10.花物語 第変話 するがデビル
まとめ
12.鬼物語 第忍話 しのぶタイム
- 撫子本人が語ると、これまでの印象が変わってくる
- 月火に「その恋、本当に叶えるつもりある?」と突きつけられる
- 前髪を切られただけなのに、撫子の世界が崩れていく
- 大人しいからといって、何も考えていないわけではない
- クチナワまで撫子自身が作った物語だった
- 撫子の行動は単純明快なのに、恐ろしく回りくどい
- 恋心が嫉妬となり、殺意へ変わっていく
- 「神憑かれた」撫子、完全にラスボスになる
- 蛇の如く執拗に阿良々木を狙う撫子が怖い
- そこへ電話一本で割り込んでくる戦場ヶ原
- 半年後に殺します、で話がまとまるのがおかしい
- 戦場ヶ原のことを何も知らなかった撫子
- 「好き」という気持ちだけでは相手を見ていることにならない
- 「被害者で可愛い撫子」が壊れた物語だった
- ラスボスが判明した。では、どう倒す?
- まとめ|暦お兄ちゃんが大好き。その恋が撫子をラスボスにした
物語の概要
■ 作品概要
千石撫子は14歳の中学2年生(公立七百一中学校2年2組所属)であり、内気で不都合な現実から逃避する傾向を持つ。
彼女が通う学級は過去に流行したおまじないの影響で人間関係が崩壊していた。
状況変化のきっかけは通学路での忍野扇との不審な遭遇と、直後から頻発する白い蛇の幻覚・幻聴である。
公衆電話から響く声に誘われて赴いた北白蛇神社にて、撫子は過去の蛇殺戮の罪悪感を怪異クチナワにつけ込まれ、消滅寸前の彼の存在を維持するためのご神体(死体)捜索の契約を交わす。
右手首にシュシュの姿でクチナワを宿した撫子は夜間の捜索を開始するが、誤作動により公園の砂場を移植ごてで掘っていたところを阿良々木暦に捕縛・保護される。
阿良々木家へ連行された撫子は、忍野忍や阿良々木月火から「可憐さ」を盾にした自己保身、努力の放棄、そして叶わない恋への安住を容赦なく糾弾される。
自らの罪や怠惰に向き合わず現実から逃避し続けた一連の因果が、最終的に撫子を十万匹の蛇を髪に宿した蛇神へと変貌させ、暦の心臓を穿つ冒頭の惨劇へ直結する。
■ 主要キャラクター
千石撫子(せんごく なでこ)
- 立場・所属 : 公立七百一中学校2年2組28番(消去法で学級委員長に選出)。14歳(6月3日生まれ、双子座、B型、身長153cm、体重38kg)。帰宅部。
- 主人公との関係 : 本人(物語の主人公)。
- この巻での主な役割 : 過去に解呪目的で殺戮した蛇の「縁」を通じて怪異クチナワに取り憑かれ、存在維持に必要なご神体探しに協力・共犯関係を結ぶ。
- この巻で起きた重要な変化や行動 : 前髪を伸ばし目線を遮る防衛的属性を持つ。扇との遭遇後、下駄箱や教室で白い蛇の幻覚を発症。北白蛇神社でクチナワと契約し、右手首にシュシュ状で宿して夜間のご神体捜索(砂場掘り等)を行う。暦に補導され阿良々木家で保護されるが、忍野忍や阿良々木月火から「可憐さ」を兵器とした現実逃避と怠惰を批判される。冒頭では髪に十万匹の蛇を宿す蛇神と化し、暦の心臓を大牙で突き刺す。
クチナワ
- 立場・所属 : 北白蛇神社にかつて祀られていた蛇の怪異(本人称「神様」)。
- 主人公との関係 : 撫子の過去の蛇殺戮という「チャンネル(縁)」を通じて取り憑いた怪異・パートナー。
- この巻での主な役割 : 忍野忍が神社の霊的エネルギーを使い切ったことで消滅の危機(風前の灯火)に瀕し、生存エネルギー補給のため自身の「死体(ご神体)」捜索を撫子に要求する。
- この巻で起きた重要な変化や行動 : 公衆電話や境内での怪異演出で撫子の罪悪感を揺さぶり契約を締結。撫子の右手首に白色のシュシュとして巻き憑き、携帯マッサージ器のような激しい振動によるダウジング(誤作動含む)で夜間のご神体捜索を指示・同行する。
阿良々木暦(あららぎ こよみ)
- 立場・所属 : 私立直江津高校3年生。吸血鬼の特性を残す人間。
- 主人公との関係 : 撫子が6年間好意を寄せ続けている対象(「暦お兄ちゃん」)。
- この巻での主な役割 : 撫子の異変や深夜徘徊を心配して街中を捜索・保護し、自宅で過保護な説教と保護を行う。
- この巻で起きた重要な変化や行動 : 深夜、公園の砂場を掘っていた撫子を発見・捕縛し、自室でベッドを譲るなどの保護姿勢を示す。休学して世界一周の下見に出た羽川翼を気遣い連絡を控える一面を見せる。冒頭(未来描写)では怪異化した撫子を退治・殺害すべく左腕が皮一枚で繋がった重傷の身で北白蛇神社に現れるが、撫子に心臓を穿たれて惨殺される。
忍野扇(おしの おうぎ)
- 立場・所属 : 私立直江津高校1年生(自称・忍野メメの姪)。
- 主人公との関係 : 通学路の曲がり角で衝突しかけた不審な女子生徒。
- この巻での主な役割 : 撫子に対し「被害者と加害者」「物語性」についての示唆的な言説を投げかけ、精神的ガードを揺さぶる。
- この巻で起きた重要な変化や行動 : BMXに乗ってアクロバティックな旋回で撫子との衝突を回避。初対面にもかかわらず撫子の名前や属性、八九寺真宵や羽川翼の情報を知っており、「人はいつまでも被害者でいられるわけではない」という言葉を残して去り、時間の経過を忘れさせる不穏な影響を与える。
忍野忍(おしの しのぶ)
- 立場・所属 : 暦の影に潜む金髪の幼女(元・吸血鬼の王キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)。
- 主人公との関係 : 暦の従属パートナー。撫子に対しては冷淡かつ警戒的な態度をとる。
- この巻での主な役割 : 北白蛇神社の「よくないもの」を使い切ったことでクチナワ消滅の危機を作った原因であり、同時に怪異の専門知識を持つ存在。
- この巻で起きた重要な変化や行動 : 暦の過剰な過保護行動・暴走(都条例違反)を阻止するため「吸血鬼パンチ(アッパーカット)」で暦を気絶させる。撫子の「可憐さ」を庇護欲を誘発して現実から逃避するための凶悪な兵器(魔性)と看破して酷評する。
阿良々木月火(あららぎ つきひ)
- 立場・所属 : 栂の木第二中学校生徒。暦の妹。「ファイヤーシスターズ」の参謀担当。撫子の小学2年生時からの友人。
