物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジー/素材採取+冒険物語である。主人公タケルが素材を探しつつ異世界を旅し、種族や文化と触れ合いながら成長していく物語である。
内容紹介:
エルフの郷を覆う濃厚な「魔素(まそ)」を除去すべく、タケルは自作の巨大魔石を用いて浄化を試みる。浄化が奏功し女王との謁見に成功する一方、エルフ種族が存続の危機に瀕している事実を知る。タケルたちは秘境を巡りつつレア素材を調達し、その過程で郷を救う手がかりを探る冒険へと踏み出す。秘境ならではの危険と素材探査の緊張感が、本巻の軸である。
主要キャラクター
- 神城 タケル:元サラリーマン出身の素材採取家。持ち前の探査能力(サーチ)や料理技術、柔軟な判断力を武器に、種族の危機にも臆せず関わっていく主人公である。
物語の特徴
本巻の見どころは、「素材採取」要素と「種族救済」という緊張あるテーマの融合にある。秘境探索のスリルと、純粋な素材収集という“ほのぼの”の間に、民族的危機や文化的対立が挟まれる構成が、単なるスローライフ系とは一線を画す。また、タケルの手作り魔石という発明要素や、女王との謁見といった王族との交流が、世界観の幅を拡げている点も魅力である。新たな秘境や未知種の素材というワクワク感もあり、読者を飽きさせない展開が持ち味である。
書籍情報
素材採取家の異世界旅行記8
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本 氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
発売日:2020年2月29日
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あらすじ・内容
大ヒット! シリーズ累計33万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第8弾! 王都のトラブルを解決し、ようやくトルミ村の拠点に戻れることになったタケルたち。久しぶりにのんびりしていたところ、懇意にしているギルド職員のスッスが失踪したという、穏やかならぬ知らせが舞い込む。すぐさま彼らがスッスの音信が途絶えた地に向かうと、そこは豪雪に沈む静寂の銀世界と化していた。降りやまない雪を止めるべく、タケルたちはその元凶である暴走神に挑む!
感想
今作は、王都での騒動を終えたタケルたちが、ようやくトルミ村へ帰還するところから始まる。しかし、束の間の休息もつかの間、懇意にしているギルド職員スッスが失踪したという知らせが舞い込む。穏やかではない事態に、タケルたちはスッスの故郷へと向かうことになる。
物語の舞台は、豪雪に閉ざされたオゼリフ。降り止まない雪の原因は、魔素によって暴走した古代神だった。タケルたちは、その暴走を止めるべく、神に挑むことになる。
今回、特に印象に残ったのは、古代狼が浄化され、可愛らしいモフモフの小狼になった場面だ。その愛くるしさは異常で、ぜひとも今後の物語にも登場してほしいと願ってしまう。しかし、安心したのも束の間、物語は不穏な終わり方をする。まさかのクリフハンガーに、続きが非常に気になるところだ。
戦闘シーンも、今作の見どころの一つだ。自我を失った古代神との戦いは、手に汗握る展開だった。しかし、戦いが終わったのもつかの間、最後にタケルが何者かに倒されてしまうという衝撃的な展開には、思わず息を呑んだ。
全体を通して、今作も非常に楽しめた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
展開まとめ
冒険生活の回顧
タケルは異世界マデウスに転生してからもうすぐ一年が経つと述懐していた。彼は素材採取家として冒険者の活動を続け、日々を元気に過ごしていた。東の大陸グラン・リオ北端の辺境トルミ村に降り立った日が、つい昨日のことのように感じていたのである。
仲間との絆
タケルには信頼できる仲間や友人ができていた。背中を預けられる存在がいることは命の危険が常に伴うマデウスにおいてかけがえのないものであり、くだらないことで笑い合える時間が恵みであると強く感じていた。
料理人扱いの苦悩
しかし仲間との関係が深まるにつれ、遠慮のない要求も増えていった。彼らはタケルを料理人としか見なさず、モンスターに遭遇すれば食材になるかをまず問うた。食べられると分かれば味付けや焼き加減まで戦闘中に注文をつけ、早く作れと催促する有様だった。タケルはそれを許している自分が愚かだと理解しつつも受け入れていた。
