小説「素材採取家の異世界旅行記 6」感想・ネタバレ・アニメ化

小説「素材採取家の異世界旅行記 6」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
異世界ファンタジー/スローライフ系ライトノベル。
前世サラリーマンの主人公が“素材採取家”として異世界「マデウス」を旅し、素材探しと人々との交流を通じて日々を紡いでいく物語。
内容紹介
冒険者チーム「蒼黒の団」の一員として神獣を迎え入れたタケルは、異なる流派の素材採取家や強者たちと遭遇し、様々な依頼や困難に直面する。新たに覚えた魔法や前世の知恵を活かし、タケルは調査任務や素材研究、さらには王都での一時滞在を経て異世界での立ち位置を確立していく。
王都の宿「鮭皮亭」での出来事や、素材にまつわる出来事を通じて、タケルはただの旅人から“素材採取家”としての自覚や責任を強く意識するようになる。

主要キャラクター

  • 神城 タケル:異世界「マデウス」に転生した素材採取家。探査能力と料理スキル、素材への造詣を活かして旅を進める主人公である。冷静さと機転を併せ持ち、困難な状況にも柔軟に対応する性格である。

物語の特徴

本作の魅力は、「素材採取」という平穏なテーマを中心に据えながら、異世界での調査人との関わりを通じた成長や探究の過程を丁寧に描く点にある。戦闘よりも“発見”“交渉”“素材の知見”が重視される展開が特徴であり、典型的な異世界バトルものとは異なる“探索と知恵による冒険”のスタイルが際立っている。さらに、王都滞在や宿での出来事を通じて、旅の中での信頼関係や異文化理解、責任感の発芽といったテーマが浮かび上がる点が、本シリーズの深みを生んでいる。

書籍情報

素材採取家の異世界旅行記 6
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本  氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
発売日:2018年12月31日

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あらすじ・内容

大ヒット! 累計17万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第6弾! レアな素材をわんさか採ってくる、辺境の村を大改造してしまう、などなど色々やりすぎてしまったせいで、王都から呼び出しを受けることになったタケルたち。と言っても、罰せられるというわけではなく、彼らを引き抜こうという思惑があるらしい。所属を変えるつもりはないものの、王都に興味があったタケルは、その呼び出しに応じることにした。観光でもしてくるような軽い気持ちで王都入りした彼らだったが、いわく付きの宿「鮭皮亭」に宿泊したことをきっかけに、王都の闇に蠢く巨大な陰謀に巻き込まれてしまう。

素材採取家の異世界旅行記 6

感想

相変わらずの面白さで、あっという間に読み終えてしまった。今回は、タケルたちが王都からの呼び出しを受け、様々な騒動に巻き込まれていく物語だ。

これまでの活躍が目覚ましい「蒼黒の団」は、その特殊さゆえに、王都でもやはり目立ってしまう。楽園都市エクサルの入門検査に並んでいると、竜騎士マルス大佐が登場したり、滞在報告で訪れたギルド「キュレーネ」では、一癖も二癖もある人物たちと出会ったりと、冒険の予感が漂ってくる。

特に印象的だったのは、調査先生おすすめの宿「鮭皮亭」での出来事だ。猫獣人一家が経営するその宿は、なんとイヴィル中毒に侵されていた。家畜の餌として使われる万年草エペペ穀が、実はお米だったという発見も面白い。プニさんと縁のある毒が、こんなところにも現れるとは、一体何が起きているのだろうかと、先が気になって仕方なくなる。

監察官からのギルド移籍の誘いをきっぱりと断るタケルは、本当にブレない。その後の握り飯弁当販売という嫌がらせも、小物感満載で笑ってしまう。図書館でグリフォスと出会ったり、陰謀阻止のためにオークションにデルブロン金貨を出品したりと、今回も盛りだくさんの展開だ。

ベルミナントで出会ったティアリスや、その曾祖父であるグランツ卿の登場も、物語に深みを与えている。グランツ卿と調査先生が協力して陰謀を阻止する展開は、安心して読める。

タケルは、気に入った存在にはとことん肩入れするタイプだ。今回も、サルサール子爵の命運をかけて、その力を発揮する。ボロ宿「鮭皮亭」を救うために動き出すタケルたちの姿は、読んでいてとても気持ちが良い。

シリアスな場面でも、タケルのマイペースな思考は健在で、思わず笑ってしまう。王国転覆の陰謀という大きな事件に巻き込まれながらも、どこか飄々としているタケル。そんな彼だからこそ、どんな困難も乗り越えていけるのだろう。

アルツェリオ王国王都編が始まったばかりだが、今後の展開が非常に楽しみだ。タケルたちが、王都でどんな活躍を見せてくれるのか、期待せずにはいられない。次巻も必ず読もうと思う。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

主要キャラクター

神城タケル

異世界マデウスで素材採取家として活動する人物である。戦士や魔法使いと同等の危険を負いながらも、生活を支える基盤となる存在である。仲間と共に新しい土地を訪れ、珍しい素材を得る喜びを知った。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団・素材採取家。転生者。
・物語内での具体的な行動や成果
 地下墳墓探索で罠を回避し、修復や結界で仲間を守った。ベルカイムではイヴェル毒を診断し、鮭皮亭を救済した。米を発見して炊飯に成功し、握り飯やカレーライスを普及させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 素材供給によって領内の税収増加に寄与し、貴族や竜騎士からも注目を集めた。

クレイストン

元聖竜騎士の戦士であり、タケルの仲間である。強固な意志と抑止力を備え、王都でも一行の盾となった。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団・戦士。元竜騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都入城時に竜騎士マルスから敬礼を受け、旧縁を示された。鮭皮亭防衛や監察官対応でも指導力を発揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「栄誉の竜王」と呼ばれ、競売において名義を用いられた。

ブロライト

両性を持つハイエルフであり、調査や情報整理に長ける。常に冷静で、仲間の行動を補佐する。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団。ハイエルフ。
・物語内での具体的な行動や成果
 黄金天馬支店の立地共通点を発見し、城門と水路網の関連を指摘した。依頼掲示板でも効率的に案件を選び、物資運搬にも協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 幻惑魔石を用いて外見をぼかし、王都での秘匿行動に貢献した。

