物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジー/素材採取+冒険要素を主軸とする漫画作品である。元サラリーマンの主人公が“素材採取家”として異世界を巡り、料理・素材収集・モンスターとの遭遇を交えて成長と探索の旅を描く。
内容紹介:
タケルは素材採取バトルでギルドの期待を大きく上回る成果をあげ、ギルドからの信頼を強めていた。ある日、街近郊に出没する巨大モンスターの調査を依頼され、蒼黒の団はその調査へ赴く。そこで彼らが発見したのは、かつて関わった「汚エルフ」の痕跡であった。エルフが抱える事情を知ったタケルたちは、全員でエルフの郷へ赴く決意を固め、新たな秘境への旅立ちを迎える。
主要キャラクター
- 神城 タケル:本作の主人公である素材採取家。素材収集や料理、探査能力に長けており、仲間を率いて未知の土地へ挑むリーダー的存在である。
物語の特徴
本巻では、秘境探検・素材採取・異種族の事情といった複数の要素が絡み合って展開される点が魅力である。タケルの行動が過去の因縁と再会を引き起こし、物語が単なる旅物語から「関係の再構築と謎解き」の方向へと深化している。また、素材採取バトルという要素が依然として健在であり、バトルではなく“素材取得”自体を争点とする構図が他の異世界ものとは異なる視点を与えている。さらに、新たな秘境への道を開く導入がなされ、読者に次巻への期待を抱かせる構成となっている。
書籍情報
素材採取家の異世界旅行記 7
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本 氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
発売日:2018年12月31日
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あらすじ・内容
累計24万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第7弾!
大ヒット! 累計24万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第7弾! 王都で開催された競売会の参加者たちをこっそり調べ、王国転覆を目論む陰謀が進行中だと知ったタケルたち。王城へ直接乗り込んだ彼らは更に調査を進め、王の側近たちがその計画に深く関わっているだけでなく、王の命まで狙われていることを突き止めた。事件解決後にパーティ全員の好物のカニを狩ろうと呑気なことを考えつつ、タケルは仲間たちと協力し、陰謀・暗殺・裏切りまみれの王都の闇に立ち向かう!
感想
読み終えて、まず感じたのは、物語が大きくひと段落した安堵感である。前半では、王都を舞台にした王国転覆の陰謀が、タケルたちの活躍によって見事に解決へと向かう。しかし、その裏では「幻影の白蛇」と名乗る謎の存在や、学生と名乗る怪しい少年など、新たな不穏な影もちらつき、今後の展開への期待と少しの不安が入り混じる。
今回の物語で特に印象深かったのは、蒼黒の団の活躍ぶりだ。陰謀の裏側で暗躍し、事件解決に大きく貢献する姿は、まさに頼もしいの一言。しかし、彼らに害が及ばない限り、新たな不穏なフラグは全力で無視するというタケルの姿勢には、どこか安心感を覚える。事件解決後には、トルミ村へ帰って骨休めをするという展開も、彼らのこれまでの苦労を考えると、心から応援したくなる。
王都での炎の蛾との戦いも、手に汗握る展開だった。敵の少女が7歳であるという事実に、タケルの逆行が残り7年で終わるのかと、ふと意識させられる。そんな状況でも、戦いを見たいと無邪気に願う子供たちの姿は、どこか考えさせられるものがあった。王様にかけられた呪いが、相手に返されたのかどうかという点も、個人的には非常に気になっている。
そして、物語後半では、お待ちかねのカニ戦が繰り広げられる。ノリが良く、全方位に良いことずくめなカニ退治は、読んでいて非常に楽しい。特に、ぷにさんが各地で餌付けされ、幸せそうにしている姿には、心が温まる。カニクリームコロッケが食べたくなるという、タケルマジック(?)も健在で、読後には無性にカニ料理が食べたくなるから不思議だ。
今回の物語を通して、タケルたちの人間関係の深まりも感じられた。仲間たちとの協力はもちろん、王都の人々との交流を通して、タケル自身も成長しているように思える。面倒な事件の後は、気楽に危険なカニ狩りを楽しむという、彼らの日常が垣間見えるのも、この作品の魅力の一つだろう。年に一度のカニの収穫が決定したことで、今後の物語にもカニが登場する機会が増えるかもしれない。
ひとまず、王都の問題は解決し、王様の呪いも無事に解呪された。しかし、危険な術師や怪しい少年など、気になる点はまだまだ残されている。今後の展開で、これらの謎がどのように解き明かされていくのか、楽しみに待ちたい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
タケル
素材採取家であり、食と風呂と睡眠を重んじる現実的な行動者である。仲間と協調しつつ調査・修復・結界運用・転移を担い、王都の陰謀を解析して事態を動かした。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・素材採取家。
・物語内での具体的な行動や成果
競売の腕輪を端緒に子爵サルサールらの不正を特定した。王の“忘却”を調査し、召喚発生後は転移と結界で被害を抑えた。国立図書館の封印保管庫を発見・修復した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王国より「黄金竜」の称号相当の評価を受ける立場となった。新店舗構想や保存庫運用で都市の食文化にも影響した。
クレイ
竜騎士として先陣を担う実務的な槍使いである。場の統率と決断が速く、儀礼と実戦の双方で要となった。
・所属組織、地位や役職
竜騎士団・指揮的立場。
・物語内での具体的な行動や成果
謁見前の作法指導を行い、戦闘では「太陽の槍」で巨大蛾の肢体を破砕した。王の防衛線を再構成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
青龍卿の名が流布し、象徴化が進んだ。立像計画に難色を示しつつも名声は拡大した。
