小説「ヘルモード 7 エルマール教国編」感想・ネタバレ

小説「ヘルモード 7 エルマール教国編」感想・ネタバレ

『ヘルモード』第7巻の表紙画像(レビュー記事導入用)

ヘルモード 6巻 レビュー
ヘルモード 全巻 まとめ
ヘルモード 8巻 レビュー

Table of Contents

物語の概要

ジャンルおよび内容

本作は、異世界転生もの+ゲーム的バトルファンタジーである。元廃ゲーマーの主人公が、「ヌルゲー化した現代ゲーム」に絶望した末、「最高難易度“ヘルモード”を選ぶ」と異世界へと転生する。攻略情報も掲示板も存在しない難設定の世界で、主人公は“召喚士”という職業を駆使しながら、己のゲーム知識と努力で最強を目指していく。第7巻では、前人未到のS級ダンジョン「試練の塔」を攻略し終えた主人公たちが、救難信号を受けた教国へ赴き、複数のチームに分かれて同時多地点の危機に立ち向かう展開が描かれる。

主要キャラクター

  • アレン:本作の主人公。元ネトゲ廃人としての経験を活かし、転生後は召喚士として“廃設定”の異世界を攻略し始める。第7巻では、チーム編成と並行作戦でも指揮を執る役割を担う。
  • セシル:アレンの仲間であり、チーム「アレン」の一員。戦闘面・進行面でアレンを支える役割を果たす。

物語の特徴

本作の魅力は、「廃ゲーマーが攻略本も掲示板もない異世界で無双していく」点にある。多くの異世界ものが「転生→即チート」構造を採る中、本作では「攻略情報皆無」「設定が厳しい」「やり込み要素重視」という“ハードモード”設定が核となっている。第7巻では、複数チームに分かれて同時攻略という構成が導入され、戦略/連携/スピード感が強調されている点も他作品と差別化される。加えて、“召喚士”職業の活用、チーム分割によるマルチ進行、そして高難度ダンジョン攻略というゲーム的構成が読者に“やり込み感”“攻略感”を提供している。

書籍情報

ヘルモード7~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~
著者:ハム男 氏
イラスト: 氏
出版社:アース・スターノベル
発売日:2023年3月15日
ISBN:9784803017632

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あらすじ・内容

各国の英雄たちと力を合わせ。前人未到のS級ダンジョン「試練の塔」を攻略したアレン達。勝利の喜びもつかの間、エルマール教国からの救難信号が届き、アレン達は再び戦いの中へと身を投じていく。救難信号が送られたニールの街に到着したアレン達が見たのは、魔物と化した人間たちに襲われる人々の姿だった。しかし、異変が起きているのはこの街だけではなかった。いくつかの場所で光の柱が空に伸びているのを発見したアレン達は、すべての場所を救うためにパーティーを3つに分ける。アレン、セシル、ドゴラのチームアレン。キール、クレナ、メルスのチームキール。ソフィー、メルル、フォルマールのチームソフィー。それぞれのチームが独自に行動し、問題解決を目指して奮闘していく!パーティー分割で同時攻略!最効率で国を救え!!

ヘルモード 7~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~

感想

今巻では、アレンたちがS級ダンジョン「試練の塔」を攻略した直後、エルマール教国からの救難信号を受けて、教都テオメニア炎上という未曾有の事態へ巻き込まれていく。
処刑場から立ち上った黒い炎が街全体を焼き尽くし、辛うじて脱出した人々も、今度は邪神の影響で「邪神の化身」となって人を襲い始める。
アレン一行がたどり着いたニールの街は、そうした魔獣化した元・市民たちに包囲された地獄絵図であり、その中でキールが「金色の青年」として浄化の光を降らせ、人々を救っていく姿は、まさに、この世界の「希望の象徴」としての神官像が鮮やかに描かれていると感じた。
決してとあるクランのマスターのように思ってはいない。

物語は、ニール防衛戦から、邪教教の「聖水」が仕込んだ長期的な罠の解明、香味野菜による浄化と各地の避難民救出へと、物語は一気に「邪教徒編」の前半戦へ雪崩れ込んでいく。
公開処刑の最中に起きた異変、街を埋め尽くす邪神の化身に対して、アレンが回復アイテムや召喚獣を惜しみなく投入し、戦略を駆使して「救える者」と「救えぬ者」の線引きを迫られる展開は、この世界の過酷さに戦慄した。宗教の中心地であるエルマール教国からの救助要請に、迷わず駆けつけるという構図も含めて、「人類側オールスター総動員の戦い」がいよいよ本格化してきた印象を受けた。

中盤のハイライトは、魔王軍二百万の侵攻という世界規模の戦況の中で、ゼウ獣王子たちと役割分担し、アレンがエルマール救援に向かう決断を下す場面と、その先に待つ魔神リカオロン戦。
ニールを拠点に各地の救助を進めつつ、テオメニアの神殿で魔神と対峙し、タムタムの長距離狙撃砲とセシルのエクストラスキル「プチメテオ」を組み合わせて祭壇ごと叩き潰すまでの一連の戦闘は、スケール感と戦術の両面で読み応えがあった。
一方で、その裏ではドゴラに死亡フラグめいた予兆が重なり、肝心の切り札スキルを思うように使えない焦燥も描かれていく。盾役として奮闘しながらも、自分だけエクストラスキルを発動できないことに苦しむ姿は、次巻以降、彼がどう「英雄」へと至るのかを強く意識させる仕掛けになっていた。

終盤では、世界の「理」や八英雄計画といった神々側の事情が明かされ、これまでの出来事が一段高い視点で繋がっていく。アレンに一人分以上の力が集中している理由や、才能ある仲間たちが自然と集まってきた背景が語られることで、パーティー全員の存在意義が改めて整理されるのが印象的だった。
そのうえで、テオメニアから伸びていた光の柱が空に浮かぶ謎の「島」へと繋がり、さらに東西南へも同じような災厄が広がっていることが示される。
そして、アレン・キール・ソフィーをそれぞれリーダーとする三チームに分かれて行動を開始するところまで描かれ、邪教徒編後半戦への期待が一気に高まる締めくくりになっている。キールやソフィーが立派に仲間を率いる姿を見ると、「本当に成長したな」と親のような目線で見守ってしまった。

気になった点としては、作中のパワーバランスである。
設定上、魔王と勇者が同じ星5の強さであり、それがこの世界の頂点級であるならば、魔神は本来それよりも下位の存在であるはずだと理解している。
しかし、今巻の描写だけを見ると、魔神リカオロンをはじめとする魔神級の敵が、時に魔王や勇者にも匹敵しそうな「別格」の強さを見せており、星の格付けと体感的な強さのバランスにやや違和感を覚えた。
これは今後、魔王軍内部の階層構造や、魔神ごとの役割・特殊性が掘り下げられていく中で自然と説明されていく可能性もあるので、続巻でどのように整理されるのかに期待したいところである。

ヘルモード 6巻 レビュー
ヘルモード 全巻 まとめ
ヘルモード 8巻 レビュー

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

アレン

召喚士として多種の召喚獣を運用しつつ、各地の邪神災厄と魔王軍侵攻に対処する中心人物である。仲間や各国の指導者と協力しながら、三方面で同時に進む危機を整理し、最適な戦力配分と作戦立案を行う役割を担う。

・所属組織、地位や役職
 グランヴェル家に関わる立場である。召喚士として五大陸同盟側の戦力になっている。

・物語内での具体的な行動や成果
 黒炎に包まれたエルマール教国救援を主導し、ニール防衛と広域救助作戦を展開した。魔神リカオロンとの戦いでは祭壇破壊作戦を立案し、タムタム狙撃砲とエクストラスキル「プチメテオ」で討伐に成功した。虫Aや金の豆、結界林を用いて邪神の化身の拡散を抑え、各地への救援隊三分割も決断した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 創造神エルメアにより、本来八人に分配されるはずの力を一人で受けた召喚士である。周囲の才能が集まりやすいよう理を調整された存在であり、各国指導層や神官から「始まりの召喚士」と認識されている。

キール

かつて教会に救われた経験を持ち、神官たちへの恩義を強く意識する青年である。浄化能力に優れ、人々から「金色の青年」と呼ばれて信仰と敬意の対象になっている。

・所属組織、地位や役職
 アレンの仲間である。エルマール教国では救援隊の一員として神官団と協力している。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニール攻防戦で上空から「ターンアンデット」を放ち、人型魔獣や邪神の化身を大量に浄化した。香味野菜の配布や結界運用に関わり、信者の隔離や二次感染防止にも尽力した。国境要塞戦では「天の恵み」と回復の種で広域回復を行い、兵士たちの戦線維持に貢献した。特別書き下ろしでは炎上中の村で穀物庫を守り、重傷を負いながらトロルキングに立ち向かった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ニールでは枢機卿から神意に導かれた存在と受け止められ、「聖人の浄化の光」をもたらす象徴的な人物になっている。南方戦線ではリーダーとして地図交渉や防衛線構想を主導し、自身の使命を自覚しつつある。

クレナ

大剣を振るう前衛戦士であり、一騎当千級の戦闘力を持つ女性である。仲間を守るため危険な前線へ出ることをいとわず、破壊力と機動力で戦況を押し返す役割を担う。

・所属組織、地位や役職
 アレンの仲間である。各地の救援隊で主力戦士として運用されている。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニール攻防戦で突撃し、人型魔獣や巨人系魔獣の群れを押し返した。魔神リカオロン戦では限界突破と強化を受け、覇王剣で脚部を破壊して拘束戦術に貢献した。国境要塞戦では巨大猿型魔獣の腕を両断し、連続技で敵集団を一掃した。特別書き下ろしではトロルキングを一刀両断し、キールが守った村の奪還を完了させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 南方要塞の兵士から「剣聖」と誤解されるほどの活躍を見せ、周囲から英雄視されている。各戦場で前衛の象徴的存在として名が知られている。

セシル

名門グランヴェル家の一員であり、魔法戦闘と実務能力を兼ね備えた人物である。家族や縁者の将来を案じながら、アレン隊の一角として冷静に戦況分析と魔法支援を行う。

・所属組織、地位や役職
 グランヴェル家の子女である。アレン隊の魔法担当として行動している。

・物語内での具体的な行動や成果
 魔神リカオロン戦で氷壁と水膜を展開し、狙撃砲作戦のため敵の注意を前方へ誘導した。終盤ではエクストラスキル「プチメテオ」を発動し、巨大隕石で神殿と魔神を押し潰した。西方行動では鳥B上で香味野菜生成の分配を担当し、長期戦に備えた物資備蓄を進めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦後にグランヴェル家が伯爵家へ昇る見込みの一因として評価されている。自らも英雄視されており、王国の政治的思惑の中で重要な立場になっている。

