物語の概要
本作はVRMMOを舞台とするファンタジーライトノベルである。ゲーム初心者の少女・本条楓(メイプル) は「痛いのは嫌だから」と、キャラクターのステータスポイントを防御力に極振りするという異例の育成方針を採る。その結果、膨大な耐久力と無数の防御スキルを獲得し、「移動要塞型」の最強キャラとして注目を浴びる。プレイヤー仲間や敵対勢力が入り乱れる中、楓はNewWorld Online の仮想世界で圧倒的な硬さを活かしつつ冒険とイベントを楽しみ、想像を超えるトラブルやバトルを乗り越える。第4巻では、ギルド対抗戦や強力な敵勢力との戦いを経て、仲間とともに更なる高みを目指す展開が描かれる。
主要キャラクター
- 本条楓(メイプル):
本作の主人公であるゲームプレイヤー。防御に極振りしたため、ほぼダメージを受けない圧倒的硬さを誇る“最硬キャラ”となる。自らのスタイルを貫きつつ、自由で無邪気な冒険を楽しむ性格である。 - 白峯理沙(サリー):
楓の親友であり、リアルでもゲーム内でも行動を共にする頼れる仲間。高い回避能力とプレイスキルを持ち、楓のバランスを取る重要な存在である。 - クロム:
大盾使いの上位プレイヤー。楓と同じタイプの防御キャラとして親しく接し、戦術面でも仲間を支える兄貴分的存在。 - イズ:
生産特化型プレイヤー。装備やアイテムの製作に長け、仲間たちの装備強化や補給面で活躍する。 - カスミ:
刀使いの実力者で、落ち着いた判断力を持つ女性プレイヤー。楓・サリーの“ぶっ飛んだコンビ”を見守りつつ協力する。
物語の特徴
本作の魅力は、通常の無双系やチート系とは一線を画す“防御特化という逆張りビルド”が主役となる点にある。敵からの攻撃を耐え抜く“耐久力”を主体に戦うという発想は、一般的なアタッカー至上主義とは対照的であり、読者に新鮮なプレイ感を提供する。さらに、VRMMOのギルド戦・イベント戦・ボス攻略といったオンラインRPG的要素に、ユーモラスで奇想天外なスキル連携や戦術が絡むため、戦闘だけではなく戦略性と笑いの両立が楽しめる。
また、第4巻ではギルド対抗戦や大規模戦闘が中心となり、メイプルの“無敵系防御力”に対して敵・仲間ともに多様な戦略を繰り出す構図が描かれている。単なる“硬い主人公が殴られないだけ”ではなく、仲間との連携・対戦相手の策・ゲーム世界の奥行きが物語を支えている。
本作は原作小説のみならず、コミカライズ・テレビアニメ化も実現しており、それらメディアの人気と相まってファン層を拡大している。
書籍情報
痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。 4
著者:夕蜜柑 氏
イラスト:狐印 氏
発売日:2018年8月10日
ISBN:9784040726977
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あらすじ・内容
メイプル率いる【楓の木】、最強の聖剣使いとNo1ギルドと激突!?
新たな仲間とスキルを手に入れ、ギルド対抗戦に挑むメイプルのギルド【楓の木】。百人を超える大ギルド【集う聖剣】【炎帝ノ国】も参戦を表明する中、質・量ともに圧倒的な敵とメイプル達はどう戦うのか!?
感想
本書は、ゲームとしての不利条件を、発想と役割分担でひっくり返す痛快さが際立った巻である。第四回イベントという大規模な舞台を使いながら、「数が多い方が強い」という当たり前の前提を、丁寧に崩していく構成が印象に残った。
今回のイベントは、ギルド対抗のバトルロワイヤル形式であり、拠点のオーブを守りつつ、他ギルドのオーブを奪うという競技性の高い内容であった。百人規模の大手ギルドが有利なのは明白であり、実際に「集う聖剣」と「炎帝ノ国」が頭一つ抜けた存在として描かれている。その中に、小規模ギルドである「楓の木」が自然に食い込んでくる流れが、この巻の一番の見どころである。
特に面白かったのは、楓の木が正面から数の差を埋めようとしない点である。メイプルの絶対的な防御力によってオーブを鉄壁に守り、攻撃面は双子の鉄球による投擲で一気に制圧する。この流れが非常にわかりやすく、それでいて爽快であった。中規模ギルドの攻勢が、ほぼ無傷のまま崩れていく様子は、ゲームバランス的にどうなのかと笑いながらも、作品としての魅力を強く感じさせる。
さらに印象的なのは、攻撃の主軸をサリー一人に任せている点である。回避特化という尖ったビルドを活かし、単独で敵ギルドのオーブを奪って得点を重ねていく姿は、派手さよりも「うまさ」が際立っていた。防御役、殲滅役、攪乱役が明確に分かれており、少人数ギルドならではの戦い方がきれいに機能している。
戦闘が中心の巻ではあるが、仲間同士の信頼関係も自然に伝わってくる。誰かが突出しているようでいて、実際には役割が噛み合っているからこそ成立している構図であり、楓の木というギルドの完成度が一段上がった印象を受けた。メイプルの無自覚な規格外さと、それを前提として動く周囲の感覚のズレも、相変わらず楽しい。
総じて本巻は、大規模イベントという舞台を使いながら、「数ではなく戦術で勝つ」面白さを存分に味わわせてくれる一冊であった。強敵がはっきり存在するからこそ、楓の木の異質さが際立ち、読後には不思議な納得感が残る。防御極振りという一点突破の設定が、ここまで広がるのかと感心させられる内容であり、シリーズの勢いをしっかり感じさせる巻である。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
ギルド【楓の木】
メイプル
防御に全振りして上位プレイヤーになった者であり、ギルド【楓の木】の中心である。サリーと行動を合わせる場面が多い。イベントでは防衛と制圧の両面で戦況を動かした存在である。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、ギルドマスター。
・物語内での具体的な行動や成果
第四回イベントで拠点防衛の要として布陣した。
【水晶壁】で侵入経路を止めて迎撃した。
夜戦でサリー救援のために強行介入した。
【捕食者】などの能力を戦闘で使用した。
【集う聖剣】の来襲を返り討ちにして拠点を守った。
最終的にイベントの最終順位で【楓の木】を三位に導いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギルド設置アイテムの報酬を受け取った。
運営の見所編集で映像の多くを占める対象になった。
サリー
メイプルの友人であり、機動力と回避を軸に戦う者である。探索と奪取を担い、戦況整理も担当した。ギルド全体の行動計画を切り替える判断を担った。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、主要メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
単独偵察で資源不足と周囲の配置を把握した。
中規模ギルドを乱戦へ誘導してオーブを奪取した。
【炎帝ノ国】のオーブを強奪して離脱した。
深夜に包囲されても回避と反撃で持ちこたえた。
作り上げた広域マップ情報をカナデへ引き継いだ。
「十位以内」を目的にした最適化へ方針を落とした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
作戦名「プランB」などの判断で行動の主導権を握った。
観戦側で“徘徊ボス”に近い存在として扱われた。
クロム
大盾使いであり、前線維持と防衛の要員である。攻撃組にも防衛組にも参加し、状況に応じて役割が変わった。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、主要メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
攻撃担当として洞窟内の戦闘で前線を支えた。
オーブの搬入と拠点管理を担った。
大規模襲撃時に防衛線の一部を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
