラの部屋に避難してきた。幼い頃のように三人でベッドを共にし、会話を交わしていた中、ティナの右手の甲に蒼い鳥の紋章が浮かび上がった。これは意思を持つ大魔法「氷鶴」の印であり、ティナは危機ではないと感じつつも、何らかの意思を伝えようとしていると推察した。
ステラはこの件について教授に相談する必要を感じるが、現在はハワード家の当主ワルターとグラハム、そして教授までもがユースティン帝国の大演習への対応に追われており、連絡は難しい状況であった。雷鳴が続く中、三人は再びブランケットに潜り、静かな不安を抱きながら眠りについた。
第 3章
南都リンスター家での帰還歓迎
リディヤとリィネが南都のリンスター邸へ帰還すると、メイド隊や使用人たちが紅絨毯の上で整列し、盛大な出迎えを行った。黒髪短髪で眼鏡が似合う褐色肌のメイド、ロミーが中心となり儀礼を主導し、リディヤは照れながらも感謝を伝えた。その場には古参メイドのマーヤも現れ、二人の再会に感極まって涙を流した。彼女は元第三席として、南方の旧二侯国統治に貢献した後に結婚し引退していたが、赤子リネヤを連れて挨拶に来たのであった。
赤子との交流とメイド長指名の打診
マーヤの娘リネヤを抱いたリディヤは穏やかな表情を見せ、メイドたちは感激して跪いた。マーヤはリネヤの名がリディヤとリィネから取られたものであると明かし、姉妹は照れつつも歓喜した。リディヤは、もし再び働く気があればマーヤをメイド長に迎えると提案するが、ロミーがそれに対抗心を見せた。姉妹とメイドたちの間には、かつてのような親密で穏やかな空気が流れた。
新任第三席リリーの話題
リンスター家メイド隊の長であるアンナは、空席だった第三席が埋まったと報告するが、リディヤは強く拒絶する態度を示した。その新任であるリリーについて、能力面は問題ないが張り切りすぎる傾向があり、リディヤによる指導が望まれていた。姉妹とメイドたちのやり取りは軽妙であったが、明らかにリディヤには複雑な思いがあった。
両親の登場と報告
場の空気が張り詰めた中、リディヤとリィネの両親であるリサとリアムが現れ、娘たちに帰還を労った。リサは東都風の装いで現れ、威厳ある姿でメイド隊に指示を出した。戦闘後すぐにアレンが両公爵家へ報告書を送っていたことも明かされ、両親はその行動に感嘆を示しつつ、彼の功績は公にできないという判断を共有した。リサは、姉妹に今後は政治の場が主戦場となることを告げた。
アレンの手紙とリディヤの反応
リサがアレンからの手紙に「責任は取る」と書かれていたことを明かすと、リディヤは大きく動揺した。姉としての威厳を保てず、年頃の少女としての感情を露わにした彼女に、母はその反応を楽しげに見守った。リディヤは手紙を否定せず、動揺のまま蹲り、リィネの言葉からアレンがティナにも同様のことを書いた可能性を聞かされて更に混乱した。
家の方針と人事配属
リサは、マーヤからの「家がアレンに未来を託すのか」という問いに対し、「リンスターが選ぶのではなく、アレンが選ぶのだ」と返答し、彼の特異性と将来性を強調した。リディヤとリィネには自覚が促され、メイド隊の人員配置として第三席リリーを王都配属とすることが明言された。また、アンナとロミーも王都配属となる方針が示され、姉妹は驚愕する。マーヤの推測通り、家はアレンに大きな期待を寄せていた。
姉の自堕落な日常と妹の奮闘
南都での穏やかな日々が続く中、リディヤはアレン不在により自堕落な生活を送っていた。リィネは姉を起こすため奮闘するが、魔法による防御や気力の低下に苦戦した。メイド長アンナが巧みにアレンの手紙を餌にしてリディヤを釣り出すと、姉は寝ぼけ眼で現れ、その様子にリィネとメイド見習いのシーダは大きな敗北感を味わった。寝間着がアレンからの贈り物であると知ったリィネは複雑な心境となり、姉との関係に新たな感情を覚えた。
