Lorem Ipsum Dolor Sit Amet

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

Nisl At Est?

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

In Felis Ut

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Risus Vitae

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Quis hendrerit purus

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Eros Lacinia

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

Lorem ipsum dolor

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

img

Ipsum dolor - Ligula Eget

Sed ut Perspiciatis Unde Omnis Iste Sed ut perspiciatis unde omnis iste natu error sit voluptatem accu tium neque fermentum veposu miten a tempor nise. Duis autem vel eum iriure dolor in hendrerit in vulputate velit consequat reprehender in voluptate velit esse cillum duis dolor fugiat nulla pariatur.

Turpis mollis

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレ

どんな本?

『キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1』は、銀河大帝国を舞台に、自らを「オタク」「モブ」と称する傭兵ジョン・ウーゾスの物語である。彼は「分不相応・役者不足・身の程を弁える」をモットーに、目立たず穏やかな日々を過ごそうとしている。しかし、その卓越した判断力と冷静さから、周囲の注目を集めることとなる。
主要キャラクター
• ジョン・ウーゾス:自らを「モブ」と位置づける傭兵。ライトノベルを愛読し、目立たないように行動するが、その実力は高く評価されている。
• フィアルカ・ティウルサッド:通称「女豹(レオパール)」と呼ばれる女性傭兵。ウーゾスの実力を認め、彼の態度に苛立ちを感じている。
• ノスワイル:レースチーム「クリスタルウィード」の女性エースパイロット。同性からの人気が高く、ウーゾスをチームに誘っている。
• ロスヴァイゼ:古代文明の遺跡から発掘された意思を持つ超兵器の戦闘艇。金髪碧眼の美女のアバターを持ち、ウーゾスに乗り換えを提案する。 

物語の特徴

本作は、主人公が自らを「モブ」と位置づけ、目立たないように行動しながらも、その高い実力ゆえに周囲から注目されるという逆説的な展開が魅力である。また、個性的なキャラクターたちとの関わりや、スペースファンタジーの世界観が読者を引き込む要素となっている。

出版情報
• 出版社:オーバーラップ
• 発売日:2023年7月25日 
• ISBN:978-4824005571

読んだ本のタイトル

キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1
著者:土竜 氏
イラスト:ハム  氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

銀河大帝国――人類が生息可能な惑星のある宙域の7割を国土としている大国でジョン・ウーゾスは、傭兵を生業としていた。「オタク」「モブ」を自認している彼は「分不相応・役者不足・身の程を弁える」をモットーにし、日々を穏やかに過ごそうとしていた。ゆえに、イベントが起こりそうなフラグはいつでも全力回避!すると、いつも「なぜか」続々と自滅していく周囲の主人公キャラたち……!どんな依頼に際してもウーゾスは、変わらずモブを貫こうとするのだが――。

「簡潔に申し上げます。私に乗り換えませんか?」

「私のチームにスタッフとして来てくれないか?」
モブに徹してきたことで培われた、迅速かつ的確な判断力と、些細なことに動じない精神力。ある者からは畏怖を込め「土埃」と称される能鷹隠爪な彼を、虎視眈々と狙う者が現れはじめ……?実は超有能なモブ傭兵による、無自覚爽快スペースファンタジー!

キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1

主な出来事
• 戦場の慎重派

ウーゾスは戦場で目立たぬよう慎重に動き、確実に生き残ることを最優先とする。
• 戦闘開始と混乱
雇われたバッカホア伯爵陣営がジーマス男爵軍と交戦。ウーゾスは敵の目を欺く技術で生き延びる。
• 伯爵の暴走と結末
戦闘中、伯爵が敵を挑発。結果として特攻を受け、戦場の指揮を失い戦闘は終了する。
• 新たな申し出
意思を持つ戦闘艇ロスヴァイゼがパートナーにならないかと持ちかけるが、ウーゾスは拒否。
• ギルドでのトラブル
目立つ仕事を避けるため小規模な海賊討伐を選ぶが、エリート傭兵に絡まれ暴力を振るわれる。
• フィアルカの叱責
騎士階級ながら新入りの攻撃に反撃しなかったことをフィアルカに咎められる。
• 過去の因縁
戦友のリオル・バーンネクストに再会し、軍への勧誘を受けるが拒否。
• 護衛任務の騒動
侯爵令嬢の護衛を務めた傭兵たちが報酬を受け取れず、貴族の横暴が明らかになる。
• 赤紙による強制招集
海賊討伐作戦に巻き込まれ、ウーゾスも参加を余儀なくされる。
• ロスヴァイゼの乗り換え計画
ウーゾスを諦め、他の有力者に接触するが失敗に終わる。
• 戦場での活躍
左翼部隊に配属され、慎重ながら確実に戦果を上げる。
• 裏切りと逆転
敵側の部隊が寝返り、伯爵軍が優勢に転じる。
• 男爵夫人の最後
秘密兵器で戦況を覆そうとするが、それが存在しないと発覚し、処刑される。
• 報酬と戦後処理
傭兵たちは報酬を受け取るが、一部の裏切り者は昇級ポイントを減らされる。
• フィアルカとの再会
ウーゾスの実力を認めるフィアルカが、彼の昇級拒否について問いただす。

感想

徹底したモブ思考
ウーゾスは「身の程を弁える」という信条を貫いている。
しかし、周囲の状況が彼の意志とは関係なく動き、結果として重要な場面に関わってしまう流れが面白い。

慎重さと実力のギャップ
戦闘技術は高いが、それを無闇にひけらかさず、あくまで生存を最優先とする姿勢が際立つ。

歪んだ社会構造
傭兵社会では、実力よりも家柄や見た目が重視される傾向が強い。
ウーゾスの冷静な観察眼と、それを避けようとする姿勢に共感を覚える。

ヒロインたちの立ち位置
フィアルカやスクーナといった女性キャラが登場するが、ウーゾスは関わりを極力避けようとする。
それがまた、彼の生き方を象徴しているようで面白い。

モブとしての完成度
一般的な俺TUEEEE系の展開とは異なり、あくまでモブ傭兵として立ち回る点が魅力的。物語のバランスが取れており、タイトルとの整合性も保たれている。

貴族社会の腐敗
貴族の横暴が徹底して描かれ、傭兵の苦労が伝わる。特に侯爵令嬢の護衛任務の件は理不尽そのもので、ウーゾスが巻き込まれなくて正解だったと感じる。

今後の展開への期待
現状では小規模な事件を積み重ねる形だが、これがどのように大きな物語へと繋がるのかが気になる。ウーゾスはこのままモブを貫くのか、それとも流れに巻き込まれるのか、今後も目が離せない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

備忘録

戦場に立つ傭兵の現実

ジョン・ウーゾスは、小太りで眼鏡をかけたオタクの傭兵であった。華やかな英雄譚に登場するようなエースとは異なり、彼の愛機は改造した中古船であった。現在、銀河大帝国の内戦に傭兵として参加しており、バッカホア伯爵側に雇われ、ジーマス男爵陣営と戦闘を開始しようとしていた。この戦争の原因は、格式の争いや骨董品の処分といった些細な理由に加え、バッカホア伯爵がジーマス男爵の娘を情婦にしようとしたことが発端であった。ウーゾスは戦場において、目立たず慎重に立ち回ることを信条としていた。

開戦とウーゾスの戦術

戦闘が始まると、ウーゾスは戦場の端で慎重に動きながら生き延びていた。彼の目的は、適度に戦いながら確実に生還することであった。開戦から1時間が経過し、戦況は激しくなっていた。彼のもとに一斉通信が入り、中央の支援要請が出された。中央部隊の正規兵は崩壊寸前であり、支援部隊が戦況を維持していたが、戦局は依然として厳しかった。

戦場に現れる“イキリ”傭兵

中央戦線では、一人の傭兵が敵の大群を引きつけ、目立った動きを見せていた。彼は開戦前に大口を叩いていたものの、実際には一隻も撃墜できておらず、ただ逃げ回っているだけであった。しかし、そのおかげで味方の安全は確保されていた。ウーゾスは敵機に狙われたものの、操縦技術を駆使して撃墜騙しの戦法を用い、敵機を逆に撃破した。

戦局の急変と伯爵の暴走

戦闘が佳境に入ると、バッカホア伯爵の軍が優勢となった。しかし、その勝利を確信した伯爵が旗艦を前進させ、敵陣に向けて傲慢な演説を始めた。彼はジーマス男爵の娘を手に入れると公言し、敵を挑発した。その瞬間、敵側の一機が旗艦のブリッジに特攻し、伯爵を含む指揮官たちは戦闘不能となった。ガルベン中尉が新たな指揮官となり、戦闘は終了した。

戦後処理とウーゾスの決断

戦闘が終結すると、ジーマス男爵側はバッカホア伯爵家に対し、謝罪と賠償を要求した。ウーゾスは報酬を受け取り、船の修理を終えた後に次の仕事を探しに向かった。彼は戦場で生き残るために目立たず慎重に動くことを何よりも優先していた。

新たな出会いと申し出

基地を出発しようとした矢先、ウーゾスの通信機に見知らぬ相手からの連絡が入った。送信者はロスヴァイゼと名乗る金髪碧眼の美女であり、自らを「意思を持つ古代兵器の戦闘艇」と称した。彼女はウーゾスに、自身の新たなパートナーにならないかと持ちかけた。しかし、ウーゾスはその申し出を即座に拒否した。彼の信条は「身の程を弁える」ことであり、強力な船を手にすれば不要な注目を集め、命を狙われる危険が増すからであった。

ギルドでの衝突

次の仕事を探すために傭兵ギルドを訪れたウーゾスは、小規模な海賊退治の依頼を選んだ。しかし、ギルドの受付から貴族令嬢の護衛任務への参加を提案される。彼は目立つ仕事を避けるためにこれを拒否したが、傭兵の若きエリートに絡まれ、突如として殴られた。彼は「傭兵として失格」と罵られたが、無駄な争いを避けるために反論せず、受付の仕事を続行した。

ウーゾスの信念

ウーゾスは、自分が目立つべきではないと再確認した。戦場では、派手に活躍する者が英雄となるが、彼のようなモブ傭兵にとって重要なのは生き延びることだけであった。そのためには、慎重に行動し、無用な争いを避けることが最善であった。彼は次の依頼へと向かい、相変わらず目立たず慎重に生き延びる道を選んだ。

美しき傭兵の叱責

ウーゾスがギルドで手続きを終えようとした矢先、再び背後から声をかけられた。声の主はフィアルカ・ティウルサッド、司教階級の傭兵であり、「女豹」との異名を持つ女性であった。彼女は白銀の髪と紫の瞳を持つ美貌の持ち主であり、ウーゾスに対し、騎士階級の傭兵でありながら新入りの攻撃に反撃しなかったことを非難した。

ウーゾスは面倒ごとを避けるための行動だったと説明したが、フィアルカはそれを怠慢と断じた。過去にも彼女はウーゾスの態度に不満を持ち、事あるごとに叱責していた。彼女の存在はウーゾスにとって厄介なものであり、彼の周囲の傭兵たちも彼女がウーゾスに絡むことを快く思っていなかった。

フィアルカは最後に「せいぜい小銭稼ぎに励め」と吐き捨て、その場を去った。ウーゾスは関わらないのが最善だと考え、深く気に留めることなく仕事を続けた。

フィアルカの苛立ち

その後、フィアルカは自らの宇宙船でシャワーを浴びながらウーゾスについて考えていた。彼は戦闘艇の操縦技術では女王階級に匹敵する実力を持ちながらも、騎士階級で満足していた。それがフィアルカには理解できなかった。彼女自身も司教階級に昇るまで様々な妨害を受けてきたが、それを実力でねじ伏せてきた。にもかかわらず、ウーゾスは出世を望まず、自らの力を示そうともしない。

彼女の苛立ちは強まるばかりで、思わずシャワー室の壁を叩いてしまった。メイドのアンドロイド、シェリーが心配して駆けつけたが、フィアルカは怒りを抑えながら、自分自身の考えを整理しようとした。

シェリーはウーゾスを「能ある鷹」と評し、無闇に力を誇示しないことが彼の本質ではないかと諭した。しかし、フィアルカは納得できなかった。彼は自分より遥かに優れた操縦技術を持ちながら、それを生かそうとしない。彼が本気を出さない限り、自らの苛立ちは消えそうになかった。

小規模海賊の討伐

ウーゾスはギルドで新たな仕事を受け、海賊退治に向かった。彼の船「パッチワーク号」は探査能力に優れ、広範囲を索敵することができた。調査の末、不審な小惑星を発見し、近くの役所に問い合わせたところ、正式な居住登録のない違法施設であることが判明した。

オープン通信で警告を発したが、反応はなかった。その後、小惑星がゆっくりと動き始め、隠されていた噴射口が姿を現した。明らかに海賊の拠点であり、戦闘の準備が必要となった。

小惑星から二機の戦闘艇が出撃したが、ウーゾスは冷静に対応した。威嚇射撃を行い、小惑星の推進装置を破壊。迎撃してきた一機を撃墜し、もう一機のパイロットが動揺する間に事態を収束させた。警察を呼び、残存する海賊を引き渡し、依頼を完了した。

報酬の受け取りと傭兵ギルドの騒動

依頼を終えてギルドに戻ったウーゾスは、報酬を受け取る前に異様な光景を目にした。多数の傭兵がギルドの幹部を囲み、怒声を上げていた。事情を聞くと、貴族令嬢の護衛任務に参加した傭兵たちが報酬を受け取れず、全額がヒーロー傭兵のみに支払われたというのだ。

侯爵令嬢は「信頼に足る者にしか支払わない」と言い放ち、他の傭兵は全員無報酬となった。ウーゾスは、この依頼を受けなかったことを安堵しながらも、ギルドが貴族の横暴に抗議すらできない現実を改めて痛感した。

一方、そのヒーロー傭兵は令嬢の寵愛を受けつつも専属にはならず、「他にも救うべき人がいる」と辞退したという。彼の正義感は貴族すら感心させるものであり、ウーゾスは「主人公属性の人間は何もかも違う」と遠巻きに見ていた。

過去の記憶と傭兵としての選択

報酬を受け取ったウーゾスは、両親への仕送りを終えた後、アニメショップに向かった。しかし、その道中でかつての戦友リオル・バーンネクストと遭遇してしまった。

彼はウーゾスと同じく、学生時代に教師に騙され、強制的に傭兵団へ入れられた過去を持つ。しかし、リオルはそこで英雄的な活躍を見せ、傭兵の世界でも名を馳せる存在となっていた。一方で、ウーゾスは戦場の隅で生き延びることを優先し、慎重に生きる道を選んできた。

リオルはウーゾスに向かい、「いつまで傭兵を続けるつもりだ」と問いかけた。彼の言葉には軽蔑ではなく、どこか憐れみが滲んでいた。ウーゾスは、その問いに対してどう答えるべきかを考えながら、立ち止まっていた。

リオル・バーンネクストの勧誘

ウーゾスは、顔を合わせるたびにリオル・バーンネクストから帝国軍への勧誘を受けていた。バーンネクストは伯爵家の次男であり、帝星から遠ざけられた身であったが、悲惨な事件の被害者となったことを契機に軍に入隊し、エースパイロットとして活躍していた。

彼はウーゾスが傭兵を続けることを理解できず、軍に入ればより良い待遇を受け、帝国のためになると説得を続けた。しかし、ウーゾスは軍内部の植民地民に対する過酷な扱いを知っており、そのような環境に身を置くつもりはなかった。傭兵ギルドの自由さを好んでおり、バーンネクストの「親切」な勧誘を迷惑に感じていた。

取り巻きの圧力

バーンネクストと会話している間、彼の取り巻きの女性軍人たちが敵意をむき出しにしていた。彼女たちはバーンネクストを慕っており、ウーゾスが彼と親しげに話すことが気に入らなかった。

ウーゾスはその状況を逆手に取り、バーンネクストに対し、女性たちとの時間を邪魔したくないと伝えた。それにより、彼が連れを待たせていることを思い出させ、女性たちの関心をバーンネクストへ向けさせた。すると、彼女たちは彼の腕を取り合い、デートではないと主張するバーンネクストを取り囲んだ。その隙にウーゾスは速やかにその場を立ち去った。

バーンネクストの誤解

ウーゾスとのやり取りを終えたバーンネクストは、彼が軍に入らない理由を自分への遠慮だと解釈した。植民地出身のウーゾスが、貴族である自分と関わることで迷惑をかけると考えているのではないかと誤認し、次に会ったときには彼を直属の部下として迎え入れることで、軍へ導こうと決意した。

ウーゾスの日常

ウーゾスは、前日の疲れを引きずりながらもアニメショップへ向かった。街を歩きながら、賑やかな繁華街の風景を楽しみ、書店やホビーショップを巡った。昼食を済ませた後、一度帰宅しようとした矢先、特別召集令状『赤紙』が届いた。

これは傭兵ギルドが発行する強制的な招集命令であり、今回の指令はポウト宙域全体の傭兵ギルドに発せられたものであった。赤紙を無視するとペナルティがあるため、ウーゾスは速やかに準備を整え、ギルドへ向かった。

召集された傭兵たち

ギルドに到着すると、ローンズから今回の召集が「大物海賊の討伐作戦の前準備」であることを聞かされた。式典用のホールに移動すると、イキリ君やヒーロー君、フィアルカの姿もあった。そこへ戦闘艇ロスヴァイゼが通信を送ってきた。

ロスヴァイゼは、以前ウーゾスに乗り換えの提案をした意思を持つ超兵器であったが、今回は新たな対象としてアルベルト・サークルードとキーレクト・エルンディバー大将に興味を示していた。ウーゾスは彼女の浮気性に呆れつつ、ブリーフィングへと意識を向けた。

海賊基地の攻撃作戦

作戦の説明を行ったのは、帝国軍親衛隊副長であるプリシラ・ハイリアット大尉だった。彼女は軍人として優秀であり、プロパガンダ要員としても有能な女性であった。彼女の魅力と巧みな話術には一定の評価があったが、ウーゾスは興味を持たなかった。

作戦の要点は、カイデス海賊団の基地襲撃のため、傭兵たちが橋頭堡を確保し、帝国軍親衛隊が制圧するというものだった。しかし、親衛隊の参加は政治的な意味合いが強く、本気で戦うのか疑問が残った。

作戦には、王階級の傭兵であるアルベルト・サークルードも参加しており、彼の存在が戦況を大きく左右すると考えられた。

戦闘の開始

傭兵たちはカイデス海賊団のアジトである巨大小惑星要塞を包囲し、戦闘を開始した。敵の砲撃をかわしながら、アルベルトとロスヴァイゼが迎撃部隊を圧倒していった。特にロスヴァイゼは、人間には不可能な機動で戦闘艇を次々と撃墜し、その勢いに他の傭兵たちも驚かされた。

イキリ君が乗るロスヴァイゼは、激しい機動により意識を失っている可能性が高かったが、それでも彼の評価は高まり続けていた。

戦闘が終盤に差し掛かると、親衛隊の制圧部隊が突入を開始し、傭兵たちはその支援に回ることになった。ウーゾスは戦況を見守りながら、本を取り出して読書を始めた。

ロスヴァイゼの新たな興味

戦闘がほぼ終息し、ウーゾスが休憩を取っていると、ロスヴァイゼから通信が入った。彼女はアルベルトとキーレクトのどちらを選ぶべきか悩んでおり、ウーゾスに意見を求めてきた。

ウーゾスは彼女の性格を理解していたため、どちらを選んでも同じことを繰り返すだろうと考え、適当に聞き流した。ロスヴァイゼは相変わらず興奮しながら話し続けたが、ウーゾスは本に集中し、制圧部隊の作戦終了を待つことにした。

こうして、カイデス海賊団の拠点攻撃は順調に進み、ウーゾスは再び傭兵としての仕事を全うするのだった。

ロスヴァイゼの新たな乗組員探し

ロスヴァイゼが新たな乗組員を探すと宣言した直後、ウーゾスのもとに女豹ことフィアルカ・ティウルサッドから通信が入った。彼女は真剣な表情で「黄緑の羽兜」の正体を尋ねたが、ウーゾスはロスヴァイゼではなく、そのパイロットであるランベルトの名前を挙げた。

フィアルカは、彼の戦果についても確認し、新人とは思えない活躍に驚きを隠せなかった。ウーゾスはランベルトが初陣で敵を引きつけたものの、撃墜はしていないことを伝えたが、実際は失神していたため攻撃できなかっただけだった。

フィアルカはランベルトの実力を評価しつつ、ウーゾスに「後輩に抜かれることを悔しいと思わないのか」と問いかけた。しかし、ウーゾスは昇進に興味がなく、面倒ごとを避けたいと考えていたため、特に気にしていなかった。その態度にフィアルカは憤慨し、通信を切った。

フィアルカの苛立ち

通信を終えたフィアルカは、ウーゾスの無関心な態度に苛立ちを覚えていた。彼女はランベルトを王階級目前の実力者だと思っていたが、実際には新人だったことに衝撃を受けた。そして、そんな才能ある後輩が現れたにもかかわらず、ウーゾスが何の焦りも見せないことに納得がいかなかった。