- 主人公との関係 : 主人公の幼少期からの友人であり、好意の対象(暦)の妹。
- この巻での主な役割 : 阿良々木家に宿泊した撫子に対し、容赦のない問答を展開して現実逃避と本音を暴き立てる。
- この巻で起きた重要な変化や行動 : 翌朝、自室から暦のベッドへ潜り込み撫子と添い寝した状態で覚醒。撫子が「可愛いこと」を盾に努力を放棄し、暦に彼女(戦場ヶ原ひたぎ)がいる事実を知りながら傷つかない「叶わない恋」に安住している自己保身を糾弾。詰問の渦中、月火がデスクの文房具立てからハサミに手を伸ばす。
笹藪(ささやぶ)先生
- 立場・所属 : 公立七百一中学校2年2組担任教師(ニックネーム:パンダ先生)。吹奏楽部顧問。
- 主人公との関係 : 撫子の担任教師。
- この巻での主な役割 : 貝木のおまじないにより崩壊したクラスの解決策を、委員長である撫子に全面的に丸投げする。
- この巻で起きた重要な変化や行動 : 屋上前の階段踊り場で撫子と遭遇。言葉を噛んで言い淀む撫子の態度を「関わるとしんどい困った子」として棚上げにし、クラス問題の解決を全丸投げする。撫子の右手首の不自然なシュシュ(クチナワ)を目撃するも、深入りを避けて校則違反を不問にし立ち去る。
書籍情報
<物語>囮物語 第乱話 なでこメドゥーサ
著者:西尾維新 氏
イラスト:VOFAN(ヴォーファン) 氏
出版社:講談社
発売日:2016年7月29日
JDCN:0628377600100011000X

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あらすじ・内容
100パーセント首尾よく書かれた小説です。――西尾維新
“――嘘つき。神様の癖に”
かつて蛇に巻き憑かれた少女・千石撫子(せんごくなでこ)。阿良々木暦(あららぎこよみ)に想いを寄せつづける彼女の前に現れた、真っ白な“使者”の正体とは……?
<物語>は最終章へと、うねり、絡まり、進化する――
これぞ現代の怪異! 怪異! 怪異!
かみついて、君を感じる罠の中。
感想
暦お兄ちゃんが大好き。恋心が嫉妬と殺意に変わり、撫子がラスボスになる
これまで千石撫子といえば、「被害者」という印象が強かった。
蛇の怪異に襲われ、阿良々木暦に助けられた少女。
大人しくて、人と目を合わせることが苦手。
長い前髪で顔を隠し、暦お兄ちゃんのことが大好き。
そんな可憐な少女という印象だった。
しかし今回は、その印象が完全にひっくり返る。
今回の語り手は千石撫子本人である。
本人の視点から物語を見ることで、
これまで見えていた撫子は、撫子自身が作り上げていた姿でもあったのか。
と思わされた。
そして最後には「神憑かれた」撫子が、忍ですら簡単には対処できないほどの存在へ変貌する。
完全にラスボスである。
暦お兄ちゃんのことが大好き。
だからこそ、殺す。
その答えは単純明快なのに、そこへ至るまでが恐ろしく回りくどい。
蛇のようにぐるぐると絡みつきながら、恋心が嫉妬へ、そして殺意へ変わっていく。
『囮物語』は、そんな千石撫子の怖さが一気に噴き出した物語だった。
撫子本人が語ると、これまでの印象が変わってくる
これまでの撫子は、どちらかといえば「守られる側」の人物だった。
自分から前へ出るタイプではない。
人と目を合わせることも苦手。
学校でも目立たない。
何か問題が起きても、自分から状況を変えるというより、誰かに助けてもらう側にいた。
そして何より、
「暦お兄ちゃんが好き」
という恋心が彼女を象徴していた。
だが今回、撫子本人の内面を追っていくと、この「好き」という気持ちさえ単純ではなかったことが分かってくる。
撫子は暦が好き。
しかし暦には戦場ヶ原ひたぎという恋人がいる。
それを知っていても、撫子は積極的に戦場ヶ原と争おうとはしない。
暦へ告白して関係を変えようとするわけでもない。
ただ、
「暦お兄ちゃんが好きな撫子」
であり続けようとする。
最初は一途な恋のように見える。
しかし月火は、そこへ容赦なく踏み込んでくる。
月火に「その恋、本当に叶えるつもりある?」と突きつけられる
阿良々木月火との会話がかなり痛い。
撫子は暦が好きだと言う。
しかし恋人になろうとはしていない。
戦場ヶ原から奪おうともしていない。
それどころか、
「そばにいられるだけでいい」
というような立場に留まり続けている。
一見すると健気である。
しかし月火から見ると違う。
叶わない恋を続けていれば、実際の恋愛に踏み込まなくてもいい。
告白しなければ振られない。
戦場ヶ原と争わなければ負けることもない。
つまり、
「暦お兄ちゃんが好き」という恋そのものが、撫子にとって安全な場所になっていた。
この指摘はかなり厳しい。
だが、ここから撫子という人物の見え方が変わってくる。
好きだから行動できないのではない。
行動しなくても済む相手だから、好きでい続けられる。
もちろん本人が最初から計算していたわけではない。
だからこそ厄介なのである。
前髪を切られただけなのに、撫子の世界が崩れていく
そして月火は、さらに撫子が守ってきたものへ踏み込む。
長い前髪。
自分を「撫子」と呼ぶ話し方。
大人しくて可愛い女の子という立ち位置。
その中でも分かりやすい象徴だった前髪を、月火は切ってしまう。
これは撫子にとって相当な事件だった。
顔を隠せなくなる。
これまでの「可愛い撫子」でいられなくなる。
もちろん髪型が変わっただけで人格まで変わるわけではない。
しかし撫子にとっては、ずっと自分を守ってきた殻を無理やり剥がされたようなものだったのだと思う。
そして、ここから撫子の中に溜まっていた感情が噴き出してくる。
大人しいからといって、何も考えていないわけではない
特に印象に残ったのが学校での撫子である。
大人しい。
反抗しない。
扱いやすい。
だから先生から面倒な役割を押しつけられる。
周囲も撫子なら文句を言わないと思っている。
しかし当然ながら、撫子にだって感情はある。
腹も立つ。
嫌なものは嫌である。
それを表に出してこなかっただけだ。
そしてついに撫子が爆発する。
先生にも怒る。
クラスメイトにも怒る。
