さいひと「最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか3」感想・ネタバレ・アニメ化

さいひと「最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか3」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
悪役令嬢リベンジ系ライトノベルである。婚約破棄された公爵令嬢が“鉄拳”を携えて貴族社会の闇に立ち向かう、痛快かつダークな復讐譚である。
内容紹介
婚約破棄と無実の罪を着せられたスカーレットは、貴族たちからの非難と裏切りに晒される中、自らの拳を“最後のお願い”として悪徳貴族たちに制裁を下す決意を固める。迫害を逆手に取り、ただの令嬢から“狂犬姫”へと覚醒した彼女の戦いと、貴族制度の根深い闇を炙り出す復讐劇が展開される。

主要キャラクター

  • スカーレット・エル・ヴァンディミオン:本作の主人公であり、婚約破棄をきっかけに“悪役令嬢”のレッテルを背負う公爵令嬢。冷静かつ知的でありながら、抑え込んできた怒りと復讐の思いを“鉄拳”という形で解放し、“正義”を体現しようとする強靭な意志を持つ人物である。
  • カイル・フォン・パリスタン:スカーレットの元婚約者にして第二王子。舞踏会において婚約破棄を宣言し、スカーレットを転落させた張本人。彼の行動は物語の大きな転機であり、スカーレットの復讐劇の契機となる。
  • テレネッツァ・ホプキンス:男爵令嬢であり、カイルを婚約破棄に追い込んだ陰の当事者。表向きは優雅な令嬢を演じるが、その裏には巧妙な策略と隠された野望を抱えており、スカーレットとの対立と物語の鍵を握る存在である。

物語の特徴

本作最大の魅力は、「婚約破棄された令嬢」という絶望的な立場から、“悪役令嬢”としてのレッテルを逆手に取り、鉄拳をもって悪を成敗していくという強烈な復讐劇にある。典型的な“悪役令嬢からのリベンジ”ものとは異なり、主人公スカーレットは優雅さと礼儀正しさを失わず、むしろその立ち振る舞いの中に“拳”の存在感を宿らせることで、ギャップと違和感が痛快さを生む点が特徴である。また、貴族制度や権力構造の内幕に切り込む展開があり、単なるラブストーリーや復讐劇を超えた社会批評的な深みも感じられる点が、本作を他のラノベや異世界ものと一線を画す要素である。

書籍情報

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
著者:鳳ナナ 氏
イラスト: 沙月 氏
レーベル/出版社:Regina Books/アルファポリス
発売日:2023年4月5日

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あらすじ・内容

クズの皆様お久しぶり、拳(ザマァ)をお見舞いいたします。
婚約破棄をきっかけに、悪徳貴族達を拳で制裁したスカーレット。第一王子ジュリアスと共に諸悪の根源であったパルミア教を壊滅させたことで、国内には彼女が殴ることができる悪人がいなくなってしまった。そんなある日、スカーレットは気分転換に出かけたハイキングで敵に出会う。彼女の前に現れたのは、竜の住まう国ヴァンキッシュの皇子アルフレイム。彼はスカーレットにとある事情を打ち明け――? 爽快すぎる悪役令嬢ファンタジー、第3弾! 文庫だけの書き下ろし番外編も収録!

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか3

感想

読んだのだが、正直なところ、少しばかり物足りなさを感じてしまった。前作、前々作の勢いが凄まじかっただけに、今作は少しばかりマンネリ化しているように思えてしまったのだ。

物語は、スカーレットが悪人を拳で制裁するという、お決まりの流れで進んでいく。今回は竜の国ヴァンキッシュの皇子アルフレイムが登場し、新たな展開が期待されたのだが、どうにも物語に深みが足りない。スカーレットの拳が炸裂するシーンは相変わらず爽快ではあるものの、以前ほどの新鮮味は感じられなかった。

今作では、特に拳での戦闘シーンが多かったように思う。スカーレットの強さは十分に伝わるのだが、戦闘描写がやや単調で、工夫が足りないと感じてしまった。敵との知略を凝らした駆け引きや、予想を裏切るような展開があれば、もっと面白くなったのではないだろうか。

また、物語が途中で終わっているような印象を受けたのも、もやもやする原因の一つだ。アルフレイムとの関係や、ヴァンキッシュを巡る問題など、気になる点がいくつか残されたままになっている。次作への引きという意図もあるのだろうが、今作だけで完結していれば、もっとすっきりとした読後感だったかもしれない。

もちろん、スカーレットのキャラクターは魅力的だし、悪役を懲らしめる展開は読んでいてスカッとする。しかし、シリーズが続くにつれて、どうしてもワンパターンになりがちなのは否めない。今後は、スカーレットの新たな一面や、予想外の展開を取り入れるなど、もう少し捻りを加えてほしいと願うばかりだ。

前2作が非常に面白かっただけに、今作には少しばかり期待外れな部分もあった。しかし、スカーレットの活躍はまだまだ見たいと思っているので、次作に期待したい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

ヴァンディミオン家・王宮秘密調査室

スカーレット・エル・ヴァンディミオン

ヴァンディミオン家の令嬢であり、圧倒的な身体能力で数々の事件を拳で解決した。暴力を必要とする思想を持ち、拳による制裁を正義と見なす。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンディミオン家令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
 舞踏会での婚約破棄騒動を制圧した。奴隷市急襲でゴドウィンを捕縛し、聖地巡礼では覚醒して敵勢を撃破した。山賊討伐では異端審問官バロックやイザベラを撃破し、異端審問官ミシェランとアヴェリンも制圧した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「撲殺姫」「業火の花嫁」など異名を得て、国内外で武名を高めている。

ナナカ

獣人族の女性であり、スカーレットを支える相棒。冷静に戦況を補佐し、後方支援を担う。
・所属組織、地位や役職
 獣人族、スカーレットの同行者。
・物語内での具体的な行動や成果
 宰相暗殺計画の情報を提供し、奴隷市急襲を助けた。山賊討伐では捕縛や警戒を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 スカーレットからの信頼を得て補佐役を務める。

