小説【映画化】「国宝 上 青春編」感想・ネタバレ

小説【映画化】「国宝 上 青春編」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンル:芸道小説である。任侠の息子と歌舞伎名門に生まれた青年が、それぞれの血と才能を背負いながら歌舞伎という舞台で青春を賭ける、吉田修一氏による大河的群像劇である。

内容紹介
1964年元旦、長崎の料亭「花丸」で生まれた侠客の息子・立花喜久雄は、その美貌と才能を見込まれて歌舞伎役者へと導かれる。一方、歌舞伎名門の俊介との交錯を経て、喜久雄は群像の中で栄光と挫折を味わいつつ、自らの芸を磨き続ける。舞台は長崎から大阪、オリンピック後の東京へと広がり、スキャンダルや裏切りを抱えながらも頂点を目指す男たちの軌跡が緻密に描かれる。

主要キャラクター

  • 立花 喜久雄:長崎の侠客の息子。示す美貌と深い情熱を武器に、歌舞伎の世界へと誘われる若き役者である。
  • 俊介:歌舞伎の名門に生まれた青年。喜久雄と芸の道で出会い、友情と競争という複雑な関係を築く存在である。

物語の特徴

本作の魅力は、歌舞伎という日本文化の深みに青春ドラマを重ねた力強さである。吉田修一独特の文体は、その世界へ読者を“観客席”へと誘い、自身も“舞台の一部”であるかのような没入感を生む。 また、昭和の変化期の芸能界を背景に、血族・運命・努力・裏切りと栄光を交錯させる構成は、他作品にない重厚な読みごたえを伴っている。

書籍情報

国宝 上 青春編
著者:吉田 修一  氏
出版社:朝日新聞出版
発売日:2021年9月7日
ISBN:9784022650085
小説は2018年に単行本(上下巻体制)として刊行され、その後映画化も実現。

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あらすじ・内容

俺たちは踊れる。だからもっと美しい世界に立たせてくれ! 

極道と梨園。生い立ちも才能も違う若き二人の役者が、
芸の道に青春を捧げていく。


芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞をW受賞、
作家生活20周年の節目を飾る芸道小説の金字塔。


1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」――侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか? 朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。

国宝 上 青春篇

感想

長崎のヤクザの組長の息子が、ひょんなことから大阪の歌舞伎役者のもとに弟子入りし、厳しい稽古に明け暮れる日々を送る。
それが『国宝 上 青春編』の大まかなあらすじだ。物語は、主人公が十五歳から三十歳になるまでの、まさに青春時代を描いている。

読み進めるうちに、彼の人生は決して順風満帆ではないことに気づかされる。むしろ、上手くいかないことばかりだ。
特に、映画撮影時の出来事は、読んでいて胸が締め付けられる思いだった。監督や暴行に及んだ役者たちは、一体どんな顔をして受賞の舞台に立っていたのだろうか。
もし、あの時十五歳の彼がそこにいたら、きっと怒りに身を任せ、晴れの舞台をぶち壊していただろう。そう思わせるほどの、理不尽さと怒りが沸き起こる。

主人公は、任侠の世界に生まれながらも、歌舞伎の世界へと導かれる。
血縁との深い繋がりや軋轢、スキャンダルや栄光、信頼と裏切りが複雑に絡み合い、彼の人生を彩っていく。
舞台、映画、テレビと、芸能界が大きく変化していく時代を駆け抜け、数々の歓喜と絶望を味わいながら、彼は頂点を目指していく。

この作品は、単なる芸道小説ではない。一人の男の成長物語であり、時代の変化を背景にした人間ドラマでもある。主人公が、様々な困難に立ち向かい、もがき苦しみながらも、芸の道を究めようとする姿は心を強く揺さぶる。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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展開まとめ

第一章 料亭花丸の場

新年会の盛大な開催

昭和三十九年の大雪の日、長崎丸山町の老舗料亭「花丸」で立花組の新年会が盛大に行われ、各地の親分衆やその家族が集まった。立花権五郎が挨拶し、乾杯の後、芸者による余興が始まり、賑やかな宴となった。