異世界への適応
タケルはそんな日々を送れること自体が幸せであると実感していた。自分が不思議な世界マデウスに次第に馴染み、染まりつつあるのだと感じるようになっていた。
1 凍雲、白く大地染め
冬の到来と季節の感覚
異世界マデウスにも四季があり、人々は花や作物、落ち葉や雪といった自然の移ろいから季節を感じ取っていた。暦が定められているのは王都エクサルなど大都市に限られ、小さな村では風や木々の変化を指標としていた。
黄金竜の称号と影響
タケルたち「蒼黒の団」は国王レットンヴァイアーの命を救い、王国に潜む悪を討った功績により、国内最高峰の称号である黄金竜を授与された。冒険者チームに与えられるのは史上初であった。名誉ある一方で、素材採取などの依頼を受けにくくなり、代わりに夜会や晩餐会への招待が押し寄せることになったため、一同は雪が降る前に拠点のトルミ村へ帰ることを決めた。
ベルカイムでの騒動
帰還途中、ベルカイムに立ち寄ったタケルたちは、称号の噂を聞きつけた警備隊や市民から称賛を浴びた。ギルド「エウロパ」も群衆で溢れ返り、受付主任の狐獣人グリッドがこっそり迎えに現れた。称号授与の情報は王都ギルドから伝達され、事務員の不注意により広まってしまったことが原因であった。
ギルド内の謝罪と応対
ギルドマスターの巨人族ロドルは謝罪の代わりに笑い飛ばし、グリッドが代わりに深く頭を下げた。クレイは悪意のない失態だと受け流し、荷物として王都土産を渡した。冬はトルミ村で越すつもりだと伝えると、グリッドは残念そうに了承した。
魔道具の授与
会話の最後に、ロドルは懐から取り出した魔力を帯びた丸い石をタケルに託した。それは魔道具であり、タケルは説明を黙って聞き入れていた。
2 雪原の、真白の世界に咲く泡と
冬のルセウヴァッハと防寒整備
ルセウヴァッハ領に冬が訪れ、トルミ村は粉雪に覆われていた。タケルは屋内作業が中心になる村の冬に合わせ、全戸の隙間風を封じ、暖炉に長時間燃焼する甲羅を配し、加熱魔石と結界効果で室内を暖かく保つ仕組みを整えた。加熱魔石を巾着に収めた携帯懐炉は評判となり、エリザらの協力で量産が進んでいた。
屋敷の憩いと魔石製作
蒼黒の団の屋敷一階は住民に開放され、囲炉裏と加熱装置で汗ばむほどの暖かさが保たれていた。タケルは三百個超の加熱魔石を作り続け、ブロライトやプニさん、ビー、村人たちに見守られながら作業を進めていた。子供たちは完成した深紅の魔石を巾着に入れる役を争い、賑わいが続いていた。
子供たちとシャボン玉
疲れたタケルは一息入れるため、砂糖水と石鹸で石鹸水を作り、フキの茎を使ってシャボン玉遊びを始めさせた。子供たちとブロライトも夢中になり、屋内は笑い声で満ちた。外は深い雪で遊び場が限られていたが、屋敷は村の公民館のような憩いの場となっていた。
通信石とスッス不在の相談
雑貨屋のジェロムが、ギルド「エウロパ」から預かった通信石の点滅を知らせた。タケルが応答すると、受付主任グリッドは小人族のスッスが帰郷先のオゼリフ半島から戻らず、ダヌシェのギルドにも所在登録がないと報告した。温暖な地域のため積雪遅延とは考えにくく、調査を依頼したいという話であった。
捜索受諾と出発準備
ブロライトは同行を即答し、タケルもスッスへの恩と小人族の郷への興味から引き受けた。報酬は蜂蜜紅茶や燻製肉でよいと軽く応じ、村人たちは備蓄の食料や防寒具を惜しみなく提供した。プニさんも上機嫌で準備に加わり、ビーも意気込んでいた。
転移門不調と陸路選択
屋敷地下の転移門はヴィリオ・ラ・イへは通じたが、ダヌシェ行きだけが反応しなかった。原因不明のため、馬車で陸路を選択した。猛吹雪の中でも、タケルは加熱結界で雪を瞬時に溶かす馬車を用意し、プニさんの牽引で街道を進んだ。
ダヌシェ到着と転移門の調整
半日でダヌシェ港に到着すると、そこは真冬でも温暖で賑わいがあった。タケルは港のあばら家にある転移門の魔素不安定を確認し、ミスリル魔鉱砂を散布して起動点の魔素取り込みを補助する改良を施した。プニさんは多帆の大型帆船に強い関心を示し、いつか西方大陸行きの船に乗る夢を語った。
オゼリフ行きの障害と異常天候
港の職員によれば、オゼリフ半島は異常な雪雲に覆われ、海が凍り、陸路も豪雪で閉ざされ、二月近く貨物便が届いていなかった。少数民族の飢餓が懸念され、これがスッス帰還遅延の要因と推測された。タケルは一刻を争うと判断し、海路と陸路の代替策を検討した。
方針の固めと船選び
