書籍「令和プロ野球ぶっちゃけ話」感想・ネタバレ

書籍「令和プロ野球ぶっちゃけ話」感想・ネタバレ

Table of Contents

書籍概要

『令和プロ野球ぶっちゃけ話 球界ニュースの見方が180度変わる本』は、プロ野球の裏側や定説に鋭く切り込むノンフィクション作品である。著者の里崎智也氏が、自身の経験と視点から、球界の常識や非常識に対して正論を展開し、読者に新たな視点を提供する内容となっている。

著者プロフィール

里崎智也:1976年徳島県生まれ。元プロ野球選手で、千葉ロッテマリーンズの捕手として活躍。2006年のWBCでは日本代表の正捕手として世界一に貢献。現役引退後は、野球解説者やYouTuberとしても活動し、著書も多数執筆している。

書籍の特徴

本書は、プロ野球の現状や問題点を具体的に指摘し、メジャーリーグに負けないための提言を多数盛り込んでいる。また、著者だけが知る球界の裏情報を公開し、読者にとって新鮮で興味深い内容が満載である。 

出版情報

令和プロ野球ぶっちゃけ話 球界ニュースの見方が180度変わる本
著者:里崎智也 氏
出版社:清談社Publico 
発売日:2025年3月20日
ISBN:978-4-909979-76-6
判型・ページ数:四六判・208ページ
定価:本体1,600円+税

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あらすじ・内容

登録者80万人超のYouTube「Satozaki Channel」が話題沸騰!
なぜ、ポストシーズンで「下剋上」が起こるのか?
なぜ、「新庄日本ハム」と「立浪中日」は差がついたのか?
なぜ、第2の「古田敦也」「谷繁元信」「里崎智也」は現れないのか?
なぜ、ネット上のプロ野球情報はウソばかりなのか? …etc.
誰も書けなかった「球界の定説」と「非常識」へのド正論!
日本プロ野球がメジャーリーグに負けないための「具体的提言」が満載!
私だけが知る「球界裏情報」を、すべて書く!
本書では、野球界で「いま、話題になっている、あるいはみなさんが疑問に思っているであろう出来事」について、余すことなくお話ししていくことにした。
私の独断と偏見による考えもあるので、「それは違うだろう」と異論を挟みたくなるような人もいるかもしれない。
本書によって、球場で見る野球とは違ったおもしろさについて、私の目線から率直に感じていることを、読者のみなさんにお届けできたら幸いである。(「はじめに」より)

令和プロ野球ぶっちゃけ話 球界ニュースの見方が180度変わる本

主な内容

はじめに令和の「球界の常識」を捨てれば、野球はもっとおもしろくなる

横浜DeNAベイスターズの下剋上優勝

  • 2024年の日本シリーズ第6戦でDeNAがソフトバンクを11対2で破り、26年ぶりの日本一を達成。
  • DeNAの下剋上優勝は2010年のロッテ以来14年ぶり。
  • ソフトバンクはダイエー時代を含めて8度目の日本シリーズ出場だったが、初の敗退を経験。

DeNAとロッテの比較

  • 2010年のロッテと比較する声があったが、戦力面の共通点は少ない。
  • 精神的な部分において「やってやろう」という姿勢は共通していた。

ソフトバンクの敗因

  • 中継ぎ投手の松本裕樹と藤井皓哉が負傷し、日本シリーズで登板できなかった。
  • 山川穂高を中心とした打線が機能しなかった。
  • 主力投手を欠いたことで、シーズン中の戦い方を維持できなかった。

なぜ、「正捕手」が生まれなくなったのか?

捕手併用制に対する誤解

  • 「どの球団も捕手を併用している」と言われるが、実際にはセ・リーグの一部球団に限られる。
  • パ・リーグでは依然として固定捕手の傾向が強い。

過去の正捕手と休養日

  • 伊東勤や古田敦也も全試合出場は少なく、捕手の休養は昔から一般的だった。
  • 捕手は重労働であり、体力管理のために休養が必要とされる。

捕手併用制の背景

  • 近年の捕手併用制は「打てないこと」が最大の要因。
  • 2024年の捕手の打撃成績では、打率2割5分以上を記録したのは4人のみ。

「リードの良い捕手」という誤解

  • 「良いリード」は結果論であり、明確な基準が存在しない。
  • 捕手の守備力の差は大きくなく、評価の要点は攻撃力にある。

名捕手の条件

  • 「打てること」と「チームを優勝に導くこと」が重要。
  • 森友哉は西武時代、リードを批判されたが、打撃成績が向上すると評価が変わった。
  • 伊東勤や中村悠平のように、優勝経験がある捕手は高く評価される。

なぜ、ポストシーズンで「下剋上」が起こるのか?

DeNAの下剋上優勝の要因

  • クライマックスシリーズで阪神、巨人を破り日本シリーズに進出。
  • 日本シリーズ第3戦から巻き返し、最終的に第6戦で勝利。

クライマックスシリーズの意義

  • 18年間の歴史の中で、3位チームが日本一になったのは2010年ロッテと2024年DeNAのみ。
  • 「下剋上」が起こる確率は低く、短期決戦の面白さを強調する制度として評価される。

なぜ、「新庄日本ハム」と「立浪中日」は差がついたのか?

新庄剛志監督のチーム改革

  • 1年目は最下位、2年目も苦戦したが、3年目で2位に躍進。
  • 戦術の柔軟性と若手起用で戦力の底上げに成功。

郡司裕也の起用の違い

  • 中日では捕手だったが、日本ハムでは三塁手として起用され、成績向上。
  • 柔軟な采配が功を奏し、選手の成長を促した。

立浪和義監督の課題

  • 2022年から3年連続で最下位。
  • 打撃力不足が深刻で、2024年もリーグ最少得点。
  • 戦術の幅を広げることができず、柔軟な戦略を欠いた。

なぜ、ポスティングシステムは物議を醸すのか?

