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漫画「クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん 2」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は異世界召喚ものファンタジーである。さえない35歳のコンビニ店員・乙木雄一が、高校生たちの召喚に巻き込まれた結果、女神から「余り物のクズスキル」群を押し付けられて異世界へ転移する。勇者とは異なる扱いを受けながらも、その大量のスキルを活用し、魔道具店を開業して成功を収め、人生逆転を果たす物語である。主にチートではない地道な努力と柔軟な発想を描く。

主要キャラクター

  • 乙木雄一:35歳の主人公。さえないコンビニ店員だが、異世界でスキルを駆使して魔道具店を経営し成長する。
  • 美樹本有咲:黒ギャルJKの姪。雄一の店の店員として働き、しっかり者で献身的。
  • シュリ:宮廷魔術師で男の娘。雄一の周囲に集まる特殊能力者の一人。
  • マルクリーヌ:女騎士団長。強く気高い女性で、雄一と関わりを持つ。
  • マリア:未亡人で肉食系美人。双子の親としても登場し、雄一と関係を築く。

物語の特徴

  • 「クズスキル」群という一見役立たずな能力を、雄一がアイデアと経験で逆転活用し、魔道具や店舗経営に役立てる点が本作の最大の魅力である。
  • 主人公のリアルさと“凡人知恵で逆襲する”構成が新鮮で、成長物語として共感が得やすい。
  • 多彩なヒロインたちとの関係性が描かれ、ラブコメ的な要素も含むので、異世界ファンタジーとしてだけでなく、人間ドラマや恋愛要素も楽しめる。

書籍情報

クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん、勇者には必要なかった余り物スキルを駆使して最強となるようです。 2
著者:結城焔 氏
原作: NarrativeWorks(日浦あやせ)
イラスト:  氏
出版社:ぶんか社(BKコミックス)
ISBN:9784821154616

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あらすじ・内容

猫背に無精ひげのさえないおっさん・乙木雄一は、異世界転移に巻き込まれ、女神様からクズスキルを押し付けられた。しかしそのクズスキルを有効活用し、コンビニのように便利な魔道具店を開き、事業拡大にいそしむ第2巻! 姪の黒ギャルJK・有咲、女騎士団長・マルクリーヌ、宮廷魔術師の男の娘・シュリ君などとの、ドキドキの交流の先に、おっさんは壮大な野望を抱く!

クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん、勇者には必要なかった余り物スキルを駆使して最強となるようです。 2

感想

本作は“努力系日常もの”の皮を被っていながら、その実、魔道具と人材育成による戦争終結を見据えたスケールの大きな構想が展開される物語であった。
前巻では余り物スキルで店を開き、自立を確保した乙木雄一が、今巻ではさらに視野を広げ、商業、福祉、軍事、教育を網羅する“総合計画”へと舵を切った。(微妙に)

「真面目にコツコツ評価されていく地味系日常漫画」だと思っていた者にとっては、突如として語られる“戦争終結計画”や“エネルギー供給革命”は衝撃であった。
特に女神ですら「それ全部使ったら人間死ぬ」と見誤った才能を乙木に与えていた事実が明かされたことで、「ただの余り物だった」という前提が崩れて行った。
ホントに駄女神だわ、、

シュリとの関係も、序盤では奇抜な魔術師との師弟関係として描かれていたが、今巻ではついに「乙木、脱童貞」の一大イベントへと到達した。
しかも相手は“女子ではなく、女に見える男”であるシュリ。
姪に「女にモテたい」と語っていた乙木の行動が、まさかのBLルートとして開花するとは、凄まじい拗らせ具合であった。
だが、その描写が物語の流れを崩すことなく、あくまで信頼と契約の延長線上として処理されている点が印象的であった。
いや、引っ張られても困るが。

また、乙木がこれまで“普通の人”として見せてきた地道な努力も、実際には“スキル運用と論理的思考を武器にしたイノベーター”としての片鱗にすぎなかった。
彼が照明魔石をベースにエネルギーシステムを考案し、戦力供給と教育・雇用・医療の改革に乗り出す姿には、もはや一商人の枠を超えた“指導者”の資質が漂っていた。

それでも乙木は、自分の過去――中退、無職、劣等感と孤独――を隠すことなく姪の有咲に語り、失敗の上に今の自分があることを冷静に見つめていた。
その姿は“理想の人”ではなく“失敗から学んだ凡人”であり、だからこそ説得力のある言葉を投げかけることができたのであろう。

姪の有咲もまた、乙木の語りに対して呆れつつも真正面から受け止め、自分なりの努力をすると宣言するに至る。
このやり取りは、“誰かが誰かに何かを託す”という行為の本質を端的に示しており、乙木の人生そのものが、誰かに希望を繋ぐ“橋”であることを感じさせた。

結末において、未亡人の雇用、孤児院との連携、子供たちの教育支援といった社会的施策が次々と始動し、乙木の店舗は“店”を超えて“仕組み”へと変貌しつつあった。
これは単なるビジネスの成功ではなく、「生きづらい世界で、誰もが生きていける場所を作ろう」という祈りに近い計画であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

乙木雄一

異世界に巻き込まれた元コンビニ店員であり、不要スキルを活用して魔道具店を経営しながら戦争終結を目指す現実主義者である。
・『洞窟ドワーフの魔道具屋さん』の店主
・照明魔石やボロ布ローブの実用化を進め、軍需・商業・福祉の三分野で事業を拡大した
・孤児院との取引や教育支援を通じて社会基盤の構築を図った
・マルクリーヌやシュリと協力し、照明魔石の工場設立とエネルギー供給体制の構築を進めた
・かつての人生を反省しつつも受け入れ、姪の有咲に自らの半生を語って導いた

美樹本有咲

乙木の姪であり、元勇者として召喚された高校生で、乙木の店舗で住み込み従業員として働いている。
・スキル「カルキュレイター」を有し、計算・情報処理能力の成長性が見込まれている
・乙木の支援を受けてスキルの実験運用を重ね、価格計算能力を獲得した
・乙木の過去を受け入れ、自らも前向きに努力する意志を示した
・日常の店番や作業補助を担い、戦力強化計画において中心的存在と位置づけられている

シュリ

宮廷魔術師であり、乙木の照明魔石技術に着目して出資を行った協力者である。
・乙木の店を宮廷指定の魔道具店に認定し、研究費名目で公費投入を約束した
・蓄光魔石工場の設立を提案され、国家予算による支援を決定した
・乙木と個人的契約を交わし、報酬として性的関係を持ったことが描かれている
・技術理解力と判断力に優れ、戦略的思考に共感を示して行動に移した

マルクリーヌ

王国の女騎士団長であり、乙木の計画に現実的な視点から助言を行う理解者である。
・シュリと共に軍需用照明魔石の大量購入を依頼した
・戦力増強と戦争終結構想について、乙木と建設的な議論を重ねた
・シュリとの契約内容について沈黙を守り、乙木に対して一定の信頼を寄せている様子を見せた

イザベラ

孤児院の院長であり、乙木との間で製品供給契約を結び、施設運営の安定化を図った人物である。
・乙木とボロ布ローブの製造契約を交わし、孤児院に定収入をもたらした
・乙木の教育支援の申し出に感謝を示し、協力関係を築いた

ローサ

孤児院の少女であり、裁縫の才能を認められて特別な育成対象となった子どもである。
・ローブ製作に関わり、その技術を評価された
・乙木から服飾部門の責任者候補として指名され、教材や衣服を贈られた

ジョアン

孤児院の少年であり、子どもたちの中でリーダー的な性格を持つ人物である。
・乙木に将来の幹部候補として期待されており、育成対象に選ばれている

ガイアス

C級冒険者であり、乙木の照明魔石を評価し、店の最初の購買客となった人物である。
・照明魔石を実際に使用し、その有用性を認めて購入した
・店の宣伝効果を高める役割を担い、商品の信頼性向上に寄与した

マリア

A級冒険者の未亡人であり、双子の子供と共に乙木の店に就職した女性である。
・夫を失った後、社会とのつながりを求めて自発的に雇用を申し出た
・身の安全と子供たちの生活を守るため、店内への同伴勤務を希望した
・乙木との信頼関係を築き、親子ぐるみでの協力体制を形成しつつある

ティオ

マリアの息子であり、ハーフエルフの少年である。
・乙木の店舗に母と共に勤務することとなり、護身用魔道具を貸与された

ティアナ

マリアの娘であり、ティオの双子の姉妹である。
・ティオと同様に乙木の店で働き、魔道具による安全確保が図られている

展開まとめ

6勤目 ボロ布ローブ

商店街での新たな発見と購入

乙木は商店街で、孤児院の子どもたちが作ったボロ布ローブに注目した。これは再利用布で製作された格安ローブで、貧しい冒険者の一時的な防具として販売されていた。乙木はその趣旨に感銘を受け、素材指定で十二着を購入した。支払いには溜まっていた小銭を使用し、店主の技術や販売方式にも関心を寄せた。

照明魔石の加工と店舗開店準備

乙木は照明魔石をガイアスに渡した後、ギルドでクズ魔石を回収し、有咲と共に付与魔法の作業を進めた。数日間、木材加工や店内整備に勤しんだ結果、一階部分は店舗らしい形に整った。開店当日、早朝から看板の設置作業に取り掛かり、乙木はスキル「粘着液」を用いて看板を掲げた。有咲との関係も和らぎ、互いに自然体で接するようになっていた。

閑古鳥の店と最初の来客

店の開店初日、来客はほとんど無く、訪れてもすぐに帰ってしまう状況が続いた。有咲は赤字を心配するが、乙木は照明魔石の評判が広まることを見込んでいた。そこへ噂を聞いたガイアスが来店し、照明魔石の有用性を認めた上で複数個を購入した。このやり取りを通じて乙木は商品の価値が実証され、今後の来客増加に確信を得た。

新人冒険者への提案と販売戦略

数日後、照明魔石の評判により来店者が増え、販売数も安定した。そんな中、装備資金に悩む新人冒険者三人が現れた。乙木は彼らに対してボロ布ローブの実用性を実演し、照明魔石とのセットで安価に提供した。ローブには防刃・衝撃吸収・形状記憶のスキルが付与されており、機能性を理解した冒険者たちは感謝して購入した。乙木はこの販売が新たな宣伝になると見込んでいた。

7勤目 孤児院への寄付

孤児院との取引開始とイザベラ院長との契約

乙木はボロ布ローブの仕入れ先である孤児院を訪れ、院長イザベラと面会した。ローブ製造の布を乙木側が支給し、完成品を一定価格で買い取る契約を提案した。この申し出は孤児院にとって安定した収入源となり、院長から深い感謝を受けた。契約書の作成と交付を終えた後、乙木は今後の協力体制に期待を寄せた。

子ども達との交流と将来への布石

契約成立後、乙木は孤児院の子どもたちと面会した。裁縫が得意な少女ローサやリーダー気質のジョアンなど、個々の特技を持つ子ども達と接しながら、乙木は将来的な労働力としての活用を視野に入れていた。子ども達への教育投資を名目に、書物や資金を寄付することも決意した。

照明魔石の軍需取引と融資の提案

孤児院から帰還した乙木の元に、シュリとマルクリーヌが訪れた。シュリは照明魔石を軍事目的で大量に購入したいと申し出、乙木はそれを了承した上で、納品の分割と融資の相談を持ちかけた。彼は戦争中の情勢では金貨数千枚でも生活保障にならないと説明し、より安全で豊かな生活を求めて多方面への投資を進める意志を明かした。

乙木の未来設計と最大目標の提示

乙木は、自身の目標が単なる金銭の蓄積ではなく、安全と生活水準の確保であることを強調した。そのために必要なのは戦争の終結であると断言し、シュリらに向けて、将来的には戦争を止めることが最終的な目標であると宣言した。

8勤目 戦う理由と願い

戦争終結への願望と理想の提示

乙木は戦争を止めるという目標を語った。召喚された日本人全体の幸福を取り戻すことを理想に掲げ、その願いは感傷的で自己満足的なものであったが、彼には実現のためのスキルと発想があると自負していた。シュリとマルクリーヌは現実的な観点からその可能性を否定したが、乙木は戦力強化を個人ではなく仕組みで行うという逆転の発想を展開した。

照明魔石を基盤としたエネルギー供給の構想

乙木は、魔道具の量産には自身で製作する必要が無いことを主張した。膨大な魔力量を必要とする付与魔法を他者が行えるようにするには、エネルギー供給手段として照明魔石の構造を応用する必要があると説いた。彼は蓄光スキルによって日光から魔力を得られる点に着目し、魔力を生み出す専用工場を作る計画を披露した。

技術革新による世界の変革構想

シュリは乙木の照明魔石の仕組みに着目し、その画期性に驚愕した。蓄光スキルを付与した魔石を大量に設置し、得られた魔力を他の魔石に転送することで、付与魔法のエネルギー問題を克服できると理解した。乙木はこの技術を工場化し、やがては人類の利用可能な魔力量を飛躍的に拡張する計画を立てていた。これにより魔道具の大規模生産が可能となり、戦力増強の基盤を築く方針であった。

軍事技術としての応用と勝利戦略の提案

乙木は戦争終結のため、戦局に影響を与える「質と量」両面の強化が必要と説いた。質においては有咲を中核とする個人の能力向上、量においては強力な魔道具を装備させた兵士の大軍を用意する構想を述べた。マルクリーヌとの対話を通じて、大規模な敵軍にも対抗可能な軍事力の創出が現実味を帯びてきた。

有咲のスキルとその可能性への期待

乙木は有咲のスキル「カルキュレイター」に注目していた。計算能力に特化したこのスキルは、表面的な数式処理だけでなく、情報処理の本質的機能を担う可能性があると推測していた。計算の定義を数式に限らず、あらゆる複雑な問題解決能力に拡張できるとする独自の理論により、有咲が究極の問題解決者となる未来を描いていた。

スキル成長性と運用実験の成果

乙木はカルキュレイターが成長性を持つスキルであると仮定し、有咲にレジ打ちを任せてスキルの成長を促していた。その結果、有咲は瞬時に価格計算ができるまでに成長し、スキルの有効性が実証されたと判断された。シュリもこの仮説に一定の理解を示し、今後カルキュレイターの成長によって多くの未解決問題の解消が可能になるとの展望が共有された。

9勤目 シュリ君と脱童貞

革命的技術への道と将来計画の輪郭

乙木は、カルキュレイターの成長が確かであれば、膨大な知識と技術が実用化され、あらゆる発明が実現可能になると予測していた。その実現にはスキルの成長と資金調達が不可欠であり、軍への協力を通じて融資を得ようとする計画に繋がっていた。シュリはその理論の不確実性を認めつつも、乙木の戦略に一定の理解を示し、計画に現実味を感じ始めていた。

出資交渉の成立

長い説得の末、シュリは乙木の計画を理解し、蓄光魔石工場の設立に協力することを承諾した。国の予算を研究費名目で融資する形をとり、正式に宮廷魔術師付きの魔道具店として認める手配を約束した。シュリは、乙木の人物像を見極めたうえで出資に踏み切ったのであり、純粋な商業的利益だけでなく、人物評価も考慮した判断であった。

契約成立と報酬の約束

シュリは出資を承諾したことで、以前乙木と交わした報酬の話に言及した。乙木はその内容を察し、興奮しながら店を出る準備を整えた。有咲が疑問を呈したが、乙木は何とかごまかし、彼女の了承を得て外出を決行した。マルクリーヌは沈黙を守り、乙木に同調する姿勢を見せた。

夢の成就

乙木はシュリと共に連れ込み宿へ向かい、ついに長年の夢であった脱童貞を果たした。詳細は語られていないが、シュリとの体験は乙木にとって極めて満足のいくものであったと示されている。

契約手続きと周囲の反応

事後、二人は店に戻り、正式な契約書面を交わした。シュリは疲労の様子を見せたが、有咲には事実は悟られていなかった。乙木は安堵しつつも、姪に正体が露見することへの強い恐れを感じていた。

乙木への問いかけ

夜の来客が途絶えた店内で、有咲は乙木に過去の職歴や生き方について問いかけた。乙木は、大学中退後に選べる仕事が限られていたこと、コンビニで働いていたのは就職先がなかったためであることを率直に語った。

社会的挫折と人生の選択

乙木は、大学時代に知識欲に突き動かされ単位取得を怠った結果、留年の末に中退した経緯を説明した。正社員として働けるだけの条件を満たせず、結局コンビニ店員という選択に至ったことを淡々と語った。

過去の価値観と行動原理の告白

乙木は、有咲に対して自身の若い頃の行動原理を二つ挙げた。一つは知識欲、もう一つは異性にモテたいという欲求であった。この告白に、有咲は呆れた表情を見せた。乙木の過去は、無計画でありながらも強烈な個人的欲求に支配されたものであったことが明らかとなった。

10勤目 乙木雄一の半生

幼少期の優越意識と歪んだ思想

乙木雄一は幼少期から知能が高く、その自負から周囲を見下す癖を持っていた。思春期には、自分より学力の低い者が異性から好かれる現象に強い疑問を抱き、次第に「馬鹿な者同士が惹かれ合う」という独善的な理論を形成していった。

大学進学と理想の崩壊

彼は、自身と同じように優秀な人間が集まる場所でこそ理解者や恋愛関係が得られると信じ、大学進学を決意した。知識の追求と同時に異性からの承認を望んだが、現実は厳しく、複数人と交際はできたものの関係は長続きせず、孤立していった。知識以外の魅力を持たず、他者を見下す性格が災いして、人間関係は破綻を繰り返した。

学業の放棄と挫折の蓄積

大学では必修を避けて興味ある授業や読書に没頭し、単位を取らないまま在籍期間を超過して中退した。社会に出ることができず、数年の無職期間を経て、ようやく選んだのがコンビニのアルバイトであった。企業面接も受けられず、選民意識が強かったことから人脈もなく、社会的信用を築く機会も持てなかった。

有咲への語りと自己の開示

乙木は自らの過去を姪の有咲に語った。気まずい雰囲気が流れたものの、有咲は「雄一お兄ちゃんは今でもすごい」と述べ、乙木の存在を肯定した。その言葉に、乙木は内心で強い感動を覚え、感謝の気持ちを抱いた。

職業選択への疑問と内面の告白

有咲から「なぜ普通の仕事をしなかったのか」と問われた乙木は、自身が人生に期待しなくなっていたこと、過去の思想に引きずられ努力を避けたこと、そしてコンビニでのささやかな充実感に満足していたと述べた。他人の役に立てることに喜びを見出していたため、現状を変える意欲は芽生えなかったと明かした。

年齢と経験がもたらす矛盾

乙木は、人は年を重ねるごとに経験に縛られ、矛盾した行動を取るようになると語った。優越感や見下しの感情が抜けず、理性では抑えても本質は変わらないままであること、そして自身が理屈と現実の狭間で迷走してきたことを自覚していた。

人生観と他者への願い

乙木は、自分が惨めな存在であることを認めつつも、その人生を肯定する姿勢を示した。そのうえで、他者には自分のような失敗をしてほしくないという思いを語り、有咲をはじめとする若者に良い人生を歩んでもらいたいと願った。それは、自分自身が惨めであるがゆえに、他者に幸福を与えたいというヒーロー願望に近い感情であった。

姪の言葉と希望の余韻

有咲は乙木の語りを受け止め、「自分なりに頑張ってみる」と前向きな姿勢を示した。乙木はその言葉に内心で強く安堵し、彼女の素直な人柄に誇りを感じた。暗い話を終えた後、意識を切り替えた乙木は日常へと戻り、有咲に夕食へ出るよう促した。去り際の彼女の声は、優しさを含んだものとして乙木の胸に残った。

11勤目 ある女神の傍観

契約の成立と資金確保

シュリが正式な書面を持参し、照明魔石の定期仕入れ契約を結んだ。それにより『洞窟ドワーフの魔道具屋さん』は宮廷魔術師付きの指定店となり、研究名目での予算が流入可能となった。資金面の見通しが立ち、借金ではない公費扱いの収入源を確保する形となった。

従業員募集と未亡人への戦略的アプローチ

商品の増加と多忙化に備え、従業員二、三名の雇用を決定した。即戦力となる未亡人層を暗に狙い、冒険者への世間話から自然な情報拡散を図った。その結果、夫を亡くしたC級冒険者の未亡人が応募し、即戦力として採用された。

変わり種の応募者・マリア親子との出会い

次に応募してきたのは、身なりの整った女性マリアと、そっくりな顔立ちの少年少女であった。彼女はA級冒険者の未亡人で、財産は十分にあったが、社会との繋がりを求めて子供と共に働きたいと志願した。双子の子供ティオとティアナがハーフエルフであることが判明し、身の安全確保のため店舗に同伴を希望した。

雇用決定と防犯対策の提案

マリア一家の事情を踏まえ、三人全員を雇用することを決定し、双子には護身用の魔道具を貸与することを約束した。マリアの人脈とエルフの血を持つ子供たちへの保護は、将来的な利益にも繋がると判断された。マリアからの厚い信頼と親密な態度が続き、親子ぐるみでの関係性が築かれ始めた。

孤児院訪問と教育支援の開始

従業員問題の解決後、自由時間を使って孤児院へ通い始めた。子供たちとの信頼関係を構築し、教育用書籍を寄付して学びの機会を提供した。孤児の中からローサとジョアンを将来の幹部候補として見込み、彼らへの特別な育成を計画した。

ローサへの裁縫教育と役割分担

ローサには裁縫の才能を見込み、教材や服を贈って知識と技術を伸ばさせることとした。既存のローブ製作は他の子に任せるよう指示し、彼女には新たな服作りと技術の伝達を任せた。将来的には服飾部門の責任者として育てる意図があった。

同シリーズ

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クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん、勇者には必要なかった余り物スキルを駆使して最強となるようです。1
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クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん、勇者には必要なかった余り物スキルを駆使して最強となるようです。2

その他フィクション

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フィクション(novel)あいうえお順

小説「転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は異世界ファンタジー/ライトノベル作品である。前作での激戦と開国祭を終え、魔国連邦テンペストに一時の平穏が訪れた。その後、盟主であるリムル=テンペスト、暴風竜ヴェルドラ、および戦士のヒナタの三人は、“休暇”を兼ねて「魔塔」へ赴き、新しい魔法──“獣魔術”の研究と開発を試みる旅に出る。物語は、戦いや建国の喧騒から離れた「魔法の聖地」での日常的かつ実験的な冒険を描くものである。

主要キャラクター

  • リムル=テンペスト:魔国連邦テンペストの盟主であり、本作の主人公。魔法と能力の獲得により、種族を問わず国の統治と発展を牽引してきた人物。本番外編では新魔法開発の旗振り役となる。
  • ヴェルドラ:暴風竜。リムルと盟約を結び、テンペストを支える盟友にして戦力。獣魔術開発のアイデアを提案し、物語の発端となる役割を果たす。
  • ヒナタ:騎士。リムル・ヴェルドラとともに魔塔への旅に同行。休暇という名の魔法開発に関与することで、これまでとは異なる側面を見せる存在。

物語の特徴

本作の魅力は、これまでの“国家建設”“戦争”“異種族間の争い”といった重厚なテーマから一転し、「休暇」「研究」「魔法開発」という安息と創造をテーマとしたスピンオフである点にある。主人公たちが“英雄”“盟主”“竜”という肩書きを一旦脇に置き、気兼ねなく“旅”“実験”“発見”を楽しむ――という意味で、シリーズ本編とは異なる“ゆるくも知的な異世界ライフ”が味わえる。また、魔法体系の拡張という設定的ギミックは、シリーズ世界観の広がりを印象づけ、既存読者にも新鮮さを与える差別化要素となっている。

書籍情報

転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~
著者:伏瀬
イラスト:みっつばー
出版社マイクロマガジン社
レーベルGCノベルズ
発売日:2025年11月29日
ISBN:9784867168745

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~」感想・ネタバレbls_21years_logo 小説「転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~」感想・ネタバレ gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~」感想・ネタバレ

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あらすじ・内容

転スラ初の番外編、小説版ついに刊行!
リムル×ヒナタ×ヴェルドラが「魔法の聖地」へ
開国祭を無事に終え、魔国連邦には久々に穏やかな日常が戻ってきていた。
そんな中、ヴェルドラが「獣魔術を開発したい」と言い出した。獣魔術……かの有名な『3×3 EYES〈サザンアイズ〉』にて大魔術師ベナレスが生み出した、まさに男の浪漫とも言える魔術体系。
この世界で実現可能か訝しがるリムルだったが、ルミナスの後押しもあり「魔塔」に出向いて新魔法を開発することを決める。
かくしてリムルとヴェルドラ、そしてヒナタを加えた3人の魔法開発旅行――『有給休暇』が幕を開けるのだった!

コミカライズ作画担当の高田裕三と原作者伏瀬のスペシャル対談、さらに小説完結後の書き下ろしSSも収録!!