ドゴラ

盾役として前線に立つ戦士であり、仲間を守る意識が強い男性である。攻撃より防御を重視するが、決定打に関われない現実に悩む側面も描かれている。

・所属組織、地位や役職
 アレンの仲間である。パーティ内では盾役として前衛を担当している。

・物語内での具体的な行動や成果
 エルマール教国救援時に北方戦線へ戦力を残す判断に同意し、各戦域の防衛に協力した。魔神リカオロン戦では前衛として攻撃を受け止め、クレナやメルスの攻撃機会を作った。キールの救援任務では同行を望み、危険を承知で前線参加を続けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エクストラスキルが最初から王級であることが明かされ、勇者ヘルミオスと同格の潜在能力を持つと評価されている。現時点では発動に至っていないが、将来の魔王討伐における要と位置づけられている。

ソフィー

ローゼンヘイムの王女であり、精霊魔法を扱う精霊使いである。他者との和解と共存を重視し、異なる種族との橋渡し役を務める。

・所属組織、地位や役職
 ローゼンヘイム王家の王女である。アレン隊の一員として東方救援隊を率いている。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニールで世界樹由来と説明された香味野菜の信頼性を補強し、住民の不安を和らげた。ムハリノ砂漠行きではチームリーダーとしてメルルやフォルマールを率い、ファブラーゼの里を救援した。ダークエルフ王オルバースとの対話では、過去の因縁に向き合いつつ協力要請をまとめ、避難所設置と地図提供の合意を得た。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「祈りの巫女」と同じ戦衣を身に着けながらも、自身の歴史には負い目がないと明言し、謝罪と説明を両立させたことで、ダークエルフ側との和解へ一歩を進めた。ムハリノ砂漠方面の人命救助と政治交渉を一手に担う存在である。

メルル

タムタムを操縦し、地図石板や強化石板を駆使する技術担当の少女である。出自に複雑さを抱くが、仲間として認められたいという思いが強い。

・所属組織、地位や役職
 アレン隊の技術担当である。S級ダンジョン拠点でタムタム運用を任されている。

・物語内での具体的な行動や成果
 タムタムに最速の自動操縦を設定し、エルマール教国や各方面への高速移動を実現した。魔神リカオロン戦ではタムタムを狙撃砲形態へ変形させ、神殿側面からの光線で祭壇を破壊した。ムハリノ砂漠方面では多砲身砲で外壁周辺の邪神の化身を掃討し、ファブラーゼ防衛に貢献した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ソフィーから過去の戦いでの働きを明確に評価され、仲間として対等に扱われることで、チームへの所属意識を強めている。タムタムと石板運用において不可欠な戦力である。

メルス

創造神エルメアに仕える第一天使であり、偵察と戦闘、伝達を兼ねる存在である。神々側の事情を知りつつ、人間側の戦いも支援する立場にある。

・所属組織、地位や役職
 神界に属する第一天使である。アレン隊の召喚対象として行動する。

・物語内での具体的な行動や成果
 テオメニア偵察任務に単独で向かい、黒焦げの街と青白い光柱の異常を報告した。魔神リカオロンとの複数回の交戦で敵の強さを測り、魔神級脅威の存在を確認した。南方要塞戦では虫Aとハッチを率いて広域殲滅を行い、「裁きの雷」で川を渡る敵軍を一度に撃破した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エルメアの代理として、世界再生の真実やエクストラスキル階級の秘密をアレンたちに明かした。王級を持つドゴラの資質を説明し、今後の戦いにおける位置付けを示した。人前に姿を見せたことで、現地兵士から絶対的存在と認識されている。

ゼウ獣王子

アルバハル獣王国の王子であり、十英獣を率いる獣人の戦士である。妹シアや同盟国を守る責任を強く意識している。

・所属組織、地位や役職
 アルバハル獣王国の獣王子である。十英獣の指揮権を持つ。

・物語内での具体的な行動や成果
 魔王軍二百万侵攻とエルマール教国危機が重なる中で、ローゼンヘイム防衛を自らと十英獣が担うと宣言した。アレンにはエルマール教国救援を一任し、妹シアの安全も託した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦略的にはローゼンヘイム北部戦線の柱となり、多方面作戦を成立させる前提を作った。覚悟ある決断により、同盟内で信頼と発言力を高めている。

シア獣王女

アルバハル獣王国の王女であり、獣人部隊を率いてクレビュール王国救援に当たる軍事指揮官である。政治的感覚も持ち、同盟関係構築を意識して行動する。

・所属組織、地位や役職
 アルバハル獣王国王女である。クレビュール王国方面の救援軍指揮官になっている。

・物語内での具体的な行動や成果
 二十万規模の避難行列を護衛しながら行軍し、戦死者の遺品整理と負傷者確認を指揮した。クレビュール国王へ「同盟」の語を繰り返し用いて、アルバハルとの関係を既成事実化しようと試みた。敵軍六万接近時には湿地を利用した三列防壁を構築し、弓隊と魔法隊の連携で大軍を迎え撃った。ラスの変異時には自ら止めを刺す覚悟を固め、部下の最期に向き合った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 実戦指揮と外交的発言を通じて、アルバハルとクレビュールの同盟関係を事実上進めている。カルミン王女とのやり取りを通し、将来的な政治的連携の芽も生まれている。

大教皇イスタール

エルマール教国の最高指導者であり、創造神エルメアの神託を受ける人物である。教国と五大陸同盟の結束維持を使命とする。

・所属組織、地位や役職
 エルマール教国の大教皇である。エルメア教会の頂点に立つ存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 「金色をまとった青年が天より駆けつける」という神託を受け、簡潔な文言の意味を慎重に検討した。邪神教教祖グシャラの火刑に立ち会い、最後の悔悟の機会を与え、対価を伴う救済の正当性を説明した。グシャラが神器を起動させた後は「聖なる道標」を発動し、黒炎を押し返しつつ負傷者を癒し、全世界への救難信号発信を命じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 漆黒の炎に包まれて死亡したが、その犠牲により脱出した者が救難信号を送る時間を得た。焼け残った「神秘の首飾り」は次なる継承者を待つ象徴として残されている。

グシャラ(魔神グシャラ)

グシャラ聖教の教祖として貧民救済を掲げつつ、実際には強奪と搾取で力を蓄えた人物である。後に魔神として真の姿を現す。

・所属組織、地位や役職
 グシャラ聖教の教祖である。魔王軍側の魔神となる。

・物語内での具体的な行動や成果
 火刑の場で自らの計画を明かし、銀の盆形の神器を起動させ、漆黒の炎を街中に放った。聖水を用いて信者に化身の因子を仕込み、黒炎と組み合わせて邪神の化身を大量に生み出した。魔王への報告として、テオメニア壊滅と化身の誕生を成果とみなした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 人間の教祖から魔神へ変貌し、邪神復活計画における「餌」準備の中心となった。テオメニア事件により大陸規模の災厄を引き起こした。

魔神リカオロン

犬のような頭部を持つ魔神であり、テオメニア神殿の祭壇を守る役割を負う存在である。俊敏な動きと高い戦闘能力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 魔王軍所属の魔神である。テオメニア神殿の祭壇守護を任されている。

・物語内での具体的な行動や成果
 第一天使メルスを複数回撃破し、単独行動の偵察を拒んだ。アレン一行との戦闘では前衛と後衛の連携を逆手に取り、前衛を盾にして後衛を狙う戦術を見せた。祭壇破壊後は第二形態へ変貌し、強化クレナとも互角以上に渡り合ったが、脚部破壊と巨大隕石によって討たれた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 テオメニアの生存者を皆無にしたとされる魔神であり、青白い光柱の源となっていた。討伐後、光柱は途絶え、街を覆う重大な脅威の一つが消えた。

魔王

魔族側の頂点に立つ存在であり、六大魔天や魔神たちを率いて世界侵攻と邪神復活計画を指揮する。冷静に戦略を調整しながら、複数大陸への侵攻を進める。

・所属組織、地位や役職
 魔王軍の最高指導者である。魔族の支配者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 玉座の間で邪神復活計画の進捗を確認し、「贄」と「餌」の準備状況を把握した。ローゼンヘイム侵攻失敗を受けて計画を修正し、ギャリアット大陸での餌回収と中央大陸、バウキス帝国への同時侵攻を命じた。軍総司令オルドーに侵攻統括を任せ、キュベルにはグシャラ補佐と計画監視を担当させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 邪神復活が近い未来にあると見込み、魔神や研究者の成果を評価しつつ戦線運用を続けている。世界規模の戦乱の根源として描かれている。

オルドー

魔王軍の軍総司令であり、広範な戦線運用と部隊指揮を担う魔族である。規律と軍略を重んじ、研究者との摩擦も抱える。

・所属組織、地位や役職
 魔王軍の軍総司令である。魔王直下の指揮官である。

・物語内での具体的な行動や成果
 研究区画でシノロムを会議へ呼び出し、軍略的価値を理解しつつ不敬な態度に怒りを抑えた。玉座の間では侵攻失敗の責任を巡り、参謀キュベルと言い争いになりかけた。魔王から中央大陸とバウキス帝国への同時侵攻統括を命じられ、その遂行を誓った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 邪神復活計画の軍事面を任される立場として、今後の大規模侵攻の成否を左右する役割にある。魔王への忠誠心が強く、命令遂行を最優先にしている。

キュベル

仮面をつけた参謀であり、情報操作や長期計画立案を担当する魔族である。軽い口調ながらも冷徹な判断を行う。

・所属組織、地位や役職
 魔王軍の参謀である。邪神復活計画の企画と監視に関わる。

・物語内での具体的な行動や成果
 修羅王バスクの負傷時に接触し、強敵との戦いと魔法具、治療を条件に魔王軍加入へ誘導した。玉座の間ではローゼンヘイム侵攻失敗について軽い口調で反省を述べたが、オルドーの怒りを買った。邪神復活計画ではグシャラ補佐として最終段階の監視を任されることになった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 計画の成否に深く関わる立場にありながら、他の幹部との摩擦も抱える。魔王から信頼を受けており、危険な人材の取り込みにも関与している。