上沢直之のソフトバンク移籍

  • 2024年オフにMLBから帰国し、日本ハムではなくソフトバンクと契約。
  • 日本ハムへの譲渡金が92万円と低額で、ファンの反発を招いた。

ポスティング制度の問題点

  • MLB退団後のNPB移籍は自由であり、国内FAよりも早く移籍が可能。
  • 「国内FAの抜け道」との批判があるが、制度上は問題なし。

なぜ、ずっと「投高打低」が続くのか?

打率3割打者の減少

  • 2024年の3割打者は3人のみ。
  • 投手のレベル向上ではなく、打者の技術の停滞が原因と考えられる。

フライボール革命の影響

  • MLBの流行を盲信し、打撃フォームを変えた結果、打率が低下。
  • 自分に合った打撃スタイルを見極めることが必要。

練習量の減少

  • 「質の高い練習」を重視しすぎ、練習量が不足。
  • 過去の名選手は徹底的な練習を積んでいた。

なぜ、沢村賞のハードルは下げられないのか?

2024年の沢村賞は「該当者なし」

  • 近年の投手分業制の影響で、基準を満たす投手がいなかった。
  • 「基準を下げるべき」という意見があるが、賞の価値を損なうとの懸念も強い。

基準を変更する弊害

  • 完投数や投球回数を減らすと、投手の目標設定が低くなる。
  • 新たな賞を設立する方が適切。

なぜ、ネット上のプロ野球情報はウソばかりなのか?

「飛ばないボール」論争

  • 本塁打数の減少が話題になったが、統一球の反発係数に問題はなかった。

YouTuberの影響

  • プロ経験のない指導者の情報が広がり、選手の混乱を招くことがあった。

投げすぎと故障の誤解

  • 「投げすぎると故障する」は一概に正しくない。
  • 練習量の減少が逆に故障を増やす要因となる可能性もある。

おわりに:スポーツマスコミは「嫌われる勇気」を持て

スポーツ報道の課題

  • 世論に迎合し、批判を恐れる姿勢が強まっている。
  • 建設的な議論を行うことが求められる。

固定観念の変化

  • 「水分補給の善悪」「練習量の是非」など、時代とともに変わる価値観を見極めることが重要。

感想

野球の見方を再構築する書

本書は、単なる裏話の披露や批判ではなく、プロ野球という競技の構造や制度、そしてそれを支えるファンとメディアの関係性を見直す機会を与えてくれる。
選手の意志とファンの感情、制度と現実のズレ、監督の戦術と成績の関係など、さまざまなテーマが多角的に掘り下げられており、まさに「ニュースの見方が180度変わる」一冊であった。
読後には、ひとつのニュースにも複数の視点があることを改めて認識させられた。

既存の常識を疑うという視点の新しさ

本書は、プロ野球という人気スポーツに根付いた常識や通念を一つひとつ解体していく切り口が新鮮であった。特に印象的だったのは、「正捕手神話」や「沢村賞の基準」への疑問、さらには「飛ばないボール」や「練習の質と量」など、既存の定説に対する再検証である。
著者は、数字やデータに基づきながらも、感情的な側面やファン心理も踏まえた上で、丁寧に分析を進めており、説得力があった。

ポスティング問題があぶり出す制度の矛盾

とりわけ強い印象を受けたのは「上沢式FA」に関する章である。
契約のルールに従えば、上沢選手のソフトバンク入りは制度上まったく問題がない。
しかし、ファンの立場で見れば「あまりにあっさりと別球団に行ってしまった」という違和感が拭えない。
これは選手とファンの立場の非対称性に起因しており、制度自体がそれを助長しているという本質的な課題を浮き彫りにしていた。

情報リテラシーとファンの責任

ネット情報の真偽や、YouTuberの影響力についても具体的に言及されていた点は注目に値する。
SNSによる誤解の拡散や、選手のフォーム迷走、投球制限の善悪など、ネット時代ならではの「情報の選択責任」がテーマとして立ち上がっていた。
特に「プロ経験のない人の指導がプロ選手に影響を及ぼす」という現象は、競技レベルや情報の質を問う上で非常に示唆的である。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

はじめに
令和の「球界の常識」を捨てれば、野球はもっとおもしろくなる

横浜DeNAベイスターズの下剋上優勝

2024年の日本シリーズ第6戦において、セ・リーグ3位の横浜DeNAベイスターズが、パ・リーグ1位の福岡ソフトバンクホークスを11対2で破り、26年ぶりの日本一を達成した。DeNAの下剋上優勝は、2010年の千葉ロッテマリーンズ以来14年ぶりの快挙であった。一方、ソフトバンクはダイエーから球団が譲渡されて以来、8度目の日本シリーズ出場にして初めて敗退を経験した。

DeNAとロッテの比較

DeNAの下剋上優勝について、過去にロッテが成し遂げたケースと比較する声が上がった。しかし、当時のロッテと現在のDeNAの戦力を分析すると、共通点はほぼ見当たらなかった。唯一挙げられるとすれば、「やってやろう」という精神的な部分であった。

ソフトバンクの敗因

ソフトバンクの敗因の一因として、中継ぎ投手の松本裕樹と藤井皓哉が負傷により日本シリーズで登板できなかったことが挙げられる。山川穂高を中心とした打線が機能しなかったことも敗因とされるが、主力投手を欠いたことでシーズン中の戦い方を維持できなかった影響が大きかったと考えられる。

プロ野球の変化と生ぬるさ

現代のプロ野球を見て、以前に比べて競技の激しさが薄れ、生ぬるさを感じざるを得ない状況となっていた。かつてはデッドボールをきっかけに乱闘が発生することも珍しくなかったが、現在は球団の垣根を越えた選手の交流が進み、対立が起こりにくくなっている。また、監督や選手の采配に対する解説者の批判も減少し、結果を優しく見守る傾向が強まっていた。

