ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えりフィクション(Novel)読書感想

小説「ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり 〈4〉 総撃編〈下〉」感想・ネタバレ

ゲート4下 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 総撃編の表紙画像(レビュー記事導入用) ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり

物語の概要

■ 作品概要

本作は、東京・銀座に突如出現した「門(ゲート)」を通じて、異世界(特地)へ派遣された自衛隊の活躍を描くミリタリー・ファンタジー小説の文庫版第4巻(下巻)にして、本編の完結編である。 本巻では、日本の自衛隊・正統政府軍と、ゾルザル率いる帝国軍残党との最終決戦である「総撃」が描かれる。自衛隊はタンスカ城塞に捕らえられた日本人拉致被害者(松居冬樹ら)の救出作戦を決行する一方、正統政府の拠点であるイタリカに迫るゾルザル軍を迎え撃つ。 さらには、世界を蝕む虚無の霧「アポクリフ」を食い止めるべく、「門」を永久に閉じるか否かという究極の選択が突きつけられる。軍事的な決着と、特地における伊丹ら自衛隊員やヒロインたちの未来への決断が描かれるクライマックスである。

■ 主要キャラクター

伊丹耀司(いたみ ようじ): 陸上自衛隊の二等陸尉。趣味を最優先する筋金入りのオタクであるが、数々の修羅場をくぐり抜け、部下や特地の人々から厚い信頼を寄せられる主人公である。「門」を閉じるべきかという世界の危機を前に、自身の進退とヒロインたちとの関係に対する決断を迫られる。

レレイ・ラ・レレーナ: 魔法使いの少女。高い知力と魔法の才能を持ち、「門」の原理や世界規模の異変の謎を解き明かす重要な役割を担う。「門」の開閉に関する鍵を握る存在として活躍する。

ゾルザル・エル・カエサル: 帝国の皇太子であり、日本に徹底抗戦を掲げる主戦派の指導者である。自尊心と恐怖心から降伏を拒み、正統政府を潰すため自ら軍を率いてイタリカへと進軍する最大の敵役として立ち塞がる。

テューレ: 元ヴォーリアバニー族の女王であり、現在はゾルザルに侍る奴隷。一族を滅ぼした帝国への復讐のため、裏でゾルザルを操り破滅へと導こうと暗躍してきたが、本巻においてついにその思惑と裏切りが露見する展開を迎える。

■ 物語の特徴

本作の特徴は、現代の圧倒的な近代兵器とファンタジー世界の軍勢との衝突を描く戦闘のカタルシスに加え、政治的な駆け引きや国家間の謀略が緻密に描かれている点である。 特にこの「総撃編〈下〉」では、単なる戦争の勝敗にとどまらず、両世界を繋ぐ「門」そのものがもたらす世界の崩壊危機(アポクリフ)というSF的要素が物語の結末を大きく左右する。世界の存亡を懸けた決断と、異世界での交流を通じて築かれた絆の間で生じる葛藤が、読者にとって非常に興味深いポイントとなっている。また、テューレの復讐と悲哀に満ちた結末など、敵側キャラクターの人間ドラマも深く掘り下げて描写されている。

書籍情報

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり 〈4〉 総撃編〈下〉
著者:柳内たくみ 氏
イラスト:黒獅子
出版社:アルファポリス
発売日:2013年9月26日

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あらすじ・内容

累計95万部突破!超人気の自衛隊×異世界ファンタジー、文庫化第四弾・後編! 帝国正統政府との講和を締結した日本政府は、これを機に、自衛隊・特地方面派遣部隊を総動員し、ゾルザル軍の殲滅作戦に乗り出す。その頃地球では、災厄をもたらす『門』の存亡を巡り、米・中・露など大国の思惑が交錯し始めていた。事態打開の鍵を握るのは、冥王ハーディから『門』を開く能力を授けられた魔法少女レレイのみ。最終決戦が迫るなか、伊丹と美少女達は、果たしてレレイを守り抜けるのか――!?

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり 〈4〉 総撃編〈下〉

感想

ゾルザルのしぶとい抵抗と自衛隊の奇策

皇太子ゾルザル率いる帝国軍は、自衛隊の圧倒的な近代兵器の前に劣勢を強いられながらも、しぶとく抵抗を続けた。正面からぶつかれば勝ち目がないことを理解し、拉致した日本人を囮にして自衛隊を誘い込み、罠にかけようとする。兵器の性能では劣っていても、兵力とゲリラ戦術を駆使して翻弄する姿は、かつて大陸を支配した帝国の地力を見る思いであった。

自衛隊の潜入部隊は、罠だとわかっていても突入するしかない状況で、敵の将軍を人質に取るという奇策で攻撃を封じ、見事に拉致被害者を救出した。

情報統制と世論の混乱

しかし、この救出劇の取材映像は上層部からの圧力で放送が差し止められてしまう。それに反発した栗林の妹がブログで情報を拡散したことで、事態はさらに複雑になり、日本の世論も怪しげな方向へと向かっていった。

門問題と伊丹の隔離

一方、門を閉じるかどうかの問題も深刻化していた。世界に歪みが生じている以上、閉じるしかないのは明白だったが、様々な思惑が絡み合って簡単には決断できない。レレイが門を再び開けることができると判明したが、その条件が「伊丹を特地に残すこと」だったのには笑ってしまった。伊丹は同人誌の即売会に行けなくなることに猛反発し、ついには返事すらしなくなってしまう。

日本で行われた門の再現実験で、伊丹は不気味なものに遭遇し、病原菌感染の疑いで隔離され、物語の重要な局面でしばらく表舞台から姿を消すことになった。

シェリーの冷徹な政治手腕

この巻で最も驚かされたのは、シェリーの立ち回りである。両親を失った復讐心からゾルザルを抹殺しようと決意し、政治の舞台で堂々と渡り合っていた。裏では彼女が正統政府を動かしているようなものであり、子供とは思えないほどえぐい手腕を見せた。

イタリカ奇襲という逆転劇

物語のクライマックスは、ゾルザルによるイタリカ奇襲であった。自衛隊は完全に裏をかかれた。圧倒的な武力を持つ自衛隊の目を盗み、意表を突く作戦を実行したゾルザルの采配は見事というほかない。この巻は武力による正面衝突よりも、情報戦や政治的な駆け引きが複雑に絡み合う展開が中心だった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

出雲(いずも)

陸上自衛隊の隊員であり、タンスカ城塞での拉致被害者救出作戦で部隊を指揮する立場にある。状況を的確に把握し、被害を最小限に抑えるための奇策を講じる柔軟な思考と決断力を持つ。

・所属組織、地位や役職  陸上自衛隊。

・物語内での具体的な行動や成果  捕らえられた松居冬樹の本人確認後、敵の罠を察知して強襲を保留した。ゴダセンを拘束し、その指を切断させることで帝国側を威圧し、交渉を有利に進めて松居冬樹の救出に成功した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  伊丹の演習での手口を模倣し、冷酷とも取れる手段を用いて作戦を遂行した。

剣崎(けんざき)

陸上自衛隊の隊員であり、工作活動や戦闘で実働を担う。的射と連携して作戦の初期段階から行動する。

・所属組織、地位や役職  陸上自衛隊。

・物語内での具体的な行動や成果  水中に潜みながら鳴子を無力化し、柵を切断して侵入経路を確保した。檻の錠を壊し、松居冬樹の救出に直接関与した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  不明。

的射(まとい)

陸上自衛隊の隊員であり、狙撃手として部隊を後方から支援する。冷静かつ正確な射撃技術を持つ。

・所属組織、地位や役職  陸上自衛隊。狙撃手。

・物語内での具体的な行動や成果  柵の切断作業を支援し、狙撃位置についた。テリーの腕を狙撃で吹き飛ばして帝国側に動揺を与え、ダーレスを対物狙撃で排除して乱戦の状況を変化させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼の一撃が交渉の膠着を破る要因となった。

ボルホス

帝国軍の首席百人隊長であり、現場の指揮を執る。状況の変化に敏感であり、長官の命を最優先に考える現実的な判断力を持つ。

・所属組織、地位や役職  帝国軍・首席百人隊長。

・物語内での具体的な行動や成果  鳴子の縄の緩みから敵の侵入を察知し、警戒体制を敷いた。出雲の脅迫に対して当初は強硬な姿勢を見せたが、ゴダセンの指切断と狙撃による圧迫に屈し、通行を許可した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ダーレスの介入に対して指揮権を盾に抵抗し、ダーレス排除後は伏兵の作戦開始を命じた。

デリラ

日本側の現地協力者である。柳田の意向で作戦に参加し、身体能力と戦闘技術を活かして自衛隊を支援する。過去の罪に対する償いの意思を持っている。

・所属組織、地位や役職  日本側現地協力者。

・物語内での具体的な行動や成果  弓矢で松居冬樹の顔を上げさせ、本人確認を成功させた。出雲の指示でゴダセンの指を切断した。胸に矢を受けながらもゴダセンを盾にして敵陣へ突入した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  執行猶予判決後に柳田の看介護をしており、現場復帰に伴い協力員となった。

ゴダセン

帝国軍の高官であり、タンスカでの罠を指揮する立場にある。出雲達に拘束され、交渉の材料として利用される。

・所属組織、地位や役職  帝国軍高官(長官)。

・物語内での具体的な行動や成果  兵士を撤収させて侵入者を誘き寄せる罠を指示した。出雲達に拘束され、左手の薬指を切断される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  デリラの突撃時に盾として扱われたが、生存と軽傷が確認された。

ダーレス

帝権擁護委員であり、強硬な手段で自衛隊を制圧しようとする。現場の指揮系統を無視し、ボルホスと対立する。

・所属組織、地位や役職  帝権擁護委員。

・物語内での具体的な行動や成果  松居冬樹救出直後に現れ、降伏を命じて兵士達に捕縛を強要した。彼の配下がゴダセンを狙って矢を放ち、乱戦の引き金となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  的射の対物狙撃によって頭部を粉砕され、死亡した。

松居冬樹(まつい ふゆき)

帝国に拉致された日本人であり、タンスカ城塞の檻に囮として囚われていた。

・所属組織、地位や役職  拉致被害者。

・物語内での具体的な行動や成果  自衛隊によって救出された。チヌーク機内で菜々美の問いかけに答え、帰還できることを繰り返し確かめた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼の存在がタンスカでの作戦の目的であり、救出されたことが日本国内の世論に影響を与える要因となった。

伊丹耀司(いたみ ようじ)

陸上自衛隊の二等陸尉であり、チヌーク機内から救出作戦の全体状況を把握・支援する立場にある。高所恐怖症という弱点を持つ。

・所属組織、地位や役職  陸上自衛隊・二等陸尉。

・物語内での具体的な行動や成果  負傷者多数の状況を把握し、降着地点の確保と受け入れ準備を指示した。機体着陸と同時に迎えに出た。首相官邸で「門」や異変に関する報告を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  レレイが提示した「門」再開の条件として、自身の身柄引き渡しが要求された。

ロゥリィ・マーキュリー

戦神エムロイの使徒であり、圧倒的な戦闘力を持つ。伊丹に対して強い執着を見せる。

・所属組織、地位や役職  戦神の使徒。

・物語内での具体的な行動や成果  降着地点の強行突破において、ハルバートで周囲の敵をなぎ払った。伊丹が収容された病院で警務隊員を挑発して病室から追い出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  伊丹への恋心と魂への執着を告白し、「身を退くのは馬鹿」として奪い取る教義を示した。

栗林菜々美(くりばやし ななみ)

日本のジャーナリストであり、特地の異変や救出作戦を取材する。報道の在り方に疑問を抱きながらも、事実を伝えることに執念を燃やす。

・所属組織、地位や役職  ジャーナリスト。

・物語内での具体的な行動や成果  現場を中継しようとしたが、矢の飛来で危険に晒された。報道局長による放送差し止めに反発し、古村崎の助言を受けて紀子のブログを利用する迂回策を取った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  彼女の行動が、世界各地の異変が広く知られるきっかけを作った。

