小説【ダンまち外伝】「ソード・オラトリア4」感想・ネタバレ

小説【ダンまち外伝】「ソード・オラトリア4」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容
本作は、地下迷宮(ダンジョン)探索を主題とするファンタジーライトノベルである。既存シリーズ「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」の世界観を継承しつつ、女剣士を主人公とする外伝シリーズである。本巻では、冒険者組織「ロキ・ファミリア」が未到達領域59階層への“遠征”を開始するという大きな転機を迎えた。

主要キャラクター

  • アイズ・ヴァレンシュタイン:本作の主人公格であり、「剣姫」として名を馳せる若き女剣士。ロキ・ファミリア所属。遠征を控え、自らの強さと目的を問い直す段階である。
  • レフィーヤ・ウィリディス:アイズを慕うエルフの魔導士。成長を志し、遠征においてもパートナーおよびサポート役として機能する存在。
  • フィン・ディムナ:ロキ・ファミリアの団長。強さだけではなく判断・統率力に優れた人物で、遠征作戦において指導的立場を担う。

物語の特徴
本作の魅力は、探索ファンタジーの王道的構成に加え、「遠征」「未到達領域」「女剣士の成長と覚悟」という複数のテーマを併せ持つ点である。特に未到達の59階層という“未知”への挑戦が、読者に新鮮な緊張感を提供しており、単なるバトル重視ではなく「目的」「絆」「問い直し」を含んだドラマ性を有している。他作品と差別化される点としては、女性主人公視点による物語進行、複数キャラクターの視点交錯、及びファミリア(組織)を中心に据えた集団行動描写があげられる。

書籍情報

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝ソード・オラトリア 4
(Is It Wrong to Try to Pick Up Girls in a Dungeon? On the Side: Sword Oratoria)
著者:大森藤ノ 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:SBクリエイティブGA文庫
発売日:2015年5月15日
ISBN:978-4-7973-8312-6

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

「聞いても、いい?」
「えっ?」
「どうして君は、そんなに早く、強くなっていけるの?」
「……何がなんでも、辿り着きたい場所があるから、だと思います」
「私も……」
──悲願(ねがい)がある。何がなんでも、辿り着かなければならない場所が、遥か先の高みにある。
少女にも、少年にも。

ついに始まる『遠征』。未到達領域59階層への挑戦。少女は『未知』へと挑み、そして少年は──。
『──冒険を、しよう』

これは、もう一つの眷族の物語、
──【剣姫の神聖譚(ソード・オラトリア)】──

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア4

感想

今回は、ミノタウロスとの戦いの裏側や、未到達領域である59階層への遠征準備、そしてベル・クラネルとの交流が描かれている。

今巻は前半のほのぼのとした日常パートと、後半の熱い戦闘パートの緩急が心地よい。特に印象に残ったのは、アイズがベルに稽古をつける場面だ。膝枕のためにベルを叩きのめす姿は、普段のクールな彼女からは想像もできない可愛らしさがある。一方で、ベルのひたむきな努力を目の当たりにしたロキ・ファミリアの面々が、触発されていく様子も熱い。

59階層への遠征に向けて、各々が抱える想いや葛藤も丁寧に描かれている。レフィーヤの早とちりな一面や、ロキ・ファミリアのメンバーそれぞれの個性も垣間見え、物語に深みを与えていると感じた。

後半の深層での戦いは、まさに手に汗握る展開だ。強敵に圧倒されながらも、決して諦めずに立ち向かう精鋭たちの姿は、本編に劣らず熱いものがある。今までぼんやりとしか分からなかったロキ・ファミリアの戦力を知ることができ、ベルが目指す高みが、いかに途方もないものなのかを改めて認識させられる。

また、徐々に明らかになっていく陰謀や謎が、今後の展開への期待感を高めてくれる。本編で最高に熱かった第一部最終章の裏側で、ロキ・ファミリアがどのような戦いを繰り広げていたのかを知ることができたのも、大きな収穫だ。ベルとアイズの修行の裏で、レフィーヤが嫉妬に狂っていたというエピソードも、クスっと笑える。ミノタウロス戦や地獄の18階層逃亡劇の裏で、ロキ・ファミリアが経験した地獄のような戦いは、彼らの強さの根源を物語っている。ベルが、この英雄たちにどこまで追いすがる事ができるのか、今後の成長が楽しみである。

総じて、『ソード・オラトリア4』は、戦闘シーンの熱さはもちろんのこと、キャラクターたちの人間ドラマや、深まる謎など、様々な魅力が詰まった作品である。次巻が待ち遠しい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

アイズ・ヴァレンシュタイン

剣士であり、教導役としてベルとレフィーヤに向き合った存在である。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・第一級冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 市壁上でベルを模擬戦で鍛えた。50階層線で決定打を担い女体型の核を貫いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 LV.6として前衛中核を務めた。教える役を自覚し手法を確立した。

ベル・クラネル

急成長を示す白髪の少年である。
・所属組織、地位や役職
 ヘスティア・ファミリア・下級冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 市壁で受け流しを習得した。9階層で片角ミノタウロスを単独討伐した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 異常な成長で周囲の評価を変えた。

レフィーヤ・ウィリディス

魔導士であり、並行詠唱を実戦運用へ到達した。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・後衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 アイズと模擬戦を重ね、フィルヴィス指導で並行詠唱に成功した。竜の壺戦域で群れを焼却した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 障壁魔法の継承で支援力が増した。

ロキ

派閥の主神であり、情報統合と遠征決裁を行った。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
 神会談で情勢を整理した。遠征前夜に大人数のステイタス更新を処理した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 未知の出入口仮説を導いた。

フィン・ディムナ

指揮官であり、深層戦で全軍を運用した。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 鏃陣でアイズを通した。自槍で敵の詠唱を寸断した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 勇者の解放を掲げ、士気を回復させた。

リヴェリア・リヨス・アールヴ

大魔導士であり、最終局面の火力を担った。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・幹部。
・物語内での具体的な行動や成果
 《レア・ラーヴァテイン》で装甲を焼失させた。結界維持で被害を抑えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 詠唱連結で最大火力を安定させた。

ガレス・ランドロック

重前衛であり、突破口を体で開いた。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・幹部。
・物語内での具体的な行動や成果
 砲竜の脚破壊と投擲で群れを粉砕した。触手の壁を破砕して前衛を通した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 致傷を負いつつも戦線を維持した。

ティオナ・ヒリュテ

前衛斬撃手であり、空中戦で砲撃を相殺した。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・第一級。
・物語内での具体的な行動や成果
 不壊大剣で大火球を相殺した。飛竜群を迎撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新装備《ローラン》の運用を確立した。

ティオネ・ヒリュテ

盾斬りの前衛であり、被弾域で仲間を庇った。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・第一級。
・物語内での具体的な行動や成果
 炎弾の受け流しで隊の損耗を抑えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 装備再整備で耐久が増した。

ベート・ローガ

機動前衛であり、対竜の頭部破壊を実行した。
・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア・第一級。
・物語内での具体的な行動や成果
 雷魔剣で砲竜を撃破した。若手へ厳しい発破をかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 前衛志願で危険任務を請け負った。

椿・コルブランド

鍛冶師であり、戦闘力を持つ随伴者である。
・所属組織、地位や役職
 ヘファイストス・ファミリア・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 不壊連作《ローラン》を供給した。居合で怪人の腕を切断した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 鍛冶と戦闘の両面で貢献した。

ディオニュソス

主神であり、情報共有と人員斡旋を行った。
・所属組織、地位や役職
 ディオニュソス・ファミリア・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
 カフェで聴取し、フィルヴィス同行を提案した。神会談で被害状況を共有した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 協力姿勢を明示した。

ヘルメス

主神であり、裏面会談で鍵情報に触れた。
・所属組織、地位や役職
 ヘルメス・ファミリア・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディオニュソスと面談した。護衛に密行を命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 都市情勢の橋渡し役を担った。

フィルヴィス・シャリア

魔導士であり、実戦的な教導を遂行した。
・所属組織、地位や役職
 ディオニュソス・ファミリア・後衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 短杖妨害の下で並行詠唱訓練を設計した。障壁魔法の詠唱を開示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 レフィーヤとの信頼関係を深めた。

フレイヤ

主神であり、距離感に介入する意思を示した。
・所属組織、地位や役職
 フレイヤ・ファミリア・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
 監視し、配下に警告の執行を命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 都市最強派閥として影響を及ぼした。