選手の立ち居振る舞いと観客の反応

最近のプロ野球選手は、試合中の感情表現を控えめにしている傾向がある。三振後にバットを折る、ノックアウトされてベンチでグラブを投げるといった行為が映し出されると、「教育に悪い」と批判されるため、選手たちが過度に自制している可能性がある。プロ野球はエンターテインメントの側面も持つため、感情を表に出す選手がいてもよいのではないかと考えられる。

野球人気の変化と世間の認識

野球人気の低下が指摘されることがあるが、球場の観客数やグッズ販売の売上は好調であるため、その認識には疑問が残る。実際には少子化の影響や、他競技の選択肢が増えたことが原因であり、単純に野球離れとは言えない。世間の動きを正しく理解することが求められている。

本書の目的

本書では、現在の野球界で話題となっている出来事や疑問点について、率直な意見が述べられている。著者の視点による独自の分析を提示し、読者に新たな視点を提供することを目的としている。読者がこれまでとは異なる角度から野球の魅力を発見し、球場へ足を運ぶきっかけとなることを願っている。

第1章
なぜ、第2の「古田敦也」「谷繁元信」「里崎智也」は現れないのか?―球界にはびこる「正捕手」への誤解

捕手併用制に対する誤解

2024年頃から、プロ野球ファンの間で「どの球団も捕手を併用するようになった」という声が聞かれるようになった。各球団に絶対的な捕手が不在となり、2~3人でポジションを回しながらシーズンを戦い抜いていると認識されていた。しかし、実際のデータを見ても、併用しているのはセ・リーグの一部球団に限られ、パ・リーグではその傾向が少なかった。捕手の併用制が増えたわけではなく、一部の球団が採用しているにすぎなかった。

過去の正捕手と休養日の存在

かつてのプロ野球でも、正捕手が全試合出場するケースは稀であった。例えば、西武の伊東勤は一度も全試合出場を果たしておらず、ヤクルトの古田敦也も18年間のキャリアで3シーズンのみだった。谷繁元信も歴代最多試合出場を記録したが、シーズンを通じて110~140試合の出場にとどまった。捕手は重労働であり、夏場には1試合で数キログラム体重が減ることも珍しくなかったため、休養日を設けるのは当然のことであった。

自身の経験とケガによる制限

著者自身も現役時代、捕手としてシーズンを通しての出場は容易ではなかった。2004年、左膝の半月板を損傷し手術を受けた後、ドクターの指示により2日連続の試合出場を制限された。監督のボビー・バレンタインもこの判断を尊重し、著者は51試合の出場にとどまった。無理をしていれば引退が早まっていた可能性があり、この措置は正しかったと考えられる。

捕手併用制の背景

近年、捕手の併用制が増えた理由は明確であり、最大の要因は「打てないこと」にあった。2024年の捕手の打撃成績を見ると、打率2割5分以上を記録したのはDeNAの山本祐大、広島の坂倉将吾、日本ハムの田宮裕涼、ロッテの佐藤都志也の4人に限られていた。捕手は守備の負担が大きく、その影響で打撃成績が低迷する傾向にあった。

「リードの良い捕手」という誤解

捕手の評価基準として「リードの良さ」が挙げられることが多いが、その定義は曖昧である。「ダメなリード」は指摘されるが、「良いリード」は結果論でしか語られないのが実情であった。捕手の守備率を見ても、大きな差はなく、強肩やブロッキング技術も基本的な能力として当然のものとされていた。

名捕手の条件は「打てること」

優れた捕手の条件として、最も重要なのは「打てること」である。例として、日本で2000安打以上を記録したアレックス・ラミレスは晩年「守れない」と評されたが、全盛期にはその守備の問題が指摘されなかった。これは、打撃成績が優れていたためである。同様に、森友哉も西武時代に「リードが悪い」と批判されたが、打撃成績が向上するとその評価は変わった。

チームを優勝に導くことの重要性

もう一つの名捕手の条件として、「チームを優勝に導けること」が挙げられる。西武の伊東勤は、現役生活22年でリーグ優勝14回、日本一8回を達成した。昭和の時代では、V9を達成した巨人の森祇晶が代表的な例である。逆に、打撃成績が良くても、優勝経験がない捕手は名捕手とは評価されにくかった。

甲斐拓也に求められるもの

令和の名捕手として筆頭に挙げられるのは、ソフトバンクからFA移籍した甲斐拓也である。彼の強肩は「甲斐キャノン」と称され、ソフトバンクの日本一4度に貢献した。そのほか、ヤクルトの中村悠平やオリックスの若月健矢も、チームの優勝に導いた実績があるため、高く評価された。

一方で、巨人の小林誠司は「強肩でリードが良い」とされながらも、チームを日本一に導いた経験がなく、その評価は分かれるものであった。そのため、巨人が甲斐を補強したのは、優勝経験のある捕手の重要性を理解しての決断だったと考えられる。2025年シーズンにおいて、甲斐の加入が巨人の捕手陣にどのような影響を与えるのかが注目される。

結論

捕手の評価基準として重要なのは「打てること」と「チームを優勝に導けること」の二点である。近年の捕手併用制は、主に打撃力の低下が原因であり、単なる戦略の変化とは言えなかった。

第2章
なぜ、ポストシーズンで「下剋上」が起こるのか?―本当は「法則」などない逆転のプロ野球史

DeNAの下剋上優勝

2024年、日本シリーズでDeNAが日本一を達成した。レギュラーシーズンを3位で終えたものの、クライマックスシリーズでは阪神と巨人を破り、日本シリーズに進出した。シリーズ序盤はソフトバンクが優勢であったが、第3戦以降DeNAが巻き返し、最終的に第6戦で勝利し、26年ぶりの優勝を果たした。

