物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジーかつスローライフ物語である。前世はサラリーマンだった青年が、異世界でチート能力を活かしながら素材採取の旅を続ける、癒やしと冒険が融合した作品のコミック版第3巻である。
内容紹介:
特殊な鉱石を探して旅を続ける素材採取家・タケルは、再び故郷ベルカイムへと戻っていた。そこへ現れたのは同じ素材採取家を名乗る怪しげな人物である。その者はタケルの“縄張り”を我が物顔で宣言し、勝手に勝負を仕掛けてくる。いやいやながらも勝負に乗ることになったタケルの、穏やかながらも粋な戦いが再び幕を開ける。
主要キャラクター
- 神城 タケル:前世の知識を持つ異世界素材採取家であり、本作の主人公である。チート級の能力と共に“異世界グルメ旅”を楽しむ気ままな性格を持つ。
物語の特徴
本作の魅力は、「ゆるく楽しく素材採取する“ほのぼの系異世界モノ”」をさらに際立たせる“採取家同士の異種バトル”という構造である。戦いというより“勝負”として描かれる暖かい競争心が、甘く心地よい世界観に刺激を与え、他の異世界作品との差別化要素となっている。
書籍情報
素材採取家の異世界旅行記 3
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本 氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
発売日:2017年9月30日
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あらすじ・内容
累計6万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第3弾!
大、大、大ヒット御礼! ほのぼの素材採取ファンタジー第3弾! 久しぶりにベルカイムに戻ってきたタケル。特製の採取用ハサミを作ってもらおうと鍛冶工房を訪れたところ、妙なヤツに絡まれた。タケルと同じ採取家だというそいつは、タケルが縄張りを奪っただの盗品を納めているだの、とんでもないクレームをつけてくる。仕舞いには「素材採取で勝負!」なんて面倒くさそうな提案まで……。当然乗り気ではないタケルだったが、勝手に盛り上がる周囲に流される形で、結局その勝負を受けることになってしまうのだった。異世界のヘンテコ素材を探して、採って、競い合う。採取家の意地とプライドを懸けて、さあ勝負!
感想
今作もまた、タケルののんびりとした日常に癒される。事件は少しずつスケールアップし、素材採取家同士の対決から、エルフの郷の問題解決へと物語は展開していく。
読んでいていつも思うのは、この作品の登場人物たちは、本当によく何かを食べているということだ。
今回は、Bランク素材採集専門のワイムスという男が、タケルにイチャモンをつけてくるという騒動が勃発する。
一体どうなるのかと思いきや、白黒つけるために、ギルドと領主公認の素材採取勝負に発展してしまうのだから面白い。
タケルは、この勝負を通して、FBランク、別名オールラウンダーに昇格する。
そして、またもやブロライトが登場する。
今回は、失踪した姉を探してほしいとタケルに頼み込み。
姉を探すために、蒼黒の団と共にエルフの里へ向かうことになるのだが、一体どんな冒険が待ち受けているのだろうか。
今回の巻では、他の素材採取家に難癖をつけられたり、ブロライトの郷に行ったりと、様々な出来事が起こる。中でも印象的だったのは、レインボーシープだ。
あのふわふわとした可愛らしさには、本当に癒される。あんな可愛い生き物で呼び寄せられるなんて、夢のようだ。絵も大変可愛らしくて、見ているだけで心が温まる。
同じ採集家でBランクのワイムスに絡まれるという展開は、少しドキドキした。
しかし、ギルド公認の素材採取競争が開催されることになり、事態は思わぬ方向へ。
依頼は、ベルカイム領主からの『レインボーシープの七色ウール』の採取。
タケルとワイムスは協力してウールを採取し、タケルはFBランク、オールラウンダー認定者となる。
ブロライトの再登場も嬉しかった。
姉リュティカラを探すという新たな目的が加わり、物語はさらに深みを増していく。
まずはエルフの郷『深碧の郷ヴィリオ・ラ・イ』へ向かうことになるのだが、お姉さんを見つけるまで、一体どれだけの問題を解決しなければならないのだろうか?
蒼黒の団の今後の活躍に期待したい。
全体を通して、安定ののほほん感と、少しずつスケールアップしていく事件のバランスが絶妙な作品だと感じた。
レインボーシープのような魅力的なキャラクターも登場し、ますます目が離せない。
次巻では、どんな異世界の素材や人々との出会いが待っているのだろうか。今からとても楽しみだ。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
主要キャラクター
神城タケル
怠けがちな性格だが、採取においては知識と工夫を重んじる人物。周囲の信頼に応える姿勢を持ち、仲間を守る判断を優先する。
・所属組織、地位や役職
エウロパ冒険者ギルド所属の素材採取家。FBランク認定のオールラウンダー。
・物語内での具体的な行動や成果
七色ウールの採取を成功させた。盗賊を非致死手段で制圧した。エルフ郷では循環結界を作り、魔素過多を抑えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
Fランク据え置きから特例のFB認定へ移行した。領主やギルドから厚い信任を得た。
クレイストン
冷静で堅実なドラゴニュート。仲間を見守り、抑え役として場を落ち着かせる役割を担う。
・所属組織、地位や役職
冒険者。高位戦力として知られる。
・物語内での具体的な行動や成果
街道異変の対応に加わった。エルフ郷への同行を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
信頼を重ね、仲間と周囲を安定させる存在とみなされた。
ビー
幼い黒竜で、古代竜の血を受け継ぐ存在。無邪気な性格で、人に懐き場を和ませる。
・所属組織、地位や役職
神城タケルの相棒。
・物語内での具体的な行動や成果