プニ

馬の神であり、タケル一行の移動手段となる存在である。外見を変えて注目を避けるなど、王都でも重要な役割を担った。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団。神格存在。
・物語内での具体的な行動や成果
 馬車を浮上させ、道程を短縮して王都近郊まで導いた。王都では人化して行動し、握り飯弁当の宣伝効果をもたらした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神名を避けるため「プニ殿」と呼ばれた。竜騎士や庶民からも関心を集めた。

ビー

古代竜の幼生であり、タケルに従う存在である。好奇心旺盛で、仲間の和みにも寄与した。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団。古代竜の幼生。
・物語内での具体的な行動や成果
 鮭皮亭では三姉妹の心の支えとなった。王都行列では従順に隠れて行動した。図書館では本を探すタケルに同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 幻惑装備で姿を隠し、王都での秘匿に協力した。

ベルミナント

ベルカイム領主であり、公正で誠実な統治者である。冒険者の意志を尊重し、領内の安定を築いた。
・所属組織、地位や役職
 ルセウヴァッハ領主。
・物語内での具体的な行動や成果
 蒼黒の団の活動を評価し、税収の増加を歓迎した。監察官の来訪に苦慮したが、ギルド規約を遵守し冒険者の自由を守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 正直な報告姿勢により、逆に王都から注目を招く結果となった。

クミル

王都七番街の宿「鮭皮亭」の女将である。逆境にも笑顔を絶やさず、宿の再生を目指した。
・所属組織、地位や役職
 鮭皮亭・女将。
・物語内での具体的な行動や成果
 受付で宿の切り盛りを行い、握り飯弁当販売にも対応した。イヴェル毒により感覚を失ったが、タケルらの治療で回復した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 宿を再興させ、竜騎士や貴族にも認められる宿へと成長させた。

ユルウ

鮭皮亭の料理長であり、クミルの夫である。料理への誇りを持ち、宿の味を支えた。
・所属組織、地位や役職
 鮭皮亭・料理長。
・物語内での具体的な行動や成果
 イヴェル毒で味覚を失ったが、解毒により回復し再び厨房に立った。米を使った料理やカレーライスを完成させ、鮭皮亭の看板を取り戻した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 米料理の普及により宿の評判を再興させた。

ユーリ

鮭皮亭の三姉妹の長女である。幼いながらも家業を支え、役割に誇りを持っている。
・所属組織、地位や役職
 鮭皮亭・長女。
・物語内での具体的な行動や成果
 握り飯弁当販売時に「売切れ御免」の看板を掲げて役割を果たした。末席の子供ながら宿の再生に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 仕事を楽しみ、宿の一員として認められた。

ミーリ

鮭皮亭の三姉妹の次女である。姉や妹と共に宿の仕事を手伝い、家庭を支えた。
・所属組織、地位や役職
 鮭皮亭・次女。
・物語内での具体的な行動や成果
 毒により感覚を失ったが、治療後は日常を取り戻し、家族と共に宿の業務を再開した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 回復後は家族の一員として以前の生活に復帰した。

ソーリ

鮭皮亭の三姉妹の末娘である。幼少ながら毒から回復し、感覚を取り戻した。
・所属組織、地位や役職
 鮭皮亭・三女。
・物語内での具体的な行動や成果
 回復後に花の匂いを楽しめるまでに治り、家族に安堵を与えた。ビーとも親しく接した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 心の支えとして仲間や宿泊者から親しまれる存在となった。

マルス・ディタ・エイルファイラス

竜騎士であり、クレイの旧知である女性騎士である。敬意を示す真摯な態度を持ち、若くして部隊を率いた。
・所属組織、地位や役職
 中央司令部第三騎士団第一飛竜隊隊長。竜騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都門前でクレイを師として敬礼した。鮭皮亭を巡る騒動では虚偽の訴えを見抜き、秩序を守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 若くして部隊指揮官を任され、竜騎士団内で高い評価を得ていた。

サルサール子爵(モタガトレス・ニョン・サルサール)

王都の貴族であり、商会を操って宿の地上げを画策した人物である。冒険者を見下し、強引に支配を広げようとした。
・所属組織、地位や役職
 コラーダ商会を率いる子爵。監察官。
・物語内での具体的な行動や成果
 蒼黒の団に王都ギルドへの移籍を迫った。黄金天馬を用いた地上げや、鮭皮亭への妨害の背後に存在した。競売でデルブロン金貨を落札したが、大公の前で狼狽した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大公の威圧を受け、権威は大きく揺らいだ。

グランツ卿(リュデイェルク・レーヴェルヒト・グランツ・グラディリスミュール)

王都の大公であり、国に唯一の大公爵位を持つ人物である。公正な姿勢を示し、タケルらを支援した。
・所属組織、地位や役職
 大公。国王レットンヴァイアー五世の後見人。
・物語内での具体的な行動や成果
 鮭皮亭を訪れて米料理を賞賛した。競売ではサルサールと競り合い、最後に正体を明かして場を制した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大蛇に喩えられる風格を持ち、王都の権力構造に強い影響力を示した。

ティアリス

ベルミナントの娘であり、蒼黒の団と親交を持つ令嬢である。礼儀を重んじ、気品を備えている。
・所属組織、地位や役職
 ベルカイム領主ベルミナントの娘。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都の鮭皮亭を訪れてタケルと再会した。遅報を咎めつつも再会を喜び、ブロライトとも挨拶を交わした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冒険者との関係を通じて、新たな視野を得た。

グリフォス・オーケン

王立魔道士養成学校の七年生であり、卒業を目前にした劣等生である。幻の書を求め、蒼黒の団に依頼を持ちかけた。
・所属組織、地位や役職
 王立魔道士養成学校七年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 王立図書館でタケルと出会い、幻書『創世の神と古代神』の入手を依頼した。報酬として八万レイブを提示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 卒業要件に迫られ、魔導士としての進退がかかっていた。

グリッド

ベルカイムのギルド職員であり、堅実な判断力を持つ。冒険者との信頼関係を築いた。
・所属組織、地位や役職
 ベルカイム冒険者ギルド・職員。
・物語内での具体的な行動や成果
 トルミ村整備や七色ウール飼育の報告に強い関心を示した。王都行きの際には買物依頼リストと小遣いを渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王都事情に通じ、蒼黒の団の行動を支援した。

エリア

王都ギルド「キュレーネ」の受付嬢である。新人であり、興奮から情報を口外してしまった。
・所属組織、地位や役職
 王都冒険者ギルド「キュレーネ」・受付。
・物語内での具体的な行動や成果
 滞在報告の手続き中に蒼黒の団のランクを声高に伝え、場内の注目を集めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新人ゆえの未熟さが目立ったが、正規手続きを完了させた。

