8巻 10巻
物語の概要
本作はファンタジー×青春異世界ライトノベルである。王国動乱を収束させた天才魔術師アレンは、東都に戻り教え子たちに囲まれて療養を始める。平穏を取り戻したかに見えた彼だったが、その名声はもはや「剣姫の頭脳」では収まらず、己に与えられた「流星」の称号を巡り、王族や貴族たちが動き出す。戦後処理が進む中、アレンは再び表舞台へと引き戻される展開である。
主要キャラクター
- アレン:魔力は少ないが優れた魔法技術を持つ少年。王立学園を卒業後、公女ティナやエリーの家庭教師となり、戦乱を治めた英雄とされる。
物語の特徴
本巻の魅力は、英雄としての戦後処理を丁寧に描く“休息編”と、その裏で動き始める新たな政治的波紋を同時に展開する点である。戦乱が終わっても収まらない名声と期待、称号や影響力を巡る大人たちの仕掛けが、アレンを再び中心に据えさせる。教え子との日常描写と政治的駆け引きが調和し、シリーズ第3部開幕の幕開けとして読み応えがある構成である。
書籍情報
公女殿下の家庭教師 9 英雄の休息日
著者:七野りく 氏
イラスト:cura 氏
レーベル:富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)
発売日:2021年07月16日
ISBN:9784040741451
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あらすじ・内容
メイドさんは知っています――アレンさんは、よく頑張りました。
王国動乱、決着。激闘を終えたアレンは東都で教え子たちに囲まれ、療養しながらほっと一息。だが彼の名声は最早、『剣姫の頭脳』では収まらない。彼を巡って教え子と大人たちが動き始め――!? 第3部、堂々開幕!
感想
王国を揺るがす大きな動乱が終わり、主人公のアレンが束の間の休息を得る物語である。激しい戦いを終えたアレンは、東都で教え子たちに囲まれ、心身ともに癒やされていく。しかし、彼の活躍は人々の記憶に深く刻まれ、新たな騒動の種を蒔くことになる。
今巻では、内乱の戦後処理や対外的な対応が動き出す中で、アレンが年上のメイドであるリリーに甘やかされる場面が印象的だ。リリーの存在感が増し、物語における重要なキャラクターとしての地位を確立しつつある。アレンを慕う人々が多いからこそ、彼を快く思わない勢力が現れても、きっとみんなで乗り越えられるだろうと、希望に満ちた気持ちになる。
戦後処理と、次なる展開への繋ぎとなる今巻は、読みたい要素が詰まっていて非常に満足度が高い。ヒロインたちとの心温まる時間、ギルの処遇、そして古き誓約の扱いなど、物語の核心に触れる部分が丁寧に描かれている。激戦を終えた後の、穏やかな日常シーンは、思わず頬が緩み、涙腺が刺激される。特に、アトラのマスコット的な可愛らしさには、心が癒やされる思いだ。
リディヤの弱体化があっさりと解決したり、最後の展開が少し唐突に感じられた点は、少々気になった。物語が完結してしまうのかと一瞬不安になったが、次巻へ続くようで安心した。姫や後輩たちの本格的な登場を期待していたが、舞台が南方へ移るとなると、もう少し先になるのかもしれない。
王国の動乱を解決したアレンが、療養のために入院しているという設定も、これまでの緊迫感から解放され、新鮮に感じられた。ハラハラドキドキするシーンがないのは久しぶりで、リディヤとのいちゃいちゃや、リリーとの意味深なやり取りを中心に、いつものアレンを巡る騒動が戻ってきたような感覚を覚える。個人的にリリーが好きなので、彼女の出番が多くて嬉しかった。ギルの処遇も決まり、アレンは新たな称号を継承する。次巻から新展開が始まるのだろうか。しかし、いつものように騒がしい日々が待っているような気もする。どちらにしても、今後の展開が楽しみでならない。
