小説「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 上」感想・ネタバレ

小説「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 上」感想・ネタバレ

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 上の表紙画像(レビュー記事導入用)

Table of Contents

物語の概要

本作は、アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の直接的な続編として執筆されたSF小説である。舞台は宇宙世紀0105年。シャア・アズナブルの反乱から12年後の世界を描く。 腐敗が進み、特権階級のみが地球に居座り続ける地球連邦政府に対し、反地球連邦組織「マフティー・ナビーユ・エリン」が武力による抵抗を開始する。そのリーダーは、かつて一年戦争の英雄ブライト・ノアの息子であり、シャアの動乱を潜り抜けた青年、ハサウェイ・ノアであった。 上巻では、ハサウェイが地球へ向かうシャトル内でのハイジャック事件、ダバオでのケネス大佐や謎の少女ギギとの出会い、そして新型モビルスーツ「Ξ(クスィー)ガンダム」を受領し、連邦軍の新型機「ペーネロペー」と激突するまでの序盤から中盤の展開が描かれる。

■ 主要キャラクター

ハサウェイ・ノア(マフティー・ナビーユ・エリン): 本作の主人公。表向きは植物監視官候補生だが、その正体は反連邦組織マフティーのリーダーである。過去の戦闘で想い人クェス・パラヤを失ったトラウマを抱えつつ、アムロ・レイの理想とシャア・アズナブルの激情を継ぎ、地球保全のために要人暗殺というテロリズムに手を染める。

ギギ・アンダルシア: 本作のヒロイン。透き通るような美貌と、予知能力にも似た鋭い洞察力を持つ少女。ハサウェイの正体を初対面で見抜くなど、彼を翻弄する。「勝利の女神」としてケネスに囲われる一方で、ハサウェイにも惹かれるなど、二人の男の間で揺れ動く存在である。

ケネス・スレッグ: 地球連邦軍の大佐であり、マフティー掃討部隊「キルケー部隊」の司令官。軍人としての高い能力と、規律に縛られない柔軟な思考を持つ。ハサウェイとは知己を得て友情のようなものを育むが、立場上は敵対するライバルとなる。

レーン・エイム: 連邦軍の若きパイロット。新型モビルスーツ「ペーネロペー」に搭乗する。卓越した操縦技術を持つが、実戦経験の浅さと若さゆえの慢心があり、ハサウェイの老獪な戦術に翻弄される。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、ガンダムシリーズの主人公が「テロリスト」として描かれている点にある。正義の味方ではなく、犯罪者として連邦政府に牙をむくハサウェイの苦悩と、それを追う連邦軍司令官ケネスとの大人の人間ドラマが主軸となっている。 また、小説ならではの緻密な心理描写に加え、ミノフスキー・クラフト搭載MSによる「重力下での空中戦」や、市街地戦闘における市民への甚大な被害など、戦争の悲惨さとリアリティが生々しく描かれている点も魅力である。富野由悠季監督特有の「富野節」とも呼ばれる独特な台詞回しや、複雑な男女関係の機微も読みどころの一つである。

書籍情報

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 
著者:富野 由悠季 氏
出版社:KADOKAWA
レーベル:スニーカー文庫
発売日:1989年2月13日
ISBN:9784044101312

閃光のハサウェイ(上) 機動戦士ガンダム

富野 由悠季 KADOKAWA 1989年02月13日頃
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あらすじ・内容

人類が、増えすぎた人口のはけぐちを宇宙に求めてから一世紀以上が経った。シャア・アズナブルが起こしたネオ・ジオン抗争をくぐり抜け、ハサウェイ・ノアが体験する新たな戦いとは……。ミノフスキー・クラフトを搭載したΞ(クスィー)ガンダムが、紺碧の空に乱舞する! アニメ界の巨星・富野由悠季が織りなす、小説でしか出会えないガンダムがここに登場!!

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 上

感想

読後の第一印象(導入への違和感)

読み始めてまず感じたのは、主人公であるハサウェイがいきなりテロリストとして描かれているという、驚きと戸惑いであった。
なぜ彼がそのような立場にいるのか、物語の背景や動機が十分に腑に落ちないまま、不可解なストーリーの中へと放り込まれてしまった。
正直なところ、この導入部分だけで「わけがわからない」という印象が先に立ってしまった。

文体・台詞回しの壁(理解負荷の高さ)

いわゆる「富野節」と呼ばれる独特の台詞回しが全編を貫いており、これが読書のハードルを高くしていた。
登場人物たちが何を意図して発言しているのか、その真意を掴むのに骨が折れる。
特にキャラクターへの愛着や理解がまだ浅い段階であるため、「誰が何を言っているのか」さえ曖昧になりがちで、物語の筋を追うこと自体にキツさを感じてしまった。

設定理解の引っ掛かり(ミノフスキー粒子=万能感)

作中で重要な役割を果たす「ミノフスキー・クラフト」についても、素直に飲み込むことができなかった。
なぜミノフスキー粒子があれば巨大な機体が空を飛べるのか、理屈がいまいち判然としない。
重力の反作用といった説明はあるものの、感覚的には「魔法の万能粒子」のように思えてしまう。結局、「とりあえず飛べるらしい」という事実だけを無理やり納得させて読み進めるしかなかった。

勢力図への疑問(アナハイムの立ち位置)

物語の背景にある勢力図、特にアナハイム・エレクトロニクスの立ち回りには強い違和感を覚えた。
シャアの反乱から十二年が経過しているとはいえ、テロリストに最新鋭のガンダムを売り渡すという行為は、企業のコンプライアンスとしていかがなものか。

単なる企業の腐敗なのか、あるいはハサウェイたちが掲げる「地球連邦の腐敗」に対する義憤に同調してのことなのか。
そのあたりの事情が読み取れず、モヤモヤとした疑問が残る結果となった。
これは12年前のシャーの反乱の時もそうだったなとも思っている。

人物配置の掴みにくさ(ギギと司令官)

ヒロインと思われるギギについても、ニュータイプであることは察せられるが、その存在意義や物語における役割は、現時点では「何とも言えない」としか表現できない。
彼女を挟んで対峙する地球連邦軍の司令官、大佐との関係性も含め、人間関係の構図がぼやけて見える。
魅力よりも「よくわからない」という困惑が勝っている状態である。

総括(今は”きつい”が先に立つ読書)

総じて、今の自分のコンディションで読むには、非常に「きつい」作品であったというのが偽らざる本音であった。
難解な台詞、納得しきれない設定、複雑な企業倫理、そして掴みどころのないキャラクターたち。
それらが渾然一体となって押し寄せてくるため、物語を楽しむ以前に、状況を解読するだけで精一杯になってしまう一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

閃光のハサウェイ(上) 機動戦士ガンダム

富野 由悠季 KADOKAWA 1989年02月13日頃
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登場キャラクター

1. ハサウェイ・ノア(マフティー・ナビーユ・エリン)

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン(リーダー) / 表向きは植物監視官候補生
  • 階級:なし(元地球連邦宇宙軍・少尉相当 ※文書内では民間人扱い)
  • 活躍
    • ハイジャック鎮圧:地球へ向かう特別便ハウンゼンにて、マフティーの名を騙るハイジャッカーに対し、隙を突いて反撃。ケネス大佐と協力してコックピットを制圧する。
    • ダバオでの潜伏と危機:ダバオ空港到着後、調査局の聴取を受けつつタサダイ・ホテルに滞在。ギギ・アンダルシアに「あなたがマフティーだ」と正体を見抜かれ、動揺しつつも彼女を監視・保護する立場を取る。
    • 市街地での逃走:マフティー(ガウマン機)によるダバオ空襲の際、パニックに陥ったギギを抱えてホテルから脱出。戦火の中、連絡員エメラルダと接触し、一時的に公園へ退避する。
    • 監視からの脱出:その後、市街で買い物客を装い、監視の目を盗んで協力者(ミツダ)の車で逃走。ボートとクルーザーを乗り継ぎ、秘密基地「ロドイセヤ」へ帰還する。
    • 空中受領作戦:大気圏外から降下してくる輸送カーゴ「ピサ」に対し、メッサー(エメラルダ操縦)から空中で乗り移るという危険な作戦を敢行。コックピットに到達し、新型機「Ξ(クスィー)ガンダム」を起動させる。
    • 決戦と帰還:降下中の戦闘で、ミノフスキー・クラフトを搭載したΞガンダムの性能を駆使。ビーム・ライフルを囮にする戦術でレーン・エイムの隙を作り、ミサイルの一斉射撃でペーネロペーを撃墜する。また、空中に放り出された捕虜のガウマンを見事に救出。支援船ヴァリアントに帰還し、ケリア・デースと合流する。

2. ギギ・アンダルシア

  • 所属:民間人(大富豪カーディアス・バウンデンウッデンの関係者)
  • 階級:なし
  • 活躍
    • ハウンゼンでの洞察:美貌と奔放さでケネスやハサウェイの関心を集める。ハイジャック犯に対し「マフティーではない」と断言し、ハサウェイが反撃するきっかけを作る。
    • 核心への指摘:ハサウェイに対し、生理的な直感で彼がマフティーであると指摘し、彼を精神的に追い詰める。
    • 戦火での動揺:ダバオ空襲時、モビルスーツ戦の恐怖に錯乱し、ハサウェイにすがりついて泣き叫ぶ。その後、ケネスに保護され、キルケー部隊の基地へ移動する。
    • 基地滞在:自身のパトロンを明かしてケネスの疑念(マフティー協力者説)を晴らし、ケネスの手配したコテージに滞在。「勝利の女神」として扱われつつ、戦いの行方を静観する。

3. ケネス・スレッグ

  • 所属:地球連邦軍(キンバレー部隊 → キルケー部隊司令)
  • 階級:大佐
  • 活躍
    • 着任と鎮圧:キンバレー部隊の後任司令としてハウンゼンに搭乗し、ハサウェイと共にハイジャックを鎮圧する。
    • 部隊の掌握:ダバオ到着後、規律の緩んだ部隊を「キルケー部隊」として引き締め、マフティー掃討に執念を燃やす。
    • ギギへの執着:ギギを基地内に住まわせるなど公私混同とも取れる厚遇を行う。
    • 捜索指揮と尋問:ハサウェイの逃走を知り、警察や海軍へ高圧的な態度で協力を強要して包囲網を敷く。捕獲したガウマンには自ら激しい暴行と尋問を行い、ハサウェイの正体について鎌をかける。
    • 非情な指令:レーンに対し、ガウマンを人質として利用し、不利になれば盾にするよう命じる冷徹さを見せる。

4. レーン・エイム

  • 所属:地球連邦軍(キルケー部隊)
  • 階級:中尉
  • 活躍
    • 新型機のパイロット:新型モビルスーツ(ペーネロペー)のパイロットとして登場。初戦ではガウマン機を蹴り飛ばすなど圧倒的な性能を見せつける。
    • 人質戦術への葛藤:ケネスの命令でガウマンを同乗させて出撃するが、「盾にする」という命令には反発。最終的に「借りなど作らない」としてガウマンを空中で解放し、正々堂々の勝負を挑む騎士道精神を見せる。
    • 敗北と生還:ハサウェイの戦術(ライフルの囮)に嵌り、ミサイルの直撃を受ける。機体は大破し海上に着水するが、脱出して生還する。

5. ガウマン・ノビル

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:パイロット
  • 活躍
    • ダバオ空襲(陽動):メッサー2号機に搭乗し、ハサウェイの逃走時間を稼ぐため市街地を襲撃。グスタフ・カール部隊と激戦を繰り広げるが、多勢に無勢で撃墜・捕獲される。
    • 尋問と人質:ケネスの激しい尋問にも屈せず、情報を吐かない。その後、ペーネロペーに人質として乗せられ戦場へ連れ出される。
    • 空中救出:レーンによって解放され空中に放り出されるが、Ξガンダム(ハサウェイ)によって空中でキャッチされ生還。帰還後、ハサウェイの機転を称賛する。

マフティー・ナビーユ・エリン(組織メンバー)

6. エメラルダ・ズービン

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:記述なし(パイロット / 女性戦士)
  • 活躍
    • ダバオでの接触:空襲の混乱の中、タサダイ・ホテル付近でハサウェイと接触。ギギを連れていることに悪態をつきつつ避難を誘導する。
    • ハサウェイの回収:その後、クルーザーでハサウェイを回収し、基地「ロドイセヤ」へ送り届ける。
    • 空中移乗のサポート:メッサー1号機を操縦し、降下してくるカーゴ・ピサに機体を強引に接触させ、ハサウェイを乗り移らせる危険な役目を果たす。

7. ミヘッシャ・ヘンス

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:連絡員 / オペレーター
  • 活躍
    • ダバオでの連携:市街でハサウェイと接触しデータを受け取る。「ハンター」の検問では囮となってハサウェイを逃がす。
    • 情報管制:ロドイセヤ基地にて、敵潜水艦の接近を探知し、迎撃指示やハサウェイへの情報伝達を行う。

8. レイモンド・ケイン

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:パイロット
  • 活躍
    • SFSの操縦:ギャルセゾン(サブ・フライト・システム)を操縦し、成層圏近くまで上昇してメッサー(ハサウェイとエメラルダ搭乗)を射出・サポートする。

9. イラム・マサム

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:幹部(作戦参謀的役割)
  • 活躍
    • 作戦指揮:秘密基地「ロドイセヤ」にて、ガンダム受領作戦の指揮を執る。ハサウェイの強行策に懸念を示しつつも、バックアップを完遂する。