パント

王都ギルドの受付職員である。冷静で、鑑定業務を担った。
・所属組織、地位や役職
 王都冒険者ギルド「キュレーネ」・受付。
・物語内での具体的な行動や成果
 デルブロン金貨を鑑定し、その真価を明らかにした。大声で叫び、会場を驚かせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 希少品の鑑定を行い、競売計画を後押しした。

展開まとめ

素材採取家という職業の説明
神城タケルは自らの職業である素材採取家について語っていた。異世界マデウスの町を一歩出れば凶暴なモンスターが徘徊し、気楽な散歩すら危険であった。薬草ひとつにしても効能や採取方法を誤れば価値を失うため、知識と経験が不可欠であった。料理や嗜好品から装飾品に至るまで、素材採取家は生活を支える縁の下の力持ちであった。戦士や魔法使いほど華やかではないが、同等の危険を背負って活動する職であると説明した。タケルは素材採取家であったからこそ仲間と出会い、新天地や珍しい素材を得る喜びを知ることができたと振り返った。

薄暗い部屋での会話
場面は変わり、黒檀の机に羊皮紙が並ぶ薄暗い部屋で、少年のような声を持つ人物が影と対話していた。その人物はひと月で得られた信じ難い数値を示し、大陸の端の田舎町で需要が発生している理由を問いかけた。弾む声とは裏腹に、羊皮紙は握りつぶされ、冷酷な言葉とともに影へ投げつけられた。その人物は使えない者を切り捨て、確かな情報を自らの目で拾うよう命じた。影はおおせのままにと応じた。

1 遥か彼方の道のりの、その先にある都へと

執務室での雑談と緊張感の再確認
神城タケルは揚げ物への欲求から天ぷらを連想し、ベルミナントに問われて答えに窮していた。クレイはよそ見をたしなめ、場を引き締めた。薄暗い執務室ではハデ茶が振る舞われ、ビーは焼き菓子をねだっていた。タケルはベルミナントの人柄と領内の安定を思い返し、ルセウヴァッハ領の平穏が日々の努力に支えられていると理解していた。

トルミ村整備と七色ウールの秘匿
一行はトルミ村の整備とチームアジト設置、温泉やキノコ栽培、レインボーシープ飼育の開始を報告していた。七色ウールの可能性はギルド職員グリッドの関心を強く引いたが、繁殖と収穫時期の都合から当面はエルフに優先して与える方針であった。飼育の核心は領主のみに伝え、外部の殺到を避けるため秘匿とした。

ベルミナントの統治と監察官到来の懸念
ベルミナントは税収の伸長を喜びつつ、王都の監察官の来訪に頭を悩ませていた。収支の帳票は簡潔であったが、些細な差異を追及する監察実務の苛烈さが負担となっていた。背景には、ベルカイム産回復薬の品質向上と高難度依頼の高回転があり、町の税収は急増していた。品質向上はリベルアと若手薬師の育成と、タケルが採取する良質素材の供給に起因していた。

蒼黒の団への王都召喚と所属移動の火種
監察官は急伸の理由を質し、結果として蒼黒の団に王都召喚が届いた。クレイは上流階級の虚飾に利用される危険を指摘し、所属移動の強要を警戒した。タケルはベルミナントの正直な申告が招いた事態を察しつつ、領主に非はないと受け止めた。

ギルド規約の確認と王都行きの決断
ベルミナントは冒険者の意思尊重というギルドの掟を再確認し、強制移籍は不可能であると伝えた。タケルは監察官との面談を機に王都へ向かう決断を下し、面倒事の芽を摘みつつ活動の自由を守る方針を固めた。高級石鹸など都の風聞も関心材料であり、一行は準備に入った。

出立準備と目立たぬための工夫
ギルドではウェイドへの説明後、アリアンナが慰留し、グリッドは買物依頼リストと共に小遣いを渡した。移動には浮上機構を備えた馬車を用いるが、純白のプニが注目を集める恐れがあり、王都手前での騒動を避けるためプニはまだらの一角馬へと姿を変える手配となった。ブロライトはハイエルフであることが識別されやすいため、幻惑系の魔石で外見を常時ぼかす対策を講じた。クレイは目立つ性質を隠しきれないものの、行動は自制する前提となった。

道程の見積もりと移動計画
ベルカイムから王都までは通常の馬車で三か月と見積もられたが、プニの能力により短縮の余地があった。純白の馬の希少性が盗難や干渉を招くというグリッドの忠告を踏まえ、速度と目立たなさの両立を図る構えであった。

王都への期待と不穏の予感
クレイは王都に縁者がいると述べ、竜騎士の存在が示唆された。タケルは夜会での扱いなど不安を抱えつつも、新天地での素材や香辛料の入手に胸を躍らせた。一行は面倒事の到来を予期しながらも、それを乗り越える意思を固め、王都行きを最終決定した。

2 大瓶片手に飴をむさぼる

出立と道中短縮
一行は夜明け前にベルカイムを発ち、王都行きはベルミナントとギルドのみに伝達していた。土産の依頼を避ける意図である。当初は半月前後の滞在計画であったが、状況次第で変動する見込みであった。街道は行商や冒険者で活況を呈していたが、途中の大森林でプニが本気を出し、森中を強行突破して四日で王都近郊へ到達した。タケルは道中の風景を味わえず、拍子抜けを覚えた。

王都望見と呼称変更の理由
地平線の先に首都エクサルの光景が現れ、山腹の城が輝いていた。クレイは王都の宗教事情を踏まえ、ホーヴヴァルプニル神の名を避けるためプニ殿と呼ぶ方針を示した。創世神を中心に多様な信仰が混在する王都では、神名を軽々に口にすることで不敬と受け取られる危険があるためである。

秘匿事項と行動規律
タケルはプニとビーが神的存在である事実を厳重に秘匿する方針を再確認し、ビーには飛行や食事時の振る舞いに注意するよう諭した。ブロライトとプニには自由行動の禁止、危難時は即時退避を徹底させた。王都には人さらいの類が存在するとの情報により、クレイの威圧を盾に集団行動を維持する計画であった。