ただ、ティナのだだっ子感が強くなっているのが少し気になった。彼女は一巻の表紙を飾ったヒロインの一人であるにも関わらず、リディヤに美味しいところを奪われがちなので、彼女にももっと活躍の場を与えてほしいと願っている。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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8巻 10巻
展開まとめ
プロローグ
夜の丘に集う者たちと教授の到着
王都奪還から二日後、王立大学校の研究生テト・ティヘリナは、教授の使い魔アンコに導かれ、騎士に封鎖された東方の丘に呼び出された。彼女を護衛するのはハワード、リンスター両公爵家に所属する精鋭部隊であった。教授の到着により、アレンとリディヤが無事であること、ティナ・ハワード公女が東都を救ったことが伝えられた。ギル・オルグレン公子の安否も一応は確認され、テトは安堵と共に墓所へ向かうこととなった。
墓所の秘密とアレンの親友の記憶
教授に連れられたテトは、大規模な結界の内にある簡素な墓石の前へ案内された。墓はアレンが建てたものであり、埋葬されているのは彼の親友ゼルベルト・レニエの遺品であった。ゼルベルトは王都を守って戦死し、その功績により王立学校地下の大墳墓に葬られた英雄であった。アレンがこの丘に墓を建てたのは、友との約束を果たすためであった。
墓を狙った魔力の襲撃と教授の応戦
突如、墓石に謎の灰黒の印が現れ、聖霊教の魔力による攻撃が始まった。灰黒の蛇が実体化し、テトが魔法を準備するも、教授の命で退いた。教授は強力な魔法によって攻撃を無力化し、聖霊教の仕掛けた罠であると断定した。敵の魔力は蘇生能力を持ち、墓所全体が狙われていたことが明らかとなった。
ガードナーの登場と王太子の意向
教授とテトのもとに現れたのは、王宮魔法士筆頭ゲルハルト・ガードナーであった。彼はジョン王太子の使いとして現れ、王都の秩序回復と王宮禁書庫からの略奪、王子の行方不明など、急進的な聖霊教の動きを報告した。ガードナーは、今回の事態を受けて派閥内部の一掃を進める意図を示したが、教授との間には依然として敵意が存在していた。
アレンの介入阻止と新たな指示
教授はアレンを王都に留めたまま現場を見せぬよう画策し、リディヤと共に東都から離れた場所へ向かわせる計画を口にした。テトにもその手助けを求め、二人に向けた手紙の作成を依頼した。教授は、王国の安寧と未来のため、アレンの怒りを回避すべく策を巡らせるのであった。
第1章
病室での療養と再会
東都の戦乱終結から三日後、アレンは特別病室で療養を続けていた。魔力を回復中のアトラと共に静かに過ごす中、リリー・リンスターが訪れ、互いの過去や思い出を語り合った。リリーはリディヤを支えたことに感謝され、感動的なやり取りが交わされたが、その場にリディヤが現れ、三人の間に緊張が走る。嫉妬を見せるリディヤはアレンと気持ちを交わし合い、魔力減衰による不安を抱えながらも、彼の存在を支えとして前向きな姿勢を見せた。
復興作業とステラの献身
一方、ステラ・ハワードは野戦病院で治癒魔法を使い、怪我人の救護に尽力していた。市民からは「聖女」と称えられ、本人は照れつつも復興に貢献していた。カレン・ウォーカーとの交流やアレンへの想いが描かれる中、騎士団や市民の協力で復興作業は進んでいた。ステラはアレンの社会的地位向上を目指し、仲間と協力する決意を新たにしていた。
政治的動向と会議の裏側