運営動画で戦闘面の評価が見直された。
カスミ
刀使いであり、探索と奇襲を担う者である。遠征や対人戦での勝利が明確に描かれた。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、主要メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
攻撃組として連携攻撃で敵を撃破した。
爆撃を使った拠点攻略でオーブを回収した。
【崩剣】シンと交戦し、撃破して撤退した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦闘の代償で装備耐久が大きく減った。
帰還後にイズへ刀の作り直しを依頼した。
カナデ
本を使うタイプのプレイヤーであり、支援と拘束を担う者である。防衛と単独奪取の両方で動いた。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、主要メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
拠点防衛で【影縫い】などの拘束を使った。
【ヒール】で前線維持を支えた。
単独で夜にオーブを奪取して持ち帰った。
イズと二人で拠点防衛を成立させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
サリーのマップ情報を記憶し、運用の中核になった。
イズ
生産職であり、物資と爆弾の供給を担う者である。素材変換と量産で継戦能力を支えた。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、主要メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
偽装用ローブを用意して情報を隠した。
爆弾を量産して拠点攻略と防衛に使った。
【ドーピングシード】を量産して配布した。
カナデと二人で拠点防衛を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
補給設計によりギルドの長期行動を成立させた。
マイ
攻撃に極振りした者であり、ユイと対で動く場面が多い。拠点防衛では火力の要であった。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、主要メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
鉄球投擲で侵入者を撃破した。
イベント中に【飛擊】を取得した。
ドレッド侵入時に時間を稼いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ユイと組んだ「二本目の大槌」の奇策を実戦で出した。
ユイ
攻撃に極振りした者であり、マイと連携して戦う。拠点戦と迎撃戦で成果が描かれた。
・所属組織、地位や役職
ギルド【楓の木】、主要メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
鉄球投擲で侵入者を撃破した。
イベント中に【飛擊】を取得した。
ドレッド侵入時に衝撃波で迎撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
同一武器を使った二連の衝撃波で想定外を作った。
シロップ
メイプルの行動に同行し、移動と防衛で使われた存在である。壁の生成などで戦闘の形を変えた。
・所属組織、地位や役職
メイプルの同行戦力。
・物語内での具体的な行動や成果
【城壁】で遮断壁を作った。
【大自然】で蔓を伸ばし、拘束空間を作った。
空中移動でメイプルの行動範囲を広げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
移動手段として作戦の制約と利点の両方になった。
朧
サリーの行動に同行し、隠密と妨害に使われた存在である。
・所属組織、地位や役職
サリーの同行戦力。
・物語内での具体的な行動や成果
【瞬影】で姿を消す手段として使われた。
【狐火】で追手の足止めを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
夜襲での逃走と強奪の安定に寄与した。
ギルド【集う聖剣】
ペイン
第一回イベント一位であり、大規模ギルドの中心戦力である。【楓の木】との勝負を求めて来襲した。
・所属組織、地位や役職
ギルド【集う聖剣】、上位戦力。
・物語内での具体的な行動や成果
拠点来襲でメイプルを瀕死まで追い込んだ。
メイプルの反撃で捕食されて敗北した。
戦後に次戦の対策方針を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
来襲は合理性より「勝ちたい」という動機で描かれた。
ドレッド
ペインと並ぶ上位戦力であり、遠征隊を率いた。サリーと交戦し、後に拠点へ侵入した。
・所属組織、地位や役職
ギルド【集う聖剣】、上位戦力。
・物語内での具体的な行動や成果
サリーとの一騎打ちで撤退した。
拠点へ侵入し、マイとユイを撃破した。
帰還したメイプルに撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
敗北後に「次は本気で狩りに来る」と言い残した。
フレデリカ
拠点防衛担当として描かれ、支援や防御系の多重展開を使う者である。
・所属組織、地位や役職
ギルド【集う聖剣】、拠点防衛担当。
・物語内での具体的な行動や成果
ドラグと二人で六十人規模の襲撃を迎撃した。
夜戦で包囲側の指揮官として登場した。
拠点来襲で撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
MPが尽きない理由をはぐらかす描写がある。
ドラグ
拠点防衛担当として描かれ、広範囲の地形攻撃で戦線を作る者である。
・所属組織、地位や役職
ギルド【集う聖剣】、拠点防衛担当。
・物語内での具体的な行動や成果
【地割れ】などで襲撃隊の足を止めた。
拠点来襲で【楓の木】側と交戦した。
戦闘の流れで撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
追撃を断念する判断を取る場面がある。
ギルド【炎帝ノ国】
ミィ
上位プレイヤーであり、強い火力で攻撃を担う者である。サリーにオーブを奪われ、対策と撤退を繰り返した。
・所属組織、地位や役職
ギルド【炎帝ノ国】、上位戦力。
・物語内での具体的な行動や成果
攻撃側で敵ギルドを壊滅させた。
サリーにオーブを奪われた。
メイプルの襲撃に対して迎撃に入った。
【火炎牢】でメイプルを削る戦術を取った。
最後に【自壊】で撤退を成立させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
切り札消耗後に撤退を決断し、勢力が離脱した。
マルクス
罠を扱う者であり、防衛の準備と設置で戦場を作る。罠情報の流出も弱点として描かれた。
・所属組織、地位や役職
ギルド【炎帝ノ国】、防衛担当。
・物語内での具体的な行動や成果
設置型の罠で侵入者を削った。
迎撃時に罠構成を見直した。
メイプル襲撃で撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
罠地帯の強さが情報漏れと表裏で描かれた。
ミザリー
支援と攻撃を切り替える者であり、防衛戦で回復と貫通攻撃を使った。
・所属組織、地位や役職
ギルド【炎帝ノ国】、防衛担当。
・物語内での具体的な行動や成果
範囲回復と範囲攻撃を使い分けた。
迎撃で貫通系の攻撃を撃ち込み時間を稼いだ。
メイプルの追撃で撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
マルクスの再設置に付き添い不安を抑える描写がある。
その他
シン
【崩剣】の使い手として登場し、カスミの因縁の相手である。
・所属組織、地位や役職