レオナルド・エル・ヴァンディミオン

スカーレットの兄であり、王宮秘密調査室の室長を務める。責任感が強く、妹を案じながらも任務を優先する姿勢を見せる。
・所属組織、地位や役職
 王宮秘密調査室・室長。
・物語内での具体的な行動や成果
 調査室を立て直し、汚職を粛清した。パルミア教断罪を指揮し、スカーレット救援のため現地出立を決意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 調査室を統率する存在として影響力を強めた。

エピファー

伯爵家の三女で才女とされ、秘書官としてレオナルドを補佐する。冷静で的確に業務をこなす。
・所属組織、地位や役職
 王宮秘密調査室・秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
 報告書整理や常備薬の管理を行い、室長の負担を軽減した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 室長からの信頼を獲得し、調査室運営を支えた。

パリスタン王国

ジュリアス・フォン・パリスタン

第一王子であり、軽妙な態度と政治的駆け引きを兼ね備えた人物である。スカーレットやレオナルドと共闘し、国際関係でも調整役を担う。
・所属組織、地位や役職
 パリスタン王国・第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 奴隷市急襲でゴドウィンを捕縛し、帝国との水面下の協力関係を調整した。スカーレットの行動を外交的に支えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帝国との交渉に関与し、国内外で影響力を増している。

ヴァンキッシュ帝国

アルフレイム・レア・ヴァンキッシュ

第一皇子であり、奔放に求婚を繰り返す性格を持つ。武を尊ぶが、父帝バーンの治世を継承し「多様な力」を重視する思想を示す。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・第一皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
 奴隷市で敗北後もスカーレットへ求婚を続けた。山賊討伐や異端審問官との戦闘で共闘し、理念を語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 後継者争いの有力候補であり、周囲から注目を集めている。

ジン

竜騎兵団の副隊長であり、冷静に戦況を判断する人物である。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・竜騎兵団副隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
 国境検問で衛兵を制圧し通行を認めさせた。山賊拠点急襲を指揮し、異端審問官の攻撃にも持ち堪えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 監視役としてスカーレットに同行し、状況を安定化させた。

バーン

帝国皇帝であり、「拳皇」と呼ばれる存在。軍略と柔軟な思想を兼ね備え、強さを広く認める。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
 謁見でジュリアスを試しつつも胆力を評価した。治世で多様な力を登用し国を繁栄させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 負傷の後遺症による吐血が描かれ、体調悪化の懸念が残る。

パルミア教関係者

バロック

異端審問官であり、暗緑のローブを纏い包帯で顔を覆っていた。戦闘では不可視化の魔道具を駆使した。
・所属組織、地位や役職
 パルミア教・異端審問官。
・物語内での具体的な行動や成果
 山道で山賊集団を率いてスカーレットを襲撃した。不可視化魔道具“隠者の羽衣”を使用し暗殺を狙ったが、拳圧による衝撃波で撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 頭目を失ったことで山賊勢力は潰走した。

イザベラ

異端審問官《愛罰》を名乗り、追尾型の魔鞭を武器とした女性である。
・所属組織、地位や役職
 パルミア教・異端審問官。
・物語内での具体的な行動や成果
 山賊拠点で鞭の魔道具〈痛みこそ愛〉を操り、三十名規模の部下を従えた。スカーレットの拳圧により鞭を失い、正拳と肘打ちで即座に失神した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 拠点の防衛を担ったが瞬時に制圧され、勢力の崩壊を招いた。

ミシェラン

異端審問官《鬼謀》の異名を持ち、行動阻害の杖を使った。
・所属組織、地位や役職
 パルミア教・異端審問官。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジンを苦しめ、スカーレットとアルフレイムを足止めした。だが顎への一撃で行動不能となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 拠点戦の主力であったが、短時間で無力化された。

アヴェリン

異端審問官《聖痕》を名乗り、大剣「美しき終焉」による空間切断を扱った。
・所属組織、地位や役職
 パルミア教・異端審問官。
・物語内での具体的な行動や成果
 空間を裂いて退避や接近を繰り返し、ジンを追い詰めた。スカーレットに戦術を看破され、連撃と蹴撃で吹き飛ばされて排除された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 強力な戦力であったが、拳による制圧で戦線を離脱した。

王国貴族・関係者

ゴドウィン

王国宰相であり、権勢を振るったが不正に手を染めていた。
・所属組織、地位や役職
 パリスタン王国・宰相。
・物語内での具体的な行動や成果
 暗殺計画を進めていたが、スカーレットとジュリアスに摘発され、奴隷市急襲で捕縛された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 宰相職を失い、権力基盤は崩壊した。

テレネッツァ・ホプキンス

伯爵家の令嬢であり、スカーレットの因縁の相手。女神パルミアの加護を受けていたが、敗北を繰り返した。
・所属組織、地位や役職
 王国貴族ホプキンス家の令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
 舞踏会でスカーレットを挑発した。聖地巡礼では敵対し、大聖石の破壊を試みた。敗北後は白い空間で女神パルミアと対峙し、加護喪失の現実に直面した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魅了の加護を失い、権力を喪失した。

その他の存在

レックス

飛竜であり、スカーレットに従う。人化する特異体質を持つ竜人族である。
・所属組織、地位や役職
 飛竜。スカーレットの同行者。
・物語内での具体的な行動や成果
 体調不良で倒れ、人化した少年の姿で衰弱した。診断で「低地病」と判明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 飛竜でありながら人化能力を示す稀少存在である。

黒竜姫ヘカーテ

黒髪の竜人の少女であり、アルフレイムに同行する立場を持つ。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国。黒竜の姫。
・物語内での具体的な行動や成果
 レックスの症状を「低地病」と断じ、竜種全体にかけられた呪いを説明した。スカーレットの滞在を認めつつも対立心を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帝国内で竜種の立場を代表する存在である。

展開まとめ

第一章 頼むから大人しくしていてくれ。

静けさを取り戻した室長室
王宮秘密調査室は王宮内部の汚職や不正を取り締まる組織である。室長レオナルド・エル・ヴァンディミオンは、押収品と書類の山で埋まっていた室長室が片付けられ、広くなった部屋で本を手にしていた。常用していた胃薬はもはや不要だと感じていた。