女王の前で姿を現し、古代竜の気配を示した。郷の者たちに信を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
古代竜由来と認められ、象徴的存在となった。
プニ
馬神であり、白銀の髪を持つ人型にも変化する。仲間を大切にし、筋を重んじる一方で食への執着も見せる。
・所属組織、地位や役職
ガレウス湖の守護を担った聖獣。
・物語内での具体的な行動や成果
エルフ郷で神威を示して攻撃を止めた。移動や護衛に協力した。郷の愚行を正すと宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神格の威を示し、郷の態度を改めさせた。仲間と歩調を合わせる姿勢を見せた。
ブロライト
外界を旅したハイエルフで、両性の身体を持つ。掟を破った存在とされながらも仲間への信頼は厚い。
・所属組織、地位や役職
冒険者ギルド「ダイモス」に所属。Aランク冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
フォレストワーム「伽羅煤」と共に現れた。エルフ郷に案内し、姉の捜索を依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
呪いと見なされた要因が血の問題と判明し、重荷が軽減した。郷と外を結ぶ役割を担った。
サブキャラ
リュティカラ
巫女として次代を担う存在。婚儀を拒み、無理難題を課したのち姿を消した。
・所属組織、地位や役職
ハイエルフの巫女。
・物語内での具体的な行動や成果
失踪により郷の均衡を乱した。捜索の主たる対象となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
所在不明であり、郷の未来に深く関わる存在とされる。
リンド・ワイムス
短気で負けず嫌いの素材採取家。嫉妬心から対立を起こしたが、後に姿勢を改めた。
・所属組織、地位や役職
ベルカイム唯一のBランク素材採取家。
・物語内での具体的な行動や成果
採取勝負を挑んだ。テンペストボアーから逃げる場面で救助を受けた。七色ウールの採取で協働した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妨害を認めて謝罪した。読み書きの学習を始めた。採取知識が評価された。
エリルー
旅装の若い女性で、情に厚い。頼まれると断れない気質を持つ。
・所属組織、地位や役職
所属不明。ワイムスの知人。
・物語内での具体的な行動や成果
妨害依頼を受けて行動したが、説得で誤りに気づいた。必要なら証言をすると約した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
恩返しを動機としていたと明かし、以後は公正を選んだ。
グリット
規律に厳しい受付主任。家族思いで、公正な判断を心がける。
・所属組織、地位や役職
エウロパ冒険者ギルドの受付主任。
・物語内での具体的な行動や成果
採取勝負の仲裁を行った。ワイムスの態度を戒めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
公正を貫く姿勢で信頼を得た。
チェルシー
養護に尽くしてきた女性。静かに周囲を支える。
・所属組織、地位や役職
元養護施設職員。グリットの妻。
・物語内での具体的な行動や成果
ワイムスやエリルーを育て支えた。贈り物が嫉妬の火種となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
前面には出ないが、二人に強い影響を与えた。
グルサス・ペンドラスス
寡黙で妥協を許さない名工。華美より実用を重視する。
・所属組織、地位や役職
ペンドラスス工房の親方。王家公認の工房を率いる。
・物語内での具体的な行動や成果
「覇者の業雷」を鍛え、品評会で最優秀を得た。採取用はさみの製作を引き受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国宝級とされる作を生み、名声をさらに高めた。
ギルドマスター
腹の据わった統括者で、筋を通す姿勢を示す。
・所属組織、地位や役職
エウロパ冒険者ギルドの長。
・物語内での具体的な行動や成果
七色ウール採取を公認行事とした。タケルをFBランクに認定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
領主や依頼主の意向を束ね、行事を進めた。
ウェイド
実務を担う事務主任。公平性を支える役目を持つ。
・所属組織、地位や役職
エウロパ冒険者ギルドの事務主任。
・物語内での具体的な行動や成果
公認行事の準備を整えた。FB認定を支えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
裏方として信頼を積んだ。
ルセウヴァッハ伯爵
ベルカイムを治める領主。依頼を出す立場にある。
・所属組織、地位や役職
ベルカイム領の伯爵。
・物語内での具体的な行動や成果
七色ウール採取を領主依頼とした。過去には夫人の治療を依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
街全体を巻き込む祭りの後押しを行った。
メルケリアオルデンヴィア
ハイエルフの女王で、理性と威厳を兼ね備える。変化を受け入れる覚悟を持つ。
・所属組織、地位や役職
ハイエルフ郷の女王。
・物語内での具体的な行動や成果
ビーを古の竜と認めた。密談を受け入れ、郷の問題を共有した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
外の知を取り入れる方針を示した。
オーケシュトアージェンシール
ブロライトの兄で、執政を務める。郷の重荷を背負う立場にある。
・所属組織、地位や役職
ハイエルフ郷の執政。
・物語内での具体的な行動や成果
血の問題を認め、妹と意見を交わした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去の判断を悔い、転換の必要を受け入れた。
