小説「メイドなら当然です。 1」感想・ネタバレ

小説「メイドなら当然です。 1」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は異世界ファンタジーに分類されるライトノベルである。地味で小柄なメイドのニナが、雇い主が大切にしていた壺を割ったという冤罪を着せられ、お屋敷を追放されたことで物語が動き出す。旅先で「不運な」少女たちと出会い、彼女たちが抱える悩みを持ち前の万能メイド技能で解決しながら、異世界を巡る旅に出る展開である。

主要キャラクター

  • ニナ:地味で小柄なメイド。どんな仕事も完璧にこなすが、「メイドは目立ってはいけない」という師匠の教えを守りすぎて実力が周囲に認められていなかった。冤罪により旅に出ることになる。
  • エミリ:異常な魔力量を持つ魔導士の少女。ただし魔法の扱いが下手で「永久ルーキー」と呼ばれている。ニナと旅先で出会う。
  • アストリッド:女性発明家。頭は良いが実験の結果が上手く出ず燻っていた。ニナの旅に同行し才能を開花させていく。
  • ティエン:月狼族の少女。炭鉱で労働をしていたが、街の食事が合わず常に空腹で力が出ない。旅を通じて成長していく。

物語の特徴

本作の魅力は、万能とも言えるメイドという職業の主人公が「冤罪により旅に出る」という出発点を持っており、通常の冒険譚とは少し異なる導入を持つ点である。
さらに、メイドという「影で働く」存在が表舞台に出て活躍する点や、旅先で出会う少女たちの「才能が発揮できていない」という課題をニナがサポートする構造が、読者にとって共感を呼びやすい。
また、異世界ファンタジーの設定ながらも「旅」「出会い」「成長」の王道展開を丁寧に描いており、安心して読める一方で「万能だけど目立たない」という主人公のキャラクター付けが差別化要素となっている。

書籍情報

メイドなら当然です。Ⅰ 濡れ衣を着せられた万能メイドさんは旅に出ることにしました
著者:三上康明 氏
イラスト:キンタ  氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2022年7月15日
ISBN:978-4803015942

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あらすじ・内容

地味で小柄なメイドのニナは、ある日「主人が大切にしていた壺を割った」という冤罪により、
お屋敷を放逐されてしまう。
行き場を失ったニナは、お屋敷の中しか知らなかった生活から心機一転、初めての旅に出ることに。

初めてお屋敷以外の世界を知ったニナは、旅先で「不運な」少女たちと出会うことになる。

異常な魔力量を誇るのに魔法が上手く扱えない、魔導士のエミリ。
すばらしく頭がいいのになぜか実験が成功しない、発明家のアストリッド。
食事が合わずにお腹を空かせて全然力が出ない、月狼族のティエン。

彼女たちは、万能メイド、ニナとの出会いにより本来の才能が開花し……。

超スペックの地味メイドさんがおくる、素敵な異世界紀行!

メイドなら当然です。Ⅰ 濡れ衣を着せられた万能メイドさんは旅に出ることにしました

感想

地味で小柄なメイド、ニナが濡れ衣を着せられてお屋敷を追われ、気ままな旅に出るという物語だ。

まず、ニナのビジュアルがとても好みだったこともあり、手に取ったのだが、期待を裏切らない内容で大満足である。ニナは、無自覚な万能さと、相手を尊重する可愛らしさを兼ね備えている。来客から得た知識を活かしたり、スーパーメイドスキルで人々を助けたりする姿は、読んでいてとても微笑ましい。

旅先で出会うエミリやアストリッドといった少女たちも魅力的だ。エミリは、異常な魔力を持つにもかかわらず魔法が上手く扱えない魔導士。アストリッドは、素晴らしい頭脳を持つ発明家だが、なぜか実験が成功しない。そんな彼女たちが、ニナとの出会いを通して才能を開花させていく様子は、読んでいて胸が熱くなる。特に、エミリとアストリッドが、ニナにとって保護者のような、親友のような、そんな素敵なポジションにいるのがとても良い。この3人のパーティーは、見ていてとても心地が良いのだ。

ただ、少し気になった点もある。登場する組織の長が、だいたいひどい人物として描かれているのだ。世界観全体が腐敗しているのではないかと、少し不安になる。

物語は、ニナが冤罪によってマークウッド伯爵邸をクビになるところから始まる。突然の解雇にショックを受けたニナは、次の職を探す気になれず、観光の旅に出ることを決意する。そして、商業都市フルムンで超級魔導士の卵であるエミリと出会うのだ。エミリは、『第5位階』の素質を持ちながら『第1位階』の魔法しか使えないという問題を抱えていたが、ニナの『魔力筋』マッサージによって上位魔法が使用可能になる。この出会いをきっかけに、ニナとエミリはパーティーを組み、旅立つことになる。

その後、フレイヤ王国で発明家のアストリッドと出会い、特許申請を手伝ったり、ウォルテル公国のイズミ鉱山で「幽霊犬」と呼ばれる月狼族のティエンと出会い、鉱山の崩落事故を解決したりと、ニナは行く先々でスーパーメイドの技量と、そのおかげで得た知識で人々を助け、仲間を増やしていく。

ニナのスーパーメイドぶりや、謙遜の仕方は、ある意味ご都合主義とも言えるかもしれない。しかし、いわゆるチートやらかし系としては、まずまず面白いと感じた。出会って仲間になっていく人達も個性的で魅力的で、みんなガッツがあって前向きなのが好感度が高い。

元の屋敷の3人、メイド仲間のソーニャ、庭師のトムス、コックのロイとの再会にも期待している。特に、ニナを陥れた伯爵には、そのまま落ちぶれてほしいと願っている。

次巻では、ニナがどんな出会いを経験するのだろうか。メイドでありながら旅をするという、この斬新な設定が、今後どのように展開していくのか、とても楽しみである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

ニナ

マークウッド伯爵家で地味な家事を一手に引き受けていた元メイドである。理知的で観察力が高く、家事と料理と段取りにかけては常識外れの実力を持つが、自分を過小評価しがちである。他人を放っておけない性格であり、エミリやアストリッド、ティエンを自然に支えながらも、自分はあくまでメイドという立場にとどまろうとする傾向がある。

・所属組織、地位や役職
 かつてはマークウッド伯爵家の奥様付きメイドであり、現在は冒険者パーティー「メイドさん」の一員である。

・物語内での具体的な行動や成果
 誤解により伯爵家を追い出された後も、旅先で家事や料理、書庫整理、失せ物探しなど多様な依頼を短時間で片づけている。魔力筋マッサージでエミリの魔法才能を開花させ、ゴミ屋敷同然のマホガニー商会邸を半日で一新させ、精霊魔術研究の突破口を与えた。イズミ鉱山では、紫鈴連花の保存料が原因でティエンが食事を受けつけなかった事実を見抜き、食材の見直しと料理で命を救った。鉱山事故では臨時救護所を整え、負傷者の救護と人員配置を主導して被害を最小限に抑えている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 壺破損の濡れ衣で「問題メイド」とされ懸賞金まで掛けられたが、各地での働きにより周囲から聖女や恩人として認識されている。ウォルテル公爵からは「野良メイド」として高額年俸で召し抱えたい人材と評価され、各国の貴族や組織にとっても重要な人物になりつつある。仲間たちからは、家族のような存在としてパーティー証で迎え入れられ、自分の居場所を得ている。

エミリ

素質だけは第五位階とされながら長く初級魔法しか使えなかった魔導士である。明るく感情表現が豊かで、酒とおしゃれとロマンへのこだわりが強い。自分を見下した者には容赦しない気質を持つ一方、恩を受けた相手には真っすぐに報いようとする。

・所属組織、地位や役職
 フルムンを拠点としていた冒険者であり、のちにニナたちと共にパーティー「メイドさん」を結成した。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニナの依頼を受けて黄裳桃花の護衛任務に同行し、巨鳥フェーラルガルーダ討伐で第五位階魔法を放って衛兵と市民を救っている。ギルドでの決闘では、土と風の無詠唱魔法で自分を嘲った男を圧倒し、周囲に実力を示した。ニナの魔力筋マッサージで高位魔法を習得してからは、鉱山事故現場で岩盤補強や坑道の開削に魔法を提供している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 長年「永久ルーキー」と揶揄されてきた立場から一転し、第五位階まで扱える超有望株として各ギルドから注目される存在になった。数多くの勧誘を退けてニナと旅に出る道を選び、パーティー証の作成とパーティー名「メイドさん」の命名を主導している。ニナを対等な仲間として守るため、ギルドや貴族に対してもはっきり物を言う役回りを担っている。