所属は本文では不明である。
・物語内での具体的な行動や成果
複数の剣を展開する戦法でカスミと交戦した。
戦闘の末にカスミに撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
撃破の代償としてカスミの装備が大きく損耗した。
展開まとめ
プロローグ
ギルド【楓の木】の結成とメンバー集結
防御力に極振りしたことでトッププレイヤーの一角となったメイプルは、友人のサリーと共にギルド【楓の木】を結成した。その後、同じ大盾使いのクロム、刀使いのカスミ、【神界書庫】でランダムにスキルを得られるカナデを誘い、戦力を整えていった。さらに、生産職のイズと攻撃極振りのマイ、ユイを加え、ギルドとしての体制が固まった。
第四回イベントの概要と不利な条件
全員で参加することとなった第四回イベントは、時間加速下で行われ、拠点に設置されたオーブを奪うか守り切ることで得点を競う形式であった。死亡するたびに能力値が低下し、五回死亡するとリタイアとなる厳しいルールが課されており、人数で勝る大規模ギルドに比べて【楓の木】は不利な立場にあった。
上位入賞を目指す決意と出陣
不利な状況であっても上位を狙うため、【楓の木】は事前に作戦を練っていた。メイプルの上位を目指すという言葉に全員が士気を高め、イベント開始とともに光に包まれて転送されていった。視界が白く染まる中、メイプルは拳を握り締め、戦いへの決意を新たにしたのであった。
一章 防御特化と第四回イベント。
洞窟拠点の把握と防衛方針の決定
転送後、メイプルたちの前に現れたのは緑色に輝くオーブと台座であり、洞窟最深部が【楓の木】の拠点であると判明した。周囲は守りやすい地形で、通路は三本のみであった。サリーとカスミが探索した結果、二本は行き止まりであり、残る一本が地上への一本道であることが分かり、防衛に適した構造であると判断された。
攻撃組と防衛組への分担
作戦に基づき、機動力と攻撃力に優れるサリー、カスミ、クロムが攻撃を担当し、拠点防衛にはメイプルを中心にカナデ、イズ、マイ、ユイが残る布陣となった。防衛側はメイプルの存在を隠すため、イズが用意した外見のみを覆うローブを着用し、少人数ギルドを狙う敵を迎撃する方針を取った。
攻撃組による最初の奇襲とギルド壊滅
攻撃組は森で他ギルドの五人組を発見し、サリーの奇襲から連携攻撃に移行した。誘導と待ち伏せにより敵を分断し、カスミとクロムの連携で次々と撃破した。意図的に一人だけ逃がし、その後を追って拠点を突き止め、洞窟内の中規模ギルドと交戦した。
中規模ギルドとの正面戦闘
洞窟内では三十人規模の敵と正面衝突となった。クロムは集中攻撃を受けながらも高い防御力と回復能力で前線を維持し、サリーとカスミが各個撃破を進めた。途中、クロムが麻痺状態に陥るも、装備スキルにより致命的状況を凌ぎ、最終的に敵ギルドを壊滅させオーブを回収した。
拠点防衛での迎撃戦
その頃、【楓の木】の拠点には別のギルドが侵入していたが、マイとユイの極端な攻撃特化による鉄球投擲が圧倒的な威力を発揮した。盾や武器ごと敵を粉砕し、侵入者は為す術なく全滅した。防衛側はほぼ消耗することなく拠点を守り切った。
サリーによる単独偵察と資源状況の把握
戦闘後、サリーは単独でフィールドを偵察し、周囲に複数のギルドが点在していることを確認した。同時に、回復アイテムや素材が乏しく、長期戦ではMP枯渇が深刻になると判断した。これにより、一日目のうちに積極的にオーブを確保する必要性を認識した。
剣ノ舞を用いた準備と中規模ギルドへの奇策
サリーは【剣ノ舞】の効果を最大まで高めるため、意図的に敵を誘導し回避を重ねて準備を整えた。その後、朧と共に中規模ギルドの拠点へ単独侵入し、幻影と高速移動を駆使して防衛を撹乱した。正面戦闘を避けたままオーブを奪取し、包囲を突破して脱出に成功した。
乱戦を利用した二つ目のオーブ奪取
さらにサリーは追手を別の中規模ギルドへ誘導し、両ギルドを衝突させることで大規模な乱戦を引き起こした。その隙に再度潜入し、防衛の薄い方向から奇襲をかけて二つ目のオーブを奪取した。追撃を振り切り、安全な【楓の木】へと帰還した。
一日目の主導権確保
サリーは回収したオーブをクロムに託し、防衛を任せた上で、さらなるギルドを狙う決断を下した。一日目に集中的に行動することで、大規模ギルドとの差を埋める狙いであった。こうして【楓の木】は第四回イベント初日から主導権を握り、戦場を大きく揺るがす存在となったのである。
オーブ搬入と防衛担当の再編
クロムはサリーから受け取ったオーブを拠点へ持ち帰り、メイプルたちの元に置いた。サリーの戦果を称えつつ、防衛担当はカナデ、マイ、ユイ、メイプルの四人に決定した。クロム、カスミ、イズの三人は奥で待機し、危険が生じた場合は凌いだ後に偵察と敵削りに出る方針となった。
水晶壁を軸にした迎撃準備
メイプルは攻撃参加を控え、相手の侵攻妨害に徹するため【水晶壁】を使える大盾へ装備を変更した。マイとユイは大槌を一本に絞り、切り札を温存する構えを取った。拠点側はメイプルの妨害とマイ、ユイの火力を主軸に、侵入者を短時間で叩き潰す形を固めた。
中規模ギルドの雪崩れ込みと迎撃
十五分後、青色装備の中規模ギルドが殺気立ったまま雪崩れ込み、魔法部隊の面攻撃で一気に制圧を狙った。しかし爆炎の後に現れたのは無傷の四人であり、天使の翼が光るプレイヤーの姿も見えた。敵は大盾持ちが防いだと判断して接近し、二人の大槌使いを後回しにして突破を試みた。
水晶壁と大槌の連携での殲滅
メイプルが【水晶壁】で進路を遮断すると、よろめいた侵入者にマイとユイの【ダブルスタンプ】が叩き込まれ、次々に撃破が進んだ。通常なら耐えられるはずの二連撃が一撃死へ変わったことで、敵は状況を誤認しつつも人数の優位を頼みに回り込みを決断した。
カバームーブによる範囲移動と影縫いの拘束
敵が翼持ちの排除を命じたのに対し、拠点側は大槌の二人を前進させ、メイプルが【カバームーブ】を連続使用して効果範囲を一気に後衛へ到達させた。危険を察した敵が退避を叫ぶ中、最奥にいた本棚を浮かべるプレイヤーが【影縫い】を発動し、敵全員を三秒間拘束した。拘束中に大槌が後衛を粉砕し、拘束が解けた時点で後衛は壊滅し、指揮官も倒され、前衛は退路を失った。敵はオーブ奪還を断念し、他ギルド襲撃へ切り替える判断に至った。
観戦用の町と【楓の木】への評価の揺れ
戦闘と同じ時間加速下で観戦できる町では、モニターで状況が確認でき、途中退出やリタイア者の受け入れも行われていた。観戦者の多くは大規模ギルドの勝利を予想し、【集う聖剣】や【炎帝ノ国】が優勢と語っていたが、【楓の木】の映像が流れるたびに意見は揺らぎ、異質さにざわつきが広がった。
サリーの小規模ギルド奇襲と次の探索方針
一方のサリーは崖下の小規模ギルドを発見し、朧の【瞬影】で姿を消して茂みに潜み、警戒が分散していることを確認した。上方監視役をあえて叫ばせてから倒し、注意が上に向いた四人を地上から斬り伏せてオーブを奪取した。オーブ所持で位置が露見する危険を踏まえつつ、さらなる探索を優先し、大規模ギルドの位置把握も含め未探索方向へ走り出した。
拠点防衛の成果と情報秘匿
防衛側は【身捧ぐ慈愛】以外の重要スキルを見せず、同スキルが防御貫通に弱いという情報も与えないまま迎撃を完遂した。疲労したマイとユイは休息に入り、カナデは再挑戦が起きにくいと見立て、メイプルも奇襲の難しさを踏まえて休憩を選択した。
偵察部隊狩りとドーピングシードの運用
クロム、カスミ、イズの三人は予定通り偵察部隊を屠っていた。イズは装備スキル【新境地】で作成できる【ドーピングシード】を大量生産しており、ステータスを一つ上げる代わりに別のステータスが下がる効果を利用してメンバーに配布していた。イズは【天邪鬼な錬金術】でゴールドを素材へ変換し、シードの素材を確保して量産を成立させた。カスミが【遠見】で標的を探し当てると、三人は先回りして集団を討伐し、戦況の主導権を維持する動きへ移った。
二章 防御特化と敵二人。
【集う聖剣】拠点の防衛担当と規模差