ブロライト
ハイエルフの剣士であり、精霊術と知見で戦術支援を行う参謀格である。道具観にも造詣が深い。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・剣士。
・物語内での具体的な行動や成果
呪いの性質を分析し、風の精霊連携で水竜巻作戦を成立させた。保管庫捜索でも判断基準を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都でも実力が認知され、戦術提案の発言力が増した。
プニ
馬の神として介入する存在である。人に厳しく馬に甘い価値観を示し、広域事象を引き起こした。
・所属組織、地位や役職
神格・馬の神。
・物語内での具体的な行動や成果
アルツェリオ王国全域に「古代馬の安息日」を発令し、逃亡経路を遮断した。空域誘導で転移作戦を支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都で畏敬と混乱の対象となり、神話的影響が拡大した。
ビー
幼い竜であり、機動と声で戦況を動かす支援役である。陽気だが要所では任務を果たす。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・竜。
・物語内での具体的な行動や成果
空域での誘導や超音波で巨大蛾を引き寄せた。市中では歌で群衆と竜を集めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「創世神の祝福」と結び付けられ、象徴的存在として語られた。
グランツ卿(グラディリスミュール大公)
王国の大貴族であり、権限と采配で政局を主導する調停者である。苛烈な場面でも冷静に統制した。
・所属組織、地位や役職
アルツェリオ王国・大公。
・物語内での具体的な行動や成果
謁見の場を設計し、腐敗貴族を炙り出した。転移決断と報酬提示で討伐作戦を後押しした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都の再編で中心的役割を維持し、信賞必罰を徹底した。
現王
幼児化の外見と言動を示す王である。禁忌の邪法により記憶と年齢が攪乱された。
・所属組織、地位や役職
アルツェリオ王国・国王。
・物語内での具体的な行動や成果
“創王の腕輪”のすり替え被害者となり、謁見の場で呪いの可視化が行われた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
解呪と治療で回復に向かい、民前に姿を見せて安堵を広げた。
サルサール子爵
王都の商流と結託した貴族である。競売と密貿易により利を得たが、陰謀の接点として露見した。
・所属組織、地位や役職
子爵。コラーダ商会と関係。
・物語内での具体的な行動や成果
木製の腕輪入手を巡る圧迫に関与し、禁制品流入の線で追及を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
検挙・処分対象となり、領地と爵位を喪失した。
パラヴォート伯爵
元老院幹事であり、王宮警備を担う要職者である。外部勢力と内通した疑惑が浮上した。
・所属組織、地位や役職
元老院幹事・王宮警備主任。
・物語内での具体的な行動や成果
謁見の場で反発を示すも、娘経由の情報漏洩を追及された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
取り調べ対象となり、権限は停止された。
ドノフリオ伯爵
王族系譜に連なる立場であり、宮中への通路を持つ勢力である。呪具の持ち込み線で疑惑が濃い。
・所属組織、地位や役職
伯爵。王族縁者。
・物語内での具体的な行動や成果
孫娘の動線を通じて“創王の腕輪”のすり替えが可能であったと指摘された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
黒幕筋の一角として監察を受ける立場に転じた。
クリータス
エドルート商会の実務を担う策動者である。侯爵への私怨を動機に暗躍した。
・所属組織、地位や役職
ストルファス帝国系・エドルート商会。
・物語内での具体的な行動や成果
イヴェル毒流入と元老院賄賂線の媒介となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
取引遮断により活動基盤を喪失した。
グリフォス・オーケン(イルル)
学生を装う依頼人であり、身元を秘匿した観察者である。古代神と古代竜に強い関心を示した。
・所属組織、地位や役職
学府関係者を装った人物。
・物語内での具体的な行動や成果
古代神調査を依頼し、高額報酬を提示した。王宮事件当日の所在に不一致が見られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
正体は隠匿され、当面は監視対象に留められた。
クミル一家(猫獣人)
宿「鮭皮亭」を支える労働者家族である。販売と調理で生活を立て直した。
・所属組織、地位や役職
鮭皮亭・従業家族。
・物語内での具体的な行動や成果
握り飯弁当の千食販売を達成し、配達構想の核となった。保存庫運用で廃棄を回避した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都での信用を獲得し、商圏拡大の足場を得た。
エリア/パント
ギルド受付嬢であり、現場整理と販売支援を両立する実務人である。
・所属組織、地位や役職
王都冒険者ギルド・受付。
・物語内での具体的な行動や成果
列整備とトラブル抑止で販売を完了させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現場評価が上がり、配達サービス拡張の要員候補となった。
ユルウ
保存と在庫管理に通じる協力者である。収益構造と食材保全を重視する実務家である。
・所属組織、地位や役職
流通関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
エペペ穀の保存計画を助言し、保存庫活用を定着させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
食材管理の信頼を得て、業務範囲が広がった。
ティアリス