試合ごとの展開

日本シリーズ第1戦と第2戦ではソフトバンクが連勝し、優位に立った。しかし、第3戦からDeNAが勢いを取り戻し、東克樹の好投や桑原将志の本塁打が勝利をもたらした。第4戦ではオースティンの本塁打を含む大量得点で快勝し、第5戦も牧秀悟の3点本塁打などで7対0の完封勝利を収めた。第6戦では序盤からDeNA打線が爆発し、最終的に11対2で圧勝し、日本一に輝いた。

DeNAのチーム特性

DeNAは大型連勝と大型連敗を繰り返す傾向があったが、日本シリーズではその勢いが結果に結びついた。レギュラーシーズンでは貯金2でAクラス入りを果たしたが、短期決戦においてはその勢いを活かし、勝ち抜くことに成功した。

2010年のロッテとの比較

DeNAの下剋上優勝により、2010年に3位から日本一を果たしたロッテと比較する声が上がった。しかし、両チームの戦い方に共通点はなく、ロッテもDeNAも特別な戦術ではなく、時の運と勢いが勝因であったと考えられる。当時のロッテは、中日投手陣の研究を行ったものの、勝因は最終的に個々の試合での流れによるものだった。

クライマックスシリーズの勝ち上がりの傾向

2007年以降のクライマックスシリーズでは、2位以下のチームが1位チームを破って日本シリーズに進出するケースは18年間で7例あった。しかし、3位チームが日本一を達成したのは2010年のロッテと2024年のDeNAのみであり、「下剋上」と呼ばれるケースは極めて少なかった。

広島の失速とDeNAのAクラス入り

DeNAがクライマックスシリーズに進出できた背景には、広島の終盤の失速があった。8月末時点で首位にいた広島は、9月以降7勝22敗と大きく負け越し、最終的に4位に転落した。この結果、DeNAが3位に滑り込み、クライマックスシリーズ進出を果たした。

クライマックスシリーズの意義

一部の野球ファンの間では、クライマックスシリーズの存在を疑問視する声があった。しかし、18年間の歴史の中で3位チームが日本一になったのは2回のみであり、確率的には低い。短期決戦の面白さを考慮すれば、現行の制度に大きな問題はないと考えられる。2025年シーズンも、ポストシーズンの展開が注目されることとなる。

第3章
なぜ、「新庄日本ハム」と「立浪中日」は差がついたのか?―令和時代に求められる監督像

日本ハムと中日、明暗を分けた3年間

2024年、日本ハムは2位、中日は3年連続の最下位と、両チームの結果に大きな差が生じた。両監督は2021年オフに就任し、新庄剛志監督は「優勝を目指さない」と明言しながらチームの基盤を整えた。一方、立浪和義監督は「勝ちにいく」姿勢を貫いたが、結果には結びつかなかった。この違いが3年目の成果に直結したと考えられる。

新庄監督の日本ハム、成長の軌跡

新庄監督の1年目、日本ハムは序盤から苦戦し、最下位に沈んだ。2年目も厳しいシーズンとなり、13連敗を記録するなど苦境が続いた。しかし、3年目の2024年には投打が噛み合い、2位に躍進。防御率や失点数が改善され、攻撃面でも打率、本塁打数、盗塁数が向上し、戦力の底上げが実現した。

奇策と柔軟な起用で選手を育成

新庄監督は就任1年目から無死満塁でのヒットエンドランやダブルスチールなど、セオリーを超えた采配を試し、戦術を模索した。その過程で失敗もあったが、経験を積み重ねることで3年目の成功につなげた。また、郡司裕也を捕手ではなく三塁で起用し、若手選手を積極的に抜擢することでチーム力の底上げを図った。

郡司裕也の活躍と起用の違い

郡司は中日時代には捕手として起用され、思うような結果を残せなかった。しかし、日本ハム移籍後、新庄監督は三塁手として起用し、郡司は127試合に出場し、打率.256、12本塁打、49打点と飛躍した。中日では石川昂弥を三塁のレギュラーとし、郡司の起用機会が限られたが、日本ハムでは柔軟な采配が奏功した。

立浪監督の中日、苦戦の3年間

中日は2022年から2024年まで3年連続で最下位に低迷。2023年には外国人補強や現役ドラフトでの補強を行ったが、打撃力不足は解消されなかった。2024年も序盤に首位に立つ場面があったものの、最終的には60勝75敗でシーズンを終えた。防御率や失点数は改善されたが、得点力不足が致命的な課題となった。

データから見る攻撃力の欠如

中日の得点数は2023年よりさらに減少し、373点にとどまった。打率は向上したものの、四球数の少なさや盗塁数の減少により、得点機会を生かせなかった。特に盗塁は2022年から2年間で大幅に減少し、機動力を活かした戦術が不足していたことが明らかだった。

采配の課題と「勝ちにいく」姿勢の弊害

立浪監督は1年目から正攻法の野球を貫いたが、戦術の幅を広げる試みは少なかった。日本ハムのように、失敗を恐れずに新たな戦術を試す姿勢があれば、より柔軟なチーム作りが可能だったかもしれない。結果的に、「1年目から勝ちにいく」という方針が裏目に出た形となった。

選手との関係とメディアの影響

立浪監督は選手との不仲説が報じられることが多かった。2022年オフには主力選手をトレードに出し、試合前の食事制限をめぐる問題も話題となった。しかし、実際には選手との関係は悪くなかったと考えられる。一方で、一部のマスコミが不仲説を強調し、ファンの間で誤解が広がった可能性がある。

新庄監督と立浪監督の違いが生んだ結果

新庄監督はチームの基盤を固めながら試行錯誤を繰り返し、3年目で結果を出した。一方、立浪監督は即戦力重視の方針をとったが、得点力不足を解消できずに苦戦した。2025年は日本ハムがさらなる飛躍を遂げるか、中日が新監督のもとで再建を果たせるかが注目される。