アストリッド=マホガニー

マホガニー商会の当主であり、「ゴミ溜めの変人」と陰口をたたかれていた発明家である。真面目で不器用な性格であり、祖父母と両親の遺した発明を大切にしながらも、自分の成果を残せずに焦りを抱えていた。

・所属組織、地位や役職
 フレヤ王国の発明家協会に所属する発明家であり、マホガニー商会の現当主である。のちにパーティー「メイドさん」の一員となる。

・物語内での具体的な行動や成果
 当初は精霊魔術研究が一年以上成功せず、資産家発明家たちから土地の譲渡を迫られていた。ニナの徹底清掃と助言により、精霊が好む環境と理論条件をそろえ直し、初の成功を収めて新しい魔術体系の可能性を開いた。イズミ鉱山では魔導具による排水装置を用意し、第五位階魔法と組み合わせて崩落現場の排水と補強に貢献している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「ゴミ溜め」と呼ばれた邸宅を一晩で取り戻し、精霊魔術の成功で発明家としての自信を取り戻した。ニナの価値を早い段階で理解し、エミリと共に裏で守る役割を引き受けている。旅を続ける中で、ニナの才能を理解する保護者的な立場となり、パーティーの理論面と交渉面を支える存在になっている。

ティエン

月狼族の少女であり、鉱山街では「幽霊犬」と呼ばれていた労働者である。強い嗅覚と膂力を持つが、紫鈴連花の保存料の匂いにより街の食事を「全部マズい」と感じて栄養失調に陥っていた。義理堅く、受けた恩を必ず返そうとするまっすぐな性格である。

・所属組織、地位や役職
 イズミ鉱山で働く鉱山労働者であり、修道院の孤児院に身を寄せていた。のちにパーティー「メイドさん」に加入する。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニナの料理によって食事を取れるようになり、体力を回復させてからは、イズミ鉱山の案内役として坑道と設備の説明を行った。第四区の崩落事故では、自らロープを結んで水没坑道に潜り、現場監督を抱えて生還している。救助後は、修道院と鉱山から送り出される形でニナたちとの旅に加わった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 当初は「幽霊犬」と蔑まれる存在であったが、事故の救助を通じて鉱山労働者たちから信頼と尊敬を集めるようになった。修道院では、帰る場所を持つ旅人として「いってらっしゃい」と送り出され、やがて月狼族としての力を活かしてパーティーの戦力と情報収集役を担う立場となっている。

マークウッド伯爵家とその周辺

マークウッド伯爵

クレセンテ王国三日月都に屋敷を構える伯爵である。気性が激しく、宝物の管理と家の体面を非常に重んじる性格であるが、現場の実情を把握せずに判断する面がある。

・所属組織、地位や役職
 クレセンテ王国の貴族であり、マークウッド伯爵家の当主である。

・物語内での具体的な行動や成果
 宝物室の壺が割れた事件で激怒し、事情説明を試みた執事長とメイド長を怒鳴りつけた。メイド長の報告を受けてニナを犯人と信じ込み、懸賞金を掛けて連れ戻そうとした。のちに賓客トゥイリードからニナの解雇を批判され、邸の評判悪化と家中の混乱を招いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 壺の件とメイドの扱いをめぐる対応により、賓客からの信頼を失い、王命によってニナに関する権利をウォルテル公爵へ譲渡させられている。情報収集を怠ったことで、優秀な人材と懸賞金の両方を失った貴族として描かれている。

マークウッド伯爵令嬢

マークウッド伯爵の娘であり、社交界での装いを重視する令嬢である。気位が高く、自身の衣装に不備があることを許さない性格である。

・所属組織、地位や役職
 マークウッド伯爵家の令嬢である。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会用ドレスの袖の長さ違いに激怒し、即時の補正を命じた。ニナ不在のためメイドたちが対応できず、邸の準備不足が露呈する場面を生んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 直接の地位変化は描かれていないが、ドレスの件を通じて、これまでニナが衣装管理や仕立て調整を一手に担っていた事実が浮かび上がり、家中におけるニナの存在感を間接的に示す役割を持っている。

メイド長

マークウッド伯爵家のメイドたちを束ねる立場の女性である。保身的で責任を部下に押しつける傾向が強く、ニナの働きを正当に評価しなかった人物である。

・所属組織、地位や役職
 マークウッド伯爵家のメイド長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 宝物室の壺が割れた件で、調査も不十分なままニナを犯人と決めつけ、クビと屋敷からの退去を命じた。退職時に必要な紹介状を渡さず、のちにドレス問題では「ニナが道具を持ち去り引き継ぎもしなかった」と虚偽の報告をしている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ニナの詳細な引き継ぎメモを焼却炉に捨てたことが発覚し、伯爵家の混乱の責任を問われて叱責とともに解雇された。失策の象徴として描かれ、ニナ追放の不当性を際立たせる存在になっている。

執事長

伯爵家全体の管理を担う執事の長である。職務意識は高いが、伯爵の怒りの前では強く出られない立場にある。

・所属組織、地位や役職
 マークウッド伯爵家の執事長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 壺の破損について伯爵に事情を説明しようとしたが、怒りに押されて十分に弁明できなかった。家中の混乱収拾にも関わったが、根本的な解決には至らなかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 メイド長の失態と合わせて責任を問われ、降格処分を受けた。管理職としての限界と、現場を理解していなかった伯爵家上層部の象徴として描かれる。

ロイ

マークウッド伯爵家の料理人であり、ニナに料理を教えた人物である。腕の良い料理人でありながら、温かい人柄で使用人仲間からも信頼されている。

・所属組織、地位や役職
 マークウッド伯爵家の専属料理人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 厨房からニナの濡れ衣を知り、ソーニャやトムスと共に激怒してメイド長のやり方を批判した。のちにユピテル帝国の大きなレストランから誘いを受け、屋敷を離れる決意を語っている。ニナに伝えたサンドイッチなどのレシピは、旅先で人々を救う料理として生かされている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伯爵家を離れて新たな職場へ向かう見込みとなり、料理人としてさらなる活躍が期待される立場になった。ニナにとっては料理の原点であり、心のふるさととして思い出される存在である。

トムス

マークウッド伯爵家の庭師であり、落ち着いた性格で使用人たちのまとめ役の一人である。ニナの働きを理解し、長年共に屋敷を支えてきた。

・所属組織、地位や役職
 マークウッド伯爵家の庭師である。

・物語内での具体的な行動や成果
 壺の事件後、ロイやソーニャと共にニナへの濡れ衣に怒りつつも、報復行動を止めていた。庭の管理と客人への印象づくりを担い、賓客トゥイリードからも庭の出来を高く評価される環境を整えていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 息子夫婦のもとへ移ることを考え始め、伯爵家を離れる方向に傾いている。ニナとの縁を大切にしており、ソーニャとの別れの場面で、この出会いが自分たちの人生を変えたと認識している。

ソーニャ

マークウッド伯爵家のメイドであり、ニナと共に働いてきた若い女性である。感情が素直で、仲間思いな一面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 マークウッド伯爵家のメイドである。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニナの濡れ衣を知ってメイド長に怒りを向け、ロイやトムスと共に屋敷の将来を案じた。長期休暇で実家に帰る前に、二人から見送られ、ニナに学んだことを胸に屋敷を離れることを決めている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伯爵邸が崩れていく中で屋敷を去る立場となり、ニナを通じて得た経験を次の生活に生かそうとしている。ロイとトムスとの別れを通じて、ニナが結んだ絆の具体例として描かれる。

トゥイリード

エルフの賢者であり、五賢人の一人とされる高位の存在である。静かな口調の裏に大きな権威を持ち、ニナの実力と品位を正しく評価している。

・所属組織、地位や役職
 五賢人の一人であり、高名なエルフの魔導士である。

・物語内での具体的な行動や成果
 マークウッド伯爵家の賓客として庭を訪れ、かつてのニナが淹れた茶と振る舞いに深い安らぎを覚えていた。ニナ解雇後に訪れた際には、茶の質とメイドの対応の劣化を見抜き、色仕掛けを試みた新しいメイドを厳しく退けている。ニナ追放の経緯を聞くと、彼女が戻るまで伯爵邸に立ち寄らないと宣言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 精霊に関する知識の出所として、ニナの会話の中でたびたび名前が挙がり、エミリやアストリッドからも警戒と尊敬の対象になっている。ニナの価値を早期に理解した存在として、物語世界の上位層における評価を象徴している。