彼女の執事であるシェリーは、冷静に状況を分析し、ウーゾスが馬鹿にされるのを嫌がっているのか、それとも単に彼を倒したいだけなのかを問いかけた。フィアルカは反論しようとしたが、言葉に詰まり、シェリーは話を切り替えた。

ロスヴァイゼの勧誘失敗

ロスヴァイゼは、より優れた乗組員を探すため、アルベルト・サークルードに接触した。彼女は自らを古代文明の超兵器と紹介し、アルベルトに乗り換えを提案した。しかし、彼はロスヴァイゼの申し出を一蹴し、「ディアボロス号」がある以上、必要ないと断った。

次にロスヴァイゼはキーレクト・エルンディバー大将に接触した。彼女は自身の圧倒的な戦闘能力を強調し、安全を保証すると提案したが、大将もまた拒絶した。彼はロスヴァイゼの信頼性を疑い、万が一彼女の気分次第で乗員が排除される可能性を懸念していた。

二度の拒絶に激怒したロスヴァイゼは、傭兵や軍人の見る目のなさを嘆いた。しかし、彼女はすぐに別の考えを思いつき、次の乗組員として女性や美少年を探すことを決意した。

戦闘の終結とウーゾスの休息

カイデス海賊団の施設制圧作戦は無事に終了し、ウーゾスは作戦報告を聞きながら、ようやく休息を取ることができた。翌日、休日を楽しむために掃除と買い物を済ませた後、定食屋で食事をとり、闇市商店街へ向かった。

彼は友人のゴンザレス・パットソンを訪ね、最新の情報を得るために「噂話」を購入した。パットソンは、ゲート通行料の値下げを巡るデモが過激化し、皇帝に対する屈辱的な要求が出ていることを伝えた。また、このデモの背後には反皇帝派が関与しており、一部の貴族が秘密裏に戦力を集めている可能性があると示唆した。

新たな仕事の選択

ウーゾスは傭兵ギルドを訪れ、仕事を探した。ゲート関連の依頼が急増しており、ローンズはデモが影響していることを説明した。ウーゾスは危険な地域の警備を避け、老朽化したゲート安定装置の交換作業中の警備任務を選択した。

この仕事は48時間の拘束で、報酬は固定24万クレジット。三交代制で、休憩中は管理コロニー外への外出が禁止されていた。地味な仕事ではあったが、ウーゾスは安定した環境で働くことを選んだ。

警備とデブリ回収

仕事が始まると、ゲート周辺の警備だけでなく、デブリ回収作業も求められた。急遽決まった追加作業であったが、ウーゾスの戦闘艇「パッチワーク号」はこの作業に適していたため、彼はデブリ屋と協力して回収作業を行った。

ウーゾスは、ベテランのデブリ屋と息を合わせ、順調に作業を進めた。彼は傭兵の仕事には派手な戦闘だけでなく、こうした地味な仕事も必要であることを理解していた。

仕事は順調に進んでいたが、彼は最後に「何も起こらなければいいが」と思わずにはいられなかった。

警備任務終了後の休息

ウーゾスは8時間の警備とデブリ回収作業を終え、管理コロニーに戻った。船体に付着したポリマーを剥がし、燃料を補給した後、カプセルホテル式の宿泊施設へ向かった。この宿泊カプセルは防音・空調・通信環境が整っており、脱出ポッドとしても機能するものであった。

入浴施設で疲れを癒し、食堂で食事を済ませた後、談話室でテレビを眺めていたが、突如として傭兵同士の口論が響いた。新米の傭兵が「これが傭兵の仕事なのか」と憤りを見せていた。ウーゾスは彼らに関わらないよう、早めに部屋へ戻り、ラノベを読みながら眠りについた。

船を失った新人傭兵の嘆願

翌朝、ウーゾスは駐艇場で船の点検をしていたが、「お願いします!」という懇願の声が聞こえてきた。声の主は昨夜騒いでいた新人傭兵の少女で、彼女は「船を貸してほしい」と頼んできた。

事情を聞くと、彼女の相棒であるフィディクが「海賊を倒してくる」と言い残し、勝手に船を持ち出したという。契約上、傭兵は待機中も緊急時には対応する義務があるため、彼の行動は明らかな規約違反であった。ウーゾスは、同じシフトの自分に船を貸す余裕がないことを伝え、少女は失意のまま他の傭兵に頼みに行った。

デブリ回収作業と少女の処罰

シフトに戻ったウーゾスは、デブリ回収の作業を続けた。次第にデブリの量が減り、作業が順調に進んでいることが実感できた。その頃、少女は船を借りることができず、ゲート管理者と所属するギルドの関係者に叱責されていた。

彼女の相棒があんな無責任な行動を取るにもかかわらず、この依頼を受けたのは、金銭的な理由があったのかもしれないとウーゾスは推測した。

レースチーム「クリスタルウィード」の到着

シフト終了間際、オープン回線から突然の通信が入った。相手は「クリスタルウィード」というプラネットレースチームのコンテナ船で、ゲートを利用するための手続きを求めていた。しかし、彼らはゲートが換装作業中であることを把握しておらず、焦っていた。

ウーゾスは管理コロニーに連絡し、対応を依頼した。クリスタルウィードのチームには、ウーゾスが過去に関わった事件で生き残ったもう一人、スクーナ・ノスワイルが所属していた。彼女はレース界で王子様のように人気のある女性であり、ウーゾスとは事件後にほとんど接点がなかった。

彼らは管理コロニーに留まることになり、コロニー内は有名レーサーの到着に沸き立った。ウーゾスは興味を示さず、風呂と食事を済ませた。

契約違反の処罰と俺様傭兵の失態

その後、管理事務所から怒鳴り声が響いてきた。フィディクが戻ってきたらしく、仕事を放棄したことで厳しく責められていた。彼は反省する様子もなく、「フィノが警備につけばよかっただろ」と開き直ったが、管理者から「君が船を持ち去ったため、彼女は警備に就けなかった」と指摘された。

さらに、彼は「俺は子爵令息だ」と身分を持ち出して抗議したが、傭兵ギルドは「契約時に実家から縁を切られている」と冷徹に言い放った。そこに、スクーナ・ノスワイルが現れ、「貴族は責任を取らない」と皮肉を口にした。

スクーナ・ノスワイルの勧誘

スクーナはウーゾスを庭のベンチに誘い、彼の過去について話し始めた。彼の父が貴族のミスを押し付けられ、会社を辞めざるを得なかったことを調べ上げていた。そして、ウーゾス自身が大学に進学できず、傭兵になったことを問い質した。

彼は「家族が今幸せならそれでいい」と答えたが、スクーナはなおも彼の気持ちを探ろうとした。彼女は最後に「私のチームにスタッフとして来ないか?」と勧誘した。しかし、ウーゾスは「華やかな世界には向かない」と断った。スクーナは残念そうに微笑みながら、「考えておいて」と言い残し、立ち去った。

グリムリープ海賊団の襲撃

翌日、緊急警報が鳴り響いた。グリムリープ海賊団が接近中であり、戦闘要員に出撃命令が下された。ウーゾスも迎撃の準備を進めた。

戦力は大小100隻ほどで、彼らの目的は復讐だった。というのも、フィディクが彼らの斥候部隊を挑発し、撃墜したことで海賊団の怒りを買っていたのである。しかも、フィディクはそれを理解せず、「腰抜けばかりだろうから花火にしてやる」と余裕を見せていた。

ウーゾスは傭兵ギルドに救援要請を出し、ローンズから「軍も動くが到着まで1時間かかる」との返答を受けた。その間、持ちこたえる必要があった。

スクーナの参戦

突然、スクーナから通信が入った。彼女はオレンジのパイロットスーツを身に纏い、「私も参戦する」と宣言した。ウーゾスは「あなたは傭兵ではない」と止めようとしたが、スクーナは「プラネットレースは妨害ありの競技で、戦闘の経験もある」と言い張った。

彼女の乗機は最新鋭の『ストーム・ゼロ』であり、その性能はウーゾスの戦闘艇をはるかに上回っていた。しかし、彼女が負傷すれば、傭兵全員が彼女のファンから報復を受ける可能性があった。ウーゾスは「無茶はしないでほしい」と念を押した。

戦闘開始

その時、オープン回線で海賊の長『黒髭』が通信を入れてきた。彼はフィディクに対し「よくも手下を殺したな」と怒りを露わにした。しかし、フィディクは「ヘボ海賊が偉そうにするな」と挑発し、他の傭兵たちからも「ふざけるな」と罵倒された。

海賊の長は「こいつを引き渡せば引いてやる」と提案したが、傭兵たちは「どうぞ持って行ってくれ」と同意する者が続出した。フィディクは涙声で反論したが、そのまま単独で敵陣に突撃し、戦闘が開始された。

部屋の整理と休日の過ごし方

ウーゾスはゲート警備の仕事から戻ると、部屋の掃除や洗濯、換気、消耗品の補充などを済ませた。その後、ネットを閲覧し、動画鑑賞や趣味のチャットを楽しんだ。翌日は『アニメンバー』で新刊を購入し、古本屋を巡るなど、充実した休日を過ごした。

傭兵ギルドの騒然とした雰囲気

仕事を受けるために傭兵ギルドを訪れたウーゾスは、異様なざわめきを感じた。ローンズから話を聞くと、ロセロ家とグリエント家の間で利権戦争が勃発していた。その原因は、人間国宝の画家が残した一枚の油絵であった。ロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の両者が、それぞれ先代当主への贈り物であると主張しており、絵画の本体はグリエント家が所有しているが、ロセロ家は盗まれたと訴えていた。

傭兵ギルドはこのような事態において中立を保つため、両陣営からの依頼を受け、傭兵自身にどちらに付くか選ばせる方式を採用していた。そのため、ギルドは特定の勢力からの恨みを買うことなく、傭兵たちは自己判断で依頼を受けることができた。

熱弁を振るう司教階級の女性

ウーゾスが情報収集を考えていると、傭兵ギルド内に女性の大声が響いた。その声の主は、黄緑の髪を持つ軍服風の装いをしたファディルナ・プリリエラであった。彼女は、ロセロ伯爵が悪であり、か弱い女性であるグリエント男爵夫人を救うために戦うべきだと主張していた。その様子は、まるでウーゾスが以前出会ったユーリィ・プリリエラの女性版のようであった。

ローンズによれば、彼女はユーリィの姉であり、最近司教階級に昇進したという。ウーゾスは、この姉弟とは関わらないほうが賢明だと判断し、依頼の締め切りまで情報収集を進めることにした。

闇市での情報収集

ウーゾスは、情報を得るために闇市の『パットソン調剤薬局』を訪れた。店主のゴンザレスにロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の評判を尋ねると、調査には2時間ほどかかるとのことで、ウーゾスは店内でラノベを読みながら待つことにした。

2時間後、ゴンザレスは次の情報を提供した。ロセロ伯爵は領民から慕われており、善政を敷いている。税制も公正であり、人柄は温厚である。体型が小太りなのは甘いもの好きのためで、女性にはモテないが、政治的手腕には問題がなかった。一方、グリエント男爵夫人は贅沢を好み、税金を引き上げて私欲を満たしていた。そのため、領民の評判は悪く、多くの人々が他の星へ移住している。また、彼女は過去に3人の夫と死別しており、現男爵と結婚した翌年に彼も病死していることが判明した。

ウーゾスは、この情報からグリエント男爵夫人側に付くのは危険だと判断した。しかし、完全に決定する前に、さらに情報を精査することにした。

占い師からの決定的な情報

さらなる裏付けを取るため、ウーゾスは繁華街にある『占いビル』を訪れ、水晶玉占い師に相談した。彼女は情報屋でもあり、ロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の情報を確認した。

占い師の調査では、ロセロ伯爵は領民から支持されており、平和な統治を行っていた。一方、グリエント男爵夫人は税金を浪費し、さらには戦争の原因となった油絵を盗んでいた可能性が高いと判明した。彼女は財産目当てで貴族と結婚を繰り返しており、今回の戦争も領地の乗っ取りが目的であると推測された。

この決定的な情報を得たウーゾスは、ロセロ伯爵側の依頼を受けることに決めた。

ギルドでの勧誘合戦

翌日、傭兵ギルドに戻ると、ファディルナ・プリリエラとユーリィ・プリリエラが熱弁を続けていた。彼らの影響を受けた者もいたが、冷静に情報を分析した者たちはロセロ伯爵側に付いていた。最終的に、傭兵の参加人数は約600人で、伯爵側が8割、男爵側が2割という構成になった。

ウーゾスは依頼の登録を済ませ、戦闘宙域に向かう準備を整えた。

戦場への出発

戦闘宙域となるナガン宙域へ向かう中、ロセロ伯爵から戦争の背景について説明がなされた。彼は、絵画を奪還するつもりはなく、適切な解決策を模索していたが、グリエント男爵夫人側が戦争を仕掛けてきたため、応戦せざるを得なくなったという。

ウーゾスは、戦闘の準備を整えつつ、配属された傭兵たちの間でロスヴァイゼの活躍が話題になっていることを耳にした。さらに、フィアルカ・ティウルサッドも人気を集めていたが、彼女のアンドロイドメイドが勧誘の接触を完全に遮断していたことも判明した。

グリエント男爵夫人の本性

一方、惑星ヤビョンのグリエント男爵家では、エリザリア・グリエント男爵夫人が執務室でファディルナ・プリリエラと通信していた。彼女は表向きは慎ましく振る舞っていたが、通信が終わると態度が一変し、戦争の勝利と共に領地を手に入れることを確信していた。

男爵夫人は部屋でワインを持ってきたメイドに理不尽な暴力を振るい、領民を売り飛ばして小銭にし、新居を建てる計画を思案していた。彼女の本性は冷酷そのものであり、戦争の目的は領地の強奪と私欲の追求にあった。

戦争の幕開け

こうして、ロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の間で繰り広げられる利権戦争が、ついに始まろうとしていた。

戦闘の開始と左翼の活躍

戦闘が始まり、ウーゾスは左翼部隊に配置された。そこにはロスヴァイゼやフィアルカもおり、彼女たちの実力を考えれば、生存率は大きく向上していた。しかし、敵軍はか弱いふりをしたグリエント男爵夫人を守るため、使命感に燃えていた。

戦場では大小数百の艦艇が入り乱れ、宇宙空間に火線が飛び交っていた。敵右翼は機動力が高く、正確な射撃を行っていたが、情報収集を怠り男爵夫人側についた者たちは、連携が取れず、実力も伴っていなかった。結果として、伯爵軍の左翼は優勢を維持し、特にロスヴァイゼの戦果が目立っていた。彼女の圧倒的な機動力と火力により、敵右翼は壊滅的な被害を受けた。

右翼の裏切りと新たな戦略

戦闘開始から1時間が経過し、敵右翼の8割が撃墜もしくは戦意喪失した。これを受け、本隊は三方から敵軍を包囲する作戦を決定。しかし、その直後、右翼部隊の7割が裏切り、伯爵軍の本隊と残りの右翼部隊に攻撃を仕掛けた。

この裏切りはプリリエラ姉弟が仕組んだものであり、敵軍は勢いを取り戻した。これに対し、伯爵軍本部は左翼の半数を右翼の支援に向かわせるよう命じた。ロスヴァイゼはこれに即応し、猛スピードで右翼へ向かった。彼女の後を追うように、多くの傭兵が続いた。一方、ウーゾスは直感的に嫌な予感を覚え、左翼に留まることを選んだ。

プリリエラ姉弟の策謀とロスヴァイゼの介入

敵軍では、ユーリィ・プリリエラが自ら戦闘の指揮を執っていた。彼の計画は、伯爵軍の右翼に送り込んだ潜伏部隊を裏切らせ、敵軍の左翼と同時に攻撃を仕掛けるというものだった。この戦略により、伯爵軍を混乱に陥れ、男爵夫人のための勝利を確信していた。

しかし、そこにロスヴァイゼが突撃し、ユーリィの計画は狂い始めた。彼はロスヴァイゼとの一騎打ちに臨んだが、まったく歯が立たなかった。苛立つユーリィに、姉のファディルナは戦意を煽るが、ロスヴァイゼの圧倒的な技量の前では無意味だった。

敵迎撃部隊の寝返りと戦局の急変

ウーゾスの率いる左翼部隊は、敵本隊への攻撃を開始した。しかし、迎撃に出てきた敵部隊は、これまでとは異なり、訓練された正規兵であり、連携も取れていた。そのため、左翼部隊は前進するどころか、後退を強いられるほどの苦戦を強いられた。

しかし、突然、敵迎撃部隊が自軍本隊に砲撃を開始した。彼らは元々グリエント男爵の私兵であり、男爵夫人の支配に不満を持っていた。そして、ついに家族を人質に取られていた兵士たちが解放され、決起したのである。これにより、敵軍の指揮系統は大混乱に陥った。

男爵夫人の焦りと最終手段

一方、グリエント男爵夫人は戦況の悪化に激しく動揺していた。彼女は家族を人質にしていた者たちを惨殺するよう命じたが、メイドからの進言で、最終手段に出ることを決意した。それは、戦場に仕掛けた惑星破壊兵器『フレア』を起動し、敵味方問わず全てを消し去るというものだった。

しかし、いくら待っても爆発は起こらなかった。動揺する夫人に、メイドは冷静に事実を告げた。実は『フレア』など存在せず、夫人が見ていたものはただの置物だったのだ。この瞬間、メイドの正体が明かされた。彼女は、かつて男爵夫人に父を殺され、命を狙われたリンダ・ボードアルであった。

男爵夫人の最期と戦争の終結

リンダの正体が明らかになると、男爵夫人は逃げようとしたが、執務室に押し入った武装集団に拘束された。彼女は親衛隊に助けを求めたが、ほとんどの兵が逃亡していた。男爵夫人は、最後まで自らの地位と美貌を誇示し続けたが、リンダによって粛清されることが確定した。

戦場では、裏切った迎撃部隊とロスヴァイゼの活躍により、伯爵軍が圧倒的な勝利を収めた。『雀蜂部隊』と呼ばれるエリート部隊が最後の抵抗を試みたが、ウーゾスとフィアルカが彼らを迎え撃った。フィアルカは敵のエースに敗北し、窮地に追い込まれたが、ウーゾスの支援により救出された。その後、敵本隊も降伏し、戦争は終結した。

ロセロ伯爵は、戦いの終結を宣言し、領地と絵画を守った将兵と傭兵たちに感謝を述べた。そして、戦死者の冥福を祈るとともに、領地のさらなる繁栄を誓い、戦争は完全に幕を閉じた。

戦闘後の処理と報酬の支払い

ロセロ伯爵家とグリエント男爵家の闘争は、ロセロ伯爵側の勝利で終わった。本来ならその日のうちに報酬が支払われるはずだったが、処理が煩雑であったため、支払いは二日後に延期された。その日、ウーゾスは傭兵ギルドを訪れ、ローンズから報酬を受け取った。

今回の戦闘では潜入工作が行われたため、ギルドの対応も複雑になっていた。傭兵ギルドは「戦場での行動には関知しない」という方針を取っており、裏切った傭兵へのペナルティは昇級ポイントの半減のみであった。この対応により、裏切った者たちは肩身の狭い思いをしていた。一方、男爵夫人に雇われた傭兵たちは、彼女が捕らえられたため報酬を受け取れず、迎撃部隊の助言により、一律50万クレジットが支払われることになった。

ロセロ伯爵に忠誠を誓った者たちには、基本報酬300万クレジットに加え、50万クレジットのボーナスが支払われた。さらに、ロスヴァイゼには追加で50万クレジットが支払われ、総額400万クレジットを受け取った。戦死者の報酬は遺族や指定された人物へ渡され、遺族がいない場合はギルドが接収した。

プリリエラ姉弟の運命と男爵夫人の処刑

プリリエラ姉弟の処遇も決定された。弟のユーリィは、戦闘中にウーゾスを殴ったこと以外に問題はなく、特に罰せられることはなかった。しかし、姉のファディルナは、ギルド幹部を懐柔し、不正に昇格していたことが発覚。逮捕される直前にギルドの船を盗み、逃亡した。彼女の行動により、ユーリィは周囲から白い目で見られることになった。

一方、男爵夫人は、これまで何度も結婚と殺害を繰り返していたことが発覚し、中央政府からも犯罪者と認定された。彼女の処刑は間近であり、男爵側にいた犯罪者や海賊たちは捕らえられ、警察に引き渡された。

ウーゾスとフィアルカの再会

報酬を受け取ったウーゾスがギルドを後にすると、フィアルカとそのメイドが待ち構えていた。彼女は、戦場で救われたことに対する感謝を伝えた。ウーゾスはそれを受け流しつつも、彼女の礼儀正しさに若干の驚きを覚えた。

その後、フィアルカは彼が司教階級に昇級しない理由を問いただした。ウーゾスは、貴族社会における平民への理不尽な扱い、見た目への偏見、昇級後の嫌がらせを避けるためだと説明した。また、彼には出世欲がなく、指示や作戦立案を苦手としていたため、階級が上がることに興味がなかった。