甘味と偽装の手配
プニはベルカイム発の甘味キャラメルミルクレープを気に入り、道中で平らげて機嫌を保っていた。入城前にはプニを人化させ目立ちを抑制し、ビーにはリブ作製のレインボーシープ着ぐるみを着せて翼を収納させた。ブロライトはハイエルフ特有の識別を避けるため幻惑系魔石を携帯し、クレイは随伴して抑止力を担った。

楽園都市エクサルの概略と入門行列
エクサルは聖湖ルカニドを抱き、グリロス山脈に守られた巨大都市であった。統治者と執政の名、産業や教育機関の充実、名物料理や推奨宿の情報までが調査資料に記されていた。一行は監察官の召喚状と領主の紹介状を携え優先列に並んだが、それでも長蛇で進行は遅延した。城壁は高大で結界の魔力が感知された。

結界比較と自覚
タケルは王都の結界を前に、トルミ村で自作した結界魔道具がこれを凌ぐ強度であった事実を改めて自覚した。村の常識を基準に出力を設定した結果であり、ジェロムのもういいという言葉の真意を悟って内省していた。

入門待機の様子
列中でビーは鳴きまねを交えながら従順に隠れ、タケルもフードを深く被って目立たぬよう振る舞った。プニは人化のまま大瓶の飴を頬張り、ブロライトははぐれぬようクレイの外套の裾を握って行列の進行を待った。

竜騎士の出迎えと旧縁の再会
門の通用口から竜騎士が現れると、周囲は静まり返った。想像した派手な飛竜降下はなく、整備の行き届いた甲冑姿での登場であった。竜騎士は青龍卿としてのクレイを発見して敬礼し、職を辞した後も師であると激越に敬意を表した。名はマルス・ディタ・エイルファイラスであり、兜を脱いだ黒髪の女性であった。タケルは故郷を想起させる色に一瞬言葉を失い、王都での波乱と邂逅の始まりを実感した。

3 異国情緒のその中で、興奮しきりの屋台旅

入門直後の光景と屋台通り
通用門の小部屋を抜けた一行は、陽光と喧騒、匂いの渦に呑まれた。石畳と街灯が整然と並ぶ大通りの両側には屋台が密集し、王宮へ続く緩やかな坂まで人波が続いていた。種族も品も多彩であり、タケル、ブロライト、ビーはいっせいに歓声を上げた。

竜騎士マルスの案内と忠告
行列を離れて現れた竜騎士マルス・ディタ・エイルファイラスが一行に声をかけ、裏通り深部の危険を諭した。彼女はクレイの旧知であり、屋敷への宿泊を熱心に勧めたが、警備兵に連行され不在となった。クレイは彼女が中央司令部第三騎士団第一飛竜隊(通称サンイチ)の若き指揮官であると説明し、その才覚を評価した。

雑踏の中の統制と秘匿
群衆の視線が注ぐ中、タケルはビーをローブ下に留め、ブロライトはクレイの外套を掴んで行動した。プニは人化して目立ちを抑えた。一行は警戒を解かず、人さらいなどの危険に備えて集団行動を維持した。

屋台巡りと新奇の味覚
王都の屋台には鮮やかな甘味と香辛料、玩具や機巧人形が並び、一行は次々と買い求めた。タケルは香辛料ペーストを見つけ、カレー再現の可能性に歓喜して壺をまとめ買いした。荷は各自で分担し、クレイも壺を背負うことになった。

ギルド「キュレーネ」での滞在報告
中央広場に面する四階建ての重厚な石造ギルドに到着し、犬獣人の受付エリアに滞在報告を申し出た。トレイ型鑑定魔道具の前でチーム証明書と各自のギルドリングを提示すると、エリアが興奮のあまりランクや認定を大声で口走り、場内の冒険者たちに一気に素性が知れ渡った。エリアは新人であり、タケルは内密を求めつつも手続きを進めた。

依頼掲示板での選択と経済観
クレイとブロライトは依頼掲示板から討伐や食材探索の依頼を次々と選び、タケルは放置されていた薬草採取依頼の高額報酬に驚いた。王都では物価同様に地味依頼の報酬も高く、生活余力の乏しい冒険者ほど敬遠しがちな依頼が残りやすい事情があった。一行は保管中の素材で即応できる案件を束で受注し、宿で整理して持ち込む段取りを整えた。

羨望と火種
地味依頼を根こそぎ受ける一行に、場内の嫉視が募った。周囲の緊張が高まるなか、プニは相変わらず男たちに囲まれ貢がれており、目立たぬはずの計画が早くも揺らぎ始めていた。

4 七番街の奇妙なお宿、鮭皮亭

ギルドでの手続きと注意事項
タケルたちは王都ギルド「キュレーネ」で放置依頼を一括受注し、滞在届を提出。受付エリアから①ギルドリング常時装着、②周辺の“縄張り”配慮、③私闘厳禁(口論でも処罰対象)の三点を教わる。

宿探し―七番街「鮭皮亭」へ
華やかな二番街の高級宿ではなく、調査の推しだった七番街の「鮭皮亭」を選択。人通りは少なく静かだが、宿は清潔で接客も丁寧。女将クミル、料理長ユルウ、三姉妹(ユーリ/ミーリ/ソーリ)が迎える。各種族向けの部屋に加え、木製大浴槽の風呂まで完備――のはずが、給水・加熱の魔道具は“人為的に”壊されていた形跡。

風呂の復旧と“最臭兵器”事件
タケルが水を補充・加熱し、魔石の再装填と簡易結界で湯設備を復旧。入浴直後、厨房から凶悪な悪臭と煙が発生し、場は大混乱。タケルの「清潔」で空気を浄化すると、ユルウが鍋を落として号泣。どうやら“料理が異常な臭いになる”状態が続いているらしい。

鮭皮亭に起きた異変の核心
聴取の結果、半年前から“妙な冒険者”が出入りし始め、湯設備破壊や嫌がらせが発生。以降、家族全員が「味覚喪失・嗅覚喪失・色覚異常」に。タケルが調査で確認した診立ては――イヴェル中毒(初期)。ベルミナントの奥方ミュリテリアの件で知るあの禁制毒で、王都流入は阻止されたはずだが、抜け道があった可能性が浮上。

方針決定―“助ける理由は、うまい飯が食べたいから”
タケルは「ユルウの自慢の料理を食べたい」と宣言し、チームも同意。

  • 治療:タケルが解毒薬を投与し、白湯・睡眠で安静。経過を見て回復薬や治癒も併用予定。
  • 原因究明:クレイ&ブロライトが近隣とギルドで情報収集(嫌がらせ冒険者の特定/毒の入手経路)。
  • 資材:プニはイーヴェルの花を採取(用途はタケルが検討)。
  • 保護:ビーは三姉妹の心の拠り所に。宿は結界下で防護強化。