古村崎(こむらさき)

日本のジャーナリストであり、メディアの構造や権力関係に精通している。菜々美に対して現実的な視点と助言を与える。

・所属組織、地位や役職  ジャーナリスト。

・物語内での具体的な行動や成果  放送差し止めの背景にある政治的・経済的な力学を菜々美に説明した。紀子のブログのURLを渡し、間接的に情報を拡散する手段を提示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  マスメディアの役割の変化について持論を語った。

ゾルザル・エル・カエサル

帝国の皇太子であり、主戦派の指導者である。正統政府軍を撃破するため、自ら軍を率いて出撃する。

・所属組織、地位や役職  帝国皇太子。

・物語内での具体的な行動や成果  正統政府軍の動向を察知し、一万の軍を率いてイタリカへ向かった。テューレの裏切りを看破し、彼女を拘束した。イタリカ前面で野戦を決断し、前進を命じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  情報漏洩を防ぐための残忍な防諜体制を敷いた。

テューレ

ゾルザルの側近であり、元ヴォーリアバニー族の女王である。帝国への復讐のため、ゾルザルに情報を提供しつつ彼を破滅へ導こうとする。

・所属組織、地位や役職  ゾルザルの側近(奴隷)。

・物語内での具体的な行動や成果  古田にゾルザルがマーレスへ出撃すると嘘の情報を流した。ゾルザルに裏切りを見破られ、過激な挑発で逆襲を試みるが拘束された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  復讐の動機が露見し、野戦の前に縛られて連行された。

ヘルム

ゾルザル麾下の将軍であり、軍の指揮を執る。状況判断が早く、好戦的な性格を持つ。

・所属組織、地位や役職  帝国軍将軍。

・物語内での具体的な行動や成果  武器と食糧の徴発を命じた。イタリカへの攻撃命令を求めたが、ゾルザルの野戦の判断に従った。ピニャの旗印を見て、騎馬隊とケンタウロス隊の投入を命じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ピニャ騎士団の一期生であることが明かされた。

健軍(けんぐん)

陸上自衛隊の一等陸佐であり、イタリカから進発する合同軍の指揮を執る。作戦の主導権を握るための競争心を燃やす。

・所属組織、地位や役職  陸上自衛隊・一等陸佐。第四戦闘団指揮官。

・物語内での具体的な行動や成果  正統政府軍の将軍たちに「競争」を宣言し、作戦説明を行った。城塞マレを空からの襲撃で制圧し、デュラン王をヘリに搭乗させてフゥエへ向かった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  自衛隊主導の攻勢において中心的な役割を担っている。

シェリー・テュエリ

テュエリ家の当主であり、帝国正統政府の特使として日本との講和交渉に臨む。政治的な駆け引きに長け、自らの目的のために強引な手段も辞さない。

・所属組織、地位や役職  テュエリ子爵夫人。伯爵。帝国正統政府代表特使。

・物語内での具体的な行動や成果  皇帝に講和前倒しを提案し、特使の役目を引き受けた。日本側との交渉で条件緩和を引き出し、ゾルザル討伐協力の約束を取り付けた。ピニャを説得し、儀式の場へ連れ出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  家督相続と伯爵位への陞爵を受け、講和交渉を事実上取りまとめた。

ピニャ・コ・ラーダ

帝国正統政府の皇太女であり、政治への意欲を失っている。シェリーの説得により、渋々ながら役割を果たすことになる。

・所属組織、地位や役職  帝国正統政府・皇太女。

・物語内での具体的な行動や成果  日本滞在中に同人誌制作に没頭していた。「門」再開の秘密を漏らした。ハミルトンの要請を拒絶したが、シェリーの言葉に折れて連行された。正統政府軍の将軍たちに健軍への協力を命じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  皇帝の譲位予定が示されたが、本人は帝国を欲していないと語った。

ディアボ

帝国の皇子であり、野心を抱きつつも現状の閉塞感に焦りを感じている。状況を打破するための秘策を講じる。

・所属組織、地位や役職  帝国皇子。

・物語内での具体的な行動や成果  パナシュの部屋に隠れ住む窮状にあった。ゾルザルへの情報漏洩を企て、「魔導師の娘」を巡る混乱の中で主導権を握ろうとした。料理長に協力を求め、他国へ真実を告げる計画を語った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  野心が先行し、パナシュからの諫言を聞き入れなかった。

出来事一覧

05

ゴダセン指切断による強迫
  • 当事者: 出雲(自衛隊)/デリラ vs ゴダセン/ボルホス(帝国軍)
  • 発生理由: 捕らえられた松居冬樹を救出するため、出雲が敵指揮官のゴダセンを拘束し、交換要求を突き付けたが、ボルホスが応じなかったため。
  • 結果: デリラがゴダセンの左手薬指を切断し、さらに的射が帝国兵の腕を狙撃したことで帝国側が動揺し、通行と医者の手配を指示させて檻への接近に成功した。
ダーレスの介入と広場での乱戦
  • 当事者: 自衛隊(出雲ら)/デリラ vs 帝権擁護委員ダーレス配下/帝国軍
  • 発生理由: 松居冬樹の救出直後、ダーレスが現れて降伏を命じ、その配下がゴダセンを狙って矢を放ったため。
  • 結果: デリラが矢を受けながらもゴダセンを盾にして突入し、自衛隊も擲弾と煙幕で反撃。広場は乱戦状態となり、帝国兵に被害が拡大した。その後、的射の狙撃によりダーレスが頭部を粉砕され排除された。
菜々美の映像拡散未遂
  • 当事者: 栗林菜々美 vs カメラマン砂川
  • 発生理由: 報道局長が拉致犠牲者救出やアポクリフの映像の放送差し止めを決定したことに反発し、菜々美がUSBを持ち出して画像投稿サイトへアップしようとしたため。
  • 結果: 砂川が制止しようと揉み合いになったが、古村崎が介入してメディアの構造と差し止めの背景を説明し、菜々美は別の手段(紀子のブログ経由での拡散)に方針を転換した(未遂)。

06

レレイの要求と伊丹の身柄引き渡し問題
  • 当事者: レレイ(アルヌス協同生活組合) vs 日本政府(森田首相ら)/伊丹耀司
  • 発生理由: 日本政府が「門」の再開通についてレレイの協力を得ようとした際、レレイが条件として伊丹耀司の身柄引き渡しを要求したため。
  • 結果: 嘉納の追認により要求が確定し、伊丹は自分が取引条件に組み込まれた事実に凍り付いた(交渉・葛藤)。
門の再現実験とパニック
  • 当事者: 伊丹耀司 vs 研究員/夏目防衛相ら
  • 発生理由: 巨大格納庫での実験でレレイが「門」の膜を出現させ、伊丹がその奥に「卵」のようなものを目撃してパニックになり、即時閉鎖を要求したため。
  • 結果: レレイが門を閉じた直後に地震が発生。伊丹は寄生物の有無を調べるため黒服に拘束され、徹底検査を受けることになった。
伊丹の病室での悪戯と取り調べ
  • 当事者: ロゥリィ/伊丹耀司 vs 警務隊員
  • 発生理由: ロゥリィが警務隊員を挑発するため、伊丹に抱きついてキスをした。警務隊員はそれに耐えきれず逃げ出したが、その後「児童への淫行容疑」として別の警務隊員が突入したため。
  • 結果: 伊丹とロゥリィは児童ではないと抗弁したが聞き入れられず、ロゥリィは保護・退避させられ、伊丹は別室で過酷な取り調べを受けた。

07

ピニャの拒絶とシェリーの説得
  • 当事者: ピニャ vs ハミルトン/シェリー
  • 発生理由: 講和条約締結の場へ戻るよう求めるハミルトンに対し、ピニャが帝国への失望から政治的役割を完全に拒絶したため。
  • 結果: シェリーが論理とボーゼスの真相をもってピニャの抵抗を折り、「空っぽの駒」を演じるよう最終要求を突きつけ、ピニャを連行した。

08

デュラン王搭乗ヘリへの奇襲
  • 当事者: デュラン王率いるエルベ藩王国軍/自衛隊ヘリ部隊 vs 翼竜部隊(指揮官ポダワン)
  • 発生理由: ヘリ群がフゥエ城塞へ接近した際、潜んでいた翼竜部隊が網を投下し、空中奇襲を仕掛けたため。
  • 結果: 数機のヘリがローターを絡め取られて制御を失い、竜騎兵の襲撃を受けて空中での戦闘が始まった。

09

古田とテューレの決裂
  • 当事者: 古田 vs テューレ
  • 発生理由: テューレが古田を嘘つきの「役者」と見なし、店を開く話などを疑ったのに対し、古田が激昂したため。
  • 結果: 古田は怒りに任せてテューレを突き放し、その場を去って決裂した。
テューレの裏切り発覚と拘束
  • 当事者: ゾルザル/ボウロ vs テューレ
  • 発生理由: ゾルザルが、テューレがボウロに情報を探らせて裏切ろうとしていたことを見破り、さらに彼女の部族を滅ぼしたのが自分であると告げたため。
  • 結果: テューレが挑発して逆襲を試みるも抑え込まれ、野戦の前に縛られて連行された。
ドワーフ兵への側面騎突
  • 当事者: ゾルザル軍(騎馬隊・ケンタウロス隊) vs 正統政府軍(ドワーフ兵)
  • 発生理由: イタリカでの野戦において、ゾルザル側の前列が後退してドワーフ兵を誘い出し、陣形を崩させたため。
  • 結果: 側面から騎馬兵とケンタウロスが突入し、ドワーフ兵は馬上槍に掛けられ、馬蹄で蹴散らされて被害を受けた。

展開まとめ

05

柵外からの潜入工作
帝国兵が巡回する中、剣崎と的射は水中に潜みながら鳴子の無力化と柵の切断作業を進めていた。作業中に音を立てたことで巡回兵に気付かれかけたが、兵士達は異常を確認できず去っていった。剣崎は作業を再開し、柵に二本の切断を施して侵入可能な隙間を作った。蛍光スティックで目印を設置すると、隊員達が次々と内部へ潜入し、最後に的射が後方支援のため狙撃位置についたのである。

帝国軍による侵入の察知
一方、帝国軍の首席百人隊長ボルホスは哨戒兵に警戒強化を命じていた。新兵テリーが鳴子の縄の緩みを報告すると、ボルホスはこれを敵侵入の証拠と判断し、直ちに兵士の召集と警戒体制の強化を命じたのである。これにより、帝国軍は潜入の可能性を察知し、防衛体制を整え始めた。

捕虜の発見と慎重な確認
潜入した出雲達は広場中央の檻に捕らえられた人物を暗視鏡で確認したが、顔を伏せていたため本人確認ができなかった。救出対象が松居冬樹であると断定できなければ強襲はできないため、出雲は待機を命じた。そこでデリラが弓矢で檻の人物を軽く打ち、顔を上げさせることに成功した。その姿を確認した出雲は、捕虜が松居冬樹本人であると断定したのである。

敵の捜索開始と危機的状況
しかし直後、帝国兵が多数現れ檻周辺を包囲し、さらに捜索隊が周囲の探索を開始した。出雲達は敵の動きから、自分達の侵入が察知されたと理解した。強襲を提案する隊員もいたが、人質の安全を優先し、出雲は状況の把握を優先した。デリラの聴力により、帝国軍が侵入者を捕えるための警戒体制を敷いていることが判明したのである。

