小説「【推しの子】 ~一番星のスピカ~」感想・ネタバレ

小説「【推しの子】 ~一番星のスピカ~」感想・ネタバレ

どんな本?

本書は、赤坂アカと横槍メンゴ原作の人気漫画『【推しの子】』の初となる小説版である。本作は、アイドルグループ「B小町」のセンター・星野アイの過去や、アクアとルビーとして転生する以前のさりなとゴローの出会いと別れを描いた前日譚を収録している。さらに、原作者・赤坂アカによる書き下ろし小説「視点B」も収録されており、ファン必読の内容となっている。

主要キャラクター
星野アイ: アイドルグループ「B小町」のセンターを務めるカリスマ的存在。本作では、彼女がアイドルを辞めようと決意するも、再びステージに立つまでの葛藤と成長が描かれている。
さりな: 病弱な少女で、ゴローとの交流を通じてアイドルへの憧れを深める。彼女の純粋な思いが、ゴローや物語全体に大きな影響を与える。
ゴロー: 産婦人科医として働く青年。さりなとの出会いをきっかけに、アイドルや芸能界への興味を持つようになる。

物語の特徴

本作は、原作漫画では描かれなかったキャラクターたちの内面や過去に焦点を当てている。特に、アイドルとしての葛藤や、ファンとアイドルの関係性、そして「推すこと」の意味を深く掘り下げている点が特徴である。また、赤坂アカによる書き下ろし小説「視点B」は、別の視点から物語を捉え直す興味深い内容となっており、読者に新たな発見を提供する。

出版情報
出版社: 集英社
発売日: 2023年11月17日
ISBN: 978-4-08-703540-7
判型/ページ数: B6判/240ページ+口絵4ページ
定価: 968円(税込)

読んだ本のタイトル

【推しの子】 ~一番星のスピカ~
著者:赤坂アカ ×横槍メンゴ田中創

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あらすじ・内容

「…決めた。私、もうアイドルやめる」

B小町に加入してしばらく経ったある日、アイは事務所社長・斉藤壱護にそう告げた。B小町は順調に見える活動の裏で、センターを務めるアイと他メンバーの不和という問題を抱えていた。そんな状況に嫌気が差したアイは、アイドルを辞めようとするが、そんなアイに壱護はとある提案を…!? ほか、アクアとルビーとして転生する以前のさりなとゴローの出会い、そして別れを描いた秘話が解禁!!
さらにアニメ第1話先行上映会にて入場者特典として配布された”原作・赤坂アカ書き下ろし小説「視点B」”も収録した、超豪華な初小説版!!

【推しの子】 ~一番星のスピカ~

感想

B小町加入直後、12歳のアイの話。
アイが愛について考え始めるキッカケになったぽい話。
その次が、ゴロー(アクア)とさりな(ルビー)の出会いと別れ、その真ん中にいるB小町に沼るゴローの話。
その後のゴローが荒み立ち直り”推し”活動を始めるまでの話。
最後には元B小町のメンバー、名前が載って無いから誰だかわからない。
例のメンバーなのか、それとも別人なのか判らない。
でも、想像するのは自由だ。

こうやって本編が終わってから読むと、アイは不思議ちゃんだよな、、
と言うより、心が何処か壊れてるな。
それでも愛そうと努力してみたが、その結果がカミキか。
ままならないな。
その先の読めなさが面白いと感じている。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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【推しの子】 ~一番星のスピカ~
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その他フィクション

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フィクション あいうえお順

備忘録

第一章

アイドルをやめる決意

星野アイは、アイドルグループ「B小町」からの脱退を事務所の社長に告げた。アイは軽い調子で話を切り出したが、社長は驚きと動揺を隠せなかった。彼女が脱退を決めた理由は、他のメンバーとの軋轢と、自身の存在がグループの雰囲気を悪化させているという思いからである。

