物語の概要
ジャンル:
野球を題材としたスポーツ漫画。前作「MAJOR」の続編として、次世代の選手たちの成長と奮闘を描く作品である。
内容紹介:
本巻では、地区予選の決勝戦を控えた風林中野球部がメンバー入れ替えと戦力再編に臨む。嵐を呼ぶ速球投手・花村三兄弟を擁する川枝中と激突が迫る中、風林中では捕手・道塁が直面する最大の試練が始まる。いきなり先頭打者に本塁打を許した彼女を待ち受けるのは、自らの投球に向き合う時間と、チームの絆を試す場である。勝利か、挫折か――風林中野球部の物語は新たな展開へと踏み出す。
物語の特徴
本巻の魅力は、強敵との真剣勝負における「技術とメンタルの激突」である。スポーツ漫画としての醍醐味である「試合の緊張感」「勝利へのプロセス」が、道塁らの視点を通してリアルに描かれている。また、チームスポーツならではの「仲間との信頼」「役割と責任」のテーマも色濃くあり、単なる個人の成長物語を越えている。さらに、シリーズ続編としての位置づけから、前作からの伝統技術や野球観を継承しつつ、現代的な高校野球の流れも取り入れている点が差別化される。野球部としての再編、勝利への覚悟、そして次世代への期待が交錯する一冊である。書籍情報
MAJOR 2nd(メジャーセカンド) 31
著者:満田拓也 氏
出版社/レーベル:小学館/少年サンデーコミックス
発売日:2025年10月17日
ISBN:978-4-09-854275-8
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あらすじ・内容
正体不明の…魔球炸裂!
負ければ中学野球が終わる地区予選決勝、VS川枝中学。
初回、いきなり先頭打者HRを浴び、先制点を与えてしまった睦子。
気を取り直して、強敵・花村三兄弟と対峙する。
自信満々でバッターボックスに立つ相手に対し睦子は謎の一球を投じ、見事三振を奪う。
果たしてその球の正体は!?
そしてこの試合の行方は!?
目が離せない決勝戦…佳境!
感想
ついに地区予選決勝、風林中学は川枝中学との決戦に臨んだ。試合は初回から動き、風林は先制を許してしまう。しかし、沢弥生の豪快なホームランで即座に逆転。球場の熱気とともにチームの士気は一気に高まった。
先発の佐倉睦子は、独特のシンカーを武器に相手打線を翻弄。初回の失点以降は安定感のある投球を続け、ピンチを冷静に切り抜けていく。その姿はエースとしての風格さえ感じさせた。彼女の投球は、これまでの努力の積み重ねが結実したものであり、チーム全体を鼓舞する存在となっていた。
中盤、キャプテン大吾の放ったスリーランホームランが試合の流れを決定づけるかに見えた。彼の勝負強さとリーダーシップは健在であり、まさにチームの中心であった。しかし、佐倉の球数が限界に達し、試合終盤で投手交代を余儀なくされる。
マウンドを託されたのは仁科明。朝の試合で5失点していた彼にとって、まさに雪辱の機会であった。プレッシャーのかかる場面で、彼がどのようなピッチングを見せるのか、チームも観客も固唾をのんで見守る。
今巻では、登場人物それぞれの成長が際立っていた。佐倉の技巧派投球、大吾の勝負勘、そして仁科の再起。それぞれの努力と想いが交錯し、チームとしての一体感が増していく過程が丁寧に描かれていた。
しかし、野球の勝負は最後まで分からない。仁科の登板が吉と出るか凶と出るか──。風林中の勝利を信じ、次巻の結果を待つしかない。熱気と緊張が交錯する名試合であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
茂野大吾
風林中の主将で捕手である。配球と状況判断で試合を支配し、打席では「4番打者」としての役割に自覚を示した。
- 所属・役職
風林中学野球部・主将・捕手・四番。 - 具体的な行動・成果
盗塁阻止体勢での接触に耐え、守備妨害の適用を審判と確認した。終盤の好機で方針を改め、チーム第一の打撃に徹した結果、勝利に直結する長打(記述上の逆転打)を放った。 - 変化・特筆
父・茂野吾郎の叱咤を契機に「4番目の打者」から「4番打者」への意識転換を果たした。
佐倉睦子
風林中の投手であり、試合を通じて緩急と新球種で打線を抑えた存在である。捕手の大吾と強い信頼関係を築き、要所で「睦子ボール」と呼ばれる変化球を用いた。
- 所属・役職
風林中学野球部・投手。 - 具体的な行動・成果
“110/100/80km/h”帯の直球・スライダー・カーブを使い分け、三振と盗塁阻止の重ね技で回を締めた。新発見の変化球で上位打線の花村三兄弟に対抗した。球数80球で空を三振に取り、役目を果たした。 - 変化・特筆
練習過程で握りを試行し、ナックル様の抜けとシンカー様の沈みを併せ持つ“睦子ボール”を確立した。終盤は球数制限に到達し交代となった。
沢弥生
中軸を担う野手であり、長打力と守備連携で流れを引き寄せた。チーム内で声かけを行い、守備の結束を保った。
- 所属・役職
風林中学野球部・内野手。 - 具体的な行動・成果
特大本塁打と長打で逆転と追加点の機会を作った。相楽からのトスを受けてカバーに入り、場面を立て直した。 - 変化・特筆
中軸として相手バッテリーの配球を崩し、以降の攻撃に好影響を与えた。
眉村道塁
三塁守備で再三の好捕を見せ、攻撃では出塁と長打で好機を拡大した。冷静な視点で試合を支えた。
- 所属・役職
風林中学野球部・三塁手。 - 具体的な行動・成果
三塁線の強打を処理して流れを維持した。二死から安打を放ち、弥生の長打へつなげた。 - 変化・特筆
要所の守備とつなぎでリード維持に貢献した。
相楽太凰
遊撃の要であり、広い守備範囲と機転で綻びを防いだ。チーム内の声かけで士気維持にも寄与した。
- 所属・役職
風林中学野球部・遊撃手。 - 具体的な行動・成果
横っ飛び捕球からの送球で進塁を食い止め、難場を最少失点で切り抜けた。 - 変化・特筆