リンスター公爵家メイド長のアンナが登場し、東都と王都の復旧状況、貴族間の会議動向、各地の戦況が明かされた。特に、三公爵家の王都離脱や、アレンの功績と叙勲に関する議論が続いていた。アレンは今なお社会的には不安定な立場にあり、守旧派貴族の反発も残るが、彼の働きが正当に評価されつつあることが示唆された。
新たな問題と決意
通信宝珠からティナたちの緊急連絡が入り、かつて戦った魔獣『針海』に宿っていた大精霊『石蛇』の残滓が増殖していることが判明した。事態を重く見たステラは、疲労を抱えながらも浄化のため現場に向かう決意を固めた。復興の只中、各人は次なる危機と向き合いながらも、それぞれの立場で奮闘を続けていた。
教え子たちとの内庭での対話と成長の確認
午後、病院の内庭でアレンは教え子たち――ティナ、リイネ、エリーと面会し、石化浄化後の様子や成長を確認した。ティナの無理を案じたアレンは注意を促すが、リイネに指摘されて彼女は観念する。エリーが登場し飛翔魔法式の習得を評価され、リイネも強力な魔法『紅剣』の発動に成功していた。ティナは基礎課題に不満を漏らすが、魔力制御の習熟が優先であると諭される。三人は互いに切磋琢磨し、目標を共有しながら前向きな誓いを交わした。
ティナの告白と新たな目標の提示
ティナはアレンに対し、自身の想いを涙ながらに告白し、彼に相応しい存在になると宣言する。その強い決意に反応するかのように魔力が輝きを放ち、アレンは次の目標として、大精霊『氷鶴』の感知を提案する。二人のやり取りは周囲の仲間たちの関心を集め、リイネとエリーが即座に割って入り、平和な日常が戻ったことを印象づけた。
ステラの入院とすれ違う想い
その夜、ステラは過労で倒れ入院する。アレンの病室を訪れた彼女は、白シャツを手にして着用しようとするが、その最中にアレンと鉢合わせてしまう。羞恥に動揺しながらも、ティナ達と同様、自身の想いをアレンに打ち明ける。アレンはその誠意を受け止め、彼女の願いである「一日限りの執事役」を了承する。二人は穏やかな時間を共有し、心の距離を縮めた。
病室でのリディヤとの静かな対話
病室に戻ったステラは、隣で眠るリディヤと静かに対話する。アレンへの強い絆を持つリディヤは、自身の立場を示す一方、ステラの想いを否定せず、努力を促すような言葉をかける。ステラもリディヤを尊敬していると述べ、敵対ではなく共存を求めた。二人の間に、複雑ながらも温かい絆が生まれていた。
姉妹たちの関係と休息のひととき
朝、リディヤとステラが紅茶を淹れに病室を離れ、アレンは妹のカレンと穏やかな時間を過ごすこととなった。カレンはアレンのローブを仕立て直し、彼に着せて感慨を口にする。アレンもその気持ちを受け止め、かつてのように妹を抱きしめ、仲の良さを再確認した。会話の中でカレンが尊敬する半妖精族の魔法士から贈られた軍帽の話題が出て、アレンは自らの制帽を彼女に譲ることを申し出た。
東都の復興とギルの拒絶
カレンは東都の復興状況を報告し、人族の支援によって着実に修復が進んでいることを伝えた。一方、リディヤの暴走によって破壊された通信網も修復中であると述べた。さらに、オルグレン家の武具『深紫』や短剣『光産』の返却をアレンが指示したにもかかわらず、ギルがそれを拒否したことが語られ、アレンは彼との再会を決意する。
フェリシアへの手紙と感謝の気持ち
話題は南都で働くフェリシアに移り、彼女が無理をしていることにアレンは心を痛めた。カレンの励ましにより気を取り直したアレンは、フェリシアへの手紙を記す。内容には近況報告と感謝、そして彼女の働きが東都の獣人たちを救ったことへの深い敬意が込められていた。フェリシアが体調を顧みず奮闘していることを案じたアレンは、休養を促し、再会を誓って締めくくった。
第2章
帝国と王国の講和交渉
