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<物語>シリーズ2027年 冬西尾維新

小説「<物語>扇物語.28」感想・ネタバレ

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物語扇物語 28の表紙画像(レビュー記事導入用) <物語>シリーズ

27.余物語
まとめ
29.死物語 上

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
        1. 阿良々木暦
        2. 忍野扇
        3. 戦場ヶ原ひたぎ
        4. 上洛落葉
        5. 千石撫子
        6. 貝木泥舟
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
      1. 謝罪すれば許されるのか? 阿良々木暦の苦悩と千石撫子の怪異専門家への道
      2. ※以下、『扇物語』の「おうぎライト」「おうぎフライト」のネタバレを含む。
      3. 「おうぎライト」|謝罪が止まらなくなる怪異事件
        1. 謝られているのに迷惑する。食飼命日子の相談が妙に怖い
        2. 戦場ヶ原ひたぎから突然の別れ話。何が起きたのかと思った
        3. ホッチキスで口を綴じた件は、確かに謝った方がいい
        4. 反省することと、自分を罰することは違う
        5. 老倉育まで謝罪を始める。暦の周囲で何が起きている?
        6. 地元へ戻って忍野扇に相談。暦も以前とは立場が違う
        7. 阿良々木家の妹たちは謝らない。特に月火は平常運転
        8. 日傘星雨の謝罪論が意外と現実的だった
        9. 謝罪が攻撃になるという忍野扇の指摘
        10. 怪異「妖魔令」の正体。謝罪を強制する命令が暴走していた
        11. 原因は上洛落葉の「謝れ」という怨念だった
        12. 「頑張れ」が人を傷つけることもある
        13. 暦も同じ励ましをしてしまう。大学生になった彼の変化
        14. 怪異は消せても、落葉の問題は解決していない
        15. 戦場ヶ原との別れ話は収束。でも老倉の隣室問題は残る
        16. 忍野扇は直江津高校に残る。暦とは違う役割を担うのか
      4. 「おうぎフライト」|千石撫子の自立と過去の呪い
        1. 千石撫子、本当に実家を出ていた。思った以上に行動が早い
        2. 臥煙伊豆湖からの課題は、過去に自分を呪った同級生との再会
        3. 遠吠哭奈との再会。かつての女王様は病室にいた
        4. 蛇の牙の痕が全身に。呪いは自分たちにも返っていた
        5. 「許してあげる」と言う哭奈。いや、謝るのはそちらでは?
        6. 撫子は哭奈を描く。絵が呪いを回収する力になる
        7. 謝らない相手を許す苦しさ。余接の言葉が印象に残る
        8. 寸志は謝った。でも、それで解決するわけではない
        9. 蛇の呪いは撫子だけに向けられたものではなかった
        10. 忍野扇との会話。許すことは相手のためだけではない
        11. 実家に残した絵を回収。過去の自分を捨てない選択
        12. アパートに帰ると貝木泥舟。まさかの助っ人登場
        13. 貝木が明かす蛇の呪いの流通経路
        14. 洗人迂路子とは何者なのか? 蛇の呪いの根源へ
        15. 漫画家を目指していたはずなのに、完全に怪異の専門家になりつつある
        16. 『扇物語』を通じて感じたこと|謝罪しても、過去は消えない
        17. まとめ|妖魔令は解決しても上洛落葉は救われず。撫子は貝木と怪異調査へ
  5. 考察・解説
      1. ストーリー・プロット
        1. 第1幕:食飼命日子の相談と戦場ヶ原ひたぎの別れ話
        2. 第2幕:地元への帰郷と忍野扇による分析
        3. 第3幕:直江津高校の共通点と上洛落葉の特定
        4. 第4幕:車内の対話と妖魔令の解除
        5. 第5幕:遠吠哭奈の病室と蛇の噛み痕
        6. 第6幕:呪いの拡散と許すことの選択
        7. 第7幕:貝木泥舟との再会と新たな追跡
      2. 主要な転換点
        1. 1:命日子の交際相手が直江津高校出身であることの発覚
        2. 2:上洛落葉の本音「私に謝れ」の吐露
        3. 3:忍野忍による上洛落葉への吸血(怪異の吸引)
        4. 4:千石撫子による遠吠哭奈の肖像画スケッチ
        5. 5:貝木泥舟の再登場と呪いの出所の開示
      3. 主人公を中心とした人物関係の変化
        1. 阿良々木暦 ⇔ 戦場ヶ原ひたぎ
        2. 阿良々木暦 ⇔ 食飼命日子
        3. 阿良々木暦 ⇔ 忍野扇
        4. 千石撫子 ⇔ 遠吠哭奈
        5. 千石撫子 ⇔ 貝木泥舟
      4. 主人公の認識と周囲の評価
        1. 主人公自身の認識
        2. 周囲からの評価
        3. 認識の差が現れた場面
      5. 過剰な謝罪
        1. 発生した現象と過剰な謝罪の様相
        2. 過剰な謝罪の多角的な構造と解釈
        3. 事件の真相と怪異「妖魔令」の発生原因
        4. 事態の収束と残された課題
        5. まとめ
      6. 蛇の呪い
        1. 発生の経緯と中学校における流行
        2. 呪いの流布経路と根源の正体
        3. 呪い返しに伴う加害者側の末路
        4. 呪いの回収と現地調査への移行
        5. まとめ
      7. 過去の清算
        1. おうぎライト:謝罪による一方的な清算の暴力性
        2. おうぎフライト:和解なき清算と前進への昇華
        3. まとめ
      8. 許すこと
        1. 許されるための謝罪と受け手側の負荷
        2. 忘却との差異および優位性の構築
        3. 不誠実な加害者と千石撫子の葛藤
        4. 斧乃木余接の助言と千石撫子の選択
        5. まとめ
      9. 怪異の調査
        1. おうぎライトにおける過剰な謝罪の調査
        2. おうぎフライトにおける蛇の呪いの追跡
        3. まとめ
  6. 登場キャラクター
    1. 国立曲直瀬大学
      1. 阿良々木 暦
      2. 食飼 命日子
      3. 戦場ヶ原 ひたぎ
      4. 老倉 育
      5. 彼クン
    2. 私立直江津高校
      1. 上洛 落葉
      2. 忍野 扇
      3. 日傘 星雨
    3. 阿良々木家
      1. 阿良々木 火憐
      2. 阿良々木 月火
    4. 北白蛇神社
      1. 八九寺 真宵
    5. 私立七百一中学校(元生徒・入院患者)
      1. 遠吠 哭奈
      2. 砂城 寸志
    6. 怪異の専門家・怪異・式神
      1. 忍野 忍
      2. 千石 撫子
      3. 斧乃木 余接
      4. 貝木 泥舟
  7. 展開まとめ
    1. 第六話 おうぎライト
    2. 第七話 おうぎフライト

物語の概要

■ 作品概要

阿良々木暦は大学生活を送り、千石撫子は実家を離れてアパートで生活しながら漫画家を目指していた。 

暦が友人・食飼命日子から交際相手による異常な謝罪行脚の相談を受けたことを契機に、恋人の戦場ヶ原ひたぎからの突然の別れ話や、隣室の老倉育からの謝罪など、直江津高校の卒業生たちが過去の非を一方的に認めて過剰に謝罪し続ける事態が連続して発生する。

暦は忍野扇や八九寺真宵の助言を得て、原因がオープンキャンパスで先輩たちの励ましに傷つき「私に謝れ」と念じた受験生・上洛落葉の怪異「妖魔令」であることを突き止め、忍野忍に怪異を吸血させて事態を収束させる。

 一方、撫子は臥煙伊豆湖の指示により、蛇の呪いの根源「洗人迂路子」の手がかりを得るため、過去に自分を呪った同級生の遠吠哭奈や砂城寸志と再会して呪いの痕跡を回収し、復帰した貝木泥舟らと共に新たな調査チームとして洗人迂路子の追跡に踏み出すところまで状況が進む。

■ 主要キャラクター

阿良々木暦
  • 立場・所属:曲直瀬大学数学科一年生。元吸血鬼の人間。
  • 主人公との関係:第六話の語り手であり主人公。
  • この巻での主な役割:過剰な謝罪を繰り返す怪異現象の調査、被害者・関係者への接触、元凶である上洛落葉への対処。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:大学関係者に発生した謝罪現象を追い、直江津高校の共通点から上洛落葉を特定して車内で対話し、忍の力を用いて妖魔令を解除してひたぎとの関係を修復した。
忍野扇
  • 立場・所属:私立直江津高校二年生。阿良々木暦の裏面として生まれた怪異。
  • 主人公との関係:暦の分身であり、後輩。
  • この巻での主な役割:暦への助言・推理の提供、千石撫子への実家の忘れ物返却。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:学ラン姿の男子生徒として現れ、暦に謝罪現象に関する仮説を提示した。事件解決後は、大学生活へ移った暦に代わり、直江津高校の生徒たちの心の闇に寄り添う役目を引き受ける意思を示して姿を消した。
戦場ヶ原ひたぎ
  • 立場・所属:曲直瀬大学国際経済学科一年生。
  • 主人公との関係:阿良々木暦の恋人。
  • この巻での主な役割:過剰な謝罪現象の影響を受ける当事者。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:高校時代に暦をホッチキスで傷つけたことや過去の言動を許されない大罪だと主張し、暦に別れを告げる。妖魔令の解決後は過剰な罪悪感から脱して別れ話を撤回し、暦が老倉の隣室へ引っ越した件についての追及を予告した。
上洛落葉
  • 立場・所属:私立直江津高校三年生。元陸上部員。
  • 主人公との関係:直江津高校の後輩(暦とは面識なし)。
  • この巻での主な役割:妖魔令の発令者(騒動の発起人)。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:受験勉強の伸び悩みに苦しむ中、オープンキャンパスで先輩たちから善意で励まされたことに激しい怒りを抱き、「私に謝れ」と念じたことで妖魔令を引き起こした。車内で暦に連れ出され、学習塾跡で忍に怪異を吸血されて解除された。
千石撫子
  • 立場・所属:元・北白蛇神社の神。現在は漫画家志望の中学生で、怪異の専門家見習い。
  • 主人公との関係:第七話の語り手であり主人公。暦の妹(月火)の友人。
  • この巻での主な役割:蛇の呪いの回収と洗人迂路子の調査。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:かつて自分を呪った同級生である哭奈や寸志と再会し、肖像画を描いて呪いの痕跡を回収した上で、貝木泥舟らと共に洗人迂路子を追う調査チームに加わった。
貝木泥舟
  • 立場・所属:詐欺師。
  • 主人公との関係:かつて撫子に呪いを間接的に広め、後に蛇神となった撫子を騙して元に戻した因縁の相手。
  • この巻での主な役割:洗人迂路子追跡の調査指揮者。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:臥煙から依頼を受けて復帰し、かつて自分が流通させた蛇の呪いの出所が洗人迂路子であることを明かして撫子や余接と共に調査チームを結成した。

書籍情報

<物語>扇物語
著者:西尾維新 氏
イラスト:VOFAN(ヴォーファン) 氏
出版社:講談社
発売日:2019年4月16日
JDCN:06A0000000000108761N

物語扇物語 28の表紙画像(レビュー記事導入用)
<物語>扇物語

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あらすじ・内容

“洒落にならない化物でして。吸血鬼さえ、敵ではないほどの”

友人の食飼命日子に彼氏との仲違いを相談された阿良々木暦。

自身も戦場ヶ原ひたぎから別れを告げられたばかりだった――謝罪の言葉と共に。

騒動は怪異の仕業だと推理した暦は、

裏面にして怪異のエキスパート・忍野扇のもとへ向かう。

これぞ現代の怪異! 怪異! 怪異!

扇物語

感想

謝罪すれば許されるのか? 阿良々木暦の苦悩と千石撫子の怪異専門家への道

今回収録されているのは、阿良々木暦を中心とした「おうぎライト」と、千石撫子を中心とした「おうぎフライト」の二編である。

前半では、過去の過ちを執拗に謝罪する人々が現れる。

戦場ヶ原ひたぎは、突然暦に別れを告げる。

老倉育も、過去の出来事を持ち出して謝罪する。

そして、大学では交際相手に謝り続ける男性まで現れる。

一見すると、みんな反省しているだけのように見える。

しかし、謝罪された相手が望んでいないのに、何度も謝り続ける。

しかも、過去の罪を掘り返し、自分を責め続けるのである。

……これは、なかなか厄介だ。

ただ、ガハラさんに関しては少し思うところがある。

暦の口の中をホッチキスで綴じた件は、普通に謝った方がよかったのではないだろうか。

もちろん、それを理由に別れる必要はない。

しかし、あれはなかなかひどいことをしている。

一方、後半では千石撫子が本当に実家を出て、一人暮らしを始めていた。

……本当に出てしまったのか。

前作『余物語』では、両親から自立を求められ、住居探しに困っていた。

その問題が進展したのはよかったが、撫子はますます怪異の専門家として働く方向へ進んでいる。

しかも、今回の助っ人は貝木泥舟。

……貝木!?