タケルは夜間走行を含む強行案も視野に入れつつ、物資搬入と捜索を両立させる航路確保を考えた。プニさんは赤い帆船への乗船を強く望み、タケルは状況に応じて最適な手段でオゼリフへ向かう決意を固めていた。
3 烈風、垣根に虎落笛
物資調達と冬装備の拡充
タケルはエぺぺ穀を捨て値で買い占め、干物や野菜、調味料、小麦粉などを大量に確保していた。併せてクレイには動きやすい冬装備、ブロライトとプニさんにはフード付きの防寒着、ビーにはレインボーシープの着ぐるみを用意した。エリザ製の冬用靴下も加え、極寒域での行動準備を整えていた。
船手配とギルド経由の正式依頼化
オゼリフ向けの輸送を港の職員に依頼した当初は警戒されたが、黄金竜授与とギルド所属を示すことで、ギルド経由の正式依頼として受理された。ダヌシェのギルドに所在登録を済ませ、オゼリフ行き貨物の一括輸送と届け先確認を取り決め、三万レイブの報酬で請け負うことになっていた。
小型帆船での出航と操船体制
一本マストの小型船に荷を積むと船は傾いたため、タケルは一部を鞄へ収納して軽量化した。操船はクレイが担い、ビーとブロライトが風精霊に働きかけてバランスを補助した。プニさんは乗船を満喫し、船は沿岸を見ながらオゼリフ半島方面へ進んでいた。
急変する海況と氷海化への対処
穏やかだった海は急速に荒れ、気温が急降下して氷片が船尾に当たり始めた。タケルは船体を結界で覆い、船底に加熱を付与して進行方向の氷を溶解する処置を実施した。結果として船周囲は蒸気に包まれ視界が悪化したが、船体損傷と座礁リスクは回避されていた。
異常降雪と極寒の体感
接近するほど気温は下がり、呼吸すら辛い寒さとなった。空からはサッカーボール大の雪塊が大量に降り、甲板は瞬く間に積雪で覆われた。タケルたちは携帯懐炉で体温を保ちつつ、短時間ながら雪だるまを作る余裕も見せたが、視界と航行条件は著しく悪化していた。
原因推測と神格の名
クレイはこれほどの雪を見たことがないと述べ、タケルは魔素の異常を疑った。プニさんは豊穣の神としての立場から、この降雪は自らの所業ではないとし、冬の神オーゼリフの名を挙げた。オゼリフ半島一帯を覆う異常寒波と魔素乱れは、領域そのものが侵入を拒むような様相であり、神格の関与が示唆されていた。
4 手足荒る、氷壁つつく緋鳥鴨
氷海での騒動と応急処置
結界と加熱で氷海を進む最中、ビーが転落し、救助に飛び込んだブロライトと雪像に突っ込んだプニさん、甲板に穴を開けたクレイという連鎖的失態が発生した。タケルは縄梯子と加熱で救助と保温を行い、甲板の穴も修復したうえで航行を継続した。
白熊獣人の港と接岸
半日の航行後、オゼリフ半島の港に到着した。桟橋は雪氷で埋没していたが、船体の加熱で雪氷を溶かし原形を露出させた。出迎えたのは白熊獣人のフエゴ一家で、長期の飢えと物資欠乏に疲弊していた。
炊き出しと急場の支援
タケルは小屋の台所を借り、じゃがバタ醤油、揚げたてコロッケ、肉すいとん、キノコ入りミルクスープ、照り焼き肉、魚卵炊き込みご飯、菜葉と山菜、ネコミミシメジの油炒めなどを次々と供した。白飯と白湯も添え、熊獣人一家は感謝の祈りとともに飽食した。薪不足にはカニ甲羅燃料と凍結防止の加熱結界を提案し、当面の生活維持の目処をつけた。
地理と歴史、そして「王様」
フエゴの説明により、オゼリフはアルツェリオ王国の実効統治外で、険山と深森が行路を阻むこと、在地のオグル族が外来を拒むことが共有された。奥地の「王様の森」には古来の守護神「王様」が棲むとされ、プニさんが挙げた冬の神オーゼリフと符合する可能性が示唆された。
素材情報:ヤルヴモーフ(王様の眉)
素材採取家の間で狙われる薬草ヤルヴモーフは「王様の樹」に生え、すり潰して塗布すると強力な虫除けとなるという。形状が「眉」に似ることが通称の由来であり、タケルは採取対象として強い関心を示した。
進路障害:氷の壁と峠道
港から崖上のリズモス峠を経てパニム新道で「王様の森」へ至るのが定路であったが、外界は立山黒部の雪壁さながらの「白い壁」に塞がれていた。雪・氷の物理障害は加熱結界で克服可能と見積もりつつも、根因たる異常寒波の持続が課題として残った。
原因仮説と方針
クレイは未見の降雪規模を認め、タケルは魔素撹乱を主因と推測。プニさんは自らの関与を否定し、冬の神オーゼリフの機嫌または覚醒異常の線を指摘した。タケルは「遮断の解除(道の確保)」「生活線の安定(燃料・食料の恒常供給)」「原因源(王様の森)への接触」の三段で対処する方針を固め、まず港周縁の恒常加熱と物資投下を進めつつ、峠への突破準備に入る構えであった。
5 寒雷、参宿目指す樹氷道
白熊一家の証言と依頼の申し出