フィアルカは納得しつつも、彼の実力を正当に評価する者が現れることを伝えた。ウーゾスはそれを否定したが、彼女の言葉にはある種の確信が込められていた。

謎の組織と「土埃」の存在

その頃、某所では「雀蜂部隊」の戦いについて語られていた。彼らの目的は、エリザリア・グリエント男爵夫人を失脚させ、ロセロ伯爵との関係を強化することにあった。そのため、初めから伯爵を撃破する意図はなく、戦局を調整していたようだった。

戦闘では、若きパイロットが「土埃」と呼ばれる機体に敗北していた。彼は悔しさを滲ませていたが、指導者は「敗北は未熟さの証」と諭し、さらなる精進を促した。彼らはまだ影で動いており、戦局の鍵を握る存在であった。

特別編 私のお嬢様

ティウルサッド家への仕官

シェリーは製作者によって生み出されたのち、動作確認を受け、保存用カプセルに入れられた。次に起動した際、彼女の目の前にいたのは若い男女二人であり、彼らこそがティウルサッド子爵家の当主と夫人であった。

二人は廃墟の倉庫でシェリーを発見し、彼女が製作された時代の人々が既に寿命を迎えていることを知った。その後、子爵家に仕えることとなり、家事遂行・育児・要人警護のプログラムが搭載されていたこともあり、正式に使用人として受け入れられた。

一年が経過する頃には、子爵家の人々や使用人たちに受け入れられ、信頼を得るようになった。そして、夫人が懐妊すると、彼女は生まれてくる子の専属メイドを任されることになった。

フィアルカの誕生と専属メイドとしての決意

夫人の出産予定日、無事に女の子が誕生した。当主はその喜びのあまり騒ぎすぎ、病院の看護師から厳しく叱責されたという。この話は今でも夫人にからかわれることがある。

生まれたばかりのフィアルカを抱いた瞬間、シェリーは彼女こそが仕えるべき主であると直感した。その理由は不明だったが、それ以降、彼女の専属メイドとして仕えることとなった。

フィアルカが言葉を話し始めた頃、当主と夫人は使用人たちに「娘が悪事を働いたり、理不尽なわがままを言った場合には叱ることをためらわないように」と伝えた。さらに、成長に応じて体罰も辞さない姿勢を示し、使用人たちを驚かせた。

当時の帝国法により、貴族の権限は縮小されていたが、貴族の意識はすぐには変わらなかった。そのため、貴族の子供を叱ることは依然として慎重さを要する行為であった。しかし、夫人の説得により、使用人たちは娘の教育に協力することを決意した。

その結果、フィアルカはしっかりとした躾を受け、周囲に対して礼儀正しく接するようになった。彼女は食事を作ってもらえば感謝を述べ、お願い事をする際には必ず礼儀を尽くす、心優しい人物へと成長した。

フィアルカの我が儘と伯爵令嬢との対立

フィアルカが小学一年生の時、彼女のクラスメイトである伯爵令嬢がシェリーを自分のものにしようと企てた。彼女は父親の権力を利用し、ティウルサッド家を取り潰すと脅したのである。

この件が問題となり、シェリーはティウルサッド家に迷惑をかけないため、伯爵家へ向かう決意を固めた。しかし、フィアルカは彼女の左手の甲に自分の名前を書き、「絶対に渡さない」と涙ながらに訴えた。

その様子を見た当主が伯爵家に連絡を入れたところ、伯爵本人も娘の行動を知らなかったようであり、彼女を厳しく叱責した。どうやら彼女は厳しい教育を受ける環境にあり、シェリーを守護者として迎え入れたかったようであった。

伯爵家は正式に謝罪し、伯爵令嬢もフィアルカに謝罪した。しかし、翌日、学校に迎えに行くと、フィアルカは頬を腫らしていた。理由を尋ねると、伯爵令嬢と再び口論となり、互いにビンタを張り合ったという。最終的には教師に叱責され、二人とも処分を受けた。

その伯爵令嬢、マイカ・フィーニダスとは現在も交流が続いている。なお、フィアルカがシェリーの手の甲に書いた名前は、中学入学前まで消されずに残っていたが、彼女の強い要望により、最終的に消すことになった。シェリーにとって、それは惜しい決断であった。

同シリーズ

91e0f66bc17727e93f2c09e5c3485328 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレ
キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1」感想・ネタバレ
フィクション あいうえお順

小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ

前巻 index 次巻

どんな本?

『戦国小町苦労譚 十八 西国大征伐』は、戦国時代を舞台にした歴史ファンタジー小説である。物語は1579年、織田家による西国攻めが本格化する中、毛利輝元が水軍を編成し、織田軍を迎え撃とうとする。一方、織田側の九鬼水軍は新造の大型鉄甲船を投入し、両軍の激突が描かれる。また、大坂城の築城や新兵器の登場、主要キャラクターたちの成長など、多彩なエピソードが展開される。   

主要キャラクター
• 綾小路静子:現代から戦国時代にタイムスリップした農業高校生。持ち前の知識と技術を活かし、織田家の重臣として活躍する。
• 羽柴秀吉:織田信長の家臣で、西国攻めを任されている。黒田官兵衛や竹中半兵衛といった優れた人材を配下に持つ。
• 明智光秀:織田信長の家臣で、冷静沈着な戦略家。日向守とも呼ばれる。

物語の特徴

本作の特徴は、現代の知識を持つ主人公・静子が戦国時代に革新をもたらす点である。大坂城の築城や新兵器の開発、さらには刀狩りや検地、石鹸や動物写真集の制作など、多岐にわたる活動が描かれている。また、歴史上の人物との関わりや、彼らの成長も見どころの一つである。  

出版情報
• 出版社:アース・スター エンターテイメント 
• 発売日:2025年3月14日
• 定価:1,430円(税込) 

読んだ本のタイトル

戦国小町苦労譚 十八 西国大征伐
著者:夾竹桃 氏
イラスト:平沢下戸  氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

時は1579年。毛利輝元は全力を以って水軍を編成、織田軍を迎え撃とうと画策。
対する織田側の九鬼水軍は新造の大型鉄甲船を引っさげて接敵。
両兵衛の暗躍・大砲部隊の援護もあり、潰走する毛利軍だったが――
一方、手柄を立てようと必死な秀吉と光秀は互いに焦っていた。
秀吉は山越えを決意し、光秀は大砲を準備。それぞれ進軍するも……
ついに始まるビッグプロジェクト、大坂城の築城や新兵器の登場もさることながら、
四六の成長ぶりにも注目!
そして相変わらずの静子は、刀狩りに検地、石鹸や動物写真集作りに着手?

戦国小町苦労譚 十八 西国大征伐

主な出来事

  • 静子の影響力拡大
    静子は近衛前久との関係を深め、公家社会でも重要な地位を得た。教育と技術者育成に力を入れ、織田政権の経済力を強化した。
  • 信長と四六の関係
    静子の後継者である四六の忠誠心は不確かであり、信長は彼の動向を慎重に見極めた。織田家の安定を考え、四六が問題に直面した際には試練として静観する方針をとった。
  • 毛利水軍の敗北
    織田軍は九鬼水軍の大型鉄甲船を用いて、毛利・村上水軍を撃破。瀬戸内海の制海権を確保し、四国や九州の戦局に影響を与えた。
  • 秀吉と光秀の競争
    秀吉は鳥取城を無血開城したが、光秀が上月城を寡兵で攻略し、戦功を競う状況になった。秀吉は軍の質を向上させる必要性を痛感した。
  • 毛利家の苦境
    毛利水軍が壊滅し、織田軍が西へ進軍。毛利家は和睦か抗戦かの決断を迫られ、内部でも意見が割れた。
  • 西国の経済戦略
    秀吉は西国での酒造事業に着手。尾張の技術を導入し、地元産の清酒を生産することで市場を独占しようとした。
  • 静子の休暇と正倉院の記録
    信長の命により静子は休養を取ることになった。その間、正倉院の宝物目録の作成を進め、日本の文化財管理に寄与した。
  • 四六の試練
    四六の学友が投資詐欺を行い、処断が求められた。四六は冷徹な判断を下し、学友を断罪。彼の裁定者としての名声が広まった。
  • 東国の改革
    静子は刀狩りと検地を進め、東国の統治を強化。度量衡の統一にも取り組み、土地制度の整備を進めた。
  • 毛利家の情報戦
    静子は毛利の間者を泳がせ、誤った情報を流した後に一斉に処分。毛利家は混乱し、織田軍の動きを見誤った。
  • 大坂城の建設
    信長は大坂を日本最大の港とする構想を持ち、静子にその建設を任せた。瀬戸内海の統治を確立し、商業航路の安全を確保しようとした。
  • 石鹸製造と工業化
    技術街で石鹸の生産が始まり、工業用や衛生管理向けの製品が開発された。焼き鳥屋台などの廃油を利用し、効率的な生産体制を構築。
  • 謙信の尾張訪問
    謙信と景勝が織田領を視察し、戦乱の終焉を実感。織田の統治に従うことが正しいと確信し、民の安定を守る決意を固めた。
  • 秀吉軍の山越えと熊の襲撃
    山中で熊が斥候部隊を襲撃。秀吉軍は根切り作業を進めながら進軍し、新たな戦略を模索した。
  • 光秀軍の霰弾攻撃
    光秀軍は浦上軍の塹壕陣地を霰弾で破壊。高コストながら、塹壕戦術を封じる効果を発揮した。
  • 秀吉軍の川根村接触
    秀吉軍が川根村を支配し、山越え街道を整備。村人たちは毛利と敵対することを悟り、秀吉軍に協力する道を選んだ。
  • 一夜城の出現
    吉田郡山城の目前に、一夜で築かれたように見える城が登場。毛利軍はこれを警戒し、攻撃を試みるが失敗。
  • 宇喜多直家の最期
    直家は奇襲を続けたが、最終的に明智軍と決戦し討死。浦上宗景は降伏し、明智軍は西へ進軍を再開した。
  • 毛利の降伏と天下統一
    秀吉の砲撃により毛利軍の士気が崩壊し、輝元は降伏を決意。信長は織田政権の完成を喜ぶが、秀吉の台頭を警戒し始めた。
  • 信長の特注布団
    静子が一年かけて作った特注布団が信長に献上され、絶賛される。湯たんぽも改良され、冬の寒さ対策が進む。
  • 福利厚生と振る舞い酒
    静子邸では福利厚生が充実し、余剰の酒が振る舞われた。酒飲みたちは人事考課を意識し、秩序を守るようになった。
  • 彩の立身出世
    彩は孤児から静子邸の財務を任されるまでに出世。過去の自分と現在の贅沢な生活を比較し、静けさの中での孤独を感じた。
  • 静子との会話
    静子が彩のもとを訪れ、共に茶を飲みながら世間話をする。何気ない時間の中で、彩は静子の温かさを実感した。

感想

西国征伐の戦略と軍勢の動き
本作では、西国の毛利家を巡る戦局が描かれている。
織田軍は二手に分かれ、羽柴秀吉と明智光秀がそれぞれ進軍した。

秀吉は迅速な攻勢を仕掛け、一夜城を築くことで毛利軍を揺さぶり、静子から送られた大砲を用いて籠城戦を有利に進めた。
一方、光秀は宇喜多直家の奇襲により足止めされ、戦功争いに遅れを取る。

戦の規模が拡大する中、信長の政略や織田軍の各武将の思惑が交錯し、戦国時代の勢力図が大きく動いていく様子が鮮明に描かれていた。

静子の影響力と四六の活躍
織田軍の戦が激化する一方で、静子の影響力もますます拡大していた。
近衛前久との関係を通じて公家社会に足場を築き、経済や技術革新にも大きく貢献する。

特に、彼女の後継者である四六が成長し、独自の判断を下す場面が印象的であった。
学友の投資詐欺事件では、四六が冷徹な裁断を下し、彼の統治者としての資質が問われた。
静子が四六の決断を見守る姿勢を取ることで、世代交代の兆しも感じられた。

戦の裏で広がる静子の影響
西国征伐の戦いが続く中、静子は政治や経済面での安定を築き、国内の改革を進めた。
大坂城の建設や瀬戸内海の支配、さらには石鹸製造の開始など、社会基盤を整える動きが加速する。

また、謙信や景勝の訪問によって、織田の統治がもたらす安定が東国にも波及していることが伝わった。
戦の表舞台には立たずとも、静子の影響が戦国時代の枠組みを大きく変えていることがよく分かる。

信長と光秀の「本能寺の変」の伏線?
物語の終盤では、信長と光秀の関係に関するちょっとしたエピソードが描かれる。
本能寺の変まであと二年。

静子は二人の対立を警戒する中「愛猫の写真品評会」での口論が起きたと知り、アホらしさに呆然とする。
この猫好きな二人のやり取りには思わず笑ってしまった。
戦乱の世に生きる彼らの意外な一面が見え、物語にユーモアを添えていた。

信長と布団、そして静子の「暇」
信長は戦の采配を振るう一方で、静子から贈られた特注布団に夢中になる。
布団の心地よさに感動し、どこへ行くにも持ち歩くほどのお気に入りとなった。

戦国時代を舞台にしながらも、こうした日常的なエピソードが挟まれることで、登場人物の人間味がより際立つ。
また、四六の活躍により仕事が減った静子が、暇を持て余してしまう描写も興味深い。

常に忙しく働いてきた彼女にとって、「何もすることがない」という状況は新鮮だったのだろう。

その違和感を持て余す静子の姿が微笑ましかった。

総括
本作は、西国征伐を巡る戦局を中心に、静子の影響力の拡大や四六の成長、信長と光秀の関係など、多くの要素が絡み合う展開となっていた。

戦の緊迫感と同時に、布団や猫といったユーモラスな要素が織り交ぜられ、戦国時代の壮大な物語でありながらも、どこか温かみを感じる作品であった。

次巻では、信長の運命がどう動くのか、静子と四六の関係がどう変化するのか、ますます目が離せない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレBookliveで購入
gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入
gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

前巻 index 次巻

備忘録

天正六年  織田政権

千五百七十九年四月中旬  一

信長への忠誠と静子の影響

静子の忠誠心は揺るぎないものであった。信長の危機に直面するたびに彼女は機転を利かせ、戦局を大きく覆してきた。その最たる例が三方ヶ原の戦いであり、織田軍の劣勢を覆し、武田信玄の野望を挫いた。彼女の戦功は比類なきものだったが、一度として自ら誇ることはなかった。

また、静子は自身の忠誠心を貫くものの、彼女の後継者である四六が同じように織田家に忠誠を誓うかは不確かであった。四六は信長の直系でありながら、幼少期に織田家で虐待を受けた過去を持つ。そのため、信長や前久は四六の内心を測りかねていた。

近衛家との関係と影響力の拡大

静子が近衛前久と猶子の関係を結んだことで、彼女と四六の立場は公家社会でも重要なものとなった。武家と公家の橋渡しだけでなく、公家に対する軍事的支援も担い、静子軍はその規律と礼節によって朝廷からも高く評価されていた。

また、静子は早くから教育の充実と技術者の育成に力を入れていた。その結果、多くの知識人や技術者が第一線で活躍し、静子に恩義を感じていた。彼らの影響力は日ノ本全体に広がり、尾張を中心に巨大な経済圏が形成されつつあった。この一極集中した権力と財力が、信長の天下統一を早めた要因の一つとされている。

四六の継承問題と信長の懸念

静子の後継者として四六が名乗りを上げることは、織田家にとって新たな問題を生んだ。静子のもとで集中された権力と財力は、四六がそれを受け継ぐことでさらに強大なものとなる。信長は、四六が野心ある者に取り込まれれば織田家の基盤が揺らぐと危惧していた。

また、静子は己の力を過小評価する傾向があり、四六が問題に直面した際には「後継者の試練」として静観する可能性が高いと考えられた。そのため、信長は四六の動向を慎重に見極め、統治の安定を図る必要があった。

器の役割と女社会の影響

一方、器は金融や服飾・美容事業を掌握し、女社会に大きな影響を与えていた。これは静子の配慮によるものであり、農林水産業や医療、工業分野を避けることで四六の領域と競合しないように調整されていた。

器は金融事業で名を上げつつあり、その結婚についても考慮すべき時期に差し掛かっていた。静子は、たとえ四六と器が袂を分かつことがあっても、器が経済的に自立できるように知恵と経験を授けていた。これにより、織田の治世が続く限り、器の能力を必要とする者は絶えないと見込まれていた。

毛利水軍の敗北と戦局の転換

1579年、毛利輝元は織田軍に対抗するため、水軍を総動員して戦いを挑んだ。織田側の九鬼水軍は新造の大型鉄甲船を導入し、戦闘に備えた。両兵衛の策略と大砲部隊の援護により、毛利軍は潰走を余儀なくされた。

この戦いによって織田軍は瀬戸内海の制海権を掌握し、四国は長宗我部の手に落ちた。この結果、九州における親毛利派の国人たちは毛利家との関係を見直さざるを得なくなった。

毛利水軍の敗北は、織田家の勢力拡大に大きく寄与し、毛利家に対して臣従か敵対かの決断を迫ることとなった。

千五百七十九年四月中旬  二

秀吉の焦燥と戦功争い

羽柴秀吉は、西国征伐において鳥取城を無血開城し、一歩先んじた戦功を挙げていた。しかし、明智光秀が寡兵で上月城を攻め落とし、評価を高めたことで、秀吉の優位性が揺らぎつつあった。光秀軍は武家の出身者が多く、教育の行き届いた兵が揃っていた。一方で秀吉軍は数こそ多いが学のない者が大半を占め、高度な軍事行動を遂行する下士官が不足していた。この差が秀吉の焦燥の根幹にあった。

両兵衛の助言により戦略的な作戦を立案できるようになったが、それを実行に移すには軍の質が足りなかった。それに対し光秀は少数精鋭の部隊で成果を挙げており、兵の能力差が如実に表れていた。秀吉は、毛利の本拠である吉田郡山城の攻略に向け、大軍の編成を急いでいた。

毛利との海戦と秀吉の決断

その最中、九鬼水軍と毛利・村上水軍の海戦勃発の報が秀吉のもとへ届いた。信長の支援を受けた九鬼水軍の新型戦艦は圧倒的な性能を持ち、敗北はあり得ないと秀吉は判断した。毛利が海戦に集中している間に、陸地で優位を確保すべく、秀吉は迅速に行動を開始した。

物資の確保が急務となり、兵站を担う静子軍の真田昌幸に支援を要請した。即時の電信は不可能であったが、秀吉の要望を受け取った昌幸は、その内容を精査し、補給可能と判断した。秀吉軍は鳥取城から中国山地を越えて南下し、安芸国に入る計画であり、補給拠点の構築と物資の逐次供給が作戦成功の鍵を握っていた。

補給計画の調整と静子の判断

昌幸は兵站部隊の動員状況を調査し、京から鳥取城への補給経路を確認した。現地の状況を鑑み、補給部隊の人員を増やすよう秀吉に助言し、継続的な補給体制を構築する方針を定めた。

この計画は静子にも報告され、最終判断を信長に委ねることとなった。信長は慎重に考慮した末、秀吉の作戦を許可した。これにより、秀吉は西国征伐においてさらなる戦功を求め、山越え作戦の準備を本格化させた。

毛利水軍の敗北と戦局の転換

九鬼水軍は毛利・村上水軍の連合艦隊に対し、圧倒的な勝利を収めた。この戦いで九鬼水軍の旗艦「日輪丸」はその強大な戦闘力を示し、「黒船」と称されるようになった。瀬戸内海の制海権を完全に喪失した毛利は、以降、軍事行動を起こすことすらできず、守勢に徹することを余儀なくされた。

この海戦の結果、西国の国人衆にも動揺が広がり、毛利の影響力は大きく低下した。秀吉はこの機を逃さず、毛利を一気に追い詰めるための準備を進めていた。

西国の経済戦略と酒造事業

戦功争いだけでなく、秀吉は経済面でも優位に立つため、西国での酒造事業に目を向けていた。尾張の清酒は畿内で高値で取引されていたが、輸送費と品質の劣化が問題となっていた。そこで秀吉は、現地での醸造を試みることで市場を独占しようと考えた。

武庫山を含む地域に適した酒造職人を派遣し、西国の需要を掌握する計画を進めた。この事業が成功すれば、秀吉軍の財源となるだけでなく、西国の経済圏においても影響力を持つことができると見込まれた。

光秀との競争と秀吉の野心

畿内では光秀の名声が高まり、市場に影響を与えるほどの影響力を持つようになっていた。秀吉は光秀に遅れを取ることを危惧し、西国征伐における功績を確実なものとするため、毛利討伐を急いだ。

山越え作戦の成功は、西国制圧の決定打となる可能性があったが、慎重さも求められた。過去の播磨での失敗を踏まえ、秀吉は計画的な侵攻を進めていた。最終的には、冬を迎える前に毛利を攻め落とし、確実な戦功を得ることが目標とされた。

静子の休暇と正倉院の記録事業

一方、静子は信長の命により休暇を与えられていた。彼女は常に仕事を増やす傾向があり、休養を取るよう命じられたのはこれが初めてではなかった。外出制限まで課され、仕事から完全に切り離された状況にあった。