二代目花井半二郎の来訪

愛甲会若頭の辻村が関西の歌舞伎役者で映画俳優の二代目花井半二郎を連れて来場し、場内が騒然となった。半二郎は挨拶後、権五郎と盃を交わし、長崎の芸能や自らの芝居について言葉を交わした。

権五郎と熊井勝利の過去

辻村の組である愛甲会の創設者・熊井勝利はかつて権五郎と共に宮地組と抗争を繰り広げたが、昭和三十一年に襲撃されて死亡した。熊井は権五郎に「権五郎」という名前を提案した人物でもあった。その後、宮地組との抗争は長期化し、昭和三十四年の肥前山口駅での乱闘を機に手打ちが成立、宮地組は衰退した。

余興「墨染と関兵衛」

宴の余興として、権五郎の息子喜久雄と部屋住みの徳次が歌舞伎舞踊『関恋雪関扉』を演じ、客席から大きな拍手を受けた。この余興は権五郎の妻マツが毎年準備しており、二人は稽古の成果を発揮して舞台を成功させた。

徳次の生い立ちと喜久雄の計画

徳次は華僑の父と芸者の母の子で、母を亡くした後に苦しい幼少期を過ごし、三年前に立花組に関わるようになった。喜久雄は彫師に依頼して自分の背にミミズクの刺青を入れる計画を立てていたが、徳次からは危険性を指摘されていた。

宮地組の襲撃

風呂場にいた喜久雄と徳次は、突如として座敷から怒声や悲鳴を聞き、宮地組による殴り込みと察する。喜久雄は駆け出そうとするが、マツと徳次に制止される。座敷では立花組と宮地組が激しく衝突し、庭や室内は血と雪で染まり、混乱を極めた。

権五郎への裏切り

二階に避難した権五郎のもとに辻村と半二郎が現れる。宮地組が階段を突破し、権五郎は襖を武器に応戦するが、辻村が拳銃ワルサーを取り出し、権五郎に銃口を向ける。戸惑う権五郎に向けて辻村は二発発砲し、権五郎は腹部に被弾して倒れた。

第二章喜久雄の錆刀

大晦日の邂逅と徳次の脱走

大晦日、喜久雄は春江の家で過ごしていたが、店先で鑑別所から脱走した徳次と遭遇する。徳次は権五郎の敵討ちを望むが、喜久雄は応じず、二人の間に溝が生じた。徳次は武器調達の計画まで口にするが、喜久雄は取り合わなかった。

権五郎の死と家族の背景

権五郎は銃撃を受けた後、三日間生き延びたが意識は戻らず、病室で亡くなった。喜久雄の実母・千代子は喜久雄が二歳の頃に結核で死亡しており、その看病をしていたマツが後妻となった経緯があった。千代子の死後、マツは喜久雄を育て上げた。

ミミズクの刺青と辰の素性

喜久雄は背中に翼を広げたミミズクの刺青を彫ってもらっており、彫師の辰はサイパン島で右脚を失った元兵士だった。辰は戦後、権五郎の庇護で長崎に住み着き、刺青師として生計を立てていた。

思案橋界隈での屈辱

喜久雄は春江に豚まんを差し入れるが、中学校の体育教師・尾崎に暴力を受け、公衆の面前で侮辱される。権威を失った立花組の現状や一周忌法要の惨めさが、喜久雄の胸に屈辱として残った。

徳次との再会と裏切りの決断

正月明け、徳次が姿を見せ大阪へ行くと告げると、喜久雄は同行を約束して長崎駅での待ち合わせを提案。しかしその直後、徳次を警察に密告し、自身は学校へ向かった。

宮地への復讐決行

その日、学校では宮地組元大親分で現・建設会社会長が講演予定だった。喜久雄はドスを携えて朝礼に参加し、機会を窺う。演壇に立った大親分へ突進し、刺突を試みたが、その瞬間に尾崎の体当たりを受け、宙に浮かされた。

第三章 大阪初段

大阪への出発

喜久雄は長崎駅から夜行列車に乗り、大阪へ向かった。初めての父子二人旅に胸を躍らせつつも、行き先や目的は知らされていなかった。権五郎は途中の食堂車でビールを飲み、談笑しながら息子を連れて行った。