カスミたちが偵察部隊を屠っている頃、【楓の木】から遠く離れた【集う聖剣】拠点ではフレデリカとドラグが防衛を担当していた。【集う聖剣】は第一回イベント一位のペインと二位のドレッドが立ち上げた大規模ギルドであり、拠点の人数とレベルは【楓の木】と比較にならない規模であった。
地形不利を力で覆う迎撃態勢
【集う聖剣】のオーブは平地に囲まれた岩場にあり、侵入経路が多く、天井もないため奇襲も起こり得る配置であった。退屈を持て余していた二人の元へ、六十人規模の敵襲が報告されると、フレデリカとドラグは防衛部隊を下がらせ、二人で迎撃する判断を下した。
ドラグの広範囲制圧とフレデリカの多重詠唱
ドラグは【地割れ】で前方二十メートルに亀裂を無数に生み、敵の足を止めた。フレデリカは【多重詠唱】で【多重炎弾】を放ち、足を取られた敵を次々撃ち抜いた。ドラグは【重突進】で踏み込み、【バーンアックス】で高火力を叩き込み続けたが、飛来する攻撃はフレデリカの【多重障壁】【多重水壁】によって威力を削がれ、ドラグの強引な戦い方が成立した。
押し切りと撤退、そして二人の余裕
ドラグは【グランドランス】で岩槍を突き上げ、さらに【ノックバック付与】により防御した相手も吹き飛ばして戦線を崩した。敵は逃走を試み、残り十人程度まで減った段階でようやく全力で離脱したが、ドラグは足の差を理解して追撃を断念した。二人は勝ち切った後、フレデリカのMPが尽きない理由をはぐらかしつつ、【楓の木】ともいずれ戦いたいと語った。
ドレッドの遠征とサリーとの遭遇
ペインとドレッドは効率化のため別々に攻撃へ出ており、ドレッドは三十人を率いてオーブ二つの確保に成功していた。次の標的へ向かう途中、ドレッドは静かに佇むローブのプレイヤーを見つけ、直感で危険を察して部下を帰還させた。ローブの人物はサリーであり、ドレッドはここで潰す必要があると判断して二本の短剣を抜いた。
回避同士の拮抗とドレッドの勘
戦闘はスキルを乱用せず、互いの攻撃を捌き合う形で進んだ。ドレッドの方が速度で勝り攻撃回数を稼いだが、決定打には至らなかった。ドレッドが【超加速】で踏み込んだ際、勘だけを理由に急停止して飛び退き、サリーは別種の回避技術を目の当たりにした。
【神速】と偽装された【流水】
ドレッドは二つ名にも関わる【神速】を発動し、十秒間姿を消した。サリーは音と風の流れで位置を探り、あえて隙を作って攻撃を誘導し、存在しないスキル名【流水】を叫んで短剣を弾き返した。サリーが距離を取ると、ドレッドは追撃せず撤退し、サリーはフレデリカとドレッドが同じギルドだと確信しつつ、勘で避ける技術の練習材料を得たと整理した。
ドレッド側の違和感と対策の芽
ドレッドはサリーの回避能力と感覚を評価し、ペインとメイプルに並ぶ危険度を想定した上で、自分が生き残った理由に疑問を抱いた。思考を放り投げた後、ペインに提案して自分たちのペースで倒しに行く構想を抱き、敵を狩る者の目つきへ変わった。
サリーの追加戦果と帰還判断
サリーはドレッド遭遇の前後でさらにオーブを掠め取り、小規模ギルドも潰してオーブ三つを保持する状態になった。時間経過とともに戦闘は激化し、夜になれば視界が悪化して襲撃はさらに苛烈になると見越したサリーは、得点加算のタイミングも意識しつつ帰還を選んだ。
【楓の木】防衛の継続とマイ・ユイの新スキル取得
拠点では侵入者が三人現れ、マイとユイが鉄球投擲で撃破した。二人は【投擲】で一定回数とどめを刺したことで【飛擊】を取得し、離れた敵へ衝撃波を飛ばせるようになったが、切り札として実戦投入は控え、奥で試すだけに留めた。カナデは【影縫い】の消費に絞り、メイプルは【身捧ぐ慈愛】を中心に夜へ備え、疲労したマイとユイには休息が指示された。
カスミとイズの爆撃攻略と堅実な回収
クロムの報告により、カスミとイズは洞窟拠点の小規模ギルドを攻略中であった。イズはゴールドを素材に変換し、大型爆弾をどこでも作れる強みを活かして量産し、カスミが入口の坂へ転がして爆撃を続けた。悲鳴が止んだ後、カスミが先頭で突入し、辛うじて生き残った敵を【一ノ太刀・陽炎】で斬り伏せた。サリーだけがこの攻撃を躱して反撃に繋げたことを思い返しつつ、カスミはオーブを回収し、復活される前に拠点へ戻る堅実な行動を選んだ。
勢力図の推移と【炎帝ノ国】の布陣
イベント序盤の上位争いは、大規模ギルドと特異な小規模ギルド一つが主導し、大規模勢では【集う聖剣】と【炎帝ノ国】が一歩抜け出していた。追走する形で【楓の木】が続いていた。【炎帝ノ国】は木の点在する草原地帯でオーブを防衛しており、防衛担当は八位の【トラッパー】マルクスと十位の【聖女】ミザリーであった。
マルクスの罠とミザリーの万能支援
ミザリーは範囲回復の専門家でありつつ範囲攻撃も得意で、状況に応じて治療と破壊を切り替えられる存在であった。マルクスは味方以外が侵入すると発動する設置型魔法を扱い、煙幕や火柱など多種の罠を戦場に仕込めた。ただし事前設置が必須のため攻勢には不向きで、防衛に回っていた。罠の情報は人づてに漏れ、ギルド規模が大きいがゆえの情報流出という弱点も示された。
罠地帯の機能と“勘”に支えられた配置
マルクスは不安を口にしながらも、彼の罠は実戦で猛威を振るった。罠は発動まで見えず、発動時点では回避が困難で、さらに設置数と位置取りが巧みであったため侵入者は次々に削られた。火柱や爆音が発生すれば侵入方向も把握でき、防衛側は対応しやすくなる。配置は一見すると適当にも見えたが、侵入者が面白いほど踏み抜くため、ギルドメンバーはその理屈を掴めず、結局は上位陣特有の“感性”と“勘”が支えているのだと整理された。
ローブの侵入者と罠の突破
襲撃者が減り始めて安堵した矢先、ミザリーは連続する火柱と爆炎を確認し、現場へ向かった。そこにはローブ姿の人物が一人いるだけであり、その人物は罠を踏んだ直後、まるで位置を把握していたかのように俊敏に回避していた。ローブの人物は「恐怖センサー」をより正確にしたいと呟き、そのまま離脱した。ミザリーは常軌を逸した存在だと評し、マルクスの再設置に付き添って不安を抑えた。
ミィの蹂躙と燃費の悪さ
攻撃に出ていた四位【炎帝】ミィは、杖を武器に先頭へ立ち、敵に退路を示しつつも容赦なく押し潰した。ミィは【炎帝】の発動で炎球を操り、【噴火】や【爆炎】など派手な高火力で敵を焼き尽くした。圧倒的火力は萎縮を生む一方、消費が激しいため、後方には大量のMPポーションを運ぶ補給部隊が随伴していた。
サリーの奇襲とオーブ強奪
ミィがギルドを滅ぼし、オーブ回収を指示して達成感に浸った瞬間、隠れて観察していたサリーが動いた。回収役のプレイヤーは即座に倒され、サリーはオーブを奪って離脱した。ミィは相手の危険度を直感で把握し、既に確保済みのオーブを持って部隊を撤退させ、自身は【フレアアクセル】で追撃したが姿を見失った。帰還後、ミィはオーブを一つ奪ったが一つ奪われた事実を報告し、再出撃の準備を命じつつ、内心ではサリーへの警戒を強めた。
観戦エリアの噂と“徘徊ボス”像
観戦エリアでは、臨時ギルドの参加者やリタイア組が強者に倒された体験談を語り合っていた。ペインの隙のなさや、サリーが木の上から降りて首を狩ったという話が共有され、サリーは“徘徊ボス”に準じる存在として認識されていった。
サリー帰還と【楓の木】のオーブ増加
サリーは危険を見て【楓の木】へ帰還し、オーブ四つを持ち込んだ。合流したメンバーの戦果を合わせると奪取は計八個に達していたが、三時間経過で元の台座に戻った分もあり、手元に残るオーブと自軍オーブの防衛が引き続き重要となった。サリーは小規模ギルドから奪った分が奪還に来る可能性を告げ、カナデはその異常な手腕に改めて言葉を失った。
即席同盟五十人の突入と“八人戦闘”の開始
クロムが気配を察した直後、複数の小規模ギルドが即席同盟を組んだ五十人規模の連合軍が突入した。六個のオーブと八人の防衛戦力を前に、連合軍は物量差と強欲で突撃し、【楓の木】は初めて八人全員が戦闘に関わる形で迎撃を開始した。
【身捧ぐ慈愛】を軸にした前進と前衛の粉砕
メイプルは【身捧ぐ慈愛】で自傷しつつ防衛線を維持し、減ったHPはカナデが即座に【ヒール】で戻し、隙を作らなかった。正面衝突の中、マイとユイは【ダブルスタンプ】で轟音と共に敵を弾け飛ばし、サリーとカスミは逃れた相手を狩り取った。