オッタル

前衛最強格であり、通路を遮断して手合わせを強いた。
・所属組織、地位や役職
 フレイヤ・ファミリア・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 アイズらの進行を一時止めた。独断で撤退を選んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 助言を残し戦略的に退いた。

ウラノス

老神であり、地下から事態を観測した。
・所属組織、地位や役職
 ギルド・最高権限。
・物語内での具体的な行動や成果
 穢れた精霊の性質を断定した。目の配置で情報収集を指示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 未知の出入口仮説を支持した。

フェルズ

黒衣の協力者であり、解析を担った。
・所属組織、地位や役職
 ギルド地下勢力・参謀。
・物語内での具体的な行動や成果
 映像から精霊の反転を読み取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 観測支援で意思決定を補佐した。

ヘスティア

主神であり、訓練場に同席した。
・所属組織、地位や役職
 ヘスティア・ファミリア・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
 市壁の鍛錬を見学し、庇護者として立ち会った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 派閥間の緊張下で穏当な対応を取った。

アレン

実働の剣であり、警告の執行役である。
・所属組織、地位や役職
 フレイヤ・ファミリア・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 夕刻の裏通りで示威行動を実施した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 命令通りに荒事を許容した。

レヴィス

赤髪の怪人であり、地下勢力の要である。
・所属組織、地位や役職
 闇派閥残党と連関する怪人。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔石を捕食して充填した。50階層誘導を示唆した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 本体不明のまま活動を継続した。

穢れた精霊(女体型)

反転した精霊であり、分身体で現れた。
・所属組織、地位や役職
 ダンジョン勢力・本体は深層潜伏。
・物語内での具体的な行動や成果
 長文詠唱で広域殲滅を行った。花弁吸収で即時再充填した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 分身撃破後も本体は未解決である。

展開まとめ

プロローグ 決意の朝に・・・・・?

闇に包まれた朝とアイズの覚醒
まだ夜が明けきらぬ時間、アイズは迷宮都市オラリオを囲う市壁の上に立っていた。東の空も暗く、静寂の中にわずかな魔石灯の光だけが残っていた。眠気を感じながらも、彼女は冷たい空気の中で目を閉じ、昨日の出来事を思い返していた。

ベル・クラネルへの謝罪と新たな関係
アイズは前日、白髪の少年ベル・クラネルに謝罪を果たし、彼と和解に近い形で関係を修復していた。ミノタウロス事件以降、誤解を抱えていた二人の間に一区切りがつき、アイズは彼から戦闘の師として教えを請われることになった。少年は未熟ながらも努力家であり、アイズはその姿に共感し教導を引き受けた。

アイズの内心と目的
しかしその動機は純粋な善意だけではなかった。ベルの異常な成長速度の秘密を知るため、アイズは彼を観察する意図を持っていた。来たる五十階層への進軍と怪人レヴィスへの対抗、さらには自身の悲願のため、強さを求める彼女はベルの力の源を探ろうとしていた。だが同時に、少年を欺いているという罪悪感にも苛まれていた。

罪悪感と決意
胸の痛みに耐えながらも、アイズはベルへの恩を返すため、教導を全うすることを誓った。それは罪滅ぼしではなく自己満足に過ぎないと理解しつつも、彼女は自分にできる限りの対価を払う決意を固めた。

秘密の訓練場所と早朝の思案
アイズが選んだ訓練の場は、北西の市壁上にあるかつての「秘密基地」であった。幼少期にリヴェリアと衝突した際、家出の避難先として使っていた場所である。外部から隠されたその空間は密会に最適だった。ベルとの接触が他の団員に知られれば止められると考え、アイズは誰にも気づかれぬようここを選んだ。

教導への不安と夜明け前の独白
しかし、実際に何を教えるべきかという具体的な内容が浮かばず、アイズは困惑していた。自らの戦闘は独学に近く、人に教える経験がなかったからである。夜も眠れぬまま思案を続けた末、彼女は市壁の上で小さなくしゃみをしながら、夜明けを待ち続けていた。

前章 そして少年は

深夜のロキ・ファミリアの静寂
迷宮都市オラリオが眠りにつく深夜、【ロキ・ファミリア】の本拠「黄昏の館」は全ての明かりを落としていた。外では団員が交代で門番を務め、館内ではわずかな魔石灯が炎のように揺れていた。

レフィーヤの早朝覚醒
女子塔の一室で、レフィーヤが夜明け前に目を覚ました。可愛らしい寝間着姿のまま、同室の仲間を起こさぬよう身支度を整え、静かに部屋を出た。彼女は四日前の24階層での戦闘から立ち直り、体調を完全に回復していた。

鍛錬への意欲と憧れ
眠れぬままに訓練を思い立ったレフィーヤは、弱さを痛感したあの戦いを思い返し、より強くなることを誓った。闘志を燃やしつつ、アイズと共に鍛錬できるかもしれないという淡い期待を胸に抱く。尊敬する彼女と並んで朝を過ごす光景を妄想し、思わず頬を緩ませながら中庭を目指した。

異変の発見と追跡の決意
しかし、早朝の中庭にアイズの姿はなかった。辺りは暗く、時刻も三時前。流石にまだ眠っているのだろうと思いながらも、レフィーヤは塔の裏手で軽装のアイズを発見する。帯剣した彼女は周囲を見回したのち、音もなく塀を飛び越えて館の外へ出た。驚いたレフィーヤは、何か異変を察し、杖を取りに戻る間も惜しんでその後を追った。

夜明け前の追跡
闇と冷気が支配する街路を、レフィーヤはアイズを追って走っていた。だが、彼女の進路はダンジョン中央の塔ではなく北西区画へ向かっていた。息を切らせながらも追跡を続けたレフィーヤは、街中の亜人や酔いつぶれた冒険者に聞き込みをするが、ついにアイズの姿を見失ってしまった。

見知らぬ少年との衝突
北西の市壁付近で探索を続けていたレフィーヤは、曲がり角で白髪の少年と正面衝突した。二人は尻餅をつき、互いに頭を押さえながら謝罪を交わす。少年は深紅の瞳を持つヒューマンで、そのあどけない顔立ちにレフィーヤは同年代の印象を受けた。彼はエルフの習性に気づき、触れるのをためらうが、レフィーヤは気遣いを見せて自ら手を取って立ち上がった。

アイズの情報を求めるレフィーヤ
少年の純朴な態度に安心したレフィーヤは、すぐさまアイズの特徴を伝え、見かけなかったかを尋ねた。金髪金眼の【剣姫】の名を口にするや否や、少年の表情は強張り、汗を流し始める。レフィーヤが【ロキ・ファミリア】所属であると答えると、彼は露骨に狼狽し、隠し事をしている様子を見せた。

誤解と追走劇の始まり
レフィーヤは少年がアイズに関わる秘密を知っていると直感し、問い詰めようとする。しかし少年は返答せず、突然背を向けて逃げ出した。驚いたレフィーヤも即座に追走を開始する。夜明け前の静寂な街に、二人の足音と叫び声が響いた。

白兎とエルフの激走
ベルは軽装ながら驚異的な逃げ足を見せ、入り組んだ路地を巧みに使って距離を稼ぐ。レフィーヤはLV.3の実力で差を詰めるが、彼の逃走技術は迷宮街で鍛えられたかのようで容易に捕まらない。だがついに五メートルの距離まで迫り、追いつくと確信して角を曲がる。
しかし次の瞬間、ベルの姿は跡形もなく消えていた。焦ったレフィーヤが周囲を探す中、近くの古びた石井戸の釣瓶が不気味に揺れていた。

再会と混乱の朝
夜明け前の市壁上、アイズが静かに佇む中、息を切らした白髪の少年ベルが姿を現した。アイズが挨拶をすると、ベルは動揺しながらも必死に返礼した。彼女が事情を尋ねると、ベルは森の妖精に追いかけられたと答え、顔を真っ赤にしながら震えていた。
アイズは首を傾げつつ心配の言葉をかけるが、少年は息を整えるのに精一杯であった。やがてベルは「少し休ませてください」と申し出、アイズも了承した。こうして、鍛錬が始まる直前の静かな朝、二人の間に奇妙で穏やかな時間が流れたのである。

果てなき追跡の果てに
夜明けが近づき空が白み始める頃、レフィーヤは三時間もの全力疾走を続け、息も絶え絶えになっていた。汗を流しながらも諦めきれず、アイズと白髪の少年を探し続けていた。限界を迎えながらも、不屈の意志だけで動き続けていた。

