物語の概要
本作は、ブラック企業を退職した24歳の無職・ハルトが、生活費を稼ぐために探索者としてダンジョンに挑む姿を描いた現代ダンジョンファンタジーである。ギルドにも所属せず、パーティも組まない“野良探索者”として活動するハルトは、無自覚ながらも数々の偉業を成し遂げ、周囲から伝説的な存在として注目を集める。第2巻では、自衛隊の訓練に巻き込まれたり、伝説級モンスターとの対峙、謎の男・黒一からの勧誘など、さらなる波乱が待ち受ける。
主要キャラクター
• ハルト:本作の主人公。元ブラック企業社員で、現在は“野良探索者”としてダンジョンに挑む。無自覚ながらも高い戦闘能力を持ち、数々の偉業を成し遂げる。
• 黒一:謎多き男。ハルトの行動に興味を持ち、接触を図る。
• 日野トウヤ:高校生探索者。ハルトに憧れを抱き、再会を果たす。
物語の特徴
本作の魅力は、主人公・ハルトの無自覚な最強ぶりと、彼を取り巻く個性豊かなキャラクターたちとのやり取りにある。ハルトは自らの強さを自覚せず、淡々とダンジョンを攻略していくが、その姿が周囲に大きな影響を与えていく。また、現代日本に突如出現したダンジョンという設定や、探索者という職業のリアルな描写も、読者の興味を引く要素である。
書籍情報
無職は今日も今日とて迷宮に潜る 2 ~Lv.チートな最強野良探索者の攻略記~
著者:ハマ 氏
イラスト:fixro2n 氏
出版社:オーバーラップ
レーベル:オーバーラップノベルス
発売日:2025年4月25日
ISBN:978-4-8240-1156-5
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あらすじ・内容
一騎当千の最強新米無職、激襲!!!
ブラック企業を退職し、ホワイト企業への転職を夢見ながら今日も迷宮へ潜る「新米無職(24歳)」で野良探索者のハルト。
大規模パーティの一人に「君ってどこの区隊?」と尋ねられ「くたい? あえて言うなら肉体ですかね」と答えたら……。なぜか自衛隊の訓練に合流し、ロックウルフの大群を掃討することに。
「どうやったらあんなに凄い人になれるんだ?」
またある時はアラクネや伝説級のモンスターに挑戦するハルトの様子に目をつけた怪しい男・黒一から謎の勧誘を受けたり。
「貴方は私のことをどう思っています?」
「嫌い、生理的に受け付けない」
一方、共に修羅場を潜り抜けた高校生・日野トウヤのハーレムパーティと再び邂逅し仲を深めたところ、彼らの友人だという生徒会パーティもやってきて――!?
無自覚無双の野良探索者が往く先々で伝説を打ち立てる異色の(!?)冒険譚、第2巻!
感想
本巻はコメディとシリアス、バトルと日常、強さと滑稽さのバランスが取られていた。
主人公のハルトが、自身の置かれた境遇をどこか他人事のように受け流しながらも、日々を必死に生き抜いている姿は、共感と笑いを与えてくれた。
迷宮探索の過酷さと笑いの同居
迷宮探索という命がけの行為が、あくまで「無職の再就職活動の一環」として描かれている点が極めてユニークであった。
主人公ハルトは、自衛隊の訓練に紛れ込んでモンスターパニックに巻き込まれたり、奇行に走った時に高生パーティからモンスター扱いされたりと、現実ではあり得ない不条理な出来事をコミカルに描かれていた。
しかし、その裏で常に怪我と隣り合わせの戦闘を繰り返しており、作品全体に漂う軽快さの中に、探索の本質的な厳しさが滲み出ているのが印象的であった。
戦闘と日常、両面でのリアリティ
戦闘描写は泥臭く、しょっちゅう装備は破損し、傷は積み重なり、時に命を落としかける場面すら存在した。
そうした状況で、蟻蜜という素材を巡って生まれるエピソード”母親の病気が治り、若返るという意外な展開”は、作品にファンタジーとしての醍醐味と、家庭という日常的なシーンを重ね合わせており、物語に奥行きを与えていた。
一方で、その蟻蜜を「クィーーーーーーーッ!」と奇声を上げながら飲み続けるハルトが若返りながらも、太っていくという理不尽な副作用が、絶妙な間で挿入されており、笑いを誘う要素として機能していた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
田中家
田中ハルト
田中家の次男であり、本作の主人公。元はブラック企業に勤めていたが、退職後は野良探索者として迷宮に挑み続けている。ホワイト企業への転職を目指しながらも、強敵との連戦を経てその名が徐々に広まりつつある。
・無所属探索者
・蟻蜜を迷宮で発見し、封入した小瓶を実家に送付
・迷宮での経験により、肉体的・魔法的能力の両面で著しい成長を遂げた
田中タエコ
田中家の母。かつてはステージ4の腎臓癌を患っていたが、息子から送られた蟻蜜を摂取したことで完治した。治療効果は医学的にも説明できないほどで、加えて外見の若返りまで生じた。
・一般人
・蟻蜜を自宅で服用し、がんが消失
・回復後は活動範囲が広がり、病院関係者や親族に驚きを与えた
ハルトの父(名前不明)
田中家の父親。物語中では明確な名前や職業は記されていないが、家庭内での発言や描写から実家で健在であることが確認できる。
・一般人
・ハルトの帰省や、蟻蜜による治療後の妻との日常に立ち会っている
タカト
田中家の長男。既婚者であり子どももいる。実家に顔を出し、弟ハルトとの会話にも登場する。
・一般人
・家族の中でも落ち着いた立場にあり、ハルトの近況を静かに見守る存在
ヨシナ
タカトの妻であり、ハルトの義姉。家族の会話ややり取りの中で自然体な対応を見せる人物である。
・一般人
・田中家の実家での再会シーンに登場
タカトの子(甥)
名前は明記されていないが、タカトとヨシナの子ども。親族の会話や帰省シーンで描写される。
・一般人
・祖母であるタエコの回復後の様子に関わっている
ハルカ
田中家の長女。ハルトの姉にあたる。子どもを連れて実家に戻り、家族団欒の場面に登場する。
・一般人
・弟ハルトとの再会時には家庭持ちとして描かれている
ハルカの子(姪)
ハルカの子どもであり、田中家の一員。名前は明示されていない。
・一般人
・実家での会話や団欒の場面に登場
ホント株式会社
本田愛
ホント株式会社の若き女性社長であり、新製品開発に積極的な姿勢を持つ実業家である。探索者の視点を取り入れた製品開発を進めており、ハルトに対しては企業協力者として試験に参加してもらうよう依頼している。
・ホント株式会社社長
・ハルトに「アッチホイ」使用実験への参加を依頼
・探索者向け商品開発に意欲を見せ、特に音響誘導アイテムの評価に注力した
羽衣
本田愛の幼い娘であり、ハルトと直接的な交流はないものの、無邪気な発言により商品名の命名や社内での雰囲気づくりに影響を与える存在である。
・社長の家族
・「アッチホイ」のネーミングの元となる言葉を口にした
・作中では愛の自宅での様子に描写が限定されている
伊藤
本田愛に同行する秘書的立場の社員であり、冷静な性格で仕事をこなす。社長の意向に従い、現地対応や記録管理を任されている。
・ホント株式会社社員
・アッチホイの実地試験に同席し、使用状況を観察
・探索者との対応や事務処理に従事した
ホント株式会社 商品情報
アッチホイ
ホント株式会社が開発した音響誘導型のアイテムであり、特定周波数を用いてモンスターの注意を引きつける試験用製品である。ハルトが実験協力者として実地使用を行った。
・分類:音響誘導用支援道具(投擲型)
・目的:モンスターの誘導および攪乱
・実地使用者:田中ハルト
自衛隊関係者(第二区隊)
村上二士
自衛隊第二区隊所属の若手隊員であり、ハルトが迷宮内で接触した訓練部隊の一員である。訓練中にハルトと会話を交わし、後に彼の実力に驚愕する。
・陸上自衛隊第二区隊所属、階級は二士
・迷宮第八階層の訓練任務に参加中にハルトと遭遇
・ハルトを迷宮警備隊と誤認し、その実力に畏敬の念を抱いた
区隊長(名前不明)
第二区隊の隊長を務める人物であり、部下に対して厳格ながら的確な指示を行う指導者。ハルトの存在を警戒しつつ、最終的には協力を認めた。
高校生パーティ
日野トウヤ
高校生ながら熟練した探索者であり、ハルトとはかつての共闘経験を持つ。仲間たちの信頼を集めるリーダー格である。
・所属:高校生パーティ(ハーレムパーティ)のリーダー
・ハルトとの再会を果たし、過去の戦いを振り返った
・ユニークモンスター討伐の報奨をハルトに譲渡しようとした