第4章
なぜ、ポスティングシステムは物議を醸すのか?―「上沢式FA」があぶり出した本当の問題点

上沢直之のソフトバンク移籍とファンの反応

ポスティング後の日本復帰と移籍先の選択


2024年オフ、上沢直之はMLB挑戦から1年で帰国し、日本ハムではなくソフトバンクと契約した。専大松戸から2011年にドラフト6位で日本ハムに入団し、12年間で70勝62敗の成績を残した。2023年11月にポスティング申請を行い、2024年1月にタンパベイ・レイズとマイナー契約を締結。その後、ボストン・レッドソックスに金銭トレードで移籍するも、2試合の登板にとどまり、11月にFAとなった。最終的に12月にソフトバンクと契約した。

ファンの批判と主な理由

日本ハムファンの多くは、上沢の決断に反発した。その主な理由は、MLB挑戦がわずか1年と短かったこと、日本ハムへの譲渡金が92万円と低額だったこと、新庄監督の反対を押し切ってのマイナー契約だったこと、NPBでFA権を取得していなかったこと、復帰時には古巣に戻るべきとの考えが強かったことにあった。新庄監督自身も「悲しい」とコメントし、ファン心理に配慮した姿勢を示した。

ポスティング制度の概要と歴史

ポスティング制度は、NPB選手がMLBに移籍する際の手段として1998年に導入された。球団が選手の保留権を持ち、FA権未取得の選手が海外移籍を希望する場合、ポスティング申請を行うことで移籍が可能となる。2018年からは、契約総額に応じて譲渡金が変動する仕組みに変更された。申請後は選手が自由交渉を行い、移籍が決定するとNPB球団は選手の保留権を失い、譲渡金を受け取る。

上沢の移籍が問題視される背景

ポスティングで移籍した選手はNPB球団から自由契約選手として公示されるため、MLB退団後は国内外の球団と自由に契約できる。これにより、国内FA権を取得するより早く他球団へ移籍できる可能性が生まれる。有原航平も同様の経緯でソフトバンクに移籍しており、「国内FAの抜け道」と指摘されることがある。しかし、これらは制度上認められた行為であり、ルール違反ではない。

ファンの感情的な批判とその是非

上沢の移籍を「義理に反する」「恩知らず」とする声があるが、選手にとってはより良い条件の球団を選ぶのは当然のことといえる。また、日本ハムの施設でトレーニングを行っていたことに対する批判もあるが、球団の許可を得ていた以上、問題視するのは感情的な議論にすぎない。プロ野球はビジネスであり、選手が自身のキャリアを考え最適な選択をするのは当然である。

過去の類似ケースとルール変更の必要性

過去にも、西岡剛がポスティングでMLBに移籍し、帰国後に古巣ロッテではなく阪神を選んだ例がある。上沢のケースが特に批判されるのは、日本ハムの譲渡金が低額だったことが一因と考えられる。今後、ポスティング制度を改正し、「MLB移籍前の球団に戻るルール」を設けるか、FA権取得前のポスティング選手に制限を加えることが検討されるべきかもしれない。しかし、こうした変更は選手の交渉力を大幅に制限するリスクもある。

MLB挑戦の目的と現実

MLB挑戦は、単なる「夢の実現」だけでは成功しづらい。MLBでは実力が拮抗している場合、外国人よりも自国選手を優先する傾向がある。また、内野手の場合は逆シングルでの守備技術が求められるなど、求められるスキルも異なる。上沢のように特筆すべき武器がない場合、MLBで定着するのは難しい。今後も同様に短期間で帰国する選手が現れる可能性がある。

ポスティングとFAの制度的矛盾

現在のポスティング制度では、申請後の移籍先の選定は選手主導となるため、NPB球団にとっては最高額のオファーを提示したMLB球団と契約できる保証がない。FA制度と比較すると、ポスティング選手はMLB退団後に自由に移籍できるが、FA選手は移籍時に人的補償や補償金が発生する。この矛盾を解消するため、ポスティング選手にも一定の制限を設けるべきではないかという議論が必要とされる。

選手の選択とファンの受け止め方

上沢の移籍は制度上問題ないにもかかわらず、多くのファンが感情的に批判している。しかし、ルールの枠内での選択を否定するのは筋違いであり、問題視するなら制度を変更するしかない。SNSの発達により、批判が可視化されやすくなったが、根本的な議論として「選手にとって何が最善か」を冷静に考えることが求められる。

第5章
なぜ、ずっと「投高打低」が続くのか?―間違いだらけの「記録」の読み方

打率3割打者の激減

近年の「投高打低」の傾向


2020年から2024年にかけて、セ・パ両リーグにおける3割打者の数は激減した。2020年にはコロナ禍による試合数の減少があったものの、セ・パ合わせて12人の3割打者が存在した。しかし、2024年にはその数がわずか3人にまで減少し、「投高打低」の傾向がより顕著となった。

投手のレベル向上という誤解

一部の野球ファンは「投手のレベルが上がったから打てなくなった」と主張したが、過去の名投手たちの存在を考慮すれば、その主張には疑問が残る。かつてのプロ野球には、松坂大輔、ダルビッシュ有、斉藤和巳、黒田博樹など、現代と比較しても決して劣らない名投手が多数存在していた。それにもかかわらず、「昔の投手のレベルが低かった」とする見解は、単なる誤解にすぎない。

打者の技術と環境の変化

過去の打者たちは、精度の低いピッチングマシンを使用せざるを得ず、素振りを中心に技術を磨いていた。王貞治の868本塁打も、そうした練習環境の中で生まれた成果であった。一方、現代の打者は、より高度な練習機器やトレーニング方法に恵まれながらも、3割打者の数は減少している。この事実を踏まえると、「昔の打者のレベルが低かった」とは言えない。