舞台はユースティン帝国皇都。老いた皇帝ユーリー・ユースティンは、ハワード公爵家の執事長グラハム・ウォーカーと講和の席についていた。王国との戦争に敗北した帝国は南方戦線で壊滅的打撃を受け、内部でも皇太子ユージンの叛意が発覚。軍の主力を他戦線へ移せず、帝国は危機的状況にあった。そんな中、王国側から突き付けられた講和条件は白紙講和。真の敵は狂信的な聖霊教であると示された。皇帝は内心では納得しつつも、その真意を測りかねていた。
帝国の分裂危機と戦略的割譲案
講和の一環として、皇帝は国境地帯の「シキ」の地を王国へ割譲することを提案する。この地は資源も乏しく、国内の政敵を炙り出す格好の材料となると同時に、将来の再戦への布石ともなり得るものだった。さらに、ここは大魔法の探索に関連する由緒ある地でもあり、王国にとっても意味ある交渉材料となる。交渉は継続協議となり、皇帝は王国に現れた新たな英雄の正体を問うが、グラハムは名を伏せたまま、ただ深い恩義を感じている存在だと伝える。
病院での穏やかな時間と情報整理
場面は東都へ戻り、アレンは病院内で静かな療養を続けていた。リリーから現状を聞き出す一方、教え子たちの課題作成にも追われていた。リディヤやステラも病院に留まりながら、穏やかな日常を取り戻しつつあり、魔法訓練や会話を通して互いに絆を深めていた。聖霊教の動きは沈静化しているが、東方の秩序回復にはなお時間を要していた。
各地の戦況と勢力の動向
北方のユースティン帝国とは講和が成立。南方ではリンスター家が圧倒的優勢を保っていたが、戦争そのものは終結しておらず、次の緊張が予感されていた。また、ルブフェーラ公爵家と西方諸家が異例の参戦を果たし、獣人族の東都救出という願いが背景にあることが仄めかされた。
退院と再始動への準備
アレンとリディヤ、ステラには退院許可が下り、久しぶりの外出に向けた支度が進む。三人の少女たちはアレンを着せ替え人形のように扱いながらも、それぞれの想いを胸に秘めていた。リリーも試作魔法の披露を通じてその異才ぶりを見せつけ、空中を駆け抜けて先行していく。
グリフォンでの帰還と再会の予感
アレンを迎えるため、カレン、ティナ、リイネがグリフォンに乗って現れ、アレンを巡る騒がしくも温かなやり取りが繰り広げられた。それぞれがささやかな主張をしながらも、最終的にカレンとアレンは一緒にグリフォンに乗り、帰路についた。アレンの体調回復とともに、仲間たちとの日常がゆるやかに戻ってきたのであった。
実家への帰還と温かな祝宴
アレンとカレンは、家族が待つ獣人旧市街の実家へグリフォンで帰還した。屋敷はリンスター家のメイドたちの手で復旧が進められ、内庭ではアレンの退院を祝う盛大な準備が整えられていた。ティナやリイネ、ステラ、エリーたちが協力し、エリーの料理をはじめ、家族の手による歓待が心を和ませた。母エリンやリサ・リンスター公爵夫人との再会も果たされ、アレンはその場で感謝と温かい抱擁を受けた。
賑やかな宴と家族の絆
祝宴ではリディヤとカレンの姉妹げんか、ティナやリイネの競争心、エリーの素直な献身、リリーの奔放な振る舞いが交錯し、和やかで賑やかな時間が流れた。宴の後、皆が次第に眠りに落ちる中、アレンはブランケットをかけてまわり、平和なひとときを見届けた。
父との対話と英雄としての自覚
夜、アレンは父ナタンと語り合い、静かにワインを酌み交わした。父はアレンの成長と功績を誇りに思いつつも、彼が英雄として重荷を背負いすぎないよう心から願っていた。アレンはその想いを深く受け止め、自らの使命を胸に刻む。
リディヤとティナの誓い
そこに現れたリディヤは涙ながらにアレンの隣に立ち、彼を命に代えてでも守ると父ナタンに誓った。続いてティナも結界と魔法を展開し、魔法を授けてくれた恩への報いとして、アレンに恩返しの機会を与えてほしいと訴えた。二人の真摯な言葉に父は感涙し、アレンを託すと明言した。