夜通しの凍結と豪雪の中でも、白熊獣人フエゴは小人族の助けで希望を保っていたと語る。小人族救援の対価として銀貨三枚を差し出すが、タケルは受領を辞退し、ヤルヴモーフ情報を対価とする形で善意の支援を続行する。
港の恒常化対策と出立
タケルは小屋周囲と桟橋に加熱・結界の魔石を設置し、定期便が接岸可能な環境を整備。翌朝、子供たちに土産を渡して見送られつつ、氷壁をユグドラシルの加熱で穿ち、馬車隊は内陸へ進む。
氷原の異常と進軍
道なき樹氷帯は太腿までの積雪と視界不良。タケルは加熱で道を確保しながら、ブロライトとクレイは周囲警戒。雪自体に微量の魔素が含まれること、素早い亜種「エタニ・フォレストラクーン」など生態系の変調を確認するも、食資源としては不適と判明。
神域の気配と警戒態勢
探査に「人でも獣でもない」薄い反応。プニさんは他神の領域であることを示唆しつつ不在の主に不満を漏らす。吹雪が強まる中、タケルは結界を再展開して待機。
接触:「二つ、だが一つ」
ビーが「二つだが一つ」と感知した対象が接近。結界を叩いたのはドルドベアの毛むくじゃらの手。しかし敵対気配は薄く、内部から聞こえたのはスッスの故郷特有の「後輩喋り」。クレイは即座に殺気を解き、タケルは結界を外側へ広げて受け入れ準備に入る。
6 風冴ゆる 鋭き角と広き背
小人族の特性と社会的役割
小人族は人間の八歳児ほどの背丈で、素早く動き、真面目で器用な性質が評価され、王都の貴族屋敷ではメイドとして重用されていた。隠密技能を備える者も多く、優秀な冒険者として各地で活動していた。言語上はカルフェ語を用いたが、古代カルフェ語では小柄族と呼ばれていた。
タケル一行とタッタ、ググの邂逅
結界の範囲を広げたタケルは、小人族の青年タッタとオグル族の大男ググに遭遇した。タッタは饒舌に近況を語り、ググは警戒を解かずにタッタを庇い続けていた。タケルは自らと仲間のクレイ、ブロライト、プニ、ビーを紹介し、ギルドの依頼でスッスを捜しに来た経緯を示した。
オグル語とタケルの言語能力
ググはカルフェ語と自族語を交えて話し、真剣な表情と軽妙な語感の落差が周囲を戸惑わせた。タケルは世界言語の技能によりオグル語を理解・発話でき、相互の意思疎通を実現した。これにより、ググの警戒は段階的に和らいだ。
王様の森と合同村の由来
オゼリフ半島中央の樹海は古代狼の聖域で、私闘や伐採が禁じられていた。戦乱を避けた小人族が森の周縁に居住し、先住のオグル族は外来者を拒みつつも共存へと傾いた。厳冬で獲物が消えたことにより、狩猟主体のオグル族は農耕に長けた小人族へ食を頼るようになり、両族の協力関係が強まった。
ロウシャルマジスゲエ村への道行
タッタの案内で一行は森の入口近くの合同村へ向かった。村は王様の樹の根元に居を構え、小人族とオグル族それぞれの出入口を備えていた。道中、タケルは馬車の結界と加熱で吹雪を防ぎ、ググはなお警戒を続けながら歩を進めた。
スッスの再会と受け入れ要請
村に着くとスッスが現れ、エルギンと呼ばれる屈強なオグル族とともに一行を出迎えた。スッスは一行を信頼できる冒険者として紹介し、村の掟に配慮しつつ受け入れを願い出た。タケルはオグル語で事情を説明し、エルギンとの対話が進展した。
雪解けと宴の開始
タケルがユグドラシルの枝で加熱を展開し、村一帯の雪と氷を溶かした。小人族とオグル族は久方ぶりに地面を見て歓喜し、歓迎の宴が始まった。オグル族は肉料理に加えてフライドポテトを好み、小人族は酒を水のように飲み、飢えの反動を示した。
村長と総長の感謝、食の事情
小人族の村長とオグル族の総長が現れ、寒さに耐える中での支援に深い感謝を述べた。里芋に似た王様のイモを蒸して飢えを凌いでいたが、調理の工夫は乏しく、ベルカイムの味を知るスッスは物足りなさを吐露していた。
厳冬の犠牲とタケルの自戒
宴の最中、タケルは高齢者の数が少ないことに気づき、スッスから体力のない年寄りが先に亡くなっていった事実を聞いた。タケルは過去にプニから指摘された全救済の傲慢さを思い出し、助けられる時に全力を尽くすという姿勢を新たにした。
通信障害と不穏の予兆
タケルはスッスにギルドの通信石で連絡を取らせようとしたが応答はなく、ビーは魔素が出ていかないと示した。プニが言及した魔素の濁りが示唆される中、森の奥から低く哀切な遠吠えが響き、スッスは自我を失った王様の苦悶と認識した。状況は新たな局面へ移行しつつあった。
7 王の憂いと、うなじの悪寒
早朝の合同村と台所の火