エピファーの登場と献身
秘書官エピファーが報告書を持参した。彼女は伯爵家の三女で才女と知られ、図書館勤務を経て調査室に加わった人物である。事務能力に優れ、レオナルドの負担を大きく軽減していた。彼女は胃薬を机に置いたが、レオナルドはもう必要ないと返した。

ジュリアスの訪問と軽口
そこにパリスタン王国第一王子ジュリアス・フォン・パリスタンが現れ、レオナルドをからかった。二人は過去二か月の過酷な業務を振り返り、パルミア教を断罪した成果と疲弊を語り合った。エピファーは休暇を取らず働き続けており、ジュリアスは呆れながらも感心していた。

スカーレットの行方と不穏な報告
話題はレオナルドの妹スカーレットに及んだ。彼女はアグニ山へハイキングに向かっていた。だが報告書にはアグニ山周辺で山賊による被害が急増し、パルミア教の残党も確認されたと記されていた。ジュリアスは偶然遭遇した令嬢が山賊を打ち倒すことになるかもしれないと示唆した。

出立の決意
レオナルドは妹の身を案じ、ジュリアスと共に現地へ向かう決意を固めた。調査室が関わるべき事態であると認識し、再び胃薬を持つようにエピファーへ頼んだ。こうして彼は平穏を捨て、任務へと動き出した。

第二章 拳で責任を取らせていただきます。

舞踏会での婚約破棄と報復
スカーレット・エル・ヴァンディミオンは舞踏会で第二王子カイルに一方的に婚約を破棄されたため、相手のテレネッツァと共にその場の悪徳貴族らを殴打して事態を収束させたのである。

ゴドウィン糾弾と奴隷市急襲
獣人族のナナカから宰相ゴドウィンの暗殺計画を聞き出したスカーレットは、ジュリアスと共に証拠を収集し、違法奴隷オークション当日に王宮秘密調査室と突入した。ヴァンキッシュ帝国第一皇子アルフレイムを撃退し、ゴドウィンを制圧して騒動を終息させたのである。

聖地巡礼の混乱と覚醒
二か月後、聖地巡礼では聖女ディアナが力を失い、パルミア教の妨害が続発した。テレネッツァや聖女守護騎士団のディオスが敵対し、大聖石の一つが破壊されたが、スカーレットは時の神クロノワの夢告を受けて覚醒し、敵対者を撃破した。教皇サルゴンが拘束され、巡礼は一件落着となったのである。

ハイキングとサバイバル志向
休暇後、スカーレットはナナカと年例のハイキングに向かった。観光道を避けて険路を選び、最小限の携行品のみで現地の資源を用いて過ごす方針を示した。ナナカは危険を指摘しつつも先導役を引き受け、川辺の拠点を目指して進行したのである。

山賊の出現と正体の露見
山道で暗緑のローブの集団に包囲され、指揮者は包帯で顔を覆う男であった。所持武器や統率から彼らは素人でなく、暗器チャクラムを扱う者もいた。包帯の男はパルミア教異端審問官バロックを名乗り、集団には騎士崩れや貴族上がりが混在していたのである。

怨嗟の合唱とスカーレットの“責任”宣言
彼らはゴドウィン失脚やテレネッツァ収監を恨み、身分や財貨の返還を叫んだ。スカーレットは自身の関与を認めつつ「責任を取る」と述べ、対象を小悪党ではなく殴打すべきクズと断じ、全面的な制圧を宣言したのである。

開戦:圧倒的な制圧行動
スカーレットは地面を拳で砕いて体勢を崩させ、僧衣の一人を強打で上空へ吹き飛ばした。束縛の鎖の魔法は赤水晶の耳飾りで無効化され、バロックの号令で騎士崩れが槍で包囲突撃に移行する中、スカーレットは迎撃態勢を整えたのである。

槍の包囲を空中機動で突破
スカーレット・エル・ヴァンディミオンは束縛を無効化した直後に跳躍し、交差した槍の上へ軽やかに着地して回し蹴りを放ち、騎士崩れらを四散させた。背後警戒を買って出たナナカには距離を取るよう告げ、次の攻撃に備えたのである。

不可視の刃と“隠者の羽衣”
見えざる刃によって頬に浅手を負い、攻撃と同時に発声するバロックの声から、不可視化の魔道具“隠者の羽衣”の使用を看破した。スカーレットは風切り音と位置変化を追いながら最小の回避行動で時間を稼いだのである。

遠距離“拳圧”の一撃とバロック撃破
ナナカが嗅覚で位置特定を申し出たが、スカーレットは自ら対応を選び、身体強化と加速の加護を重ねて左拳の速度だけを極限まで引き上げ、衝撃波で樹上のバロックを撃ち落とした。以後も包帯を手繰ることで居所を割り、反復打撃で姿を暴き、最後は包帯を引き込みながら顔面に叩き込んで山肌に埋没させ、戦闘不能にした。

山賊の潰走と追撃の決意
頭目を失った山賊は総崩れとなり、悲鳴と共に散り散りに遁走した。スカーレットはナナカに捕縛を任せ、自身は分かれ道の商隊進路へ先行。被害発生前に介入するべく加速の加護で山道を駆け下りた。

飛竜と竜騎兵、アルフレイムとの再会
頭上を飛ぶ鞍付きの飛竜を確認し、現場に到達すると商隊は竜騎兵に救われていた。そこへ第一皇子アルフレイム・レア・ヴァンキッシュが歓喜して現れ、以前同様に求婚したため、スカーレットは即座に顔面へ一撃を見舞った。

領土侵犯の弁明と内通の示唆
竜騎兵ジンは落ち着いて謝意と事情を述べ、国境付近の通行はパリスタン側の許可を得た上での行動と示唆した。ところがアルフレイムが不用意にジュリアスとの水面下の取り決めに言及し、ジンが槍の石突で制止する一幕があった。

決闘寸前の通信と先制の一蹴
鋼体の加護で力を誇示するアルフレイムと、加護を重ね掛けして迎え撃つ構えのスカーレットは、決闘寸前でパリスタンからの緊急通信に割り込まれた。アルフレイムが応答に向かう背へ、スカーレットは助走をつけた飛び蹴りを叩き込み、戦局の主導権を握ったのである。