花井半二郎との再会

大阪の新世界で喜久雄は、料亭花丸の新年会で会った歌舞伎役者・花井半二郎と再会する。半二郎は権五郎と旧知の仲であり、立花組の昔話や芸能界の裏話を語った。喜久雄はその華やかな世界に圧倒されながらも興味を抱いた。

舞台観劇と感動

権五郎は喜久雄を道頓堀の劇場へ連れて行き、半二郎が出演する芝居を観劇させた。豪華な衣装や立ち回りに喜久雄は魅了され、舞台の迫力と半二郎の存在感に強い印象を受けた。

料亭での宴席

観劇後、一行は料亭へ移動し、豪華な料理と酒が振る舞われた。権五郎は関西の親分衆と盃を交わし、喜久雄はその場で大人たちの世界を垣間見た。半二郎は芝居と任侠の共通点を語り、喜久雄に何事も覚悟が必要だと諭した。

帰路の父子の会話

帰りの列車で、権五郎は喜久雄に「人を惹きつけるには器量と度胸がいる」と語った。喜久雄は父の言葉を胸に刻み、将来への漠然とした憧れと不安を抱きながら、長崎への帰路についた。

第四章 大阪二段目

大阪到着と弁天との遭遇

1965年の大阪駅前に降り立った春江は、長崎から到着したばかりで都会の喧騒に戸惑っていた。背後から声をかけてきた若い男・弁天は馴れ馴れしく接近し、春江を案じる素振りを見せるが、怪しさが漂っていた。そこへ徳次が現れ、春江を迎えに来たと告げ、弁天と口論の末に取っ組み合いになる。小競り合いは互角に終わり、春江は両者を気遣った。

半二郎邸での稽古見学

徳次は春江を伴い、日本舞踊家元・花井半二郎邸へ向かう。春江は廊下から喜久雄と俊介の稽古を覗き、半二郎の厳しい指導を目の当たりにする。骨格を意識させるため裸で稽古させ、細部まで動きを矯正する様子が続き、徳次は竹刀を隠して厳罰を和らげていた。

春江の住まいと仕送り

徳次は春江を駅近くの古いアパートへ案内する。半二郎邸から離れた質素な住まいであり、生活費は長崎のマツから送金されていたが、半二郎はそれを喜久雄のために貯金していた。やがて喜久雄が稽古を終えて訪れ、春江と再会する。

京都行きと女形の才能

喜久雄と俊介は半二郎に伴われ、京都南座の舞台見学へ向かう。目的は半二郎自身の舞台ではなく、女形の名手・小野川万菊の「隅田川」を見せるためであった。半二郎は二人の女形としての才能を見出しており、この観劇が重要な意味を持っていた。

祇園での市駒との出会い

京都では俊介と富久春、喜久雄と市駒が行動を共にし、境内で焚き火を囲んで会話を交わす。市駒は自身の生い立ちを語り、出会ったばかりの喜久雄に人生を賭けると宣言し、将来の成功を信じる意志を示した。

万菊との対面と舞台の衝撃

南座で喜久雄と俊介は万菊の楽屋を訪問し、柔和な態度の裏に別の顔を垣間見る。舞台での万菊は幽玄かつ異様な存在感を放ち、観客を圧倒する。喜久雄はその姿を化け物のようと感じ、俊介は美しい化け物と評した。この体験は二人の将来に影響を与えることになる。

春江の仕事と弁天の接触

春江はスナックで働き、近所とも交流していた。徳次は弁天と行動を共にし、北海道での高額な仕事の話を持ちかけられる。弁天の素性や芸人横丁での育ちが語られる一方、徳次は鑑別所からの短縮出所後、半二郎邸での修行に飽きて遊び歩いていた。

徳次の決意と別れの予感

徳次は北海道行きを喜久雄に告げ、将来の成功で支援すると誓う。自らの学びと恩義を語り、離れても関係は変わらないと約束した。喜久雄は引き止められず、徳次の決意を受け入れるしかなかった。

