漫画「アルスラーン戦記 1」感想・ネタバレ・アニメ化

漫画「アルスラーン戦記 1」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
ヒロイック・ファンタジー/歴史ファンタジー漫画である。中東風の架空の大陸パルス王国を舞台に、若き王太子アルスラーンが国家の崩壊を経てもなお、理想と信念を胸に奮闘する叙事詩的物語である。荒川弘の手によって描かれた本作は、原作小説の世界観と登場人物をビジュアル化しつつ、戦場の空気や登場人物の心理を丁寧に再構成している。
内容紹介
パルス王国では、蛮族ルシタニアの再侵攻と味方将軍の裏切りにより絶体絶命の危機に陥る。14歳の王太子アルスラーンは初陣で敗北し、王国は壊滅的な打撃を受けた。生き延びた彼は忠実な傭兵騎士ダリューンとともに逃亡し、知略に優れた策略家ナルサスやその弟子エラムを仲間に加え、王都奪還を目指す旅に出る。だがその背後には、「銀仮面」の男による王位を巡る陰謀や正統性をめぐる大きな争いの影が蠢いていた。

主要キャラクター

  • アルスラーン:本シリーズの主人公であり、パルス王国の王太子である。優しい心と強い正義感を持ちながらも、自らの無力さと向き合い、成長を強いられる若き王子である。
  • ダリューン:パルスの有力な騎士で、アルスラーンの護衛兼剣士。非凡な戦闘力と忠誠心をもって若き王子を支える頼れる武人である。
  • ナルサス:知略と策略に長けた策略家で、アルスラーンの参謀的存在。巧みな戦略と洞察力で旅路を導く冷静な賢人である。
  • エラム:ナルサスの弟子兼随行者の少年であり、アルスラーンの旅に同行する。成長と葛藤を抱えながら旅を続ける存在である。
  • 銀仮面の男(ヒルメス):謎めいた“銀仮面”を身につけた人物であり、パルス王国の正当な王位継承者を自称する影の存在。物語の根底にある王位を巡る陰謀の鍵を握る。

物語の特徴

本作の魅力は、荒川弘 の繊細かつ力強い作画によって再現された戦場や人物の感情表現、および原作小説では描かれきれなかった細やかな心理描写が視覚的に補強されている点にある。若き王太子が国家の崩壊という圧倒的な逆境に晒されながらも、自分の信念を貫こうとする姿が、戦略・戦術・人間ドラマと融合して描かれている。さらに、裏切りや策略、国家の正統性をめぐる葛藤といったテーマが視覚的な迫力と相まって、原作小説とは異なるリアルさと緊張感をもたらしている。

書籍情報

アルスラーン戦記 1
著者:荒川弘 氏
原作:田中芳樹  氏

ブックライブで購入 BOOK☆WALKERで購入

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

大陸公路の強国「パルス」の若き王子・アルスラーン。永遠と思われた国の栄華が終わりを告げた時、すべての運命が変わる!! 荒川 弘×田中芳樹の最強タッグで描く、世界最高の歴史ファンタジー、最新作!


国が燃えている‥。世界はどれだけ広いのか? 強国「パルス」の王子・アルスラーンは、いまだ何者でもなく、ただ好奇心にあふれていた。「頼りない」「気弱」「器量不足」と言われたアルスラーンが14歳になった時、遠国の異教徒がパルスへ侵攻。アルスラーンは初陣の時を迎える。パルス軍の強さは古今無双。この戦もパルスの圧勝に終わると誰もが信じていた‥‥。奈落へと落ちたアルスラーンの運命! 激動の英雄譚、開幕!!

アルスラーン戦記(1)

感想

読み終えて、まず感じたのは、原作の持つ重厚な世界観が、見事に漫画として表現されているということだ。田中芳樹先生の紡ぎ出す物語を、荒川先生ならではの力強い筆致で描き出しており、ページをめくる手が止まらなかった。

物語は、大陸公路の強国パルスの王子、アルスラーンの視点から始まる。まだ幼さの残るアルスラーンは、気弱で頼りないと言われることもある。しかし、その奥には、未来を見据える強い意志が秘められているように感じられる。そんなアルスラーンが、アトロパテネの会戦で、過酷な現実を突きつけられるのだ。