投手の球種増加という誤解

「現代の投手は球種が多い」とする意見もあるが、実際には球種の名称が変わっただけで、本質的な違いは少ない。シュートはツーシーム、パームボールはチェンジアップと呼ばれるようになったが、これらの球種自体は以前から存在していた。さらに、すべての球種を自在に操る投手はほぼ存在せず、特定の球種を得意とする投手が大半を占めていた。

フライボール革命の影響

打者の成績低下の一因として、MLBで流行した「フライボール革命」が挙げられる。すべての選手が大谷翔平のような打撃を実現できるわけではなく、適応できる選手とできない選手がいるにもかかわらず、無理にそのスタイルを取り入れたことが、打率の低下を招いた可能性が高い。自分に合った打撃スタイルを見極めることなく、新しい理論を盲信したことが問題の根源である。

練習量の不足

近年の選手は「質の高い練習が重要」との考えから、過去に比べて練習量が減少している。しかし、実際にトップ選手たちは、量と質の両方を重視して鍛錬を積んでいる。かつての選手たちは遠征先でも素振りやバッティング練習を欠かさず、徹底的に鍛え上げた。自主性を重視する現在の環境では、十分な練習量を確保できない選手が多く、結果として打者の技術向上が遅れている。

自主練習と「やらされる練習」の違い

現在のプロ野球では「自主練習」が推奨されているが、若手選手が適切な練習量を自ら判断するのは難しい。かつてはコーチの指導のもと「やらされる練習」を行い、それが技術向上に寄与していた。しかし、自主練習では「どれくらいの量が適切か」を判断するのが困難であり、多くの選手が十分な練習を行わないまま終わってしまう。

プロで生き残るための意識の違い

長く活躍する選手ほど、若手時代に徹底した練習を積んでいた。一方、一時的に結果を残しただけで慢心し、練習を怠る選手はすぐに成績が低下していった。特に、新人選手がコーチの「今年活躍したから、オフはしっかり休め」という言葉を鵜呑みにし、十分なトレーニングを行わなかったことで翌年に調子を落とすケースが多かった。プロで成功し続けるには、シーズンを通じて一貫した鍛錬が不可欠であった。

練習の意義と選手の意識改革

かつてのプロ野球では、軍隊式の練習が行われ、厳しい鍛錬を経て多くの選手が成長した。しかし、現代の選手は「効率的な練習」を重視しすぎるあまり、十分な練習を積まないまま結果を求めてしまう傾向がある。練習量と技術向上の関連性を再評価し、適切なトレーニングを行うことが求められる。

まとめ

現在の「投高打低」の状況は、単に投手のレベルが向上したからではなく、打者側の技術向上が追いついていないことに起因していた。特に、フライボール革命の導入、練習量の減少、自主練習の課題などが影響していた。過去の選手たちの練習方法や意識を見直し、打者の技術向上に努めることが、この状況を打開する鍵となる。

第6章
なぜ、沢村賞のハードルは下げられないのか?―「分業」の時代にふさわしい投手の評価

2024年の沢村賞「該当者なし」について

該当者なしの決定


2024年シーズン、プロ野球で先発投手の最高の名誉とされる沢村賞は「該当者なし」となった。選考委員長の堀内恒夫氏は、多くの候補が挙がったものの、誰一人として選考基準を満たさなかったため、一本化が困難だったと説明した。この決定については賛否が分かれたが、受賞者なしという判断は至極当然の結果であった。

沢村賞の歴史と選考基準

沢村賞は、プロ野球創成期に活躍した沢村栄治の功績を称え、1947年に制定された。正式名称は「沢村栄治賞」であり、先発完投型の投手のみを対象とするものである。1989年からはパ・リーグの投手も対象となったが、基本的な選考基準は変わらず、7つの指標を基に受賞者が決定される。

達成困難な基準と時代の変化

選考基準には、登板試合数25試合以上、完投試合数10試合以上、勝利数15勝以上、勝率6割以上、投球回数200イニング以上、奪三振150個以上、防御率2.50以下の7項目が含まれる。中でも「完投10試合以上」と「投球回数200イニング以上」は、近年の投手分業制の普及により達成が困難となっている。

過去の「該当者なし」の事例

過去には1971年、1980年、1984年、2000年、2019年にも「該当者なし」となった年があった。特に2000年と2019年は、いずれの投手も基準を満たしておらず、今回の2024年と同様の状況であった。これは、投手の起用法が変化し、完投数や投球回数の重要性が低下したことによる影響と考えられる。

基準の変更を巡る議論

近年、一部の球界関係者やファンからは「選考基準を時代に合わせて見直すべき」という意見が出ている。一方で、従来の基準を維持すべきとの声も根強く、特に過去の名投手たちと比較して基準を下げることは、沢村賞の権威を損なうとの懸念がある。

基準を下げることの弊害

仮に選考基準を引き下げた場合、投手の目標設定が低くなり、完投数や投球回数を増やそうとする意識が希薄になる恐れがある。例えば、100メートル走の基準を90メートルに変更するようなものに過ぎず、スポーツの本質を損なう結果を招きかねない。野球だけでなく、競技全体のレベル低下につながる可能性も否定できない。

時代の変化と沢村賞の意義

現在のプロ野球では、投手の起用法やトレーニング方法が変化し、球数制限や分業制が普及している。しかし、沢村賞は単に「その年に活躍した投手」に与えられるものではなく、「基準を満たした投手に贈られる賞」としての意味を持つ。そのため、基準を満たさないまま授賞することは、賞の価値を損なうことにほかならない。

今後の展望

もし沢村賞の基準を満たさない投手にも何らかの評価を与えたいのであれば、新たな賞を設立するのが妥当である。例えば、「登板試合数20試合、完投数15試合、投球回数100イニング以上、防御率2.80以下」といった緩和された基準を設け、「沢村賞に準じる賞」を創設することも一案である。しかし、沢村賞自体の基準を変更する必要はなく、今後も日本のプロ野球界において権威ある賞として存続すべきである。