思わず笑ってしまった。

漫画家を目指す少女が、かつて自分を騙した詐欺師と組んで怪異を調査する。

いったい、どんな漫画家になるつもりなのだろうか。

※以下、『扇物語』の「おうぎライト」「おうぎフライト」のネタバレを含む。

「おうぎライト」|謝罪が止まらなくなる怪異事件

謝られているのに迷惑する。食飼命日子の相談が妙に怖い

物語は、阿良々木暦が大学の友人・食飼命日子から相談を受けるところから始まる。

命日子の交際相手が、突然、過去の行為について謝罪を繰り返すようになったという。

しかも、本人に謝るだけではない。

友人やサークルの関係者にまで、自分が彼女を傷つけたと説明して回っている。

しかし、命日子自身は被害を受けたとは思っていない。

双方が合意していた関係について、男性が一方的に罪を認めているのである。

……これは困る。

普通なら、相手が謝罪してくれたら少しは気持ちが軽くなるかもしれない。

しかし、今回は違う。

謝罪されるたびに、周囲から被害者として扱われる。

本人はそう思っていないのに、男性が自分を加害者だと主張し続ける。

その結果、命日子はサークルにも顔を出しづらくなってしまった。

謝罪している側は、自分が正しいことをしているつもりなのだろう。

しかし、相手の気持ちは完全に置き去りになっている。

ここを読んで、謝罪という行為の厄介さを感じた。

謝ればいいというものではない。

むしろ、謝ることによって相手を追い詰める場合もあるのだ。

戦場ヶ原ひたぎから突然の別れ話。何が起きたのかと思った

暦自身にも、似たような出来事が起きていた。

年明け早々、恋人の戦場ヶ原ひたぎから別れを告げられていたのである。

……また別れるのか。

暦とひたぎの関係は、これまでも決して平穏ではなかった。

しかし、いきなり別れ話になるとは思わなかった。

暦は、自分が老倉育の隣室へ引っ越したことが原因ではないかと考える。

これは、疑われても仕方がない気がする。

恋人がいるのに、過去に深い関わりのあった女性の隣に住む。

事情があるとしても、ひたぎからすれば気になるだろう。

しかし、今回の別れ話の理由は別だった。

ひたぎは、自分には暦と交際する資格がないと謝罪し始める。

その理由として持ち出したのが、高校時代の出来事だった。

ホッチキスで口を綴じた件は、確かに謝った方がいい

ひたぎが謝罪したのは、暦の口の中をホッチキスで綴じたことだった。

さらに、カッターナイフを向けたことや、数々の暴言についても謝り始める。

……いや、それは謝った方がいいだろう。

特にホッチキスの件は、普通に考えればかなり危険な行為である。

当時は、ひたぎの抱えていた事情もあった。

暦との関係が始まるきっかけになった出来事でもある。

しかし、だからといって暴力がなかったことになるわけではない。

この点については、ひたぎが反省すること自体は悪くないと思った。

ただし、問題はその先である。

ひたぎは、過去に暦を傷つけた自分には、恋人でいる資格がないと考える。

そして、交際そのものを終わらせようとする。

……そこまでしなくてもいいのではないか。

暦は、すでにその出来事を受け入れている。

少なくとも、今さら別れの理由にしてほしいとは思っていない。

それなのに、ひたぎは自分の罪悪感を理由に別れようとする。

謝罪しているようで、実は暦の気持ちを無視しているのである。

反省することと、自分を罰することは違う

今回のひたぎを見ていて感じたのは、反省と自己処罰の違いだった。

過去に悪いことをしたと気づいたなら、謝罪することには意味がある。

しかし、その後に自分をどう扱うかは別の問題である。

ひたぎは、暦を傷つけた過去の自分を許せない。

だから、今の幸せな関係を壊そうとする。

しかし、それで誰が救われるのだろうか。

暦は別れたくない。

ひたぎも、本当に別れたいわけではないように見える。

それなのに、過去の罪を理由に現在の関係を終わらせようとしている。

反省することは大切だ。

しかし、反省しているからといって、自分が幸せになることまで禁止する必要はない。

このあたりは、読んでいて考えさせられた。

老倉育まで謝罪を始める。暦の周囲で何が起きている?

ひたぎだけではなかった。

暦の隣室に住む老倉育も、過去の出来事について謝罪を始める。

……老倉まで?

老倉と暦の関係は、かなり複雑である。

幼い頃からの因縁があり、互いに簡単には整理できない感情を抱えている。

だからこそ、老倉が突然謝罪するというのは不自然だった。

もちろん、過去を振り返って反省すること自体は悪くない。

しかし、今回の老倉は、すでに終わった出来事をわざわざ掘り返している。

暦も、どう反応すればいいのかわからない。

謝罪されたからといって、過去の関係が簡単に変わるわけではない。

しかも、相手が謝り続ければ、こちらは許さなければならないような気持ちになる。

謝罪される側にも負担がかかるのである。

命日子の交際相手。

戦場ヶ原ひたぎ。

老倉育。

三人の異変が重なったことで、暦は怪異の関与を疑い始める。

地元へ戻って忍野扇に相談。暦も以前とは立場が違う

暦は、忍野忍を連れて地元へ戻る。

目的は、忍野扇に相談することだった。

以前なら、怪異の問題が起きれば忍野メメや臥煙伊豆湖といった専門家に相談することもできた。

しかし、今は事情が違う。

斧乃木余接は前作の事件によって謹慎中である。

臥煙との関係も以前ほど頼れるものではない。

暦自身も大学生になり、高校生だった頃とは生活が変わっている。

そんな状況で頼ろうとしたのが忍野扇だった。

暦の裏面として生まれた存在である扇なら、今回の怪異を理解できるかもしれない。

そう考えるのは自然なことだろう。

ただ、扇に相談するという時点で、少し不安にもなる。

扇はいつも、答えを簡単には教えてくれない。

むしろ、暦自身に考えさせるような話し方をする。

今回も、そんな扇らしさが発揮されていた。

阿良々木家の妹たちは謝らない。特に月火は平常運転

地元に戻った暦は、妹の火憐と月火にも異変が起きていないか確認する。

しかし、二人は普段と変わらない。

特に月火は、過去の行動を反省して謝罪するような様子を見せない。

……まあ、月火だからな。

ここは少し笑ってしまった。

周囲の人々が過剰に謝罪する怪異に巻き込まれている。

そんな中で、月火だけは普段通りである。

もちろん、怪異の影響を受けていないだけなのだろう。

しかし、月火が突然しおらしく謝り始めたら、それはそれで恐ろしい気がする。

暦も、地元の人々には異変が起きていないことを確認する。

つまり、今回の怪異は、誰にでも無差別に作用しているわけではない。

何らかの共通点を持つ人々に広がっている可能性がある。

その手がかりが、後に直江津高校と曲直瀬大学のつながりへ結びついていく。

日傘星雨の謝罪論が意外と現実的だった

暦は神原駿河の家で、日傘星雨とも話す。

そこで、謝罪について興味深い考え方が示される。

謝罪とは、単に自分の非を認めることではない。

相手との争いを終わらせるための行為でもある。

しかし、謝罪する側が自分の気持ちばかり優先すれば、かえって相手を苦しめることになる。

これは、かなり納得できる話だった。

謝る側は、謝罪したことで少し気持ちが軽くなるかもしれない。

しかし、謝られた側はどうだろう。

すでに終わったと思っていた出来事を、突然掘り返される。

しかも、何度も謝罪される。

そのたびに、過去の嫌な記憶を思い出すことになる。

相手が謝罪をやめてほしいと言っても、謝る側がやめない。

これでは、謝罪そのものが迷惑行為になってしまう。

今回の怪異は、そうした謝罪の危うさを極端な形で描いているように感じた。

謝罪が攻撃になるという忍野扇の指摘

忍野扇は、今回の異変についていくつかの可能性を示す。

その一つが、謝罪そのものを相手への攻撃として利用するという考え方だった。

これが、なかなか興味深かった。

普通、謝罪する側は弱い立場にいるように見える。

自分の非を認め、相手に許しを求めるからだ。

しかし、謝罪を一方的に続けると、立場が逆転することがある。

謝られた側が許さなければ、いつまでも相手を責めているように見えてしまう。

謝罪を拒絶すれば、心が狭いと思われるかもしれない。

つまり、謝罪する側が相手に圧力をかけることもできるのである。

……これは厄介だ。

しかも、本人に悪意がなくても起こり得る。

本気で反省しているからこそ、何度も謝ってしまう。

しかし、その行為が相手を苦しめていることには気づかない。

今回の怪異は、そんな人間関係の難しさを浮き彫りにしていた。

怪異「妖魔令」の正体。謝罪を強制する命令が暴走していた

調査を進めた暦は、怪異「妖魔令」の存在に行き着く。

この怪異は、人間に謝罪を強制する。

ただし、単純に特定の相手へ謝らせるわけではない。

本人が過去に行ったことを掘り起こし、罪悪感を刺激する。

そして、その相手へ謝罪するように仕向けるのである。

ここが、今回の事件の厄介なところだった。

命令を発した人間は、自分に謝ってほしいと思っている。

しかし、怪異の影響を受けた人々は、別の相手に謝り始める。

命令が歪んで伝わってしまうのだ。

戦場ヶ原ひたぎは、暦への暴力を謝罪する。

老倉育も、暦との過去を掘り返す。

命日子の交際相手も、自分が彼女を傷つけたと思い込んで謝罪を続ける。

いずれも、謝罪する本人にとっては過去の罪である。

しかし、その謝罪は本来の命令者が求めていたものではない。

怪異が勝手に解釈し、暴走していたのである。

原因は上洛落葉の「謝れ」という怨念だった

妖魔令の発生源となっていたのは、直江津高校の女子生徒・上洛落葉だった。

落葉は、大学受験を控えていた。

志望校へ進学するために努力していたが、思うように成績が伸びない。

そのため、進路を変更することまで考えていた。

そんな落葉が参加したのが、曲直瀬大学のオープンキャンパスである。

そこで、大学へ進学した直江津高校の卒業生たちに悩みを打ち明けた。

しかし、返ってきたのは励ましの言葉だった。

諦めずに頑張れ。

まだ努力できる。

そうした言葉である。

……まあ、言いたくなる気持ちはわかる。

実際に大学へ進学した先輩からすれば、後輩にも頑張ってほしいのだろう。

しかし、落葉にとっては違った。

すでに頑張っている。

それでも結果が出ない。

だから苦しんでいる。

そんな自分に、さらに努力を求められる。

その言葉が、落葉には耐えられなかったのだ。

そして、彼女は思う。

私に謝れ。

その強い思いが、妖魔令という怪異を通じて広がってしまったのである。

「頑張れ」が人を傷つけることもある

上洛落葉の話で印象に残ったのは、努力を求める言葉の難しさだった。

何かに挑戦している人を見ると、つい頑張れと言いたくなる。

応援しているつもりである。

しかし、本人がすでに限界まで頑張っていたらどうだろう。

これ以上、何を頑張ればいいのか。

努力しても結果が出ないから悩んでいるのに、さらに努力を求められる。

それでは、苦しさが増してしまうこともある。

特に、すでに成功した人から言われると、余計につらいかもしれない。

成功した側は、自分の経験から助言している。

しかし、同じことをすれば誰もが成功するわけではない。

努力しても届かない場合がある。

その現実を前にしている人に、成功者の経験だけを伝えても、救いにならないことがある。

落葉の反応は極端だった。

だからといって、彼女の苦しみが理解できないわけではなかった。

暦も同じ励ましをしてしまう。大学生になった彼の変化

暦は、上洛落葉と直接話すことになる。

そして、彼女の受験への不安や挫折を聞く。

暦自身も、大学受験では苦労している。

その経験から、落葉にまだ諦める必要はないと伝える。

必要なら勉強を教えることまで申し出る。

しかし、落葉は失望する。

なぜなら、暦の言葉も、オープンキャンパスで先輩たちが言ったことと変わらなかったからだ。

……ああ、やってしまった。

暦は、善意で助けようとしている。

しかし、落葉が求めているのは、そういう励ましではない。

彼女は、努力しても結果が出ない苦しさを理解してほしかったのだ。

暦も、かつては受験生だった。

不安や焦りを感じていたはずである。

しかし、大学へ進学した今、その苦しさを以前ほど切実には感じられなくなっている。

ここが興味深かった。

人は、自分が乗り越えた苦しみを忘れてしまうことがある。

そして、同じことで苦しんでいる人に、自分が成功した方法を勧めてしまう。

しかし、それが相手にとって正しいとは限らない。

暦がそのことに気づく展開は、大学生になった彼の変化を感じさせた。

怪異は消せても、落葉の問題は解決していない

最終的に、暦は忍野忍の力を借りて妖魔令の問題を収束させる。

旧学習塾跡へ連れ込んだ落葉から、怪異の力を取り除く。

これによって、過剰な謝罪が広がる現象は止まる。

事件そのものは解決したと言っていいだろう。

しかし、私はどうにもすっきりしなかった。

上洛落葉の問題は、何も解決していないのではないか。

落葉は、大学受験に苦しんでいた。

努力しても結果が出ず、志望校を諦めるかどうか悩んでいた。

そして、周囲の励ましに傷ついていた。

その苦しみは、怪異を取り除いたからといって消えるものではない。

暦も、彼女に納得できる答えを与えられなかった。

結局、怪異の問題だけが処理されたのである。

もちろん、暦が受験の問題まで解決する義務はない。

落葉自身が向き合わなければならないこともある。

しかし、怪異の原因となった苦しみが残っている以上、後味の悪さは消えなかった。

戦場ヶ原との別れ話は収束。でも老倉の隣室問題は残る

妖魔令の影響が収まったことで、ひたぎとの別れ話も収束する。

ひたぎは、過去に暦を傷つけたことを反省しながらも、それを理由に現在の関係まで壊す必要はないと考えるようになる。

ここは、少し安心した。

ホッチキスの件は確かにひどい。

しかし、それを反省することと、恋人と別れることは別である。

過去の自分を許せないからといって、現在の幸せまで否定する必要はない。

その点に気づけたのはよかった。

ただし、ひたぎは別の問題を忘れていない。

暦が老倉育の隣室へ引っ越した件である。

……そちらは、ちゃんと説明しないといけないだろう。

怪異のせいで別れ話になったとしても、暦の行動についての疑問まで消えるわけではない。

このあたりの現実的なやり取りは、少し笑ってしまった。

忍野扇は直江津高校に残る。暦とは違う役割を担うのか

事件の後、忍野扇は暦に代わって直江津高校の生徒たちと関わっていくようなことを語る。

ここも印象に残った。

暦は大学生になった。

地元を離れ、新しい生活を送っている。

高校生だった頃のように、直江津高校で起きる問題へ関わり続けることは難しい。

一方、忍野扇は高校に残っている。

暦が見てきた問題とは別の形で、今の高校生たちの悩みや闇に関わっていくのかもしれない。

そう考えると、扇の役割も変わってきたように感じる。

暦の裏面として生まれた存在が、暦とは別の場所で活動する。

その変化は興味深かった。

ただ、扇が関わることで問題が素直に解決するかどうかは、少し不安である。

何しろ、忍野扇なのだから。

「おうぎフライト」|千石撫子の自立と過去の呪い

千石撫子、本当に実家を出ていた。思った以上に行動が早い

後半の「おうぎフライト」は、千石撫子の話である。

まず驚いたのは、撫子がすでに実家を離れていたことだった。

……本当に出てしまったのか。

前作『余物語』では、両親から中学校卒業後の自立を求められていた。

漫画家を目指すなら、自分で働いて生活すること。

そして、一人暮らしをすること。

その条件に困っていた撫子だったが、臥煙伊豆湖から住まいを紹介されることになった。

今回、その話が進み、実際にアパート暮らしを始めている。

これは、なかなか大きな変化である。

以前の撫子は、自分の部屋にこもって漫画を描いていた。

親に守られながら、将来の夢を追っていたのである。

しかし、今は違う。

自分の住まいを持ち、生活しながら漫画家を目指している。

もちろん、臥煙や余接の助けはある。

それでも、実家を出たという事実には成長を感じた。

ただ、やはり気になる。

漫画家になるために家を出たはずなのに、怪異の専門家としての仕事が増えていないか?