リルカアルベルクウェンテール
戦士団を率いる人物で、外の者に厳しい態度をとる。
・所属組織、地位や役職
ハイエルフ郷の戦士長。
・物語内での具体的な行動や成果
侵入者に矢を放った。のちに対応を改めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
外との接し方を見直した。
アルトン・マル・モトーラ
偽装と潜入に長けた竜騎士。盗賊団に潜入し任務を遂行した。
・所属組織、地位や役職
アルツェリオ王国所属の潜入調査竜騎士。軍曹であり貴族家の次男。
・物語内での具体的な行動や成果
盗賊二名を捕縛した。擬似矢と睡眠薬で対処した。懸賞金を譲った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
正体を明かし、誤解を解いた。竜ライラを呼び出し場を去った。
ライラ
空を飛ぶ竜で、主と深い絆を持つ。呼びかけに即応し、移動や戦闘補助を担う。
・所属組織、地位や役職
アルトン・マル・モトーラの絆の竜。
・物語内での具体的な行動や成果
呼び笛に応じて飛来し、捕縛者の引き渡しを支えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
姿を現すことで周囲に威圧感を与え、戦力として認められた。
展開まとめ
神城タケルの性格と転生経緯
神城タケルは地球で怠惰な生活を送っていたが、異世界マデウスに転生した。転生時に神のような存在から膨大な魔力と制御能力を授かり、それを利用して素材採取家として活動していた。表向きは明るく振る舞うこともあったが、実際の性格はものぐさであり、明日から本気を出すと考えては怠惰に過ごす人物であった。
伯爵夫人の病気治療依頼
タケルは滞在先のベルカイムを治めるルセウヴァッハ伯爵から依頼を受け、伯爵夫人の謎の病を治療することになった。その過程で、領の隣にあるフィジアン領ヴァノーネ地方アシュス村を訪れることとなった。村名は発音が難しく、タケル自身もたびたび舌を噛むほどであった。
仲間の助力と治療の成功
ドラゴニュートのクレイストンと小さな黒竜ビーの協力により、伯爵夫人の病状は快方に向かった。これにより依頼は果たされたが、ここから新たな事態が発生した。
新たな仲間の出現
事態の核心は、タケル一行に新たな仲間が加わったことであった。その存在は、とんでもなく美しい女性の姿へ変身する馬の神であり、予想外の同行者であった。
1 急転・邂逅相遇
ペンドラスス工房の喧騒と極秘談合
ベルカイム商業区のペンドラスス工房は、王家公認の黄金獅子エンブレムを掲げ、冒険者で賑わっていた。神城タケルは親方グルサス・ペンドラススと応接室で極秘の打ち合わせを行い、工房が国内最高の武器鍛冶として認められた経緯を把握した。
品評会の栄誉と「覇者の業雷」
グルサスはアルツェリオ王都の品評会で、神城タケルがリュハイ鉱山で採取したイルドラ石とイルドライトを用いた剣で武器・剣部門最優秀賞に選ばれた。その青と白銀に輝く剣は覇者の業雷と命名され、国宝相当として扱われる騒ぎとなった。
採取用ハサミの製作依頼と禁欲主義の職人気質
名声が高まっても、グルサスは気の乗らぬ依頼や見せかけの豪奢な剣を拒む姿勢を崩さなかった。神城タケルは遠慮を感じつつも採取用ハサミの製作を依頼し、グルサスはミスリル魔鉱石、魔素水、トランゴクラブの甲羅、イルドライトといった稀少素材に触発され、妥協なき一世一代の品を造ると約した。神城タケルは手型を取り、完成まで一月以上を見込んだ。
聖なる馬神プニの同行と軽口
工房を出た神城タケルを、白銀の髪と紫紺の瞳の美女へと姿を変える馬神プニが待っていた。プニはガレウス湖の守護を担った聖獣で、魔素停滞の解消を経て力を取り戻し、旅に同行していた。じゃがバタ醤油を好み、ビーと軽口を交わしつつ屋台を勧めた。
中央通りでの罵声と対立の火種
職人街を出た神城タケルは、最低ランクの素材採取家と叫ぶ青年に呼び止められた。青年はエウロパ所属のリンド・ワイムスで、ベルカイム唯一のランクB素材採取家である自負から神城タケルへの敵意を露わにした。縄張り意識や盗品疑惑をぶつけたため、神城タケルは穏やかに論理で応じ、領地の権利関係や仕事への姿勢を示して反駁した。プニは過激な制裁を口走ったが、神城タケルが制した。
ギルドでの調停と性急な非難の糾弾
騒ぎを聞いた受付主任グリットが両者をギルドへ導き、面談室で仲裁に入った。ワイムスは指名依頼の減少を訴えたが、グリットは一方的な言いがかりを戒め、冒険者同士の揉め事の禁を強調した。戦闘能力皆無という厳しい指摘も飛び、便乗ランクアップの風評に触れつつ態度の改善を促した。
神城タケルの仕事観とランクF維持の理由
神城タケルは、ランクアップ試験の要請を受けながらも、依頼料に指名料が上乗せされて顧客負担が増えることを憂慮し、ランクFを維持している事情を説明した。最下級の薬草でも色や大きさ、状態を厳選し、図書館で採取法を学び、地形や生息環境の経験則を積み上げてきた姿勢を示した。顧客が離れた理由は、仕事への誠意の差であると冷静に述べ、営業は人への信頼で成り立つと前世の教訓を想起した。
採取勝負の提案と不本意な成り行き
ワイムスは採取での勝負を提案し、神城タケルは渋ったが、グリットは目に見える結果で決着をつけるべきだとして立会いを宣言した。神城タケルは面倒を避けたい意向であったが、ベルカイムの居心地を守るためにも、成り行き上、勝負を受ける流れとなった。
2 歓喜・臨戦態勢
ギルド公認の採取競争とタケルの不本意
ベルカイムでギルド公認の素材採取競争が決定し、対戦はランクBのリンド・ワイムスとランクFの神城タケルに確定した。神城タケルは屋台村のイートインで強く拒否したが、受付主任グリットと事務主任ウェイドの主導で公認行事となり、町全体が祭りの様相を呈した。
勝負対象選定の紛糾と制約
ギルドでの協議では、ワイムスが月夜草やハンマーアリクイの糞、ミスリル鉱石を提案したが、神城タケルの実績やランク制限のため却下された。最終的に採取対象はギルド側が設定する方針となり解散した。神城タケルは異能の探査で優位に立てたが、公平性の観点から魔法や過剰な支援の扱いを懸念して自制の必要を感じていた。
同行禁止と条件整備