これまで押し殺していた不満を一気に吐き出す。
ここが怖いと同時に、少し分かる気もした。
大人しい人間だから怒らないわけではない。
何も言わないから何も考えていないわけでもない。
ただ溜め込んでいただけなのだ。
そして撫子の場合、その溜め込み方がとんでもない方向へ進んでしまう。
クチナワまで撫子自身が作った物語だった
さらに驚いたのが、クチナワの正体である。
白い蛇。
神の声。
神体を探してほしいという依頼。
自分だけに聞こえる声。
これだけ並べると、完全に怪異に巻き込まれた被害者の物語に見える。
ところが違った。
そもそも撫子が出会ったクチナワは、最初から実在していた神ではない。
白蛇の幻覚も、声も、クチナワとの会話も、
撫子自身が作り上げたものだった。
ここはかなり衝撃的だった。
怪異に騙されたのではない。
誰かに操られたのでもない。
撫子自身が、
「神様に選ばれた自分」
「神体を探す使命を与えられた自分」
という物語を作っていた。
そして、その物語へ自分自身で入り込んでいく。
これまで被害者だった撫子が、今回は自分で自分を「被害者」にしていたのである。
撫子の行動は単純明快なのに、恐ろしく回りくどい
ここまで読んでいて感じたのが、
撫子は単純なのに、とにかく回りくどい。
ということである。
暦お兄ちゃんが好き。
本当はものすごく単純な感情である。
しかし、その気持ちに真正面から向き合わない。
告白するわけでもない。
諦めるわけでもない。
戦場ヶ原と向き合うわけでもない。
その代わりに、叶わない恋を続ける。
クチナワという物語を作る。
神体を探す。
自分を被害者の位置へ置く。
そして最後には神になる。
回りくどい。
あまりにも回りくどい。
まっすぐ進めば短いはずの道を、
蛇のようにぐるぐると回りながら進んでいく。
だから『なでこメドゥーサ』なのかと思ってしまうほど、撫子の感情そのものが蛇のようだった。
恋心が嫉妬となり、殺意へ変わっていく
そして、その回りくどい感情が最終的にたどり着いた答えが恐ろしい。
暦お兄ちゃんが大好き。
でも暦には戦場ヶ原がいる。
忍もいる。
自分だけを見てくれない。
その恋心が嫉妬へ変わる。
嫉妬が怒りへ変わる。
そして最後には、
殺意へ変わる。
好きだから殺したくない、ではない。
好きなのに殺そうとする。
暦を傷つけながら、それでも愛情を口にする。
この矛盾が怖かった。
しかし撫子の中では、完全に矛盾しているわけでもないのだろう。
自分を選んでくれない。
自分を助けてくれない。
自分だけの暦お兄ちゃんになってくれない。
だったら殺す。
恋愛感情としては完全に壊れている。
それでも出発点には、
「暦お兄ちゃんが大好き」
という少女らしい感情がある。
そこからここまで来てしまうのだから恐ろしい。
「神憑かれた」撫子、完全にラスボスになる
そして御札を飲み込んだ撫子は、北白蛇神社の神となる。
髪一本一本が白蛇へ変わる。
無数の蛇を操る。
暦と忍を圧倒する。
これまで守られる側だった撫子が、
完全にラスボスになっている。
しかもかなり強い。
あの忍がいるのに安心感がない。
暦と忍を相手にしても、撫子側が圧倒的に危険な存在として描かれる。
シリーズ序盤の撫子を知っているだけに、
どうしてこうなった。
と言いたくなる。
蛇の怪異に襲われて暦に助けてもらっていた少女が、今度は大量の蛇を操って暦を殺そうとしている。
立場が完全に逆転してしまった。
蛇の如く執拗に阿良々木を狙う撫子が怖い
神となった撫子の怖さは、単純な戦闘力だけではない。
執着が怖い。
暦を狙う。
忍も殺す。
戦場ヶ原も殺す。
自分の恋を邪魔する存在をまとめて消そうとする。
そして何より怖いのは、
撫子自身が、それを自分の意思だと理解していることだった。
怪異に操られているからではない。
クチナワが命令したからでもない。
十万匹の蛇を操っているのも自分。
暦を殺そうとしているのも自分。
嫉妬しているのも自分。
全部、千石撫子である。
これまでのように「怪異が悪かった」で済ませられない。
ここで撫子は被害者という立場から完全に外れてしまったように感じた。
そこへ電話一本で割り込んでくる戦場ヶ原
暦と忍が追い詰められたところへ、戦場ヶ原から電話がかかってくる。
ここも印象的だった。
戦場ヶ原は撫子と直接戦えない。
だから交渉する。
暦と忍を助けてほしい。
必要なら自分を殺してもいい。
それでも撫子は、
「全員殺す」
という姿勢を崩さない。
そこで戦場ヶ原は、さらに妙な方向から話を持ってくる。
殺すこと自体は止めない。
ただし、
卒業式まで半年待ってほしい。
理由は暦と一緒に高校を卒業したいから。
世界を救いたいとかではない。
撫子を改心させたいわけでもない。
ただ恋人と一緒に卒業したい。
この妙に日常的な願いが面白い。
そして撫子も笑ってしまう。
半年後に殺します、で話がまとまるのがおかしい
さらに凄いのが、
本当に半年の猶予が成立してしまうことだ。
撫子は暦たちを許したわけではない。
殺意を捨てたわけでもない。
暦が好きでなくなったわけでもない。
ただ、
「半年くらいなら待ってもいい」
となる。
いや、怖い。
むしろ半年後に確実に殺しに来るラスボスが誕生してしまった。
しかも北白蛇神社で待っている。
逃げるわけでもない。
隠れるわけでもない。
卒業式が終わったら、
さあ殺し合いましょう。
という状態である。
ラスボスがいる場所も分かっている。
戦う時期も分かっている。
倒さなければならない理由も分かっている。
ここまで分かりやすいラスボスも珍しい。
戦場ヶ原のことを何も知らなかった撫子
ただ、戦場ヶ原との電話で少しだけ印象が変わる場面もある。
撫子は戦場ヶ原を嫌っていた。
暦の恋人だから。
それだけで嫉妬していた。
邪魔だと思っていた。
消えてほしいと思っていた。
しかし実際には、
戦場ヶ原ひたぎという人間について、ほとんど何も知らない。
暦の恋人。
自分の恋敵。
それだけで相手を決めつけていた。
電話で話して初めて、一人の人間として戦場ヶ原を見る。
違う出会い方をしていたら友達になれたかもしれない。
そんなことまで考える。
そして戦場ヶ原から即座に否定される。