守備連携の中核として評価を高めた。
仁科明
終盤を託された右腕である。準決勝での不調を修正し、直球主体で真っ向勝負に出た。
- 所属・役職
風林中学野球部・投手(救援)。 - 具体的な行動・成果
先頭から強い直球でストライクを取り、花村陸との満塁勝負も逃げずに対決姿勢を貫いた。 - 変化・特筆
当日の二試合目で修正力を示し、ベンチの信頼を回復した。
藤井千里
先頭打者として出塁し、相手の制球難を突いて流れを呼んだ。控え投手の準備が明示された場面にも関わる。
- 所属・役職
風林中学野球部・外野手(先頭打者)。控え投手の藤井千代とは別人物。 - 具体的な行動・成果
死球で出塁し、初回から相手投手の乱調を見極めて好機を作った。 - 変化・特筆
序盤の攻撃姿勢を象徴し、以降の中軸の得点へつないだ。
佐藤寿也
風林の監督であり、捕手出身の知見で配球と選手起用を整えた。終盤の継投判断で試合をまとめた。
- 所属・役職
風林中学野球部・監督。 - 具体的な行動・成果
睦子に決め球の必要性を示し、練習での試行をサポートした。球数制限を見据えて80球到達で交代を決断した。 - 変化・特筆
妨害判定や相手の作戦意図を即時に読み、現場対応を徹底した。
茂野吾郎
大吾の父であり、観客席から要点を突いた叱咤で意識転換を促した。短時間の来場で存在感を示した。
- 所属・役職
保護者。元プロの視点を持つ人物。 - 具体的な行動・成果
二死からの攻撃における打席方針を大吾へ明確に伝え、結果的に得点機の最大化につながった。 - 変化・特筆
試合直後には姿を消したが、言葉は大吾に残り、打席の質に影響を与えた。
花村空
川枝中の投手であり、兄弟間の継投と駆け引きで主導権奪回を図った。変化球主体で翻弄を狙うタイプである。
- 所属・役職
川枝中学野球部・投手。 - 具体的な行動・成果
登板直後に三振と走塁トリックでゲッツーを成立させ、流れを引き戻した。終盤は睦子の80球目に屈して三振した。 - 変化・特筆
守備ミスを叱責する場面があり、のちに陸の制止で再集中した。
花村海人
川枝中の内外野と投手を兼ねる選手である。出塁と粘りでチャンス拡大を図り、試合を長引かせた。
- 所属・役職
川枝中学野球部・内野手/投手。 - 具体的な行動・成果
投球と守備位置を入れ替えながら試合に関与した。終盤は球数消費を狙う作戦に関与した。 - 変化・特筆
監督である父から、チーム全体を尊重する姿勢を厳しく諭された。
花村陸
川枝中の捕手で主砲である。兄弟を引き締め、要所で強打を狙う軸となった。
- 所属・役職
川枝中学野球部・捕手・主軸。 - 具体的な行動・成果
兄弟げんかを制止してチームを再結束させた。満塁機で仁科と対峙し、勝負の中心となった。 - 変化・特筆
睦子ボールの攻略を狙い続けたが、予測困難性に苦戦した。
展開まとめ
第292話「睦子の秘密兵器!?」
睦子の新たな投球
風林中のエース・睦子は、試合で新たな投球を披露した。彼女は110km/hのストレート、100km/hのスライダー、80km/hのカーブを使い分け、打者・陸を三振に仕留めた。その最後の球はこれまでにない軌道を描き、川枝のベンチもその球種を特定できず、驚愕していた。
謎の変化球と走者の動き
対戦チームの選手たちは、その球がシンカーかナックルか判断できずに混乱していた。次の打者が構える中、捕手・大吾は冷静に配球を指示。睦子が投じたボールは再び不規則に変化し、打者は空振りして三振となった。
同時に、二塁走者の弥生が盗塁を試みた。鋭い反応を見せた大吾は、素早く二塁へ送球した。
連携プレーでのゲッツー成立
遊撃手の太凰が大吾の送球を確実に捕球し、スライディングしてきた走者をタッチアウトにした。結果として、三振と盗塁阻止によるゲッツーが成立し、スリーアウトでチェンジとなった。
守備陣の喜びと安堵
睦子と大吾は拳を突き上げて互いのプレーを称え合い、チーム全体も士気を高めた。ベンチでは監督陣が先頭打者の本塁打以外は無失点で凌げたことに安堵していた。風林は守備の連携で見事にこの回を締め、試合の流れを取り戻したのである。
風林大尾の攻撃開始
1回裏、風林大尾の攻撃が始まり、先頭打者の藤井千里が打席に立った。ベンチでは仲間たちが声援を送り、睦子や大吾もその様子を見守っていた。相手投手・花村海人は初球から制球に不安を見せ、捕手の構えた位置を外す場面が見られた。
川枝バッテリーの戦略と弱点
川枝ベンチでは、監督がチームの投手運用について説明していた。川枝は短いイニングごとに投手を交代させ、3人の投手を順に使う戦術を採用していた。その中で、花村海人は制球力に難があり、もっとも隙がある投手と分析されていた。監督は「ボール球に手を出さず、見極めていけ」と冷静な対応を指示した。
制球難による四球発生
藤井千里は相手の乱れを見極め、バットを振らずに粘り続けた。花村の投球は荒れ、ボールが捕手のミットを外れる場面が増えた。そして、最後の球が内角に大きく外れ、藤井は避けたものの身体に当たり、フォアボールとなった。捕手は謝罪し、川枝ベンチも「ノーコン(制球難)」だと認識していた。
流れを掴む風林ナイン
先頭打者の出塁により、風林ベンチは勢いづいた。監督も「先制されたが落ち着いていこう」と全体を鼓舞し、攻撃の流れを維持するよう指示を出した。チームは冷静な観察と選球眼で、相手の乱調を攻める体勢を整えたのである。
藤井の出塁と次打者・眉村の登場
藤井千里がデッドボールで出塁し、風林ベンチが盛り上がった。胸元への球は危険だったが、千里の細身の体が幸いして軽傷で済んだ。続いて2番・眉村が打席に立ち、チームメイトたちはさらなる得点を期待して見守った。
花村海人の立ち直り
川枝の投手・花村海人は、初回の乱調を引きずらずに立て直しを図った。ストレートでストライクを奪うと、制球が安定し始め、テンポよく投げ込んでいった。その鋭い投球に風林ベンチも驚きを見せ、眉村は連続してストライクを取られた。