裏抜け狙いへの封殺とカナデの拘束
連合軍の一部は前衛を避けてオーブへ走るが、そこへイズの爆弾が降り注ぎ、突破者はカナデの低威力高確率麻痺【パラライズレーザー】で動きを止められた。麻痺した敵はサリーに仕留められ、連合軍は連携の粗さも相まって急速に崩壊し、心が折れた者から敗走に入った。
防御貫通への一矢と【ピアースガード】
なおも一矢報いようとした者は【跳躍】で前線を抜け、天使の羽を持つ支援役へ【ディフェンスブレイク】を叩き込もうとした。だがメイプルは【ピアースガード】で防御貫通の要素を奪い、渾身の一撃を無慈悲に弾いた。最期に襲撃者が見たのはフードの下の顔がメイプルだと判別できた瞬間であり、直後に大槌で打ち据えられて終わった。
完全敗北と夜の到来
連合軍は誰一人としてオーブに触れられず、完全敗北に終わった。ただし彼らは史上初の【楓の木】“八人戦闘”を体験したという点では、奇妙な意味で幸運でもあった。そうして空は闇に包まれ、夜襲と暗殺が本格化する初めての夜が訪れた。
三章 防御特化と夜。
夜の開始とサリーの獲物狩り
夜が訪れると暗殺と奇襲が本格化し、サリーは防衛を早めに抜けてフィールドを走り回った。三時間の防衛を成功させた【楓の木】はポイントを増やし、サリーはその間にオーブ二つを奪い、倒した相手は数え切れないほどに積み上げた。サリーは地形や修理アイテムの位置、ギルド規模、見張りルートや待ち伏せ地点まで書き込んだ膨大なマップ情報を武器にし、倒しやすいギルドが残る一日目のうちに先行逃げ切りを狙って動き続けた。
マイとユイの自分達なりの戦法模索
拠点ではマイとユイが、自分達は通常攻撃を避けづらいという弱点を確認しつつ、サリーの短剣動作なら比較的読みやすいと整理した。フルメンバー戦で全員が個性を発揮する姿を見たことで、二人も長所を最大限に使える戦法を考え始め、突飛だが二人なら成立する作戦を共有して笑い合い、細部の詰めに入った。
カナデの単独行動と中規模ギルドからの奪取
カナデはサリーの負担を減らすため偵察兼オーブ奪取に出た。記憶していた情報を頼りに夜闇に光るオーブを発見し、【魔導書庫】で魔導書を選定したうえで【巨人の腕】を使用し、離れた位置からオーブを掴み取った。さらに【フレアアクセル】で加速して追手を振り切り、【楓の木】へ持ち帰って戦力支援を果たした。
サリーの夜襲と“逃げ続ける”前提の強奪連鎖
サリーは朧と共に小規模ギルドへ忍び寄り、見張り人数や松明の明るさを見切って戦闘を避ける方針を取った。疲労を自覚しつつも【超加速】で一直線にオーブへ到達し、邪魔を切り捨て妨害を差し込みながら奪取して即離脱した。インベントリに複数のオーブを抱える以上、常に追手が来る前提で止まれず、朧の【狐火】で足止めしつつ暗闇へ紛れて位置を切り、必要なら別ギルドへ突っ込んで混乱を作るという逃走術を磨いていった。
メイプルの防衛術【水晶壁】と前線の圧殺
拠点防衛ではメイプルが【水晶壁】を活用し、突然の障害物で侵入者を止めて撃破する型を確立した。さらに【身捧ぐ慈愛】で前衛を“死なない”状態に押し上げ、マイとユイやクロムが被弾し続けても前線が崩れない構造を作った。回避をほぼ捨てて攻撃に時間を振り切れる【楓の木】に対し、侵入側は攻撃を避ける必要があり、攻撃時間の差が殲滅力の差として現れ、侵入者は順当に敗北した。
深夜の交代とサリーの孤立
零時を前に交代制で休む判断が下り、疲労がピークのマイとユイが先に休む段取りとなった。サリー、イズ、カスミは外出中でローテに組み込めず、人数が減る深夜帯の防衛が課題として残った。その一方で深夜一時、サリーは一度も帰還せず奪取を続け、インベントリには十個のオーブが溜まっていた。しかし索敵能力の低下で気づかぬうちに大規模な包囲に捕まり、百を超える潜伏から居場所が割れていることを悟った。奪ったオーブのどれかが大規模ギルドと繋がっていたと推測しても、特定できず捨てて逃げる判断は取れなかった。
【集う聖剣】包囲戦とサリーの限界突破
空に小さな太陽が浮かぶような照明魔法で逃走が封じられ、包囲側の指揮官の声から相手がフレデリカ率いる【集う聖剣】だと判明した。サリーはドーピングシードを飲み、殺気をまとって対峙した。サリーは【攻撃誘導】で相手の動きを変調させ、迷いと焦りを誘発しながら回避とカウンターを重ねた。恐怖センサーすら実用域で機能し、剣が遅く見えるほどの覚醒状態に入ったことで、攻撃は当たり、相手の攻撃は外れ続けた。さらに【背負い投げ】で魔法攻撃を“投げた相手”に遮らせ、自身へ届かせないなど、予想外の連鎖で戦場の主導権を握った。
崩れ落ちる膝とメイプルの強行救援
消耗の限界は突然訪れ、サリーの足は止まり膝から崩れ落ち、警戒されつつ隙間なく包囲された。サリーが「次は負けない」と呟いた直後、降ってきた流星のような爆炎が戦場を割り、立ち上がったのは白い翼を持つ黒鎧の少女メイプルであった。メイプルはシロップに【城壁】を命じ、天高く伸びる壁でフレデリカ達との間を遮断した。
自爆ロケット脱出と上空殲滅【毒竜】
メイプルはサリーを掴ませると【砲身展開】で壁内を兵器で埋め、砲口を下に向けて自爆同然に噴射し、二人をロケットのように上空へ打ち上げた。最高点へ至る間に【全武装展開】と【攻撃開始】を連続し、レーザーの雨で地面を穿ち、さらに【毒竜】で毒の海を作り出した。対メイプル装備ではない【集う聖剣】側は【毒無効】が乏しく、結果としてサリーが倒した数を遥かに上回る規模で送還者が発生した。生き残ったフレデリカは惨状の中でドレッドへ望みを託し、起死回生を狙う決意を固めた。
マイとユイ対ドレッドと“二人だけの隠し玉”
拠点ではメイプル不在の隙を突き、ドレッドが侵入した。マイとユイは【ドーピングシード】でSTRを上げ、ユイは【飛翔一撃】の衝撃波で迎撃するが、ドレッドは回避しながら距離を詰めた。マイが短剣の動作を身体で覚えていたため一撃目を偶然回避するも、追いつかれた局面でマイは捨て身で大槌を投げつけた。これは外す前提の囮であり、ドレッドが驚いた瞬間に、ユイが“二本目の大槌”として同じ武器を手に戻したことで、想定外の二回目の衝撃波が成立し、ドレッドを壁へ叩きつけた。二人は初めて自分達の力で一皮むけたが、なお積み上げの差は埋まらず、ドレッドのHPが1残った状態でマイが斬られ、続いてユイも倒された。
時間稼ぎの勝利と“勝負の敗北”
ドレッドは勝ったと判断してオーブへ向かうが、その瞬間に爆炎と共にサリーを抱えたメイプルが帰還した。マイとユイが稼いだ数分は値千金であり、ドレッドは試合には勝っても、結果として勝負には負けた形となった。
四章 防御特化と解放。
能力解禁の相談と初公開【捕食者】
メイプルは拠点へ戻る途中でサリーと「二日目にかけて能力を一つ解禁する」方針を決め、消費が少なく使い勝手の良いスキルを選んだ。拠点へ現れたドレッドに対し、メイプルは即座に【捕食者】を発動し、地面から二匹の醜悪な化物を出現させた。さらにシロップの【大自然】で蔓を伸ばし、内部空間を圧縮しながらドレッドを閉じ込め、逃走を封じたうえで撃破した。ドレッドは敗北を認めつつも「次は本気で狩りに来る」と獰猛に言い残し、策を匂わせて光となった。
帰還後の謝罪とオーブ十個の搬入
隔離を解除したメイプルはサリーの元へ戻り、無茶をしたことを叱って頬を引っ張った。復活したマイとユイへ二人は謝罪したが、マイとユイは強敵相手にオーブを守り切れたことを誇り、役に立てた点を喜んでいた。サリーはインベントリから十個のオーブを出し、戦果の大きさを示した。
サリーのマップ継承と「プランB」発動
サリーはカナデを呼び、十二時間走り続けて作り上げた広大なマップ情報を提示した。ギルド位置や規模、各種要素が詰まった情報を、サリーは限界のためカナデに書き写しを依頼し、カナデは即座に記憶して対応した。ここでサリーは「プランB」を宣言し、防衛の枷を外してメイプルを外へ放つ方針へ切り替えた。メイプルは移動手段が兵器破壊による打ち上げであるため、距離次第では一日に二往復が限度と見積もり、遠方から順に回収して帰還する段取りを整えた。
二日目の朝、メイプル解放の侵略開始