ここは少し笑ってしまった。
せっかく撫子が珍しく前向きな可能性を口にしたのに、
そこは否定するんだ。
ただ、この会話によって撫子の世界がいかに「自分中心」だったのかも見えてくる。
暦のことが好き。
だから戦場ヶ原が嫌い。
その先を知ろうとしていなかったのである。
「好き」という気持ちだけでは相手を見ていることにならない
ここまで読むと、撫子の「好き」という感情について考えさせられた。
撫子は間違いなく暦が好きなのだと思う。
その感情そのものまで嘘だったとは思わない。
しかし、
好きだから相手を理解しているとは限らない。
撫子が見ていたのは、
「暦お兄ちゃん」
という自分にとって都合のいい存在だったのかもしれない。
戦場ヶ原の恋人である暦。
忍を命懸けで助ける暦。
自分以外の人間も助ける暦。
そうした部分まで含めて好きだったのか。
それとも、
「自分を助けてくれる暦お兄ちゃん」
が好きだったのか。
撫子の恋は、相手へ向かっているようでいて、ずっと自分自身の中をぐるぐる回っていたようにも見える。
ここでもやはり、
蛇みたいな恋だな。
と思ってしまった。
「被害者で可愛い撫子」が壊れた物語だった
今回、一番大きく変わったのは撫子の強さではないと思う。
これまでの撫子自身が壊れたことだ。
長い前髪で顔を隠す。
大人しくする。
怒らない。
可愛いと言われる。
問題が起これば誰かに助けてもらう。
叶わない恋を続ける。
そうやって維持してきた、
「可哀想で可愛い千石撫子」
という存在が壊れてしまう。
その中から出てきたのは、嫉妬もするし、怒りもするし、他人を憎むこともある普通の少女だった。
ただし、その普通の少女が神の力を持ってしまった。
だから洒落にならない。
感情そのものは少女らしい。
しかし使える力がラスボス級なのである。
ラスボスが判明した。では、どう倒す?
そして『囮物語』は、とんでもないところで終わる。
敵が誰なのか分からないわけではない。
目的が分からないわけでもない。
すべて分かっている。
ラスボスは千石撫子。
北白蛇神社にいる。
卒業式まで待ってくれる。
そして半年後、
暦、忍、戦場ヶ原を殺すつもりでいる。
ここまで条件が揃った。
ならば次に考えることは単純である。
このラスボス、どうするんだ?
暦が説得するのか。
忍が戦うのか。
戦場ヶ原が何かするのか。
それとも別の誰かが動くのか。
勝負は完全に持ち越しである。
そして物語は『恋物語』へ続いていく。
「恋」というタイトルなのに、待っているのは恋心をこじらせて神になったラスボス。
この流れで『恋物語』というタイトルなのも、妙に不穏である。
まとめ|暦お兄ちゃんが大好き。その恋が撫子をラスボスにした
『囮物語 第乱話 なでこメドゥーサ』を読み終えて最も強く残ったのは、
千石撫子、こんなに怖い子だったのか。
という驚きだった。
これまでの撫子は、可憐で大人しく、怪異に巻き込まれる被害者という印象が強かった。
しかし撫子自身の視点から見ると、その内側には怒りも嫉妬も身勝手さもあった。
そして何より、
暦お兄ちゃんが大好き。
その気持ちを真正面から処理できなかった。
告白するでもない。
諦めるでもない。
戦場ヶ原と向き合うでもない。
叶わない恋の中に留まり続ける。
クチナワという物語まで作り、自分を被害者の位置へ置き続ける。
単純な答えに向かっているはずなのに、とにかく回りくどい。
まるで蛇である。
ぐるぐると絡みつきながら進み、最後には恋心が嫉妬となり、嫉妬が殺意へ変わった。
そして神になった。
大好きだった暦お兄ちゃんを、
自分の手で殺そうとする神になった。
恐ろしい。
しかし、その感情の出発点が少女の恋心だからこそ、余計に怖い。
しかも撫子は怪異に操られているわけではない。
暦を殺そうとしているのも自分。
戦場ヶ原を憎んでいるのも自分。
忍に嫉妬しているのも自分。
そこまで認めたうえで、北白蛇神社で待っている。
もう「助けられる撫子」ではない。
倒すべきラスボスとしての千石撫子である。
そして戦場ヶ原が勝ち取った猶予は半年。
卒業式が終われば決戦が始まる。
ラスボスは判明した。
居場所も分かった。
期限まで決まった。
あとは、この蛇のように執拗な恋心へどう対処するのか。
勝負は持ち越されたまま、
『恋物語』へ続く。
最後までお読み頂きありがとうございます。

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10.花物語 第変話 するがデビル
まとめ
12.鬼物語 第忍話 しのぶタイム
考察・解説
ストーリー・プロット
第1幕:北白蛇神社での決戦と蛇神・撫子の惨劇(冒頭の未来描写)
雨が激しく降り注ぐ北白蛇神社の境内。破棄された社殿の床下に身を潜めていた千石撫子は、髪の一本一本が蛇と化し、十万匹の蛇を宿した怪異「蛇神」へと昇天していた。そこへ、左腕が皮一枚で繋がるほどの惨状を呈した阿良々木暦と忍野忍が、怪異化した撫子を退治・殺害すべく現れる。
かつて寄り添った恋慕の情と敵対関係の狭間で、撫子は「暦お兄ちゃんなんて大っ嫌いだよ!」と叫び、左手に握った白い大蛇の牙を振り下ろす。牙は暦の心臓を穿ち、飛び散った肉と血が雨とともに境内に降り注ぐ。
十万匹の蛇の勝鬨とクチナワの歓声の中、撫子は血と雨に濡れながら、制御不能な泣き笑いの狂気を響かせる。
物語は千年前の伝承ではなく、撫子が怪異クチナワと接触した10月31日へと遡り、惨劇への不可逆な道程が描かれ始める。
第2幕:忍野扇との遭遇と学校での「白い蛇」の異変
10月31日朝。詐欺師・貝木泥舟が蔓延させた「おまじない」により人間関係が瓦解し、不穏な空気が漂う2年2組に通う撫子は、通学路の曲がり角でスタイリッシュなBMXに乗った直江津高校1年の忍野扇と衝突しかける。
扇はアクロバティックな車体旋回で回避するが、初対面の撫子の詳細な属性を把握しており、「人はいつまでも被害者でいられるわけではない」「加害者と被害者」という不穏な言説を残して去る。
時間を盗まれたかのような感覚を抱いた撫子が登校すると、上履き入れ、机の中、筆箱、体操着袋、掃除用ロッカー、教科書の隙間など校内のあらゆる暗がりから「白い蛇」が出現・消失する幻覚を発症する。