敵指揮官の罠と作戦変更の決断
さらに帝国軍の高官ゴダセンが現れ、兵士を一度撤収させて侵入者を誘き寄せる罠を指示した。この判断から、出雲は敵指揮官の能力の高さと危険性を察した。通常の強襲では大きな犠牲が出ると判断した出雲は、過去の演習で用いられた非常識な奇策を思い出した。そして犠牲を最小限に抑えるため、その奇策を試す決断を下し、隊員達に新たな作戦の説明を始めたのである。

ボルホスの焦燥と疑似餌への嫌悪
夜明けが近づくにつれ、ボルホスは囮の檻を見張り続ける状況に耐えられず苛立ちを募らせた。疑似餌の釣りを非情だと罵り、敵が夜に侵入した以上、夜明けまでに動かねば逃走もできなくなるはずだと兵士達を叱責したのである。

ゴダセン拘束の提示と交換要求
ゴダセンが現れたが、出雲達に拘束され剣を突き付けられていた。出雲はゴダセンの命と引き換えに檻の中の日本人の返還を要求した。ボルホスは脅迫に屈しない姿勢を示し、帝国兵も投射武器を揃えて強硬に構えたため、交渉は膠着した。

伊丹の奇策の模倣と指の切断による圧迫
出雲は伊丹の演習での手口を思い出し、デリラにゴダセンの指を切るという形で圧力をかけさせた。ゴダセンは恐怖で屈し、左手の薬指を選ばされ、デリラは指を切断してボルホスへ投げ渡した。さらに的射がテリーの腕を狙撃で吹き飛ばし、帝国側に強い動揺が走ったことで、ボルホスは通行と医者の手配を指示し、出雲達を檻へ通したのである。

松居冬樹の確保とダーレスの介入
剣崎と忍野が錠を壊し、檻の男が松居冬樹だと確認され、救出は成功した。しかし帝権擁護委員ダーレスが現れ、降伏を命じ、兵士達に捕縛を強要した。ボルホスは長官の救命を優先し、指揮権序列を盾に抵抗して対立が表面化した。

矢の発射で交渉が破綻し乱戦へ移行
ダーレス配下がゴダセンを狙って矢を放ち、デリラが振り払ったものの一本が胸に刺さった。出雲達は擲弾と煙幕で反撃し、広場は銃声と爆音の乱戦に包まれた。デリラはゴダセンを盾に抱えたまま敵陣へ突入し、特殊作戦群もこれに続いて突撃し、帝国兵は味方を避けねばならず被害が拡大した。

ダーレスの排除とボルホスの再指揮
出雲の指示で的射がダーレスを対物狙撃し、兜ごと頭部が粉砕されて場が凍り付いた。ボルホスはゴダセンの生存と軽傷を確認し、自分が欺かれたと悟った上で、まず長官の救護を最優先とし、伏兵の作戦開始を合図するよう命じた。敵を袋のネズミにする配置は既に整えてあると判断していたのである。

チヌーク側の受け入れ準備
チヌーク機内では、伊丹が無線で現地の混戦と負傷者多数を把握していた。伊丹は降着地点の確保を最優先の任務として共有し、黒川に負傷者の処置を任せると告げた。黒川は冗談めかして強気に応じ、ロゥリィには今回は殲滅ではなく撤収であると釘を刺し、ロゥリィは了解した。

D地点突入と降着地点の強行突破
D地点にも敵が伏せていたため、チヌーク側は変更不能として力ずくで突破する判断となった。後部ハッチが開き、地上には帝国兵に加えて怪異や亜人、ならず者めいた補助兵も集まっていた。桑原の号令で倉田らが射撃を開始し、ロゥリィは高所から飛び出して着地し、ハルバートで周囲の敵をなぎ払った。倉田らはロゥリィの周囲を重点的に援護した。

救出隊との合流と負傷者搬送
伊丹は救出部隊を確認し、布担架で運ばれる負傷者と、その周囲をM4カービンで守る特殊作戦群の隊員達を見つけた。負傷者や疲労で動けない者が混じり接近が遅かったため、伊丹は機体着陸と同時に迎えに出た。テュカとヤオが矢で援護し、レレイは漏斗で飛来する矢を空中で爆破して撃ち落とした。養鳴・漆畑・白位が担架と負傷者を受け取り、荷物のように抱えて走ったことで、剣崎や忍野は運搬から解放され戦闘に戻れた。

報道班の混入と搭乗完了
栗林菜々美は現場を中継しようとしたが、飛来した矢がチヌークの後部ローターに叩かれて粉砕され、勝本が菜々美を引き倒して庇った。伊丹は人数確認を急がせ、ロゥリィも戻り、全員搭乗が確認されるとチヌークは離陸した。

機内での応急処置とピニャの戸惑い
荷室では黒川が負傷者の腕に次々と点滴の針を刺し、ライン確保を優先していた。ピニャは針を刺す処置の意味が分からず尋ね、黒川は止血は別担当に振り分けつつ、輸液と投薬経路の確保が目的だと説明した。

伊丹と出雲の再会、デリラの正体判明
離脱後、出雲が伊丹に声をかけ、特殊作戦群の隊員達も位置ごとに挨拶した。さらに迷彩装備の協力者としてデリラが現れ、伊丹は当初気付かなかった。出雲は、現地協力者の前例と柳田の意向でデリラが使われた経緯を説明し、デリラは執行猶予判決後に柳田の看介護をし、現場復帰に伴い協力員となったと語った。デリラは腰から尻の負傷と手術の内容、回復までの期間を話し、償いの意思を示した。

松居冬樹の肉声
カメラマンが拉致犠牲者にカメラを向け、菜々美が担架の男性に問いかけた。男性は松居冬樹と名乗り、助かったことと日本へ帰れることを繰り返し確かめ、菜々美は帰還できると答え続けた。

報道局長による放送差し止め
栗林菜々美は、特地の異変(アポクリフ、地震、恒星位置のズレ)や拉致犠牲者救出という重大事を取材したにもかかわらず、放送されない決定に反発した。報道局長は「上の方針」として、拉致犠牲者への配慮や放送枠の都合を理由に挙げつつ、実際には特地進出の機運・国際協調・経済(株価など)に冷や水を浴びせる報道を避けたい意図を示した。菜々美は納得できず、苛立ちを廊下のくずかごにぶつけた。

無断投稿の衝動と制止
菜々美はカメラマン砂川から特地映像のUSBを受け取り、画像投稿サイトにアップして拡散しようとする。砂川は処分リスクを理由に止めるが、菜々美は「辞めてもいい」と強硬姿勢を崩さない。USBを胸元にしまい、砂川が物理的に取り返せない状況を作って押し切ろうとした。

古村崎の介入と「誰が?」の構造説明
そこへ古村崎が現れ、差し止めは「当然」と言い切る。菜々美が「誰が作為しているのか」と問うと、古村崎は問い方自体を正し、テレビ局の真の「客」は視聴者ではなくスポンサーであり、番組の実務を動かすのは広告代理店だと整理した。新聞も同様に広告依存が強く、広告主を困らせる内容は扱いにくい、と構造的な制約を語った。

居酒屋での講義:メディア権力とネットの台頭
菜々美と古村崎は居酒屋へ移動し、古村崎はメディアを中世教会になぞらえて、世論形成と「異端審問」のような公開圧力で権力者すら追い落とせる力を持つと説明した。一方で、ネット時代の到来は情報の氾濫と分断(自分好みの情報だけを吸収して価値観が硬直化する傾向)を生み、マスメディアは「情報の批判・評価・解説・権威付け」へ役割が移るだろうと論じた。

差し止めの核心:ムードと政治・利害の力学
古村崎は、広告代理店が重視するのは経済原理であり、世の中のムード(特地投資・進出熱)に逆らう報道は自粛されやすいと述べた。さらに、官房機密費や講演料、外国勢力など、金や便宜がメディア人に流れうる現実に触れ、「正しさ」より「都合」で動く人間が上流にいると示唆した。拉致犠牲者救出や戦果の報道は政府支持率を押し上げ得るため、特定の思惑には不都合で差し止められたのだと説明した。

古村崎の置き土産:紀子のブログ
古村崎は菜々美にURLを書いた紙を渡して立ち去り、会計も菜々美に押し付けた。URL先は、ハンドルネーム「メガネ娘」の特地情報ブログで、作成者は紀子だった。ブログにはマスコミが扱わない特地の出来事や亜人の映像が載っていたが、編集や見せ方が弱く、注目を集めきれていなかった。

菜々美の方針転換:事実を“届く形”にする
菜々美は、センセーショナルな映像が世のムードを決める力を持つ一方、注目を集めるための編集は誇張や印象操作に堕ちやすい危険も理解した。だが「やらせや偽装」は拒否し、事実を淡々と流すべきだと自分に言い聞かせる。そこで紀子に連絡し、紀子のブログをテレビ局の生活情報バラエティ枠で紹介させるという迂回策を選んだ。

逆転:ブログ経由で“報道せざるを得ない状況”を作る
紹介当初、報道局長はブログ内容を軽い文化紹介程度と見て許可し、罪悪感から菜々美を懐柔したい思惑もあった。だが、視聴者の関心が集まった後、黒い霧が大地を覆う深刻な映像がブログで出回り、各社は後追い報道に追い込まれた。後追い記事はブログ転載の体裁を取らざるを得ず、「知っていたのに黙っていた」と見られる事態を避けるため、結果として世界各地の異変が広く知られることになった。

06

首相官邸での事情聴取
伊丹耀司は、クリーニング直後の制服で首相官邸の応接室に立たされ、陸自高級幹部と政治家(森田首相、木檜官房長官、嘉納外相、夏目防衛相)に囲まれて報告書の内容を直接問われた。嘉納は「良い報せと悪い報せが山盛りで、政府として反応を決め切れない」と前置きし、話し合いのために伊丹を呼んだと説明した。

資源発見という「良い報せ」
特地の資源調査は大成果であり、巨大油田の存在や、持ち帰ったサンプルが学者が笑うほど規格外の価値を持つことが共有された。日本にとって極めて有利な材料として、伊丹の仕事は評価された。

アポクリフの黒い霧と「門」関連性の不確定
次に、ネット暴露で問題化した黒い霧(アポクリフ)がクナップヌイ周辺で拡大している件が議題となる。伊丹は正体を掴めていないと認めつつ、拡大すれば特地が「住み心地の悪い場所」どころか生存不能になり得ることを示唆した。政府側は「門」との因果を断定できず、特地側の牽制や偶発災害の利用という可能性も議論された。

「神様」呼称の外交問題
伊丹は説明者を「神様」と言うが、木檜は国内政治(与党内の宗教色の強い勢力)や対外関係(宗教が強い国の外交筋)を理由に、その呼称を避けるよう求めた。代替案として「特殊能力者」「超人類」「予言者」「精霊」などが挙がるが、結局この場では便宜的に「神様」で進め、公式文書は官僚に作文させる方針に落ち着いた。

投資停止と株価暴落
異常現象の暴露以降、アメリカやEU系を含む多国籍企業の特地開発投資が急停止し、株価が急落した。理由は単純で、「門」を閉じる可能性が現実味を帯びたことで投資回収が不確実になったからである。一方で、他国や利害関係者の一部は、日本の謀略・利権独占のための情報操作だと疑い、「門」と異常現象の関係を示す証拠がないと主張していることも共有された。

帝国の謀略説への反論と危機感
木檜は帝国の威嚇や謀略の可能性を疑うが、伊丹は「致死性の現象を意図的に起こせるなら、アルヌスを狙うはず」と否定した。木檜は「聖地だから汚せない可能性」も示すが、伊丹は威嚇は意図が伝わる形でなければ意味が薄いと考え、むしろ日本側でも恒星位置の変化や浅間山活動など類似兆候がある以上、「門」と無関係と断じるのは危険で、対策の必要性だけは認めるべきだと主張した。