フルムン・フレヤ王国の関係者

ファース

若き商人であり、ヴィク商会の次期当主候補と目される男性である。柔らかな物腰と確かな眼力を持つビジネスマンである。

・所属組織、地位や役職
 希少魔術素材を扱うヴィク商会の跡取り候補である。

・物語内での具体的な行動や成果
 フルムン行きの乗合馬車でニナのもてなしに触れ、その働きぶりを覚えていた。フレヤ王国の職業紹介所で偶然ニナと再会し、発明家案件に必要な推薦状を自ら提供している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ヴィク商会の名が紹介所で強い信頼を持っていたため、ニナへの推薦は発明家への道を開く決定打となった。今後も再会の可能性が示唆される、商人ネットワーク側の重要人物である。

老観光案内人(先代協会長)

フレヤ王国の王都で観光案内人を務める老紳士であり、発明家協会の先代会長でもある人物である。温厚で、公平な感覚を持つ。

・所属組織、地位や役職
 王都の観光案内人であり、かつての発明家協会長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニナに王都の歴史と施設を案内し、街の文化を紹介した。薬草買い叩きの件を聞き、正当な値段で買い取ったうえで、冒険者ギルドと薬師ギルドの不正を指摘し、両マスターに減俸と奉仕活動の処分を科させている。薬草は信頼できる薬師と医師に託し、街の医療と研究に役立てた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 現役を退いた後も、協会やギルドに対して強い影響力を持ち続けており、制度の歪みを正す役割を果たしている。ニナにとっては、公平な大人の代表として心強い後ろ盾になっている。

フルムンのギルドマスター

フルムン支部の冒険者ギルドを統括する人物である。権威意識が強く、面子を重んじる性格である。

・所属組織、地位や役職
 フルムン冒険者ギルドの支部長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 フェーラルガルーダ討伐報告の際、エミリの実力を半信半疑で受け止め、魔法実演を命じて権威を示そうとした。エミリから「礼儀を欠いた命令に従う義理はない」と一蹴され、何もできないまま見送る形になった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 形式にこだわる姿勢が描かれ、現場での判断力不足を示す存在となっている。ニナとエミリの旅路においては、古い価値観との対比としての役割を担う。

イズミ鉱山と修道院の関係者

修道院の先生(神父)

鉱山街の修道院で孤児院を運営する神父である。子どもたちに深い愛情を注ぎ、ティエンを気にかけ続けていた人物である。

・所属組織、地位や役職
 イズミ鉱山近くの修道院を預かる神父であり、孤児院の責任者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 月狼族であるティエンの「舌の呪い」に悩みながらも、果樹の実を分けるなどして生き延びさせてきた。ニナの料理でティエンが食事を取れたことを喜び、修道院でのディナーを整えて恩返しの場を作っている。ティエンが旅立ちを願い出た時には、「さようなら」ではなく「いってきます」と送り出し、子どもたちにも「いってらっしゃい」と言わせた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ティエンにとっての帰る場所を与えた人物であり、「家」と「居場所」の象徴として描かれている。ニナたちに対しても、信頼できる大人として加護と祈りを与える存在である。

イズミ鉱山の現場監督

イズミ鉱山の採掘現場を指揮する監督である。短気で威圧的な言動が多く、労働者からは嫌われていた人物である。

・所属組織、地位や役職
 イズミ鉱山の現場監督である。

・物語内での具体的な行動や成果
 出水の多い第四区で、虫の居所の悪い状態のまま採掘を強行し、崩落事故で自らが坑道の奥に取り残される事態を招いた。水没しつつある坑道で死の恐怖に支配されていたが、ティエンの潜水によって救出されている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事故前は横暴さゆえに労働者から疎まれていたが、救助されたことで命をつなぎ、家族のもとへ戻る機会を得た。ティエンの決断を通じて、「憎んでも事故なら助けるべき」という価値観を示す存在となっている。

赤髪の鉱山労働者

イズミ鉱山で働く労働者の一人であり、現場の空気をよく理解している男性である。仲間思いで、ニナの行動に強い影響を受けた人物である。

・所属組織、地位や役職
 イズミ鉱山の鉱山労働者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 第四区崩落時、現場の状況をニナたちに説明し、事務員の消極的な判断に不満を抱いていた。ニナが救護所を整備し、自腹で医療品を用意する姿を見て協力を申し出ている。ティエンが救助に向かった事実を仲間に伝え、多くの労働者を再び坑道へ向かわせた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ニナとティエンの行動に触れたことで、責任を外部に押しつける態度を恥じ、プロとして人命救助に参加する側へと心を切り替えた人物である。鉱山側の意識の変化を象徴する役割を持っている。

ウォルテル公国の関係者

ウォルテル公爵

ウォルテル公国を治める公爵であり、政治と軍事において大きな権限を持つ人物である。冷静な判断力と実務的な思考を持つ支配者である。

・所属組織、地位や役職
 ウォルテル公国の公爵であり、国を統べる領主である。

・物語内での具体的な行動や成果
 イズミ鉱山の復旧報告を受け、第五位階魔法と前代未聞の魔導具で排水と補強を行った少女二人と、その二人を支えたメイドの存在を把握した。ニナが主人不在の「野良メイド」であると知ると、年俸百二十万テル相当で召し抱える決断をしている。国王の書状を通じて、マークウッド伯爵からニナに関する権利を譲り受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王命と財力を背景に、有能な人材を見逃さない統治者として描かれている。ニナの今後の進路に大きく関わる存在として、物語の後半への橋渡し役になっている。

公都への商隊の商会長(海底ワイン詐欺師)

ウォルテル公国の公都へ向かう商隊を率いる商会長である。希少酒を名乗る偽物のワインで利益を得ようとした詐欺師である。

・所属組織、地位や役職
 名の明かされていない商会の商会長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 旅の途中でエミリとアストリッドに、滅んだ海洋王国ミュー産の「海底ワイン」と称する酒を見せ、オークションなら金貨千枚になると宣伝したうえで金貨五十枚で売ろうとした。エミリたちの芝居と魔法により瓶を切り裂かれ、中身が安物ワインであることを暴かれている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 同行の冒険者たちに取り押さえられ、公都到着後に衛兵へ引き渡されることになった。ニナが用意した本物のワインとの対比により、価値と信用の違いを示す存在となっている。

ウォルテル公爵の使者

ウォルテル公爵からの命を受けてマークウッド伯爵邸を訪れた使者である。形式と王命を盾に交渉を進める役割を担っている。

・所属組織、地位や役職
 ウォルテル公国に仕える文官もしくは使者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 マークウッド伯爵に対して、ニナへの懸賞金の取り下げと罰金の肩代わりを申し出ている。伯爵が拒否すると、国王の書状を示し、ニナに関する一切の権利をウォルテル公爵へ移す決定を伝えた。供託されていた懸賞金の没収も通告し、伯爵家に事態の重大さを理解させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王命を実行する立場として、貴族間の力関係と情報の重要性を示す役割を持っている。ニナが一人のメイドを超えた重要人物になっていることを、伯爵家に突きつける存在である。

展開まとめ

プロローグ 地味仕事をすべて引き受けていた万能メイドさん、旅に出る

濡れ衣で屋敷を追い出されたニナ

マークウッド伯爵家の宝物室の壺が割れた件で、ニナは身に覚えがないにもかかわらずメイド長に犯人と決めつけられ、「クビ」を言い渡された。時価3千万ゴールドの壺を弁償できないなら今日中に屋敷を去るよう命じられ、他の使用人との会話も禁じられた。ニナは長年の勤めへの礼だけを述べて、別館の自室に戻り、師匠から贈られた旅行鞄にわずかな荷物を詰めながら悔し涙を流した。

影で支えてきた仕事と報われない引き継ぎ

ニナは幼いころから家事を学び、師匠に才能を見込まれて15歳に至るまで働き詰めで、奥様付きメイドとして語学や礼儀作法だけでなく、屋敷全体の清掃や段取りも一手に担ってきた。見た目重視で採用された他のメイドが怠ける分まで仕事を肩代わりし、廊下や厨房、使用人宿舎、本宅に至るまで隅々を整えてきたが、その働きは目立たないがゆえに正しく評価されなかった。去り際に客の好みや注意点をまとめたメモを廊下で「独り言」として置いていくが、他のメイドたちはそれを不要な紙とみなし、焼却炉に放り込んでしまった。