リィネの決意と未来への布石
最終的にリディヤはアンナとリィネの説得により着替え、朝食を摂ることを決意したが、リィネの心には複雑な思いが残った。兄からの贈り物に一喜一憂する姉の姿を前に、自身の立ち位置と兄への感情を改めて見つめ直す必要を感じていた。また、リンスター家の今後を担うメイドたちの王都配属と、アレンを巡る家の決断は、彼を中心に巻き起こる大きな変化の予兆をはらんでいた。
南都での手紙と日常
リィネは南都の内庭にて北方から届いた赤グリフォン便の手紙を読みながら、兄からの返事を待ち望んでいた。屋根には魔石が仕込まれ、暑さを感じずとも日焼けに備えた服装を選び、ティナやエリーとの再会時に肌の焼けをからかわれた経験から、日焼け防止には万全を期していた。エリーからの手紙や土産のノートを受け取りつつ、ティナやエリーの近況を羨ましく思いながらも、姉リディヤが兄不在で出不精になることに改めて気づいていた。
メイド見習いシーダとの交流
内庭で過ごす中、緊張した様子のメイド見習いシーダが紅茶を運んできて転倒しかけたのを、リィネが咄嗟に支えた。リィネは専属メイドとして彼女に紅茶を注がせるが、その緊張ぶりに困惑しつつも対話を試みた。シーダは自身が平民であることから、リンスター公女に仕えることの緊張を語り、涙を見せた。リィネはそんな彼女を諭し、兄の創作した高度な制御式を見せることで、社会的地位と実力の関係を伝え、成長を促した。これにより、シーダは決意を新たにする。
リリーの乱入と人形騒動
その時、屋敷内で大きな音が鳴り、紅髪の少女リリーが人形を抱えて飛び込んできた。リディヤの部屋から兄からの土産である人形を無断で持ち出してきたらしく、これに姉が激怒。リィネはシーダに人形の保護を命じるが、リディヤの怒りは頂点に達し、『火焔鳥』を三羽も顕現させた。リィネは機転を利かせて茶会に誘い、事態を沈静化しようと試みるも、リディヤが人形に「アレン」と名付けていたことをリリーが暴露したことで、姉の怒りが再燃した。
馬車での移動と内心の葛藤
南都での出来事から八日後、リィネは家族や侍女と共に別邸へ向かう馬車に乗っていた。メイド見習いのシーダはリンスター前公爵邸への訪問に強い緊張を抱えていたが、リィネは平然と話を続け、兄への想いを口にする。メイド長アンナとの会話では、兄の人気と影響力が増していること、彼を巡る女性達の動きが語られた。アンナは兄に好意を寄せる者としてステラ、フェリシア、そして特にカレンの存在を挙げ、リィネを警戒させた。
恋心の自覚と決意
アンナは兄の好みに獣耳や長髪、尻尾といった特徴を挙げ、リィネの動揺を誘った。その中で「恋を自覚した乙女は化ける」と囁かれたリィネは、自身の変化と感情の揺れに気づき、決意を固める。メイド見習いのシーダも、アレンが姓を持たぬ理由に疑問を抱き、それが使用人たちの間でも話題となっていたことを語った。アンナはその点に着目し、アレンの社会的立場が変化せざるを得ない状況であると示唆する。
過去の功績と未来の期待
アンナは、リィネの母と姉を同じ馬車に乗せることで姉の心情を揺さぶり、兄との関係の進展を促そうとしていた。リディヤの功績が増す中で、公的な立場を得るべきは兄であるとの認識がリィネの周囲で広まりつつあった。リィネは兄を敬愛しながらも、恋心に翻弄されつつ他の女性達への警戒心を強めていく。そして、未来に対する不安と希望を抱きながら、兄の存在が周囲へ与える影響の大きさと、自身が進むべき道を見定めようとしていた。
リンスター別邸への到着
道中、リィネはシーダの問いに答え、兄の出世に関わる複雑な事情を示唆するも、今後は避けられぬ変化が訪れることを予見していた。アンナはその変化がリディヤだけでなくリィネにも大きな影響をもたらすと断言し、リィネは改めて兄への思いを強めた。最後に、馬車はリンスター家の赤壁と煉瓦造りの別邸に到着し、リィネは祖父母との再会を思い描きながら、新たな決意を胸にしていた。