10. ケリア・デース

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:記述なし
  • 活躍
    • 帰還の出迎え:支援船ヴァリアントにて、戦闘を終えたハサウェイを出迎える。ホンコン任務から戻ったばかりで、ハサウェイに対し親しげかつ意味深な態度(耳を甘噛みするような仕草など)で接し、労う。

11. ミツダ・ケンジ

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:現地専従員
  • 活躍
    • 逃走支援:ダバオ市街でハサウェイを車に乗せ、検問を突破。その後、ボートを操縦して海上のクルーザーまでハサウェイを送り届ける。

12. マクシミリアン・ニコライ

  • 所属:マフティー・ナビーユ・エリン
  • 階級:チーフ・メカニックマン
  • 活躍
    • 機体整備:ロドイセヤにてΞガンダムの受け入れ準備を整える。戦闘後、回収されたガンダムからビーム・ライフルが失われていることを指摘する(囮に使ったため)。

地球連邦政府・民間人ほか

13. メイス・フラゥワー

  • 所属:民間人(ハウンゼンの客室乗務員)
  • 階級:なし
  • 活躍
    • ハイジャック時の衝撃で負傷し、ハサウェイに介抱される。ダバオ到着後も行動を共にし、別れ際に感謝を述べる。ケネスにとっても安らぎを感じさせる存在として描かれる。

14. ハンドリー・ヨクサン

  • 所属:地球連邦政府 刑事警察機構
  • 階級:長官
  • 活躍
    • ハウンゼンの乗客。ブライト・ノアの息子であるハサウェイに親しげに接し、ダバオでのホテル手配などで便宜を図る。

15. ゲイス・H・ヒューゲスト

  • 所属:地球連邦政府 調査局
  • 階級:部長
  • 活躍
    • ハウンゼン事件の事情聴取を担当。事件を内密にするようハサウェイに釘を刺し、タサダイ・ホテルの無期限使用カードを渡して事実上の監視下に置く。

16. 少年(カヌーの漕ぎ手)

  • 所属:民間人(現地協力者)
  • 階級:なし
  • 活躍
    • ダバオの海岸でハサウェイをカヌーに乗せ、沖合のクルーザーとの合流地点まで運ぶ。事情を察しつつも深くは聞かない地元の知恵を見せる。

登場したモビルスーツ

1. Ξ(クスィー)ガンダム

  • 搭乗者:ハサウェイ・ノア(マフティー・ナビーユ・エリン)
  • 識別番号:記述なし(通称:新型ガンダム、ヨガンダム)
  • 活躍
    • 大気圏外から隕石を装って降下した輸送カーゴ「ピサ」より、空中で起動。
    • ミノフスキー・クラフトによる単独飛行能力で、重力下でも軽飛行機のような運動性能を発揮する。
    • ペーネロペーとの決戦において、ビーム・ライフルを囮(デコイ)として射出し、レーン・エイムの隙を誘発。その隙にミサイルを一斉射撃し、ペーネロペーを撃破(沈黙・着水)させる。
    • 空中に放り出されたガウマン・ノビルを、マニピュレーターとコックピットハッチの操作でキャッチし救助する。

2. ペーネロペー

  • 搭乗者:レーン・エイム中尉(地球連邦軍 キルケー部隊)
  • 識別番号:記述なし(新型モビルスーツ)
  • 活躍
    • ダバオ空襲の迎撃に出撃し、ガウマンのメッサーを圧倒的な性能で無力化・捕獲する。
    • Ξガンダム迎撃戦では、ケネスの命令により捕虜のガウマンをコックピットに乗せて出撃。人質として利用するよう命じられるが、これを拒否してガウマンを空中で解放する。
    • Ξガンダムのライフルを囮にする戦術を見抜けず、ビーム・ライフルで迎撃した直後にミサイルの直撃を受け、機体が機能停止し海面へ落下する。レーンは脱出する。

3. メッサー

  • 搭乗者
    • 2号機:ガウマン・ノビル
    • 1号機:エメラルダ・ズービン(後にハサウェイが移乗用に使用)
    • 3号機:フェンサー・メイン
    • 4号機:ゴルフ
  • 識別番号:記述なし
  • 活躍
    • 2号機(ガウマン):ダバオ市街地(ホテル周辺)を襲撃し、陽動を行う。グスタフ・カール部隊と交戦し翻弄するが、最後はペーネロペーに敗北し捕獲される。
    • 1号機(エメラルダ/ハサウェイ):Ξガンダム受領作戦にて、降下中のカーゴ・ピサに強引に取り付き、マニピュレーターで外装を破壊。ハサウェイをカーゴ内へ送り込む役割を果たす。
    • 3号機・4号機:ダバオ攻撃の陽動および潜水艦への攻撃に参加。

4. グスタフ・カール

  • 搭乗者:地球連邦軍兵士(キンバレー部隊 / キルケー部隊)
  • 識別番号:記述なし
  • 活躍
    • ダバオ防衛戦にて、市街地被害を顧みず発砲し、メッサーを迎撃する。
    • Ξガンダムとの戦闘では、SFS(ケッサリア)に乗って6機が増援として現れるが、Ξガンダムに「無駄死にするな」と警告される。警告を無視した1機がビーム・ライフルで撃墜され、足場であるケッサリアも1機撃墜されたことで戦線離脱を余儀なくされる。

関連機体(SFS、輸送機、艦船など)

1. ギャルセゾン

  • 用途:マフティー用サブ・フライト・システム(SFS)兼輸送機
  • 活躍
    • メッサーをカプセル状にして搭載し、高高度まで輸送・発進させる。
    • Ξガンダム受領作戦では、レイモンド・ケインが操縦し、限界高度まで上昇してハサウェイたちのメッサーを射出する。

2. ケッサリア(ベース・ジャバー)

  • 用途:地球連邦軍用サブ・フライト・システム
  • 活躍
    • グスタフ・カールの空中運搬および戦闘支援を行う。ミノフスキー・クラフトを持たないグスタフ・カールにとって必須の足場だが、Ξガンダムに狙撃され1機が撃墜される。
    • ケネスやギギの移動手段としても使用される。

3. カーゴ・ピサ

  • 用途:マス・ドライバー用輸送カーゴ
  • 活躍
    • 月からΞガンダムを搭載して地球へ射出される。大気圏突入中、エメラルダのメッサーによってハッチをこじ開けられ、ガンダムを発進させた直後、化学燃料の爆発により空中で四散する。

4. ヴァリアント

  • 用途:マフティー支援船
  • 活躍
    • 鉱物資源運搬船や漁船に偽装して洋上で待機。Ξガンダムおよびガウマン回収後の着艦ポイントとなり、整備や補給を行う。

5. ハウンゼン(356便)

  • 用途:特別往還シャトル
  • 活躍
    • 政府高官専用のシャトル。ハイジャック事件に巻き込まれ、犯人のベース・ジャバーと接触して損傷したため、予定を変更してダバオ空港に着陸する。

6. ベース・ジャバー(旧式)

  • 用途:SFS(ハイジャッカー使用)
  • 活躍
    • マフティーを騙るハイジャッカーたちが使用した旧世紀の骨董品。ハウンゼンに接触し、犯人グループを送り込む。

7. 軽ジェット(水上機)

  • 用途:連絡用航空機
  • 活躍
    • ハサウェイたちがダバオ脱出後に使用。フロートが付いており、ロドイセヤ基地(偽装された乾ドック)へ着水・収容される。

8. 旧世紀の潜水艦

  • 用途:地球連邦海軍 監視船
  • 活躍
    • ロドイセヤ基地周辺を嗅ぎ回っていたが、メッサーの攻撃を受け、浮上不能となり沈没する。この戦闘がきっかけで、ガンダム受領作戦の開始が早まる。

出来事一覧

1 ギギ

ケネスとギギの会話
  • 当事者: ケネス・スレッグ vs ギギ・アンダルシア
  • 発生理由: ギギがマフティー・エリンについてのケネスの意見を求め、その回答が公式的・形式的であると指摘したため。
  • 結果: ケネスはギギの鋭い洞察と言い回しに動揺し、言葉に窮する。

2 ラウンジ

夫人たちの噂話
  • 当事者: 閣僚夫人たち vs ギギ・アンダルシア(一方的)
  • 発生理由: ギギが男性たち(閣僚)の注目を集めていることに対する夫人たちの不快感や嫉妬。
  • 結果: 夫人たちがギギの育ちやパトロンについて侮蔑的な噂話をする。
ギギと閣僚たちの議論
  • 当事者: ギギ・アンダルシア vs 地球連邦政府閣僚たち
  • 発生理由: ギギが世間のマフティー支持の声を引き合いに出し、政府の正当性を問い質したため。
  • 結果: 閣僚たちは反論し、議論は平行線のまま気まずい空気が流れる。

4 ハイジャック

所属不明機の接近と衝撃
  • 当事者: 所属不明機(ハイジャッカー) vs ハウンゼン(乗客・クルー)
  • 発生理由: ハイジャッカーがハウンゼンを捕捉・威嚇するため、スーパーソニック・ウェーブを浴びせて接近した。
  • 結果: 機体が激しく振動し、乗客(メイス・フラゥワー等)が負傷したり天井に打ちつけられたりする。
ケネスの武装制止
  • 当事者: ケネス・スレッグ vs エインスタイン大臣
  • 発生理由: ハイジャック発生時、ケネスが拳銃を持って対抗しようとしたが、大臣が乗客の安全を優先すべきと判断したため。
  • 結果: 大臣がケネスを制止し、ケネスは武装解除して従う。

5 ハサウェイ

閣僚夫人への威嚇射撃
  • 当事者: かぼちゃマスク(ハイジャッカー) vs 閣僚夫人
  • 発生理由: 閣僚の一人がハイジャッカーの神経を逆なでするような質問をしたため、苛立った犯人が威嚇行動に出た。
  • 結果: マシンガンが発砲され、夫人が負傷(失神)する。
夫人の殺害
  • 当事者: かぼちゃマスク(ハイジャッカー) vs 泣き叫ぶ夫人
  • 発生理由: 夫人が遺体にすがりついて泣き叫び、静粛にしろという警告に従わなかったため。
  • 結果: ハイジャッカーが夫人の頭部に銃口を押し当て射殺する。
ハイジャッカー制圧
  • 当事者: ハサウェイ・ノア、ケネス・スレッグ vs ハイジャッカー一味
  • 発生理由: ギギが「マフティーの偽物だ」と叫んで犯人を動揺させた隙を突き、ハサウェイらが反撃に出たため。
  • 結果: ハサウェイが格闘と銃撃で犯人を無力化し、ケネスと協力してコックピットおよびキャビンを制圧。犯人全員を拘束する。

6 ランディング・グランド

管轄権を巡る口論
  • 当事者: ケネス・スレッグ vs ハウンゼンのキャプテン
  • 発生理由: ダバオ空港に着陸後、事件の管轄やハイジャッカーの身柄引き渡しについて、軍(ケネス)が主導権を主張したため。
  • 結果: ケネスが高圧的に押し切り、軍の管轄下におく。

7 ウィズ ギギ

正体の看破と威嚇
  • 当事者: ハサウェイ・ノア vs ギギ・アンダルシア
  • 発生理由: ギギがハサウェイこそがマフティー・ナビーユ・エリンであると言い当てたため。
  • 結果: ハサウェイは「言葉で人を殺せる」と脅しに近い警告を行い、ギギは蒼白になり沈黙する。

8 ホテル

ギギの裸体と拒絶
  • 当事者: ハサウェイ・ノア vs ギギ・アンダルシア
  • 発生理由: ホテルの同室でギギが裸で歩き回っていたことに対し、ハサウェイが嫌悪感を示して拒絶したため。
  • 結果: ギギは不貞腐れて部屋に篭り、ハサウェイが外出する際に泣き声をあげる(心理的衝突)。

10 ハンター

検問突破と銃撃
  • 当事者: マン・ハンター(不法居住者摘発部隊) vs ミツダ、ミヘッシャ、ハサウェイ
  • 発生理由: ハンターが乗車中のミツダたちに居住許可書の提示を求めたが、ミツダが拒否して車を発進させたため。
  • 結果: ハンターが発砲し、カーチェイスとなる。ミツダたちは逃走に成功。
市街地での暴行と銃撃戦
  • 当事者: マン・ハンター vs 市民(および抵抗者)
  • 発生理由: ハンターによる無差別かつ暴力的な取り締まりに対し、市民側の一部が抵抗したため。
  • 結果: 市民への殴打・暴行に加え、銃撃戦が発生。双方に死傷者が出る。

11 ミノフスキー・フライト

ダバオ空襲
  • 当事者: マフティー(メッサー部隊) vs キンバレー部隊 / ダバオ市街
  • 発生理由: マフティーによる連邦軍基地および閣僚宿泊ホテルへの襲撃作戦。
  • 結果: 基地およびホテル周辺が爆撃され、火災と混乱が発生。ハサウェイとギギも避難を余儀なくされる。

12 ビー・フライトエンド

市街地上空のモビルスーツ戦
  • 当事者: ガウマン(メッサー) vs グスタフ・カール部隊
  • 発生理由: 空襲に対する連邦軍の迎撃。
  • 結果: グスタフ・カールが市街地被害を顧みずミサイルやビームを使用し、街が破壊される。ガウマンは追い詰められる。
ガウマン撃墜
  • 当事者: ガウマン(メッサー) vs ペーネロペー(レーン・エイム)
  • 発生理由: 新型機ペーネロペーの参戦。
  • 結果: ペーネロペーがメッサーを蹴り飛ばして無力化し、ガウマンは墜落・敗北する。