その間、彼女は正倉院の宝物目録の作成に取り組むことを決めた。正倉院文書の公開許可を得て、歴史的資料の記録を進めることが決まった。これにより、日本の文化財管理が大きく進展することとなった。

四六の試練と静子の決断

静子の後継者である四六の学友が、不正に手を染めているとの報告が入った。四六の名を騙り、投資詐欺を行ったことが判明し、間者によって証拠が押さえられた。

静子は、この問題の処理を四六に委ねることとした。為政者として、たとえ親友であっても悪を断罪できるかが試される局面であった。静子は四六がこの試練を乗り越えられるかを静観しつつ、世代交代の時が近づいていることを実感していた。

千五百七十九年六月中旬  一

岐阜監獄への訪問と四六の苦悩

美濃国の一角に、ツルリとした継ぎ目のない高い石壁に囲まれた監獄が存在していた。戦国時代においても珍しいコンクリート壁に覆われたこの施設は、国家を転覆せしめるほどの罪を犯した重罪人を収監する岐阜監獄であった。四六は案内役の獄吏と共に、この厳重な警備の敷かれた監獄へと足を踏み入れた。

彼の目的は、学友であった宇野貞吉と対面することであった。貞吉の家は薬の商いで成功を収めていたが、父である貞次郎が尾張の新薬を不正に改造し、利益を追求したことで破綻を招いた。その窮状を救うため、貞吉は四六の名を騙り投資詐欺を働いたが、その行為が露見し、一族もろとも逮捕されたのである。

貞吉の独房での対話

重犯罪者隔離房に収監された貞吉は、四六との面会を許された。四六が鉄扉越しに声をかけると、貞吉は悪態をついて応じた。彼には反省の色はなく、むしろ四六を言いくるめて助命を得ようと考えていた。

四六は淡々と、貞吉の罪の重大さを伝えた。貞吉の罪は彼一人に留まらず、一族郎党にまで及ぶものであった。この事実に直面し、貞吉は蒼白となり震えた。さらに四六は、貞吉の父・貞次郎も既に捕らえられていることを告げ、助命の望みはないと明言した。

四六の裁断と貞吉の最期

四六は静かに、貞吉の処断を己に委ねられていることを告げた。貞吉は必死に情に訴え、二度と罪を犯さないと誓った。しかし四六は、その虚言を看破した。彼の態度に反省の兆しがないことを見抜き、ついに沙汰を下した。

貞吉は尾張領主の名を騙り、詐欺を行った罪により「打ち首獄門」と決定された。さらに、詐欺に関与した貞吉の一族も死罪に処されることが決まった。貞吉は絶叫しながら四六に詰め寄ったが、四六の決断は揺るがなかった。

四六が監獄を後にする際、貞吉は鉄扉の向こうで怒号を上げた。しかし、その声は誰の耳にも届かなかった。学友を処断した四六の苛烈さは広く語り草となり、彼の名は冷徹な裁定者として世に知れ渡ることとなった。

静子の統治と東国の改革

四六が岐阜で裁きを下していた頃、静子は東国管領として検地と刀狩りを進めていた。刀狩りについては、害獣対策などの正当な理由があれば村単位での管理を認める穏当な方針を採っていた。しかし、刀剣類の犯罪利用を防ぐため、厳格な管理体制を敷いた。

一方、検地に関しては測量部隊が派遣され、正確な耕作面積や所有者を記録する作業が行われた。この結果、東国の土地制度が整備され、年貢の負担者が明確になった。さらに、度量衡の統一を進め、以降の検地をより正確なものとする体制を整えた。

伊達家と最上家の膠着状態

東国では、伊達家と最上家の戦が依然として続いていた。静子の発布した禁令により、新たな戦の勃発は抑制されていたが、すでに開戦していた両家は例外であった。他家の介入が禁じられたことで、両者は独力で決着をつけるしかなくなった。

禁令の効果は絶大であり、第三者の介入があれば織田家が即座に武力介入することが通達されていた。そのため、伊達家と最上家は慎重に戦を進めざるを得なかった。

静子の影響力と毛利家の動揺

尾張に潜入していた毛利の間者たちは、静子が軍事行動を起こさずに九鬼水軍を支援したことに動揺していた。毛利家は静子の動向を把握しようと間者を送り込んでいたが、静子は彼らを泳がせ、必要な情報を意図的に流していた。

やがて、静子は間者の処分を決断し、すべての情報源を断った。突然の情報途絶により、毛利家は静子の動向を読み違え、さらなる混乱に陥ることとなった。

毛利家の苦境と決断

九鬼水軍の圧倒的な勝利により、毛利水軍は壊滅的な打撃を受けた。毛利家の軍議では、徹底抗戦か和睦かを巡って意見が割れ、決定を下せない状況が続いていた。

そんな折、大坂に静子の軍が大規模な拠点を築くという報がもたらされた。これにより、西国の国人たちは、京へ攻め上がる道が完全に閉ざされたことを悟った。毛利家をはじめとする西国勢力は、織田家と戦うか降伏するかの二択を迫られることとなった。

大坂城建設と信長の構想

静子は、大坂に軍事拠点を築くため、大坂城の建設計画を進めていた。信長は、西国制圧の要として石山本願寺跡地を戦略的拠点にすることを決定しており、その建設計画を静子に一任した。

信長の真の狙いは、大坂を日本最大の港として整備し、西回り・東回りの航路を確立することであった。この構想は当時の人々には理解されなかったが、静子はそれを知る数少ない人物の一人であった。

信長と静子の交渉

信長は朝廷を利用し、瀬戸内海の支配を確立しようとしていた。朝廷から公式に瀬戸内の統治権を認めさせることで、反対勢力を封じる狙いがあった。

静子はこの方針を理解し、私掠船の取締令を布告することを提案した。これにより、瀬戸内の海賊行為を抑制し、商業航路の安全を確保しようとした。信長はその案を受け入れ、さらに朝廷に矢面に立たせることで、西国の国人たちの不満をかわそうと画策した。

信長の策略により、西国の支配は着々と進められ、静子もまた、信長の期待に応えるべく動き続けていた。

千五百七十九年六月中旬  二

技術街での石鹸製造

梅雨が明け、静子は久しぶりに技術街を訪れた。彼女と技術者たちは、目の前に並ぶ陶器製の壺を前に頭を悩ませていた。壺の中には刺激臭を放つ粘液が詰まり、加熱されていた。それは、工業化が進んだ尾張において不可欠となった石鹸の製造過程であった。

工業用機械の油汚れは従来の天然洗剤では落としきれず、より強力な洗浄力を持つ石鹸の需要が高まっていた。さらに、外洋航行の衛生管理の観点からも、粉石鹸の開発が求められた。石鹸の製造には苛性ソーダが不可欠であったが、尾張では工業化の過程で苛性ソーダが大量に生産されていたため、問題はなかった。

安価な石鹸の原料として、焼き鳥屋台などから出る廃油が活用された。従来、廃油は焼却処分されていたが、食品由来の腐敗臭や煤の問題があった。そこで、濾過や遠心分離を行い、精製した上で石鹸の原料とすることにした。

石鹸製造の工程と成果

精製した廃油を加熱し、技術者たちが食塩を投入すると、そぼろ状の固形成分が浮かび上がった。これを繰り返し塩析することで、高純度の石鹸が得られた。さらに、ローズマリーの精油を加えることで、香りの良い廉価版洗濯用石鹸が完成した。

しかし、工業用油の汚れを完全に落とすには力不足であったため、菜種油の廃油を用いた液体石鹸が開発された。水酸化カリウムを加えて炊き上げ、レモンの皮を粉砕したスクラブを添加することで、洗浄力を強化した。試験の結果、この液体石鹸は油汚れを効果的に落とし、周囲から歓声が上がった。静子は生産手順を最適化し、大量生産へ移行するよう指示を出した。

農業士の活躍と尾張式農法の普及

静子が石鹸製造の管理を離れた頃、各地に派遣された農業士たちの成果が報告された。尾張式農法と呼ばれる新しい技術を導入した田畑は、従来の収穫量を大幅に上回り、各地の国人たちは驚嘆していた。これを受け、多くの領主が自領への農業士派遣を求めた。

家康や謙信は、この成果に満足し、さらなる農業支援を要請した。静子はこれを喜びつつ、信長に方針を確認した。信長の返答は「好きにせよ」という素っ気ないものであったが、静子は自らの方針が信長の考えと一致していることに安堵した。

こうして、三河と遠江には大豆の生産を推奨し、越後には酒造技術者を派遣する計画が立てられた。食料の増産が成功したことで、嗜好品の充実にも目が向けられるようになった。

謙信の訪問と宴席の準備

夏を迎えた頃、謙信が尾張を訪問する旨の連絡が届いた。朝廷への挨拶や信長との会談を予定していたが、静子の元にも立ち寄りたいと申し出たのである。静子はこれを歓迎し、準備に取り掛かった。

越後の人々は無類の酒好きであり、七月上旬の時点では新酒の「吞切り」には早かった。そこで、静子は謙信一行をもてなすため、大量の酒を手配した。景勝と兼続が確認のため酒蔵を訪れると、見上げるほどの酒樽が積まれていた。その量に圧倒されつつも、宴席には十分であると判断した。

東国の変化と厭戦気運の広まり

織田の農業支援を受けたことで、東国の民は生活に余裕を持ち始めていた。その結果、「安定した生活を守りたい」という意識が強まり、厭戦気運が広がった。武士階級においても、下級武士は家族を養うため、無謀な戦を避ける傾向が強まっていた。

これにより、織田家に恭順する勢力が増え、西国の国人たちは苦境に陥った。東西で織田を挟撃する従来の戦略が不可能になり、静子の支援が進めば進むほど、東西の経済格差が拡大していった。

西国の混迷と決断の遅れ

尾張・美濃の二国だけで東国全体に匹敵する経済力を持つ織田家が、さらに東国全体を豊かにしていく中、西国の国人たちは織田に従うか、徹底抗戦するかの決断を下せずにいた。

秀吉と光秀が西国攻略を進めていたが、東国の発展により織田の余剰戦力が増し、西国に向けられる可能性が高まっていた。信長や静子の本軍が動けば、抗戦の余地はなくなると考えられていた。こうして、西国にも戦国時代の終焉が迫っていた。

謙信の尾張視察と織田の統治

謙信は京・安土を歴訪し、尾張へと到着した。彼は織田領の至る所で、人々が安定した生活を営んでいることを目の当たりにし、感慨を抱いた。戦乱に翻弄されることなく、人々が互いを支え合いながら生きる姿を見て、いくさの終焉が現実となりつつあることを実感した。

景勝もまた、この光景に感銘を受け、越後にも同じ未来をもたらす決意を固めた。彼は、「奪うことでしか生き残れない時代ではなくなる」とし、織田家の統治に従った判断が正しかったことを確信した。

謙信と景勝の決意

謙信は、いかに武に優れようとも、織田には勝てなかったと認めた。宇佐山の戦いにおける織田軍の結束力や、信長の治世がもたらした安定こそが、織田家の強さの本質であったと悟った。景勝もまた、武力のみでは勝ち得ぬものがあることを理解した。

彼らは「織田の治世が永遠に続くわけではないが、少なくとも今の秩序を守るべき」と考えた。彼らの使命は、民の暮らしを守り、より良い未来を築くことであった。

静子の影響と統治の未来

謙信は静子の働きを高く評価し、彼女の手腕が東国の安定を支えていることを認識した。織田の治世が続く限り、民は安心して暮らせる。しかし、いずれ時代が移り変わる時が来る。その時、彼らは変化に目を光らせ、織田家が暴政に走らぬよう監視し続けることを誓った。

こうして、彼らは織田の統治を支える決意を新たにし、静子との会談に備えて尾張での宴を楽しんだ。

千五百七十九年六月中旬  三

秀吉軍の山越えと伐根作業の困難

秀吉軍の山越えは、想定以上に難航していた。山奥に進むにつれ、背の高い広葉樹が樹冠を形成し、日差しを遮っていたため、地表は薄暗く、湿った腐葉土と地衣類が厚く積もり、足元が不安定であった。さらに、山犬や狼、猪、熊などの大型動物の生息域であり、とりわけ攻撃性の高い熊の出没が斥候部隊を苦しめていた。

兵士たちは、静子軍から支給された「根切り」と呼ばれる特殊な鋤を使い、長大な木の根を切断していた。切断後、技術街の職人が開発した「チェーンブロック」を用い、三脚の支持架を立てて根を引き抜く作業を行った。これにより、大型の切り株も徐々に撤去され、進軍路の確保が進められた。

斥候部隊の遭難と熊の襲撃

本隊の作業が進む中、斥候部隊の一組が消息を絶った。捜索隊が派遣され、数時間後に彼らの遺体が発見された。現場には激しい戦闘の痕跡が残されており、斥候たちは熊に襲われ、惨殺されていた。

戦闘の様子を分析すると、彼らは野営中に熊と遭遇し、応戦したものの、圧倒的な力の前に倒れたことが分かった。最後の一人は銃を発砲し、熊に致命傷を与えたが、すでに彼自身も致命傷を負っていた。熊は負傷しながらも生き延び、山の奥へと姿を消した。捜索隊は熊の死骸を発見できず、遺体の回収を諦め、遺髪のみを持ち帰ることとなった。

光秀軍の進軍と浦上の遅滞戦術

一方、備前国へ進軍した光秀軍も苦戦していた。浦上宗景は天神山城に籠城し、伏兵による遅滞戦術を展開していた。光秀軍の斥候は次々と襲撃され、兵力を削られていた。

さらに、光秀軍は吉井川を挟んで浦上軍と対峙することになった。浦上軍は川沿いに陣地を構築し、空堀を掘り、火縄銃を備えた防御態勢を取っていた。渡河手段も封じられたため、光秀は渡河作戦を断念し、塹壕対策として「霰弾」を使用することを決断した。

霰弾の投入と浦上軍の敗走

霰弾は、砲弾内部に無数の鉛玉を詰めた特殊弾で、上空で炸裂し、広範囲に鉛玉を降らせる仕組みであった。砲撃が始まると、浦上軍の陣地は壊滅的な被害を受け、多くの兵士が倒れた。これにより、浦上軍は戦意を喪失し、撤退を余儀なくされた。

しかし、霰弾は通常の砲弾の20倍もの費用がかかるため、光秀はこの戦闘が採算に合わないことを嘆いた。それでも、塹壕戦術を封じるためには避けられない決断であった。

信長と静子の会談

安土城では、信長と静子が会談を行っていた。信長は、毛利家を筆頭とする西国の反織田勢力の頑なな態度に関心を示さなかった。秀吉と光秀の進軍は遅れていたものの、計画自体は順調であり、毛利家が織田家に対抗できる手立ては残されていなかった。

静子は、西国への物資支援を管理し、密輸経路の特定を進める方針を伝えた。さらに、秀吉軍には熊除けの忌避剤を、光秀軍には弾薬の補充を手配することを報告した。

西国攻めの展望と静子の役割

信長は、西国の平定後、東国の統治について静子の見解を求めた。静子は、上杉や徳川が独自の対応を取り始めることを警戒し、適度な監視を続ける意向を示した。また、西国の平定後にどのような施策を取るかについて、信長と協議を進めた。

こうして、秀吉軍と光秀軍は困難に直面しながらも前進し、静子は彼らを支援しつつ、西国平定後の展望を描いていた。

千五百七十九年八月下旬

川根村と秀吉軍の接触

安芸国高田郡の最北端に位置する川根村に、見慣れぬ衣装の客人が現れた。彼らは多量の手土産を携え、村長宅で歓待を受けることとなった。村人たちは塩不足に悩んでいたため、客人の持ち込んだ保存食や衣類、鉄器などの物資を大いに歓迎した。宴が催され、客人は山を越えて道を作る準備をしていると説明し、村を山越えの玄関口にしたいと申し出た。

領主の許可なく決定はできないものの、村人たちは領主からの援助が乏しい現状に不満を抱いていた。そのため、正式な承認を得ることなく客人の活動を黙認する形となった。やがて、村の一角に建てられた小屋は物資集積基地へと変貌し、客人の数も増えていった。

福島正則の到着と村の決断

やがて秀吉軍の本隊が到着し、福島正則が指揮を執った。福島の到着により、村人たちは自分たちが毛利輝元と敵対する勢力を受け入れてしまったことを悟った。しかし、この時点で密告しても処罰を免れないと考え、村は秀吉軍への協力を決意した。福島は山越え街道の整備を約束し、村を物流拠点として保護する方針を示した。こうして村人たちは秀吉軍の駐留を受け入れ、支援する体制を整えていった。

光秀軍の進軍と浦上宗景の敗北

一方、光秀軍は吉井川の戦いで浦上宗景を打ち破った。浦上軍は塹壕を用いた防御陣を構築していたが、光秀軍は霰弾を用いた砲撃でこれを突破した。浦上軍は壊滅的な被害を受け、天神山城へ撤退した。

敗北を喫した浦上は、かつての家臣であった宇喜多直家に協力を求めることにした。宇喜多は一度は浦上と対立し、独立を貫いていたが、光秀軍の強大さを目の当たりにし、協力を決断した。宇喜多は織田軍と敵対する姿勢を維持しつつ、己の家を存続させる道を模索していた。

光秀軍の渡河作戦

吉井川を渡る手段を失った光秀軍は、浦上軍によって沈められた高瀬舟を発見した。地元住民の協力を得て高瀬舟を引き揚げ、渡河作戦を再開した。この間に二週間近くの足止めを受けたが、再び進軍を開始することができた。

秀吉軍の強化と毛利軍の警戒

鳥取城に陣取る秀吉のもとに、新式銃を装備した静子軍の二大隊が派遣された。この新式銃は無煙火薬を用い、連発射撃が可能な革新的な武器であった。毛利陣営は秀吉の本気を悟り、戦況の変化に警戒を強めた。

秀吉はこの戦力を活用し、毛利本拠地である吉田郡山城を攻略する計画を進めた。彼の真の狙いは、静子軍の圧倒的な火力を活かしつつ、毛利軍に心理的な圧力を与えることであった。

秀吉軍の侵攻と静子軍の活躍

秀吉軍は鳥取城を出発し、伯耆蛇山城へと進軍した。城主塩見氏は籠城を決め込んだが、静子軍は正面攻撃と陽動作戦を組み合わせ、計画的に城を攻略した。新式銃の制圧射撃と手榴弾を駆使し、防衛設備を無力化していった。

この圧倒的な戦果に秀吉は驚嘆しつつも、毛利軍をさらに動揺させるため、進軍を加速させた。毛利側は秀吉軍の進路を予測し、防備を固め始めたが、それこそが秀吉の策略であった。

千五百七十九年九月下旬

秀吉軍の快進撃と毛利陣営の動揺

秀吉軍は圧倒的な速度で侵攻を続け、毛利陣営を大いに動揺させた。この一月余りで二桁に及ぶ城を落とし、防衛の兵を残さず西へと突き進んだ。降伏した敵将兵は軟禁状態とされ、最低限の代官に後事を託す形で進軍が継続された。伯耆国を制圧した後は、勢いそのままに出雲国へと侵攻し始めた。

秀吉は、降伏を申し出た者や交戦で実力を示した者に対して寛大な処遇を与えた。優れた人材には直接会い、尾張の文物を贈ることで配下に引き入れた。一方で、間者を放ち、新たに臣下とした武将たちの内部事情を探らせた。対立関係を把握し、互いに監視し合う状況を作り出すことで支配地の安定を図った。

静子の情報収集と本能寺の変への警戒

尾張では静子が秀吉軍と光秀軍の戦況、さらには毛利陣営の動向について定期報告を受けていた。彼女の軍は後方支援を担う兵站部隊であるため、的確な支援のために戦況を詳細に把握する必要があった。その情報収集の中で、静子の脳裏には「本能寺の変」の不安がよぎっていた。

歴史上の大事件でありながら、明智光秀が謀反を決意した契機は不明であった。静子は、光秀もしくは秀吉が関与していると考え、二人の動向を特に注意深く監視していた。京から安土を経由して尾張まで監視網を構築し、人・金・物の流れを掌握。街道のインフラ整備と関所の管理により、誰がどれほどの富や武力を有しているかを把握できるようにした。

しかし、この厳重な監視態勢を敷くことで、静子が天下に野心を抱いていると見られる可能性もあった。それを回避できたのは、長可の存在によるものであった。長可は暴力的な手法で問題を解決する傾向があり、信長の寵愛を受けていたため、その問題行動も不問とされがちであった。彼の制御を静子が担うことで、結果的に兵力の駐留が歓迎される形となった。

農業士の成果と今後の課題

東国では、静子の配下である農業士たちが成果を上げつつあった。試験的に越後と三河の一部地域で新技術が導入され、収穫量は従来の三倍に達した。国人たちですら過度な期待をしていなかったため、この成果は大いに喜ばれた。

しかし、農業士たちは当初の見積もりより収穫量が少なかったことに落胆していた。静子は、農業が自然を相手にするものであり、計画通りにいかないこともあると理解し、叱責することなく励ました。問題点を整理し、翌年に向けた対策を指示。農業士たちは来年の成功を誓い、新たな計画を練り始めた。