大公家の曾孫であり、下町との交流を持つ若い貴族である。人脈形成の象徴として描かれた。
・所属組織、地位や役職
グラディリスミュール大公家・令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
鮭皮亭の三姉妹に親近感を示し、橋渡し役となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
庶民との接点が注目され、家の対外的評価に寄与した。
展開まとめ
異世界生活への満足と回顧
タケルは異世界マデウスでの生活に充実感を抱いていた。風呂と睡眠をこよなく愛し、食事も大切にしている彼は、自らを正直な素材採取家と称していた。転生から一年未満であったが、激動の日々のせいで遥か昔のように感じていた。
かつて過ごした地球の記憶――安定した生活、気になるテレビ番組やスイーツ、職場の仲間たちへの思い――を懐かしむことはあった。しかし、マデウスでの慌ただしくも愉快な日々に身を置く今、それらに思いを巡らせる余裕はほとんどなかった。
マデウスの治安と環境
この世界の治安は劣悪であり、町の外も中も常に危険が伴っていた。トルミ村という例外的に平和な村もあったが、それは特殊な環境であった。スリや強盗、殺人ですら自己責任とされる社会で、タケルは慎重に生き抜いてきた。
素材採取家という仕事への誇り
素材採取家の仕事は地味で人気もなく、他の冒険職と比べて目立たない。しかし、薬草採取や鉱石の採掘、モンスターの抜け毛採取、未知の食材探しなど、多岐に渡る仕事にやりがいを見出していた。時には命を賭けた戦いにも直面したが、それすらも経験として糧にしていた。
新たな夢と日常の喜び
地球にいた頃には思い描けなかった夢――誰も知らない素材を発見したいという願望――がタケルの中に芽生えていた。今は信頼できる仲間と共に、美味い食事や温泉、柔らかな布団を楽しみながら、忙しくも笑いの絶えない毎日を送っていた。
逃げ出したくなることもあるが、タケルはこの異世界で元気に生きているのだった。
1 根が深き、陰謀どっぷり、驚きだ
競売会場での一騒動と大貴族の圧力
王都の競売にて、子爵サルサールは莫大な額で木製の腕輪を落札させられ、絶望の表情を浮かべて膝を折った。彼を追い詰めたのは王の後見人にして大貴族グランツ卿であり、サルサールは無礼を咎められ、極刑の冗談すら飛び出すほどであった。ギルドマスターの冷酷な笑顔も加わり、サルサールは震えながら支払いに応じるしかなかった。グランツ卿の冷たい視線と余裕ある態度に、タケルは身分の壁と陰謀の底深さを痛感した。
握り飯弁当の完売と感謝の宴
競売会場の外で販売された鮭皮亭の握り飯弁当は千食完売し、タケルは売上の確認を行った。猫獣人クミル一家は大喜びし、女将の家族やギルド受付嬢エリアとパントも販売に尽力した。列の整理やトラブル防止にも尽力した二人は称賛され、今後の配達サービスの可能性が話題となった。タケルは新店舗の設立案を考え、グランツ卿の協力も期待していた。
保存庫の活用と今後の展開
ユルウとの会話では、利益の大きさとエペペ穀の保存の重要性が確認された。タケルが魔法で設置した保存庫のおかげで大量の食材も腐らず、クミル一家はその活用に感謝していた。保存庫の存在は高級品であり、王都では珍しいものであったが、タケルにとっては当たり前の設備となっていた。
陰謀の調査と人脈の活用
タケルは、競売で得た腕輪を元にサルサールの陰謀を洗い出していた。サルサールの商会はストルファス帝国の大商会と繋がっており、さらにアルツェリオ王国の侯爵との個人的な因縁が背景にあった。エドルート商会のクリータスは侯爵への私怨から暗躍し、サルサールを利用していた。その情報は、貴族の奥方たちからの噂話を通じて得られたものであり、信ぴょう性のある裏付けがなされていた。
元老院と前王暗殺の疑惑
タケルはさらに調査を進め、元老院の三名がサルサールと繋がり、賄賂を受け取っていた事実に辿り着く。また、前王を毒殺した側室にイヴェル毒を渡したのが、コラーダ商会を介したエドルート商会であると判明した。これは十数年前から続く国家規模の陰謀であり、クリータス以外にも王国転覆を目論む黒幕が存在する可能性が浮上した。
逃亡阻止の策と神の力
クレイの助言により、サルサールが国外逃亡を図る可能性に気づいたタケルは、馬の神であるプニに助力を依頼した。王都の馬に休息を命じてもらうつもりが、プニはアルツェリオ王国全域の馬に命令を出していたと明かし、タケルは自らのうっかりに動揺することとなった。とはいえ、神の力により逃亡の芽は確実に摘まれる見込みであった。
2 瓶底眼鏡と、暗黒魔導書
馬の反乱と神の介入
アルツェリオ王国全域で馬が突如動かなくなり、働くことを拒否するという前代未聞の現象が発生した。馬房で寝転び唸る馬、逃げる馬、全く起きない馬など様々な症状が見られ、人々は混乱した。これは「古代馬の安息日(アルタトゥムエクルウス)」と名付けられ、神の怒りと見なされた。プニと呼ばれる美女神がその元凶であり、馬を粗末に扱った者には罰を、優しく接した者には選択の自由を与えたという。この神の介入により、サルサールの王都脱出は未然に防がれた。
鮭皮亭の休日と出発準備
タケルはクミル一家のために昼食用の弁当とお茶を用意し、彼女たちは休暇として十番街の公園へ出かけた。宿の人気は高まり続けており、大公グランツ卿の曾孫・ティアリスも三姉妹に好意を持っていた。タケルたちは宿に「本日定休日」の札を掲げ、転移門を使ってグランツ卿の別邸へ向かう準備を整えた。プニは本来馬車での移動を希望していたが、人目を避けて転移を選ばれた。
転移とグランツ卿邸の訪問
王都の中層に位置するグランツ卿の別邸には広大な裏庭があり、タケルは転移門用の魔石を設置していた。この転移能力は、タケルが交渉力と信頼性を示すために敢えて明かした切り札であった。到着後、一行はグランツ卿邸のメイドたちに熱烈に迎えられ、屋敷内へと案内された。グランツ卿とその妻シェリルに出迎えられた彼らは、客間で歓待を受けつつ、用件に移る準備を進めた。
陰謀の報告と瓶底眼鏡の威力
タケルは、自作の“暗黒魔導書”――ペパルの葉に日本語で記された陰謀リスト――を取り出し、グランツ卿に手渡した。だが文字が読めないため、専用の解読用魔眼鏡を渡すと、グランツ卿は戸惑いながらも着用し、内容を理解していった。リストにはサルサールを中心とした関係者や背景、犯行動機が詳細にまとめられていた。