臥煙伊豆湖からの課題は、過去に自分を呪った同級生との再会

今回、撫子が取り組むのは、かつて自分に蛇の呪いをかけた人物たちとの再会である。

これは、前作『余物語』で臥煙伊豆湖から与えられた課題だった。

蛇切縄の呪いを調べ、その出所を探る。

そのために、過去の関係者と会う必要があるという。

しかし、撫子にとっては簡単な話ではない。

かつて自分を苦しめた相手と、わざわざ会わなければならないのである。

しかも、相手との関係は決して良好ではなかった。

中学生時代の撫子は、周囲の人間関係に振り回されていた。

強い立場の人物に従い、自分を守ろうとしていた。

その結果、他人から恨まれたり、呪いをかけられたりすることになった。

もちろん、だからといって呪った側が正しいわけではない。

しかし、撫子自身にも整理できていない感情が残っている。

そんな相手と再会する。

これは、怪異の調査であると同時に、過去の自分と向き合うことでもあった。

遠吠哭奈との再会。かつての女王様は病室にいた

撫子が最初に訪ねたのは、遠吠哭奈だった。

かつて同級生たちの中心にいた少女である。

撫子にとっては、強い立場にいる人物だった。

その哭奈は、現在入院していた。

しかも、かつての勢いは失われている。

髪や服装にも以前ほど気を配らず、周囲の友人たちからも見放されている。

ここは、少し意外だった。

撫子を支配するように振る舞っていた人物が、今では誰にも見舞いに来てもらえない。

かつての女王様が、すっかり孤立してしまっているのである。

しかし、撫子はその姿を見ても喜べなかった。

復讐を果たしたような満足感もない。

むしろ、以前とはあまりにも違う姿に戸惑っている。

この反応が印象的だった。

過去に嫌なことをされた相手が不幸になっていれば、少しは気が晴れるかもしれない。

しかし、実際に弱っている姿を見ると、そう単純にはいかない。

撫子の複雑な気持ちが伝わってきた。

蛇の牙の痕が全身に。呪いは自分たちにも返っていた

撫子の目には、哭奈の身体に無数の穴が開いているように見えていた。

二つ一組になった穴。

まるで、大きな蛇の牙で何度も噛まれたような痕跡である。

しかし、哭奈本人には見えていない。

身体の調子が悪くて入院しているだけだと思っている。

この描写は、かなり不気味だった。

かつて撫子に蛇の呪いをかけた人物が、今度は自分自身も呪いに苦しめられている。

因果応報のようにも見える。

しかし、撫子はそれを喜ばない。

ここがよかった。

過去に自分を苦しめた相手だからといって、今の苦しみを当然の報いだと決めつけない。

かといって、簡単に許すわけでもない。

その中途半端で割り切れない感情が、何とも人間らしかった。

「許してあげる」と言う哭奈。いや、謝るのはそちらでは?

哭奈との会話で、特に引っかかった場面がある。

それは、哭奈が撫子に向かって、自分が許してあげると言い出したことだった。

……いや、待ってほしい。

かつて撫子を呪ったのは哭奈の側である。

もちろん、撫子にも相手を利用するような態度があったのかもしれない。

しかし、だからといって呪いをかけていいわけではない。

それなのに、哭奈は自分から謝罪するのではなく、撫子を許す立場に立とうとする。

ここは、読んでいて腹立たしかった。

撫子が反発するのも当然だろう。

相手に嫌なことをされた。

その相手が謝るどころか、上から目線で許してあげると言う。

そんなことを言われても、納得できるはずがない。

しかも、哭奈は以前から撫子の態度が気に入らなかったと語る。

強い人間に従いながら、その庇護を利用していた。

そんな撫子を嫌っていたというのである。

確かに、撫子にも問題はあったのだろう。

しかし、それと呪いをかけたことは別である。

この場面では、簡単に和解できない人間関係の難しさを感じた。

撫子は哭奈を描く。絵が呪いを回収する力になる

撫子は、哭奈をモデルに絵を描かせてほしいと頼む。

ただし、漫画家を目指していることは素直に言えず、法廷画家を志望していると説明する。

……そこは、まだ隠すのか。

漫画家を目指すと決め、実家まで出たのだから、堂々と言ってもいい気がする。

しかし、昔の同級生に自分の夢を話すのは、また別の難しさがあるのだろう。

撫子はスケッチブックに哭奈の姿を描く。

すると、彼女にだけ見えていた蛇の牙の痕跡が消えていく。

まるで、呪いが絵の中へ移されたようだった。

ここが興味深かった。

撫子の絵は、単なる記録ではない。

怪異に関わるものを描くことで、その痕跡を回収できるらしい。

前作でも、撫子の画力は怪異事件の解決に役立っていた。

今回も、絵を描くことが直接的な力になっている。

……これは、ますます漫画家というより怪異の専門家ではないか。

ただ、漫画家を目指して練習してきたことが無駄になっていないのは、よかったと思う。

謝らない相手を許す苦しさ。余接の言葉が印象に残る

病室を出た撫子は、斧乃木余接と合流する。

そこで、哭奈との再会について話す。

撫子は、謝らない相手を許すことが想像以上に苦しかったと打ち明ける。

この気持ちは、少しわかる。

相手が謝ってくれれば、少なくとも自分が傷ついたことを認めてもらえたと感じられるかもしれない。

しかし、謝らない相手を許す場合、その確認すらない。

自分だけが過去を整理し、相手の行動を受け入れなければならないように感じる。

それは、かなり苦しいことだろう。

そんな撫子に対し、余接は無理に許す必要はないと告げる。

過去を乗り越える必要もない。

忘れてしまうことも、一つの方法だという。

この言葉が印象に残った。

過去の出来事と向き合うことは大切かもしれない。

しかし、必ずしも相手を許さなければならないわけではない。

無理に和解する必要もない。

その考え方には、少し救われるものがあった。

寸志は謝った。でも、それで解決するわけではない

撫子は、もう一人の呪いの関係者である寸志とも再会していた。

寸志は、かつて撫子に告白し、断られたことを恨んで蛇の呪いをかけた少年である。

こちらも、呪いの影響を受けていた。

寸志は過去の行動について謝罪する。

しかし、同時に撫子にも悪いところがあったと主張する。

そして、撫子にも謝罪を求める。

……これは、これで厄介だ。

哭奈は謝らなかった。

寸志は謝った。

しかし、どちらとの再会でも、撫子の気持ちはすっきりしない。

ここが面白かった。

普通なら、謝罪してもらえれば問題が解決するように思える。

しかし、実際にはそう簡単ではない。

謝罪の言葉があっても、過去の出来事が消えるわけではない。

しかも、謝った直後に相手にも謝罪を求められたら、素直に受け入れるのは難しいだろう。

前半の「おうぎライト」ともつながる話である。

謝罪することと、許されることは同じではない。

そのことを、撫子の再会を通じて改めて感じた。

蛇の呪いは撫子だけに向けられたものではなかった

撫子は、哭奈と寸志の両方が蛇の呪いに苦しんでいることを不思議に思う。

かつて、二人はそれぞれ撫子に呪いをかけた。

しかし、忍野メメから渡されたお守りによって、一匹の蛇は浄化されていた。

逃げた蛇は一匹だけだったはずである。

それなのに、二人とも大量の蛇の噛み痕を負っている。

ここから、撫子はある可能性を考える。

二人は、撫子以外にも呪いをかけていたのではないか。

……なるほど。

かつての撫子は、自分が特別に恨まれていたと思っていたのかもしれない。

しかし、実際には違った。

学校では、さまざまなおまじないが流行していた。

その中に、本物の呪いが紛れ込んでいた。

哭奈や寸志は、撫子以外にも呪いを使っていた可能性がある。

そう考えると、撫子が受けた呪いも、もっと大きな問題の一部だったことになる。

この展開は興味深かった。

自分にとって人生を変えるほど大きな出来事でも、相手にとっては数ある行動の一つにすぎなかったのかもしれない。

そう考えると、少し複雑な気持ちになる。

忍野扇との会話。許すことは相手のためだけではない

撫子は、忍野扇とも過去の同級生について話す。

そこで、謝罪と許しについて考えることになる。

謝らない相手を許すこと。

謝った相手を許すこと。

どちらも簡単ではない。

謝らない相手を許せば、自分の怒りを無視することになるかもしれない。

一方、相手が謝ってしまうと、今度は許さなければならないような気持ちになる。

……確かに、どちらも厄介だ。

しかし、撫子は少しずつ考え方を変えていく。

過去に自分を傷つけた相手を許したからといって、その行動が正しかったことにはならない。

されたことが消えるわけでもない。

それでも、いつまでも恨み続けることが、自分の将来に役立つとは限らない。

この考え方が印象的だった。

許すことは、相手のためだけではない。

自分が前へ進むために、過去との距離を変えることでもある。

もちろん、無理に許す必要はない。

しかし、相手への怒りだけに縛られ続ける必要もない。

撫子が少しずつ、自分のために過去を整理しようとしていることが伝わってきた。

実家に残した絵を回収。過去の自分を捨てない選択

撫子は、実家に残してきた大量の絵や習作を回収する。

ただし、自分で実家へ戻ることは避けていた。

両親と顔を合わせたくなかったからである。

そこで、忍野扇に協力を頼む。

扇は合鍵を使い、撫子の荷物を回収する。

ここも、少し複雑な気持ちになった。

実家を出て自立したとはいえ、親との関係が整理できたわけではない。

むしろ、まだ顔を合わせづらい状態なのだろう。

しかし、撫子は過去に描いた絵を捨てようとはしない。

失敗した作品。

練習のために描いた絵。

昔の自分を思い出させる習作。

それらを、今の生活へ持っていこうとする。

ここがよかった。

撫子は、過去の自分を完全に否定しているわけではない。

失敗も含めて、今の自分につながっていると考えている。

『撫物語』では、過去の自分を模した式神たちと向き合った。

今回は、過去に描いた絵を持ち帰る。

どちらも、昔の自分を捨てずに受け入れるという点でつながっているように感じた。

アパートに帰ると貝木泥舟。まさかの助っ人登場

撫子がアパートへ戻ると、斧乃木余接とともに、思いがけない人物が待っていた。

貝木泥舟である。

……貝木!?

ここは本当に驚いた。

そして、思わず笑ってしまった。

かつて撫子を騙した詐欺師が、今度は彼女の仕事に関わることになる。

しかも、臥煙伊豆湖から依頼を受けているという。

なんという人選だろうか。

撫子にとって、貝木は決して気軽に信用できる相手ではない。

過去に騙された経験がある。

しかも、貝木は相変わらず皮肉や嘘を交えながら話す。

そんな人物が、今度は協力者として現れるのである。

これは、面白くならないはずがない。

ただ、撫子からすれば、かなり厄介な相手だろう。

余接だけでも十分に個性的なのに、そこへ貝木まで加わる。

……漫画を描く時間は残っているのだろうか。

貝木が明かす蛇の呪いの流通経路

貝木は、かつて学校に広まった蛇の呪いについて説明する。

彼自身が最初から呪いを作ったわけではない。

入手した呪いを加工し、安価な商品として大量に流通させていたという。

……何をしているんだ、この人は。

怪異を商品として扱い、学校に広める。

いかにも貝木らしい。

しかし、その結果、多くの生徒が蛇の呪いを手に入れることになった。

撫子を呪った哭奈や寸志も、その一部だったのである。

そして、呪いの出所をさらに遡ると、洗人迂路子という存在に行き着く。

ここで、今回の調査が単なる過去の清算ではなかったことがわかる。

臥煙伊豆湖は、蛇の呪いの根源を探ろうとしていた。

そのために、撫子を過去の同級生たちへ会わせていたのである。

……やはり、全部つながっていたのか。

撫子が過去と向き合うことも、怪異の調査の一部になっていた。

臥煙の手際のよさには感心するが、少し怖くもなった。

洗人迂路子とは何者なのか? 蛇の呪いの根源へ

今回、新たに名前が挙がったのが洗人迂路子である。

蛇遣い。

五つの頭を持つ大蛇。

そんな不確かな情報があるものの、正体はよくわかっていない。

しかし、学校に広まった蛇の呪いの根源に関わっている可能性がある。

貝木は、その存在を追うための調査を指揮することになる。

そして、撫子と余接も参加する。

……なかなかすごい組み合わせである。

詐欺師の貝木泥舟。

怪異を封じる力を持つ斧乃木余接。

そして、漫画家を目指している千石撫子。

この三人が、蛇の呪いの根源を追う。

普通に考えれば、かなり頼りになる調査チームなのかもしれない。

しかし、全員が一筋縄ではいかない。

特に貝木がいる時点で、何が起きるかわからない。

撫子にとっても、過去に自分を騙した相手と協力するのは簡単ではないだろう。

それでも、ここまで来たら続きが気になる。

漫画家を目指していたはずなのに、完全に怪異の専門家になりつつある

今回の撫子を見ていて、何度も同じことを思った。

どんどん漫画家から離れていないか?