転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~

感想

開国祭後のひといきついた空気のなかで、リムルたちが「有給休暇」と称して魔法開発に出かけていく流れは、本編の緊張感から少し距離を置いた、ゆるくて楽しい時間であったと感じた。

とくに印象に残ったのは、『3×3EYES』への全力のオマージュである「獣魔術」のくだりである。光牙というワードも含めて、思いきり元ネタに寄せてくる開き直ったノリでありながら、それをきっちり物語の決定打として機能させているところに、かなりの度胸を見た気がする。この世界の魔法体系の中へ、別作品のロマンをそのまま突っ込んでしまう発想も大胆であるが、それを高田裕三氏に自分の作品として描かせるという構図が、いちばんの贅沢ポイントであると思えた。

戦いそのものは、本編のような国運を賭けた大規模決戦ではなく、あくまで「魔法開発旅行」の延長にある小競り合いである。しかし、その裏側で動いていた黒幕たちが、最終的に鉄道開発へと関わっていく展開には、「転スラ」らしい着地のさせ方がよく出ていると感じた。敵として出てきた存在が、完全に排除されるのではなく、インフラや産業の発展へ組み込まれていく流れは、本編で繰り返し描かれてきたテンペスト流の「利用と共存」の縮図のようである。バトルを終えたあとの社会的な余波まできちんと描くところに、この番外編が単なるお遊びで終わっていない重みがあった。

日常の側面で見ると、リムル・ヒナタ・ヴェルドラという、ふだんは立場も距離感もかなり違う三人が、ひとつの目的のために行動する「旅もの」として楽しめた。ヒナタのまじめさと、ヴェルドラのはしゃぎぶり、それを面倒くさがりながらもまとめてしまうリムルの距離感が、終始ゆるく笑える空気を作っていたと思う。世界の命運がかかっていない分、言動に遊びが多く、その軽さゆえに三人の関係性の親しみやすさがよく伝わってきた。

そして個人的にいちばん評価が高かったのは、「本編終了後のエピソード」が少しだけ添えられていた点である。本編完結直後の読者としては、どうしても「その先」が気になってしまうところであるが、この巻はその物足りなさをさりげなく埋めてくれる役割を持っていた。番外編としての遊びと、本編アフターとしてのサービスが同居しているため、読み終えたあとも、世界がまだ静かに動き続けている気配が残り、うれしい余韻となったのである。

全体として、本作は「転スラ」好きと「3×3EYES」好きの両方に向けた、著者たちの悪ノリと本気が混ざった一冊であると感じた。大事件の裏でこっそり進んでいた魔法開発と鉄道計画、そして本編のその後をちらりとのぞかせる構成により、シリーズ世界への愛着がもう一段階深まる読書体験であったと言える。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

リムル=テンペスト

魔国連邦テンペストの盟主であるスライムの魔王であり、今回は「有給休暇」と称しつつも、実質的には魔塔の調査と三賢人の制圧を担った存在である。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペスト・盟主。魔王。西方聖教会と協調する勢力の中心人物である。

・物語内での具体的な行動や成果
 開国祭後に子ども達をテンペストで預かり、温泉施設での団欒や獣魔術談義を主導した。
 ヒナタやルミナスの意見を踏まえつつ、新たな魔法研究の構想をまとめ、魔塔訪問の計画を立てた。
 マルクシュア王国では身分を隠した旅人として行動し、教会や自由組合支部での諍いを調整しながら、ヴェルドラの冒険者登録を実現させた。
 王城の夜会で挑発を受けた際には、水晶球でやり取りを記録し、正当防衛を確保したうえでヴェルドラの戦闘を黙認し、結果として王城半壊という事態を乗り切った。
 魔塔内部では、ヒナタ負傷後に激怒し、プレリクスとアシュレイを黒炎や光術改造魔法で制圧し、無限回廊を解除してヴェルドラとピピンを引き戻した。
 賢人都市での魔力・生気吸収異常に対しては、野外病院と炊き出し拠点を展開し、ミルク煮による大規模な救助活動を指揮した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マルクシュア王国から、魔塔支配からの解放と庇護を求められるほど信頼される存在となった。
 魔塔の三賢人を力で屈服させた後、海洋調査と巨大船建造を軸とする「大航海時代」構想を提示し、新たな国際プロジェクトの中心に立った。
 西方聖教会・マルクシュア王国・魔塔の三者を調停する立場を事実上獲得し、政治的影響力をさらに広げた。

ヴェルドラ

暴風竜と呼ばれる竜種であり、漫画的お約束に強く影響されつつも、各所で実力と存在感を見せた存在である。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペストの守護的存在。暴風竜。リムルの同居人かつ友人の立場にある。

・物語内での具体的な行動や成果
 温泉施設で獣魔術の再現を提案し、漫画的な戦術を実際の研究テーマへ押し上げるきっかけを作った。
 賢人都市では冒険者登録を希望し、本名でギルド証を得ることにこだわり、結果として試験免除のBランク認定を受けた。
 自由組合支部でサイラス一派と対面した際には、ヒナタとリムルの裁量に任せて観戦役に回り、後の関係悪化を防いだ。
 王城の夜会では「衝撃吸収領域」の内側で騎士達と魔法使いを圧倒し、火炎大魔嵐を覇竜絶影拳で破壊して会場を吹き飛ばした。
 魔塔ではピピンの無限回廊に閉じ込められたが、内部で冷静に解析を進め、ピピンにリムルの恐ろしさを語って心理的に追い詰めた。
 賢人都市救助では、配膳や雑務に動員されつつも、貴族層の横暴を抑える役としても機能した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自由組合でBランク冒険者として公式登録され、表の世界でも名義を得た。
 王城崩壊事件で竜種の脅威を現実として示し、マルクシュア王国と魔塔双方に対して強烈な抑止力となった。
 無限回廊からの帰還とピピンの戦意喪失により、三賢人にとって「制御対象」ではなく「制御不能な存在」と再評価された。

ヒナタ・サカグチ

西方聖教会の聖騎士団長であり、冷静な判断力と苛烈な戦い方を併せ持つ指導者である。

・所属組織、地位や役職
 西方聖教会・聖騎士団団長。ルミナスの代行者であり、「聖人」と呼ばれる立場にある。

・物語内での具体的な行動や成果
 温泉施設で獣魔術談義に加わり、光術や霊子崩壊の性質から獣魔術の非合理性を論じつつ、応用可能な魔法研究の方向性を示した。
 ルミナスと共に魔塔での研究案を出し、自らも新たな系統の魔法習得を目的に同行を決めた。
 マルクシュア教会ではニックス司祭に対し、リムルが恩人であり同郷の友人であることを明言し、態度を改めさせた。
 自由組合支部ではグレイブとの一騎打ちを引き受け、指を一本ずつ切り落とす戦法で再起不能寸前まで追い込み、その後ポーションで回復させて恩を売る形を整えた。
 王城の夜会では国王の無礼を指摘し、退出をほのめかして牽制しつつ、リムルと共に記録を取り正当防衛の枠組みを固めた。
 魔塔での星取り戦では第二戦に出場し、星幽束縛術と霊子崩壊でプレリクスを一度完全消滅させたが、絶対不死の権能と新月環境に阻まれ、重傷を負って戦線を離脱した。
 賢人都市救助では自ら鍋をかき混ぜ、教会側の救援派遣も約束し、現場レベルでの指揮と教義変更の説明を両立させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 教義変更後の西方聖教会の顔として、魔物国家と人間国家の仲裁役を明確に担う立場になった。
 マルクシュア王国に対して、教会が魔塔との交渉窓口となる可能性を示し、信頼回復の糸口を作った。
 魔塔戦で負傷しながらも、リムルとの相互信頼を深める契機となり、以後の連携に影響を与えた。

ルミナス・バレンタイン

神聖連邦ルベリオスの最高指導者であり、吸血鬼族の支配者として君臨する存在である。

・所属組織、地位や役職
 神聖連邦ルベリオスの統治者。吸血鬼族の王。西方聖教会の信仰対象である。

・物語内での具体的な行動や成果
 温泉施設での談義に参加し、光術が軌道設定や追尾、分裂などを行えることを解説し、獣魔術風の技術応用の理論面を補強した。
 リムルの感知能力と思考加速についても言及し、反応限界の観点から戦術的な評価を行った。
 魔塔との関係では、三賢人と過去に対立し、神祖を討った側として因縁を持ち、その延長線上で魔塔への紹介状をリムルに渡した。
 紹介状の文面は、実質的に挑戦状に近い内容であり、結果としてリムル達を魔塔と三賢人の争いの現場へ誘導する形となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 教義変更により、意思疎通可能な魔物との共存を認める方針を定め、西方全体の対魔物政策を変化させた。
 魔塔側からは最大の宿敵として認識され続けており、その影響力が三賢人の計画や警戒心に強く作用している。
 リムルへの紹介状を通じて、直接動かずとも魔塔問題の解決を外部に委ねる形を作り出した。

クロエ

テンペストに滞在する子ども達の一人であり、封印技の発想を示した存在である。

・所属組織、地位や役職
 イングラシア王国学園に関わる子ども達の一員。リムル達の保護対象である。

・物語内での具体的な行動や成果
 温泉施設での談義の際、万能糸と結界を組み合わせた封印技の案を提示し、新しい獣魔術風技術の方向性を示した。
 リムルに対して土産の要求を行い、その笑顔によってリムルが各種土産の約束を受け入れるきっかけを作った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魔法研究と戦術発想において、子どもでありながら有用な意見を出す存在として描かれている。
 リムルの行動選択に心理的な影響を与える存在として位置付けられている。

シュナ

テンペストの巫女的立場にある女性であり、行政と家事、料理面で広く支える役目を持つ。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペストの首脳陣の一人。内政と工房、料理面を担当する立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 リムルの外出を「有給休暇」の実践と位置付け、仕事整理の必要性を指摘した。
 魔塔行きの前には、ラミリスや他の幹部との留守番体制の調整に関わった。
 賢人都市での救助活動では、ミルク煮の調理を中心となって担い、重症者を含む多くの住民を短時間で回復に導いた。
 マルクシュア王国との交渉では、現地調整役としてニックス司祭やソウエイと共に、テンペスト側の代表を務めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 料理と生活面の支援を通じて、他国の住民にも直接的な恩恵を与える役割を担った。
 マルクシュア王国にとっては、魔王側の中でも特に親しみやすい調整役として認識されている。

ソウエイ

テンペストの隠密部隊を率いる忍びであり、情報収集と要人護衛に特化した存在である。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペスト・影の首領格。隠密・諜報担当である。

・物語内での具体的な行動や成果
 リムルの有給準備期間に、防衛計画の見直し協議を行い、国内外の安全体制を整えた。
 賢人都市での救助活動では、空間移動で呼び寄せられ、重篤者の捜索と搬送に従事した。
 マルクシュア王国との今後の調整において、現地側との連絡役を務める形で配置された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 表には出にくい役割でありながら、救助活動や外交調整で不可欠な存在として機能している。
 リムル不在時の安全保障面で、他国からの信頼を高める一因となっている。

マルクシュア王国関係者

サイラス王子

マルクシュア王国の第一王子であり、魔法の才能を持たない一方で、頭脳と人徳を備えた人物である。

・所属組織、地位や役職
 マルクシュア王国・第一王子。王族の一人でありながら冷遇されている立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 自由組合支部では、魔法が使えない仲間達と共に勢力を築き、平民を守るために活動していたが、新人への絡み方は横柄であった。
 ヒナタとの対立で一派が敗れた後、自分達が相手取ったのが魔王と暴風竜と聖人であった事実を知り、軽率さを反省した。
 魔塔による魔力・生気吸収が激化した際には、グレイブと共に市内の異常を確認し、これを魔塔の制裁と判断して王城へ向かった。
 国王からの許可を得て、魔王リムルへの「非公式な救助依頼」を提案し、賢人都市救助のきっかけを作った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 当初は落ちこぼれ扱いであったが、魔塔支配の真実を知り、国のために危険な交渉案を出す立場に至った。
 父王との対話を通じて、自分が愛されていなかったわけではないと理解し、兄弟間のわだかまりを一部解消した。

ヘリオス王太子

マルクシュア王国の第二王子にして王太子であり、優れた魔法の才能を持つ人物である。

・所属組織、地位や役職
 マルクシュア王国・第二王子。王太子。次期国王と見なされている。

・物語内での具体的な行動や成果
 魔法の才に恵まれたことで貴族から支持され、兄サイラスを冷遇する空気の中で権勢を強めていた。
 サイラスの失態報告を受けた際には、兄を貶める材料として楽しむ一面を見せ、詐欺師扱いしたリムル達を余興の相手としか見なさなかった。
 王城の夜会では、魔塔から授かった衝撃吸収領域と火炎大魔嵐の発動を指示し、結果として城を半壊させる事態を招いた。
 魔塔による過剰なエネルギー徴収の中で、王家の宿命を聞かされ、自分が魔塔からの解放を託されていたことを知り、重圧と絶望を味わった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王城崩壊と魔塔制裁の結果、将来の王としての判断力不足が露呈した一方で、父王からは国を託される存在として改めて期待をかけられた。
 魔塔との従属関係を自覚したことで、単なる「魔法の優等生」から、重い選択を迫られる後継者へと立場が変化した。

マルクシュア国王

賢人都市マルクシュア王国を統べる王であり、魔塔との従属関係を長年抱えてきた人物である。

・所属組織、地位や役職
 マルクシュア王国・国王。王家の長であり、魔塔との密約を知る立場にある。

・物語内での具体的な行動や成果
 ダンスホール崩壊後、ヴェルドラとリムル、ヒナタが本物であった事実を知り、ファルムス王国の前例を踏まえて自国滅亡の危険を理解した。
 アシュレイとの会談で、魔塔が結界と海上安全、経済基盤を握る支配者であることを再確認させられた。
 ヘリオスとサイラスに王家の宿命を語り、魔塔支配を外に漏らさないよう釘を刺したうえで、異常な魔力徴収への対処を模索した。
 リムルによる救助活動を目の当たりにし、自ら頭を下げて謝意を述べたうえで、テンペストの庇護を求める決断を下した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魔塔への従属を続けるだけの立場から、テンペストと西方聖教会を交えた新しい枠組みを模索する方向へ舵を切った。
 ヘリオスに王位継承を託す覚悟を固め、サイラスには「父」として初めて率直な言葉をかけることで、王家の関係性を変化させた。

グレイブ

サイラス王子に付き従う剣士であり、騎士としての忠誠心と実力を兼ね備えた人物である。

・所属組織、地位や役職
 マルクシュア王国所属の剣士。サイラス王子の側近として行動する立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 自由組合支部で、聖騎士団長を名乗るヒナタに勝負を挑み、正面からの一騎打ちを受けた。
 戦闘では、指を一本ずつ切り落とされる形で完敗し、剣士としての再起が困難な状態に追い込まれた。
 後にリムルから渡された高性能ポーションを飲み、指を含む傷を完全回復させたことで、魔王側の力と恩義を実感した。
 魔塔の制裁時には、闘気で魔力吸収を耐えつつサイラスと共に王城へ向かい、現状報告と対策協議に参加した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ヒナタの圧倒的な実力を目の当たりにし、自身と王国の戦力水準を冷静に認識するきっかけを得た。
 リムルからの恩義を受けたことで、今後は魔王側に対しても一定の敬意と警戒を払う立場となった。

ニックス

マルクシュアの西方聖教会支部に所属する若い司祭であり、ヒナタを強く敬愛する人物である。

・所属組織、地位や役職
 西方聖教会・マルクシュア支部の司祭。現地教会の代表的立場にある。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヒナタの来訪時に深い敬意と感謝を示し、彼女を聖騎士団長として崇拝する態度を見せた。
 当初は魔王リムルと暴風竜ヴェルドラに強い警戒と嫌悪を抱き、冷淡な対応を取った。
 ヒナタからリムルが恩人であり、同郷の友人であると告げられたことで考えを改め、神ルミナスの愛は魔王にも向けられると口にして謝罪した。
 後には、マルクシュア王国とテンペスト、西方聖教会との三者調整の窓口として、王都交渉に関わる役目を担った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魔王への態度を改めたことで、教会内部の変化を象徴する存在として描かれている。
 今後、マルクシュア王国における教会とテンペストの間の仲介役として重要性が増す立場にある。

ブラガ伯爵

マルクシュア王国の伯爵であり、ヘリオス王太子から使い走り同然の任務を命じられた貴族である。

・所属組織、地位や役職
 マルクシュア王国の伯爵。王太子派に属する貴族の一人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヘリオスから「サイラスを謀った詐欺師達の呼び出し役」を命じられ、屈辱を抱えながら教会へ向かった。
 当初は三人を素性不明の詐欺師と決めつけ、高圧的に接したが、豪華な特注馬車と転移を目の当たりにし、本物である可能性を悟った。
 王城到着後も、貴族達に対して三人が本物であると説明し続けたが信じてもらえず、そのことを三人に謝罪した。
 ダンスホール崩壊後は、攻撃側に加わらなかった貴族の一人としてリムルに保護され、後の証言を求められる立場となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件を通じて、王太子派の中でも情報の重要性と力量差を痛感し、魔王側への恐怖と敬意を持つようになった。
 リムルから証言を頼まれたことで、今後の評議会等で事実を伝える役割を担う可能性が示された。

魔塔・三賢人関係者

アシュレイ

マルクシュアでは子爵として振る舞っていたが、その正体は魔塔を支配する「最古参の三賢人」の一人である。

・所属組織、地位や役職
 表向きはマルクシュア王国・アシュレイ子爵。実際は魔塔の支配階層に属する三賢人の一角である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヘリオスの腰巾着として振る舞いながら、王家に対して魔塔技術を与え、結界と経済構造で国を支配する仕組みを維持した。
 王城の密談では、国王に対して魔塔の技術が「型落ち」であると告げ、支援停止をちらつかせて恫喝し、従属関係を再確認させた。
 魔塔では本来の姿に戻り、プレリクスとピピンと共にリムル一行の排除計画を立て、ヴェルドラを無限回廊に封じる作戦を共有した。
 リムルとの最終戦では、炎身化したうえで十字閃炎嵐撃などの高位技を繰り出したが、黒炎と未来予測を併用するリムルに押し負けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 敗北後は、世界支配ではなく海洋開発と巨大船建造プロジェクトへの協力をリムルから求められ、新たな役割を与えられた。
 マルクシュア王国に対しては、露骨な支配者から、結界維持と研究機関としての立場に軟化する方向へと立場を修正することになった。

プレリクス

真夜中の吸血鬼と呼ばれる存在であり、三賢人の一人として恐怖支配を理想とする古の魔人である。

・所属組織、地位や役職
 魔塔を裏から支配する三賢人の一人。吸血鬼系統の上位存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 人類を糧と奴隷としか見なさず、マルクシュアの住民から魔力と生気を吸い上げる運用を容認した。
 星取り戦の第二戦でヒナタと対峙し、一度は霊子崩壊で完全消滅したものの、絶対不死の権能と塔の環境により即座に再構成された。
 復活後はヒナタの血に酔い、勝利よりも嗜虐を優先して攻撃を重ね、彼女に重傷を負わせた。
 リムルの陽光を利用した「神之怒」改造攻撃を受け、新月の地下空間でありながら光牙のような高熱に晒され続け、事実上戦闘不能となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 絶対不死の条件を見破られたことで、無敵性を失い、リムルにとって攻略可能な対象に変わった。
 最終的には敗北を認め、三賢人全体の降伏に同意する形で、世界支配の野望を手放すことになった。

ピピン

演算特化型の存在であり、魔塔と同化することで膨大な演算能力と術式制御を行う三賢人の一人である。

・所属組織、地位や役職
 魔塔の三賢人の一角。神祖の高弟第十三位とされる演算特化型の存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 魔塔全体を「巨大な術式空間」として構築し、賢人都市から吸い上げた魔力・生気を利用して各種結界と罠を維持した。
 第一戦ではヴェルドラに対して無限回廊を発動し、自身ごと隔離空間へ移動することで塔内部への被害拡大を防いだ。
 無限回廊内ではヴェルドラと対話し、演算勝負を挑んだが、外部では智慧之王ラファエルによる解析が進み、術式そのものを解除されてしまった。
 塔へ戻された時には精神的に消耗し、「絶対に勝てない」と繰り返すほど戦意を喪失していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 無限回廊がラファエルに完全解析されたことで、最大の切り札が封じられ、三賢人側の優位は失われた。
 敗北後は、巨大船建造などの技術分野での協力者として、リムルの構想に組み込まれる立場へと転じた。

神祖(創造主)

ルミナスや三賢人の主であった存在であり、過去に世界の根幹となる種族を創造したとされる。

・所属組織、地位や役職
 創造主的立場の存在。ルミナスや高弟達を生み出した元の支配者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 火精人であるアシュレイや、真夜中の吸血鬼プレリクス、演算特化型のピピンなど、高弟と呼ばれる存在を創造した。
 高弟達を用いて人類や魔物に対する支配構造を築きかけたが、最終的にはルミナスによって討たれた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 既にこの物語の時点では死亡しているが、その創造物達が現在の魔塔とルベリオス、三賢人とルミナスの対立構造を生み出している。
 三賢人にとっては、研究成果を捧げることが叶わなかった対象であり、その不在が彼らの暴走と承認欲求の源となっている。

展開まとめ

第一話 有給休暇

温泉娯楽施設での団欒と獣魔術談義

開国祭の夜、リムルは子供達を学園に戻さず自国で預かり、温泉併設の娯楽施設で風呂とコーヒー牛乳、卓球を楽しんでいた。卓球でケンヤ達に容赦なく勝利して大人の厳しさだと主張するリムルの周囲で、子供達は各々ツッコミを入れつつも和やかに過ごしていた。その場でヴェルドラが漫画に登場する獣魔術を再現しようと言い出し、リムルも当初は非現実的だと諭しつつ、戦術としては面白いと興味を示した。

ヒナタ・ルミナスを交えた魔法研究の構想

風呂上がりのヒナタが会話に加わり、漫画の真似事に夢中なリムルとヴェルドラを痛烈に批判したうえで、光術や霊子崩壊の性質から獣魔術的な応用の非合理性を指摘した。そこにルミナスも合流し、光術は事前に軌道を設定すれば追尾や分裂が可能であると専門的な解説を行い、リムルの感知能力と思考加速による反応限界にも言及された。クロエが万能糸と結界を組み合わせた封印技の案を出し、ラファエルも有効だと認めたことで、漫画由来の発想から新魔法研究へと話題が発展した。その後、ヒナタの怒りを買ったヴェルドラがリムルの誘導で前に押し出され、悲鳴を上げる結果となった。

魔塔行きを含む本格的な研究計画

翌朝の朝食時、ヒナタは雷術系なら実戦的な新魔法を開発出来ると提案し、自らも協力すると申し出た。さらにルミナスが、古今東西の魔法が記録された魔塔にいる知己のもとで研究する案を提示した。ヒナタは新たな系統の魔法の習得を目的に同行を決め、リムルとヴェルドラも賛同して三人で魔塔へ向かう計画が固まった。

有給休暇取得に向けた雑務処理と留守番要員の調整

シュナは今回の外出をリムルの有給休暇の実践と位置付け、リムルは数日かけて仕事の整理に追われた。住民要望の確認、ベニマルとの組織改革協議、ソウエイとの防衛計画見直し、旧ユーラザニアでのゲルドとの都市計画打ち合わせ、飛空龍飼育施設視察、ハクロウとの剣術訓練などをこなし、自身の仕事量の多さと人間なら過労死しているであろう状況を自覚した。出発前には、迷宮運営の安定化のためラミリスには留守番と管理継続を頼み、甘い言葉で機嫌を取りつつ同行を断念させた。

シオン・子供達への配慮と旅立ち

シオンには、魔力を動力とするシステムキッチン付き専用調理室を用意する約束を餌に留守番を了承させ、過去に圧力鍋を誤解して試作品を破壊した失敗を教訓に、強度重視の試作品を別途用意する方針も確認された。ディアブロは部下探しの旅に出ており同行問題は生じなかった。子供達からは剣や人形、魔法の本など土産をねだられ、リムルは渋るふりをしつつもクロエの笑顔に完全に陥落して要望を受け入れる心境となった。こうして国内体制と留守番要員を整えたうえで、リムル達は魔塔を目指して出発したのである。

第二話 賢人都市

賢人都市マルクシュア王国の概要

マルクシュア王国は、西側諸国に属しつつ魔導王朝サリオンとも国境を接する南方の小国である。貧しいながらも港湾を有し、危険な海を相手に国内消費分の魚介類を細々と採捕していたため、民が飢えずに暮らせる程度の豊かさは保たれていた。また、この国には魔塔を目指す多くの魔法使いが滞在しており、彼らの持ち込む金銭が王侯貴族を潤し、そのおこぼれが庶民にも行き渡っていた。その結果、王都は魔塔と魔法使いの存在によって繁栄し、「賢人都市」と呼ばれるまでに発展していたのである。

魔塔への道と結界、正規入国の必要性

魔塔は王都近郊の岬からのみ向かえる構造であり、その入口となる魔塔を中心に、海上に極大結界が展開されていた。この結界は空や地下からの侵入すら防ぐ徹底ぶりであり、強行突破も不可能ではないものの、発覚すれば大問題になるのは明白であった。リムルは自分が魔王であり、同行者のヴェルドラが暴風竜、ヒナタが人類側の象徴とも言うべき聖騎士団長であることを踏まえ、密入国ではなく正規の手続きによる入国が最善と判断した。また、魔王としての正式訪問は国際的な騒ぎを招く可能性が高く、三人は身分を隠した一般の旅人として行動する方針で一致した。

ヴェルドラの身分証問題と賢人都市の構造

リムルは自由組合テンペスト支部で偽名によるギルド証を発行する案を出したが、ヴェルドラは「本名で登録したい」「新人に絡んでくる先輩冒険者とのイベントを体験したい」と駄々をこねた。漫画的なお約束に影響されたヴェルドラに押され気味になったところで、ヒナタが賢人都市の構造を説明した。王都は魔塔に直結する首都区画と、その外周に広がる一般区画に分かれており、一般区画は自由貿易区域で身分証も不要、西方聖教会の支部も存在し、そこを拠点に自由組合で正式なギルド証を取得すればよいと提案した。これにより、ヴェルドラは本名で冒険者登録を受ける計画が成立した。

教会での受け入れとニックスの態度改修

三人はマルクシュアに到着すると、西方聖教会マルクシュア支部を訪れ、若い司祭ニックスの出迎えを受けた。ニックスはヒナタには深い敬意と感謝を示し、聖騎士団長としての彼女を熱烈に崇拝していた一方で、ヴェルドラには邪竜として露骨な敵意を漏らし、リムルに対しても魔王であることを理由に冷淡な態度を取った。しかしヒナタは、リムルが自らの恩人であり、同郷の友人として軽んじることを許さないと明言し、ニックスを諭した。これによりニックスは態度を改め、神ルミナスの愛は魔王であっても平等に向けられるべきだと口にして、リムルに対して正式な謝罪と協力を約束した。ヴェルドラについては因縁の名残から敵視が残るものの、リムルは今後の態度次第で理解されると説き、怒らないよう釘を刺した。

装備準備と「普通の人」の荷物問題

教会を宿代わりに利用する段取りを整えた後、三人は各自の部屋に荷物を置き、食堂で集合することにした。リムルは危険察知と避難経路の確認を兼ねて部屋を一通り調べるなど、癖となった安全確認を済ませている。食堂に現れたヴェルドラは、カイジンが仕立てた装飾重視の派手な冒険者風衣装を自慢し、リムルもシュナ作の魔法使い風ローブを着用していた。実際には二人とも防具性能を『万能結界』などの能力で補っているため、見た目重視で問題ない状態であった。一方、ヒナタは聖騎士の制服から、革鎧や胸当て、手甲・足甲を備えた堅実な冒険者スタイルへと着替え、大きな荷物を背負って現れた。リムルが収納スキルで荷物を持たないことに慣れている感覚で「隠し持てば良いのでは」と提案すると、ヒナタは「普通の人間は常時収納魔法を維持する余裕はない」と指摘し、リムルにスキルに依存しない“不便な生活”を理解するよう促した。リムルは表向き前向きに検討すると答えたが、内心では便利さを手放す気が乏しく、ほどほどに付き合うつもりでいた。

自由組合支部でのトラブルとサイラス一派

準備を終えた三人は、ヴェルドラの冒険者登録のため賢人都市の自由組合支部へ向かった。建物内には、王子サイラスとその取り巻き、それに付き従う騎士グレイブ、さらに彼らと癒着しているギルド職員が居座っており、支部全体が一派の私的な溜まり場と化していた。ヴェルドラが新入り冒険者として名乗りを上げると、サイラス達はその自己紹介を嘲笑し、暴風竜の名を騙る頭の弱い新米扱いをしたうえで、ヒナタにいやらしい視線を向けるなど、あからさまな絡みを始めた。ギルド職員もサイラス側に気を遣い、リムル達に非協力的な姿勢を見せたことから、場の空気は完全に敵対的なものとなった。