読み進めるうちに広がる衝撃
グランツ卿は読み進めるにつれ、驚愕と怒りを交互に浮かべ、最後にはストルファス帝国の名に深く反応した。全貌を理解したグランツ卿の表情には、怒りと同時に復讐心に近い熱が宿り、タケルは彼の本気を目の当たりにした。報告書としての完成度は高く、追加説明も不要なほどであり、タケルの調査力と文書力の高さが発揮された瞬間であった。
3 王宮にて、献立計画
豪華な王宮と庶民の違和感
タケル一行は王宮の応接室に通されていたが、庶民であるタケルにとって、その豪奢な装飾や広すぎる空間は居心地が悪く感じられた。調度品や絵画、絨毯などは高価そうで、触れるのもためらうような雰囲気であった。待機時間は長く、三度鐘の音が鳴るほどの時間が過ぎていた。特にプニは神としての誇りから不満を募らせ、王族の対応に不快感を露わにしていた。
王宮訪問の背景と早朝の混乱
王宮への訪問はグランツ卿の要請によるもので、先の競売騒動で浮かび上がった不穏分子の情報を王家に報告するためであった。通常であれば冒険者が王宮に入るには多くの手続きが必要であるが、グランツ卿は国の一大事として強引に手配した。その結果、タケルたちは早朝から慌ただしく準備させられ、クミル一家も騒然となった。
王宮の軽食と献立談義
提供された王宮の軽食は味気なく、チーム一同は朝食への未練を募らせた。タケルはハデ茶漬けの構想を語り、皆の食欲を刺激した。さらに、鉄板焼きやカニ鍋、握り飯などの料理アイデアが次々と飛び出し、一同は盛り上がった。タケルは献立をメモ帳に記録し、ベルカイムに戻るまでの食事計画を立てていった。
食を通じた親密な空気と人心掌握
くだらない話題で盛り上がる一行の様子に、最初は無表情だった王宮のメイドたちも徐々に警戒を解き、笑顔を見せはじめた。タケルはこの緩やかな空気の変化を感じ取り、場の和らぎに手応えを覚えていた。美味しい食事の話題は、異なる身分や立場を超えて人をつなぐ力を持っていた。
謁見への呼び出しと動揺
献立計画に熱中していたタケルたちであったが、ついに侍従が現れ、「陛下がお待ちです」と謁見の案内を伝えた。現王に対する謁見の知らせに、タケルは動揺し、事態の重大さに今さらながら気づいた。クレイの拳が飛び、叱責されたタケルはようやく覚悟を決める。彼が暴いた陰謀が、今まさに王家に報告されようとしていたのである。
4 衆人環視の、その中で
謁見直前の心得と王族に対する備え
王との謁見を前に、クレイはタケルに礼儀作法や注意点を繰り返し説いた。王の顔を直視せず、許可を得て発言し、決して無礼を働かぬようにと念を押す。タケルは緊張感に欠ける態度を取りながらも、内心では国家の頂点に立つ人物との対面を意識していた。プニは神として挨拶を拒否し、胸元に潜んだままでいた。
謁見の間とその空気
扉が開かれ、一行は広大で魔力漂う謁見の間へと進んだ。玉座には強力な結界魔道具が備えられ、周囲は竜騎士や貴族たちによって厳重に警護されていた。緊張が漂う中、グランツ卿と執政官パリュライ侯爵も着席し、王の到着を待つこととなる。
若き王との対面と驚愕の事実
玉座に現れた現王アレクサンテリは、見た目も言動も幼子そのものであった。形式ばった紹介の後、王自らタケルたちに話しかけ、好奇心を隠さぬ様子でブラックドラゴンやエルフを賞賛した。その無邪気な姿は、一行に衝撃を与えると同時に、玉座にあるべき威厳とはかけ離れていた。
王にかけられた呪いの発覚
プニとブロライトの観察により、王には強力な呪いがかけられていることが判明する。タケルの魔法で詳細を調査した結果、王は“忘却”という禁忌の邪法にかけられており、見た目と精神が幼児化している状態であった。この術は千年前に禁じられたものであり、使用者は極刑とされる。
呪いの正体と邪法の復活
“忘却”は「若返りの術」あるいは「消滅の術」とも呼ばれ、最後には存在ごと消される恐ろしい魔法であった。この魔法を施したのは“幻影の白蛇”と名乗る者であり、元老院の一人が関与している疑惑が浮上する。グランツ卿からは事前の警告がなかったが、明らかに王国転覆を狙う何者かの暗躍が進んでいると見られた。
一行の危機感と今後の覚悟
タケルたちは王の呪いという重大な国家機密を知ってしまったが、それが意味するのはアルツェリオ王国の根幹を揺るがす陰謀の存在であった。プニはこの魔法の復活を重く受け止め、ブロライトもその危険性を強く認識していた。一同は王国の危機を前に、ただの旅人や冒険者ではいられない状況へと踏み込んでいくこととなった。
5 性悪タヌキと、極悪キツネ
陰謀の全貌と王国の危機
サルサール子爵が鮭皮亭に仕掛けた陰謀の背後には、ストルファス帝国のエドルート商会の関与があった。禁制品であるイヴェル毒が王都に持ち込まれたことで、王国の中枢がすでに侵食されていたことが判明する。王にかけられた邪法「忘却」の存在は、国家転覆を狙う陰謀の一端に過ぎなかった。
貴族たちの前で発揮された異能
グランツ卿は謁見の場に貴族たちを集め、タケルの異能を公に示すよう命じた。最初は動揺するも、タケルは王に施された呪いを暴く調査魔法を披露し、王の肉体と精神を蝕む「忘却」の進行を可視化することに成功した。
パラヴォート伯爵の告発
貴族の中でも特に声高に異議を唱えたのが、元老院幹事で王宮警備主任でもあるパラヴォート伯爵であった。しかし彼の背後関係は明るみに出る。娘を通じて王室機密をエドルート商会に流していた事実、さらに商会の創設者アンブロワーズの死にも関与していた疑惑が暴露される。伯爵は狼狽し、弁明に終始するが、グランツ卿の静かな詰問に追い詰められていった。
元老院とグランツ卿の攻防
グランツ卿は、王国を私物化する貴族勢力をあぶり出す意図で謁見の場を設定していた。タケルに見抜かれるのではと恐れた貴族たちは一斉に声を上げ、これを「茶番劇」と断じる。しかしグランツ卿はその言葉を逆手に取り、場を掌握。王国の未来を蝕む「悪しき貴族」たちを炙り出すことを宣言した。
王の呪いと魔道具の特定
王にかけられた呪いの発信源を探るべく、タケルは呪詛返しの手法を検討する。ブロライトの助言を受け、魔力の「端」に触れることで術者に呪いを返す方策を理解。王の身近にある魔道具に仕込まれた「隠匿の術」によって、鑑定魔道具では検知できなかったと推測された。
証拠の裏付けと敵の正体