巧みな投球と三振の奪取
海人はフォームを変化させながらスピードを上げ、渾身の一球で眉村を三振に仕留めた。風林側はフォアボールの直後に三球三振という展開に動揺を見せ、「この投手は掴みどころがない」と戸惑った。次打者・沢弥生が打席に入ると、川枝バッテリーはさらに自信を深めた。
沢弥生との対決と突破口
捕手は海人の投球を分析し、「フォーシームが最大の武器だが、これまで軟式では一度も打たれていない」と語った。だが、その言葉を裏切るように、弥生は集中して投球を見極め、狙い澄ましたスイングでボールを捉えた。
風林、逆転に成功
弥生の打球は鋭く外野を抜け、ランナーを還すタイムリーヒットとなった。スコアボードには「1-2」と表示され、風林が逆転に成功した。ベンチは歓声に包まれ、試合の流れが完全に風林大尾へと傾いたのである。
第293話「主導権を掴め!」
沢弥生の特大ホームラン
前話での流れを引き継ぎ、風林大尾はなおも攻勢を強めた。沢弥生の強烈なスイングが外野フェンスを越え、スタンド直撃のホームランとなる。これにより風林は2対1と逆転し、チーム全体が大歓声に包まれた。観客席でも沢の豪快な一打に驚きの声が上がり、相手バッテリーもその打球を呆然と見送った。
ベンチの熱気と称賛
沢がベンチに戻ると、睦子や大吾をはじめチームメイト全員が立ち上がって出迎えた。指導陣や応援席からも「沢さんすごい!」と称賛の声が上がる。相手ベンチでも、捕手が「まっすぐを一振りでフェンスオーバーするなんて」と驚嘆していた。川枝バッテリーは想定外の展開に動揺を隠せなかった。
動揺する花村海人
打たれた川枝の投手・花村海人は悔しさを噛みしめつつも「まだ1回、切り替えていけ」と自分を奮い立たせた。しかし、心中では「女に打たれた」という屈辱が残り、平常心を取り戻せずにいた。続く打者・大吾に対しても制球が乱れ、ボールが続いた。
再びランナー出塁と流れの変化
大吾は冷静に見極め、四球を選んで出塁した。これにより再び風林はチャンスを広げ、ベンチはさらに勢いづいた。川枝の捕手はたまらずタイムを要求し、流れを断ち切ろうとする。観戦していた風林側の面々は「お、動いた!」と投手交代の兆しを感じ取った。
花村兄弟の継投へ
川枝監督はすぐさまマウンドに向かい、「ピッチャー交代!」を宣言した。花村海人はショートに回り、弟の花村空がピッチャーとして登板する。風林ナインは新たな投手の登場に警戒を強め、試合は次なる局面へと進もうとしていた。
花村空の登板と兄への叱責
川枝はピッチャーを花村海人から弟の花村空へ交代させた。海人は打たれた動揺を引きずっており、監督から「少しショートで頭を冷やせ」と促されて守備位置を移動する。ベンチでは「早くも先発KOか」とざわめきが広がり、空への期待が集まった。
キレのある変化球で流れを奪う
マウンドに立った花村空は、兄とは対照的に変化球主体の投球を見せた。切れ味鋭いスライダーやフォークでコースを突き、打者のタイミングを完全に外した。その変幻自在なピッチングに、風林打線は反応しきれず、打者・魚住は空振り三振に倒れた。これでツーアウトとなる。
巧妙なトリックプレーによるゲッツー成立
魚住の三振の直後、捕手が後逸したように見せかけるフェイク動作を取った。一塁ランナーの大吾がそれを見て二塁へ走り出すと、捕手は素早くボールを拾い直し、一塁へ送球。これを一塁手が確実に捕球し、ランナーをアウトにしてゲッツーを完成させた。川枝バッテリーの連携が冴え渡り、スリーアウトチェンジとなった。
油断を悔やむ風林ベンチ
ベンチに戻った大吾は悔しげに「後逸を装って釣られた」と反省した。睦子は「逆転はしたけど、やはりこの兄弟は油断できない」と冷静に分析。風林はリードを保ちながらも、花村兄弟の戦術眼と緻密な連携に強い警戒を抱いていた。
睦子の安定した投球
風林のエース・佐藤睦子は、川枝打線を相手に落ち着いた立ち上がりを見せた。初回をわずか10球で抑え、リードを保ったまま試合を進める。彼女の伸びのある球と緩急を活かした投球術が光り、序盤から川枝の勢いを封じ込めた。
互いに三者凡退で膠着
二回表、川枝の攻撃は睦子の制球に翻弄され、打者三人で攻撃が終わる。裏の風林も花村空の切れ味ある変化球を前に三者凡退。両チームとも下位打線が沈黙し、緊迫した投手戦の様相を呈した。
眉村道塁の好守でリズムを守る
三回表、先頭の花村空が自らバットを握り、三塁線への鋭い打球を放つ。しかし、三塁を守る眉村道塁が見事な反応で捕球し、一塁へ送球してアウトに仕留めた。風林は道塁の堅守で守備のリズムを維持し、流れを川枝に渡さなかった。
二巡目の勝負の始まり
ベンチでは「これで二巡目の対決だ」と声が上がる。川枝は風林バッテリーの配球を読み始め、反撃の兆しを見せる。一方、風林側では睦子と大吾が冷静に戦況を分析し、「魔球」とも呼ばれる睦子の決め球がどれほど見切られているかを見極めようとしていた。
緊張が高まる中、主審の「プレイ!」の声とともに、再び勝負の火蓋が切られた。
第294話「睦子ボールの正体!?」
花村三兄弟との勝負
三回表、二アウトから川枝の上位打線に花村三兄弟が続く場面。マウンドの佐藤睦子は、先頭の花村空との対決に臨む。捕手の大吾は「ここで打ち取れば花村三兄弟を断ち切れる」と気を引き締め、配球を指示。睦子は集中した面持ちで投球に入り、伸びのあるストレートを決めてストライクを奪う。川枝ベンチも息を呑む立ち上がりであった。
寿也の指導と思い出
場面は過去の練習場に遡る。風林中の監督・佐藤寿也は、成長した睦子に「そろそろ決め球となる変化球を覚えよう」と提案する。体づくりを進めてきた睦子に対し、寿也は冷静かつ実戦的な助言を与える。
睦子は驚きながらも「教えてください! 必殺の変化球を!」と真剣に懇願。しかし寿也は「俺は捕手出身だ。魔法みたいな球を伝授することはできない」と笑いながらも、「お前に合う球を一緒に探そう」と応じた。