シノロム

魔王軍側の研究者であり、人工上位魔神の研究や転移装置の開発を進める人物である。研究成果に強い執着を持つ。

・所属組織、地位や役職
 魔王軍の研究部門に所属する。ラモンハモンなどの融合体を担当する研究者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 姉弟魔神由来の人工融合体ラモンハモンの魔力値を上昇させ、量産可能性を示していた。転移装置の完成に近づきつつあり、戦線運用を変える技術開発を進めていた。魔王からの召集よりも研究を優先し、オルドーに迎えに来られるほど会議参加を軽んじた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 研究成果は魔王軍にとって戦略的価値が高く、多少の不敬が容認されている。人工上位魔神と転移技術は今後の戦局に大きな影響を与える可能性がある。

調停神ファルネメス

角と鱗を備えた獣の姿を持つ調停神であり、創造神エルメアの命で神々や理の乱れを裁く存在である。中立的立場から各勢力を監視する。

・所属組織、地位や役職
 神界に属する調停神である。エルメアから任務を受ける立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゼニテクス商業国に降臨し、信仰値乱用を行った商神ゼーニを処刑した。巨大な金貨円盤の攻撃をかわし、角で貫き、頭部を踏み砕いて神格を粉と化した。神界へ戻った後は、穴の開いた神器をエルメアに返却し、新たな魔王誕生の調査任務を受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 商神処分を連続して担当しており、エルメアからの信頼は厚い。魔王に関する次の裁きも託されており、世界の理の維持に深く関わっている。

オルバース

ダークエルフの里ファブラーゼを治める王であり、精霊王ファーブルと共に砂漠の緑地を維持する指導者である。過去の歴史と現在の情勢の板挟みになっている。

・所属組織、地位や役職
 ダークエルフの里ファブラーゼの王である。精霊王ファーブルと協力する立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ソフィーが祈りの戦衣を見せた際、長老や将軍の怒りを一喝して場を収めた。ムハリノ砂漠で進行中の邪神災厄の説明を聞き、地図提供と避難所設置へ協力することを決断した。父の名と同名の魔神レーゼル討伐の話を聞き、その最期の言葉を知って涙を流した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 過去の因縁を抱えながらも、現状の危機に対して現実的な協力を選んだ。ソフィーたちとの対話を通じて、他国との連携を進める方向へ舵を切っている。

精霊王ファーブル

巨木と緑の天蓋を維持する精霊王であり、ムハリノ砂漠の中に里を存続させる根幹となる存在である。

・所属組織、地位や役職
 ダークエルフの里ファブラーゼに関わる精霊王である。巨木の加護を司る存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 砂漠の中に巨大な一本の大樹と緑の天蓋を生み出し、里の生活基盤を支えている。オルバースや長老と共に、ソフィーたちの来訪に立ち会った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「いずれ世界樹と呼ばれる」と語られる巨木の力の源であり、砂漠地帯の数少ない安定拠点を作り出している。精霊信仰と里の誇りの象徴になっている。

カルミン王女

クレビュール王国の王女であり、危機の中で獣人たちの献身に感謝を示す人物である。紫色の宝石を腕輪として身に着けている。

・所属組織、地位や役職
 クレビュール王国の王女である。避難行列に同行している。

・物語内での具体的な行動や成果
 湿地での退却戦のさなか、獣人部隊の働きに対して「必ず報いる」と誓いを口にした。シア獣王女の言葉を受け止め、事態収束後に改めて話し合う約束を交わした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 宝石付きの腕輪を身に着けた姿で覚悟を見せ、クレビュールとアルバハルの関係強化の象徴的存在となっている。今後の政治的な役割が示唆されている。

クリンプトン枢機卿

エルマール教国の枢機卿であり、テオメニア炎上後のニール防衛に関わる高位聖職者である。冷静に状況を説明し、救援側と教会側をつなぐ役割を持つ。

・所属組織、地位や役職
 エルマール教国の枢機卿である。ニールの神官団を統率する立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 三日前のテオメニア炎上の経緯をアレンたちに説明し、銀の皿から噴き上がった黒炎の惨劇を証言した。聖水による信者認定の仕組みを明かし、潜入神官の結果も共有した。香味野菜による浄化を受け入れ、信者たちを保護対象として扱う方針を取った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 救難信号に最初に応えたアレン一行を神意の導きと解釈し、人々の前でその立場を認めた。ニール復興と信者処遇において重要な判断者になっている。

ルド

シア獣王女の部隊を率いる戦士であり、副官ラスと共に前線で戦う獣人である。

・所属組織、地位や役職
 アルバハル獣王国の兵である。シア直属部隊の隊長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 湿地の三列防壁の防衛戦で指揮を執り、邪神の化身と戦った。ラスが変異しかけた場面では制圧に動き、状況の悪化を食い止めようとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 シアの信頼を得て部隊運用を任されている。ラスの変異と死を目撃したことで、今後の戦いにおける心情面の変化が示唆されている。

ラス

シア獣王女の副隊長であり、鹿の獣人の戦士である。忠義心が強く、主君を庇う行動が描かれている。

・所属組織、地位や役職
 アルバハル獣王国の兵である。シア部隊の副隊長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 湿地防衛戦でサンショウウオ型の邪神の化身からシアを庇い、身を挺して攻撃を受けた。噛傷を受けた結果、漆黒の肉体へ変異し始め、自身の変化を悟った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 変異の悲劇を象徴する存在となり、シアにとっては自ら止めを刺さざるを得ない決断を迫るきっかけになった。その最期は邪神の化身への感染の危険性を印象づけている。

ヘルミオス

勇者となる少年期が描かれた人物であり、病の母を救うために行動する優しい少年である。後に「奇跡の力を持つ英雄」となる兆しを示す。

・所属組織、地位や役職
 幼少期はギアムート帝国辺境のコルタナ村の住民である。将来勇者となる運命を持つ。

・物語内での具体的な行動や成果
 流行病で苦しむ母を救うため、危険な山へ一人で薬草星降草を採りに向かった。ゴブリンの群れに囲まれ、右腕を傷つけられながらも、突発的に湧き上がった力でゴブリンキングの指を折り、片目を突き刺して討ち取った。大量の薬草と肉を持ち帰り、家族に希望をもたらした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大教皇の神託で「奇跡の力を持つ英雄の誕生」と示された存在である。星降草を巡る出来事で、後の勇者としての片鱗を初めて示した。

ルーカス

ヘルミオスの父であり、片腕の剣士である。戦闘経験を持ちながら、家族思いの父親として描かれている。

・所属組織、地位や役職
 ギアムート帝国辺境のコルタナ村在住である。元戦士とみられる。

・物語内での具体的な行動や成果
 山で危機に陥ったヘルミオスのもとへ駆けつけ、ゴブリンの群れを圧倒した。息子が自力でゴブリンキングを倒す姿を目にし、その才能を「剣聖」の資質と直感した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 息子に対し、どれほどの才を持っていても大切な子であると伝え、家族としての絆を確認した。ヘルミオスの成長を支える精神的支柱になっている。

カレア

ヘルミオスの母であり、病を患う女性である。息子に対して道徳的な教えを与える役割を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ギアムート帝国辺境のコルタナ村の住民である。家庭の中心である母親である。

・物語内での具体的な行動や成果
 果樹園の実を盗んだヘルミオスを叱る際、「才能も努力も奪ってはならない」と教え、価値観を示した。流行病で血を吐くほど弱りながらも、星降草を持ち帰った息子を抱きしめ、無茶をしたことを涙ながらに諭した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 その言葉がヘルミオスの行動原理となり、勇者としての生き方の基盤を形作っている。家族の絆と倫理観を体現する人物である。

バスク

「阿修羅」の才能を持つ戦闘特化の男であり、社会性に乏しいが戦闘能力が突出した冒険者である。やがて「修羅王」と呼ばれる存在になる。

・所属組織、地位や役職
 当初は単独の冒険者である。後に魔王軍に組み込まれる。

・物語内での具体的な行動や成果
 学園退学後、単独で魔獣を狩り続け、二十代半ばでSランク魔獣を討伐した。ギアムート帝国の要塞が陥落した後、単身で殲滅戦を行い、帰還した街で将校ブフタンらを斬殺した。ガルレシア大陸では王城や墓所を襲って魔法具を奪い、神秘の首飾りを求めてテオメニアへ侵入した。大教皇イスタール、オルバース王、獣王ヨゼ、マッカランとの連合戦で追い詰められたが、壁を破って逃走した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 瀕死の状態でキュベルに拾われ、強敵との戦いと魔法具、治療を条件に魔王軍入りを受け入れた。以後は「修羅王」として戦場の脅威となることが示されている。

スパチャクス

ゼニテクス商業国を支配する商王であり、商神ゼーニを信奉する支配者である。強引な再開発と利権独占を進めていた。

・所属組織、地位や役職
 ゼニテクス商業国の商王である。事実上の国家権力者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 旧王族を追放し、貴族位を金で買った富裕層と共に政権を掌握した。テオメニア神殿改修と連合国首脳会議を口実に供給独占を狙い、旧木材地区の住民を暴力的に排除しようとした。商神ゼーニ処刑後は恐怖に駆られ、テオメニア神殿改修へ国家財政を注ぎ込み続けた結果、内乱を招き失脚した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 当初は絶大な権力と富を握っていたが、神の裁きと自らの政策により国を崩壊させ、商王の地位を追われた。強欲と恐怖の帰結を示す人物である。

商神ゼーニ

ゼニテクス商業国で信仰される商神であり、信仰値を金銭と結びつけて扱う神である。信仰値乱用により調停神の裁きを受ける。

・所属組織、地位や役職
 神界に属する商神である。ゼニテクス商業国の守護神とされていた。

・物語内での具体的な行動や成果
 スパチャクスの儲けを称賛しつつ、テオメニア神殿改修と会議会場整備を急がせた。神器「天秤」で世界の真理を測る力を誇示し、扱いを誤れば破滅すると警告した。過去に「金で信仰を集めている」と笑われたことへの鬱屈を吐き出していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 調停神ファルネメスにより金貨へと砕かれ、灰となって消滅した。神器のみが回収され、暴走した商神の一柱として処分された。

展開まとめ

第一話 エルマール教国からの救難信号

テオメニア炎上と黒炎の脅威
エルマール教国の首都テオメニアが、邪神教祖グシャラの処刑直後に出現した漆黒の炎によって壊滅したとの報が、バウキス帝国へ届けられた。炎は都市全体を包み込み、生存者は大教皇イスタールの奮闘で生じた僅かな隙に脱出したのみであった。さらに脱出者の一部が魔獣化し、味方の神官を襲って眷属化させる異様な現象も発生しており、大陸全域への拡散が危惧された。