桃山悠美
明朗で社交的な性格を持つ女子高校生である。トウヤと幼馴染であり、彼と同居しているが交際関係ではない。
・所属:高校生パーティ
・再会後、ハルトに共にキャンプしようと提案した
・家庭的な一面を見せ、場を和ませた
九重加奈子
冷静でしっかり者の女子高校生であり、ゴーレム召喚スキルを使いこなす。
・所属:高校生パーティ
・ゴーレム召喚によりハルトの暴走を制止した
・父親が企業の社長に就任している
神庭由香
落ち着いた雰囲気を持つ女子高校生であり、判断力に優れる。トウヤたちの行動を冷静に見守る立場である。
・所属:高校生パーティ
・ハルトの行動から正体を推察し、周囲に配慮した
・探索者としての基本をハルトに助言した
三森巫世
現実的で金銭への関心が強い女子高校生である。報奨金をきっかけに引退を宣言する場面があった。
・所属:高校生パーティ
・引退の意思を表明したが最終的に撤回した
・ハルトに地図を提供し、探索の基礎を伝えた
生徒会パーティ(高校生パーティの知人)
桐谷セイジ
生徒会パーティに所属する探索者であり、冗談好きで気さくな性格をしている。
・所属:生徒会パーティ
・天井に張り付いていたハルトをモンスターと誤認した
・合同探索を提案し、トウヤたちと協力関係を築いた
白戸海里
生徒会パーティのリーダー的存在であり、生徒会長。スキル【看破】を用いて対象の情報を見抜く能力を持つ。
・所属:生徒会パーティ
・【看破】スキルによりハルトの年齢と発言の真偽を確認した
・合同探索の際にはリーダーとして冷静に振る舞った
その他のキャラクター・武器屋
宗近友成
武器屋を営む中年男性であり、かつて伝説級探索者と称されるほどの実力を持っていた人物である。現在は探索活動を引退しており、武器販売とスキル鑑定を行っている。
・武器屋の店主として登場
・スキル鑑定機器を設置し、探索者の能力評価を支援
・情報屋ゴコウからは「黒一でも勝てるか分からない強者」と評される
その他のキャラクター・BAR『JUGEM』
ゴコウ
BAR『JUGEM』のオーナーであり、裏社会の情報屋としても活動している人物である。黒一福路からの依頼に応じ、調査報告を提供していた。
・BARの地下で秘密裏に情報取引を行う
・黒一からの依頼に対して調査結果を報告
・黒一とは最低限の関係を維持し、深入りを避けようとしている
その他のキャラクター・きさらぎ総合病院関係者
豊中栞
きさらぎ総合病院に勤務する三年目の看護師であり、小児科を担当している。誠実に職務をこなしつつ、後輩看護師の指導にもあたっていた。
・きさらぎ総合病院の小児科勤務看護師
・霊的現象に遭遇し、夜勤中に異変を目撃
綾乃
豊中栞の後輩であり、同じ病院に勤務する看護師である。栞を起こしに来る場面などから、職務を共にしている様子が描かれている。
・きさらぎ総合病院に勤務する看護師
・夜勤中に異変を共に体験
前の会社の関係者
吉田先輩
かつての職場におけるハルトの上司であり、ハルトとファミレスで再会した人物である。現在の行動や詳細な背景は記述されていない。
・元職場の上司として言及
・ファミレスでハルトと再会
元職場の同期女性(ストーカー被害者)
ブラック企業で働いていた女性であり、ストーカー被害に苦しんでいた。黒一福路によって救助された経験を持つ。
・ブラック企業勤務の元同期女性
・ストーカーに襲われるが、黒一に助けられた
かつての会社の先輩三人(探索者に転身)
ハルトの前職である会社の元同僚たちであり、現在は探索者へと転職している。具体的な名前は出ていないが、複数名が言及されている。
・元会社員で、探索者へ転職済み
・ハルトの過去と比較される存在として描写あり
展開まとめ
プロローグ
地下十四階への到達と装備の試運転
田中ハルトは地下十四階に到達し、新たに出現するモンスターたちを確認した。ビックアントやポイズンスライム、ロックウルフなどを相手にしながら、大剣や魔法を駆使して戦闘を続けていた。特に三百万円以上かけて購入したアマダンの小盾とミスリルの胸当ての試運転が目的であり、その装備に対する愛着も深まっていた。
自撮りと遭遇、そして誤解
ハルトは新装備姿を自撮りしていたが、写真に写った自分が太っていることに驚いた。その姿を偶然通りかかった若い探索者たちに目撃され、口止め交渉を試みるも逃げられてしまった。原因は自分ではなく、背後でポイズンスライムがロックウルフを消化していた光景であった。
宝箱の発見とブーツ取得
探索の帰路でハルトは宝箱を発見し、慎重に開けた。中には黒いブーツが入っており、一見すると高価な品であった。しかし、ブーツを取り出した瞬間、モンスタートラップが発動し、大型のポイズンスライムが出現した。
大型ポイズンスライムとの激戦
現れたポイズンスライムは通常よりも濃い紫色で、強力な触手と酸の雨を用いて攻撃してきた。ハルトはスキル【地属性魔法】【身体強化】【闘志】を駆使し、触手を切り払いながら接近戦を挑んだ。だが、物理攻撃が効かず、最終的に体内に取り込まれてしまった。
スキル連携による生存戦
ポイズンスライムの体内でハルトは酸に焼かれながらも【治癒魔法】で回復を図り、スキル【トレース】によって核の位置を特定した。スキル【身体強化】【闘志】を併用し、ついに核を体外へ弾き出すことに成功したことで、ポイズンスライム本体は崩壊した。
戦闘後の喪失と再起
戦いの後、装備品の多くが失われていることに気付き、探索者としての損失の大きさに愕然とした。俊敏の腕輪は無事であったが、愛着ある小盾と胸当ては損傷を受けていた。ハルトはそれでも装備を拾い集め、彼らに語りかけるように妄想を膨らませながら、ビールと語らう夜を想像して歩き出した。
現在のステータス
• 【名前】田中ハルト(24)
• 【レベル】15
• 【スキル】地属性魔法、トレース、治癒魔法、空間把握、頑丈、魔力操作、身体強化、毒耐性、収納空間、見切り、闘志、並列思考
• 【装備】不屈の大剣、俊敏の腕輪
第一章 モンスターパニックと新隊員
蟻蜜の効果と精神の回復
田中ハルトは、装備喪失のショックで気力を失っていたが、蟻蜜の摂取によって気力を取り戻した。蟻蜜の強烈な喉越しに悶絶し、隣人から壁を叩かれる一幕もあった。正気を取り戻すため朝風呂を浴びたところ、ポイズンスライム由来と思われる紫の液体が流れ落ちたが、深く考えず流した。
実家との通話と気まずさ
スマートフォンに残っていた実家からの着信に気づき、母親と久々に通話した。結婚や将来について問われたハルトは、言葉を濁しながら誤魔化し、盆に帰る約束を口にしたものの、帰省に気が進まない様子であった。
新商品の依頼と会社訪問
母との通話後、ホント株式会社社長の本田愛から新商品のテスト依頼を受け、報酬百万円に惹かれて快諾した。約束時間より一時間早く会社を訪れたハルトは、愛から秘書の伊藤を通じて商品の説明を受けることになった。
秘書との対立と商品保管倉庫
伊藤はハルトの言動を咎めつつ、会社裏手の倉庫へ案内した。倉庫には特殊なコンテナが並び、中には魔力を帯びた新商品「アッチホイ」が保管されていた。アッチホイはモンスターだけが感知できる音を発する小型玉で、癇癪玉の要領で使用する試作品であった。
ネーミングの背景と試験開始
アッチホイの名称は、社長の娘・羽衣が命名したものであり、社内では縁起物として扱われていた。ハルトは五袋のアッチホイを受け取り、その足でダンジョンへと向かった。製品テストの映像提出も求められていたため、映像演出にも意識を向けていた。
ギルド訪問と製品の市場調査
探索者協会を訪れたハルトは、ポーションの補充ついでに売店を巡回し、ホント株式会社の商品が広く流通していることを確認した。羽衣命名と思われる商品名のセンスに、独特の印象を抱いた。
過去の職場の人物と再会
ダンジョンへ向かう途中、かつての会社の先輩三人を目撃したハルトは、とっさに身を隠した。彼らも探索者として活動しており、無職仲間である可能性に複雑な感情を抱いた。
ダンジョン内でのアッチホイの実験
地下階層でハルトはアッチホイの効果検証を開始した。最初のゴブリンには直撃して死亡させてしまい、検証には失敗した。続くビックアントには正しく使用し、誘導効果を確認した。モンスターの種類によって反応に差があり、特にロックワームの幼体のみが音に反応して動きを見せた。
映像制作の試行と精神的負担