13 コマンダー

捕虜への暴行と制止
  • 当事者: ケネス・スレッグ vs ハサウェイ・ノア
  • 発生理由: 連行されるガウマンが転倒した際、ハサウェイが助け起こそうとし、兵士の乱暴さを咎めたため。
  • 結果: ケネスが乗馬鞭でハサウェイの手を払い、これ以上干渉するなら排除すると警告する。

14 ヤング・パイロット

レーンへの叱責
  • 当事者: ケネス・スレッグ vs レーン・エイム
  • 発生理由: レーンが敵機にとどめを刺さず、慢心した態度を見せたため。
  • 結果: ケネスが厳しく叱責するが、レーンは自信過剰な態度を崩さない。

15 キルケー・ユニット

ギギの激昂と退席
  • 当事者: ギギ・アンダルシア vs ケネス・スレッグ
  • 発生理由: ケネスがギギに対し「俺と寝れば勝利の女神になれる」といった性的・軽薄な発言をしたため。
  • 結果: ギギは怒って飲み物をこぼしながら席を立ち、食堂を出て行く。

17 オン オーシャン

レイモンドへの平手打ち
  • 当事者: エメラルダ・ズービン vs レイモンド
  • 発生理由: レイモンドが作業の手間や危険について愚痴をこぼしたため。
  • 結果: エメラルダが気合を入れるために頬を叩く。(※文脈より17章の出来事と判断)

19 ロドイセヤ

潜水艦撃沈
  • 当事者: マフティー部隊(メッサー) vs 地球連邦軍潜水艦
  • 発生理由: 潜水艦がマフティーの秘密基地(ロドイセヤ)付近を偵察していたため。
  • 結果: メッサーの攻撃により潜水艦が撃沈される。

20 パスゥー・ウェイ

警察署長への脅迫
  • 当事者: ケネス・スレッグ vs ダバオ警察署長
  • 発生理由: 警察の捜査協力や情報提供が遅いため。
  • 結果: ケネスが「警察署を爆撃する」「モビルスーツを向かわせる」と脅し、強引に従わせる。
ガウマンへの拷問
  • 当事者: ケネス・スレッグ vs ガウマン・ノビル
  • 発生理由: マフティーの本拠地やハサウェイの正体について尋問するため。
  • 結果: ケネスがガウマンを殴打・鞭打ちする。ガウマンは屈せず、人質としてMSに乗せられることになる。

21 テイク・オフ

カーゴ・ピサへの強行接触
  • 当事者: メッサー(エメラルダ/ハサウェイ) vs カーゴ・ピサ(無人輸送機)
  • 発生理由: 降下中のカーゴ・ピサから新型ガンダムを受領するため、飛行中に機体を接触させて乗り移る必要があった。
  • 結果: メッサーのマニピュレーターでカーゴの外壁を破壊し、ハサウェイが内部へ侵入する。カーゴは姿勢を崩す。

22 ショウダウン

クスィーガンダム対連邦軍部隊
  • 当事者: Ξガンダム(ハサウェイ) vs グスタフ・カール部隊 / ケッサリア
  • 発生理由: カーゴから出現したガンダムを迎撃するため、連邦軍が攻撃を仕掛けた。
  • 結果: ハサウェイは警告の後、警告を無視したグスタフ・カール1機とケッサリア1機を撃墜する。
クスィーガンダム対ペーネロペー
  • 当事者: Ξガンダム(ハサウェイ) vs ペーネロペー(レーン・エイム)
  • 発生理由: 敵主力同士の決戦。
  • 結果: レーンが人質のガウマンを解放した後、ハサウェイの囮作戦(ビームライフル投棄)に嵌まり、ミサイルの直撃を受けてペーネロペーが撃墜(機能停止・着水)される。ハサウェイはガウマンを救助する。

展開まとめ

言葉と忘却への懐疑
刻が忘却を与えるという言葉に対し、この序文では強い疑義が示されていた。言葉は多重性と曖昧さを持ち、真実をそのまま伝えるものではないと語られていた。それでもなお、語り継がれるべき物語が存在するという認識が示され、この物語もまた幾度でも語られる必要があるものとして位置づけられていた。

人の存在が生む悲劇の構造
人の世の悲しみや哀切は、人の存在そのものから生まれるという、恐ろしいほど単純な構造が提示されていた。人は幸せを願いながらも、自らそれを取り逃がす形を作り出してしまう存在であり、そこから解脱や解放を夢想することしかできない姿は、人類の悲劇として描かれていた。

宇宙世紀と生活圏の拡大
刻は宇宙世紀へと移り、人類は月軌道圏までを生活圏とする時代に到達していた。生活空間の拡大は、地球を救済する道を拓いたかのように見え、地球は完全な再生には至らずとも、その余命を延ばしつつある兆候を示していた。

拡大の果てに深まる対立
しかし、宇宙の広さに比べれば生活空間の拡大は矮小なものであり、人類は依然として階級、種族、地域による対立をやめてはいなかった。むしろ拡大によって錯覚を抱いた人類は、内部対立を深めることに狂奔しているように描写されていた。

地球時代との逆転
地球時代の末期には、逼塞状態を理解した人類が対立を抑え、共存するフラストレーションの時代を体験していた。しかし宇宙移民以後、人類は圧殺されていた闘争本能を思い出したかのように振る舞い、テリトリーの拡大が新たな闘争の芽を内包していたと総括されていた。

テロリズムと人類の愚かさ
フラストレーションが頂点に達すれば、対立相手を創造し攻撃性を爆発させるテロリズムが発生するという倫理が語られていた。それが不条理であると断定できても、言葉だけでは人類のフラストレーションを解消できない現実が示され、歴史が逆転したという結論へと至っていた。

1 ギギ

特別便ハウンゼンでの邂逅
地球へ直行する特別便ハウンゼンに搭乗したケネス・スレッグ大佐は、特権階級の乗客に囲まれながら、連邦政府高官たちの品性の低さに嫌悪を覚えていた。マフティー・エリン掃討のため地球へ向かう任務を帯びつつも、地球勤務そのものには複雑な感情を抱いていた。

噂の少女ギギへの関心
キャビンで注目を集めていた少女ギギ・アンダルシアは、上品さと奔放さを併せ持つ存在として映っていた。多くの紳士が声をかける中、ケネスも自然と彼女に引き寄せられ、短時間だけ会話を交わす許可を得た。

表層と内面の落差
ギギは絵本のような映像を映す端末を眺める一方で、落ち着いた態度と鋭い観察力を見せていた。年若い外見とは裏腹に、相手の視線を真正面から受け止める姿勢や、多彩な表情がケネスの心を強く揺さぶっていた。

マフティーを巡る対話
会話はやがてマフティー・ナビーユ・エリンへと及んだ。ギギは世間の評価や噂を引き合いに出し、連邦政府の正義や権力者の在り方を問いかけた。ケネスは公式的な見解を述べながらも、彼女の率直な指摘に言葉を失い、自身の思考の型にはまった側面を自覚させられていた。

別れと余韻
短い時間が終わり、ギギは淡々と会話を切り上げた。ケネスはさらに彼女の考えを聞きたい衝動を抑え、席へ戻った。その胸中には、任務への緊張とともに、得体の知れない少女が残した強い余韻が刻まれていた。

2 ラウンジ

地球を背にした最後の時間
窓から見える地球の輪郭が失われると、この航海最後の食事の時間となった。その流れの中で、ギギ・アンダルシアは自然な動作で後方のラウンジへ向かった。多くの乗客が彼女に関心を寄せる一方、ケネスの隣に座っていた青年だけは露骨な興味を示さず、その態度がかえってギギの注意を引いていた。

夫人たちの視線と密室の空気
ラウンジへ向かう途中、ギギは閣僚夫人たちの軽蔑と好奇心の混じった視線を受け止めていた。無重力という非日常と閉鎖空間の疲労が、夫人たちの感情を刺激し、キャビンではギギに対する噂話がかしましく交わされていた。

青年の移動とラウンジの描写
夫人たちの会話から距離を取るように、ケネスの隣の青年は静かに席を立ち、ラウンジへ入った。深い緑の壁と落ち着いた照明に包まれた空間は、地上の重力を錯覚させるほど豪奢であり、青年はその贅沢さにため息を漏らした。

カウンターでの会話
青年はバーテンダーと軽い冗談を交わしながら酒を注文し、自身が親の力でこの特別便に乗ったこと、地球では植物観察官候補として研修に入る予定であることを語った。特権的な立場を自覚しつつも、それを誇る様子はなかった。

ギギと閣僚たちの議論
ラウンジ奥では、ギギを中心に連邦政府閣僚たちが集まり、マフティー・ナビーユ・エリンを巡る議論が続いていた。ギギは大衆の声や落書き、壁新聞の存在を引き合いに出し、マフティー支持が広がる理由を問いかけた。閣僚たちは冗談を交えながらも、政府側の正当性を主張し、その溝は埋まらないままであった。

噂と観察者の距離
カウンターでは、バーテンダーがギギを「誰かの愛人ではないか」と噂する一方、青年はその在り方を冷静に受け止めていた。互いに内緒話を装いながらも、ラウンジ全体に漂う緊張と好奇の視線は隠しきれなかった。

終わりの気配
スタッフの交代とともに、最後のオーダーの時間が近づいていた。青年とバーテンダーはそれを確認し、ラウンジにも航海の終盤を告げる静かな区切りの気配が流れていた。

3 ケネス

目覚めと静かな会話
ケネス・スレッグは、メイス・フラゥワーに起こされ、目覚めの酒としてバーボンを注文した。地球の雲を眺めながら、先ほどまで考えていたギギ・アンダルシアへの印象を振り返り、その存在にどこか険のある圧力を感じていた。

メイスとの距離感
メイスとの会話の中で、ケネスは自分の好みや過去の結婚生活を思い返していた。前妻との離婚を経ても、ブロンドの女性への嗜好は変わらず、それは人種的思想というより個人的な好みの問題であると自覚していた。メイスの存在はケネスにとって心を緩めるものであり、ギギとは異なる安心感を与えていた。

ギギという存在の重さ
ケネスがギギに好感を抱く理由は、情操的でも生理的でもなく、理性と直感の双方に訴えかける点にあった。彼女がそこにいるだけでプレッシャーを感じさせる存在感は、単なる好意や欲望とは異なる重みを持っていた。

中年の自覚と感情の変化
メイスとのやりとりを通じて、ケネスは年齢を重ねたことで感情の昂ぶりが抑えられ、若い頃のような衝動がなくなったことを語った。それを寂しさではなく、ひとつの成熟として受け止めており、静かな会話そのものを楽しんでいた。

青年の介入と視線の移動
会話の途中、隣の青年が戻ってきたことでメイスはその場を離れた。ケネスは青年の正体を測りかねつつ、窓下に流れる地球を眺め続けた。やがてラウンジの乗客たちがキャビンへ戻り、ギギが閣僚たちに囲まれて入ってくる様子を静かに見つめた。

マフティーへの複雑な思い
連邦政府の閣僚たちを見ているうちに、ケネスはマフティー・ナビーユ・エリンの行動に共感してしまいそうになる自分を自覚した。自由に生きられるなら、自分もそちら側に立っていたかもしれないという思いがよぎったが、それは一瞬の感慨にすぎなかった。

軍人としての自己認識
ケネスは、組織のしがらみの中で生きるのが大人であり、そこから逃げられないからこそ軍人を続けていると理解していた。政治から距離を置き、好きなモビルスーツに関わり続けられる現在の生活を、決して悪いものとは思っていなかった。

モビルスーツへの感情移入
『シャアの反乱』で前線に立った経験を通じ、モビルスーツはケネスにとって唯一、裏切らない存在であった。率直に応えてくれる機械への信頼が、彼を今日まで支えてきたのである。

結論としての自省
ギギの存在によって忘れかけていた生臭い感情を思い出しつつも、ケネスは自分にとって女性は障害物でしかなかったという結論に至っていた。その認識を抱えたまま、彼は再び任務へと意識を戻していった。

4 ハイジャック

大気圏突入と不穏な兆候
ハウンゼンは人工衛星軌道を周回しつつ減速し、大気圏上面をバウンドするように降下していた。宇宙飛行に慣れた乗客にとって、大気中の振動は不快であり、不安を増幅させるものであった。ケネス・スレッグは窓外の海面を見ながら、振動の性質を推し量っていたが、正体不明の飛翔物が接近していることに違和感を覚えていた。

異常接近と衝撃
所属不明の機体がハウンゼンに接近し、スーパーソニック・ウェーブによる激しい衝撃がキャビンを揺さぶった。悲鳴が上がり、無重力状態で身体を打つ乗客も出た。ケネスはショック・ウェーブによる意図的な接近だと判断し、機体が追尾されている可能性を察知していた。

混乱するキャビン
衝撃は断続的に続き、キャビン内では負傷者も出始めていた。メイス・フラゥワーは救急箱を手に負傷した夫人を介抱していたが、さらに大きな衝撃で自らも吹き飛ばされ、青年に受け止められる形となった。キャビン後方からは金属音が響き、後部エア・ロックの異変が疑われた。

ケネスの行動
事態を把握したケネスは拳銃を手にコックピットから飛び出し、ハイジャックであると断じて行動に出ようとした。しかし、同乗していた閣僚に制止され、高度や機体構造から、外部からの侵入が可能であることが示された。

ハイジャッカーの出現
ラウンジ側から銃を向けた男の声が響き、ケネスは指示に従って拳銃を床に滑らせた。ハイジャッカーはそれを回収し、小型のマシンガンを構えたうえで、自らがマフティー・エリンであると名乗った。その声は仮装用のかぼちゃ型マスク越しに、こもった響きを帯びてキャビンに広がっていた。