勝負は個人戦と定められ、クレイストンやビー、馬神プニの直接支援は禁止とされた。移動は徒歩を基本とし、貸し馬や乗合馬車は許可された。生態の下調べは本人の調査に限り許容され、他者からの教示は禁じられた。神城タケルは図書館での情報収集を想定し、転移門などの反則的利便は自ら封じる方針を固めた。
発表の場と領主公認の依頼
ギルド前の発表で、ギルドマスターは領主ルセウヴァッハ伯爵の依頼としてレインボーシープの七色ウールの採取を提示した。時期限定の抜け毛で希少性はあるが、知識と経験が物を言う対象とされた。群衆は大いに沸き、神城タケルの過去の高品質採取への評価が唱和され、娯楽に飢えた町は完全に祭りムードとなった。
期限・禁止事項・勝負の枠組み
勝負の締切は三日後の夕刻までと決まり、他者への依頼や金銭での解決が発覚した時点で失格と定められた。ワイムスは挑発を続けたが、グリットは度重なる問題行動を戒め、除名処分の可能性にも言及した。神城タケルは焦らず対策を練ると決め、質の高い品を見つけて領主への恩も返す意図を固めた。
内省とチームの距離感
神城タケルは面倒事を嫌いながらも、信頼する顧客と仲間のために勝負から逃げないと結論づけた。クレイストンとビー、プニは支援を望んだが、条件を踏まえて距離を置く体制を了承し、神城タケルは単独での準備に入った。さて号砲とともに始動し、三日の猶予で知識と経験を武器に挑む構えとなった。
3 開始・真剣勝負
勝負開始と神城タケルの動機
素材採取勝負はギルド前の喧噪と賭けの中で開始された。神城タケルは競争自体に関心を示さなかったが、これまでの依頼者の信頼を損ねないため全力で臨む決意を固めた。リンド・ワイムスは先行して大門へ走り去り、神城タケルは焦らずに行動を選択した。
図書館での情報収集と検索魔法の応用
神城タケルは行政区の図書館に向かい、司書マイラから動物図鑑の閲覧許可を得た。探査の応用として文字列検索の要領で「レインボーシープ」「七色ウール」を抽出し、当該項目に到達した。レインボーシープは臆病な草食で群れをなし、夏に抜け毛として七色ウールを残すこと、好物が寒冷地のアモフェル草であることを把握した。
生息地の推定と目的地の設定
アモフェル草の性質から高所寒冷地を想定し、ルセウヴァッハ領内の霊峰トコルワナ山を有力候補と結論づけた。地図の記憶を辿って徒歩での行程を概算し、装備と食料の目途をつけたうえで速やかに出発する段取りを整えた。
単独行動への切替と仲間の待機
勝負条件に基づき、クレイストン、ビー、プニの直接支援を控える判断を下した。ビーの同行を望む気配を宥め、プニに預ける形で神城タケルは単独で南西へ走行を開始した。移動中、ビーへの思いを胸に抱えつつも、短期決戦で戻る計画を維持した。
道中の環境と目標の視認
ドルト街道を進む途中、神城タケルは雪をいただくトコルワナ山の厳しい外観を遠望し、植生の成立しうる帯を狙って探索する方針を固めた。魔素停滞などの不確定要素は切り捨て、ギルドのお題が実現可能である前提で攻略を進めた。
不審な依頼者との遭遇
街道上で旅装束の若い女性が騎馬で追いつき、急ぎの依頼を持ちかけた。神城タケルは素性と意図の曖昧さからギルド経由を促して離脱を図ったが、女性は食い下がった。神城タケルは評判への配慮から一応話を聞く構えを見せつつ、足止めの意図を警戒した。
4 理解・意気投合
妨害の発覚と規律の説示
神城タケルはドルト街道で旅装束の女性エリルーを制し、ギルド公認かつ領主依頼の勝負に対する妨害は失格および処罰の対象となると説いた。エリルーはリンド・ワイムスの知人で、色仕掛けを含む足止め依頼を受けていた事実を認め、妨害の不当性を理解したのである。
借りと恩返しのすれ違い
エリルーは過去に助けられた恩を返すために妨害へ加担したと明かした。神城タケルは「困った時に正道で助けよ」と返し、不正は依頼者・ギルド・領主を同時に裏切る行為であると指摘した。これによりエリルーは方針転換を決意した。
幼馴染の背景と動機の核心
会話の中で、チェルシー(グリットの妻で元養護施設職員)がエリルーとワイムスの育ちを支えた人物であることが判明した。ワイムスが神城タケルに敵意を募らせた根因は、チェルシーへの贈り物(ネブラリの花)で神城タケルが先に功を立てたという幼稚な嫉妬にあった。神城タケルは呆れつつも事情を把握し、勝負は勝負として臨む姿勢を崩さなかった。
和解の合意と再出発
エリルーは妨害を謝罪し、必要であればギルドで証言すると約した。神城タケルは敗北の可能性は低いとしてその申し出を退け、疲弊した馬へ回復を施してベルカイムへ帰すと、自らはトコルワナ山へ向けて行動を再開した。
留守部隊の諍いと取持ち
ベルカイムでは、プニ(ホーヴヴァルプニル)とビーが屋台村で小競り合いを起こし、クレイストンが間に入って宥めた。クレイストンはタケルの状況判断と根の狡猾さ(不利を避ける処世)を評価し、軽挙はないと断じた。屋台村代表ウェガはタケルのお人好しを不安視したが、最終的に信頼へ傾いた。
勝敗観と周囲の確信
周囲はワイムスの勘と脚力、悪運を一定評価しつつも、神城タケルの経験・判断・加護を総合すれば後れは取らぬと結論した。人々は祭りの熱気の中、タケルの無事と勝利を信じ、それぞれの持ち場で見守る体制に移行したのである。
5 遭遇・義勇任侠
霊峰トコルワナでの探査と薬草の思案
神城タケルは霊峰トコルワナの裾野に到達し、探査によって周囲の光を確認しながら、チェルシーの腰痛に効く薬草を探すことを考えた。過去の経験から薬草を調合し、さりげなく渡そうとする思いを抱いていた。
ワイムスの危機とテンペストボアーの出現
その折、リンド・ワイムスがランクCのテンペストボアーに追われて現れた。ワイムスは助けを求めつつも反発を見せたが、神城タケルは冷静に指示を出し、行動停滞の魔法で隙を作り、眉間への一撃で仕留めた。戦利品は鞄に収納され、狩りにおいては感謝を忘れぬ姿勢を示した。
救援後の叱責と嫉妬の核心
救われたワイムスは動揺しつつ感謝を述べ、神城タケルは不正行為の危険性や嫉妬に基づく敵意を一喝した。ワイムスの行動がチェルシーを巡る些細な嫉妬に起因していたことを指摘し、真剣勝負での正道を説いた。
同行の決意と香草の採取