槍包囲の突破と初撃
スカーレット・エル・ヴァンディミオンは束縛を無効化した直後に跳躍し、交差した槍上へ着地して回し蹴りで騎士崩れを弾き飛ばした。ナナカには距離を取らせ、自身が前面で対処したのである。

不可視の刃と“隠者の羽衣”
見えざる刃により頬へ浅手を負い、発声と風切り音からバロックの不可視化魔道具“隠者の羽衣”を看破した。最小回避で時間を稼ぎつつ反撃機を探ったのである。

加護と“拳圧”による撃破
身体強化と加速の加護を重ね、速度特化の左拳で衝撃波を放って樹上のバロックを顕現・墜落させた。さらに包帯を手繰って位置を封じ、顔面へ叩き込んで山肌に埋没させ、戦闘不能とした。頭目喪失で山賊は潰走した。

商隊救援と竜騎兵の出現
スカーレットは分かれ道の先へ加速して下り、鞍付き飛竜と竜騎兵を確認した。現場では商隊が救われており、アルフレイム・レア・ヴァンキッシュが再登場して求婚したため、即座に拳で黙らせた。

通信越しの事情説明
通信機からジュリアスの声が入り、アルフレイム個人との協力関係を示した。動機はヴァンキッシュの後継者争いに伴う武勇・影響力の誇示であり、以後はパルミア教残党討伐や国境外での討伐支援など実利を提供していると説明された。スカーレットは不信を表明しつつも、国益に鑑みて現状の非敵対を受け入れた。

捕縛の委任と撤収の判断
上方の山道で拘束した山賊の処分を竜騎兵側に委任し、スカーレットは撤収してナナカの合流に戻る意志を示した。

拠点急襲への同行表明
上空偵察が山賊拠点を発見し、竜騎兵は急襲(カチコミ)を決定した。スカーレットは一貴族として見過ごせぬとして同行を申し出、アルフレイムは即賛同、ジンは渋りつつも事実上容認した。こうして拠点制圧作戦に参加する流れとなった。

第三章 灰は灰に。塵は塵に。クズはクズに。

同時急襲の方針と統制
夜、竜騎兵二十名規模で拠点四か所を同時急襲する段取りが確認された。アルフレイム・レア・ヴァンキッシュが扇動しかけたが、ジンの一喝で部隊は計画通りの行動に戻ったのである。

ヴァンキッシュ不信と対応策
ナナカは山賊装備の過剰さから外部支援を疑い、ヴァンキッシュの自作自演の可能性を警告した。スカーレット・エル・ヴァンディミオンはジュリアスの思惑を踏まえ、監視役の竜騎兵同行下で自分たちの任務遂行を優先する判断を示したのである。

拠点接敵と合図の撹乱
標的拠点は木柵と二階建ての砦、見張り小屋を備えた小要塞であった。開始合図待機中、東空にアルフレイムの炎の大輪が上がり、事実上の奇襲合図となった。

単独突入と見張り制圧
スカーレットは加護で加速し、柵を駆け上がって見張り小屋へ突入。膝撃と回し蹴りで見張り二名を瞬時に無力化し、砦内部へ警戒を波及させたのである。

異端審問官イザベラの出現
砦二階から鞭を携えた女性が現れ、パルミア教異端審問官《愛罰》イザベラと名乗った。豚面の部下たちは鞭の魔道具「痛みこそ愛」により被虐を喜悦へ変換され、総勢三十名規模で応戦態勢に入った。

追尾型魔鞭の特性把握
イザベラの鞭は標的追尾と高威力を示し、見張り小屋を粉砕した。スカーレットは射程限界と追尾挙動を見切り、遠距離殲滅も可能と判断しつつ、敢えて近接で殴打制圧を選択したのである。

正面宣言と決戦前夜
スカーレットは正面から歩いてイザベラを殴り倒すと宣言。イザベラは「痛みこそ愛」の逆効果を示唆しながら、視界を覆う多重軌道の一撃で迎撃に転じ、両者の交錯が始まるところで章は緊迫を高めた。

追尾魔鞭の無力化
スカーレット・エル・ヴァンディミオンは「身体強化」の加護で拳圧を発し、突風でイザベラの魔道具〈痛みこそ愛〉の鞭軌道を強制上昇させて手元から引き剝がした。鞭を失ったイザベラは戦力を大きく低下させたのである。

イザベラの急襲と瞬殺
イザベラは短刃で接近したが、スカーレットは腹への正拳で動きを止め、続けて側頭への肘打ちで即時失神させた。標的は柵に頭から突っ込み、そのまま行動不能となった。

子豚達の醜態と本性露見
指揮官を失った豚面の賊は土下座で命乞いを装ったが、略奪は自発であり、平民搾取を当然と考えていた本音を吐露した。スカーレットは彼らの歪んだ価値観を確認し、遠慮なく制圧に移る判断を下した。

制圧開始:逃走阻止と各個撃破
逃走に転じた賊へ背面打撃、突き上げ、胸部への加速拳などを次々と叩き込み、柵への激突や地面への刺さりで行動不能にした。肥満体への打撃感触を利したテンポ重視の近接制圧により、拠点内の賊勢は短時間で壊滅状態に追い込まれた。

ナナカの見張り役
ナナカはスカーレットの言葉通り、逃げ出す山賊を捕えるため拠点の出口で待機していた。悲鳴が止み、誰も出てこなかったことで警戒を緩めた。結局戦闘はなく、縛ったのは柵を突き破って飛んできた気絶者だけであった。自分が愛玩動物のように扱われていると感じたナナカは、抗議を決意した。

拠点内部の惨状
拠点に入ると、賊たちが異様な体勢で倒れていた。全員致命傷はなく、スカーレットが同時に回復魔法を施していたためであった。ナナカは彼女が非情になりきれない性格を危惧し、守れる存在にならねばと心に誓った。