もちろん、撫子は今でも漫画家を目指している。

実家から大量の習作を持ち出し、新しい生活でも描き続けるつもりでいる。

その夢を諦めたわけではない。

しかし、実際にやっていることは怪異の調査である。

過去に自分を呪った同級生と会う。

蛇の呪いを絵に描いて回収する。

臥煙伊豆湖の指示で動く。

そして、貝木泥舟と組んで新たな怪異を追う。

……もう立派な専門家ではないか。

しかも、撫子には独特の能力がある。

絵を描くことで、怪異の痕跡を回収できる。

これは、漫画家を目指して積み重ねてきた努力が、別の形で役立っているということでもある。

その点は面白い。

ただ、本人の希望と仕事の方向が一致しているかどうかは別である。

生活費を稼ぐために始めた仕事が、いつの間にか本業になってしまう。

そんなこともあり得る。

撫子は、漫画家になるために怪異の仕事をしているのか。

それとも、怪異の専門家として働きながら漫画家を目指すことになるのか。

今後の立場が気になる。

『扇物語』を通じて感じたこと|謝罪しても、過去は消えない

今回の二編には、共通するテーマがあるように感じた。

それは、謝罪と許しである。

「おうぎライト」では、妖魔令によって人々が過剰な謝罪を始める。

戦場ヶ原ひたぎは、過去の暴力を悔やみ、暦との別れまで考える。

老倉育も、過去の出来事を掘り返す。

しかし、謝罪された側は、それを望んでいない。

一方、「おうぎフライト」では、撫子が過去に自分を呪った相手と再会する。

哭奈は謝らない。

寸志は謝る。

しかし、どちらの場合も撫子の気持ちは簡単には晴れない。

ここが興味深かった。

謝罪があれば解決するわけではない。

謝罪がなければ、絶対に前へ進めないわけでもない。

人間関係は、それほど単純ではないのである。

そして、過去の出来事をなかったことにする必要もない。

ひたぎは、暦を傷つけた過去を抱えながら、今の関係を続けることを選ぶ。

撫子も、昔の自分を思い出させる絵を捨てず、新しい生活へ持っていく。

過去を消すのではなく、抱えたまま前へ進む。

そんな姿が印象に残った。

ただし、上洛落葉の問題だけは、どうにも引っかかる。

彼女の受験への苦しみは、怪異を取り除いても消えていない。

暦も、彼女を救う答えを見つけられなかった。

そこには、簡単には解決できない現実が残されている。

この後味の悪さも、今回の『扇物語』らしさなのかもしれない。

まとめ|妖魔令は解決しても上洛落葉は救われず。撫子は貝木と怪異調査へ

『扇物語』は、謝罪と許しについて考えさせられる一冊だった。

前半の「おうぎライト」では、怪異「妖魔令」によって、人々が過去の罪を執拗に謝罪するようになる。

戦場ヶ原ひたぎは、暦の口をホッチキスで綴じたことを謝罪し、交際を終わらせようとする。

老倉育も、過去の出来事を掘り返して謝罪する。

しかし、謝罪された暦は困惑するばかりだった。

謝ること自体は悪くない。

むしろ、ひたぎのホッチキスの件などは、謝った方がいいと思う。

しかし、だからといって別れる必要はない。

相手が望んでいないのに謝罪を続ければ、それは別の問題になる。

そして、怪異の原因となっていたのは、受験に苦しむ上洛落葉の「謝れ」という怨念だった。

努力しても結果が出ない。

それなのに、成功した先輩たちから頑張れと言われる。

その言葉に傷ついた落葉の気持ちは、理解できる部分もあった。

しかし、妖魔令は彼女の思いを歪んだ形で広げてしまった。

最終的に怪異は取り除かれる。

それでも、落葉の受験問題は解決していない。

暦も、彼女を納得させることはできなかった。

怪異は解決した。でも、上洛落葉は何も救われていない。

その後味の悪さが、強く印象に残った。

一方、後半の「おうぎフライト」では、千石撫子が本当に実家を出て、一人暮らしを始めていた。

前作で自立を求められていたとはいえ、実際に家を出てしまったことには驚いた。

そして、臥煙伊豆湖の課題として、過去に自分を呪った同級生たちと再会する。

謝らない哭奈。

謝りながらも撫子に謝罪を求める寸志。

どちらとも簡単には和解できない。

しかし、撫子は過去を無理に消そうとはせず、自分なりに前へ進もうとしている。

その姿には成長を感じた。

ただし、怪異の専門家としての仕事は、ますます本格化している。

蛇の呪いを絵に描いて回収し、臥煙の指示で調査を進める。

そして、最後に登場したのが貝木泥舟である。

……貝木が助っ人なのか。

かつて撫子を騙した詐欺師が、今度は協力者になる。

しかも、余接まで加わって、洗人迂路子という謎の存在を追うことになる。

この組み合わせは、なかなか面白そうだ。

しかし、やはり気になる。

撫子は漫画家になるために実家を出たはずである。

それなのに、やっていることは怪異の調査ばかりだ。

画力も推理力も評価され、臥煙から次々と仕事を任されている。

このままでは、漫画家としてデビューするより先に、怪異の専門家として一人前になってしまうのではないか。

いや、もう半分くらい専門家になっている気がする。

撫子の漫画家への道は、いったいどこへ向かうのだろうか。

そして、貝木と余接を連れた次の怪異調査は、無事に終わるのだろうか。

……そもそも、漫画を描く時間はあるのか?

そんな心配と期待が残る一冊だった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

物語扇物語 28の表紙画像(レビュー記事導入用)
<物語>扇物語

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27.余物語
まとめ
29.死物語 上

考察・解説

ストーリー・プロット

第1幕:食飼命日子の相談と戦場ヶ原ひたぎの別れ話

曲直瀬大学の学食で、阿良々木暦は友人の食飼命日子から相談を受けた。命日子は交際相手と合意の上で関係を持ったにもかかわらず、相手の男性が一方的に「夜這いをした」と主張し、周囲の友人やサークル関係者にまで謝罪して回っているため、被害者扱いされて居場所を失ったと打ち明けた。さらに暦自身も年始早々、恋人の戦場ヶ原ひたぎから突然別れを告げられていた。
ひたぎは高校時代に暦の頬をホッチキスで綴じたことや過去の暴言・監禁を許されない罪として持ち出し、自分には付き合う資格がないと平身低頭に謝罪し、関係を終わらせようとした。
さらに下宿へ戻った暦は、隣室に住む老倉育からも過去の学級会などを蒸し返され、「私が悪かった」と過剰に謝罪された。
身近な関係者が揃って過去の非を認め謝り続けるという異常事態に対し、暦は何らかの怪異が関与している可能性を考え始めた。

第2幕:地元への帰郷と忍野扇による分析

身近な三人が過剰な謝罪を繰り返す共通点から怪異の関与を疑った暦は、車に忍野忍を乗せて地元へ向かった。実家で妹たちに異常がないことを確認し、神原駿河の家を訪れると、神原の部屋で勉強していた日傘星雨と再会した。日傘にも謝罪の症状は現れておらず、謝罪とは争いを終わらせる儀式であり、過剰な謝罪は相手を悪者に仕立てる暴力にもなり得ると語った。神原と共に戻ってきた学ラン姿の忍野扇は、暦をBMXの後ろに乗せて走りながら、この現象の背景として「非対称戦争」「自罰傾向」「自己犠牲」「命令系統」「試し行動」の五つの仮説を挙げた。その中で扇は、命令によって謝罪を強制する怪異「妖魔令」の存在を示唆した。

第3幕:直江津高校の共通点と上洛落葉の特定

扇と別れた暦は、北白蛇神社の八九寺真宵にも相談し、謝罪する側の罪悪感と受ける側の感情の不一致や、妖魔令が近代法治国家の法令に似た縛りであることを確認した。大学へ戻った暦は命日子の元交際相手と直接対面し、公衆の面前で頭を下げて殴るよう迫る彼と地べたに座り込んで話し合い、力づくで命日子への接近を禁じる命令を与えて一時的に鎮めた。
直後、命日子からその男性が直江津高校の卒業生であると知らされた暦は、ひたぎ、老倉、男性の三名が直江津高校出身で、年末に曲直瀬大学で開催されたオープンキャンパスで受験生の相談役を務めていた共通点に辿り着いた。
日傘の情報網を通じて、オープンキャンパスに参加し、成績不振で志望校を諦めかけていた直江津高校三年生・上洛落葉が浮上した。

第4幕:車内の対話と妖魔令の解除

夜道で待ち伏せした暦は、両親に頼まれたと偽って上洛落葉を車に乗せた。車内で落葉は、受験勉強の限界や部活動引退後の挫折を語り、オープンキャンパスで成功した先輩たちから「諦めるな、頑張れ」と善意で励まされたことが、苦しみを理解されない耐えがたい屈辱だったと明かした。
彼女の求めていたのは励ましではなく「私に謝れ」という思いであり、その激しい怨念が妖魔令となって先輩たちに作用し、過去の罪を掘り起こして謝罪させていた。
暦はかつての学習塾跡の空き地へ車を停め、助手席の下から忍を呼び出し、落葉の足首に噛みつかせて体内の怪異(妖魔令)を吸い取らせた。怪異を解除された落葉を自宅へ送り届けた後、ひたぎや老倉の過剰な謝罪は収束し、ひたぎとの別れ話も撤回された。
翌朝、車内に現れた扇は、直江津高校に残って生徒たちの心の闇に寄り添う意向を告げ、隣町の境界で姿を消した。

第5幕:遠吠哭奈の病室と蛇の噛み痕

千石撫子は臥煙伊豆湖の指示を受け、正体不明の大蛇「洗人迂路子」の調査の一環として、かつて自分に蛇切縄をかけた同級生たちを訪ねた。
撫子が病院を訪れると、元同級生でグループの中心だった遠吠哭奈は長期入院しており、撫子の目には彼女の全身が蛇の牙による無数の貫通穴で覆われているように見えた。かつての勢いを失い取り巻きからも見放されていた哭奈は、見舞いに来た撫子に対し、卑屈な態度が気に入らず呪ったことを明かす一方、自分を苦しめた撫子を「許してあげる」と告げた。
謝罪もなく一方的に許されたことに反発を覚えつつも、撫子は哭奈の肖像画をスケッチブックに描き、その身体から蛇の呪いの痕跡を絵の中へ回収した。
病室を出た撫子は斧乃木余接と合流し、描いたページを回収させた。

第6幕:呪いの拡散と許すことの選択

撫子は、かつて自分に告白を断られた腹いせに蛇の呪いをかけたもう一人の同級生・砂城寸志とも面会した。
寸志も同様に蛇の呪いによる噛み痕を負っており、過去の行動を謝罪しつつも撫子側にも非があったと主張した。
撫子は、謝らない哭奈にも謝罪してきた寸志にも納得できないわだかまりを抱えつつ、一匹しか逃げなかったはずの蛇切縄に対し、二人が共に大量の噛み痕を負っていることから、二人が当時流行していたおまじないを通じて他にも多くの人間を呪っていたことに気づいた。
その後、忍野扇と会った撫子は、謝罪と許しの難しさについて語り合い、実家に残されていた大量の過去の絵を回収するための合鍵を扇から受け取った。
撫子は過去の恨みに囚われず、前へ進むために二人を許す道を選んだ。

第7幕:貝木泥舟との再会と新たな追跡

過去の習作を詰めたスーツケースを持ってアパートへ戻った撫子の前に、斧乃木余接と共に詐欺師・貝木泥舟が現れた。貝木は臥煙から仕事を任されて復帰したと明かし、かつて学校で流行した蛇の呪いは、自分が安価な商品として流通させたものであり、その大元を辿れば洗人迂路子に行き着くと説明した。臥煙が撫子に同級生と会わせて呪いを回収させたのは、その出所を特定するための布石であった。貝木が指揮を執り、撫子と余接が加わる調査チームが結成され、三人は蛇の呪いの根源である洗人迂路子を追う新たな任務へ踏み出した。

主要な転換点

1:命日子の交際相手が直江津高校出身であることの発覚

それ以前の状況:命日子の交際相手の夜這い謝罪、ひたぎのホッチキス謝罪と別れ話、老倉の学級会謝罪が同時期に発生していたが、個別の人間関係のトラブルか怪異現象かが判然とせず、三者の結びつきが不明だった。 出来事:暦が命日子の交際相手と大学構内で対話して彼を退けた直後、命日子から男性が直江津高校の卒業生であると知らされた。 変化:ひたぎ、老倉、男性の三者が全員「直江津高校出身で曲直瀬大学に在籍している」という共通項で結ばれた。 次への影響:大学内で開催されたオープンキャンパスという接点が浮上し、高校生側に原因があるという推論から上洛落葉の特定へ進展した。

2:上洛落葉の本音「私に謝れ」の吐露

それ以前の状況:直江津高校の卒業生たちが、なぜ過去の罪を一方的に持ち出して無関係な相手に過剰な謝罪を行っているのか、命令の具体的内容が不明だった。 出来事:車内で暦に受験の挫折やオープンキャンパスでの失望を語った落葉が、成功者である先輩たちへの激しい怒りから「私に謝れ」と六法全書を読み上げるように絶叫した。 変化:妖魔令の発令内容が「成功している直江津高校の先輩たちへの謝罪要求」であることが判明し、怪異が本人の意図を離れて暴走し先輩たちの過去の罪へと向かっていた仕組みが明らかになった。 次への影響:暦が彼女を言葉で説得することは不可能だと判断し、学習塾跡で忍を呼び出して物理的に怪異を吸い取らせる解決法へと踏み切った。