第五章 スタア誕生

巡業先での開幕前騒動

四国・琴平の巡業公演で『道成寺』を演じる直前、俊介が宿酔いのまま楽屋に現れ、喜久雄の叱責を受けた。支度を急ぎ舞台に臨む二人は、観客の少なさにも関わらず全力で演じた。その舞台を観劇した大手興行会社「三友」の梅木社長は二人を称賛し、京都南座での主役抜擢を提案した。

竹野との衝突

楽屋にいた新入社員・竹野が歌舞伎を揶揄する発言をし、喜久雄は激昂して取っ組み合いとなった。周囲が制止するも一時は収拾がつかない状況となった。

長崎での再会と母の現状

巡業の合間の三連休に、半二郎の勧めで喜久雄は長崎に帰省する。実家は既に手放され、母マツは女中として働いていた。マツは笑みを絶やさず、息子の成功を心の支えとしていた。半二郎は喜久雄に、母が仕送りし続けた約200万円の通帳を渡し、大切に使うよう諭した。

南座での大抜擢と成功

南座での「二人道成寺」は、批判を受けつつも予想を超える大成功を収め、二人は一躍人気女形となった。口コミやメディア露出で公演は連日満員となり、若い女性ファンも急増した。

人気拡大と次回公演決定

南座公演の成功を受け、関西歌舞伎の名家同士が共演する大阪中座での「曽根崎心中」と再演「二人道成寺」が急遽決定。二人は多忙な取材と舞台に追われた。

徳次の再登場

大阪中座でのポスター撮影中、喜久雄は徳次と再会する。徳次は大部屋俳優としてトンボ稽古に参加しており、その経緯は次章で語られることとなった。

第六章 曽根崎の森の道行

北海道での過酷な労働と帰還

徳次は弁天と共に北海道へ向かったが、手配師に騙され、監視付きの過酷な道路開削作業に従事させられた。給金はほぼ支給されず、逃亡は暴行の危険を伴ったため、雪の残る原野を命懸けで脱出した。大阪へは見知らぬ人々の助けを受けながら辿り着き、半二郎宅に戻った。

福祉センターでの陳情と映画出演

悪徳手配師への報復を狙い、西成労働福祉センターに陳情に赴いた徳次と弁天は、撮影中の清田誠監督のドキュメンタリーに偶然収録された。その映像が反響を呼び、徳次は続く映画『夏の墓場』の主演に抜擢され、全国で上映された。俳優としての道は続かなかったが、喜久雄が徳次の帰阪を知る契機となった。

沢田西洋のテレビ収録騒動

喜久雄は徳次と共に、弁天の師匠で漫才師の沢田西洋のテレビ収録に同行した。収録直前、西洋は時間制限を巡ってディレクターと衝突し退出するが、再び依頼を願い出て出演に臨んだ。その最中、半二郎の交通事故の報が入る。

半二郎の負傷と代役問題

病院で半二郎の命に別状はないが両脚を骨折したことが判明した。代役選定では実子の俊介ではなく、喜久雄が指名され、周囲は困惑した。俊介は動揺しつつも、喜久雄を支えることを決意した。

稽古と世間の噂

喜久雄は病室で猛稽古を重ね、俊介も稽古相手を務めた。世間では代役抜擢の経緯を巡り様々な憶測が広まり、注目を集めた。舞台稽古では座頭の庄左衛門から一定の評価を受けつつも、子役扱いの拍手で終わらせぬよう戒められた。

中座公演と俊介の失踪

中座での公演は大盛況で、喜久雄は高評価を得たが、俊介は陰口に苦しみつつ舞台を務めた。千秋楽後、俊介は置き手紙を残し失踪し、同日に春江も姿を消した。俊介の行方は不明のまま数年が経過した。

第七章 出世魚

赤城洋子宅での麻雀と会話

東京・赤坂の赤城洋子宅で喜久雄、徳次、荒風関が麻雀を打っていた。洋子は喜久雄の最近の苛立ちを指摘し、舞台で役が得られない不満を私生活に持ち込んでいると揶揄した。喜久雄はそれを否定しつつも、心中では東京での役不足に不満を抱えていた。

大阪での人気と失速、映画出演

三年前の『曽根崎心中』での代役成功以降、道頓堀座で三か月連続公演を務めたが、徐々に客入りが減少し低調となった。半二郎は東京行きを時期尚早として見送りつつも、成田啓介監督の映画『霧の巡礼歌』出演を勧めた。喜久雄は映画に熱意を持てず、中途半端な時期を過ごした。