アルヌス協同生活組合の“追加案件”
議論のさなか、嘉納は「さらに頭が痛い申し出」がアルヌス協同生活組合から来たと告げ、伊丹は事前相談がなかったことに驚きと疎外感を覚える。首相森田は、レレイ・ラ・レレーナが「門」に関わる重要技術を入手し、条件次第で再開通に協力すると申し出たと説明した。

レレイ提示の条件と、伊丹の身柄要求
条件は三つ示される。第一に「門」の閉鎖を受け容れること。第二に、日本側の技術・学術情報が無制限に特地へ流入するのを防ぐこと(急激な価値観変化を避けたいという趣旨)。そして第三が最大の問題であり、日本側は伊丹耀司二等陸尉の身柄を引き渡せ、という要求だった。嘉納の追認でそれが確定し、伊丹は自分が条件に組み込まれた事実に凍り付いた。

中南海での報告と極度の緊張
北京・中南海において、共産党国家戦略企画局の劉は、党重鎮六人と薹徳愁国家主席の前で報告を行った。重鎮達は資料に目を落とさず報告者を凝視する方式を取り、劉は異常な緊張で発汗と震えが止まらない状態に追い込まれた。

「情報収集ではなく工作を語れ」という叱責
劉は、日本で「門」由来の異変が報道され、当初抑制していたマスコミが森田内閣批判へ傾き始めた状況を述べた。しかし主席側は「新聞で分かる話はいらない。任務は情報収集ではなく工作だ」と切り捨て、状況変化に対する具体的な活動計画の提示を要求した。

日本世論の誘導方針と“友好”の否定
劉は、日本が異変を口実に特地独占を企図していると位置づけ、「異変の原因が門にある」という見方に反対し、国際協調による門の利用が日本の利益と名誉に繋がる、という世論をマスコミへ働きかけて形成すると述べた。だが主席は「国家間に友好はない」と言葉遣いを正し、劉は「中国の権益を脅かす行動を日本が控える方向へ誘導する」と言い換えた。中国が企業誘致・資源供給・市場開放を“人質化”として用い、日本の選択自由を縛るという基本発想も示された。

日本マスメディアへの既存工作の成果
劉は、記者交換協定が有効に働き、中国に不利益な報道が概ね自粛されていると報告した。反中勢力台頭を印象づける報道は抑えられ、東京での対中抗議デモ(四千人超)も無視されたという。さらにニュース番組・情報バラエティのスポンサーを通じ、「中国での事業継続には友好的態度を示せ」と注意喚起したと述べた。主席は成果を認めつつも「消極的」と評価し、情勢を大きく動かす提案を求めた。

“武力ではない新しい実力行使”への転換
劉は、状況の変化で反中色の報道を避けられなくなる局面(巡視船への体当たり映像のように無視できない事件)を踏まえ、武力行使級の事件は反中感情を沸騰させ逆効果だと危惧した。主席は「武力は前世紀の遺物」と退け、特地の権益獲得のために“新しい実力行使”を展開すると宣言した。

「銀座紅旗計画」の提示
主席は秘書を通じて劉に書類束を渡し、計画名を「銀座紅旗計画」と告げた。劉は内容を斜め読みして愕然とし、アメリカや各国が認めない、リスクが高すぎると反発した。しかし主席は「国際社会に正義はなく、都合が合えば無法も許される」と押し切り、劉に計画実務への参加を求めた。

多国間の“利益一致”と各国要人の同席
主席は劉を隣室へ案内し、ロシア、フランス、イギリス、朝鮮、韓国、さらにアメリカ合衆国の大統領補佐官までが同席していることを示した。劉はアメリカ参加に動揺するが、主席は「利益の一致があるなら協力も不思議ではない」と述べ、ただし恒久的同盟ではなく都合で集まり都合で霧散する関係であるため、慎重かつ大胆に運ぶ必要があると釘を刺した。

劉への指揮役指名と“四面楚歌”の宣告
計画は「一人の優秀な指揮官の下に集中」されねばならないとして、主席は劉に主導者役を担えと命じた。劉に拒否権はなく頷くしかなく、主席は満足して「かくして日本は四面楚歌となった」と締めくくった。

霞ヶ浦での合流と“空の遊興”
茨城県・霞ヶ浦湖畔で伊丹は降下地点に立ち、民間機から次々に開くパラシュートを見上げて待機した。傍らにはヤオが付き添い、伊丹は遠慮を促すが、ヤオは「傍らにありたい」と残留を選んだ。ヤオは高所と落下そのものへの不安を口にし、伊丹も「頭によぎるのは普通」と同調した。

ピニャ達の熱狂と伊丹の冷淡
プロのインストラクターと降下したピニャは着地直後から大はしゃぎし、雲を突き抜ける瞬間の感動を語った。ロゥリィ、テュカ、レレイも続いて降下し、普段寡黙なレレイすら瞳を輝かせた。一方で伊丹は「どこが楽しいかわからない」と参加を拒み、皆から「怖じ気づいたのでは」とからかわれた。

伊丹の弱点暴露と空挺の黒歴史
ヤオが伊丹の高所苦手を暴露し、伊丹は慌てて反論するが、結局は空挺降下で「降下長にしがみつき、蹴落とされた」過去を語る羽目になった。伊丹は「掴まれるものがない状況」が恐怖の本質だと自己分析し、特殊作戦群の意向で空挺徽章を無理やり取得させられた経緯、だから徽章類を胸に縫い付けたがらないという理由まで明かした。女性陣は面白がってからかい続け、伊丹は時間押しを理由に着替えと移動を強制する側に回った。

研究所へ向かう“段違いの警備”と駒門の再登場
一行は防衛省の科学技術研究所へマイクロバスで移動したが、出発直後から黒塗り車両に前後を固められ、厳重警護が敷かれた。途中で伊丹は、かつて東京案内と警備指揮を担当した駒門と再会する。駒門はロゥリィのハルバートを軽く見て持ち上げ、腰椎捻挫と椎間板ヘルニアで搬送された過去を引きずりつつ、現在は公安部門で課長職に就いたと明かした。

偽装車列と情報遮断
駒門は「今回は以前と段違い」と述べ、女性警官に彼女達のコスプレをさせ、伊丹のそっくりさんと秋葉原・永田町を歩かせるなど、陽動まで行っていると説明した。さらに「疑似餌」を銀座へ向かわせる命令で後続車列を大きく分離し、本隊のマイクロバスだけを直進させて追跡や監視を欺いた。

森田・木檜らの出迎えと“遊興費”の政治的利用
研究所の通用門から敷地へ入り、建物に囲われた区画で森田首相、木檜官房長官らがレレイを迎えた。森田はスカイダイビングを「日本との繋がりがあっての楽しみ」と印象づける意図を隠さず、嘉納も「門を開こうという動機になる」と語った。費用は森田のポケットマネーだとされ、伊丹は官房機密費の可能性を疑いながらも、印象操作として効く構図だと見抜いた。

伊丹引き渡し問題の“保留”と特地残留の示唆
嘉納は「伊丹の身柄引き渡し」はまだ決めていないとしつつ、門を閉じるなら伊丹に特地残留を命じ、現地情報収集とレレイ護衛を担わせる案を示した。伊丹は「小野田少尉になれと?」と反発し、命令書に首相や防衛大臣、統幕長の署名を並べる構想まで示されて逃げ道を塞がれる。

同人誌を餌にした“説得”
伊丹が「遊びのために仕事をする」「即売会に行けないリスクは避けたい」と述べると、嘉納は同人誌見本誌の国会図書館寄贈や収蔵施設構想を持ち出し、特地と途切れても“その間に出た同人誌は一気に読める”と誘惑した。伊丹は思わず食いつきかけるが、即売会の雑踏そのものが楽しみだと熱弁し、嘉納は「特地こそ終わらない即売会場に見える」と返して伊丹の心理を突いた。

巨大格納庫での「門」再現実験準備
一行は巨大な格納庫へ移動し、そこには「心神」モックアップなど実験機材が並んでいた。床と空中には格子状の目印テープやロープが張られ、中央の台を囲んで計測器とカメラがセットされる。レレイには計測器が取り付けられ、養鳴教授や漆畑、白位らも姿を見せた。夏目防衛大臣は「門の扱いは日本の行く末を決め、野党が争点化する」と述べ、森田は「噂として流す」と危うい広報策を口にして周囲に睨まれる。

レレイが“あっけなく”門を開く
カウントダウンの後、レレイは呪文を唱え、空中に垂直の“水たまりのような膜”を出現させた。銀座の石造門は「安定・固定のための構造物」で、実体はこれだとレレイは説明し、自力維持では小型が限界だと述べた。研究員達は表面の揺らぎを観察し、棒を差し込むと抵抗なく通過することを確認した。

どこに繋がったか不明、目印は“単一素材の古い結晶”
カメラ棒は向こう側が白く曇って映らず、霧の可能性が示唆された。伊丹がレレイに接続先を問うと、レレイは「適当に手近な世界」「同じ世界に複数の穴は開けられない」と説明し、特地を探し当てるには“目印”が必要だと言う。養鳴は「混ざり物のない単一素材の結晶体」「珍しく古いほど良い」と条件を提示した。

伊丹の突入と“卵”の目撃で大混乱
伊丹は無造作に門へ顔を突っ込み、続けて一歩踏み込んで姿を消した。見た目が人体断面のようで、研究員の一部は吐き気を催す。直後、伊丹は血相を変えて戻り、「卵がずらっと並び、近づいた瞬間に花びらみたいに開く」と叫び、レレイに即時閉鎖を要求した。周囲はSF映画の“お約束”を連想して一斉に緊急停止へ動き、警備招集、出入口封鎖、最悪時は建物ごと焼却という夏目の命令まで飛び出した。

閉鎖成功と直後の地震、そして“寄生検査”
レレイが維持を止めると膜は消え、その瞬間に震度2程度の地震が研究所を襲った。伊丹は「今後永久に繋ぐな」と強く念押しするが、直後に黒服達に拘束され、身体に寄生物がないか徹底検査を命じられる。伊丹は「無実だ」と叫ぶが、周囲には意味が通じず、嘉納が「あれこそがお約束」と解説して締めた。

皇帝寝室での密談とシェリーの政治遊戯
シェリーはミュイと共に、病床のモルト皇帝の側で日々を過ごしていた。皇帝は動けない代わりに少女達の遊ぶ姿を眺めて慰めとし、シェリーはその場を政治的質問と提案の実験場に変えていた。講和派がゾルザル派に対抗するには日本との協力が不可欠だが、講和前提・賠償能力不足・日本側の譲歩の難しさという「金庫の鍵」問題を、皇帝と整理し合った。

“勝ちの演出”という交渉発想
シェリーは「実がないなら名を与える」として、日本の使節団に“勝ち”を演出し、条件緩和を引き出す案を提示した。皇帝は一理を認めつつ、帝国の威信低下の懸念を問う。シェリーは「ゾルザルを倒すことが威信回復になる」と返し、講和と政局操作を結びつける方向へ踏み込んだ。

隠れ遊びの破綻と緊急報告
皇帝の寝室に少女達が入り浸ることは内密であり、来客の気配があれば二人は寝台の下へ隠れるのが常だった。だがこの日はマルクス伯爵とフォルマル家のメイド長が来訪し、アルヌスからの急報を持ち込んだ。内容は「アポクリフ」と称される異変の確認、日本国内で「門」を閉じるべきか否かが論争になっているというものだった。皇帝もシェリーも、帝国がまだ日本に何も与えていない以上、即時閉鎖には至らないと見て一笑に付した。

本題:ハミルトン私信が示す“門を開く力”
続いてメイド長は、ハミルトンがパナシュへ送った私信を入手したと報告した。そこには、ピニャが政への意欲を失い重要情報を抱え込んでいること、さらに「アルヌス滞在中のある魔導師が冥王ハーディから『門』を開く力を授かった」という核心情報が書かれていた。皇帝はこの話には身を起こし、国家的危機として扱いを切り替えた。