予感と遭遇
ふと、二人分の気配を感じ取ったレフィーヤは、嫌な予感に駆られ物陰に身を潜めた。そしてそっと顔を出した瞬間、視界に飛び込んできたのは、白髪の少年ベルと彼の肩を支えるアイズの姿だった。

誤解と衝撃
実際には、ボロボロになったベルをアイズが介抱しているだけだった。だが、レフィーヤの瞳には二人が仲睦まじく抱き合う恋人同士のように映った。その瞬間、頭上に雷鳴が轟くほどの衝撃が走り、彼女の思考は真っ白になった。

すれ違う三人
幻聴に近い「あはは、うふふ」という錯覚を聞きながら、レフィーヤは物陰で硬直したまま動けなかった。アイズは、後輩の視線にも気づかず、罪悪感と反省を抱えたまま静かにその場を去っていった。

夕餉の異変
その夜、【ロキ・ファミリア】の大食堂では、肩を落とし項垂れるレフィーヤの姿があった。普段は明るい彼女が沈み込んでいる様子に、ティオネとティオナ、そしてアイズまでもが動揺していた。周囲の団員達も距離を取り、重苦しい空気が漂っていた。

疑念と対話の始まり
意を決したアイズが声をかけると、レフィーヤは顔を上げぬまま、低い声で尋ねた。
「今日の朝、密会していたあの少年は何ですか……?」
その言葉にアイズは凍りつく。誰にも知られぬはずの出来事を後輩が知っていたことに驚き、慌てて彼女を部屋に連れ出した。

誤解と涙の追及
人気のない部屋でレフィーヤは静かに語り始めた。今朝、街の北西でアイズと白髪の少年が抱き合っているように見えたという。アイズは狼狽しながら説明する。少年が倒れ、歩けなくなったため肩を貸しただけだと。時間をかけて事情を話すうちに、レフィーヤの黒い感情は次第に晴れ、ようやく誤解が解けた。

嫉妬と不満
しかし、安堵の裏でレフィーヤの胸中には別の感情が芽生えていた。
「他派閥の下級冒険者が、アイズさんに鍛錬を頼むなんて……」
彼女は、アイズがその少年と二人きりで過ごしていることに激しい嫉妬を抱いた。アイズが必死に弁明しても、レフィーヤの不満は収まらなかった。

条件と反撃
アイズが「このことは皆には黙っていて」と頼むと、レフィーヤは震える声で叫んだ。
「条件があります! 聞いてくれないと、言っちゃいます!」
驚くアイズを前に、レフィーヤは顔を真っ赤にして告げた。
「わ、私にもあのヒューマンと同じように、特訓をつけてください――二人きりで!」
アイズは一瞬呆然とした後、小さく頷いた。

新たな約束
「私で……いいなら」と答えるアイズに、レフィーヤは歓喜の声を上げ、頬を染めて跳ね回った。こうして、アイズは秘密を守る代わりに、少年とレフィーヤの双方を教導することを約束したのである。

遠征六日前/鍛練二日目の市壁訓練
夜明け前、アイズは市壁上で鞘を用いた模擬戦によりベルを鍛えていた。立ち位置と空間把握を重視させ、防御を次の行動へ繋げることを指示した。実戦形式に近づけつつ、一方的な攻勢で隙や判断の甘さを都度指摘していた。

指導方針の確立と自己省察
言語的指導に限界を感じたアイズは、模擬戦で「感じ取り盗ませる」方法に定めた。幼少期にフィン、ガレス、リヴェリアから受けた教導を思い返しつつ、自身はまだ導く足さばきや加減が未熟であると自覚した。

課題認識と育成目標
アイズはベルの長所を危機回避と機動に見出しつつ、回避偏重で防御が拙い点を課題と断定した。遠征までの短期で、防御と受け流しの技、駆け引きの初歩を身につけさせる着地点を設定した。

臆病評へのケアと価値転換
前日の臆病指摘でベルが傷ついていると悟ったアイズは、臆病と慎重の混同を戒め、怖れは仲間を救うことがあると伝えた。自らは恐怖を麻痺させ怪物に近づく危うさを抱えていると告白し、忘れずに大切にせよと諭した。これに対しベルは、アイズを英雄と称え救いの体験を語り、相互の尊敬と理解が深まった。

再開後の改善
鍛練再開後、ベルは無闇な前進を控え、間合い管理と受けの精度が向上した。アイズは言葉が届いた事実に手応えを得た。

過剰な一撃と膝枕の再現
勢い余ったアイズの鞘打ちがベルに直撃し、気絶させてしまった。アイズは一週間前の膝枕未遂を想起し、再挑戦として膝枕を実施したが、目覚めたベルに動揺され素直に謝罪したうえで本心を明かした。

喜羞と悪ノリ、再失神
ベルは否定しつつも嬉しさを滲ませ、気絶時なら受容可能と漏らしたため、アイズは再び速攻で意識を刈り取り膝枕を堪能した。直後に鍛練本旨から逸脱していると気づいたアイズは、目を覚ましたベルへ繰り返し謝罪し、鍛練へ意識を戻した。

ダンジョンでの魔導訓練の準備
レフィーヤは『遠征』六日前の午前、5階層西端の無人ルームに赴き、情報秘匿と安全確保のために砲撃訓練の場を確保した。アイズは早朝のベル訓練を終えて同行しており、二人はここで稽古を開始したのである。

教える内容の空白と方針転換
アイズは剣士であるため魔導士への直接指導項目が思い浮かばず、出だしで行き詰まった。レフィーヤの現状を確認した結果、基礎はあるが実戦的な『並行詠唱』が未熟であると共有し、実戦形式での『並行詠唱』鍛錬に挑む方針へ転換した。

実戦『並行詠唱』の初挑戦と失敗
アイズが鞘で間断なく攻撃を加える中、レフィーヤは後退と回避で手一杯になり、詠唱が途切れて吹き飛ばされ続けた。魔力暴発は防いだが、呪文継続は叶わず、体力も削られた。アイズは自らの目論見が浅かったと謝罪し、口出しを悔いた。

少年の進捗報告とレフィーヤの感情転化
レフィーヤがベルの訓練状況を問うと、アイズは真摯さと吸収の速さを評価した。これを聞いたレフィーヤは己の不甲斐なさと対抗心を燃え上がらせ、悔しさを原動力に立ち上がった。

決意の再挑戦と継続
レフィーヤは今この瞬間に実戦『並行詠唱』を会得すると宣言し、再開を要請した。アイズは応じ、斬撃の圧を維持したまま訓練を続行した。レフィーヤは幾度も打たれながら詠唱を繰り返し、移動砲台の理想像に近づくための鍛錬を継続したのである。

応接間の来訪と鍛練熱
遠征五日前の昼前、黄昏の館の応接間にティオナとティオネが傷だらけで現れ、組手に励んでいた旨を報告した。アイズのランクアップに触発され、【ロキ・ファミリア】全体で鍛練熱が高まっている状況である。リヴェリアは遠征前の過熱に溜息をついた。

レフィーヤとアイズの近況
レフィーヤは従来どおりリヴェリアに学びつつも、鬼気迫る集中で書を渉猟し試行錯誤を続けていると判明する。アイズも様子に変化があり、派閥内の空気は明確に活性化している。

リヴェリアの所作と過去の面影
身なりを顧みない姉妹に対し、リヴェリアは髪を梳いて整えた。かつて無頓着だったアイズの身支度を世話した経験が活きていると語り、面倒を見てきた歳月を滲ませた。

『アリア』への言及と不穏の連鎖
ティオナが「アリア」という名を問うと、リヴェリアは反応を強めた。怪物祭以降の連続事案――18階層の騒動、レヴィラの街での宝玉を巡る戦闘、怪人レヴィスおよび闇派閥残党の暗躍――を踏まえ、アイズが一部で「アリア」と呼ばれている事実が不穏に接続している可能性が示唆された。

今後への示唆
最終的にリヴェリアは「50階層で何かがわかるはず」と結語し、遠征での決着点と真相解明の舞台が深層にあることを示した。

ロキとフィンの情勢確認
昼前、北東メインストリートを歩くロキとフィンは、闇派閥残党や「宝玉の胎児」、怪人レヴィスの存在を踏まえ、対峙相手が複数勢力の思惑で重なる巨大な影であると整理したのである。フィンは確証を避けつつも輪郭の浮上を認め、ロキは「未知」に昂揚を示した。