清潔・気遣い・風呂――本来なら繁盛するはずの宿を蝕んだのは、禁制毒イヴェル。タケルは治療を進めつつ“誰が、なぜ、この家族に”を突き止める決意。回復後は、王都の味を、ユルウの手で――そのための戦いが始まった。

5 実るほど、頭を垂れる稲穂かな

高級宿の実態調査
王都滞在五日目、タケルとクレイは宿屋事情を調べるため、二番街の高級宿「黄金天馬」に宿泊した。名物料理として出された白い粥は驚くほど味がなく、客はそれを美味いと称賛していた。さらに支配人はギルドリングの色によって接客態度を変え、客を差別する姿勢を隠さなかった。部屋も掃除が行き届かず薄汚れ、翌朝には「案内料」として追加料金を請求される始末であった。二人は鮭皮亭の方がよほど居心地が良いと結論づけた。

鮭皮亭での食事と回復
一方、鮭皮亭ではタケルが麦飯粥や雑炊を振る舞い、イヴェル毒に苦しんでいたクミル一家の回復が進んでいた。ユルウは徐々に味覚を取り戻し、末娘ソーリも花の匂いを楽しめるほど回復していた。ブロライトとプニは市場で仕入れた野菜を気に入り、珍しい食材を使った料理に夢中になった。王都には豊かな食材と香辛料が揃っていたにもかかわらず、高級宿の食事が味気なかった理由に疑念が生じた。

家畜の飼料との邂逅
食材探しの最中、ユルウが家畜用の飼料「エペペ穀」を見せた。タケルはその姿と匂いに驚愕し、故郷を思い出す。「お米」と呼んで土鍋で炊くと、香ばしい匂いと甘みが広がり、まさしく白飯となった。タケルは感動のあまり涙を流し、クレイや仲間たちも塩むすびや肉炒めの丼飯を喜んで食べた。米は麦より安価で流通しやすく、料理の幅も広がることから、鮭皮亭の新たな看板食材となる可能性を示した。

監察官の邸宅での対面
やがて蒼黒の団は監察官の呼び出しに応じ、貴族モタガトレス・ニョン・サルサール子爵の邸宅を訪れた。応接室は悪趣味な装飾で溢れ、客への配慮が欠けていた。長時間待たされた挙句に現れた子爵は、冒険者を見下す態度を崩さず、蒼黒の団を王都ギルド「キュレーネ」へ移籍させようと迫った。

勧誘の拒絶と対抗策
タケルは笑顔を崩さず、各地のギルドからの勧誘証明書を提示して移籍を拒否した。ドワーフ王国やエルフの郷からの証明には王や女王の署名もあり、子爵は言葉を失った。最終的に子爵は激怒して部屋を去り、蒼黒の団は屋敷を後にした。帰り道で暗殺者の気配を察したタケルは転移門を展開し、一行は鮭皮亭へと無事に戻った。

――これにより、王都における冒険者と貴族の関係性の厳しさが明らかとなりつつ、蒼黒の団は新たな食材「お米」という希望を手にしたのであった。

6 握り飯弁当、はじめました

カレーライスの完成
タケルとユルウは試行錯誤を重ね、ついにカレーライスを作り出した。大量の香辛料と屋台で手に入れたペーストを組み合わせたその味は、タケルの記憶にあるおうちカレーを思わせるものだった。炊きたての白飯と混ぜ合わせると香りと辛みが絶妙に絡み合い、蒼黒の団やプニも夢中で食べ尽くした。馬の神であるプニが追加を求めたことで、この料理は正式に認められることになった。

鮭皮亭の復活
イヴェル毒に苦しんでいたクミル一家は全員が回復し、鮭皮亭は再び活気を取り戻した。ユルウは味覚を取り戻し、涙を浮かべながら厨房に立ち続けた。カレーライスは子供向けと大人向けに味を調整し、さらに辛さを増やすことも可能としたため、多くの客に受け入れられた。

握り飯弁当の誕生
タケルは持ち帰り用の弁当を考案し、米を炊いて握り飯にして販売することを提案した。防臭と防腐効果を持つデンドラの葉に包むことで保存性を高め、種族ごとに大きさや具材を調整した。エペペ穀が家畜用の飼料であることに抵抗を示す者もいたが、ブロライトやプニが美味さを絶賛したことで人々の関心を引いた。握り飯弁当は庶民にも手が届く価格で提供され、やがてカレーライスを超える人気を得た。

宣伝と広がる影響
ブロライトとプニが人前で握り飯を食べることで宣伝効果を発揮し、さらにクレイも竜騎士たちに紹介した。竜騎士が常連となったことで鮭皮亭の評判は貴族層にも伝わり、宿泊客も増加した。清潔な部屋と風呂、そして食事を備えた宿泊は高額であっても需要が高く、鮭皮亭は繁盛するようになった。

不穏な影と竜騎士たちの介入
順調な経営の中、冒険者風の二人組が虫入りの握り飯を持ち込み騒ぎを起こした。明らかな言いがかりだったが、マルス大佐とその部下たちが介入し、虚偽を見抜いて事態を収めた。竜騎士たちの庇護により鮭皮亭の治安は守られ、さらに信頼を集める結果となった。タケルは騒動の裏に不穏な思惑を感じ取り、チーム内で情報を共有して警戒を強めた。

――こうして鮭皮亭は、カレーライスと握り飯弁当を柱として繁盛し始め、王都での新たな展開を迎えることになったのである。

7 冴えているのも、異能です

鮭皮亭を狙う黄金天馬の策謀
夕食後、蒼黒の団はクレイの部屋に集まった。広い部屋であり、仲間が集まっても不自然に見えないためである。タケルは昼間の騒動の裏を調べた結果を告げた。鮭皮亭で難癖をつけて暴れた者たちは、黄金天馬の支配人に雇われていたことが判明した。黄金天馬は王都で人気を誇る宿であり、背後には大商会コラーダを率いるサルサール子爵がいた。支配人は鮭皮亭の土地を買い取ろうと高額を提示したが、クミル夫妻が断ったため、強硬策に転じたのである。地上げの一環として不埒者を送り込み、さらにはイヴェル毒まで用いて一家を蝕んだと考えられた。