“知ってしまった”危険とシェリーの焦り
シェリーはこの情報が正統政府にとって都合が悪く、しかも高度機密である以上「知っているだけで危険」だと即断した。最悪の場合、口封じや長期拘束で菅原と引き離される可能性があるため、寝台から抜けて菅原の元へ駆け込もうとする。だが皇帝に肩を押さえられて制止され、来訪者にも存在が露見した。メイド長はシェリーを見て口封じを考えた気配を見せるが、ミュイの存在がその選択肢を封じ、皇帝が「早まるでない」と釘を刺した。

正統政府瓦解の論理を言語化
皇帝はシェリーに事態の重要性を説明させた。シェリーは、自衛隊の存在があるから正統政府はゾルザル派と拮抗できているのであり、日本が撤退・断絶すれば講和派は叩き潰され粛清が再来すると述べた。さらに講和派貴族がこの情報を知れば、亡命かゾルザル派への雪崩れ込みが起き、正統政府は瓦解すると断言した。

シェリーの解決策:空手形で講和前倒し、利権で繋ぎ止める
シェリーは「解決策がある」として、早急に日本と講和し、ゾルザル派打倒を依頼する方針を提案した。賠償は帝都奪還後に渡す“空手形”を切り、代替として鉱山・領地などの権利を譲る。日本は「門を閉じたら永久断絶になるかもしれない」という賭けを嫌い、領土・利権が大きいほど捨てにくくなるため、共同でゾルザル排除に同意しやすい、と論じた。これはシェリー自身の「菅原と離れたくない」という恐れとも同型であった。

皇帝の評価と注文:日本利用の徹底、発言の政治的整形
皇帝は発想を評価しつつ、シェリーの日本贔屓が露骨すぎれば帝国利益を損ねる者と疑われる、と注意した。シェリーは反省を示しつつ、日本を敵視せず「利用する」ことで、国力回復までの舵取りを安定させるべきだと押し切った。皇帝も「求める物を明確にした方がよい」と同意した。

“子供特使”の抜擢と爵位操作
皇帝は講和交渉の使節としてシェリーを任じる案を示し、マルクス伯は難色を示す。だが皇帝は、実務は年寄りに任せ、シェリーは代表として“冷や水”になればよいと説明した。子供相手に強硬要求を突きつければ見栄えが悪く、日本側の頭を冷やせるという狙いである。マルクス伯は名目整備として、シェリーに門地相続を認め「テュエリ子爵夫人」とし、さらに伯爵位へ陞爵して家格を上げる案を提示した。皇帝も、家財も家族も失ったシェリーに押し出しを与える意図でこれを後押しした。

シェリーの受諾:厄介だが都合がよい
シェリーは持参金代わりの爵位を菅原が喜ぶとは思わないが、皇帝特使という立場は状況を自分の望む方向へ導く道具になり得ると理解し、命令を受け容れた。うまくいかなくても恥をかくのは自分だけではないという開き直りも含め、講和前倒しの舞台に乗る決意を固めた。

07

中央病院での隔離と悪戯のツケ
伊丹は自衛隊中央病院の感染症病棟に収容され、密閉・陰圧管理の施設内で厳重に監視されていた。過去に伊丹が「緊急事態を装う悪戯」をやらかした結果、病院側は通常警備では対処不能だと痛感し、散弾銃や防染装備、携帯放射機まで持ち込む過剰な保安強化に踏み切った。伊丹は検査漬けの日々でも漫画や同人誌を読み、トイレにも同行される生活を「孤独とは無縁」と受け止めつつ、人生には取り返しのつかない評価があると身に沁みて理解した。

ロゥリィの挑発と警務隊員の動揺
ロゥリィは無反応の警務隊員を崩そうと、伊丹にキスし、さらに抱きついて色香で畳みかけた。見た目が幼いロゥリィとの振る舞いは外形上「児童への淫行」に見えかねず、警務隊員は良識と任務の狭間で葛藤し、ついに耐えきれず病室から逃げ出した。伊丹とロゥリィはこれを「勝ち」としてハイタッチするが、その直後、密着した体勢の気まずさに我に返り、ロゥリィは強烈な口づけだけ残して平然と身なりを整えた。

金剛石の分割と伊丹の備え
ロゥリィは伊丹に頼まれていた「金剛石」を手提げ袋で届け、伊丹はそれを母の後見人へ送る準備をした。伊丹は自分が政治取引の具として扱われ、引き渡されかねない立場であることを踏まえ、資産を外に逃がす意図を示した。一方で、検査が一通り終わり経過観察となった現状を、伊丹は怠けられる環境として半ば享受していた。

特地側の動きと「門」問題の停滞
伊丹は仲間の状況を尋ね、レレイは魔法の実証実験、テュカとヤオはアルヌスへ戻って組合に事情説明中、ピニャは政治への意欲を失い梨紗のもとへ通い詰めていると聞く。日本側は「門」を閉じる方向が見えていても踏ん切りがつかず、レレイの存在を秘密にしたままでは合意形成が難しい状況であった。伊丹はレレイが「門の開閉機械」扱いされることを嫌がり、ロゥリィは対策としてベルナーゴ神殿に「門」の運営管理を引き受けさせ、通行料(お布施)で神殿が潤う形に落とす腹積もりを語った。

説得の弱点とロゥリィの独占欲
ロゥリィは、組合が「門」で生計を立てている以上、生活の糧を捨てろとは言いにくいと嘆いた。しかも自分達は先に伊丹確保へ走っており、その立場で正論を言っても説得力が薄いと自覚していた。伊丹が「引き渡し要求を取り消せばいい」と言うと、ロゥリィは不可能ではなく「イヤ」と感情で拒絶し、理由なき恋と魂への執着を語った。伊丹は軽口を返せず、ロゥリィは「身を退くのは馬鹿」として、奪い取れという教義を示しつつも、自身の欲深さを自嘲した。

正統政府の“要請”情報と伊丹の危機感
ロゥリィは、帝国正統政府が日本政府へ「門は閉じてもいいがゾルザルを片づけてからにしてほしい」と言ってきたという情報を告げた。伊丹は敏感に反応し、レレイの情報流出を恐れ、アルヌス側が危ないと判断した。ロゥリィは護衛を引き受けると言うが、情報は漏れるものだと危機感を煽り、レレイは伊丹の護衛を望みそうだとも示唆した。伊丹は胸騒ぎを訴え、早く戻る意志を固め、ロゥリィの手を取って「頼む」と懇願した。

誤解の現行犯化と取り調べへの転落
その瞬間、病室に警務隊員が雪崩れ込み、伊丹を「児童に対する淫行容疑」で連行すると宣告した。伊丹とロゥリィは児童ではないと抗弁するが、女性警務隊員がロゥリィを保護して即時退避させ、伊丹は「無実」を叫ぶも通じなかった。警務隊員はロゥリィの年齢事情も知らず、伊丹は別室へ連行され、過酷な取り調べを受けることになった。

密使派遣の報とディアボの算段

パナシュはディアボと同衾しながら、帝国正統政府が「密使を派遣する」情報を伝えた。ディアボはそれを面白がり、正統政府が日本にゾルザル討伐支援を求めるのは当然だと評した。正統政府は自衛隊の後ろ盾なしではゾルザル派に潰されるため、講和と引き換えに支援を求める構図になると見抜いた。

交渉の実態と正統政府の弱点

日本側も交渉の長期化にうんざりしており、講和を条件にするなら前向きだという。だが正統政府には賠償を支払う財力がなく、空手形を切るしかない。国庫を取り戻しても不足は埋まらず、領土割譲、不可侵の誓約、鉱山権益などで大幅な譲歩を迫られる見通しとなった。パナシュは、ここでディアボが力を示せば正統政府で重い地位も望めると持ちかけた。

閉塞した現状とディアボの野心

しかしディアボは、アルヌス来訪以降パナシュの部屋に隠れ住み、支配できるのは「部屋の中だけ」という窮状にあった。従う者も実質パナシュと侍従メトメス程度で、パナシュ自身も忠誠心をピニャに半分以上残している。ディアボは女を征服すれば従わせられるという発想を持つが、パナシュは自分をそう単純な女ではないと自覚していた。そこでディアボは「秘策がある」とだけ告げ、全ては明かさず段階的にほのめかした。

秘策の第一手──ゾルザルへの情報漏洩

ディアボが示した第一手は「この事態をゾルザルに教える」ことであった。パナシュは動揺し、それが正統政府と自分たちの破滅を呼ぶ危険な一手だと直感した。パナシュは、ディアボには野心を収めて正統政府の地位を得て安穏に暮らしてほしいと願い、ピニャを支えつつ栄達する未来さえ思い描いていたため、ディアボの頂点志向が不安を煽った。

狙いは魔導師の娘──混乱の拡大と“確保者”の主導権

ディアボは、ゾルザルが「魔導師の娘」を狙い、日本がそれを阻止しようとする構図に、第三者・第四者の介入が加われば状況が乱戦化すると見立てた。その混乱の中で「娘を確保した者」が主導権を握ると断じ、そこに賭けると宣言した。パナシュは「やめてください」と止めたかったが、燃え上がる野心に突き動かされたディアボは聞き入れず、肌を重ねていても言葉が届かない無力感だけが残った。

国会での集中討議と論点の対立

任期満了が迫る衆議院予算委員会で、特地の異変(アポクリフ)がネット暴露からマスコミ案件へ発展したことを受け、政府の対応が追及された。野党・社会主義者党党首の船本みたまは、「門」と異変の因果が未確認のまま閉門を議論するのは軽率であり、異世界交流を失う損失が大きいとして慎重論を展開した。総理・森田は答弁書を朗読する形で、仕組みは不明だが放置はできず、「門」が原因の可能性が高いなら閉鎖も含めて検討するのは当然と述べた。船本は賠償未回収や、国民に問わず決める手続の正当性を突き、与野党入り乱れてヤジが飛び交う混乱となった。

危機管理の理屈と“掛け捨て保険”の論法

防衛大臣・夏目は、異変は特地だけでなく日本側にも微細な兆候が出ているとし、地震回数の増加、浅間山の活動活性化、恒星位置のズレ観測などを挙げ、空間の歪み(重力レンズ現象に類似)による全世界的災禍の可能性まで言及した。もし進行して災厄になれば「門」を事実上掌握する日本の責任が問われると主張した。船本が「何も起きなかった場合の損失責任」を問うと、夏目は危機管理を“掛け捨て保険”に喩え、何も起きない結果こそ喜ぶべきだと反論し、やり過ぎぐらいで丁度よいという立場を貫いた。

世論の二分とメディア主導の構図

討議は世論の縮図となり、閉門派(門を閉じるべき)と存置派(因果未証明ゆえ軽率に閉じるな)に分裂した。マスコミや文化人、学者も参戦して言論戦・宣伝戦となり、報道の多くは政府批判や暴露への反発も絡んで存置派寄りの論調を強めた。その結果、中間層が強く誘導され、圧倒的多数の存置派と少数の閉門派という構造が形成された。討論番組では養鳴教授が集中砲火の末に罵倒と乱闘へ発展するなど、空気が過熱した。

直接行動・国際圧力・財界沈黙

「門」維持を掲げる団体が銀座駐屯地周辺で包囲行動を試み、警察に排除された。彼らは「日本は独善を避け、新興国の意見を汲むべき」と主張した。中国政府も、銀座事件で中国人観光客が被害を受けたとして帝国への賠償請求権を主張し、日本が閉門して交渉を妨げるなら日本が代わりに賠償義務を負うべきだと声明を出した。日本政府は、中国が交渉したければ直接やれ、日本経由の通路提供や仲介義務はない、門は国内問題だと突き放した。そうした騒然の中で、強硬な反対を上げそうな財界が沈黙し、欧米諸国も同様に静観したため、「日本政府は門を開く方法を知っている」という噂が兜町周辺で流れ、株価が乱高下した。