3:忍野忍による上洛落葉への吸血(怪異の吸引)

それ以前の状況:落葉が発した妖魔令の作用により、曲直瀬大学内の直江津高校卒業生たちが次々と過去の過ちを蒸し返して謝罪し、人間関係が混乱していた。 出来事:学習塾跡の空き地に停めた車内で、忍が落葉の足首に牙を立て、体内の怪異(妖魔令)を血液と共に吸い尽くした。 変化:落葉に宿っていた妖魔令が消滅し、先輩たちに下されていた謝罪の強制命令が解除された。 次への影響:ひたぎや老倉が過剰な謝罪から正気に戻り、ひたぎの別れ話が撤回されて日常が回復した。

4:千石撫子による遠吠哭奈の肖像画スケッチ

それ以前の状況:撫子は臥煙の指示で入院中の哭奈を見舞ったが、哭奈の全身には蛇の牙による無数の穴が空いており、謝罪も受けられないまま「許す」と言われて反発していた。 出来事:撫子が法廷画家志望と偽って哭奈の姿をスケッチブックに描いたところ、哭奈の身体から穴が消え、絵の中に呪いの痕跡が転写された。 変化:哭奈の身体を蝕んでいた蛇の呪いの一部が回収され、余接を通じて臥煙の元へ情報が渡った。 次への影響:蛇切縄の呪いが複数人に拡散していた事実が明確になり、呪いの出所である洗人迂路子への追跡計画が進展した。

5:貝木泥舟の再登場と呪いの出所の開示

それ以前の状況:撫子は哭奈と寸志からの呪いの回収を終え、実家から過去の絵を取り戻して自立の第一歩を踏み出していたが、洗人迂路子の手がかりは途絶えていた。 出来事:撫子のアパート前に貝木泥舟が現れ、かつて自分が流通させた呪いの根源が洗人迂路子であること、臥煙の指示で自分が調査の指揮を執ることを明かした。 変化:単なる過去の人間関係の清算と思われた面会が、洗人迂路子を討伐・調査するための大規模な作戦の一部であったと判明した。 次への影響:撫子、余接、貝木という新たなチームが結成され、洗人迂路子の追跡調査へと本格的に動き出すことになった。

主人公を中心とした人物関係の変化

阿良々木暦 ⇔ 戦場ヶ原ひたぎ

開始時:高校時代から交際を継続している恋人同士だったが、年初に突然「付き合う資格がない」と過去のホッチキス事件などを謝罪され、別れ話を切り出されて保留状態となっていた。 主な出来事:暦が妖魔令の存在を突き止め、忍を使って元凶の落葉から怪異を吸い取らせて命令を解除した。 巻末時:ひたぎが過去の自分への過剰な自責から脱し、別れ話は白紙撤回されたが、暦が老倉の隣室へ引っ越した件についての厳しい追及を予告される関係となった。

阿良々木暦 ⇔ 食飼命日子

開始時:大学で唯一の友人であり、互いに気軽な雑談や試験勉強を交わす対等な間柄。 主な出来事:命日子から交際相手の夜這い謝罪の相談を受け、暦が相手の男性と直接対峙して力づくの命令で謝罪行脚を止めさせた。 巻末時:事件の詳細をすべて明かしてはいないものの、命日子から深く感謝され、良好な友情関係が維持された。

阿良々木暦 ⇔ 忍野扇

開始時:かつて直江津高校で深く関わり合った暦の分身・裏面であり、神原駿河と共に行動している後輩。 主な出来事:BMXに二人乗りしながら謝罪に関する五つの仮説や妖魔令の手がかりを提供され、事件解決の翌朝には車内で今後の在り方を語り合う。 巻末時:大学生となった暦に代わり、直江津高校に残って生徒たちの心の闇に寄り添う役目を引き受け、隣町への境界で暦の前から姿を消した。

千石撫子 ⇔ 遠吠哭奈

開始時:過去に撫子を支配・いじめ、告白を巡って蛇切縄の呪いをかけた元同級生と、その被害者。 主な出来事:病室で衰弱し穴だらけになった哭奈を見舞い、謝罪もなく「許してあげる」と言われて反発するが、肖像画を描くことで呪いを回収した。 巻末時:完全に和解したわけではないが、相手を恨み続けることをやめ、前へ進むために過去を受け流す関係となった。

千石撫子 ⇔ 貝木泥舟

開始時:かつて中学校におまじない(呪い)を広め、後に蛇神となった自分を騙して救った因縁の詐欺師。 主な出来事:アパートの前で再会し、蛇の呪いの出所である洗人迂路子の情報を知らされる。 巻末時:警戒心や反発は残りつつも、臥煙の元で洗人迂路子を追う調査チームの指揮役と調査役として共闘する関係となった。

主人公の認識と周囲の評価

主人公自身の認識

暦は自分自身を「直江津高校始まって以来の落ちこぼれ」「数学が得意なだけで数学者を志しているわけでもない」「吸血鬼パワーや才媛たちの指導という下駄を履いて大学に進学しただけのチート野郎」と捉えている。また、大学に入っても友人が命日子しかできず、恋人や幼馴染の異変に対しても精神面では有効な手立てを打てない未熟な存在であり、高校時代の切実な悩みを忘れて上から目線で後輩に接してしまった自分に深く失望している。

周囲からの評価

上洛落葉や彼クンなどの直江津高校の後輩・卒業生からは、「偏差値ゼロから難関大学に合格した伝説の受験生」「落ちこぼれだったのに女を目当てにのうのうと大学に入学してきた癪に障る存在」と見做されている。食飼命日子からは、「頼りになる男」「男と男の約束を交わして問題を解決してくれる格好いい暦ちゃん」と信頼されている。忍野扇は、暦の行動を「自己犠牲や試し行動を他人に仕掛け、泥をかぶって怪異のせいにすることで人間関係の破綻を隠蔽した」と皮肉りつつも、その愚直な立ち回りを熟知した上で後始末を担う存在として認めている。

認識の差が現れた場面

車内で上洛落葉に勉強を教えようとする場面において、暦本人は自らの苦労や挫折の経験を踏まえて「自分でも受かったのだから手助けをしたい」と善意で申し出たが、落葉からは「合格した成功者が上から目線で押しつけてくる一番欲しくない言葉」「オープンキャンパスの先輩たちと寸分違わず同じ呪い」と激しい反発を受け、暦の自己認識(同じ落ちこぼれ)と落葉から見た暦(恵まれた成功者)の間に完全な断絶が露わになった。
また、彼クンが暦を糾弾する場面において、暦自身は自らを普通の大学生であり彼クンとは無関係の第三者だと思っていたが、彼クン側からは「かつて真面目に勉強していた自分たちを差し置いて、不真面目だったのに推薦や要領で受かってのうのうと生きている許せない先輩」と敵視されており、自らの大学合格が他者からどう受け止められていたかの落差を突きつけられた。

過剰な謝罪

扇物語において取り上げられる過剰な謝罪は、通常の自省や謝意の表明を逸脱し、受け手の意思や人間関係を破綻へ追い込む精神的加害および異常現象として描かれる。

発生した現象と過剰な謝罪の様相

阿良々木暦の周辺において、常軌を逸した謝罪行為が連続して発生する。

・戦場ヶ原ひたぎ 年始の段階で、高校時代に暦の頬を文房具で留めた出来事や刃物を向けた過去を取り上げ、重大な過ちであると主張する。交際を継続する資格の欠如を訴え、一方的に深々と詫びを入れて関係の解消を通告する。

・老倉育 過去の学級会や集団学習を含む過去の軋轢について、すべての責任が自身のみに帰属すると激昂しながら泣き崩れ、謝意をまくし立て続ける。

・食飼命日子の交際相手 合意のもとで親密な関係を結んだにもかかわらず、自らが卑劣な夜這い行為を実行したと思い込む。重大な犯罪を犯したと錯覚し、大学の関係者や面識のない暦にまで土下座を繰り返し、自らへの物理的制裁を懇願して謝罪行脚を重ねる。

過剰な謝罪の多角的な構造と解釈

作中では、阿良々木暦、忍野扇、日傘星雨らを通じて、謝罪という行為が孕む不条理と非対称性が検討される。

・謝罪という名の暴力 謝罪者が過度かつ一方的に自責を重ねる姿勢を維持することにより、被害の有無とは無関係に、受け手が相手を不当に追い詰めているかのような居心地の悪さを強いられる。

・加害と被害の不均衡

受け手が怒りを抱いておらず、被害と認識していない局面であっても謝罪が反復される結果、受け手側の見解や心理が置き去りとなり、双方向の関係性が一方的に解体へと向かう。

さらに忍野扇は、この異様な謝罪の背景に関して5つの仮説を提示して整理する。

・非対称戦争(攻撃としての謝罪) 不条理な平身低頭を敢行することで相手側の論理的反論を封殺し、心理的な優位性を奪取して精神的打撃を与える手法。

・自罰傾向 内面的な成熟や視野の拡大に伴い過去の過誤を過大に認識し、自らを痛烈に処罰しようとする心理機構。

・自己犠牲(関係性の放棄) すべての非を自らに集約させることで、他者との対話や相互関係の構築を一方的に遮断して決別を図る行動。

・命令系統 外部から行使された強力な指示や呪詛の干渉により、作為的に謝罪を強要される状態。

・試し行動 相手の寛容さに甘え、あるいは関係性の深さを確認する意図から、極端な謝意を示して相手の反応を推し量る心理作用。

事件の真相と怪異「妖魔令」の発生原因

連続した謝罪行動の発生源は、直江津高校3年生の上洛落葉と、彼女の情念が生み出した怪異「妖魔令」に起因する。

・発端となった挫折

陸上部引退後の受験生活で行き詰まりを迎え、志望変更を強いられるほど追い詰められていた上洛落葉は、年末の大学説明会に参加する。そこで成功体験を述べ、努力を肯定する激励を口にした先輩たちに対し、強烈な反発と謝罪を要求する怨嗟を抱く。

・怪異の暴走 その怨恨が統制や指示の性質を帯びた怪異「妖魔令」へと昇華し、説明会に出席していた卒業生たちへ伝播する。しかし付与された命令が歪曲して暴走した結果、当事者たちは上洛落葉へ向けてではなく、過去に自らが傷つけた対象へ向けて過去の罪過を掘り起こし、謝罪を執拗に繰り返す事態へと発展する。

事態の収束と残された課題

阿良々木暦は上洛落葉を学習塾跡の建物へ誘導し、忍野忍を介して彼女の足首から「妖魔令」の怨念を吸い上げさせる措置を講じる。

この処置により謝罪症状は鎮静化を迎え、関係者も平常の状態へ復帰する。しかし、上洛落葉自身が直面していた進路上の苦悩や挫折そのものが消滅する帰結には至らず、無意識の善意が持つ鋭利さや、人間関係の非対称性という根深い問いを突きつける終幕を迎える。

まとめ

過剰な謝罪の根底には、善意による激励が時に他者を追い詰める暴力へと転じる構造と、一方的な自己否定が他者との対話を遮断する不条理が横たわる。怪異の鎮静化を経た後も、人と人との間に生じる認識の断絶と痛切な感情の非対称性は解消されることなく、登場人物たちの心に重い思索を刻み込む。

蛇の呪い

扇物語第7話「おうぎフライト」において解明される蛇の呪いは、過去の出来事と現在が複雑に交錯する怪異現象に位置づく。その発端から流通の背景、解決に至る一連の経緯を整理する。

発生の経緯と中学校における流行

千石撫子が中学校時代に受けた蛇の呪いは、同級生2名によって同時に行使された経緯を持つ。

・遠吠哭奈の動機

意中の男子生徒が手下のように扱っていた撫子へ告白した事態に対し、激しい怒りと嫉妬を抱いて呪詛を実行。

・砂城寸志の動機

撫子へ告白したものの拒絶された腹いせとして呪詛を実行。

当時、校内では恋愛成就や成績向上を目的としたおまじないが流布しており、大半が無害な代物にとどまる中、本物の蛇の呪いが紛れ込む状況が生じる。

呪いの流布経路と根源の正体

一般の生徒層にまで呪詛が浸透した背景には、意図的な人為的介入が存在。

・流布者の活動

詐欺師の貝木泥舟が、入手した呪詛を加工して安価に複製し、市場へ流通させる役回りを担う。

・根源となる存在 流通した呪いの根源であり、蛇の総本山と目される対象は、五つ首の大蛇「洗人迂路子(臥煙雨露湖)」に帰着。

呪い返しに伴う加害者側の末路

千石撫子は自らのみが標的になったと認識していた一方、実際には加害者の2名ともに撫子以外の同級生に対しても無差別に呪詛を乱発。

・反作用の直撃

無秩序な行使の結果、跳ね返った呪い返しと自縄自縛の心理が作用。

・身体への甚大な被害

全身を巨大な蛇に幾度も噛みつかれたかのような無数の貫通痕で覆われ、重篤な状態で入院加療を余儀なくされる結末を招く。

呪いの回収と現地調査への移行

専門家の元締めである臥煙伊豆湖は、呪詛の出所を特定する目的から痕跡の採取を策定。

・描画による呪痕の抽出

見習いとなった千石撫子が病室へ赴き、対象者の肖像をスケッチブックへ描写する手法を通じ、肉体から呪いの痕跡を絵画内部へ吸引して回収を達成。

・調査班の編成と遠征

採取した標本から拠点を絞り込んだ指示を受け、貝木泥舟、千石撫子、斧乃木余接の3名による調査集団「株式会社偽善社」を結成し、標的の潜伏先である西表島へ向けた出航を迎える。

まとめ

蛇の呪いは、生徒間の個人的な怨恨を発端としながら、裏社会の流通網と強大な怪異が結びつくことで拡大を遂げる。呪痕の回収作業を経て成立した新たな調査陣勢は、根源たる洗人迂路子との対峙へ向かう決定的な契機を形づくる。