試行錯誤と発見
それからの練習で、睦子は寿也や大吾のサポートを受けながら、無数の握りとリリースを試し続けた。球筋のわずかな違いを大吾が分析し、寿也が技術的な助言を与える。そうして睦子は、自分の指と腕の力に最も合う握り――人差し指と中指の間を広く取り、ナックルのように抜けながらシンカーのように沈む球――を発見した。
“睦子ボール”の完成
そして現在の試合。睦子はその握りを確かめながら投球モーションに入る。リリースの瞬間、ボールは浮き上がるように出てから急激に沈み、花村空のバットを空を切らせた。ベンチの寿也は冷静に頷き、大吾はミットの中でその重みを感じ取る。
――これが、彼女が自ら掴み取った“魔球・睦子ボール”である。
高く弾んだ打球が内野安打に
花村空が“睦子ボール”を叩きつけるように打ち返すと、打球は高く弾んだ。ショートの相楽太凰がすぐに前進して捕球し、一塁へ素早く送球するが、わずかに間に合わず。花村は俊足を活かして内野安打とし、ツーアウト一塁の場面となった。
リードを取る花村空
出塁した花村は大きくリードを取って睦子を揺さぶる。睦子が牽制球を投げるも、花村は動じず、リードの距離を保ち続けた。その冷静さに大吾は「完全に癖を読まれている」と警戒を強める。
盗塁の仕掛けとアクシデント
次の打者・花村海人の打席で、花村空が盗塁を仕掛ける。大吾はすぐさま立ち上がって送球体勢に入るが、その瞬間、バッターのスイングしたバットが大吾のミットに直撃。
強烈な衝撃が走り、大吾は痛みに耐えきれずその場に屈み込んでしまう。
川枝のチャンス拡大
花村空はその隙を突いて二塁へ滑り込み、判定は「セーフ」。
思わぬアクシデントで風林の守備は乱れ、川枝はチャンスを拡大する。
マウンド上の睦子は苦悶の表情を浮かべる大吾を心配そうに見つめ、「大吾!」と声を上げた。
場内の空気が一変し、勝負の流れは再び川枝側へ傾き始めていた。
第295話「痛手…!」
バット直撃のアクシデント
盗塁阻止を狙った大吾のミットに、打者のスイングしたバットが直撃。大吾は激痛でその場にしゃがみ込み、場内がざわつく。マウンドの睦子はすぐに駆け寄り、「大吾!」と心配そうに声をかける。試合は一時中断となり、審判と寿也監督が確認に入った。
守備妨害の確認と再開
大吾は「大丈夫です、ミットに当たっただけです」と痛みをこらえて笑い、再び構える姿を見せる。
寿也監督は冷静に「今のは守備妨害ではありませんか?」と審判に確認。審判は「捕手の送球がバットに妨げられた場合は盗塁無効」と説明し、盗塁は取り消し。ランナーは一塁へ戻り、カウントはワンストライクから再開された。
ベンチの推測
風林ベンチでは、仁科が険しい表情で「今の、わざと当てたんじゃねぇのか?」とつぶやく。
隣の関取が「わざと?」と聞き返すと、仁科は「あの顔つきだ。やってるって」と断言。川枝側が意図的にバットを当て、盗塁を妨害と見せかけて混乱を誘ったと推測していた。
再び向き合うバッテリー
試合が再開され、睦子と大吾は気を引き締め直す。ランナーは依然として大きくリードを取り、川枝打線は挑発的な姿勢を崩さない。
睦子は「また走ってくるか…!?」と集中し、大吾も痛む手を庇いながらサインを出す。
慎重な配球
低めへの投球でストライクを奪うが、川枝の打者は冷静に見送り、依然として仕掛けの気配を見せる。
大吾は「カウントを悪くして睦子に無理をさせるわけにはいかない」と心中で判断し、次の一球を慎重に選んだ。
風林バッテリーは痛みと駆け引きの中で、再び主導権を取り戻そうとしていた。
川枝の狙い
川枝ベンチでは「キャッチャーを狙え」という指示が飛ぶ。茂野大吾がキャッチャーズボックスの前寄りに構えるタイプであることに目を付け、盗塁阻止のため前で捕る姿勢を逆手に取る作戦だった。小柄ながらも訓練された捕手――その特性を分析した上で、バットを意図的に近づける策を立てていた。
罠の再発動
打者は再び大きくテイクバックを取り、意図的にスイングを遅らせる構えを見せる。
投球と同時にランナーがスタートを切り、睦子が反応。鋭い打球を処理し一塁へ送球してアウトを取るが、直後に審判が「タイム!」を宣言。場内に緊張が走る中、判定はまさかの「打撃妨害」だった。
打撃妨害の成立と川枝の意図
川枝の打者は最初から捕手のミットを狙ってバットを振っており、完全に計算された妨害だった。これにより試合は「二死一、二塁」となり、川枝は得点機を継続。ベンチでは監督が「よし!」と冷静に頷く。
一方、風林ベンチではコーチの清水が「何やってんだよ大吾!」と声を上げるが、寿也監督は「最初から打撃妨害を狙っていた」と見抜いていた。
大吾の洞察と睦子の支え
マウンド上で、睦子が「手は大丈夫!?」と心配する。大吾は「うん」と短く答え、「川枝はキャッチャーを下げさせて盗塁しやすくする作戦だったと思った」と冷静に分析する。
さらに「それだけ川枝は睦子から簡単に点を取れないってことだ」と笑い、仲間を鼓舞した。
次打者・花村陸との勝負へ
川枝打線は花村兄弟の三人目・花村陸へとつながる。
睦子は「この陸は申告敬遠した方がよくない?」と尋ねるが、大吾は「こんなところで強敵から逃げてちゃ先はない」と笑って否定。
「大丈夫、勝負だ睦子!」と力強く言い切る。
風林バッテリーは相手の卑劣な戦法にも屈せず、真っ向勝負で挑む決意を固めた。
花村陸との勝負開始
川枝の攻撃は、3番キャッチャー花村陸を迎える。
風林ベンチの面々が緊張の面持ちで見守る中、審判の「プレイ!」の声が響く。大吾は心中で「彼らは必ず睦子ボールを仕留めにくる」と予測し、慎重なリードを決意する。
鋭い投球と圧倒的な制球
睦子は力強く腕を振り抜き、外角低めいっぱいのストレートを投げ込む。大吾が完璧にミットを構え、審判の「ストライーッ!」の声が響く。