“門を開く技術”報道への政府の腹芸と対外説明

記者に「日本が門を開く技術を得たのか」と問われ、森田は技術がないと否定しつつ、質問の仕方が核心を突かない限り余裕を保った。実際には、門を開く方法は日本政府ではなくレレイ側にあるため、森田の否定は“嘘ではない”形になっていた。対外的には、嘉納がディレル大統領に対し、それは技術というより奇跡・特殊能力であり、誰でも再現できないと説明し、銀座の門を開いた存在はハーディという神だと語った。ただし全ては明かさず、米大統領が「神」という語の扱いに敏感である事情も絡んで、宗教と外交の厄介さが浮き彫りになった。

白百合と帝国使節──シェリーの“格上げ”と代表就任

その後、帝国正統政府の使節団が来訪し、白百合の前でシェリーがテュエリ家の家督相続を認められ、さらに伯爵位に陞爵されたと告げた。持参金代わりの名目で爵位が与えられ、使節の格式上も伯爵位が必要になった結果、名目上の代表をシェリーが担うことになったという。シェリーは実務はキケロやブルコニウスに任せつつ、公式の場で発言できるよう“お稽古”してきたと述べ、自分が正統政府の全権委任を受けていると念押しした。白百合は外見が少女であることに惑わされつつも、以前とは違う“何か”を感じ取り、背筋に冷汗を流した。

講和交渉の決着と“可憐さ”による拘束

交渉は皇帝の予想通りの流れとなり、日本側はシェリー相手に強い要求をぶつけにくくなった。シェリーは「見捨てられれば皆殺しになる」と可憐に縋り、「門を閉じないで」と懇願して早々にゾルザル討伐協力の約束を取り付け、続けてキケロらが講和締結の必要を梃子に条件緩和を求めた。賠償についても「今は金がない、帝国奪還まで猶予を」と泣きそうに訴えつつ、資源利権やアルヌス周辺割譲を“今初めての譲歩”のように差し出し、日本側の追加要求を挫いた。皇帝来日謝罪も、病床のモルトでは困難として、皇太女ピニャが遺憾の意を表明し、収束後にピニャへ譲位する形で責任を取ることで落ち着いた。内容自体は日本にとって納得できる水準だったが、当事者には「やられた」という釈然としない感覚が残り、シェリーの「こてんぱんにやっつけてくださいまし」と無邪気な追い打ちが、その不快感を強めた。

同人誌制作に耽溺するピニャと「門」再開の秘密

ピニャは混乱の隙に日本へ滞在し、梨紗の家で同人誌制作の現場に巻き込まれながら、マンガを読み漁っていた。読みたい一心で日本語の読解力を大きく伸ばした一方、会話は片言で、腐女子たちの冗談混じりの罵声を真に受けて傷つきもした。制作の合間、特地移住の話題になり、世間には「門は閉じる必要がある」という見方が根強いことが示される。そこでピニャは「門は閉じても再び開ける」と秘密を明かすが、時間のズレ(向こうの翌日がこちらの一年、場合によっては十年)が起こり得ると語り、移住への熱を現実の重さで冷やしてしまう。

ハミルトンの回収要請とピニャの拒絶

ハミルトンが私服警官らしき黒服を伴って突入し、講和条約締結の場へ戻るよう懇願する。ピニャは「政治には関わらない」「皇太女も面倒」と突っぱね、欠席は日本への侮辱になり得るという指摘も意に介さない。自分が関わって良い結果が出た試しがないという諦念が、拒絶の根にあった。

シェリーの登場と講和の“事実上の取りまとめ”

ハミルトンが道を開け、シェリーが直接説得に出る。シェリーは自分が日本側との話をまとめたと認めさせ、ハミルトンも「帝国にとって好条件でまとまった」「ゾルザル排除の軍事行動の実務協議に入っている」と補足する。講和が単なる停戦ではなく、ゾルザル討伐を共同で進める枠組みであると示され、ピニャは「日本が本気なら兄もひとたまりもない」と直観し、かつて見た一方的な殺戮の光景を思い出して胃を痛める。

ピニャの“燃え尽き”と帝国への失望の吐露

それでもピニャは戻らないと固執し、女帝として掌握できる好機だと迫るハミルトンに対し「帝国を欲していない」と激しく反発する。戦争開始以来、帝国のために屈辱を耐えて走り回ったのに、元老院などに否定され、吊し上げられたことで心が折れたのだと語る。自分を守ってくれたのはハミルトンだけで、皇宮から救い出したのも結局は伊丹だったという認識が、帝国への不信と逃避を決定的にしていた。守ろうとした相手からの非難こそが戦う者の意欲を奪う、という形で、ピニャの言い分には説得力が与えられる。

シェリーの“言葉の戦い”とボーゼスの真相提示

シェリーは「殿下だけが辛かったように言わないで」と切り込み、不幸比べに持ち込むのではなく「皆が多くを失った事実を認めてほしい」と角度を変えてピニャの耳を開かせる。さらに決定打として、ボーゼスがピニャを救うため単騎突撃した事実を示し、ハミルトンもそれを認める。ボーゼスは届かなかった以上「見捨てたも同然」と恥じて報告しなかったのだとされ、ピニャは自分の誤解を悟って深く息を吐く。

復讐の宣言とゾルザル討伐の論理構築

シェリーは両親を失ったことを明かし、ゾルザルへの復讐として「死んでいただく」と言い切る。ピニャが「兄と無関係だ」と逃げ道を作ろうとすると、シェリーは逆にそれを利用し、関係ないなら復讐の是非に口を挟めないはずだと冷笑する。討つ方法は「強い者により強い者をぶつける」――日本の武力を解放するための講和であると筋を通す。

騎士団の名誉を楔に、ピニャの抵抗を折る

シェリーは翡翠宮での戦いで騎士団が多数死んだこと、彼らが反逆者扱いされかねないことを突き、ピニャに「自分の騎士や兵士の名誉が貶められて平気か」と迫る。ピニャは感情を抑えきれず、「何とも思わないはずがない」と激昂するが、兄と戦う抵抗感を捨てられない。そこをシェリーは「殿下に剣を取れとは言わない。日本にやらせる。政治的な枷を外してやれば彼らは怒りを解き放つ」と提示し、ピニャに求める役割を最小化する。

“空っぽの駒”を演じろという最終要求と連行

シェリーは、儀式の場では「頭が空っぽな政略結婚用の駒」を演じ、愛想良く座っていればいい、後は自分が全部やると断じる。ピニャはその迫力に圧倒され、拒めず、差し出された手を取って連れ出される。ここで主導権は完全にシェリーへ移り、ピニャは政治から降りたいという願いすら、シェリーの設計の中で“役割化”されていった。

08

有職故実という前例主義の説明
有職故実とは、宮廷や宗教などの堅苦しい儀礼が、過去の出来事(故実)を根拠として成立し、長い年月のうちに理由が忘れ去られて形式だけが残る、という考え方である。道路の左側通行・右側通行の由来説を例に挙げ、法が未整備だった時代には「昔こうだった」が人々を納得させ、時に最高権力者すら縛る力になったと語られる。その結果として、現代から見ると「なぜこれを?」と思う作法が残り、作法違反を理由に契約の無効すら主張され得ると説明される。

講和条約締結に必要な儀式の段取り
帝国でも同様に、講和条約は署名捺印だけで終わらず、効力発生に必須とされる詳細な作法が定められていた。他国で調印する場合はなおさらで、作法に従った進行そのものが重視される。夕刻、朱に染まった空の下で太陽に向かって進むことまで含め、煌びやかな騎士の護衛を伴う馬車列が街道を進む。

パナシュの護衛指揮と先触れ役を巡る小競り合い
皇帝の名代を乗せる馬車を、白馬の女性騎士パナシュが守り、儀礼にふさわしい高雅さを演出する。先触れ役は本来、土地勘と日本語能力のあるニコラシカが適任だったが、ヴィフィータが「隊長級でなければ格式が合わない」と主張して割り込む。自衛隊指揮官「ケングン」の存在を知った途端に落ち着きを失っていたため、周囲は恋心が動機だと見抜き、ニコラシカも半ば温かく譲る形でヴィフィータが先触れに選ばれる。

アルヌス到着の先触れと“様式美”としてのやり取り
ヴィフィータは隊列から離れて先行し、自衛隊の警戒線で誰何されるたびに、意味を完全には理解しないまま丸暗記した日本語で定型句を暗唱する。誰何と応答の掛け合い自体も儀式の一部として事前にリハーサルされており、普段は偽装している自衛官もこの日は皺のない戦闘服と紅いマフラーで整列し、演出としての「見せる警戒」を成立させる。

門を閉じる不安と、料理長の危機感
場面は食堂に移り、ディアボは大仰な儀式を冷ややかに眺める一方、料理長は「門」を閉じる議論への不安から見物に積極的ではないと語る。門を再び開けられると言われても、誰がどうやるのかが伏せられていることが不信を生み、その人物に何かあれば街の生活が破綻すると料理長は恐れる。さらに、秘密はいずれ漏れるとして、ベルナーゴ神殿に関わった者の中から推理を組み立て、鍵を握る人物が限られることまで口にする。

ディアボの工作と“真実”を他国へ告げる計画
ディアボは自分も門閉鎖に反対だとして料理長に協力を求め、ゾルザルの陰謀で「門」と地揺れ・アポクリフが結び付けられ、門を開く力を持つとされるレレイが狙われる筋書きを語る。ハーディ神の説明さえ利害から嘘を混ぜ得ると示し、料理長に確かめ役を担わせる。真実を別の国にも告げて手伝わせ、レレイを安全な場所へ隠すことでゾルザルの目論見を潰すという構図が提示される。

故実再現の落馬芝居と、口紅という作法外の“事故”
ヴィフィータはアルヌスの丘上で「ご名代到着」を叫んだ直後に落馬し、死力を尽くして倒れたように見せるが、これは数百年前の出来事を再現する儀式としての芝居である。迎えた健軍一等陸佐は作法通りに駆け寄り、右膝を突いて確認する。リハーサルでは抱き上げ役を巡る下世話な冗談や言い間違いがあったが、本番では二人とも硬くなって儀式を遂行する。ところが使節団が通過する際、健軍の唇には真っ赤な口紅が付着しており、有職故実の作法にはない何らかのハプニングが起きたことが示され、ピニャはそれを見て「上手くいった」と独白する。

閣議での全面攻勢決議
官房長官の木棺は「機は熟した、全面攻勢だ」と閣議の場で力強く提案した。嘉納と夏目がこれを支持し、他の閣僚も異論を挟まず、帝国正統政府軍と連携してゾルザル派に攻勢をかける方針は全会一致で可決された。この決断は日本の国益追求という大義に基づくものであったが、同時に講和成立と戦果による支持率回復、総選挙対策という政治的思惑も内包していた。

私益と公益に関する政治的考察
戦争は金銭と人命を蕩尽する行為であり、私益を含む決断には批判も生じ得る。しかし人間の行為に私益が含まれないものは存在せず、問題は私益と公益が対立した場合にどちらを優先するかであると語られる。理想を現実から乖離させて暴走する指導者こそが危険なのであり、その意味で森田内閣の閣僚たちは俗物で小心であるがゆえに極端には走らない存在であった。私益と公益を重ね合わせつつ周囲の反応をうかがう小者であるが、動くと決めたときの行動は大胆であった。