合同村は夜明け前から活動を始め、サッサが火打石を使ってかまどに火を入れ、朝食の支度を進めた。タケルはダウラギリクラブの甲羅を燃料として各家に配布すると述べ、サッサはその燃焼性に驚喜した。蒼黒の団の噂は子ども達に広まり、旅の逸話が士気を支えていた。
結界下の訓練と異常な寒波への所感
結界に守られた広場ではクレイがオグル族の若者に槍術を指導した。タケルは古代狼の異常が寒波の元凶と見做し、神格存在の無自覚な影響力に苦言を呈した。プニの帰還はないままで、ビーは意識共有の感覚から無事を示唆した。
王様(古代狼)異変の来歴
スッスは供物の季節に突如の大雪が始まった経緯を説明した。オグル族は「王様が眠り、冬の管理を失った」と捉え、小人族の長は「王様が狂った」と判断した。いずれにせよ自我を失った王様という認識が村に定着していた。
非常警報と避難手順
森の奥からの接近を感知すると、小人族は警鐘で子どもを退避させ、オグル族は家屋の外から補強に回った。タケルはスッスを屋内へ誘導し、クレイは太陽の槍を展開、ブロライトは双剣を構え、エルギンは巨大包丁で応戦準備を整えた。
うなじの悪寒と敵情把握
タケルは強烈な殺気を悪寒として感知し、探査で「巨大個体+随伴八体前後」の接近を把握した。結界外の積雪を照光で融かし視界を確保すると、巨狼を中心に変異モンスターの隊列が姿を現した。
変異群の解析と脅威評価
調査により、サーペントウルフ亜種(B)、ドルドベア亜種(A)、グロートサーベル亜種(A++)などが古代狼由来の特殊魔素で変異し理性を喪失していると判明した。高ランクであるほど厄介性が増し、退却や抑止が効きにくい群れであった。
巨大個体=王様の可能性
最大個体は通常の鑑定が弾かれ、タケルはプニを調べた際と同様の「解析不能」反応から古代神クラスと推定した。クレイは外見の禍々しさから否定的であったが、タケルは異能の制限により神格存在の鑑定が不能である点を根拠に王様の暴走を示唆した。
結界への圧壊と戦場選定の課題
変異群は結界に執拗な体当たりを続け、巨狼の一撃で結界に亀裂が入った。村内は狭隘であり、クレイの大槍や広域火力が活きにくい環境であった。エルギンは鍛錬場という広場の存在を示したが距離があり、即時の誘導は困難であった。
戦闘直前の布陣と方針
タケルは照光で視界を昼間並みに確保し、ビーには延焼防止の射角制限を命じ、ブロライトには後衛遮断を指示した。村被害の最小化と広い場所への誘導を念頭に、タケルは自らを囮とする可能性を視野に入れつつ、迫り来る初撃への迎撃態勢を整えた。
8 疾走、王様とわたし
王様の咆哮と結界の危機
王様の咆哮により吹雪が止み、結界に大きな亀裂が走った。オグル族は戦意を失いかけたが、クレイとブロライトが奮起し、士気を取り戻した。タケルは村を戦場にしないため、自らが囮となり王様を鍛錬場へ誘導する作戦を示した。
おとり作戦の開始
タケルは仲間に防御と強化の魔法を施し、ビーに首輪型シールドを装着させた。結界が砕けた瞬間、灼熱炎で王様を挑発し、魔素水を掲げて疾走した。クヤラの案内で進み、王様は溶解光線を放ちながら執拗に追跡した。前方からはロックファルコンが襲来したが、タケルは回避を優先し広場を目指した。
鍛錬場での戦場構築
広大な盆地に到達したタケルは、極限魔法「地獄の灼熱台風」で雪を一掃し、転移門を開いた。クレイは魔王形態で出陣し、ブロライトやオグル族も合流した。クレイは太陽の槍で亜種モンスターを次々と撃破し、王様の溶解光線は脅威ながらも連射不可と判明した。
衛生兵の参入
スッスと小人族の仲間は衛生兵として参戦を志願し、タケルから特製回復薬を託された。隠密技能を活かし負傷者へ迅速に投与し、戦力の維持に貢献した。回復したオグル族は戦線へ復帰し、戦いは激しさを増した。
戦況の劣勢と契約の呼び声
モンスターは王様の悪しき魔素に惹かれて湧き続け、消耗は加速した。タケルは打開のため、オリハルコン魔鉱石に魔力を込め、星を呼ぶ歌で願った。赤い光が広がり、かつて契約を交わした存在が「遅い」と応じて姿を現した。
9 頼もしき友、集いし戦場
機械人形の再生と「契約」
タケルは地下墳墓の騒動後、機械人形に体内魔石(小型魔素発生装置)と結界を実装し、外装も修復して戦闘力を高めていた。この恩義に報いる形で、墓守リピルガンデ・ララ(リピ)が「困った時は力になる」という取引=「契約」を交わしていた。
援軍の到着
タケルの招集に応じ、リピが転移門から現れ、続いてリンデルートヴァウム(リンデ)とレザルリア・ドゥランテ(レザル)が出陣した。二体の機械人形は竜牙刀・大斧を携え、戦場の空気を一変させた。リンデはサーペントウルフ亜種を尻尾で即殺し、レザルは豪腕で群れを薙いだ。クレイはこの援軍と呼応して王様(古代狼)を受け持ち、ブロライトは支援に回った。