50階層への示唆
レヴィスの言葉を受け、未到達領域たる50階層が鍵とされた。ロキは不謹慎と前置きしつつも「人と怪物の異種混成」という神々の想定外に歓喜し、フィンは冒険者として「未知」へ挑む覚悟を明言したのである。

工業区の工房訪問
二人は工業区のヘファイストスの工房を訪れ、主神ヘファイストスと面会した。遠征同行と武器手配の同盟関係が再確認され、都市最大派閥と鍛冶大派閥の協力体制が固められたのである。

椿・コルブランドの登場と力量
団長にして最上級鍛冶師の椿が新作の紅い魔剣を鍛ち上げた。彼女はLv.5相当の戦闘力を持つ「単眼の巨師」であり、職人としての矜持と執念を示したのである。ベートの装備再製作など不壊属性武装の準備も完了と告げた。

魔剣鍛冶師の秘話
椿は自ら以上の魔剣鍛冶師の存在を示唆したが、ヘファイストスが血筋吹聴を制止した。椿は「至高の武器」に達するには持てる全てを注ぐ覚悟が要ると断じ、神の作品を超える野心を覗かせたのである。

遠征同盟の最終確認
当日摩天楼前で合流し即突入、深層ではロキ・ファミリアが護衛主体、物資は鍛冶派閥も分担という運用で一致した。かくして、50階層行きの遠征準備は着々と整えられたのである。

ベルの一日訓練要請
訓練四日目の夜明け前、ベルはサポーター不在を理由に「終日訓練」をアイズへ要請し、承諾を得たのである。これにより当日のレフィーヤ訓練は見送りとなった。

レフィーヤの不機嫌と偶然の再会
『遠征』三日前、レフィーヤは他派閥のベルがアイズを独占したことに憤懣を抱きつつ北通りを進む最中、同族の魔法剣士フィルヴィスと主神ディオニュソスに遭遇したのである。

カフェでの情報交換と警戒
ディオニュソスは24階層件の礼を述べた上で事情聴取を行い、闇派閥残党と第三勢力の動きを脅威と認識した。必要時の協力提供を明言し、『遠征』が三日後である点を確認したのである。

フィルヴィス同行の提案
ディオニュソスはレフィーヤの訓練にフィルヴィスの同行を提案し、当人の逡巡を押し切って承諾させた。両者の関係深化を期待する意図が示唆されたのである。

神々の裏面会談
別れた後、路地でディオニュソスはヘルメスに呼び止められ、情報交換を名目とする会談に応じた。両者は腹蔵の読めぬ笑みを交わし、オラリオ情勢の核心に触れる場へ向かったのである。

密行する護衛
その動向は屋上から【ヘルメス・ファミリア】のアスフィとルルネが監視し、音もなく追尾を開始した。神々の黒い思惑と実務部隊の裏稼働が併走する構図であった。

並行詠唱訓練への同行
ディオニュソスの勧めにより、レフィーヤはフィルヴィスを伴い5階層西端の広間で訓練を行ったのである。

指導方針の転換
フィルヴィスは後衛魔導士の特性を踏まえ、攻防を捨てて回避と詠唱に専念する指針を提示した。序盤は無理に魔力を込めず、後半で一気に練り上げる配分を教示したのである。

模擬戦と初成功
殺傷を避けた短杖による妨害の下、レフィーヤは回避と最小限の受けを維持しつつ詠唱を継続し、【アルクス・レイ】の並行詠唱に初成功したのである。

群れ相手の実戦強化
フィルヴィスはフロッグ・シューターの群れを誘導し、反撃禁止・並行詠唱のみでの殲滅を課した。度重なる中断を乗り越え、レフィーヤは【ヒュゼレイド・ファラーリカ】で群れを掃滅したのである。

関係の進展
休憩中、両者は距離を縮め、レフィーヤの願いにより呼称は「ウィリディス」から「レフィーヤ」へと改まった。信頼関係が明確化したのである。

障壁魔法の継承
遠征参加確認ののち、フィルヴィスは自身の【ディオ・グレイル】(超短文詠唱の全方位障壁)の効果と詠唱を開示し、レフィーヤの【エルフ・リング】での召喚条件を満たす形で託したのである。

意義
本件により、レフィーヤは「回避特化+詠唱持続」という運用基盤を確立し、並行詠唱の実戦適用と防御資産の獲得を同時に進めた。深層遠征本隊随伴に向け、単独時生存性と支援性能が段階的に向上したのである。

膝枕と気絶の反復
市壁上での模擬戦後、ベルは度々気絶し、アイズは膝枕で介抱した。気絶→膝枕が三度繰り返され、アイズは力加減の拙さを自覚したのである。

師としての気づき
教導を重ねる中で、アイズは「叩いて伸ばす」鍛錬の喜びを理解し始め、ベルの著しい成長に合わせて無意識に厳度が上がっていることを認めたのである。

成長の理由への問い
アイズは真剣にベルへ「何故そこまで早く強くなれるのか」と質問した。ベルは「追いつきたい人と辿り着きたい場所があるから」と答え、アイズは自身の悲願を重ね合わせて納得したのである。

晴天の小休止
正午の鐘と陽光に包まれる中、穏やかな時間が流れ、アイズはベルの率直さから“成長の自覚は本人にはない”と洞察したのである。

居眠りと“訓練”宣言
強烈な眠気に襲われたアイズは「ダンジョンでは何処でも眠れる訓練」と称して横になる。ベルに看破されつつも“訓練”を押し通し、二人並んで横になり微睡みに落ちたのである。

記憶の底の幸福
アイズは眠りの中で、幼き日の光景を見ていた。母の柔らかな声、父の穏やかな笑み、多くの人々に囲まれた幸福な時間。無垢で穏やかな日々がそこにあった。

闇の侵食
しかし突如、足元から黒い靄が吹き出し、世界を呑み込む。父は剣を手に闇へ向かい、呼びかける幼いアイズを振り返らぬまま遠ざかった。人々は消え、残ったのは無数の武具だけであった。

母の最期の姿
風に髪をなびかせ立つ母の背。彼女は闇の顎に呑み込まれ、金の瞳に涙を浮かべながら消えていった。叫ぶアイズの前に突き立っていたのは、父のものと同じ罅割れた銀の剣であった。

誓いの刻印
幼い自分が剣を掴み走り出す。成長した【剣姫】の姿と重なり、アイズは闇の中で叫んだ。
――待ってて。必ず取り戻すから、と。

母の背中に、そして過去の自分に誓いを刻んだ瞬間、白い光が押し寄せ、視界を満たした。

目覚めと静寂
アイズは夢から覚め、揺れる情緒を抑えながら金の双眸を開いた。頬に涙はなく、淡く滲む視界を拭い、静かに呼吸を整えた。

隣の寝息
耳に届いたのは自分ではない寝息。視線の先には、日差しを受けて無防備に眠るベルの姿があった。能天気な寝顔に、アイズは思わず微笑をこぼした。

触れた温もり
石畳の上で並んで眠る二人。距離の違和を感じつつ、アイズはそっと身を寄せ、指先でベルの頬に触れた。温もりが伝わり、少年はうなされながら「お祖父ちゃん……もう、許して……」と寝言を漏らした。

癒やしの時間
その無垢な姿に、アイズは静かに笑った。夢で見た黒い闇とは対照的な白い髪を撫でながら、穏やかに心を解かしていく。
彼女の胸にはもう恐怖はなかった。

失われた安らぎの再生
青空の下、アイズは夢の中の幼い自分を救い出してくれた“白兎”の隣で、久しく忘れていた温かな安らぎを取り戻したのである。

茜に染まる空と剣戟
日が沈みかける都市の上空。茜色の光に包まれた市壁の上では、金髪の少女と白髪の少年が激しく剣を交えていた。交錯する刃が夕日に煌めき、戦いは静かな熱を帯びていた。

遠くからの視線
その光景を見下ろす銀の瞳があった。高所から二人を見守る女は、少年の輝きを引き出す少女に微笑を浮かべつつも、どこかに嫉妬の影を含ませていた。

女神の懸念
「距離が近しいのは、困るわ」
少年の手を取って立ち上がらせる金髪の少女――アイズを見つめながら、女神は静かに言葉を落とす。
その声音には、守護と独占の狭間で揺れる感情が滲んでいた。