森を進む中、神城タケルは香草マデリフ草を採取し、依頼前から準備する姿勢を見せた。これにワイムスは疑問を呈したが、神城タケルは「顧客はより良いものを望む」という持論を語り、冒険者の責務を示した。
焚火の夕食と心境の変化
夜、焚火を囲んで神城タケルが水餃子を振る舞うと、ワイムスはその美味に驚き、少しずつ警戒心を緩めた。食事を通じて互いの距離が縮まり、ワイムスは悔しさを滲ませながらも相手を認める表情を見せた。
結界具の贈与と義理の示し
神城タケルはミスリル魔鉱石の砂を加工し、強固な結界具を創り出してワイムスに渡した。敵対していた相手にも「関わった以上、他人ではない」として命を守る意思を示し、義理と情を持つ姿を見せた。
6 対峙・剽悍無比
ワイムスの変化と知識の共有
タケルとワイムスは霊峰トコルワナを登りながら採取を続けていた。ワイムスは以前の攻撃的な態度を和らげ、薬草に関する知識を語るようになった。エプララ草を虫ごと採取することで薬効が高まるなど、彼の経験は本や調査魔法でも得られない情報であった。字が読めないながらも、臨時チームで先輩から技を盗み学んだ努力の積み重ねが伺えた。彼の険しい性格は変わらないが、その裏にある努力や実績を知ることで、タケルは彼への苛立ちを減らしていった。
アモフェル草の群生と不穏な兆候
登山が進むと空気は薄くなり、アモフェル草の群生が広がる高地へと出た。そこはレインボーシープの生息が期待できる環境であった。しかしタケルの探査により、黒点滅するモンスターが灰色の動物を追っている反応が確認された。警戒を促す間もなく、ワイムスは勝負心を剥き出しにして先行し、危険な状況に踏み込んでしまった。
モンスターとの遭遇とワイムスの窮地
ワイムスが斜面を駆け上がった先で遭遇したのは、猛毒の角を持つランクCモンスター「ガロノードバッファロー」の群れであった。彼はその角に狙われ、絶体絶命の状況に陥る。タケルはユグドラシルの杖を用いて速度上昇や飛翔を展開し、後方から一体を急襲。強烈な一撃で仕留めたが、残る二体は怒り狂い、獲物をタケルへと定めた。
結界魔道具の発動と反撃の開始
タケルはワイムスに昨日渡した結界魔道具の使用を叫び、彼は半信半疑ながら起動に成功。ミスリル魔鉱石の砂が強力な防御膜を形成し、ワイムスを守った。これにより安心したタケルは、自身が正面から二体と対峙する覚悟を固める。魔法使いでも戦士でもなく、採取専門家として未熟ながらも、仲間に頼らず戦い抜く意志を示した。硬化させた両手を構え、突進するバッファローに立ち向かったのである。
7 発見・発人深省
討伐の余得とワイムスの動揺
神城タケルはテンペストボアーとガロノードバッファローの討伐により数日分の食料を確保し、安堵するワイムスに周囲の安全を告げた。戦士ではないと明言しつつも的確な魔法運用と近接での対処を示し、ワイムスはその実力に言葉を失っていた。
高地の兆しと目標の確証
探査で安全を確認した神城タケルは、急斜面の上方に色とりどりの群れを視認し、図書資料の知識と照合してレインボーシープと断じた。アモフェル草の群生や齧り痕が生息の証左となり、希少性ゆえ無益な捕獲を避け、毛のみを得る方針を固めた。
品質基準の示唆と協働の必然
神城タケルは領主への献上品である以上、地に落ちた汚損毛ではなく、梳き取った良質な七色ウールが求められると説いた。ワイムスが単独で追い回す姿勢を戒め、毛刈りには捕縛と梳毛の分業が適するとして、互いの協力を不可避と結論づけた。
仕事観の転換と指導
神城タケルは「できないからやらない」ではなく「できる方法を探す」こと、わからなければ尋ねることが成長だと諭した。グリットの叱言が期待の裏返しであると伝え、若くしてランクBに至った努力を肯定したことで、ワイムスは初めて素直に耳を傾けた。
動物親和の活用と採取の成功
神城タケルは動物に好かれる体質を活かして群れの警戒を和らげ、呼びかけでレインボーシープを引き寄せた。水色の個体が自ら寄ってくると、ワイムスに櫛を渡して首下を梳かせ、負荷なく毛塊を得ることに成功した。周囲の個体も次々と身を預け、二人は穏当に高品質な七色ウールを確保した。
笑顔の共有と確かな一歩
群れに囲まれながら採取を続けるうち、ワイムスの表情から敵意と嫉妬は消え、純粋な驚嘆と喜悦が宿った。神城タケルの方法は、勝敗を超えて仕事の基準と協働の価値を体感させるものとなり、両者の関係は確かな一歩を刻んだのである。
8 無謀・意気軒昂
七色ウールの確保とギルドの思惑
神城タケルとリンド・ワイムスは協働でレインボーシープから高品質の七色ウールを一抱え分確保した。タケルは、ギルドが「二人に共同作業をさせて関係修復を促す」意図で課題を選んだと推測し、採取手法の一部が他支部経由で共有された可能性にも言及した。
帰還段取りと不穏の兆し
目標達成後は「先にベルカイムへ戻る勝負」の流れとなり、ワイムスは借り馬、タケルは自力走破での帰還を想定した。そこでタケルのうなじに嫌な予感が走り、群れが一斉に散開。探査の結果、斜面下から接近する複数の人間反応を察知した。
盗賊の来訪と“毒角”の闇取引
現れた三名はパレシオン毒(ガロノードバッファローの角由来)を狙う者たちで、価格高騰を談合しつつ獲物を探索。タケルの鑑定で二名が盗賊団「毒蜘蛛の戦慄」の指名手配犯であること(殺人・強盗等、賞金首)を把握した。彼らは角目当てで縄張りを探るが、先刻タケルが討伐済みのため獲物を見つけられない。
ワイムスの暴発と事態の緊迫
静観を選んだタケルに対し、ワイムスは正義感から飛び出して糾弾。盗賊側は即座に敵意を示し武器を構え、戦闘不可避の情勢となる。タケルは姿隠しを解いて前へ出つつ、軽挙を叱責。自身は対人経験に乏しいため致死は避け、気絶・睡眠など非致死的な無力化を模索する方針を固めた。
9 安眠・勧獎懲戒
盗賊との遭遇と対峙
ワイムスは結界魔道具を起動させたが、三人の盗賊は得物を構え間合いを詰めてきた。タケルは加減を誤れば相手を即死させる危険を理解しつつも、防御魔法で対応した。襲撃してきたチョバカを防御結界で弾き飛ばし、続く攻撃にも警戒を強めた。アホルヌスと呼ばれる男はランクBの実力者であり、残る細身の男エルヤは毒矢を放つなど不気味な技量を示した。
魔法による反撃と制圧