行き場を失ったニナの旅立ち

屋敷を出たニナは、王都「三日月都」の往来に立ち尽くし、自分が屋敷以外の世界をほとんど知らないことに気づいた。実家は裕福でなく、家事しかできない自分が戻っても負担になると考え、仕送りで使わずに貯めてきた50万ゴールドを数えながら今後を思案した。そのとき商業都市フルムン行きの乗合馬車の客引きの声を聞き、見たことのないものを見てみたいという衝動と、悲しみを紛らわせたい気持ちから、観光のつもりでその馬車に乗る決意を固めた。こうしてニナはメイド服のまま旅に出た。

残された使用人たちの怒りと屋敷の危機

一方、厨房では料理人ロイ、庭師トムス、メイドのソーニャが、壺の件が濡れ衣であることを知って激怒していた。ロイとソーニャはメイド長への報復を口にするが、トムスが制止する。三人は、ニナが気難しい魔導士の相手から美術品の贋作見抜き、庭・厨房・メイド仕事の調整役まで担っていたことを改めて思い出し、彼女を失ったことで屋敷の仕事が立ち行かなくなると危機感を共有した。また、退職時に本来渡されるはずの「紹介状」をメイド長が渡していないと気づき、ニナの今後を案じて憤った。

伯爵の激怒とニナへの懸賞金

帰宅したマークウッド伯爵は粉々に割れた壺を見て激昂し、事情を説明しようとする執事長とメイド長を怒鳴りつけた。メイド長が「壺を割ったメイドはすでにクビにした」と報告して事態の収束を図ろうとするが、伯爵はそれでは気が収まらず、犯人を連れ戻して自ら罰すると主張した。こうして、真相も知らないまま、ニナに対して100万ゴールドの懸賞金が掛けられることになった。

第1章「永久ルーキー」は超級魔導士の卵

フルムン到着と泉への計画
ニナは三日間の乗合馬車の旅を経て商業都市フルムンに到着した。街の多種族文化や露店に興味を引かれながらも、何を見てもメイドとしての目線で考えてしまい、屋敷を追われた現実を思い出して落ち込む。五日間観光した中で、郊外のクレーの泉に春だけ咲く黄裳桃花の噂を聞き、訪問を決めて冒険者ギルドへ向かった。

永久ルーキーの魔導士エミリ
ギルドでは、素質だけは第5位階なのに第1位階の火魔法しか使えない魔導士エミリが、落ちこぼれ冒険者に嘲られていた。能力不足と誤解され、パーティーも組めず依頼も受けられない彼女を、ニナは自分と重ねて憐れんだわけではなく、護衛依頼を正式に発注して場を収めた。

野営と心の距離の変化
郊外へ向かったふたりは森の前で野営することにし、エミリは少ない魔法で火を起こした。ニナは見事な料理でエミリを驚かせ、さらに頭皮マッサージで彼女を眠らせてしまう。立場が曖昧になることを恐れたエミリは過去を語り、第5位階の素質がありながら魔法が使えず嘲られてきたと明かした。ニナは「エミリだから依頼したい」と強く伝え、エミリも折れて同行を受け入れた。

試したいこと
ニナは自分も屋敷を濡れ衣で追われた過去を語り、旅を続けると告げた。エミリはフルムンを離れてついていくと申し出る。最後にニナは、かつて高名な魔導士から聞いた知識を思い出し、エミリの魔法の問題について「試してみたいことがある」と提案したところで章は終わる。

魔力筋マッサージとエミリの覚醒

ニナは高名な魔導士から教わった「魔力筋」の話を思い出し、エミリの腕や背中を独特の手技でほぐした。すると体内の魔力のダムが決壊したように流れ出し、エミリは初めて第2位階の炎魔法を発動できた。夜明けまでのあいだに訓練を続けた結果、第5位階の「爆撃炎弾」まで扱えるようになり、エミリはニナを「救世主」と呼んで涙ながらに感謝した。

クレーの泉と巨鳥フェーラルガルーダ討伐

翌朝ふたりはクレーの泉へ向かい、黄裳桃花に彩られた幻想的な泉を堪能した帰路、フルムンの門で馬をさらう巨鳥フェーラルガルーダが衛兵と冒険者を圧倒している場面に遭遇した。エミリは風魔法で少年と馬を救出し、続けて第5位階の「爆撃炎弾」を放って巨鳥を瞬時に焼き尽くした。その場で魔力切れで倒れたが、一晩眠ると完全に回復した。

ギルドでの証明と無詠唱の実力

翌日、ニナの冒険者登録と報告のためギルドを訪れたエミリは、かつて嘲ってきた男冒険者から「ウソつき」扱いされ、決闘じみた魔法実演をすることになった。訓練場で男が間合いを詰めるなか、エミリは詠唱せず土魔法で足元を隆起させて男を上空へ弾き飛ばし、さらに風魔法の上昇気流で命だけは救うという無詠唱魔法を披露した。魔力を大きく消耗しつつも圧勝し、ニナは自分のために怒って戦ったエミリの姿を「格好いい」と称えたのである。

討伐報酬とパーティー勧誘
エミリはフェーラルガルーダ討伐の賞金五百万ゴールドを正式に受け取り、ニナも新たに冒険者登録を済ませた。するとギルドでは、第五位階までの魔法を扱う超有望株としてエミリに勧誘が殺到したが、エミリは誰一人自分を助けなかった冒険者たちを一蹴し、「ニナと一緒に街を出る」と宣言した。

ギルドマスターとの対立と旅立ち
そこへ戻ってきたフルムン支部のギルドマスターが、半信半疑のままエミリに魔法の実演を命じた。しかしエミリは、すでに他国へ向かうと届け出済みであることを理由に「礼儀を欠いた命令に従う義理はない」と切って捨てる。圧力も通じず言葉を失うギルドマスターを置き去りに、エミリとニナは堂々とギルドを後にし、衛兵に感謝されながら国境行きの乗合馬車に乗り込んだ。

風のように自由な冒険と、ニナの悩み
馬車の中でニナは、冒険者として認められたばかりのエミリがフルムンを離れてよいのかと迷ったが、エミリは「冒険者は風のように誰にも捕まらない」と語り、自分の生き方として自由な旅を選んだと明かした。ニナの関心はやがて「今日の食事をどう工夫するか」に移り、ふたりは国境の先で出会う新しい料理や文化の話で盛り上がった。

ニナ不在の伯爵邸と高まる懸賞金
一方マークウッド伯爵邸では、夜会用ドレスの袖の長さ違いに伯爵令嬢が激怒し、即時の補正を命じた。しかしニナ不在のメイドたちには対応できず、メイド長は失態を隠すため「ニナが道具を持ち去り引き継ぎもしなかった」と伯爵に虚偽の報告をした。その結果、壺破壊事件に続き「問題メイド」としての扱いが悪化し、ニナへの懸賞金はさらに上乗せされた。

魔力筋という危うい才能と隣国入り
国境の町の宿で、エミリは眠るニナを見ながら「魔力筋」をほぐす技術の危うさと将来性を改めて実感し、「この子はとんでもない存在かもしれない」と戦慄混じりに評価した。翌日、ふたりはフレヤ王国へと国境を越え、メイドと超級魔導士の卵による新たな旅が本格的に始まったのである。

第2章「ゴミ溜めの変人」は世界を変える発明家

発明の国フレヤ王国とニナの観光
大陸中央の貧しいフレヤ王国は、初期の王が「ないなら作る」と研究を重ねた結果、「発明の国」として魔術技術を輸出する国へ発展していた。ニナは王都唯一の大都市で老人ガイドの長い案内を楽しみつつ噴水や城壁の仕組みに感嘆し、歴史と異国の風土を満喫していた。

フレヤの冒険者ギルドと薬草騒動
一方エミリは王都の冒険者ギルドで、拳銃様の道具を持つビジネスマン風の冒険者たちを目にし、フレヤ独特の発明文化を垣間見た。クレーの泉でニナが採取した希少薬草を売ろうとしたが、盗品扱いを疑われて衛兵と薬師に長時間取り調べを受けた末、潔白と判明すると今度は買いたたきに遭い、売却を断念した。