竜騎兵の反応
拠点近くでは竜騎兵四人がスカーレットの暴れぶりを興奮気味に語り合っていた。彼らは怯えるどころか英雄を称えるように興奮していた。ナナカは戦闘を好むヴァンキッシュの気質を感じ、スカーレットが苦手そうな相手だと考えた。

戦いの終結
スカーレットは返り血を浴びながらも晴れやかな顔をしており、問いかけに対して満足したと答えた。ナナカは彼女が欲を満たしたことでしばらく落ち着けばよいと願った。

後片付けと監視役の白状
戦闘後、スカーレットはナナカと竜騎兵に賊の拘束・集約を指示した。竜騎兵はジンの命で“監視役”として同行していたことをあっさり白状し、スカーレットの所業に熱狂して「姐さん」「スカぽよ」呼ばわりするに至った。

ジンの状況確認と救援決意
他拠点の制圧報は入ったが、最奥を受け持つジンの報は未着であった。スカーレットは即応を選択し、加護の“部位強化”を脚へ集約して省燃費で跳躍移動、単独で援護へ向かった。

アルフレイム再登場と“炎の薔薇”
移動途上、黒竜に騎乗したアルフレイムが合流。“夜空の炎の薔薇”は彼の派手な合図兼殲滅であり、賊は焼却・非致死犯は拘束済みで証拠(功)として引き渡す意図であったと述べた。スカーレットは作戦無視の演出を厳しく咎めた。

核心問答:皇帝就任後の方針を質す
スカーレットは協力関係の真意と「皇帝となった後、力をどこへ向けるのか」を直問。虚言なら“本気で殴る”と通告。アルフレイムは「竜と心臓にかけて」の誓いで本音を語る姿勢を示した(同趣旨の問いはジュリアスからも受けていたと付言)。

バーン治世と“力”の定義転換
アルフレイムの父・皇帝バーンは武力偏重を改め、行政・謀略・経済等“武以外の力”も登用して国力を最大化したという。対外的には従来像を装い油断を誘ったが、実相は多様性による繁栄であった、というのがアルフレイムの認識である。

アルフレイムの理念表明
彼は武力絶対主義に基づく女性差別を愚と断じ、「戦う女」を等しく尊ぶと宣言。古い慣習を“ゴミ”と切って捨て、強さの評価軸を広げると誓った。ジュリアスとの協力及びパリスタンへの接近は、強者(=スカーレット)への敬意と実利(相互の利用価値)に基づくと明かした。

スカーレットの立場
スカーレットは理念の一部には同意しつつも、侵略や恣意的武威の拡大には断固反対という立場を堅持。必要なら拳で抑止すると釘を刺しつつ、まずはジン救援を優先する構えである。

アルフレイムの本心と誓約
アルフレイムは、父バーン帝が武力偏重を改め多様な才を登用したことでヴァンキッシュが最盛を迎えたと語り、現体制の継続こそ望みであると明言する。皇帝即位後の細部方針は状況次第としつつも、恩に背く行為は断じてせず、パリスタンに大恩があれば平和と同盟を守ると「竜と心臓」にかけて誓う。スカーレットは全面的な親愛は抱かぬまま、誓いを条件に協力を是とし、背けば大陸の果てまで殴ると牽制する。

救援への飛翔と戦場の状況
スカーレットは黒竜ヘカーテへ同乗し、半壊した賊砦へ急行する。着地直後、重傷を負いながらも持ち堪えるジンと合流し、敵勢がパルミア教異端審問官《鬼謀》ミシェランと《聖痕》アヴェリンであることを把握する。ミシェランは行動阻害の杖「怠慢の足枷」を操り、アヴェリンは大剣「美しき終焉」による空間切断で死角から迫る。

戦術の見破りと反撃
ジンの投擲槍は範囲爆砕で牽制するが決定打に至らず、アルフレイムも大火柱と炎波で圧殺を狙う。スカーレットは停滞の加護で時間感覚をずらし、アヴェリンの「空間を裂いて退避・接近する手口」を視認して種を見破る。直後にミシェランの顎を一撃で落として妨害源を遮断し、続けてアヴェリンの顔面へ連打と回し蹴りを叩き込み、柵外へ吹き飛ばして戦線から排除する。

力学と関係性の更新
ヴァンキッシュ側は豪放だが計算を欠かさず、パリスタン側は損害極小で効果最大の現実策を取るという対照が際立つ。スカーレットは「誓い」を担保にアルフレイムとの限定的協調を受諾しつつ、違反時の即時制裁を明言することで主導権を保持した。アルフレイムはその強さと信義に応じる姿勢を示し、両者の協力は実利的な同盟として動き出したと結べる。

現在地と余韻
異端審問官の要を崩したことで戦況は一変し、砦攻略は決着局面へ移行した。スカーレットは全身に心地よい疲労を覚えつつ、拳で片を付ける自らの流儀を貫徹したと言える内容である。

山賊討伐後の光景
到着時点で砦はジンの攻撃により半壊していたが、アルフレイムの炎によって焼失した。異端審問官を含めて山賊は壊滅し、回復手段がなければ動けない状態であった。他拠点も潰えたため、山賊勢力は一掃されたと見てよい状況であった。

戦後の騒動
戦闘後、アルフレイムは満面の笑みで駆け寄ったが、ジンの槍の石突で制される。皇子であるにもかかわらず軽んじられる姿は滑稽であり、スカーレットは苦笑しつつも、アルフレイムの頑丈さを理解していた。

ジュリアスとレオの到着
二日後、パリスタンのジュリアスとレオが兵を率いて到着した。捕縛された山賊を見たジュリアスは状況を察し、スカーレットの行動を「狂犬姫の舞」と揶揄した。スカーレットは心身の充実もあって受け流すことができた。レオは衝撃を隠せず顔を覆い、疲弊のあまり胃痛を訴える姿を見せた。

歓声と称賛
アルフレイムはスカーレットの戦いぶりを「血の舞踏」と称え、竜騎兵たちも一斉に賛美を送った。スカーレット自身は否定したが、周囲は「業火の花嫁」など新たな二つ名を口にし、過剰な称賛を繰り返した。