過去の清算

扇物語における過去の清算は、全編を貫く中核的な命題に位置づく。阿良々木暦が直面する過剰な謝罪事象を描くおうぎライトと、千石撫子がかつての呪いおよび加害者たちと対峙するおうぎフライトという二つの挿話を通じ、人間が自身の過去や過誤、トラウマといかに向き合い、いかに清算を果たすべきかという課題を対比的に掘り下げる。

おうぎライト:謝罪による一方的な清算の暴力性

おうぎライトでは、戦場ヶ原ひたぎや老倉育、食飼命日子の交際相手らが、過去の経緯を突如として重大な過失と捉え、相手の都合を度外視して平身低頭に詫び続ける異常事態が生じる。

・自己本位な謝罪の暴力性

ひたぎは高校期に暦の頬を文房具で留めた行為や暴言を大罪と断じ、交際資格の喪失を訴えて別離を迫る。受け手である暦にとっては克服済みの共有された記憶に過ぎず、一方的な謝罪は積み重ねた関係性や思い出を破壊する暴力として作用する。

・罪悪感の処理と身勝手な清算

相手の意向を無視した過度の謝罪には、内面的な成熟に伴い過去の愚行を罰しようとする自罰傾向、謝罪を通じて関係を強制遮断する自己犠牲、相手の愛情を試す心理が潜む。自らの罪悪感を解消するために過去を掘り起こす振る舞いは、相手への配慮を欠いた独善的な清算に留まる。

・妖魔令と善意がもたらす反作用

一連の騒動の発生源は、大学受験で行き詰まりを抱えた高校生の上洛落葉が抱いた、順調な先輩たちへの強い怨嗟に基づく怪異に起因する。説明会において善意から発せられた励ましが、挫折した当事者にとっては耐え難い重圧となり、過剰な謝罪の連鎖となって周囲へ伝播する。

おうぎフライト:和解なき清算と前進への昇華

おうぎフライトでは、かつて蛇の呪詛を受けた千石撫子が、怪異の専門家である臥煙伊豆湖の指示のもと、自身を呪った旧友の遠吠哭奈および砂城寸志の病室を訪問する。

・不完全な清算の現実

病室で再会した哭奈は反省の態度を示さず自らの寛大さを一方的に誇示し、寸志も曖昧な謝意を述べつつ相手側の非を主張する。相互に反省を交わして円満に和解を果たす調和的な清算など、現実には存在しない実態が提示される。

・自発的な許容と未来への移行

不誠実な対応に憤りを覚えつつも、無理な許容や克服を否定する斧乃木余接の指摘や忍野扇との対話を経て境地に至る。相手の悔悟を求める目的ではなく、自らが過去の遺恨から脱却して歩みを進めるため、呪詛の痕跡をスケッチへ取り込んで回収し、次の行程へ進む判断を下す。

・過去の足跡の受容

実家に保管されていた膨大な旧作画稿を廃棄せず、鞄に収めて携行する。恥ずべき過去や失敗を完全に抹消するのではなく、現在の自身を形成した要因として肯定し、背負い続ける覚悟を固める。

まとめ

扇物語は、過去の事象が一方的な謝罪や反省のみによって完全に清算されるものではない冷徹な現実を提示する。

・忘却と受容の性質の違い

・過去の自身を過剰に断罪する自罰や無かったものと見なす逃避の不毛さ

自身の愚かさや未熟さ、被った理不尽や未解決のわだかまりを消せない事実として受け止めつつ、現在と未来へ向けて主体的な歩みを踏み出す姿勢こそが、本作の提示する過去との真摯な対峙のあり方に帰着する。

許すこと

扇物語において取り上げられる許すことという行為は、単なる道徳的な美徳や円満な和解の手段にとどまらず、謝罪、非対称な力関係、自己承認、過去との妥協といった要素と複雑に絡み合う多角的な主題を形づくる。

許されるための謝罪と受け手側の負荷

おうぎライトにおいて描かれる過剰な謝罪事象は、許しを請う行為が孕む自己中心的な側面を浮き彫りにする。

・自己本位な免罪の要求

謝罪者自身が罪悪感から解放されたいという欲求を動機として一方的に頭を垂れる態度は、受け手の心情や意思を排除した精神的加害へ転化する。

・悪意なき過誤に対する葛藤

受験の挫折から騒動を引き起こした上洛落葉について、阿良々木暦は明確な悪意の欠如や普遍的な躓きである点を踏まえ、本人が一言の反省も口にしない状況であっても受容を迫られる不条理に苦悩する。

忘却との差異および優位性の構築

許容という行為に伴う精神的優位や時間経過の影響について、独自の視座が提示される。

・忘却と許容の断絶

時間を経て記憶から一時的に失われたとしても、記憶を喚起した途端に憤怒が再燃する構造が存在するため、事象を忘れることと許容を果たすことは本質的に次元を異にする。

・許容に伴う力関係の誇示

他者を一方的に赦免する振る舞いは、自らを度量の広い上位者として位置づける心理的な攻撃手段やマウンティングとして機能する側面を併せ持つ。

不誠実な加害者と千石撫子の葛藤

おうぎフライトにおいて千石撫子は、かつて自身へ蛇の呪いを差し向けた同級生たちと再会し、理不尽な許容のあり方に直面する。

・謝罪なき加害者による一方的な赦免

撫子を呪詛に陥れた遠吠哭奈は、反省の意を表さないばかりか、上位の視点から一方的に相手を許すと宣言する不条理な態度を示す。

・自己弁護を内包する形式的な陳謝

砂城寸志は表層的な謝意を口にしながらも被害者側の落ち度を主張し、真摯さを欠く弁明によって受け手の不満を解消させない。

斧乃木余接の助言と千石撫子の選択

不誠実な加害者や不条理な現実に直面した両者は、従来の道徳観とは異なる実践的な着地点を見出す。

・許容の義務の否定

斧乃木余接は、他者を無理に許す義務や困難を正面から乗り越える必要性を排し、軽やかに身を躱して記憶から遠ざければ十分であると説く。

・前進のための戦略的受容

千石撫子は、相手を完全に許したわけでも納得に至ったわけでもない状態を受け入れつつ、過去の遺恨に囚われ続ける不利益を回避するため、自身が未来へ前進するための利害に基づく選択として状況に折り合いをつけ、自らの表現活動へ向かう道筋を選択する。

まとめ

扇物語が描く許すことの真相は、相互の情緒的な調和を前提とした綺麗事の和解を排し、未解決の不条理を抱えたまま、自身が現在と未来を生き抜くために下す極めて現実的な妥協と選択の過程に帰着する。

怪異の調査

扇物語における怪異の調査は、単なる戦闘準備の枠組みにとどまらず、人間関係の摩擦、過去の傷痕、呪詛の流通機構を解明していく推理小説的な工程として進行する。阿良々木暦が主体となる過剰な謝罪現象の解明と、千石撫子らが担当する蛇の呪詛追跡という二つの側面からその実態を整理する。

おうぎライトにおける過剰な謝罪の調査

阿良々木暦は、自身の周辺や大学施設内で発生した、相手の意向を無視して過去の非を詫び続ける異常事態の真相を探るため、詳細な聞き取り調査を展開する。

・症例の把握と情報収集

友人である食飼命日子から交際相手の謝罪行脚について聞き、自身も交際相手の戦場ヶ原ひたぎから過去の加害を理由とした別離を告げられ、隣人の老倉育からも激しい謝罪を受ける。

・地域での現地調査

影響範囲を特定するため地元へ戻り、妹たちや神原邸で留守番をしていた日傘星雨から事情を聴取する。日傘との対話を通じ、謝罪行為が内包する非対称性や暴力性に関する考察を深める。

・仮説の構築と専門知識の参照

忍野扇から非対称戦争、自罰傾向、自己犠牲、命令系統、試し行動という五つの仮説の提示を受ける。

北白蛇神社において八九寺真宵から、法令や命令の性質を帯びた怪異である妖魔令の存在を聞き出す。

・共通項の特定と発令者の背景

謝罪者全員が直江津高校の出身者であり、年末に実施された曲直瀬大学オープンキャンパスの受け入れ側参加者であった事実を突き止める。

発令者は受験勉強で挫折を味わった高校三年生の上洛落葉と判明する。訪問時に先輩たちから向けられた善意の激励に深く傷つき、私に謝れという強い怨念を抱いた結果、妖魔令が暴走して関係者へ伝播した実態を解明する。

・事態の収束

学習塾跡の建物へ上洛落葉を連れ出し、忍野忍を介して足首から怨念を吸収させる処置を講じることで怪異の影響を鎮静化させる。

おうぎフライトにおける蛇の呪いの追跡

千石撫子は、怪異の統括役である臥煙伊豆湖の指示を受け、蛇の総本山と目される洗人迂路子(臥煙雨露湖)の痕跡を辿る実地調査に着手する。

・呪詛の回収作業

かつて自身へ蛇の呪いを向けた元同級生の遠吠哭奈および砂城寸志が入院する病室を訪問する。両名には呪い返しの反動により、全身に無数の貫通痕が残存していた。

法廷画の練習を装い、彼らの外見をスケッチブックへ描写する手法を用い、肉体から呪詛の痕跡を絵画内部へ吸着させて採取を果たす。

・流通機構と根源の露見

過去に中学校内で蔓延した蛇の呪いは、詐欺師の貝木泥舟が原本を入手して複製し、安価で大量に流通させた製品と判明する。

呪詛の根本的な供給元が洗人迂路子であり、臥煙伊豆湖がその拠点を捕捉する目的で撫子に採取を命じた意図を把握する。

・調査班の結成と遠征

採取した標本を基に、洗人迂路子の潜伏先が沖縄県西表島であると特定される。

臥煙伊豆湖の差配により、指揮役の貝木泥舟、見習いの千石撫子、片目を没収された式神の斧乃木余接による調査組織、株式会社偽善社が結成され、現地調査へ向けた出発を迎える。

まとめ

本作における怪異調査は、言葉や謝罪の構造に潜む人間心理の歪みを解き明かす阿良々木暦の論理的探究と、呪詛の痕跡を回収して発生源へと迫る千石撫子の実地踏査という、二通りの追究手段を軸に展開する。

27.余物語
まとめ
29.死物語 上

登場キャラクター

国立曲直瀬大学

阿良々木 暦

国立曲直瀬大学に通う大学1年生。高校時代に吸血鬼と関わった過去を持つ。

・所属組織、地位や役職  国立曲直瀬大学・1年生。

・物語内での具体的な行動や成果  大学の友人や戦場ヶ原ひたぎから過去の罪を謝罪される異変に直面した。  真相を探るため車で地元へ戻り聞き取り調査を行う。  上洛落葉を車に乗せて学習塾跡へ連れて行き忍野忍に怪異の影響を吸い取らせた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  一人暮らしを始めつつ大学に通う。  過剰な謝罪をもたらす怪異「妖魔令」の事件を解決へ導いた。

食飼 命日子

国立曲直瀬大学の数学科に通う女子大生。阿良々木暦の大学における友人という立場にある。

・所属組織、地位や役職  国立曲直瀬大学・1年生。

・物語内での具体的な行動や成果  交際相手から身に覚えのない夜往いの件で謝罪され続ける悩みを阿良々木暦へ相談した。  阿良々木暦が相手の男性と話し合ったことで問題の解決を迎える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  多数のサークルに所属して幅広い交友関係を誇る。  暗号学を専攻している。

戦場ヶ原 ひたぎ

国立曲直瀬大学に通う女子大生。阿良々木暦と交際している。

・所属組織、地位や役職  国立曲直瀬大学・1年生。

・物語内での具体的な行動や成果  正月の初詣の際に阿良々木暦へ突然の別れを告げた。  高校時代に阿良々木暦へ加えた暴力を理由に謝罪を繰り返す。  事件の解決後に阿良々木暦との関係を修復させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  オープンキャンパスの1年生代表として高校生からの相談を受ける。  国際経済学科に在籍している。

老倉 育

国立曲直瀬大学に通う女子大生。阿良々木暦の幼馴染という関係にある。

・所属組織、地位や役職  国立曲直瀬大学・1年生。

・物語内での具体的な行動や成果  阿良々木暦の部屋の隣へ引っ越して生活を始める。  過去の学級会などの出来事を持ち出して阿良々木暦に過剰な謝罪を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  オープンキャンパスで数学科の代表として高校生の相談に乗る。  奨学金を得て大学へ進学を果たした。

彼クン

国立曲直瀬大学の2年生。食飼命日子と交際していた男性。

・所属組織、地位や役職  国立曲直瀬大学・2年生。サークル研究部員。

・物語内での具体的な行動や成果  食飼命日子へ夜往いをしたと思い込み周囲や大学構内で謝罪を繰り返した。  阿良々木暦と対峙して自らを殴るよう要求する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  直江津高校の卒業生という過去を持つ。  オープンキャンパスの手伝いに参加していた。

私立直江津高校

上洛 落葉

私立直江津高校の3年生。受験勉強に行き詰まっている。

・所属組織、地位や役職  私立直江津高校・3年生。元陸上部員。

・物語内での具体的な行動や成果  オープンキャンパスで成功した先輩たちの言葉に傷ついて謝罪を求める感情を抱いた。  怪異「妖魔令」を引き起こして卒業生たちに過剰な謝罪を強制させる。  阿良々木暦の車に乗せられ学習塾跡で忍野忍に血を吸われた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  部活動の引退後に成績を落とす。  志望校の変更を余儀なくされた。

忍野 扇

直江津高校に通う生徒。阿良々木暦の裏面として存在する。

・所属組織、地位や役職  私立直江津高校・2年生。

・物語内での具体的な行動や成果  学ラン姿の男子生徒として登場する。  阿良々木暦を自転車の後ろに乗せて怪異の可能性について語った。  千石撫子の実家から忘れ物の原稿を回収して渡す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  直江津高校に留まり生徒たちの闇に寄り添う道を選んだ。  阿良々木暦の前から姿を消す。