検証の中でハルトはポイズンスライムとの遭遇を思い出し、怒りのあまり即座に殲滅してしまい記録を失敗した。また、検証中にロックワームの幼体に噛まれ、苦痛と共に仮説の誤りを体感することとなった。
危機的状況の救出と映像の収録成功
帰路の途中で、先ほど目撃した元同僚たちがモンスターに囲まれている場面に遭遇したハルトは、アッチホイを使ってモンスターを誘導し、間接的に救助した。元同僚たちはハルトに気づかず逃走し、彼はその後ろ姿を撮影して「いい絵が撮れた」と満足した。
武器屋への苦情と呪いの疑惑
田中ハルトは装備の不調に納得がいかず、購入元の武器屋に苦情を申し立てに向かった。武器屋の店主は突拍子もない変身ポーズを取るなど奇妙な対応を見せつつも、ハルトの背後に不穏な気配を察知して何かを祓うような仕草をした。話を聞いたハルトは自分が呪われているのではないかと不安になったが、店主はそれを否定し、ただ見張られている可能性があると示唆した。
装備の不良品疑惑と上位種の存在
ハルトは地下十四階で装備が破損した件について追及したが、店主は購入時の品に問題はなかったと断言した。その後、店主の助言により、戦ったポイズンスライムが通常種ではなく上位種である可能性が浮上した。また、ハルトが持参した素材と宝箱の黒いブーツを交換材料として提示したところ、店主はブーツの鑑定を開始した。
神鳥の靴の鑑定と価値
店主の鑑定により、黒いブーツは「神鳥の靴」と呼ばれる高価なアイテムであり、空中歩行と鉤爪攻撃を可能とする強力な能力を持つことが判明した。買取価格は二千万円に達し、ハルトは売却せず自分で使用することを即決した。その後、装備一式を再調達し、頭部を守るヘッドギアを含めた防具を新調した。
ファストフード店での再会と現状の変化
食事のために立ち寄ったファストフード店で、ハルトはかつての上司・吉田先輩と偶然再会した。先輩はハルトを最初は認識できなかったものの、その変化の大きさに驚いた。会話の中で、ハルトの退職が会社に大きな影響を与えたことが判明した。特に顔面退職届の流行と社長の鬱による退職が、社内の混乱を引き起こしていた。
実家への荷物と蟻蜜の封入
翌朝、ハルトは実家に向けて荷物を準備した。地域限定品や母のリクエストであるメンマなどを詰める中、蟻蜜の入った小瓶も同封した。本人は善意で送ったつもりだったが、この蟻蜜が後に予期せぬ展開を引き起こすこととなる。
神鳥の靴の実戦試用とその威力
ダンジョンで神鳥の靴を使用したハルトは、その能力の高さを実感した。鉤爪による拘束と分解、空中歩行、さらには壁登りまで可能であり、空間戦闘の自由度が大幅に増した。ただし、空中歩行には一分のクールタイムが必要で、連続使用には制限があった。
天井張り付きと探索者パーティとの遭遇
神鳥の靴の試用中、ハルトはかつて自撮りを目撃された探索者パーティと再遭遇した。天井に張り付いていた彼の姿を女子に目撃され、悲鳴を上げられてしまう。その反応に傷ついたハルトはストレスを晴らすためにモンスターを倒して進んだが、次第に投げ技主体の戦法へと移行した。
地下十五階への突入と探索計画の再考
地下十五階に到達したハルトは、従来のモンスターが多数出現する環境で連戦を強いられた。探索に必要な時間が限られる中、泊まりがけでの活動や進行方針の見直しが必要となっていた。連戦をこなす中で戦法を駆使し、次第に戦場を制圧していった。
宝箱の出現と不意の罠
探索中に宝箱を発見したハルトは、罠の可能性に警戒しつつも開封を試みた。結果、空中から小型の鳥型モンスターが飛来するトラップが作動し、空間把握スキルと盾でこれを防御した。大剣での対応により無事に撃退したが、中身を取るのを忘れて帰りかけるという失態も見せた。
解毒の首飾りの鑑定と使用の是非
田中ハルトはダンジョンで発見したネックレスを鑑定し、それが二百五十万円相当の「解毒の首飾り」であると判明した。効果はあらゆる毒に対する耐性付与であったが、既にスキル【毒耐性】を保有していたため、有効活用の余地は乏しかった。そのため、売却も検討したが異常付与攻撃への対策として保留を選んだ。
装飾品への違和感と外出準備
ハルトは首飾りを試着してみたものの、装飾品への慣れなさから違和感を覚えた。とはいえ、外から見えないよう服の中に収めることで問題を回避した。その後、ダンジョン探索用の装備品を購入するため、ショッピングモールに向けて外出した。
一人用テントの欠如と価格の壁
アウトドアショップにてキャンプ用品を探すも、探索者向けのテントはすべて複数人用であり、一人用は存在せず、オーダーメイドでは五千万円の見積もりが提示された。金銭的な負担と将来の探索継続への迷いから購入は見送られた。
地下十五階での戦闘と高頻度エンカウント
ハルトは地下十五階を探索し、大剣や魔法で数多のモンスターを撃破していた。しかし、敵の出現頻度が高く、素材回収すらままならない状態であり、効率的な進行が難航した。
大規模集団との遭遇と合流
探索中、ハルトは三十人規模の集団と遭遇し、不本意ながら集団行動に巻き込まれた。集団は統一された装備と荷物を有しており、その正体は不明であったが、隊列を組んで統率の取れた動きをしていた。後方でリヤカーを引く役目を与えられたハルトは、軽量化魔法の施された荷台に驚きつつ、周囲との関係を築いていった。
村上との出会いと偽名の使用
隣の隊員・村上との会話を通じてハルトは親交を深めたが、自身が一般人であることを隠すため「中田ナツト」と偽名を名乗った。村上は純朴な性格であり、戦う意志と不安を抱えながらも前向きに任務に取り組んでいた。
教官の指導と制裁の腕立て伏せ
私語を咎めた教官の叱責により、集団は連帯責任として腕立て伏せを命じられた。ハルトと村上は回数のカウントを命じられ、それぞれが仲間への罪悪感と責任感を感じながら従った。集団の正体が自衛隊であることもこの時点で明らかとなった。
食事と交流、そして野営準備
昼食に配布されたレーションの美味しさに驚きつつ、村上との会話で絆が深まった。野営地の設営では天幕形式の簡易テントが使用され、班ごとに分かれて警備と休息を交代で担う体制が整えられた。
初の討伐訓練と村上の成長
地下十五階の通路にて行われたモンスター討伐訓練では、ハルトが村上をサポートし、村上が初めてモンスターを討伐する成果を挙げた。続く訓練で全体の動きは徐々に洗練され、ハルトも補助と挑発に徹して仲間の成長を見守った。
ロックウルフ大群の襲来と緊急対応
突如として地響きと共に大量のロックウルフが襲来し、ハルトは避難の時間稼ぎのため単独で立ち向かった。教官の小銃による援護もあり、ハルトは【地属性魔法】【身体強化】【闘志】などのスキルを駆使して応戦した。
死偽装の策と謎の個体の撃破
戦闘の最中、ハルトは逃走と身の安全のために「死亡」を偽装する作戦を立案した。その際、ロックウルフの中に異質な小型赤毛の個体を発見し、反射的に串刺しにしてしまった。個体は指揮官的存在であった可能性が高く、ハルトは行動の誤りに気づいたが時すでに遅かった。
ガラス玉の捕捉と逃走
その後、謎のガラス玉を空中でキャッチしつつ、教官の目を避けて地上へと逃走を果たした。激闘の末にステータスは更新され、ハルトは新たなスキル【魔力感知】を取得した。
【名前】 田中ハルト(24)
【レベル】 16
【スキル】
地属性魔法、トレース、治癒魔法、空間把握、頑丈、魔力操作、身体強化、毒耐性、収納空間、見切り、闘志、並列思考、魔力感知
【装備】
不屈の大剣、神鳥の靴、俊敏の腕輪、解毒の首飾り
閑話 残された自衛隊
中田二士の戦闘と同期の衝撃
中田と名乗った探索者、実際には田中ハルトである人物は、自衛隊部隊と共に巨大ロックウルフの大群と戦い、大剣と魔法を駆使して群れを殲滅していた。その光景は村上二士ら新兵たちにとって衝撃であり、同期である彼らはその圧倒的な実力に言葉を失った。
同期たちの憧れと感情の揺れ
中田二士の姿に、憧れ、悔しさ、そして感謝といった複雑な感情を抱いた同期たちは、彼と連絡を取り合おうと決意し、区隊が別れる前に情報を交換することを考えていた。命を救われた恩人として、今後も関係を築いていきたいという願いが共有されていた。
消えた英雄と小さな赤い狼
しかしその願いは叶うことなく終わった。戦闘後、帰還したのは区隊長と班長のみであり、中田二士の姿は見当たらなかった。残されていたのは、腹を貫かれた小型の赤毛のロックウルフの死骸であり、指揮官格のユニークモンスターであることが判明した。
区隊長の葛藤とスキル【予感】