リンスター別邸への到着と祖父母との再会
リィネ達一行は赤煉瓦のリンスター家別邸に到着し、祖父リーンと祖母リンジーの出迎えを受けた。農作業着に身を包んだ二人は穏やかに再会を喜び、リィネの成長と王立学校での生活に関心を示した。リィネは兄アレンから渡された魔法の課題ノートを見せ、二人を感嘆させた。
母と祖母の策略によるリディヤの挑発
母リサが到着するや否や、娘リディヤの奥手ぶりを指摘し、祖母と共にアレンに対する好意を暴露させるよう仕向けた。挑発により、リディヤの感情が爆発。御祖母様と母の言葉に怒り、強大な魔力を顕現させて炎属性極致魔法『火焔鳥』を放つが、母リサはそれを手刀で両断した。
母と娘の本気の戦闘開始
リディヤは双剣を抜き、母と真正面から戦闘を開始。凄まじい速さと威力を持つ攻撃を繰り出すが、母はアレンから贈られた普通の日傘のみでそれを全て防御した。アンナとリリーは淡々と状況を観察し、姉妹の関係性やリディヤの弱点を語った。
祖母リンジーの参戦と戦況の激化
戦いの激しさが増す中、祖母リンジーも参戦。かつて国家を滅ぼしたという『緋天』の異名を持つ彼女が放った巨大な『火焔鳥』を、リディヤは双剣で両断するも、周囲への影響は甚大であった。母リサと祖母リンジーは戦いながらもリディヤの恋心をあからさまに語り、羞恥に震えるリディヤは再度魔力を集中させて挑む姿勢を見せた。
緊急報告と戦闘の中断
突如、リリーが屋敷から飛び出し、アンナと共にリディヤとリサの戦いを強制的に止めた。二人の表情には緊張が走っており、ただ事ではない空気をまとっていた。これにより、リディヤも炎翼を消し、母も日傘を退けた。
王都からの凶報とリディヤの崩壊
アンナは重大な報告を口にした。それは、王都にて貴族守旧派が謀反を起こし、王宮が炎上したというものであった。リチャード公子殿下やアレンが所属する近衛部隊は東都において奮戦しているが、生死は不明とされた。
この報せを受けたリディヤは感情を制御できず、アレンの元へ駆け出そうとするが、母リサに制止される。アレンの存在が自分の生きる支えであると認めたリディヤは、ついにその場で泣き崩れた。かつての『剣姫』は、この瞬間、ただの一人の少女へと戻り、深い悲しみに沈んだ。
第 4章
獣人新市街での商談と旧友との再会
アレンは、リチャード・リンスター公子殿下に同行し、東都の獣人新市街を訪れた。目的は旧友スイの経営する「スイ商店」への訪問と、近衛騎士団への酒の手配であった。幼少期からの知己である狐族のスイと再会し、同伴していた美しい女性モミジが彼の婚約者であることが明かされた。モミジはトレット家に育てられたが実子ではなく、スイとの結婚を機に家を出ることを命じられていた。アレンは注文書を贈り、結婚祝いとしながら、式への出席を条件に取引が成立した。
御魂送りと家族とのひととき
アレンは浴衣に着替え、妹カレンや両親とともに、東都の伝統行事「御魂送り」に参加した。この行事は、魔王戦争で命を落とした獣人勇士達の魂を慰めるものであり、多くの住民が灯篭を流して静かに祈りを捧げた。カレンとの心温まるやりとりの後、大橋で灯篭を流す儀式が行われ、アレンは家族と友人の幸福を願った。花火が打ち上がる中、カレンは感情を昂らせて好意を口にしかけるが、最後はそれを秘密として濁した。
夜明けの魔法訓練と異常の察知
翌早朝、アレンは内庭で日課の魔法訓練を行っていた。様々な属性魔法を制御し、広域探知魔法を用いた際、東都近辺に向かって進軍する多数の軍勢を発見する。数千規模の複数部隊であり、オルグレン公爵家の領地である東都が標的となっていた。即座に警戒を発しようとした矢先、灰色のローブをまとった暗殺者達に包囲される。
暗殺者の襲撃と交戦