ユーザー感想メモにもあるように、アトロパテネの会戦は、物語の大きな転換点となる。アンドラゴラス王の傲慢さ、敵の巧妙な罠、そして、多くの兵士たちの命が失われていく様子が、荒川先生の迫力ある絵によって、より鮮烈に伝わってくる。

特に印象的だったのは、ダリューンの存在感だ。荒川先生の描くダリューンは、とにかくかっこいい。その武勇はもちろんのこと、アルスラーンに対する忠誠心、そして、冷静沈着な判断力。すべてにおいて、理想的な騎士像として描かれている。彼の活躍は、物語に希望の光を灯してくれる。

アルスラーン自身も、カーラーンに捕らえられ、絶体絶命の危機に陥る。しかし、ダリューンによって救出され、辛くも戦場から離脱する。この場面は、手に汗握る展開であり物語に引き込む力があった。

また、アルスラーンの表情が豊かに描かれているのも、この漫画版の魅力の一つだ。不安、悲しみ、決意。様々な感情が、彼の表情から伝わってくる。読者は、アルスラーンと共に、喜び、悲しみ、そして、成長していく過程を体験することができる。

会戦後、アルスラーンはダリューンと共に、反撃の機会を探るためバシュル山へと向かう。失意の中、それでも前を向こうとするアルスラーンの姿には、心を打たれるものがある。彼は、この苦難を乗り越え、真の英雄へと成長していくのだろうか。今後の展開が非常に楽しみである。

荒川弘先生の『アルスラーン戦記』は、原作の魅力を最大限に引き出し、さらに、漫画ならではの表現を加えることによって、新たな魅力を生み出している。原作ファンはもちろんのこと、初めて『アルスラーン戦記』に触れる人にも、自信を持っておすすめできる作品である。

最後までお読み頂きありがとうございます。

ブックライブで購入 BOOK☆WALKERで購入

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

パルス王国

アルスラーン

王太子であり、初陣を迎えた若者である。父王から冷遇されつつも、民や捕虜の少年との交流を通じて、王とは何かを模索している。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・王太子。
・物語内での具体的な行動や成果
 剣術の稽古に励んだが未熟さを自覚した。市街で捕虜の少年兵に人質にされつつも彼を助けた。街の少年たちを寛大に許した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 民衆から頼りないと評される一方、少数から忠誠を誓われるなど評価が揺れている。

アンドラゴラス三世

国王であり、不敗を誇る存在として威厳を示していたが、戦場で敗北を喫し捕虜となった。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・国王。
・物語内での具体的な行動や成果
 アトロパテネで八万の騎兵に突撃を命じたが、罠に嵌まり潰走を招いた。戦場から退却を決断し、のちに銀仮面に捕らえられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「不敗の王」の威信を失墜し、王国軍の士気を大きく損ねた。

タハミーネ

王妃であり、アルスラーンの母である。冷静な態度を保ちつつ、息子の成長に期待を寄せている。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・王妃。
・物語内での具体的な行動や成果
 アルスラーンに「立派な王」を目指すよう助言した。戦勝報告を受けた王の態度を見守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王妃としての立場を崩さず、王と王子の間に温度差を感じさせた。

ヴァフリーズ

壮年の将であり、アルスラーンの剣術指南役である。理知的で冷静な人物である。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・大将軍。王都守護の任務。
・物語内での具体的な行動や成果
 アルスラーンに剣の基礎を教えた。戦場で国王を護衛し、敗北を悟って退却を進言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 渓路で銀仮面に討たれ、戦場で命を落とした。

ダリューン

黒衣の騎士と称される将軍で、甥としてヴァフリーズに育てられた。忠義に厚く、王子を守る決意を固めている。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・騎士。黒槍を用いる。
・物語内での具体的な行動や成果
 王の命令に異を唱えたため叱責を受けたが、のちに単騎で戦場を駆け抜けアルスラーンを救出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王子の最重要な護衛となり、敗走後はナルサスを頼ることを提案した。

キシュワード

双刀を操る将軍であり、戦場での活躍が語られた。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・双刀将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
 ルシタニア軍撃退の報を王都へもたらした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王の信頼を得て報告役を担った。

シャプール

万騎長の一人で、勇猛な将軍である。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・万騎長。
・物語内での具体的な行動や成果
 アトロパテネに参戦し、重傷を負った。部下が戦死者を報告したが、本人の安否は伏せられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦場で大きな損耗を受け、存命かどうかが不明とされた。