スポーツカー購入と母マツの独立

半二郎からの仕送りを元手に喜久雄は中古のジャガーを購入し、半二郎を呆れさせた。喜久雄は母マツを車に乗せ劇場に連れて行く夢を描いていたが、マツは自立し大阪で小料理屋「喜久」を開店した。

市駒との関係と娘綾乃

喜久雄は十六歳の頃から舞妓の市駒と交際し、やがて娘綾乃が誕生。結婚は叶わず認知のみで済ませ、市駒は芸妓を続けた。出産時には幸子が世話を引き受け、産後も支援を続けた。徳次は綾乃の誕生日にプレゼントを届ける段取りを整えた。

養子縁組と名跡襲名の提案

三友の幹部から、喜久雄を半二郎の養子として「花井半二郎」を襲名させ、半二郎を「花井白虎」とする提案があった。半二郎は視力の衰えに苦しみながらもこの案を受け入れ、喜久雄に伝えた。

幸子の反対と辞退の決断

幸子は俊介の将来を守るため、喜久雄に襲名辞退を迫った。喜久雄は了承し、苦い思いを抱きつつも辞退を約束した。幸子は喜久雄の同居を提案し、襲名の準備を共に進める覚悟を示した。

励ます会と関西社交界

大阪・東洋ホテルで「花井白虎」と「三代目花井半二郎」を励ます会が開かれ、政財界・芸能界の重鎮が集った。喜久雄は辻村や津田一郎らに挨拶し、『連獅子』の上演予定を語った。

襲名披露初日と異変

大阪中座での襲名披露初日、満員の観客の中で口上が進む。喜久雄の挨拶が終わり、半二郎改め白虎が面を上げる場面で、突如大量の吐血をし、場内に緊張が走った。

第八章 風狂無頼

舞台裏での鶴若とのやり取りと食事会の誘い

喜久雄は舞台袖で姉川鶴若の演技を学んでいたが、エレベーターの段取りが乱れ、楽屋へ駆け戻る事態となった。支度中に鶴若の弟子から呼ばれ、楽屋で鶴若から梅木社長主催の食事会に誘われた。

食事会での芸談と梅木の依頼

帝国ホテルでの食事会で鶴若と梅木が女形のあり方を語る中、鶴若の発言は喜久雄への当てつけであった。梅木は自らの左遷と白虎の病状を踏まえ、喜久雄を鶴若に託すよう依頼し、鶴若は了承した。

地方巡業決定と大阪での再会

喜久雄は鶴若一門の若手に役を替えられ、一年の地方巡業を命じられた。新大阪駅で旧友弁天と再会し、舞台外での人目を避けつつ会話を交わした。

白虎の病室での教え

天馬総合病院で白虎は喜久雄に芸で勝負することの重要性を説き、忠臣蔵四段目を演じた。白虎とのやり取りで喜久雄は芸の本質を胸に刻んだ。

白虎の最期と葬儀

深夜に病院から連絡が入り、喜久雄と幸子が駆けつけたが、白虎は息子俊介の名を呼びながら危篤となり、七月十八日に死去した。葬儀には約千人が参列し、梅木や吾妻千五郎が弔辞を述べた。

巡業での舞台と木下からの借金話

宇都宮での巡業公演後、三友経理の木下から白虎の借金約一億二千万円と大阪の自宅処分の話を聞かされ、喜久雄は借金を引き受ける意向を示した。三友は提案を受け入れ、契約のため喜久雄は本社に向かうこととなった。

借金引き受けの決意と徳次の支え

徳次は喜久雄の覚悟を理解し、自らも支えることを誓った。喜久雄は借金を恩義として捉え、どんな仕事でもやる決意を固めた。

徳次と市駒家の訪問

徳次は関西に戻り、市駒家を訪ね、幼稚園で主役の狼役を務める綾乃の元気な姿を見守った。

第九章 伽羅枕

荒風の引退と別れ

喜久雄は引退する力士・荒風の引っ越しを手伝い、かつての交流を回想した。荒風は厳しい修業を耐え抜き関脇まで昇進したが、故障と不遇で引退に至った。母から感謝の言葉を受け、喜久雄は東京の大劇場での端役出演に悔しさを抱きながらも、名優の演技を学ぶ姿勢を保った。