グループ内の人間関係と嫌がらせ

アイがセンターとして注目される一方で、他のメンバーとの関係は険悪であった。陰口や嫌がらせが日常化し、衣装や小道具へのいたずらも頻発していた。アイはこれまでの人生で「普通」とは異なる存在であることを自覚し、「普通」の人々に受け入れられない現実を受け止めていた。その結果、グループを離れることで状況を改善しようと考えたのである。

社長の説得とアイの決意

社長はアイの脱退を思い留まらせようとしたが、アイの決意は固かった。社長は業界の厳しい現実や嫉妬の問題を語りつつ、アイドルとしての活動を続ける意義を説いた。しかし、アイは他者の評価に振り回されることに興味がなく、自分の価値観に基づいて行動することを選んだ。

未来への展望

アイは脱退後の計画として、学校生活をより充実させる意向を示した。芸能活動から離れたとしても、自分らしく生きていくと語り、社長も最終的にはその選択を認めた。ただし、社長は最後の仕事として日曜に同行することをアイに依頼し、物語は新たな展開を予感させる形で幕を閉じた。

銀座での最後の仕事

ランチと社長の貧乏話
銀座のイタリアンチェーン店でランチを取ったアイと社長は、軽い雑談を交わした。社長の貧しい生活ぶりに触れつつも、アイは気にせずドリアを楽しんでいた。食後、アイは「最後の仕事」として連れ出されたが、具体的な内容はまだ明かされていなかった。

銀座の雑踏とアイの人気
銀座の大通りを歩く二人は、通行人からの注目を集めた。アイはその理由を「自分が可愛いから」と即答し、社長は彼女の才能を惜しんだ。アイドルとしての地位が低い現状を話題にしつつも、社長は固定ファンがいることを指摘し、彼女の可能性を再確認していた。

高級ファッションビルへの到着
社長はアイを銀座の高級ファッションビルへ案内した。店内の華やかさに圧倒されながらも、アイは自分が何をするのか理解できずにいた。社長は「買い物だ」と告げ、店員にアイに似合う服を選ぶよう指示した。

新しい服とおしゃれの提案
社長は、田舎娘のようなアイの私服を気にしていた。試着室の鏡に映る自分の姿を見たアイも、その指摘に納得せざるを得なかった。社長の提案に従い、アイは店員の勧める服を試すことにした。作り笑いを浮かべながら、アイはこの場を早く終わらせたいと思っていた。

社長の思惑とアイの心境
社長の行動に対し、アイは高価な買い物で恩を売ろうとしているのではないかと考えた。しかし、彼女のアイドルを辞める決意は揺らがなかった。店員の営業トークに素直に応じつつ、アイは内心でこの仕事を終わらせる方法を考えていた。

試着室での選択

試着と選ばれたワンピース
アイは店員に勧められ、次々と服を試着させられた。清楚系からアメカジまで幅広く試した末、最終的に白地にドット柄のワンピースに決まった。背中の大きなリボンが特徴的なこの服は、アイドル活動にも使えそうな可愛いデザインである。店員から「アイドルみたい」と褒められたが、アイはどこか複雑な気持ちで答えた。

B小町のメンバーとの遭遇
試着を終えたアイが社長を探していると、偶然B小町のメンバー二人と出会った。吊り目の子と丸顔の子は、喫煙所で社長を見かけた話題から始まり、次第にアイへの嫌味や悪意を込めた言葉を投げかけるようになった。彼女たちはアイのセンターポジションや、社長から服を買ってもらっていることを揶揄し、嫉妬をあらわにしていた。

アイの心の揺れと涙
二人の攻撃的な言葉を受けても、アイは表情に出さず冷静に対応した。しかし、自分が「普通」ではないという事実や、親や仲間に捨てられてきた過去を思い出し、不意に涙が溢れ出した。涙の理由が自分でも分からないまま、彼女は自分の存在がこの世界に必要ないのではないかと感じ始めていた。

社長の介入と叱責
そこに現れた社長が、二人のメンバーに対して厳しい口調で注意した。彼はアイがセンターに選ばれたのは実力によるものだと説明し、彼女の努力を具体例を挙げて称賛した。さらに、「センターの座を奪いたいなら正々堂々と挑め」と告げ、二人に改めてアイドルとしての姿勢を正すよう求めた。