クバード

武将の一人であり、忠誠の在り方をめぐって諸将と対立した。
・所属組織、地位や役職
 パルス王国・将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
 退却時にシャプールと意見を戦わせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 退却を巡る混乱の中で存在感を示した。

ナルサス

元官僚であり、博識の戦略家である。
・所属組織、地位や役職
 隠棲中の元パルス官僚。
・物語内での具体的な行動や成果
 山荘にてアルスラーンと再会した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王子一行の新たな拠点として迎え入れられた。

エラム

ナルサスに仕える侍童である。忠義心が強く、主を護ろうとする。
・所属組織、地位や役職
 ナルサスの侍童。
・物語内での具体的な行動や成果
 山荘に近づく侵入者に矢を放ち、警戒を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アルスラーン一行と初めて接触した。

ルシタニア軍

捕虜の少年兵

ルシタニア軍に従軍させられた少年で、宗教的狂信を抱いていた。
・所属組織、地位や役職
 ルシタニア軍・捕虜。
・物語内での具体的な行動や成果
 パルスで捕虜となったが逃走し、アルスラーンを人質にした。奴隷制度を否定し、宗教的教義を説いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 逃亡後、西方へ姿を消した。

裏切り者・異端勢力

カーラーン

大将軍の一人であったが、裏切りによって王国を危機に陥れた。
・所属組織、地位や役職
 元パルス王国・大将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
 戦場でアルスラーンを保護するふりをして接近し、ルシタニア軍と通じていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 裏切りが発覚し、ダリューンと激突したが逃走した。

銀仮面の男

正体不明の存在であり、強烈な怨嗟を抱えている。
・所属組織、地位や役職
 不明。
・物語内での具体的な行動や成果
 退却途上でヴァフリーズを討ち、アンドラゴラスを捕縛した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 十六年にわたる怨恨を吐露し、物語に大きな脅威として登場した。

展開まとめ

第一章 エクバターナの栄華

騎馬軍の突撃開始
戦場において、重装の騎馬軍が突撃の号令を受けて前進した。統率者が「突撃」を命じると、馬鎧で武装した騎兵たちが一斉に槍を構えて進軍し、敵の陣営に衝撃を与えた。

歩兵との衝突
騎兵は敵歩兵の盾と槍の陣に突入し、正面からの激突が起こった。馬と兵の突進により、歩兵側は弾き飛ばされ、盾や槍が破壊されるなど激しい乱戦となった。戦場には負傷兵が倒れ、布陣が乱れていった。

戦場の象徴的描写
戦闘の最中、旗を掲げて立つ兵士の姿が描かれ、戦場の緊迫感が象徴的に示された。また、空を飛ぶ鷲の姿とともに、戦場の広がりと都市エクバターナの景観が描写され、戦の舞台が強調された。

アルスラーンの剣術稽古
場面は変わり、若きアルスラーンが城内で剣の稽古をしていた。相手は壮年の将ヴァフリーズであり、彼はアルスラーンに基本の剣術を教えていた。アルスラーンは必死に剣を振るったが押され気味であり、剣を弾き飛ばされて倒れ込んだ。

ヴァフリーズの指導
ヴァフリーズは剣術の基本動作を鍛える重要性を説き、基礎を疎かにしては技の威力を失うと教えた。稽古を終えたアルスラーンは地面に座り込み、ヴァフリーズは彼に基本を磨くことを続けるよう指導した。

稽古の余韻
稽古後、アルスラーンはまだ未熟さを見せながらも努力を重ねていた。場面の締めくくりとして、彼が退屈そうに「つまらない」と口にしたことが描かれた。

ヴァフリーズの任務と剣の稽古
アルスラーンはヴァフリーズが遠征に随行しなかった理由を問うた。ヴァフリーズは、王都エクバターナの守護を担う役目を命じられていると説明した。さらに彼は、王となる者が剣の基礎をおろそかにしてはならないと説き、アルスラーンに稽古を続けるよう諭した。

母タハミーネとの会話
アルスラーンは母タハミーネ王妃に迎えられ、父のように立派な王を目指しているが、なかなか成果が上がらないと語った。王妃は大将軍ヴァフリーズの指導を高く評価しつつも、息子に期待を寄せていた。アルスラーンは「立派な王」とは何か、その意味に思いを巡らせた。