英雄譚との重なりと新たな一歩
リディヤとティナのやり取りは口論となりつつも、その根底にある絆と信頼が滲んでいた。ナタンは、かつての英雄「流星」に仕えた二人の副官の逸話を引き合いに、アレンたちの歩みに重ねた。そして、アレンは大学校の後輩テトへの手紙を書きながら、自らの歩むべき道を静かに見つめ直すのだった。
第3章
東都に迫る大公爵家と民衆の憶測
東都の復興が進む中、王都・東都間の鉄道が復旧し、三大公爵家の到来が目前に迫っていた。民衆の間では、族長会議の再開やオルグレン公爵家の粛清が噂され、緊張が高まっていた。そんな中、ギル・オルグレン公子付き護衛メイド・コノハは、禁を破って密かに外出し、アレンのもとへ向かっていた。
コノハの葛藤と姉との再会
コノハは姉モミジと再会を果たし、姉夫婦の支援を受けてアレン邸を目指す。ギルの罪を一身に背負う覚悟と、過酷な現実に押し潰されそうになりながらも、彼を救う唯一の希望としてアレンに託す決意を固める。その姿に姉は涙し、アレンとの対話を勧めるが、英雄視されるアレンに会うことさえ困難であるとコノハは諦めかけていた。
ギル・オルグレンの贖罪と静かな決意
夜半、コノハは東都郊外のオルグレン別邸を訪れ、沈痛な面持ちのギルに食料を届ける。彼は王家宛の意見書に自身の全責任を認める形で魔法印を施し、オルグレン家の全情報と技術を明け渡す構えであった。だがその姿は、かつて快活だった青年の面影を失い、すっかり自責と孤独に沈んでいた。
精霊アトラの変化と朝の騒動
一方アレンは、自宅で静かな朝を迎えていた。大精霊アトラが一時的に人の姿を取り戻し、彼の腹の上で眠っていたことが発端で、ティナをはじめとする教え子たちが騒然とする。にぎやかな朝食の席では、アレンと家族・仲間たちの温かな交流が描かれる。そこへ、王立学校長ロッドから族長会議への招集が届く。
コノハの懇願と決断の分岐
その矢先、アレン邸に押しかけてきたコノハが拘束される。彼女は涙ながらにギルを救ってほしいとアレンに懇願。リリーとアレンが仕掛けられた尾行魔法を解除し、ギルが自らを見張らせていたことが判明する。周囲の民衆の怒りが高まる中、アレンは毅然とコノハの願いを受け入れ、ギルの元へ向かうと宣言する。
会議と救出、二手に分かれる仲間たち
族長会議にはステラ、カレン、エリーが向かうこととなり、アレンはリディヤ、リリー、アトラと共にギルの救出へ出発する。ティナとリイネは同行を申し出るが、リディヤに一蹴される。決意を秘めた一行は、それぞれの目的地へと歩を進め、運命の転機を迎えようとしていた。
ギル・オルグレンの自責と脱出の決意
東都郊外のオルグレン邸にて、ギル・オルグレンは全責任を背負う覚悟で書類に署名し、自らの役目を終えたと感じていた。自室の整理を終え、忠義ある者たちを巻き込まぬよう一人で邸を去ろうとしたが、その直前、屋敷は「炎花の戦術結界」に包まれる。現れたのはアレンであり、ギルの脱出を阻止すべく姿を見せた。
アレンの説得と再戦の挑戦
ギルは、アレンが族長会議をすっぽかして自分を止めに来たことに混乱しつつも、自責の念と怒りを爆発させる。アレンはそれを受け止め、模擬戦と称して本気の勝負を挑んだ。ギルは『深紫』を手に全力でぶつかるが、アレンは魔杖『銀華』の性能を活かして雷の秘奥魔法すらも解析・防御し、戦いを制する。
友情の再確認と再起の約束
敗北したギルに、アレンは「君には罪状がない」「最善を尽くしただけだ」と語りかけ、激励する。ギルは涙ながらに感謝し、忠誠を誓いかけるが、アレンは友人として支える意思を明確に示す。そしてコノハとの関係も後押しされ、ギルは再び立ち上がる勇気を得る。
英雄たちとの再会と新たな出会い