王が気に入り身につけていた魔道具が、敵の手によって贈られたものである可能性が浮上する。コラーダ商会を通じて持ち込まれたと目されるその品物は、敵対勢力が仕掛けた最後の駒であった。タケルは、それが呪いの発信源であると断定する。
敵の本性が明かされる瞬間
これまで水面下で暗躍していた元老院メンバー、ドノフリオ伯爵が表舞台に現れる。彼はかつて王位継承権を有していた王族であり、サルサールとも繋がりのある陰謀の一角であった。タケルの指摘により、敵がいよいよ正体を現し始める。
終わりなき脅威とその序章
グランツ卿の采配により、王都を包んでいた腐敗の闇が次第に晴れつつあった。だが、王にかけられた呪いは依然として解けておらず、敵はなおも見えざる影として潜み続ける。王国の危機は去ったわけではなく、タケルの戦いは続くことを暗示して、本章は幕を下ろす。
6 思いと、守る命
呪われた王の証拠
タケルは王に常に寄り添う“創王の腕輪”を調査し、それが本物ではなく、ディングス・ファレルによる人工遺物「ガナフバングル」であると突き止めた。幻影の白蛇によって呪術がかけられており、王が最初に装着したことで“忘却”の呪いが発動していた。
この腕輪は、王の就寝時に必ず身につけられるという国民にも広く知られた習慣を利用して、王の寝所に出入り可能なドノフリオ伯爵の孫娘によってすり替えられた疑いが濃厚となる。コラーダ商会が献上したものであったことも記録によって裏付けられ、王宮内の陰謀はもはや確定的となった。
呪いの解除と召喚の代償
タケルは、隠匿された情報を読み解き、ガナフバングルに“忘却”と“召喚”の二重の呪術が仕込まれていると認識。呪詛返しによる解除を決断する。クレイ、ブロライト、ビー、そしてプニとともに陣形を組み、王と王宮を守るため、魔法を発動する。
タケルの願いを込めた強力な魔法が発動し、結界の中で呪いの解除が開始された。しかし、同時に封じられていた召喚の魔法が反応。結界が裂け、謁見の間は灼熱の炎に包まれる。内部からは強大な存在が呼び出されようとしていた。
王を守る騎士たちと誓い
クレイは竜騎士団に号令を下し、王を守る鋒矢の陣を即座に展開。マルス大佐を中心に騎士たちは王を守る盾となり、命を懸ける覚悟を見せた。タケルは彼らの覚悟に応えるように、より強く願いを込め、結界と盾を張り直す。
グランツ卿は破壊を許可し、事後処理と報酬を約束。「望むものを何でもやろう」と宣言したことで、タケルは笑顔で応じた。
タケルの願い
王を救うことも、王宮を守ることも、すべては“守るべきもののため”。タケルが口にした願いは、「握り飯弁当の専門店の設立」だった。王都で安心して食を楽しめる日々こそ、彼にとっての平和と幸福の象徴であった。
7 作戦会議と、害虫駆除
王都炎上と大公の覚醒
王宮の謁見の間が業火に包まれる中、グランツ卿――グラディリスミュール大公は、タケルたちに不思議な信頼を抱いていた。守るべきものの重さに押し潰されかけていた大公は、タケルたちの背を見て若き日の闘志を思い出す。そして全てを託すように、王都崩壊の可能性すら受け入れる覚悟を叫んだ。
召喚された巨大蛾と騎士団の動揺
創王の腕輪に仕込まれていた呪いの解除によって召喚されたのは、ランクA+の炎を纏う巨大蛾「フランマモルスン亜種」であった。謁見の間の天井は崩れ落ち、火の粉が壁画や調度品を焼き尽くす。タケルは睡眠魔法で混乱する貴族を鎮め、結界と魔道具で被害を最小限に抑えるも、騎士団はその迫力に腰が引けていた。
ガレウス湖への転移作戦
蛾の弱点が「水」であると判明し、クレイやブロライトの提案により、タケルは湖への転移を決断。プニの協力でアシュス村上空からガレウス湖の上空へ移動し、空中から転移門を展開する。蛾を誘導するため、ビーが熱烈な咆哮を放ち、プニは輝く姿で空を翔ける。
灼熱のモンスターとの決戦準備
炎に包まれた王宮を転移門で繋ぎ、蛾の誘導に成功。結界内にいた王と貴族らは無傷で済み、タケルの魔道具がその力を発揮した。やがて戦場は転移先のガレウス湖へ移り、竜騎士団や蒼黒の団が戦闘陣を展開する。グランツ卿の命により、これを実戦演習とし、見学希望者までもが集められた。
水竜巻作戦の始動
蛾を倒す鍵は水の力。ブロライトとビーの精霊魔法によって巨大な風竜巻が形成され、そこへタケルの水球弾を融合させ「水竜巻」が完成する。巨大蛾はビーの超音波振動に誘導され、戦闘空域へと移動。全ての条件が揃った。
命を懸けた結界と攻撃魔法
タケルは王と貴族を守るために結界と盾を張り、戦場の制御を担う。防衛と攻撃魔法の同時展開は限界を超える負荷であったが、強い意志で乗り越えた。グランツ卿は報酬として「握り飯弁当店の王都4店舗」を約束し、タケルの士気を爆発的に高める。
最終攻撃への布石
戦闘終盤、クレイの合図で水球弾が水竜巻に投入され、巨大蛾の炎の羽根を消す準備が整う。精霊術と魔法、仲間の連携により形成されたこの一撃が、灼熱の害虫を撃ち滅ぼす希望となった。タケルはその瞬間に向け、全魔力と信念を込める。
王の呪いは解除され、王都は守られた。しかし戦いは終わっておらず、今まさに、蒼黒の団とアルツェリオ王国は、真の力を見せつけようとしていた。
8 最期の輝き、気高い戦士
再点火と反撃の開始
水竜巻により巨大蛾「フランマモルスン亜種」の炎が鎮火されたが、蛾は新たな炎を口から吐き出し再び戦意を露わにした。召喚されて討伐対象にされたことへの本能的な抵抗に、タケルたちは同情を覚えつつも応戦を続けた。
太陽の槍と精霊剣の共闘
風が収まると同時に、クレイとブロライトが突撃を開始。クレイの「太陽の槍」により蛾の足が斬り飛ばされ、ブロライトの一閃は触角を狙ったがかわされた。巨大蛾は常軌を逸した素早さで攻撃をかわし続け、再び火炎を口に含んだ。
戦場の英雄たちと魔力干渉
クレイとブロライトの連携攻撃は、騎士団や見学者たちから喝采を浴びた。タケルは二人の攻撃を支えるべく「魔力消耗」という魔法を展開。ユグドラシルの杖から放たれる青い光が蛾を貫き、動きを徐々に鈍らせた。
水と風の共演による拘束
追撃の機会を逃さぬよう、ブロライトとビーは風の精霊を再招集し、水竜巻の再展開に成功。蛾は暴風と水流に翻弄され、空中に逃れることができなくなった。クレイの槍が背中を貫き、魔力が限界に近づいたところへ、タケルは「空気爆弾」を発動。圧縮空気による大爆発が蛾を襲い、ついに羽をもぎ取られ地面に叩き落された。
討伐の決断と命への敬意