鷹狩りと報告の帰還
アルスラーンは鷹アズライールを迎え、無事の帰還を喜んだ。そこへ双刀将軍キシュワードが現れ、友邦マルヤムに侵攻したルシタニア軍をパルス軍が撃退したと報告した。さらに王アンドラゴラス三世の帰還が伝えられた。

アンドラゴラス三世の凱旋
王都の民衆はアンドラゴラス三世の凱旋を歓迎した。捕虜となったルシタニア兵の中には少年兵もおり、市民は異国の残虐さを口々に語った。また、王国の武将たち、カーラーンやクバードらの姿も描かれ、民衆から尊敬と畏怖を集めていた。

王とアルスラーンの対面
アルスラーンは父アンドラゴラス三世の凱旋に出迎え、無事を喜んだ。しかし王は遠征で敗北するはずがないと断言し、威厳を示した。ヴァフリーズには留守の報告を命じ、軍事的関心を最優先とする姿勢を示した。

アルスラーンの未熟さと周囲の評価
民衆の中には、アルスラーンを頼りないと評する声もあった。彼自身も「立派な王」となる道を模索していたが、その姿は周囲からまだ未熟と見なされていた。物語は、王都の裏路地に潜む存在の描写で次の展開へと繋がった。

捕虜の少年兵との出会い
アルスラーンは市中でルシタニア兵の捕虜の少年を目にした。少年は子供ながら戦場に立たされており、鎖につながれていた。市井の少年たちは捕虜を見て騒ぎ立て、彼を侮蔑的に扱った。

捕虜逃走の混乱
少年捕虜は機を見て逃走を図り、城門付近は一時的に混乱に包まれた。城門は急遽閉ざされ、出入りの商人や旅人たちも騒然となった。兵士たちは逃亡者を追跡し、市街は落ち着きを失った。

ダリューンの登場
そのころ騒ぎを耳にした騎士ダリューンが厩舎にて異変を知る場面が描かれた。報告を受けた彼は即座に行動を開始し、捕虜の逃走劇に関与していくことが示唆された。

アルスラーンの巻き込まれ
逃走した少年捕虜は、混乱の最中にアルスラーンを人質に取った。市街の兵士たちは包囲したが、捕虜はアルスラーンを盾にしながら抵抗した。その後、少年捕虜はアルスラーンを連れ、建物の中庭を経由して市中を逃走した。

市中での追走と転落
少年捕虜とアルスラーンは市街を駆け抜け、洗濯場へ転落した。民衆は驚きながらも、王子の姿を確認したことで騒然とした。少年捕虜はなおも逃走を続け、アルスラーンも必死にその後を追った。

再びの危機と救助
少年捕虜とアルスラーンは市場での追走中、動物檻の一角に飛び込んだ。キリンの檻に迷い込んだ二人は、もみ合いの末に転落しかけたが、アルスラーンが少年捕虜を助ける形で危機を免れた。

市場での逃亡の始まり
捕虜として捕らえられていた異国の少年は、奴隷として処分されそうになる状況から逃亡を試み、アルスラーンを人質にして市場の中を駆け抜けた。周囲の兵士たちは少年を追跡しつつも、王子を害することを恐れて手を出せずにいた。

市場での対話
逃亡の最中、アルスラーンは見慣れぬ動物や交易品に目を奪われ、この国が物資に恵まれていることを実感した。これに対し、少年は「奴隷の存在こそが国の歪んだ姿だ」と強く否定した。少年はイアルダボート神の教えに基づき「人は皆平等である」と語り、奴隷制度を不義と断じた。

宗教と文化の衝突
二人の会話は宗教の違いへと発展した。アルスラーンは「同じ神を信じているのになぜ争うのか」と疑問を呈したが、少年は「教えに従わぬ異教徒は滅ぼされるべきだ」と答えた。アルスラーンはその過激さに言葉を失い、宗派の違いが争いの原因であることを理解した。

王宮の場面
場面は王宮へ移り、戦勝の報告を受けるアンドラゴラス王と王妃タハミーネの姿が描かれた。王は威容を誇示し続け、王妃は冷静にそれを受け止めるが、二人の間には温度差が漂っていた。