精神的に追い詰められた撫子は放課後、校内の公衆電話から阿良々木暦へ救援を求める連絡を入れる。
第3幕:公衆電話の声と北白蛇神社でのクチナワとの契約
電話口で暦は「驚かし系の怪異」と推測し、休学して世界一周の下見に出た羽川翼に頼れない事情から、夜に忍野忍が起きるのを待つよう指示する。しかし通話切断直後、受話器の穴から大量の白い蛇が溢れ出る幻覚とともに、「北白蛇神社に来な」という乱暴な幻聴が響く。
変装した撫子が神社に辿り着くと、境内には過去に自身が解呪のため彫刻刀で切り刻んだ大量の蛇の惨殺死体(幻覚)と、巨大な白蛇クチナワが鎮座していた。
クチナワは忍が霊的エネルギーを使い切ったため消滅寸前であり、撫子が「被害者ではなく身勝手な加害者」であることを糾弾した上で、存在維持に必要な「死体(ご神体)」の捜索を要求する。
罪悪感を突かれた撫子は要求を承諾し、クチナワは小型化して彼女の右手首にシュシュの姿で取り憑く。
第4幕:クチナワとの同居と学校生活・担任からの丸投げ
撫子は暦に電話で「気のせいだった」と虚偽の報告を行い、クチナワを右手首に宿したまま日常に戻る。翌日、校内で語りかけてくるクチナワから逃れるため屋上前の階段踊り場へ避難した撫子は、通りかかった担任の笹藪先生と遭遇する。撫子は返答を噛んで言い淀み、不都合な場面を「無言と謝罪」でやり過ごそうとするが、笹藪先生は荒廃したクラスの解決を委員長である撫子に全面的に丸投げし、右手首の不自然なシュシュ(クチナワ)の校則違反も見て見ぬ振りをして立ち去る。撫子は「何も行動せず、誰の期待にも応えない」という独自の棚上げ処世術をクチナワに告白する。昼は通常生活、夜はクチナワの生存エネルギー補給のためのご神体探しという取り決めのもと、夜間の探索を開始する。
第5幕:深夜のご神体探索の失敗と暦による保護
11月1日夜、撫子は家を抜け出し、クチナワの激しい身体振動(携帯マッサージ器状のダウジング)に従って夜の街を歩く。激しい反応を示した近所の公園の砂場を移植ごてで深さ50cmのコンクリート底まで掘り返すが、ご神体は見つからず、霊的エネルギー拡散による誤作動と判明する。撫子が穴を埋め直すついでに砂で名古屋城を作って遊んでいたところ、両親から捜索依頼を受けていた暦に発見・捕縛される。阿良々木家に連行された撫子は深夜徘徊について過保護な説教を受けるが、「学級のトラブルで心がしんどくなった」と嘘を吐く。暦はその嘘を真に受けて同情し、自室のベッドを提供して過干渉な過保護姿勢を強めていく。
第6幕:阿良々木家での忍野忍の介入と月火による不都合な真実の追及
暦の部屋で添い寝を提案するほどの過保護を見せる暦に対し、影から顕現した忍野忍が都条例違反を阻止すべく「吸血鬼パンチ」で暦を気絶させる。忍は撫子の「可憐さ」を庇護欲を誘発して現実から逃避するための凶悪な兵器(魔性)と一蹴して去る。翌朝、同じベッドで目覚めた阿良々木月火は、撫子が「可愛いから許される」ことに甘えて自ら努力を拒否し、戦場ヶ原ひたぎという彼女がいる暦に対して傷つかない「叶わない恋」に安住・保身を図っている不誠実さを激しく追及する。詰問の渦中、月火がデスクの文房具立てからハサミに手を伸ばす緊迫した対話の中で、撫子の自己防衛のレトリックは完敗する。自身の怠惰と向き合うことを拒んだ結末が、第1幕の惨劇へと直結していく。
主要な転換点
1:忍野扇との遭遇と被害者意識への揺さぶり
- それ以前の状況 : 撫子は貝木のおまじないによって学級崩壊を起こした2年2組において、自己主張をせず「大人しくて可哀想な被害者」の位置に身を置くことで日常をやり過ごしていた。
- 出来事 : 10月31日朝、通学路の曲がり角でBMXに乗った忍野扇と衝突しかけ、扇から初対面にもかかわらず名前や属性を指摘された上で「人はいつまでも被害者ではいられない」「加害者と被害者」という不穏な論理を提示される。
- 変化 : 撫子の「被害者」としての精神的防衛機制が揺揺し、直後に下駄箱や教室、文房具の隙間から「白い蛇」が湧き出す幻覚を発症する引き金となる。
- 次への影響 : 精神的に追い詰められた撫子は校内の公衆電話から暦にSOSの連絡を入れ、通話終了後の受話器から響くクチナワの脅迫的な幻聴・誘出へと繋がる。
2:北白蛇神社でのクチナワとの契約締結
- それ以前の状況 : 撫子は白い蛇の幻覚に怯え、過去の事件と同様に「怪異の無垢な被害者」として暦に助けを求め、保護してもらうことを期待していた。
- 出来事 : 公衆電話からの幻聴に従って北白蛇神社へ向かい、過去に自身が解呪のために切り刻んだ大量の蛇の惨殺体(幻覚)を見せられ、怪異クチナワから「身勝手な加害者」であることを突きつけられる。
- 変化 : 撫子は自身が犠牲者ではなく命を踏みにじった「加害者」であることを認めざるを得なくなり、罪の償いとしてクチナワの失われた「死体(ご神体)」を探す取引(契約)を承諾する。
- 次への影響 : クチナワが右手首にシュシュの姿で取り憑き、暦には「気のせいだった」と虚偽の報告を行って単独で夜間のご神体捜索を開始する共犯関係が成立する。
3:公園砂場でのダウジング失敗と暦による捕縛
- それ以前の状況 : 撫子は昼間は通常の学校生活を送り、夜間はクチナワの指示(振動ダウジング)に従って密かに街を徘徊・捜索していた。
- 出来事 : 11月1日夜、クチナワの激しい振動反応に従って公園の砂場を50cm掘り返すがご神体は発見できず、誤作動と判明。諦めて砂で名古屋城を作っていたところを、両親から依頼を受けて捜索していた暦に発見される。
- 変化 : 秘密裏に行っていた夜間の徘徊行動が露見し、物理的に暦によって捕縛・保護されて阿良々木家へ連行される。
- 次への影響 : 暦の自室へ移送されたことで、阿良々木家という密室環境において忍野忍および阿良々木月火と直接対峙し、自身の内面を解剖される局面に直面する。
転換点4:阿良々木月火による自己保身論理の徹底破綻
- それ以前の状況 : 撫子は「おとなしくて可哀想な子」という属性を無意識の盾とし、他者からの庇護欲を誘発することで不都合な事実(怠惰、自己責任、嘘)から逃避していた。