グレイブとヒナタの一騎打ち

サイラスは「暴風竜や魔王を名乗る詐欺師」と決めつけて侮辱を続けたが、ギルド職員がリムルのランクとヒナタのAランク登録を口走ったことで、三人の名乗りが「ヒナタ・サカグチ」「リムル」と本物であるはずの名前と一致していることが露呈した。それでもサイラス達は信じず、挑発を重ねた結果、グレイブが聖騎士団長を名乗るヒナタとの勝負に前に出た。リムルとヴェルドラはその流れを止めず、むしろ軽食を用意して観戦体勢に入り、ヒナタも「自分の分は残しておきなさい」とだけ釘を刺して勝負を受けた。戦闘が始まると、ヒナタはグレイブの攻撃を冷静に捌きながら、細剣で相手の指を一本ずつ切り落としていくという、徹底的に再起を断つ戦い方で圧倒した。結果、グレイブは満足に剣を握れない状態に追い込まれ、一派はヒナタの圧倒的な実力と残酷さを前に恐慌状態となり、サイラスはヒナタを「絶対関わってはいけない相手」と認識して逃げ出した。

ヒナタの計算と恩売り戦略

戦いの一部始終を見ていたリムルは、指を切り落とすという過激なやり方に疑問を抱き、もっと穏便に済ませる余地があったのではないかと問うた。これに対しヒナタは、あえて相手の心と戦意を折るほどの差を見せつけたうえで、後からポーションで回復させて恩を売る意図があったと明かした。リムルが高品質の回復薬を大量に保有していることを前提にしており、圧倒的な実力と慈悲を同時に見せることで、相手を二度と逆らえない立場に追い込みつつ、最悪の場合は王子から高額の代価を得る算段でもあった。リムルはその冷静な計算に感心し、自身の甘さを痛感した。

ヴェルドラの冒険者登録とBランク認定

サイラス一派が撤退した後、震え上がったギルド職員は態度を一変させ、ヴェルドラの冒険者登録に全力で協力した。登録に必要とされたのは名前や出身地、特技など基本的な情報だけであり、ヴェルドラは特技欄に「ヴェルドラ流闘殺法」と書き込んで満足していた。さらに職員は、ヴェルドラが本物の暴風竜であると悟るや否や、試験を省略して即座に合格とし、自らの権限で付与可能な最高ランクであるBランクを与えることを決定した。こうして、ヴェルドラは当初望んでいた「本名での冒険者登録」を、ほとんど事件レベルの騒動込みで手に入れたのである。

第三話 夜会への招待

自由組合支部で明かされたサイラス一派の事情

ヴェルドラの登録処理を待つ間、リムル達は支部職員から事情を聞き出した。マルクシュアでは森が遠く採取や探索系の依頼が少なく、魔物討伐が中心で人材不足に陥っていた。その穴を埋めていたのがサイラス王子一派であり、支部は彼らに依存していたのである。サイラスは魔法の才能がないため王宮で冷遇され、魔法が使えない幼なじみ三人と、同じく非魔法系の剣士グレイブを伴い、「落ちこぼれ」同士の勢力として平民を守ろうとしていたことが明らかになった。

自由組合の構造的問題とリムル・ヒナタの線引き

リムルは、本来国家から独立しているはずの自由組合が王子に牛耳られている現状を問題視した。しかしヒナタは、ユウキと共に行った組織改革の経緯を踏まえ、国の関与を完全排除すれば猛烈な反発で組織そのものが瓦解しかねなかったと説明した。結果として素早い全国展開を優先したため、こうした癒着の芽はある程度予想しつつも残されていたのである。ヴェルドラは「辺境の魔物を自分が一掃する」と張り切ったが、ヒナタは本部の要請もない独断行動を却下し、リムルも「去った後まで責任を取れない以上、踏み込み過ぎない」と判断して、深入りを避ける方針を取った。

サイラスとグレイブの敗北後の心境と反省

一方サイラスは、治療中のグレイブを案じて医務室横の控室で苛立ち、酒を求めるほど荒れていた。グレイブは綺麗に切断されていた指を下位回復薬と縫合で繋いだものの、元の可動には自らの鍛錬が必要と語り、ヒナタの圧倒的な実力を素直に認めた。サイラス達がギルドで新人に絡んでいたのは、仲間を増やし勢力を広げるためであり、王位簒奪ではなく「平民を守る力」を得るための行動であったことも示される。しかし結果として、聖騎士団長・魔王・『暴風竜』という最悪の相手に喧嘩を売っていた事実を理解し、一同は「ついていなかった」と己の軽率さを反省した。

魔王からのポーションと三者への畏怖

そこへ城の使用人が、ギルド職員経由の小袋を届けた。中身はリムルからのメモと高性能ポーションであり、「ヒナタがやり過ぎたので怪我を治すために渡す」という意図が添えられていた。グレイブは、わざわざ芝居がかった罠を仕掛ける必要はないと判断し、一気に飲み干す。すると指を含めた傷は完全に消え失せ、全員がその効果に驚愕したのち、魔王リムルの力と、それを当然のように使わせるヒナタ、さらに『暴風竜』ヴェルドラの存在に対する畏怖を強めた。もしあの場でヴェルドラが暴れていれば、無事では済まなかったと理解し、彼らは「よく生きて帰れたものだ」と本気で恐れおののいたのである。

王太子ヘリオスの警戒と策謀

場面は王都へ移り、王太子ヘリオスが腹心からサイラスの失態報告を受けていた。マルクシュアでは魔法が権威の源であり、魔法が使えないサイラスは貴族から支持されず、既に現王と王妃からも見放されていた。一方、ヘリオスは優れた魔法使いとして順当に次期国王と目されていたが、サイラスの頭脳と人徳が「他国基準なら王として十分通用する」ことを理解しており、わずかな不安を捨て切れずにいた。そこでヘリオスは、今回兄の面目を潰したリムル達を「兄の鼻を折った面白い連中」と評しつつ、サイラスの評価をさらに貶める材料として利用し、自身の立場を盤石にする策を練り始めた。

王家からの夜会招待とヒナタの即断

滞在二日目、教会にマルクシュア王家からの夜会招待状が届いた。差出人は第二王子にして王太子のヘリオスであり、司祭ニックスは「怒らせると面倒」と本音丸出しで警告した。招待状の文面は明らかに上から目線であり、魔王リムルに対しても「話を聞いてやるから来い」とでも言いたげな内容であったが、ヒナタは「ヴェルドラの身分証も手に入ったし、これで賢人都市と王城へ正面から入れる」と判断し、むしろ機会として歓迎した。目的はあくまで魔塔での資料閲覧であり、国と正面衝突する意図はないため、リムルとヴェルドラも方針に従って夜会出席を決めた。

「行き当たりばったり」な作戦方針

作戦会議の結果、ヒナタの提示した方針は「相手の反応を見て臨機応変に対応する」という極めてシンプルなものだった。リムルとヴェルドラは「行き当たりばったりでは」と内心ツッコんだが、ヒナタの洞察力と実戦経験を考えれば、細かい事前プランより状況対応の方が合理的であると認めざるを得なかった。三人は、マルクシュア王国とは不必要に事を構えず、魔塔に到達するための最短ルートとして夜会を利用する、という共通認識を固めた。

使者の無礼と「本物」を悟らせる示威行動

夕刻、王城から迎えの馬車と使者が到着したが、その馬車は質素で、使者も「魔王リムル」「暴風竜」「聖人ヒナタ」に対して露骨に見下した物言いをした。リムルとヒナタが思念で意見交換した結果、彼らは自分達の正体を「偽物扱い」していると判断し、早急に誤解を解く必要性を悟った。そこでリムルは、自前の豪華な特注馬車を『胃袋』から取り出し、王家の馬車を横に退けてこちらに乗るよう提案した。ヴェルドラは御者を買って出て、ランガが馬の代わりに馬車を牽引する形となり、使者は内装の豪華さに圧倒されて態度を一変させた。リムル達は、この示威で「自分達が本物である」と王城側に察させる布石を打ったのである。

ヒナタのドレスと夜会への備え

馬車の中で、リムルはヒナタの服装についても確認した。ヒナタが着ているのは、以前テンペストで仕立てた最高級生地のドレスであり、デザインこそ時代を先取りしているものの品質は他国の王都にも引けを取らないと判断された。肩を大きく露出したスタイルでありながら、内部にはスリットや武器隠しも仕込まれており、「いざとなればそのまま戦えるドレス」として実用性も備えていた。リムルとヴェルドラはスーツ姿で揃え、三人はそれぞれ夜会仕様の装いを整えた上で、マルクシュア王城へ向かう覚悟を固めたのである。

第四話 夜会での顛末

ブラガ伯爵の屈辱的任務拝命

ブラガ伯爵は、ヘリオス王太子に呼び出されたことで、自身も次代王の派閥入りだと勘違いし、有頂天で登城したのである。だが命じられた内容は「兄サイラスを謀った詐欺師達の呼び出し役」という使い走りに過ぎず、高貴な伯爵である自分が素性不明の者の護送を任されたことに深い屈辱を覚えた。それでも、盤石な権勢を持つヘリオス派に逆らえば出世の道は絶たれると判断し、ここは忠誠を示すべきと割り切って任務を受け入れたのである。

教会での対面と「本物」への認識

ブラガは詐欺師一行が滞在する教会を訪れ、相手を低俗な平民と決めつけて観察もろくにせず、高圧的に「暴風竜」「魔王リムル」「聖人ヒナタ」を名乗る三人を嘲った。しかし実際に目にした三人は見目も装いも整っており、ヒナタのドレスも噂の魔国風であったため、ブラガは「詐欺師にしては洗練され過ぎている」と違和感を覚える。そこへリムルが、王家の馬車より格上の豪華な馬車への乗り換えを提案し、実際に目の前へ転移させてみせたことで、ブラガはこの三人が本物であると悟り、恐怖と緊張に支配されたまま王城へ戻る羽目になった。

待合室での歓待とヒナタを巡るやり取り

王城到着後、三人は待合室に案内され、ブラガは王側への報告のため走り去った。待合室には果物が並び、リムルとヴェルドラは待ち時間を楽しむように試食を始める。ヒナタはそれに呆れつつも、目付きの鋭さや口調のせいで周囲が必要以上に畏縮していることが判明し、自身が「小うるさいのか」と不安を口にする。リムルは無難な社交辞令で取り繕い、その場の空気を収めようと努めた。

夜会場への入場と貴族達の値踏み

ブラガは息も絶え絶えになりながら戻り、三人を夜会場へ案内した。衛兵の口上と共に「聖人ヒナタ・魔王リムル・暴風竜ヴェルドラ」が入場すると、貴族達は小声で彼らの容姿やドレスを評しつつも、本物とは信じ切れず「ブラガが話を盛っている」「平民にしては見事だ」と値踏みする態度を崩さなかった。ブラガは何度も本人達であると説明したが受け入れられず、そのことを詫びるしかなかった。

ヘリオス派と王の傲慢な余興計画

一方、少し前の時間軸では、ヘリオス王太子が兄サイラスとその腹心グレイブの失態に上機嫌となり、取り巻き達と共にサイラスを嘲笑していた。護衛騎士から「グレイブを倒した詐欺師もAランク級ではないか」という指摘が出たものの、魔塔で学んだ貴族達は「魔法障壁さえあれば剣士など恐るるに足らず」と都合良く解釈し、詐欺師一行を公開の場で打ち負かす余興として利用しようと企んだ。現実の脅威を知らない王と王太子は、魔王や竜種の危険性を軽視したまま、力を誇示する好機と勘違いしていたのである。

歓迎儀礼の欠如とヒナタによる牽制

夜会場で王とヘリオス、サイラスらを目にしたリムル達は、王が立ち上がりもせず座ったまま出迎える無礼な態度から、自分達が偽物扱いされていると判断した。ヒナタはブラガから報告が行き届いていることを確認すると、「それならばこの国は要人の出迎え方も知らぬ野蛮な国」と痛烈に皮肉り、リムルに「帰りましょうか」と示唆して退出を図る。王はこれを利用してヘリオスに「余興の開始」を命じ、扉は騎士達によって封鎖された。

リムルの警告と「衝撃吸収領域」の展開

リムルは記録用の水晶球を取り出し、その場の会話と行動を全て記録すると宣言して、自分達が正当防衛を主張できるよう布石を打った。しかしヘリオスはこれを「浅知恵の脅し」と笑い飛ばし、魔塔主から授かった大魔法「衝撃吸収領域(アンチショックエリア)」を発動させた。これは物理攻撃を無効化する結界で、魔法封じの結界との公平性を謳いながら、無手の相手を完全に封じたつもりになっていたのである。リムルとヒナタは、その魔法構造が高度である一方、竜種には意味をなさないと即座に見抜いた。

ヴェルドラの「ほどほど」の暴走と会場崩壊

ヘリオス配下の魔法使い達は連携して火炎球を放ち、騎士達は魔法剣と自己強化でヴェルドラに斬りかかったが、ヴェルドラはそれらを難なく無効化し、巧みな体術と奪った剣で四人の騎士を瞬時に制圧した。この時点でも貴族達は自分達の優位を信じ込み、切り札として極大魔法「火炎大魔嵐」を結界内に叩き込む準備を進める。リムルは王に「そろそろ止めさせた方がいい」と忠告したが、王はそれを命乞いと受け取り耳を貸さなかった。その結果、完成した火炎大魔嵐は、ヴェルドラの一撃「覇竜絶影拳」によって魔法障壁ごと叩き割られ、解放された炎の奔流が会場を吹き飛ばした。天井は崩落し柱は折れたが、衝撃吸収領域のおかげで死者は出ず、結果的には会場のみが大破する形となった。

竜種への無知とマルクシュア王国の愚かさ

リムルは、竜種ヴェルドラが魔素の塊であり、物理・魔法の区別を超越した存在であることを説明し、古い文献を読んでいれば誰でも知り得たはずの常識を王太子達が理解していないことに呆れた。ヒナタの情報によれば、魔王ルミナスでさえヴェルドラには勝てないと自認しており、真の脅威を知る者は決してこのような挑発を行わないはずであった。それでも王とヘリオスは、自らの傲慢と無知ゆえに余興を強行し、自国の王城を半壊させるという失態を演じたのである。

正当防衛の確保とリムル達の立ち位置

リムルとヒナタは、魔法準備の過程から極大魔法の発動、ヴェルドラの応戦、王や王太子の発言までを水晶球に記録し、自分達の正当性を証明できる材料を揃えた。ヒナタは、助言を無視して暴走したマルクシュア王国を見捨てる構えを示し、リムルも「先に仕掛けたのはそちらだ」と王に告げて責任の所在を明確にした。ヴェルドラは強敵不在に不満を漏らしたが、リムルとヒナタはこれを軽くいなしつつ、愚かな一国の「自業自得」を冷静に受け止めたのである。

第五話 舞台裏の事情

リムル一行の撤収と「腹が減った」問題

ダンスホール崩壊後、リムル達は既に用件は済んだと判断し、会場から退出しようとした。王も王太子も放心状態で、騎士達も立ち上がる気力を失っており、これ以上揉め事が起きる気配はなかった。リムルは空腹を自覚し、ヴェルドラやヒナタと共に「何を食べるか」という話題へ自然に意識を切り替えた。ラーメンや刺身の話で盛り上がり、ヒナタもヴェルドラに釣られて空腹を認めたことで、一行は漁港の酒場へ向かうことを決めたのである。

使者ブラガ達への配慮と証言の取り付け

退出しようとするリムル達に、使者ブラガを含む一部の貴族が感謝を述べた。彼らは攻撃に参加せず、むしろ事態を止めようとした側であり、リムルもそれを把握して保護していた。リムルは感謝は不要としつつ、評議会で問題となった際には「自分達は悪くなかった」と証言してほしいと頼み、貴族達もそれに快諾した。加えて、今回の愚行はマルクシュア王国全体の総意ではないと説明しようとする彼らに対し、リムルは戦争するつもりはなく、魔塔での調査が目的であると明言した。ヒナタも正式な紹介状を提示し、これ以上のトラブル回避を強く求めたことで、一行は安心して王城を後にした。

漁港の酒場での豪遊と料理批評

一行が向かった漁港は、魔塔を中心とした結界によって大海獣の脅威から守られており、安全に漁ができる地域であった。酒場に入った三人は、リムルの奢りを当然のように受け入れ、山盛りの料理を遠慮なく注文した。塩焼きの白身魚、小魚の南蛮漬け、鍋物、刺身など海産物は豊富であったが、リムルは醤油が存在しないことに物足りなさを覚えた。ヒナタも魚のさばき方に不満を示し、テンペストでのハクロウの調理技術と比較して評価した。リムルは料理研究用のサンプルとして魚を大量に仕入れ、シュナやハクロウに調理を依頼するつもりでいたが、ヒナタとヴェルドラが当然のように「味見役」として同行を宣言し、その圧に屈した結果、リムルの小遣いは大幅に削られることになった。

王城での国王の激昂と現実認識

その頃、王城の一室では国王がダンスホール崩壊の結果に激昂していた。三百人以上が踊れる自慢のホールは瓦礫の山と化し、修復には時間がかかる見込みであったが、幸いにも重傷者は出ていなかった。しかし問題は建物ではなく、相手が本物の暴風竜ヴェルドラと魔王リムル、聖人ヒナタであったという事実である。国王は、ファルムス王国がリムルの怒りによって滅んだ前例を踏まえ、自国も同様の危機に晒されかねないと理解し、ヘリオス王太子に激しい怒りをぶつけた。ヘリオスは「本物とは思っていなかった」と弁明したが、ブラガからの報告を聞いていた以上、その言い訳は通らず、国王の怒りは恐怖と自己保身の裏返しであった。

アシュレイ子爵の正体と魔塔の威圧

緊迫した空気の中、アシュレイ子爵が不遜な態度で現れ、王の怒りを「怒り過ぎ」と笑い飛ばした。普段はヘリオスの腰巾着として目立たなかった彼が、足をテーブルに投げ出して王に話しかける異常な光景に、ヘリオスと宰相は困惑する。しかし国王はアシュレイを「様」付けで呼び、へりくだった態度を取ったことで、立場の逆転が露わになった。アシュレイはこの国に与えていた技術を「型落ち」と評し、それを過信してヴェルドラに喧嘩を売った国王の判断を批判した上で、魔塔からの支援停止を匂わせる形で恫喝した。そして、自らが魔塔の「最古参の三賢人」の一人であると明かし、魔塔こそがこの国の支配者である現実を暴露した。

魔塔とマルクシュア王国の従属関係

宰相は事態を収拾するため、ヴェルドラ達の動向を把握しており、魔塔への来訪目的も推測済みであることを訴えた。アシュレイは、リムルが紹介状を所持している点に一瞬思考を巡らせつつも、その場では詳細な追及を避け、「後日ペナルティを通達する」とだけ告げて退出した。アシュレイの退室後、国王はもはや隠し立ては無意味と判断し、王太子と宰相に真相を語った。マルクシュア王国は魔塔の庇護下にあり、王都を覆う結界と海の安全、さらには魔法使いを呼び込む経済構造までもが魔塔に依存していることを明かしたのである。対価として、この国の魔法使い達は定期的に魔力を吸い上げられており、それが週に一度の強い疲労感という形で現れていたと宰相は合点した。

王家の宿命と魔塔からの解放の夢

宰相は評議会の存在を持ち出し、魔塔による一国支配は本来許されないはずだと主張したが、国王は結界と経済基盤を失うリスクを理由に、反抗は現実的でないと断じた。魔塔なしでは王都防衛も漁業も成り立たないため、実質的に逆らえない従属状態にあることを認めたのである。ヘリオスが「自分に魔塔への反逆を求めているのか」と感情的に問うと、国王は、もしヘリオスがヴェルドラを討てていれば、魔塔と交渉し支配を緩和する切り札になり得たと告げた。つまり、王は息子に「魔塔からの解放」という代々の王が抱く夢の実現を託していたが、それが失敗に終わったことも露呈した。

魔塔滅亡の仮説と「解放」が意味するもの

宰相は「もし魔王リムルが魔塔を滅ぼせば、自国は解放されるのではないか」と口にしたが、国王はそれを真っ向から否定した。魔塔の崩壊は、結界の消失と海上安全の喪失を意味し、国の安全保障と経済を同時に崩壊させる「民にとっての悪夢」であると説明したのである。魔塔の支配は王家にとっては重荷だが、民にとっては衣食と安全をもたらす存在でもあり、その矛盾を受け入れ続けることこそが王家の役割だと国王は認識していた。

王家の秘伝と父子の断絶

国王は、魔塔との関係が王家の極秘事項であり、本来なら次代の王に即位時にのみ伝えられる内容であると明かした。今回は非常事態のため例外的にヘリオスと宰相に共有したが、外部への漏洩は絶対に許されないと念押しする。退出間際、ヘリオスが「父は兄をこの宿命から逃がそうとしたのか」と問うと、王は「兄には魔力がなかったから巻き込む必要がなかった」と答えた。これは、王が魔塔の支配から少しでも誰かを遠ざけようとしたとも解釈できるが、ヘリオスには「自分は愛されていない」という感情として響き、父への絶望と自らの未来への恐怖を深める結果となった。こうして、王家と側近達はそれぞれの立場で苦悩を抱えたまま密会を終え、その一部始終を隣室で盗み聞きする第三者の存在には、誰も気付いていなかったのである。

第六話 策謀する黒幕

三賢人の正体と支配構造

アシュレイ子爵は王城から戻ると、『結界』を無視して魔塔の支配階層に転移し、そこにいるプレリクスとピピンの二人と合流したのである。三人はそれぞれ、真夜中の吸血鬼プレリクス、眼帯のハイ・ヒューマンであるピピン、火精人本来の姿に戻ったアシュレイであり、長命種として長い年月を生きてきた存在であった。この三名こそが魔塔を裏から支配する「最古参の三賢人」であり、人前では仮の姿を用いて活動していたのである。

竜種制御という命題と魔王勢力への敵意

三賢人は、自分達の命題として「竜種を従えること」を掲げており、世界中の魔法資料を集めて研究を進めていた。かつてヴェルドラをルミナスの城へ誘導して破壊させた過去もあったが、それ以降は機会に恵まれず、竜種の強大さに手を焼いていた。また、彼らは裏の世界の覇権を狙っており、人類・魔王・竜種の三勢力のうち、とりわけ魔王勢力を排除すべき敵と見なしていた。中でも西側諸国にルミナス教を広める魔王ルミナスは、聖都と結界を拠点に人類社会へ影響力を及ぼす最大の宿敵として認識されていたのである。

無限回廊の秘法とヴェルドラ捕獲計画

三賢人は、演算能力に特化したピピンの手によって、対象を閉じ込めてエネルギーを吸い上げる「無限回廊の秘法」を完成させていた。この術式は、敵が強ければ強いほど効果が増す封殺術であり、個人・軍団・竜種にまで応用可能な切り札であった。ヴェルドラを取り逃がしたという報告に激怒していたプレリクスは、王太子達が勝手に仕掛けたことを愚策と断じるが、アシュレイは「リムル一行が魔塔に向かっている」という情報を持ち帰っていた。それにより、明後日の夜に向けて、ヴェルドラを無限回廊に封じ、魔王リムルと聖人ヒナタは自分達で討ち取るという大規模な罠の構想が固められていった。

紹介状の出所とルミナス関与の疑念

アシュレイは、リムルが「魔塔への紹介状」を所持していると聞き、その出所に疑念を抱いた。各国王族ですら正式な紹介を受け付けない魔塔に紹介状を渡せる存在は限られており、三賢人は即座にルミナスを疑った。ルミナスと三賢人は千日手のような水面下の勢力争いを続けており、双方が強力な防衛結界を持つことで直接攻撃しづらい状況にあった。その中で、ヴェルドラ・魔王・聖人という過剰戦力をこちらに送り込んでくるのは、魔塔を滅ぼし得る一手として十分にあり得ると三賢人は判断したのである。

賢人都市からの魔力強制徴収と住民切り捨て

三賢人は、明後日の決戦に備えて賢人都市からのエネルギー回収量を増やすことを決定した。ピピンの提案に対し、プレリクスは「多少の犠牲は研究の常」として容認し、アシュレイもこれを了承した。賢人都市の住民からは、普段の「日常生活に支障のない程度」の魔力だけでなく、今回は強制的に生気を吸い上げる方針に切り替えられたのである。住民の混乱や体調悪化は織り込み済みであり、三賢人にとっては「罰」と「実験」の一部に過ぎなかった。こうして、リムル達が未知の「客人」として訪れる前段階で、恐るべき罠とエネルギー供給体制が整えられていった。

リムル一行の体感した異常と一時帰国の決定

一方その頃、リムルはヒナタとヴェルドラに豪遊させた結果、財布は軽くなりつつも、仲間と共に食事を楽しめたことで満足していた。翌朝、王都を散策していた三人は、魔力の流れがおかしいことに気付き、『万能感知』と解析によって、王都の結界が住民の生気をエネルギー源としている仕組みを把握した。もともと結界維持のための魔力吸収は合理的な仕組みであったが、この日は明らかに吸収率が過剰であり、ラファエルの報告からも通常運用を逸脱していることが判明したのである。ヒナタも不快感を覚えるほどで、体力の少ない者には深刻な負担になると三人は推察した。リムルは目立つ介入を避ける判断を下し、魔塔出現までまだ日があることから、一度テンペストに戻って体制と醤油を整えることを決めたのである。

賢人都市の危機とサイラスの動揺

王城での密会を盗み聞きしていたサイラスは、魔塔と王家の関係、そして自分が父に愛されていた事実を知り、喜びと戸惑いの入り混じった感情に苛まれていた。そこへ賢人都市内で魔力を吸い上げる異変が本格化し、門番や住民が次々に倒れていく。サイラスはグレイブと共に状況を確認し、魔塔の制裁であると察した。魔力の少ない子分達を外に残し、自身は魔法道具のペンダントで守られ、グレイブは闘気によって魔力吸収を防ぎながら王城へ急行したのである。

王城会議の混乱と魔塔依存の限界露呈

王城では、魔力吸収に耐えられる一部の騎士と王族、貴族だけが動ける状態となっていた。医療関係者も倒れ、賢人都市の魔法偏重社会の脆さが露呈する中、王・宰相・ヘリオスが中心となって魔塔との関係見直しを議論していた。王は魔塔を敵に回す選択肢を否定しつつも、今回の過剰徴収は看過できないとして方針転換の必要性を感じていた。一方、貴族達は家族の安否を理由に感情的になりながらも、結界からの脱出が不可能であることから有効な対策を提示できず、会議は紛糾した。サイラスの素朴な疑問は「避難先がない」という現実に跳ね返され、さらに国王から発言を制限されることで、彼は傍観者として会議の空虚さを痛感することになった。