命令と執行者
やがて銀の瞳は細まり、命を下す。
「アレン」
背後に控えていた猫耳の青年が一歩進み出る。
「多少荒事になってもいいわ。『警告』しなさい」
「かしこまりました」
丁寧な礼とともに応じる青年の影が、夕暮れの赤光の中に溶けていった。

市壁での鍛錬と“監督者”
アイズとベルの一日鍛錬に、バイト中のヘスティアが合流し見学を宣言。ベルは保護者の前で気絶ゼロを死守し、日没まで攻防を積み上げた。

不自然な裏通りと待ち伏せ
訓練後、北西の薄暗い裏通りへ。人気(ひとけ)と灯りが不自然に消え、アイズが視線を察知。暗装の猫人と小人族四名が出現し、即座に交戦。

第一級同士の剣槍戦
猫人+小人族四名は連携と速度でアイズを包囲。魔法詠唱の余地を与えない“圧”で「深入りするな」「迷宮に籠もれ」と“警告”を突き付ける。

ベルの割り込み砲火
別働の黒装に囲まれたベルはヘスティアを庇いながら【ファイアボルト】を無詠唱連射。決定打にはならずも間隙を作り、アイズの包囲を緩めた。

撤収と残滓
襲撃側は“警告は完了”として撤退。アイズ・ベルともに致傷なし。誰の“意志”による示威かは不明のまま、月下に白亜の巨塔が静かに見下ろしていた。

ギルド本部での情報収集
『遠征』二日前の夕刻、ラウル・ノールドら【ロキ・ファミリア】の一部はギルド本部で掲示板や周囲の冒険者から情報収集を行ったのである。

【猛者】オッタル目撃の噂
猫人のアキと同僚の証言により、【フレイヤ・ファミリア】団長オッタルが中層付近で単独行動しているとの複数目撃談が共有された。真偽は未確定であった。

ガレスの判断と対応方針
合流したガレスは「刺激せず無視せよ」と判断した。オッタルは策を好まず、遠征中の派閥に仕掛ける可能性は低いと見做し、警戒度の引き上げは行わなかったのである。

物資搬入と遠征スケジュール
武装(魔剣を含む)と物資はホームに集積済みであり、予定通り二日後に出発と確定した。ギルドへ正式申請を進める段となった。

団員の鍛錬状況
幹部アイズの昇格に触発され、下位団員も鍛錬を続けていた。表向きは平常のベートも、実際には人目を避け過酷な自主鍛錬を重ねていた事実が示唆された。

遠征申請と見送り
ガレスが窓口で遠征申請を提出し、ギルド受付ミィシャ・フロットが受理した。ギルドは帰還を祈念し、遠征は正式手続をもって発進準備を終えたのである。

地下祈祷の間での報告と決定
【ロキ・ファミリア】の遠征が正式決定し、ギルド長ロイマンが地下祭壇で主神ウラノスに報告したのである。ウラノスは了承し、ロイマンは退出した。

ウラノスとフェルズの協議
黒衣のフェルズが現れ、深層行きの一行に「目」を用意し情報共有を図る方針を確認した。ウラノスは50階層に事件の鍵があるとの“確信”を示したのである。

怪人と『極彩色の魔石』の系譜
赤髪の女レヴィスと白髪鬼の証言を手がかりに、『極彩色の魔石』移植による人怪混成=強化種が中核と整理された。食人花などを触手的に使役する“彼女”が怪物祭以降の元凶と推定されたのである。

地上勢力と地下勢力の結託仮説
闇派閥残党は食人花の搬出を試みており、地下の“彼女”勢力と互いに利用関係にあると推測された。都市壊滅を狙う因果構造として整理されたのである。

アイズと『宝玉の胎児』の特異反応
18階層で胎児と接触した際、アイズは強い拒絶反応を示し、胎児もアイズの魔法に呼応した事実が再確認された。50階層誘導との関連は重要な判断材料であるとされた。

用語『エニュオ』の照合
レヴィスが口にした「エニュオ」について、天界の神名としての該当は確認できず、ウラノスは神々の言語上の意味を「都市の破壊者」と明言したのである。

鍛錬最終日の朝
遠征前日、東の空が白む頃。アイズとベルは市壁の上で最後の鍛錬を行っていた。
鞘と短刀がぶつかり合い、幾度も交錯する中、ベルはこれまで教えられてきた受け流しの技を完全に体得し、ついにアイズへ反撃の一撃を放った。結果は防がれたが、確かに届いたその一閃に、アイズは微笑を浮かべた。

別れと感謝の言葉
昇る朝日を前に、アイズは「これで、終わりだね」と静かに告げた。
ベルは深々と頭を下げ、「今日まで、ありがとうございました」と感謝を述べる。アイズもまた、これまでの日々を思い返しながら「私も、ありがとう。楽しかったよ」と答えた。少年の成長に触れ、久しく忘れていた“教える喜び”を胸に感じていた。

新たな出発
互いに笑い合い、言葉少なに別れを交わす二人。
アイズは「頑張ってね」とエールを送り、ベルは静かに頷いた。
それぞれの目指す頂きに向けて歩み出す時――アイズは振り返り、走り去る少年の背中に微笑みながら呟いた。

「……また、ね」

『並行詠唱』の完成
迷宮内の広間で、レフィーヤはアイズを相手に模擬戦を行っていた。
襲いかかる斬撃の中で詠唱を止めず、回避と詠唱を両立させる『並行詠唱』を完全に修得する。
放たれた魔法【アルクス・レイ】はかつての比ではない威力を見せ、アイズも感嘆した。レフィーヤは師や仲間の教えに感謝し、誇らしく微笑んだ。

それぞれの成長と誓い
アイズは「すごいね」と心から称え、レフィーヤは赤面しながらも「遠征でも皆さんを支えられるように頑張ります」と誓う。
その後、彼女はベルの様子を尋ね、アイズから「彼も頑張った」と聞いて安堵し、静かに頷いた。少年の存在は彼女の胸から離れることはなかった。

残された時間の鍛錬
アイズが帰路についた後も、レフィーヤは独り残り『並行詠唱』を繰り返した。
夕刻まで詠唱を続け、懐中時計の針が進むのを見てようやく地上へ戻る決意をする。

偶然の再会
1階層の出口、中央広場への門前。
地上へ出ようとしたその瞬間、レフィーヤは白髪の少年ベルと鉢合わせた。
深紅の瞳を見つめ、互いに言葉を失う二人。
次の瞬間、レフィーヤは指を突きつけて叫ぶ。

「負けませんから!!」

驚くベルを背に駆け出し、夕焼けの広場を走り抜ける。
『遠征』への決意と、少年への強い想いを胸に、レフィーヤは茜色の光の中へ消えていった。

遠征前夜の喧騒
黄昏の館の神室では、【ロキ・ファミリア】の全団員が『遠征』前の【ステイタス】更新を求めて長蛇の列を作っていた。
ロキは「アイズたんの特訓流行のせいや!」と嘆きながらも、一人ずつ神血を刻み更新を続け、夜半を過ぎてようやく作業を終える。

最後の来訪者
静まり返った部屋の扉を叩いたのは、狼人の戦士ベート・ローガだった。
一人遅れて姿を見せた彼は「さっさとやれ」とぶっきらぼうに命じ、ロキは疲労困憊の体を引きずりながら更新を再開する。
独り特訓していたことを見抜かれたベートは顔をしかめ、ロキの軽口を無視して黙々と背中を晒した。

誇りと孤高の論理
ロキが「後輩達とも仲良くせぇ」と茶化すと、ベートは吐き捨てるように語った。
「強え奴の役目は高ぇ所から見下すことだ。嗤って唾を吐かなきゃ、雑魚は一生雑魚のままだ」
アイズの昇格に触発され奮起した団員達への苛立ちを滲ませ、彼は己の信念を貫いた。

主神の願い
更新が終わると、ロキは「ベート、みんなを守ってあげてな」と静かに頼んだ。
扉の前で立ち止まったベートは振り返り、鼻で笑う。
「雑魚は雑魚だが、腑抜けじゃねえ。必要ねえよ」
素直さを隠したその言葉に、ロキは満足げに微笑んだ。

夜明け前の静寂
燃え残る蝋燭の炎が揺れる神室に、主神の笑みと、孤高の戦士の足音だけが響いていた。

朝の目覚めと支度
遠征当日の朝、アイズは快晴の空を確認し起床した。ティオナとティオネは騒がしく支度を進め、レフィーヤは髪留めと魔杖を整え、友から譲られた魔法を胸に刻みつつ出発準備を完了した。