その後、アレンは実家へ戻り、家族やステラと再会する。家には英雄『翠風』レティシア・ルブフェーラが訪れており、彼女はかつての盟友「流星」との誓いを果たすためアレンに感謝を伝える。同時に、獣人族の願いが「アレンの救出」であったと明かされ、アレン自身がその対象であったことに驚愕する。
迫られる選択と新たな責務の兆し
レティシアは、アレンが自力で脱出し東都を救ったことにより、獣人族から「代わりの願い」を求められるであろうと告げる。それが何を意味するかは不明だが、アレンは一同の視線を受け、覚悟をもって「よく考えて返答したい」と答える。その背後では教え子たちが騒がしくも日常を取り戻しつつあり、嵐の前の平穏を象徴していた。
第4章
水都の暗躍と分断される南北
南方侯国連合の中心都市・水都では、ロア・ロンドイロ侯爵令嬢が、同盟国カーニエン侯爵カーライルの動きを問い詰めていた。和平交渉が進まず、北部五侯と南部六侯の足並みは乱れたままで、カーライルはなおも戦争継続を図る一方、聖霊教と通じている疑惑が浮上する。彼は連合の変革には「外圧」が必要だと語るが、その思惑は不穏で、ロアは危機感を強めていた。
南都司令部とフェリシアの奮闘
南都では、リンスター公爵家大会議室が戦時司令部となり、フェリシア・フォスが兵站指揮と経済制裁を担当していた。メイド隊やサーシャらと共に奮闘する中、東方からの暗号通信に「使徒」「礎石」という不穏な単語が現れ、聖霊教の影が濃くなる。一方で、アレンからの手紙が南都に届き、フェリシアは彼の無事に涙を流して安堵した。
アレン邸の模擬戦とギルの再起
東都では、アレン邸の内庭で教え子たちとギル・オルグレンによる模擬戦が展開される。カレン、ティナ、リイネ、エリーが挑むも、ギルの実力は圧倒的で、アレンからの指導の下で各自の魔法の弱点が明らかにされていく。アレンはギルの才能を認め、近衛騎士団入りを画策しつつ、東方国境や王国の今後に向けた準備を進めていた。
模擬戦の混乱とリディヤの登場
ギルの過去の発言を暴露されて激怒したリディヤが和服姿で登場。ギルは命の危機を感じて逃亡するも、リディヤの殺気は健在であった。魔力がまだ不安定なリディヤを支えるアレンと、それを支援する幼女姿のアトラ、リリーの機転によりその場は収まった。妹カレンは制帽について甘えるなど、穏やかな日常も見せた。
公開会議の開催と新たな動き
最後に、王立学校長からの伝達が入り、ワルター・ハワードとレオ・ルブフェーラ両公爵が東都入りし、大間大橋前で公開会議を開くことが通達される。アレンは教え子たちを招集し、新たな局面への対応に臨む決意を固めた。事態は再び、政治と戦乱の渦へと動き始めていた。
公開会議と二人の英雄
東都大橋前の広場にて、王国と各種族の代表が集結し、公開会議が開催された。ワルター・ハワード公爵とレオ・ルブフェーラ公爵が東都襲撃事件の責任を認め謝罪し、関連貴族への処罰を発表。続いて獣人族の族長オウギが叛乱時の判断ミスを認め辞意を表明、アレンへの謝罪と感謝を捧げた。
アレンへの称号授与と反発
ワルター公爵がアレンに「流星」の称号を授与する旨を宣言すると、会場は動揺に包まれた。この称号は伝説の英雄を意味し、西方長命種族にとって神聖なものであるため、ドワーフや巨人族、竜人族などから強い異議が上がる。レティシア・ルブフェーラがそれに応じ、「実力で示せ」と提案し、自らアレンとの模擬戦を名乗り出た。
ティナとリィネの挑戦と敗北
アレンが準備中の間、ティナとリィネがレティシアへの挑戦権を求めて舞台に立つ。極致魔法「水雪狼」と「火熠鳥」を放つも、英雄の圧倒的な魔力と技により瞬時に打ち破られた。二人はその実力差に言葉を失い、観客もまたその威容に圧倒された。
アレンとレティシアの一騎打ち