嫌がらせの埋め合わせ
社長は、今回アイに服を買うことが「埋め合わせ」であると説明した。先週、更衣室でアイの服が切り裂かれる嫌がらせがあったことを詫びるための行動であるという。アイはその律儀さに驚きつつも、社長の誠意を受け入れた。

推す喜びと愛情
社長は、アイやB小町を「推す」ことが自分の生きがいであり、それが一種の愛情であると語った。さらに、ファンから学ぶことで愛情を知るきっかけになると伝えた。アイはその言葉を聞き、これまで感じていなかった「推し」や「愛する」ことへの興味を少しずつ抱き始めた。

ファンレターの発見

手紙に込められた想い
アイはロッカーに溜まっていたファンレターを開封し、その内容に心を打たれていた。手紙の一つ一つにはファンからの熱い思いや感謝の言葉が綴られており、それはネット上の言葉とは異なり、アイの心に強く響いた。特に、彼らの情熱と応援に感動し、「推す」という行為の意味を深く理解し始めていた。

ファンから学ぶ新たな決意
アイは手紙を読む中で、これまで自分が「普通」ではないと感じていた心境が揺らぎ始めていた。ファンの愛情を受けて、自分も人を愛したり、推したりできる存在になりたいと考えるようになった。そしてそのために、自分のアイドル活動を見直し、新しい目標を定めることを決意した。

ライブ演出の提案

企画への初挑戦
アイはファンレターを読んだ後、B小町の次のライブに向けた演出案を手書きでまとめ、社長に提出した。内容はダンスの振り付けや衣装案など多岐にわたり、彼女がファンを応援し、楽しませたいという想いが詰まっていた。社長はその熱意に驚きつつも、突然の行動に戸惑いを隠せなかった。

センターとしての再スタート
アイは「アイドルをやめる」という発言を一旦保留にし、もう少し活動を続けたいと社長に伝えた。ファンレターを通じて得た新たな視点と目標が、彼女を動かしていた。これからもB小町のセンターとして、自分にできる最大限を発揮する意志を固めていた。

メンバーとの和解

謝罪を受け入れるアイ
会議室で再会したB小町のメンバーたちは、先日の言動を謝罪した。アイはその謝罪をあっさりと受け入れ、むしろ自分の態度に非があったことを詫びた。彼女の柔らかな対応に、二人は困惑しつつもその場を収めることに同意した。

共通の目標に向けて
アイは二人に対し、新曲ライブの演出案を説明した。メンバー全員の見せ場を増やすことで、チーム全体を引き立てる構成を提案し、二人もその意図を受け入れた。こうして彼女たちは表面的には和解し、ライブに向けた準備を進めることとなった。

「推す」という行為への新たな理解

日本中を推すアイドルへ
アイはファンからの手紙を読み、自分が人から愛されていると実感した。そして、自分もまたファンや周囲の人々を「推す」存在になりたいと考えるようになった。その意志をもとに、ライブで「日本中を応援するアイドル」をテーマに掲げることを決めた。

社長との対話と決意の確立
社長との会話を通じ、アイはアイドルが持つ影響力の大きさと、その可能性を再確認した。彼女は、自分を推してくれるファンだけでなく、メンバーや周囲の人々全員を応援し、幸せにするという大胆な目標を宣言した。欲張りな性格を自覚しながらも、その目標に向けて全力を尽くす決意を新たにしていた。

第二章

病院からの脱出計画

エントランスから裏口へ
さりなは病院のエントランスで周囲の人混みに紛れながら、車椅子を巧みに操作して裏口へと向かっていた。人目を避けるためにルートを工夫し、無事に裏口に到着した。久しぶりの外の空気に安堵しつつ、車椅子のハンドリムを力強く回した。

脱走の妨害者
しかし、車椅子の後部を押さえられて動けなくなった。振り返ると、そこには研修医の雨宮吾郎が立っていた。彼は脱走しようとするさりなを見逃すつもりはなく、車椅子を押さえつけたまま彼女を病室に連れ戻した。