地上でのたうつ蛾を前に、クレイは心を痛めつつも止めを刺す決意を固め、槍でその命を終わらせた。モンスターとはいえ無意味な殺生を避けてきた蒼黒の団にとって、今回の討伐は例外であり、苦渋の判断であった。蛾はその身体を焼き尽くし灰となり、誰にも利用されぬまま気高く散った。
歓喜の声と恐るべき実力
戦いの終結に、騎士団や市民たちは歓喜の声を上げた。クレイやブロライト、そして魔法を自在に操るタケルの姿に、誰もが畏敬を込めて称賛を送った。一方、グランツ卿と執政官は、タケルの実力に対し警戒心を強めつつも、その素性を深く問うことはなかった。
爵位の辞退と冒険者の哲学
グランツ卿はタケルに爵位や魔法省の講師職を提案したが、タケルはこれを断固として拒否した。安寧な暮らしと食を優先する冒険者としての信条を理由に、過剰な責任や名声を避ける姿勢を崩さなかった。その価値観にグランツ卿は苦笑し、自由なる者への理解を示した。
王の異変とプニの旅立ち
戦闘後、王であるオーギュスト五世の身体に異変が現れた。呪いの解呪による反動であり、彼は竜騎士に抱えられ転移門の向こうへと運ばれた。プニは王の無事を祈りつつ、リダズの実の確認と供物の回収を兼ねて村の祭壇へと向かった。
謎の青年の気配
プニが天に翔けるその光景を見上げる人々の中に、タケルはかつて図書館で出会った青年の姿を見たような気がした。確証はなかったが、何かが静かに、しかし確かに動き始めている気配が漂っていた。
9 そして軟禁、英雄誕生
王宮事件の余波と栄誉の軟禁
王宮内にモンスターが召喚された事件は瞬く間に王都中に広まり、青龍卿率いる竜騎士団が王を救ったとの噂が独り歩きしていた。実際にはクレイ、ブロライト、タケルが力を合わせてモンスターを討伐したが、事実は簡略化され、英雄譚として祭り上げられた。これにより三人は王宮内の貴賓室にて数日間の軟禁状態となった。
緘口令と栄誉の副作用
グランツ卿の計らいでタケルの名前は伏せられたが、蒼黒の団の名声は高まり、王国の冒険者チームとして知られるようになった。だがクレイは立像建立の話まで出る騒ぎに辟易し、王都を離れることを宣言した。王の病状は魔素中毒によるものであり、昏睡状態にあるが、命の危険は脱していた。
陰謀の全貌と王国の再編
事件の首謀者は不明のままだが、元老院の三人とサルサール子爵ら多数の貴族が一斉に検挙され、領地没収と爵位剥奪が行われた。その財と権力により苦しんだ民の存在を前に、タケルたちは処罰の必要性を実感した。サルサールの邸や土地からは魔石による爆発物が発見され、王都占拠計画の一端が明るみに出た。
鮭皮亭への帰還と情報拡散の真相
事件後、タケルたちは鮭皮亭に戻るが、緘口令が敷かれていたにもかかわらず、周囲の人々は詳細を知っていた。原因は竜騎士たちの「ここだけの話」であり、王都では既に芝居化も進行していた。情報の公開によって陰謀を打破し、民に安心感を与えるという方針がとられていたのである。
黄金竜の称号と冒険者としての懸念
蒼黒の団は王から最高の栄誉「黄金竜」の称号を授かり、王国の全ギルドで依頼を選ぶことが可能となった。しかしその名声により、貴族の見栄で発注される不要な依頼が急増。タケルやブロライトは命を無駄にしない狩りを志としていたため、こうした依頼には乗り気ではなかった。
食と仲間との団欒
豪華な王宮料理に飽きたタケルたちは、鮭皮亭で質素ながら滋味深いお茶漬けを堪能した。特製の大どんぶりはエルフ職人ペトロナが作成したもので、彼らの食生活に合う仕様となっていた。皆で囲む食卓と、家族のような仲間たちとの時間が、何よりの癒しとなっていた。
王都滞在の終わりと別れの時
長期滞在の末、ベルカイムへ帰ることを決めたタケルたちに、クミル一家や三姉妹は涙ながらに別れを惜しんだ。だが、冒険者としての本分を思い出したタケルは、王都を離れる覚悟を決める。握り飯弁当専門店の監修や依頼の消化を終え、エドナ渓谷経由での帰還を視野に入れていた。
王国再建と残された課題
陰謀の掃討により多くの権力者が排除されたため、領地の統治や流通再編など、王国は再建に向けた課題を抱えていた。また、サルサールの処分により監察官制度にも改革の波が押し寄せており、タケルたちを巻き込んだ王都行きは無駄ではなかったと振り返る声もあった。
10 貴重な文献、隠された保管庫
図書館の貸切と文献検索の試み
タケルはグランツ卿の権限により国立図書館を半日貸し切り、古代神に関する文献を探すこととなった。魔法使用が許可されていたため、魔力探査によって該当書籍の探索を開始するが、通常の検索魔法では手がかりが得られなかった。そこでユグドラシルの杖を用いた高度な探査を行ったところ、地下に反応があることが判明する。
隠し通路と地下階段の発見
ビーの協力により、図書館の一角にある目立たない突起が隠し通路のスイッチであると判明し、タケルが押すと自動的に地下階段が現れた。その仕組みは地下墳墓で見た古代装置に酷似しており、タケルはユグドラシルの杖を構えて慎重に降りていった。階段は長く、湿気と共に魔素が充満していた。
封印された扉と壊れた錠前の修復
地下の最深部にて、アルツェリオ王国の紋章が描かれた朽ちた扉と、壊れた魔道具の錠前を発見する。タケルは魔道具を修復・復元し、認識魔法を追加して侵入者対策を施した。その後、解錠魔法によって扉は開き、内部の蔵書保管庫が露わとなる。
封印蔵書の発見と修復作業
保管庫の中は埃と蜘蛛の巣に覆われていたが、タケルの修復魔法により蔵書は蘇った。探査魔法が示した一点には、巨大な古代書籍が輝いていた。彼は触れる前に周辺を清掃・修復し、慎重に本を取り出して内容を記憶した。
ポラポーラの記録と創世神の手がかり
書籍の内容は古代カルフェ語と絵文字で記されており、かつて「イヴェル毒」の研究でも登場したポラポーラによる日記であった。彼女は可愛らしい口調で創世神や古代神との邂逅を記しており、リベルアリナについても言及されていた。神々との出会いによって特別な力を授かったとする描写は、タケル自身の経験とも重なっていた。
神々の記録と古代の大陸
ポラポーラの日記には創世神が命を生み出し、リベルアリナのような精霊王とも対話した記録が残されていた。さらに、北方の大陸パゴニ・サマクにて白い古代竜と出会ったという記述もあり、内容の信憑性が高まった。タケルは時間の許す限り、ビーに向けて日記を読み聞かせた。
11 彼の正体と、疑惑と
図書館保管庫の発見と称号の提案