サイラスの提案と魔王リムルへの「非公式依頼」

休憩時間、サイラスは庭でグレイブと相談し、「魔王リムルに助けを求める」という案を持ちかけた。無謀に見える提案であったが、リムルが自分達に高価な回復薬を送ったことから「利用価値がある相手として見られている」とサイラスは解釈し、交渉の余地があると踏んだのである。グレイブも、実際のリムルとヒナタの人柄が噂よりも遥かに温厚であったことを思い出し、完全には否定出来なかった。結界破壊も自力避難も不可能な状況で、他に手段がない以上、サイラス案は唯一の「動き」であった。

国王の覚悟と兄弟の初めての会話

サイラスの提案を聞いた国王は熟考の末、これを許可した。ただし、マルクシュア王国としては「公的には魔王と交渉していない」という体裁を取ることを条件とし、結果次第で責任の所在を使い分ける構えを示した。魔塔と完全に決別する覚悟までは固まっていないものの、魔塔が王国を「餌」として見ていることが明らかになった以上、このまま従属を続けることにも限界を感じていたのである。さらに王は、魔王側が敗北した場合は自らの首で魔塔の怒りを引き受けると語り、その際はヘリオスが王として国を継ぐ形になると暗に示した。サイラスには「交渉が失敗して魔王の怒りを買った場合は、お前が責任を取れ」と告げ、表向きの責任も割り振った。

この場で王は、ヘリオスに対しても「この国を託せるのはお前だけだ」と告げ、サイラスに対しては嫉妬や不満を抱き続けてきた過去を認めつつ、初めて兄弟らしい言葉をかけた。サイラスとヘリオスにとって、それは「王ではなく父」「競争相手ではなく兄」として向き合った最初の瞬間であり、賢人都市が崩壊の危機にある中でようやく結ばれた、遅すぎる家族の対話でもあった。

第七話 救助活動

賢人都市への再訪と結界異常の悪化

リムル一行は刺身と温泉で英気を養った後、新月の夜に合わせて再びマルクシュア王国を訪れた。ところが、前日よりも明らかに強い勢いで結界が住民の魔力を吸い上げており、その魔力は海の向こうの魔塔へ流れ込んでいると判明した。ヒナタとヴェルドラも「普通の魔法使いでは意識を保てない」と判断し、状況の異常さを共有したが、紹介状もある以上、理由なく撤退するのも癪だとして、予定通り魔塔攻略を続行する方針となった。

サイラスの嘆願と救助介入の決断

そこへサイラス王子と剣士グレイブが駆けつけ、賢人都市内部で住民が次々と魔力欠乏で倒れている現状を訴え、魔塔の結界からの解放を懇願した。リムルは本来無関係な他国の内政問題への介入をためらったが、「子供にも被害が出ている」と聞かされて黙殺を断念し、まずは被害者救助を優先する決断を下した。ヒナタも教会からの救援派遣を約束し、一行は本格的に救助活動に乗り出した。

野外病院と炊き出しによる魔力欠乏症対策

リムルは『空間支配』でソウエイらを呼び寄せて重篤者の捜索を任せ、自身はダンスホール跡地を『暴食之王』で更地にして野外病院兼炊き出し会場へと変えた。『解析鑑定』の結果、住民は魔力ではなく「生気」的なエネルギーを過剰に吸われた魔力欠乏症であると判明し、智慧之王の提案した栄養補給策を採用することになった。シュナらテンペストの料理人達が“魔黒米”と牛鹿のミルク、蜂蜜を用いたミルク煮(通称ミルク粥)を大量に作り、ヒナタも自ら大鍋をかき混ぜて調理に参加した。リムルは現場監督役として人員配置と動線を指揮し、ヴェルドラも兵士達と共に貴族層の我儘を押さえ込みながら配膳を円滑化した。

市民の回復と被害規模の把握

重症の子供や老人から優先的にミルク煮を与えることで、患者達は短時間で目に見えて回復し始めた。賢人都市の人口は一万未満であり、魔力の低い商人・漁師層が特に危険な状態だったが、幸い死者は出なかった。救助開始から約三時間で大多数の住民が回復し、翌朝の朝食もミルク煮で対応する方針が決定された。一部の貴族が順番に不満を漏らしたものの、全体としては魔王側への感謝が勝る結果となった。

王の価値観の崩壊とテンペスト傘下要請

王城からこの光景を見下ろした国王とヘリオス王太子は、「魔王自らが民の手当てに立つ」という姿に強い衝撃を受け、王族は頭を下げてはならないという従来の価値観が崩されていくのを自覚した。国王は、魔王リムルが自分達からどう見られるかを意に介していない絶対的存在であると認識し、従来のプライドに固執する無意味さを悟る。やがて国王はリムルらを応接室に招き、まず先日の非礼と今回の救助への深い謝意を表明した。その上で、自国をテンペストの傘下に加えてほしいと正式に要請し、魔塔支配からの離脱と国家存続のための庇護を求めた。

西方聖教会の教義変更と仲裁案の提示

リムルは一国の属国化を即答で認めることに抵抗を示し、評議会や西方聖教会への支援要請を提案するが、マルクシュア王国はこれまで教会活動を排斥してきた経緯があり、今更支援を求めるのは困難であると国王は説明した。ここでヒナタが前に出て、西方聖教会の教義が「意思疎通と信頼が成立する魔物との共存容認」へ変更されたことを説明し、魔物国家との国交を妨げないと明言する。加えて、教義を受け入れるなら教会が仲裁役となり、魔塔による過剰な魔力徴収の是正を含む新たな取り決めを模索する用意があると伝えた。リムルとヒナタは、魔塔と直接敵対するのではなく、ルミナスからの紹介状を用いて交渉の場を設け、結界問題の是正を図る方針で一致した。

魔塔への出発と王都側の体制構築

国王側との折衝は、王都に滞在していたニックス司祭と、呼び寄せられたシュナ・ソウエイに委ねられることとなった。彼らがマルクシュア王国と西方聖教会・テンペストの三者関係の調整役を担う一方で、リムル・ヴェルドラ・ヒナタの三名は新月の夜に現れる魔塔への突入担当となる。リムルは住民の回復状況と王都側の受け入れ体制が整ったことを確認し、後事を託して魔塔の天頂部に設けられた転送陣へ向かった。

魔塔内部でのアシュレイとの対面と誤解の発覚

魔塔上部の円形魔法陣に降り立った一行は、転送装置で内部の広間へ移送された。そこでは、空間魔法で構造を維持する螺旋階段に囲まれた大部屋の中央に、ローブ姿の人物の投影映像が待ち構えていた。その映像は途中で切り替わり、軽薄な雰囲気を纏う青年アシュレイとして自己紹介を行う。アシュレイは、ルミナスに恨みを持つ側としてリムル達の来訪を「ルミナスの差し向けた刺客」と解釈し、喧嘩を売りに来たのだろうと挑発的な態度を取った。ヒナタが仲裁の意図と紹介状の存在を説明しようとしたところで違和感に気付き、その場で紹介状を確認した結果、それが実質的な挑戦状であることが判明し、一行はルミナスに利用されていた事実を思い知らされた。

三賢人の野望と戦闘回避不能の認識

アシュレイの発言と、ルミナスからの書状内容の照合により、魔塔側の三賢人は「人類を自らの神格で支配する」という野望を抱き、既にマルクシュア王国の結界を通じて住民を“エサ”として扱っている勢力であると判明した。ヒナタは、共存を掲げる現行教義と決定的に相容れない思想であると判断し、いずれにせよどこかで武力衝突は避けられなかったと結論付ける。リムルは可能な限り殺さず制圧する方針を示し、ヒナタも「善処する」としつつ戦闘を受け入れた。ヴェルドラは当然のように武力解決に前向きであり、一行の間で対魔塔戦の方針は固まった。

罠を承知のうえでの交渉受諾と次の局面

智慧之王ラファエルは、魔塔に入った時点で既に不穏な術式展開を感知していたが、解析の結果、対処可能な範囲の罠であるとリムルに告げていた。敵地である魔塔側に地の利があることを承知しつつも、リムル達は心理的余裕を保ったままアシュレイの出方を窺う。アシュレイは、ルミナスに切り捨てられた形のリムル達に対し、「ルミナスと手を切って自分達の側につかないか」と勧誘を行い、いったん場所を変えて仲間を紹介すると提案した。リムル・ヒナタ・ヴェルドラは、全面戦闘を視野に入れつつも情報収集と時間稼ぎの意味も込めてこの提案に応じ、交渉という名の前哨戦へと歩みを進めるのであった。

第八話 交渉の行方

三賢人との対面と交渉の場

リムル、ヒナタ、ヴェルドラはアシュレイの案内で魔塔内部の広間に到達し、そこで「最古参の三賢人」ことアシュレイ、ピピン、プレリクスと対面したのである。三人はそれぞれ若者、少女、壮年紳士という外見であったが、全員がルミナスと同時代を生きる古の魔人であり、覚醒魔王級の力を持つ存在であった。交渉役を買って出たヒナタは、まず相手の主張を聞き出す方針を取り、リムルとヴェルドラは後方で状況観察と情報の整理に徹した。

三賢人の主張とルミナスとの決裂

話し合いの中で、三賢人の過去と思想が明らかになっていった。彼らは元々ルミナスと同じ「神祖の高弟」であり、人類支配を巡って路線が対立して袂を分かった存在である。真夜中の吸血鬼プレリクスは、人類を「糧と奴隷」と見なし、幸福など一切考慮しない恐怖支配を理想としていた。演算特化型のピピンは、人類を実験素材としか見ず、「文明の発展には犠牲が当然」と本気で語る狂気の研究者であった。アシュレイは弱肉強食と能力主義を絶対視し、「弱者は切り捨て、自己を高めた者だけを残す世界こそ正しい」と主張しており、三者とも人類を「資源」以上には扱わない思想で一致していた。

価値観の衝突とリムルの「悪あがき」論

ヒナタは人類との共存共栄を基盤とする西方聖教会側の立場から説得を試みたが、三賢人は全く耳を貸さず、交渉の余地はほぼ消滅した。アシュレイは逆にリムルの過去を突き、「真なる魔王への覚醒のためファルムス軍を皆殺しにした行為」と「毒に侵された二人のうち一人にしか薬を与えられない状況」の思考実験を持ち出し、リムルも結局は功利主義的判断をしているのではないかと問い詰めた。リムルは、自分なら知り合いや大切な相手を優先すると認めた上で、「薬を複製して全員を救う」と答え、ルールを捻じ曲げてでも誰も見捨てない「悪あがき」を続けるのが自分の在り方だと主張した。しかし三賢人にはその倫理が全く伝わらず、彼らは逆にリムルの「強さとワガママさ」を気に入り、「ルミナスを倒して自分達の仲間になれ」と勧誘する始末であった。価値観の土台が根本から異なるため、対話での歩み寄りは不可能と判断され、ヒナタも交渉断念を明言した。

創造神の高弟としての三賢人の正体

場面の合間には、三賢人の出自が整理される。アシュレイは造物主たる神祖の高弟第四位で、火精人系統の特化型として創造された護衛役であり、戦闘能力ではルミナス以上であると自負していた。プレリクスは高弟第八位で、ルミナスとは別系統の吸血鬼の始祖として夜を支配する存在だが、陽光を一切受け付けない欠陥から神祖に「失敗作」とされたことを恨み、ルミナスへの憎悪を募らせていた。ピピンは第十三位で、神祖の研究補助用に創られた演算特化型の「真なる人類」であり、生殖も戦闘能力も持たない代わりに、人間の脳を遠隔利用して演算能力を増幅する『特殊並列演算』を有していた。神祖がルミナスに討たれたことで研究成果を捧げる機会を失ったピピンは、ルミナスへの復讐と「神祖の偉大さの証明」として世界支配を目指し、アシュレイ達と利害一致して暗躍していたのである。

三賢人側の作戦とヴェルドラ封印の罠

一方、アシュレイとプレリクスは内心でリムル一行を分析し、既に勝算ありと確信していた。最大の脅威は竜種たるヴェルドラだが、魔塔全体はすでにピピンの能力で「巨大な術式空間」と化しており、入塔した時点でヴェルドラのエネルギーは結界を通じて吸い上げられ、三賢人側へ還元され続けていた。特に新月の夜はプレリクスの力が最大化する条件であり、そこに竜種のエネルギーが加わることで、彼は覚醒魔王さえ「赤子の手をひねる」感覚で屠れるとまで自信を深めていた。アシュレイ達は、第一戦でピピンがヴェルドラを能力で拘束し、その間に自分達の強化を完了させる段取りを共有し、星取り戦形式の三番勝負でリムル、ヒナタを順次叩き伏せる戦略を固めたのである。

ヴェルドラ対ピピンの第一戦と「無限回廊」

リムル側も智慧之王ラファエルから「ピピンが塔と同化した罠の術者」であると知らされており、罠が発動すれば対象を閉じ込めつつエネルギーを吸収するが、その維持には膨大な負荷がかかり、ピピン自身も行動不能になる「実質相討ちの技」であると分析していた。リムルとヒナタは、塔内部でヴェルドラに自由に暴れられる方がよほど危険だと判断し、「罠に嵌る役目」を彼に押し付ける形で第一戦を承諾した。星取り戦の初戦はヴェルドラ対ピピンに決まり、ヴェルドラは得意げに前に出たが、戦闘開始直後、ピピンが「無限回廊(エンドレスループ)」を展開し、ヴェルドラと自身をまとめて虚空へと飲み込んだ。こうしてヴェルドラは塔内から隔離され、ピピンもまた魔塔と一体化したまま姿を消した。結果はラファエルの予測通りであり、リムルとヒナタは「驚くほど予定通り」と顔を見合わせて頷き合った。ラファエルは、ピピンがラミリスの迷宮権能を模倣し、建造物と同化して空間を操作する非常に特異な能力を持つと解析し、「最古参の三賢人」が単なるイロモノではない、本物の強敵であることをリムルに再認識させる結果となったのである。

第九話 リムル、暴走

ヴェルドラ消失後の二戦目開始とヒナタの出撃

一戦目はヴェルドラとピピンが共に「無限回廊」に飲み込まれる形で引き分けとなったが、アシュレイ達は策略勝ちだと勘違いし、完全勝利を確信していた。ヒナタはこの慢心に怒りを覚えつつ、「月光の細剣」と“聖霊武装”を展開し、二戦目の前衛として名乗りを上げた。対するは真夜中の吸血鬼プレリクスであり、彼は降参すれば眷属として生かしてやると傲慢な条件を示しつつ、長剣と血魔爪を頼みにヒナタへと立ち向かった。

星幽束縛術と霊子崩壊による一撃・プレリクスの「絶対不死」

ヒナタは精密な剣技でプレリクスの衣服と皮膚を浅く裂き、その再生能力を確認した上で、呪符を用いて星幽体を縛る「星幽束縛術」を発動した。精神力のぶつかり合いで一瞬だけプレリクスの動きを止めることに成功したヒナタは、隙を逃さず最強クラスの神聖魔法「霊子崩壊」を直撃させ、プレリクスの肉体と霊子を完全に塵へと変換したかに見えた。ヒナタは鑑定結果から、プレリクスが多彩な防御能力を持つ格上の存在であると理解しており、初手から最大火力で仕留める以外に勝ち目はなかったと分析していた。

不意打ち復活とヒナタの重傷・血に酔うプレリクス

しかし、霊子レベルまで分解されたはずのプレリクスは、塔内に働く謎の力と自身の権能「絶対不死」によって即座に再構成され、背後からヒナタへ奇襲を仕掛けた。ヒナタは間一髪で急所を外したものの、脇腹を深くえぐられて重傷を負い、防御の要である“聖霊武装”も完全再生が追いつかない状態に陥った。プレリクスは血魔爪を伸縮・射出しながら、ヒナタの血の香りに酔いしれ、勝利よりも嗜虐と快楽を優先して何度も攻撃を繰り返した。彼の力は聖人の血を摂取する度に増し、対照的にヒナタの体力と再生力は目に見えて衰えていった。

ヒナタの時間稼ぎとリムルへの信頼の衝突

ヒナタはなおも戦線離脱を拒み、自分がプレリクスを引き付けることで、リムルとアシュレイの一騎打ちへの乱入を防ぐ時間稼ぎをしようとしていた。ラファエルの見立てでは、ピピンの「無限回廊」を完全解析・解除するには十分ほど必要であり、まだ半分程度しか経過していない状況であった。ヒナタは、自分が倒れればプレリクスとアシュレイの二人がかりでリムルが狙われる可能性を危惧し、あえて不利な状況でも退かない覚悟を示した。これに対し、リムルはヒナタの負担と傷に耐えられず、自分が出るべきだったと悔やみつつも、「自分を信じろ」「いや、君こそ私を信じろ」という形で互いの信頼をぶつけ合うことになった。

無限回廊内部の攻防とヴェルドラによるリムル評価

一方、「無限回廊」の内部では、ヴェルドラが上も下もない書架の空間で平然と構えつつ、自身の究極能力「究明之王」で脱出方法の解析を進めていた。ピピンは二対一ならリムルを倒せると主張していたが、ヴェルドラは「リムルは狡猾で恐ろしく、あらゆる想定を忘れない」と断じ、そもそもリムルを二人がかりで倒せると考えること自体が勘違いであると告げた。ヴェルドラの認識では、自身とリムルの戦いは千日手であり、互いに決定打を与えられないほど拮抗している一方、八星魔王でもリムルと正面から渡り合える者は限られていると評価していた。この言葉を受けたピピンは、自身の前提データの誤りに気付き始め、不安を覚え始めた。

ルール破棄とリムルの激怒・プレリクスへの制裁開始

戦場に戻り、ヒナタは満身創痍の末にリムルを信じて降参を宣言し、戦場を離脱しようとした。しかしプレリクスはルールを無視し、降参したヒナタを眷属化するために背後から再び襲いかかった。リムルはヒナタを抱きとめつつ、左腕の甲殻で血魔爪を無造作に弾き返し、顔面へ蹴りを叩き込んでプレリクスを吹き飛ばした。ヒナタは辛うじて意識を保ったままリムルを信じると言い残して失神し、リムルは「大切な仲間をここまで傷付けた覚悟は出来ているのか」とアシュレイ達に最終確認を投げかけた。アシュレイとプレリクスは、当然のようにルール破りと二対一での総攻撃を宣言し、これを聞いたリムルは満足げに笑い、プレリクスを容赦なく殴り飛ばして全面戦争への切り替えを決断した。

絶対不死の条件看破と「神之怒」改造・光牙による焼却拷問

ラファエルの解析により、プレリクスは霊子レベルまで分解された後、塔内に満ちる特殊な環境と自身の権能「絶対不死」によって即座に再構成されていることが判明した。リムルは、塔が閉じた空間で魂の拡散が起きにくい構造であること、新月で月光すらない闇夜であることから、「絶対不死」の発動条件が陽光の完全遮断であると推理した。そこでリムルは『空間支配』と『神之怒』を組み合わせ、成層圏の巨大レンズで集光した太陽光を湾曲空間経由で地下空間に直接照射するという荒技を実行し、新月の夜に疑似的な陽光を降らせたのである。プレリクスは凄まじい熱線を「超速再生」と「絶対不死」で耐えながらも苦悶し続け、この反応を見たリムルは、ヒナタがかつて口にした「光牙は光術」という言葉をヒントに、『神之怒』を疑似的な「光牙」と「鏡蠱」へと改造し、光の龍が乱舞する高熱円柱でプレリクスを延々と焼き続ける拷問に移行した。低コストで維持可能な「神之怒」による連続照射の前に、プレリクスは身動き一つ取れなくなり、すでに戦闘不能同然となった。

アシュレイとの最終戦・黒炎と未来予測による完封

プレリクスが光の牢獄に閉じ込められる中、アシュレイはようやくリムルの本当の脅威に気付き、内心で戦慄していた。彼は炎の上位精霊に似た「炎身化」した精神生命体の姿へと変じ、十字状の超高温斬撃「十字閃炎嵐撃」などでリムルを焼き尽くそうと試みた。しかしリムルは「万能結界」や「自然影響無効」によって熱ダメージを無効化し、直刀に纏わせた黒炎へ「暴食之王」の腐食と魂喰いを付与することで、鍔迫り合いそのものを相手のエネルギー吸収行為へと変えていた。さらにラファエルの「未来攻撃予測」により、アシュレイの高速機動と連撃は完全に読み切られ、技量では互角でも、情報量と対処精度の差で一方的に追い詰められていった。黒炎に蝕まれながらもアシュレイは必死に抵抗を続けたが、勝機は既に消えており、ただ緩慢に敗北へと滑り落ちていく状態であった。

無限回廊解除と三賢人の心折れ・完全敗北の自覚

追い詰められたアシュレイの精神的支えは、「ヴェルドラを封じた」という優越感だけであった。そこでリムルはラファエルに命じて「無限回廊」を解除し、ヴェルドラとピピンを戦場に呼び戻した。戻ってきたヴェルドラは平然としていたが、ピピンはラファエルとの演算勝負に完敗して精神をすり減らされており、「絶対に勝てない」とうわ言のように呟くほどに戦意を喪失していた。この光景を見たアシュレイは、自分達が勝利を確信していた戦いが、実際にはリムルに完全に掌握されていた事実を悟り、短刀を落として膝をつき、「僕達は負けた」と敗北を認めた。プレリクスもまた、光の柱から解放されたものの、精神的には既に折れており、「我等の負けだ」と呟くことで三賢人の完敗が確定した。こうして、リムルの怒りに触れた「最古参の三賢人」は、肉体的にも精神的にも叩きのめされる形で決着を迎えたのであった。

第十話 決着と新時代

戦闘後の決着とヴェルドラへの交渉
プレリクスとアシュレイを圧倒したことで、勝敗は明らかにリムル側の完全勝利となった。リムルが確認するとアシュレイも敗北を認めるが、星取り戦のルールを破ったのは向こう側であったため、リムルは「どう落とし前をつけるか」を思案した。ヴェルドラに三人まとめてぶつける「お仕置き案」を提示すると、ヴェルドラは乗り気になり、アシュレイ達は本気で怯えた。しかしそこへヒナタが目を覚まし、無事を確認したリムルの怒りは一気に沈静化した。リムルは弱い者いじめを嫌う態度に切り替え、ヴェルドラとはおやつと模型破損の件を巡る「裏交渉」で手を打ち、三賢人への実力行使は取りやめとなった。

三賢人の動機とリムルの新たな提案
リムルが処遇を決める前に、まず三賢人の動機を問い質すと、アシュレイとピピンは、ルミナスと比較され「生殖能力のない失敗作」と蔑まれてきた嫉妬と承認欲求が行動原理であったと明かした。ルミナスを超える偉業として「竜種を従え世界支配」を狙った結果が今回の暴走であったと判明する。リムルはそれに一定の同情を示しつつも、矛先と手段が間違っていると断じ、「どうせ長命の精神生命体なら、星の海や大海を目指すべきだ」と価値観をひっくり返す。そして、宇宙進出はひとまず夢として置きつつ、「大海獣にも対抗できる巨大船の設計・新造」を三賢人に依頼し、自身の海洋調査・海洋国家構想の協力者として取り込むことを決めた。

マルクシュア王国との会談と海洋国家構想
一夜明けてリムル一行はマルクシュア王に事態の収束を報告し、魔塔代表としてアシュレイとピピンを同席させたうえで緊急会談を開いた。国王・王太子・宰相・サイラス王子、西方聖教会からはニックス司祭が参加し、貴族・騎士団も控える中で、マルクシュア王国が長年魔塔の支配下にあった事実と、その関係を改める方針が共有される。リムルは、魔塔には結界維持と研究・教育機関として存続してもらい、マルクシュア王国には海に面した地の利を生かして「造船拠点」となってほしいと提案した。また、魔素を吸い過ぎていない小型の魚という希少資源に目を付け、少量の定期輸入を申し出ることで双方の経済的利益も提示した。さらに、巨大船のイメージ図を提示し、ピピンが技術的可能性を説明、リムルは迷宮とヴェルドラの力で大量の魔鋼を供給可能と明かし、魔鋼装甲の外洋船建造計画が現実味を帯びていく。これにより、魔塔・マルクシュア・魔国テンペストの三者協力による「海洋進出プロジェクト」が正式に動き出す流れとなった。

王位継承問題と新時代の開幕
会談の熱気が高まる中、マルクシュア王は自ら王位引退を宣言し、魔法使い至上主義からの脱却と「新時代」への転換を貴族達に迫った。宰相もこれを支持し、貴族達も弱者救済や知識人・職人の登用を重視する新方針を受け入れていく。ところが後継者と目されていた王太子ヘリオスが、自身は魔力の高さだけで選ばれた器であり、総合的資質では兄サイラスの方が王に相応しいと告白し、王太子返上を申し出る。サイラスは貴族からの支持の薄さを理由に及び腰になるが、リムルはサイラスの人望や自国との縁を挙げて後押しし、本人にも「俺に魔王が務まるなら、お前に国王も務まる」と鼓舞する。さらにリムルは冗談めかして「付け髭セット」を渡し場を和ませ、最終的にサイラスが次期国王として受け入れられる形で、新体制への移行が決定した。こうしてマルクシュア王国は、魔法支配から多様な才能を重んじる「海洋都市」へと舵を切る新時代の入口に立つことになった。

有給休暇の締めくくりとルミナスとのやり取り
マルクシュアでの一連の騒動を収束させたのち、リムルは有給休暇を終えてテンペストへ帰還した。ヒナタから「途中で空間支配で帰ってきてたくせに」とツッコミを受けつつも、リムルはそれを「短くも長い休暇」として締めくくる。帰国後は子ども達への土産配りなど日常へ滑らかに復帰するが、同時に魔塔を巡る件でルミナスに抗議する。リムルは「古い知り合い」として紹介されただけの魔塔が、実際にはルミナスと因縁ある勢力だったことを咎めるが、ルミナスは「嘘は言っておらぬ」と涼しい顔で受け流し、紹介状も資料の価値も偽りではなかったと示す。ヒナタはその抜け目なさを認め、リムルも「自分の甘さ」を自覚せざるを得なかった。また、ルミナスはヒナタが本気で死ぬほどの事態にはならないと楽観視していたと明かし、ヒナタは「次は勝つ」と闘志を見せる。最後に、リムルは自分が一度本気でキレていた事実をヒナタに隠しつつ、ヴェルドラと軽口を交わしながら、再び日常へ戻っていく。こうして、魔塔騒動は新たな海洋計画と国家体制の変革を生みつつ、リムル達のいつもの日々に回収されて物語は次巻へと続いていくのである。