5 ハサウェイ

ハイジャッカーの統制と点呼
かぼちゃのマスクをした男は、仲間のアイパッチの海賊マスクと連携し、コックピットへのハッチを確保したうえで、ケネス・スレッグを最前列に座らせた。彼は今回の目的を閣僚たちの命ではなく軍資金の調達であると説明し、協力すれば解放すると宣言した。続いてパーサーから乗客名簿を受け取り、閣僚と夫人を含む全員に挙手と返答を強要して点呼を開始した。

威嚇の銃撃と殺害
閣僚の一人が点呼の途中で質問を挟むと、かぼちゃマスクは神経を逆撫でされた形となり、短くマシンガンを鳴らして夫人を負傷させた。さらに彼は処刑を口にし、コックピット側の魔女マスクに連絡継続を命じ、要求を連邦政府に打電させた。点呼の中でギギ・アンダルシアが呼ばれ、続いてハサウェイ・ノアが名指しされ、ハサウェイは自ら返答して存在を明かした。かぼちゃマスクはハサウェイに明確な関心を示しつつ、人質の一人として扱うと告げた。

遺体処理の強要と二重の処刑
かぼちゃマスクは乗客とクルーの人数、死亡者の存在を告げ、遺体の片づけを命じた。死亡したのが保健衛生大臣であることが明かされ、ハサウェイはパーサーとともに作業を任された。ハサウェイは脳漿と血で汚れたシートと、大臣の損壊した顔を目にし、毛布を用いて遺体を移動させる作業を進めた。作業後、気絶していた夫人が目覚めて遺体に取りすがり泣き叫ぶと、かぼちゃマスクは比喩が嫌いだと言い放ち、銃口を押し当てて夫人を殺害し、キャビンを再び沈黙させた。

ギギの叫びと反撃の開始
ハサウェイがかぼちゃマスクを睨みつけて緊張が高まった瞬間、ギギがマフティーを名乗る連中は嘘だと叫んだ。かぼちゃマスクが一瞬動揺したのと同時に、ハサウェイは男の顎へアッパーカットを入れて行動を開始した。背後の海賊マスクが発砲する中、ハサウェイは毛布を投げて弾を逸らしつつ通路を転がり、足払いと踏みつけで海賊マスクを制圧し、マシンガンを奪取した。

コックピット制圧
ケネスは手首を縛られたまま体当たりでかぼちゃマスクを抑え、マシンガンを封じた。ハサウェイは奪ったマシンガンでコックピットへ突入し、魔女マスクと交戦して武器を叩き落とし、さらに海賊マスクと至近距離で対峙して戦意を削いだ。ハサウェイは銃口を男の胸に押しつけ、味方機へ離脱を伝えるよう命じたが、男はすでに伝達済みだと答えた。

事後処理と脅威の確認
ケネスは果物ナイフで拘束を切られ、パイロットの証言からハイジャッカーは四人であったと判明した。機内点検が命じられ、残った犯人はラウンジ側へ移送・拘束された。ハサウェイは事態が収まるまで警戒を続け、民間人や残存犯の移動を見守った。

ギギへの視線と残る疑問
ギギはケネスとハサウェイに感謝を述べ、ハサウェイと目が合うと微笑した。ハサウェイは、ギギの叫びが反撃成功の決定的な契機になったと感じていた一方で、なぜギギが彼らをマフティーではないと断じ得たのかという疑問に囚われ、その判断の意味を考え続けていた。

6 ランディング・グランド

着陸変更と機体異常の推測
ハウンゼンはハイジャッカーのベース・ジャバーとの接触で損傷を受けたらしく、キャプテンは着陸地点変更を放送した。キャビンは騒然としたが、不規則な振動が続くため、やがて騒ぎは収まり、重苦しい不安だけが残った。最終的に「二十分後にダバオ空港へ着陸する」と告げられ、ケネスは赴任先の基地だとハサウェイに漏らした。ケネスは垂直尾翼の不調を示唆し、直進しかできない、または右へ流されている可能性を匂わせた。

不安の沈静と着陸成功
文化教育振興大臣マクガバンは、ハサウェイに過去のモビルスーツ操縦経験を持ち出して機体の安全を問うた。ハサウェイは「今は分からないが、ダバオを選んだのだから大丈夫だろう」と応じ、祈ると付け加えた。ハウンゼンは予告通りダバオ西の新設滑走路へ着陸し、キャビンは歓声と拍手に包まれた。ケネスは自分の移動が不要になったと軽口を叩きつつ、空港施設の一部は本来民間人に見せられないと示した。

閣僚たちの軽薄さとハサウェイの反発
閣僚たちは次の移動が不便になると不満を述べたが、内宇宙監視大臣は「アデレートに近い」「南国の空気も一興」と脳天気にまとめ、拍手すら起きた。助かった安堵が原因だと理解しつつも、ハサウェイは不快感を抱き、窓外の南国の景色へ意識を逃がした。

ダバオ基地の性格と捕虜の扱い
エプロン停止後、ウォークウェイが接続され、ダバオのあるミンダナオ島が航空網の発達した土地であること、連邦軍が付帯的に南太平洋管区の空軍基地を駐留させていることが示された。ハサウェイはラウンジで椅子に縛られた捕虜を確認し、パーサーから「活劇だった」と評されるが、ハサウェイは暴力の後味の悪さを口にした。捕虜は生気があり、軍人とは異なる気配を持ちながらも目的への自信を目に宿していた。

メイスの負傷と別れの空気
ハサウェイは脇腹を痛めたメイス・フラゥワーに声をかけ、彼女は平静を装うが、髪を整えようとしてしゃがみ込むほどだった。パーサーが彼女を庇い、閣僚と夫人は礼を述べつつ次々に降機していった。外気がラウンジへ流れ込み、密閉空間に慣れた五感には新鮮に感じられたが、ハサウェイにとっては馴染んだ空気でもあり、挨拶を繰り返しながら見送った。

ギギの視線と未解決の核心
最後に降りるギギは、ハサウェイと視線が合うのを待つように立ち止まり、透明な青い瞳に笑いを浮かべた。ハサウェイが言葉を出せない一瞬の間に、ギギは彼の前をすり抜けて外気の中へ去った。直後、ケネスは部下が来ると告げ、捕虜はギギの言った通りマフティーではないらしいと示した。さらにケネスは、オエンベリ周辺に「マフティーの軍隊」が集結し、キンバレー司令が掃討に出動中だという情報を口にした。これはハサウェイにとって初耳であり、状況が読めない不穏さが強く残った。

軍と治安機関の主導権争い
駆け込んできたレイ・ラゴイド中尉がキンバレー部隊所属を名乗り、ケネスは新任として軽く応じた。ケネスは「マフティー狩りは自分たちの仕事」と明言し、パン・スペース社の運航船がここへ降りた以上、軍の管轄下だとしてキャプテンの抗議も退けた。さらにケネスは、警察や調査局より先にハイジャッカーを確保するよう命じた。ハサウェイはメイスに手で挨拶し、ウォークウェイへ向かった。

隔離されたロビーとVIPルームへの収容
空港側は兵士で固められ、一般客と完全に隔離された動線が用意されていた。ハサウェイはVIPルームへ案内され、豪華な調度と滑走路に面した巨大窓を持つ広い室内で待機することになった。そこでは刑事警察機構と連邦調査局が動き、事情聴取の段取りを巡って調整が進んでいた。

英雄扱いと形式的な応対
助かった夫人たちは饒舌になり、ハサウェイに握手や抱擁、接吻までして感謝を述べた。ハサウェイは常套句で応じながら、ようやく窓際のソファへ落ち着いた。飲み物の注文を取りに来たコンパニオンにジンジャーエールを頼み、直後に刑事警察機構の長官ハンドリー・ヨクサンが到着した。長官はブライト・ノアやシャアの反乱に触れ、ハサウェイに明日までダバオ滞在を求めた。ハサウェイはメナドへ帰る途中であり、便待ちになるとして受け入れた。

ホテル手配と調査局の圧力
長官はキンバレー部隊の宿泊方針に反発し、別ホテル手配を命じ、事情聴取は今日ではなく後日に回した。直後、調査局のゲイス・H・ヒューゲスト部長が名刺を出し、事件を一般社会に内密とするよう念押ししつつ、長官の方針と別に状況聴取を求めた。その尊大な態度に、ハサウェイは官僚的感覚への嫌悪を覚えながら、ジンジャーエールをストローなしで飲んだ。

視界に入ったギギ
ハサウェイは「なぜ気づかなかったのか」と自問することになった。グラス越しのソファに、ギギがすでに座っていたからである。

7 ウィズ ギギ

視線の固定と距離の解消
ギギは、ハサウェイが立った瞬間から視線を外さず、透明な金髪を肩にまとわせたまま待っていた。ハサウェイは「さっきなぜ笑った」と問い、ギギは「嫌いなのに気にしたから」と、軽く笑いを含ませて返した。ハサウェイは船内で近づけなかった事情を述べつつ、笑いの理由は別にあるはずだと踏み込む。ギギは座るよう促し、ハサウェイは正面から見た彼女を「本当にきれいだ」と口にし、ギギも自然に受け取った。

“騙り”を見抜いた根拠と核心の告白
ハサウェイが「なぜマフティーを名乗る騙りだと見抜けた」と問うと、ギギは「人は身体にあらわれる」と答え、さらに「彼らがマフティーの名を使ったから思いついた」と続けた。ギギは踏み込んで、マフティー・ナビーユ・エリン(正当な預言者の王)という名を名乗るのは、ハサウェイ・ノア本人だと分かった、と言い切った。ハサウェイは笑って否定するが、ギギは興味がないように視線を窓外へ逸らし、ハサウェイは言葉を継げなくなる。ギギは「正直ね、そういうの好き」とだけ付け足し、ハサウェイは“嘘が見抜かれている”と直感し、捕まる覚悟に引き寄せられた。

キンバレー部隊の影とケネスへの警戒
ハサウェイは、ここがマフティー捕捉殲滅のためのキンバレー部隊の駐留地であることを再認識した。従来の指揮官キンバレー・ヘイマン大佐は甘い相手であり、それが半年間の活動余地につながっていたが、今はオーストラリア方面へ侵攻対応に出ているという。残留部隊を握る可能性があるケネスは、強さを誇示するタイプで、扱いやすい面がある一方で、ハサウェイには怖い存在として映った。

言葉の刃とギギの蒼白
ハサウェイは「しゃべりすぎは嫌われる」と牽制し、さらに「時には言葉で人を殺せる。比喩ではない」と釘を刺した。ギギは顎から手を引いて背筋を伸ばし、顔色が蒼白になって「そんなのは絶対いやだ」と強く反応した。ハサウェイは、ギギが無神経な軽口の人間ではなく、言葉の重さを信じ、自分の語った内容も本気で信じる種類だと理解する。ギギは政治家たちとハサウェイを同列に扱わず、興味を刺激する相手には素直であることが示された。

事情聴取の進行と“逃げ場のなさ”
ゲイス部長に従う若者が現れ、ギギから事情聴取を始めると告げる。ギギは元気に立ち上がって去ったが、ハサウェイは展開のまずさを悟り、基地配置も戦力も把握しきれていない以上、即時の脱出は困難だと判断する。ダバオには潜伏連絡員がいるはずだが、今日の事態をチェックできる確証はなく、ロビーの電話も盗聴の恐れで使えない。閣僚夫婦の聴取が終わり次々と去る中、ハサウェイだけが残され、待たされる感覚は「絞首刑台の十三階段」を待つ心境に近づいた。

ギギの帰還と同行の提案
ギギは十分ほどで戻り、飲み物を替えさせてからハサウェイの席へ来た。先ほどの重い会話を忘れたかのように「疲れているの?」と日常語で聞き、さらに「同じホテルみたいだから一緒に行こう」と提案し、タサダイ・ホテルの会員券らしいカードをテーブルに置いた。ハサウェイは、ギギが事情聴取で自分の宿泊先まで把握しているのに同行を言い出せるという事実から、少なくとも“逮捕に直結する話”はしていない、と読み取って気が抜けた。

“自由”への志向と地球での居場所
ハサウェイがギギの人物像を問うと、ギギは「自由でありたい」「本当のことは簡単に分からないから、分かろうとすれば用心もする」と語った。ギギは地球に降りた理由を「元気になるため」と言い、居住地としてホンコンではなく「ニッポンの山のなかがいい」と考えていると明かす。ハサウェイは母方の先祖の出身地だとして興味を示し、ギギはハサウェイの顔つきの由来をそこに結びつけた。

マフティー批判と“理想的独裁”という回答
ギギは「マフティーのやり方は正しくない」と断じ、ハサウェイが「他のやり方があるなら教えてほしい」と返すと、ギギは即答で「絶対に間違わないでやれる理想的な独裁政権の樹立」と言う。ハサウェイは真理を突かれた笑いを漏らし、それが可能なのは神だけだと述べる。ギギは「あなたが神になればいい」と押し、ハサウェイは、人類全体が神に近づく段階(ニュータイプ)でも来ない限り無理だと返し、連邦政府規模の政権奪取は一人の意思で成し遂げられるものではない、と現実を語った。

恐怖の実感と次の呼び出し
ギギはハイジャックの恐怖を訴え、「殺されるのも怖い」と言い、ハサウェイも同意した。そこへ調査局の若者がハサウェイを呼びに来る。ハサウェイが席を立つと、ギギは膝に手を置き「待っているわ」と言い残した。

8 ホテル

調査局との形式的な解放
調査局のゲイス部長は、当面の聴取を切り上げ、ハサウェイをホテルへ戻す手配を整えた。翌日に再度の出頭が必要になる可能性を示しつつも、宿泊先としてタサダイ・ホテルを無期限で使用できるカードを渡し、実質的には行動を制限しながらも厚遇する姿勢を見せた。ハサウェイは官僚的な対応を皮肉りつつも、その裏にある監視の意図を感じ取っていた。