- 出来事 : 11月2日朝、阿良々木家のベッドで目覚めた月火から、可愛いことに甘えて成長や努力を拒絶する姿勢や、恋人がいる暦に対する「叶わない恋(安全圏での恋ごっこ)」に逃避して傷つかないよう自己保身を図っている実態を容赦なく全否定される。
- 変化 : 撫子が免罪符としてきた「可憐な被害者」という自己弁護の論理が完全に崩壊し、反論不能な正論によって自身の怠惰と不誠実さを突きつけられる。
- 次への影響 : 自身が積み重ねてきた逃避の限界を突きつけられた撫子は、罪や現実と向き合うか、あるいは怪異(蛇神)へ堕ちて惨劇を引き起こすかという最終的な分岐点へと追い詰められる。
千石撫子を中心とした人物関係の変化
クチナワ
- 開始時 : 過去に自身が呪い解除のために切り刻んだ犠牲者(蛇の集団)、あるいは不気味な幻覚・幻聴の発生源。
- 主な出来事 : 北白蛇神社で対峙し、過去の殺戮行為を糾弾された上で、存在維持に必要なご神体を探す取引を交わす。右手首にシュシュの姿で同化・取り憑かれる。
- 巻末時 : 撫子の右手首に常時寄生し、撫子の罪悪感や逃避癖を利用する怪異と、嫌な現実から目を逸らすために怪異を利用する共犯的・依存的なパートナー関係。
阿良々木暦
- 開始時 : 6年間想いを寄せ続けている「頼りになる優しいお兄ちゃん」。困った時に無条件で救い出してくれる庇護者。
- 主な出来事 : 怪異の発生を隠すために嘘をついて遠ざけようとするが、深夜徘徊を発見されて保護される。暦から無自覚で過保護・過干渉な説教を受ける。
- 巻末時 : 表面上は以前通りの親密な関係を装うが、撫子側は暦に彼女(戦場ヶ原ひたぎ)がいる事実から目を逸らしつつ嘘を重ねる関係となり、冒頭の未来描写における明確な殺害・敵対対象への道筋が敷かれる。
阿良々木月火
- 開始時 : 小学校時代からの友人。少し強引だが互いに下の名前で呼び合う親しい間柄。
- 主な出来事 : 暦の部屋に泊まった翌朝、撫子の不誠実な甘え、「可憐さ」を盾にした努力の放棄、そして暦への都合の良い好意(安全圏での恋ごっこ)を完全に暴かれ、ハサミを手にした月火から容赦なく詰問される。
- 巻末時 : 撫子の浅はかな自己保身や「可憐さへの安住」を見透かされ、一切の逃げ道を塞ぐ正論を突きつけられる緊張関係へと変容。
主人公の認識と周囲の評価
千石撫子自身の認識
- 自分は内気で無口、人見知りで口下手な「大人しくて可哀想な子(被害者)」。
- 人の目を見られないため前髪を長く伸ばし、目立たないよう地味な服装(庇付きの帽子やスラックス)を好む。
- 周囲から身勝手に期待され、勝手にがっかりされることが苦痛である。
- 努力や頑張ることは「しんどい」ため避けて通りたい。
- 暦に対する好意は純粋な恋心であり、彼女がいる彼に迷惑をかけないよう遠くから想い続ける健気な立場であると信じている。
周囲からの評価
- クチナワ : 自分の不都合な殺戮行為を「忘れた振り」で棚上げし、被害者面をして反省しない「一番タチの悪いガキ」。
- 忍野扇 : 被害者という立場を利用して楽をし、自己保身を図る人物。「被害者から容易に加害者へと転じる存在」。
- 忍野忍 : 天然の「可憐さ」を弱者の兵器・防衛機制として使い、周囲の庇護欲を誘って嫌なことから逃避する「凶悪で魔性な存在」。
- 阿良々木月火 : 「可愛い」ことに甘えて成長や努力を拒否する怠慢な性格。絶対に振られない「叶わない恋」に逃げ込み、傷つかない安全圏で自己保身を図る狡猾な子。
- 笹藪先生 : クラス崩壊という面倒な問題を処理させるための「都合の良い学級委員長(丸投げの対象)」。
認識の差が現れた場面
- 場面1(北白蛇神社でのクチナワとの対峙)
- 内容 : 撫子は自身を「怪異に襲われた可憐な被害者」として救いを求めて神社に赴いたが、クチナワから過去に解呪目的で大量の蛇を彫刻刀で殺戮した事実を突きつけられる。
- ギャップ : 自分は「被害者」であるという撫子の認識に対し、クチナワから「身勝手に他者の命を踏みにじった加害者」であることを暴かれ、自己弁護の正論を失って無言で屈服せざるを得なくなった場面。
- 場面2(屋上前の階段踊り場での笹藪先生との対話)
- 内容 : 撫子は「大人しくて可哀想な自分」を演出してその場をやり過ごそうとするが、笹藪先生からは「クラスの荒廃を解決すべき便利な委員長」として面倒な課題を全面的に丸投げされる。
- ギャップ : 「保護されるべき可哀想な生徒」という自己認識に対し、周囲の大人からは「不都合な問題を押し付ける処理係」として扱われ、噛んでしまった返答の後に黙って頭を下げる(無言と謝罪でやり過ごす)処世術しか取れなかった場面。
- 場面3(阿良々木家での月火との問答)
- 内容 : 撫子は「暦お兄ちゃんが好きだが迷惑はかけたくない健気な自分」として自己正当化を試みるが、月火から「彼女がいる相手に叶わない恋をして、絶対に傷つかない安全圏で恋ごっこをしているだけ」「可愛いことに甘えて努力から逃げているだけ」と一刀両断される。
- ギャップ : 「身を引いて想い続ける健気な少女」という自画像に対し、月火からは「努力を拒絶し、傷つくことを恐れて安全圏に逃げ込む怠惰で狡猾な姿勢」と切って捨てられ、ハサミを手にする月火の前で言い訳の論理が完全に崩壊した場面。
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まとめ
12.鬼物語 第忍話 しのぶタイム
登場キャラクター
中学校関係者
千石撫子
千石撫子は本作の主人公を務める。公立中学校の2年生に位置づけられる。阿良々木暦に対して片想いを抱いている。自分の本心を隠して被害者を装う傾向を見せる。ご神体を飲み込んで蛇神へ変化する。
・所属組織、地位や役職 公立中学校2年生。
・物語内での具体的な行動や成果 自宅で白蛇クチナワの姿を目撃する。クチナワの要求に応じて神社でご神体を捜索する。北白蛇神社で御神体を口から飲み込む。蛇神へ変貌を遂げる。阿良々木暦と忍野忍を襲撃して追い詰める。戦場ヶ原ひたぎと電話で交渉を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 人間から蛇神へと変化する。阿良々木暦たちの生命を脅かす存在へ至る。