タケルは自らを魔法使いと演出し、芝居がかった態度で盗賊を牽制した。アホルヌスの斧を回避し、炎と氷を組み合わせた攻撃で負傷させる。さらに、即死を避けるために新たに考え出した睡眠魔法を用い、チョバカとアホルヌスを相次いで深い眠りに落とした。強制ではなく安らぎを与える魔法は、疲弊した盗賊たちに抗えない効果を発揮した。
エルヤの正体の発覚
最後に残ったエルヤは毒矢の使い手であったが、タケルがギルドリングを示すと態度を一変させた。盗賊の風貌を捨て去り、正体を明かすと、自らを「アルトン・マル・モトーラ軍曹、マティアシュ領潜入調査竜騎士」と名乗った。偽装して盗賊団に潜り込んでいた人物であり、場の緊張は思わぬ形で収束を見せた。
10 疑惑・慎始敬終
竜騎士の正体の発覚
盗賊だと思っていたアルトン・マル・モトーラが、実はアルツェリオ王国所属の潜入調査竜騎士であることが判明した。彼は盗賊団「毒蜘蛛の戦慄」に潜入し、内部から崩壊させる任務を担っていた。タケルは鑑定を用いてその身分を確認し、モトーラが本物の竜騎士であり、さらに貴族の次男であることを知った。
モトーラの任務と感謝
モトーラは盗賊の捕縛を自らの任務と語り、タケルに感謝を示した。盗賊二人は眠らされ捕縛され、懸賞金はタケルに譲渡されることとなった。タケルは自分の介入で潜入計画を壊したことを気にかけたが、モトーラは「危険なガロノードバッファローを退治してくれた」と前向きに受け止めていた。
潜入の闇と価値観の差
モトーラはワイムスに放った矢が実際には擬似矢であり、睡眠薬を仕込んでいたことを明かした。タケルは正確に急所を狙ったやり方に不満を覚えるが、潜入騎士としての立場からすれば当然と理解する。彼は笑顔の下に潜む闇を感じ取り、価値観の違いを意識しながらも深入りは避けることを選んだ。
竜との邂逅
タケルはワイムスを背負い、ベルカイムへ帰還の途についた。モトーラは盗賊を引き渡すために残り、再会を誓った。直後、彼が吹いた笛に応じて空を飛ぶ竜が現れた。それはモトーラの絆の竜であるライラであり、雄大な緑の飛竜の姿を見たタケルは、いつかビーも同じように成長するのかと思いを馳せた。
11 帰還・勇往邁進
追走と再会
タケルは爆睡していたワイムスを背負って下山・宿泊。翌朝ワイムスが先発したため、タケルは猛烈追走。城門手前でビーが乱入しつつも、二人はほぼ同着でベルカイムへ。
“速さ”より“品質”の勝負
ワイムスは先着に固執するが、タケルは「素材採取の勝敗は速度ではなく依頼者満足=品質」と看破。ギルドが意図的に明言を避けた狙い(自力で考え、協力して達成)を読み解く。
成果の開示とワイムス評価
城門前でギルド一同が出迎え。タケルは自分と同量の七色ウール袋を二つ提示し、うち一つはワイムスの分だと返却。採取手順(タケルがシープを宥め、ワイムスが梳く)を明かし、ワイムスの知識を公に称賛。グリットは鑑定の結果「量・状態ともに極上、一本一本が七色に輝く本物」と太鼓判。
課題と提案(育成の道)
タケルはワイムスの短気・選り好みを指摘しつつ、最大の伸び代は“知識の体系化”だとして読み書き教育を提案。図鑑を読めれば応用が利き、上位採取家に化けるとギルドに進言。
ギルドの本音とタケルの一線
タケルは「今回は良心に賭けたギルドの仕掛け」と見抜き、協力で成果を出したが「今後こういう仕掛けは二度と乗らない」と釘。マスターと軽口を交わし、場は和む。
結末
七色ウールは圧倒的品質で納品準備完了。勝敗の正式発表は翌日に持ち越し。タケルとワイムスの関係は“敵対”から“育成の芽生え”へと転じた。
12 決着・水到渠成
勝敗の決着
ギルドは七色ウールの成果を鑑定し、両者とも最高品質を持ち帰ったことで依頼主は大満足し、報酬に加えて報奨金を支払った。しかし、依頼品を持たずに帰還した失態によりワイムスは減点され、勝負はタケルの勝利とされた。
ワイムスの敗北宣言と謝罪
公式発表の前に、ワイムスは自ら「俺の負けだ」と敗北を宣言した。さらに、採取勝負の最中にタケルの邪魔をしたことをエリルーに指摘されたと明かし、素直に謝罪した。普段は反抗的な彼の態度からは想像できない行動に、タケルやギルドの面々は驚きを隠せなかった。
オールラウンダー認定の提示
その後、ギルドマスターはタケルに「FBランク」認定を告げた。これはオールラウンダーと呼ばれる特別な地位で、FからBまでの依頼を一律で受注できる稀少な資格であった。通常のランク制度を超えるこの措置は、ギルドの独断と領主や依頼主の強い要望によって決定された。
ギルドの信頼と覚悟
タケルは自らの素性が不明であることを理由に躊躇したが、ギルドマスターは「厄介事の一つや二つ払い落とせなくて何がギルドマスターだ」と一喝し、ウェイドも「遠慮は不要だ」と後押しした。最終的にギルドマスターは「その腕をエウロパに貸せ」と真剣に語り、タケルはその信頼に応えて頷いた。
――こうして、素材採取勝負は幕を下ろし、タケルは冒険者として新たな段階へと進むこととなった。
13 展開・局面打開
FBランク認定と心境
タケルはベルカイムで白金のギルドリングを授かり、FBランク=オールラウンダー認定冒険者となった。これはアルツェリオ王国内で三人しかいない特別待遇であり、ギルドの絶大な信頼を示すものだった。だが、タケルは「責任が増えて面倒になるのでは」と複雑な思いを抱く。それでも仲間たちの支えにより、彼は新しい立場を受け入れることとなった。
日常と仲間の成長
プニやクレイ、ビーと共に昼食をとる中、ワイムスが読み書きを学び始めたことが語られる。エリルーと競い合うように学ぶ彼の姿は以前より柔らかくなっており、成長の兆しを見せていた。タケルは自らの魔力や仲間との日常に感謝し、過度な欲を持たず平凡な幸せを大切にする決意を新たにする。
フォレストワーム出現の報
その矢先、ギルドに小人族のスッスが駆け込み、トバイロンの森からフォレストワームが街道へ向かっていると報告。肥沃な糞を残すことで知られる温和なモンスターだが、街道に迫る状況は異常であり、暴走の可能性も懸念された。冒険者たちは緊張の中で集結し、ランクAのクレイを中心に対応することとなった。
街道での遭遇と意外な再会