イヴェル毒の恐怖と救済の決意
クミル一家は味覚や嗅覚、さらには色覚を失い、料理人ユルウは評判の腕を振るえずにいた。宿に活気が失われた理由はそこにあった。タケルは過去にベルミナントで用いた解毒薬を取り出し、病を癒す方策があると仲間に伝えた。クミル一家は涙ながらに希望を抱き、蒼黒の団も救済を誓った。タケルは毒の由来を追及し、原因を断たねばならぬと語った。竜騎士たちが通うことで一時的に安全は保たれていたが、いずれ自分たちが王都を去れば、鮭皮亭は再び狙われることになる。そのため、根本的な策を講じる必要があった。

米を広める新たな計画
タケルは鮭皮亭を守ると同時に、王都で米料理を広める構想を仲間に示した。カレーや握り飯を宿の専売にせず、他の食堂や宿にも炊き方を伝授することで鮭皮亭だけが目立つ状況を避ける狙いであった。米は多彩な料理を生み出せる最強の食材であり、王都全域で受け入れられれば鮭皮亭は過剰な嫉妬を買わずに済む。仲間たちはタケルの周到な発想に驚きつつも賛同し、策を進める準備を整えた。鮭皮亭を守る戦いは、同時に米文化を広げる試みでもあった。

王立図書館での邂逅
数日後、タケルとビーは王立図書館を訪れた。王都の地図を得て状況を把握するためである。荘厳な建築の中には膨大な蔵書が並び、冒険者として入館できるのは希少な資格であった。地図を探す最中、タケルは高い棚にある本を取れずに困っていたが、そこへローブを纏った青年が現れ、魔法で本を取り出した。彼の名はグリフォス・オーケン。王立魔道士養成学校の七年生であり、卒業を目前にした劣等生でもあった。卒業のために必要な研究資料として、幻の書『創世の神と古代神』を探していたのだ。幾多の魔導士や探査士が見つけられなかったその書を、彼はどうしても入手したいと願い、タケルに依頼を申し出た。

依頼と葛藤
オーケンは正式にギルドを通して依頼を出すと告げ、報酬として八万レイブを提示した。あまりに高額な報酬にタケルは揺れ動いたが、鮭皮亭の件もあるため即答は避け、仲間と相談すると返答した。だが心の奥では、創世神や古代神を記すというその本への好奇心が強く燃えていた。マデウスに呼ばれた理由を知りたいわけではない。ただ神々の真実に触れてみたいという衝動があったのである。

8 まさかの陰謀、よもやの展開

図書館での地図作成と意見交換
タケルは王都案内図を写し、鮭皮亭へ戻ってクレイ、ブロライトらと地図を広げて意見を求めた。書き写した地図には黄金天馬の支店位置や周辺の要所が記されており、仲間たちはそれを基に情報を出し合った。

鮭皮亭と黄金天馬支店の立地事情
鮭皮亭が閑静な場所で営業できていたのはユルウの接客と土地代の安さによるものと判断された。黄金天馬という商会のブランド力があれば辺鄙な場所でも支店が成立する点が話題となり、サルサール子爵の意図は単なる商会拡大ではないかという観測も出た。

支店配置に見られた共通点の発見
ブロライトが支店位置を指し示しながら検証した結果、黄金天馬の支店は例外なく古い城門跡の近くにあるという共通点が浮かび上がった。城門跡はかつて王宮を守るために用いられた構造物であり、その配置は偶然とは思えないものだった。

城門と地下水路・水道網の関連
クレイは城門付近には必ず地下水路や水道施設が通っていると指摘した。王都全域へ水を送る聖湖ルカニド由来の水路網が城門近傍を経由している可能性が示され、城門近くに支店が集中する理由が水道との関係を示唆した。

イヴェル毒混入の疑念と危機感
タケルはもし城門付近の水道にイヴェル毒が仕込まれれば広範囲に被害が及ぶ懸念があると述べた。量や竜騎士の警備等で全容は不確かであったが、単なる地上げや商会の利得にとどまらない深刻なリスクの可能性が浮上した。

場の軽減と蔵書庫での検証決意
ビーがテンテコの実で酔うなど一時的な緩和があったものの、クレイは真剣な表情で蔵書庫へ赴き城門や水道に関する文献を確認する必要を主張した。確証が得られるまでは断定を避けつつも、追加調査と関係資料の確認を行う方針が固まった。

9 策略、推測、そして、絶叫

水路地図の確認と鮭皮亭の地下経路
タケルとクレイ、ブロライトは図書館で王都の水路地図を確認し、メイン水路が城門跡に沿って聖湖から王宮へ延び、各井戸や施設へ枝分かれしていることを把握した。鮭皮亭の床下には分岐水路へ降りる隠し階段が記されており、古代カルフェ語系の難解な表記ゆえ人々の記憶から消えていたことが判明した。タケルはこの立地が秘匿行動に最適であると理解した。

水路の来歴と企図の推測
図書館の談話室で再考した一行は、水路が約百五十年前、敵襲に備えた地下避難道として掘られ、その後も水路として現役であった事実を整理した。サルサール子爵が鮭皮亭を執拗に狙う理由として水路利用の可能性が最も合理的であると結論づけ、竜騎士の捜査が及ぶ前に子爵が逃走しかねないと危機感を共有した。

直接対峙の回避と接近手段の模索
クレイは再面会を提案したが、タケルは先の一件で子爵の面子を潰した経緯からそれを否定した。ブロライトは貴族への反発を示したが、タケルは私怨を抑え、犯罪的手段や屋敷侵入を避けつつ接近する方策の必要性を確認した。

ギルド主催オークションという迂回策
クレイの「珍品収集」を手掛かりに、タケルはギルド主催の競売に希少品を出して子爵を会場へ誘引する策を立てた。サルサールが目新しい高価品を自ら見に来る性向を踏まえ、出品者と購入者の面会制度を利用して自然に接触する方針を固めた。

王都の競売制度と参加条件
王都では十日に一度の定期開催で、会場は下層一番街の専用施設であった。参加には冒険者ランクB以上などの制限があり、前回最高落札は古代黄金の鞍の三百万レイブであった。参加費は一人一万レイブとされ、タケルは相場の高さに驚愕した。

出品物の選定とデルブロン金貨
タケルは希少性から黄金製品を想起し、地下墳墓で受け取った古い金貨の出品を検討した。ギルド受付のパントが鑑定用魔道具で確認すると、その金貨がデルブロン金貨であると判明し、パントは大声で叫んで周囲を驚かせた。タケルは計画が貴族層の関心を十分に引き得ると確信したのである。