協力関係の確認
ジンは山賊の引き渡しを終えるとジュリアスに礼を述べた。ジュリアスは恩を売る意図を見抜きつつ、必要に応じて対価を返すと答えた。アルフレイムもそれを了承し、互いに形式的な握手を交わした。

再びの求婚と対立
帰還の折、アルフレイムはスカーレットに再度求婚する。そこへジュリアスが割って入り、十年来の想いを口にして彼女を抱き寄せた。アルフレイムはこれを障害と見なし、決闘を叫ぶがジンに阻まれる。両陣営は次々と撤収し、スカーレットは混乱に呆れながらも見送った。

去り際の言葉
飛竜に乗ったアルフレイムは上空から「我が花嫁よ」と叫び、壮健を祈って去っていった。ジュリアスは「騒々しい」と評し、スカーレットも同意しつつ、彼らには憎めない面があると内心で認めていた。

第四章 これはまごうことなき正当防衛ですわ。

悪人の一掃とスカーレットの不満
スカーレットはヴァンディミオン邸で平穏な日常を過ごしていた。ジュリアスが率いる王宮秘密調査室の働きによって悪徳貴族や小悪党が捕らえられ、王国の治安は著しく改善した。しかし、殴る相手を失ったスカーレットは生きる上で必要とする暴力の機会を失い、欲求不満に苛まれていた。

ナナカとのやり取りと日常の描写
執事姿のナナカは悪人がいなくなったことを喜ぶべきと諭したが、スカーレットは「人を殴ることは呼吸と同じ」と語り窒息しそうだと嘆いた。ナナカが窓を開けて空気を入れると気分は和らぎ、彼におやつを与えて戯れた。やがてスカーレットはレックスの姿が見えないことに気づき、ナナカは探しに向かった。

レックスの異変
庭に駆けつけたスカーレットは、蒸気と魔力を放ちながら横たわるレックスを発見した。治癒魔法や遡行の加護を試みたが、体調は一時的に回復しては悪化を繰り返した。蒸気が晴れると飛竜の姿は消え、赤髪の少年が横たわっていた。スカーレットは彼が人化する特異な竜人族であることを理解した。

治療の困難と打開策
スカーレットとナナカは竜人化現象を理解できず、医師に頼っても効果がないと判断した。ジュリアスやレオナルドは極秘任務で不在であり助けは望めなかった。行き詰まる中でスカーレットは別の手紙を思い出し、セルバンテスに支度を命じた。そこにはヴァンキッシュ帝国の皇子からの招待が記されていた。

旅立ちの決意
スカーレットはレックスを救い、さらに自らの鬱屈した暴力欲求を晴らすため、ナナカと共にヴァンキッシュ帝国へ赴く決意を固めた。

白い空間での目覚めと誤解
テレネッツァ・ホプキンスは霧に満ちた白い空間で目を覚まし、過去に姫宮テレサとして女神パルミアに召された場所と同一であると想起した。スカーレットに殴られた後の記憶が途切れていたため、自身は死亡し再転生の呼び出しを受けたのだと早合点していた。

復讐心と自己正当化
テレネッツァは計画をスカーレットに破綻させられた憤懣をぶつけ、次は取り巻きの男たちを魅了で奪うと豪語した。敗北は認めつつも、自分はヒロインでありやり直せるという思い込みに支えられていた。

パルミアの老いさらばえた姿
巨大な貝殻から現れたパルミアは皺だらけに老い、往時の美貌を失っていた。信仰の崩壊と罪の告発により神格が堕ちたことが外見の変化の理由であると語り、信徒への罵倒と自己正当化を繰り返していた。

罵倒の応酬と女神の咳き込み
テレネッツァは魅了の加護と魔道具が役立たずだったと非難し、パルミアはテレサを愚鈍と罵倒した。口論は激化し、パルミアは激しく咳き込み弱体を露呈した。テレネッツァは一時的に攻勢を緩めたが、対立の本質は解消しなかった。

生存の告知と再転生の否定
パルミアはテレネッツァが死んでおらず、治療の後に拘禁されているはずだと告げた。白い空間への来訪は半死半生となった魂が偶然引かれた結果であり、再転生は存在しないと明言した。

加護と魔道具の消失宣言
パルミアは千年の眠りに入ると断言し、地上に残る自らの加護と魔道具は力を失い消えると通告した。これによりテレネッツァは魅了の加護を失う現実に直面し、攻略手段の喪失に動揺した。

“ゲーム世界”観の崩壊
テレネッツァがなお“二周目”を求めると、パルミアはここはゲームではないと突き放した。貝殻の蓋が閉じると空間は闇に沈み、テレネッツァは自らの認識が誤りであった可能性に揺らぎ、絶望の気配に包まれていた。

嘲笑
去り際、パルミアは夢から覚めたテレネッツァの絶望を見られないことを残念がり、愉悦を滲ませて別れを告げた。テレネッツァの耳に残ったのは、彼女の不幸を喜ぶような女神の声であった。

ヴァンキッシュへの道行とレックスの容体
スカーレットはナナカと共に、原因不明の不調に苦しむレックスを救うためヴァンディミオン邸を発って一週間後、ヴァンキッシュ国境近くのアグニ山中腹へ進んでいた。馬車の揺れは人化したレックスの体調を悪化させていたが、スカーレットは治癒魔法を施し介護を続けた。野生の飛竜の気配が増したことから、国境の近さがうかがえたのである。

非公式訪問の覚悟と相棒の情
今回の訪問は特使ではない非公式の入境であり、スカーレットは不測の事態に備えるようナナカに呼びかけた。ナナカはレックスへの気遣いを表しつつ、スカーレットの心中にある“暴力欠乏”も見抜いていたが、最優先はレックスの回復であると二人は認識を共有していた。

国境検問所での対峙
一行は鉄門と物見塔を備えた検問所に到着した。衛兵は皇帝命令を理由に通行を拒否し、無礼な態度で追い払おうとした。スカーレットはまず礼を尽くして事情を説明し、同胞の病を口実に穏便な通過を願い出たところ、下心をのぞかせた衛兵らは一旦は軟化しかけた。