中田二士の不在を説明する中で、区隊長は彼を死地へ送り出してしまったことを深く悔いた。もともと逃げるよう命じたのは彼自身であり、スキル【予感】によって中田を前線に立たせることが最善と導かれていた。だが、それが結果的に彼の喪失につながったことを重く受け止めていた。
英雄の行方と探索の失敗
その後、部隊は中田二士が所属するとされた第二区隊に照会を行ったが、該当する人物は存在しないと告げられた。探索者協会にも「中田ナツト」の名で登録はなく、どこにも彼の痕跡は残されていなかった。部隊内は混乱に包まれ、村上をはじめとする隊員たちは、命の恩人を見つけられぬまま地上へ戻るしかなかった。
英雄の記憶と都市伝説
村上は命を救ってくれた中田の姿を、生涯忘れることはないと心に誓った。そして時が経ち、ダンジョンには「デブ自衛官の幽霊」が彷徨っているという都市伝説が語られるようになった。それは、中田二士という名の英雄を、誰かが確かに記憶している証であった。
閑話 日野トウヤ
通学路でのやり取りと関係性
日野トウヤは、幼馴染の桃山悠美と共に登校していた。二人は一緒に住んでいるが、交際関係ではなく、家が近いため自然と同行している状況であった。途中、探索者パーティの仲間である九重加奈子と神庭由香が合流し、日常的な登校風景が描かれた。
加奈子の家族事情と引っ越しの有無
九重加奈子の父が、親戚からの要請で社長に就任したことが話題となったが、会社が近いため引っ越しの必要はないと説明された。加奈子は新スキルの取得に意欲を見せ、これからもパーティとしての活動を続ける意思を示した。
夏休みの予定と講習の経緯
翌日から夏休みに入ることを受け、パーティは探索活動の再開を検討した。前回の探索以降は協会の講習に参加していたため、ダンジョンにはしばらく行っていなかった。講習はユニークモンスター討伐の報奨として優先チケットが配布されたものであり、戦闘技術やスキル運用を学ぶ機会となっていた。
高校生活とトウヤの内心
神庭由香はスマートに巫世へ連絡を取り、全体として落ち着いた雰囲気が流れていたが、トウヤは高校最後の夏休みに探索ばかりで良いのかと疑問を抱いていた。その結果、たまには遊びに出かけようという提案がなされ、皆が前向きに受け入れた。
教室での会話と友人との再会
教室に到着したトウヤは、クラスメイトの桐谷セイジと再会し、彼がトウヤの人気に嫉妬するような冗談を飛ばした。セイジは別のパーティで探索者として活動しており、トウヤたちのユニークモンスター討伐の話を聞き、その詳細に興味を示した。
ユニークモンスター討伐の真相
トウヤは、ユニークモンスター討伐の功績が自分たちの力ではなく、田中ハルトという他者の助力によるものであったことを説明した。ハルトは一人で戦況をひっくり返すほどの実力を持ち、命の恩人として記憶されていた。
謎の存在と合同探索の提案
セイジは別のダンジョン探索で遭遇した奇妙な存在について語った。天井に張り付いて笑みを浮かべる男を見かけ、幽霊やユニークモンスターの可能性を指摘し、合同探索を提案した。トウヤは提案を一度持ち帰るとして保留したが、最終的に生徒会長率いるパーティとの合同探索が決定された。
神庭の疑念とハルトの面影
一連の話を聞いた神庭由香は、セイジが語った奇妙な男の特徴が田中ハルトと酷似していることに気づき、内心で困惑していた。ハルトの突飛な行動を思い出しながら、本人ではないかという疑念を深めていった。
閑話 黒一福路
ブラック企業勤めの女性とストーカー被害
蒸し暑い深夜、ブラック企業に勤める二十四歳の女性が仕事帰りに疲れ果てていた。社長も倒れた会社では、人材不足が深刻であり、辞職もままならぬ状況に置かれていた。彼女はかつて交際していた元同僚の男性からストーカー被害を受けており、警察に通報して接近禁止措置を取っていた。
深夜の襲撃と黒一福路の介入
帰宅中に元彼と鉢合わせた彼女は、復縁を迫られた末にナイフで襲われかけた。逃げ場もなく恐怖に震える彼女を救ったのは、全身黒尽くめの男・黒一福路であった。彼は一撃で元彼を叩き伏せ、理不尽な暴力から彼女を守った。
救助後の対応と警察への引き渡し
黒一は彼女の無事を確認し、丁寧に対応したうえで警察へ通報した。通行車両を避けるために彼女をお姫様抱っこで移動させ、配慮ある行動を見せた。その後、彼女は警察へ連行されたが、黒一と再会することはなかった。警察官からは「公的機関の人間である」と説明され、彼女は心に感謝を残してその場を去った。
黒一福路の苛立ちとBARへの訪問
黒一は助けた女性の個人的事情の下らなさに辟易していた。目的地であるBAR『JUGEM』へ向かい、依頼していた調査の結果を受け取りに出向いた。受付の女性は黒一の登場に怯えた様子を見せたが、彼は他の客に迷惑をかけることなく奥へ進んだ。
情報屋ゴコウとの接触と調査報告
地下の部屋では、BARのオーナーであり情報屋のゴコウが待っていた。黒一は依頼していた探索者の調査結果を受け取った。対象人物は一週間の間にユニークモンスターと二度交戦し、大剣と魔法を組み合わせた戦闘を行っていた。
調査対象の行動とスキルの入手源
調査対象は「武器屋」に出入りしており、そこに設置されているスキル鑑定機器で自らの能力を把握していたと推察された。店の店主・宗近友成は伝説級の探索者であり、黒一でも勝てるか分からない強者であると語られた。
クイーンビックアントと生命蜜の関係
対象人物は、かつて討伐されたクイーンビックアントの生命蜜を入手しており、それを朝に飲んでいると記されていた。この蜜は希少な高級アイテムで、本人はその価値を知らずに摂取している可能性があった。
情報提供の謝礼提案と拒絶
黒一は謝礼として何か仕事を引き受けると申し出たが、ゴコウは「今まで通り見逃し続けてくれればそれでいい」と断った。ゴコウは黒一と関わりたくないという本音を抱きつつ、彼の離脱を待ち続けていた。
第二章 金と大蜘蛛女と武人犬
自宅での朝と蟻蜜の儀式
田中ハルトは朝から蟻蜜を摂取し、一日を開始した。前日のダンジョン戦闘で逃亡したことを思い出し、自衛隊教官の追跡を恐れてギルドに立ち寄らずに帰宅していた。
転職活動と履歴書作成
自宅では愛からの依頼であるアッチホイのレポート作成と、履歴書の手書き作業に取り組もうとした。不合格通知を受けつつも大企業への再挑戦を決意し、手書きで誠意を伝えようと努力した。
動画視聴と自己嫌悪
コメディ動画に夢中になってしまい、作業が滞る。気晴らしのつもりが昼になっても進まず、怒りと自己嫌悪に苛まれた。中でも、学生ハーレムを築く日野に対する嫉妬が爆発し、畳を叩いて嘆いた。
気分転換としての探索決行
自己憐憫と嫉妬から逃れるため、探索に出ることを決意した。履歴書をポストに投函し、ギルドでモンスターバーツを三本購入してダンジョンへ向かった。
モンスターとの戦闘訓練と魔力操作の習熟
モンスターバーツの効果確認と解除
地下十四階ではモンスター除けのモンスターバーツが効果を発揮していたが、収入確保のため、あえて解除してモンスター討伐に臨んだ。
神鳥の靴と鉤爪の練習
ロックウルフやポイズンスライムを壁に叩きつけるなどして戦い、神鳥の靴の鉤爪操作と魔力操作の習熟に努めた。だが調子に乗った結果、ポイズンスライムに足を溶かされるという代償を負った。
スライムとの和解と反省
スライムに謝罪してその場を収め、遊び半分での戦闘を反省した。以後は真面目に探索へ集中することを誓った。
再遭遇する自衛隊と岩陰での攻防
再接近する教官と岩による隠匿
突如、自衛隊部隊が現れ、教官がスライム玉を所持していたことで緊張が走った。ハルトは空間把握で気配を確認し、地属性魔法で岩を生成して隠れ、ギリギリで追跡を回避した。
テント購入と装備準備の攻防
探索者用テントの押売と価格の衝撃
翌日、ソロキャンプ用のテントを求めて再訪したアウトドアショップで、探索者用の高額テント(1500万円)を勧められた。ハルトは丁重に断り、1万5千円の普通のテントを購入した。
地下十六階の探索とスケルトン討伐
新階層での戦闘とモンスターの分析
地下十六階ではスケルトンが主な敵であり、鈍器系武器が有効であることが判明した。粗悪な武器ばかりだが、【収納空間】で持ち帰ることで換金可能であった。
アッチホイの効果検証
愛から依頼されていたアッチホイの効果をスケルトンに試したが、全く効かず、記録帳に「×」と記録された。
休憩場所でのキャンプとトラブルの回避
水場の確保とパーティ間トラブル