図書館における「閉ざされた保管庫」の発見はギルドへ報告され、長年存在が確認できなかった伝説の保管庫であると判明した。ギルドマスターは喜び、案内を願い出るが、タケルは称号の授与を丁重に辞退し、代わりに保管庫への自由な出入りを求めた。そこにはまだ未確認の貴重文献が多く眠っていると見られた。
古代神の調査報告とオーケンの熱意
依頼主である学生グリフォス・オーケンは、創世神や古代神に強い興味を示し、タケルの報告に対して食い入るような反応を見せた。特に古代竜の存在に強く関心を持ち、自身も卒業論文として古代竜をテーマにすることを決意した。タケルは研究とは熱意が伝わることが大切であると助言し、保管庫の閲覧許可が下りれば活用できると励ました。
保管庫発見の報酬と意外な違和感
タケルは正式に依頼完了を報告し、8万レイブの報酬に加え、保管庫発見の功績により10万レイブの追加報酬を受け取った。その折、王宮での事件の際にオーケンを目撃していた記憶が蘇る。問いかけると、オーケンはにこやかに否定し、その場を去っていった。
正体の確認と警戒心
タケルは念のために調査魔法を用いて確認し、オーケンの本名がイルルであること、全情報が隠匿されていることを知る。これにより疑念は深まったが、オーケンが敵対的行動を取っていないことから、深追いを避ける判断を下した。学生という立場で高額の報酬を支払った理由や、身分を隠していた点に違和感を抱きつつも、現状では問題が無いと判断した。
平穏の選択と市場への寄り道
タケルは自身や仲間に危害が及ばない限り、イルルの素性を追及しないと決めた。疑いは残るものの、冒険者としての割り切りを見せ、市場での土産物購入に気持ちを切り替えて歩を進めた。
12 寝不足の御者台
壮行会と旅立ちの朝
数日後、快晴の朝にタケルたちは王都を離れることとなった。前夜には蒼黒の団の壮行会が開催され、町中は夜通し賑わいを見せた。各地から顔見知りが集まり、王宮関係者までもが下町に姿を見せる盛況ぶりであった。王は病から回復し、庶民と酒を酌み交わしながら、平和の象徴としての姿を見せていた。
創王の腕輪の返還と国王の感謝
タケルは、競売で手に入れた創王ホルブリック・シャナンの腕輪を王に返還した。この腕輪は隠匿魔法が施されており、血族にしか装着できない由緒ある品であった。王は幼少期の記憶を辿りながらも、深く感謝の意を表し、国家の危機を救ったタケルたちに頭を下げた。
陰謀の後始末と流通の混乱
エドルート商会がストルファス帝国所属であったことが判明し、商会はアルツェリオ王国内での全活動を禁止された。サルサールのコラーダ商会も取り潰され、王国内の流通に一時的な混乱が生じることが予想された。それでも人々の逞しさを信じ、国は再生へと歩み始めていた。
再出発と御者台での寝不足
宴の余韻を残しつつ、タケルたちは夜明け前に馬車で出発した。タケルは御者台を担当したが、前夜の飲み比べで寝不足のまま街道を進むこととなった。プニさんの陽気な歌声やビーの動きが響く中、タケルはふらふらとした頭で運転を続けた。
再会と次なる目的地
ベルカイム帰還後は、トルミ村での休養を挟む予定となった。クレイはフルゴルの仲間たちを村に招待し、ブロライトも親しい者たちと共に過ごしたいと語った。平穏な村での休息を望む中、王都の研究機関に提出しなかったランクSモンスターの残骸をアジトミュージアムに展示する案も出た。
コメ文化の普及と旅の展望
タケルたちは握り飯弁当を含む米料理の文化を広める意欲を見せ、それぞれの故郷でエペペ穀を育てる計画を立てた。各地で米文化が進化すれば、新たな料理が誕生する可能性もあると、未来への期待を膨らませていた。旅の今後の目的地として、他大陸や島への興味も語られた。
日常の混沌と笑いの絶えない道中
移動中、渓谷の絶景に感動する一方で、プニさんが谷底を見たいと突然急降下を始め、馬車は大混乱に陥った。タケルは御者台から落ちそうになり、プニさんにしがみつきながら必死に耐えた。騒がしくも賑やかな旅は、日常の延長として再び動き出していた。
12.5 番外編:タケルとビーの買い物
王都の朝市と買い物計画
王都滞在中の休養日、タケルはビーとともに市場へ買い物に出かけた。鮭皮亭の休養を利用した完全な私的外出であり、彼にとっても新鮮な経験であった。市場にはルカニド湖から届いた新鮮な魚介や果物、調味料、魔道具まで様々な品が並び、喧騒の中で熱気に包まれていた。
創世神の恩恵朝市と激戦の現場
この日は「創世神の恩恵朝市」に当たり、大量の収穫を記念しての大幅値引きが実施されていた。熟練の仕入れ人たちが激しく押し合う中、タケルはその勢いに圧倒され、目的の品を買うのも困難な状況に陥った。ビーの助けを借りようと、ある策を思いつく。
おとり作戦とビーの大空飛行
タケルはビーに「空を飛んで歌う」という目立つ役を任せ、自らはその隙に買い物を進めるという作戦を敢行した。ビーは空へ飛び立ち、陽気に歌いながら旋回し、買い物客の注目を一身に集めた。タケルはその隙に干物、酒、肉、菓子など必要な物資を素早く買い集めることに成功した。
空の祭典とドラゴンたちの合唱
予想外の展開として、ビーの歌に誘われるように、次々と王都各地の翼竜が集まり出した。竜騎士が騎乗する大型の翼竜、さらには王宮直属の隊長竜までもが加わり、市場の上空は即席のドラゴンショーと化した。タケルは状況に驚きながらも、その荘厳かつ和やかな光景に感動していた。
ドラゴン信仰と人々の熱狂
王都ではドラゴンは神聖な存在とされているため、本来ならば街中を自由に飛び回ることは許されない。だがこの日ばかりは、誰もが空を見上げて歓喜し、畏敬の象徴であるドラゴンたちが可愛らしく歌い踊る姿に魅了された。結果として、ビーの行動は「創世神の祝福」として語り継がれることとなった。
伝説と噂、そして説教
この出来事は瞬く間に王都中に広まり、小さな竜が竜騎士の翼竜たちを率いて聖なる歌を奏でたという伝説めいた噂まで生まれた。同時に、その混乱の中で市場の品を根こそぎ買っていった男がいたという話も囁かれたが、誰もその姿を覚えていなかった。
事件後、ビーの暴走を知ったクレイは激怒し、タケルに大説教を行った。ビーには甘く、タケルには厳しい理不尽な結末であった。
13 タケルとせいこと初雁の候
発端:セイコガニの欲求と仲間たちの反応