アレンは魔法で短剣や鎖による攻撃を防ぎつつ、相手の正体を聖霊教の異端審問官と見抜いた。雷や闇属性魔法で次々と敵を制圧し、隊長格の男を拘束したが、男はアレンを「危険な存在」として自爆を試みた。しかし魔法式は起爆せず、暗殺者達は灰となって崩壊した。聖女と呼ばれる存在の意志により、何らかの干渉があった可能性が示唆された。
東都への攻撃と家族への危機
その直後、獣人街の一部が実際に攻撃を受けていることが小鳥型魔法生物によって報告された。アレンは妹カレンを安心させつつ、家族へ知らせようとするが、母エリンが父ナタンの異変を訴え、悲鳴を上げる。アレンとカレンは急ぎ屋敷内に戻った。状況は既に切迫しており、東都は聖霊教による反乱の戦火に包まれつつあった。
父の負傷と家族との別れ
アレンは暗殺者の襲撃により足を負傷した父を見舞い、治癒魔法を施したが完治には至らなかった。妹カレンと魔力を繋げば回復可能と判断しつつも、それによって彼女を戦場へ連れて行くことを避け、別れを告げて出発した。両親のもとにカレンを残し、自らは杖を手に東都の戦場へと向かった。
東都の現状と戦況の把握
旧市街では各所から黒煙が上がり、獣人街のみが襲撃されていた。小鳥型の偵察魔法から、近衛騎士団や自警団が住民避難に尽力している状況を確認し、アレンは主に大通りを経由して戦力が集中している旧市街中央へ向かった。信号弾の色から敵襲が大樹へ及んでいることを知り、危機の深刻さを認識した。
叛乱軍との交戦と指揮官への対応
現地では近衛騎士団が避難民を守るために陣を張り、オルグレン配下のゲクラン伯爵軍が攻めかかっていた。アレンは屋根上から奇襲を仕掛け、初級魔法を駆使して敵兵を次々に制圧。指揮官へ直接雷撃を浴びせ、混乱を誘発した。その後、近衛騎士団副長リチャードと合流し、事前に投げ込まれた書簡がオルグレン公爵とジェラルドの謀略を示す証拠であることを知った。
旧貴族連合と聖霊教の関与の発覚
アレンはこの叛乱がオルグレン公爵家だけでなく、東方の貴族守旧派全体と聖霊教の暗部が関与する大規模な反乱であると判断した。情報収集中に、獣人族の族長達が現実を直視せず、和平交渉を模索していることを知り、憤りを感じた。
第二陣地への後退とロロ団長との再会
アレンとリチャードは戦術的に第一陣地を放棄し、罠を設置しながら第二陣地へ後退。その道中、豹族で自警団団長のロロと再会し、彼の要請に応じて共に民間人の避難を進めることを決意した。ロロはアレンの未来への影響力を強く信じ、命懸けの願いとして彼の無事を懇願した。
指揮の分担と戦闘準備の強化
近衛副長リチャードはロロと協力して若手部隊を避難誘導へ投入し、自らはアレンとともに残ることを選んだ。アレンはリチャードを「友人」として信頼し、共に最前線に立つ覚悟を固めた。ベルトランに予備陣地の構築を任せた後、再び前線に立ち、魔法で敵軍の攻撃を迎撃した。
覚悟と突撃の決断
敵軍本隊の登場により戦況はさらに緊迫化した。アレンは撤退を提案するも、リチャードはそれを拒否し、恩義と信念に基づいて共に戦う意志を示した。リチャードの檄により近衛騎士団が一丸となって突撃。アレンもまた、全力を尽くしてこの場に立ち向かう覚悟を新たにし、仲間と市民を守るため戦場を駆け抜けた。
敵軍の増援と自軍の劣勢
アレンとリチャードは大通りの第二陣地を拠点に防衛を継続したが、敵軍は勢いを増し、数において圧倒的な差が出始めていた。近衛騎士団の兵士達は疲労を溜めながらも応戦を続けていたが、前方からさらに多数の軍旗が確認され、敵の主力部隊が続々と到着しつつあることが明らかとなった。アレンは戦況が長引けば敗北は避けられないと判断し、覚悟を新たにした。
殿軍の配置と更なる後退