空港からホテルへの移動と警戒
ギギは空港でリムジンを待っており、二人は薄桃色の車でホテルへ向かった。ハサウェイは背後につく車両や周囲の動きを注意深く観察し、仲間の存在を期待する一方で、あからさまな接触は避けた。車内でのギギとの距離の近さは、ハサウェイに緊張と戸惑いをもたらし、彼女の芝居がかった振る舞いに翻弄される形となった。

タサダイ・ホテルの重厚な空間
ホテルは旧世紀の技術と時間の積層によって威厳を備えた建築であり、最上階近くの長期滞在用スイートが二人に用意された。海と街並みを一望できるその空間は、豪奢であると同時に、逃げ場を奪う配置でもあった。上下を押さえられた状況に、ハサウェイは「監禁」に近い感覚を抱く。

仲間の影と情報の糸口
ホテル内でハサウェイは、仲間であるミヘッシャ・ヘンスの姿を確認した。直接の接触は避けたものの、同じ建物にいるという事実は、今後の連絡の可能性を示す重要な手掛かりとなった。表向きは安全で盗聴もなさそうな場所である一方、著名人や高官が密かに使う施設であることも理解し、警戒は解けなかった。

ギギとの同室をめぐる摩擦
ギギは自然な流れでハサウェイの荷物を自室に運ばせ、同室を当然のように受け入れた。ハサウェイは戸惑いながらも、その場の流れに従う。しかし、シャワー後に偶然目にしたギギの無防備な姿をきっかけに、彼は強い拒否感を示し、距離感をはっきりと線引きした。その反応はギギを傷つけ、二人の間に気まずい沈黙を生んだ。

潜伏準備と密かな行動
ハサウェイはシャワーの最中、歯に隠していたマイクロフィルムを取り出し、手帳に分散して隠匿した。ホテルが表向き安全である可能性を考えつつも、階下に仲間がいる以上、接触の機会を探る必要があると判断する。甘味と紅茶で時間を調整し、自然に外出する算段を立てた。

すれ違いと決断
散歩に誘う呼びかけにギギの応答はなく、泣いているような声だけが返った。ハサウェイは彼女の気持ちを十分に汲めないまま部屋を出る。ギギを敵に回す危険性を理解しつつも、深入りを避けようとする判断だった。エレベーターを待つ間、ハサウェイはギギの存在が自分にとって特別である理由を思い、過去のクェス・パラヤの記憶と重ね合わせる。

危うい引力
ギギのような少女に無条件で惹かれてしまう自分自身の性質を、ハサウェイは自覚していた。それが危険であることも理解しながら、なお距離を置ききれない。その矛盾こそが、現在のハサウェイを形作っている感情であり、彼の弱点でもあった。

9 コンタクト

ホテル周辺での偽装行動
ハサウェイは観光客を装い、ホテル内を巡回しながら自然な動線で外へ出た。パンフレットを手に、ショッピング・アーケードやラウンジを回ることで、監視の目をかわしつつ、外部との接触機会を探っていた。狙いは、ミヘッシャ・ヘンスとの合流であった。

ミヘッシャ・ヘンスとの合流
夕刻の街路で、ミヘッシャは書類袋を抱えたままハサウェイを追い越し、さりげない仕草で合図を送った。ハサウェイはその後を追い、交通量の多い通りを抜けた先で、錆びついた車に乗り込む。運転していたのは、空港で見かけた東洋人の青年ミツダ・ケンジであり、彼はこの地の専従者であった。

車内での状況整理と任務確認
車内でハサウェイは、新型ガンダム受け入れのためのオート・パイロット用データをミヘッシャに渡した。新型機は隕石を装って地球へ降下する計画であり、その時刻は翌日の夕方に固定されていた。ロドイセヤ側での準備を急がせる必要があることも確認された。

ハウンゼン事件とオエンベリの動向
ハサウェイは、ハウンゼンのハイジャック事件と空港での経緯を説明した。オエンベリではマフティーの名を騙る集団が自然発生的に集結し、数万規模に膨れ上がっているという情報が共有された。この動きはクワック・サルヴァーの主導ではなく、結果として彼を利する形になっていた。

キンバレー部隊の出撃と空白
キンバレー部隊の主力は、オエンベリへの侵攻に出撃しており、そのためダバオの防備には一時的な隙が生じていた。ハサウェイは、その状況がガンダム受け入れ準備を妨害されなかった理由だと理解する。一方で、新任司令の着任により、今後は同じ手が通じないことも認識していた。

陽動作戦の指示
ハサウェイは自身がタサダイ・ホテルから出られない状況にあることを前提に、目くらましとなる攻撃の実行を指示した。宿泊している階層を避け、上層部を狙うことで疑念をかわす意図であった。また、メナドのアマダ教授にも軍の調査が及ぶ可能性を伝えるよう要請した。

ギギ・アンダルシアへの警戒
話題はギギ・アンダルシアにも及び、彼女がハサウェイにとってのダミーとなるか、あるいは敵側の目となるかは未確定であると語られた。詳細な説明は避けられたが、その存在が今後の展開に影響を及ぼす可能性は共有された。

帰投と次の局面
ミツダの運転する車は大きく街を迂回し、再びタサダイ・ホテルへ向かった。ハサウェイはガンダム降下が予定通り実行されることを念押しし、仲間たちはロドイセヤへの帰投と次の配置転換を確認した。こうして、静かな街路の裏側で、次の局面へ向けた準備が進められていった。

10 ハンター

ハンターとの遭遇
ミツダの運転する車は、市街地で黒装束の取締部隊〈ハンター〉に行く手を阻まれた。黒いワンボックスと武装した隊員たちは、夕刻の雑踏の中で居住許可書の検問と恫喝を行っており、無差別な暴力性を隠そうともしなかった。

追跡と分断
職務質問を拒否する形で急加速したミツダの車は、銃による威嚇射撃を受けながら逃走した。包囲が迫る中、ミツダはハサウェイを安全に切り離す判断を下し、郊外で降車させる。以後、ミツダとミヘッシャは陽動と離脱を選択し、ハサウェイは単独行動に移った。

市街の暴力と民意
タクシーを探す過程で、ハサウェイはハンターによる公然たる暴行と銃撃を目撃した。市民は恐怖に晒され、無差別の拘束と恥辱を伴う処置が常態化していた。店員や運転手の会話からは、ハンターへの憎悪と、マフティーが彼らを討たないことへの不満が率直に語られていた。

タクシー内の対話
ようやく拾ったタクシーの運転手は、地球連邦政府の居住許可制度への疑問と、生活の切迫を吐露した。未来や理念よりも日々の糧を優先せざるを得ない現実が示され、ハサウェイはその率直さに衝撃を受けつつ同意せざるを得なかった。

地球連邦の制度と矛盾
ハサウェイは、宇宙移民と地球保全を掲げた連邦政策の成立過程と、その運用に残された例外規定が差別と暴力を生んだ矛盾を再確認した。地球回帰への欲求、スペースノイドの逼塞、そして「必要悪」とされた制度が人権侵害へと転化した現実が、彼の思考を苛立たせた。

シャアの反乱と個人的原体験
思索は、かつての戦場体験と、クェス・パラヤの死へと回帰した。地球を守るという大義の名の下で多くの命が失われた記憶は、シャアの思想への共感と、現実政治の冷酷さを同時に想起させた。

ホテルへの帰還
ハサウェイはタサダイ・ホテルに戻り、調査局からの連絡を受け取る。ギギは不在で、彼はルームサービスで食事を済ませた。ギギが自分に関する所感を漏らしていれば逃れられない覚悟も固めつつ、最低限、ガンダムの回収だけは成し遂げる決意を新たにした。

ケネスの来訪
食事の最中、ケネスが姿を現した。ギギはケネスと外食に出る支度をし、場は軽口と皮肉が交わされる。ケネスはハサウェイの過去――シャアの反乱での行動と戦果――を語り、軍と組織のいい加減さを指摘した。

束の間の静穏
ギギは装いを改めて現れ、ケネスに紐結びを頼む。ハサウェイはそれを当てつけと受け取りつつ、感情を抑えた。暴力と制度の矛盾が渦巻く外界とは対照的に、室内には一時的な平穏が戻ったのである。

11 ミノフスキー・フライト

低空侵攻と作戦前提
海面すれすれを音速近くで飛ぶ二機の輸送機(ギャルセゾン)は、白い飛沫を帯のように引きながらダバオへ接近した。監視網と衛星が薄い現状、さらにマフティーの活動で監視衛星が減っている事情により、探知されにくい状況が整っていた。ミノフスキー粒子散布下では無線が制限されるため、輸送機と搭載MSメッサー間の通信は有線で行われた。

ガウマンの視界と標的設定
メッサー2のパイロット、ガウマン・ノビルは実視ディスプレーで周囲を監視し、ダバオ地図と照準を連動させた攻撃準備に入った。標的は複数設定され、タサダイ・ホテルもその一つに含まれていた。ガウマンは「閣僚がホテルに集まっている」状況を愚弄しつつ、短時間で離脱する制約を再確認した。

陽動攻撃の開始
3ギャルセゾンが進路を分け、先にメッサー4(ゴルフ)が西方へ侵攻した。続いてフェンサー機、最後にガウマンのメッサー2が発進し、リージェント・ホテルを狙って手動で攻撃を実施した。市街と空港方面では火柱が上がり、キンバレー部隊側を揺さぶる陽動が成立していった。

時間稼ぎの意図
ガウマンの任務は、タサダイ・ホテルへの攻撃そのものだけでなく、ハサウェイに脱出のタイミングを与えるための「待ち」を含んでいた。ギャルセゾンを長く空域に置けない制約から、ガウマンは戦闘域内でジャングルに一時着地し、時計を睨みながら危険な静止を耐えた。

タサダイ・ホテル攻撃への移行
時間経過後、ガウマンは再加速して空へ躍り出た。フェンサーとゴルフの攻撃状況を確認しつつ、次の攻撃目標であるタサダイ・ホテルへ機体を向け、同時にケネス麾下の迎撃を引き受ける覚悟を固めた。

ホテル側の異変と避難開始
ゴルフの攻撃が空港方面に入った段階で、ハサウェイは地響きで跳ね起きた。火線を視認し、ギギの部屋を叩いて避難を促す。ギギはナイトガウンとバッグで出てきて、ホテルも狙われると聞くと即座に動き、廊下へ飛び出した。

エレベーター内の緊迫とギギの挑発
避難の途中、政府関係者らしい中年夫婦と同乗する形でエレベーターに乗り込む。ギギは周囲の目を利用するようにハサウェイへ身体を寄せ、問い詰めと挑発を重ねた。ハサウェイは話題を逸らしつつも、ギギの勘と危うさを同時に意識していた。

エレベーター停止と脱出
爆撃の衝撃でエレベーターは急停止し、非常灯のみが点く。ハサウェイは非常ボタンを押して扉をこじ開け、階層表示(三階)を確認して廊下へ出た。悲鳴と混乱の中、ギギを抱えて階段へ向かい、フロントへ急行する。

ロビーの混乱と「マフティー」の名
ロビーでは非常灯と懐中電灯の光の中、人々が「マフティー」「天誅」といった放送や怒声に反応し、恐怖と猜疑が渦巻いていた。ハサウェイは群衆の動線に巻き込まれるのを避け、脇の小さなドアから外へ抜ける判断を下した。

夜明け前の市街へ
外へ出ると、通りは空襲を知らぬかのように街灯が点き、日常の光景が残っていた。ハサウェイはギギの頭に自分のジャケットを被せ、東の開けた方角へ走り出した。

12 ビー・フライトエンド

異様な飛行音と新型の影
街路を震わせる聞き慣れない爆音とともに、低空を切り裂く黒い影が出現した。ハサウェイはその運動性から、通常の機体ではない連邦軍の新型モビルスーツであると即座に理解する。ミノフスキー・クラフトによる飛行能力――それは彼自身がテストした新型ガンダムと同系統の技術であり、連邦が同水準に到達している現実は衝撃であった。

ガウマン機の孤立と市街戦
一方、ガウマン・ノビルのメッサー2はダバオ上空で包囲され、脱出の機会を失いつつあった。キンバレー部隊のグスタフ・カールは、市街地を顧みない砲撃を継続し、爆発と炎が街を覆う。都市を盾に接近戦へ持ち込むというガウマンの判断も、無差別攻撃の前では危険を増すばかりであった。

地上の混乱とエメラルダの合流
落下するモビルスーツの直下で、ハサウェイとギギは必死に逃走する。そこへ次の連絡員エメラルダ・ズービンが接触し、公園への退避を促す。彼女は人波に紛れながら二人を導き、上空の戦闘から身を隠す判断を下した。

至近距離の巨人戦
公園と周辺ビル群を舞台に、メッサー2と複数のグスタフ・カールが肉薄する。ビーム・サーベルとマニピュレーターが激突し、装甲と建造物が溶解・破砕される。新型と思しき機体の介入もあり、ガウマン機は頭部を蹴られるなど致命的な圧迫を受ける。

ギギの恐怖とハサウェイの葛藤
間近で繰り広げられる破壊に、ギギは完全に恐怖に呑み込まれる。泣き崩れる彼女を抱きかかえ、ハサウェイは逃走と保護の間で引き裂かれる。論理では切り離すべき存在であっても、目前の恐怖に晒されるギギを見捨てることはできなかった。