地方営業と宝石即売会

金沢の観光ホテルで営業を行う中、三友の意向で過密な地方回りを強いられる。宝石即売会では主催者の依頼でマダム相手の接客を行った後、地元有力者蜂谷の宴席で侮辱され、怒りを抑えて場を収めた。徳次と語らい、俊介との気質の違いを自覚する。

弁天の紹介と映画出演決定

弁天から清田誠監督作品『太陽のカラヴァッジョ』への出演話が持ち込まれる。当初は拒否するも、徳次の説得と洋子の自殺未遂報をきっかけに出演を決意。監督から厳しい評価を受けつつも役を獲得し、製作発表で注目を浴びた。

沖縄での過酷な撮影

灼熱の小島での撮影は監督の苛烈な叱責と理不尽な扱いに満ち、喜久雄はスケープゴートとして責任を押し付けられる。現場は殺伐とし、侮蔑や孤立の中で精神的に追い詰められ、夜には複数の男たちによる暴行を受ける。

カンヌ受賞と喜久雄の拒絶

撮影後、喜久雄は夜の街に入り浸るようになる。『太陽のカラヴァッジョ』がカンヌ映画祭で高評価を受け、演技が絶賛されるも、喜久雄はそれを拒絶し怒りを露わにする。世間の祝賀ムードとは裏腹に、本人は端役生活を続け心身を蝕まれていった。

入院と関西行きの打診

体調を崩し入院した喜久雄は、過去の思い出を口にしながらも気力を失っていた。三友の関係者も大役起用をためらう中、市駒の元で暮らすことを希望。徳次は了承しつつも、喜久雄が関西へ戻れば再起不能になる予感を抱いた。

第十章 怪猫

竹野と松浪の番組企画と化け猫芝居の噂

大阪の居酒屋で竹野と松浪が素人参加番組の内容について不満を語り、視聴率を取るために低俗な芸が求められる現状を嘆いた。松浪が三朝温泉で化け猫を演じる劇団の噂を話し、竹野に視察を勧めた。竹野は現地の芝居小屋で田舎芝居を観るが、召使お仲役の役者が見せた化け猫への早替わりに強く惹かれ、その迫力に圧倒された。

俊介の発見と万菊への報告

竹野は舞台の役者が俊介であると確信し、梅木に報告して復活企画を提案した。梅木は計画を承認し、後見として小野川万菊の協力を得た。竹野は別府の芝居小屋に万菊を案内し、化け猫の演技を見せた。舞台の俊介と客席の万菊が呼応するような動きを見せ、その迫力が観客を圧倒した。

楽屋での俊介と万菊の対面

終演後、竹野と万菊は俊介の楽屋を訪ね、万菊は生存を喜び、歌舞伎への複雑な感情を抱えながらも舞台に立ち続ける役者の覚悟を語った。俊介は無言でそれを受け止めた。

喜久雄と俊介の再会

三友本社に呼ばれた喜久雄は十年ぶりに俊介と再会し、短い言葉を交わした後、軽く額をはじいて再会を喜んだ。俊介は春江と息子の一豊を伴っており、喜久雄は春江と短く会話した。俊介との再会後も距離感は残り、喜久雄は変化を感じ取った。

俊介の復帰と周囲の反応

俊介が万菊主導の舞台で復帰することが決まり、喜久雄は実力を認めつつも、自身との扱いの差に複雑な感情を抱いた。徳次は血筋による優遇と受け取れる状況に憤りを見せた。

喜久雄の葛藤と決意

喜久雄は舞台稽古場で俊介が万菊から直接指導を受ける姿を目にし、自身との差に悔しさを覚えた。廊下で拳を壁に押しつけながら、自らを奮い立たせる言葉を心中で繰り返し、這い上がる決意を固めた。廊下で吾妻千五郎の次女・彰子と出会い、その笑顔を受けながらも決意を胸に秘めた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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