宿での食事とニナの決意
宿に戻ると、ニナは台所を借りて圧力鍋などフレヤ製の調理器具を使い、イノシシ肉の煮込みや香辛料の効いたスープを作って宿代を浮かせていた。エミリはその腕前に感激しつつ、炭酸水の話をこぼしてニナの興味を引いた。薬草で稼げなかったと知ったニナは、エミリの資金に頼り切らぬよう自分が短期のメイド仕事で稼ぐと決意した。

職業紹介所と発明家案件への扉
翌朝ニナはメイド向け職業紹介所を訪れたが、「冒険者ギルド証」しか持たない旅人には短期家事仕事の紹介が難しいと言われた。発明家からの依頼ならあるものの、推薦状が必須だと告げられる。そこへ、以前乗合馬車でニナに好意を抱いた若き商人ファースが偶然現れ、彼女の働きぶりを保証すると申し出た。

ファースの推薦と新たな仕事への一歩
希少魔術素材取引で急成長するヴィク商会の次期当主候補として名高いファースの名は紹介所でもよく知られており、受付女性は態度を一変させた。ファースはフルムンへの旅で振る舞われたニナのお茶への礼として推薦を与え、「いつかヴィク商会を見かけたら立ち寄ってほしい」とだけ告げて去った。こうしてニナは、発明家たちの仕事へアクセスする道を得て、フレヤ王国での新たな「メイドの仕事」を始めようとしていた。

ニナのメイド仕事と格安依頼との出会い
宿で目覚めたエミリは、ニナが早朝からメイド仕事に出たと聞かされ不安を覚えた。一方ニナは職業紹介所経由で、保存食の作成、ヘルガード分類法に基づく書庫整理、魔術触媒捜索という三件の依頼を次々とこなし、半日で五十万ゴールド近い報酬を得た。その手際に受付係は舌を巻いたが、ニナはさらに低報酬三千ゴールドの「アストリッド=マホガニー宅内清掃」依頼を選び、王都中心部の荒れ果てたマホガニー商会邸へ向かった。

ゴミ屋敷同然の商会とニナの徹底清掃
依頼主の発明家アストリッドは協会の会合で不在であり、使用人もいない邸内は廊下までゴミで埋まり、虫がうごめく荒廃ぶりであった。ニナは驚きながらも「掃除のしがいがある」と受け止め、鍵を預かって宅内から片付けを開始した。床や壁、器具を一つずつ整えつつ、日没までに家の中をほぼ一新し、時間の許すかぎり外回りの掃除にも取り掛かった。

発明家協会の会合とアストリッドの孤立
同じ頃、発明家協会の会合では、資産家発明家たちが投資や美術品取引の話に終始し、真新しい発明は乏しかった。マホガニー商会の当主アストリッドは、祖父母や両親の残した特許収入に頼る現状を自覚しつつ、精霊魔法研究の行き詰まりに焦りを抱いていた。さらに、周辺地主でもある成金の女発明家たちから土地の譲渡を迫られ、「ゴミ溜めの変人」と嘲られたことで自尊心を傷つけられ、やけ酒に走った。

一夜で生まれ変わった邸宅との再会
酔って帰途についたアストリッドは、自宅前の庭が雑草一つなく石畳まで輝いているのを見て隣家と勘違いし、改めて見直してから初めて自邸が一変していると気づいた。玄関を開けたニナは、紹介所経由で清掃を請け負ったメイドだと名乗り、半日で宅内を終えたうえ外回りまで手を付けたと淡々と報告した。アストリッドは三千ゴールドの依頼でここまでやったことに言葉を失い、明日以降の追加依頼を申し出たが、既に室内もほぼ完了している事実に重ねて驚かされた。

精霊魔術研究の行き詰まりとニナの評価
お茶でもてなされたアストリッドは、魔石を動力とする従来の魔術発明が限界を迎えつつある中、自身は精霊魔法を応用した新たな魔術体系を模索していると語った。理論と条件は満たしているはずなのに一年以上成果が出ず、才能の欠如と資金難から家の売却と研究断念を考えていると打ち明ける。ニナは、古い家具の丁寧な補修や道具の扱いからアストリッドの優しさと不器用さを見抜き、「何も残らないことはない」と断言した。その言葉に、アストリッドは家族以外から初めて「優しい」と評されたことを思い、涙をこぼしつつも邸宅売却への決意を揺らがせた。

再挑戦への提案と小さなひらめき
ニナは、思い出は物にも宿るとして邸宅売却を少し待つよう提案し、完璧だとされる精霊魔術の理論を「今ここでもう一度試してほしい」と願い出た。成果が変わるはずがないと戸惑うアストリッドに対し、ニナは自らの掃除経験や観察から「少し思いついたことがある」とほほ笑み、停滞していた研究に新たな視点を差し込もうとしていた。

ニナ不在に焦るエミリと、裏で進む依頼の連鎖

エミリはニナの行方を追ってギルドや街中を捜し回ったが空振り続きで、薬草買い叩きと恫喝まがいの対応にさらに苛立ちを募らせていた。その頃ニナは職業紹介所経由で依頼をこなし、家事や書庫整理、失せ物探しを次々と片づけ、紹介所の職員を驚かせていた。

ゴミ屋敷の徹底清掃とアストリッドの動揺

報酬が安い発明家アストリッドの宅内清掃を引き受けたニナは、荒れ果てたマホガニー商会邸の内外を半日で一変させた。帰宅したアストリッドは自邸の劇的な変貌と、低報酬にもかかわらず完璧な仕事をするニナの「メイドなら当然」という姿勢に衝撃を受け、自身の行き詰まった精霊魔術研究を打ち明けた。

精霊の性質という「一言」が研究を動かす

ニナは精霊が人工物と管理された都市を嫌い、自然を好むというエルフから聞いた知識を伝え、ゴミの撤去と自然に近い環境づくりを助言した。アストリッドがその条件下で魔術式を再実行すると、光と声を伴う成功が初めて得られ、新たな発明の可能性が開かれた。

老紳士の介入とギルドへの制裁

観光案内人でもある先代協会長は、ニナから事情を聞いて薬草を正当価格で買い取り、冒険者ギルドと薬師ギルドの不正な買い叩きを糾弾した。両マスターは減俸と奉仕活動を科され、薬草は信頼できる薬師と医師に託されることになった。ニナと出会ったことで、アストリッドの研究と王都の歪んだ構造の両方に変化の芽が生まれたのである。

マークウッド伯爵邸の混乱

クレセンテ王国の首都三日月都では、マークウッド伯爵邸が賓客を迎える当日、ニナ不在の影響で客室付きメイドたちがお茶係を奪い合い、厨房や使用人たちは呆れていた。これまでニナが一手に担っていた政治資料の準備、美術品の鑑定、夫人の衣装の手入れなどが失われた結果、伯爵家内外の失態が増え、評判も揺らぎつつあったのである。

トゥイリードの失望と決別

賓客として訪れたのは五賢人たるエルフ、トゥイリードであった。彼は相変わらず見事な庭を喜びつつも、趣味の悪い壺に違和感を覚える。やがて現れた見知らぬメイドは茶葉管理も淹れ方も粗雑で、挙句に色仕掛けに及んだため、トゥイリードは激昂した。安らぎを求めてここを訪れていた彼は、ニナの茶と振る舞いこそが価値であったと断言し、彼女を解雇した経緯を聞くと、ニナが戻るまで伯爵邸には立ち寄らないと宣言して去った。伯爵は事の重大さを悟り、ニナの捜索懸賞金を一千万ゴールドに跳ね上げるに至った。

エミリとアストリッドの危機認識

一方、宿場町の夜、エミリとアストリッドはニナを寝かせた後、バルコニーで酒を酌み交わしながら彼女について語り合っていた。ふたりはニナが魔力筋の実在を証明し、エミリの才能を開花させたことや、精霊魔術研究を完成へ導いたことを挙げ、彼女の能力が常軌を逸していると確認し合う。さらにニナの精霊に関する知識の出所が、五賢人トゥイリードであると推定し、その情報価値と危険性を共有した。

ニナを守るための同盟

ふたりは、ニナが高位貴族に見出されれば莫大な金で囲われかねない一方、本人は前の屋敷からの濡れ衣に深く傷ついていると理解していた。そのため、いまは旅の中でニナの望むように過ごさせつつ、裏で彼女を守ることが自分たちの役割だと結論づける。こうしてエミリとアストリッドは、ニナが厄介ごとに巻き込まれないよう密かに見張り、支えるための同盟を結んだのである。