離脱の合図と残る緊張
エメラルダは隙を突いて連絡を残し、次の合流地点を示すが、ハサウェイはギギの状態を優先してそれを破り捨てる。戦闘は次第に遠のくものの、機械の駆動音はなお残り、完全な静寂は訪れない。夜明けの空の下、恐怖だけが二人の間に重く残された。

13 コマンダー

捕縛の瞬間と静かな終結
公園越しに、ガウマン・ノビルのメッサー2が左右からグスタフ・カールに制圧される光景を、ハサウェイは目撃した。両機は人の所作のように相手を牽制し、ガウマンは生き残ったマニピュレーターを上げて敗北の意思を示した。戦闘は明確な終結を迎え、捕虜の扱いへと移行した。

ベース・ジャバーの降下とケネスの登場
キンバレー部隊のベース・ジャバーが公園に着陸し、兵士たちは捕虜確保に集中する。ほどなくケネス大佐が姿を現し、ハサウェイとギギの無事を確認する。ギギは恐怖から解放され、ケネスに縋るように甘え、その光景はハサウェイに複雑な感情を呼び起こした。

新型モビルスーツの評価
朝日に照らされる新型機は、ミノフスキー・クラフトによる垂直上昇を見せ、圧倒的な存在感を放つ。ケネスはその性能に一定の手応えを感じつつも、まだ引き出し切れていないと冷静に評した。一方で、マフティーの捕虜を得た成果を、赴任初日の戦果として受け止めていた。

指揮官としての顔
ケネスは即座に道路封鎖と機体回収を命じ、捕虜は自らの手で移送すると宣言する。部隊の緩みを厳しく指摘し、鍛え直しを示唆する姿勢は、前任者との差を明確に示すものであった。ハサウェイは、その指揮ぶりから今後の活動が困難になることを直感する。

機内の安堵と違和感
ベース・ジャバーのコックピットで、ギギは温かいコーヒーを手に落ち着きを取り戻す。膝枕で眠る彼女の重みと体温は、ハサウェイに一瞬の安堵を与えたが、その裏には拭えぬ違和感が残った。外では、手錠をかけられたガウマンが護送され、新型機が静かに上昇していく。

出発と余韻
ケネスは二人の身分を確認し、連邦政府公認の客として同行を許可する。エンジンの轟音とともにベース・ジャバーは上昇を開始し、現場は後処理へと移った。捕虜を得た勝利の余韻の中で、ハサウェイは自らの立場がより危うくなったことを、静かに噛みしめていた。

14 ヤング・パイロット

基地への帰還と戦力増強の兆し
ベース・ジャバー「ケッサリア」は、キンバレー部隊が占拠する空港へと降下した。滑走路南端の格納庫群には爆撃痕が残る一方、無傷の新設格納庫が存在し、部隊の戦力増強が着実に進んでいることを示していた。ハサウェイは、ペーネロペー配備を含むこの補強を目の当たりにし、マフティーとの対決が避けられない段階に入ったと悟る。

ケネスの覚悟と政治的緊張
ケネスは、前任者キンバレーの行動を引き継ぎつつも、自身の裁量で部隊を仕切る姿勢を明確にした。要人殺害と電波ジャック予告を語り、マフティーが大衆の支持を得て“政治闘争の偶像”へ変質する危険を強調する。彼は、その芽を摘むためにこの地へ来たのだと断言した。

捕虜ガウマンへの対応
着陸後、拘束されたガウマン・ノビルが乱暴に扱われる場面で、ハサウェイは思わず庇い立てする。ケネスはそれを制し、情勢の苛烈さと軍の緊張を説明しつつ、即時尋問を命じた。ガウマンは覚悟を決めた表情で連行され、両陣営の溝の深さが浮き彫りになる。

新型機と若きパイロットの登場
朝日を背に、新型モビルスーツ・ペーネロペーが優雅に着陸する。呼び出された若きパイロット、レーン・エイムは、俊敏な動きと自信に満ちた態度を見せるが、ケネスはその慢心を厳しく戒め、確実な止めを刺す覚悟を求めた。レーンは命令を受け、新型機へと戻っていく。

ハサウェイの内省
レーンの姿に、ハサウェイはかつての自分――シャアの反乱時に抱いた過剰な自信――を重ねる。若さと新型機が生む増長、その先に待つ現実を思い、彼は苦笑を浮かべた。基地の喧騒の中で、対決の歯車は確実に回り始めていた。

15 キルケー・ユニット

基地での休息と監視の気配
ハサウェイとギギは、ケネスの基地内でそれぞれ個室を与えられ、束の間の休息を得た。ハサウェイには衣類一式まで用意されていたが、その気配りは同時に監視されている感覚も伴っていた。ギギも基地内のショッピング施設で衣類を調達し、表向きは穏やかな時間が流れる一方、二人は自由を制限されている現実を意識していた。

士官食堂と作戦の緊張感
士官食堂では作戦開始前の慌ただしさが漂い、ハサウェイは敵対関係にある部隊の内部で食事をするという奇妙な立場に置かれる。そこへケネスが現れ、部隊名を「キルケー部隊」と改める構想を語る。神話に由来するその名は、マフティーという存在を“無力化する魔法”を象徴するものであった。

ギギをめぐる軽妙な応酬と決裂
食事の席では、ギギを中心に軽妙な会話が交わされるが、ケネスの露骨な物言いが引き金となり、ギギは怒って席を立つ。彼女の存在が男たちに与える影響力、そしてそれをどう扱うかという価値観の違いが露わになり、場の空気は一気に冷え込んだ。

マフティーを巡る認識の共有
ハサウェイとケネスは、マフティーが世論の支持を集めつつある現状について語り合う。テロによる犠牲者の多さ、閣僚が地球に留まり続ける特権意識、そしてそれが結果的にマフティーを“政治闘争の偶像”へと押し上げている矛盾が指摘される。ハサウェイは、いずれマフティー自身が生贄になる運命を感じ取り、深い憂鬱を覚える。

調査局の聴取と同じ結論
調査局での事情聴取は形式的なもので終わり、部長の言葉もまた、ケネスと同じく「マフティーはジャンヌ・ダルク化しつつある」という認識に行き着く。体制側の人間ですら、事態の危うさを理解していることが示された。

指令室での再会と若きパイロット
ケネスの指令室では、キルケー部隊の中核となるパイロットたちが訓練へ送り出され、その中にレーン・エイムの姿もあった。ケネスは冗談交じりにハサウェイを勧誘するが、彼はそれを断る。話題は自然と、ハサウェイの過去――シャアの反乱、クェス・パラヤとの戦い――へと及ぶ。

過去の戦争と消えない罪悪感
アルパ・アジールとの接近戦で人を殺した記憶は、ハサウェイにとって消えない傷であった。戦争という文脈では正当化されても、彼の内面では「愛した人を殺した」という感覚だけが残り続けている。その重荷こそが、彼を再び軍に戻ることから遠ざけていた。

別れとキルケー・ユニットの意味
出発を前に、ギギの所在が定まらないことも明かされる。ケネスは改めて、自分たちがマフティー掃討のための「キルケー・ユニット」であることを強調する。ハサウェイはそれを受け入れつつも、笑って基地を後にした。対話と別れを経て、両者はそれぞれの立場で、避けられぬ対決へと歩みを進めていくのであった。

16 ランナウェイ

単独行動への切り替えとギギへの疑念
ハサウェイはケネスの手配したリムジンでダバオへ向かい、ようやく一人になったことで、ギギが自分に感じた“何か”をケネスに話していない理由を考え始めた。口が軽そうでいて核心を漏らさない彼女の性質に、ハサウェイは得体の知れない距離を感じる。一方で「ガンダムは自分で回収する」という義務感が彼を急かし、基地へ引き返したい衝動を押し殺して行動を優先した。

監視を前提にした脱出準備
同行する下士官たちを信用できないハサウェイは、怪しまれないことを最優先に動く。銀行で換金し、スーツケースをコインロッカーへ預け、案内所でメナド行きの便を確認して“夕方便にする”と独り言を装う。監視・照合のために窓口が機能している現実も意識しつつ、観光客のふりを徹底し、仲間との接触地点へ向かった。

街に流れるマフティー演説と世論の反応
街中では電波ジャックによるマフティーの演説が流れ、一般人への被害を詫びつつ「地球に住むことは罪悪」という主張が繰り返される。ハサウェイはその録音に立ち会った記憶があるだけに、他人の声で語られる“定型の正義”に居心地の悪さを覚える。すれ違う人々の会話からは、実際の破壊が「マフティーよりキンバレー部隊の方がひどい」という認識も聞こえ、状況が世論の面で体制側に不利へ傾いていることが示された。

港沿いの南下と、記憶の呪縛
ハサウェイはダバオ港沿いに南下し、漁船“ネジェン”のコード・ネームを持つ船との接触を狙う。しかし、走りたい衝動を抑え、散歩を装い続けることが神経を摩耗させる。暑さの中で彼はクェスの名を心中で呼び、シャアへ走った彼女の背中が消えない刻印として蘇る。過去の罪悪感が、現在の行動の迷いと焦燥を増幅させていた。

少年のカヌーと“用意された誘導”
砂浜で十五、六歳の少年が「ネジェンを知っているだろ」と声をかけ、十ドルで連れて行くと持ちかける。少年は観光事業主の許可書まで携帯しており、客引きの体裁は整っていた。やがて少年は「女に頼まれた」「海に慣れない客だと聞いた」と語り、ハサウェイはこれは偶然ではなく、誰かが彼を拾い上げるための段取りだと察する。

低空飛行の威圧と、民衆の政治感覚
沖へ出たカヌーの近くをキルケー部隊の機体が低空で通過し、しぶきの壁が立ってカヌーが揺れ、ハサウェイは海へ落ちる。少年はそれを「キンバレー部隊の連中」と断じ、体制側の荒っぽさが“マン・ハント”と同質だと語る。彼はマフティーの演説内容にも通じており、地球を自然に戻す理念には共感しつつ、全員宇宙移民という極論には抵抗も示す。特権階級だけが地球に降りられる構造への反感が、生活感覚として言語化されていた。

回収チームの到着と撤収
前方から接近した大型クルーザーは仲間の船であり、フライデッキにエメラルダが姿を見せ、ミツダ・ケンジがロープを投げて合流する。ハサウェイはスーツケースがロッカーにあると伝え、ミツダは回収を引き受ける。ハサウェイは少年に名を問わず別れを告げ、クルーザーへ移乗する。

水中翼船での加速と次局面への突入
クルーザーは急転回し、全速力で疾走したのち船体を海面から浮上させる。水中翼船としての加速は、ハサウェイの“逃走”を現実の速度へ変え、彼を次の段階――ガンダム回収と、より直接的な対決――へ押し流していくのであった。

17 オン オーシャン

ギギ情報の露呈と内部の警戒
クルーザーのキャビンにエメラルダ、イラム、レイモンドが降りて来て、ハサウェイは「ハウンゼンで生じた妙な人間関係から脱出した」と状況を要約した。エメラルダはギギを新しい恋人扱いで問い、ハサウェイはケネス大佐がギギを連絡員疑いで拘束していると説明する。続けてハサウェイは、ギギが自分をマフティーだと看破した事実を明かし、これが一同の危機感を直撃した。レイモンドは「知っていれば、いつか漏れる」と断じ、イラムもハサウェイの弱点として捉え、作戦上の不確実性を強く意識した。

決断の保留と任務続行の合意
ハサウェイは「ギギはケネスに話していない」と主張し、保証はできないが“身元は割れない”方向だと訴えた。反発は残るが、エメラルダは「今は話を信じて任務を遂行する」と割り切り、イラムも最低限の同意へ移る。ガウマンが捕虜のままで自白の危険がある点を示し、状況が元々綱渡りであることも共有され、当面は行動を前へ進める方針が固まった。

データ解析とフィルム照合
イラムは「解析は完了、ギャルセゾンとブースターベッドの最終調整中」と報告しつつ、ミヘッシャが持ち込んだフィルムに粒子由来の不明データがあり照合が必要だと告げる。ハサウェイはスペアのマイクロフィルムを渡し、イラムはコンピューター・トレーサーで再生しフロッピーへ入力する作業へ入った。レイモンドが手間を愚痴ると、エメラルダは頬を叩いて叱りつけ、危険な仕事を自覚させた。

監視回避の自己点検と、キルケー部隊情勢の整理
フライ・ブリッジでハサウェイは、尾行や発信器装着の兆候がないと報告し、エメラルダもそれを受け入れた。ただし監視が厳しくなる前提は崩れず、直接浜へ行かなかったことが確認される。話題はオエンベリの私設軍隊騒ぎへ移り、キルケー部隊(ケネス)の関心がそちらへ向いている点が、現在の逃走余地を生んでいると整理された。さらに、オエンベリに三万規模が集結している一方で、マフティー傘下は二千に届くかどうかという現実が語られ、民意の“熱”と組織動員の“数”が一致していない矛盾も浮き彫りになった。

ケネスの性格評価とペーネロペーの脅威
エメラルダは「マフティー本人が近くにいたとは誰も想像しなかった」と笑うが、ハサウェイはケネスがいずれ気付くと見ている。ケネスは自制心がありつつ狂暴で、迎撃の仕方がそれを証明したという評価が共有された。新型モビルスーツのパイロットが強化人間かは不明だが、ペーネロペーの性能は「新型ガンダム級、あるいはそれ以上」と見積もられ、今後の戦況が厳しくなる見通しが示された。

入江への潜航と軽ジェットへの乗り換え
クルーザーはサン・アグスティン岬を回り、岩場の入江へ滑り込む。そこには濃緑迷彩のフロート付き軽ジェットが待機しており、エメラルダが操縦、ハサウェイ・イラム・レイモンドが搭乗してロドイセヤへ向かった。軽ジェットを警護していた若者たちはクルーザーでダバオへ戻り、キルケー部隊の動静偵察に回る段取りとなった。