城壁での決断
追い詰められた少年は、逃げ場を失いながらもアルスラーンを伴い城壁の上に立った。絶望の中で彼は人質ごと飛び降りる道を選び、周囲の兵士たちはその衝撃的な行動に声を上げた。

川への落下と逃走
少年奴隷に人質とされたアルスラーンは共に城壁から川へ落下した。二人は岸に辿り着いたが、少年は馬を奪って西方へと逃亡した。

街の少年たちの失態と叱責
アルスラーンが人質にされた原因を作った街の少年たちは、兵士から「覚悟はできておるのだろうな!」と厳しく叱責された。彼らは処罰を覚悟したが、アルスラーンは「良い、放してやれ」「無事ならそれで良い」と命じた。兵士は驚きつつ従い、少年たちは解放された。解放された少年たちは「大きくなったら必ず騎兵隊に入り殿下を守る」と忠誠を誓った。

アルスラーンの内省
アルスラーンは、自身を人質にした少年の言葉を思い返し、「王宮で教えられたものとは一味違っていて面白かった」と感じた。さらに「囚われている他のルシタニア人にも色々聞いてみよう」と決意した。

奴隷商人との対話
奴隷商人のもとを訪れたアルスラーンは、既にルシタニア人奴隷が殺されていることを知った。商人は「ルシタニア人など獣と同じで、飼い慣らすことはできません」と語った。アルスラーンは「素直に奴隷となっておれば命を落とさずに済んだものを…なぜなのだ」と疑問を抱き、「私には解らぬよ、ダリューン」と吐露した。

未来への布石
その問いに対し、ダリューンは「いつか殿下が王位に御即位なされましたら、登用していただきたい友人がいます」と口にしたが、すぐに取り消した。アルスラーンは「なんだ、思わせぶりな! まだこの先何十年も父上の王位は揺るがぬだろうよ」と応じた。

第二章 アトロパテネの会戦

剣の稽古の成果
アルスラーンは大将軍ヴァフリーズの下で剣の稽古を重ねていた。しかし何度挑んでも剣を受け止めきれず、自らの未熟さに落ち込んでいた。ヴァフリーズは「確実に上達している」と励ましたが、アルスラーンは実感を持てずにいた。

戦の兆し
アルスラーンは、実際の戦に出れば自らの力量を理解できるのではと考えた。しかしヴァフリーズは「パルス王国に戦を仕掛ける者はいない」と楽観的に語り、戦の機会はまだ先であると見ていた。

王からの書状
その時、アンドラゴラス三世からの急報が届いた。ヴァフリーズは内容を確認し、事態の重大さに目を見開いた。書状には「戦が始まる」と記されており、状況が一変した。

不穏な儀式
同じ頃、暗黒の儀式が執り行われていた。仮面をつけた男と怪しげな僧侶たちが火炎の前で祈りを捧げ、ルシタニア軍の侵攻とパルス王国の滅亡を願っていた。その光景は不気味であり、異端の気配に満ちていた。

戦乱の幕開け
時はパルス暦320年秋、ルシタニア軍は西北方のマルヤム王国を滅ぼし、パルス領内へ侵入した。アンドラゴラス三世は自ら軍を率い、アトロパテネの野で侵略軍と戦う決断を下した。こうして王太子アルスラーンの初陣が定まったのである。

カーラーンの報告とアルスラーンの不安
アルスラーンは大将軍カーラーンから戦況を聞き、味方の兵力や敵軍ルシタニアの動向を学んだ。だが心中では父王の厳しさを思い出し、不安を募らせていた。鷹アズライールの偵察で湿った羽根が戻り、戦場に不穏な気配を感じ取った。

濃霧の到来
平原一帯を濃霧が覆い、視界が利かなくなった。兵たちも落ち着きを失い、初陣のアルスラーンは不安を隠せなかった。ヴァフリーズは「王子を軽んじるな」と周囲を戒めたが、霧下の戦は難航を予感させた。

本陣での口論
本陣ではダリューンが霧下での突撃を避けるべきだと進言したが、王アンドラゴラスはこれを臆病と見なし、不興を買った。ヴァフリーズは場を収めたものの、王と将軍の間には緊張が走った。

カーラーンの策謀
その裏でカーラーンはダリューンに王に忠言せよと進言しつつ、別の思惑を抱えていた。彼はルシタニア軍との戦で敗北を招きうる策を進めており、言葉の端々に不穏さが漂った。王はなおも強硬な態度を崩さず、反対する者を押さえつけた。