館前の積み込みとベート
黄昏の館前では物資・魔剣の点検が進む。ベートは下位構成員へ辛辣に発破をかけつつ、アイズの朝食を気にして部屋へ向かうなど、結果的に面倒見の良さを覗かせた。

首脳陣の最終確認
尖塔の私室で、フィン・ガレス・リヴェリアが遠征編成と団員のコンディションを最終確認した。士気は高く、鍛錬の成果も良好であることを共有した。

小人族の旗印と三者の原点
フィンは小人族全体に「勇気」という旗印が必要であると語り、未到達領域突破への決意を表明した。三人は結成初期を想起し、かつての誓いにならい「熱き戦い」「まだ見ぬ世界」「一族の再興」を再確認した。

出発へ
軽口を交えつつも覚悟を固め、首脳陣は待つ団員のもとへ向かった。遠征の号令は目前である。

中央広場の出立準備
快晴の中央広場に【ロキ・ファミリア】が集結し、団旗の下で出発待機となった。鍛冶師部隊【ヘファイストス・ファミリア】も合流し、椿・コルブランドが同行を明言した。

見送りと差し入れ
ルルネがアイズへ携行食と青水晶(黒衣の魔術師経由の託し物)を密かに手渡し、アイズは腰具に装着した。また治療師アミッドが高等回復薬・万能薬を一行へ餞別として提供した。

隊列編成と目標
フィンは部隊を二班に分け、第一班を自身とリヴェリア、第二班をガレスが指揮し、18階層で合流後に一気に50階層を目指す方針を示した。

総員への訓辞
フィンは「古代の英雄に劣らぬ冒険者」と鼓舞し、「犠牲の上の偽りの栄誉は不要、必ず生還せよ」と誓いを求めた。市民と冒険者が見守る中、鬨の声とともに遠征が開始された。

神々の観測と新たな冒険の幕開け
遠征隊が出立した後、ロキは黄昏の館の屋根上から都市中央を見下ろし、これから待ち受ける運命を静かに見守っていた。彼女は「厄災か、それとも――」と呟き、遠征の行方を占うように目を細めた。

同刻、ギルド本部地下神殿では老神ウラノスが松明の光の中で天を仰ぎ、「さぁ、見せてみなさい」と低く告げた。

さらに、白亜の巨塔最上階では美神フレイヤが人知れず微笑みを浮かべる。

神々の視線が交錯する中、【ロキ・ファミリア】の遠征――新たな冒険譚が、ついにダンジョンの深淵で始まろうとしていた。

先鋒隊の編成と目的
第一部隊はフィン、リヴェリア、アイズ、ベート、ティオナ、ティオネら第一級を中核に編成し、異常事態への対処と後続の安全確保を担った。第二部隊はガレスと魔導士陣を中心に物量を受け持つ。鍛冶支援として【ヘファイストス・ファミリア】上級鍛冶師も二分同行した。

上層に走る“異常”
7階層を進軍中、冒険者から「上層にミノタウロス出現」との報が入る。さらに「白髪の少年が襲われている」との証言で、アイズはベルの危機を直感。9階層E-16付近と聞くや、単独で急行する。

救援行――そして“頂天”の遮断
道中、負傷した小人族の少女が「ベル様を助けて」と懇願。アイズが更に急ぐと、進路の広間で【猛者】オッタルが単騎で立ち塞がり、武器を投じ「手合わせ」を要求。目的地への唯一の通路を封鎖する形で、アイズの進撃を止める。

強制戦闘の開幕
遠方から響く猛牛の咆哮(ミノタウロス)と人の悲鳴。アイズは少女を下ろし《デスペレート》抜刀、オッタルは大剣を構える。
【剣姫】対【猛者】――都市最強と謳われる二人の激突が、ベル救援の刻を削りながら始まった。

開戦:剣姫の猛攻と猛者の完全防御
アイズは神速の連撃でオッタルに迫ったが、全てを大剣一本で撃墜され吹き飛ばされた。剣技は拮抗するも総合力はオッタルが上であり、短時間に再三距離を取られた。

風の解禁と必殺の相殺
ベル救援を急ぐアイズは対人封印の『風』を解放。圧を高めて畳みかけ、切り札「リル・ラファーガ」を放つも、オッタルが両手の剛閃で受け切り相殺に持ち込んだ。

援軍到着と突破
ティオナ、ベート、ティオネが合流して四対一の波状攻撃を展開。オッタルの防御に綻びが生じ、アイズは背後の通路へ突入しベルのもとへ疾駆した。

首脳対面:独断の宣言
後続のフィン、リヴェリアが到着。フィンは意図を質し、オッタルは「派閥の総意ではなく己の独断」と明言。多勢に無勢を悟り撤退した。

去り際の言葉と主題
オッタルは「殻を破れ、他者の手を退け、前だけを見よ」と叱咤し、「あの方(主)の寵愛に応えろ」と残して離脱。アイズは突破を果たし、ベル救援の刻が加速した。

到達と遮断
アイズは広間へ突入し、片角ミノタウロスと瀕死のベルを確認。即座にベルを背で庇い、敵を威圧して対峙した。

労いと救出宣言
ベルが生存していると知り安堵。「頑張ったね」「今、助けるから」と告げ、討伐に踏み出そうとする。

ベルの決起
その瞬間、ベルがアイズの手を掴んで前へ出る。「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかない」と宣言し、自ら戦う意志を示す。

重なる背中
ベルの背に、アイズは父の最期の背中を重ねる。恐れ多くも“器”を超えようとする一歩に、彼の変化を悟る。

主題の提示
ベルは「勝負だ」と吠え、ミノタウロスと一騎打ちへ。アイズは目の前で、少年が“冒険者”へと殻を破る決定的瞬間を見届ける。

英雄の再現
アイズの父が闇に突き進んだ光景と重なるように、ベルは紅き猛牛へと挑んだ。止められぬ決意の背中を前に、アイズは声を失い立ち尽くすしかなかった。

観戦者たちの衝撃
駆けつけたベート、ティオナ、ティオネ、フィンらは、かつての駆け出しとは別人のようなベルの戦いぶりに息を呑む。誰もがその異様な成長に気づき、目を奪われた。

英雄譚の再現
ティオナが童話『アルゴノゥト』を思い出す。精霊に愛され、牛人を討つ英雄の物語。今まさに、同じ情景が彼らの眼前で再演されていた。人と怪物が命を削り合う戦場に、神々が愛した“眷族の物語”が蘇る。

決戦と勝利
ベルは渾身の力を振り絞り、魔法と技を連ねて猛牛を圧倒。「ファイアボルト」を連続詠唱し、零距離で叩き込む。ミノタウロスは爆散し、片角と魔石だけを残して消滅した。

誕生の瞬間
勝利の直後、ベルは立ったまま意識を失う。燃え尽きたその姿に、アイズは過去と現在を重ね、心から名を刻む。
――ベル・クラネル。
この日、彼は“冒険者”として目覚め、“英雄”への第一歩を踏み出した。

後章 冒険へ

深層到達と野営地の形成
【ロキ・ファミリア】は50階層に到達し、噴火灰に覆われた灰の大樹林にて野営地を築いた。指示と喧噪の中、団員達は天幕を張り、魔石灯の灯りが夜を照らした。

落ち着かぬ第一級冒険者たち
ティオナ、ティオネ、ベートら第一級冒険者は落ち着かず、若い団員達を困惑させていた。彼等の胸中には、9階層で目撃した“あの戦い”の余韻が残っていた。

記憶に刻まれた光景
アイズは一人、岩上から灰色の森林を見下ろし、ベルの姿を思い返していた。ミノタウロスを討ち倒し、立ったまま意識を失った少年。その背に刻まれた【ステイタス】の神聖文字は、限界突破――全能力値がS級という異常な数値を示していた。

真実への衝動と制止
アイズはその背中に触れようとしたが、リヴェリアに止められる。己の理性を取り戻した彼女は謝罪し、共に治療を始めた。アイズの胸には、理解を超える“成長”への驚愕が残った。

治療と邂逅
ベルを治療施設へ搬送し、ギルドへの報告を命じる。そこへ駆け込んできたヘスティアが涙ながらに礼を述べ、アイズ達は静かにその場を去った。

再出発と内省
再びダンジョンへ戻った一行は後続と合流し、荒ぶるティオナ達の奮戦により短期間で50階層へ到達した。
アイズはなおも思索する。ベルの背に見た“父の幻影”、限界を越えた【ステイタス】、そして芽生えた未知の感情。
彼女はその全てを胸に刻みながら、自らの“冒険”の意味を問い続けていた。