さりなの熱意と吾郎の疑問

東京への意外な理由
病室に戻されたさりなは、東京行きを決意した理由を語った。それはアイドルグループ「B小町」の新曲ライブを見るためであった。しかし、吾郎はアイドルに全く興味がなく、その価値を理解できない様子だった。

「B小町」の魅力を熱弁
さりなは、グループのセンターである「アイ」の才能と魅力について熱く語った。アイの歌やダンスがいかに優れているか、彼女がどれほどファンに愛されているかを力説したが、吾郎にはその情熱がまったく伝わらなかった。

布教の第一歩

DVDの貸与
さりなは、自身が推す「B小町」の魅力を知ってもらうために吾郎にライブDVDを貸した。院長へのサボりの告発をしないという条件で彼を説得し、無理やり受け取らせた。吾郎は気乗りしないままDVDをポケットにしまった。

新たな楽しみと期待
さりなは、自身の熱意が吾郎に伝わることを期待しつつ、彼がグループに興味を持つ可能性を楽しみにしていた。今回の計画は失敗に終わったものの、新たな協力者を得るきっかけとなる可能性に胸を膨らませていた。

アイドルDVDが繋ぐ絆

ゴローの再訪と感想
さりながDVDを貸してから一週間後、ゴローは再び病室を訪れた。彼は「歌唱力は稚拙で、曲に深みがない」と批判を述べながらも、アイの笑顔について「根っこを揺さぶられる感覚」と形容した。その表情は生き生きとしており、さりなはゴローが少しずつ「B小町」に興味を抱き始めていると感じた。

さらなる布教活動
ゴローはさらなる「検証」のためとして、さりなから追加のDVDと「アイのトーク傑作選」が収められたUSBを受け取った。彼は「医療研究に役立つかもしれない」と言い訳しつつも、内心では興味を抑えられない様子だった。

ゴローの変化

トーク傑作選の影響
三日後、ゴローは再び訪れ、アイのトークについて熱く語った。アイの天然ボケと巧みな会話のタイミングを「天性の才能」と評し、その魅力を認めた。彼の率直な分析に、さりなは共感と喜びを覚えた。

アイドルへの深い洞察
ゴローは、アイが「仮面」を自然に使いこなしながら、状況に応じた役割を演じていると指摘した。その考察に、さりなは彼の物事を見る目の確かさを感じた。ゴローは「アイはアイドルを超えて女優業にも挑戦できる」とまで評価した。

病室ライブと推し活論

病室ライブの騒動
ゴローとさりなは病室で「B小町」の楽曲を熱唱し、ライブごっこを楽しんだ。しかし、主治医の藤堂に叱られ、ゴローは「アイドルソングが心身に与える医学的効果」を臨床研究として主張した。その姿に、さりなは笑いをこらえきれなかった。

特別な存在としてのゴロー
ゴローの訪問が増え、二人の時間は特別なものとなった。ゴローがアイの魅力を熱弁するたびに、さりなは彼を頼もしく感じた。自分もアイのように演じられる人間になりたいという思いが芽生えた。

新たな夢と温かな時間

アイドルへの夢
ゴローの言葉に触発され、さりなは「自分がアイドルになる」という夢を描き始めた。それは叶わぬ夢かもしれないが、彼と語り合うことで未来への希望が膨らんでいった。

手を繋ぐ温もり
秋の気配が漂う病室で、さりなはゴローの手をそっと握った。彼もその手を優しく握り返し、二人の間に穏やかな時間が流れた。その温もりに、さりなは「この時間がずっと続けばいい」と心から願っていた。

初めてのクリスマスプレゼント

寒い冬とゴローの不在

宮崎の冬は比較的温暖であったが、さりなにとって今年はいつも以上に寒さを感じる日々であった。その理由は、病室を訪れていたゴローが姿を見せなくなったことにある。ベッド脇の椅子が空のまま、さりなは星を眺めつつゴローの不在に思いを馳せていた。