日傘 星雨

私立直江津高校の3年生。神原駿河の友人という間柄にある。

・所属組織、地位や役職  私立直江津高校・3年生。元バスケットボール部主将。

・物語内での具体的な行動や成果  神原駿河の家で留守番をしながら阿良々木暦を迎えた。  阿良々木暦へ謝罪に関する独自の持論を語る。  阿良々木暦からの依頼を受けて上洛落葉の情報を調べ上げた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  受験のストレスからギャル風の姿へ変化する。  後輩グループの情報を正確に把握している。

阿良々木家

阿良々木 火憐

阿良々木暦の妹。高校へ通う。

・所属組織、地位や役職  私立直江津高校・1年生。

・物語内での具体的な行動や成果  帰省した阿良々木暦と自宅で接した。  暦からの詰問に対して謝罪するような反応を見せない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  高校進学後も健やかに成長を続ける。

阿良々木 月火

阿良々木暦の妹。中学校に通う。

・所属組織、地位や役職  栂の木第二中学校・3年生。

・物語内での具体的な行動や成果  阿良々木暦の旧部屋を自分の部屋として乗っ取った。  千石撫子が黙って家を出たことに憤りを見せる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  兄の暦に対しても屈しない態度を保っている。

北白蛇神社

八九寺 真宵

北白蛇神社に祀られる神。かつて迷い牛の怪異だった過去を持つ。

・所属組織、地位や役職  北白蛇神社・神。

・物語内での具体的な行動や成果  賽銭箱の裏に隠れて阿良々木暦と対話を行った。  謝罪の心理や「妖魔令」という怪異の性質について阿良々木暦へ解説する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  地獄から阿良々木暦に連れ戻された経緯を持つ。  新任の神として神社に留まっている。

私立七百一中学校(元生徒・入院患者)

遠吠 哭奈

私立七百一中学校の元生徒。病院に入院している。

・所属組織、地位や役職  私立七百一中学校OG。入院患者。

・物語内での具体的な行動や成果  病室を訪れた千石撫子と対面した。  千石撫子を許す言葉をかける。  千石撫子にスケッチブックへ描かれたことで全身の穴の痕跡が消え去った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  自身がかけた蛇の呪い返しによって全身に無数の穴を抱える状態となる。  かつての威厳を失い友人たちから見放された。

砂城 寸志

私立七百一中学校の元生徒。病院に入院している。

・所属組織、地位や役職  私立七百一中学校OG。入院患者。元運動部員。

・物語内での具体的な行動や成果  千石撫子へ告白を断られた過去を持つ。  面会に来た千石撫子へ謝罪しつつ千石撫子側の非も主張した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  千石撫子を呪った反動で蛇の噛み痕を負い入院する。

怪異の専門家・怪異・式神

忍野 忍

阿良々木暦の影に潜む吸血鬼。かつては怪異の王だった。

・所属組織、地位や役職  元・吸血鬼の王。阿良々木暦のペア。

・物語内での具体的な行動や成果  ニュービートルの助手席に座り阿良々木暦の帰郷に同行した。  学習塾跡で上洛落葉の足首から「妖魔令」の影響を血とともに吸い取る。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  吸血鬼の力を失い幼女の姿で存在している。

千石 撫子

元は北白蛇神社の神だった少女。現在は漫画家を目指す。

・所属組織、地位や役職  元・神。怪異の専門家見習い。

・物語内での具体的な行動や成果  臥煙伊豆湖の指示で入院中の遠吠哭奈や砂城寸志を訪ねた。  遠吠哭奈をスケッチブックに描くことで呪いの痕跡を回収する。  忍野扇から過去の原稿が入ったスーツケースを受け取った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  実家を出て一人暮らしを始める。  貝木泥舟らとともに沖縄へ向かうチームに組み込まれた。

斧乃木 余接

影縫余弦の式神である死体人形。無表情で会話を行う。

・所属組織、地位や役職  影縫余弦の式神。憑喪神。

・物語内での具体的な行動や成果  千石撫子の調査に同行した。  千石撫子が描いたスケッチブックのページを引きちぎって回収する。  千石撫子のアパートの前で待ち伏せを行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  背中の大きく開いたドレスを着用する。  千石撫子と同居して行動をともにしている。

貝木 泥舟

怪異の専門家であり詐欺師。黒いスーツを着用する。

・所属組織、地位や役職  怪異の専門家。詐欺師。

・物語内での具体的な行動や成果  千石撫子のアパート前で待ち伏せをした。  過去に蛇の呪いを大量生産して流布した事実を認める。  千石撫子や斧乃木余接を引き連れて沖縄の西表島へ飛ぶ計画を告げた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  臥煙伊豆湖の一門から破門されていた状態から復帰を図る。  「株式会社偽善社」というチームの指揮を執っている。

物語扇物語 28の表紙画像(レビュー記事導入用)
<物語>扇物語

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27.余物語
まとめ
29.死物語 上

展開まとめ

第六話 おうぎライト

食飼命日子からの相談

曲直瀬大学に通う阿良々木暦は、友人の食飼命日子から奇妙な相談を受けた。命日子は交際相手との合意の上で関係を持ったにもかかわらず、相手の男性が一方的に夜這いをしたと主張し、謝罪を繰り返しているという。

男性は命日子だけでなく、彼女の友人やサークルの関係者にまで謝罪して回っていた。命日子自身は被害を受けたと思っていなかったが、周囲から被害者として同情されるようになり、サークルにも顔を出しづらくなっていた。

命日子がやめるよう求めても、男性はさらに謝罪を重ねた。謝罪する側が自分の罪を認めるほど、謝罪される側の意思が無視されるという異常な状況だった。

戦場ヶ原ひたぎの別れ話

命日子の相談を聞いた暦には、似た出来事への心当たりがあった。年明け早々、恋人の戦場ヶ原ひたぎから突然別れを告げられていたのである。

暦は、老倉育の住むアパートの隣室へ引っ越したことが原因ではないかと疑った。しかし、ひたぎが別れを望んだ理由は別にあった。

ひたぎは、自分には暦と交際する資格がないと謝罪し、これまでの関係そのものを否定しようとした。暦が理由を問い詰めると、彼女は高校時代、暦の頬の内側をホッチキスで綴じたことを持ち出した。

それは二人が親しくなるきっかけとなった出来事でもあった。暦はすでに気にしていなかったが、ひたぎは過去の暴力を許されない罪として捉え、交際を続けるべきではないと考えていた。

過去の罪への謝罪

ひたぎは、ホッチキスだけでなく、カッターナイフを向けたことや、暦に浴びせた数々の暴言についても謝罪した。

暦にとっては、すでに乗り越えた過去だった。しかし、ひたぎは過去の自分を許せず、暦の寛容さに甘えてきたことまで罪だと考えていた。

ひたぎは、自分の母親との関係についても語った。かつて母親は、娘に対して謝罪を繰り返していた。しかし、ひたぎがその謝罪を受け入れるだけでなく、母親を責めるような言葉を返したことで、母親は謝らなくなったという。

謝罪は必ずしも相手のためになるものではなく、謝罪する者が自分を守るための行為にもなり得た。暦はひたぎとの別れ話をいったん保留にしたものの、関係を修復する方法を見いだせなかった。

老倉育の異変

暦の身近で、過剰な謝罪を始めたのはひたぎだけではなかった。隣室に住む老倉育も、過去の出来事を蒸し返して謝罪するようになっていた。

暦は、老倉との間に長年のわだかまりがあることを理解していた。しかし、すでに終わった出来事を一方的に掘り返され、謝罪を受け続けることには戸惑いを覚えた。

命日子の交際相手、ひたぎ、老倉という三人の異変には、相手の意向を無視して自分の罪を認め、謝り続けるという共通点があった。

しかも、いずれも曲直瀬大学に関係する人物だった。暦は、個別の人間関係の問題ではなく、何らかの怪異が関与している可能性を考えた。

忍野忍との帰郷

暦は異変の原因を調べるため、車で地元へ向かった。同行した忍野忍は、暦が自分ではなく忍野扇に相談しようとしていることを面白がった。

暦は、精神に作用する怪異について忍に尋ねた。しかし忍は、怪異の王だったからといって、あらゆる怪異の性質を知っているわけではないと説明した。

暦は、以前のように怪異の専門家へ簡単に頼ることもできなくなっていた。斧乃木余接は謹慎中であり、臥煙伊豆湖とのつながりも途絶えていた。

そこで暦は、自分の裏面として生まれた忍野扇なら、今回の不可解な現象を読み解けるのではないかと考えた。

阿良々木家の兄妹

帰郷した暦は、妹の火憐と月火にも異変が起きていないか確かめた。

二人に謝罪を求めるような話を持ちかけても、普段と変わらない反応しか返ってこなかった。とりわけ月火が過去の行動を反省して謝罪するような事態は起きていなかった。

暦は、地元の人々には過剰な謝罪の症状が現れていない可能性を考えた。そうであれば、異変の発生源は曲直瀬大学にあるのかもしれなかった。

同時に、地元にいる扇が事件を仕組んだ可能性も低くなった。しかし、暦は扇の力を借りること自体は諦めなかった。

神原家での日傘星雨

暦は神原駿河の家を訪れ、そこで日傘星雨と再会した。日傘は神原の勉強を手伝っていたが、室内は参考書や辞書まで散乱するほど荒れていた。

暦は日傘にも謝罪に関する異変が起きていないか尋ねた。日傘は過剰な謝罪を始めておらず、むしろ謝罪の仕方について自分なりの考えを持っていた。

日傘によれば、謝罪は単に自分の非を認めるだけでなく、相手との争いを終わらせるための作法でもあった。どれほど真剣に謝っても、相手の気持ちを無視していれば、関係を修復するどころか悪化させてしまう。

また、謝罪を過剰に繰り返せば、謝罪される側が理不尽な要求をしているかのような状況にもなり得た。

暦は、命日子の交際相手やひたぎたちの謝罪が、相手との和解を目指すものではなく、自分自身を追い詰める行為になっていることを改めて考えた。

忍野扇との自転車

暦は神原とともに戻ってきた忍野扇に事情を説明した。

扇は、以前の女子生徒の姿ではなく、学ラン姿の男子生徒として振る舞っていた。暦の相談を聞く時間は限られていると言い、自転車の後ろに暦を乗せて走り始めた。

暦は命日子、ひたぎ、老倉の異変と、地元での聞き取り結果を伝えた。扇はそれらを踏まえ、複数の可能性が考えられると告げた。

その一つは、謝罪そのものを相手への攻撃として利用する非対称戦争だった。謝罪する側が一方的に罪を認めれば、謝罪される側は反論も拒絶もしづらくなる。

別の可能性として、自分を罰したいという衝動や、自己犠牲によって関係を終わらせようとする心理も挙げられた。

妖魔令の手がかり

扇はさらに、何らかの命令によって謝罪が強制されている可能性を示した。

暦は、本人の意思とは無関係に過去の罪を思い出させ、謝罪を強いる怪異が存在するのではないかと考えた。

しかし、扇は最後まで説明を終えないまま、目的地へ到着した。そこは千石撫子の実家だった。

扇は撫子から頼まれ、家に残された忘れ物を回収しに来たという。撫子はすでに実家を離れて暮らしており、扇が代わりに訪れたのだった。

暦は撫子の家に近づくことを避け、扇と別れた。扇が残した情報だけでは、異変の正体を特定するには足りなかった。

八九寺真宵への相談

暦は北白蛇神社を訪れ、神となった八九寺真宵にも相談した。

八九寺との会話では、謝罪する側の罪悪感と、謝罪される側の感情が必ずしも一致しないことが問題になった。

暦自身にも、過去の行動を振り返れば謝るべき相手がいた。しかし、相手がすでに受け入れている出来事を蒸し返して謝罪すれば、かえって相手を傷つける場合もあった。

暦は、謝罪が必要かどうかを謝罪する側だけで決めることの危うさを考えた。

その一方で、怪異によって人々が強制的に謝罪させられているなら、個々の謝罪を止めるだけでは解決にならなかった。根本にある命令そのものを断つ必要があった。

交際相手との対面

暦は命日子の交際相手と接触し、謝罪を繰り返す理由を確かめた。

男性は自分が命日子に重大な加害をしたと信じており、周囲へ謝罪することをやめようとしなかった。命日子が被害者だと思っていないことも、男性の罪悪感を消す理由にはならなかった。

暦は、謝罪を続けることが命日子の生活を傷つけていると説明した。男性の行動を止めるためには、本人の罪悪感だけでなく、その背後にある異常な働きかけを取り除かなければならなかった。

その後、命日子から男性が暦と同じ直江津高校の卒業生だったと聞かされ、暦は事件のつながりを考え直した。

直江津高校の共通点

暦は、異変に巻き込まれた人物たちと直江津高校との関係を調べた。

そこで、年末に曲直瀬大学で開催されたオープンキャンパスが重要な手がかりとなった。直江津高校の卒業生たちが、受験生の相談相手として参加していたのである。

暦は、大学という場所そのものではなく、その催しを通じて関係者が接触していた可能性を考えた。

日傘から得た情報をもとに、暦はオープンキャンパスで先輩たちと話した直江津高校の女子生徒、上洛落葉の存在に行き着いた。

上洛落葉の挫折

上洛落葉は、大学受験を控えた高校生だった。

彼女は志望校への進学を目指して努力していたが、思うように成績が伸びず、進路の変更を考えるほど追い詰められていた。

オープンキャンパスでは、先に大学へ進学した卒業生たちに悩みを打ち明けた。しかし、返ってきたのは諦めずに頑張れという励ましだった。

卒業生たちは善意から助言していたが、落葉にとっては自分の苦しみを理解してもらえない言葉だった。努力しても結果が出ない現実を前に、成功した先輩たちの励ましはかえって彼女を傷つけた。