上官の介入と緊迫の再燃
そこへ上官が現れ、ヴァルガヌスの名を出して無許可通行を厳禁と叱責したため、衛兵らは態度を一変させて敵意を示した。ナナカはアルフレイムの恋文を証拠として提示し通過許可の取り次ぎを求めたが、後継者争いの渦中で派閥対立があるためか、アルフレイムの名に衛兵らはさらに反発を強めた。

侮辱への制裁と「正当防衛」
衛兵の一人がスカーレットを侮り身体に手を伸ばしたため、スカーレットは掌底で顎と腹を打ち、相手を石壁に叩きつけて無力化した。スカーレットは淑女の礼儀を語りつつ、これは正当防衛であると断じた。衛兵らは総勢三十名ほどで取り囲み、事態は一触即発となった。

拡大前の自制と戦士観
ナナカはこの場での力押し突破が外交問題になると制止した。スカーレットは衛兵らの素行を「戦士に非ず」と断じ、礼儀なき者に“舞踏”を教えると皮肉を込めて構えたが、なお過剰な殺傷は避ける意図を示していた。

紅天竜騎兵団(紅の四騎士)の到来
上空から四体の飛竜が降下し、紅天竜騎兵団が着地した。ノア、ジェイク、ランディ、そして副隊長ジンの四名は周囲を圧し、衛兵らは「紅の四騎士」と恐れて退いた。ジンは状況確認の途中で壁に埋まった衛兵を見て硬直し、スカーレットに事情を問うた。

再会の挨拶と目的の露見
スカーレットはアルフレイムから託された飛竜レックスの病を告げ、治療のために来訪した旨を伝えようとした。ノアは馬車から人化したレックスを見つけ、ぐったりしている様子を指摘した。これにより、騎兵団側にも一行の目的が明確になったのである。

検問所での対峙と紅天竜騎兵団の介入
スカーレットはレックスの容体を説明し、ジンに道中の揉め事――衛兵が壁にめり込んだ件――を簡潔に伝えた。ジンは検問所の責任者に対し、アルフレイムの命でスカーレットを帝都へ護送する旨を通告したが、衛兵らは派閥対立の感情をあらわにして反発した。挑発と罵声が飛び交う中、ジンは瞬速の踏み込みで槍を衛兵の喉元に突き付け、紅天竜騎兵団の実力を示して沈黙させた。衛兵らは渋々道を開け、扉は開かれ、馬車は通過したのである。

派閥対立の露呈と余韻
去り際、衛兵は「皇帝の耳に入る」と恨み言を吐いたが、騎兵団は取り合わず飛び去った。スカーレットとナナカは、紅天竜騎兵団と国境兵の険悪さに、ヴァンキッシュの後継者争いが隠しきれない段階にあると判断した。スカーレットは「平和が一番」と口にしつつも、内心では“正当防衛”の機会に飢え、ヴァンキッシュでの邂逅に期待を膨らませていた。

険路を越えて帝都へ
馬車はアグニ山中腹の過酷な山道を揺られながら進んだ。スカーレットは史資料に基づき、ヴァンキッシュが敢えて苛酷な環境に建国し武を磨いた歴史的背景を語った。やがて視界は開け、断崖の起伏に赤い屋根と壁が連なり、頂に竜を戴く巨大王宮が鎮座する帝都ファフニールが現れた。

武の理想と俗の現実
禁欲的な鍛錬の国是に反し、帝都は豪奢で俗っぽい外観を放っていた。スカーレットはそれをヴァンキッシュの「力で欲を貫く」精神の表れと解し、同時に“無礼者に対する正当防衛”の舞台としても期待を深めた。ナナカは頭を抱えたが、最優先はレックスの治療であり、一行はジンの先導で王宮へ向かったのである。

第五章 不覚にもスカッとしてしまいました。

城門での受け入れとレックス搬送
ヴァンキッシュ城の正門にて、医師団が待機しており、ジンの手配でレックスは即座に担架で皇宮内へ搬送された。スカーレットは治療を任せ、ジンの案内で国賓用客間に通されたのである。

客間での応対とアルフレイムの乱入
ジンは「アルフレイムの意向に従っただけ」と淡々に応じたが、検問所での独断的配慮は明白であった。容態説明の直前、アルフレイムが扉を吹き飛ばして登場し、求婚の末にスカーレットへ投擲され壁に刺さった。場は即座に平静へ戻り、ジンは「異常なし、微熱は疲労」と診断結果を伝えた。

黒竜姫の来訪と“低地病”の告知
アルフレイムが呼んだ黒髪の竜人の少女――黒竜姫が現れ、病名を「低地病」と断じた。飛竜は天上の種であり、低地に長く留まれば魔力循環が乱れ発症するという。人化は澱んだ魔力の排出であり対症的であった。これは古より飛竜種全体に課された“呪い”で、地上に留まる限り再発不可避と示されたのである。

スカーレットの決意と黒竜姫の反発
スカーレットは遡行の加護が恒久解決に至らない理由を確認しつつも、根治手段の探索を宣言し、当面の滞在をアルフレイムに通告した。黒竜姫は「治す術はない」と突き放しつつ情をにじませ、「業火の花嫁は認めぬ」と言い残して去った。

特使との再会と応酬
皇帝謁見の時刻となり、客間にはパリスタンの特使としてジュリアスとレオナルドが到着した。レオナルドは動揺し胃痛を再発させ、エピファーが常備薬を差し出して事なきを得た。アルフレイムは検問所での一件を「可愛いもの」と豪語し、ジュリアスは毒を含んだ冗談で場を煽ったが、ジンの温情ある説明で外交的火種は抑えられた。

皇帝謁見への同行
皇帝の準備が整い、ジュリアスらは公務の作法で出立した。レオナルドはスカーレットに「絶対に大人しく」と念押ししたが、直後にアルフレイムが顔を出し、スカーレットの同行を当然視した。ここに、スカーレットはレックス治療の糸口を求めつつ、皇帝との謁見へ向かうこととなったのである。