静子は信長に対し、技術継承を優先するため来年も同程度の収穫になる見込みだと報告。しかし、この想定が裏切られることを知るのは一年後のことであった。

信長と光秀の不和の原因

静子が平穏な日々に満足していた矢先、信長と光秀の仲が険悪になりかけているとの報告が届いた。警戒心を抱いた静子は詳細を確認し、原因を知ると肩を落とした。それは、二人が飼う猫に関する些細な出来事であった。

朝廷の要人たちは己の愛猫こそが最も美しいと公言し、猫の写真を絵師に彩色させ品評する催しを開催していた。そこで最優秀とされたのが光秀の愛猫であり、信長はこれを快く思わなかった。さらに、帝が光秀の愛猫を称賛したことで、信長の不満は頂点に達した。

この騒動を収めるため、静子は「一枚の写真で評価を決めて良いのか」と問いかけた。すると、貴人たちは写真アルバムの魅力に気づき、競うように愛猫のアルバム制作に励むこととなった。こうして、不和の芽は摘み取られた。

大食い大会の企画と中止

静子は写真の普及を目的とし、大食い大会を企画した。米・芋・酒の三部門に分かれ、制限時間内に食べた重量を競う内容であった。優勝者の写真を額に入れ、一年間掲示する計画であった。

しかし、大会開催の直前、信長の鶴の一声で中止が決まった。その理由は、徳川家康が静子のもとへ人質を送ることを申し出たためであった。

於義伊の人質としての派遣

徳川家では、上杉謙信や伊達家が人質を差し出している中、自分たちだけが同盟に頼っている状況を問題視する意見が出ていた。その結果、人質として次男の於義伊(後の結城秀康)を送ることが決定された。

於義伊は長らく家康の子として認知されていなかったが、家中の事情により今回正式に次男とされた。築山殿の反対を押し切る形で、長勝院を側室とし、於義伊を認知することで決着がついた。こうして、彼は静子のもとへ送られることになった。

静子は、於義伊の境遇について興味を抱いたが、深入りすべきではないと判断し、受け入れの準備を進めた。同時に、中止となった大食い大会を来年の収穫期に改めて実施する旨を宣言した。

国内整備と西国の戦局

尾張では、浮浪者が減少し、インフラ整備のための労働力として活用され始めていた。愛知用水の開発が進行中であり、労働者の需要が高まっていた。さらに、東国開発に向けた街道整備や公共施設の建設も本格化し、各地で大規模な工事が予定されていた。

インフラ事業は基本的に赤字であるため、他の事業で利益を補填する必要があった。浮浪者への支援として、生活基盤の安定と就労支援をセットで実施し、労働力として活用する政策が進められた。

こうして静子が国内整備に尽力する中、西国では毛利と織田の最終決戦が迫っていた。

千五百七十九年十月中旬  一

一夜城の出現と毛利輝元の動揺

吉田郡山城の眼前に突如として漆喰塗りの城が出現した。掲げられた旗は信長と秀吉のものであり、毛利家の本拠地からわずか数キロメートルの地点に敵軍の拠点が築かれた形となった。これに激怒した輝元は、すぐに一夜城への攻撃を決断した。

一方で、毛利陣営の中には秀吉の過去の築城手法を警戒し、慎重な対応を求める声もあった。しかし、敵の拠点が増えれば状況が悪化することは明白であり、試しに攻めてみるべきとの意見が優勢となった。輝元は、一夜城の内部に秀吉軍の少数部隊が籠もっていると推測し、本格的な攻撃が始まる前に城を攻略するよう命じた。

福島正則の策略と一夜城の実態

福島正則は、毛利陣営の混乱を見越して一夜城の建造を進めていた。この城は決して一夜で築かれたものではなく、二か月近く密かに準備されたものであった。谷間の陰を利用し、石垣を積み上げた上で、漆喰塗りに見せかけた外壁を設置することで、あたかも一夜で完成したように見せかけたのだ。

城の壁は、実際には静子が開発した石膏ボードで作られており、大砲の砲撃には耐えられないが、遠目には堅牢な城に見える工夫がされていた。建材は川根村で製造され、江の川を経由して運び込まれた。毛利陣営の視界に入らないよう細心の注意が払われていた。

毛利軍の攻撃と一夜城の防衛

毛利軍は、一夜城の規模を把握するため、まず二百の兵を送り込んだ。城の基部に到達すると、しっかりと積まれた石垣を目にし、これが単なる急造の城ではないことを悟った。しかし、情報を得るためにさらに二十名の兵を派遣すると、城から降り注ぐ石によって半数が負傷し、撤退を余儀なくされた。

続いて火縄銃と弓を用いた攻撃を試みたが、攻撃側が低地にあったため効果がなく、逆に城側の銃眼からの反撃を受けて撤退することとなった。この戦闘によって、一夜城はただの急ごしらえの建築物ではなく、本格的な防衛設備を備えた拠点であると確認された。

輝元の決断と一夜城の戦略的放置

毛利軍の攻撃が失敗に終わると、輝元は再び合議を開いた。最終的に、一夜城は放置する方針が採られた。理由として、城の規模が小さく、内部の兵数も五百を超えないと推測されたためであった。事実、福島正則が配置していた兵は三百に過ぎず、主力は川根村に滞在し、物資の輸送を担当していた。

輝元にとって、敵本拠地に少数の兵を置く戦略は理解しがたいものであったが、その意図を知るのはもう少し後のことであった。

秀吉本隊の進軍と山越えルートの開通

秀吉の本隊は出雲国から南下し、開通した山越えルートへと進んでいた。このルートは、砕石を撒いた簡素なものではあったが、従来の山道に比べれば格段に移動しやすかった。

秀吉は、明智光秀よりも先に高小屋城(毛利側の呼称)へ入ることを望んでいたが、軍の進軍速度や兵站の問題から、大砲の輸送が間に合わない可能性を懸念していた。しかし、毛利側に対して心理的な圧力を与えることができれば、城を落とす必要はないと考えていた。

一夜城は毛利の注意を引きつけるための囮であり、毛利側に「放置しても問題ない」と思わせることが狙いであった。その間に、外壁の石膏ボードをコンクリートに置き換える計画が進行しており、最終的には堅牢な城へと変貌する算段であった。こうして、吉田郡山城攻めの幕が切って落とされた。

奥州の戦況と伊達・最上の戦い

西国での戦局が激化する一方、奥州では伊達と最上の戦いが続いていた。この戦争は、織田家の威光により他の勢力の介入が許されず、完全な一対一の戦いとなっていた。しかし、最上家は内部に親伊達派を抱えており、劣勢を強いられていた。

この戦いの勝敗は、どちらかが降伏を宣言した時点で決着する運命にあった。織田家の介入を恐れ、長期戦を避けるため、両家とも慎重な戦いを続けていた。

宇喜多直家の決断と明智軍への接触

備前国では、宇喜多直家が動きを見せていた。彼は織田家との和睦を目指し、自らの命を代償に有利な条件を勝ち取ろうと決意していた。嫡男・秀家に家督を譲ると、自身は忍山城へ移り、明智軍に臣従の意を伝えた。

直家は、明智軍に対し「宇喜多家は織田家に従うが、これに反対する直家を追放した」との書状を送った。つまり、直家が明智軍に危害を加えたとしても、宇喜多家は関与しないという立場を取ることで、織田家への臣従を確実なものにしようとした。

光秀の判断と浦上の動向

明智光秀は宇喜多家の申し出を受け、信長の判断を仰ぐことを決定した。しかし、直家という謀略に長けた人物が独立勢力となったことに警戒を抱いた。

一方で、敗走した浦上宗景は、光秀に挟み撃ちにされることを恐れ、宇喜多と手を結ぶことを模索した。しかし、直家は明智軍への臣従を優先し、浦上と手を組むことを拒絶。孤立した浦上は天神山城へと籠城し、明智軍の動向を探ることとなった。

光秀は浦上を深追いせず、西へと進軍を続けた。その結果、浦上は備中へ向かい、再び直家と交戦する可能性が生じることとなった。こうして、西国と東国での戦局がそれぞれの局面を迎える中、織田軍の勢力は着実に拡大していった。

千五百七十九年十月中旬  二

秀吉軍の進軍と吉田郡山城の包囲

秀吉軍本隊は中国山地を越えて川根村へ到達し、江の川を利用して毛利軍に妨害されることなく高小屋城へ合流した。総勢二万を超える大軍を抱えた秀吉軍は、部隊を分割しながら進軍を開始し、まずは柿原城を攻め落とした。最新式の連発銃を備えた兵の活躍により、地理的優位を持つ籠城側の毛利軍を圧倒し、次々と支城を制圧していった。

その後、秀吉軍は南へ進軍し、釜ヶ城、長見山城、中山城、高塚山城を陥落させた。これにより、わずか三日で吉田郡山城の東側の支城群を手中に収め、包囲網を完成させた。

秀吉の戦略と毛利軍の心理戦

吉田郡山城の周辺を制圧した秀吉は、次なる戦略を練り始めた。勢いに乗じて総攻撃を仕掛けるのではなく、あえて動きを止めることで毛利軍を揺さぶる策を講じた。毛利軍が籠城を続けるか打って出るかを決断できずにいる間に、彼らの士気を削ぎ、動揺を誘う意図であった。

また、秀吉は単に勝つだけではなく、信長の関心を引くための「遊び」を仕掛けることを考えていた。単なる正攻法では信長の印象に残らず、手柄を光秀と分け合うことになるため、敵を挑発するような策が必要と考えたのである。

毛利軍を揶揄する支城制圧作戦

秀吉は、毛利軍の士気をさらに削ぐため、吉田郡山城を攻める前に西側の支城もすべて落とす作戦を立てた。すでに東側の支城を制圧したことで、毛利軍はすでに追い詰められていたが、さらに退路を断つことで精神的な圧力をかけることが狙いであった。

秀吉軍は南北に部隊を分け、南側は高塚山城から田淵ヶ城を経由し、青山城、光井山城を攻略するルートを進んだ。一方、北側は安芸宮崎城、船山城を攻め落とし、包囲網を強化していった。

この間、毛利軍は合議制の弊害によって迅速な決断ができず、各支城の奪回や総力戦に踏み切ることなく、次々と拠点を失っていった。結果として、毛利軍は完全に孤立し、籠城戦を続ける以外の選択肢を失うこととなった。

秀吉軍の警戒と毛利軍の不可解な沈黙

吉田郡山城の周辺の支城がすべて落ちたにもかかわらず、毛利軍は積極的な反撃に出ることはなかった。この不可解な態度に秀吉軍の軍師たる黒田官兵衛と竹中半兵衛は警戒を強めた。

官兵衛は、毛利軍が何らかの隠された策を持っているのではないかと疑い、斥候を増やして毛利軍の動向を探ることを決めた。籠城を装いながら密かに脱出し、外部の支城と連携して挟み撃ちを狙う可能性や、冬の到来を待って秀吉軍の撤退を誘う戦略も考えられた。しかし、決定的な証拠はなく、毛利軍の真意を読み取ることはできなかった。

宇喜多直家の決意と最期の戦い

一方、備前国の宇喜多直家は、毛利の敗北を確信していた。瀬戸内海戦や吉井川の戦いを経て、織田軍の戦術が戦国時代の常識を覆すものであることを肌で感じ取っていた。彼はこれまでの謀略に満ちた人生を振り返り、自身の最期を迎えるにふさわしい戦場を求めていた。

直家は、織田軍に降る道もあったが、矜持を捨てて生きるよりも、明智軍との戦いで散ることを選んだ。自ら槍を手に取り、己の生涯の締めくくりとなる戦場へ向かう決意を固めた。

こうして、西国の戦局はさらに激化し、吉田郡山城を巡る攻防戦の幕が上がろうとしていた。

千五百七十九年十月下旬

宇喜多直家の奇襲と明智軍の苦戦

明智光秀は、宇喜多直家をただの謀略家と見なしていたが、その戦術は予想をはるかに超えていた。備中国の街道を進軍中、直家自らが率いる部隊が突如奇襲を仕掛けた。花房正幸の弓、遠藤兄弟の鉄砲が猛威を振るい、明智軍は大きな損害を受けた。奇襲後、直家の部隊は即座に撤退し、明智軍は反撃の機会を持たぬまま翻弄された。

その後も直家は執拗に奇襲を続けた。明智軍も対策を講じ、どの方向から攻撃を受けても反撃できる体制を整えたが、それでも消耗は避けられなかった。最終的に直家の兵は激減し、奇襲を継続できる戦力を失った。

直家の最期の決戦

直家は最後の戦いを決意し、老臣たちだけを残して若者を退かせた。岡利勝、戸川秀安、延原景能ら忠臣たちは、直家の覚悟を受け入れ、共に討ち死にする覚悟を固めた。彼らは忍山城を決戦の地と定め、明智軍を待ち受けた。

忍山城の大手門は開け放たれ、誘い込むような構えを見せた。光秀は罠を警戒し、砲撃を命じたが、その瞬間、直家の騎馬隊が大手門の陰から突撃を仕掛けた。しかし、光秀もこれを予期しており、鉄砲隊を待機させていた。乱戦となり、多くの直家の兵が討たれたが、直家自身はなおも戦い続けた。

直家の壮絶な最期

直家は敵兵を蹂躙しながら光秀の本陣へと迫った。しかし、明智軍の迎撃は苛烈を極め、直家と延原は落馬し、重傷を負った。それでも直家は立ち上がり、最後の一撃を狙って突撃を試みたが、明智軍の包囲を突破することは叶わなかった。

彼は最後の抵抗として敵兵に小便を引っ掛け、挑発した後、槍に貫かれて果てた。直家の死を見届けた延原もまた、狙撃によって命を落とした。

浦上宗景の降伏と光秀の進軍

宇喜多直家の討ち死にを知った浦上宗景は戦意を喪失し、明智軍への降伏を決意した。彼にとって直家は憎むべき仇でありながら、同時に強烈な存在であった。その直家があっけなく討たれたことで、戦への執着も消え去った。

光秀は予想外の大打撃を受けたが、浦上の降伏によって戦線の整理を進めることができた。補給を受けた後、彼は秀吉に遅れを取りながらも西へと進軍を開始した。

千五百七十九年十一月上旬

毛利両川の進言と輝元の葛藤

毛利輝元は、小早川隆景と吉川元春から織田方と和睦すべきとの進言を受けた。吉田郡山城の支城はすべて陥落し、援軍の望みもなく、降雪まで耐えるには時間がありすぎた。激昂した輝元は二人を斬ろうとするが、冷徹な元春の言葉により冷静さを取り戻した。

宇喜多直家は討ち取られ、浦上宗景も織田に降った。西国の独立勢力が相次いで消滅する中、輝元は毛利の行く末を案じた。だが、決断を下せず、時を引き延ばしていた。

秀吉の喜悦と明智軍の遅れ

一方、秀吉は明智軍が間に合わないという報告を受け、快哉を叫んだ。宇喜多直家の奮戦により光秀の進軍が遅れ、秀吉は単独で毛利と決着をつける機会を得た。

本来、一夜城こと高小屋城は光秀の大砲部隊と連携し、砲撃戦によって毛利の戦意を挫く予定だった。しかし、計画が変わり、秀吉は調略や心理戦で毛利を追い詰める必要に迫られた。それでも信長から直々に称賛を受けたことで機嫌は良かった。

突如として始まった砲撃

ある朝、輝元は轟音と地震のような揺れで目を覚ました。飛び出した先で目にしたのは、黒煙を上げて炎上する食料庫だった。驚愕する輝元は、高所に上って敵の動きを探るが、攻撃地点は見当たらない。

次の砲撃が放たれた瞬間、輝元は一夜城の射撃場から炎が噴き上がるのを目撃した。秀吉軍は、福島の機転により、播磨から修理中の艦載砲を運び込み、砲撃を敢行したのだった。砲弾は毛利の食糧庫、物見櫓、城壁を直撃し、短時間で毛利の士気を打ち砕いた。

この砲撃により、輝元の矜持は完全に折れた。彼は膝をつき、「もはやこれまで」と呟き、織田への降伏を決意した。

和睦の成立と毛利の屈服

秀吉は、毛利降伏の報を受けても浮かれず、迅速に和睦交渉を進めた。和睦条件は、毛利家の存続を認めるものの、完全に秀吉の支配下に置くという内容であった。

福島の機転による大砲の運用は効果的であったが、兵士たちの未熟さから負傷者が続出し、改めて大砲の運用の難しさを思い知ることとなった。秀吉は、大砲の重要性を再認識し、今後の軍備に取り入れる意向を示した。

秀吉は、毛利家を代官として安芸に留めつつ、福島を監視役として派遣し、西国の安定化を図った。毛利家には一定の裁量を与えるが、織田に反抗すれば即座に粛清される立場となった。

秀吉の帰還と元服式の準備

和睦が成立し、秀吉はただちに京へ向かう準備を進めた。彼の最大の懸念は、静子の後継者たる四六の元服式に遅れず参列することであった。

京には多数の参列者が集まるため、宿泊地の確保が急務であった。秀吉は京入りを急ぎ、良い宿を押さえようとした。警備には静子の軍が動員され、京の治安は万全であった。

天下統一への道

毛利の降伏により、西国は完全に織田の勢力圏となった。信長はもはや名実ともに天下人であり、朝廷も織田に逆らう余地を失った。

信長は静子の邸を訪れ、天下統一の達成を静かに喜んでいた。彼は、朝廷や旧勢力の動きを見極めつつ、新たな秩序を築く準備を進めていた。

信長は毛利の屈服を高く評価したが、同時に「猿の手柄が大きすぎる」と警戒していた。秀吉の勢いは今や無視できぬ存在となり、信長の目には、彼をどのように制御するかという新たな課題が映っていた。

巻末 S S  特注布団一式

信長の特注布団の完成

静子はかつて信長から受けた「最高級の布団一式」の発注書を手にし、その完成を懐かしんでいた。この布団の製作には一年の歳月を要した。信長が以前使用していた布団は尾張産の木綿を詰めた一般的なものであったが、今回の特注品は全く異なる仕様となっていた。

敷布団は三層構造とし、第一層と第三層には真綿を使用した。真綿とは繭をそのまま引き延ばして作られたもので、何百層にも重ねて厚みを出した。芯材には羊毛を採用し、温かさと吸湿性を確保した。この三層をそれぞれ独立した包装にすることで、洗濯時の問題を回避する工夫も施された。

掛け布団には、厳選された極細の木綿糸を使用した最高級の側生地を採用した。詰め物には天然ダウンのみを使用し、羽毛のような軽さと優れた保温性を実現した。さらに冬用の毛布には希少なカシミアを用い、滑らかで温かい肌触りを追求した。この純カシミア毛布は試作品として静子自身が使用し、正式仕様の第一号は信長のもとへ届けられた。

枕にも同様のこだわりが注がれた。信長の髪型が茶筅髷であるため、沈み込む柔らかな枕が適していた。三層構造を導入し、上下にグースダウン、芯材には高品質のダウンを使用することで、極上の寝心地を提供する枕が完成した。

信長の絶賛と布団の威力

信長はこの特注布団を使った翌朝、極上の睡眠を体験したことを静子に伝えるべく、彼女を安土城へ呼び寄せた。彼は布団の柔らかさ、掛け布団の軽さ、枕の包み込むような感触に驚嘆し、「天上の心地であった」と評した。

掛け布団の軽さは従来の綿布団とは比べ物にならず、身体への負担がなくなったと実感していた。さらに、枕の絶妙な沈み込み具合が頭部を支え、心地よい眠りへと導いた。結果として、信長は目覚めの爽快さを実感し、普段の起床時に感じる倦怠感が一掃されていた。

この布団一式を献上した静子と関係者には、信長より褒美が与えられた。以来、信長はこの布団を持ち歩くようになり、遠征先でも専用の世話係に清掃を担当させるほどの愛用品となった。

湯たんぽの普及と改良

信長は布団の心地よさに満足しつつ、寒冷な夜に対策を求めた。静子が使用していた湯たんぽを見つけると、自身用に作るよう要求した。尾張ではすでに普及していたが、越後や奥州などの寒冷地では垂涎の的となり、特に上杉家や伊達家の領内では飛ぶように売れた。

しかし、初期の湯たんぽには問題点があった。樹脂製は軽量で丈夫だが保温性が低く、朝には冷たくなってしまう。そこで、陶器製の湯たんぽが開発された。これにより朝まで温かさが持続するようになったが、陶器製ゆえに割れやすいという新たな課題が発生した。

濃姫がこの湯たんぽに興味を示し、さらなる改良を求めた。結果として、内部を鏡面仕上げにした魔法瓶のような湯たんぽが開発された。これにより、長時間の保温が可能となり、特に寒さが厳しい地域での評価が高まった。

信長の自慢と特注布団の波紋

信長は極上の寝具に感動し、各方面に自慢し続けた。その結果、公家や武家、さらには仏家からも同様の寝具を求める声が殺到した。特に近衛前久からの問い合わせを皮切りに、静子のもとには寝具の注文依頼が山のように届いた。