ヴァフリーズの忠告とアルスラーンの孤立
戦前、ヴァフリーズはダリューンに「アルスラーン殿下の味方であってほしい」と告げた。王太子は父王から冷遇され続け、孤立を深めていたためである。ダリューンは甥としての忠誠を誓い、王子を守る覚悟を固めた。

突撃命令と敵の布陣
戦場を覆う濃霧の中、敵の配置は視認できなかった。だがアンドラゴラス三世は伝統の祈りを捧げ、騎兵八万五千に突撃を命じた。王自らも先頭に立ち、旧王たちの霊に誓って軍を守ると宣言した。

罠に嵌まった騎兵
突撃した先には断崖と落とし穴が待ち受けていた。先陣は次々と転落し、混乱が後続に広がった。さらに地面には油が撒かれており、ルシタニア軍は火矢を放って一帯を火炎地獄へと変貌させた。

炎と矢の集中攻撃
霧に照らされた火勢によってパルス軍の位置は露見し、塔車からの矢雨が襲いかかった。逃げ場を失った騎兵は次々と炎に呑まれ、混乱と潰走が拡大した。勇猛に火壁を越えた兵も矢と火に倒れ、戦場は屍山血河と化した。

アルスラーンの初陣の惨烈
アルスラーンは目の前で兵が焼き尽くされる惨状を目撃し、声を上げて絶望した。ヴァフリーズやダリューンの姿を必死に探し求めたが、火焔と煙に呑まれ、仲間の安否も知れぬ状況に追い込まれた。

王子孤立とカーラーンの出現
アルスラーンは戦場で孤立し、混乱の中で部下を失った衝撃に苛まれた。そこへ現れたのはカーラーンであり、彼は王子を発見したと告げ、従兵と共に近づいてきた。アルスラーンは一時的に救われたかに見えたが、その眼差しには不穏な影が潜んでいた。

第三章 黒衣の騎士

カーラーン失踪と裏切りの露見
本陣ではアンドラゴラス三世がカーラーンの所在を求めたが、誰もその姿を確認できず、裏切りの疑念が濃厚となった。ヴァフリーズは冷静に状況を分析し、カーラーンの動向が戦局を左右することを看破した。国王もまたその裏切りを認めざるを得ず、戦略の基盤が揺らいだ。

ダリューンへの命と黒衣の突入
ヴァフリーズは国王の護衛に残ることを選び、甥のダリューンにアルスラーン救出を託した。ダリューンは黒衣に身を固め、ただ一騎で炎と矢の乱舞する戦場を駆け抜けた。その勇姿は千騎に匹敵し、王子のもとへ急行する様は兵たちに畏怖を与えた。

退却進言と王の決断
ヴァフリーズは敗北を明言し、退却を進言した。アンドラゴラスは帝国の威信を守ろうと逡巡したが、王妃の安否を引き合いに出され、ついに退却を決断した。王の撤退は兵士たちに動揺を走らせ、戦列は一層崩壊へと傾いた。

退却の波紋と諸将の対立
「王が逃げた」という報は瞬く間に広がり、兵たちの士気を一気に奪った。

シャプールは憤激しつつも王の威信を守るべきと叫び、クバードは忠誠の在り方を巡って反論した。両者の衝突は決闘寸前に至るが、敵襲により中断され、それぞれが自軍を率いて離脱路確保へと転じた。

戦場の総崩れ
アンドラゴラスの退却は「不敗の王」の権威を失墜させ、ルシタニア軍は勝利を確信して進撃を強めた。パルス軍は潰走寸前に追い込まれ、戦場は完全に敵の掌中に落ちたのである。

黒槍の突入とカーラーンの裏切り発覚
ダリューンは霧と炎の戦場でアルスラーンを捜索し、カーラーンの部隊と遭遇した。周囲の兵がルシタニア軍であることから、彼の裏切りが露見した。カーラーンは「王国の未来」を口実にアンドラゴラス排除へ加担したことを認め、万騎長解任もその布石であったと嘲笑した。

激戦と王子救出の優先
ダリューンは圧倒的な剣技で敵兵を斬り伏せ、カーラーンを追い詰めた。しかし敵弓兵の援護によりカーラーンは退却、ダリューンも王子保護を優先し、深追いを断念して転進した。彼は血まみれのアルスラーンを発見し、自らの手で守ることを誓った。