さらに2球目もテンポよく投げ込み、再び「ストライー!」。睦子の投球は冴え渡り、川枝の強打者陸もバットを出せずに固まる。
陸の焦りとバッテリーの決意
陸は内心で「スライダーか、ストレートか……くそっ、あのボールが来ねえ!」と焦燥を募らせる。狙っている球が来ないことに苛立ちながらも、睦子の投球に手が出ない。
マウンド上の睦子は静かに大吾のミットを見つめ、「打たせない」と強く心に誓う。
県大会への誓い
試合の緊張が頂点に達する中、睦子は自らの胸に手を当て、「絶対に県大会に行く」と強く念じながら投球フォームに入る。
大吾との信頼を背に、風林のエースとして覚悟を示すように、再び鋭い一球を放つのだった。
第296話「譲れない一球」
睦子の決意と花村陸との対峙
二回表、風林中が2対1でリードする中、相楽睦子は「絶対に抑える」と心に誓い、花村陸との勝負に挑む。力強いストレートを放ち、鋭い打球を浴びかけるが、結果はファウル。
陸は「今のはチェンジアップか」とつぶやき、苛立ちながらも次の決め球を待ち構える。
川枝ベンチと寿也監督の洞察
川枝ベンチでは「早くあの球を投げろ!」と声が上がる。狙いは睦子の代名詞「睦子ボール」。
その一方、風林ベンチの佐藤寿也監督は「追い込んでから粘るな。奴らは睦子ボールを狙っている」と分析。捕手出身らしい鋭い読みで状況を見抜き、大吾に冷静な対応を促す。
バッテリーの覚悟と勝負の一球
大吾は「他の球種で攻めてももう限界だ」と判断し、睦子に勝負を託す。「これ以上カウントを悪くしたくない。手を尽くして打たれるなら仕方ない」と覚悟を決め、決め球を要求。
睦子は「苦しい時に頼れる決め球」と信じ、全身の力を込めて睦子ボールを放つ。
揺らめく変化と三振奪取
投じられた球は、わずかに浮き上がるように見えてから急激に沈み、右打者の膝元へ落ちるシンカー。陸は狙い通りの球だと確信してスイングするが、空を切る。
「スリーストライク、アウト!」――風林の守備陣とベンチが歓喜に包まれる。
ランダム変化球の正体と次回への流れ
川枝ベンチでは「なぜ当たらなかった!?」と騒然。分析担当が「逆方向に曲がった」と報告し、監督は驚愕。佐藤監督が見抜いた通り、睦子のシンカーは毎回軌道が異なる“ランダム変化球”であった。
試合は2対1のまま三回裏へ移り、風林の攻撃は9番ショート・相楽から始まる。流れは完全に風林へ傾こうとしていた。
川枝ベンチの焦燥と睦子への警戒
三回表を無得点に終えた川枝は、風林の女投手・相楽睦子の球威と変化に圧倒されていた。球筋が予測不能で、想像以上に厄介な存在であることを痛感。監督は「この回で得点できなかったのは痛い」と語り、エースに「もうこれ以上の失点は許されない」と叱咤した。
風林の攻撃、ツーアウトからの反撃
三回裏、風林の攻撃が始まる。先頭の相楽、続く藤井が共に凡退し、あっという間にツーアウトとなる。しかしここで2番・眉村道塁が意地を見せる。初球のスライダーを的確に捉え、レフト前ヒットを放って出塁した。
沢弥生の快打でチャンス拡大
続く3番・沢弥生が打席に入る。先ほどホームランを放った勢いを維持し、高めの甘い球を強振。打球は外野の頭上を越えるツーベースヒットとなり、ランナー道塁は三塁へ。
ベンチでは「ナイス弥生!」「ツーアウトからビッグチャンスだ!」と歓声が上がり、チームの士気が一気に高まる。
四番・茂野大吾、勝負の打席へ
ツーアウト二・三塁で迎えるのは、四番キャッチャー・茂野大吾。観客席からは母・薫が「大吾、決めちゃえーっ!!」と声援を送る。
息子の晴れ舞台を見つめるその姿に、かつての野球一家としての誇りが滲む。
風林の攻撃は、主将・大吾のバットに試合の流れを託し、次の一打へと緊迫の空気が張りつめていた。
第297話「4番打者の役割」
二死二・三塁、主将・茂野大吾の打席へ
ツーアウト二、三塁の好機で、風林の4番キャッチャー・茂野大吾が打席に立つ。川枝は「この4番で勝負だ」と決断し、シニア時代から名を馳せた左腕・魚住が構える。観客席では母・薫と藤井姉妹の父・藤井が試合を見守り、スタンド上段には父・茂野吾郎の姿もあった。
緊張と集中の中での初球
初球はストライク。大吾のスイングはやや大振りだったが、ベンチの仲間たちは「タイミングは合ってる」と励ます。眉村道塁は「一塁が空いている状況で勝負されたら悔しい」と冷静に見つめ、試合の緊張感を肌で感じ取っていた。
内面の闘志と4番の意地
大吾は「確かに魚住は体がでかい。でも俺はただの4番目の打者じゃない」と自らを奮い立たせる。相手が自分を軽く見ているように感じ、「俺の他の打席を見てないのか? 俺は“4番目のバッター”じゃなく、“4番打者”なんだ」と心で叫んだ。
変化球に空振り、スタンドの反応
次の球は大きく曲がる変化球。大吾は手を出して空振り、カウントは追い込まれる。薫は思わず「ボールになる変化球じゃん! 何してんのよ大吾!」と声を上げ、隣の藤井は「気負いすぎだな」と冷静に分析する。
茂野吾郎の叱咤と球場の驚き
その直後、スタンド上段から怒号が響く。「でけぇの狙う場面じゃねぇ! 二死から作ってもらったチャンスを雑なバッティングで潰すんじゃねぇ!」
父・吾郎の声に、ベンチも観客も一斉に振り返る。薫と藤井は「えっ、吾郎!?」「遠征で来られないはずじゃ……!?」と驚愕した。
球場に広がる反応と娘たちの父への印象
吾郎はさらに「何年野球やってんだ! 俺は40年やってるぞ!」と叫ぶ。その様子に、二塁ランナーの沢弥生が苦笑しながら「それ関係あるかなぁ」と呟く。一方、三塁ランナーの眉村道塁は、憧れのプロ野球選手・茂野吾郎が目の前で声を上げる姿に感動を覚え、胸を熱くした。
4番打者としての誇りと覚悟
大吾は父の声に動揺しながらも、再びバットを握り直す。
母の声援、仲間の信頼、そして父の叱咤――そのすべてを背負い、「本当の4番打者」として自分の責任を果たすために、次の一球へと全身を集中させた。