50階層 野営と士気高揚
【ロキ・ファミリア】は灰の大樹林で野営を完了し、鍛冶師らも加わって会食を実施した。椿は道中のイレギュラーにも動じず討伐と素材確保で貢献、犠牲者は無しである。

最終ブリーフィングと選抜隊
翌日の未到達領域進攻は精鋭一隊で実施、残留組は【ヘファイストス・ファミリア】と拠点防衛に当たる。選抜にはフィン、リヴェリア、ガレスら首脳と支援のレフィーヤ、ラウル等が指名された。

不壊武装《ローラン》の支給
椿より第一級冒険者に不壊属性の連作《ローラン》が支給された。内訳は長槍・大戦斧・双剣・大剣・斧槍で、第二等級相当の火力を保証した。

椿とアイズの対話(剣と鞘)
椿は《デスペレート》を整備しつつ、過去のアイズを「剣そのもの」と評し、今は「鞘(仲間)を得た剣」と指摘した。アイズは“弱くなったのか”と逡巡するも、椿は「守るべきものが増えただけ」と断じた。

各隊員の前夜

  • ティオナ×ガレス:新武器の感触を確かめる素振りに、ガレスが稽古で応じ、体を冷まして就寝を促す。
  • レフィーヤ×ティオネ:重圧で硬直するレフィーヤに、ティオネが「私達が守る。あなたは魔法で助けなさい」と緊張を解き、連帯を強めた。
  • ラウル×アキ×リヴェリア:出撃前で震えるラウルに、アキが叱咤激励。リヴェリアは冗談を交えて拠点組の不安を払拭した。
  • ベート×フィン:ベートは9階層の一騎打ちを胸に前衛志願。「新種も怪物も全て屠る」とし、フィンは了承した。

野営地は備えを整え、恐れと昂揚が交錯する中で結束は強化された。アイズは“剣としての孤高”から“仲間に守られ守る剣”へと位相を変え、明日の未到達領域に臨む態勢が完成した。

闇の広間と屍灰
舞台は出入口が一つの薄燐光に満ちた広間であった。床一面は『魔石』を抜かれたモンスターの灰で埋まり、竜は大剣で地に縫い付けられていた。

レヴィスの捕食と充填
赤髪のレヴィスは無数の『魔石』を素手で抉り取り咀嚼し、消耗した力の回復を優先すると述べた。24階層で受けた「アリア達」からの傷が深く、燃費の悪い躯であると自己分析したのである。

仮面の訪問者との応酬
紫紺の外套と仮面の人物が「【剣姫】が深層へ向かったのに何故動かない」と非難したが、レヴィスは「今の自分より『奴』は強い」として休止を選択した。彼女は【ロキ・ファミリア】が問題なく50階層へ到達すると断じ、「最悪、『アリア』は死骸でも構わん」と冷酷に言い放った。

エニュオへの反発
仮面の人物が「神に逆らうつもりか」と圧をかけると、レヴィスは「利用は勝手にせよ、こちらも勝手に動く」と突っぱね、「エニュオにたまには自ら動けと伝えろ」と通告した。

退去と晩餐の継続
仮面の人物は退き、レヴィスは食人花に吊された獲物を落とさせ、竜ともども引き続き『魔石』を捕食した。怪物の断末魔だけが闇に反響し続けた。

出発と布陣
【ロキ・ファミリア】は50階層の野営地を発ち、戦闘員7・サポーター5・鍛冶師1の計13名で未到達領域へ進軍した。前衛ベート/ティオナ、中衛アイズ/ティオネ/フィン、後衛リヴェリア/ガレスという黄金布陣である。

初動戦闘と新種対処
55階層帯の迷路構造を高速突破しつつ、『ブラックライノス』『デフォルミス・スパイダー』を各隊位で処理した。芋虫型の腐食液にはアイズの風鎧と不壊武装で正面突破し、最終的にリヴェリアの《ウィン・フィンブルヴェトル》で通路一帯を凍結して突破口を開いた。

補給断念と緊張の加速
52階層以降は補給不能と判断し、フィンは戦闘回避優先で走破を継続した。以後、隊全体は極度の警戒態勢に移行した。

“竜の壺”からの階層無視砲撃
地下深部より連続する爆砕と咆哮が発し、上層へ貫通する大火球が縦穴を形成した。これは深部の砲竜『ヴァルガング・ドラゴン』による長距離狙撃であり、上位階層の常識を無視する“階層無視”の脅威であると判明した。

レフィーヤ救出戦
混乱の中でレフィーヤが蜘蛛糸に絡め取られ縦穴へ落下。リヴェリアの《ヴェール・ブレス》で防護しつつ、ティオナ/ティオネ/ベートが壁走行で急降下救援した。砲竜の大火球はティオナが不壊大剣で相殺し、ベートとティオナは飛竜『イル・ワイヴァーン』群を迎撃した。

部隊分断と作戦続行
アイズは本隊残留の命を受け、正規ルートで“竜の壺”の戦域(到達目標階層)へ向かった。一方、ガレスが落下組の支援に回り、フィン隊はアイズを先頭に突進、レフィーヤ救出組は縦穴経由で現地合流を図る二方面作戦となった。

空中戦の激化と強化種の出現
『竜の壺』内でティオナ・ベートは飛竜群と交戦した。高速個体を含む強化種の逆襲により《ヴェール・ブレス》が削られ、被弾が増加した。

レフィーヤの並行詠唱と逆転
レフィーヤは壁走行で並行詠唱を継続し、《アルクス・レイ》を強化種へ追尾させ撃破した。これにより空域の圧力が一時緩和された。

姉妹と狼人の突破
ティオネは《不壊》装備で火炎弾を斬撃・受け流しつつ撃墜を積み重ね、ティオナは大火球を相殺して降下を継続した。ベートは雷属性の魔剣を《フロスヴィルト》に充填し、砲竜一体の頭部を粉砕して38階層へ到達した。

制圧砲撃《ヒュゼレイド・ファラーリカ》
追って降下したレフィーヤは広域炎矢で階層の雑多なモンスターを焼却した。砲竜は健在ながら、地上戦の負荷を大きく軽減した。

“砲竜狩り”への方針転換
ベートは本隊保護のため砲竜優先撃破を宣言し、ティオネは撃破後に連絡路へ退避・本隊合流の方針を示した。敵は砲竜七体と飛竜群が主力であった。

ガレスの電撃参戦と殲圧
ガレスが落着し、砲竜の脚破壊→至近懐潜り込みで同士討ちを封じ、尾を掴んでの回転投擲で周辺の群れをまとめて粉砕した。超前衛としての規格外の《力》と《耐久》を示し、戦線を立て直した。

持久戦体制と新手
ガレスは「本隊到着まで持久」を指示し、若手を鼓舞した。直後、連絡路側から芋虫型の新種が群発し退避路の一部が塞がれ、再度の迎撃体制に移行した。

隊列再編と突破
縦穴で分断後、フィンは隊列を再編しアイズを前衛に据え、中衛にサポーター、殿にリヴェリアを配置して強行突破を続けた。アイズはLV.6と《エアリエル》の出力で深層級モンスターを瞬殺し、補給はサポーターの『魔剣』射撃で繋いだのである。

砲撃停止の察知と前進
下方からの砲竜砲撃が止み、ガレス隊が抑えていると推測。代わって飛竜が縦穴経由で侵入したが、連携で排除しつつ目的階層への階段に到達した。

“調教師”との遭遇
幅広通路に芋虫型の大群と紫紺外套の怪人が出現。統率された芋虫型が階段状隊形を取り、腐食液の一斉射で通路を洗い流したため、部隊は転進を余儀なくされた。以後、待ち伏せと包囲で誘導される展開となった。

誘い込みと反転迎撃
フィンは一本道へ誘導し、反転合図と同時に大盾三枚を並べ“着盾”したアイズの《リル・ラファーガ》を発射。腐食液の巨流を押し返し、前列の芋虫型を縦貫して一掃した。

首領格への畳み掛け
動揺する怪人にフィンが不壊長槍で肉薄。食人花の触手援護を捌く最中、ラウルの矢が肩に刺さり体勢を崩す。直後、椿の居合が右腕ごとメタルグローブを切断した。