神器使用の疑念と魔王軍の関与
アレンと勇者ヘルミオスは、都市規模を焼き尽くす黒炎が火の神フレイヤの神器によるものである可能性を指摘した。神器はすでに魔王軍の手に落ちており、今回の災厄は魔王軍が新たな戦略として投入した力と推測された。キールは怒りを示し、ヘルミオスは救援参加を即決し、貴族たちは勇者の行動に希望を見出した。

魔王軍二百万侵攻と三面作戦の危機
同時期にギアムート帝国北方では魔王軍約二百万が侵攻しており、ヘルミオスが離れれば前線が崩壊しかねない状況であった。アレンは召喚獣戦力と結界要塞でローゼンヘイムを支えていたため全戦線に対応する余力はなく、三方面で同時に危機が発生する最悪の構図に直面していた。

ゼウ獣王子の決断と任務分担
緊迫する状況の中で、ゼウ獣王子は自らの使命を明確にし、ローゼンヘイム防衛は自分と十英獣が請け負うと宣言した。そしてアレンにはエルマール教国の救援を一任し、妹シアらを守ってほしいと頼んだ。アレンは獣王子の覚悟を受け止め、救援へ向かう決意を固めた。

出立前の準備と仲間たちの覚悟
アレン一行はS級ダンジョン拠点に戻り、天の恵みや金銀の豆、Aランク召喚獣を北方戦線に残して戦力を補強した。ドゴラは死の予兆を占われていながら同行を望み、「自分は駒ではない」と訴え、アレンは最悪の場合に故郷へ転移させると約束した。さらに精霊神ローゼンが祈りの巫女ローレッタの衣をソフィーに授け、彼女の力は大きく強化された。

エルマール教国への飛翔
最終調整を終えたアレン一行は、メルルのゴーレム・タムタムを飛行形態へ変形させ、鳥系召喚獣の補助を受けながらエルマール教国へ出立した。各方面への戦力配置を整え、覚悟を決めた上で、黒炎の災禍の源へ向けて飛び立つことになった。

第二話 アレンの決断、仲間の思い

タムタム航行と仲間の負担
アレン一行はタムタムの飛行形態でエルマール教国へ向かい、メルルが地図石板と強化石板を組み合わせて最速の自動操縦を設定していた。魔力消費が激しいため、アレンは魔力回復リングをメルルへ渡し、交代制で見張りを行う体制を整えた。その最中、ドゴラは自らの決断が周囲を不安にさせたと悟り、考える時間を求めて席を外した。アレンは各々の価値観を尊重し、静かに見守った。

テオメニアかニールかという判断
大陸が見えてきた頃、アレンは目的地を炎上から三日が経過したテオメニアではなく、救難信号を発した街ニールに定めた。テオメニアに生存者が残っている可能性は低く、到着が遅れれば救える命が減ると判断したためである。クレナは落胆し、教会に恩義を持つキールはテオメニア行きを強く主張したが、アレンは危険度不明の状態で戦力分散は行わないと説明した。

キールの信念とメルス派遣案
キールは幼少期に教会に救われた経験から、神官たちを見捨てられないと訴えた。セシルはパーティー分割を提案したが、アレンは安定した救助と情報収集を行うため、天使メルスを単独でテオメニアへ派遣する策を提示した。メルスならば浄化、偵察、緊急時の撤退が自己完結し、最悪倒されても再召喚が可能である。キールは悩みつつも、この案を受け入れた。

ニール攻防戦と金色の青年の出現
ニール上空へ到達すると、街は人型魔獣と巨人系魔獣に包囲され、崩壊寸前であった。アレンの指示でキールのターンアンデッドが上空から放たれ、敵を大量に焼き払い、市民と神兵を救った。クレナとドゴラも突撃し戦線を押し返す。神官たちはキールを「聖人の浄化の光」「金色の青年」と呼び、神の救いと受け止めた。アレンは召喚獣で街の入り口を封鎖し、戦線を安定させた。

邪神の化身の判明と救えぬ現実
倒した敵は「邪神の化身」と魔導書に記録され、完全にアンデッド化していると判明した。アレンは天の恵みや香味野菜での回復を試したが、誰一人として人間には戻らなかった。セシルは救済手段を問うたが、アレンは「今は救える者を優先する」と答え、ニール周辺の殲滅と住民保護に集中する方針を固めた。

広域救助作戦とメルスの報告
アレンは虫A「ハッチ」でトロルキングを支配し、子ハッチを大量生産して殲滅と使役を同時に進めた。さらに草A「金の豆」で結界林を形成し、獣A「ハヤテ」十体と鳥A・霊Aを広域へ送り出し、周辺の街や村の救助に着手した。一方、テオメニアへ向かったメルスは、黒焦げの廃墟の中心から青白い光柱が立ち上り、上空で折れて真南へ伸びる異常現象を確認した。アレンは新たな異変の存在を察しつつ、まずニールを確実な防衛拠点として確立する決意を固めた。

第三話 邪神の化身

ニール救援と枢機卿クリンプトンの証言
アレンたちはニールへ到着し、市街地の魔獣掃討が既に終わっていることを確認した。キールは浄化の働きにより「金色の青年」と称えられ、人々から崇敬の眼差しを受けていた。枢機卿クリンプトンはアレンを「始まりの召喚士」と理解し、救難信号に最初に応えた一行を神意による導きと受け止めた。彼は三日前のテオメニア炎上の経緯を語り、偽りの救済を掲げるグシャラ聖教の教祖グシャラ=セルビロールが火刑の直前、銀の皿から黒炎を噴き上げ、広場と街を焼き尽くした惨劇を説明した。

邪神の化身化の仕掛けと聖水の疑い
アレンは変異発生の仕組みを探るため、住民に信者の有無を尋ねた。赤子を抱く女性が信者であると名乗り出たが、入信条件を説明できず、代わってクリンプトンが「聖水」を飲むことで誰でも信者と認められた仕組みを明かした。潜入神官も飲んだが毒性は検出されなかったという。アレンとキールは、聖水単体は無害だが、教祖の声や黒炎など特定条件と重なることで人を邪神の化身へ変える仕掛けが働くと推測した。大量の信者を一斉に変質させるため、周到な準備が積み重ねられていたと考えられた。

香味野菜による浄化と住民保護
信者の女性は強く反発したが、アレンは被害拡大防止のため草Cの覚醒スキルで作る香味野菜を用いた。すると女性の背から黒い影が噴き出し、周囲の信者にも同様の影が現れ、青く砕けながら消滅した。アレンは動揺を抑えるため、これを「世界樹由来の破魔の実」と説明し、ソフィーの存在が信用を補強した。クリンプトンも納得し、影に憑かれていた者たちは保護対象として扱われることになった。アレンは今後ニール住民全員へ香味野菜を行き渡らせ、隠れた変異因子を徹底排除する方針を示した。

メルス撃破と魔神級脅威の発覚
アレンはニールの守りと住民浄化を進めつつ、周辺救援やテオメニア調査の戦力配分を検討していた。そこへ魔導書を介し、偵察に向かった第一天使メルスの撃破を確認した。再召喚可能な天使とはいえ、単独行動で敗れるという事実は、テオメニア周辺に魔神級の存在が潜むことを示していた。ニールの危機はひとまず退けられたが、邪神の化身と魔神の脅威が同時に立ちはだかる状況となり、アレンは事態がまだ序盤に過ぎないと悟り、次の作戦立案により慎重さを求められる立場に置かれた。

第四話 救える者、救えぬ者

巨狼と死霊術師による救援
テオメニア南方の草原で、村を失った家族が避難を試みていたが、出立直後にトロルへ発見され絶望に追い詰められた。しかし白銀の巨狼ハヤテがトロルを瞬時に斬り捨て、続いて現れた死霊術師オキヨサンが死霊を操り、迫る邪神の化身を拘束した。ハヤテが踏み潰して殲滅し、親子は命をつなぐことができた。直後にアレンとセシルが鳥Bで到着し、彼らをタムタムへ収容してニールへ送り届けた。

避難民輸送と被害圏の収束
タムタム内部には同様に救援された住民が多く、転移で瞬時にニールへ到着した。街の周囲には金の豆による結界林が形成され、防衛体制が整っていた。アレンは数日間の掃討で、テオメニアから広がった邪神の化身と巨人系魔獣の大半を撃破できたと判断していた。救援に間に合わなかった村もあったが、助けられた住民はニールへ避難させ、残された集落には結界と香味野菜を配布して変異を防ぎ、新たな発生は抑え込まれていた。

信者の隔離と香味野菜による予防策
元グシャラ聖教信者は五千人近くに上り、ニール内に隔離区を設けて保護する必要が生じた。救出者の証言から、噛まれた者も一定時間で邪神の化身に変質する事実が判明したためである。香味野菜には治癒と予防の両面効果があり、一度使用すれば一日間は変異と感染を防げた。噛まれた者にも効果が見られたことから、アレンは結界と併用して二次感染の封じ込みを図った。

救えぬ命への向き合い方
会議室に集められた仲間たちは、救い切れなかった命の多さに胸を痛めていた。キールは特に悔恨を抱いていたが、アレンはローゼンヘイム侵攻での数百万の犠牲や北方戦線の恒常的な死者を例に挙げ、魔王時代において全員を救うことは不可能であると語った。力を積み重ねても限界は残るため、「救える者を確実に救う」ことが現実的な指針であると示した。

魔神リカオロンの台頭とテオメニアの死滅
アレンはメルスを召喚し、三日間の偵察結果を確認した。メルスはテオメニア神殿に陣取る魔神リカオロンと繰り返し交戦したが、そのたび敗北していたという。街に生存者は見当たらず、信者も住民も魔神とその配下により全滅していた。リカオロンはグシャラとは別の魔神であり、魔王軍が守らせる祭壇を抱えていたが、その目的は不明であった。

魔神討伐の決行と明日の戦い
重苦しい報告に沈む中、クレナが魔神討伐を提案し、仲間たちの士気が再び上向いた。アレンは決意を固め、まず魔神リカオロンを討つ方針を明言し、翌日を「魔神狩り」の開始日と定めた。こうしてテオメニア奪還に向けた戦いが本格的に動き出したのである。