第7章
なぜ、ネット上のプロ野球情報はウソばかりなのか?―ファンとメディアの正しいつきあい方

ネット上の真偽不明情報とその実態

飛ばないボールの影響はあるのか


2024年シーズン、プロ野球では本塁打数の減少が話題となった。セ・リーグの本塁打王は村上宗隆(ヤクルト)の33本、パ・リーグでは山川穂高(ソフトバンク)の34本であり、過去の成績と比較すると減少傾向が顕著であった。この状況を受け、「ボールが飛ばなくなったのではないか」との声が上がった。

しかし、NPBの統一球はミズノ社製であり、中国の工場で製造されたものを輸入している。規定範囲内の大きさ、重さ、縫い目の高さ、反発係数を維持しており、不正や誤差の可能性は低い。公式な発表でも「飛ばないボール」についての指摘はなされていない。したがって、本塁打減少の原因は打者側のスイング技術やトレーニング方法にある可能性が高いと考えられる。

YouTuberの指導とプロ野球選手の迷走

近年、野球系YouTuberの影響力が増し、プロ経験のない指導者の助言が選手たちに広がる傾向があった。メジャーリーグのスラッガーのスイング理論を紹介し、「誰でも再現できる」とする動画が流行し、これを真に受けた選手たちが技術的に混乱する事例も増えている。

一方で、プロ野球選手はコーチを選べないため、指導が自分に合わない場合、別の情報源に頼らざるを得ない状況もある。LINEやメールで他球団の選手と情報交換を行い、公式の指導よりも仲間内で得たアドバイスを重視することも珍しくなくなった。だが、球団外のYouTuberの指導を受けた結果、成績が低迷する例もあり、情報の選択能力が重要となっている。

投げすぎによる故障の誤解

「投げすぎは肩や肘に悪影響を与える」との主張は、ネット上で広く信じられている。しかし、この説には科学的な裏付けが乏しい。メジャーリーグではトミー・ジョン手術を受ける投手が多いが、日本人メジャーリーガーの中には手術なしで活躍した選手も少なくない。

WBCでMLB公式球を使用した際、日本の投手は滑りやすさに苦戦していたが、すべての投手が故障するわけではなかった。つまり、投げすぎが直接の故障原因とは限らず、個々の体質やフォーム、練習方法の影響が大きいと考えられる。

先発投手の中4日ローテーションの可否

「日本の投手は高校時代から多くの球数を投げているため、中4日の登板は無理」との意見がある。しかし、これは単なる思い込みにすぎない。かつての名投手たちはブルペンで多くの球数を投げ、コントロールを磨いていた。プロ野球で200勝以上を達成した投手たちは、「どんな練習をしても壊れなかった」ことが共通点として挙げられる。

近年の投手は高校時代から球数制限の影響を受けており、プロ入り後に過酷なトレーニングを受けて故障するケースも増えている。結局のところ、「投げ続けて故障するかもしれないが、その覚悟を持って投げること」がプロとしての成功への鍵となる。

ネットの意見と情報の取捨選択

SNSやネット掲示板では、「球数制限は善、投げすぎは悪」といった単純な二元論が広がりがちである。しかし、現実には球数制限をしても故障する投手もいれば、制限なしでも長く活躍する投手もいる。ネット上の意見がすべて正しいわけではなく、「自分に合った情報を選ぶ能力」が求められる。

批判や誹謗中傷を避けるには、そもそも「見ないこと」が最も効果的な方法である。ネット上の意見は時流によって変化するため、過去に支持していた意見を簡単に覆す人も少なくない。そのため、「ネットのコメントに一喜一憂する必要はない」という心構えが重要となる。

結論

現代の情報環境では、インターネット上に膨大な情報が溢れているが、その真偽を見極めることが不可欠であった。野球に関する情報も例外ではなく、「飛ばないボール」「YouTuberの指導」「投げすぎの弊害」「中4日ローテーションの是非」といった議論は、実際のデータや選手の実績と照らし合わせて検証すべき問題である。最終的に、ネットの意見に流されず、自ら考え抜く姿勢こそが求められるものであった。

第8章
なぜ、コーチよりYouTuberのほうが稼げるのか?―「里崎チャンネル」ぶっちゃけ話

プロ野球の現場復帰に対する考え

監督や指導者になる意思がない理由


かつて、プロ野球の指導者になるのではないかと周囲から問われることがあったが、その可能性はないと明言していた。2022年シーズン終了後、ロッテの井口資仁監督が退任を発表した際、一部のスポーツ紙が次期監督候補として自身の名前を挙げた。しかし、本人はこれに驚きを隠せなかった。SNS上では「指導者にはならないと言っていた」という指摘が見られたが、その通りであり、最終的には吉井理人氏が監督に就任した。

最大の理由は、指導者になることで現在の収入が減少することであった。プロ野球の指導者は高額な年俸を得られるが、拘束時間が長く、仕事の自由度が低い。また、監督の判断で容易に解雇されるリスクがあり、将来が保証されていない。現場でのキャリアにこだわるよりも、自由に活動できる仕事を選択するほうが合理的であると考えていた。

指導者を目指さないことで得られる自由

現場の指導者になろうとすれば、自由な発言が制限されることになる。厳しい意見を述べれば球界から敬遠され、指導者としてのチャンスを失う可能性があった。そのため、多くの野球解説者が「将来のために波風を立てない」発言を心掛け、無難な解説に終始している現状があった。

しかし、自由に意見を述べることができる立場を確立すれば、そうしたしがらみとは無縁でいられる。プロ野球界の不条理な体質を知った上で、指導者になるよりも稼げる方法を模索するほうが得策だと考え、結果として現在の活動スタイルを確立した。

YouTubeを始めた経緯

2019年、YouTubeチャンネル「里崎チャンネル」を開設したきっかけは、ロッテの親会社からビックリマンチョコのプロモーションを依頼されたことだった。幼少期からビックリマンチョコを愛し、2014年にはPR大使にも任命されていた経緯があった。その縁でYouTubeでのPR活動を開始し、9本の動画を投稿した後、チャンネルを存続させることを決めた。