「殺さず止める」方針と制御解放
タケルの依頼を受け、リピは「あの巨大個体(王様)は殺すな」と明言したうえで、リンデとレザルに「制御レベル三まで」の解放を許可した。両名はモンスターのみを徹底排除する方針で暴威を振るい、オグル族と小人族の消耗を大きく軽減した。
士気と連帯の高揚
レザルが雷雲を呼び大斧で稲妻を拡散、群れを一挙殲滅したことでオグル族は歓喜し、小人族は回収班として肉を確保した。スッスやクヤラはリンデたちを「光の神」と誤認しかけたが、リピは「盟友」と訂正。さらにリピはオグル族の始祖フォルフェヴァンとリンデの縁を語り、クヤラの誇りを奮い立たせた。
王様宥和の糸口
リピは王様の魔素の底に「優しさ」を感知し、禍々しさは闇に抗うものであると見立てた。戦況が整う一方で、タケルは乱流の魔素に紛れる「白銀の微かな瞬き」をリピの助言で感知。その源へ向かうべく、リピは契約召喚で大蛇コンクァを呼び、タケルとスッスを乗せて「卵の山の麓」にある祭壇へ急行する手はずを整えた。ブロライトの無線確認により、戦線はクレイ・リンデ中心で維持可能と判断され、ビーも合流準備を完了した。
10 聖なる卵、荒らされた祭壇
大蛇で王様の卵へ向かった移動
タケル、スッス、リピ、ビーは大蛇に乗って移動し、岩山の麓にあるという王様の祭壇を目指した。大蛇は雪深い道を難なく進み、ビーは上空から先導した。道中、スッスは揺れに耐えつつ、目的地は小人族がオグル族の信仰に基づいて築いた祭壇であると説明した。
王様の卵と転生の示唆
一行は巨大な単一岩「王様の卵」に到着した。タケルが犬の姿の白オーゼリフの正体に疑義を示すと、プニが古き身体を捨て新たな器に宿ったのだと述べ、転生を示唆した。タケルは全面的な信用を保留しつつも、幼生の白オーゼリフが可愛らしく有能であると認めた。
山菜と食材の採取
雪解け後の森は山菜で満ち、タケルはゼンマイ状の山菜や香り高い巨大キノコ、眉毛ワサビ、薬効のありそうな薬草や毒キノコを採取した。白オーゼリフは無言で先導し、目的の素材探しに寄与した。
通信石での報告と叱責
スッスは通信石でエウロパのグリッドに連絡し、無事を伝えた。しかし到着時の未報告を咎められ、正座で謝罪した。職員たちからは安堵と激励の声が寄せられ、スッスは解雇の不安から解放されて眠り込んだ。
合同村での大規模な昼食準備
タケルは合同村に鍋を集めて米を炊き、照り焼き肉丼、香草焼き肉、山菜の和え物、オニオンスープを用意した。小人族の協力で食事は迅速に完成し、皆が空腹を満たした。調味料は底を突き、特に醤油の欠乏が今後の課題となった。
プニの説明:祭壇の淀みと転生の経緯
プニは、神は悠久の時を生き、弱った神はただ耐えるしかないと語った。卵型の巨大祭壇は力を蓄える装置であったが、小人族が内部を掘ったことで淀んだ魔素が滞留し、オーゼリフの暴走に繋がったという。プニが浄化した結果、オーゼリフは新たな血肉へ魂を移すことに成功したと説明した。
受容の言葉と今後の計画
オグル族のググは今回の危機を糧と捉え、小人族を責めずに出会いの幸福を強調した。小人族も過酷体験を前向きに受け止め、反省しつつ合同村の拡充を望んだ。オグル族は今後も護衛役を続ける方針を示し、タケルはトルミ村との転移門接続や相互交流、留学、警備参加、家畜繁殖の伝授などの計画を思案した。
地下墳墓の仲間の送還
タケルは転移門を開き、リピ、リンデ、レザルを帰還させ、魔素水の樽を託した。ブロライトとクレイも別れの握手を交わし、転移門は無事閉じられた。
迫る気配と不意の失神
転移門が閉じた直後、白オーゼリフが異変を察して吠え、眠っていたビーも目を覚ました。平穏に気を緩めていたタケルはローブを脱いだままで警戒が遅れ、右目の闇に言及する詠唱が響く中、混沌の大地に眠りを与えるという術により意識を失った。
11 輝く光、安寧の時
全力浄化への準備と役割分担
タケルはオーゼリフ救済のため全力魔法を行使する旨を告げ、魔力枯渇後に眠る可能性をリピとスッスへ伝達した。リピは事情を把握して了承し、スッスは動揺しつつも同行を続けた。ビーも同意の鳴き声を上げ、支援体制が整ったのである。
魔素水の摂取と「完全浄化」の展開
タケルは魔素水を一気に飲み、ユグドラシルの杖から「完全浄化」を発動した。眩い光球がオーゼリフを包み、周囲の結界が解けて一帯は光のみの世界となった。魔力が急速に吸い上げられる中、タケルは悪性の淀みを払い、王の帰還と平穏を願って浄化を貫徹した。
倒れ伏すタケルと周囲の反応