10 再会と、出会い

競売出品と価値の共有
タケルはギルド主催の競売にデルブロン金貨を出品する件を鮭皮亭で報告し、その希少性と収集家の嗜好を説明した。ブロライトは文化財を守る意義に強く同意し、クレイは出所を詮索されにくい肩書として「栄誉の竜王」名義の出品を渋々了承した。

目玉化の効果と狙い
タケルは金貨が目玉となれば貴族の関心が集まり、見栄を張るサルサール子爵も会場に現れると見込んだ。さらに会場周辺で握り飯弁当を売り、米の普及と鮭皮亭の知名度向上を両立させる方針を語った。

礼装の必要と装いの相談
クレイは王都の競売では礼服が必須と指摘し、普段着での参加を戒めた。ブロライトはタケルに似合う装束を探すと申し出たが、タケルは華美な衣装を避けたい意向を示し、相応の礼装の手配を課題として残した。

ティアリスの来訪と歓待
タケルが連絡を怠っていたため、ベルミナントの娘ティアリスが鮭皮亭を訪れ、遅報を咎めつつ再会を喜んだ。初対面のブロライトは淑やかに挨拶し、ティアリスはその気品に見惚れた。

グランツ卿の登場と食事の所作
ティアリスに伴われ、曽祖父のグランツ卿が来訪した。老紳士は鮭皮亭で握り飯弁当と小魚の佃煮を上品に味わい、米料理の魅力を称賛した。店内外は貴族の登場に緊張と注目が走った。

救命への謝意と後ろ盾の申し出
グランツ卿はミュリテリアの病治療や毒物流入の阻止に触れ、タケルとクレイへ深い謝意を述べた。そのうえで望みを問う姿勢を示し、援助を約した。

爵位辞退と価値観の確認
爵位提供の提案に対し、クレイは過去と同様に辞退し、タケルも冒険者として広く世界に触れたい意志を明言した。グランツ卿はその志を快く評価し、支援継続の意向を強めた。

実利的支援の要請
サルサール対策と競売出席を見据え、タケルはまず礼装の貸与を求めた。グランツ卿の後ろ盾が得られたことで、鮭皮亭の安全と当面の計画遂行に弾みがついたのである。

11 双子の兄と、小さなメイド

中層の別邸へ招かれる一行
タケルが礼服を求めた件を受け、グランツ卿は蒼黒の団を中層の別邸へ正面玄関から招いた。執事はレイモンドに瓜二つの兄ジェームズであり、応対は小人族メイドたちが担った。彼女らは手際よく採寸と仕立て直しに取りかかり、衣装は即日で式服相当に整えられた。

装いの支度と面々の変貌
タケルには金糸銀糸の刺繍を施した黒基調の礼装が与えられ、所作を整えると印象が一変した。クレイは竜騎士時代の正装意匠を残す礼服へと仕立て直され、ブロライトはティアリスの所蔵から選んだ純白の礼装を纏って凛々しさを増した。ティアリスは終始世話を焼き、奥方シェリルは温かく見守った。

もてなしと人となり
鮭皮亭での出会いを機に、グランツ卿は冒険者である一行を格として遇し、茶菓と客室、風呂まで惜しみなく整えた。使用人への労いの言葉も欠かさず、器量の大きさが窺えた。タケルとクレイはサルサール子爵や鮭皮亭の件を相談対象と見定め、屋敷に泊まって腹蔵なく語ることを決めた。

王家の痛恨とイヴェル毒の禁忌
執務室での談話で、グランツ卿は五十年前の王家連続急病の真相――側室によるイヴェル毒の暗躍と、その後の極刑・廃絶――を明かした。ゆえに今回、宿屋一家の中毒は王都の禁忌に触れる由々しき事態であると認識が一致した。

調査の才覚の披露
タケルはグランツ卿の歩き方や所作から慢性的な腰痛(いわゆる魔女の一撃)を言い当て、己が「調べること」に長ける資質を静かに示した。これにより信頼は深まり、競売・礼装の段取りからサルサール対策まで、同卿の後ろ盾を得る体制が整ったのである。

12 王様の定義と、悪だくみ?

暖炉の前の密談と不正会計
グランツ卿の別邸で、タケルはビーを膝で寝かせつつ、コラーダ商会の粗雑な決算帳を受け取った。黄金天馬の食費が人件費を上回るなど数値は明らかに不自然であり、監察官であるサルサール子爵が職権で通した疑いが強まったのである。

王権と元老院をめぐる応酬
暖炉を囲んでグランツ卿とクレイは現王の統治に議論を交わし、腐敗した一部元老院の影響で王権が形骸化している現状を嘆いた。タケルは伝統と悪習を峻別し「合わぬ理は改めよ」と進言したうえで、疑わしき者を一堂に会す場として競売を提案した。

“競売で炙り出す”作戦
タケルは自らの調査能力を示しつつ、競売に容疑者を招いて一気に内情を暴く策を提示した。グランツ卿は一度逡巡したが、翌朝ジェームズ執事を介して「調べてほしい名簿」を託し、事実上の後ろ盾を与えた。

鮭皮亭の出陣計画と価格設計
鮭皮亭では競売当日に握り飯弁当(三種:塩・佃煮・カレー)を一折500レイブで販売する方針を決定した。名目は限定五百食だが実数は千食を用意し、限定告知で行列を作る狙いである。隣には汁物屋を誘致し、鮭皮亭ではエプル茶を追加50レイブで供する相乗効果の導線を敷いた。米の追加発注や保存箱の魔法準備も整え、評判拡散を優先して利益は薄利に設定したのである。

人員配置と“叫べる”助っ人
競売場内はクレイとブロライトが護衛兼対応、プニは関心が切れれば外で弁当の顔役を担う段取りとした。販売列の捌き強化のため、計算ができ愛嬌のある“叫ぶのが得意な彼女たち”を助っ人に召集する方針を固めた。

医師手配と安全網
クミル家には再検診の段取りを付け、イヴェル中毒の経緯を専門家に共有する体制を整えた。グランツ卿の支援と名簿を梃子に、競売当日までにサルサール子爵とその周辺を“露出の場”へ引きずり出す周到な包囲が開始されたのである。