なぜスカーレットも謁見へ
アルフレイムの鶴の一声で、特使ではないスカーレットも炎帝殿での謁見に同席させられる。意図は不明。

炎帝殿と拳皇バーン
天井一面に竜図、赤い絨毯、近衛が並ぶ大広間。玉座には巨躯の皇帝バーン。ジュリアスに近況を試すような物言いで牽制しつつ、「必要ならヴァンキッシュが粉砕してやろう」と牙も見せる。

ジュリアスの応酬
ジュリアスは「反逆排除で体制は盤石」と笑顔で受け流し、逆に「後継者の手の内を見せてもらえるのは好都合」と切り返す。レオナルドは胃痛、エピファーが即座に薬を手渡し(恒例)。

後継者候補の顔見せ

  • ヴァルガヌス:帝国全軍を束ねる軍師将軍。理知で刺すタイプ。
  • イフリーテ:近衛兵団長。粗暴・好戦・無礼だが忠誠厚い。
  • フランメ:第二皇子。温厚で礼節的。ジュリアスとも旧知。

アルフレイム乱入で火花
天井から“ドヤ着地”→「次期皇帝はこの私だ!」宣言。イフリーテは殺気、ヴァルガヌスも冷笑で対抗。ジンは「空気読めないからだ」と辛辣。
さらにヴァルガヌスは“古の習わし”—強き王は力に見合う伴侶を娶る—を持ち出し、後宮だけ増やして誰も娶らぬアルフレイムを痛撃。場は険悪に。

拳皇の評価と場の収まり
ジュリアスの挑発めいた受け口にも、バーンは肘掛けを握り砕きつつ上機嫌で「引かぬ胆力よし」と評価。緊張は一度弛緩。

スカーレットの内心
他国に“物差し”扱いされる無礼さに怒りつつも、ジュリアスの返しに――自分が殴ってもいないのに――「不覚にもスカッとした」と言う。

検問所での衝突
スカーレット一行は検問所で衛兵と揉め事を起こした。衛兵の不埒な振る舞いにより一人が壁に叩き込まれたが、ジンは冷静に事態を収め、アルフレイムの名を出して通行を認めさせた。衛兵達は不満を口にしたが、ジンの実力を前に退かざるを得なかったのである。

帝都への入城
紅天竜騎兵団の護衛のもと、一行は険しい山道を進み帝都ファフニールへ到着した。帝都は赤い屋根と石造りの豪奢な街並みが広がり、頂上には竜を象徴する巨大な王宮が聳えていた。ナナカは禁欲的と聞いていた国風との落差に驚き、スカーレットは血が飛び散っても目立たぬ赤い屋根に好意的な感想を抱いた。

皇帝バーンとの謁見
バーン皇帝は、武力のみならず軍略や特異体質をも強さと認める柔軟な思想を持ち、臣下や子息を評価していた。ジンはその姿勢を説明し、ジュリアスやレオナルドはアルフレイムが有利であるという事前の話が虚偽であったことに憤った。だが最終的にジュリアスは協力を継続するしかないと判断し、レオナルドも渋々同意した。

婚約発言と噂の拡散
アルフレイムは場を収めるため、スカーレットを花嫁だと公言した。ヴァルガヌスはこれを虚偽と断じたが、フランメはスカーレットの正体を見抜き、近衛兵達は彼女を「撲殺姫」と噂する者として認識した。バーン皇帝はその武名を喜び、彼女を息子の花嫁として称賛した。スカーレットは憤慨しつつもジュリアスの制止を受け、拳を収める決断をした。

皇帝の吐血と動揺
謁見の最中、バーン皇帝は突如吐血し、場は騒然となった。皇宮医が呼ばれ、竜人の少年ルクが付き添いとして現れた。バーンは病ではなく負傷の後遺症と説明したが、その真相には疑念が残った。皇帝が退場した後、アルフレイムは客人を自らの宮殿へ招き、ジンに案内を命じた。

迫る不穏な情勢
ジュリアスはスカーレットに「望んでいた展開が近い」と耳打ちし、スカーレットもまた世のために拳を振るう時を予感した。陰では派閥争いが激化し、アルフレイムを討とうとする者の存在も示唆され、帝都の情勢は緊迫していったのである。

第六章 ぶっ飛ばされる覚悟はよろしくて?

業火宮への到着
一行は炎帝殿を後にして王宮敷地を進み、皇族居住区の中にある業火宮へ到着した。建物は皇族邸としては質素で、赤い屋根を持つ石造であった。エピファーはその造りが閉鎖的ではなく開放的である点に注目し、伝統や政治的意図の存在を指摘した。

入邸条件とスカーレットの決断
ジンは「業火宮は殿下が許した女人以外立ち入り禁止」と告げ、スカーレットのみを招き入れるとした。レオナルドは抗議したが、ジュリアスが制止した。スカーレットは婚姻を否定し、後宮扱いを拒んだが、ジンは強制力がなく出入りは自由であると説明した。さらに黒竜姫ヘカーテとの関係維持のため滞在を勧め、スカーレットはこれを承諾し、従者としてナナカの同行を認められた。

ノアの出迎え
庭は人影がなく不自然に静かであった。やがて犬身竜顔の獣に跨ったノアが現れ、スカーレットを歓迎した。ノアは女児であり、アルフレイムに育てられた孤児であることが判明した。これによりスカーレットは誤解から生じた殺意を収めた。

結界の存在
ノアが邸内に入ると気配が消え、スカーレットは空間を隔絶する結界の存在を看破した。現在は受け入れ状態で通過可能だが、拒絶されれば突破は困難であると判断した。

奇襲と五感加速
入邸直後、四方向から女性達の一斉攻撃を受けた。スカーレットは新たに会得した加護「五感加速」で状況を把握し、「加速二倍」と身体強化を組み合わせて迎撃した。棒を持った四人の連携を打ち破り、初撃を制した。

業火宮の女性達との衝突
広間にはさらに多数の女達が武器を携え現れ、スカーレットを「外部から来た花嫁」と敵視した。彼女らは長年アルフレイムを慕ってきたと訴え、スカーレットを罵倒した。スカーレットは床を踏み砕いて威嚇し、男女平等の強者主義に応じて「正義を力で示す」と宣言した。初撃で一人を壁に叩きつけ、戦闘開始の姿勢を鮮明にした。

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いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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