キャンプ予定地である水場周辺には既に複数のパーティがいた。その中の一組が女性パーティにセクハラ行為を行い、揉め事に発展していた。ハルトは中立を保ちつつ通過を試みるが、加害側の男に鍋を落とされ怒りを爆発させた。
威嚇と平和的解決
ハルトは大剣で地面を砕いて威嚇し、騒動を沈静化させた。争いを避ける姿勢を保ちつつ、毅然とした対応を見せた。
夕食と就寝前の独白
キャンプ食と孤独の夜
【収納空間】の機能を活かしてレトルトカレーとサラダで夕食を済ませ、周囲の賑わいを眺めながら一人でのキャンプに少し寂しさを感じた。
就寝と明日の探索への備え
見張りを立てず、モンスターバーツを設置して就寝した。明日は発見した地下十七階の階段に向かう計画を立て、静かに夜を迎えた。
地下十七階での探索とジャイアントスパイダー狩り
ハルトは地下十七階に到達し、隠密型のモンスター・ジャイアントスパイダーと遭遇した。彼らは糸による拘束と毒牙による神経毒で行動を封じる特性を持ち、静かに背後から襲撃してくる危険な存在であった。ハルトは【空間把握】によって先制を取り、魔法やブーツの鉤爪を駆使して撃退していった。
アッチホイの試用と入れ食い状態
音に敏感なジャイアントスパイダーに対して、アッチホイが効果的に機能したことで十体以上が一斉に集まり、ハルトは意気揚々と討伐を進めた。素材として得られる糸袋は高額で買い取られるため、金銭的にも旨味のある戦果であった。
再遭遇する盗賊グループと対峙
探索を続ける中で、以前に女性パーティへ絡んでいた五人組の盗賊と再遭遇した。彼らは報復を宣言し、ハルトの神鳥の靴と大剣を奪おうと迫ったが、ハルトは毅然と拒絶した。
一対多の戦闘と盗賊の制圧
不意打ちの飛礫攻撃を盾で受け流したハルトは、瞬時に距離を詰め、敵の足を斬り、蹴りで連携を崩した。前衛二人を大剣と魔法で沈めた後、スリング使いの男を無力化し、圧倒的な力で五人を制圧した。
盗賊行為の自白と制裁の決断
捕らえた男たちは過去に十回以上の盗賊行為を働いていたことを自白した。ハルトは怒りを覚えつつも、彼らから武器のみを没収するという最小限の制裁にとどめた。防具やポーションは残し、モンスターから身を守る手段は確保させた。
吊るされた遺骸と探索の終焉
帰路の途中で、ジャイアントスパイダーに吊るされた五つの人影を発見し、盗賊たちの末路を暗示する光景に無言となった。ハルトは探索の成果を思い返しつつ、現実を受け入れることにした。
収支の整理と報酬の現実
金銭的成果の確認
これまでに得た素材の売却金額は百五十七万円に達し、前職の給与の十倍という成果となった。さらに愛からの依頼による報酬も含めると、総額は二千三百万円を超えていた。装備品を含めれば、家が買えるほどの財産を築いていた。
探索の魅力とやめ時の葛藤
この収入の高さに、ハルトは探索者生活をやめる明確な理由が見つからないと感じていた。退職する動機があれば良いのだが、現状ではそれすら存在せず、深みに嵌まる不安を抱えていた。
就職活動の挫折とレポート納品
履歴書の即日不合格と現実の重み
先日提出した履歴書が即座に不合格で戻ってきたことで、ハルトは現実の壁に直面した。仕方なく、アッチホイの使用レポートの仕上げに取り組んだ。
ホント株式会社への訪問準備
報告書の提出先である本田愛に連絡を取り、提出は来社しての説明を求められた。服装の確認を経て私服で訪問することが決定し、正午前に出発した。
ホント株式会社での納品と評価
伊藤秘書との再会と想定された行動
約束より早く到着したハルトは、伊藤秘書に出迎えられた。彼の行動パターンは既に読まれており、行動は想定通りであった。会議室に案内され、愛と他社員の会話の最中にレポートを提出した。
編集動画の上映と失笑
提出したUSBには、編集されたBGM付きのドキュメント風映像が含まれていた。内容は遊び心満載であり、愛の反応は「元データだけで良い」との一言に尽きた。
正式なデータ納品と質疑応答
元データをスマホからパソコンに移行し、レポート内容の簡単な質疑を受けて終了した。仕事としては簡易であったが、報酬は百万円と高額であり、割の良い業務であった。
愛の評価と次なる依頼の可能性
レポートの出来栄えに対する再評価
愛はレポートの内容に想定以上の情報が盛り込まれていたことに驚いていた。モンスターごとの反応や効果時間などが表形式で整理されており、評価に値する成果であった。
探索者としての適性と今後への示唆
プロ探索者でもここまでのものを提出する者は少なく、ハルトの採用価値は高いと判断された。愛は別の仕事を依頼する可能性を考慮しながら、探索者協会への挨拶のために出発した。
不屈の大剣の鑑定と装備品の価値
ハルトは盗賊に狙われたことをきっかけに、大剣の価値を確認するため武器屋に鑑定を依頼した。鑑定の結果、大剣は「不屈の大剣」と判明し、持ち主の精神に応じて性能が変化し、魔力を流せば剣閃を飛ばせる能力を有していた。買取価格は1500万円と高額であり、所有する他の装備と合わせて、セキュリティの重要性を改めて認識したハルトは、財布や通帳なども含め、全てを【収納空間】に保管することを決めた。
黒一との遭遇と不快な応対
武器屋を後にし、空腹を満たすためフードコートで食事をしていたハルトは、探索者監察官の黒一と遭遇した。黒一は丁寧な口調で接触を試みるが、ハルトはその存在に対し強烈な嫌悪感を抱き、一貫して拒絶の態度を貫いた。黒一は【隠蔽】スキルを使っていたが、ハルトには効果がなく、彼の本能的な拒絶に興味を抱く。一方で、武器屋の店主・宗近も黒一を警戒しており、ハルトに対する関心の高さが示唆された。
不屈の大剣の性能試験と失望
ダンジョン地下十階にて、不屈の大剣の剣閃を試すべく魔力を込めて振るったが、飛距離や威力は期待を下回り、魔法の方が効率的であることが明らかとなった。結論として、この能力は魔法が使えない者向けであり、ハルトにとっては実用性が乏しいと判断された。
ダンジョンへの依存と自覚
大剣の性能に失望しつつも、ハルトは自身がダンジョン探索に魅了されていることを認めざるを得なかった。命の危険が伴う3K職場であるにも関わらず、身体が探索を求めて疼く感覚に気づき、一泊二日の探索を決行するに至った。
地下十八階での戦闘と複数の強敵
地下十七階から十八階にかけて、ハルトはスケルトン、ジャイアントスパイダー、岩トカゲと連戦を繰り広げた。岩トカゲは頑強な皮膚を持ち、攻撃が通りにくかったが、下からの攻撃や石の棘で弱点を突くことで撃破に成功した。戦闘の中で【身体強化】【闘志】のスキルを駆使し、魔力管理の必要性を痛感することとなった。
巨大ジャイアントスパイダーとの遭遇
地下十八階の水場付近で大量のジャイアントスパイダーに囲まれ、さらにその中央にいた巨大な個体と遭遇した。戦闘を避けるべく退避するが、同族の子供に捕食されていたという衝撃的な光景を目撃し、戦慄とともにその場を離れた。
パーティとの再会と誤解による騒動
水場でキャンプを張っていた日野トウヤのパーティと再会したハルトは、桐谷セイジからモンスター扱いされて激怒した。不屈の大剣に魔力を込めて制裁を加えようとしたが、九重加奈子の召喚したゴーレムによって鎮静化された。やがて神庭由香の仲裁によって誤解は解け、セイジと和解した。
桃山悠美の申し出と孤独の選択
騒動の後、桃山悠美はハルトに一緒にキャンプしようと提案したが、ハルトはそれを断った。仲間内の楽しい時間に自分が混じることは無粋であると考えたためである。しかし、日野トウヤからの真摯な誘いを受け、夕食だけは共にすることを決めた。
新たなパーティとの合流と自己紹介
ハルトは鍋を囲む会に参加し、日野トウヤ率いるハーレムパーティとその友人の四人組と顔を合わせた。自己紹介を通じて関係を築こうとしたが、一部の参加者は過去の遭遇から怯えを見せた。その中で生徒会長の白戸海里は、緊張しながらもリーダーとして振る舞い、ハルトに対し【看破】のスキルを用いて彼の年齢が事実であると証明した。
過去の戦闘の真相と報奨金の辞退
日野から過去の戦いについて再確認されたハルトは、巨大ロックワームを倒したのは自分ではないと否定し、白戸の【看破】によりその発言の正当性が裏付けられた。その功績に対し、三百万円の報奨金が支払われることが判明したが、ハルトはそれを辞退した。三森巫世は報奨金を元に引退宣言を行い、騒動が起きたが、最終的にハルトが金を引き取る形で事態を収拾させた。
三森の守銭奴ぶりとハルトの見せびらかし