しかし、この特注布団は大量生産が困難であり、製作には時間と労力を要する。さらに、信長が持ち歩くことで清掃の問題も発生し、羊毛部分の定期的な洗濯が必要となった。

静子はこれらの要望に応じきれず、布団の供給を制限することを決断した。濃姫からの特注湯たんぽも完成し、それを送ったことで一段落したかに思えた。しかし、これを契機に貴族層の女性たちから、さらに大量の注文が押し寄せることとなった。

巻末 S S  福利厚生

静子邸の福利厚生と特別な酒

静子邸では、当時としては珍しい福利厚生が提供されていた。徒弟制が主流の時代にあって、特に食に関する手当が手厚くなっていた。これは、静子が現代的な価値観を取り入れた結果である。尾張は静子の政策によって食糧が豊富であったが、それでも飢饉の可能性は否定できなかった。そのため、特別な時にのみ食料を配るのではなく、常に保存の利く食料や調味料を支給する形で対策を講じていた。

この中でも最も人気があったのは酒であった。静子邸の酒蔵には、一般人が購入できる酒から、金を積もうが手に入らない逸品までが揃えられていた。そのため、「静子邸に無い酒は日ノ本に存在しない」と豪語できるほどの品揃えを誇っていた。しかし、酒には飲み頃があり、常に適量を確保するために余剰が発生していた。そこで、余った酒は福利厚生の一環として家人たちに振る舞われることがあった。

振る舞い酒をめぐる酒飲みたちの結束

この福利厚生は静子の善意によるものであり、法で定められたものではなかった。そのため、行状が悪い者には制限が加えられることもあった。特に、酒を好む者たちは、この特権を失うことを恐れ、半年に一度行われる人事考課の時期が近づくと、互いに励まし合いながら慎重に行動するようになった。

問題を起こせば連帯責任で振る舞い酒が減らされるため、彼らの結束は自然と強まった。あの荒事を好む長可ですら、この時期になると喧嘩の当事者にならぬよう振る舞い、治安部隊に酔漢を引き渡すほどであった。こうして考課日が近づくにつれて、酒飲みたちは日に日に緊張感を高め、前日には殺気立つほどの真剣さを見せるようになった。

一方で、静子は「市場へ払い下げればよいのではないか」と提案したが、彼らは「特別な酒を自分たちだけが飲めることに意味がある」と主張し、反対した。かつて振る舞い酒を餅に変えようとした際も、多くの反対意見が寄せられ、頓挫したことがあった。

静子の決断と酒飲みたちの動揺

静子は、新設した醸造所の献上品が増えたことで酒の保管場所を確保する必要があった。そのため、振る舞い酒の量を増やすか減らすかを考えていた。彼女が「酒の減りが早い」と口にした途端、心当たりのある酒飲みたちは青ざめた。さらに、「酒量が増えれば健康に悪い」との発言に、戦々恐々としながら神仏に祈る者まで現れた。

しかし、静子は「仲間意識を醸成するには酒宴も重要」と考えを改め、慎重に判断を下すことにした。だが、彼女が思案するたびに酒飲みたちは固唾を飲んで見守り、密かに耳をそばだてていた。

やがて静子は、「酒飲みたちの気持ちが分からないので、越後の者に聞いてみるのが良い」と考えたが、彼らがただ酒を増やすよう求めることは明らかであった。結局、彼女の思考は二転三転し、酒飲みたちを不安に陥れた。

静子の策略と酒飲みたちの反応

静子は毎年のことながら、人事考課前になると酒飲みたちが過剰に気を配る様子に気付いていた。彼女の呟きに一喜一憂する彼らの反応を楽しみつつ、冷静に判断を下していた。最終的に彼女は、「振る舞い酒の量を昨年の1.5倍にする」と決定したが、その結果を公表することはなかった。

書類に記載した後、それを懐へと仕舞い、決して口にはしなかった。その瞬間、遠くで小枝を踏む音がしたが、すぐに静寂に紛れた。盗み聞きをしていた者たちは、その決定が明かされなかったことに焦りを覚えたであろう。

静子は「明日が楽しみだ」と微笑み、彼らの反応を期待していた。

特別書き下ろし 一番の贅沢

静子邸における彩の立身出世

静子邸では、出自に関係なく成果が評価される仕組みが徹底されていた。その象徴とも言えるのが彩であった。彼女は戦乱によって親族を失い、孤児として浮浪する身となった後、間者として拾われた過去を持つ。もし静子のもとへ下働きとして派遣されていなければ、厳しい任務により命を落とすか、汚れ仕事に手を染めるしかなかったであろう。

しかし、静子邸に仕えることで彼女の運命は大きく変わった。尾張という日ノ本でも屈指の領国を治める静子のもとで、彩は資産管理という重要な役割を担うまでに出世したのである。この成功に関して、彩自身は「静子の引き立てがあってのこと」と述べていたが、周囲は単なる幸運とは見なしていなかった。静子は一度信頼した者には寛容であったが、職務に関しては情を挟まず厳格な基準を設けていた。特に、領国全体に影響を及ぼしかねない要職には慎重な人選がなされており、彩が金庫番を任されたのは、その実力を認められた結果であった。もし彼女が静子の庇護に甘え、傲慢な振る舞いを見せていれば、とうの昔に粛清されていたであろう。

贅沢になった食事と孤独な時間

彩は目の前の食事を見つめながら、過去の自分がこの光景を見たら驚くであろうと考えていた。炊き立ての白米に味噌汁、主菜や副菜、香の物まで揃った食卓は、かつての彼女には夢物語のような贅沢であった。かつて間者として生きていたならば、一生に一度食べられるかどうかというほどの豪華な食事である。しかし、その贅沢に慣れてしまった今、彼女は別のことに気付いた。

それは、食事の場に誰もいないことへの寂しさであった。静子邸では「食事は皆で取る方が美味しい」という考えのもと、特別な事情がない限り、共に食事をすることが掟とされていた。しかし、その日は彩が一人で膳を囲んでいた。どれほど豪勢な料理でも、静寂の中で食すことに彩は物足りなさを感じていた。

静子とのひととき

その時、食堂に静子が姿を現した。彼女は広々とした空間の片隅で一人食事をしている彩を見つけると、驚いた様子を見せた。そして、彩に向かって「お茶を淹れてくるから話をしよう」と提案し、自ら台所へ向かった。

関東管領という要職にありながら、静子は手慣れた所作で盆に急須と茶碗を載せ、再び戻ってきた。そして、茶碗を彩に手渡すと、自らも熱い茶を啜りながら世間話を始めた。

彩はそんな静子の姿を見て、ふと微笑んだ。先ほどまで味気なかった食事が、一変して温かみのあるものに感じられたからである。とりとめのない会話が、何よりも心を和ませる時間であった。

前巻 index 次巻

同シリーズ

戦国小町苦労譚 シリーズ

小説版 

16831008da18c6a52c262fb64cf84eb3 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 1 邂逅の時
1904e5219ec41934538f8f054b816e9c 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 2 天下布武
c092ace1113dc682b0f83ca211a5f4bf 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 3 上洛
rectangle_large_type_2_5a0df364452683e0ceca70553ea84a1b 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 4 第一次織田包囲網
rectangle_large_type_2_f75b5ff833e11da60d0ef594629b903d 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 5 宇佐山の死闘と信長の危機
f5fc449fc596351a7dfa7730dc78785b 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 6 崩落、背徳の延暦寺
bd87160dd6d906a0d09f472f74d41387 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 7 胎動、武田信玄
57e1e45255ee85bae70d41ed67749042 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 8 岐路、巨星墜つ
7d140e55d6313697a6b86057057cc2aa 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 9 黄昏の室町幕府
8c0b592f7aa9cf32db78ddc6480d4782 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 10 逸を以て労を待つ
b0410dfbc5bb24c9b3fdac3dd5cfe4e4 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 11 黎明、安土時代の幕開け
9fe3367421971db046a8e85f7e54dbfe 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 12 哀惜の刻
420e92735b61225e34ff6e5c20f32cae 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 十三、第二次東国征伐
41b5e0d46ecfa84a9b1180c893428c4b 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 14 工業時代の夜明け
fb510b847c8885c0bb0d420e31d4adb3 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
『戦国小町苦労譚』15
e858ab7af9cb5c16bea886d6172570d0 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
『戦国小町苦労譚』16
70c1b957fbc3a829f9396562ccd52432 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
『戦国小町苦労譚』17
39470e276adb28e3eb298ca756fb35d0 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
『戦国小町苦労譚』18

漫画

5b798ba6e26cf0f63d418e560aebe9ff 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 11巻
8AEE3C2E-FE32-450F-8B87-DC3993C0DF73 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
漫画「戦国小町苦労譚 越後の龍と近衛静子 12巻」
c147522211db0f8bb6416fe583acf3d9 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 乱世を照らす宰相 13
f9fbedaf604c364ff633fb883e64b97a 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 乱世を照らす宰相 14
dd2f2ceb6c6843cae1afc33450cdd16a 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 治世の心得(15)
6b2924235ba11b60284547fa2683e9d8 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 忍び寄る影 16
c25e4865a41593358671acab16bbe005 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
戦国小町苦労譚 忍び寄る影 17

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「戦国小町苦労譚 十八(18) 西国大征伐」感想・ネタバレ
フィクション(novel)あいうえお順

小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレ

どんな本?

『ソードアート・オンライン オルタナティブ グルメ・シーカーズ』は、VRMMO《ソードアート・オンライン(SAO)》の世界を舞台に、料理をテーマとしたスピンオフ作品である。ゲーム初心者の姉弟、ユズとヒナは、VRMMOでの料理体験を目的に《SAO》へログインするが、不運にもゲーム内に閉じ込められてしまう。二人は「アインクラッド攻略には興味ありません! 食堂の開業を目指します!」と宣言し、料理スキルを極めることを決意する。同じく料理好きなプレイヤーたちとともに《食の探求団》というパーティーを結成し、美味な食材やレアな調理器具を求めてクエストをこなしたり、現代日本の料理再現に挑戦したりと、料理に特化した日々を過ごす。やがて、屋台をオープンし、創意工夫を凝らしたメニューで攻略プレイヤーたちの胃袋を掴んでいく。本作は、デスゲームという過酷な状況下でありながら、料理を通じて《SAO》の世界を新たな視点で描いており、グルメ要素と冒険が融合した魅力的な物語となっている。

主要キャラクター
• ユズ:姉弟の姉であり、現実世界では大手飲食チェーンの社員。料理への情熱を持ち、ゲーム内でも料理スキルを追求する。
• ヒナ:ユズの弟で、高校生。姉とともに料理スキルを磨き、食堂の開業を目指す。
• ロック:現実世界ではグルメレポーターを務める初老の男性。豊富な知識と経験で《食の探求団》をサポートする。
• チェリー:パート兼業主婦で、スーパーの総菜売り場で働いている。家庭的な料理の腕前を活かし、パーティーに貢献する。

出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2024年10月17日
• 判型:B6判
• ページ数:332ページ
• ISBN:9784049158281

2024年9月17日からはコミカライズ版も連載中であり、漫画家・可山コロネ氏が作画を担当している。

読んだ本のタイトル

ソードアート・オンライン  オルタナティブ グルメ・シーカーズ 2
著者:Y. A 氏
イラスト:長浜めぐみ  氏
原案・監修:川原礫 氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

《SAO》世界でのグルメ探求を描く新スピンオフ、第二層・第三層に到達! VRMMOでの料理を体験してみたかっただけなのに、運悪く《ソードアート・オンライン》に閉じ込められてしまったゲーム初心者の姉弟、ユズとヒナ。同じく料理好きなプレイヤーとともに《食の探求団》を結成し、料理を極めていくことに。
 牛がテーマの第二層では、ライバルプレイヤーと牛肉料理対決! 第三層では、エルフ戦争キャンペーン・クエストに挑戦……と思いきや、エルフと一緒にレア食材を採集&料理で後方支援!?
 SAO攻略より、料理がしたい! そんな料理人プレイヤーのまったりグルメ探求ライフ、第二弾!

ソードアート・オンライン  オルタナティブ グルメ・シーカーズ 2

ステーキ戦争とウルバスでの営業
第二層では牛肉を使ったステーキが流行していた。食材の入手が容易で、料理スキルが低くても作りやすい点が人気の理由であった。しかし、見た目で味の差が分かりづらく、質の低い料理でも一定の売り上げが確保できる状況にあった。食の探求団は《ウルバス》を拠点とし、競争の激しい環境で生き残るために、独自のメニュー開発に力を入れていた。《エブリウェア・フードストール》を活用し、新たな商品を展開することで売り上げを伸ばしていく。

新メニュー開発と料理人プレイヤーの課題
ロックは《トレンブリング・オックス》の肉を使った《牛串》を開発し、手軽に食べられるよう工夫した。一方、チェリーは《マリトッツォ風牛乳クリームパン》を考案し、女性プレイヤーに好評を博した。ステーキ以外の料理を提供する店は少なく、競争が激しくなっていた。しかし、戦闘プレイヤーが料理の知識を持たないため、食の探求団の多様なメニューは容易に真似されることはなかった。

ハンバーグ戦争と新たな挑戦
第二層ではハンバーグが流行し、多くの屋台が「牛肉100%」を売りにしていた。しかし、肉の処理技術が未熟なため、筋の多い仕上がりとなり、味にばらつきがあった。優月たちはパン粉や牛脂を適切に配合し、《肉汁ハンバーグ》を完成させる。これにより、食の探求団の屋台には長蛇の列ができた。さらに、チーズを練り込んだ《チーズイン肉汁ハンバーグ》が登場し、圧倒的な人気を獲得する。

グルメギャング団との料理勝負
グルメギャング団が登場し、食の探求団に料理勝負を挑んできた。彼らは最高級の食材を使った《至高のステーキ》で挑むが、優月たちは《牛汁》と《牛モチ麦雑炊》を提供し、満足感で勝負を制する。さらに、売り上げ対決では新たな戦略としてシュラスコ食べ放題を導入し、逆転勝利を収める。これにより、高級食材に頼るだけの料理では勝てないことが証明された。

ダークエルフとの交流と新たな食材
探求団はダークエルフと接触し、《デッドオアアライブマッシュルーム》の識別方法を学ぶ。《翡翠の秘鍵》クエストを通じて補給部隊と関わり、料理を提供することで関係を深めていく。特に、ソンバルト隊長との交流が進み、士気向上のための料理を依頼される。これに応え、《大人のお子様ランチ》を開発し、戦場の食事事情を改善していく。

第三層の突破と新たな料理の挑戦
第三層へ進んだ探求団は、新たな料理の開発に励む。炭酸水を利用したコーラ、モッツァレラチーズを活用したピザなど、新たなメニューが次々と生み出される。グルメギャング団も再び台頭し、ズムフトで料理勝負が繰り広げられる。最終的に、《真・大人のお子様ランチ》が勝利を収め、探求団の料理がズムフトのプレイヤーに広く認知されることとなる。

感想

グルメギャング団の変化
最初はただの嫌味なライバルであったカポネ率いるグルメギャング団が、物語が進むにつれて成長し、真剣に料理に向き合う姿が印象的であった。
特に、カポネが料理の本質を理解し始め、食材や技術を磨いていく様子は興味深かった。

料理勝負の工夫と戦略
単なる食材の質ではなく、調理技術や工夫が重要であることが強調されていた。
《至高のステーキ》に対して《牛汁》で勝利するなど、料理の奥深さが描かれていた点が魅力的であった。
また、戦闘ではなく料理で勝負が決まる展開も新鮮で、グルメ系VRMMO作品としての個性を確立していった。

ダークエルフとの交流がユニーク
ダークエルフとの関係が、ただのクエストではなく、料理を通じた文化交流のように描かれていた点が良かった。
彼らが警戒心を解き、料理を通じて信頼を築いていく過程が丁寧に描かれており、戦闘主体のSAOシリーズとは異なる魅力があった。

道具や調理スキルの重要性
無愛想な鍛冶屋が作った《プロフィシェンツ・キッチンナイフ》のエピソードが印象に残った。
料理の成功には技術だけでなく、道具の質も重要であることが示され、料理人プレイヤーならではの苦労が伝わってきた。

最終的な料理勝負の決着
《真・大人のお子様ランチ》が、ただの派手な料理ではなく、工夫と技術の結晶として描かれていた点が良かった。
最終的に、探求団がズムフトでの地位を確立し、安達食堂復活に向けて一歩前進する展開は、読後感が良かった。

本作は、戦闘ではなく料理を中心にした異色のVRMMO作品であり、プレイヤーたちが生き抜くために試行錯誤する姿が魅力的に描かれていた。
次巻では、第四層での新たな料理探求がどのように展開されるのか、引き続き期待したい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

備忘録

プロローグ 牛肉料理

ステーキ料理の流行とその理由

第二層では、多くの料理人プレイヤーがステーキを提供していた。理由は、牛肉が手に入りやすく、料理スキルの熟練度が低くても作りやすいためである。さらに、パンやスープなどをセットにすることで価格を高く設定できる点も魅力だった。しかし、味の差が見た目では分かりにくいため、料理スキルが低いプレイヤーでも一定の売上を見込める状況だった。

新たな拠点《ウルバス》での営業

主人公たちは第一層を脱し、巨大なテーブルマウンテンに築かれた街《ウルバス》を拠点としていた。ここでは料理人プレイヤーが増加し、商売の競争が激化していた。彼らは限定クエストで入手した《エブリウェア・フードストール》を活用し、売り上げを伸ばしていた。一方、他の料理人プレイヤーは屋台を利用していたが、移動の負担が大きいため、戦闘力のない料理人にとっては大きな課題となっていた。

新メニュー《牛串》の開発

ロックが新たに開発したのは《トレンブリング・オックス》の肉を使った《牛串》である。彼は、強化した包丁を用いて丁寧に筋切りを施し、食べやすい大きさにカットした。炭火で焼き上げることで、手軽に食べられる料理として提供することにした。肉の硬さは若干残るものの、価格を抑えたことで客の評価は上々であった。

デザート《牛乳クリーム》の工夫

チェリーは、新たなデザートとして《牛乳クリーム》を開発した。《トレンブリング・カウ》のミルクが入手困難なため、ゼラチンを活用して生クリームに近い食感を再現し、黒パンに詰め込んだ《マリトッツォ風牛乳クリームパン》を販売した。この商品は、甘い物を求めるプレイヤーたちに好評であり、特に女性プレイヤーや酒を飲めない者たちに人気を博した。

料理の多様化と競争の課題

多くの料理人プレイヤーはステーキ以外の料理を提供せず、競争が激化していた。その原因として、彼らが元々戦闘を主体としたプレイヤーであり、料理の知識が乏しいことが挙げられた。一方、主人公たちは現実世界での料理経験を持ち、それを活かして多彩な料理を提供していた。そのため、他のプレイヤーが容易に真似できる状況ではなかった。

次なる挑戦と料理の試作

主人公たちは、料理の幅を広げるために新たな牛肉料理の開発を決意した。ステーキに依存しないメニューを考案することで、競争に勝ち抜く戦略を立てていた。また、料理人プレイヤーたちに宣戦布告をしてきた《グルメギャング団》の存在もあり、さらなる発展が求められていた。

第一話 トレンプル・ショートケーキ

夜のウルバスと食の探求

屋台の営業を終えた一行は、《エブリウェア・フードストール》を片付け、常宿へ向かっていた。しかし、リーダーである姉は、突如《トレンブル・ショートケーキ》を食べると宣言し、目的地を変更した。ウルバスの夜は賑わっており、ロックは飲食店の調査をしながら歩いていた。優月は節約を考えていたが、姉の決定には逆らえず、レストランへと向かうことになった。

新しい料理のアイデアとショートケーキ

姉は、他の料理人プレイヤーが料理のレパートリーを増やし始めることを警戒し、自分たちも新しい料理を開発する必要があると主張した。そのための「インプット」として、《トレンブル・ショートケーキ》を食べることを決めた。優月はデザートが新しい料理のヒントになるとは思えなかったが、チェリーも賛成し、最終的に一行はレストランへ入ることになった。

巨大なショートケーキと試食

レストランのメニューには高価な《トレンブル・ショートケーキ》が載っており、優月は一つをシェアしようと提案したが、姉は人数分を注文した。運ばれてきたケーキは巨大で、生クリームと果物が山のように盛られていた。優月は見た目に圧倒されつつも試食し、甘さが絶妙で食べやすいことを認めた。しかし、量が多く、後半は満腹との戦いとなった。ロックは甘いものが苦手で、ほとんど手をつけられず、彼の分は優月が食べることになった。

バフの発見と新たな試み

ショートケーキを食べ終えると、《幸運判定ボーナス》のバフが付与されたことが判明した。姉とチェリーはこのバフを活用し、レア食材を使った料理の試作を決定。宿に戻るのではなく、《エブリウェア・フードストール》を展開し、即座に調理を開始した。

《焼き小籠包》の成功

今回試作するのは、過去に何度も失敗していた《焼き小籠包》であった。チェリーが生地を作り、姉が猪肉の餡を練り、ゼラチンを使ったスープを封入した。バフの効果もあり、焼き上がった小籠包はスープがたっぷり詰まった理想的な仕上がりとなった。一行はその熱々の味を堪能し、これまでの苦労が報われた瞬間を喜んだ。