13 お日柄も宜しく、競売開催

特例の競売とデルブロン金貨
ギルド主催の競売が急遽開催。鑑定士アバルスターの太鼓判により希少なデルブロン金貨(一枚)が目玉となり、冒険者から貴族まで噂が瞬く間に拡散した。出品者が「栄誉の竜王」クレイストンと知れて信頼も跳ね上がる。

会場変更と思わぬ追い風
下層の予定会場では収容不能となり、中層五番街のロザムンド劇場へ格上げ。中層ゆえの通行制限で不穏な用心棒は入りにくく、サルサール子爵の動きも公然化しづらい——タケルたちには好条件となった。

出張・鮭皮亭:販売作戦の現場
下層の中央通りで「握り飯弁当」販売を開始。列整理は呼んでもいない竜騎士隊、マルス大佐が主導してくれ、大混雑が一瞬で鎮静化。ギルド受付のエリアとパントが売り子に入り、「限定五百食」(実質は千食の隠し在庫)戦略とゴミ管理・ドリンク導線まで抜かりなし。

正装で臨む入場と場内の空気
クレイ(改装礼服)、ブロライト(純白礼装)、プニ、そしてタケル(新調感あふれる礼装)は劇場ホールへ。天井画と神々の巨像が見下ろす豪奢な空間には、厳重な警備兵と要所の竜騎士。プニは馬神像に上機嫌、ビーは幻惑したリュックに潜み、タケルは詰襟レースの違和感に耐える。

下見フロアと獲物の見極め
開幕前の展示で目玉の金貨前は黒山の人だかり。タケルは高額装飾品に興味薄、ブロライトも「魔石以外の宝飾は不要」と一蹴。目的はあくまでサルサール一派の炙り出し——大規模化した会場と警備配置は、調査を遂行するための“舞台装置”となったのである。

14 木製の腕輪と、黄金の文鎮

地味な展示品の発見
競売会場で人気の品の周囲は混雑していたが、不人気な展示品の前は人影が少なかった。タケルはビーの反応を受け、木製の腕輪を注視した。それはユグドラシルの枝で作られた人工遺物であり、創王ホルブリック・シャナンが所持していたとされる品であった。隠匿の魔法が施されており、外見からは価値が分からなかったが、タケルは安値で落札することに成功した。

競売の進行と貴族席
競売は続き、タケルたちの席からは舞台全体が見渡せた。サルサール子爵は黄金製の品を次々に落札し、前列の良席を占めていた。舞台袖の貴賓席には高位貴族が陣取り、グランツ卿の姿も確認された。彼は余裕を見せながら競売に参加していた。

黄金の文鎮の争奪
豪華な宝石をあしらった黄金の文鎮が出品されると、サルサールと貴賓席の声の主であるグランツ卿が競り合った。値は急騰し、最終的にサルサールが640万レイブで落札した。会場は大きな拍手に包まれ、彼は誇らしげに振る舞ったが、予想外の高額に内心は動揺していた。

デルブロン金貨の登場
最後に舞台へと運ばれたのはデルブロン金貨であった。磨き上げられたその姿は強烈な輝きを放ち、観客の熱気をさらに高めた。ブロライトはそれが竜の血を起源とする黄金「エンヴァルタス・ラティオ」であると説明した。プニはその竜に強い嫌悪を示し、話題を拒絶した。

過熱する競りと巨額の提示
開始と同時に札が乱舞し、価格は急速に上昇した。やがてグランツ卿が1000万レイブを提示し、会場を震撼させた。サルサールも負けじと応戦し、金額は2000万に達したが、グランツ卿は更に2500万を宣言した。劇場は静まり返り、史上最高額の攻防が繰り広げられた。

15 大蛇な爺様、不敵に微笑む

史上最高額での落札
王都エクサルの競売は、サルサール子爵が3000万10レイブでデルブロン金貨を競り落とし幕を閉じた。過去に類を見ない高額であり、会場には驚きと熱狂が広がった。

保管用魔道具の購入義務
落札後、金貨は特殊な保管箱に収める必要があると告げられた。価格は100万レイブであり、サルサールは激しく反発した。だが、研究所製の魔石による温度調整が施されており、貴重な遺物を守るためには必須とされた。

サルサールの狼狽と調査
サルサールは大金を用意できずに狼狽し、支払いを巡って司会者と口論した。タケルは「調査」により、彼の背後に盗賊団「毒蜘蛛の戦慄」やストルファス帝国系商会、さらには元老院の関与があると知った。

グランツ卿の登場
その場に現れたのは、競売でサルサールと競り合ったグランツ卿であった。地味な装いに身を包んでいたが、ギルドマスターは彼を大公リュデイェルク・レーヴェルヒト・グランツ・グラディリスミュールと紹介した。

大公の威圧と余韻
大公は現王レットンヴァイアー五世の後見人であり、国で唯一の大公爵位を持つ人物であった。その正体を知ったサルサールは青ざめ、大公は大蛇のように不敵な笑みを浮かべて彼を見下ろした。

電子版SS 女将クミルの幸福

握り飯弁当の繁盛
米の発見から数日後、王都エクサルの宿「鮭皮亭」には長蛇の列ができていた。種族や職業を問わず人々が求めるのは握り飯弁当であり、安価で美味く腹持ちも良いため、王都の新名物として爆発的な人気を得ていた。

女将クミルの姿勢
宿の女将クミルは受付で釣銭を渡しながら笑顔を絶やさず、繁盛を素直に喜んでいた。握り飯の作り方を他者に教えたことを業者に驚かれたが、彼女は「贅沢ではなく日々の満足があれば良い」と答え、謙虚な姿勢を崩さなかった。

ユーリの役割
弁当が売り切れると、三姉妹の長女ユーリが「売切れ御免」の看板を掲げて戻ってきた。彼女は幼いため販売には加われなかったが、最後尾を示す役目を誇りに思っており、この仕事を心から楽しんでいた。

公平さと冒険者の助言
竜騎士でさえ特別扱いをしない方針は、市井の人々に公平さを感じさせた。クミルは眠たげな冒険者タケルの助言を思い出し、彼がただの素材採取家ではなく預言者のように思えてならなかった。彼の存在が宿に幸福をもたらしたことを深く実感していた。

新たな期待
朝食について問われたクミルは、タケルが「焼きおにぎり」を望んでいたことを告げた。未知の料理に胸を躍らせつつ、きっと驚くほど美味しいに違いないと確信し、微笑んだ。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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