第五話 魔神リカオロンとの戦い

恐怖帝の歴史とテオメニアの変貌
約千年前、ギアムート帝国の「恐怖帝」が他種族弾圧を実施し、多くの民が中央大陸を脱出した。エルメア教会も信者を守るため移住し、海の向こうにエルマール教国を樹立した。その中心が教都テオメニアであり、千年の繁栄を象徴する都市であった。だが今、アレンたちが上空から見下ろした街は、黒炎に焼かれた瓦礫と死体が散乱する廃墟へと変わり果て、中央の神殿からは青白い光柱が立ち上っていた。

神殿侵入と魔神リカオロンとの激突
アレンは鳥Bを神殿に着陸させ、内部へ踏み込んだ。石像が並ぶ通路を進むと、メルスとの激戦跡が残る大広間が現れ、そこには禍々しい祭壇と青白い光の塊が置かれていた。祭壇前には犬型頭部を持つ魔神リカオロンが座し、一行を待ち構えていた。リカオロンは俊敏で、メルスの奇襲もアレンの初撃も容易に捌き、アレンを壁に叩きつける。その攻撃力を測ったアレンは「全員でなら勝機がある」と判断して戦闘を本格化させた。

高度な回避能力と祭壇への執着
近接のクレナ・ドゴラ・メルス、遠距離のセシルと後衛が連携攻撃を仕掛けるが、リカオロンは後ろにも目があるかのように避け続け、前衛を盾にして後衛を狙う戦術まで見せた。ソフィーの風精霊ゲイルが一時拘束に成功したが、リカオロンは力ずくで突破した。アレンは、その動きから「魔神は祭壇防衛を最優先している」と看破し、祭壇破壊こそ決定打になると確信した。

長距離狙撃砲による祭壇破壊と神殿崩壊
アレンはセシルとソフィーに氷壁と水膜を展開させ、リカオロンの注意を正面へ誘導したうえで、鳥Fの伝令でタムタムへ密命を送った。タムタムは狙撃砲形態に変形し、神殿側面へ高威力光線を発射。外壁を溶断した光線は祭壇を横から焼き抜き、神殿は崩落した。青白い光柱は消滅し、アレンは討伐ログ未表示を確認しつつ周囲へ警戒を指示した。

重傷リカオロンの再出現と第二形態
瓦礫が弾け、右半身を焼かれたリカオロンが激怒の咆哮とともに現れた。「祭壇を壊した」と叫びながら姿を変貌させ、銀鱗・巨大角・二重牙を備えた第二形態へ移行する。アレンは後衛を鳥Bで上空へ退避させ、クレナに限界突破を発動。だが第二形態は強く、クレナは押し返され、キールの回復がなければ戦線維持が困難であった。

総力強化と脚破壊による拘束戦術
アレンはメルスに命じ、十英獣のレペとテミを呼び寄せた。レペのリズム強化、テミの補助、そして精霊神ローゼンの祝福により、前衛の総合能力が大幅に上昇した。強化クレナが覇王剣で右脚をえぐり、メルスが左脚を折り、リカオロンを膝立ちへ追い込んだ。アレンはセシルへエクストラスキル「プチメテオ」の準備を指示する。

陽動と帰巣本能による決定的瞬間
リカオロンは傷つきながらも上体の力を保ち、アレンへ致命傷級の反撃を与えた。だがアレンはあえて肉薄し、胸へ剣を突き立てて注意を自分へ固定。ソフィーが風の縄でアレンごと拘束し、リカオロンの視界と判断力を完全に奪った。上空には直径百メートル超の真紅の隕石が顕現し、アレンは鳥Aの巣を利用して仲間全員を中央広場へ転移させた。

魔神リカオロンの最期
残されたリカオロンは状況を悟り、腕で隕石を受け止めようと試みたが、落下の衝撃に抗う術はなく、神殿跡ごと押し潰された。こうして強敵リカオロンは完全消滅し、テオメニアの光柱も途絶え、街を覆う重大な脅威は一つ消えたのである。

第六話 明かされた真理

魔神討伐の余波
アレンは「帰巣本能」で戦場を離脱した直後、セシルの「小隕石」により神殿と丘が崩壊したことを確認した。魔導書の表示で魔神リカオロンの討伐と自らの能力向上を把握し、キールが神殿消失に動揺する中でも、街に人が戻る前の撤退を決断した。十英獣のテミとレペにも礼を述べ、戦場処理へ移行したのである。

世界戦況の逼迫
同時期、中央大陸では約二百万の魔王軍が侵攻しており、ローゼンヘイム北部とバウキス帝国近海にも大軍が迫っていた。ローゼンヘイムでは十英獣と召喚獣を軸とした遊撃戦が続いていたが、敵の変則的な進軍により戦線は逼迫していた。他戦域が危機的状況であったため、リカオロン戦へ十分な支援を送れなかった事情が示されていた。

ドゴラの挫折とメルスの覚悟
残存魔獣の掃討後、アレンは結界を残してテオメニアを一時放棄する方針を固めた。タムタムで帰還する道中、ドゴラは自分だけエクストラスキルを発動できない理由を嘆き、盾役として奮闘しながら決定打に関われなかった現実に落ち込んだ。アレンは以前からメルスの沈黙に疑念を抱いており、理由を説明するよう求めた。メルスは躊躇しつつも、ついに語る覚悟を示したのである。

神々の理と世界再生の真実
メルスは創造神エルメアが「調和」を最重要視し、理が大きく歪んだ世界を何度も破棄してきた事実を明かした。不具合の放置は価値体系の崩壊を招き、統制不能に陥るため、神々は世界を作り直すしかなかったという。天使であるメルス自身もその破壊と再生に立ち会ってきたが、人間が理のほころびを利用する限り完全な安定は得られなかった。

八英雄計画と才能集約
当初、エルメアは別世界から八人を召喚して魔王へ対抗させる構想を持っていた。しかしアレン転生時に彼が「魔王」を選びかけたため、急遽「召喚士」が用意され、本来八人へ分配されるはずの力がアレン一人へ集中した。その結果、追加召喚は不可能となり、この世界の才能ある者たちがアレンの周囲に集まりやすくなるよう、理に軽い調整が加えられたのである。

エクストラスキル階級とドゴラの資質
エクストラスキルには「将級」「王級」「帝級」が存在し、仲間が将級を持つ中で、ドゴラだけは最初から王級を付与されていた。王級は生涯の鍛錬を経てようやく発動できる域であり、思うように使えない現状は当然だとメルスは説明した。勇者ヘルミオスも王級を持つことから、ドゴラの潜在能力は勇者と同格であると示され、いずれ魔王討伐の要となる力を備えていると断じられた。ドゴラはその言葉に胸を震わせ、己の両手を見つめながら未来への覚悟を固め始めたのである。

第七話 光の柱が進んだ先へ

ローゼンヘイム支援の正式決定
アレン一行は魔神リカオロン討伐の翌日、ローゼンヘイムへ赴き、エルマール教国向けの支援物資確保を進めた。女王の内諾を得ていたため受諾は迅速であり、フォルテニア神殿からは精霊魔法で増産された穀物と保存野菜が大量に提供された。冬を越える備蓄が整っていたことから大規模支援が可能となり、教国内の飢饉を避ける展望が見えた。

ニールへの輸送と復興体制構築
アレンは物資を転移でニール近郊へ届け、神官団へ引き渡した。クリンプトン枢機卿は山積みの食料に安堵し、邪神の化身による感染を避けるための結界運用を確認した。召喚獣による魔獣掃討と護衛は継続し、虫Aや巨人系魔獣が補給路を守る体制が整えられた。これにより住民の安全確保と復興作業が同時並行で進む見通しが立った。

光の柱を追う航路と浮遊島の発見
物資引き渡し後、アレンたちはテオメニアから南へ伸びた光の柱の行き先を調査した。タムタムで進む途中、ドゴラは王級エクストラスキル習得の真実を受け、訓練への意欲を強めていた。一行が連合国上空へ到達すると、直径約十キロの大地が宙に浮かぶ「島」が姿を現した。島は白い光膜で覆われ、中央には発光する神殿があり、周囲からは南・東・西へ向けて水平の光が伸びていた。

結界の性質と四方向の危機
アレンは召喚獣投入を試みたが、光膜に阻まれて召喚自体が成立しなかった。虫Aの攻撃も弾かれ、島の結界が極めて強固であることが判明した。さらに島を巡った結果、北側の光は途絶えていた一方、南・東・西の三方向には別地点から光が接続していた。これにより、エルマール教国以外にも三ヵ所で邪神の化身による侵攻が進行している可能性が高まり、島がそれらを繋ぐ中継の祭壇であると推測された。

三方向同時救援の決断
事態の重大さを受け、アレンは全員で順次討伐する案を示したが、キールは人命救助の同時進行を主張した。魔神との決戦より先に避難誘導と村落救助を優先し、各地で被害拡大を防ぐべきであると説いた。仲間たちはこれに同調し、アレンも慎重さが遅れを招く危険を理解して三手分散案を受け入れた。

召喚枠再編と物資配備
アレンは教国内に残していた獣Aと霊Aの召喚枠を整理し、虫A関連を中心に枠を解放して八十体規模の再編を行った。虫Aは教国内に残して殲滅戦を維持しつつ、東・西・南へ十体ずつ配置する方針を整えた。食料、回復草、金の豆・銀の豆、さらには魔石も各隊に均等配分され、長期救援に耐える準備が完了した。

三チーム編成と出発
西チームはアレン、セシル、ドゴラで構成され、アレンが西方を担当する。南チームはキール、クレナ、メルスが向かい、東チームはソフィー、フォルマール、メルルが担当する形でソフィーが率いた。アレンは各隊に召喚獣を配備し、最終判断を現地リーダーへ委ねた。女王から追加支援の確約も得られ、一行は互いの無事を祈りながら三方向へ旅立った。

第八話 チームソフィー ムハリノ砂漠へ

東方への飛行とソフィーの動揺
ソフィー・フォルマール・メルルはアレンたちと別れ、光の柱を追ってタムタムで東へ向かった。連合国の緑が消え、荒野と乾いた大地が続くほど、ローゼンヘイム育ちのソフィーには不安が募った。しかも今回はアレン不在で全責任が自分に集中しており、光の柱の終点にどれほどの被害があるかを思い、胸の重さを拭えなかった。