タケルが「セイコガニを食べたい」と呟いたことから、チームの関心が一気にカニの卵へと向けられた。マデウスにおいて卵を抱えたカニは目撃例が少なく、生態すら不明であることが判明。クレイやブロライトも興味を持ち、タケルは本格的に調査を始める決意を固めた。
情報屋スッスからの有益な情報
ベルカイムで情報屋スッスから得たのは、フォルトヴァ領のシャバリン村周辺で脱皮するクラブ種の目撃情報であった。その色は赤橙色で、冬に繁殖期を迎えるという。この情報により、蒼黒の団はムズィカン丘陵を目指して移動を開始した。
ムズィカン丘陵での地質調査と発見
丘陵に到着したタケルは探査魔法を用いて、地中の鉱石がすべてカニの卵の殻の化石「ダウラギリクラブの卵の殻」であることを突き止めた。その特性は火薬の原料「硝石」に近く、保存料としても有用な素材であった。
シャバリン村とカニ文化の発見
村に到着すると、村全体がカニと共存していることが明らかとなった。村人は甲羅を薪として使用し、肉は「猛毒」と誤解して廃棄していた。この無知による浪費にタケルたちは嘆きつつも、肉と卵を譲り受け、討伐の手伝いとして協力を申し出る。
ダウラギリクラブの探索と谷底での戦闘
指定された谷の底に降りた一行は、無数のダウラギリクラブに包囲される。ランクB++の強敵であったが、チーム蒼黒の団は慣れた連携と魔法、物理攻撃でこれを圧倒。途中、戦闘そっちのけでつまみ食いをする者もいたが、戦力的には圧倒的であった。
卵持ちの雌カニの発見と戦闘
雄ガニを背負い卵を分担させるという独自の生態を持った巨大な雌ガニ「エコモ・ダウラギリクラブ」が登場。その強靭な体と食欲、繁殖力に驚きつつも、クレイの魔王化による力で撃破。一部の卵を確保することに成功した。
卵の味とウニ寿司の再現
確保した卵はウニのような濃厚な味で、タケルは寿司風にして仲間に振る舞う。全員がその味に感動し、卵の価値を再確認。卵は保存し、月に一度の贅沢品として扱われることが決まった。
渓谷の浄化と資源化計画
谷底に蓄積された魔素を除去し、食物連鎖を復元するためタケルは清潔魔法を展開。浄化装置も設置し、ダウラギリクラブの生態系を保つ計画が始動した。大量のカニの甲羅は薪や資源として村と商人に提供された。
カニの文化とトルミ村への波及
この一件により、カニの肉と卵が蒼黒の団の重要な資源となる。甲羅は灯火具や薪としてトルミ村にも普及し、奇怪だが実用的な文化として定着した。村人たちは「蒼黒の団がやることだから」と疑問を抱かず受け入れていた。
13.5 番外編 トルミ村レポート
トルミ村の変貌と噂の広がり
ルセウヴァッハ領の北端に位置するトルミ村は、かつては平凡な田舎村であったが、近年その様相を一変させていた。薬効のある温泉、整備された街並み、美味な食事、エルフやドワーフの居住など、理想郷と称されるほどに発展を遂げていた。隣村の住民や商人たちは口々にその変化を語り、王都の新聞にも取り上げられるほど注目を集めていた。
神の加護と三か条による選別
トルミ村には「緑の神」の加護があり、特定の者しか村に入ることができないという。トルミに仇なす者、害する者、不利益をもたらす者は門を越えることすらできず、神の審判により拒まれるとされた。この加護は、外から村を利用しようとする者を排除する機能を果たしていた。
エルフとドワーフの存在と拠点の移転
村内にはエルフたちが住んでおり、ドワーフの高名な鍛冶職人グルサス・ペンドラススも工房ごとベルカイムから移住していた。彼の製品は引き続きベルカイムを通じて供給されており、即日配送という謎の物流網によって取引が維持されていた。
蒼黒の団の拠点と経済効果
冒険者チーム「蒼黒の団」がトルミ村に拠点を構えたことが、村の発展に大きく寄与していた。蒼黒の団は王から黄金竜の称号を賜った実力派であり、彼らの存在が観光と経済を活性化させた。ベルカイムでは祭事やイベントも盛んに行われ、観光客が増加。税収は過去と比較にならぬほどに伸び、貧民街の改築も進んでいた。
タケルの発想と温泉ランド計画
蒼黒の団の一員タケルは、さらなる地域振興を見据え、ベルカイムに大型の温泉テーマパーク「温泉ランド」を建設する構想を語った。エルフの力を借りず、地元住民による建築を想定しており、観光需要の拡大と雇用創出を目指していた。彼は常に領主ベルミナントの了承を得たうえで構想を実行しており、その姿勢は信頼と敬意を集めていた。
青年の正体と今後の可能性
タケルは素材採取家という地味な職業にありながら、その実力と発想力で辺境の地を潤し続けていた。巨人族のギルドマスターや領主ベルミナントからも高く評価されており、国政に携わるだけの力を持ちながらも、地元への愛着から留まり続けていた。彼の手により、ルセウヴァッハ領が一大温泉郷として栄える日はそう遠くないと予感させる結末であった。
◎電子版SS タケルと鞄
深夜の握り飯作りと仲間への想い
宿「鮭皮亭」で皆が寝静まった夜、タケルは一人台所に立ち、黙々と握り飯を作っていた。王都で発見した米が故郷と同じ味であったことに安堵し、帰ることのない故郷への懐かしさと、仲間たちが米を喜んでくれたことへの嬉しさに浸っていた。炊いた米は大鍋四つ分すべて鞄に保管し、握り飯も同様に蓄えていた。
「蒼黒の団」の食への掟と鞄の役割
どんな過酷な場所でも食事を欠かさないのが「蒼黒の団」の掟であった。鞄はその実現に欠かせぬ道具であり、調理道具から調味料、素材、採取キットに至るまで、生活に必要なあらゆるものを収めていた。タケルにとってこの鞄は、マデウスで生きていくための命綱であった。
鞄に宿る魂と付喪神の思想
夜更けに目を覚ましたブロライトが現れ、握り飯を作るタケルを見つけて声をかけた。二人は握り飯の具材や鞄の話をしながら、道具にも魂が宿るというハイエルフの格言「もの言わぬ者ゆえに、ものは者になりて魂を宿す」に話題が及ぶ。タケルもまた日本の「付喪神」の伝承を語り、ブロライトは感銘を受けて鞄を撫で、恩返しがあるに違いないと語った。
日常にある奇跡と感謝の念
ブロライトは握り飯を一つ手にして部屋へ戻り、残されたタケルは鞄を見つめながら、「もし鞄に魂が宿っていて喋り出したらどうしよう」と妄想を巡らせた。神様を名乗る青年からもらった特別な鞄であるがゆえに、マデウスでは何が起きてもおかしくないと思いつつも、最終的には静かに感謝の言葉を心に留めた。
「いつもありがとう」と。
同シリーズ








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