看護師の噂話

夕食を持ってきた看護師から、ゴローに関する噂を聞かされた。彼が女性トラブルに巻き込まれた挙句、病院から姿を消したというのだ。驚いたさりなは、ゴローの「プレイボーイ」説に心を揺らしながら、孤独感を深めていった。

屋上での危機と再会

絶望と危険な瞬間

孤独と不安が募るさりなは屋上で過ごしていたが、アイのキーホルダーを拾おうと無理な体勢を取った結果、車椅子ごと転倒しかける危機に陥った。そのとき、ゴローが現れ、さりなを救い出した。

ゴローの突然の帰還

ゴローは「危ないな」と苦笑しつつ、さりなを抱き上げて病室へと連れ戻した。さりなは感情が溢れ、「海外逃亡やストーカー女の噂は本当か」と問い詰めたが、ゴローは噂を一笑に付し、自分の不在の理由を語り始めた。

ゴローの驚きの計画

ライブチケットの贈り物

ゴローはさりなに「B小町」の宮崎ライブチケットを差し出した。それはプレミアム席で、特典会でアイと直接話せる貴重なチケットであった。さりなは驚きと感動で涙を流し、ゴローの努力に感謝を伝えた。

ゴローの行動の背景

チケットを入手するため、ゴローは東京のイベントに足を運び、数日間かけて抽選に挑んでいたという。その熱意はさりなへのクリスマスプレゼントのためであり、彼の真剣な思いが伝わる行動であった。

希望に満ちた未来

初めての喜び

さりなはゴローからの贈り物に「人生で最高のクリスマスプレゼント」と感謝を述べ、これまで感じたことのない幸福感に包まれた。病気の辛さや孤独を忘れ、春のライブへの期待で胸がいっぱいになっていた。

最後のクリスマス

その日が、さりなにとって初めて他人から贈られたクリスマスプレゼントであり、そして人生で最後のクリスマスプレゼントであった。

第三章

容体急変の知らせ

嵐の夜、呼び出される雨宮ゴロー
激しい嵐が吹き荒れる中、雨宮ゴローは病院からの緊急の電話で呼び出された。神経外科医の藤堂により、患者であるさりなの容体が急変したことが告げられた。昼間まで元気だったさりなが、突然高熱と痙攣で生死の境を彷徨っているという現実に、ゴローは動揺を隠せなかった。

さりなの病状と主治医の説明
藤堂は、さりなの病気である退形成性星細胞腫が進行し、転移により治療が困難になっていることを説明した。さりな自身は容体の悪化を隠し、ゴローとの時間を楽しむために気丈に振る舞っていたことも判明した。この事実を知り、ゴローは自分の無力さを痛感するばかりであった。

さりなとの最後の時間

病室でのさりなの言葉
さりなは意識を取り戻し、ゴローに微笑みかけた。そして、夢の中でアイドルとして活躍していた自分の姿を語った。さりなは自分の運命を受け入れながらも、ゴローに「自分のことを覚えていてほしい」と願い、大切にしていたキーホルダーを渡した。

別れの瞬間
さりなは最後の力を振り絞り、ゴローに感謝の言葉を伝えた後、静かに息を引き取った。心電図の音が途切れた瞬間、ゴローは自分の無力さを噛みしめ、ただ彼女を見守るしかなかった。

別れの後の日常

さりなの家族の無関心
さりなの両親は彼女の死後数日経ってから現れ、淡々と遺体を引き取るのみであった。その冷たい対応にゴローは怒りを覚えつつも、直接対峙することを避けた。

日常の再開と心の痛み
ゴローは日常業務に戻ったものの、さりなのことを思い出しては胸を締めつけられていた。彼女の存在が彼の心に大きな影響を与えていたことを改めて実感する一方で、何もしてやれなかった自分に対する無力感に苛まれていた。

孤独な夜の中で

バーでの沈黙
ゴローはバーで深酒をしながら、自分の無力さを紛らわせようとしていた。店主や周囲の人々とのやり取りの中で、さりなの存在が徐々に記憶から薄れていく恐れを感じていた。