メルルの迷いとソフィーの支え
長時間の飛行中、メルルはソフィーに敬礼し「リーダー」と呼んだが、ソフィーは上下関係を嫌い、仲間として接してほしいと求めた。昼食の場でソフィーは、メルルがS級ダンジョンや魔神戦で果たした働きを正面から評価し、出自の違いを越えて共に戦う意味を語った。メルルは自分が仲間として認められていると知り、不安が解けていった。

光の柱の終点と汚染された湖
翌朝、タムタムはムハリノ砂漠に到達した。光の柱は砂漠の地表で折れ、かつてオアシスだった湖へ突き刺さっていた。しかし湖は赤紫の粘液に変質し、周囲は生命の気配を失っていた。ソフィーは、砂漠では逃げ延びても他都市まで到達できず、救難信号も送れなかったのだと推測し、犠牲者の無念を思って怒りと悲しみを抱いた。

ダークエルフの里ファブラーゼへ
光の柱直下は後回しとするアレンの方針に従い、ソフィーはフォルマールの提案を受けて近くの「里」へ進路を取った。やがて巨大な一本の大樹を中心とするダークエルフの里ファブラーゼが現れ、砂漠の中とは思えない緑の天蓋が広がっていた。

外壁戦の救援と召喚獣の投入
里の外壁はサソリ型や蛇型の魔獣に包囲されていた。ソフィーはこれらを邪神の化身と見抜き、霊Aの「地縛術」で敵の動きを封じさせた。フォルマールが鳥Bから矢を放ち、ソフィーは風の精霊で大型魔獣を止め、虫Aと親子ハッチが支配針で制圧を進めた。メルルもタムタムの多砲身砲で掃討し、一時間足らずで包囲を崩した。兵たちはソフィーたちを援軍と認識し、攻撃を停止した。

里との接触とダークエルフの社会構造
門前に降りた一行はダークエルフの兵たちから警戒を受けたが、ソフィーの金の瞳で身元が確認された。ソフィーは王オルバースとの謁見を求め、メルルには王位継承や長老会の権限、精霊王ファーブルの存在など、この里の秩序を説明した。兵は部外者の立ち入りを拒むが、精霊神ローゼンの出現で態度は一変し、急ぎ王へ報せる運びとなった。

緑の天蓋と精霊王の力
城内へ向かう途中、一行は砂漠とは思えない緑の楽園へ案内された。巨木が樹冠を広げ、木漏れ日の中で植物が育つ光景は精霊王ファーブルの力によるものであった。長老は「いずれ世界樹と呼ばれる」と誇らしげに語りつつも、里の事情に触れたソフィーの感想には複雑な表情を見せた。ソフィーは謝意を示し、長老は礼を返しつつ「民の前では慎重に」と諭した。

こうしてソフィーたちは、ファブラーゼの王オルバースとの協議に向けて歩みを進めることになった。

第九話 チームソフィー 王と王女

巨木の社への到着と王との対面
ソフィーたちは竜車で聖域の巨木へ案内され、湖と大樹に囲まれた社で祈りを捧げるダークエルフの姿を目にした。社の広間では王オルバースと王子ルーク、精霊王ファーブルが待ち受けており、ソフィーはローゼンとともに正式な謁見に臨んだのである。

祈りの戦衣への反発とソフィーの謝罪
ソフィーが外套を脱ぐと、「祈りの巫女」の戦衣と同じ精霊師之祈衣が露わになり、長老や将軍らは過去の因縁から激昂した。ソフィーは事前に情勢を承知していたと認めつつ、自身の歴史には負い目はないと表明し、感情を傷つけた点だけを深く詫びた。この態度を見たオルバースは場を収め、本題を語るよう促したのである。

ムハリノ砂漠の危機と協力要請
ソフィーはテオメニア炎上やグシャラ聖教の聖水、邪神の化身と魔神の存在、空の島と光の柱の仕組みを説明し、ムハリノ砂漠でも同様の災厄が進行中であると伝えた。さらに、救援のための地図提供と、避難民を受け入れる市場や避難所の開放を求める。長老たちは警戒を強めるが、オルバースは最後まで話を聞く姿勢を崩さなかった。

ルコアックの真相とレーゼルの名
議論の中で、先に襲来した半人半獣の群れが、20年前に突然オアシスの水を得て栄えた街ルコアックの住民であったと判明する。ジアムニールは、水を生み出す教祖が人々を集めた経緯を語り、それが魔王軍とグシャラ聖教の罠であった可能性に思い至った。ここでソフィーは、ローゼンヘイムを襲った魔王軍総大将が「レーゼル」と名乗り、同名がオルバースの父でもある事実を打ち明けると、広間は激しい怒号に包まれたのである。

王の決断と協力の約束
敵意が高まる中、オルバースは一喝して場を鎮め、魔神レーゼルが討たれた経緯を尋ねた。ソフィーは自分たちが討伐したこと、そして父が本当に魔神となったのなら、そのきっかけに心当たりがあれば教えてほしいだけで、報復も譲歩も求めないと告げる。熟考の末、オルバースは地図の提供と避難所設置への協力を承諾し、具体的な取り決めを長老とソフィーに任せる方針を示したのである。

父の最期の言葉と和解への一歩
退出直前、ソフィーはレーゼルの最期の言葉として「この素晴らしい木を、離れた同胞にも見せたかった」という願いを伝える。魔神となってなお同胞を思っていた事実にソフィーは涙し、オルバースもまた父の最期を知って涙を流した。こうして両者は憎しみだけでなく痛みと記憶を共有し、ムハリノ砂漠の危機へ共に立ち向かうための第一歩を踏み出したのである。

第十話 チームキール 王国と共和国

南方への飛行と国境要塞の危機
キール・クレナ・メルスの三名は南へ向かい、野営を挟みつつ光の柱の方角へ進んでいた。二日目の昼過ぎ、大河を挟んで向かい合う要塞群に到達すると、そこではカルバルナ王国とカルロネア共和国の国境要塞が、邪神の化身や巨大猿型魔獣の襲撃を受けていた。王国側は牽制戦力しか置かれておらず、連隊長ミュハンも瀕死の状態であった。

クレナの一騎当千とキール・メルスの後方支援
キールは「天の恵み」と回復の種で要塞全体へ広域支援を行い、戦線を立て直した。クレナは大猿の腕を両断し、斬撃・鳳凰破・覇王剣などを連続で繰り出して正門前の敵群を一掃した。メルスは虫Aとハッチを率い、さらに覚醒スキル「裁きの雷」で川を渡る敵軍を広範囲ごと殲滅した。日没頃には敵勢が衰え、国境線は維持された。

要塞での歓待と二国分裂の背景
戦闘後、キールとクレナは要塞へ迎えられ、兵士たちと簡素な祝宴を囲んだ。クレナは「剣聖」と誤解されるほど英雄視され、キールも礼儀正しい青年貴族として信用を得た。歓談の中で、南部都市ミトポイの不満や新興宗教による扇動が共和国独立の契機になったこと、そして数年前に両国間で兵力削減協定が結ばれた結果、現在の要塞が最低限の兵力しか保持していない事情が語られた。キールは背後にグシャラ聖教と魔王軍の計画的干渉を疑った。

光の柱発生からの経緯と防衛策の提案
現地の説明では、約十日前に光の柱が出現し、王国側が共和国へ連絡したが返答はなく、派遣された外交官が対岸の村の壊滅を確認したという。ここにいる兵は将軍到着前の先遣隊であり、今日の防衛は奇跡的勝利といえた。キールは、自分たちがエルマール教国で行った殲滅・救援活動の経緯を共有し、邪神化防止薬と破魔の木の実の効能を説明したうえで、川沿いに破魔の木を植えて防衛線を形成する案への協力を要請した。ミュハン隊長は賛同したものの、カルロネア側地図は機密のため本軍到着まで待つべきだと述べた。

地図交渉とキールのリーダーとしての自覚
キールは「閲覧のみでよい」と条件を下げ、街と村の位置を写す許可を求めた。そこへメルスが現れ、兵士たちは天使の姿に平伏する。メルスは強い口調で状況を正したが、キールが間に入って写しだけを得られれば翌日には共和国側へ向かえると説明し、メルスもこれを承認した。兵士たちは天使の存在に震えながら姿勢を正し、キールは初めて「天使が人前に出ることの重さ」を理解したのである。

キールは、召喚獣・現地兵力・仲間の力を繋ぎ、状況から最適解を導く役目こそ自分に課された使命であると再確認し、クレナを休ませつつ翌日の共和国行きに備えた。

第十一話 チームアレン クレビュール王国へ

鳥Bでの移動と物資備蓄の判断
アレン、セシル、ドゴラの三名は指揮化した鳥Bの召喚獣で西へ向かい、作業空間を確保した背上で香味野菜の大量生成を続けていた。高速召喚や合成を駆使し、セシルとドゴラが収納に回す流れ作業を維持した。飛翔で移動するよりも、長期戦に備えた備蓄を優先することが合理的と判断されたためである。

湿地帯での野営と他チームの進捗共有
三名は湿地帯近くの乾地を選び、虫除けや結界を展開して安全を確保し、焚き火と肉料理で休息を取った。食事中、アレンは召喚獣経由で他チームの状況を説明した。南へ向かったキール組は要塞戦の処理と周辺救援にあたり、東のソフィー組はダークエルフの協力で街の解放を進めつつ、双方の利害調整を図っていた。

クレビュール王国情勢と聖珠伝承
西方の目的地クレビュール王国は、海底帝国プロスティアの属国であり、不満から内乱の火種を抱えるとされた。シア獣王女が向かった事情から、魔神や邪神の化身の跳梁も予想されていた。会話はやがて「マクリスの聖珠」へ移り、皇太子マクリスと少女ディアドラの伝承、聖魚となったマクリスが遺した涙の宝が超高額で取引され、それを資金源に国が建てられた経緯が語られた。セシルはこの宝へ強い関心を見せたが、アレンは現実的ではないと釘を刺していた。

仲間の動機とセシルの葛藤
アレンは仲間たちの目的を整理した。ソフィーは王女として困難な地へ希望を届ける決意を抱き、キールは家族と領民を守るために行動していた。メルルは争いのない未来を求め、クレナやドゴラは成長と戦いを追求していた。対してセシルは、兄ミハイを奪われた経験が原動力になっており、遺書に刻まれた優しさを思うほど王家への憎しみを持つべきか葛藤していた。