アレンが登場し、戦闘は本格化。魔法と策略で竜巻や光弾、魔法生物を駆使して対抗するも、レティシアの超人的な技量に圧される。彼女が解放した「暴風竜」や魔王から奪った黒槍「揺蕩いし散月」を前に、アレンは魔力を削られながらも応戦した。
仲間たちの介入と誓い
レティシアの黒槍による決定打を目前に、リディヤとリリーが割って入り、アレンを守る。リディヤはアレンの「剣」であることを改めて誓い、リリーは護衛役として戦列に加わる。三人が並び立つ姿を見て、周囲は感動と驚愕に包まれる。
ステラの葛藤と決意
戦闘を見守っていたステラは、自らの未熟と迷いを痛感しつつも、アレンを守る者としての覚悟を新たにする。カレンとともに「もっと強くなる」と誓い、三人の戦士を見つめながら、彼女の中で新たな決意が芽生えた。
公開会議は、戦後処理と国家再編だけでなく、新時代の象徴となる戦いの場ともなり、各種族の未来に大きな影響を与えようとしていた。
精霊の祝福と“炎隣”の覚醒
レティシア・ルブフェーラとの戦いの最中、アトラとアレンの母エリンによる歌声と大精霊の加護が発動。空には蒼翠グリフォンが舞い、世界樹が反応して光を放ち、リディヤに八翼の白炎羽が宿る奇跡が起きた。完全覚醒したリディヤは英雄レティシアを正面から打ち破り、戦況を一気に変えた。
魔力の回路と“二人なら無敵”の誓い
リディヤの魔力減衰の理由が、アレンとの魔力の過度な接続にあることが明かされる。これは魔力の回路が固定化し、アレンが自由にリディヤの魔力を使える状態になっていたためだった。にもかかわらず、リディヤはそれを「嬉しい」とし、二人なら無敵であると宣言する。深まる絆が戦いの力となった。
“流星”の継承と英雄の歓喜
激戦の果てに、アレンは過去の『流星』の遺志を継ぐ者として認められる。レティシアは自ら敗北を認め、『流星旅団』の将兵も涙ながらに歓喜。二百年越しの想いが結実し、英雄の再来としてアレンが新たな『流星』となることが広く宣言された。祝宴が始まり、各種族がともに喜びを分かち合う。
教え子たちの誓いと“願い”の行使
戦いを見届けた教え子たちも自らの未熟さを悟り、新たな目標に向けて誓いを立てた。ステラの治療、リイネのための新しい短剣、エリーへの植物魔法の伝授、ティナへの『銀氷』の継承など、アレンは「流星旅団」分団長達に自身の“願い”を託していく。
“忘み子”の問いと安心の答え
アレンは最後の願いとして、リディヤが再び“悪魔”に堕ちる可能性を問いかけた。それに対してレティシアは、自身と“流星”、そして『剣姫』だけが戻れた例であるとし、「二度目は無理だが、お前がいるならば」と静かに断言。リディヤはアレンに「絶対に離れない」と抱きつき、安心と絆を深めた。
『銀氷』の継承と少女たちの成長
ティナはアレンから『銀氷』の魔力を託され、氷鶴の紋章が右手に浮かぶ。自身の中にある『氷鶴』の存在と意味を知り、涙ながらにアレンへ感謝を告げる。しかし、リディヤが割り込み、いつもの掛け合いが始まった。これにより場は和やかに、祝福と笑いに包まれていく。
新たな時代の到来へ
アトラの歌声が夜空に響き、エリンが涙を拭い、リサが笑顔を見せる。アレンは全ての願いを果たし終え、次の歩みとして四人の分団長に武勇伝を求めた。『流星』の名を継いだ青年と、その仲間たちによって、新たな英雄譚が幕を開けようとしていた。
王都への緊急召喚
祝宴の翌朝、アレンは王太子からの極秘召喚に応じるべく、夜明け前に邸を出発する。家族や教え子たちには手紙を残し、ひそかに行こうとしたが、母エリンやリディヤに気づかれ同行を申し出られる。さらにリリーやアトラも現れ、転移の旅に加わることとなる。
母子の対話と決意