三森は金への執着を露わにしつつも、装備費用の回収に満足を示した。ハルトはその態度に辟易しつつも、二百万円の腕輪、千五百万円の大剣、二千万円の靴を次々と提示し、金銭的余裕を強調した。しかし、白戸の【看破】により動機の一端が露見し、周囲から最低コールを受ける展開となった。
探索者としての指導と地図の提供
神庭由香は探索者の注意点を説明し、三森は前パーティで購入した地図をハルトに提供した。地図により初めて探索の基礎情報を得たハルトは、ギルドに登録していなかったことを暴露し、参加者を驚かせた。
再びの戦闘と巨大アラクネの出現
地図を頼りに探索を進めたハルトは、出口の消失とともに巨大なジャイアントスパイダーの襲撃を受けた。強大な敵に対し、【地属性魔法】や【身体強化】を駆使し、石の杭で体を貫き、首を落として勝利したかに見えた。
アラクネの再生と第二形態への突入
しかし、ジャイアントスパイダーは黒い霧によって復活し、上半身が人型となったアラクネへと変貌を遂げた。新たな敵は凶悪なデバフ効果を持ち、ハルトを戦闘不能に追い込んだ。だが、【治癒魔法】と装備の補助により復帰し、再度交戦を開始した。
空中戦と地上への決着
アラクネは天井に糸を張り、地引網のような攻撃を仕掛けたが、ハルトは地面ごと自分を打ち上げ、空中から強襲を仕掛けた。不屈の大剣に魔力を注ぎ込んで渾身の一撃を放ち、アラクネの胸部を深く切り裂いた。その後、落下しながらも反撃を避けつつ、剣閃でトドメを刺すことに成功した。
回収とスキル玉の取得
戦闘後、アラクネの死体を【収納空間】に回収し、その場に落ちていた黄色いスキル玉を吸収した。空間が転移し、ハルトは疲労困憊のまま休息を取った。まもなく、トウヤたちパーティが到着するのを見届け、彼らとすれ違いながら、次の探索へと思いを巡らせた。
無職となったハルトの迷宮挑戦
田中ハルトは、ブラック企業を勢いで退職した24歳の青年である。新たな職を探すまでのつなぎとして、ダンジョン探索者となる道を選択した。登録料の高さからギルドへの加入を拒否し、完全な野良探索者として一人で迷宮に挑み始めた。
武器屋との装備交渉とスキル進化
アラクネとの戦闘で高額装備が破損し、ハルトは武器屋に苦情を訴えつつ新装備を購入した。ステータスはレベル17に上昇し、新たに【魔力感知】【万糸操作】のスキルを獲得した。店主から魔糸の活用を勧められたことでスキルの運用を試み、アラクネの銀糸の価値により大幅な装備更新と素材の加工を引き換えに得る契約を結んだ。
ギルド登録の是非と探索者としての成長
ギルドの登録特典を確認したが、既に高階層に到達していたハルトにとってはメリットが乏しく、登録を見送った。その後、魔糸を活用しながらビックアントの掃討や女王アリの蛹の確保などをこなしていった。
再就職への努力と日常の描写
再就職を目指して履歴書を作成し企業への応募を続ける一方、探索で得た糸を活用し刺繍にも挑戦した。裁縫の技術は未熟であったが、挑戦は彼の柔軟な適応性と日常の多様性を表していた。
地下十九階への到達とコボルト戦
大雨の中、ダンジョンに潜入したハルトは地下十九階へと到達し、新たな敵であるコボルトと遭遇する。ジャイアントスパイダーやスケルトンらとの複合戦を制し、【地属性魔法】や魔糸を巧みに駆使して敵を倒していった。
宝箱の罠と探索者の孤独
罠付きの宝箱を慎重に開け、銀色の小瓶を発見するも、その正体は不明であった。水場にて孤独なキャンプを行い、前回の賑やかな場面を思い出して寂しさを感じる描写が挿入された。
地下二十階の攻略とボス戦への突入
準備を整えたハルトは地下二十階へ進み、スケルトンや岩トカゲとの連戦を重ねつつ、魔力と体力を消耗しながらボス部屋へと進んだ。だが、現れたのは想定と異なる異質な強敵「武人コボルト」であった。
武人コボルトとの死闘
武人コボルトは圧倒的な戦闘力と気迫を持ち、ハルトは全てのスキルと機転を駆使して戦った。最初の戦闘では右足を失い、劣勢に追い込まれるも、宝箱から入手した銀色の小瓶によって魔力を回復し、身体の再生に成功した。
勝利とスケルトン化による再戦
首を落として勝利したかに見えたが、黒い霧により武人コボルトはスケルトンとなって復活する。再戦ではかつての技術をそのままに、膂力を失った敵と互角に剣を交え、【治癒魔法】により最終的に撃破した。
戦利品と新スキルの獲得
戦いの末に戦斧と鎧、そして新たなスキル【限界突破】を獲得した。このスキルは全スキル性能を向上させるとともに、魔力を代償に一時的な強化を可能とするものであった。
戦闘の代償と脱出、再就職の決意
戦闘の代償として高額装備の多くが破損し、次の戦闘に備えての再装備が課題となった。ポータルを起動して地上へ戻ったハルトは、改めて就職への意志を固めた。彼の迷宮生活と再就職の挑戦は、なお続いていくものであった。
ダンジョン帰還とギルドでの素材売却
田中ハルトは迷宮での戦いを終え、ギルドに立ち寄ってモンスター素材の売却を行った。査定の間にシャワーを浴び、全身に付着した血と汚れを洗い流した。査定額は十八万二千円であり、細かい素材が中心であることを考えれば妥当な金額であった。
街での再会とファミレスでの談笑
ギルドを後にしたハルトは、繁華街でかつての職場の先輩・吉田と再会した。彼の誘いでファミリーレストランへ入り、かつてのような軽妙なやり取りを交えつつ、枝豆や唐揚げをつまみに酒を酌み交わした。
かつての同僚の事件と意外な告白
会話の中で、ハルトの同期である女性社員が元同僚からストーカー被害を受けていたこと、そしてその事件が報道されたことを知らされた。かつて好意を抱いていた彼女の存在が、ハルトが会社を辞めるきっかけになっていたことを思い出し、感謝の念を抱いた。
旧会社の変化と吉田の近況
吉田は、新社長の改革によって職場環境が劇的に改善されつつあると語った。未払い残業代の支払いや給与の引き上げ、業績連動型のボーナス支給など、労働者にとって好条件が次々と実現されていた。吉田自身も将来への希望を取り戻しており、ハルトはその変化に衝撃を受けた。
再雇用の希望と絶望の確認
ハルトは、辞めた元社員たちに再雇用の声がかかっていることを聞き、期待を寄せた。しかし、吉田から「人事は戦力になりそうな人には連絡を終えている」と知らされ、自身が対象外である可能性を痛感した。着信履歴を確認しても何の連絡もなく、戦力外通告を突きつけられたような絶望に沈んだ。
再就職への執着と冷酷な現実
吉田に泣きつき、再就職を懇願するハルトであったが、吉田は「諦めろ」と告げた。店員に騒ぎを注意され、二人はファミレスを後にした。別れ際、吉田は「強く希望を持って生きろ」と言い残し、ハルトの背を押した。
一人の夜とBARへの歩み
一人になったハルトは、自嘲とともにBARへと向かった。明日を考える必要のない無職の身だからこそ、酒に溺れても咎められることはない。自由であるがゆえの孤独と寂しさに、心を満たそうとしていた。
翌朝の報せと急な帰郷
翌朝、ハルトは父からの緊急の連絡を受けた。「母危篤 スグ帰レ」という短い知らせに、彼は急ぎ実家へと帰る決断を下した。
【名前】
田中ハルト
【年齢】
24歳
【スキル】
地属性魔法、トレース、治癒魔法、空間把握、頑丈、魔力操作、身体強化、毒耐性、収納空間、見切り、闘志、並列思考、魔力感知、万糸操作、限界突破
【装備】
不屈の大剣、神鳥の靴、俊敏の腕輪、解毒の首飾り
閑話 とある熟練探索者
探索者との偶然の出会い
ハルトはBARに立ち寄り、年齢確認を受けた後、童顔をからかわれながらウィスキーを振る舞われた。彼が無職であることを知ったベテラン探索者は、自身の戦士としての身体を誇りながら、探索者であると名乗った。太ったハルトを見て初めは信じなかったが、ダンジョンに潜っているという事実に興味を示した。
若輩探索者への軽口と助言
探索歴の浅いハルトに対し、相手は軽口を交えながら助言を与えた。特に地下十一階における危険性や、地下五階から十階付近でのユニークモンスター出現に関する情報、さらに女王ビックアントの出現など、経験者ならではの警告を口にした。
スキルの扱いとパーティの倫理
スキルやレベルの漏洩が死につながるリスクであることが語られ、特に他人のスキルを軽々しく口にするべきでないと強調された。ハルトがソロであることを知ると、仲間を持たぬことへの同情から親近感を抱いたが、それを否定されて言葉を詫びた。
ギルド登録とパーティの勧め