タケルたちはベルカイムを出てドルト街道を北上し、森をなぎ倒して進む巨大な影を待ち構える。異様な気配を放ちながらも、どこか懐かしい存在感を感じるタケル。やがて姿を現したのは、巨大なミミズに似たフォレストワーム――そしてその背にまたがっていたのは、かつての知己ブロライトであった。タケルは困惑と羞恥を覚えつつも、予期せぬ再会に直面することになった。
14 桃山茶の再来
ブロライトとの再会とフォレストワーム
タケルとクレイストンはトバイロンの森でブロライトと再会した。彼女は巨大なフォレストワーム「伽羅煤」を連れて現れ、移動手段として贈ろうとしたが、見た目や臭気の問題からタケルは受け入れを拒んだ。ブロライトは再会を喜びつつもタケルを探していた理由を語った。
チーム蒼黒の団への加入
ベルカイムで事情を説明したのち、タケルはブロライトにチーム参加を誘った。ブロライトは自身がギルド「ダイモス」に所属を移して実力を磨き、Aランク冒険者に昇格していたことを明かした。彼女はランクAモンスターを討伐するほどに成長しており、クレイストンとの手合わせを望んだ。
依頼の核心とリュティカラの失踪
ブロライトはタケルに願いを託した。彼女の姉リュティカラは巫女として次世代の長を産む役目を負っていたが、婚儀を嫌い無理難題を突きつけた末に姿を消したという。大樹の魔力維持が困難となった郷は混乱し、ブロライトは姉の行方を知るために仲間の力を借りる決意を示した。タケルは依頼を受け、クレイストンとプニも同行を承諾した。
エルフの郷への道程
チームはドルト街道を進み、トバイロンの森に入った。ブロライトの魔力によってエルフの郷への道が開かれ、プニは巨大な白馬に変化して仲間を乗せた。やがて異空間の渦を通じて彼らは転移することになったが、その直前にプニはタケルへブロライトの内面に潜む闇を警告した。
エルフ族との衝突
転移後、一行はエルフ族の矢の一斉射撃を受けた。ブロライトは説得を試みたが、郷の戦士リルカアルベルクウェンテールらは彼女を忌むべき存在と罵倒した。さらに仲間を禍々しいと侮辱したことでプニが激怒し、雷を伴う神威を顕現させ、エルフたちは恐怖と畏敬から跪いた。
深碧の郷ヴィリオ・ラ・イ
タケルは仲間としてブロライトを庇い、オールラウンダーの証を示すことで状況を収めた。エルフ族の統率者たちは態度を和らげ、一行はついに深碧の郷ヴィリオ・ラ・イへと案内された。そこは大樹を中心とした幻想的な聖域であったが、魔素の濃さにより不穏な気配が漂い、ビーも怯えを示した。清めの泉に向かう前、タケルの魔法は郷の空気を清浄化し、周囲を驚愕させる結果となった。
16 天鵞絨の真実
ハイエルフ族の正体とゴワンの王宮
エルフ族の上位種であるハイエルフ族は魔力が高く、他種族との交流を拒む厳格な種族であった。エルフの郷の中心には巨大な生命の大樹ゴワンが聳え、その内部に王宮が築かれていた。タケルたちはブロライトに導かれ、大樹を登ることになった。
ブロライトの告白
道中、ブロライトは自らがハイエルフ族であることを告白した。彼女は郷の掟を破って外界を旅してきたことを謝罪し、クレイストンもその重さを指摘した。だがタケルは種族の違いや掟に頓着せず、仲間として受け入れる姿勢を示し、クレイストンもそれに同意した。ブロライトは安心し、微笑みを取り戻した。
ハデ茶と大判焼きの饗応
王宮の前で案内を受けた一行は、侍女によりハイエルフ族秘伝の茶「ハデ茶」を振る舞われた。タケルは日本の玉露に似た味に驚き、大判焼きと共に供すると、その組み合わせは侍女や衛兵をも魅了した。和やかな空気の中、タケルは郷を覆う濃い魔素の由来を問うと、侍女は半年以上前から魔素の増加とともにエルフたちの力が弱まったと説明した。
ブロライトの兄との邂逅
そこへ現れたのはブロライトの兄、執政オーケシュトアージェンシールであった。小柄な容姿ながら人格者として振る舞い、プニとクレイを敬意をもって迎えた。タケルにも丁寧に謝意を示し、友好的に接した。
忌むべき血脈の言葉と衝撃
兄は一族の血脈を忌むべきものと語り、ブロライトは必死に反発した。二人は口論となったが、仲の良さも垣間見せた。しかしその中で兄は思わずブロライトを「愚弟」と呼んでしまい、タケルはその言葉に大きな衝撃を受けた。
17 潤朱の衝撃
ブロライトの告白と血脈の宿命
ブロライトは自らを女でありながら男でもあると明かし、タケルを驚愕させた。両性は珍しくないと説明され、クレイやプニは冷静に受け止めた。兄オーケシュトアージェンシールは忌むべき血脈を終わらせられなかったことを悔い、ブロライトに業を背負わせたと語った。
魔素異常への対処の試み
タケルは郷を覆う魔素の濃さに疑問を抱き、執政に原因を尋ねた。清潔の魔法では一時的な効果しかないため、魔素を吸収し続ける結界を構想した。魔素を取り込みつつ放出する循環機能を持たせるべく、巨大なオレンジ色の魔石を創り出し、結界の核とした。
オレンジダイヤの起動と結界の完成
完成した巨大なオレンジダイヤを地上で起動すると、光が広がり郷全体を包む大結界が形成された。濃すぎる魔素は和らぎ、空気は澄んでエルフたちは歓喜した。ビーも自由に飛び回り、郷の者たちは拝むようにして感謝を示した。
伝承の救い主としての認識
アーさんはタケルを凝視し、古の伝承に語られる異なる血を抱く者だと断じた。エルフたちは一斉に跪き、タケルを救い主として崇めはじめた。困惑するタケルを前に、ブロライトは彼こそが郷の伝承の救済者であると告げた。
18 海松藍の伝承
伝承の碑文とその解釈
ハイエルフ族に伝わる古い言葉が石碑に刻まれていた。青き空が宵闇に染まるとき尊き血は失われると記され、最後には異なる血を抱きし者が大地を潤すと続いていた。タケルは予言というより忠告に近いと考え、尊き血をハイエルフ族と解釈した。時間の経過とともに一族が衰退することを示すと推測し、アーシェンシールもその解釈に同意した。
滅びの兆しと救い主の存在
碑文の内容に、ハイエルフたちは滅亡を連想して悲嘆した。尊き源が枯れるまで愚か者が嘆きを止めぬとあり、一族を滅ぼす要因が存在すると理解された。異なる血を抱きし者とは外の種族を指すとされ、アーシェンシールはブロライトの行動を受け入れつつも、その背負わせた重責に罪悪感を抱いていた。
温泉での休息と本来の目的