父の来訪と再起の決意
大吾の放った打球はファウルとなる。汗をにじませながらバットを握り直した彼は、スタンドに立つ父・茂野吾郎を見つけ、「来てくれたんだ……お父さん」と心の中で呟く。その存在が、大吾の迷いを払拭するきっかけとなった。
父の教えと仲間の想い
「お父さんの言う通りだ」――大吾は自らを省みる。ツーアウトからチャンスをつくってくれたのは三塁ランナーの眉村道塁と、二塁ランナーの沢弥生である。それなのに自分は“4番としてカッコつけたい”という気持ちばかりを優先していたと気づき、深く反省する。
チームプレーへの転換
「四球でも何でもいい、つなぐんだ」
彼は“4番目の打者”ではなく、“チームの4番打者”としての役割を胸に刻む。ベンチには次打者・魚住が控えており、大吾は「魚住くんにつなぐ」と強く念じる。
一方、川枝の投手は慎重に投球を重ね、「これ以上の失点は許されない」と冷静に立ち向かっていた。
渾身のスイング
集中力を極限まで高めた大吾は、父譲りのフォームで球を捉える。強烈なスイングとともに、白球が鋭い放物線を描いて外野へ飛び立った。スタンドやベンチ、グラウンドの全員がその軌道を見守る。
球場が息を呑む瞬間
高々と上がった打球は、センター方向のフェンスを越えてスタンドに吸い込まれていく。
「3ランキターーーッ!!」とベンチが歓声を上げ、風林ナインが総立ちになった。
ホームを駆け抜ける大吾は、笑顔でスタンドを見上げ、「やったよ、お父さん!!」と叫ぶ。
父の姿が消える
しかし、そこに吾郎の姿はもうなかった。驚いた大吾は「……え? いねーっ!? なんてやつっ!?」と苦笑しつつも、父の言葉が自分の中に確かに残っていることを感じる。
この一打は、彼が“本物の4番打者”としての責任を果たした証であった。
第298話「花村三兄弟の負けられない理由」
試合後の余韻と吾郎の独白
風林が劇的な3ランで逆転を果たした直後、場面は男子トイレに移る。茂野吾郎が用を足しながら、心の中で息子・大吾の打撃を回想していた。吾郎は「フフフ、さすが茂野吾郎の息子だろ」と自画自賛しつつ、「きっと今ごろあいつは“お父さんありがとう、すばらしいアドバイスで打てたよ!”とか思ってるに違いない」と、満足げに笑う。
父の分析と息子の成長
吾郎は冷静な目で試合内容を振り返る。「フルカウントから、あのキレのいい外寄りのスライダーをコンパクトなスイングでおっつけながら、外野フェンスを越すなんて……」と感嘆の声を漏らす。そして、「あいつ、知らねぇ間に相当パワーつけてきてんな」と、成長を実感する。
親子の視点の交錯
大吾の見事なホームランは、父からの教えや助言を超えた「自分の野球」としての結果であった。吾郎はその事実に気づきながらも、どこか誇らしげに微笑む。
一方で、外のグラウンドでは仲間たちが歓喜に包まれ、物語は花村兄弟の視点へと移ろうとしていた。
眉村道塁の守備でチェンジ
川枝の攻撃で打者が鋭い打球を放つが、三塁の**眉村道塁(マユム)**が俊敏な反応で捕球し、正確な送球でアウトを取る。スリーアウトとなり、風林はリードを守ったまま攻守交代。ベンチでは「ナイスマユム!」の声が上がり、流れをつかむ。
花村兄弟のミス
川枝の守備に戻ると、ショートの**花村海人(かいと)がゴロを弾き、出塁を許す。これに投手の花村空(そら)**が激しく反応し、「集中切らすな!」と怒鳴る。兄の叱責に対し、海人は「わりぃ……」と謝りながらも、苛立ちを見せる。ベンチでは味方からも「何やってんだよ」と冷たい視線が向けられた。
兄弟げんかとチームの混乱
空は苛立ちを抑えきれず、「てめーがミスしたせいで流れが悪くなってんだぞ!」と弟を責める。海人も「ピッチャーのくせに打たれすぎなんだよ!」と反発。ベンチの空気が険悪になる。
その様子を見た父親であり監督の花村監督は、腕を組みながら呆れ顔を見せる。兄弟喧嘩にチームメイトも困惑していたが、捕手の**陸(りく)**がついに堪忍袋の緒を切り、「いい加減にしろ!!」と怒鳴りつけ、二人の口論を止めた。
兄弟の背景と本音
険悪な空気の中、兄弟は本音をぶつけ合う。
「そもそも俺のホームランで先制したのに、すぐ逆転されたのが悪い!」と空が言えば、海人は「転校してまでここで野球してる意味を忘れたのか!?」と叫ぶ。
彼らは茨城から転校してきた元シニア選手で、無名の中学チームで結果を残し、高校進学への道を切り拓くことを目指していたのだ。
兄弟の決意と執念
海人は「シニアで居場所を失った俺たちは、ここで爪痕を残すしかない!」と叫ぶ。
「有名人の子供や女のいる風林大尾とは違う! 俺たちは実力でのし上がる!」と燃えるような闘志を見せ、再びマウンドへ戻った空も無言で頷く。二人は決意を新たにした。
勝負への再集中
海人は気迫のこもったプレーで打球処理を試み、空は「なんのために軟式に慣れる練習をしてきたと思ってる!」と叫びながら力投。
「この注目度の高いチームを叩いて県大会へ行くんだ!」と己を鼓舞し、チーム全体に火をつける。
しかし、風林のしぶとい攻撃に再びアウトを重ねられ、苛立つ空は「諦めるな!」と声を張り上げた。
その直後、花村監督が「タイム!」をかけ、マウンド上で兄弟と陸が集まるところで場面は終わる。
花村兄弟の交代
川枝は捕手・陸の進言により投手交代を行った。兄の花村空がマウンドを降り、ショートの弟・花村海人が投手として登板した。空は「俺はもう掴まれているし、海人の方が絶対いい」と判断し、自らショートへ回った。
海人の立ち上がり
海人は落ち着いたフォームからストレートを投げ込み、佐倉睦子に対してストライクを取った。力みのない投球であり、チーム全体に再び落ち着きを取り戻させた。
二遊間への打球と併殺成立
続く投球で、睦子の放った打球は二遊間へ飛んだ。ショートの空がこれを確実に捕球し、二塁ベースを踏んで一塁へ送球した。ダブルプレーが成立し、スリーアウトチェンジとなった。
流れの変化