昇爵と政治的思惑、転職ダンジョンの話題
アレンは戦後にグランヴェル家が伯爵家へ昇る見込みを伝えた。ミスリル採掘や外交窓口としての功績に加え、セシルの英雄視も追い風となっていた。また、兄トマスとレイラーナ姫の交際が王国派と学園派の勢力争いと結びつき、政治的思惑を帯びていた。続いて転職ダンジョンの解放が話題に上り、トマスが才能獲得のため挑戦を決意していること、星合計十以上の高難度で死者も出る危険性が明らかになり、セシルの不安は増していた。

大教皇失踪と広がる不安要素、翌日への備え
大教皇イスタール失踪により、神託や転職制度の情報が世界へ十分伝わらない事態が続き、魔王軍の策謀を疑わせる状況が広がっていた。世界規模の不穏を確認したのち、アレンは翌日にクレビュールへ入ると告げ、各自へ休息を促した。仲間それぞれが抱える思いを胸に、三名は次の戦いへ備えるのであった。

第十二話 シア獣王女の動向

避難行列とシア獣王女の指揮
クレビュール王国内では二十万規模の避難行列が形成され、魚人族が幼児や荷を抱えて湿地帯を進んでいた。最後尾ではシア獣王女率いる獣人部隊が戦死者の遺品整理や負傷者確認を行いながら護衛を続けていた。昨夜の戦闘の余韻が残る中で、彼女は行軍全体の指揮を執り、次の戦いを見据えて状況を整理していたのである。

国王との会談と同盟の既成事実化
呼び出しを受けたシアは国王らが乗る御輿を訪れ、矢の提供への謝意を述べた。続いて王族を前方へ移すべきと進言し、カルロ要塞都市への移動が「同盟国からの救援要請による行動」であると明言した。ここで彼女は「同盟」の語を繰り返し、アルバハル獣王国とクレビュール王国との関係を既成事実として位置づけようと企図した。

属国条約と邪神教の策謀
国王はプロスティア帝国の属国という立場を理由に即答を避けたが、シアは条約の内容を熟知している姿勢を示し、事実を積み重ねれば帝国も無視できないと説いた。さらに帝国への独立企図の噂が流された背景には邪神教の離間策があると推測し、国内で「邪神の化身」が発生した理由を敵対勢力の潜伏と断じた。国王は自国が利用された可能性に動揺し、御輿内の空気は沈滞した。

王女カルミンの謝意と将来の約束
沈黙の中、カルミン王女は獣人たちの献身に深い謝意を述べ、「必ず報いる」と誓った。腕には紫色の宝石を嵌めた腕輪が光り、覚悟を示していた。シアも王女の気概を受け止め、事態収束後に改めて語り合うと応じ、政治的にも個人的にも今後の関係を示唆した。

敵軍六万の接近と即席要塞の構築
そこへ斥候が大軍の接近を告げ、シアは即座に戦闘態勢へ移行した。敵は正面二万、左右翼も各二万の総力戦であった。徒歩の避難民では距離を稼げないため、湿地地形を利用した三列構造の防壁を築かせた。前方に幅広の堀、その後方に三段の土塁と歩廊を設け、千名の混成部隊を最終防衛線に配置した。

弓隊と魔法隊の連携による防衛戦
敵先頭の邪神の化身が接触すると、シアの号令で弓隊が射撃を開始し、足と目を正確に狙って突進を阻害した。続いて魔法隊が氷で足場ごと凍結させ、雷で体表の水分に沿って攻撃を通し、湿地に最適化された敵へ大きな損害を与えた。火魔法は地形と防壁への影響から使用を控えた。しかし敵の数は多く、第一、第二防壁は突破され、最終防衛線での肉弾戦へ移行した。

ラス副隊長の献身と変異の悲劇
蛙下半身の邪神の化身が防壁上へ跳び込み、前衛が圧殺される中でシアは拳で敵を粉砕しながら奮戦した。背後からサンショウウオ型の邪神の化身が迫ると、鹿の獣人ラス副隊長が身を挺して庇い、上半身を噛み砕かれる重傷を負った。ルド隊長が制圧に動いたが、ラスは噛傷を起点に漆黒の肉体へと変異し始め、シアは涙を堪えて自ら止めを刺す覚悟を固めた。

蜂の大群と新たな試練の到来
ラスが死を受け入れたその瞬間、上空が暗転し、轟音と共に東方から蜂の大群が押し寄せた。金属を噛むような顎を鳴らし、雨のように降下する光景に味方も敵も恐怖の悲鳴を上げた。先頭には巨大なグリフォンが飛び、その出現にシアは占星獣師テミが告げなかった新たな試練の到来を悟り、迫り来る脅威を見据えていた。

特別書き下ろしエピソード 漆黒の炎に包まれたテオメニア

神託の発令と教会上層部の動揺
テオメニアの神殿では、大教皇イスタールが創造神エルメアから新たな神託を受けていた。その内容は「金色をまとった青年が天より駆けつける」という短い文言であり、彼はこれを世代交代の予兆と解釈した。教会上層部は、転職ダンジョン開設準備や召喚士アレンに関連する問い合わせで疲弊していた事情もあり、この簡潔な神託の意味を慎重に検討していた。

火刑執行前の対話と神学的対立
その最中、邪神教教祖グシャラの火刑時刻が迫り、大教皇は最後の悔悟の機会を与えるべく広場へ向かった。群衆の怒号が渦巻く中で対峙したグシャラは、貧民救済を掲げ無償の施しを行ったと主張し、教会が対価を求める姿勢を「見捨てる行為」と糾弾した。大教皇は現実的な対価の必要性と、グシャラが強奪と搾取で資金を得ていた事実を突きつけ、道を正すなら命は取らないと提案したが、彼はそれを拒否した。

計画の告白と神器の出現
議論の末、グシャラは処刑すべてが計画の一環であったと明かし、ボロローブから銀色の盆を転がし落とした。それは火の神フレイヤの神器であり、その瞬間に漆黒の炎が溢れ出して石畳を這い、神兵を瞬時に炭へ変え、広場に恐慌を引き起こした。

大教皇の奇跡と魔神グシャラの顕現
大教皇はエクストラスキル「聖なる道標」を発動し、黄金の光で黒炎を押し返し負傷者を癒した。しかし炎は再び盛り返し、消えかけた黒炎を神器が復活させた。炎の中心には青白い魔力をまとった異形のグシャラが立ち、魔神としての本性を現していた。光と炎は激しくぶつかり合い、次第に黒炎が優勢となった。

神託の真意と大教皇の決断
押し負ける感覚の中で、大教皇は神託の「声を上げよ」を思い出し、「全世界に救難信号を送れ」と枢機卿へ命じた。枢機卿は涙を堪えつつ撤退指揮を開始し、大教皇は時間を稼ぐべく広場に残った。彼は友への別れを胸に、光を保ち続けたが、最後には漆黒の炎に包まれその生涯を閉じた。

テオメニア壊滅と邪神の化身の誕生
大教皇の死と同時に黒炎は勢いを増し、広場に残ったグシャラ聖教幹部らは歓喜の声を上げながら炎に呑まれ、「聖水」の真の効果によって邪神の化身へ変貌した。魔神グシャラはこれを魔王への報告として受け止め、炎上する街を背に神殿へ向かった。石畳には、大教皇の焼け残った胸元から落ちた「神秘の首飾り」が静かに横たわり、新たな継承者を待つように輝きを失わずにあった。

特別書き下ろしエピソード② 調停神ファルネメスの裁き

ゼニテクス商業国と商王スパチャクスの野望
ギャリアット大陸のゼニテクス商業国は、商神ゼーニ信仰と交易で栄えたが、富裕商人が貴族位を買って政権を掌握し、貧富の差が極端に拡大していた。商王スパチャクスは旧王族を追放し、丘の上の豪奢な館から国を支配しており、テオメニア神殿改修の大工事と連合国首脳会議を口実に、供給独占と奴隷制合法化で更なる利益を得ようと企んでいた。立ち退きを拒む旧木材地区の住民を「ゴミ」と断じ、暴力的な排除を命じる姿勢も露わであった。

商神ゼーニの出現と強欲な要求
豪商たちを下がらせた後、祭壇の黄金像が動き出し、商神ゼーニが人間大の姿で顕現した。スパチャクスは地に額をこすりつけて平伏し、ゼーニは儲けを称賛しつつ、神殿改修と会議会場整備を同時進行で急がせた。さらに、スパチャクスに授けた神器「天秤」が世界の真理を測る危険な力を持つとほのめかし、扱いを誤れば破滅すると脅しながらも、「金で信仰を集めていると笑った連中を見返す」と自身の鬱屈を吐き出していた。

調停神ファルネメスの降臨とゼーニ滅殺
その場に冷気が満ち、壁を破って角と鱗を備えた獣姿の調停神ファルネメスが現れた。創造神エルメアの命により、商神ゼーニの信仰値乱用を裁きに来たと告げると、ゼーニは怯えながらも神器の金貨を巨大な円盤へ変えて反撃を試みる。しかしファルネメスは一歩かわしてから踏み込み、長い角で円盤ごとゼーニの身体を貫き、壁へ叩きつけたうえで頭部を踏み砕いた。商神は無数の金貨へ崩れ、それも灰の粉となって消え失せ、神器のみが「回収すべき物」として残されたのである。

商王の命乞いとゼニテクスの崩壊
神の最期を目撃したスパチャクスは震えながら命乞いし、「誰よりも立派な神殿を造る」と繰り返した。ファルネメスはその言葉をエルメアへ届けると告げて立ち去り、残された商王は恐怖からテオメニア神殿改修へ国家財政を注ぎ込み続けた。その無理が国民生活を圧迫し、やがて内乱を招き、スパチャクスは商王の地位を追われる結果になった。

神界での報告と新たな裁きの予告
神界へ戻ったファルネメスは、穴の開いた神器を創造神エルメアに差し出し、商神処分の完了を報告した。エルメアはまた一柱の商神が暴走したことを嘆きつつ、次の商神への不安を口にする。そこへ「魔族に新たな魔王が生まれたが、例と様子が違うため、理に反していないか確認し、必要なら裁いてほしい」と新たな任務を与えた。第一天使メルスが休息のなさを案じる間もなく、ファルネメスは無言で次の裁きの場へ向かい、創造神はその背を静かに見送るしかなかったのである。

特別書き下ろしエピソード③ 修羅王バスクの渇望

阿修羅の才能と孤高のSランク冒険者バスク
バスクは「阿修羅」の才能を持つ戦闘特化の男であり、学園生活に適応できず暴行事件を起こして退学し、単独冒険者として魔獣を狩り続けた。二十代半ばでSランク魔獣を討つ実力に達すると、ギルド本部長マッカランによりSランク冒険者へ認定されたが、社会性や責任感には興味を示さず、報酬や肩書にも無関心であった。