新たな肉料理の着想

姉は《焼き小籠包》の成功をもとに、新しい肉料理のアイデアを思いついたと宣言した。優月は、ショートケーキではなく小籠包からヒントを得たことに驚きつつも、新たな料理の開発に期待を寄せた。こうして一行は、新たな挑戦へと踏み出したのである。

第二話 ハンバーグに必要なもの

ハンバーグの流行と料理人たちの苦悩

ウルバスのメインストリートには料理人プレイヤーたちの屋台が並び、かつてはステーキ一色であったが、売り上げが分散したため、新たなメニューとしてハンバーグが登場した。しかし、どの屋台も「牛肉100パーセント使用」と謳っており、結果的に差別化には失敗していた。第二層が「牛エリア」と呼ばれるほど牛型モンスターが多いため、牛肉の希少性は低く、安価な肉を加工するための苦肉の策としてハンバーグが選ばれたようであった。

調理の困難さと屋台の問題点

ハンバーグのミンチ作りには手間がかかり、特に料理スキル熟練度の低いプレイヤーにとっては難易度が高かった。調理台にキッチンナイフをセットし、オート加工でミンチにすることは可能であったが、硬く筋の多い肉の処理には高度なスキルが求められた。実際、プレイヤーたちは頻繁にナイフを補修する必要があり、耐久度がゼロになりナイフを消滅させる者もいた。ハンドミルサーのない環境では、ハンバーグ作り自体が非常に厳しい状況であった。

試食とハンバーグの問題点

偵察のため、優月とチェリーはいくつかの屋台を巡った。どの屋台もハンバーグを提供していたが、ミンチ肉に必要なパン粉やタマネギを省略しているものが多く、焼き加減もバラつきがあった。中には焦がしてしまったものや、生焼けのまま提供されているものもあった。調理の難しさから、ハンバーグの出来はプレイヤーごとに大きく異なり、どの店も完成度の低いものを提供していた。

新たなハンバーグの開発

他店の偵察を終えた優月とチェリーは、姉とロックと共に自分たちの屋台で新メニューとしてハンバーグの試作を開始した。市場で仕入れた牛脂を加えることで肉の旨味を補強し、よりジューシーな仕上がりを目指した。パン粉やタマネギを適切に加え、フライパンで焼き固めた後、オーブンでじっくり火を通した。

肉汁溢れるハンバーグの完成

完成したハンバーグを切ると、中からたっぷりの肉汁が溢れ出した。他の屋台で提供されていたものとは一線を画し、柔らかくジューシーな食感であった。これまでの試作を活かし、成功した《肉汁ハンバーグ》を新メニューとして販売することが決定された。ロックが手書きのメニューを作成し、「新メニュー! 肉汁ハンバーグ」と大きく掲げた。

爆発的な人気と他の料理人たちの反応

昼食時、冒険者たちがメインストリートに戻ってくると、どの屋台もハンバーグを提供していたにもかかわらず、肉汁ハンバーグを売る優月たちの屋台に行列ができた。かつて他の屋台のハンバーグを試したプレイヤーたちは、パサついたり筋が残っていたりするハンバーグに不満を抱いており、「肉汁が出るハンバーグ」に強く惹かれたようであった。

さらなる工夫と競争の激化

姉とチェリーは、ハンバーグのトッピングとして目玉焼きを追加し、さらにウルバスで仕入れたチーズをハンバーグに練り込んだ《チーズイン肉汁ハンバーグ》を開発した。切ると肉汁と共にとろけたチーズが流れ出し、プレイヤーたちは大興奮した。ハンバーグとチーズ、目玉焼きの組み合わせは非常に人気を博し、高価格でも多くのプレイヤーが購入した。

新たな脅威《グルメギャング団》

優月たちの肉汁ハンバーグが大成功を収めるなか、陰では《グルメギャング団》と名乗る料理人プレイヤーたちが新メニューの準備を進めていた。彼らは、明日から自分たちが一番人気を獲得すると宣言し、食の探求団に対抗する構えを見せていた。競争の激化は避けられず、新たな展開が待ち受けていることは明白であった。

第三話 デュエルではなく、料理勝負を挑まれる

グルメギャング団の挑戦

肉汁ハンバーグの人気が続く中、グルメギャング団のカポネたちが再び姿を見せ、料理勝負を申し込んだ。しかし、優月たちは商売に忙しく、勝負を受ける余裕がなかった。姉のヒナも「売り上げを競うことこそが料理人プレイヤーの勝負」と断言し、勝負を受ける必要はないと判断した。グルメギャング団は不満を示したが、優月たちはあくまで商売を優先し、彼らの申し出を拒否した。

グルメギャング団のステーキ

それでもカポネたちは、食の探求団を超える料理を提供するべく準備を進めていた。彼らは高ランクの調理器具を揃え、希少な牛肉を手に入れ、料理スキル熟練度を上げていた。そして、シンプルながら上質なステーキを完成させ、優月たちに試食を勧めた。ナイフが滑らかに入るほど柔らかく、濃厚な旨味と上品な脂の甘さが広がるそのステーキは、これまで食べたどの肉よりも美味しかった。カポネは「料理は食材の質がすべて」と豪語し、最高の食材とスキルこそが料理の本質だと宣言した。

新たなライバルの脅威

翌日、グルメギャング団は《至高のステーキ》を販売し、冒険者たちの注目を集めた。高級な肉を使用したステーキは絶賛され、優月たちの屋台の売り上げは大幅に減少した。さらに、カポネは「《エブリウェア・フードストール》を譲るべきだ」とまで言い出したが、ヒナは即座に拒否した。常連客たちもグルメギャング団の要求を不当だと批判し、料理の種類が豊富な食の探求団の屋台の価値を擁護した。

カポネの過去と戦略

その夜、優月たちはケインたちと合流し、グルメギャング団についての情報を集めた。カポネは、洋食レストランの名門「三方亭」の創業家の孫であったが、仕事をせずゲームばかりしていたという。彼は《SAO》の攻略を目指したものの、第一層のボス戦を前に挫折し、新たな生き方として料理人プレイを選んだ。カポネは、現実では料理の腕はなかったものの、高品質な食材と効率的なスキル習得で、ゲーム内ではトップの料理人を目指していた。

料理勝負の決断

グルメギャング団の成功により、優月たちの屋台の売り上げはさらに落ち込んでいた。そんな中、カポネは再び料理勝負を持ちかけ、《エブリウェア・フードストール》を賭けるよう要求した。しかし、ヒナは即座に拒否し、ロックも「公平な賭けにならない」と異議を唱えた。カポネたちは全財産を賭けると主張したが、それでも対価としては釣り合わなかった。

ところが、挑発に乗せられたヒナは突如として勝負を受けると宣言した。優月たちは驚きつつも、新たな料理を考案し、グルメギャング団のステーキに対抗することを決意した。ヒナは「優月がたまに作る料理を再現すれば勝てる」と自信を見せたが、その料理が本当に勝てるのかは未知数であった。料理勝負の行方は、まだ見えなかった。

第四話 料理勝負開始!

料理勝負への準備

ヒナは、優月が過去に余った食材で作った料理で勝負すると決めていた。しかし、その料理は賄い料理の印象が強く、対抗策として適切か疑問が残った。それでもヒナは自信を見せ、優月は仕込みを開始した。料理は時間がかかるため、勝負前日から仕込みを行い、正確な味の再現に努めた。

料理勝負の開幕

料理勝負当日、ウルバスの広場にはグルメギャング団の常連客や食の探求団の支持者、さらには興味を持ったプレイヤーたちが集まった。戦闘優先のプレイヤーたちは、料理勝負に関心を示さず立ち去ったが、勝負の観戦者は十分に集まっていた。ゲーム内に料理勝負のシステムは存在せず、多数決で勝敗を決めることとなった。

そこへ突如「マイク」と名乗るプレイヤーが現れ、司会を務めると申し出た。彼はラジオDJや声優の経験があり、料理勝負を盛り上げることを得意としていた。ヒナは、勝負を通じて食の探求団の知名度を高める狙いがあったため、マイクの申し出を歓迎した。こうして、料理勝負は大々的なイベントとして進行することとなった。

グルメギャング団のステーキ

ジャンケンで先攻を選んだグルメギャング団は、自信満々に《至高のステーキ》を提供した。選ばれた審査員たちは、その肉の柔らかさ、旨味、脂の甘さを絶賛した。使用した牛肉は高レアリティのものであり、筋がなく食感も良好で、まさに最高級の一品だった。カポネたちは勝利を確信し、優月たちに棄権を促した。

食の探求団の牛汁

次に食の探求団が提供したのは《牛汁》だった。これは、筋の多い牛肉を長時間煮込み、旨味を引き出したスープであり、牛骨から取った出汁と骨髄が味の決め手となっていた。審査員たちは、予想外の深い味わいに驚き、次々に口へ運んだ。さらに、食べ終えた後の汁にモチ麦を加えて煮込み、《牛モチ麦雑炊》として提供した。これにより、最後まで料理の旨味を余すことなく楽しむことができ、審査員たちは完食した。

勝敗の決定と敗因分析

審査員の投票と観客の支持を合わせた結果、食の探求団が圧倒的な票差で勝利を収めた。カポネたちは納得できず異議を唱えたが、マイクが公正な集計を再確認し、結果は変わらなかった。

ケインは、グルメギャング団の敗因を指摘した。彼らのステーキは確かに美味しかったが、改良を加えず、付け合わせにも工夫がなかった。一方、食の探求団の牛汁は、下処理や調理過程で丁寧な工夫が施され、満足感を提供する要素が多かった。さらに、審査員たちはグルメギャング団のステーキをすでに食べた経験があり、初めて食べる牛汁の新鮮な美味しさに魅了された。結果として、料理の満足感が勝敗を分けたのだった。

料理勝負の影響

敗北を認めたカポネたちは、約束通り所持金や高レアリティの食材を提供し、悔しさを滲ませながら立ち去った。食の探求団はこれらを活用し、新たな料理を開発することを決意した。

勝負の影響は大きく、観戦していたプレイヤーたちが屋台に殺到し、牛汁や新たなステーキが飛ぶように売れた。ヒナは、料理勝負自体が最高の宣伝になったことに満足していた。マイクも司会業の腕を存分に発揮し、次回の料理勝負があればまた駆けつけると宣言した。こうして、食の探求団は料理勝負に勝利し、さらなる発展を遂げることとなった。

第五話 売り上げ勝負

料理勝負の再戦と特別クエスト

再び挑まれた料理勝負

食の探求団が料理を販売していると、再びカポネたちが勝負を挑んできた。彼らはこれまでの対決とは異なり、特別クエストでの勝負を提案した。目的は第二層で入手できる最高級の調理器具セットであり、その情報を掴んだカポネたちは、探求団に対して共にクエストに挑むことを求めた。

調理器具職人の工房
ウルバスの下町には、腕の良い職人が営む工房があった。工房の店内には高品質な調理器具が並び、探求団の面々は興味を示したが、それらは通常販売されておらず、特別クエストの報酬でのみ入手可能であった。このクエストは料理スキルを持つ二組のパーティーが競い合い、勝者だけが調理器具セットを手にする形式となっていた。

売り上げ勝負の開始
勝負の舞台は、レストラン「金の匙亭」と食堂「双葉亭」。双葉亭の跡取りレックと、高級レストランを継ぐバスターが、ミーアとの結婚を賭けた売り上げ対決に挑んでいた。探求団は双葉亭を、カポネたちは金の匙亭を支援することになった。売り上げで勝敗が決まるため、カポネたちは金の匙亭のコース料理を半額にし、さらに高級食材を導入する戦略をとった。

昼の営業と予想外の展開
昼間の営業では、双葉亭は地元の常連客に支えられ、リーズナブルな価格で人気を集めた。一方、金の匙亭は半額セールにより普段よりも多くの客を呼び込んだが、期待ほどの客足にはならなかった。それでも単価の違いから、売り上げではグルメギャング団が優勢であった。

夜の営業と逆転の戦略
探求団は夜の営業で大きな一手を打った。新たに「シュラスコ食べ放題」を導入し、プレイヤーの興味を引いた。焼きたての肉を提供し、サイドメニューを自由に選べる形式は、手間を減らしつつ高単価の提供を可能にした。結果、双葉亭には長蛇の列ができ、食の探求団が売り上げを急速に伸ばした。

グルメギャング団の苦境
カポネたちは急遽、豪華食材を使用したフルコースを高額で提供する戦略に切り替えたが、それが裏目に出た。客足が減少し、売り上げの差を縮めるどころか、逆に差が広がってしまった。

勝負の決着と報酬
三日間にわたる売り上げ対決の結果、食の探求団が逆転勝利を収めた。レックは正式にミーアと結婚を認められ、豪華調理器具セットが報酬として贈られた。敗北したカポネたちは悔しさをにじませながらも、次の勝負を誓い去っていった。

戦略の違いと今後
勝因は双葉亭の柔軟性と、食の探求団の経営戦略にあった。固定観念に縛られた金の匙亭とは異なり、双葉亭は短期間の勝負に適した施策を打ち出せたのである。これを機に、探求団はさらに飲食業の可能性を模索しながら、次なる挑戦へと歩みを進めていった。

第六話 自家醸造酢と手作りモッツッレラチーズ

酒造りと試飲の失敗

ロックは宿の室内で醸造壺を取り出し、ようやく完成した酒に期待を寄せていた。ゲーム内では現実よりも短期間で酒造りが可能であり、彼は一ヵ月間の醸造に成功した。しかし、試飲すると酒は酢へと変化しており、彼の努力は無駄になった。ゲームのシステム上、低レアリティの素材では長期間の醸造に耐えられず、酒ではなく酢になってしまうことが明らかになった。

酢の活用と新たな挑戦

大量の酢をどう処理するかが新たな問題となった。チェリーと姉はピクルスや酢豚、南蛮漬けなどの料理への活用を提案し、さらにはモッツァレラチーズの製造にも利用できることを思いついた。ロックと優月は酢の保存のために空き瓶を購入し、新たに酒造りを始めることにした。

モッツァレラチーズ作りと温度計の必要性

宿の台所を借り、モッツァレラチーズの試作を開始した。しかし、温度管理がうまくいかず、チーズ作りに失敗する。正確な温度調整が必要であり、温度計が必須であると判断された。ブンセンの工房を訪ねると、温度計の製作には「レック鳥のプニプニ」という素材が必要であることが判明した。

レック鳥の探索と温度計の完成

情報収集の結果、レック鳥はウルバス近くの廃鉱山に生息していることがわかった。護衛を依頼しながら廃鉱山へ向かい、探索の末にレック鳥を発見・討伐し、必要な素材を入手する。ブンセンの手により温度計が完成し、これによりチーズ作りの精度が向上した。

チーズ作りの再挑戦と追加の道具

温度計を用いた結果、チーズの分離には成功したが、成形段階で失敗した。原因は熱湯の中での成形に適した防護手袋がないことだった。ブンセンに相談し、ジャイアント・スラッグの粘液を素材とする「ミューカスグローブ」を製作。これを使用することでチーズ作りが成功し、モッツァレラチーズの生産が可能となった。

イタリア料理の試作と屋台のリニューアル

チーズを活用し、ピザ、カプレーゼ、チーズハットグなどの料理を次々と試作。屋台のメニューをイタリア料理中心にリニューアルし、販売を開始した。さらに、ロックの失敗作である酢を用いた果実酢ドリンクも新たな商品として提供され、女性客を中心に人気を博した。

飲食店の発展と次なる課題

リニューアル後、屋台は繁盛し、多くのプレイヤーが訪れるようになった。ロックの酒造りも再挑戦され、より良い酒の開発を目指している。一方で、ピザと相性の良いコーラの提供を目指し、炭酸水の確保が新たな課題として浮上した。こうして食の探求団は、さらなる料理の発展に向けて動き出した。

第七話 炭酸泉への道と強敵

炭酸水の探索と必要性

炭酸水の確保は、コーラの再現だけでなく、ソーダやジンジャーエールの販売、さらには酒の割材としても有用であった。特に炭酸飲料と料理をセットにした販売戦略は客単価を向上させると考えられた。姉とチェリーはクリームソーダの提供も視野に入れ、炭酸水の情報収集を開始した。

街の商店を探したが、炭酸水メーカーのようなアイテムは見つからなかった。そこで、炭酸泉の存在を期待し、街の入り口で帰還したプレイヤーから情報を得ようと試みた。スポーツドリンクを無料で配布し、情報提供の見返りとする戦略を取ったものの、その日は収穫がなかった。しかし、数日後、炭酸泉らしき泉を発見したという情報がもたらされた。

炭酸泉への道と障害

炭酸泉は岩山の麓に湧いているが、その場所へ行くには強力なモンスター《トレンブリング・カウ》との遭遇が避けられなかった。この巨大な雌牛型モンスターは戦闘能力の低い探求団では対応できないため、討伐は困難であった。一方で、このモンスターが落とすミルクは生クリームの原料として非常に魅力的であり、コスト削減にもつながる可能性があった。しかし、戦力不足により自力での討伐は断念することになった。

ケインたちの協力と戦闘の様子

ちょうどその頃、ケインたちはフロアボス攻略には参加せず、別の活動を模索していた。彼らは《トレンブリング・カウ》の討伐を引き受け、その代わりに得たミルクを食の探求団に卸すことを提案した。こうして、探求団はケインたちに護衛されながら炭酸泉へと向かうこととなった。

道中には牛型モンスターが多数生息しており、探求団の戦闘力では太刀打ちできなかったが、ケインたちの護衛により無事に進むことができた。やがて《トレンブリング・カウ》と遭遇し、ケインたちは連携を駆使して討伐を成功させた。探求団はその戦いを見守ることしかできなかったが、彼らの実力を目の当たりにし、戦力差を痛感することとなった。

炭酸泉の採取とコーラの完成

無事にミルクを確保し、探求団は目的の炭酸泉へと向かった。岩山の麓には透明な水を湛えた泉があり、水面には微細な泡が立ち上っていた。用意していた空き瓶を使い、炭酸水を採取することに成功した。

その場でクラフトコーラの原液と炭酸水を混ぜ合わせ、試飲を行ったところ、十分に再現度の高いコーラが完成した。ケインたちにも振る舞われ、その味は好評を博した。さらに、ミルクをホイップした生クリームを加えたアレンジも提案され、コーラフロートの実現も視野に入ることとなった。

フロアボス討伐と新たな展開

炭酸水を確保し、コーラの製造に成功した矢先、第二層のフロアボスが討伐されたとの報せが届いた。これにより、第三層への道が開かれた。探求団は急ぎウルバスへ戻り、食材や調味料を補充して移動の準備を整えた。すぐには転移門が開かれないため、待機しつつ準備を進めた。

新メニューの開発と屋台の盛況

転移門が開かれ、探求団は第三層の主街区《ズムフト》へと移動した。恒例となった「フロア突破記念セール」を実施し、新メニューの販売を開始した。新たに開発されたメニューは、ハンバーガー、フライドポテト、オニオンフライ、ジンジャーエール、コーラなど、ファストフードを意識した品揃えであった。

これにより、懐かしさを求めるプレイヤーたちが集まり、屋台は大繁盛となった。セットメニューの導入が功を奏し、売上も大幅に向上した。第三層は森林エリアであり、新たな食材の発見と料理の開発が期待された。探求団は次なる挑戦として、さらに食の探求を進めることを決意した。

第八話 ダークエルフは知ってる?