翌朝、夜襲が減って安堵していた中規模ギルドに「敵は一人」と警告が走り、漆黒装備のメイプルが真正面から歩いて現れた。メイプルは【捕食者】を使い、純粋な暴力で前衛を食い散らかしながら前進し、ギルドを正面から叩き潰してオーブを奪っていった。サリーのマップで探索が不要になり、メイプルは最短距離で標的へ到達できたうえ、正面制圧ゆえ追手もほとんど発生しなかった。
拠点側の停滞とカスミの単独狩り
拠点ではサリーが眠り続け、オーブも自軍分しかないため取り返しの襲撃が起きにくく、待機時間が増えた。クロムの提案でカスミが外へ出て競争相手を減らす役を担い、森で背後奇襲を繰り返してプレイヤーを削った。これは一日目にイズと連携して近場のデス数を増やしていた延長であり、【楓の木】襲撃者の減少にも効いていた。
カスミ対【崩剣】シン、装備破壊の代償勝利
カスミは森を抜けた先で、第一回イベントで因縁のある【崩剣】シンと遭遇した。シンは盾と片手剣を基盤に、剣を崩して宙に複数展開する戦法で射程と手数を押し付け、カスミは受け流しとHPの厚みで耐えながら接近機会を狙った。カスミは【一ノ太刀・陽炎】や連撃で押し込み、【七ノ太刀・破砕】で盾の耐久を削る方針へ転じたが、シンは二度目の【崩剣】で剣を二十本に増やし面攻撃へ拡張した。追い詰められたカスミは【始マリノ太刀・虛】を発動し、姿を消して背後から貫く形でシンを撃破したものの、代償として装備耐久が大幅に削れ、装飾以外が崩壊して刀も失った。カスミは予備武器で撤退し、帰還後にイズへ刀の作り直しを依頼して立ち直った。
メイプルの目立つ空中移動と正面制圧の合理性
メイプルは歩行を嫌ってシロップに乗り空を飛び、【アシッドレイン】で削ってから【捕食者】で刈り取り、オーブを回収していった。毒や正面破壊でギルドを潰すため、サリーのように追跡戦が起きにくく、予定より早いペースでオーブが集まった。
争奪戦場への落下介入と「分からないなら全滅」
メイプルは複数ギルドが争う戦場に、次に狙うオーブがあると知ると躊躇なく中心へ飛び降りた。即座に【毒竜】を放ち、毒の噴水と毒地形で近寄れない状況を作ったが、オーブは既に誰かに持ち去られていた。メイプルはシロップの【大自然】で蔓の牢獄を展開し、サリーのメモ「上手く取れない時は全滅させよう」に従って、誰が持っているか不明なら全員を倒す方針を取った。足の遅さで捕まえきれないと判断すると、自分を蔓の球体に閉じ込めて上空に吊り、【砲身展開】から【攻撃開始】で毒地形とレーザーを重ね、回避不能の圧力で残党を削り切った。最終的に毒に浸かったオーブを回収し、二日目昼前のうちにさらに戦果を積み増した。
観戦側の恐怖拡散と危険度の急上昇
拠点は暇を持て余す一方で、観戦エリアでは「毒以外も使える」「砲撃や翼」「両脇の醜悪な化物」などが話題となり、メイプルの危険度が倍増したと認識されていった。さらに、天使のような翼は範囲内の攻撃を肩代わりするような挙動ではないかという推測も流れ、対峙そのものが悪夢扱いされ始めた。メイプルだけでなくマイとユイの大槌の異常火力も話題となり、「一般人が近づけない」「ランカーと化物の領域」という空気が強まっていった。
五章 防御特化と出撃準備。
サリーの覚醒と次の動きの再設計
二日目の昼過ぎ、【楓の木】の奥でサリーが目を覚まし、マップでメイプルの帰還ルートを確認した。防衛が無事であることに安堵しつつも、まだ本調子ではなく、昼間の外出は奇襲失敗のリスクが高いと判断して夜行動を視野に入れた。拠点ではカスミが新しい刀に夢中で、【崩剣】シン撃破の戦果も共有され、終盤ほど強者同士の潰し合いで荒れる見通しが語られた。
メイプル帰還とオーブ九個の追加
メイプルが拠点へ戻り、オーブ九個を持ち帰った。サリーは自分の戦果に近い量を平然と運んでくるメイプルに呆れつつ、マップが役立ったことを認めた。メイプルはスキル回数の枯渇と、万一の総襲撃に備えてしばらく拠点に残る判断を取った。戦場は各地で争いが継続し、強者の暴れによって激戦の連鎖が途切れていない状況と分析された。
マイ・ユイの再評価と「三人出撃」への転換
防衛は地形とマイ・ユイの火力が噛み合い安定していたが、二人は鈍足で外での活躍が難しいという課題があった。サリーは「外で活躍させる」案を持ち込み、メイプルが単独で動く負担を減らすため、マイ・ユイを随伴させる出撃計画へ切り替えた。メイプルは疲労が溜まりにくい移動形態である点もあり、三時間後に「最強の矛を二つ」携えて再出撃した。継続火力不足のメイプルと耐久に難のあるマイ・ユイが互いを補完し、歪な能力値が合体して凶悪さが増す構図が成立した。
上位候補の絞り込みと【炎帝ノ国】の警戒強化
二日目昼以降、首位争いに残るギルドは絞られ、【楓の木】、【炎帝ノ国】、【集う聖剣】が頭一つ抜けた存在として認識された。【炎帝ノ国】では【トラッパー】マルクスが罠構成を見直し、【聖女】ミザリーも含めてメイプルとの相性の悪さを共有していたところへ、「亀が飛んでくる」という報告が入り、ミィを呼び戻しつつ迎撃準備に入った。
迎撃開始、罠と貫通での時間稼ぎ
飛行から姿を消したメイプルたちは地上に降下し、純白の翼と異形の従者を持つメイプル、二本大槌のマイとユイという異常な三人が姿を現した。マルクスは勝利を狙わず、耐えて時間を稼ぐ方針を徹底し、拘束系の植物罠でメイプルを止める策を当てたつもりだったが、マイとユイが拘束植物を一撃で粉砕し、罠の主旨が崩れた。ミザリーは指揮下で貫通魔法を撃ち込み、回避によるロスを強制して時間を稼いだ。
メイプルの偽装解除と局面打開
メイプルはサリーの助言に従い、【機械神】の正体を隠すための偽装として【武器成長】と【刀剣展開】を用い、短刀側の腕を巨大な剣へ変形させて拘束を切り裂いた。罠と貫通の組み合わせで進軍は遅れたものの、三人の前進自体は止まらず、マルクスは他のプレイヤーを撤退させ、ミザリーと二人で最終防衛線を形成した。
硬直から【毒竜】で崩壊、ミィの介入で逆転の芽
メイプルは【瞑想】で回復し、マイ・ユイが遠距離の【飛撃】で牽制する硬直状態に入ったが、回復が終わるとメイプルは【毒竜】で一気に盤面を奪い、マルクスの逃げ場を消した。ミザリーは【リザレクト】でマルクスを蘇生し、マルクスも遠隔設置の罠で妨害を続けたが、貫通とノックバックが絡むと防衛側が先に崩れる流れが濃くなった。そこへ炎を纏うミィが到着し、【炎帝】と【爆炎】でノックバックを発生させ、メイプルの位置をずらして無敵圏を動かし、マイ・ユイを地雷原から引かせる効果を生んだ。メイプルはマイ・ユイをシロップで上空退避させ、単独でミィらと対峙する形になった。
【火炎牢】での強制削りと「枷」破壊【完全武装展開】
ミィは切り札の【火炎牢】を発動し、防御無視の定期ダメージでメイプルを炎の檻に封じ、MPポーションを大量消費しながら維持して削り切りを狙った。これにより三人は、メイプルに「今のままでは勝てない」と判断させることに成功し、メイプルはついに【完全武装展開】で兵器を全身に纏い、攻勢に転じた。レーザーと銃撃の【攻撃開始】で距離支配が成立し、ミィ側は「見られただけでも収穫」と撤退を決めるに至った。
撤退阻止の追撃、三人連続撃破とミィの自爆
撤退行動中、メイプルは壊れた兵器の勢いを使って急接近し、剣化した腕の【刀剣展開】でミザリーを瞬殺し、続いてマルクスも背後から貫いて撃破した。MP枯渇寸前のミィは最後の手段として【自壊】を発動し、道連れでメイプルを焼き払ったが、メイプルはVITが五桁級に達しており耐え切った。結果として【炎帝ノ国】の迎撃隊は壊滅し、メイプルは戦場制圧を継続した。
オーブ不在の奇策と「とばっちり」六連戦
メイプルたちが【炎帝ノ国】拠点へ向かうと、オーブもプレイヤーも消えていた。ミィは「オーブを持って逃げる」策でメイプルの行動を空振りさせつつ、拠点周辺の危険プレイヤー処理をメイプルに押し付ける狙いを取っていた。ユイの提案でメイプルは周辺の多数ギルドを正面突破しながら、逃げたオーブ保持者の痕跡を探す方針に切り替え、結果として近隣ギルドを六つ巻き込み、道場破りのように蹂躙して回った。【炎帝ノ国】はオーブごと退避に成功したものの、得点機会を失い、後に強力ギルドの全力襲撃を招く危険を背負うことになった。こうして二日目夜へ向け、状況は再び大きく動き始めた。