要塞壊滅後の帰還と街での惨劇
ギアムート帝国が魔王軍に押されていた時期、バスクは召集に応じて戦場へ向かうが、派遣先要塞は既に陥落していた。単身で殲滅戦を終えて戻ると街では歓喜の宴が開かれたが、彼は祝福にも感謝にも興味を持たず黙々と飲み食いした。そこへ貴族ブフタン将校が勧誘に現れ、バスクは過去の嫌な記憶を重ねて拒絶する。逆上した側近が襲いかかると、バスクは抜き打ちで斬り伏せ、続く兵士も力で圧倒して街中で将校らを斬殺した。武器を捨てて逃げた兵士には手を出さなかったが、広場は一夜で血に染まり、街は恐怖に沈んだ。

魔法具への執着とガルレシア大陸での暴走
その後、バスクはガルレシア大陸に渡り、防具を着られない才能の欠点を魔法具で補うため王城や墓所を襲い、宝物や神器を強奪した。両腕の剣をアダマンタイトからオリハルコンへ換え、身体中に魔法具を着けた彼は、鳥人国家レームシールの王まで人質に取り、創造神の奇跡と呼ばれる「神秘の首飾り」を要求する。王の「首飾りは既に大教皇へ献上した」という告白が真実と分かると、そのまま教都テオメニアへ向かった。

テオメニア急襲と四者連合との死闘
教会の防衛線を突破したバスクは、大教皇イスタールの首飾りを狙って神殿奥へ侵入する。そこにマッカランが姿を現し、大教皇・オルバース王・獣王ヨゼと共に討伐戦に移った。マッカランの分身技、イスタールの回復加護、オルバースの精霊盾、ヨゼの獣王化が連携し、バスクは追い詰められていく。彼は「真・狂化」で攻撃能力を跳ね上げるが、底無沼による拘束と連撃により劣勢へ転じ、ついに壁を破って逃走した。

瀕死の森での邂逅と魔王軍加入
深傷を負ったバスクは巨木の洞に潜み死の縁にあったが、仮面の男キュベルが現れる。彼は魔王軍参謀であり、強敵との戦い・魔法具・治療を条件に協力を提示した。初めは拒んだバスクだが、キュベルが神兵を呼び寄せて逃げ場のない状況を作ると、直感が唯一の生存手段だと告げた。こうして彼は「縛られぬ自由」と「強さへの渇望」を手放さぬまま、魔王軍入りを受け入れた。

修羅王の行方
追手が洞に到着した時には血痕だけが残され、バスク本人は消えていた。彼の渇望と暴力性は、そのまま魔王軍の闇へと沈んでいき、修羅王の名だけが戦場に刻まれることになったのである。

特別書き下ろしエピソード④ 軍総司令オルドーの忠誠

研究成果と魔王軍の戦略的価値
魔王軍総司令オルドーは、会議に姿を見せないシノロムを迎えに研究区画へ向かった。研究室には異形の融合体が並び、最奥には姉弟魔神由来の人工融合体ラモンハモンが収容されていた。シノロムは魔力数値の上昇に陶酔しており、魔王からの召集すら軽んじた。オルドーは不敬を糾したい衝動に駆られたが、彼の研究が軍略的に不可欠であると理解し、怒りを抑えた。人工上位魔神の量産可能性と転移装置の完成は、戦線運用を激変させる成果であったためである。

邪神復活計画の進捗と化身の因子
玉座の間では魔王、参謀キュベル、六大魔天、魔神グシャラが集まり、邪神復活計画の進捗が共有された。最難関とされた「贄」と「餌」の準備がいずれも実行段階へ入ったことが報告される。「餌」については、グシャラ聖教の信者が摂取した化身の因子を補助装置で発現させ、人間を邪神の化身へ変換する仕組みが構築されていた。化身は襲撃時に因子を他者へ移し、被害者も化身へ変貌するため、犠牲と戦力を指数関数的に拡大できると見込まれていた。

侵攻失敗と指揮系統の摩擦
本来はローゼンヘイム侵攻で神々の目を引きつけつつ、信者保護の演出と神器奪取、「餌」の確保を同時達成する計画であった。しかしアレンたちの抵抗により侵攻は頓挫し、想定していた「餌」の多くが失われた。キュベルが軽い口調で反省を述べると、オルドーは参謀としての責任を追及しようと激昂し、玉座前は一時騒然となった。魔王は両者を諫め、計画修正に議論を向けた。

新方針とオルドーへの託命
結論として、魔王はギャリアット大陸での「餌」回収と並行し、中央大陸とバウキス帝国への同時侵攻を命じた。人間側の警戒は強まっているものの、二正面作戦に追われればギャリアットへの対処力は落ちると判断されたためである。この侵攻はオルドーが統括し、キュベルはグシャラ補佐として邪神復活計画の最終段階を監視することになった。

贄の準備とオルドーの誓約
次の条件である「贄」は、シノロムが進める「獣たちの血の継承」により第一段階を満たしていた。魔王は進捗に満足し、復活が近い未来を思い描いた。オルドーはその姿に深く頭を垂れ、軍総司令として計画を必ず遂行する決意を固めた。

勇者ヘルミオス英雄譚~ 奇跡の誕生編

神託と「英雄」誕生の兆し
エルマール教国では、大教皇イスタールが創造神エルメアから「奇跡の力を持つ英雄が今年誕生する」との神託を受けた。魔王軍の侵攻で五大陸同盟が疲弊する中、この知らせは教国に希望をもたらした。ただし英雄が戦える年齢に達するまで二十年を要するため、教会は同盟維持による時間稼ぎを義務として受け止めた。

コルタナ村の少年と病の脅威
神託から五年後、ギアムート帝国辺境のコルタナ村で少年ヘルミオスが育っていた。片腕の剣士ルーカスと病弱な母カレアに寄り添い、働き者で優しい子として描かれている。村では流行病が広がり、薬も尽き、母はついに血を吐くほど弱っていった。ヘルミオスは貴重な薬草「星降草」が西の山にあると聞き、自ら採りに行く決意を固めた。

母の教えと少年の決意
友人への見舞いのために果樹園の実を盗んだ際、カレアは叱るのではなく「才能も努力も奪ってはならない」と諭した。この言葉が少年の胸に深く残り、彼は母を救うため自分の力で道を切り開くと心に誓った。

星降草を求めた孤独な山行
翌朝、ヘルミオスは薬草籠と木剣を携え山へ向かった。魔獣を倒すたびに力が増す感覚を覚えながら進み、林の奥で星のように光る星降草を発見する。しかしゴブリンの群れが現れ、彼を取り囲んだ。応戦するも木剣が折れ、右腕を斬られ、追い詰められていった。

父の救援と「剣聖」の片鱗
危機の瞬間、ルーカスが駆けつけ、ゴブリンたちを圧倒した。だが星降草への執念を捨てきれないヘルミオスは隙を突いて走り、背後に潜むゴブリンキングと対峙する。巨体に掴まれながらも、突如として湧き上がった力で指をへし折り、折れた木剣を片目に突き刺して仕留めた。群れは総崩れとなり、森へ退散した。

帰還と家族の涙
息子の戦いを目にしたルーカスは、ヘルミオスが「剣聖」の資質を持つと直感する。親子は大量の薬草と獣の肉を持ち帰り、母に星降草を手渡した。無茶をした息子を叱りつつも、カレアは抱きしめて涙を流した。ルーカスは「どれほどの才を持とうと大切な子である」と告げ、三人は無事を喜び合った。こうして少年は初めて「奇跡」を体現し、後に勇者となる芽生えを自ら示したのである。

特別書き下ろし キールの救済

邪神災厄後の巡回任務と焼け落ちた村
キールは分散捜索任務として、邪神の化身に滅ぼされた地域を鳥Bで巡回していた。これまで訪れた集落はすべて破壊され、生存者を救えない現実に焦りを深めていた。ある日、遠方に煙を認めた彼は覚醒スキル「天駆」で急行し、炎上する森の村に到達する。そこでは頑丈な穀物庫に生存者が籠り、外側では化身が扉を破ろうとしていた。

穀物庫突入と「ターンアンデット」
トロルが扉を破壊した瞬間、キールは飛び降りて内部へ侵入した。中には老人と少女を含む村人たちが震えており、少女はニーナを思わせる年頃であった。キールは説明を断ち切り「じっとしてろ」と告げ、化身の群れに向けて「ターンアンデット」を放つ。破邪の光が数十体の化身を灰へ変えるが、村にはなお百を超える魔獣が蠢き、新たな脅威が迫っていた。

トロルキングの襲撃と重傷の防御
姿を現したのはAランク魔獣トロルキングであった。キールは村人を守るため盾となり、自ら棍棒の直撃を受けた。片腕は骨ごと砕かれたものの、彼は倒れず敵を睨み返し、再度「ターンアンデット」で対抗した。光に焼かれたトロルキングは再生能力で応じ、次の一撃を狙って大棍棒を振り上げた。

クレナの乱入と村の奪還
その刹那、上空からクレナが飛来し、大剣を振り下ろしてトロルキングを一刀両断した。もともと別の村を探索していた二人は、キールが独断で飛び出したため合流が遅れていた。クレナは叱責しつつも共闘し、一時間ほどで化身とトロルの群れを殲滅した。村長は震えながら感謝を述べ、キールは避難と物資移送の段取りを説明して村人を落ち着かせた。

少女の言葉と自己救済の実感
戦闘後、震えていた少女が自ら歩み寄り「助けてくれてありがとう」と礼を述べ、砕けたはずの腕を心配そうに握った。キールは「へっちゃらだ」と笑い、少女の頭を撫でた。守る者を守れたという実感は、かつて無力だった自分を乗り越える証となり、心に静かな救いをもたらしたのである。

ヘルモード 6巻 レビュー
ヘルモード 全巻 まとめ
ヘルモード 8巻 レビュー

同シリーズ

『ヘルモード』第1巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 1の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
『ヘルモード』第2巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 2の表紙。
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『ヘルモード』第3巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 3の表紙。
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『ヘルモード』第4巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 4の表紙。
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『ヘルモード』第5巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
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『ヘルモード』第6巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 6の表紙。
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『ヘルモード』第7巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 7の表紙。
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『ヘルモード』第8巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 8の表紙。
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『ヘルモード』第9巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 9の表紙。
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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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