川枝ベンチはこの守備に歓声を上げた。陸が「ナイスゲッツー!」と声を上げ、空も笑顔で応じた。兄弟の連携により、川枝はようやく流れを取り戻したのである。
第299話「決勝戦、終盤へ」
決勝戦の中盤、川枝中の攻撃開始
中学野球の決勝戦は、風林中が4対1で川枝中をリードしていた。試合は5回表、川枝中の攻撃が始まり、7番・竹井が打席に立つ。ピッチャーの睦子は冷静に投げ込み、竹井を打ち取ってワンアウトを奪った。
睦子の安定した投球と控え投手の準備
睦子の投球数が70球に達しつつあり、監督は次の回に備えて控え投手の藤井千代にブルペンで肩を作らせた。捕手の大吾は、睦子が限界に近いことを理解しながらも、集中してリードを続けていた。
川枝中打線の苦戦と監督の焦燥
8番・塚本を迎えた場面でも、睦子は直球で押し切る投球を見せた。川枝中ベンチでは、下位打線が続く状況に焦りが募っていた。次の回で上位打線が回るとはいえ、3点差を覆す展望は薄く、指導陣も厳しい現実を悟っていた。
監督の内省と川枝中への感謝
川枝中の監督は、息子を含む3人の転入生とともに迎えたこの大会を振り返っていた。
突然の転入にもかかわらず、自分たちを受け入れ、最後まで一緒に戦ってくれた川枝中の選手たちへの感謝を噛みしめていたのである。勝敗を超えて、チームとして歩んできた時間に誇りを抱いていた。
思わぬ出塁と試合の転機
打者が放った打球は外野に上がり、容易に処理できるかに見えた。しかし風林の外野手が落球し、川枝中はランナーを出すことに成功する。ベンチは沸き立ち、停滞していた流れにわずかな光が差し込んだ。試合は依然として風林が優勢であったが、終盤に向けて波乱の兆しが見え始めていた。
9番・中野の打席と花村兄弟の進言
5回表、川枝中は2アウト一塁の場面を迎え、打者は9番・中野。
ベンチでは、上位打線である花村兄弟に打順を回すため、出塁が至上命題となっていた。
兄の花村海人は、父である花村監督に「中野には振るなと指示を出せ」と進言するが、監督は即座にそれを拒否し、「自分勝手なことを言うな」と叱責した。
チームとして戦う姿勢を貫くよう、父親としても監督としても厳しく戒めたのである。
海人への叱責と監督の信念
花村監督は、息子の海人に「野球はお前たちだけでやっているものではない」と諭した。
転入してきた自分たちを受け入れてくれた川枝中の仲間たちが、懸命に守備と攻撃を支えていることを忘れるなという叱責であった。
勝利を求める姿勢は当然だが、仲間を見下ろすような傲慢さには断固として否を突き付けた。
睦子の疲労と球数制限の接近
一方、風林中の投手・睦子の投球数は75球に達し、球数制限である80球まで残りわずかだった。
捕手の茂野大吾は、80球を超えても次の打者までは投げられる規定を踏まえながらも、
花村兄弟に打順が回る前にこの回を終わらせようと必死にリードを続けた。
しかし、睦子には明確な疲労が見え始めていた。
デッドボールによる出塁と試合の転機
次打者への投球が逸れ、打者に直撃。デッドボールによって川枝中は再びランナーを出す。
これで1アウト一、二塁のチャンスを作り、ベンチは一気に活気づいた。
試合の流れは少しずつ川枝中に傾き始めていた。
花村兄弟の決意と反撃の兆し
打席には花村海人が立つ。中野が粘ってつないだ出塁に対し、海人は感謝を述べた。
彼は父の叱責を胸に刻み、仲間とともに戦う覚悟を取り戻す。
ベンチも総立ちとなり、川枝中は再び一体となって風林中の守備に挑もうとしていた。
第300話「波乱の足音」
デッドボールで再びチャンス拡大
5回表、川枝中はデッドボールにより一死一、二塁の好機を作った。花村兄弟はベンチで喜び、自分たちの打順の前にランナーが溜まったことに士気を高めていた。観客席でも試合の流れの変化にざわめきが起こり、風林中の守備陣は緊張を強めていた。
花村空の登場と風林のタイム
次打者は川枝中の1番・ショート花村空であった。ここで風林中はタイムを取り、捕手の大吾と投手の睦子を中心にマウンドで作戦を確認した。佐藤寿也監督は、睦子の疲労と球数の限界を考慮しつつ、交代も視野に入れて様子を見守っていた。睦子は息を荒げながらも、まだ続投できると自らの意思を示した。
睦子の決意と続投の意思
佐藤監督は球数的にこの打者が限界と判断していたが、睦子は「まだいけます」と力強く応えた。捕手の大吾もその気迫を受け止め、残り少ない球数でこの打席を抑えることを誓った。80球が目前に迫る中、二人は最後の勝負に挑む構えを見せた。
勝負の火蓋が再び切られる
試合は再開され、川枝中の攻撃は上位打線へと戻った。風林の守備陣は一球一球に神経を集中させ、エース睦子の投球に全力を託していた。
対する花村空は、父・花村監督の言葉を胸に刻み、チームの想いを背負って打席に立った。
試合は決勝戦の命運を分ける、緊迫した局面へ突入していた。
花村空との勝負再開
5回表、川枝中の1番・花村空が打席に立ち、試合は一層の緊張感に包まれた。
風林中の投手・佐倉睦子は球数80球の制限が迫る中、残る一人を抑えるべく全力を振り絞る。
ベンチの佐藤寿也監督は静かに腕を組み、捕手の大吾は「あと一人」と声をかけて睦子を支えた。
睦子は「絶対に抑える」と誓い、全神経を集中させてマウンドに立った。
花村監督の指示と父子の駆け引き
花村空はファウルで粘るが、父である花村監督がタイムを取り「打ち急ぐな」と助言した。
監督は「相手は77球だ。無理に打つな。球数を投げさせて降板させろ」と冷静に指示し、後続の打者・花村海人に繋ぐための戦略を示した。
一方、風林側もその意図を察していた。
寿也の読みと睦子の粘投
寿也監督は「80球まで投げさせて降板を狙っている」と川枝中の思惑を見抜く。
大吾は配球を工夫し、睦子の疲れを悟らせないリードを続けた。
睦子はわずかに球筋が浮き始めるも、気迫でボールを押し込み、なんとかカウントを整えていった。