術後、タケルは全身の筋肉痛と極度の疲労で昏睡に陥った。ビーは側で介抱し、クレイは脈を確かめて静養を指示した。スッスは涙ながらに看病を申し出、クヤラやググらオグル族、小人族の面々も見舞いに訪れ、恩人の回復を祈った。ブロライトは空腹を訴えつつも経過を見守り、場は安堵と不安が交錯した。
三日の眠りと騒然たる目覚め
タケルの眠りは想定を超えて三日に及んだ。目覚めの直前、ビーが大音声で鳴いて揺り起こし、タケルは鳩尾への打撃に呻きつつ覚醒した。長期の不在を案じていたスッスは泣きながら抱きつき、集まっていた小人族とオグル族は一斉に歓喜と涙で出迎えた。
再会の挨拶と食事の再開宣言
クレイ、ブロライト、プニは無事を喜び、空腹を理由に早期の炊事再開を求めた。タケルも空腹を覚え、まず米を炊き、肉を醤油・生姜・ニンニクで漬けた料理を振る舞う意志を示した。場は日常の温度を取り戻しつつあった。
留守居への懸念と仲間への感謝
リピ、リンデ、レザルはカリディアで留守番するヘスタスの動向を懸念し、タケルは気遣いに礼を述べるとともに状況確認の必要を自覚した。タケルは長い不在で心配をかけたことを詫び、支えてくれた皆への感謝を言葉にし、体調の回復とともに日常と安寧を取り戻す決意を固めた。
12 山笑う、白き毛玉に映える碧 へき
春の到来と森の回復
三日間の昏睡から目覚めた後、タケルはスッスやリピの報告で森の変化を把握した。浄化の光は巨大な卵石へ吸い込まれ、卵石は亀裂ののち割れたという。空は澄み、雪は解け、禍々しい魔物は消え、動物たちが戻るなど、王様の森は健全さを取り戻したのである。
「王様の眉毛」採取と素材の正体
小人族とオグル族の案内でタケルは森の奥へ入り、通称「王様の眉毛」=ヤルヴモーフ(ランクB++)を丁寧に採取した。苔に見えるそれは朝露を帯びると七色に光り、すり潰せば虫よけや消炎薬になり、食用も可能と判明した。タケルは香りと辛味からそれが実質的にワサビであると確信した。
刺身×ワサビの衝撃と大宴会
タケルは巨大魚を三枚おろしにし、醤油に溶いたヤルヴモーフを添えて振る舞った。プニが即座に「もっとよこしなさい」と反応し、小人族・オグル族も辛味と旨味に歓喜して宴へ雪崩れ込んだ。タケルは終夜おさんどんに追われ、調味料在庫と米の追加手配の必要性を再確認した。
早朝の騒動と白い毛玉
明け方、ビーと何者かがタケルの顔を奪い合うように舐め、眠気の極致で起こされたタケルは、膝上に真っ白でふさふさの仔犬を見出した。人懐っこく意思疎通も通じる様子で、タケルは由来を探った。広場は宴の名残で屍累々であったが、子どもや酒に強い面々は起き出していた。
正体の提示:幼生のオーゼリフ
ブロライトは白い仔犬を「幼生」と断じ、タケルが精霊と誤解すると即座に否定し、「そやつはオーゼリフじゃ」と明言した。これにより、浄化後に姿を変えた守護神がタケルたちの眼前に在る可能性が示され、森の回復と連動する形で新たな段階へと物語が進む兆しが示されたのである。
13 大団円、そして
神の性質と幼生の出現
マデウスにおける神は魔素を糧として永く存在し、土地と生命に影響を及ぼす実体であると再確認された。古代狼オーゼリフは、浄化後に幼生の白い仔犬として姿を現し、タケルらの前で人語は話せないが意思疎通は可能であると示された。
祭壇の割裂と転生の解釈
卵形の祭壇は中央から割れ、そこへ現れた仔犬がオーゼリフ本人であるとブロライトが説明し、プニは「穢れた古き身体を捨て、新たな器に魂を移した」と解した。タケルは全面的な信頼を留保しつつも、現実として森が健全化した事実を受け止めた。
森の再生と資源採取
雪解けとともに森は動物が戻り、山菜・薬草・希少キノコが豊富に再生した。タケルはオーゼリフ(幼生)の先導で安全に採取を進め、食材および薬材の確保に成功した。
エウロパへの報告とスッスの叱責
通信石が回復したため、スッスはギルド受付主任グリッドへ無事を報告した。到着時未報告を叱責されるも、周囲からは安堵と激励の声が寄せられ、スッスは解雇不安から解放されて泣き笑いした。
合同村の大昼食と物資状況
タケルは米を大量に炊き、香草焼き肉、照り焼き丼、とろろ添え、山菜の和え物、オニオンスープを整え、合同村の面々と腹を満たした。調味料はほぼ枯渇し、特に醤油の欠乏が喫緊の課題であると整理された。
プニの所見:淀みの浄化と魂の移し
プニは、長い時を生きる神が弱体化すれば耐える他なく、卵形祭壇が力を蓄える場であったと述べた。小人族が内部を掘ったことにより魔素の淀みが生じたが、浄化によりオーゼリフは新たな血肉へ魂を移行できたと結論づけた。