出発前、エリンはアレンに「あなたが凄いことは分かっている」と語りつつも、母としての心配をにじませる。リディヤはそれに応じて「一緒に行く」と宣言し、アレンは黙って受け入れた。エリンの穏やかな口調と、息子を想う静かな覚悟が印象的であった。
アトラの同行とリディヤの焦り
幼いアトラはステラの魔力を吸収する役割を果たしており、彼女の同行はステラの治癒に必要とされた。リディヤは当初反対するも、「アレンに抱っこされたい」というアトラの無邪気な発言に対して本気で怒り出すなど、子供っぽい一面を見せた。
リリーの策略と腕輪の贈り物
リリーは転移直前、アレンに抱きついて銀の腕輪を嵌め、懐中時計を手渡す。その行動には彼女の魔力が込められており、花飾りのお返しでもあった。さらにその腕輪は、ナタンによる特注品であることが明かされ、リディヤの嫉妬を煽る結果となった。
転移直前の騒動と信頼の託し
リリーはリディヤの怒りを巧みにかわし、彼女をからかいながらも、アレンにアトラとリディヤを託すと告げる。別れ際、リリーは優雅に微笑み、アレンの無事を願った。リディヤは複雑な感情を露わにしつつも、アレンとともに旅立つ覚悟を新たにする。
転移魔法が発動し、アレン・リディヤ・アトラの三人は光の花に包まれて、王都へと旅立った。新たな局面の幕開けと共に、王国の運命を左右する謁見が待ち構えていた。
エピローグ
再出発の朝と仲間たちの気配
夜明けの内庭に転移したアレン、リディヤ、アトラの三人は、穏やかな空気の中で一時の静けさを味わっていた。花々の咲き誇る庭でアトラが無邪気に駆け回り、リディヤはアレンとの魔力の繋がりを浅くされたことに軽く不満を見せながらも、照れながら手を握り合う姿が印象的だった。
屋敷にはアンナやロミーといった熟練のメイドたちが迎えに出ており、アトラの世話を焼く中、リディヤは姉リリーが残していった腕輪を意識しつつ、アレンとの同行を決意していた。
王都での対峙と“剣姫”の乱入
ガードナー侯爵家の別邸に赴いたアレンは、王太子ジョン・ウェインライトの命によって、守旧派貴族たちにより監禁同然の尋問を受けることになる。議題は、アレンが手に入れた古代の魔法と「炎魔」の情報の明け渡し。だがアレンは毅然とこれを拒否し、「オルグレン老公」の功績をもって理を唱えた。
その場に突如として現れたのは、“剣姫”リディヤとアトラ。天井を破壊して舞い降りた彼女は、白翼を翻しながらアレンを援護し、議場を炎と威圧で支配した。王太子の前で堂々と「亡命」すら口にする彼女の行動は、貴族らに戦慄を走らせた。
四大極致魔法と“黒猫遊歩”による離脱
リディヤと魔力を繋ぎ、アレンが名乗りを上げると、会議室には四大極致魔法が顕現。雷、炎、風、氷の全てが一斉に咆哮を上げ、護衛たちは手も足も出せず、貴族たちは逃げ惑った。最後はアレンが転移魔法「黒猫遊歩」を展開し、リディヤとアトラと共に王都から離脱。彼は王太子とガードナーに対し、「家族に手を出したならば、決して許さない」と警告を残した。
自由への旅立ちと未来への約束
炎上する会議場を後に、屋根に降り立った三人。そこでは、メイド長アンナと新たなメイド・マーヤが待機しており、帽子と外套、鞄を携えて出発の準備を整えていた。アンナたちに後を任せ、リディヤはアレンの手を強く握り、自らの白翼で飛び立つ。
空に舞い上がる中、アトラはアレンの背に転移され、風魔法で支えられながら、澄みきった歌声を響かせた。リディヤは空中でアレンを抱きしめ、「当分は二人きり」と語り、今までの埋め合わせを求めて甘える。笑顔に満ちたその様は、未来へと向かう新たな旅のはじまりを象徴していた。
――行き先は、王国南方。新たな物語が、再び動き出す。
8巻 10巻
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