伏瀬×高田裕三
「とある休暇の過ごし方」小説版刊行&コミカライズ版
完結記念 スペシャル対談

企画発足と「伝言ゲーム」状態の始まり
『転スラ』10周年企画として「ショートストーリーを書こう」という話が出たことが、スピンオフ「とある休暇の過ごし方」プロジェクトの起点であった。そこへコミック版担当編集から「高田裕三先生が『転スラ』を描いてもいいと言っている」という話が伏瀬に伝わり、伏瀬は即答で了承した。一方の高田サイドでは、『3×3 EYES 鬼籍の闇の契約者』終了前後のタイミングで「単行本1冊分くらいで『転スラ』を描かないか」というざっくりしたオファーが突然持ち込まれた。連載継続の約束も抱えていた高田は当初は難色を示したものの、担当編集が仕事場に居座る勢いで粘った結果、読み切り1本から話が動き始める。両者の間で情報が錯綜し、伏瀬は「多少長くなっても歓迎」と聞かされ、高田は「読み切り」と聞かされるという、典型的な伝言ゲーム状態からプロジェクトが進行したのである。

読み切りのはずが全4巻へ拡大するまで
伏瀬が執筆したショートストーリーは最終的に10話規模となり、コミカライズすれば単行本2冊分以上の分量になることは当初から予想されていた。しかし編集側は「長くなっても歓迎」と押し切り、高田は「読み切りだから大丈夫」と楽観していた。原作原稿を受け取った高田は、その文字量に「これは映画1本作る気持ちでやらないと無理」と認識を改める。結果として、準備期間込みで約2年半、連載としては約2年を費やし、当初の読み切り想定から大きく膨らんだ全4巻完結作となった。裏側では、高田が新作『3×3 EYES』再開を一旦遅らせ、『転スラ』コミカライズにリソースを振る必要が生じるなど、スケジュール面でも相当な調整が行われていた。

初対面の印象と共同作業のスタイル
二人が初めて顔を合わせたのは『月刊少年シリウス』の忘年会であり、伏瀬は小6時代から『3×3 EYES』を読み込んできた立場として極度に緊張していた。対して高田は、伏瀬を「明るく話しやすい人物」と受け止め、通常の「初対面のよそよそしさ」が薄く楽だったと振り返っている。その後も何度か対面の機会は持たれたが、高田が日々原稿に追われ仕事場から動けない状況が続き、直接会う機会は少なかった。制作面では、高田のネームは描き込みが非常に多く、その段階でほぼ完成原稿のような密度であり、伏瀬は「ネームだけで満足できるレベル」と驚嘆した。また、高田は異世界転生ものを描くのは初めてであり、世界観の異世界度合いや技術水準を掴むために既存の『転スラ』や他作品を読み込み、イタリア近辺の時代を参考に資料を集めた。しかしアシスタントにはその感覚がうまく伝わらず、板ガラスや手すりの描写などで「その経済力はこの小国にはない」といった調整を繰り返し、背景のリアリティラインをすり合わせていった。

「転スラ」の魅力と作風に対する分析
高田は『転スラ』の特徴として、「巨悪を倒して終わる破壊的な物語」ではなく、「最終的に話し合いや建設的な落としどころを探る物語」である点を挙げている。登場人物は天然な面を持ちながらも、自分の芯を崩さない「ブレないキャラクター」が多く、とりわけトリックスターとしてのヴェルドラは物語を動かし、重い空気を崩す存在として描きやすかったと評価した。伏瀬は、『転スラ』が支持された理由については「運が良かった」という半ば冗談の結論に落ち着きつつも、主人公への共感性と「やりすぎないバランス感覚」が重要と認識している。いわゆる「ざまぁ系」のように敵を徹底的に叩き潰す展開は書いていて気持ちよくとも、主人公まで「ド屑」に見えてしまう危険があるため、怒りの発散と読者の共感のバランスには人一倍気を遣っていると語った。

キャラクターの描きやすさと敵役の扱い
高田が特に描きやすかったキャラクターはヴェルドラとヒナタであり、前者は物語の潤滑油かつトリックスター、後者は感情表現がわかりやすくヒロイン的ポジションに置きやすい存在であった。コミカライズ版ではヒナタのヒロイン性が強調され、伏瀬は「番外編ではヒナタがヒロインで、リムルが八雲の立場だ」と自作と『3×3 EYES』を重ねて認識している。敵役については、アシュレイやボス格の敵の描写に加え、妖精メルババの扱いとアシュレイとの関係性が絶妙であったと伏瀬は高く評価した。サイラス王子の恋人像に関しては予想外の方向性であり、「美人とは異なるタイプのヒロイン」にした高田の解釈に伏瀬は驚きつつも、結果として作品の味になったと受け止めている。両者とも、敵キャラクターを完全な「ド屑」として描くことには慎重であり、後悔や背景を与えることで、安易な「溜飲を下げるための処刑劇」に物語を落としたくないというスタンスを共有していた。

『3×3 EYES』要素との線引きと獣魔要素の導入
企画当初、『3×3 EYES』側のキャラクターであるベナレスの登場案や、別時空で『転スラ』世界と接続させる案などが検討されていた。しかし高田は直接的なクロスオーバーには否定的であり、結果的に「キャラクター同士を直接邂逅させない」方向で落ち着いた。その代わりに、「獣魔術」という設定が開発され、『3×3 EYES』ファンがニヤリとできる要素として取り込まれた。獣魔の卵まで出す案もあったが、収拾がつかなくなる懸念から見送られ、最終局面での「光牙(コァンヤア)」登場が象徴的なクロスポイントとなった。伏瀬にとって光牙の登場は「これが見たかった」という念願のシーンであり、読者からも「原作者がやりたかったことが丸わかりだ」と看破されていたが、それを肯定的に「その通り」と受け止めている。

原作改変の度合いと連載完走の手応え
高田は毎回のネームで原作から少しずつ改変を行っており、そのたびに「怒られないか」と内心不安を抱いていたが、伏瀬からは「本筋に戻れるなら問題ない」「むしろこちらの方が良い」という反応が多かった。唯一、サイラスのふくよかな恋人像だけは伏瀬の趣味とズレていたが、それも管轄外と判断して直接口を出すことは避け、「面白ければそれでよい」という基準に従った。高田にとっては、原作付きかつ終点が決まっている作品であり、「これ以上膨らませてはいけない」という制約がある分、物語の全体設計は楽だったと感じている。ただし、毎回少しずつ脱線し、それを本筋に戻す作業は続いたため、ネーム提出時には常に緊張を強いられた。最終的に22話で完結させたことで、「大きな作品に対して悪目立ちせず、作品世界に沿った形で描き切れた」という安堵感を抱いている。

互いの総括と読者へのメッセージ
伏瀬は、「中学時代からの憧れの漫画家とのコラボが、自身の作品『転スラ』で実現した」という事実を、創作人生の中でも最大級に嬉しい出来事として位置付けている。『とある休暇の過ごし方』は、自身にとって「作者冥利に尽きる企画」であり、『3×3 EYES』ファンとしての夢と『転スラ』の作者としての夢が同時に叶った場であったと総括した。一方、高田は、「『転スラ』という巨大コンテンツの中で、とにかく悪目立ちせず、原作に寄り添った形で完走すること」を最優先に考えており、結果として作品に馴染むコミカライズを描き切れたことに満足している。読者には、「楽しんでもらえたなら何より」というシンプルなメッセージで締めくくり、対談は、両者の世代と立場を超えたリスペクトと遊び心が詰まったコラボの舞台裏として幕を閉じたのである。

特別編 大航海時代前夜

マルクシュア王国再訪と復興支援の文脈
リムルは久方ぶりにヴェルドラと共にマルクシュア王国を訪問していた。アシュレイ達との諍いから数年が経過し、その間に帝国侵攻、天魔大戦、ミリム暴走、邪神イヴァラージェ襲来など立て続けに大事件が起きたため、遊び半分の買い出しに出る余裕はなかったという事情である。しかしテンペストではマルクシュア産の鮮魚を安定的に輸入し続けており、ゲルド配下が種族共有の「胃袋」を用いて運搬することで、平時と変わらぬ食事を維持していた。その結果、迷宮避難民も食の不安なく過ごせており、「事前準備の重要性」がテンペストの軽微な被害として証明された形であった。ゆえに、被害甚大な各国への復興支援は当然の義務とされ、リムルは世界各地を巡る日々の中で、ようやく今回はマルクシュア王国の順番に至ったのである。

マルクシュア王国の被害状況とサイラス王の成長
マルクシュア王国では、魔塔の結界が機能したおかげで王都の被害は地震と大規模戦闘の影響による建物崩壊程度に留まっていた。周辺農地や山野はミリム暴走の余波で壊滅的被害を受けたが、アシュレイら魔塔の魔法使いが総出で復興を進め、小国ながら西側諸国に見劣りしない貢献を果たしていた。王城の応接室での歓談では、国王サイラスが自ら復興の経過を説明し、魔塔の協力がなければ冬を越せず餓死者が出ていたと率直に述べた。臣籍降下予定から急遽王となった青年は、結果として責任感ある良き王へ成長しており、リムルは「何とかなるさ」で割り切る自分より王としての自覚で負けているかもしれないと内心自戒するに至った。

「大魔王」呼びへの違和感と周囲の評価
一方、アシュレイ達は「大魔王リムル様」と仰々しく歓迎し、ギィに押し付けられルミナスに世界へ公表された「大魔王」という肩書を当然視していた。リムル本人は責任と対外関係の重さから大魔王職を「旨味のない役割」とみなし、ほとぼりが冷めたら引退するつもりだと語ったが、アシュレイやプレリクスは、神話級の戦いを共にした者としてその実力と功績から異論は出ないと断言した。テンペストがほぼ無傷で危機を乗り切りつつも、世界経済と安定のために積極的に資金と支援を投じている点も評価されており、リムルの本人感覚とは裏腹に、周囲は「責任を果たしている大魔王」として当然視していたのである。

プレリクスの陽光克服と「黒夜のマント」
会話はやがて吸血鬼プレリクスの話題へと移行した。彼は本来、月光すら毒となる「真夜中の吸血鬼」であり、太陽光克服は不可能とされていたが、ピピンとの共同研究により発想を転換した。種族的耐性獲得ではなく、魔法道具による「陽光回避」を目指し、各種遮光アイテムの収集・解析・改良を重ねた結果、「黒夜のマント」を完成させたのである。このマントはリムルの精霊術を参考に周囲空間の位相を操作し、プリズムのように陽光を分散・選別して有害成分のみを反射する仕組みであった。さらにピピン開発の新素材とプレリクスの魔力を融合させることで、破れても魔法構造が残る限り自己修復する生地とし、吸血鬼でも陽光下で活動可能な装備として実用化していた。

マルクシュア夢想開発造船所の完成と国家事業化
本題となるのは、リムルが以前から依頼していた造船所の視察結果であった。当初は「マルクシュア海軍工廠」として構想されていたが、サイラスの強い反対により、軍事専用ではなく国際貢献を志向した国家事業と位置付けられ、「マルクシュア夢想開発造船所」という名称で運営されることになった。魔塔との共同開発施設でありながら国名を冠することが認められ、魔塔側も異論は出さなかったという。邪神襲来に伴い工事は一時中断したが、魔塔総出の復興支援によって再開・竣工にこぎ着け、リムルの視察時には既に稼働可能な状態となっていた。施設は大規模船舶にも対応可能な堅牢さと内装を備えており、サイラスと弟ヘリオスは「兄弟初の共同事業」として胸を張って自慢し、国民総出で力を注いだと誇らしげに語っていた。

魔鋼資材の搬入と試作船・調査船の設計方針
造船所には、既にリムルによって「胃袋」経由で大量の魔鋼インゴットや魔木が納入されていた。魔鋼は一つ十キロ超の高純度インゴットであり、倉庫一面を埋め尽くす光景は壮観であったが、崩落を防ぐために魔法による重量軽減と箱単位での運搬前提で厳重に管理されていた。ピピンは工員も確保済みで、資材搬入が終わり次第いつでも建造開始可能と報告し、設計図として二種の船舶を提示した。一つ目は二十メートル級の近海用試作船であり、海上の隠れ家として快適な内装を重視した娯楽船兼データ収集用モデルであった。二つ目は百メートル級の新造調査船であり、大海獣の攻撃に耐えるため三層の魔鋼壁とメッシュ装甲、その間を満たす硬化ジェルによる多重防御構造と水密隔壁を備えた「沈みにくい船」として設計されていた。このジェルは魔塔の過去の発明品の再活用であり、海水と混ざることで硬化し浸水を防ぐ機構として活用されている。

大艦巨砲ロマンと実用性のせめぎ合い
設計打ち合わせでは、ヴェルドラが三連装主砲塔や四十六センチ砲級の大口径主砲を熱望し、「浪漫兵器」としての戦艦像にこだわりを見せた。しかしピピンとリムルは、弾道計算を魔法で補正できる世界において砲塔の数や大口径に固執する必要性は低く、試作段階から過重な兵装を積むのは非効率だと実用性を主張した。リムルはまず安定した試作船によるデータ収集と安全性の確認を優先し、ヴェルドラには「いずれ夢として目指せばよい」と宥めつつ、自身の要望である「海上の快適空間」「夜釣りや船上バーベキューを楽しめる内装」を組み込むことを承認させた。ヴェルドラは、完成した船に自分も乗れると知ると態度を軟化させ、最終的には快適性重視と将来の武装拡張を両立させる折衷案に落ち着いたのである。

安全設計と「沈まない船」へのこだわり
リムルは元世界の知識を基に船舶史資料を収集しており、とりわけ「沈まない船」と宣伝されながら悲劇的沈没を遂げたタイタニック号の例を引きつつ、慢心を戒めていた。魔鋼は低温脆性がなく極限環境にも耐える素材であるが、それでも最大の鍵は浸水対策だと位置付け、船底と外壁の多重構造、水密区画の細分化、防水隔壁の完全遮断などを詳細に指示していた。ピピンはこれら要望に応え、三層魔鋼とメッシュ・硬化ジェルによる衝撃吸収と自己修復を組み合わせた設計を完成させる。ヴェルドラは「自分のパンチなら穴が開けられる」と豪語したが、これは神話級存在特有の例外として笑い話に留まり、現実的な脅威への耐性を優先した堅牢設計が採用された。

大航海時代の幕開けへ
資材と設計、工員、施設の全てが揃い、アシュレイも「明日からでも着手可能」と請け負ったことで、残るはリムルの最終判断だけとなった。サイラス、ヘリオス、ピピンらは期待に満ちた眼差しで大魔王の言葉を待ち、リムルが「頼む」と建造開始を正式に許可した瞬間、造船所には歓声が響き渡った。こうしてマルクシュア王国における船舶建造計画は、計画立案という「一歩目」に続く「二歩目」として具体的な建造段階へ移行したのである。この日を起点として、後に人々が「大航海時代」と呼ぶことになる新たな歴史の幕開けが静かに始まったのであった。

小説【転スラ】「転生したらスライムだった件 23(最終巻)」感想・ネタバレ

前巻 index

物語の概要

本作は異世界転生ファンタジーに分類されるライトノベルである。平凡なサラリーマンだった主人公が、異世界に「スライム」として転生し、“捕食者”の能力で他の存在の能力や外見を取り込む力を得た。
スライムとなった主人公は「リムル」と名乗り、魔物の森を統一し、「魔国連邦テンペスト」を建国。そして人間・亜人・魔物が共存する国家として復興を目指してきた。
第23巻では、その最終決戦――強大な敵勢力との総力戦と“衝撃の事実”によって世界の存立そのものが揺らぐなか、リムルとテンペスト陣営の命運が一匹のスライムに委ねられる展開が描かれている。

主要キャラクター

  • リムル=テンペスト:本作の主人公。スライムに転生し、“捕食者”と“大賢者”という特殊能力を得て、魔国連邦テンペストの盟主として魔物・亜人・人間が共存する国家建設を目指す。シリーズ全体の中心人物である。

物語の特徴

本作の魅力は、「スライム」という“最弱”モンスターへの転生という異色のスタートから、国家を築き、異種族の共存を目指すスケールの大きさにある。戦闘や魔法だけでなく、国家建設・外交・政治・種族間調停といった“建国ファンタジー”の要素を本格的に描いている点が差別化要素である。また、主人公と多様な種族の仲間たちの多彩なキャラクター群と、その関係性の変化や成長がシリーズを通じて丁寧に描写されており、単なる無双ものにとどまらない物語としての厚みがある。最終巻では“世界の命運をかけた総力戦”という、異世界ファンタジーらしいドラマが最大化されており、シリーズ完結にふさわしい集大成となっている。

書籍情報

転生したらスライムだった件 23
著者:伏瀬
イラスト:みっつばー
出版社マイクロマガジン社
レーベルGCノベルズ
発売日:2025年11月29日
ISBN:9784867168738

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あらすじ・内容

異世界転生ファンタジーの金字塔、遂に完結!
リムルの帰還により、俄然やる気を漲らせるテンペスト陣営。

そんな中、リムルはヴェルザードから衝撃の事実を告げられる。
それは戦いの根本を揺るがしかねない情報であった。

一方、イヴァラージェも不穏な動きを見せ、
事態はますます混迷を極めていく。

まさに総力戦。
皆がギリギリの戦いを強いられる中、
全ては一匹のスライムに委ねられた。

大人気転生ファンタジー、ついに本編完結!

転生したらスライムだった件 23

感想

『転生したらスライムだった件』本編がついに完結した。
最終巻の23巻は五百十六ページ、約三十万文字という圧倒的なボリュームで、読み始めてから読み終えるまでかなりの時間を費やした分、読了時の感慨も大きかった。

物語は、リムルの帰還によってテンペスト陣営が活気づくところから始まる。
一方で、天星宮側ではフェルドウェイやディーノたちの動きが描かれ、星王竜ヴェルダナーヴァとルシアの聖遺骸の消失、滅界竜イヴァラージェの変質など、不穏さが一気に高まっていく。
ルミナスが人類連合を鼓舞し、北・西・南・東の各戦線でルイやシオン、ベニマル、ウルティマ、ミリムらが総力戦を繰り広げる展開は、まさに「天魔大戦」の名にふさわしい全面戦争であった。

中盤以降は、イヴァラージェの人型化と三従僕の強化、ミリムやクロエ、ヴェルドラたちの参戦、さらにルミナス対トワイライトの一騎打ちなど、各所でクライマックス級の戦いが続く。
そこへベガやジャヒルら、これまでの因縁を背負った敵が再登場し、ヴェルダナーヴァの復活と世界破壊計画が明らかになることで、戦いのスケールはついに「創造神との決戦」にまで到達する。

終盤では、ギィとイヴァラージェの戦い、リムルとヴェルダナーヴァの一騎打ちが物語の軸となる。
リムルは魂を奪われながらもなお立ち上がり、仲間たちの想いを背負って世界を守るために剣を振るう。
その過程で、リムル=三上悟とシズさんとの関係も整理され、これまで紡いできた物語が一つの形として回収されていく。
そして最終的には、テンペストの仲間たちや人類側も含め、皆がそれぞれの場所で生き延び、ハッピーエンドと呼べる結末に辿り着く点には、大きな安堵と満足感を覚えた。

一方で、最終章である天魔大戦編については、長大なページ数のわりに内容がやや薄く感じられたのも事実である。
多数の戦場を同時並行で描き、多くのキャラクターに見せ場を用意する構成は壮観である反面、アクションシーンが連続しすぎて、物語全体が「バトル寄り」に傾きすぎた印象が強い。
コミカライズや映像化を意識したような派手な戦闘描写が前面に出ており、「転スラ」らしい日常や掛け合い、心理描写が相対的に薄くなったと感じた。

また、エピローグが短く、戦後のテンペストや各キャラクターの「その後」についての描写が物足りなかった点も個人的な不満として残る。
ここまで大規模な天魔大戦を描いたのであれば、もう少し余白を取り、リムルや仲間たちの平穏な日常、各国の再建や関係性の落ち着きなどを丁寧に描いてほしかった。
もっとも、エピローグについては外伝が来年から刊行される予定であり、それを楽しみに待ちたい。
同日に発売された『転生したらスライムだった件 番外編 ~とある休暇の過ごし方~』の最後に後日談が少し書かれていたため、異世界側のエピローグがどのように補完されるのかは非常に楽しみである。

最終決戦のアクションもインフレが極まっており、読み進めるのに気力を要する場面があったのも正直なところであった。
破壊規模や存在値のインフレが続いた結果、一部の戦闘は「誰がどこで何と戦っているのか」を意識しながら読み返す必要があり、読書体験としてはやや負荷が高かった。

それでも、シリーズ全体を通して見れば、『転生したらスライムだった件』は、異世界転生という設定を活かし、リムルを中心に様々な種族が共存する理想郷を築き上げていく物語であり、その過程で描かれる仲間との絆や、困難に立ち向かう姿は非常に魅力的であった。
本編最終巻については、アクション寄りに振れすぎてキャラクターの内面や日常描写がやや犠牲になった印象は拭えないものの、それでもここまで積み上げてきた物語の決着として、大枠では納得できる結末だったと感じている。

総じて言えば、天魔大戦編には「もっとこうしてほしかった」と思う点がいくつもある一方で、それでも『転スラ』という作品そのものが自分にとって特別な存在であることに変わりはない。
リムルたちが築いた世界と彼らのこれからを、今後の外伝や番外編を含め、引き続き見守っていきたいと思わせてくれる本編完結巻であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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前巻 index

登場キャラクター

リムル=テンペスト

魔国連邦の盟主であり、各陣営から信頼される調停者である。世界滅亡の危機に対し、自身の安全よりも仲間と世界の継続を優先する姿勢を貫いている。ヴェルダナーヴァやイヴァラージェといった創造主級の存在に対抗する切り札として、周囲から期待と負担を集中させられている。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペストの盟主である。八星魔王の一角である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヴェルザードの究極能力を改変し「氷神之王」へ進化させた。ヴェルダナーヴァに魂を奪われた後も擬似魂で復活し、ベニマルの魂を治療した。ギィや竜種たちと連携し、ヴェルダナーヴァ討伐とイヴァラージェ対処の全体方針を決めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 創世級の剣に「希望」と名を与え、創造神と対等に剣を交える存在として描かれている。各勢力から世界の命運を託される象徴的な存在となっている。

ヴェルダナーヴァ

星王竜と呼ばれる創造神であり、現世界を作り上げた存在である。妻ルシアの喪失を契機に世界を失敗作と見なすようになり、世界の破壊と再創造を決意している。かつての理想と現在の行動が乖離しており、周囲から「壊れた神」と認識され始めている。

・所属組織、地位や役職
 三千世界の創造神とされる存在である。竜種の頂点に立つ星王竜である。

・物語内での具体的な行動や成果
 フェルドウェイに世界初期化計画を任せた後、自ら再臨し世界浄化と選別を宣言した。ジャヒルら過去の強敵三名の魂を呼び戻し、新たな器に宿らせて戦場に送り込んだ。イヴァラージェに剣「記憶」を突き立て、ルシアの記憶を植え付ける計画を進めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 創造神としての威光は保ちつつも、ルミナスや竜種たちからは敵として認定されている。世界そのものを破棄しようとする姿勢により、信仰の対象から討伐対象へと認識が変化している。

イヴァラージェ

世界破壊を担うために生み出された滅界竜であり、後にルシアに酷似した人型形態を得た存在である。戦闘の中で技術や感情を学習し続け、純粋な破壊衝動から怒りや憎しみに近い感情を獲得している。ヴェルダナーヴァの計画に組み込まれながらも、自身もまた破滅の象徴として戦場に立っている。

・所属組織、地位や役職
 ヴェルダナーヴァが用意した世界滅亡のための「竜」と位置づけられている。幻獣族三従僕を従える存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 カケアシ・スイーム・ハバタキを従え、人類連合に壊滅的な被害を与えた。ミリムやヴェルドラと交戦し、その戦いから技を取り込み急速に成長した。三従僕が討たれた後も崩滅虚触獄の中で耐え続け、削り殺しが困難な脅威として描かれている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ルシアの記憶を植え付けられる対象として扱われており、ヴェルダナーヴァの計画の中核となっている。戦いを通じて初めて痛みや喪失を知り、感情を獲得しながらさらに危険度を増している。

フェルドウェイ

天星宮側の最高戦力の一人であり、ヴェルダナーヴァの理想を実現しようと世界初期化計画を推し進めてきた存在である。リムルやディアブロとの戦いで敗北し、計画の誤りと自身の執着を認めるに至った。最終的には壊れた主を止めようとする側へ踏み出している。

・所属組織、地位や役職
 天星宮に属する指導者的存在である。ヴェルダナーヴァの配下として世界再構築計画を管理していた。

・物語内での具体的な行動や成果
 聖遺骸管理や天星宮の防衛を任されていたが、イヴァラージェに聖遺骸を奪われる失策を犯した。ヴェルダナーヴァ復活後、その暴走を止めるために決死の一撃を試みて瀕死となり、リムルの治療を受けて戦力として再起した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 世界初期化の実行役から、ヴェルダナーヴァに反旗を翻す側へ立場を変えた。リムルの指揮下に入ることを受け入れ、一時的な共闘関係を結んでいる。

ギィ・クリムゾン

古き時代から君臨する最古の魔王であり、冷静な観察と豪胆な決断を併せ持つ存在である。世界の存続を望みつつ、同格の強者との戦いを楽しむ戦闘思考も持っている。リムルや竜種たちとの関係は対等に近く、時に牽制し合いながらも協力関係を取っている。

・所属組織、地位や役職
 八星魔王の一人である。悪魔たちの頂点に立つ存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 暴走したヴェルザードの精神世界へ侵入し、感情を受け止めて正気へ導いた。イヴァラージェ戦では崩滅虚触獄を発動し、竜たちの奥義を統合して継続的に削り続ける包囲網を完成させた。ヴェルダナーヴァ戦でもリムルに時間稼ぎを任せつつ、自身は破滅竜討伐の中心として動いている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 究極能力が深淵之神へと進化し、世界の法則すら書き換える領域に到達している。リムルを同格以上の特異点として認識し、その在り方に強い関心を寄せている。

ヴェルザード

白氷竜と呼ばれる竜種の一角であり、ギィと長い時間を共にしてきた存在である。兄ヴェルダナーヴァへの思慕と、ギィに認められたい願いの間で葛藤してきた。暴走状態から解放された後は、兄に敵対する覚悟を固めている。

・所属組織、地位や役職
 竜種の一人であり、氷を司る存在である。ギィの「相棒」として行動している。

・物語内での具体的な行動や成果
 兄の命令に従い世界破壊計画に関わりつつも、ギィだけは凍らせて守ろうとしていた。リムルの力で忍耐之王と嫉妬之王を統合され、「氷神之王」を得て兄と渡り合える可能性を得た。ギィに対し、自分は相棒であり実質的な夫婦であると確認し合い、迷いを断ち切って戦線に復帰した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ヴェルダナーヴァから授かった権能を、自身に最適化された新たな究極能力として再構成している。兄と決別し、世界側に立つ竜種として立場を明確にした。