受容と前進:オグル族と小人族
ググは飢餓と危機を「出会いと成長の契機」と捉え、小人族を責めず感謝を表明した。小人族も過酷体験を学びとして受け止め、反省と共に前向きな姿勢を示した。オグル族は今後も護衛を続け、合同村の拡張を計画した。
交流設計と送別
タケルは転移門でリピ、リンデ、レザルを帰還させ、魔素水の大樽を託した。今後はトルミ村と往来を開き、小人族の留学、レインボーシープの繁殖伝授、オグル族の警備参加など、相互交流と生産拡大の構想を具体化した。
不意の暗転
転移門を閉じ、平穏が戻った直後、オーゼリフ(幼生)が異変を感じて吠え、ビーも反応した。タケルは無防備のまま、右目の闇に言及する詠唱「混沌たる大地に安穏の眠りを」を聞き、意識を喪失した。事前兆候に誰も気づけず、場面は新たな脅威への転回で結ばれた。
13.5 番外編 ギルド職員の日常
ベルカイムとエウロパの成り立ち
ベルカイムの冒険者組合エウロパは、初代領主ルセウヴァッハ伯爵の先見によって未開の北辺に根づいた歴史ある組織であった。強力なモンスターが放つ魔力が土地を肥沃にするという認識のもと、領主は民と同じ釜の飯を食しつつ町を興し、組合は発展の受け皿として機能したのである。
助け合いの精神と新人研修
受付主任グリッドは新人職員の前で、ルセウヴァッハ家の「助け合い」の理念を説き、王都流の足の引っ張り合いを戒めた。会議室には蒼黒の団がもたらしたクラブ種の“薪”が燃え、冬でも暖かい職場環境が整っていた。
冬のギルドとウェイドの怒号
冬季は依頼が減るはずが、今年は暖を求めて受付に屯する低ランク冒険者が増加した。事務主任ウェイドは「依頼を受けない者は出ていけ」と怒声を上げ、グリッドは雪かき、屋根の雪下ろし、長屋清掃、くず鉄選別、屋台配達などの軽作業依頼を即時提示し、働かぬ者には共同便所清掃を宣告して秩序を回復させた。
蒼黒の団の“生活改善”と副作用
蒼黒の団は薪代替のクラブ種殻、隙間風対策の資材、加熱魔石の通路敷設などを提供し、ギルドの寒さ問題を解消した。結果として居心地が良くなり、金欠冒険者の溜まり場化という副作用が生じた。グリッドは嘆息しつつも、施策の起点がタケルの「暑いのも寒いのも面倒」という一言であった事実を思い返した。
領主屋敷での報告と方針
グリッドは領主ベルミナントに現状を報告した。ベルミナントは長屋に避難小屋を建設して寒さに弱い層を保護する計画を示し、蒼黒の団の功績と不可視の“秘密”には追及不要との見解を共有した。クレイストン、ブロライト、プニ、タケルの面々がもたらす恩恵は大きく、彼らを他国へ流出させる選択肢はないと確認された。
北方視察の話題と非常呼集
ベルミナントは北方視察を「五日で足りる」と語るタケルの発言に半信半疑であったが、グリッドは常識外の手段をとる彼らならばあり得ると内心で警戒した。そこへ執事レイモンドが到来し、「休暇中の職員と連絡が取れない」とのギルド急報を伝達。グリッドはスッスの不在を直感し、早急な帰還を決断したのである。
冬の醍醐味
冬の醍醐味 ― 帰還と買い出しの成果
タケルとビーは雪まみれで拠点へ戻り、ベルカイムの様子とギルドの防寒対策が上々であったと報告した。ダウラギリクラブ由来の“薪”が高評価で、クレイストンは反応を冷静に見極め、ブロライトは効果を肯定したのである。
グルサス鍛冶工房の仕事
タケルはグルサスに特注した巨大平鍋を披露した。素材はアダマンタイトとミスリル魔鉱石を混ぜた高級品で、焦げ付きにくく熱伝導に優れる加工が施されていた。クレイストンは資源の使い道に苦言を呈したが、調理器具としての機能性に折れた。
寄せ鍋計画の発表と準備
プニが人型に変じて目的を問うと、タケルは今夜の主菜を「寄せ鍋」と宣言した。タラ様の白身魚、薄切り肉、野菜、カニ足、山菜、ネコミミシメジを順序よく仕込み、めんつゆ様の出汁に少量の唐辛子で風味を整える方針を示した。ブロライトは調理手際の巧みさを“魔法”と評し、団員の期待は高まった。
食卓の段取りと作法
タケルは取り分け用のおたまと菜箸、各人のどんぶりを用意させ、鍋のルールを簡潔に指示した。締めにはおじやを予告し、食の流れを設計した。
囲炉裏を囲む団欒
鍋がくつくつと煮え、香りが広間に満ちる中、蒼黒の団は少し早めの夕餉を開始した。タケルは冬の冷気さえ楽しさに変える料理で場を温め、プニ、ブロライト、クレイストン、ビーらは各々の好みで薬味を加えつつ、季節の滋味を堪能したのである。
同シリーズ








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