第3章「幽霊犬」は誇り高き月狼族

山越えの旅とトゥイリードの名の封印
ウォルテル公国の山中を旅する途中、ニナは神秘的な森に感嘆しながらも、トゥイリードの名を軽々しく口にしないようエミリとアストリッドに諭されていた。三人はそれぞれの力で馬車代や修理代を稼ぎ出し、「旅の永久機関」のように資金を減らさず旅を続けていたのである。

イズミ鉱山への到着とニナの暴走の兆し
観光客向けに解放されたイズミ鉱山の見学に、好奇心旺盛なニナが強く反応し、一行は鉱山街へ向かった。到着早々ニナは御者と打ち解けて見学の段取りまで整えるが、宿探しの最中に姿を消し、エミリとアストリッドは苦労を理解し合いながら捜索に乗り出した。

幽霊犬と呼ばれる少女ティエン
一方、鉱山では痩せた獣人の少女ティエンが、過重な荷を背負って働き「幽霊犬」と蔑まれていた。わずかな給金しか得られず空腹に苦しむ彼女は、街の食べ物を「全部マズい」と断じ、鉱山街の喧噪を避けて広場にへたり込んだ。そこへニナが現れ、湧き水を差し出し自己紹介を交わすが、ティエンは礼を述べて去っていった。

修道院と月狼族に課された「舌の呪い」
翌朝、ティエンは鉱山労働者向けの粗末な部屋で目覚め、修道院の果樹から採った酸っぱい果実だけを頼りに生きている様子が描かれた。孤児院を運営する神父は、味覚ゆえに食事をほとんど受けつけない彼女の状態を「舌の呪い」と嘆きつつ、その義理堅さと月狼族としての優れた嗅覚と力を思い返す。何もしてやれない無力感に沈む神父のもとに「メイド」を名乗る来訪者が現れ、物語は次の展開を示唆して終わった。

限界に近づくティエンの労働と空腹

ティエンは鉱山での重労働に耐えながらも空腹と栄養不足でふらつき、坑道で気を失いかけていた。優しい労働者に現場監督の不在を教えられ岩陰で休むが、眠っても体調は回復せず、仕事量の少なさからその日の賃金も打ち切られ、自分の生活がジリ貧であることを痛感した。両親に捨てられた記憶と向き合う覚悟も持てず、孤児院への寄付と貯金の間で揺れながら、将来に希望を見いだせずにいたのである。

修道院からの招待と不思議な食欲

新月前で体調の悪い夜、ティエンは修道院の先生に迎えられ、感謝を伝えるとともに修道院のディナーへ招待された。これまで修道院や街の食事は「マズい」と感じてほとんど食べられなかったが、その夜は修道院から漂う料理の香りに初めて食欲を刺激される。食堂に入ると子どもたちは豪華な料理に歓声を上げており、ティエンもパンやスープ、肉を口にしてその美味しさに驚き、夢中で皿を空にしていった。

ニナの料理と「マズい」原因の解明

その食事は、かつて水を分けてくれたメイドのニナが作ったものだった。先生の求めに応じてニナは種明かしを行い、この鉱山街に運び込まれる食材の多くに保存料として紫鈴連花の花粉が使われていると説明した。一般人にはほとんど気にならない香りだが、狼を遠ざける性質を持ち、嗅覚に優れた月狼族であるティエンだけが強烈な不快感として感じ取っていたのである。ニナは紫鈴連花を使わない地元産食材の店を探し出し、その材料だけで料理を作った結果、ティエンは初めて街の食事を美味しく食べることができた。

恩人への報恩と鉱山案内の約束

満腹になって目覚めたティエンは、数日以内に衰弱死していたかもしれない自分を救ったニナに深い感謝を示し、恩を返したいと申し出た。先生も修道院として恩返しをしたいと賛同するなか、ニナが望んだのはイズミ鉱山内部の案内というささやかな願いであった。ティエンは快く了承し、翌日に案内することを約束する。先生はニナを特別な客としてもてなすためティエンに修道院への宿泊を勧め、ティエンも再びニナの料理を食べたい思いからそれを受け入れたのである。

一晩で美少女へ変貌したティエンと鉱山案内の開始

翌朝、修道院で風呂と身支度を整えたティエンは、血色も髪も服も見違えるほど整い、美少女と呼べる姿になっていた。ニナたちはその変貌ぶりに驚きつつ、ティエンの案内で鉱山街を歩き、記録保管庫や選鉱場、トロッコの運行など鉱山の仕組みについて説明を受けながら、見学の手続きをするため管理事務所へ向かったのである。

管理事務所での理不尽な疑いとニナの怒り

管理事務所では、やつれたはずの幽霊犬が一晩で別人のようになったことから、現場監督がティエンに盗みを疑うなど理不尽な難癖をつけた。しかし事務員が「見学証は任意」だと明かし、ニナが御者からの紹介を示すと、3人分の見学腕章が発行された。外に出た後、ニナはティエンを「幽霊犬」と呼んだ監督に憤慨するが、冷静になって自分の発言がティエンの立場を悪くしたのではないかと悩み、むしろ見返りを求めないニナの在り方にティエンのほうが戸惑う結果となった。

ニナの「お人好し」とティエンの心の変化

エミリは、修道院に過剰なほど寄付を続けるティエンの行動と同じように、見返りを求めず世話を焼く人間もいるのだと説明し、ニナがただ「気に入った相手の味方をしたいだけ」であると伝えた。ティエンは現場監督や自分を捨てた両親のような大人と、ニナのように見ず知らずにも手を差し伸べる大人を比較し、自分もいつかニナのようになれたら日々がもっと楽しくなるのではないかと感じ始める。一方ニナも、自分が「他人よりずっと世話焼きでお人好し」なのかと自覚し始め、メイド服を脱いだ自分がどうなるのか、旅の先に何を望むのかを考え始めていた。

排水量の異常と危険な第4区

鉱山入口に着くと排水路の水量が普段より異常に多く、昨夜の山奥の大雨が原因だと知らされる。ティエンは水の危険性を訴えるが、労働者は「プロだから危険なら引き上げる」と言い聞かせて採掘に向かう。彼らから「元気になってよかった」と次々声を掛けられたティエンは、これまで自分に余裕がなく気づけなかった周囲の温かさを知り、健康な自分ならノルマ達成にも貢献できると考えて、見学後に採掘を手伝う決意を固めたのである。

鉱山見学と月狼族としての力の披露

坑内では、ヒトだけでなくドワーフや蜥蜴族など多種族が働く様子や巨大な魔導採掘機、細い坑道での鉱脈探索などを見学し、労働者たちは珍しいメイド姿の見学者を温かく見守った。採掘体験ではエミリもアストリッドも重い特製ツルハシを扱えず、ニナだけが苦労しながらも振り下ろすことに成功する。さらにティエンはそのツルハシを片手で担ぎ、片腕だけで壁面に深々と打ち込んで見せ、月狼族の規格外の膂力を周囲に印象づけた。

特別なサンドイッチとニナの原点

見学を終えて外に出ると雨が降り出し、ティエンはノルマを助けるため鉱山に戻るつもりだったが、ニナ特製の弁当――保存料抜きの食材で作ったサンドイッチ――の誘惑に負けて同行する。人気のない場所でバスケットを開けると、ニナが夜明け前から焼いたパンによる色鮮やかなサンドイッチが並び、その味にティエンは感嘆した。エミリとアストリッドは、これほどの味なら一流シェフも教えを乞うだろうと称賛し、ニナはそれがかつて仕えた屋敷の料理人ロイから教わったレシピであり、挨拶もできずに屋敷を去ったことを悔やみながら、今も元同僚たちを懐かしく思っていると語った。

不穏な地響きと鉱山事故の予兆

和やかな食事の最中、遠くから地鳴りのような音が響き、エミリが不審に思う。口いっぱいにサンドイッチを詰め込んでいたティエンは、呑み込んだ後でその方角が第4区を含む鉄鉱山だと気づき、「鉱山でなにかがあったのかもしれない」と告げる。第4区はもともと出水の多い危険なエリアであり、そこへ今朝、虫の居所の悪い現場監督と多くの仲間たちが向かっていたことから、彼女は不穏な事態の発生を直感するのであった。