アルヌスの自衛隊の士気高揚
閣議決定は即座に特地派遣部隊へ伝達され、アルヌスの自衛官たちは歓声を上げた。これまでの防御的姿勢では主導権を握れず、後手に回り、現地住民の犠牲も防ぎきれなかった。全面攻勢となれば主導権は自衛隊側に移り、溜め込んできた鬱憤を一気に叩きつけられる。隊員たちの士気は急激に高まり、基地全体に活気が満ちた。

正統政府軍の動員と勢力拡大
正統政府もまた「平和の敵ゾルザル派を討て」と檄文を発し、出身や前歴を問わない論功行賞を約束した。これにより講和派貴族のみならず、諸侯や諸外国、さらには傭兵や元盗賊までもが参集し、正統政府軍はゾルザル派に見劣りしない兵力を整えるに至った。エルベ藩王国国王デュランはこの動きを見て、大陸の実質的盟主が誰であるかを思い知ることになると呟く。

主力の見せ方を巡る政治的配慮
合同会議の場で、正統政府軍の将帥たちはゾルザル討伐軍をイタリカから進発させてほしいと懇願した。軍事的合理性よりも、戦後統治の正統性確保が理由である。正統政府軍が主力で自衛隊が支援という形を取らなければ、帝国統治や賠償、資源輸送に支障が出る可能性があった。そのため表向きの主力はイタリカ発の合同軍とされ、自衛隊は他地域から支援行動を起こす形で合意が成立する。

第四戦闘団の任命と健軍の不満
イタリカから進発する部隊は健軍一等陸佐率いる第四戦闘団と決まった。しかし健軍は正統政府軍との共同では機動力が生かせないと異議を唱える。狭間はこれまでの戦闘の労をねぎらい、休息も兼ねた配慮だと退けるが、健軍にとっては大舞台で最も美味しい役を奪われた感覚であった。

健軍の「競争」宣言
健軍は正統政府軍の将軍たちを集め、「これは競争だ」と宣言する。取り決め次第では正統政府軍が単なるパレード役になり、自衛隊が殲滅まで含む支援を行う構図にもなり得ると示唆する。戦争は相手があってするものであり、面子に拘って味方を縛れば危険に晒すだけだと断言する。

ピニャの現実的判断
シェリーに促されて立ち上がったピニャは、地図を示しながら正統政府軍が不利な条件下にあることを説明する。イタリカから帝都へ向かう道中には城塞群があり、距離も長い。同日出発では機械力を持つ自衛隊に先行される可能性が高い。だからこそ懸命に走らねばならないと諸将に言い渡す。自らは皇帝の名代としてイタリカに留まり、我が儘を通す立場ではないと述べる。

前例主義との決別と共同作戦の現実
馬を下りて戦うことに難色を示す将軍たちに対し、ピニャは前例に拘るのは二流だと切り捨てる。兵站や通信の多くを自衛隊に依存する以上、指揮下に入ることは避けられない。拒めば置いていかれる立場であることを突きつける。最終的にピニャは健軍に協力を要請し、健軍は作戦説明を開始する。合同作戦は些細な不一致で瓦解しかねないため、疑問はその場で解消するよう求め、説明は通訳シャンディーを介して本格的に始まった。

符丁による作戦開始と一斉前進
狭間陸将の命令が「状況開始せよ」という形で各隊に伝達され、作戦開始の符丁が共有された。これを合図に地上では戦闘車両群が土煙を上げて前進し、上空ではヘリコプター編隊が目標へ向けて進出した。部隊全体が同時に動き、受け身ではなく自衛隊主導の攻勢が始まった。

航空攻撃による遮断と城塞機能の破壊
航空自衛隊のファントムがゾルザル派支配域の奥深くに侵入し、爆撃で城塞の防御設備を破壊した。進撃路以外の橋梁を落として交通を断ち、兵舎は焼き潰され、補給線は遮断された。機数は限られていたが、綿密なスケジュールで出撃を繰り返し、交通・通信の遮断と制空権確保を並行して進めた結果、守備側は戦闘開始に気づかぬまま壊滅し、孤立を強いられた。

砲撃の追撃と守備隊の混乱
続いて特科部隊の榴弾が飛来し、地面を揺らして城壁を抉り、守備兵を逃げ惑わせた。即死を免れた者が遠望したのは、七四式戦車を先頭に迫る「鋼鉄の戦象」であり、既に損害を負っていた兵の戦意は急速に削がれた。逃走の衝動が広がる一方、帝権擁護委員が凶刃で逃亡を抑え込み、恐怖によって兵を戦場へ追い立てた。

自暴自棄の突撃と機関銃による蹂躙
守備側は矢や槍、戦闘魔法で突撃したが、それは戦術に基づく反撃ではなく混迷の特攻であり、奔流のような進撃を止められなかった。騎兵の突撃も車載機銃の弾雨で近づけず、肉薄しても装甲に阻まれて槍は折れ、逆に自軍が傷ついた。戦場は「戦い」ではなく、相手にされず淡々と踏み潰される屈辱として兵の怒りと敗北感を増幅させた。

撤退不能の強要と対抗策の投入
本来なら撤退して部隊を糾合し遅滞戦術を取る選択肢もあったが、帝権擁護委員がそれを許さず、勝利を強要した。守備側は重装オーガーと翼竜弓騎兵を投入し、巨盾の陰に兵を進ませ、空から矢を降らせることで一時的に効果を得た。戦車へ巨石や棍棒を投擲し、足止めを狙って攻城槌隊を突進させるなど、機械化戦力に対する「止める」試みが具体化した。

攻城槌の命中と無効化
多数の攻城槌のうち一つが七四式戦車側面へ激突し、油と柴の炎で車体を包み込んだため守備側は歓呼した。しかし戦車はほどなく動き出し、側面にあらかじめ吊っていた丸太や偽装で尖端の噛み込みを防ぎ、炎ごと切り捨てて前進を再開した。対策を研究していた自衛隊側に隙がなく、守備側の「成功体験」は短時間で反転した。

亀甲隊形の突破と至近距離射撃の決定打
守備側は重装オーガーの亀甲隊形で弾雨を防ぎつつ肉薄し、群がって近接戦へ引きずり込もうとした。しかし重機関銃の徹甲弾は巨盾を貫き、盾の内側にいた帝国兵は破片で次々と脱落した。ようやく接近した瞬間、七四式戦車群が至近距離から砲撃し、重装オーガーの胴に巨大な穴を穿って将棋倒しにした。巨楯すら吹き飛び、巻き込まれた兵が押し潰され、この時点で組織的抵抗は潰えた。

混戦化と空からの攻撃の限界
致命傷を負ったオーガーは狂乱し、敵味方の区別なく棍棒を振るって味方兵を薙ぎ倒し、戦場は統制を失った。翼竜騎兵も槍の投下や壺の投下を試みたが、命中が難しく、命中しても戦車相手では外装損傷に留まり、戦況を変えるほどの成果は得られなかった。高機動車を撃破する例はあったが局地的であった。

全面崩壊と捕虜の増大
勝てない現実と方法の欠如により兵は逃走に走り、帝権擁護委員の恐怖も止められなくなった。装備を捨てて四散した結果、帝国軍は戦闘組織として崩壊し、柱を失った建築物が自重で崩れるような全面崩壊となった。逃げ延びた敗残兵は住民の憎悪に晒され、焦土戦術で植え付けられた怨恨が農具による報復を招いた。逃げ場のない現実を悟った兵は自衛隊への投降を望むようになり、捕虜の武装解除と後送の手間が、皮肉にも自衛隊の前進速度を鈍らせる要因となった。

マレへの奇襲と指揮系統の分断
イタリカを出た健軍率いる合同軍は帝都へ急行し、城塞マレに対して空からの襲撃を敢行した。戦闘ヘリのロケット弾で混乱を起こした直後、城壁や城門を越えて城内深部の尖塔へ兵を降下させ、最奥部をいきなり戦場化した。ゾルザル派は「最も堅い場所」が同時に攻撃を受け、前後から挟撃される形となり、戦術的抵抗を組み立てる余地を失って包囲・制圧へ追い込まれた。

籠城拠点の膠着を閃光音響筒で破断
一部の守備兵は狭隘路の奥に多連装弓銃を据えて立て籠もり、正統政府軍の戦死者が通路を塞ぐほどの損害を出して抵抗した。降伏勧告は罵倒混じりに拒絶され、負傷者救出を試みた兵も矢で倒れ、膠着が予想された。そこへ自衛官が介入し、銃眼へ閃光音響筒を投げ込んで狭い空間で閃光と爆音を発生させ、守備兵を一時的に昏倒させた隙に正統政府軍が突入し、守備兵は迅速に捕縛された。

常道外の城内戦が生んだ“事後処理の山”
通常の攻城戦と異なり、戦闘が城内全域へ拡散し、逃亡兵が城外へ散ったため、制圧後の負担が急増した。残敵掃討、捕虜収容と尋問、倉庫(食糧・武器・資金)の確保管理、負傷者の手当と後送、部隊再編までを同時並行で片付けねばならなくなった。

守備兵数の異常と聞き取り調査の指示
健軍は用賀二佐と、マレの守備兵が「予想以上に少ない」点を確認した。逃走したにしても数が合わず、情報誤りか城外展開かが問題となったため、捕虜への聞き取り調査を命じた。ただし足止めは避け、作戦は次段階へ移行した。

マイモールに後始末を委任し、フゥエへ空輸展開
健軍は事後処理をマイモールに任せ、デュラン王率いるエルベ藩王国の第二梯団をヘリに搭乗させて次の城塞フゥエへ向かう判断を下した。補給と簡易整備を終えたUH-1等へ、後方待機だった兵が鎧の金具音を立てつつ乗り込む。義足のデュランも兵の助けで搭乗し、初飛行で緊張する若い兵を梨でもてなしながら励まし、「戦場では尊卑なく戦友」と背中を預ける覚悟を語った。離陸時の揺れに兵が動揺する様子を見てデュランは子供のように笑い、ヘリ群はフゥエ襲撃へ向けて空を駆けた。

09

ゾルザルが攻勢準備を早期に察知する
ゾルザルは、帝国正統政府軍が大規模な軍事行動を準備していることを早い段階から把握していた。檄文の拡散や兵の集結状況から、作戦の規模と発動時期まで概ね読み取れたためである。

密偵組織の崩壊と「商人偽装」への転換
ボウロの密偵組織は、フォルマル伯爵家の屋敷への潜入が即座に発覚する状況に直面し、潜伏拠点も芋づる式に暴かれて諜報網が潰れ、人材喪失が深刻化した。潜入型の諜報が継続不能となったため、能力の低い者を商人に偽装させ、売買や市中観察で外側から情報を拾わせる「時間稼ぎ」の策へ切り替えた。

ハリョの実態とボウロの動員構造
ボウロが利用していたハリョは、単一の亜人部族ではなく、混血ゆえに共同体からはぐれた者たちが集まって形成した混成集団であった。彼らは歪んだ選民意識を拠り所にし、周囲への憎悪を膨らませていた。ボウロはその感情に「帝国を内側から蚕食する」という目標を与え、地下組織化と密偵活動へ結びつけていたが、連続した失敗で組織の存在基盤が揺らいでいた。

「普通の商売」が防諜網の盲点を突く
強行潜入ではなく通常の商取引として動く限り、偽装商人は怪しまれずイタリカに出入りできた。訓練の様子を見聞きし、兵糧・兵器の購入量や納期などの商取引情報を総合することで、正統政府軍が短期決戦かつ速度重視で動く計画であることまで推し量れた。

ゾルザル陣営の憤激と迎撃構想の提示
ゾルザルは、外国軍を引き入れて戦う正統政府を売国と罵り、主戦論派の議員達も檄文を材料に非難を強めた。ヘルムは地図を示し、城塞群は捨て石としつつ抵抗で敵戦力を漸減させ、主力で迎撃する構想を語った。ゾルザルも必勝の策を掲げ、自ら兵を率いる意志を示し、敵の足止めを各部署に命じた。