笹藪
笹藪は千石撫子の担任教諭を担当する。中学校の教師として勤務する。クラス内の人間関係の修復を千石撫子へ任せようと試みる。
・所属組織、地位や役職 公立中学校教諭。クラス担任。
・物語内での具体的な行動や成果 教室で千石撫子に問題を解決するよう頼み込む。千石撫子から教室で激しい一喝を受ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子の感情の爆発を誘発する要因となる。
クラスメイトたち
クラスメイトたちは千石撫子と同じクラスの生徒たちを指す。恋愛トラブルを巡ってクラス内で対立を起こす。
・所属組織、地位や役職 公立中学校2年生生徒。
・物語内での具体的な行動や成果 教室でギクシャクした空気を形成する。千石撫子から怒声で叱責を受ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子の逆切れによって沈黙を余儀なくされる。
直江津高校関係者
阿良々木暦
阿良々木暦は直江津高校の3年生として登場する。千石撫子から想いを寄せられる対象にあたる。親切な態度で千石撫子に接する。
・所属組織、地位や役職 直江津高校3年生。
・物語内での具体的な行動や成果 忍野扇とともに千石撫子の自宅を訪問する。北白蛇神社で蛇神となった千石撫子と対峙する。千石撫子の攻撃を受けて重傷を負う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子から殺害対象として狙われる立場へ変化する。
忍野扇
忍野扇は直江津高校の1年生女子生徒として登場する。不気味な言動で周囲を翻弄する。千石撫子に接近して助言を与える。
・所属組織、地位や役職 直江津高校1年生。
・物語内での具体的な行動や成果 千石撫子に対して北白蛇神社や御神体の情報を伝える。千石撫子の部屋を阿良々木暦と訪れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子を怪異化へと誘う手引き役を果たす。
戦場ヶ原ひたぎ
戦場ヶ原ひたぎは直江津高校の3年生に位置づけられる。阿良々木暦の恋人として存在する。
・所属組織、地位や役職 直江津高校3年生。
・物語内での具体的な行動や成果 蛇神となった千石撫子へ電話をかける。阿良々木暦の殺害を卒業式まで延期させる交渉をまとめる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子との取引により殺害の猶予期間を獲得する。
怪異・その他の関係者
クチナワ
クチナワは白蛇の姿をした神・怪異として登場する。千石撫子に対してご神体の捜索を要求する。千石撫子の罪悪感や妄想が生み出した存在に相当する。
・所属組織、地位や役職 蛇神。
・物語内での具体的な行動や成果 千石撫子の前に姿を現す。御神体がある場所へ千石撫子を誘導する。千石撫子の内部に取り込まれる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子の自作自演の妄想であった事実が判明する。
忍野忍(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)
忍野忍は阿良々木暦の影に潜む吸血鬼として存在する。
・所属組織、地位や役職 吸血鬼。
・物語内での具体的な行動や成果 北白蛇神社で阿良々木暦とともに千石撫子と戦う。千石撫子の蛇の髪による攻撃を受けて倒れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 蛇神となった千石撫子の圧倒的な力により敗北を喫する。
貝木泥舟
貝木泥舟は不吉な雰囲気を纏う詐欺師として登場する。過去に千石撫子へおまじないを売った経歴を持つ。
・所属組織、地位や役職 詐欺師。
・物語内での具体的な行動や成果 回想や会話内において名前が示される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子の過去の事件に関与した人物として語られる。
撫子の父
撫子の父は千石撫子の父親として家庭内に存在する。
・所属組織、地位や役職 千石撫子の父親。
・物語内での具体的な行動や成果 自宅で千石撫子の部屋の鍵を開けようと試みる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子の家庭環境の一部を構成する。
撫子の母
撫子の母は千石撫子の母親として家庭内に存在する。
・所属組織、地位や役職 千石撫子の母親。
・物語内での具体的な行動や成果 自宅内で千石撫子と接する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 千石撫子の家庭生活に関与する。

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まとめ
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展開まとめ
第乱話 なでこメドゥーサ
千石撫子と白い蛇
中学二年生の千石撫子は、内気で人と目を合わせることが苦手であり、長い前髪で顔を隠して生活していた。阿良々木暦に長年思いを寄せていたが、彼に恋人がいることを知りながら、その気持ちを持ち続けていた。
ある日、撫子は大量の白蛇が殺されている幻覚を目撃し、北白蛇神社へ導かれた。そこでクチナワと名乗る白蛇の神の声を聞き、自分がかつて蛇を殺したことで神を怒らせたと告げられた。クチナワは自分の神体を探してほしいと頼み、撫子は罪悪感から依頼を引き受けた。
クチナワの神体探し
撫子は夜ごと町を歩き、クチナワの神体を探し始めた。クチナワは撫子の右手首に白い蛇の姿で巻きつき、彼女だけに語りかけた。