崩落事故と事務員の責任回避

ニナたちが鉱山入口に戻ると、第4区の崩落で坑口は混乱していた。赤髪の労働者の説明により、死者はおらず、現場監督だけが崩落の向こう側に閉じ込められていると判明した。事務員たちは空気の余裕を理由に守備隊到着まで待つ方針を取り、人命救助より補償やノルマ遅延の心配を優先して責任を外部に押しつけようとしていたのである。

新月の闇とティエンの救助決意

ティエンは「一度崩落した坑道は二度崩れる」と危険性を指摘し、即時救助の必要性を主張した。赤髪の男は現場監督の横暴ぶりと労働者からの嫌われ方を語るが、ティエンは新月の暗闇にひとり取り残される恐怖を月狼族の感覚と重ね、「憎くても事故なら助けるべき」と語った。この決意は、つらい新月でも満月を思い出して前を向けと教えた両親の言葉に支えられていた。

ニナの救護指揮と労働者たちの奮起

ニナは自分は前線に出られないと判断し、代わりにエミリとアストリッドを救助要員として差し出し、自身は入口で負傷者の救護に当たることにした。管理事務所と鉱山食堂を臨時救護所として開放させ、驚くべき速さで清掃と配置換えを行い、自分の金貨で包帯や薬、火酒を調達して手当てを始めた。その姿に心を動かされた赤髪の男は酒瓶を差し出して協力し、さらに「ティエンが監督救助に向かった」と仲間に告げて、多くの労働者を再び坑内へ向かわせた。現場監督を嫌っていた彼らも、ティエンとニナの行動を恥じ、鉱山のプロとして救助に加わる決意を固めたのである。

第4区水没現場での救出作戦

一方、ティエン、エミリ、アストリッドは第4区に到達し、崩落で塞がれ水没した坑道を目の当たりにした。ティエンは前日に嗅いだ異様な水のニオイと山の豪雨を思い出し、事故を予見できたかもしれないと自責したが、アストリッドは「不幸な事故を乗り越えるために来た」と諭した。エミリの魔法による調査で、坑道は十数メートルにわたり瓦礫で埋まり、出水も続いていることが判明する。瓦礫の除去と坑道補強は魔法で可能だが、排水は不十分で、中に入る者は暗闇と濁水の中を泳がねばならない状況であった。

ティエンの単独潜水と仲間の支援

ティエンは第4区の地形を熟知していることと月狼族としての腕力と嗅覚を根拠に、自らが潜水して現場監督の救助に向かうと申し出た。アストリッドは危険性から逡巡したが、崩落音が続く中、エミリは「今一歩を踏み出さなければ一生後悔する」という自身の経験を引き合いに出してティエンの覚悟を支持した。最終的にアストリッドも同意し、ロープをティエンの身体に結び、二回の合図で引き戻す救助方法を決める。エミリは残り少ない魔力で瓦礫を引き寄せて坑道を開き、岩盤を補強した。準備を終えたティエンは装備を脱ぎ捨てて坑道の濁流に飛び込み、ロープは暗闇の奥へと飲み込まれていった。エミリは実際にはほぼ魔力を使い切っていたことを明かし、アストリッドとともに、もうひとりの「意地っ張り」が無事に戻ることを願いながらロープの動きを見守り続けたのである。

水没区画に取り残された現場監督の絶望

第4区に一人取り残された現場監督は、水位の上昇と暗闇の中で死への恐怖に支配されていた。家族を思いながらも逃げ場はなく、魔導ランプも水没して光を失い、絶望の中でもがき続けていたのである。

ティエンの単独潜水と共に生きて戻る決意

そこへティエンが泳いで到達し、崩落は魔導士が処理したと告げて救出を申し出た。ロープの長さが足りず引き返しも危うい状況だったが、彼女は危険を承知で現場監督と共に脱出する道を選ぶ。監督は途中で見捨ててよいと頼むが、ティエンは自分で家族に愛を伝えるべきだと言い、共に帰還する覚悟を固めた。

限界の潜水と鉱山労働者たちの支援

帰路の水深増加と距離の長さから現場監督は途中で意識を失い、ティエンも酸欠寸前で一度は単独脱出を考えるが、決意を貫くため引き返して彼を抱えて泳ぎ続けた。ほぼ限界のところで水中のロープが強く引かれ、鉱山労働者たちが端を探し出して引いたことで、二人は辛うじて水面へと引き上げられ救出に成功した。

ニナの即席救護体制と被害の最小化

一方外では、ニナが管理事務所と食堂を素早く片づけて救護所兼臨時医務室とし、自分の資金と料理人たちの協力で消毒用の酒や薬を調達し、負傷者の手当てを指揮していた。その献身に動かされた鉱山労働者たちは医師や厨房、清掃の手伝いに回り、やがて医師も到着して本格的な治療が行われる。大事故にしては死者も出ず、応急処置も高く評価され、この日は奇跡的に被害を最小限に抑えた形で終わったのである。

ティエン、町を出ることを決意する

鉱山事務所を臨時救護所とした部屋で目覚めたティエンは、そばにいた先生から事故後の状況を知らされたうえで、自分も町を出てニナたちと旅に出たいと告げた。さらに、いつか自分を捨てた両親に会い、理由を確かめたいという本心も打ち明ける。先生は月狼族としての彼女の旅の無事を神に祈ると約束し、静かに背中を押したのである。

ニナの過剰な「メイド行動」とエミリたちのたくらみ

一方宿では、前日遅くまで救護所で働いていたはずのニナが、早朝から洗濯まで済ませて動き回っており、疲労をものともしていない様子を見せていた。エミリは自分の衣類は自分で洗うと制し、ニナが無意識に自分を「使用人」の立場に押し込めていることを自覚する。そこでかねて相談していた、ニナを対等な仲間として扱うための「たくらみ」を実行に移す決意を固めた。

鉱山復興を手伝うため、街に残る提案

鉱山事故の噂が不安を広げる街へ買い出しに出た三人に対し、ニナは鉱山復旧を手伝いたい気持ちを口にできずに飲み込む。そんな様子を見たエミリは、自分から「もう少しこの街に残って手伝おう」と提案し、魔法や技術で役に立てると明言した。この言葉にニナは感極まって抱きつき、エミリは「メイドではない素のニナ」の感情表現を見られたことに喜びを覚える。

ティエン合流を見据えた次の一手と冒険者ギルド行き

アストリッドは、ニナが鉱山労働者の仕事さえ気に掛けて遠慮していること、そしていずれティエンもニナについて行きたいと言い出すであろうことをエミリと共有する。二人は、これから増えていくであろう「仲間」を受け止める枠組みを整えるためにも、まずは冒険者ギルドへ向かうことを決める。その一方でニナには、ティエンの様子を見てくるよう頼み、鉱山での再合流を約束したのである。

エピローグ メイドさんといっしょ

公爵が見出した「野良メイド」の価値

ウォルテル公爵は、半年から一年と見込まれていたイズミ鉱山の復旧が一か月で終わった報告を受け、調査の結果、第五位階の魔法で岩盤を補強し、前代未聞の魔道具で排水した少女二人と、その二人を支えるメイドの存在を知ったのである。メイドは鉱山労働者から聖女と呼ばれており、主人不在の「野良メイド」と判明すると、公爵は彼女を年俸百二十万テル相当で召し抱える決断を下した。

懸賞金と王命に振り回されるマークウッド伯爵

同じ頃、クレセンテ王国のマークウッド伯爵は、かつて屋敷を追い出したメイド、ニナに懸賞金一千万ゴールドを掛けていた。ウォルテル公爵の使者は、その懸賞金の取り下げと罰金肩代わりを申し出るが、伯爵はニナの価値もイズミ鉱山での活躍も知らぬままこれを拒否する。すると使者は国王の書状を示し、ニナに関する一切の権利をウォルテル公爵に譲渡し、供託されていた懸賞金も国庫に没収すると告げた。伯爵は情報を集めなかった自らの失策により、優秀なメイドと大金の両方を失ったのである。

崩れゆく伯爵家と、ニナがつないだ縁

その後伯爵邸は混乱し、ニナの詳細な引き継ぎを書き捨てたメイド長は叱責とともに解雇され、執事長も降格された。厨房ではメイドのソーニャが長期休暇での帰省前に、料理人ロイと庭師トムスから見送りを受ける。ロイはユピテル帝国の大きなレストランへの誘いを明かし、トムスも息子夫婦のもとへ移ることを考えており、三人はそれぞれ屋敷を去る覚悟を交わした。ソーニャは二人に抱きついて別れを惜しみ、ロイとトムスもこれはニナがつないだ縁だと語り合う。彼らは、あの小さなメイドほどの存在にはもう二度と出会えないだろうと確信していたのである。