六章防御特化と布陣変更。
順位確認と「十位以内」への現実的最適化
二日目夜、【楓の木】は全員が拠点に揃い、【炎帝ノ国】のオーブ逃走が痛手だと整理した。メイプルの襲撃で罠は壊滅したものの、オーブを抱えて逃げられると追撃が無駄足になりやすい。目的は十位以内であり、報酬差がない以上、無理に一位を狙うより「上位に残るための効率」を優先した。現状【楓の木】は六位で、大規模ギルドに挟まれた“小規模の異物”として逆に目立つ立場になっていた。
夜戦の布陣変更と二チーム運用
話し合いの結果、イズとカナデを拠点防衛に固定し、残りは夜の戦場へ出た。編成はサリー・マイ・ユイ組と、メイプル・カスミ・クロム組に分割した。狙いは、クロム側で安定してポイントを拾いつつ、サリー側でマイ・ユイの奇襲火力が「通る相手がまだ残っているか」を検証することだった。観戦側ではギルドの全滅が急増し、展開速度が予想以上に加速していることが話題になった。
サリー組の奇襲は“囮と処刑”の分業で成立
サリーは回避能力の復調を確認して前線復帰し、茂みから飛び出してオーブへ突進した。敵が連携して囲みに来るところを、サリーが注意を独占しつつ斬りつけ、視線と判断を固定させた瞬間、マイとユイの鉄球と大槌が背後から叩き込まれた。さらにサリーは【影分身】で混乱を上塗りし、敵がマイ・ユイに向けば背後から狩り、サリーに向けばマイ・ユイが潰すという悪い冗談みたいな制圧構造を作った。結果、三人は被弾ゼロのままオーブを奪い、次の目的地へ移動した。
拠点防衛はカナデとイズだけで“過剰火力”
一方の拠点では、暇を見て遠征してきたギルドが「前衛なしの生産職と後衛だけ」と誤認して突入した。イズの爆弾投擲に、カナデが【神界書庫】由来の幻で時間を稼ぎ、発動時間のかかる【破壊砲】を間に合わせて正面を焼き払った。さらにイズの【新境地】産アイテムでカナデのMP回復を加速させ、魔法陣展開で心理的圧力をかけて撤退させた。深追いしないのは温情ではなく、資源管理と次の大物に備えるためである。
メイプル組の空襲は“オーブ不足”で空振り
メイプル・カスミ・クロムはシロップで高高度を移動し、小規模ギルドを一つ潰してオーブを確保したが、その後は「オーブのない拠点」が続いた。ギルド総数が減り、オーブが場に残りにくくなったため、鈍足組には致命的に効率が落ちた。成果のない移動で消耗が進み、サリーから「戻れ」の連絡が入る。
連続襲撃の理由と“第二段階”への移行
帰還直後、拠点が襲撃されていた形跡があり、逃げた敵が入口でメイプル組と鉢合わせて即死した。防衛のイズとカナデは消耗が激しく、オーブ回収も両チームとも伸びなかった。原因は展開速度の想定外の速さで、中規模以下が次々リタイアし、オーブそのものが枯れ始めたこと、そして【楓の木】を知らない遠方ギルドが“カモ狙い”で突っ込んでくることだった。足の遅いマイ・ユイ・メイプルでは、強さがあっても「オーブに触れない」問題が露骨になり、サリーは予定を前倒しして次段階へ移ると決めた。
【集う聖剣】来襲は“勝ちたい”という厄介な動機
次の段階とは【集う聖剣】待ちであった。丑三つ時が迫るころ、十五人が来訪し、その中に最高戦力のペイン、ドレッド、フレデリカ、ドラグの四人が揃っていた。ポイント差から見れば合理性は薄いが、彼らは【楓の木】との勝負を欲していた。しかも偵察で【身捧ぐ慈愛】の弱点、武装展開、【悪食】の回数制限まで把握し、メイプルが最も消耗している時間帯を狙って踏み込んできた。
弱点突きの突撃、ペインの一撃でメイプルが瀕死
開戦直後、フレデリカの支援で前衛が加速し、ドラグの【土波】とノックバックで【身捧ぐ慈愛】圏外へマイ・ユイを押し出す流れが作られた。サリーはペインの進軍を止めようとするが、レベル差と盾捌きで振り切られ、ペインは大盾の死角から【断罪ノ聖剣】を叩き込んだ。大盾は両断され、鎧ごと抉られ、メイプルのHPは1まで削られた。これで【楓の木】側に動揺が走り、ドラグの一撃がクロムにも刺さって【不屈の守護者】頼みの瀕死に追い込まれる。
後衛突破と“見えない砲口”の逆転【カウンター】
ペインは黒煙で距離を詰め、カナデの【黒煙】阻害やイズの爆弾を剣で薙ぎ払いながら後衛を切り捨て、メイプルへ最後の一撃【壊壁ノ聖剣】を狙った。しかし、その瞬間、大盾の陰に隠されていた左手の砲口が露わになり、メイプルが【カウンター】を発動する。受けた最大威力がそのまま返され、光の奔流がペインを焼却した。ペインもHP1で踏みとどまるが、メイプルは【暴虐】へ変形し、手数とリーチで押し潰して捕食した。
最高戦力の連鎖崩壊と完全殲滅
【暴虐】の異常さにドレッドとドラグも対応できず、炎ブレスと拘束で飲み込まれていく。撤退を試みた後衛も出口を塞がれ、フレデリカは反射的に【多重障壁】で防ごうとしてマイ・ユイの【フライングストライク】に粉砕されて散った。勝敗を分けたのは【暴虐】の情報有無であり、知らなければペインの最後の一撃でメイプルが落ち、前線が崩れていた可能性が高かった。戦後、サリーがオーブを回収し、メイプルは消耗リソースを確認した。
第二段階の開始
サリーは宣言する。「第二段階だよ」。丑三つ時、闇に紛れた化物が、七人の“化物”を背に乗せて次の狩りへ向かい始めた。
七章 防御特化と夜の闇。
夜襲の舞台と“化物”の登場
深夜の森や平原では、大規模ギルドが灯りを点けて防衛していたが、暗闇から巨大な化物が出現した。茂みに近づいた警戒役は化物の頭部を目視した直後に捕食され、化物は拠点中央へ突進して防衛線を崩壊させた。多数の襲撃は想定されていても、単体の怪物による蹂躙は想定外であり、混乱が連携を破壊した。
“暴虐メイプル”による一夜の加速作戦
化物の正体は【暴虐】状態のメイプルであり、背に七人(【楓の木】全員)を乗せて各拠点を連続襲撃した。サリーはオーブ奪取と撤退タイミングを管理し、爆弾・鉄球・衝撃波・魔法を混ぜた攻撃で短時間に戦力とオーブを削った。メイプルが“メイプルと判別されにくい”ことが、貫通対策の判断遅れを生み、天災に近い被害が拡大した。
観戦側の反応と“人の括り外”評価
【集う聖剣】戦の結末が観戦エリアで語られ、勝敗は戦略で優位だった【集う聖剣】をメイプルの未知の切り札が覆した、と整理された。特に【暴虐】は理解不能の域であり、視聴者は“化物になるのがやばい”という一点で一致した。
朝までの成果と“奪わせる防衛”への移行
夜明けまでに【楓の木】は多数のオーブを確保し、所持は十個に達した。メイプルは疲労のため【暴虐】解除を避けたまま休息に入った。以後の方針は、奪還に来たギルド同士が道中で潰し合う状況を作ることであり、防衛の成否そのものは致命にならない設計へ移った。
七十人規模の侵攻と布陣運用
朝、盾役を先頭に七十人規模が侵入した。【楓の木】はサリー・クロム・カスミを前列に置き、マイとユイの正面を空けて鉄球投擲を主軸にした。イズが鉄球を補給し弾切れを封じ、カナデは【氷雪大地】で短時間拘束してマイとユイの必中時間を作った。クロムは【カバームーブ】で魔法を受け止めつつ回復スキル群で耐え、カスミは瞬間移動と跳躍で盾持ちを削った。
眠れる親玉の威圧と“被害ゼロ撤退”
騒音で奥から“化物”が這い出し、侵入者は自分たちを襲った存在が拠点内部にいる事実に動揺した。結果、侵入側は深入りを断念し、【楓の木】は“誰も倒されない”条件を優先して自軍以外のオーブを一旦明け渡し、奥へ退避してやり過ごした。相手が去った後、自軍オーブだけを設置し直して態勢を回復した。
サリーの追跡と炎帝ノ国の包囲戦発生
サリーは奪ったオーブを持つ大集団を尾行し、そこへ【炎帝ノ国】(ミィ)が突入して大規模ギルドを壊滅させる現場を確認した。勝ち残りを狙う複数ギルドが【炎帝ノ国】を囲む流れが形成され、サリーは全員集合を指示して“潰し合いの最大化”へ舵を切った。
炎帝ノ国の死地と“天災の共闘”
【炎帝ノ国】は千超の包囲を受け、ミザリーは広域自動回復の大技で耐久を支え、ミィは【炎帝】で殲滅を狙った。そこへメイプル(化物)が突入し、後衛を食い千切って大規模ギルドを荒らし始めた。目的は【炎帝ノ国】ではなく、群がる大規模ギルドの壊滅であり、ミィら四人は“生かす”方針で実質共闘が成立した。