さりなの思い出
ゴローはさりなの笑顔を思い浮かべ、その生涯が短くても確かに誰かの心に残るものであったと信じようとしていた。彼女の記憶を消さないために、心の中でその存在を抱き続ける決意を新たにした。

酔いから覚める夜の事件

冷たい夜風とユミコの再接近
夜風が酔いを冷ます中、ゴローは駅のロータリーへ向かっていた。そこにユミコが再び現れ、ゴローの右腕にしがみついた。軽薄な態度で慰めを申し出る彼女をゴローは拒絶したが、彼女は食い下がらなかった。

チンピラ男の乱入と暴力
突如現れたチンピラ風の男がユミコに怒鳴り声を上げ、ゴローを襲った。誤解から生じた怒りで、男はゴローを殴打し、地面に倒れ込ませた。ゴローは自分の無力感と無関心さを感じつつ、抵抗することもなく暴力を受け入れていた。

不思議な声と内なる目覚め

ユミコの変化と神秘的な言葉
突然ユミコの態度が変わり、澄んだ声で「君にはまだ役目がある」と告げた。その言葉と瞳の迫力にゴローは圧倒され、彼女の指し示すジャケットからさりなから受け取ったキーホルダーを取り出した。

不思議な出来事の終焉
ユミコは何事もなかったように立ち去り、チンピラ男もその後を追った。ひとり残されたゴローは、ユミコの言葉を振り返りながら、さりなとの思い出と「生きた証」を改めて考え始めた。

さりなの手紙とその意味

医局での封筒
翌日、ゴローは医局を訪れ、藤堂からさりなが残した手紙を受け取った。封筒には「ゴローせんせへ」と書かれており、中にはさりなの思いが綴られていた。

動画サイトとアイの歌
手紙に記載されたURLを通じて、ゴローはさりなが薦めた動画を再生した。それはアイが歌う「推しに願いを」という応援歌だった。映像と歌詞から、さりながアイに託した生きる希望とゴローへのエールが感じられた。

未来への希望

歌が伝えるメッセージ

アイの歌詞とパフォーマンスに触れたゴローは、さりなの「推し活」が彼女の人生を輝かせていたことを理解した。その思いを受け取ったゴローは、彼女の「生きた証」を胸に刻み、未来を信じる気持ちを取り戻していった。

さりなの夢とゴローの変化

歌の中にさりなの姿を重ね、彼女が夢を叶えていたかのように感じたゴローは、彼女の思いに応えるように前を向き始めた。ゴローの心には、彼女の存在がこれからも支えとなることを確信させる輝きが残された。

推し活に燃える日常

藤堂への熱弁と推し活の影響

ゴローは医局で藤堂に向かい、アイの魅力を熱弁していた。アイの歌唱力やステージでの存在感を語る彼の様子に、藤堂や同僚たちは困惑していた。ゴローはさりなの手紙を受け取った三か月前から生活を一変させ、深酒をやめ、推し活に没頭していた。さりなが夢見たアイドルの未来を自分が見届けるため、ゴローは全力でアイに向き合っていた。

同僚たちの冷ややかな反応

ゴローの推し活に対する情熱は、周囲から奇異の目で見られていた。医局内では、彼が危ない薬に手を出しているのではないかと噂する声すらあった。しかし、ゴローにとってそんなことはどうでもよかった。彼にとって推しに夢中になることが、今のすべてだった。

宮崎ライブへの出発

ライブ優先の早退

ゴローは、藤堂に「待ちに待った B小町の宮崎ライブがある」と告げ、レポート提出を後回しにして医局を早退した。藤堂は呆れながらも引き止める気力を失い、ゴローを見送るしかなかった。ゴローは意気揚々と医局を出て、ライブ会場へ向かう準備を進めた。

夕暮れに浮かぶ希望

廊下から見上げた夕暮れの空は、茜色に染まっていた。ゴローの頭にはアイの歌「推しに願いを」のメロディーが響いていた。「頑張れ」と歌うアイの言葉に背中を押されるように、ゴローはライブの期待に胸を膨らませ、車を飛ばす決意を固めた。東の空には、一番星が輝いていた。