ルミナス・バレンタイン

吸血鬼の王であり、神聖連邦ルベリオスの指導者である。前線全体を俯瞰しつつ、蘇生と鼓舞によって人類連合の戦線を支え続ける要となっている。神祖トワイライトとの対決を経て、自身の本質と役割を再確認している。

・所属組織、地位や役職
 神聖連邦ルベリオスの最高指導者である。吸血鬼族の長であり、八星魔王の一人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 聖域型極大死者蘇生や聖域化の秘法により、戦場で倒れた兵を何度も蘇らせた。トワイライトとの戦闘で「善光之王」を獲得し、相手の「悪徳之王」と対をなす存在として勝利した。その後もミザリーと権能を分担し、戦場全域の立て直しに貢献した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神祖トワイライトの人格と力を統合し、「真なるルミナス・トワイライト・バレンタイン」として覚醒している。世界そのものを守る意思を明言し、創造神に対抗する側の精神的支柱となっている。

ヴェルドラ=テンペスト

暴風竜として知られる竜種であり、リムルと魂の回廊で繋がる存在である。豪放な性格で目立つ役割を好むが、戦況判断では周囲からたしなめられる場面も多い。兄ヴェルダナーヴァに対しては複雑な感情を抱きつつも、世界側に立つ立場を選んでいる。

・所属組織、地位や役職
 竜種の一人である。名目上は魔国連邦テンペストの守護竜である。

・物語内での具体的な行動や成果
 イヴァラージェとの時間稼ぎの戦闘を引き受け、ミリムと連携して拘束を試みた。崩滅虚触獄発動時には雷嵐咆哮を供給し、疑似虚無の火力強化に貢献した。リムルの魂を一時的に退避させる役割を果たし、擬似魂による復活の前提を作った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 兄に比べ軽率な言動が目立つものの、魂の回廊を通じてリムルと一体に近い関係となっている。世界の行く末に対し、自分なりの責任感を見せる場面が増えている。

ミリム・ナーヴァ

竜種と魔王の性質を併せ持つ存在であり、破壊の象徴とされる少女である。感情表現が率直で、気心の知れた相手には遠慮のない態度を取る一方、仲間や家族への執着は強い。母の肉体を奪った相手と戦うことをためらうなど、葛藤を抱えながら戦場に立っている。

・所属組織、地位や役職
 八星魔王の一人である。竜種の血を引く最強格の戦力である。

・物語内での具体的な行動や成果
 イヴァラージェと天通閣内部で交戦し、互角に近い戦いを演じたが、次第に押されて戦線離脱した。その後、憤怒之王の再稼働を決意し、崩滅虚触獄に供給する竜星爆炎覇を放ってイヴァラージェの消耗を加速させた。ヴェルダナーヴァに対しても、他者を犠牲にして愛する者を蘇らせる考えを批判している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 暴走時のみの使用とされていた憤怒之王を、自覚的に制御しながら行使しようとしている。竜種たちの中で、明確に世界側の戦力として位置づけられている。

ベニマル

魔国連邦テンペストの将軍であり、リムル軍の主力指揮官である。冷静な戦術判断と、仲間を思う情の両方を備えている。自らの無茶を自覚したうえで、リムルの負担を分担しようとする姿勢を見せている。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペスト軍の総大将格である。黒色軍団や各軍団をまとめる指揮官である。

・物語内での具体的な行動や成果
 東方面の戦場で聖浄化結界の基点を守りながら、黒炎獄で雑兵を殲滅し戦線を安定させた。ルミナス不在時には過度な損害を避ける指示を出し、長期戦を見据えた采配を行った。ヴェルダナーヴァの飛ばした創世級の剣からリムルを庇い、魂を侵食されながらも希望を語り続けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魂を損傷しながらもリムルの治療を受け、生還前提で扱われている。仲間からは精神的な支えとしても認識され、「希望」という言葉を体現する存在として描かれている。

ディーノ

かつてフェルドウェイの支配下にあった堕天使であり、現在は自由意思を取り戻した戦力である。飄々とした態度の裏で、世界滅亡には否定的な価値観を持っている。フェルドウェイに対しては、被支配者としての怒りと、仲間としての情を併せ持っている。

・所属組織、地位や役職
 以前は天星宮側の十天使として行動していた。現在はリムル側と協調する立場に近い。

・物語内での具体的な行動や成果
 迷宮攻略を断念して帰還し、リムル陣営の脅威度をフェルドウェイに報告した。ヴェルダナーヴァへの進言で世界破壊の不要性を訴えた結果、胸を貫かれる重傷を負ったが、ルミナスの治療で一命を取り留めた。フェルドウェイに対し、今後は行動で信頼を回復するよう促している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 支配の権能から完全に解放され、天星宮側から離反した立場が明確になっている。世界を守る側へ傾いた象徴的な存在となっている。

テスタロッサ

リムル配下の原初の悪魔の一人であり、冷静な判断と戦場運営能力に長けた女性である。軍団運用と大規模転移を担う中核戦力として機能している。リムルへの忠誠を行動の基準としており、他勢力との関係もそれに従って調整している。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペスト所属の悪魔である。黒色軍団を率いる将である。

・物語内での具体的な行動や成果
 対イヴァラージェ戦では、戦闘可能な者を大規模転移魔法で再配置し、多国籍軍を指揮して東方面の戦線を支えた。ルミナス不在時には、ミザリーと連携して戦場の損耗を抑える方針に従った。終盤ではベニマル麾下に合流し、指揮官クラスの幻獣族排除に貢献した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 リムル特製回復薬の提供対象となり、さらなる強化を受けた三原初の一人として扱われている。戦術面だけでなく、他勢力からも頼られる調整役として存在感を増している。

ウルティマ

原初の悪魔の一人であり、感情表現が激しいが戦闘技術に優れた存在である。怒りを力に変える戦い方を得意とし、高速戦闘と拳技を組み合わせた近接戦を行う。リムルへの忠誠心は強く、与えられた任務を楽しみつつも完遂しようとする。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペスト所属の悪魔である。南方面戦線の主力戦力である。

・物語内での具体的な行動や成果
 スイームを異界空間に閉じ込め、「八門堅陣」や転移門を駆使して突撃をいなしながら時間を稼いだ。スイーム人型覚醒後の決戦では拳技と毒と虚無への扉を組み合わせ、黒死崩壊で内部から撃破した。多くの負傷を負いながらも、南方面の勝利を確定させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 スイーム撃破により、従僕三体のうち一体を単独で倒した実績を持つ。リムルの細胞入り回復薬により、今後さらに強化されることが示唆されている。

カレラ

原初の悪魔の一人であり、破壊的な戦い方と豪快な性格を持つ女性である。他者に対して辛辣な評価を口にする一方、決めた瞬間には全力を投じる潔さを持つ。戦場では危険人物扱いされつつも、味方からの信頼は厚い。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペスト所属の悪魔である。北方面での決戦時は主力切り札として扱われている。

・物語内での具体的な行動や成果
 ハバタキ戦ではアゲーラを刀身変化させた黄金の刀を手に、一撃必殺の極技“一閃”に全てを賭けた。ユウキらの援護による瞬間移動で間合いを得て、ハバタキの心核を頭頂から両断し討伐に成功した。その代償として魔力を使い果たし、戦闘不能となりながらも勝利をもぎ取った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ハバタキ討伐により、各勢力から到達点級と認められる剣技を示した。周囲からは「味方で良かった」と評される危険度と実績を兼ね備えた存在になっている。

ゼギオン

迷宮最強クラスの戦士であり、無口ながらリムルへの忠誠が揺るがない存在である。精神面のブレが少なく、与えられた任務を静かに遂行するタイプである。戦場では防衛と護衛の要として機能している。

・所属組織、地位や役職
 魔国連邦テンペスト所属であり、迷宮側の守護者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 停止世界が発動した状況下でラミリスとともに現れ、ベニマルの保護とリムルの後方支援を引き受けた。過去にはヴェガやゼラヌスを撃破しており、その戦果がフェルドウェイ側に強い危機感を与えている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 停止世界下で行動可能な少数の一人として位置づけられている。リムルからの信頼が厚く、重要局面で護衛役として選ばれている。

クロエ・オベール

時間跳躍能力を持つ勇者であり、未来と現在を行き来しながら最善の結果を探る存在である。自己犠牲の傾向が強く、誰かを救うために自分の身を後回しにする決断を選びがちである。

・所属組織、地位や役職
 人類側の勇者として認識されている。

・物語内での具体的な行動や成果
 リムルとヴェルダナーヴァの戦いで思念伝達を通じ、未来からの情報で回避補助を行った。天通閣内部ではミリムの窮地を救うために介入し、イヴァラージェの攻撃を弾いたが、反撃で戦闘不能に追い込まれた。時間停止後は介入が不能となり、以降の戦いはリムル自身の判断に委ねられた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 時間跳躍という特性から、結果そのものを見届ける役割に回る場面が多い。今回の局面では、最終的な選択をリムルに託す立場を選んでいる。

マサユキ

「勇者」として人々から認識されている青年であり、他者の期待に応じて役割を引き受けてきた存在である。内心は平凡な感覚を持ちつつ、「まだ死にたくない」という素直な動機で世界側に付くことを選んでいる。

・所属組織、地位や役職
 人類連合の勇者的象徴として扱われている。ルドラの器となっている。

・物語内での具体的な行動や成果
 北方面戦線での作戦立案や、ヴェルグリンドの判断材料となる立場を担った。ヴェルダナーヴァと対立するかどうかの選択では、自分の生存を理由に抗う側に立つと表明し、周囲の意思決定に影響を与えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「勇者」という肩書に振り回されてきたが、自分の望みを基準に陣営を選ぶ姿勢を見せている。ヴェルグリンドからは、判断基準として信頼される存在になっている。

ルドラ

マサユキの身体を通じて現れる元皇帝であり、長きにわたり世界の命運に関わってきた存在である。過去に多くの犠牲を払ってきたことを自覚しつつ、なお世界滅亡には反対する立場を取っている。

・所属組織、地位や役職
 かつての東の帝国の皇帝である。現在はマサユキの中に宿る存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 蘇ったジャヒルの正体を見抜き、自分と妻を殺した元王である可能性を示した。ジャヒルへの決着は自分が付けると宣言し、ユウキと協力して対処に向かった。ヴェルダナーヴァの方法には同調せず、世界破壊を止める側に立つ意思を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 肉体を持たない状態でありながら、判断と情報提供を通じて戦場に影響を与えている。過去の因縁を清算するための戦いに臨む姿勢が強調されている。

前巻 index

対戦まとめ

第一章 流れる涙

ルミナス

【対戦】
自ら前線で戦うよりも、全戦場を俯瞰する指揮官として振る舞っていた。思念伝達で各戦線の兵へ言葉を送り、命に価値を与える形で鼓舞することで、北・西・南の戦線を支えた。特に、北のルイ・ギュンター隊、南のウルティマ隊、西のシオン隊など、人類側と魔王勢力をまとめる統合指揮の役割を担っていた。イヴァラージェの邪悪な笑いと世界不要という価値観に触れたことで、本質的な「悪」への恐怖を自覚しつつも、戦況の把握と情報伝達を続けていた。

【進化】
戦闘力の進化ではなく、世界規模の危機に際して「この世界を大切にしている存在」として明確に位置づけられた。ギィからも味方候補として高く評価され、後の対ヴェルダナーヴァ戦略において「信頼枠」に入る政治的・精神的な立ち位置への格上げが示唆されている。


イヴァラージェ(ルシアの姿を取った滅界竜)

【対戦】
東方戦線で沈黙を保っていたが、やがて無邪気かつ邪悪な笑いと共に行動を開始した。地上に降り立つと美しい女性へと変貌し、その姿はマサユキに宿る勇者の記憶と反応し「ルシア」と認識された。現段階では本気の破壊活動に入る前段階であり、各地の戦いに対する「本当の脅威」として存在するが、この章では直接の一騎打ちや詳細な戦闘描写はまだ始まっていない。

【進化】
明示的な権能進化は描かれていないが、三体の従僕と共に未知の変化を示し、ヴェルグリンドでさえ力の上限を測れない存在へ変質している。また、「ルシア」という勇者側の記憶と結びついた姿を取ることで、その正体が単なる滅界竜を超えた、世界破壊計画の中核存在であることが暗示されている。


ギィ・クリムゾン

【対戦】
暴走状態のヴェルザードと対峙し、カレラ・レイン・テスタロッサと共に、その天災級の攻撃を「虚無」で相殺していた。ヴェルザードを正気に戻すには星幽体を向ける必要があると見抜きつつも、本体が無防備になるリスクから踏み切れず、時間稼ぎと増援待ちという戦術を選択していた。リムル到着後は、リムルが抑え役となる形で、ギィはヴェルザードの精神世界に侵入し、彼女の怒りと本心を受け止める役に回った。

【進化】
戦闘中に「演算特化形態」へ移行し、物質体から悪魔本来の精神体、さらに星幽体へと移行することで、精神干渉に全振りした形態へ変化した。この形態により、幾重もの精神防壁を突破し、幼いヴェルザードの心核へ到達している。また、ヴェルザードとの対話を通じて、彼女を「相棒・身内・実質夫婦」と明言し、感情面での関係性を明確化したことも、ギィ自身の覚悟と立場の変化として描かれている。


ヴェルザード

【対戦】
白氷竜として暴走し、神秘的な美しさを保ちながらも、天災のような暴威を振るっていた。ヴェルグリンドですら恐れる存在感を放ち、ギィ達の虚無とリムルの虚無崩壊でようやく攻撃を相殺されるほどの脅威であった。これは兄ヴェルダナーヴァの命令と世界破壊計画に絡む内部事情が原因であり、彼女自身の意思とは乖離した行動であった。

【進化】
内面世界では、兄から授かった「忍耐之王」と、自身の願望が形になった「嫉妬之王」の二つの究極能力を抱え込み、それらをどのように扱うか苦悩していた。単独では忍耐之王を変質させられず行き詰まっていたが、シエルによる介入で二つの権能が統合され、「氷神之王」へと進化した。この新たな権能はヴェルザード自身と完全に適合し、ヴェルダナーヴァを止めうるかもしれないという希望を与え、世界破滅を受け入れるしかないという諦念から彼女を解放した。また、ギィへの本心(認めてほしかった・役に立ちたかった)を吐露し、相棒としての関係性を再確認したことで、精神的にも大きく変化している。


リムル

【対戦】
ヴェルザード戦場に到着すると、戦場全体を観察して防衛線の構造を把握し、モス・ミザリー・ガビル・オベーラ・エスプリらの奮戦を評価した。その上で、自身の「竜霊覇気」と虚無崩壊を用いて、ヴェルザードの妖気とギィ達の虚無を「虚無崩壊」に変換し、攻撃そのものを封じ込めた。この抑え込みによってヴェルザードの破壊を止めつつ、ギィが安全に精神侵入できる環境を作り出し、テスタロッサ達を対イヴァラージェ戦線へ転移させる時間を稼いだ。

【進化】
戦いの最中に、自身の魔素量がヴェルグリンドやヴェルドラ並みに膨れ上がっていると実感し、その原因が虚空之神アザトースの獲得と虚無崩壊の運用にあると理解していた。果ての世界での実験を踏まえ、初歩的な火球ですら核撃魔法級の破壊力になり得る虚無崩壊を、日常運用レベルまで制御可能にしている点が示されている。さらに、ギィの依頼を受けてヴェルザードを「捕食」し、シエルを通じて権能構成そのものを組み替え、「忍耐之王+嫉妬之王→氷神之王」という神業的な権能改変を実行したことで、単なる戦闘者を超え、「他者の究極能力を上書き・進化させる存在」としての次元へ踏み込んでいる。


ディアブロ

【対戦】
ヴェルザード戦場では、ギィが演算特化形態へ移行して本体が無防備になる間、その身体を抱えて守る役割を担った。ヴェルザード以外の敵が存在しない状況を前提に、リムルの抑え込みと連携しつつ、ギィの護衛に専念していた。また、リムルと共に基軸世界からここまで同行し、今後も「裏切りは絶対にない。敵は必ず排除する」と改めて誓っている。

【進化】
明示的な新スキル獲得こそ描かれていないが、過去に虚無崩壊を自己強化に転用し、シエルの「エネルギー循環理論」を理解して円環の秘法に似た現象を起こしていることが回想される。本章ではそれを踏まえて、リムルから見て「理論理解まで含めてついていけないほどの異常な適応力」を持つ存在として位置づけられており、虚無崩壊環境下でも平然と活動できる異常な耐性と運用能力が暗示されている。


テスタロッサ/カレラ/レイン

【対戦】
テスタロッサは当初、ギィ達と共にヴェルザードの攻撃を虚無で相殺する側に回り、戦線維持に貢献していた。その後、リムルの命令で大規模転移魔法を用いて旧ユーラザニア由来の戦力を率い、対イヴァラージェ戦線への援軍として再配置される。カレラもこれに同行し、前線での大規模戦闘へ向かう役割を担った。レインは一時ヴェルザード戦場に残ろうとしたが、ギィに叱責されて前線に出撃している。

【進化】
本章時点では、権能の進化や新たなスキル獲得は描写されていない。ただし、テスタロッサが大規模転移を任されるなど、戦略級魔法運用の中核として評価されている点、カレラ・レインが八星魔王勢力の機動戦力として再配置される点から、「対イヴァラージェ戦における主力」としての役割が強調されている。


ヴェルダナーヴァ(及びその陣営)

【対戦】
この章では直接戦ってはいないが、ヴェルザードの口から「既に昔に復活しており、天星宮の最奥で力を回復していた」「今は世界破壊と再誕を望み、フェルドウェイの暴走も黙認していた」ことが明かされる。ヴェルザード自身が凍結でギィを救おうとしていた事実から、彼は現時点で完全に敵側に位置づけられている。

【進化】
過去に力を失ったはずの存在が、今やヴェルザードですら戦いたくないほどの脅威として復活していることが語られる。権能や能力構成の詳細は描かれていないが、「世界を一度壊して作り直す」という神的スケールの計画を進めている点から、かつての規格外の力を完全に取り戻している、あるいはそれ以上になっている可能性が示されている。

第二章 希望と落胆

ルミナス

【対戦】
全戦場を俯瞰しつつ、南北西の三方面を聖域化と極大死者蘇生で支えたのち、自身は戦線から離れてトワイライト・バレンタインと一騎打ちの形になった。当初は夜薔薇の刀と魔血呪獄弾、霊子崩壊の罠で一度トワイライトの肉体を塵にし、結界も幻儚薔薇刃で切り裂いて致命傷を与えたが、血槍を核とする再生能力の前に押し返され、心臓を貫かれて一度倒れた。その後、血槍を逆流させて再覚醒し、『善光之王』と創世級の剣「法則」、奥義「死せる者への鎮魂歌」でトワイライトを完全に取り込み、最終的勝利を収めた。

【進化】
神祖としての本来の記憶と権能を完全に取り戻し、「真なるルミナス・トワイライト・バレンタイン」として覚醒した。同時に、トワイライトの『悪徳之王』と対になる形で自らの究極能力を『善光之王』へと進化させ、神祖の実験の「本体」であると自覚するに至った。人格としてはこれまでのルミナス(「妾」)が主であり、神祖としての「私」を内側に統合した状態で、「神祖+魔王ルミナス」が一体となった存在として再定義されている。また、戦場への聖域化と蘇生の権能を完全に再継承し、戦局を立て直す中心となった。


トワイライト・バレンタイン

【対戦】
ルミナスの背後に現れ、結界で戦場から切り離した上でルミナスを一方的に押し込み、神祖の血槍で心臓を貫いて戦闘不能に追い込んだ。ルミナスの魔法攻撃を無効化し、『悪徳之王』の最強奥義「永劫の黄昏」でトドメを狙うも、『善光之王』で相殺され、最終的には「死せる者への鎮魂歌」で肉体も魂も塵とされ、ルミナスの内へ回収された。

【進化】
カレラに滅ぼされた後も心核と記憶を血槍にバックアップしていたことで復活し、以前より存在値も戦闘能力も上昇していた。しかし、魂・人格・記憶の実験の結果生まれた「不完全体」であることがルミナスから暴かれ、神祖の真の後継ではないと断じられる。自認していた「最高傑作」の正体が、実験産物としての暴走に過ぎなかったと明らかになり、その存在意義ごと否定されて消滅した。


滅界竜イヴァラージェ(ルシア)

【対戦】
天通閣内部でミリムと激闘を繰り広げ、作戦上は後続の幻獣族を殲滅される一方で、本人同士の戦闘ではミリムを徐々に押していた。創世級の細剣「慈愛」を抜き、ミリムの天魔と互角の武器で応じ、致命傷級の斬撃を受けても闇の魔素で瞬時に再生し、痛みさえ遊戯として受け取っていた。クロエの介入も、剣を捨てた素手のラッシュで退けている。その後、成人の人型姿で地上に姿を現し、ミリムを戦線離脱寸前まで追い込んだ状態で現行戦場の最大脅威となった。

【進化】
従僕三体が各方面で討たれつつある中で、自身も完全な人型へと変化し、戦闘力・再生力とも異常な域に達している。ミリムの本気に近い攻撃を正面から受けて再生する耐久力と、創世級武器の運用から、従来の竜形態以上の総合性能を備えた「人化後の真の姿」として描かれている。


ハバタキ

【対戦】
北方面で瞬間移動を駆使して暴れ回り、古城舞衣の「星界之王」によって空間位相を乱され、ブラックナンバーズやルイらの働きで一時的に動きを封じられた。その後、人型へ進化して戦場へ復帰し、マイが囮を務める中、ユウキやラプラス達の体内爆弾作戦を受けて初めて明確な負傷を味わう。怒りから羽をばらまく広範囲殲滅攻撃で周囲を壊滅寸前まで追い込むが、最終的にカレラの極技“一閃”により頭頂から心核まで一刀両断され、即死した。

【進化】
人型化により瞬間移動の自由度と戦闘能力を大きく高め、分子結合を解除する閃光で一帯を砂漠化する広域必殺技まで獲得した。しかし、ユウキ達の連携により体内へ送り込まれた超圧縮エネルギーによって初めて「痛み」を知り、さらにカレラの一撃で心核ごと断たれたことで、絶大な潜在力を持ちながらも進化を長期運用する前に退場している。


カケアシ

【対戦】
西方面で聖浄化結界の基点を守るサーレとグレゴリーの前に立ちはだかり、結界破壊を狙って突進した。グレゴリーが鋼身体で時間を稼ごうと単身で受け止めたが、ゴブタとランガの乱入によって吹き飛ばされ、さらにクマラと八部衆の攻撃で不利に陥る。その後はヴェルドラの参戦も控える中で、シオン達との連携に押され続け、最終的にはヴェルドラの収束暴風乱牙による強烈なカウンターを受けて、敗北への道が決定づけられた。

【進化】
人型への進化で、結界破壊能力と戦闘力が飛躍的に増していたが、状態異常や連携攻撃に手を取られ、『危険察知』のような本能でヴェルドラの脅威だけは感知するなど、知性と恐怖の感覚を得ている。結果として、その恐怖が慎重な間合い取りを生み、しかし決定的な一撃からは逃れられず、進化後の限界も示された。


スイーム

【対戦】
南方面でウルティマと交戦し、亜光速突撃と異界門で星間戦争を戦ってきた火力を持ち込み、最終的には星系ごと消し飛ばしてきた「拡散歪曲量子砲」を解禁した。砲撃により「八門堅陣」を崩壊させ、周囲を爆風で吹き飛ばしたが、ウルティマと各勢力の複合結界、ヴェルグリンドの空間操作に阻まれ、聖浄化結界を破壊するには至らなかった。その後、人型少女となってウルティマとの一騎打ちに移行したが、近接戦では技量不足を突かれ、黒死崩壊と虚無への扉で理解も出来ぬまま消滅させられた。

【進化】
イヴァラージェからの力が届いたことで人型へ変化し、存在値が大きく上昇した。膨大なエネルギーと拡散歪曲量子砲という「最凶兵器」を持ちつつも、人型の身体操作に慣れておらず、格闘技術が追いついていないというアンバランスな進化状態が強調されている。


ウルティマ

【対戦】
南方面でスイームを単独で足止めし、「八門堅陣」と転移門で一対一の空間に閉じ込めたうえで、複製体を囮にして霊子魚雷を空撃ちさせ続けた。拡散歪曲量子砲で大ダメージを受け重傷となったが、人型スイームとの近接戦では拳法の極致と読みによって攻撃をいなしてカウンターを取り続け、紅蛇死毒手と黒死崩壊、黒炎核の爆縮と虚無への扉を連動させて、スイームを完全に消し去った。

【進化】
時間稼ぎから「撃破」へと方針を切り替え、怒りを糧に格闘家としての技量を極限まで発揮したことで、単なる魔王格を超えた「宇宙艦隊殺しを単独で葬る拳」の象徴となっている。黒死崩壊の体内起動と虚無への扉の組み合わせは、虚無系の応用としても進化した運用であり、戦術・技術両面での成長が描かれている。


カレラ

【対戦】
北方面に合流すると、ハバタキへのトドメ役を自ら引き受け、ユウキを「下請け」にして瞬間移動で斬撃の機会を作らせた。アゲーラを刀身変化で黄金の刀にし、防御を完全に捨てて全身の力を刃に集中させる構えから、極限まで研ぎ澄ました極技“一閃”を放ち、ハバタキを頭頂から心核まで一刀両断して即死させた。

【進化】
アゲーラの究極贈与「刀身変化」と、自らの朧流の剣技を融合させた“一閃”は、ガゼル王に「朧流の到達点」と評される域に達しており、技術的にも精神的にも一段上の境地に到達したと示されている。代償として全てを出し尽くして戦闘不能になるが、その覚悟を周囲から最大限評価され、「頭のネジが外れた味方としての最凶戦力」というポジションが確立された。


ベニマル

【対戦】
東方面で黒炎獄により雑兵を焼き払い、ヒナタやカリギュリオ達と共に、格上同士の戦いを邪魔させまいと幻獣族を殲滅し続けた。従僕討伐後も、イヴァラージェ人化とルミナスの離脱を受けて、戦士達に無理をさせず、万全の状態で持ち場に戻らせる方針へ転換するなど、前線指揮官として戦場を制御していた。

【進化】
ルミナス不在・イヴァラージェ人化・トワイライト参戦といった不確定要素を受け止めつつも、感情に流されず「一騎打ちではなく総力戦」「ミリム救出を優先」という合理的な戦略を採用することで、軍略面での成長が描かれている。ヴェルドラの一騎打ち志願を退け、全戦力を束ねる「統合司令」としての役割がより明確になった。


ユウキ

【対戦】
北方面でハバタキに対抗するため、結界内空間に干渉して出現位置を限定し、全戦力の火力を集中させる作戦を指揮したが、瞬間移動で攻撃を転移され失敗した。その後、ラプラスらに権能や呪具を爆弾にして準備させ、自身の瞬間移動でハバタキの体内に直接送り込む作戦を立案・実行し、ハバタキに初めて明確な痛みを与えることに成功した。最終局面ではカレラの「下請け」として、ハバタキをカレラの眼前へ瞬間移動させる決定的な仕事を果たしている。