アレンとリチャードは後退戦を決断し、ベルトランの指揮により第三陣地への撤退準備を開始した。道中には様々な罠を仕掛け、自軍の被害を抑えつつ敵の進行を阻止する策を講じた。殿軍として踏みとどまる近衛騎士達の協力もあり、部隊は秩序ある形での移動を維持していた。敵軍の追撃は苛烈であったが、後衛部隊の奮戦により撤退は成功しつつあった。
政治的混乱と指揮系統の断絶
一方、大樹に籠る獣人族の族長達は依然として会議に終始し、実質的な指揮命令は機能していなかった。アレンは、自警団や旧来の族長達の意見が無視されていることに苛立ちを募らせた。敵の奇襲と内部の無策が重なり、東都の防衛体制は著しく弱体化していた。戦場では、個々の判断と現場の対応能力が唯一の防衛線となっていた。
戦意高揚と連携の再構築
リチャードは自身の身分や役割を超えて前線に立ち、騎士達を鼓舞した。その姿勢は兵士達に伝播し、士気の維持に貢献していた。アレンもまたリチャードを友と認め、共にこの困難を乗り越える覚悟を固めた。彼らは部隊の再配置と指揮体制の再編を進めつつ、次なる敵波の到来に備えて防衛線を整備していった。
次なる戦闘への決意
敵軍の増援は止む気配を見せず、戦況はさらに厳しさを増していた。アレンは友人や家族、避難民のため、自らの命を賭してでも戦い抜くことを誓った。リチャードもまた、その意志を共有し、共に立ち向かう姿勢を明確に示した。彼らは互いを信じ、次なる戦局に向けて陣地に立ち、戦闘の継続を決意した。
エピローグ
退避後の情景と市民の協力
アレンは戦場から戻った後、大樹の外に座り込み、軽傷者たちとともに安堵のひと時を過ごしていた。そこでは人種や種族を越えた協力が行われており、旧市街と新市街の対立も人族への憎悪も見られなかった。多くの市民が自主的にテント設営や救護活動、炊き出し、物資運搬に従事していた。
幼女との出会いと再出発の決意
アレンは新市街で出会った狐族の幼女イネと再会した。彼女の姉が大橋の向こうに取り残されたと知り、アレンは救出を決意した。群衆の中では狼族の少年トネリたちが怯え、信号弾の意味からアレンを止めようとするが、アレンは迷いなく橋を渡る意志を示した。
両親との対話と別れ
大橋の手前でアレンは母エリンに引き留められ、愛情に満ちた言葉と涙で別れを告げられた。アレンは家族への感謝と誇りを語り、自身の使命を果たす決意を伝える。父ナタンにも敬意と愛情を込めて別れを告げ、二人から受け継いだ名と命に懸けて人々を救うと誓った。
妹カレンとの別れと決意の固め
陣地に到着したアレンは妹カレンの同行を拒否した。彼女の魔力減衰を見抜き、無理をさせないためであった。カレンは反発するが、アレンは抱きしめ、感謝と別れの言葉を告げた後、強制的に魔力を遮断して気絶させ、シマに託す。さらに新たに届いた短剣をカレンに残し、自らは戦場へと向かった。
前線への復帰と決死隊の編成
アレンは自ら決死隊の指揮を取り、近衛騎士団から選抜した47名を率いて出撃を宣言した。自警団は命令権限の都合上同行を見送られたが、彼らの理解と協力に支えられて出発準備が整えられた。周囲からの惜別の中、アレンは決意を胸に前線へ進んだ。
リチャードとの合流と決戦の開始
前線でアレンはリチャードと再会し、共に決死隊を率いることを確認した。軽口を交えながらも互いの覚悟を認め合い、出撃を開始した。リチャードは炎の魔法で敵を攻撃し、アレンは地形変化と風の魔法で進軍を阻止した。近衛騎士達は一斉に武器を構え、赤髪公子殿下の号令のもと突撃を開始した。
出撃と援護、決意の象徴
アレンはリチャードに導かれた近衛騎士団とともに叛乱軍の戦列へ突入した。後方では残留部隊と自警団、義勇兵が援護射撃を開始し、戦場には激しい魔法の嵐が吹き荒れた。アレンの長杖に結ばれた紅と蒼のリボンは、彼の決意と信念の象徴として輝いていた。
同シリーズ









その他フィクション

Share this content:
コメントを残す