渓路での伏兵と銀仮面の襲撃
退却途上、王一行は狭隘な道で伏兵の矢雨を受け、アンドラゴラスとヴァフリーズが重傷を負った。動揺の中、銀仮面の男が出現し、ヴァフリーズを一刀のもとに斬殺した。男は十六年の怨嗟を吐き出し、アンドラゴラスを捕らえて連行した。

退却決断と「不敗の王」の失墜
ヴァフリーズを失った王国軍は総崩れとなり、アンドラゴラスは退却を決断した。しかしその報せは「不敗の王が逃げた」と戦場全体に響き渡り、パルス兵の士気を大きく削いだ。王都防衛の希望は崩れ、戦局は完全にルシタニア側へ傾いたのである。

第四章 旧友との再会

王子と黒槍の合流
アルスラーンは孤立して戦っていたが、ダリューンが駆けつけて彼を救出した。ダリューンは王都への退却を促しつつ、まずは知勇兼備の友ナルサスを頼るべきだと提案した。アルスラーンは残兵を見捨てることに心を痛めたが、生き延びて復讐を果たす決意を固めた。

黒槍の救援と戦況報告
アルスラーンのもとに駆けつけたダリューンは、重傷を負ったシャプールの部下を救い出した。部下は「万騎長マヌーチュルフとハイルは戦死した」と報告し、シャプールについては言葉を濁した。続けて「アンドラゴラス王はすでに退却され、それにより軍は総崩れとなった」と語り、息絶えた。

退路の模索とナルサスの名
アルスラーンは父王を見捨てるに等しい選択に動揺したが、ダリューンは現状を冷徹に分析し、エクバターナへ戻る道は危険と断じた。その代わりに、北西の山中に隠棲する元同僚ナルサスを頼ることを決定した。アルスラーンはその名を初めて聞き、不安と期待を胸に従った。

戦場の夜と虐殺
ルシタニア兵は月明かりの下で負傷したパルス兵を次々と虐殺した。捕虜に慈悲はなく、宗教的狂信のもとで火を放ち、血の川が流れた。アトロパテネの戦いはパルス側に壊滅的損害を与え、騎兵五万三千、歩兵七万四千が戦死した。ルシタニア側も五万以上を失い、両軍の犠牲は凄惨を極めた。

勝者の影と「王捕縛」の報
ルシタニア陣営ではボードワンが勝利を誇示したが、モンフェラートはマルヤム滅亡の惨状を想起して沈鬱な表情を見せた。やがて「パルス王アンドラゴラスを捕縛した」との報がもたらされ、戦局の帰趨は決定的となった。

ナルサス邸への道
敗走の途上、アルスラーンとダリューンはナルサスが隠棲する山荘を目指した。アルスラーンは敗戦の痛みを口にしたが、ダリューンは「敗残兵に過ぎぬ我らこそ、ここから再起を図るのだ」と諭した。

ナルサスの人物像
移動の途中、ダリューンはナルサスの人物について語った。彼は天体の運行から地理・歴史に至るまで博識であり、戦略眼に優れる一方、唯一の欠点は「絵画の才が絶望的に乏しい」ことだと説明した。アルスラーンはその奇妙な逸話に戸惑いながらも興味を抱いた。

山荘の警戒とエラムの登場
夜更け、森に入った二人は矢を受けて立ち止まった。矢を放ったのはナルサスの侍童エラムであり、侵入者に警戒していた。ダリューンは名を明かして「ご主人に会わせよ」と呼びかけ、ようやく通行を許された。

再会の時
エラムに案内されて山荘へ向かうと、懐かしい声で迎え入れたのはナルサス本人であった。彼は豪胆にして皮肉を帯びた調子で登場し、アルスラーンとダリューンを迎え入れたのであった。

同シリーズ

漫画版

アルスラーン戦記 1

小説版

94a471a81d137e063cc524446b765e31 小説「アルスラーン戦記 1 王都炎上」感想・ネタバレ・アニメ化
アルスラーン戦記 1 王都炎上

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「アルスラーン戦記 1 王都炎上」感想・ネタバレ・アニメ化
フィクション(novel)あいうえお順

Share this content:

こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

コメントを残す

CAPTCHA