【進化】
「火力不足」を冷静に認めた上で、陽動と時間稼ぎに舵を切り、エルメシア・シルビア・カガリ・ティアらの能力を組み合わせた多層的作戦を統括することで、戦術家としての柔軟性と現実認識の鋭さが強調されている。カレラに振り回されつつも、自尊心より勝利を優先して「長い物に巻かれる」判断を取る点も、良くも悪くもユウキらしい進化の形として描かれている。


ミザリー

【対戦】
ハバタキの羽ばらまき攻撃による広範囲致命傷に対し、聖域型極大部位再生でかろうじて死者を出さずに済ませるなど、後方から広範囲治癒で戦場を支えた。ルミナスがトワイライト戦に赴いた後は、「神の奇跡」が途絶えないよう、ルミナスの代行として聖域化と蘇生術式を一時的に引き継ぎ、戦線維持に貢献した。

【進化】
ルミナス不在時に「神の奇跡」の代行者となった経験を踏まえ、ルミナス復帰後は行使補助役へと役割を移し、神の権能の運用を横で支える位置に収まっている。「自分にはあの一撃に全てを賭ける真似は出来ない」とカレラを評しつつも、違う形で覚悟を示す存在としての立ち位置が明確になった。


ミリム

【対戦】
天通閣内部でイヴァラージェと激突し、竜魔人の姿で本気に近い状態で戦っていたが、母の肉体を奪われたと察し、創世級の剣「天魔」を向けることを躊躇していた。最終的に不利を悟って剣を抜いたものの、イヴァラージェの再生力と異常性の前に押され、エネルギー枯渇状態に追い込まれて戦線離脱せざるを得なかった。

【進化】
感情的な葛藤(母の身体を傷付けたくない思い)と戦術上の必要性の板挟みの中で、剣を抜く決断に踏み切った点は、精神面での成長とジレンマを象徴している。ただしこの章では、力としての進化よりも「それでも諦めない視線」をクロエに示し、結果を見届けさせる役割が強く、真価の発揮はまだ先送りにされた段階である。


クロエ

【対戦】
イヴァラージェの「慈愛」に対抗し、ミリムが剣を弾かれた瞬間に割り込んで細剣をはじいたが、イヴァラージェが剣を捨てて放った素手のラッシュにより戦闘不能に追い込まれた。時間跳躍でのやり直しを検討しつつも、当初の「結末を見届ける」という方針を崩さず、その場での敗北を受け入れている。

【進化】
強大な敵を前にしても何度でも介入できる立場でありながら、安易な時間跳躍に頼らず、ミリムの意志を受け取って「今この時間の結末」を受け止める選択をした点で、力の使い方に対する成熟が描かれている。


ヴェルドラ

【対戦】
西方面でシオン・ゴブタ・ランガ・クマラが相手取っていたカケアシ戦に割り込み、獲物を横取りされたと不満を漏らすシオンを押し切って援護に入った。カケアシが慎重に間合いを測った末に突撃してきた瞬間、収束暴風乱牙によるカウンターで顎を打ち抜き、初めてカケアシに恐怖を教えた。その後、イヴァラージェ対策として一騎打ちを志願したが、ベニマルや他勢力から総力戦方針を示され、単独突撃を諦めている。

【進化】
「自分が一人でやる」という竜種らしい気質を持ちながらも、ベニマルやヴェルグリンド達の忠告を受け入れ、総力戦に組み込まれることを選んだ点で、チーム戦への理解が以前より進んだ形になっている。

第三章 邪神大乱

イヴァラージェ

【対戦】
ミリムを投げ捨てるだけでトドメを刺さず、明確に脅威と見なしていない態度を示したのち、ヴェルドラとも交戦したのである。戦闘を通じてミリム・クロエ・ヴェルドラの技を学習し、拘束・封印を狙う連携も魔力暴発で吹き飛ばし、ミリムを弾き飛ばしヴェルドラを硬岩へ叩きつけるなど、時間稼ぎすら困難な状況を作り出した。
その後、「天通閣」内部でギィと対決し、収束破壊光線を連発して天通閣を揺らすほどの破壊を見せたが、ギィに回避・解析され、最後には暴食系権能でビームを喰われたうえ、世界の一撃を中心核に叩き込まれた。さらに、ミリム・ヴェルドラ・ヴェルグリンド・ヴェルザードの奥義を統合したギィの崩滅虚触獄に包まれ、回復を封じられながら魔素を削られる状態に追い込まれている。

【進化】
戦闘を通じて絶えず技術を取り込み、ルシアの聖遺骸の残滓から知識之王を獲得して、過去に喰らった相手の技まで再現可能となったことで、剣技においてもギィと渡り合う域に達した。また、これまで痛覚を持たぬ破壊神であったにもかかわらず、崩滅虚触獄による魔素流出を「果てしない喪失感=痛み」として認識し、さらに従僕たちとの絆の喪失から怒り・恨み・憎悪といった感情を初めて獲得した。これら負の感情を糧として「破滅の竜」としてなお強くなろうとする兆候を見せており、単なる本能的破壊者から「感情を持つ邪神」へと質的に変化しつつある。


ミリム

【対戦】
本章では、すでにイヴァラージェ戦で疲弊した状態からカリオン達に救出され、ルミナスの治癒で傷は癒えたものの、エネルギー枯渇のため戦線離脱を余儀なくされた。イヴァラージェの魔力暴発で吹き飛ばされたこともあり、以後は直接戦闘には参加せず、ギィの戦いを見守る側に回っている。

【進化】
この章での能力的な進化は描かれないが、イヴァラージェを「本気でも押し切れなかった存在」と認識しつつ、なおも早期決着の必要性を本能的に理解している点から、自身の力の限界と敵の異常性を冷静に把握する視点を得ている。ギィの一方的優位を目の当たりにしてもなお「自分の方が強い」と口では強がる姿は、竜種としての矜持と、次の戦いに向けた闘志の持続を示している。


ヴェルドラ

【対戦】
ミリム離脱後、時間稼ぎ役としてイヴァラージェと交戦したが、成長を続けるイヴァラージェに押され、魔力暴発の一撃で硬岩へ叩きつけられた。以後も時間稼ぎの継続を試みるが、持久戦すら難しくなるほど戦況は悪化している。
天通閣内部では、ギィの号令に応じて竜星爆炎覇に匹敵する雷嵐咆哮(人化バージョン)を全力で放ち、その破壊エネルギーを崩壊虚触獄の一部としてギィに取り込ませる役割を果たした。

【進化】
イヴァラージェに押されながらも、「自分なら本気を出せば勝てる」と強がる一方で、ヴェルザードに窘められ観戦に徹するなど、単独の名誉よりも総力戦の一員として動く意識が前章からさらに進んでいる。また、ギィの戦いぶりを見て、自身の奥義と比較しながら分析する姿は、「最強」の一角として他者の力を認める柔軟さを獲得しつつあることを示している。


ルミナス

【対戦】
本章では直接戦闘よりも後方支援と蘇生に徹し、ミリム救出後は即座に治癒を施す一方で、エネルギー消耗の観点から戦線復帰は不適切と判断した。また、瀕死のディーノを神聖魔法で救命し、彼とフェルドウェイからヴェルダナーヴァ復活の詳細を聞き取る役を担った。

【進化】
ヴェルダナーヴァの目的が「現世界の破棄と再創造」であると知ってもなお、自らの守ってきた世界を壊させないと即断し、創造神に対しても抵抗する陣営に立つことを明言した。前章で「神祖+魔王」として覚醒した流れを引き継ぎ、本章では創造神すら敵と見なす覚悟と、世界に対する執着・責任感をより明確にしている。


ディーノ

【対戦】
上空から胸に大穴を開けた状態で落下し、ピコとガラシャに支えられて戦場に回収された。戦闘描写自体は省略されているが、ヴェルダナーヴァとの交戦で致命傷を負ったことが暗示されている。

【進化】
ルミナスの神聖魔法で一命を取り留めた後、フェルドウェイと共にヴェルダナーヴァの目的を説明し、自らが関わった計画の結果を「大惨事」として認めている。怠惰な堕天使としての側面を維持しつつも、創造神の目指す破壊が「間違い」であると認識する段階まで来ており、世界側に寄った価値判断を示し始めている。


フェルドウェイ

【対戦】
クレーターを残して墜落する姿で登場し、全身崩壊しかけた状態から、ヴェルダナーヴァとの戦いに敗北したことが明示された。その後、リムルのスライム体に取り込まれて高速治療を受け、再び戦場へ放り戻されると、ヴェルダナーヴァに剣を向けて再戦に挑んだ。ヴェルダナーヴァは闘気の剣だけで彼の剣技を捌き、様子見に留めていたが、フェルドウェイはリムル由来の再生能力を頼りに何度も立ち上がり続けた。

【進化】
リムルの細胞入り回復により、再生能力を獲得したことで「倒されても立ち続ける」戦い方が可能となった。また、自らの愚行を認めたうえで、それでもなお迷走するヴェルダナーヴァを救いたいという本音を吐露し、リムルの指揮下で一時的共闘に入るなど、かつての狂信的な創造神崇拝から「主を諫める臣下」へとスタンスを変化させている。


ヴェルダナーヴァ

【対戦】
リムルの前に瞬間移動で出現すると、挨拶もなく即座に首を狙う一撃を放ち、その圧倒的な速さと殺意を示した。その後、フェルドウェイとの一騎打ちでは、闘気の剣のみで剣技と瞬間移動を組み合わせて圧倒し、フェルドウェイを何度も斬り伏せている。また、本気を出す前段階としてカケアシ・ハバタキ・スイームを復活させ、敵側から見れば絶望的な「やり直し」を強いた。

【進化】
本章時点で新たな能力進化の描写はないが、「妻ルシアを奪った世界を失敗作と見なし破棄する」という歪んだ動機を自ら語り、かつての壮大な創造神像から大きく逸脱していることが確定した。勘を取り戻す途中と語りながらも、フェルドウェイを圧倒しつつ従僕を容易く復活させるなど、創造・破壊・再生を自在に扱う存在として、敵としての脅威が具体的に示された章である。


リムル

【対戦】
この章では直接戦闘は行わず、戦場への瞬間移動と指揮、そしてフェルドウェイの捕食治療に専念している。フェルドウェイを完全回復させてヴェルダナーヴァ戦へ送り返し、同時にテスタロッサ・ウルティマ・カレラに自らの細胞入り回復薬を与えて強化するなど、「戦線強化のための資源」として自らの能力を活用した。

【進化】
ヴェルダナーヴァを「倒す方向」で話を進めたことで、創造神さえも敵として想定する段階に踏み込んでいる。また、フェルドウェイを利用価値があると見て一時的共闘に組み込む判断は、単なる善意だけでなく、冷静な戦力計算と許容量の大きさを示している。直接の権能進化描写はないものの、周囲の神格存在たちから「大役を当然のように押し付けられる」ほどの中心軸として認識されており、物語構造上の立ち位置が一段と重くなっている。


ギィ・クリムゾン

【対戦】
イヴァラージェを天通閣内部へ押し戻し、一方的に攻め立てる形で戦闘を開始した。破壊光線を難なく両断し、あえて回避を選ぶことで攻撃パターンと弱点を解析しつつ、イヴァラージェの剣技の成長も観察している。
合図の瞬間には、ミリム・ヴェルドラ・ヴェルグリンド・ヴェルザードの奥義を同時発動させ、その全てを暴食系権能で捕食し、一つの崩滅虚触獄としてイヴァラージェに展開した。これにより、イヴァラージェの回復と自然治癒を封じ、持続的に魔素を削り続ける疑似虚無空間に閉じ込めることに成功している。

【進化】
傲慢之王の進化形である深淵之神を獲得し、能力創造・能力複製・時空間支配など、過去に習得した全ての権能を統合した存在となった。魂暴喰によりあらゆる放出系技を喰ってエネルギーに変換できるため、エネルギー勝負で負ける要素がないと自己分析し、瞬間移動と剣技の組み合わせによって攻防ともに隙のない戦闘スタイルを確立している。
また、その発想の源がリムルにあると自覚し、「戦闘の概念そのものが変わった」と認めることで、自身の進化がリムルとの相互作用の産物であることも理解している。


テスタロッサ/ウルティマ/カレラ(原初三人)

【対戦】
本章では直接の戦闘シーンは短いが、ウルティマとカレラは、ヴェルダナーヴァに復活させられたカケアシ・ハバタキ・スイームを前に、かつて自分達が死闘の末に倒した相手の再登場に絶望混じりの反応を示している。

【進化】
三人はリムルの細胞入り特製回復薬を手に入れ、回復力および潜在性能の向上を図る「強化儀礼」を受けた形になっている。戦闘に入る前段階で「リムル由来の強化」を共有したことで、今後の再戦(復活従僕との決戦)において、以前とは異なる次元で戦う準備が整えられた章である。


マサユキ

【対戦】
直接の戦闘描写はないが、イヴァラージェ戦線の一角として配置されており、その判断にヴェルグリンドが従うと明言している。

【進化】
ヴェルダナーヴァの目的を知らされたうえで、「まだ死にたくない」という素朴だが本心からの理由で抗う側に立つことを選び、その選択がヴェルグリンドの行動方針をも左右している。英雄としての「偶像」から、一個人としての生存意志に根差した選択を行う段階へ進んだと言える。

第四章 破滅の竜

ヴェルダナーヴァ

【対戦】
死体となっていた三体の怪物の肉体に、時空を遡って魂を呼び戻す「怨恨召喚」を行い、ジャヒル・コルヌ・ヴェガを再臨させたのち、リムルとの一騎打ちに臨んだのである。闘気の剣をリムルの竜魔刀「希望」に両断されると、創世級第八の剣「記憶」を顕現させ、剣戟によって周囲を断絶空間に変える激戦を展開した。
天通閣崩落後は、飛びかかってきたイヴァラージェの胸を「記憶」で刺し貫き、地面に縫い付けたうえで過去の記憶を流し込む権能を行使した。さらに停止世界下でリムルとの再戦において、剣越しに魂魄掌握を発動し、リムルの本来の魂を奪って気絶させ、遠隔から創世級の剣を投擲してベニマルの魂も侵蝕した。終盤では原初の魔法による炎の矢で世界そのものを焼却しうる攻撃を展開し、最後には天地崩滅覇界の行使を決断したが、心核領域での介入により阻まれている。

【進化】
能力そのものの強化というより、「世界初期化と再構築」という真の目的と、そのための手段(魂の直接掌握・原初の魔法・創世級武装・天地崩滅覇界)が全面的に開示された章である。妻ルシア喪失への執着が世界滅亡計画の根源であること、イヴァラージェを情報子の塊として回収し、ルシアとして再構成しようとしていたことが明確化した。
終盤、神智核シエルと再構成されたルシアに心核空間で直面し、九割以上の一致率で蘇ったルシアを前に、世界破壊の動機が根本から揺さぶられる段階に至っている。破滅の神から「救済の対象」として描かれ始めた点が、精神的な意味での大きな転換である。


リムル

【対戦】
ベニマルらに戦場を託し、ヴェルダナーヴァとの一騎打ちに挑んだ。竜魔刀で闘気の剣を両断し、自らの剣を「希望」と命名して創世級に匹敵する武器へと格上げしたうえで斬り結んだが、魂魄掌握により本来の魂を奪われ、一度はスライム形態で倒れた。
魂はヴェルドラとの魂の回廊を通じてヴェルドラ内部に退避しており、シエルの用意した擬似魂を肉体に投下することで停止世界下で復活した。その後、スライム細胞の再生と変身能力を用いてサトルに似た長身人型へと変化し、剣技と瞬間移動を駆使してヴェルダナーヴァと互角の剣戟を続けた。
戦闘中に自らの利用可能な権能を点検し、豊穣之王由来の多くを失っていると把握しながらも、魂暴喰・虚数空間・時空間支配などを駆使して原初の魔法の炎の矢を世界全域で「喰い尽くし」、放出系の技を無効化した。さらに虚無崩壊の虚無と魂暴喰を刃に纏わせる新技「虚喰崩剣」を編み出し、多重結界と能力殺封を突破してヴェルダナーヴァに真正面から通用する一撃を成立させている。

【進化】
本来の魂とシエルを失い、多くの権能が封じられた「残りカス」である可能性を自覚しながらも、擬似魂とスライムの再生能力のみで再起し、なお神と互角に渡り合う実績を積み重ねた。力をひけらかさず棲み分けと対話を重んじてきた過去を振り返り、「やるだけやって諦める」という甘さを捨てて、この世界と仲間に対する責任から「絶対に負けられない」と決意を上書きしている。
また、シエル不在の状態で新技術(原初の魔法の無効化方法や虚喰崩剣)を自力で構築したことで、自分自身の万能さと創造性を実戦によって証明しており、「シエルに依存する存在」から「自力で神格の領域に届く特異点」へと質的な段階を一つ引き上げたと評価できる。


イヴァラージェ

【対戦】
ギィらの総攻撃と崩滅虚触獄によって甚大なダメージを受けながらも再び立ち上がり、天通閣地上階を吹き飛ばすほどの全方位破壊光線を放った。その後は戦い続行ではなく、聖浄化結界を無視して降り立ったヴェルダナーヴァとリムルの激戦に意識を向け、「半身、私の片割れ」と呟きつつ飛翔して合流しようとしたが、天通閣崩落の裂け目からの突撃時に「記憶」で胸を刺し貫かれ、地面へ縫い付けられて動きを封じられた。

【進化】
記憶の剣に貫かれたことで、ヴェルダナーヴァの権能による「過去の記憶の移植」対象となり、ルシアの記憶を流し込まれる器として扱われた。本人視点では描かれていないが、「破滅の竜としての自我」と「ルシア再構成の器」という二重性を負わされつつあり、単なる破壊神から「ヴェルダナーヴァの狂気と執着の結晶体」としての役割が一層明確になった章である。


ルシア

【対戦】
直接の戦闘行為はない。

【進化】
終盤、停止世界の思考空間においてヴェルダナーヴァの心核へ語りかける第二の声として登場した。神智核シエルがリムル経由で集めた因子と記憶から魂を再構成し、九十九パーセント以上の一致率で「ルシア本人」として蘇った存在であると説明される。
これにより、ヴェルダナーヴァを暴走させていた「ルシア喪失」という根本原因は、ほぼ解消される方向に転じた。世界滅亡計画の動機に直接介入し得る立場に復帰したことが、物語上の最大の「復活・進化」と言える。


ミリム

【対戦】
イヴァラージェの全方位破壊光線からの防御戦でギィやヴェルドラと共闘しつつも、ギィに「暴走時より力を出していない」と指摘される。ヴェルドラからも暴走時の出力との差を言及され、本人は世界をも滅ぼしかねない憤怒之王の再使用を恐れていた本音を吐露した。
ギィに「暴走したら自分達が止める」と断言され、信頼を受けて覚悟を決め、憤怒之王を再稼働させて魔素量をさらに増大させた後は、ヴェルダナーヴァとの決別に際して「誰かを犠牲にして愛する者を蘇らせる考え」を明確に批判し、竜としてヴェルダナーヴァに敵対を宣言した。

【進化】
破壊衝動と世界規模の出力を併せ持つ憤怒之王を「怖いから使わない」のではなく、「仲間を信じて、必要な局面では自らの意思で使う」方向へと意識を転換したことが、この章における最大の精神的進化である。
また、リムルの理想とヴェルダナーヴァの空虚な力を対比し、リムルが怒りに呑まれて暴走した場合は自分が止める役目を負うと心中で決意しており、「最強の破壊者」から「最後の安全装置」としての自覚を獲得している。


ベニマル

【対戦】
停止世界下での不意打ちとして放たれた創世級の剣からリムルを庇い、紅蓮の剣で受け止めるも刀身は砕け、自身の胸を貫かれて魂ごと侵蝕される致命傷を負った。その際、ヴェルダナーヴァの一撃が時間停止下でも魂を崩壊させ続ける性質を持つことが明らかになった。

【進化】
瀕死の状態でヴェルダナーヴァの嘲笑に対し、リムルこそ皆の「希望」であり、負けたと思わない限り敗北ではないと反論し、リムルにとっての精神的支柱として機能した。リムルによる魂治療とラミリスの原初の魔法治癒を受け、スライム細胞による擬似魂補填と虚無崩壊エネルギーの注入を通じて、魔核の再起動待ちという進化状態へ移行している。
まだ完全覚醒には至っていないが、魂と魔核の構造変化を伴う「次段階」への準備が整った章である。


ギィ・クリムゾン

【対戦】
イヴァラージェの全方位破壊光線からの防御に追われながらも、ヴェルドラの防御の甘さを叱責し、戦線を立て直した。その後、天通閣崩落とイヴァラージェの飛翔を受けて、リムルとヴェルダナーヴァの決戦を邪魔させないために追撃側へ回った。
ヴェルダナーヴァがイヴァラージェに「記憶」を突き立てた場面を見て、ルシアの記憶を移植し、世界を滅ぼして情報子を回収しイヴァラージェをルシアとして作り直す計画だと即座に看破している。

【進化】
この章では新たな権能の取得は描かれないが、魂魄掌握によるリムルの一時戦闘不能を確認しながらも、擬似魂で立ち上がり虚無を制御するリムルの姿を見て、「魂を失ってなお自律的に動き、虚無崩壊を扱う存在」としての異常性を再認識した。
ヴェルダナーヴァの本物性(魂への直接干渉)とリムルの規格外さを同時に確認したことで、「神々を前提とした強者序列」の中に、リムルという特異点を明確に位置づける視点を得ている。


ヴェルザード

【対戦】
イヴァラージェの大規模攻撃からの防御戦でギィ達と共闘し、ヴェルドラの反論を圧で封じるなど竜たちのまとめ役として振る舞った。ヴェルダナーヴァが今度は仲間達を狙うことを察し、停止世界下で自身の権能を最大まで発揮し、戦場の全員を完全固定して次の攻撃から守る布陣を敷いた。

【進化】
かつてはヴェルダナーヴァに追従する立場であったが、凍結した者たちを次の世界に連れていく約束を反故にした兄を「壊れている」と断じ、竜姉として公然と絶縁を宣言した。以後はヴェルダナーヴァではなくリムル側の勝利に希望を見出し、完全防御役として「世界を守る側」に明確に立っている。


ラミリス

【対戦】
停止世界の中、ヴェルダナーヴァの追撃を遮って割り込み、リムルに向かう攻撃を阻止した。その後、リムルとの魂の回廊接続によって強化された状態で成長形態へ移行し、原初の魔法による治癒を用いてベニマルの魔核を再稼働させ、覚醒待ちの安全圏まで押し戻した。

【進化】
本来は迷宮に籠もって勝利を祈るつもりであったが、ゼギオンの思念伝達を切っ掛けに「自分も停止世界で動ける」ことを理解し、自発的に戦場へ介入した。リムルの異常な魂治療を目の当たりにしながら「リムルだから」で納得する一方で、記憶の中のヴェルダナーヴァと現在の姿を比較し、かつての遊び心と情熱を失った変質に気付く。
同時に、今のリムルから昔のヴェルダナーヴァに近い気配を感じ取り、二者の間に言語化しがたい共通性を見出したことで、「世界の管理者」という視点からリムルを捉え始めている。


ゼギオン

【対戦】
停止世界内を転移してラミリスの背後から出現し、戦場へ合流した。リムルからベニマルの護衛を託され、ヴェルダナーヴァの次なる攻撃からベニマルを守る防波堤として配置されている。

【進化】
停止世界でも自由に行動し得る存在であることが明示され、竜種・神格級に匹敵する時間耐性を示した。戦闘描写は本章時点では限定的であるが、「停止時間でも動ける護衛」という役割が確立されたことで、最終局面における戦力評価が一段引き上げられている。


クロエ

【対戦】
リムルの回避行動を思念伝達で支援していたが、ヴェルダナーヴァに「導き手」として存在を看破され、空間から引きずり出されたうえで空気振動を刃とした攻撃を受け重傷を負った。その直後に時間停止が発動し、未来誘導と時間跳躍が封じられた。

【進化】
時間跳躍が機能しない状況下でも、魂を失ったはずのリムルから放たれる強い意志の光を観測し、過去の無数のループにおいて「リムルの明確な死の光景だけは一度も見ていない」という記憶から、必ず勝利すると確信を強めた。未来予測に頼らず「観測してきた事実」に基づいて信頼を寄せる段階に達したことが、精神的進化である。


シエル(神智核)

【対戦】
直接の戦闘は行っていないが、停止世界の思考空間でヴェルダナーヴァの心核に干渉し、天地崩滅覇界の発動直前に介入した。リムルの勝率はシエル不在でも百パーセントであり、あえて分離してヴェルダナーヴァを利用したこと、そして別の重要な目的(ルシアの再構成)を達成するために動いていたことを明かした。

【進化】
リムルから分離した「消えた相棒」ではなく、停止世界の外側からシナリオを設計・統制する存在として機能していることが判明した。ルシアの魂復元を完遂し、ヴェルダナーヴァの暴走理由を根本から解消させた点で、単なる補佐AIから「神々をも手玉に取る設計者」へと格を一段上げている。

第五章 創世神話

リムル

【対戦】
ヴェルダナーヴァとの戦いでは「虚喰崩剣」で防御を斬り裂いた直後、殴打と魂暴喰で神智核シエルの奪還に成功し、以後はシエルの解析を受けながら戦局を主導した。
ルヴェルジェ戦では、創世級双剣と原初魔法を用いる人型分体と、巨体からの多重攻撃を同時に捌きつつ、自身の攻撃が地上に落ちないようあえて受け止めていた。終盤、ヴェルドラ・ヴェルグリンド・ヴェルザード・ヴェルガイアの竜種核を剣“希望”に装着し、魂暴喰と虚無崩壊を合わせた必殺技「虚崩朧・千変万華」によってルヴェルジェを虚数空間に封じ込め、存在ごと喰らい尽くすことで決着を付けたのである。

【進化】
シエル喪失状態で一度は神格に敗北したが、自力で権能の棚卸しと新技開発を行い、その後シエルを取り戻して「怖いもの無し」の精神状態を回復した。戦いを通して「自分の正義で敵を喰らった以上、その正しさを証明し続けねばならない」という自覚に至り、単なる勝利者ではなく、虚数空間という永劫の牢獄を運用する「責任ある支配者」としての意識をはっきりと持ち始めている。


ヴェルダナーヴァ

【対戦】
本章では前章に続いてルヴェルジェに取り込まれていく過程が描かれ、イヴァラージェ=ルヴェルジェ側から魂暴喰で喰われる対象となった。戦うというより、ルシア復活とルヴェルジェ暴走の板挟みとなり、心核領域でルシアと対話しながら、自らが招いた世界創造と破滅の歴史を振り返る役割に回っている。