クワックの位置づけと、組織の“影”
今回の受領地点の選定は、マフティーを支援するクワック・サルヴァーの手腕によると説明される。クワックは“マフティーという架空の中心”を成立させる影の存在で、かつて地球方面軍の要職にあった将軍らしいこと以外は不明である。ただし補給とメンテナンス部隊編成の能力は突出しており、そのコードネームが「インチキ医者」的な含意を持つことも語られた。

南下航路と「歴史が集める」論
軽ジェットはメナドよりさらに南下し、ハルマヘラ島の赤道直下付近を東へ横断して東岸へ出る。レイモンドは「ここまで無事なら嫌疑は晴れた」と陽気さを取り戻し、ハサウェイも気が緩む。会話は自然発生的な大集結(オエンベリ)へ移り、イラムは「歴史がジリジリ進み、どこかで膨張する。宗教の拡大のように」と説明して、偶発と必然が混じる群集形成を位置づけた。

ロドイセヤ着水と迎えの出現
エメラルダは着陸前に全員へ踏ん張るよう促し、機は急降下して海面へ着水した。青い海とココヤシの海岸線へ向けて滑走する中、どこから出たのか判然としない数隻のゴムボートが白波を立てて接近し、ロドイセヤ側の迎えが機を回収する局面へ入った。

18 ダイニング・ルーム

ケネスの多忙と「ギギ待ち」の動機
ケネス・スレッグは基地残留のモビルスーツ部隊の編成と装備・実働プランの検討に追われていたが、それでも士官食堂へ出向いた。理由はギギを待たせているからであり、キンバレーへの苛立ちが強い現状では、ギギの存在が気分転換にもなると自嘲していた。ギギを「怪しいかもしれない」とハサウェイに言ったのも、実際は口実に近いと内心で整理している。

コテージ手配と、同席したギギの反応
食堂へ向かう途中、ケネスは総務部に連絡し、客用コテージをギギのために一棟確保するよう依頼した。食堂ではギギが先に窓際席で食事を始めており、待つことに慣れていると屈託なく答えた。ギギはハサウェイが挨拶もなく去ったことを不満として口にするが、ケネスは「会えば未練が出るから」との伝言を伝え、男の心理として理解できると評した。

住まいの提示と、ギギの挑発
総務からコテージ確保の報告が入り、ケネスは作戦が落ち着くまでの滞在先として「ゲッチンゲン・ハウス」を用意し、いずれホンコンへ送るつもりだと告げた。ギギは礼をしつつも「お礼ができない」と冷淡に返し、監視下に置きたいのかと逆に刺す。ケネスは押し返すため、ギギの搭乗経路(バウンデンウッデンのターミナル)を突き、家系関係を問いただした。

「伯爵」との関係の告白
ギギは、カーディアス・バウンデンウッデンと親しい関係だからハウンゼンに乗れた、と明言した。ホンコンの住所が無人アパートだった点も「これから伯爵に買ってもらい、初めて見に行く」と説明し、ケネスは整合性を受け入れる。ギギは自分がマフティー連絡員だと疑われていたのだろうと揶揄し、「本当の姿は薄汚い」と言い捨てて席を立つ構えを見せたが、その姿勢には男を寄せつけない毅然さが漂っていた。

ケネスの験担ぎと、ハサウェイへの疑念の芽
ケネスはギギを「勝利の女神」と捉え、ハイジャック事件以降の“運”を理由に、基地にいてよいと引き止める。ギギがいたからハイジャッカー制圧やマフティー側モビルスーツ捕獲に繋がったという偶然を、戦場の人間の験担ぎとして語った。ギギが「それならハサウェイは鈍いのか」と返すと、ケネスは急に詰問を強め、ハサウェイの洞察力と戦闘の冴えを結びつけて疑念を深める。具体的には、ハサウェイが何かを隠しているのではないか、チケット入手経路や職業説明(植物監視員志望)を信じていたが違うのではないか、と推測を口にした。

ギギの受け流しと、ケネスの情報部連絡
ギギは「彼は何も喋らない人」と突っぱね、ケネスの詰問をかわした。やり取りの中でギギは「お父様はまだ軍にいるのか」と問うが、ケネスは親子同一視を否定しつつ、コテージへ移るなら総務に連絡するよう指示する。同時に腕の無線器で情報部を呼び出し、ハサウェイに関する警戒を実務へ移し始めた。

基地滞在の宣言と、観戦ポジションの確保
ギギは「二、三日ここにいる」と告げ、自分に運があるか試すと言い、観光ガイドを端末で閲覧した。ケネスはそれを面白がり、先に退出する。食堂が閑散とする中、ギギはコテージが二人(ハサウェイとケネス)の邪魔にならずに“観戦”できる位置になると見込み、総務課で案内を依頼した。集合命令で基地内が騒然とするなかでも、ギギは部外者としての虚無感に揺れず、扱われ慣れた身として淡々と動く。

ウェーブの手配と、ギギの帰室
総務課ではウェーブが車の手配に時間がかかると告げ、いったん部屋で待つよう案内した。ギギはハサウェイがどこかを飛んでいるだろうと想像しながら自室へ戻り、次の動きに備える形で場面が閉じた。

19 ロドイセヤ

コード・ネームの由来と基地の正体
ロドイセヤはフタゴヤシの学名であり、種子が植物中最大級であることに由来する。この地域のマフティー拠点に付けられたコード・ネームである。拠点そのものは旧地球連邦軍の使用基地で、元は海軍の乾ドックを海岸線に設営した場所であった。

偽装構造と発進基地としての機能
現在は海側がココナツ林で偽装され、上空も軽量プラスチック製の「林」で覆われているため、一定高度からは識別が困難である。乾ドック入口に軽ジェットが貼りつくように寄ると、葉とダミー構造がせり出して機体を隠し、その奥の窪みは大規模な整備工場になっていた。ここは軽ジェット格納庫であり、ギャルセゾンとメッサーの発進基地でもあった。

クワック・サルヴァーの“手品”
この種の拠点発見と維持はクワック・サルヴァーの後ろ盾なしには不可能だと示される。彼は補給物資の管轄経験を利用し、物資や小規模基地を軍籍から抹消する方法をいくらでも編み出せると語っていた。ロドイセヤというコード・ネーム採用も、その隠蔽思想と、「いんちき医者」を意味するクワックという名を好む老人の嗜好に沿うものとして描かれた。

整備状況と強行スケジュールの理由
ドックでは、カタパルト上のギャルセゾンがブースター・ベッド搭載で発進待機し、背後にはダバオ攻撃帰りのメッサーが他デッキに鎮座していた。ハサウェイとイラムがメカニック・ブースに入ると、チーフのマクシミリアン・ニコライは調整が概ね完了したと報告した。ヴァリアントはガンダム着水予定海域に待機しており、すでに無線封鎖時間に入っているという。
一方でエメラルダは、空中ドッキングよりヴァリアント任せの方が安全ではないかと問うが、ハサウェイは「時間がかかる」点と、ダバオ基地の動き、オエンベリ偵察、ガウマン救出など複数案件を同時に急ぐ必要を理由に強行を選んだ。

内部の抑制と、ケネス評価の変化
イラムはハサウェイの強行案に難色を示し、オエンベリ方面でのキンバレー制圧まで視野に入れる理想を語るが、ハサウェイは「理想論」と退けた空気が生じた。エメラルダは姉のように性急さを制し、ヨガンダム一機ではペーネロペーに捕捉され得ると牽制した。ハサウェイ自身も、ケネスを「優秀な司令」と見なし、追跡されている前提で動くべきだと警戒を強め、ミノフスキー粒子散布濃度を戦闘濃度へ引き上げるよう指示した。

警戒警報と潜水艦の影
ハサウェイがパイロットスーツに着替える間にドック全体へ警戒警報が鳴り、近傍で潜水艦らしい影を発見したと管制のミヘッシャ・ヘンスが報告した。さらにミノフスキー粒子散布中にもかかわらず、敵電波を傍受し、キンバレー部隊へ打電された可能性が示された。ハサウェイは「どっちのキンバレー部隊だ」と確認しつつ、メッサーで迎撃を命じる。キンバレー本人はオエンベリへ出動し、部隊が二分されている状況が共有された。

迎撃発進とミヘッシャの鼓舞
ミヘッシャはメッサー3号(フェンサー)と4号(ゴルフ)を発進させ、ギャルセゾン支援を要請した。彼女の呼びかけは甘い声ながら、男たちの士気を上げる効果を持った。ハサウェイはドック天井の偽装林を突き抜けて発進する機影を目視し、ギャルセゾン側も急がせるよう促した。

潜水艦の意図と、ケネスの“手回し”疑惑
傍受内容は「ハサウェイの乗ってきたジェットの着水をどう考えるか」を基地へ問い合わせるものだった。ミノフスキー粒子で完全妨害できず、ダバオ程度までなら届くとミヘッシャは説明する。ダバオに潜水艦はないはずだが、ハサウェイはケネスが赴任に際し手を回している可能性を感じ、あの軽薄に見える男の顔を思い浮かべて警戒を新たにした。

オエンベリからの“第一軍”要請とクワックの所在
同時に、オエンベリ方面から「マフティー第一軍」を名乗る部隊が平文で護衛要請を送ってきており、キンバレー部隊のグスタフ・カール多数により街が攻撃されているという報告が入っていた。ハサウェイは、邪魔をしている自覚がないと嘆きつつ、クワック将軍の所在を問う。将軍は「ロドイセヤの木」に行っているとされ、これは別拠点を意味し、場所はハサウェイにも未通知であった。

ミヘッシャへの労いと、出撃判断の逼迫
ハサウェイは戦果報告を求めつつブースター・ベッドを出す決断を固める。その直前、ミヘッシャの体調を気遣い、以前の一件の苦労を詫び、頬にキスして礼を伝えた。
ギャルセゾン搭乗後、レイモンドは発進までの猶予を示し、ケッサリアならダバオから40分、オエンベリから2時間という距離感が共有される。ガンダム降下・接触まで残り1時間となり、空中受領しか選択肢がなくなったとハサウェイは悟り、ガウマン救助は現実的に不可能かもしれないと沈む。

海岸の爆発音と、情報待ちの葛藤
海岸方向から低い爆発音が響き、潜水艦への攻撃成功かをハサウェイが問うが、ミヘッシャは不明と答え、上空からはまだ判別できないと言う。ハサウェイは焦燥を抱えつつも、仮に誤認でダバオ攻撃が来たとしても、予定時間ギリギリまでギャルセゾン発進は待つべきだと判断を固めた。

20 パスゥー・ウェイ

追跡の手掛かりと苛烈な督促
若い情報士官は港湾局の船舶出入表を示し、湾内へ戻って引き返したクルーザーが対象だとケネスへ報告した。ケネスは警察情報の遅れに苛立ち、港湾局と海軍へ細かな動きまで報告させるよう督促を命じた。情報士官たちは仕事の性質を理解しきれていない様子で、ケネスの圧力でようやく部下を急かし始めた。

警察署長への恫喝と“実弾”命令
ケネスはダバオ署長に直通し、キンバレーが話していなくとも関係ない、現に自分はキンバレー部隊の場所にいるのだと押し切った。要請を聞かないなら警察署を爆撃すると脅し、節度を説く署長の反論にも「新型モビルスーツをそちらにやる」と畳みかけた。さらに部隊へ緊急招集をかけ、威嚇飛行、場合によっては警察署へ三型爆弾を投下すると命じた。パイロットの疑義に対しても、軍人は玩具やゲームではないと怒鳴りつけ、ペーネロペーを中心に、六機のグスタフ・カールを搭載したベース・ジャバー二機を発進させた。

“本気”の示威と監視網の成果
管制センターは警察の動揺を面白がるが、ケネスは「威しではなく本気だ」と言い切った。その後、周辺に散らしていたハンター部隊と巡回部隊から報告が続々入り、ハサウェイたちの軽ジェット目撃情報も含まれた。ただし時刻は既に午前五時を回っており、追跡は時間との競争になっていた。

潜水艦情報と“所属不明”の捕捉
海軍からも潜水艦経由の情報が入り、ミノフスキー粒子下で解析に時間を要しつつも、ハルマヘラ島中央の東海岸で所属不明の部隊らしきものを捕捉したという。ケネスはこの報告を受け、捕虜ガウマンを監禁している部屋へ向かった。

ガウマン尋問と“ハサウェイの正体”への踏み込み
ケネスは、白状させずに済むなら人道的だと皮肉を交えつつ戦力規模を問う。ガウマンは自分は一パイロットで作戦全体は知らない、知っていれば今ここで吐かねばならないと返した。だがケネスは今朝会ったハサウェイ・ノアを思い出し、ハサウェイがマフティーの何者かと核心に迫った。ガウマンは、ハサウェイはマフティーそのものを演じていると断言し、黒幕としてクワック・サルヴァーの名を挙げた。

暴力の噴出と“処刑”の脅し
クワックの名にケネスは激昂し、反射的に拳でガウマンを殴り飛ばした。ガウマンは、クワックより“マフティー・エリン”の方が信憑性があると嘲りつつ、自分は本当に全部は知らないと繰り返した。ケネスは、ならばガウマンをマフティーに仕立てて処刑すると脅すが、ガウマンは「誰も信じない」「処刑した日に別の場所でマフティーが活躍する」と挑発する。ケネスは乗馬鞭で顔を打ち据え、ガウマンも脚払いで一度は倒すが、結局は兵に制圧された。