ティエンの迷いと、当然のような受け入れ

鉱山での式典後、ニナたちは修道院の部屋で旅立ちの支度をしていた。ティエンは両親探しのため同行したいと考えながらも、自分の無力さや厚かましさを恐れて言い出せずにいた。勇気を振り絞って「いっしょに町を出るのです」と告げたところ、エミリはすでに四人分の馬車チケットを用意しており、三人ともティエンを仲間として受け入れていることを当然の前提として示した。ティエンは、すでに自分が「仲間」と見なされていた事実に気づき、涙ぐみながら荷物一つで旅立ちの準備を整えたのである。

孤児院との別れと「いってきます」

四人は孤児院へ別れの挨拶に向かい、子どもたちから引き留める声と涙で見送られた。ティエンは修道院の先生に別れを告げようとしてしょんぼりするが、先生から「さようなら」ではなく「いってきます」と言うよう諭される。ティエンが「いってきます、先生。みんな」と告げると、子どもたちは「いってらっしゃい」と笑顔で応え、いつか土産を持って帰ると約束した。こうして修道院は、ティエンにとって「必ず帰る場所」として心に刻まれたのである。

パーティー証が示す居場所と家族のかたち

乗合馬車の停留所の手前で、エミリはニナに銀色の金属プレートを差し出した。それは冒険者ギルドで登録したパーティー証であり、ニナ、エミリ、アストリッド、ティエンの名が刻まれていた。エミリは、ニナと対等な仲間であり続けるための仕組みとしてパーティー登録を選んだと説明し、アストリッドはそれを「誓い」や「家族」の証と捉え、どこにいてもパーティーが帰る場所になると語った。ニナは自分の居場所を与えられた喜びに戸惑いながら涙をこぼし、三人から「もっと自分に正直になっていい」と受け止められることで、本音を見せられる関係になっていった。

パーティー名「メイドさん」と続く旅路

四人は今日からパーティーとして旅立つことを誓い合い、ニナは感謝と共に「これからよろしくお願いします」と頭を下げた。その一方で、プレートに刻まれたパーティー名が「メイドさん」であることに気づき、「おかしくないですか」と素直に抗議する。しかしエミリは名称変更を即座に拒み、アストリッドとティエンも面白がって受け入れた。ニナだけが名前に納得できないまま、四人は「メイドさん」という名のパーティーとして次の町行きの馬車に乗り込んだ。こうして、家族のような四人の旅は新たな形で続いていくことになったのである。

特別書き下ろし ワインはほどほどに

荒野のキャンプとワイン論争
旅の途中、ウォルテル公国へ向かう原野の街道沿いで、エミリとアストリッドは「一番おいしいワインは何か」を巡って対立していた。エミリは「横っ面を張られたようなインパクトを持つ重厚でエレガントなフルボディ」を最高と主張し、アストリッドは「長い冬を抜けた後に春の足音が聞こえるような軽やかなライトボディ」が最上だと譲らなかった。ふたりは互いを「分からず屋」と罵り合い、メイドのニナは荒野の野営地という場違いな環境の中で、両者の仲裁に困惑していた。

「海底ワイン」を餌にした詐欺師の出現
エミリとアストリッドの言い争いの最中、同行している商隊の商会長が現れ、「半世紀前に滅んだ海洋王国ミューの『海底ワイン』」と称する希少な一本を見せつけた。そのワインは、海中で十年以上寝かせられたことで有名な高級品であり、アストリッドは一目で「二十年物の海底ワイン」らしき特徴を見抜いた。商会長は、オークションに出せば金貨千枚からの価値があると説明しながら、金貨五十枚で譲ると持ちかけた。しかし、出会ったばかりの相手に破格で希少酒を売るという不自然さから、アストリッドは商会長が詐欺師であると判断し、エミリも一時は乗せられつつ、違和感を思い出して警戒に転じた。

仕組まれた“喧嘩”と詐欺の暴露
実はワイン論争は、ニナを危険から遠ざけるためにエミリとアストリッドが打ち合わせた芝居であり、ふたりは詐欺師の動きを誘うため意図的に大げさな口論を演じていた。ニナがワインを探しに席を外した隙を狙って、エミリは無詠唱の風魔法で酒瓶の中央を切り裂き、中身を検分させた。アストリッドは、古酒であれば必ず沈殿するはずの澱がさらさらであることや香りの軽さから、中身が安物ワインであると見抜き、海底ワインの名を騙る偽物であると断定した。逃走しようとした商会長は同行していた冒険者たちに取り押さえられ、公都到着後に衛兵へ引き渡されることになった。

ニナの調達した“本物の満足”と三人の絆
騒動の後、ワインを二本抱えたニナが戻ってくると、エミリとアストリッドは彼女に詐欺師のことは詳しく話さず、用意されたワインを試飲した。その一本はエミリの求める「横っ面を張られたような重厚なフルボディ」、もう一本はアストリッドの望む「冬明けの春の足音のように軽やかなライトボディ」であり、どちらも見事に期待を満たす出来であった。しかもそれらは銀貨一枚という破格の値段で手に入れたものであり、ふたりは「ニナになら騙されてもいい」と半ば本気で感嘆した。ニナは詐欺事件を知らぬまま、ふたりの仲が元通りになっていることに安堵し、エミリとアストリッドはそんなニナの頭を優しく撫でながら、三人の間に育ちつつある信頼と絆を噛みしめていたのである。

これがわたしの勝負服です!

エミリの「ニナおしゃれ計画」発動
ウォルテル公国の公都に到着した夜、エミリは酔った勢いで「ニナを可愛く着飾りたい」と言い出した。ニナはその場では酔い言と受け流したが、翌朝になってもエミリの意思は変わらず、「古着店に行くわよ」と強引に外出を提案した。本来の目的地はイズミ鉱山であったが、エミリは「鉱山は逃げないが服との出会いは一期一会」と主張し、アストリッドも「一日くらい公都に留まっても悪くはない」とフォローしたため、ニナはしぶしぶ付き合うことになった。

公都の服飾通りとニナのファッションショー
公都には古着店とアクセサリー店が連なる「服飾通り」があり、エミリのテンションは一気に上がった。彼女は試着室を使ってニナの“ファッションショー”を開催し、アストリッドだけを観客に次々とコーディネートを披露させた。つば広帽子と浅黄色ワンピースのカントリースタイル、ショートパンツとブラウス・キャスケット帽のボーイッシュ&キュートな組み合わせ、フリルたっぷりのアイドル風ミニスカート、双子コーデの魔法使いスタイル、カフェ店員風、さらには剣を帯びた冒険者風まで、エミリは饒舌な解説を添えながら着せ替えを楽しんだ。普段どんな重労働でも平然としているニナですら、さすがに疲労困憊するほどの試着ラッシュであった。

ニナの本音と「勝負服」の答え
一通り着せ替えを終えた後、エミリは「全部買いましょう!」と暴走しかけたが、アストリッドが冷静に却下し、「本人の希望がいちばん」と指摘した。そこで視線を向けられたニナは、自発的にメイド服へ着替え直し、「わたしはメイドですから、いつだってメイド服で勝負に挑み、メイド服で戦うのです」と宣言した。これにエミリも「正論」と脱帽せざるを得ず、ニナの“勝負服”がやはりメイド服であるという結論に至った。着飾られることや「可愛い」と持ち上げられることは、ニナにとって苦手分野であることも明らかになり、彼女が仕事の場以外では戸惑いを見せる貴重な一面が垣間見えた。

メイド服にこだわるエミリと、守りたいアストリッド
エミリは「勝負服は大事」となおも食い下がりつつも、「ニナにはメイド服がいちばん」と悟り、方向性を転換した。「だったら、とびきり可愛いメイド服を自分がデザインする」と拳を握り、ニナは引きつった笑顔でそれを受け止めた。一方アストリッドは、エミリの暴走気味な愛情にツッコミを入れつつ、「自分の目が黒いうちは、ニナが安心して旅できるようにしたい」と内心の保護欲をのぞかせた。結局、この日はなにも購入せず店を後にし、店主だけが涙目で終わる結果となったが、三人の関係性と、ニナにとっての「本当の勝負服」はメイド服であるという事実が、改めて浮き彫りになったエピソードであった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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