食人花による救出と遁走
怪人は食人花に丸呑みされ逃走を図るが、リヴェリアの《ウィン・フィンブルヴェトル》で氷結。破砕後に残っていたのは外套・仮面・切断腕の殻のみで、本体は吹雪の一瞬で離脱していた。

追撃断念と合流優先
迷路状分岐と残敵を踏まえ、フィンは追撃を断念しガレス隊との合流を最優先と判断。アイズを再び前衛に戻し、一行は目的階層へ進軍を再開したのである。

56階層の戦闘
芋虫型が57階層から溢出し、砲竜や飛竜を巻き込んで三つ巴の乱戦となった。ガレスは双斧を振るい、腐食液を避けつつ岩盤を砕いて敵群を粉砕した。

アイズ隊の合流
リヴェリアの氷結魔法で砲竜群を凍らせ、アイズが《デスペレート》で撃破。フィン率いる本隊が合流し、残敵を掃討。階層に静寂が訪れ、補給と整備を実施した。

連絡路の異変
50階層への連絡路前にて、冷気が一切感じられない異常を確認。フィンの指示で全員が下層へ進入した。

変貌した50階層
記録にある氷原ではなく、密林に覆われた異様な空間が広がっていた。植物群の奥から不気味な音が響き、隊は警戒態勢で進行。

女体型モンスターの出現
密林の先の灰地には、芋虫型と食人花の大群が集い、巨大植物の下半身を持つ女体型が魔石を貪っていた。周囲の灰は死骸の堆積であった。

変態と覚醒
女体型が蠕動し、殻を破って緑の上半身を持つ女へと変貌。歓喜の絶叫を放ち、金色の瞳でアイズを見据えて「アリア」と呼んだ。

アイズの反応
共鳴する血のざわめきに突き動かされ、アイズは震えながらその存在を「精霊」と認識した。

古代精霊の正体判明
アイズの腰の水晶に映し出された映像を見て、ギルド地下神殿のフェルズが驚愕の声を上げた。神座に座すウラノスはそれを静かに見据え、「やはり」と呟く。映像の中で笑う“彼女”を前に、ウラノスはその存在がかつて神々に仕えた精霊の一柱であると断じた。

精霊と神々の関係
神々が地上に降臨する以前、精霊は“神意を受信する器”として存在し、人類や英雄へ加護を与えてモンスターと戦わせていた。精霊は神々の武器であり、人類の導き手だった。特に旧オラリオ(ダンジョン)には多くの精霊が遣わされ、その戦いが“迷宮神聖譚”として語り継がれている。

堕落した精霊
フェルズは、映像に映る存在が“ダンジョンに潜り、モンスターに喰われながらも自我を保った精霊”だと悟る。千年以上の時を生き延びたその存在は、モンスターに取り込まれた結果、存在の理が反転した。

穢れた変質
神の子である精霊がモンスターと融合し、“喰らい、奪い、溺れる”という原始的な欲求に支配される存在へと堕ちた。ウラノスは目を閉じ、重く言葉を落とす。

「あれはもはや――『穢れた精霊』だ」

敵の正体と目的
50階層に出現した女体型は、モンスターに取り込まれ反転した『穢れた精霊』であると示され、アイズを「アリア」と呼び生取りではなく「喰う」意思を示した。

開戦と敵性能
連絡路は緑肉で封鎖され、芋虫型・食人花が一斉突撃した。女体型は長大触手でアイズを集中的に狙い、超長文詠唱を高速で成立させ、『ファイアーストーム』を放った。

防御破綻と壊滅
リヴェリアの最硬結界『ヴィア・シルヘイム』は炎嵐に耐え切れず破砕し、ガレスが身を盾にして被害を抑えたが両名は戦闘不能同然となった。続けて『メテオ・スウォーム』が階層一帯を破砕し、戦力は総じて被ダメージ甚大となった。

敵のリチャージと増援
女体型は花弁で魔素を吸収して即時再充填し、60階層側から芋虫型・食人花を多数招集した。継戦能力と制圧力が桁外れであった。

士気崩壊寸前からの反転
フィンが「退路不要、勝機あり」と檄してベルの戦いを想起させ、第一級戦力(アイズ・ベート・ティオナ・ティオネ)とレフィーヤ、サポーターの戦意が復活した。

最終布陣と再起
フィンと前衛が女体型へ突撃、ラウル隊は後方援護に就いた。倒れていたガレスとリヴェリアも起き上がり、前者は再突入、後者は最大火力の詠唱に専念し、決戦体制が整った。

突撃の方針
フィンは「一撃決着」を宣言し、アイズに全力の一撃を任せ、隊は鏃陣で護衛したのである。

勇者の解放
フィンは『ヘル・フィネガス』を発動し指揮を捨てて殲滅に転じ、金銀二槍で前衛を切り拓いたのである。

初撃阻止
女体型が超長文詠唱を開始するも、フィンの《フォルティア・スピア》が口腔を貫通し魔力暴発を誘発したのである。

雷砲と白盾
短文詠唱『サンダー・レイ』に対し、レフィーヤが『ディオ・グレイル』を即応展開。ティオナ・ティオネが身を盾にし、相殺に成功したのである。

後衛防衛
リヴェリアは『詠唱連結』で最大火力へ移行。後背からの挟撃は椿の二刀(大戦斧+大双刃)とラウル隊の砲撃で食い止めたのである。

極炎殲滅
リヴェリアの『レア・ラーヴァテイン』が十柱の炎柱で花弁装甲を焼失させ、女体型の守りを剥いだのである。

最後の障壁突破
触手の緑壁はガレスが身を穿たれながらも破砕し、アイズ・ベート・フィンを懐へ通したのである。

至近罠と狙撃支援
女体型の口内短詠『アイシクル・エッジ』は、倒れたレフィーヤの誘導矢『アルクス・レイ』で角度を逸らされ、アイズの好機が生まれたのである。

決着
天井着地からの最大出力『リル・ラファーガ』が『ライト・バースト』を圧し切り、女体型の魔石を貫通して撃破したのである。

戦闘後
アイズは生還し、仲間と勝鬨を上げた。レフィーヤの支援は決定打の前提を作り、リヴェリア・ガレス・椿・前衛陣の総合連携が勝利を成立させたのである。

エピローグ 暴かれたシナリオ

状況整理
59階層戦闘後、【ロキ・ファミリア】は治療を済ませつつ即時撤退し、50階層の根拠地帰還を目指したのである。

女体型の性質
討伐対象は本体ではなく、『宝玉の胎児』を核とする分身であるとフィンが断定したのである。

本体位置の推定
ギルド地下での観測を踏まえ、ウラノスは『穢れた精霊』本体が60階層以下に潜伏していると推測したのである。

分身生成の機序
『宝玉の胎児』がモンスターに寄生し、集積した『魔石』を喰らうことで女体型――すなわち精霊の分身へ進化する、と整理されたのである。

敵の狙い
持ち運び可能な『宝玉』を地上で成熟させ、複数体の分身を同時に召喚・顕現させる「精霊の地上召喚」で都市壊滅を狙う計画であると結論づけられたのである。

ギルド側の所見
怪人・闇派閥の一連の動きは『穢れた精霊』起点の計画と整合し、55階層の環境改変や救援信号様の挙動も本体関与の示唆と評価されたのである。

直近方針
ロキへの即時報告と地上帰還、体制立て直しを優先することで全員の認識が一致したのである。

神々の会談
ロキ、ヘルメス、ディオニュソスの三柱は高級酒場の密室で会合し、最近の「闇派閥」「怪人」「穢れた精霊」関連事件の情報を共有したのである。三者とも被害側として状況を把握していた。

闇派閥と怪人の所在
怪人達の根拠地は地上ではなく地下迷宮に存在すると見られ、神々はその探索の困難を確認した。ディオニュソスは「都市の破壊者」という名乗りをオラリオへの宣戦布告と見なしたのである。

黒檻事件の再検証
24階層で確認された食人花の黒檻は地上搬出されておらず、摩天楼施設「バベル」経由での移動も否定された。ギルド関与説も隠蔽の不可能性から除外されたのである。

新たな結論
神々の推論は一点に集約された。
――迷宮都市オラリオには、「バベル」以外の未知のダンジョン出入口が存在する。

ロキはその直感を神の感覚として確信し、事件の核心がそこにあると結論づけたのである。

Share this content:

こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

コメントを残す

CAPTCHA