ギルドに未登録であると知った探索者は、驚愕とともに登録の必要性を説いた。ハルトがボスモンスターを単独で倒している可能性を示唆すると、さすがに信じられないと疑ったが、それでも一人での探索は危険であることを重ねて助言した。
探索者の階層到達と誇り
探索者は自らが地下四十九階を攻略中であることを明かし、プロの中でも上位に位置していると語った。また、強者として他に「宵闇の剣のリーダー」や「闘神・神宮寺」などを挙げ、最強の探索者として「天津勘兵衛」の名を紹介した。
社会構造と愚痴
会話の後半では、上級国民の暮らしが探索者の成果に依存しているという構造や、法案による探索者支援の話題が展開された。その語り口には、現代社会の矛盾と不公平への鬱憤がにじんでいた。
都市伝説とダンジョンの意思
探索者は、迷宮が意志を持ち、困難を好む存在であるという都市伝説を語った。その中には、力を与える仙人や魔人の存在なども含まれ、情報源としてギルド資料室を勧める一幕があった。
別れの言葉と冗談混じりの締め
最後に探索者は「良い探索を」と声を掛け、新たに考案したという探索者同士の挨拶を冗談交じりに伝えて別れを告げた。
閑話 田中タエコ
タエコの平穏な日常と心配の種
田中タエコは56歳の主婦であり、三人の子を持ち、すでに孫にも恵まれていた。家庭は円満であり、特に長男と長女は頻繁に孫の顔を見せに帰省していた。唯一の気がかりは、自由を求めて地元を離れた次男・ハルトのことであった。ハルトは強がりで本音を明かさず、一人で抱え込む性格であったため、タエコは常に安否を気に掛けていた。
体調の異変と病の発覚
パート帰りに胃の痛みを感じ始めたタエコは、当初それを唐揚げによる胃もたれだと考えていた。しかし痛みは断続的に続き、家族に促されてようやく病院に行った。検査の結果、ステージ4の腎臓癌と診断され、他臓器への転移も確認された。余命は3ヶ月と宣告され、タエコは現実を受け止めきれぬまま帰宅した。
子供たちへの告知とパートの退職
タエコは近隣に住む長男と長女には病気の事実を告げたが、遠方に住むハルトには伝えなかった。理由は、彼の性格上、仕事を辞めて帰ってくる可能性が高いと判断したためであった。以降、パートは辞め、週末には夫と遠出するなど、残された日々を穏やかに過ごすようになった。
電話越しの再会と母の想い
久しぶりにタエコはハルトに電話をかけ、彼の無事と近況を確認した。会話の中では、高校時代の元恋人の結婚や、近況報告、帰省の予定についても話題となった。母として、息子の声を聞けただけで満足し、短い通話ながら心が安らいだ。
小瓶の到着と奇跡の発現
通話から一週間後、ハルトからご当地の菓子やメンマとともに小瓶が届いた。常温で届いた「生もの」の小瓶にタエコは小言を漏らしながらも、中身を確認すべく蓋を開けた。瓶からは濃厚な甘い香りが漂い、抗えぬ衝動に駆られたタエコは中身を一気に飲み干した。
意識喪失と緊急搬送
蜜を飲んだ直後、タエコは全身に衝撃が走り、意識を失って倒れた。異変に気付いた夫が救急車を呼び、病院へ搬送された。その間もタエコは小瓶を離すことなく握りしめていた。
癌の消失と医師の驚愕
病院で再度行われた検査により、腎臓癌および転移した臓器の異常はすべて消えていた。主治医は原因の究明を試みたが、心当たりのある夫からは甘い香りの小瓶の話しか得られず、小瓶の成分調査はタエコの目覚めを待つこととなった。
回復と劇的な若返り
三日後、タエコは目を覚ました。以前よりも健康的かつ若々しい姿となっており、容姿にも活力が漲っていた。彼女が口にした小瓶の中身は、偶然にも【クイーンビックアントの生命蜜ポーション漬け】という、極めて希少かつ高性能な擬似霊薬であった。
小瓶の正体と作用の詳細
この小瓶は、ハルトが【収納空間】に保存していたポーション瓶に、女王アリの蜜を詰めたものである。保存空間内の魔力との化学反応により変質し、極めて強力な効果を持つ液体となっていた。効果は「若返り(大)」「基礎能力微増」「不治の病の80%治療」とされ、タエコの体を一瞬で健康体へと変貌させた。
第三章 ハルトの休日
実家からの呼び出しと母の病状
ハルトは、朝から女王蟻の蜜を堪能していたが、父からの突然の電話により母の病気を知らされ、急遽実家へ戻ることになった。母が癌であるという報せに驚きつつも、荷造りを済ませて新幹線で帰省した。地元の駅に到着後、父とはすれ違い、バスと徒歩で実家へ向かった。
実家での違和感と衝撃の再会
帰宅したハルトは、実家の中に見知らぬ女性を発見した。会話の末、その女性が若返った母・タエコであると明かされ、混乱に陥った。母は若々しい姿を取り戻しており、その理由については詳しく語ろうとしなかったが、ソファの破損や親戚との再会など、家庭内の賑やかな日常が描かれた。
家族との団欒と若返りの秘密
夕食の席では兄タカトや姉ハルカ、甥や姪、義姉ヨシナとともに談笑が繰り広げられた。そこで母の病気と若返りの経緯が語られ、ハルトが送った小瓶に入った「蟻蜜」がその治癒の鍵であったと明かされた。家族は驚きつつも、幸運を喜びあった。
騒動の影響と外部からの干渉
若返りが話題となり、母の周囲には多くの詮索が寄せられていた。テレビ取材の申し出もあったが父は断っていた。父はハルトを守るため、この件にハルトが関与していたことを家族や外部に伏せていた。
更なる依頼と葛藤
母は、入院中に世話になった医師の子供が事故で寝たきりになったことを語り、蟻蜜を分けてほしいと頼んだ。しかしハルトは、蟻蜜が騒動の原因となることを懸念し、譲渡を拒否した。母は理解を示しつつも、残念そうな様子を見せた。
密かな決意と出発
ハルトは、母の願いを拒否しつつも、酔いに任せて外出の準備を始めた。きさらぎ総合病院という情報を得た彼は、何かしらの行動を起こす決意を胸に、家を後にした。自分でも理由を明言せず、ただ酔った勢いと称していたが、その心には確かな意志が芽生えていた。
閑話 豊中栞
看護師・栞の日常と夜勤への準備
豊中栞は看護師として三年目を迎え、まだ後輩の綾乃に助けられながらも職務に励んでいた。妹や家族との良好な関係に支えられつつ、栞はこの日もきさらぎ総合病院で夜勤を務めることになった。小児科の担当となった彼女は、患者の子供たちに親身に接しながら、職務を全うしていた。
病院に伝わる霊の噂
仮眠前、栞はかつての同期が霊と会話できたという逸話を思い出していた。その元同僚は成仏できない子供の霊と交流し、両親を呼ぶことで送り出していたが、逆に騒動となって病院を去ることになったという。きさらぎ病院にはそうした噂が根強く残っていた。
突然の異変と不可解な現象の発生
深夜、綾乃に起こされた栞は、ナースステーションの異変を目撃する。監視カメラの停止、カルテの散乱、照明の明滅、そして誰もいない椅子が勝手に回転するという超常現象が起こっていた。綾乃とともに病室の安否確認を開始した二人は、次第に数々の異常に直面していく。
病室での不可解な人物の目撃
栞と綾乃は、交通事故で入院したカナタの病室で、すでに亡くなった父親の姿を目撃した。他の病室では高齢者が乗る車椅子が出現し、その老人の顔は恐ろしく欠損していた。霊的存在に圧倒されつつも、二人は子供たちの無事を優先し病室を回り続けた。
舞子の異変と不審な影
心臓病を患う舞子の病室では異常な発光が確認され、駆けつけた際、彼女は天井を見つめて放心していた。その直後、綾乃が病室に不審者が潜んでいたと訴えたが、確認できたのはアルコールの臭いだけであった。
エレベーターの開口と霊の出現
エレベーターで現れた男性職員が倒れ、その背後に長髪の女性の霊が現れた。二人は逃げるように病室に隠れ、廊下を歩く足音に身をすくませた。霊が目前に現れても声を上げることすらできず、霊が去るのを待ち続けるしかなかった。
マヨリの病室と声の発生
次に訪れたのは、事故で重傷を負ったマヨリの病室であった。そこでは不明な存在が「ミツケタ」と声を発し、二人は視界が暗転する中で気を失った。
舞台上の夢と白銀の光
意識を失った二人は、夢の中でステージに立つ若い男の姿を見た。男は剣を振るって霊を浄化するような光景を作り出し、観客席には生者と死者が共に座していた。舞子やマヨリ、カナタ、栞たちを含む多くの者がその光に包まれ、死者は天に昇っていった。
奇跡の朝と後日談