限界の中での真っ向勝負
79球目、渾身のストレートが決まり、ストライク。寿也監督は静かに頷き、「これで次の打者には交代だ」と判断。
打席の花村空は「これが最後の球だ」と覚悟し、全身でスイングに挑んだ。
勝負の一球、そして三振
睦子が最後の力を振り絞って投げ込んだ80球目――
空のフルスイングは空を切り、捕手・大吾のミットが快音を立てた。
主審の声が響く。「バッター、アウト!」
風林中ベンチが沸き、守備陣は互いに声を掛け合って睦子を称えた。
寿也の労いと交代決定
ベンチへ戻った睦子に、佐藤寿也監督は穏やかな笑みで言葉をかけた。
「よく投げてくれた。最高のピッチングだったよ。ありがとう。」
睦子は汗と涙を浮かべながら深く頷き、役目を果たした安堵の表情を見せた。
次なるマウンドへ
寿也監督が審判に告げる。
「風林大尾、ピッチャー佐倉さんに代わりまして――仁科君!」
新たな投手・仁科がマウンドへ向かい、ボールを受け取る。
こうして、佐倉睦子の80球の奮闘は終わり、風林中は次なる勝負へとバトンを渡した。
新投手・仁科の登板
5回を投げ切った佐倉睦子に代わり、風林中は仁科明がマウンドへ上がった。
観客席の卜部とアンディは「千代じゃないのか!?」と驚き、寿也監督の采配に注目する。
仁科はこの大会初登板。ピンチの場面からの登板という重責を背負っての出番となった。
仁科への信頼とチームの引き継ぎ
マウンド上で睦子は「ごめん、ランナー残しちゃって」と仁科に頭を下げる。
仁科は「ああ、任せとけ」と応え、睦子の思いを受け継ぐ形で試合を再開した。
大吾は「頼むぞ、仁科!」と声を張り上げ、チーム全体が彼の初投球を見守った。
川枝中・花村兄弟の次なる攻撃
打席には川枝中の2番・花村海人が立つ。兄の空が果たせなかった出塁を取り返すべく、気迫を漲らせていた。
川枝ベンチでは「朝の準決で先発して5失点した投手だ」と仁科の制球難を警戒しつつも、チャンスを逃すまいと意気込んでいた。
勝負の舞台は再び整う
主審の「プレイ!」の声で試合が再開。
大吾のミットに視線を集中させた仁科は、強い眼差しで一球目を投げ込む構えを見せる。
彼にとってこの一球は、過去の挫折を乗り越え、再びチームに信頼を示すための第一歩であった。
仁科の全力投球、試合再開
6回表、風林中の新投手・仁科明がマウンドに立つ。背番号11を背負い、初球から力強いストレートを投げ込むと、主審の声が響く。「ストライク!」。観客席の卜部とアンディは驚き、「今朝の準決とは別人だ」と舌を巻いた。仁科の球は明らかにスピードとキレを増しており、佐藤寿也監督も腕を組んだまま静かに頷いていた。
仁科の覚悟と修正された投球
今朝の準決勝では制球を乱し、5失点していた仁科。しかし彼は「あんな情けないピッチングは二度としねえ」と心に誓い、今は迷いのないフォームで投げ抜いていた。ストレートは捕手・大吾のミットに突き刺さり、川枝中ベンチからも「速い!」と驚きの声が上がる。
花村海人との勝負の幕開け
打席には川枝中の2番・花村海人。仁科の球に必死に食らいつき、連続でファウルを放つ。「いいぞ、合ってる!」と川枝ベンチが声を張り上げる中、風林ベンチからも佐倉睦子が「頑張れ仁科君!」と激励を送る。一方の仁科は、真っ直ぐを信じて腕を振り抜き続けた。
真っ向勝負と制球の変化
打者・海人は仁科の速球に押されつつも、「ほとんどど真ん中に投げ込んでくる」と読み始めていた。それでも、あまりの球威に押され、タイミングをずらされたまま空振りやファウルを繰り返す。大吾も「このストレート、もし真ん中でなければすでに三振してる」と分析していた。
仁科の意地と闘志
仁科は真っ向勝負を貫き、全力のストレートを投げ込み続けた。その剛速球に押されながらも、打席の花村海人は必死に食らいつく。彼の脳裏には、これまでの悔しさと意地が交錯していた。「俺たちもまだ諦めるわけにはいかねぇ!」と心で叫びながら、全身の力を込めてバットを振り抜く。球場には両者の意地がぶつかり合う音が響き、戦況はさらなる緊迫を帯びていった。
太凰のファインプレー、満塁の危機
仁科の速球を打たれ、鋭い打球がセンター方向へ抜けかけた瞬間、ショートの相楽太凰が横っ飛びで捕球した。体勢を崩しながらもすぐに二塁へトスし、ベースカバーに入った沢弥生が捕球する。しかし走者の足がわずかに早く、アウトにはできず。風林はツーアウト満塁のピンチを迎えることとなった。
称賛とチームの士気
相楽太凰は沢弥生に「ごめん、ちょっとトスがゆるかったかも」と声をかけたが、沢はすぐに笑顔で「全然、止めただけでGJよ太凰!」と親指を立てて応えた。互いの信頼が感じられるやり取りにより、守備陣の士気は一気に高まった。ベンチからも拍手が起こり、風林ナインの集中力が再び引き締まった。
強打者・花村陸との勝負
次打者として川枝中の3番・キャッチャー花村陸が打席に立つ。兄の海人を支える頼れる主将であり、チームの中核を担う強打者だ。スタンドの空気が一気に張り詰め、両チームの視線がマウンドへと集まる。
迷わぬ選択とバッテリーの覚悟
ツーアウト満塁、ホームランなら同点という場面。捕手の茂野大吾はマウンドに歩み寄り、仁科へ問いかける。「歩かせて押し出すか?」。だが仁科は即座に首を振り、「勝負に決まってんだろ!」と力強く答えた。大吾はその気迫を受け止め、「オッケー!」と応じてマスクを被り直す。
再び火花を散らす勝負
ベンチでは佐藤寿也監督も無言で見守り、全員の視線が一点に集中する。大吾はミットを構え、「大丈夫! 思いきり腕を振ってこい、仁科!!」と叫ぶ。主審の「プレイ!」の声が響き、仁科は渾身の力でストレートを投げ込む。打席の花村陸もまた集中を高め、勝負の一球を迎えるのであった。
同シリーズ
MAJOR 2nd(メジャーセカンド)






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