エピローグ

宮崎ライブ前のひととき

一番星との出会い
アイは宮崎市内のコンサートホールの駐車場で、茜色の空に輝く一番星を見上げていた。初の全国ツアーの初日を控え、東京では見られない美しい夜空を楽しんでいた。ツアーに緊張するメンバーたちを気遣いながらも、彼女自身は旅行気分を満喫していた。アイにとって、この空間での星の観察は穏やかなひとときであった。

社長との会話
アイの独り言を聞きつけて現れたのは、所属事務所の社長である斉木だった。社長はアイを気遣い、駐車場にいる理由を尋ねた。アイは星空の美しさに惹かれていただけだと答えつつ、現在のアイドル活動での立ち位置や、メンバーとの関係を語った。自らを支える指針として、周囲を助け、全員が輝けるよう努める姿勢を崩さないことを強調していた。

スピカへの憧れ

スピカの話と双子星の秘密
社長はアイに、一番星の名前が「スピカ」であると教えた。スピカは双子星であり、互いに寄り添いながら輝いていると説明した。その話を聞いたアイは、星がひとりぼっちでないことに安堵し、双子という存在に憧れを抱いた。彼女は、自分に家族がいないことを理由に、双子や家族の温かさに思いを馳せていた。

未来への願い
アイはふと、自分が子どもを産むなら双子がいいと考えを口にした。社長はその発言に驚き、彼女をたしなめたが、アイは自分の未来の幸せを語ることをやめなかった。自然豊かな場所で家族と過ごす夢を抱き、夜空を見上げて願いを込めた。「素敵な家族を築けますように」と心の中で祈るアイの瞳は、スピカと同じように輝いていた。

17年後

アイの記憶と雪
十五年前、アイが死んだ日を思い返すと、あたりに雪が降っていたような漠然とした記憶があった。しかし実際にはその日に雪は降っていなかった。告別式の準備中に降った大雪や、喪服を買いに行った記憶が心象風景と混じり合い、出来事が抽象化されていた。雪は象徴であり、その日の出来事を思い出すたびに、初めて世界に雪が降った日のような感覚を伴っていた。

現在の生活と記憶の交錯
寒波が訪れた十二月のある日、過去の記憶を胸に、コートを羽織るも部屋着とのアンバランスさに笑みがこぼれた。コンビニまでの短い道のりも、過去の記憶と現在の孤独が重なり、心に影を落とした。信号で見知らぬ男性とすれ違うとき、視線への警戒が過剰になり、かつてアイドルとして見られていた頃の名残が感じられた。十七年前、若さと美しさを武器に「B小町」の一員として活動していた時代は、歓声と視線に満たされていた。しかし、ルッキズムに支配された業界の異常性を後になって知り、違和感を覚えていた。アイドルを辞めた後、役者やモデル活動を模索したが、元「B小町」という肩書きに頼らざるを得なかった。そして、業界を去った後の現実に直面し、自身の無力さを痛感していた。

現在と過去の未練
芸能界を離れた後、就職活動で受けた偏見や苦労があった。「元アイドル」という肩書きは、興味と偏見の両方を呼び込み、営業職としての道しか残されていなかった。アイドル時代に稼いだ資金も底をつき、かつての華やかな生活からはかけ離れた現状が、彼女の心をさらに冷え込ませた。マスタードカラーのトレンチコートは、アイドル時代の象徴でありながら、今では不釣り合いな遺物となっていた。それを手放せないのは、未練の表れであったかもしれない。記憶の中のアイは、今も若く美しく輝いていた。その姿を羨む気持ちと、それが幻視であってほしいという願望が交錯していた。

老いと歌の記憶
老いることへの恐れや、若い頃に歌った「老ける前に死のう」という歌詞がふと蘇った。それでも、しぶとく生き延びている自分を思い返しながら、彼女は過去と現在の狭間で揺れていた。