一行は郷に宿泊し、タケルは宿屋の露天風呂に感激した。プニやブロライトと共に薬湯と呼ばれる温泉を楽しみ、束の間の安らぎを得た。そこでタケルは、魔素の濃さの原因を探る必要性と共に、ブロライトの姉リュティカラ捜索という本来の目的を思い出した。
掟を破った理由と異なる血の意味
ブロライトは掟破りの忌むべき存在とされてきたが、アーシェンシールは異なる血を抱きし者こそが救い主であると解釈し、外界に興味を持った妹の行動を黙認していた。そのため彼女は郷で嫌われる立場となったが、タケルたちと出会えたことに後悔はないと語った。タケルは目的がリュティカラ探索、魔素の異常の解明、そして伝承の真意の三つへと広がったことを自覚した。
19 猩々緋の喜悦
巫女の役割とブロライトの年齢
湯浴みの席でタケルはブロライトから巫女の役割を聞いた。巫女は強大な魔力で郷を守り、次世代の巫女を産む存在である。しかし数百年、強力な巫女は生まれていなかった。ブロライトは五十七歳であることを明かし、タケルを驚かせた。
新たな料理の実演
タケルは鞄から食材を取り出し、クレイやブロライト、さらに興味を示したエルフたちの手を借りて調理を開始した。ロックバードの肉に木の実やキノコを合わせ、醤油の実と薬草を使った炒め物を完成させる。香ばしい匂いが広がり、エルフたちは窓越しに集まった。
食堂での饗宴
完成した料理は「木の実と鶏肉の辛味炒め」として供され、チーム蒼黒の団とエルフたちが一斉に食した。リルカアルベルクウェンテールも味に驚き、無言で食べ進め、やがて郷のエルフたちが次々と歓声を上げた。閉鎖的だった郷に新たな文化の風が吹き込んだ瞬間であった。
蟹出汁スープの衝撃
さらにタケルは、非常食の肉すいとんスープに隠し味を加えていたことを明かした。出汁の正体は巨大なトランゴクラブの甲羅であったと示すと、エルフの郷全体を震わせるほどの大絶叫が響き渡った。食の喜びは、郷に新たな衝撃と歓喜をもたらしたのである。
20 雲居鼠の瞳
静かな朝と侍女アンバールの告白
タケルは宿での休息を終え、侍女アンバールに呼ばれて大樹へ向かった。道中、アンバールは自身もハイエルフであると明かし、外の世界への憧れを語った。さらに五十年前からハイエルフの赤子が欠けた姿で生まれ、数日で死ぬという呪いの病が蔓延していることを涙ながらに告白した。ブロライトが郷を出たのは、その呪いを解くためでもあった。
女王との謁見
大樹の最上階、荘厳な謁見の間でタケルは女王メルケリアオルデンヴィアと対面した。白き姿の女王は灰色の瞳でタケルを見据え、彼が郷を覆う魔素を払ったことを知っていた。女王の問いにタケルは、地震による大地の変動が魔素の溜まりを生んだのではないかと推測を述べた。
ビーの顕現と女王の動揺
タケルは事の発端がビーであることを語り、背中から姿を見せるよう促した。女王はその姿を目にして震え、古の竜と悟った。無理に頭を下げようとする女王をタケルが支えると、朝日に照らされたビーの黒い体は神々しく輝き、女王の瞳に涙が浮かんだ。ビーがただの竜ではなく、古代竜であることが明らかとなったのである。
21 月白の涙
女王との対話とビーの存在
ビーは女王メルケリアオルデンヴィアに愛嬌を振りまき、蟹の美味しさを楽しげに語った。その仕草に女王は笑みを浮かべ、場は和やかになった。タケルは古代竜ボルからビーを託された経緯を説明し、女王は彼の言葉を信じた。女王はタケルの魔力の色を不可思議なものと評し、古代竜が彼を選んだ理由に納得した。
リルカアルベルクウェンテールとの関係
戦士団の長リルカアルベルクウェンテールはブロライトの幼馴染であり、彼女が掟を破って郷を出たことを許せずにいた。ブロライトはその冷たい態度を理解していたが、タケルは時代の変化を示唆し、外界との交流の必要性を語った。
魔道具による密談の開始
タケルはミスリル魔鉱石の砂で作った音を遮断する魔道具を起動し、女王と執政アーシェンシールに秘密の話を始めた。彼の調査の結果、女王とアーシェンシールには「遺伝性免疫不全症候群」があると判明した。さらに、呪われた赤子の出産は病ではなく近親婚による遺伝的弊害だと説明した。
伝承の解釈と真実
伝承に記された「尊き源枯れるまで 嘆きを止めぬ愚か者」は、近親婚を繰り返し血を濃くし続けた一族の愚行を指しているとタケルは解釈した。そして「異なる血を抱きし者」とは外界の血を取り入れることを意味すると結論づけた。
ブロライトの涙と安堵
ブロライトは自らが両性である理由も血脈の偏りに起因するのではないかと悟った。彼女は涙を流しながらも、呪いではなく血の問題であったと知り、もう同じ悲劇は繰り返されないと信じて晴れやかに笑った。その姿にタケルと仲間たちは深い安堵を覚えた。
22 紫紺の慈愛
ブロライトの涙と決意
ブロライトは原因が呪いではなかったと知ると、涙を流しながらも晴れやかに笑った。しかし感情が溢れ、タケルに抱きつきながら鼻水を拭おうとする始末で、場は気まずさに包まれた。彼女の懇願は必死であり、郷と家族を救ってほしいと土下座に近い形で訴えた。周囲のエルフやハイエルフもその姿を見守り、戦士長リルカアルベルクウェンテールは悔しげな表情を浮かべた。
伝統を変える難しさと神の世界
タケルは近親婚の弊害を指摘したが、クレイは伝統をどう覆すのかと問うた。タケルは一朝一夕では無理であり、エルフたち自身が変わらねばならないと語った。プニは神々の在り方を説明し、すべての種族を救うことは神の役目ではないと冷徹に言い放った。だがタケルは「仲間が助けを求めるなら全力で助けたい」と答えた。
プニの変化と慈愛
ブロライトの必死の願いに、意外にもプニが応じた。リベルアリナを探し出し、愚行を正させると宣言したのだ。冷徹に見えた古代馬は、仲間を助けたいというタケルの言葉を受け止め、自らも動くと決意した。プニはブロライトを立ち上がらせ、涙を拭って「お前は笑っていればよい」と告げた。その言葉には確かな慈愛が宿っていた。
食い意地張った神の望み
クレイも共に力を貸すと約束すると、プニは仁王立ちして命じた。「じゃがバタ醤油を十個」と。食いしん坊な願いで締めくくられたが、その場には温かな空気が広がった。こうして一行は、プニの導きのもとブロライトの呪われた運命に立ち向かう決意を固めたのである。
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