朝、栞と綾乃は目を覚まし、他の同僚たちと共に無事を確認した。その後、寝たきりの患者たちが快復し、病院内の病状が一斉に改善されたことが判明した。また、病院に侵入していた強盗も全員が気絶していた。すべては昨晩の霊的な事件と関係しているとしか思えなかった。
光を見た者たちの変化
最後に栞と綾乃は、看護師という仕事を続ける覚悟を新たにしながら、病院の出口で出会った見知らぬ大柄の男に「お疲れ様です」と声をかけられる。彼こそが夢の中で舞っていた男であったのかもしれないと感じながら、物語は幕を閉じた。
エピローグ
酔いから目覚めたハルトの不可解な目覚め
ハルトは公園のベンチで目覚め、自分の記憶が曖昧なことに気づいた。前夜に実家に帰省して酒を飲み、ふらふらと病院に向かったことまでは思い出していた。そこで謎の看護師に案内され、不気味な仮面を渡されたのを皮切りに、異常な病院探索が始まった。
病院内の怪異と不可視の存在
エレベーターは使えず、階段での移動を強いられる中、ハルトは病院内でパントマイムのように引きずられる人影や、階段の方を向いて並ぶ大勢の存在と遭遇した。彼らから「助けてほしい」と懇願され、治療を施した見返りにわずかな金を受け取った。
フランス人形の怪異と除霊
四階でフランス人形を拾ったハルトは、それが霊的存在に憑依されたモンスターであることを直感し、【治癒魔法】を施して昇天させた。これは病院に潜む霊的な存在を浄化する初の事例であった。
小児病棟での無差別治療と舞子の救済
五階に到達したハルトは、ステーションに人影がないのを好機と捉え、小児病棟にて片っ端から子供たちを治療し始めた。重症の少女・舞子に対しては、過去の経験を参考にしながら全力で【治癒魔法】を発動し、蘇生に成功した。
治療の代償と魔力の暴走
治療を重ねるごとに身体が重くなり、最終的には自己治癒を試みたが、【治癒魔法】が暴走し制御不能となった。ハルトは子供たちと看護師を避難させ、怪しい覆面のパントマイマーたちを拘束してから病院を脱出した。
目覚めと異常の証拠
翌朝、公園のベンチで再び目覚めたハルトは、背中にびっしりと浮かんだ無数の手形の痣を発見し、前夜の出来事が現実であったことを理解した。静かに感謝の声が風に乗って聞こえたことが、彼の行動が確かな意味を持っていたことを物語っていた。
宗近と探索者協会の動き
錬金術工房『武器屋』の防衛と宗近の行動
店主・宗近友成は、高額商品を扱う店舗を守るためにジャイアントスパイダーの糸を用いた罠を設置していた。営業後、彼は封筒を携えて探索者協会へ向かった。目的は、地下二十階を目前にした特異な探索者の存在――すなわちハルト――を報告するためであった。
探索者協会会長・天津道世との対話
宗近は会長・天津道世に資料を手渡し、ハルトのステータスが異常であると説明した。レベル17、複数のスキル保持という現実離れした能力に、道世も困惑を見せたが、感情を大きく表に出すことはなかった。
正体への疑念と過去の探求者
道世は、ハルトが探していた“特異な存在”である可能性に言及するが、判断を保留する。宗近が抱いた人物像――「馬鹿でガメツイ男」――を聞いて、道世は「違う」と即座に否定した。
机の上に置かれたハルトの写真とステータス表は、ただ静かに存在していた。
閑話の閑話 ハルト墓参りに行く
墓参りの誘いと実家でのやりとり
ハルトは実家に帰省中、父から墓参りに誘われた。猛暑の中での外出に不満を抱きながらも、しぶしぶ準備に協力した。母も同行することになり、ハルトは水汲みなどを手伝った後、家族揃って車で山の霊園に向かった。
車中での不調と事故の話題
移動中、ハルトは背中に悪寒を覚え、体調不良を疑って【治癒魔法】を自身に使用した。その際、謎の声を耳にし、異変を感じた。父は気遣いを見せ、母はこのあたりで若者の車による事故があったと語った。母は冗談交じりに霊の話を持ち出し、家族のやりとりは終始和やかであった。
霊園での墓参りと体力の消耗
ハルトは到着後、【地属性魔法】を使って周囲の草を処理し、墓を丁寧に磨き上げた。父と母は水をかけ、花を供えるなど軽作業のみを行った。終了後、父が買ってきた抹茶アイスを渡されたが、ハルトはそれが苦手であり、内心で嫌がらせを疑いつつも食べきった。
第二の墓参りと父の過去の告白
その後、父はもう一人の故人に挨拶したいと申し出た。暑さの中、ハルトはしぶしぶ承諾し、別の霊園へと向かった。そこで父は、自分がかつて暴走族に属していたこと、抗争で危険な目に遭っていたところを警察官に救われ、更生した経緯を語った。その警察官の墓が、今回の訪問先であった。
父の趣味と過去への感謝
父は、自身の酒瓶収集の趣味がその恩人の影響であると話した。記念に飲んだ酒を飾ることで感動を思い出し、記憶をつなぎ留めるという考え方を持っていた。ハルトは、当時は理解できなかったその行為を、今では過去を大切にする手段として少しずつ受け入れ始めていた。
黒一家の墓前での供物と感謝
父が墓前に花とブランデーを供え、線香を焚いて手を合わせると、ハルトも一礼して感謝の念を込めて祈った。父に対する情があるからではなく、恩を受けた者への礼として行動したにすぎなかった。
思わぬブランデーと運転交代
墓参りを終えると、父は供えたブランデーをその場で飲んでしまい、帰りの運転をハルトに任せる形となった。文句を言いながらも、母に諭されたハルトはハンドルを握ることを受け入れ、安全運転で家路に就いた。
黒一福路の登場と交錯しない縁
その直後、黒一福路という男が同じ墓地を訪れていた。黒ずくめの服に身を包み、白い花束を携えた黒一は、自身の父――黒一家の墓に参りに来たのであった。ブランデーと花が先に供えられているのを見て、誰かが訪れていたことに気づいた彼は、墓前で「自分が死んでも、誰かがこうしてくれるのか」と問いかけた。
番外編 狂気の兄弟
朽ち果てた街並と白亜の聖堂
ダンジョン地下四十階には、荒廃した建物群の中に一際異質な白亜の聖堂が存在していた。彫刻や外観の美しさは神聖でありながら、その巨大な鉛色の門は人を拒むような威圧感を放っていた。実際、その扉の先にあるのは礼拝所ではなく、「試練の間」と呼ばれるボス部屋であり、強大なモンスターが探索者の命を試す場であった。
六人の急造パーティとサイクロプス戦の準備
その日、六人の探索者から成るパーティが白亜の聖堂に挑もうとしていた。彼らはそれぞれ仲間を失った者同士で構成され、信頼関係に乏しい急造チームであった。だが、地下四十階に出現するボス「サイクロプス」の対策は万全に施されており、戦闘への覚悟は整っていた。
聖堂から現れた異質な探索者兄弟
扉を開けようとしたその時、内部から先客が姿を現した。黒いローブに杖を持つ寡黙な魔術師と、軽装で三叉槍を持つ荒々しい戦士の兄弟である。彼らがボス部屋から現れたという事実は、すなわちボスモンスターを討伐した実力者であることを意味していた。
戦闘の勃発と六人の壊滅
警戒を強めつつも交渉を試みたリーダーは、影から飛び出した刃により即座に殺害された。それを機に戦闘が始まり、六人の探索者は次々と命を落としていった。三叉槍の戦士アキラの一撃により、仲間の一人は膝を突いて心臓を貫かれ、もう一人は影に呑まれて姿を消した。
魔法使いの女の抵抗と絶望
最後に残された女性魔法使いは、対話を試みて理由を問い質した。だが、兄弟は偶然出会っただけで殺す理由としては十分と答え、相手に非はないと断言した。探索者監督署の介入を示唆するも、彼ら自身がその監督署に所属していると告げられ、女は槍で貫かれ命を落とした。
力の享受と狂気の深化
アキラは殺害によって得られる力に酔いしれ、極上の感覚に陶酔していた。同族殺しによって得る力は、快楽と狂気をもたらす劇物であり、彼はその中毒性に溺れていた。トオルは即座に撤退を命じ、アキラも命を奪った者たちに感謝を捧げつつ従った。
黒一への言及とトオルの警戒
アキラはさらなる強者である「黒一」の討伐を提案するが、トオルは黒一が規格外の存在であり、未知のスキルを持つことから今は不可能と断じた。その判断に、アキラは満足そうに笑みを浮かべた。
探索者としての堕落と帰還
アキラは兄に全幅の信頼を寄せており、彼の導きにより強くなったと信じていた。だが同時に、命を軽視し、他者を殺すことに抵抗を持たなくなったのも兄の影響であり、狂気に堕ちた一因でもあった。こうして、二人の探索者は血と狂気に満ちた戦果を携えて、地上への帰路についた。


その他フィクション

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