古田の情報主要素と「暗殺」への短絡
古田は、ゾルザルがテルタに留まるのか出撃するのか、出撃するならどこへ向かうのかという情報主要素の把握を優先した。しかし地図は片付けられてしまい、古田は苛立ちから「暗殺の方が早いのでは」と口にした。

テューレの否定と「マーレス出撃」情報の提供
古田の短絡をテューレが否定し、暗殺は統治を不安定にし、解決にならないと断じたうえで、ゾルザルがマーレスへ出撃すると告げた。さらにテューレは、古田が仕掛けた盗聴器を見抜いていたことを示し、互いの疑念が既に露見している前提を突きつけた。

テューレの復讐動機と古田の拒絶
テューレは、ゾルザルに無力感と絶望を味わわせたうえで嘲り抉るために情報を渡したと語った。古田はその憎悪の深さに引きつつも、復讐の役は譲ると応じた。

「嘘つき」誤認からの衝突
テューレは古田を「役者」と見なし、店を開く話も嘘だと疑った。古田はこれに激昂し、自分は嘘をついたことがなく、敵か密偵かと問われなかっただけだと言い返し、店の話も本心であると断言した。

決裂と余韻
古田は怒りに任せてテューレを突き放し、その場を去った。呆然としたテューレは、戻ってきたボウロの問いかけを制し、自分の中に残る「嬉しい余韻」に浸ることを選んだ。

ヘルム主導の徴発とゲリラ活性化
ヘルムは「売国奴共が動き出す前に」準備を完了させるよう命じ、ミュドラは武器と食糧、カラスタは資金を属州と商人から力ずくで徴発した。並行してイタリカ・アルヌス周辺ではゲリラ活動を活発化させ、各国部隊や隊商を襲って物資調達を妨害する方針を取った。

ゾルザル本隊の出発と偽装馬車の運用
ゾルザルはヘルムらと共に精鋭一万を率い、テルタを出発した。同行するテューレには、柴や飼い葉を積んだ荷馬車に見せかけた「貴人用の偽装馬車」を与え、ゾルザル自身も時折それを使うとした。ゾルザルはその馬車内でテューレに乱暴にふるまい、遮音性の低さゆえに嬌声が外へ漏れ、若い兵や亜人達が気まずさを抱く状況になった。

夜陰の分散行軍と厳重な秘匿措置
一行は日没後に少人数へ分散し、怪異の先導で森道・山道を進む隠密移動を行った。さらに各部隊は封緘された暗号命令書を渡され、期日まで目的地が分からない運用が徹底され、住民や旅人を片端から殺すという残忍な防諜体制まで敷かれた結果、味方からすら本隊の所在が不明になる状態となった。

テューレとボウロの会話と「秘策」探索命令
テューレはボウロに同行確認を取り、内戦の混乱が長引き犠牲者が増えるよう「もう一押し」したいと述べ、ゾルザルの秘策を探るよう命じた。秘策が分かればフルタに教えて敵へ動きを伝える意図だと語るが、ボウロはフルタが敵の間諜ではないと主張し、テューレの心がフルタに傾いていると指摘した。口論の末、テューレは警戒を約しつつも、秘策探索を優先させ、ボウロは気配を消して離脱した。

自衛隊側がゾルザル本隊を見失う背景
諸侯が檄文に応じて兵を動かし始めた時期とゾルザル本隊の移動開始が重なり、自衛隊は活性化したゲリラ対応に偵察力を集中させていた。そのため、後方を移動するゾルザル軍が偵察機に捉えられないまま進行した。

久瀬戦闘団、マーレス森林でゲリラ抵抗に遭遇
久瀬一等陸佐率いる第一戦闘団は、マーレスの険しい山と深い森で頑強な抵抗に遭遇した。道路封鎖と「眼鏡犬」(重装オーガー)による襲撃があり、深追いは罠に繋がるとして抑制しつつ、威力偵察で隠蔽を剥がす方針を取った。迫撃砲とOH-1誘導の支援下で接触戦が拡大し、近距離の矢・伏兵・白兵戦に発展する場面も出たが、擲弾や機関銃、さらに七五式155mm自走榴弾砲の砲爆撃で谷間を叩き、敵は組織的退却から本当の壊走へ移っていった。

ベッサの待ち伏せ陣地と「塹壕落下」遭遇戦
ウッディ伯爵は、マーレス迂回路の要衝ベッサに多数の塹壕を築き、ゴブリンやトロルを使役して掩蓋付きの壕へ兵と怪異を隠し、敵を奥まで引き込んで混戦へ巻き込む構想を立てていた。ところが敵の「鋼の箱車」が道を外れて塹壕へ突っ込み、掩蓋を踏み抜いて内部に落下したため、壕内の帝国兵と降りた自衛官が互いに混乱して手を上げ合うような間の抜けた対面が起きた。直後に指揮官の怒号で発砲が始まり、周囲の伏兵も一斉に飛び出して遭遇戦が全面化した。

白兵戦誘導の継続と数の圧力
包囲の理想は崩れたが、ウッディ伯爵は躊躇を捨てて戦闘継続を命じ、火を放った荷車、攻城槌、戦象・恐獣、怪異の群れを投入した。ゴブリンらが戦車へ群がり装備を破壊し、戦車側は振り払おうとして隊列を崩すなど混乱が生じた。自衛隊は指揮官の統制で落ち着きを取り戻しつつ、主砲や無反動砲で怪異を撃破したが、帝国軍は数の暴力で包み込もうとし、ウッディ伯爵は「ゾルザル殿下の到着まで死守」を繰り返し強調した。

フゥエ方面の翼竜部隊の伏撃準備
狭隘な谷の洞穴に多数の翼竜と竜騎士が潜み、指揮官ポダワンは偵察に見つかりやすい状況下で翼竜と自身に泥を塗るなど屈辱を耐えて待機した。偵察翼竜が撃墜されながらも手鏡の反射信号で「敵接近」を知らせ、ポダワンはここが最後の戦いになる可能性を告げて出撃を命じた。

デュラン搭乗ヘリ部隊への空中奇襲開始
デュラン王を乗せたヘリ群が山岳地帯へ入りフゥエ城塞へ接近したところ、稜線を越えて翼竜の群れが横切り、鎖で繋いだ網が投下された。数機がローターを絡め取られて制御を失い、機内は激しく揺れ、兵が恐慌する中でデュランも怒鳴るしかなかった。ポダワンは奇襲成功を宣言し、竜騎兵が一斉にヘリ集団へ襲いかかって戦闘が始まった。

ゾルザル軍一万の「正規軍化」と平原での展開
ゾルザル麾下の帝国軍一万は集結後に軍装を整え、武器を配り、隊列を組んだ正規軍として行軍を開始した。街道が平原に入ると、兵は道から平原へ横幅を広げ、長い縦列を横隊へ切り替える。部隊長の号令で隊列は精巧に変形し、隊旗を先頭に槍と楯を揃え、方陣を市松模様状に配置して進んだ。本陣にはヘルム、ミュドラ、カラスタの三将軍と幕僚、各種の旗手、鼓笛隊が続き、テューレの偽装馬車も偽装を解いて貴人用馬車としてゾルザルの隣を進んだ。

「マーレスではない」方針転換の開示
テューレは地形が難所のマーレスと異なる平原である点を不審に思い、現在地を問う。ゾルザルは「マーレスへ向かうと言った覚えはない」と返し、目的地がフォルマル伯爵領のイタリカだと明かした。丘の稜線を越えた先にイタリカの城市が現れ、ゾルザルは「敵の中枢を落として皇帝の身柄を押さえる」ことを必勝策と断言する。ヘルムも、今のイタリカは無防備で強襲が有効であり、時間をかけると敵主力が戻るため迅速な陥落が必要だと見立てた。

ボウロの再登場とテューレの露見
ゾルザルは皇帝確保をボウロに任せると命じるが、御者台の人物がボウロであることが露見し、テューレは動揺する。ゾルザルは、テューレがボウロに「探らせる」意図を持っていたのではないかと詰め、裏切りを前提に語気を強める。さらにゾルザルは、テューレの部族を滅ぼし奴隷として売ったのが自分だと告げ、それを隠していたこと、テューレが反応しない様子を見て胸を躍らせていたことまで語る。テューレは反発し、窮鼠のように腕を振り上げるが抑え込まれる。

戦前の私刑示唆とテューレの反撃
ボウロはテューレの「下げ渡し」を願い出て、手下を伴って迫る。ゾルザルは「泣き叫び許しを請う姿」を期待すると述べ、テューレは恐怖を悟りつつも、人数や男達を嘲る過激な挑発で逆襲し、迫る男達が一斉に怯んで退く展開となる。ゾルザルも動揺するが、カラスタが「今はそれどころではない」と制止し、攻撃の好機が失われつつあることを告げた。

イタリカ側の野戦展開とゾルザルの判断
イタリカでは城門が開き、正統政府軍が城市前面で横に広がる陣形を作ろうとしていた。ヘルムは「ただちに攻撃命令」を求め、陣形が整う前に襲えば敵は混乱して城内へ戻ると主張する。しかしゾルザルは「野戦で行こう」と決める。城攻めは手間と犠牲が大きく、防御設備が最大の優位であるため、敵が籠城の優位を捨てて野戦に応じるなら好都合だと判断した。敵兵力は約六千、ゾルザル軍は一万で数的優位があるため、正面衝突でも勝てるとアブサンが断じ、カラスタとミュドラも同意する。

野戦準備への再編とテューレ拘束
ラッパが鳴り、攻城用の梯子などを捨てて野戦用の陣列へ入れ替え、弓箭兵と楯持ち歩兵の位置も調整された。ゾルザルは戦後にテューレを辱める趣旨の言葉を投げつけ、ボウロに「どこかへ閉じ込めておけ」と命じ、テューレは縛られて連行される。

前進開始と弓箭戦、亀甲隊形
ゾルザルの合図でヘルムが前進を命じ、兵は楯を構えて歩調を整えつつ進む。正統政府軍は城市前で動かず守勢を取る。ヘルムは敵指揮を拙劣と罵り、第一列に速歩を命じる。両軍から大量の矢が放たれ空が暗くなるほど降り注ぎ、ゾルザル軍は亀甲隊形で楯を掲げて耐えるが、矢が貫通して負傷者・死傷者が出る。それでも陣形を解いて前進を継続し、ついに接近戦へ移行する。

白兵戦の激突と交代戦術
剣と槍が激突し、楯が戦斧で割られ、鮮血が飛び散る消耗戦となる。百人隊長の号笛で先頭を交代させ、血に汚れた兵を後方へ退かせ、新手を前へ出す循環が繰り返された。ここでゾルザル軍は、敵がヒト種主体ではなく多種族の寄せ集めであることに気づく。特にドワーフは骨太で戦斧の威力が大きく、正面の肉弾戦で強く、ゾルザル軍の突撃は止められる局面が生じた。

ピニャ旗印の発見とヘルムの投入戦術
敵陣中にピニャの旗印が見え、ゾルザルは意外に思う。ヘルムはピニャ騎士団一期生であり、相手がピニャなら手を抜けないと答え、ゾルザルは力を見せろと許可する。ヘルムは「間断なく新手をつぎ込む」とし、騎馬隊とケンタウロス隊の投入を命じた。

ドワーフ誘引と側面騎突
前線では「百歩後退」の号令でゾルザル側の前列が素早く退き、興奮した正統政府軍のドワーフが追撃に出て陣列から離れる。鈍重なドワーフは距離を詰めきれず疲弊し、その結果、陣形が崩れた側面へ騎馬兵とケンタウロスが槍を揃えて突入し、ドワーフ兵は馬上槍に掛けられ、馬蹄で蹴散らされていった。

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