YouTubeを通じて収益を得ることは当初考えていなかったが、やがて動画制作に本格的に取り組むようになった。2019年11月には高木豊氏や片岡篤史氏らとともに「playfuil」という会社を設立し、スポーツコンテンツの企画と運営を開始した。これにより、YouTubeの撮影環境が整い、本格的に活動を始めることとなった。

YouTubeで成功した理由

YouTubeで成功を収めた要因は、「面倒だが誰もやりたがらないことを継続したこと」にあった。プロ野球シーズン中には「プロ野球12球団全試合総チェック」という企画を行い、3連戦の結果を分析し、視聴者に伝えていた。

プロ野球の試合は1試合3時間を超えるため、全6試合をチェックするには膨大な時間が必要であった。そのため、多くの解説者はこの作業を避けていたが、そこにチャンスがあると考え、詳細な試合分析を提供するスタイルを確立した。

また、YouTubeのメリットを活かし、テレビのスポーツニュースでは伝えきれない情報を提供した。得点シーンや重要なプレーだけでなく、試合全体の流れや監督の采配なども詳しく解説し、「ハイライトシーンをより熱く伝える」ことを信条としていた。この方針が視聴者に支持され、YouTubeチャンネルの人気につながった。

YouTubeとテレビ・ラジオの違い

YouTubeとテレビ・ラジオの最大の違いは、スポンサーへの配慮の有無であった。テレビやラジオではスポンサーに対する影響を考慮し、発言が制限されることが多い。しかし、YouTubeではある程度自由な発言が可能であり、炎上したとしても本人に直接影響が及ぶことは少なかった。

ただし、YouTubeだからといって無制限に発言できるわけではなく、「批判はしても誹謗中傷はしない」という方針を貫いた。また、テレビやラジオの仕事にも影響が出ないように配慮し、倫理観を持った発言を心掛けていた。

YouTubeの将来についての考え

YouTubeが永遠に続くとは考えていなかった。新たなメディアが登場すれば、YouTubeの人気が衰える可能性もある。そのため、他の仕事と並行しながら活動し、収入源を分散させることが重要であると考えた。

野球解説や講演、テレビ出演など、YouTube以外の仕事も手掛けているため、仮にYouTubeの市場が縮小しても問題はない。長期的な視野で活動し、新たなビジネスチャンスを探る姿勢を持ち続けていた。

アンチとの向き合い方

YouTubeでは批判的な視聴者、いわゆる「アンチ」の存在が避けられなかった。しかし、アンチは情報発信力があり、視聴回数を伸ばす要因にもなりうると考えた。アンチは動画を細かくチェックし、拡散する傾向があるため、結果的に再生数の増加につながることもあった。

そのため、アンチの存在を「重要な視聴者」と捉え、批判を受け入れながらも冷静に対応する姿勢を持つことがYouTubeでの成功の鍵となった。

目指すべきYouTubeの方向性

YouTubeの理想形として、何でも揃う「ドン・キホーテ」や「ビックカメラ」のような存在を目指していた。幅広いジャンルの話題を取り扱い、視聴者が求める情報を提供し続けることが重要であった。

また、他の野球系YouTuberとの差別化を図るため、「プロ野球12球団全試合総チェック」のような独自の企画を継続した。ゲストに依存せず、自身の解説力で価値を提供することで、唯一無二のポジションを築いていった。

今後の展望

「里崎チャンネル」は単なる野球解説ではなく、視聴者にとって価値ある情報を提供し続ける場として成長していった。試合ごとの詳細な分析や、独自の視点による解説を武器に、他のメディアでは得られない深い情報を発信していた。

プロ野球界との関係に縛られることなく、自身の意見を自由に述べられる環境を維持しながら、今後もYouTubeを通じて新たな挑戦を続けていく方針であった。

おわりに
これからのスポーツマスコミは、もっと「嫌われる勇気」を持て

スポーツマスコミの現状と課題

世論に迎合するマスコミの姿勢


現在のスポーツマスコミは、世間からの批判を恐れ、どの方面からも反論を受けにくい意見のみを発信する傾向が強まっていた。賛成多数の意見を重視し、本来のジャーナリズム精神を損なっている点が懸念された。

一方で、異なる視点を持つこと自体が問題なのではなく、重要なのは野球の進化や発展を見据えた上で議論を行うことであった。単なる批判ではなく、建設的な意見を提言することが求められていた。

水分補給に関する固定観念

スポーツの現場では、「水を飲ませることが善、飲ませないことが悪」という価値観が定着していた。しかし、水分補給の最適なタイミングや摂取量に関する具体的な研究結果は示されていなかった。

仮に「五回終了時に500ミリリットルのペットボトルの3分の1を摂取するのが適切」という研究結果が発表されれば、それに倣うことが常識となり、これまでの水分補給方法は誤りとされる可能性があった。このように、固定観念は時代とともに変化していくものであった。

時代とともに変わる価値観

令和時代のプロ野球を基準に考えれば、昭和・平成のトレーニング方法は「時代遅れ」とされる傾向にあった。しかし、20年、30年後には令和初期のプロ野球も「古い」と評価されることは避けられなかった。スポーツにおける価値観やトレーニング理論は、時代の流れとともに変化し続けるものであった。

信念を持った取材の重要性

スポーツマスコミは、世論に振り回されることなく、信念を持った取材を行うことが求められていた。「聞いてはいけない質問」「触れてはいけない話題」といった制約に縛られず、球界にとって必要な情報を発信する姿勢が重要であった。

野球界の発展のために、耳の痛い意見を述べることも必要であった。批判を恐れず、正しいと思うことを発信し続けることこそが、スポーツマスコミに求められる役割であった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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