再臨する絶望と幻影世界の増殖
【暴虐】が一度切れて狙われたが、メイプルは即座に持ち直し、さらに当日分の【暴虐】を再発動した。サリーとカナデが【幻影世界】で分身を作り、それらが吸収されて“化物メイプルが七体”となり、戦場は地割れ・炎・聖剣・毒・幻想が重なる地獄へ変質した。三分経過で分身が消える頃には半数以上が消失し、ようやく貫通攻撃の集中でメイプルは元の姿へ戻された。
全武装展開と毒海での制圧
落下直後にメイプルは【全武装展開】を発動し、【滲み出る混沌】【毒竜】で周囲を毒海に沈めつつ火力と制圧を両立した。毒無効がない者は接近不能となり、遠距離の貫通魔法も大盾で抑えられたため、包囲側はメイプル攻略を諦めて離脱したが、メイプルは爆炎飛行で追撃し戦線をさらに崩した。
集う聖剣の撤退判断と戦場の収束
【集う聖剣】は奇襲失敗後に周囲を足止めしてカウンターを回避し、競争相手の削りへ切り替えた。ペインは“万全同士では倒し切れない”と結論し、被害拡大前に撤退を選んだ。最終的に場に残ったのは【楓の木】と【炎帝ノ国】のみであり、【炎帝ノ国】は切り札枯渇と損耗から撤退を決め、ミィが爆発的離脱でミザリーら三人を連れて退いた。
戦後処理とオーブ確保
【楓の木】は戦闘の混乱を利用してオーブ確保に成功し、イベント展開はさらに加速した。残存ギルドが大規模中心へ収束する流れが決定的となり、十位以内確定へ向けた環境が整った。
八章 防御特化と安全圏。
帰還と休息による“安全圏”の成立
メイプルは【暴虐】を再使用できないため、メイプル達はシロップに乗ってゆっくり拠点へ帰還し、手持ちのオーブをすべて設置して休息に入った。展開が高速化し死亡回数が危険域へ近づく中、あえて死地に踏み込む者は減り、オーブを大量に抱える【楓の木】の拠点が逆説的に最も静かな場所となった。
ランキング監視と大規模ギルドの壊滅連鎖
メイプルはサリーの表示するパネルでランキングを確認し、大規模ギルドの壊滅が発生している事実を知った。サリーは原因を【集う聖剣】か【炎帝ノ国】の暴れと推測し、特に【炎帝ノ国】が限界状態のままライバル潰しに走り、順位維持を運任せにする可能性を見立てた。ただし、その行動は負担が大きく長続きしないとも判断した。
“殲滅力”の比較とメイプルの役割の整理
サリーは、殲滅速度そのものはミィのほうが上だと整理した。メイプルの【暴虐】は跳ね飛ばしで混乱を生む一方、全滅には時間がかかり、初見殺しが通用した今回の条件依存でもあった。対してミィは回避と超火力で押し切る戦い方であり、自爆飛行の要領まで掴んだ今なら短時間壊滅も可能だと位置付けられた。
“外に出ない”勝ち筋と防衛準備
サリーは、オーブを守り切れれば十位以内がほぼ確定であり、外へ打って出る必要性は薄いと結論した。メイプルも疲労を認め、拠点内で休みつつ、万一に備えて【水晶壁】と銃撃の準備を続ける方針となった。ここでの【楓の木】は、戦うより“崩れないこと”に価値が移った状態である。
運営側の認識:四日目早朝で実質終了
ゲーム外では運営陣が残存ギルド数を示す表示を見て、残りが「六」まで減少し、しかも全ギルドが既に十位以内だと確認した。これにより十位以内は確定し、五日予定のイベントは四日目早朝に実質終了へ到達した。減り続けていた表示が動かなくなり、運営は見所編集へ作業を切り替えた。
見所編集と“メイプル偏重”の不可避
運営は録画データから見所シーンを抽出したが、映像の半分近くがメイプルになる事態が発生した。メイプル抜きで見所を作るのは不可能に近く、【楓の木】に引っかき回されたことがイベントの想定崩壊の主要因として語られた。あわせて、次回イベントでは日数や仕様、とりわけギルド規模設計を見直す必要があるという議論が進んだ。
“メイプルは今何をしているか”予想大会
運営陣は、当たった者に奢るという条件で、現在のメイプルの行動を予想し合った。予想はボードゲーム、飛行訓練、双子のお手玉、鍛冶武器を齧ってスキル取得狙いなどから始まり、巨大化した亀の口内、サリーとの戦闘、亀を齧るといった混沌へ発展した。
答え:羊毛の塊と兵器の異様な散歩
映像に映っていたメイプルは、全身を羊毛の塊で包み、その塊から兵器をニョキニョキ生やした状態で、マイとユイに担がれながら拠点を歩き回っていた。運営はそのワンシーンを無言で見所集へ追加し、理解の範囲を超えたものを処理する作業に戻っていった。
エピローグ 防御特化とつながり。
イベントの終息と最終順位
運営が「実質終わった」と踏んだ通り、四日目以降は戦闘が一切起きず、ランキングも変動しないまま五日目が終了した。メイプル達は通常フィールドへ転移し、青いパネルで最終順位を確認した結果、【楓の木】は今回も三位となった。十位以内なら報酬差がないため上位を狙う意図は薄かったが、大規模ギルドのオーブをまとめて得たことが順位に直結した。
報酬と“次階層への鍵”
報酬としてギルドメンバー全員に銀メダル五枚と木札一枚が配布され、ギルドマスターのメイプルには全ステータス5%上昇のギルド設置アイテムが贈られた。木札は【通行許可証・伍】であり、名前入りで貸し借り不可という仕様から、次階層での通行や解放要素に紐づく“個人キー”として位置付けられた。
打ち上げ準備とメイプルの“つながり”暴発
十位内入賞を祝う打ち上げが数日後に企画され、料理スキルを極めたイズの腕前も当てにされていた。しかし当日、メイプルだけが買い物に出たまま戻らず、サリーが探しに行こうとした瞬間、メイプルが帰還した。しかも後ろには【集う聖剣】の四人と【炎帝ノ国】の四人が揃っていた。メイプルは外で出会って会話の流れでフレンド登録し、「強い者同士でつながりを持つ」感覚でそのまま招待したと説明した。サリーは、それが一般的な“友達作り”とは別種の危険な集合体に見えることを理解しつつ、言葉を飲み込むしかなかった。
同席の食卓と運営ハイライト動画
突然のゲストにも対応できる拠点規模だったため、イズは料理を増産し、全員が席に着いた。そこへ運営から通知が届き、同一のハイライト動画が配布されたため、メイプルはギルド備え付けモニターで再生した。映像はペイン、ミィ、サリーらの戦闘が切り替わり、ほとんどが“この部屋にいる連中”のやらかしで占められていた。フレデリカは自分の失態シーンに悲鳴を上げ、次は当てると息巻き、サリーは軽く受け流しつつ再戦の約束が成立した。
“普通だと思っていた男”クロムの再評価
動画終盤で、クロムが【カバームーブ】による変則移動と異常な回復で後衛四人を守り切る場面が流れると、周囲の視線が変わった。メイプルの異常性が強すぎて相対的に霞んでいただけで、クロムも十分に怪物側であるという事実が、ここでようやく共有された。
ペインの課題設定と次の衝突の予感
ペインは「次は勝つ」と宣言し、今回で確認できたスキルをもとに対策を組む姿勢を見せた。クロムは「毛玉になったり化物になったりする相手に勝てるのか」と現実を突きつけたが、ペインは予想外への耐性不足が敗因の一つだったと認め、既知スキルから潰していく方針へ切り替えた。今回の勝敗は固定ではなく、再戦の余地が残された。
掲示板の総括:楓の木“感染説”の拡散
プレイヤー達は動画視聴後、メイプルの呼称が「歩く要塞」から「走る要塞」、そして人外そのものへと更新されたと嘆いた。武装展開や身体変化の成長速度は“電光石火”と評され、突然変異級だと結論づけられた。さらに、双子の鉄球やサリーの回避、クロムの異常回復まで含めて【楓の木】全体がまともではないという認識が強まり、「メイプルという特性は感染するのか」という冗談めいた説すら真顔で語られた。四日目以降の唯一の映像が“羊毛毛玉に兵器が生える神輿散歩”だったことも、プレイヤーの思考停止を決定づけた。
同シリーズ
痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。




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