ペーネロペーのコックピットへ移送
ガウマンが目覚めると、手足に手錠を掛けられ、顎を膝に乗せる姿勢で縛られたまま、モビルスーツのコックピットにいた。機体はペーネロペーであり、若いパイロットのレーン・エイム中尉が慇懃に自己紹介する。状況を問うガウマンに対し、レーンはケネスの命令で「人質として使え」、負けそうなら盾にしろという趣旨を説明した。

レーンの矜持と夕焼けの水平線
ガウマンが卑怯だと怒鳴ると、レーンはマフティーの無差別攻撃に比べれば損傷は一人で済むと冷淡に言い切る。ただし自分はそんなことはしない、このペーネロペーで戦う限りガウマンの命を保障すると、薄く笑って歌うように告げた。ガウマンの正面には、夕日に染まる美しい水平線が広がっていた。

21 テイク・オフ

潜水艦の沈没と計画前倒し
旧世紀製の潜水艦は二百五十年級の骨董であり、南太平洋配備の海軍が保管品を引き出して運用していた。そこへメッサー二機の至近弾が重なり、水漏れを起こして浮上不能となり沈没した。この一隻の損耗で警戒が一段上がり、ハサウェイたちは予定より十分早くロドイセヤを発進せざるを得なくなった。ダバオ方面からのケッサリア三機と、単独行動のモビルスーツ接近を中継報告で知り、乾ドック発進を見られるわけにはいかなかったからである。

ギャルセゾン発進と時間稼ぎの誓約
レイモンド・ケインは、ガンダム降下空域で滞空して時間稼ぎすると請け負った。ギャルセゾンはカプセルを被せたメッサーをデッキに載せ、ブースター・ベッドで四十度角のまま押し上げられて発進した。第一段はジェット推進の塊で、音速突破後はパルス・エンジンに切り替え、沈む太陽を追うように高度を取っていった。

支援配置の再編と“隕石”カーゴの降下
潜水艦掃討に出たメッサーとギャルセゾンは一度ドックへ戻って補給し、ヨガンダム着水予定海域で操業偽装中の支援船ヴァリアントへ向かった。一方、マレー半島上空高度二百キロ付近に侵入した隕石に見える物体は、摩擦熱で外装を溶かしつつ降下し、窓のない簡素なカーゴ「ピサ」を露出させた。無人のピサは姿勢制御を繰り返しながら、設定された着水点へ向けてボルネオ上空を横断した。

追尾の気配と空中受領の最終調整
ピサ着水点近傍へ向け、ハサウェイのメッサー1を載せたギャルセゾンも上昇した。レイモンドは「北からの追尾」があると不安を示すが、ハサウェイは並進方位角の取得と高度限界を確認する。五万八千メートルまで上げた直後、ハサウェイはドッキング・チューブを伝ってメッサー1のコックピットへ移動した。エメラルダ・ズービンは、ハサウェイが持ち込んだデータとプログラムを入力し、レイモンド側が間違えなければ“黙っていてもメッサーをカーゴにぶつける”段取りが整ったと告げた。ハサウェイは自分はメッサー操縦を任せ、降下中のカーゴへ乗り移る決意を固める。

敵影の確認と一発勝負の突入
エメラルダは最後の周辺索敵を試み、振動で映像が実用になりにくいことを承知しつつ、夕日に光る飛行物体を視認した。ハサウェイは予定通りピサが降下していること自体が敵を利する状況だと判断し、レイモンドへ支援を要請した。ピサは急速に接近し、ブースター・ベッドを切り離して機体は降下角を取り速度を増した。エメラルダはオート制御で離脱し、激震の中で一気にピサへ取り付くが、機体の振動は常軌を逸していた。やり直しの効かない一回の接触であり、着水すれば奪取・破壊に直結する局面であった。

メッサーの“取り付き”とカーゴの姿勢崩壊
エメラルダは逆噴射と加速を織り交ぜ、落下するようにピサ機首へ取り付いた。メッサーのマニピュレーターが耐熱タイルを吹き飛ばし外装をへこませ、破片を撒き散らしながら手掛かりを探った。機体がカーゴ上部に腹這いで接触すると、ピサの機首が沈み、バランスが崩れていった。以後のシミュレーションは未実施で、ハサウェイは“ハッチを合わせろ”と指示し続ける。

ビーム射撃の恫喝と強行乗り移り
前方にビーム・ライフルの火線が走り、二人は敵接近を確信した。ハサウェイはメッサーのハッチから伸ばしたチューブでピサ機首へ滑り降り、操縦ブロックへ侵入した。そこは半壊のコンソールと破損装甲から吹き込む猛烈な大気圧で、部品と破片が舞い、直撃すれば気密破壊や切断に至る危険地帯だった。ハサウェイはチューブを盾に床をよじ登り、後部キャビンのハッチへ移動して閉鎖し、操縦ブロック由来の破片流入を遮断した。無線で「ヨガンダムに取りついた」と告げ、エメラルダには離脱を許可する。直後、カーゴ全体が浮き上がる衝撃と加重変化が連続し、メッサーがカーゴから離れたことが体感された。

ヨガンダム搭乗と起動直後の被弾
ハサウェイはカーゴ内で新型ガンダムの頭部から胸部へよじ登り、鍵でコックピットを開けて滑り込んだ。自分で積み込み作業をしていたためディテールを把握しており、最悪カーゴが海面に激突しても機体が盾になる算段を持っていた。電源投入、主動力解放、表示系の確認、スーツと機体のセルフチェックを進め、海面ギリギリの高度を覚悟しつつメイン・エンジン出力を臨界へ近づけた。その最中、直撃に近い振動が襲い、ディスプレーが強く輝いて、ハサウェイは被弾を悟った。

戦場の摂理としての“死”の予感
ハサウェイは意識がある限り生存は確認できるが、カーゴ破壊後に機体がどう放り出されるかは不明で、瞬間死もあり得ると理解していた。そうした不条理を忌避しながらも、戦場では身構えた瞬間に死が来るとは限らないという摂理を、皮肉な確信として抱え込んでいた。

22 ショウダウン

カーゴ崩壊と意識の断絶
ガンダム外部の爆音がヘッドフォーン越しに届いた直後、ハサウェイの正面視界は夜空へと開けた。カーゴ・デッキのハッチが吹き飛び、足下の閃光と激震で一時的に意識が薄れる。球形コックピット・コアは浮遊式かつ多重ショック吸収で支えられていたが、それでも耐え難い衝撃であり、カーゴ・ピサの化学燃料爆発を推測させた。ハサウェイは「鈍っている」と自己嫌悪を噴き上げ、怒りを駆動にして状況へ戻った。

重力戦と離脱決断
視界に海面が映り、ヨガンダムが重力に対峙していることを理解する。コンピューターはカーゴ・ピサを回転させ上昇させようと作動していたが、重力は想像以上に重く、飛行は「重力との戦い」に感じられた。左空の影を拡大した瞬間、メガ粒子砲のビームが至近をかすめ、衝撃と高音(散乱粒子の衝突音)が機体を責めた。大気中で粒子が減速する幸運はあったが、ハサウェイはフル装備の重量を懸念しつつ、ガンダムをカーゴから離脱させる決断に踏み切る。

初交戦と“軽さ”の衝撃
推力を核融合炉ギリギリまで上げ、カーゴ・ピサから離脱する。ジグザグ回避で直進してくる攻撃を躱しつつ上昇し、その飛行は軽飛行機のように身軽で、ミノフスキー・クラフト機の特性を身体で掴む。ペーネロペー側のレーン・エイムは、ガンダムの回避能力に動揺し、同乗させられていたガウマンとの応酬で苛立ちを露わにする。ガウマンは追尾の危険(狙撃される定石)を警告し、レーンは回頭でビームを避けるが、その攻撃が牽制であることを見抜けず、次弾が左右から落ちることをガウマンが指摘する。

増援投入と名乗りによる警告
高度八千メートル級の戦闘に呼応し、三機のケッサリアから六機のグスタフ・カールが離脱して突進する。ミノフスキー・クラフト非搭載ゆえ落下に近い飛行しかできず、一撃離脱が限界であった。ハサウェイは動揺せず、連邦軍周波数で「自分はマフティー・エリンであり無駄死にさせる意思はない、接触するな」と警告を流す。警告を無視した一機をビーム・ライフルで撃破し、続けてケッサリア(ベース・ジャバー)を狙撃して火球を咲かせ、足場を失わせた。ケッサリア一機の撃墜は、随伴する複数機の行動を実質的に封じる効果を持ち、連邦側に退避の気配が生じた。

ペーネロペー接近と鍔迫り合い
ペーネロペーが接近し、ハサウェイがシールドを上げた瞬間にメガ粒子砲が直撃してシールドは焼け、溶解粒子が灼熱の糸となって散る。熱い空気層越しにペーネロペー影を捉え、ハサウェイは本能的にビーム・サーベルを発振させ格闘戦へ移る。接触会話が成立する距離で、ハサウェイは人質の存在を示唆して牽制するが、レーンは「楯にする男ではない」と噛みつくように否定し、釈放要求へ反発する。

ガウマン投下と強行回収
レーンは後退しつつ威嚇射撃を挟み、コックピット・ハッチを開いて“受け取れ”と叫び、ガウマンを落下させた。ハサウェイは誘いの可能性を承知しながらも接近を余儀なくされ、機体を仰向けにして落下速度へ同調し、シールドで身を守りつつペーネロペーへ照準を合わせる。落下する光はガウマンの懐中電灯であり、手錠も外されていた。ハサウェイはサーチライトで捕捉するが、それが攻撃目標になる危険も増す。実際、周囲からビームが走るが、ハサウェイは連邦無線を切って雑音から逃れ、ペーネロペーが味方機を牽制する動きを視認した。

収容の失敗寸前とバーニアの一手
短時間で相対速度をゼロにする余裕はなく、ハサウェイは上昇推力で位置を合わせてハッチ中央へ導く。だが機体が下から入り、乱流でガウマンの身体が大きく傾いて視界下へ流れる。ハサウェイは肩バーニアを噴かし、ガウマンの身体をせり上げてコックピット天井へ押し込む形で回収し、即座にハッチを閉じた。ガウマンはコックピット内で固定を急ぎ、これからの格闘戦で跳ね飛ばされ致命傷になり得る危険を共有する。

低空の一気決着とミサイル乱舞
ハサウェイは「一気に決めたい」と言い、ガウマンは「やってみればいい」と応じる。ヨガンダムは降下しつつ後退姿勢のまま加速し、高度三百メートルから百メートル未満へ落とす。ペーネロペーはミサイルを放ち、海面へ激突する水柱が筋となる中、敵(ヨガンダム)は海面すれすれで飛沫を上げて疾走する。レーンは照準が容易になったと見てビーム・ライフルで決着を狙うが、敵はさらに加速し、テールノズルの閃光から分かれるように前進する“別の光”が海面へ映った。レーンは連射し爆光を生むが、次の瞬間、敵はペーネロペー正面へ現れたかのように見え、無数のミサイルを浴びせて後退した。轟音と激震ののち、レーンは黒い闇の中で機体が沈黙したことを悟る。

レーンの生還と敗戦処理
レーンは打撲の痛みの中で生存を確認し、ヘルメットライトでコックピットを点検する。実視ディスプレーは死に、パネル表示も復帰しない。オートでハッチが開かず、マニュアルも失敗したため、最終的にハッチを爆破して脱出する。ペーネロペーは緊急浮袋で海上に浮き、レーンは背中に這い上がって救助を待つ。これがレーンにとって二度目の実戦の結末であった。

ヴァリアント帰投と戦果の共有
ハサウェイとガウマンのヨガンダムは低空で支援船ヴァリアントへ接触し収容される。マクシミリアン・ニコライが「ビーム・ライフルがない」と怪訝な顔をすると、ガウマンは“ダミー”として射出し、ペーネロペーに狙撃させた隙に接近してミサイル集中攻撃を行った作戦だと説明する。ただし、とどめは確信できないとも述べる。イラム・マサムは回収成功で一旦黙し、マクシミリアンは次作戦の整備を急ぐ立場となる。

ケリア合流と補給損失
ケリア・デースがブリッジへ降り、ホンコン帰りの合流を告げる。カーゴ・ピサの補充部品は半分しか回収できず沈没したと報告し、ケリアはドリンク剤を手渡す。オエンベリ偵察へ進む前提で、キンバレー戦力への警戒を示し、地球連邦政府に革新の意思が見えない点を語る。

ギギの影とハサウェイの動揺
ケリアはギギ・アンダルシアの名を出し、ハサウェイの感情の揺れを突く。ハサウェイはクェス・パラヤの記憶を蒸し返され、拒もうとするが、ケリアは距離を詰め、唇で耳たぶを噛むような仕草まで見せる。直後、ケリアはレーンの無事を確認し、ハサウェイは「ギギのおかげで勘は正しい、君は幸運の女神だ」と語り、運の連鎖へ賭ける姿勢を強める。一方でギギは数日中にホンコンへ行く予定があり、伯爵への義務や引越し準備といった現実の拘束を抱えつつ、夕日に目を細めながらハサウェイのことを聞きたがる感情を隠しきれずにいた。

ガンダム シリーズ

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ

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機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 上
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機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 中
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機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 下

機動戦士ガンダム

機動戦士ガンダム 1のハサウェイ 上の表紙画像(レビュー記事導入用)
機動戦士ガンダムⅠ
機動戦士ガンダム 2のハサウェイ 上の表紙画像(レビュー記事導入用)
機動戦士ガンダムⅡ
機動戦士ガンダム 3のハサウェイ 上の表紙画像(レビュー記事導入用)
機動戦士ガンダムⅢ

その他フィクション

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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