ズムフトでの商売と課題

第三層の主街区ズムフトで《エブリウェア・フードストール》を開き、料理を販売していた。転移門が開いて二日が経ち、観光目的のプレイヤーも訪れるようになり、売り上げは順調であった。しかし、料理の質が向上するにつれ、食器の貧相さが目立ち始め、新調する必要があると判断された。さらに、食材の調達にも限界があり、第三層で採れる新しい食材を取り入れるため、探索が必要となった。

探索の計画と協力者の登場

新しい料理の開発には、現地の食材を手に入れることが不可欠だった。しかし、探求団の戦闘力では単独での食材採集が難しく、プレイヤーの協力が必要であった。ちょうどその頃、常連客であるケインたちが訪れ、彼らの協力を得ることになった。彼らには新メニューの試食を提供することで、探索の手助けをしてもらうという関係が成立していた。

森の探索と初めての戦闘

翌日、探求団はケインたちと共にズムフト周辺の森を探索した。森の規模は大きく、巨木がそびえ立つ幻想的な景観が広がっていた。探索を進めるうちに《リトル・グラスホッパー》が出現し、ケインたちはこれを鮮やかに討伐した。その後も植物型モンスター《トレント・サプリング》が現れ、探求団も戦闘に挑戦。戦いは苦戦しながらも成功し、少しずつ戦闘経験を積むことができた。

鹿肉の確保と新メニュー開発

探索の途中で《フォレスト・ディアー》が出現し、鹿肉の確保を試みた。戦闘の指導を受けながら、探求団は慎重に戦い、無事に鹿肉を入手した。この肉を活用し、ステーキやジャーキーなどの新メニュー開発を進めることとなった。さらに、クレソンに似た野草も発見され、付け合わせの食材としての可能性が見出された。

キノコの発見と試食の危険性

探索を続けるうちに、朽ちた巨木に生えているキノコを発見した。これを採取し、ズムフトに戻って調理を試みた。キノコ鍋やソテーなど、様々な料理を作り、試食してみたところ、味は非常に良く、香りも豊かであった。しかし、ある特定のキノコ《デッドオアアライブマッシュルーム》には問題があった。このキノコは極めて美味であったが、一定の確率で食べた者のHPが減少することが判明した。見た目では毒の有無を判別できず、安全に提供することが困難であった。

グルメギャング団の参入と失敗

その後、グルメギャング団が現れ、《デッドオアアライブマッシュルーム》を安全に調理できると宣伝し、屋台を開いた。彼らは森エルフから毒の見分け方を教わったと主張したが、実際には完全に見分けられるわけではなく、一部の客のHPが減る被害が発生した。これにより、グルメギャング団の商売はすぐに破綻し、彼らは信用を失うこととなった。

ダークエルフへの期待と新たな探索

グルメギャング団の方法が完全でなかったことから、探求団は別の手段を模索することにした。姉は森エルフではなく、ダークエルフならば別の視点からキノコの判別方法を知っているかもしれないと考え、彼らの野営地を探すことを提案した。こうして、探求団はダークエルフの補給部隊を見つけるため、新たな探索へと向かうこととなった。

第九話 翡翠の秘鍵クエストを受けてみるが、クリアするとは言ってない

エルフとの接触を求めて

探求団は、キノコの毒の有無を見分ける方法を学ぶため、森のエルフまたはダークエルフと接触する必要があった。商売を休み、ズムフトの町を出て森の奥へと進んだが、なかなかエルフと遭遇できなかった。探索の途中で食材を発見しながらも、戦闘力が向上したことで《フォレスト・ディアー》を討伐することができた。しかし、その日は結局エルフに会えず、エルフと接触するには《翡翠の秘鍵》クエストを開始する必要があると判明した。

《翡翠の秘鍵》クエストの開始

夜、ケインたちと夕食を共にしながら、エルフと接触するには《翡翠の秘鍵》クエストを進めるのが最適であると知った。クエストには多くの戦闘が含まれるため、戦闘が苦手な探求団にとっては不安が残った。しかし、ケインたちがクエストに挑戦することを決め、探求団も同行することになった。

森エルフとダークエルフの戦闘に巻き込まれる

翌朝、ケインたちに導かれ森の奥へと進むと、金属音と叫び声が響き渡った。そこでは森エルフとダークエルフが激しく剣を交えていた。ケインたちはダークエルフ側に協力することを決め、探求団は指示に従い、戦闘では防御に専念することになった。森エルフの騎士は圧倒的な戦闘力を持ち、探求団のHPはみるみる減少していったが、やがて両陣営の騎士が相討ちとなり、戦闘が終了した。

ダークエルフの野営地へ向かう

倒れたダークエルフの騎士から《翡翠の秘鍵》を託され、探求団は南にあるダークエルフの野営地へ向かうことになった。移動中、ケインたちから野営地はパーティーごとに生成されるインスタンス・マップであり、他のプレイヤーと接触することはないと説明を受けた。そのため、商売の機会が制限されることが判明し、探求団はダークエルフを相手に料理を売る計画を立てた。

ダークエルフの野営地での苦戦

野営地に到着すると、ダークエルフの衛兵たちに警戒されながらも、《翡翠の秘鍵》を提示することで中へ入ることができた。ケインたちはクエストを進めるため別行動を取り、探求団は《エブリウェア・フードストール》を開いた。しかし、ダークエルフたちは警戒心を抱いており、誰も料理を買いに来なかった。そこで、彼らの警戒を解くため、大鍋で野菜カレーを作ることにした。

ミケアとの出会いと新たなクエスト

カレーの香りが広がるも、ダークエルフたちは依然として警戒していた。ようやく一人の女性ダークエルフ、ミケアが近づいてきた。彼女は補給物資の管理をしているソンバルト隊長の秘書であり、隊長が左遷されたことでダークエルフの中で軽視されていると明かした。その瞬間、探求団のウインドウに『左遷騎士たちとの交流と、野営地の食事事情を改善せよ』という新たなクエストが表示された。

倉庫への移動と新たな展開

ミケアは探求団に対し、野営地の中央ではなく、補給部隊がいる倉庫の近くで商売をすることを提案した。警戒心の強いダークエルフたちには、補給部隊の信頼を得る方が効果的だと考えられた。探求団はこの提案を受け入れ、料理の提供を続けるため、倉庫へと移動することになった。

第十話 エルフはきっと知っている!レアキノコの謎

ダークエルフたちの警戒が解ける

探求団は、ミケアの案内で野営地の端にある倉庫群へと屋台を移動した。これにより、補給部隊のダークエルフたちが気軽に利用するようになり、ようやく警戒が解けた。特に野菜カレーやスイーツは大人気となり、屋台は短期間で定着した。食材は森で手に入り、食材費はソンバルト隊長が負担するため、利益は出ないものの料理スキル熟練度を上げる良い機会となった。探求団は戦闘には向かないため、《翡翠の秘鍵》クエストの攻略はケインたちに任せ、料理関連のクエストに集中することにした。

未知のクエストの発見

エルフ戦争キャンペーンクエストは長期にわたり、第三層から第九層まで続くが、探求団は特にクエストクリアを目指していなかった。しかし、料理スキルを活かした新たなクエストを発見し、他のプレイヤーには知られていないレアな展開になっている可能性があった。エルフ関連クエストで料理系のものがあるとは予想外であり、ベータテストでも発見されなかっただろうと考えられた。探求団は、戦闘を苦手とする代わりに、料理を通じて貢献することを決意した。

ダークエルフの酒と立ち飲み屋の構想

ロックは野営地でダークエルフの果実酒を入手し、機嫌を良くしていた。これをきっかけに、週に一、二回、短時間営業の立ち飲み屋を開く構想を語った。ソードフォーの面々も興味を示し、オープンを楽しみにしていた。ダークエルフの酒を扱うことで価格はやや高くなるが、独自のメニューを提供できる可能性があった。

新たな食材の発見

その日、ミケアが料理を持ち帰るために現れ、《シケット・スパイダーの脚玉子炒め》を注文した。これに興味を示したケインは、その食材が食べられることに驚いた。脚の身と卵をラードで炒めると「カニ玉」のようになり、美味しく仕上がるという。探求団は、海の幸が手に入りにくい環境で似た味を探し、モンスターのドロップ品を有効活用していた。通常のプレイヤーは蜘蛛型モンスターの食材を敬遠するが、料理人プレイヤーにとっては貴重な資源だった。

ソンバルト隊長との交流

ミケアは探求団の料理を評価し、ソンバルト隊長も食事を楽しみにしていると伝えた。ケインは、探求団がダークエルフと親しくしていることに驚いた。これまでに接触したダークエルフたちは冷淡な態度だったが、補給部隊は前線とは異なり、警戒心が薄いと考えられた。翌日、ついにソンバルト隊長本人が屋台を訪れ、料理を直接味わうことになった。彼の関心を引いたことで、探求団のクエストがさらに進展することになった。

第十一話 左遷騎士ソンバルトは、戦いより美味しい物を食べたい

ダークエルフたちへの料理提供

探求団は、補給部隊の騎士ソンバルト隊長と秘書のミケアのおかげで、野営地での料理活動を続けていた。儲けはほぼなかったが、赤字にはならず、料理スキル熟練度も順調に上昇していた。階層が上がるにつれて食材のレアリティも高まり、料理の難易度も増すため、今のうちに技術を磨くことが重要だった。調理器具の更新も怠らず、着実に準備を進めていた。

ソンバルト隊長の食事習慣

ソンバルト隊長はかつてエリート騎士だったが、補給部隊へ左遷され、現在は倉庫と補給ルートの管理を担っていた。にもかかわらず、仕事よりも屋台で食事を楽しむ姿が目立ち、毎日のように甘いものを注文していた。彼の姿勢に、補給部隊の見習い騎士マルクは不満を抱いていた。マルクは前線で戦うことを望んでいたが、ソンバルト隊長は「衣食住の確保も重要な任務である」と諭した。

《デッドオアアライブマッシュルーム》の見分け方の習得

探求団は、ソンバルト隊長に《デッドオアアライブマッシュルーム》の毒アリと毒ナシの見分け方を教わるため、クエストを受けた。翌日、彼らは森へ向かい、途中でモンスターとの戦闘をこなしながらキノコを採取した。ついにキノコの群生地を発見し、野営地へ持ち帰ると、ソンバルト隊長はデアキンという調理責任者を紹介した。

食材鑑定スキルの取得

デアキンはキノコの見分け方を教えたが、ダークエルフたちは子供の頃から自然に識別できており、彼らにとっては当たり前の知識だった。探求団は目視では違いが判別できなかったが、新たに《食材鑑定》スキルを取得すると、微細な違いが見えるようになった。これにより、完全に毒の有無を見分けられるようになり、《デッドオアアライブマッシュルーム》の安全な利用が可能になった。

新たな料理と野営地の兵士たちへの提供

デアキンは、兵士たちに《デッドオアアライブマッシュルーム》料理を提供したいと考え、探求団に調理の協力を求めた。彼らは快諾し、大鍋でスープや焼きキノコ、キノコカレーなどを作り、ダークエルフの兵士たちに振る舞った。料理の評判は上々で、探求団は新たな料理の可能性を広げた。

ケインたちへの振る舞いと今後の展望

翌日、探求団は《デッドオアアライブマッシュルーム》を使った料理をケインたちにも振る舞った。料理の美味しさに彼らは感動し、ソンバルト隊長も再び食事を楽しんでいた。こうして、探求団はダークエルフたちとの関係を深めつつ、新たな料理の開発に意欲を見せた。今後も野営地での活動を続け、さらに珍しい食材や料理を探求していくこととなった。

第十二話 秘薬【エルフの雫】の材料を集める!

ソードフォーのクエスト失敗

ケインたちはエルフ戦争キャンペーン・クエストの第六章《潜入》に挑んでいたが、森エルフの野営地から《命令書》を奪取する途中で同行していたダークエルフたちとはぐれてしまい、クエストの進行が不可能になった。やり直しもできず、彼らは野営地へ戻ることとなった。クエストの仕様なのか、見落としがあったのかは不明だったが、落胆した彼らは、提供された食事で気を取り直した。

《エルフの雫》の材料集めの依頼

ソンバルト隊長は探求団に、《エルフの雫》の材料集めを手伝うよう依頼した。この秘薬はダークエルフたちの強化に必要であり、特に北の森エルフの動きが不穏であることから、準備が急務とされていた。探求団は料理人プレイヤーとして戦闘に向いていなかったが、採集や運搬の手伝いを頼まれたため、協力することを決めた。クエストが発生し、彼らはケインたちと共に材料集めに向かった。

《フォレストハニー》の採集

材料の一つである《フォレストハニー》は、森の奥にある《蜜の大樹》の樹液を発酵させたものだった。採集の過程で、ソンバルト隊長たちの戦闘技術の高さを目の当たりにし、探求団はその実力に驚かされた。彼らが圧倒的な力でモンスターを討伐するため、探求団が戦闘で経験値を得る機会はほとんどなかったが、彼らの配慮でわずかに経験値を獲得することができた。樹液の採取は順調に進み、探求団は《蜜の大樹に巣くう幼虫》という珍しい食材も手に入れた。

《モンキー・スピリッツ》の入手と大猿との戦い

《エルフの雫》のもう一つの重要な材料《モンキー・スピリッツ》は、森の猿《フォレスト・モンキー》が作る天然発酵酒だった。しかし、これを入手するには群れを統率する巨大な《キングオブ・フォレスト・モンキー》との決闘に勝たねばならなかった。ソンバルト隊長は驚異的な速さで大猿に一撃を与え、見事勝利を収めた。探求団はこの戦闘を目視できるほどの力を持っておらず、その圧倒的な実力を実感することとなった。

秘薬の完成と新たなクエスト

集めた《フォレストハニー》と《モンキー・スピリッツ》を用い、ソンバルト隊長は《エルフの雫》の製造に成功した。探求団はクエスト達成の報酬を受け取ったが、この秘薬は人間には効果が強すぎるため、彼らが使用することはできなかった。一方で、ケインたちは戦闘に備え、再び本ルートに戻る機会を探していた。

戦闘前の料理作り

ダークエルフたちは間もなく森エルフの攻撃を受ける可能性が高く、ソンバルト隊長は探求団に「士気を高める料理」の提供を求めた。通常の食事ではなく、戦闘前に適した特別な料理を作る必要があった。探求団はその要望を受け、戦場に向かうダークエルフたちのための献立を考案し、新たなクエストに挑むこととなった。

第十三話 大人のお子様ランチと防衛戦

《大人のお子様ランチ》の発案

料理を工夫しながら士気を上げるため、一行は《大人のお子様ランチ》の作成を決定した。多様な料理を一皿にまとめることで、食事の満足感と楽しさを提供しようと考えたのである。ロックは大人向けのお子様ランチの存在を知っており、味やボリュームを調整すれば、大人でも楽しめると提案した。調理スキルの熟練度向上も視野に入れ、作戦会議を開始した。

料理の選定と調理開始

過去に作った料理をもとにアレンジし、チーズ入りハンバーグやカレーピラフ、クリームコロッケなどを組み合わせたメニューが決定した。また、見た目の完成度を高めるため、ダークエルフの国《リュースラ王国》の旗を添えることになった。一行は必要な食材を確認し、調理に取りかかった。ゲームシステムを活用しながら調理を進め、ついに《大人のお子様ランチ》が完成した。

試食と評価の厳しさ

完成した料理をソンバルト隊長に提供したが、味は良いものの「勝てる気がしない」との評価を受けた。料理のクオリティ向上が必要だと考え、一行はレアリティの高い食材や調理器具の強化を検討することにした。料理の品質向上は、単なる食材の調達ではなく、調理器具の性能向上も不可欠であった。

新たなキッチンナイフの入手

より精度の高い調理を行うため、《プロフィシェンツ・キッチンナイフ》を作成することになった。旧ナイフを素材に戻し、新たなナイフを作るため鍛冶師を訪れた。ダークエルフの鍛冶師は寡黙ながら確かな腕を持っており、鍛冶工程の末、試行回数10の高性能なナイフを完成させた。これにより、料理の精度と成功率が飛躍的に向上した。

料理の再挑戦と合格の獲得

強化されたナイフと高品質の食材を用い、《大人のお子様ランチ》を再び作成した。ソンバルト隊長は試食し、前回よりも格段に向上したと絶賛。さらに、ダークエルフたちの士気を上げるため、大量生産が決定された。食事によって戦闘前の気力を充実させることが目的であり、デアキン率いる調理班の協力を得て、大量の料理を作成することとなった。

戦闘準備と倉庫防衛

森エルフの襲撃が迫るなか、一行は食料を守るため倉庫群の防衛を任された。直接戦闘には不向きなため、防御に徹することを決意した。戦闘が始まり、ソンバルト隊長は圧倒的な強さを見せつけるが、敵の放火により倉庫群のテントが炎上。一行は消火活動に奔走し、食料を守るため奮闘した。

戦闘の終結と勝利

森エルフたちの襲撃が終わり、戦闘はダークエルフ側の勝利に終わった。一行の《大人のお子様ランチ》は士気向上に貢献し、ソンバルト隊長から感謝の言葉を受けた。戦いの経験を通じ、料理の重要性を改めて実感し、ズムフトへ戻ることを決意した。

ズムフトへの帰還と新たな目標

ズムフトに戻った後、料理の新メニューを開発し、さらなる資金を得ることを目指した。料理スキルの向上、新たな調理器具の強化、エルフとの交流を経て得た知識を生かし、一行は料理人としての道をさらに進めることを決意したのである。

第十四話 真のトップ料理人プレイヤー

グルメギャング団の台頭

ズムフトの町でグルメギャング団は料理販売を本格化させ、現在ではナンバーワン料理人プレイヤーと称されるまでに成長していた。森林の環境を活かし、キノコや鹿肉を用いた料理を提供することで、多くのプレイヤーから支持を集めていた。高額な初期投資も惜しまず、他の料理人プレイヤーを大きく引き離していた。彼らは過去の敗北を糧にし、料理の改良を続けた結果、食の探求団を超えたという自負を持っていた。

食の探求団の帰還と対決の予兆

ズムフトへ帰還した食の探求団は、グルメギャング団の躍進を目の当たりにした。彼らの屋台は大人気となり、料理の質も向上していた。グルメギャング団のリーダーであるカポネは、食の探求団が戦闘主体のクエストに時間を費やし、料理の腕を鈍らせたと考えた。そして、過去の敗北を払拭するため、食の探求団に料理勝負を挑んだ。カポネの執念は強く、彼らが料理人プレイヤーのトップであることを証明しようとしていた。

料理勝負の開始

料理勝負は、観客が有料で料理を食べ、投票する形式で行われることになった。これにより、試合の公平性を保ちながら、財政的な負担を軽減できる仕組みが整えられた。食の探求団は、森エルフとの戦いで得た経験を活かし、《デッドオアアライブマッシュルーム》を用いた料理と、《大人のお子様ランチ》を改良した《真・大人のお子様ランチ》を提供することを決定した。これにより、グルメギャング団との差別化を図る作戦をとった。

グルメギャング団の奮闘

グルメギャング団は、改良を重ねた鹿肉ステーキとキノコソースをメインに据えたメニューを提供した。サラダやパンも強化され、より完成度の高い料理が揃えられていた。観客の反応は上々で、多くのプレイヤーが彼らの料理を絶賛した。これまでの努力が実を結び、投票箱には次々と票が投じられ、勝利を確信するほどの勢いを見せていた。

《真・大人のお子様ランチ》の圧倒的な支持

一方、食の探求団は時間をかけて《真・大人のお子様ランチ》を完成させた。チーズ入りハンバーグ、クリームコロッケ、カレーピラフ、手打ちミートパスタなど、多彩な料理が一皿にまとめられ、視覚的にも魅力的な仕上がりとなった。さらに、デザートやスープにも《デッドオアアライブマッシュルーム》を活用し、その味の違いを際立たせた。この料理の登場により、観客の関心は一気に食の探求団へと向かい、売れ行きはグルメギャング団を圧倒した。

勝敗の決着と今後の展望

最終的に、観客の投票により食の探求団の勝利が決定した。新たに開発された料理の人気と、多様なメニューの工夫が勝因となった。グルメギャング団は悔しさを滲ませつつも、さらなる努力を誓った。一方、食の探求団はこの勝利を機に、ズムフトでの料理販売を再開する決意を固めた。こうして、両者の競争は新たな段階へと進み、ズムフトの料理市場はさらに活気づくこととなった。

エピローグ 第四層への道!

第三層突破と半額セールの開始

ズムフトにて《真・大人のお子様ランチ》の販売が成功を収めるなか、攻略集団が第三層のフロアボスを討伐し、第四層への転移門が開かれるとの報が届いた。ケインたちがその情報を伝えに現れたが、すでに《真・大人のお子様ランチ》が売り切れていたことに落胆する様子を見せた。食の探求団は、早めに店を閉めた後、準備を整えて転移門を通過し、恒例の「階層突破記念! 料理半額祭り」を開始した。

半額セールの展開と料理の進化

セールでは、ハンバーグ、ピザ、ミートスパゲッティ、《デッドオアアライブマッシュルーム》料理など、これまでの料理をすべて半額で販売した。《真・大人のお子様ランチ》はすぐに売り切れ、他の料理も多くのプレイヤーに購入されることで、料理スキル熟練度がさらに向上した。客の間では、「以前の料理よりも美味しくなっている」という声が上がり、その理由として、《モンキー・スピリッツ》が隠し味として加えられたことが明かされた。

《モンキー・スピリッツ》の活用と戦略

《モンキー・スピリッツ》は、ソンバルト隊長から譲り受けた特別な調味料であり、料理の味を深める効果を持っていた。しかし、グルメギャング団との料理勝負では使用されず、今回の半額セールで初めて活用された。姉のヒナは、《デッドオアアライブマッシュルーム》を切り札とした前回の勝負では、この調味料を温存し、半額セールでその効果を最大限に発揮することで、食の探求団の料理の美味しさを広く知らしめる戦略を立てていた。

グルメギャング団の後追いと食の探求団の優勢

食の探求団の半額セールの成功を受け、グルメギャング団をはじめとする他の料理人プレイヤーたちも同様のセールを開始した。しかし、食の探求団がいち早く展開したことで、他の屋台には客が集まりにくく、知名度向上にはつながらなかった。カポネは悔しさを滲ませながらも、料理スキル熟練度の向上を理由に続けることを決意した。食の探求団は、これからもグルメギャング団との競争が続くことを覚悟し、最終的にはSAO内で安達食堂を再開するという目標を改めて心に誓った。

同シリーズ

6eaab992ed89e783f07fc11fa3014ff2 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレ
ソードアート・オンライン  オルタナティブ グルメ・シーカーズ
4014023cad1d588d6fd9710f61c016c2 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレ
ソードアート・オンライン  オルタナティブ グルメ・シーカーズ2

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ 2」感想・ネタバレ
フィクション(novel)あいうえお順