別れの苛立ちと控え室での会話
彼女は彼氏に振られたことに苛立っていた。「面倒だ」という別れ際の一言が、彼女の怒りの引き金となった。ライブ前の控え室で、彼女は新メンバーのカナンにその不満をぶつけた。カナンは冷静に「面倒くさいことをしたのでは?」と指摘し、彼女を少し黙らせたが、苛立ちは簡単に収まらなかった。

メンバー間の緊張とアイへの感情
グループ「B小町」のメンバー間には表面上の調和があったが、実際には緊張感が漂っていた。中心メンバーのアイがその原因となっていた。アイは可愛らしさと完璧さで推される存在であり、他のメンバーから距離を置かれることが多かった。彼女もまたアイに複雑な感情を抱いていたが、その才能と功績に対して感謝する気持ちも持ち合わせていた。

ライブと観客への対応
ライブが始まり、ステージ上ではアイを中心にしたパフォーマンスが展開された。観客たちはアイに熱狂し、サイリウムの色でその人気が際立っていた。彼女は黄色のサイリウムを探しながら、ファンに向かって「愛してる」と叫んだものの、心の中では罪悪感や矛盾を感じていた。自分の気持ちとかけ離れた歌詞を歌うことが、少しずつ彼女の精神を削っていた。

ライブ後の孤独とアイとの出会い
ライブ後、帰宅途中の公園で彼女はアイと偶然出会った。アイは明るくも少しズレた態度で話しかけ、彼女の悩みを軽く受け流すような振る舞いを見せた。彼女は、そんなアイの天真爛漫さに安心感を覚えながら、自分の苦しみを吐き出した。

苦しみと理想の自己像
彼女は恋愛、仕事、家族、金銭的な問題など多くの不満をアイにぶつけた。一方、アイも自身の過去や施設での経験、親族との問題に触れ、落ち込んでいることを語った。アイはステージ上の自分を「なりたい自分」として努力していると述べ、自分の理想像について語った。

共作への提案と友情の芽生え
アイの発言に触発され、彼女は作曲と作詞の共作を提案した。お互いに恥ずかしがりながらも、可能性について語り合う中で、二人の間に小さな友情が芽生えた。学校の同級生のような空気感の中で、彼女とアイは未来に向けて一歩を踏み出そうとしていた。

ファッション誌のインタビューと彼女の疑問
アイはファッション誌のインタビューで、「一番仲の良いメンバーは?」という質問に彼女の名前を挙げた。彼女はそれを驚きとともに受け止めた。アイとのまともな会話は、あの夜の一度きりだったからである。アイがこの答えを思い出で選んだのか、それとも「B小町」のメンバー間の関係が薄いからなのか、彼女にはわからなかった。

アイの作詞ノートと真剣な姿
数日後、アイが歌詞を持参した。彼女はその場限りの話と思っていたため、驚いたが、手渡された「作詞ノート」を受け取った。ノートには丁寧に書き込まれた歌詞が何ページにもわたり、試行錯誤の跡が残されていた。アイドルらしい内容やユーモラスな詩が並ぶ中、彼女の目は「噓つきの私」というタイトルの歌詞に留まった。不穏なタイトルに反し、その歌詞は底抜けに明るく、誰かを励ますような内容であった。アイの明るさが彼女自身にとっての「噓」だと、彼女は感じ取った。

彼女の作曲と伝えたい想い
彼女はピアノの前に座り、スマホのレコーダー機能を使って旋律とアイの歌詞に合わせたガイドボーカルを録音した。プロの手法は知らなかったが、彼女なりのやり方で曲を仕上げた。その曲には、自身と同じように何かに落ち込み、暗い気持ちを抱える人々への想いが込められていた。「落ち込んでいる私から、落ち込んでいるあなたへ」。彼女はそうした気持ちで曲を作り上げた。

曲の行方と今の彼女
その曲は「B小町」のシングルのB面に収録されたが、大ヒットすることもなく、特別な評価を得ることもなかった。しかし、三十七歳になった彼女は、その曲をひっそりと口ずさむ夜を迎えていた。彼女にとって、それは過去の記憶を思い起こすための歌だった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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