撫子は学校でもクチナワの声を聞くようになり、日常生活との境界が曖昧になっていった。クチナワに導かれて行動する一方、自分は選ばれた特別な存在なのではないかという感覚も抱き始めた。
月火との対話
撫子は阿良々木家を訪れ、月火と暦の部屋で話をした。月火は撫子が暦を好きだと言いながら、彼の恋人になろうとも、恋人である戦場ヶ原ひたぎと争おうともしていないことを指摘した。
撫子は暦のそばにいられるだけで満足であり、迷惑をかけたくないと主張した。しかし月火は、それでは絶対に叶わない恋を安全な場所から続けているだけだと切り込んだ。暦を好きでいることで他の恋愛から逃げ、傷つくことを避けているのではないかと問われ、撫子は言葉に詰まった。
さらに月火は、長い前髪や自分を撫子と呼ぶ話し方も含め、撫子が可愛い自分を守り続けていることへ踏み込んだ。そして現実を見るよう迫り、ハサミで撫子の前髪を切り落とした。
前髪を失った撫子
撫子の悲鳴を聞いた暦は月火を殴り、火憐に撫子を任せた。火憐は切られた髪を整えたが、顔を隠していた前髪を失った撫子は激しく動揺した。
学校へ向かう途中、クチナワは髪型など気にする必要はなく、撫子は可愛いままだと慰めた。しかし可愛いという言葉は、月火から自分の生き方を突きつけられた直後の撫子を刺激した。
クチナワは神体を取り戻せば髪を早く伸ばしてやれると持ちかけ、さらに神体の場所にも見当がついたと告げた。撫子は神体探しを続けることになった。
教室での爆発
学校では、担任の笹藪先生から学級の問題について相談された。撫子は大人しく扱いやすいという理由から、クラスの仲裁役を期待されていた。
しかしクチナワと同化した影響もあり、撫子が普段押し殺していた感情が噴き出した。撫子は、自分を勝手に大人しい人間だと決めつけ、面倒な役割を押しつける笹藪先生へ激怒した。
さらに教室へ向かうと、クラスメイトたちにも怒りをぶつけた。黙っているからといって何も考えていないわけではなく、可愛いという理由だけで都合よく扱われる自分への不満を吐き出したのである。それはクチナワに操られた言葉ではなく、撫子自身が日頃から抱えていた感情だった。
北白蛇神社の御札
撫子はクチナワから、探していた神体が北白蛇神社にあると知らされた。神社へ向かい、御神体として保管されていた一枚の御札を見つけた。
しかしそこへ暦が現れた。暦は撫子に御札を置くよう求め、怪異へ深入りすることを止めようとした。ところが撫子は、自分の行動を否定されたことや、暦に隠していた思いまで知られたことで追い詰められた。
撫子は御札を飲み込んだ。それによって北白蛇神社の神としての力を取り込み、髪一本一本が白蛇となった蛇神へ変貌した。
捏造された物語
神となった撫子の前で、クチナワはそれまでの真相を明かした。撫子が出会ったクチナワは、最初から実在していた神ではなかった。
白蛇の幻覚も、声も、クチナワとの会話も、撫子自身が作り上げた妄想だった。撫子は自分が選ばれた者となり、神体を探すという物語を無意識に捏造し、現実から逃げていたのである。
しかし撫子が御札を飲み込んだことで、彼女が想像していたクチナワは本物の神として復活した。存在しなかった物語が、撫子自身の行動によって現実となったのである。
撫子の本心
撫子は、自分が被害者であり続けようとしていたことを突きつけられた。かつて蛇の呪いを受けたときも、学校で孤立したときも、暦への恋が叶わないことも、自分から状況を変えようとはせず、誰かが助けてくれることを期待していた。
月火が指摘したように、暦への恋もまた現実逃避の一つだった。叶わない相手を好きでいれば、本当の恋愛に踏み出さず、失恋する必要もなかった。
撫子は自分が可愛いだけの大人しい少女ではなく、嫉妬も怒りも身勝手さも抱えていることを認めざるを得なくなった。
暦と忍への襲撃
蛇神となった撫子は、暦と忍を圧倒した。無数の蛇を操り、毒を持つ牙で二人を攻撃した。暦は撫子を止めようとしたが、撫子の力は吸血鬼である彼と忍を上回っていた。
撫子は、暦が忍を助ける姿を見て、自分は助けてもらえなかったと怒りを爆発させた。そして暦への愛情を口にしながら、その身体へ牙を突き立てた。
かつて好きだった相手を自ら傷つけながら、撫子はそれすら他人のせいにはできないと理解していた。十万匹の蛇を操っているのも、暦を殺そうとしているのも、すべて千石撫子自身だった。
戦場ヶ原ひたぎからの電話
瀕死の暦の携帯電話に、戦場ヶ原から電話がかかってきた。撫子が電話に出ると、戦場ヶ原は暦と忍がまだ生きていることを確かめ、自分を殺していいから二人を助けてほしいと取引を持ちかけた。
撫子は戦場ヶ原も、忍も、暦も全員殺すつもりだと拒絶した。すると戦場ヶ原は、殺すなら忍より先に暦を殺してはいけないと助言した。暦が死ねば忍が本来の吸血鬼の力を取り戻すからである。
そのうえで戦場ヶ原は、三人を殺すこと自体は止めない代わりに、半年だけ待ってほしいと頼んだ。理由は、暦と一緒に高校を卒業したかったからである。
卒業式までの猶予
あまりにも日常的な願いを聞いた撫子は笑い出した。そして殺意が本物なら半年待つこともできると考え、卒業式の日まで三人を殺さないと約束した。
戦場ヶ原との会話を通して、撫子は自分が彼女について何も知ろうとしていなかったことにも思い至った。暦の恋人というだけで嫉妬し、憎み、消えてほしいと願っていたのである。
撫子は、違う形で出会っていれば戦場ヶ原と友達になれたかもしれないと口にした。しかし戦場ヶ原は即座に否定し、電話を切った。撫子もその答えに同感だった。
蛇神となった千石撫子
こうして千石撫子は北白蛇神社の神となり、人間としての日常から姿を消した。家族や学校がその後どうなったのかを、撫子自身が確かめることはなかった。
撫子は卒業式までの半年間、北白蛇神社で暦、忍、戦場ヶ原を待つことになった。かつて顔を隠していた前髪は無数の蛇となり、もはや自分を隠す必要もなかった。
卒業式の日が来れば、暦たちを迎えて最後の戦いを始めるつもりであった。撫子は自分を被害者として守っていた少女ではなく、自らの嫉妬も悪意も抱えたまま、暦を殺そうと待ち構える神となっていた。
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