落葉は、そんな先輩たちに謝罪を求める思いを抱くようになった。

謝罪を強いる妖魔令

落葉の抱いた思いは、妖魔令という怪異を通じて現実に作用していた。

妖魔令は、対象となった人間に過去の罪を意識させ、謝罪を強いるものだった。しかし、その働きは落葉が望んだような形にはならなかった。

落葉が謝ってほしいと思った相手は、落葉本人ではなく、自分がかつて傷つけた別の人物に謝罪し始めたのである。

そのため、ひたぎは暦への暴力を悔やみ、老倉も過去の出来事を蒸し返した。命日子の交際相手も、自分が罪を犯したと思い込んで謝罪を続けた。

落葉が求めた謝罪と、実際に生じた謝罪の相手や内容は一致していなかった。怪異による命令は、本人の意図から離れて暴走していたのである。

車内での上洛落葉

暦は落葉を見つけ、両親に頼まれて迎えに来たと偽って車に乗せた。

落葉は当初、不審そうにしながらも暦の言葉に従った。暦は車内で彼女と話し、大学受験に対する不安や、オープンキャンパスで感じた失望を聞いた。

落葉は、先輩たちの善意を理解していないわけではなかった。しかし、自分の苦しみを知らないまま努力を求められることに、強い反発を抱いていた。

彼女が求めたのは、成功者からの励ましではなく、苦しみを理解してもらうことだった。

暦は落葉を責めるだけでは、彼女の抱えた問題を解決できないと考えた。

届かなかった励まし

暦は落葉に、まだ志望校を諦める必要はないと語った。

自分も大学受験では苦労したが、最後まで努力して合格できたと説明し、必要なら勉強を教えることまで申し出た。

しかし、落葉はその言葉に失望した。暦の励ましは、オープンキャンパスでほかの卒業生たちが口にしたものと変わらなかったのである。

暦は、自分も受験生だった頃には苦しんでいたはずなのに、大学へ進学したことで、その切実さを忘れていたと悟った。

落葉にとって必要なのは、成功した人間から努力を求められることではなかった。暦は、善意で助けようとする自分の言葉が、落葉をさらに追い詰めていることを思い知らされた。

落葉の帰宅

暦は落葉の気持ちを変えられないまま、彼女を自宅へ送り届けることにした。

落葉は、自分の願いによって周囲に起きた異変を十分に制御できていなかった。謝罪を求める気持ちはあっても、怪異の作用は本人の望む結果には結びつかなかった。

暦もまた、落葉の悩みを簡単に解決することはできなかった。怪異の仕組みを理解することと、受験に苦しむ一人の少女を救うことは、別の問題だったのである。

暦は、落葉の挫折に対して都合のよい答えを与えられないまま、彼女との対話を終えた。

ひたぎとの関係修復

落葉との一件を経て、暦はひたぎとの関係にも向き合った。

ひたぎは、自分が過去に暦を傷つけたことを謝罪した一方で、現在の自分まで否定する必要はないと考えるようになっていた。

過去の自分を許せないからといって、現在の関係を壊すことが正しいわけではなかった。ひたぎは、謝罪することも、謝罪せずに生きることも、過去の自分を受け入れることと無関係ではないと語った。

そして、暦との別れ話を終わりにした。

ただし、暦が老倉の隣室へ引っ越した件については、別の問題として話を聞くつもりだった。暦は恋人との関係を修復できたものの、新たな説明を求められることになった。

忍野扇の新しい役割

翌朝、大学へ戻ろうとする暦の車に、忍野扇が現れた。

扇は落葉との一件について聞き、暦が彼女を完全に救えなかったことを踏まえて話した。

暦は、以前のように地元の高校生たちの問題へ関わり続けることが難しくなっていた。大学生となった暦には、すでに別の生活があった。

扇は、そんな暦に代わり、直江津高校の生徒たちの心の闇に寄り添うつもりだと語った。

暦が車を走らせて隣町へ入る頃、扇は忽然と姿を消した。暦は、扇が直江津高校にとどまり、これからも生徒たちと関わり続けるのかもしれないと考えた。

第七話 おうぎフライト

洗人迂路子の手がかり

千石撫子は、怪異の専門家としての修行を続けるなかで、洗人迂路子という存在に関わることになった。

洗人迂路子については、蛇遣いや五つの頭を持つ大蛇といった不確かな情報しかなかった。その正体はほとんど知られておらず、蛇の呪いとの関係も明らかになっていなかった。

臥煙伊豆湖は、蛇の呪いの出所を突き止めるため、撫子に過去の関係者と会うよう指示していた。

撫子はその一環として、かつて自分を呪った同級生たちを訪ねることになった。

遠吠哭奈の病室

撫子が最初に訪ねたのは、かつて同級生たちの中心にいた遠吠哭奈だった。

哭奈は長く入院していた。撫子の目には、彼女の全身が無数の穴に覆われているように見えた。

穴は二つ一組になっており、巨大な蛇の牙で繰り返し噛まれた痕跡を思わせた。しかし、哭奈自身には穴が見えておらず、身体の不調を感じて入院しているだけだと説明した。

かつて撫子を支配するように振る舞っていた哭奈は、以前ほどの勢いを失っていた。髪や服装にも気を配らなくなり、周囲の友人たちからも見放されていた。

撫子は、昔の哭奈を恐れていた自分と、目の前の衰弱した姿との違いに戸惑った。

失われた女王の立場

哭奈は、撫子が最初の見舞客だったことを明かした。

かつては多くの同級生に囲まれていたが、入院してからは誰も訪ねてこなかった。さらに、同級生たちが自分の悪口を交わしていることまで知っていた。

撫子は、哭奈を見て復讐を果たしたような満足感を覚えることはなかった。むしろ、かつての威厳を失った姿を見て、失望に近い感情を抱いた。

哭奈は、撫子が自分を恨んでいるのではないかと疑った。しかし、撫子は目の前の苦境を喜ぶ気にはなれなかった。

一方で、かつて自分を苦しめた相手を簡単に許せるわけでもなかった。

哭奈の許し

哭奈は、昔から撫子の卑屈な態度が気に入らなかったと語った。

撫子は強い者に従い、その庇護を受けることで学校生活をやり過ごそうとしていた。哭奈は、そんな撫子が自分を利用しながら内心では見下しているように感じ、腹を立てていたという。

しかし哭奈は、今ではそんな怒りもどうでもよくなったと告げた。

そして、自分が撫子を許してあげると口にした。

撫子はその言葉に強い反発を覚えた。自分を呪い、苦しめた相手が謝罪することもなく、逆に許す立場を取ったからである。

撫子は怒りを抑えながら、過去の関係をそのまま繰り返すことだけは避けようとした。

哭奈の肖像画

撫子は、哭奈をモデルに絵を描かせてほしいと頼んだ。

漫画家を目指していることを素直に話せず、法廷画家を志望していると説明したものの、哭奈は依頼を受け入れた。

撫子はスケッチブックに哭奈の姿を描いた。すると、撫子にだけ見えていた無数の穴が、哭奈の身体から消えていった。

撫子は、蛇の呪いの痕跡を絵の中に移したように感じた。

ただし、哭奈の病気が治ったかどうかまではわからなかった。本人にはもともと穴が見えておらず、入院生活が終わる保証もなかった。

それでも撫子は、呪いの一部を回収するという目的を果たした。

斧乃木余接への報告

病室を出た撫子は、階段の踊り場で待っていた斧乃木余接と合流した。

撫子は、謝らない相手を許すことが、想像以上に苦痛だったと打ち明けた。

余接は、無理に許す必要も、過去を乗り越える必要もないと告げた。相手を忘れてしまうことも、一つの方法だった。

撫子は哭奈との面会を後悔しているわけではなかったが、納得できない気持ちは残っていた。

余接は撫子のスケッチブックを確認し、哭奈を描いたページを切り取って回収した。臥煙の指示による呪いの調査は、こうして一つの成果を得た。

寸志との再会

撫子は、もう一人の呪いの関係者である寸志とも会っていた。

寸志は、かつて撫子に告白したものの、断られたことを恨んで蛇の呪いをかけた少年だった。

再会した寸志も、哭奈と同じように蛇の呪いの影響を受けていた。

寸志は過去の行動について謝罪したが、同時に撫子にも悪いところがあったと主張し、彼女にも謝罪を求めた。

撫子は、相手が謝ってくれたからといって、必ずしも気持ちが晴れるわけではないことを知った。哭奈は謝らず、寸志は謝ったものの、どちらとの面会にもわだかまりが残った。

二人に返った蛇の呪い

撫子は、哭奈と寸志の双方が蛇の呪いに苦しんでいたことを考えた。

かつて撫子は二人から別々に呪われていたが、忍野メメから渡されたお守りによって、一匹の蛇は浄化されていた。逃げた蛇は一匹だけだったはずである。

それにもかかわらず、二人とも大量の蛇の噛み痕を負っていた。

撫子は、二人が自分以外にも多くの人間を呪っていたのではないかと推測した。

当時、学校ではさまざまな願いをかなえるおまじないが流行しており、その中に本物の呪いが紛れ込んでいた。二人は撫子だけを特別に憎んでいたのではなく、ほかの同級生たちにも呪いを使っていた可能性があった。

撫子は、自分が二人にとって唯一の相手ではなかったことを理解した。

忍野扇との昔話

その後、撫子は忍野扇と会い、哭奈や寸志との再会について話した。

扇は、謝らない相手を許すことと、謝った相手を許すことのどちらにも難しさがあると指摘した。

反省しない相手を許せば、自分の怒りを無視することになりかねなかった。一方、相手が謝罪してしまうと、本当はまだ怒っていたいのに、許さなければならないような気持ちになることもあった。

撫子は、自分が哭奈と寸志のどちらにも納得できなかった理由を考えた。

また、扇は撫子が強い立場の人間に近づき、その庇護を求めてきたことにも触れた。撫子は、哭奈や月火のそばにいた頃の自分を振り返り、他人との関係を利用して安心しようとしていたことを認めた。

許すことと前へ進むこと

撫子は、過去に自分を傷つけた相手を許したからといって、その行動が正しかったことにはならないと考えた。

哭奈と寸志にされたことは消えず、再会によって完全に和解できたわけでもなかった。

それでも、いつまでも二人を恨み続けることが、自分の将来に役立つとも思えなかった。

撫子は漫画家になるための生活を始め、怪異の専門家としての修行にも取り組んでいた。過去の恨みに縛られ続けることは、再び自分を追い詰めることにもつながりかねなかった。

撫子は、許すことを相手のためだけでなく、自分が前へ進むための選択として考えるようになった。

実家からの忘れ物

扇は、撫子から預かっていた実家の合鍵を返した。

撫子は、実家に残してきた大量の絵や習作を回収するため、扇に協力を頼んでいた。自分で家へ戻れば両親と顔を合わせることになりかねず、それを避けたかったのである。

扇は鍵をなくしたようなことを言って撫子をからかったが、実際にはきちんと持っていた。

撫子は、過去に描いた絵を手元に取り戻した。かつての自分を思い出させる作品ばかりだったが、それらを捨てる気にはなれなかった。

過去の失敗も含めて、今の自分につながる大切なものだったからである。

千石撫子の帰宅

撫子は大きなスーツケースに絵を詰め、現在暮らしているアパートへ戻った。

実家を離れた撫子にとって、その荷物は過去の自分を持ち帰るようなものだった。かつての習作がなければ、漫画家を目指すことも、神となった自分から離れることもできなかったかもしれなかった。

撫子は過去をなかったことにせず、自分の歩んできた道の一部として持ち続けることを選んだ。

しかし、アパートの前には斧乃木余接だけでなく、思いがけない人物が待っていた。

貝木泥舟との再会

撫子の前に現れたのは、かつて彼女を騙した詐欺師、貝木泥舟だった。

撫子は突然の再会に驚いたが、余接はすでに貝木が来ることを知っていた。

貝木は、臥煙伊豆湖から新たな仕事を任されたと説明した。かつて撫子に関わった件で臥煙の一門から離れていたが、今回の任務に協力することで復帰する機会を与えられたという。

貝木は撫子の成長にも触れたが、その言葉は相変わらず皮肉や嘘を交えたものだった。

撫子は警戒しながらも、貝木が単なる使い走りではなく、これからの調査に深く関わる人物だと理解した。

蛇の呪いの出所

貝木は、かつて学校に広まった蛇の呪いについて説明した。

彼自身は呪いを最初から作り出したわけではなく、入手したものを加工し、安価な商品として大量に流通させていたという。

そのため、撫子を呪った哭奈や寸志だけでなく、多くの生徒が蛇の呪いを手に入れていた。

貝木は、呪いの流通経路をさらに遡れば、洗人迂路子という存在に行き着くと明かした。

臥煙が撫子に過去の同級生たちと会わせ、蛇の呪いを回収させたのは、その出所を突き止めるためだったのである。

新たな調査チーム

貝木は、洗人迂路子を追うための調査を指揮することになったと告げた。

その任務には、撫子と斧乃木余接も参加することになっていた。

かつて撫子を騙した詐欺師、怪異を封じる力を持つ人形、そして漫画家を目指しながら専門家として修行する撫子という、奇妙な組み合わせだった。

撫子は、自分が回収した呪いの痕跡が、さらに大きな事件につながっていることを知った。

過去の同級生との再会は、単なる和解や謝罪のためではなかった。蛇の呪いを広めた根源へ迫るための準備だったのである。

洗人迂路子への追跡

撫子は、臥煙が自分を怪異の専門家として育てながら、同時に蛇の呪いを追跡していたことを理解した。

哭奈や寸志との再会によって、撫子は過去の人間関係と向き合い、呪いの痕跡を回収した。その経験は、これから洗人迂路子を探すための手がかりにもなった。

しかし、洗人迂路子の正体や居場所は、依然として不明だった。

撫子は、余接と貝木という頼もしくも厄介な同行者とともに、蛇の呪いの根源を追う新たな任務へ踏み出すことになった。

27.余物語
まとめ
29.死物語 上

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