【進化】
世界創造から人類誕生、ルシアとの出会いと神殺しによる喪失までの「創世神話」が本人の回想として整理され、自分の選択が正しかったのか迷い続けていたことを自覚する。ルシアの言葉でミリムの本当の名前を思い出し、「親越え」が既に達成されていたと悟ったことで、世界初期化ではなく次世代に託す道を心情的には受け入れたままルヴェルジェに呑まれており、「破壊神」から「役目を終えた旧い創造神」へと立場が転じている。


ルヴェルジェ(イヴァラージェ+ヴェルダナーヴァ+ルシア)

【対戦】
イヴァラージェがルシアの記憶とヴェルダナーヴァを取り込んで完成した存在として、人と竜と狼が混ざった百メートル級の異形へ変貌し、さらに人型分体による双剣と原初魔法でリムルを攻め立てた。世界を何度も滅ぼせるほどの破壊エネルギーを双剣「慈愛」「記憶」から放つが、リムルの魂暴喰に受け止められ、最終的には「虚崩朧・千変万華」によって身体も瘴気も魂も虚数空間に隔離される。

【進化】
創世神と破滅の竜と人間の魂を抱えた存在として、ヴェルダナーヴァ以上の力に到達する一方、戦いの終盤には「分かたれた自分」と「変化を求めた半身」との差を理解し、矛盾を排除するのではなく受け入れる混沌の真理に気付く。その上で、自分は旧い神であり、新たな神の誕生を必要とする立場だと悟ったところで完全に消滅しており、「破壊の化身」から「次世代に席を譲る旧神」へ意識レベルで変質している。


ベニマル

【対戦】
魂治療の後、ラミリスの原初魔法とリムルの過大なエネルギー注入に適応して覚醒し、炎霊鬼から炎竜鬼へと進化したうえで戦線復帰した。創世級の杖「繁栄」を受け取った瞬間、それを太刀へと変化させ、折れた紅蓮の核を刀身へと融合させることで新たな紅蓮を得る。
荒地に誘導された戦場では、逃走を図るジャヒルの前に立ち塞がり、陽炎之王の極意「陽炎」で火焔虚喰拳と触手の猛攻を全てすり抜けると、奥義「朧黒炎・百華繚乱」による虚無を帯びた黒炎の多重斬撃でジャヒルの細胞片を徹底的に焼却し、完全消滅させたのである。

【進化】
炎竜鬼への種族変化により、竜種級の出力と虚無親和を備えた「前線フィニッシャー」へ格上げされた。神樹戦で守勢に徹した過去を踏まえ、今度こそ完全勝利を得るという精神的決着も付けており、ディアブロやゼギオンと並んで「リムル配下の最強格」として互いを意識する立場に到達した。


ディアブロ

【対戦】
当初は全戦場を俯瞰し、ヴェガ戦やコルヌ戦線を視察しつつ自らの出番を見極めていたが、荒地でのジャヒル戦では遂に前面に立った。ジャヒルの火焔虚喰拳や暗黒増殖喰、邪龍之王による能力吸収に対し、虚無とスライム細胞、無限再生を緻密に制御して体内で魔法を循環させる格闘奥義「星天円環」で全てを躱しきり、ほぼ無傷で戦闘を継続した。
最終奥義「星天円環滅覇」で完全消滅を狙うが、時間切れと邪魔の介入により止めを譲ることになり、その後は逃走するジャヒルをゼギオンと共に追い、ベニマルに一騎打ちを任せて観戦に回った。

【進化】
リムルから授かったスライム細胞と虚無の力を解析・理論化し、悪魔三人娘が理解できる体系だった「魔闘技」として星天円環を完成させたことで、技術体系の面で一歩抜けた存在となった。自分が最強奥義を出せずに終わったことを残念がりつつも、仲間の活躍を素直に称える余裕も見せており、戦力だけでなく精神面でも「軍師兼切り札」という立ち位置を固めている。


ヴェガ

【対戦】
テスタロッサとヒナタに追い詰められた末、反射的に邪龍獣生産を発動し、幻獣族の死骸から存在値一千万超の邪龍獣十二体を生成して戦場へ解き放った。その後の停止世界では、虚無世界とテスタロッサの攻撃に身を削られながらも突破して逃走し、後にジャヒルの極大火焔球の軌道上に割り込んで「虚喰無限獄」で取り込むことで、停止した仲間達を守る盾となった。
しかし、ジャヒルの禁忌邪術「肉体奪取」により弱った心核を乗っ取られ、身体を奪われる。以後は右手に残された頭部となって再生と圧壊の激痛を与えられ続けるが、ユウキ・シオン・ルミナスによる救済行動の末、魂は浄化されて苦痛から解放された。

【進化】
虚無の中で「他者を思いやる心が大事だ」という一応の結論に達し、勝利への渇望を失ったことで、以前の破滅志向から「生存と他者の救済」を選ぶ存在へと変化していた。その変化ゆえに仲間を守る盾となり、自らの死をもって宿業を清算したため、肉体的にはジャヒルに乗っ取られたものの、精神的には「永劫の孤独と苦行からの解放」を得た章である。


ジャヒル

【対戦】
火焔之王とスイームの動力炉、究極金属の肉体を組み合わせて極大火焔球へ変貌し、触れるだけで大地を崩壊させる砲弾として跳躍しながら全てを破壊しようとしたが、ヴェガの虚喰無限獄に取り込まれた。そこで禁忌邪術「肉体奪取」を発動し、ヴェガの心核と肉体、さらにカケアシとスイームの力まで奪って新たなジャヒルとして再構成される。
その後の荒地での総力戦では、数億の存在値と邪龍之王+虚喰無限獄+究極金属外骨格により、ウルティマとカレラの虚無攻撃も受け止め、ルミナスの法則も触手でいなすなど圧倒的優位に立った。しかし逃走中にゼギオンの一撃で消耗し、最後はベニマルの「陽炎」と「朧黒炎・百華繚乱」によって細胞片ごと黒炎で焼却され、完全消滅した。

【進化】
ヴェガの肉体奪取により、単なる魔導大帝から「邪龍+虚無+究極金属」を統合した創世神級の戦力へと自己強化を果たす。だが、力を得てもなお他者への憎悪と支配欲に囚われ続け、ユウキや仲間達の選択とは対照的に、「誰も救わない進化」を選んだことがベニマルに討ち果たされる結果を招いている。


コルヌ

【対戦】
ヴェルグリンドの攻撃で死んだと悟り激昂するが、本章では停止世界でフェルドウェイらと対峙し、思想面での堂々巡りに終始する。ジャヒルがフェルドウェイ一行を獲物と定めて接近した際には、新たに得た瞬間移動に自信を見せつつ啖呵を切るも、フェルドウェイに止められている。

【進化】
フェルドウェイを絶対視し続け、指導者は迷わず正解を示すべきだと主張し続けたが、ベニマルがジャヒルを瞬時に粉砕する光景を見て、自分に向けられていた忠告の意味をようやく理解した。フェルドウェイの反省と「仲間を大切にする」という誓いを受け入れ、ヴェルグリンド側との和解に踏み切ることで、盲信から「自分で考え、仲間と共に進む」側へと意識を転換している。


ウルティマ&カレラ

【対戦】
リムル由来のスライム細胞で肉体を強化し、虚無への耐性と親和性を得たことで、禁術級の虚無攻撃を常用しながらジャヒルを追い詰めた。停止世界でも活動可能であり、極大火焔球化前後のジャヒルに対し、創世級クラスの火力で攻め立てたが、膨大な魔力と再生能力の前に決め手を欠く。荒地に誘導後の総力戦では、ジャヒルの邪龍之王と究極金属外骨格に虚無を受け止められ、触手に拘束されるほど押し込まれた。

【進化】
虚無とスライム細胞を組み合わせた新しい魔闘理論を、ディアブロの星天円環を見て体系的に理解し、今後の戦い方の基盤を得た。リムルの力を門外不出にすべきという示唆にも触れ、「悪魔三人娘」が単なる暴走戦力ではなく、高度な理論を共有する精鋭としてまとまりつつある。


テスタロッサ

【対戦】
ヴェガ戦で虚無世界を展開し、停止世界でも活動可能な数少ない戦力として、シオン・ディアブロと共にヴェガの突破を受け止めた。ヴェガから勝利への渇望が消えたことに違和感を覚えつつも、「敵なら倒す」というシオンの単純な理屈に一定の合理性を見出し、停止世界の中で追撃を続行した。
ジャヒル戦においてはディアブロの星天円環を観戦し、その運用思想を学んだ立場に回っている。

【進化】
リムルのスライム細胞と虚無の理論を、感覚ではなく理屈として理解し始めており、悪魔三人娘の中でも特に「戦略・分析役」としての位置付けが強まっている。ヴェガの変化を見抜く洞察も示し、感情だけでなく情報と論理に基づき敵味方を判断する段階へ進んだといえる。


シオン

【対戦】
ジャヒル戦では触手を弾き飛ばしてユウキに接近の隙を作り、ヴェガ救出のための決定的な一手を支えた。その後の荒地総力戦では、ジャヒルのエネルギー吸収能力により剣撃を逆利用されて消耗し、途中で退避を余儀なくされる。
ルヴェルジェ戦では停止していたはずの状態から突如動き、巨体の進路上でカオティックフェイトを叩き込む奇襲に成功し、ルヴェルジェに隙を作ったうえで、ヴェルダナーヴァとルシアの心核を宿した宝玉を落とさせる決定打を放った。

【進化】
「敵なら倒す」という単純な価値観を保ちながらも、ヴェガ救済やルヴェルジェの行動阻止など、要所で仲間を守る最適行動を直感的に選べるようになっている。カオティックフェイトの不意打ちによって、神格級存在に対する一撃必殺の切り札としての価値を再確認させた点も含め、純戦闘力だけでなく「局面を変える一手」を担う役割が明確化した。


ユウキ

【対戦】
ジャヒル極大火焔球の進路上で停止した仲間達を庇う覚悟を固めるが、ヴェガの割込みにより直接被弾はせずに済んだ。その後、ヴェガが肉体奪取で乗っ取られたと知ると、仲間として苦痛から解放するために「死を渇望せよ」を放ち、シオンとルミナスの協力でヴェガの魂を浄化する。
総力戦では『瞬間移動』で戦場を荒地へ誘導し、停止世界に取り残された仲間を守るため自らは支援に徹する。その意図が伝わるまでルミナスとシオンから不信を買うが、最終的には理解されて共闘体制を築いた。

【進化】
かつては世界を混乱に陥れた張本人であったが、本章では完全に「仲間を守る側」に立ち、ヴェガのために動くなど、かつて利用していた存在を本気で救おうとする姿が描かれている。直接殴るよりも状況誘導と支援に徹したことで、役割を理解した「後衛指揮役」としての成熟も示している。


ルミナス

【対戦】
停止世界でジャヒルと対峙し、ウルティマとカレラの攻撃に続いて法則系の力で追い詰めるも決定打を欠く。その過程でヴェガの頭部を受け止め、祝福による魂浄化で永劫の苦痛から解放した。荒地での総力戦では触手攻撃で殴り飛ばされるなど劣勢に立たされるが、後方支援と防御に専念しつつ最後まで戦線に留まった。
ルヴェルジェ戦では、結界維持と地上防衛の総意に加わり、英雄達を守る側として働いている。

【進化】
ヴェガの魂救済を通じて、「敵であっても救うべき魂は救う」という女神としての側面を改めて強調した。ジャヒルのような完全な悪意と異なり、迷いながら足掻く存在に対しては救いの手を差し伸べる一方で、世界を壊す意志を持つ存在には容赦しない境界線も明確になっている。


ラミリス

【対戦】
停止世界でベニマルの魔核が動いていないだけで進化状態にあると見抜き、リムルの力を借りて成長形態に変化、原初の魔法による治癒で魔核を再稼働させ、ベニマルを覚醒待ちの状態まで回復させた。後半では、ガイア(ヴェルガイア)を抱えるミリムと共に結界維持に協力し、リムルの全力攻撃の余波から地上を守る陣の一角を担った。

【進化】
先の章に続き、迷宮管理者から「神々級決戦の医療・結界担当」へと完全に役割をシフトしており、ヴェルダナーヴァから預かっていた創世級武具「繁栄」を適切なタイミングでベニマルに託すなど、世界の裏事情を知る古参としての働きも強まっている。


ゼギオン

【対戦】
停止世界でも自由に動き、ラミリスと共にベニマルの護衛に当たった後、逃走するジャヒルに背後から一撃を叩き込んで大きく消耗させた。その一撃によってジャヒルの逃走は事実上封じられ、ベニマルとの正面決戦へと追い込まれている。

【進化】
停止世界下でも行動可能であり、竜種・神格級と同等の時間耐性と機動力を実戦で証明した。ベニマル・ディアブロと並ぶ「三巨頭」の一角として、奇襲と迎撃を得意とする暗殺・制圧担当のポジションが明確化した章である。


ガイア/ヴェルガイア

【対戦】
ルヴェルジェが取り落とした白黒の宝玉(ヴェルダナーヴァとルシアの心核)を即座に飲み込み、ルヴェルジェの制御装置を奪う間接的な一撃となった。その後もミリムの腕の中で結界展開の核として機能し、戦場全体を包む極大結界の維持に貢献した。

【進化】
リムルから「地星竜ヴェルガイア」と命名され、真なる竜種へと進化したことで、竜種核化[地星]の権能をリムルに与える存在となった。これにより希望の剣に第四の竜種核として組み込まれる資格を得ており、「新世代の竜」として神々の戦いに直接関わる立場へと格上げされた。


ギィ

【対戦】
ジャヒル戦では直接戦闘には加わらず、荒地への誘導や後方防衛の布陣に関わりつつ、最終的にはリムルの全力攻撃から地上を守る防衛線の中核として配置された。ルヴェルジェ討伐に際しては、「誰がやるか」という責任の押し付け合いの末、リムルに時間稼ぎ役を押しつけつつも、自らは結界維持と被害軽減に尽力する立場を引き受けている。

【進化】
リムルの戦いぶりを「真なる神」として評価し、自分を含む旧世代の最強格が、新世代の中心に立つ存在を認めて支える側に回る構図を受け入れている。戦いそのものよりも「世界全体のバランスを見て動く調整役」としての顔が強調された章である。


竜種三姉弟(ヴェルドラ・ヴェルグリンド・ヴェルザード)

【対戦】
直接の殴り合い描写は本章では限定的であるが、リムルの竜種核化提案を受け入れ、それぞれの竜種核を希望の剣に装着することで、リムルの一撃に自らの力を貸し与えた。ヴェルザードは氷像化された英雄達の固定強化と地上防衛に専念し、ヴェルグリンドはベニマルの成長に驚愕しつつ、フェルドウェイ一派と共に戦場の安定化に努めている。ヴェルドラは最終防衛ラインとして温存され、必要な時にのみ介入する立場となった。

【進化】
自分達が前線で暴れるのではなく、竜種核としてリムルの攻撃に力を集中させることを選んだことで、「最前衛の象徴」から「新たな神を支える支柱」へ役割を転換した。特にヴェルザードは、氷結と固定の権能で地上の英雄達を守る守護者としての立場を強くしている。


クロエ

【対戦】
この章では直接戦わず、停止世界で拘束されていたが、リムルの戦いぶりを静かに見守り、不安を抱えつつ問いかける役割を担った。

【進化】
時間停止で時間跳躍も未来予測も封じられた状況で、それでも「リムルが明確に死ぬ未来だけは一度も観測していない」という経験則から、勝利を信じる覚悟を固めている。リムルから「ここまで導いてくれたのはクロエだ」と感謝を告げられ、導き手としての役目が肯定されたことで、精神的な支えとしてのポジションが確立した。

前巻 index

展開まとめ

序章 不穏な気配

フェルドウェイの退却と脅威の再確認

フェルドウェイはディアブロに敗北し満身創痍で天星宮へ逃げ帰り、ここで時間を稼ぎつつ再起を図ろうとしていた。ディアブロの戦法やユウキの戦いぶりを学んだことで次は勝てると確信していたが、魔王リムルには時空跳激震覇が通じなくなった事実を脅威として認識していた。

ディーノ一行の帰還と戦況報告

玉座にはディーノ、ピコ、ガラシャが先に陣取っており、彼らは迷宮攻略を断念して戻ってきていた。ディーノはヴェガだけでなく蟲魔王ゼラヌスもゼギオンに倒されたと報告し、ディアブロやゼギオン、そしてそれらを従えるリムルの脅威の大きさを強調した。

聖遺骸喪失の発覚と犯人候補

ディーノは聖安堂に保管していた星王竜ヴェルダナーヴァとルシア皇女の聖遺骸が消えたと告げる。フェルドウェイが地下への扉を確認すると、天通閣並みの強度を誇る扉は木っ端微塵に破壊され、聖櫃も無残な姿になっていた。天星宮の守りを解いたフェルドウェイの判断も重なり、犯人はイヴァラージェだと結論付けられた。

ヴェルダナーヴァ復活の可能性と否定

ディーノは扉が内側から破壊された痕跡から、ヴェルダナーヴァ復活の可能性を示唆した。フェルドウェイは、自分が本体に戻った後から幻獣族侵攻までの短い時間や、自身が粛清対象であることを踏まえてその推論を検討したが、姿を現さない点などから最終的にあり得ないと結論した。

イヴァラージェ強化の懸念と計画への影響

検討の結果、イヴァラージェが聖遺骸を喰らいヴェルダナーヴァとルシアの力を取り込んだ可能性が高いと判断された。世界を滅ぼす役割を担わせるには都合が良いが、創造主級の権能を得たなら世界再構築の計画が破綻しかねず、フェルドウェイにとって重大な危険要素となった。

ディーノ一行の離反と忠告

フェルドウェイが今後の方針を問われた際、彼はそこでようやくディーノ達が支配の権能から解放されていることに気付いた。ディーノ、ピコ、ガラシャは自由意思を奪われてこき使われたと非難し、フェルドウェイと決別する意思を表明する。さらにディーノは、リムルのように意思を貫く者こそ魂を輝かせると語り、曇った目をしたフェルドウェイに初心を思い出せと忠告した上で去っていった。

孤独となったフェルドウェイの動揺と虚無

一人残されたフェルドウェイは、今さら計画を中止できないと呟きつつ、自分が友も仲間も主も失った空虚な存在になっていることを自覚した。イヴァラージェが聖遺骸を喰らったと判断しつつ、ヴェルダナーヴァが復活しないなら世界滅亡も無意味だと悟り、主の真意を理解しないまま世界を滅ぼそうとしてきた自分の行いが意味を持たない可能性に怯えた。最後にフェルドウェイはヴェルダナーヴァの本心を問う言葉を天星宮に響かせるが、その問いに答えられる者は誰もいなかった。

第一章 流れる涙

ルミナスの鼓舞と四方の戦況

ルミナスは人類存亡を賭けた戦場を俯瞰し、思念伝達で命に価値を与える言葉を投げかけ、兵を奮い立たせた。北ではルイやギュンター達がハバタキと交戦し、マイの参戦で反撃の糸口を掴んだ。西ではシオン達とサーレがカケアシと戦い、サーレは聖浄化結界を維持しながら耐えていた。南ではウルティマがスイームを蹂躙し、他戦力がそれを支援していた。ベニマルの援軍も加わり、形勢は一時優勢に傾いた。

イヴァラージェの笑いと「ルシア」の出現

ただし東では滅界竜イヴァラージェが沈黙を保ち、やがて無邪気で邪悪な笑い声とともに動き出した。世界さえ不要としか思わぬ存在の在り方に、ルミナスは本質的な悪の恐怖を悟った。イヴァラージェが地上に降り立つと、美しい女性の姿へ変貌し、ルミナスはミリムを大人にしたような容姿に見覚えを覚えた。地上ではマサユキに宿る勇者の記憶が反応し、その姿をルシアと呼んだことで事態の異常さが明らかになった。

従僕達の変化と新たな不穏要素

同時に、イヴァラージェの三体の従僕も未知の変化を遂げ、ヴェルグリンドでさえ力の上限を読み切れなかった。さらにジャヒルの死体が不気味に蠢き始めたうえ、誰も気付かぬ高所から、妻の復活と娘の到来、価値ある者だけを残す選別を口にする何者かが戦場を眺めていたが、その存在はまだ地上の誰にも認識されていなかった。

ヴェルザード暴走とギィ達の応戦

別戦場では、ギィ、カレラ、レインがテスタロッサの支援を受け、竜形態で暴走するヴェルザードと対峙していた。白氷竜の真の姿は神秘的な美しさを保ちながらも天災のような暴威を振るい、ギィとテスタロッサは虚無でその攻撃を相殺していた。レインは時間稼ぎと増援の到着を主張し、ギィはヴェルザードを正気に戻すには星幽体を向ける必要があるが、その間の無防備な本体が危険だと判断して踏み切れずにいた。

リムルの到着と戦況把握

そこへリムルが現場に到着し、軽口を交えつつも戦場全体の状況把握に移った。ヴェルザードの無差別な攻撃から避難民と戦士達を守るため、モスやミザリーらが防護結界を維持し、ガビルは究極贈与の運命改変で氷像化を解除していた。オベーラやエスプリも消耗しながら戦線に残り、防御と支援に徹していたことを、リムルは観察して評価した。

竜霊覇気による抑え込みと役割分担

リムルは自らの竜霊覇気を展開し、ヴェルザードの妖気とギィ達の虚無を虚無崩壊に変換することで攻撃を封じ込めた。この力技にギィも驚きつつ、リムルが抑え役となり、その間にギィがヴェルザードの内面へ干渉して正気を取り戻す段取りが決まった。無防備となるギィの本体はディアブロが守ることになり、ヴェルザード以外の敵がいない状況を前提に戦力を集中させる方針が固まった。

対イヴァラージェ戦への再配置

リムルはテスタロッサに対し、大規模転移魔法で戦闘可能な者を率い、対イヴァラージェ戦の援軍として出撃するよう命じた。テスタロッサとカレラはその命令を受け入れ、旧ユーラザニアから再編された部隊を連れて合流する準備に入った。一方でディアブロのみをヴェルザード戦場に残す判断が下され、疲労の蓄積という事情を知らぬ本人だけが、選抜を自らへの厚い信頼と受け取って満足していた。

作戦開始とギィの演算特化

テスタロッサとカレラが出撃し、レインもギィに一喝されて前線へ向かった。リムルは虚無崩壊でヴェルザードの攻撃を封じ、戦力再編を可能にしていた。ヴェルザードの暴走が激しくなる中、ギィは精神干渉に必要な時間について一日も要らないと答え、自身を演算特化形態へ変化させる方針を示した。演算に全振りする代わりに本体は完全に無防備となるため、リムルがヴェルザードを拘束し、ディアブロがギィ本体を守る作戦が採用された。

ギィの精神侵入と幼いヴェルザードの心

赤毛の美女に変化したギィは、物質体を離れて悪魔本来の精神体となり、さらに星幽体へ移行してヴェルザードの精神世界へ潜った。幾重もの精神防壁を突破した末に、膝を抱えて座り込む幼い姿のヴェルザードに到達した。ギィが迎えに来たと言葉を掛けると、ヴェルザードは我慢の限界を超えたように、これまで押し殺してきた不満を一気にぶつけ始めた。

ヴェルザードの不満と本心の噴出

ヴェルザードは、兄の残した世界を導く役目を背負い、ギィを監視し続けてきた自分だけが常に我慢していたと訴えた。ルドラとのゲームに夢中になり、その後はリムルに肩入れして自分を顧みないギィへの怒りと寂しさを吐露し、脆弱な人間は認めるのに自分を認めないのは何なのかと感情を爆発させた。ギィは攻撃を一切防がず、ヴェルザードの怒りと涙を受け止め続けた。

告白と「相棒/夫婦」という関係の確認

やがてヴェルザードは、勝ちたいのではなく、役に立ちたいだけだったと自覚し、ギィに認められたくて頑張ってきた本音を吐き出した。ギィは、ヴェルザードを相棒であり身内、実質的には夫婦だと断言し、唯一の相棒として認めていると告げた。ヴェルザードは大嫌いで大好きだと告白し、涙を流しながら笑みを取り戻す。迷いが晴れた彼女は美女の姿に戻り、「ただいま」と告げて正気へと帰還する決意を固めた。

ヴェルダナーヴァ復活の真実と世界破壊計画

正気を取り戻したヴェルザードは、兄ヴェルダナーヴァが既に昔に復活していた事実をギィに打ち明けた。ヴェルダナーヴァは天星宮の最奥で力を回復しつつ眠り、つい最近覚醒したうえで世界の破滅を望んでいたと語る。フェルドウェイを止めなかったのも兄の意思であり、ヴェルザードはせめてギィだけでも凍らせて救おうとしていたことを明かした。ギィは、かつて知るヴェルダナーヴァなら姑息な真似はしないと判断し、この時点で完全に敵として認定した。

権能の問題とリムルへの期待

ヴェルザードは、ヴェルダナーヴァ由来の「忍耐之王」と、自力で獲得した「嫉妬之王」の二つの究極能力を持ち、それらを用いてフェルドウェイの目をごまかしてきた経緯を説明した。ギィは、敵から借りた権能を抱えたままでは致命的な弱点になると見なし、リムルなら権能の進化や再構成が可能だと語る。ヴェルザードもリムルの実績を踏まえて信じる決心をし、ギィは彼女に心の準備を任せて、自身の身体へと意識を戻り、リムルへ全てを伝える段階へ移行したのである。

ギィの精神侵入とリムルの退屈

女体となったギィは意識を手放し、ディアブロに抱えられていた。ギィは星幽体でヴェルザードの心核に潜っており、本体は無防備であった。リムルは虚無崩壊で戦場全体を包み、暴走するヴェルザードの影響を遮断して待機していたが、外界に変化がなく暇を持て余しつつヴェルザードの竜形態を観察していた。

虚空之神と虚無崩壊の性質

リムルは自らの魔素量がヴェルグリンドやヴェルドラに匹敵するほど膨れ上がっていると実感し、その原因が虚空之神アザトースの獲得にあると理解していた。果ての世界での実験により、虚無崩壊が絶対的な崩壊因子であること、初歩的な火炎球ですら核撃魔法級の破壊に達してしまうことを思い出し、それを制御して実用範囲に収めた経緯を振り返っていた。

ディアブロと円環の秘法

リムルは、虚無崩壊を自らの強化に転用したディアブロの無茶苦茶さを思い出し、誘惑世界で肉体を騙して円環の秘法に似た現象を起こしていたことに呆れていた。シエルが考案したエネルギー循環の理論をディアブロは理解しており、リムルは説明役をさせられつつも会話についていけず、疎外感を覚えていた。

ギィの覚醒とヴェルザード改変依頼

穏やかな時間の中でギィが突然目覚め、リムルに作業開始を迫った。リムルは抗議したが、思考加速された情報を一気に流し込まれ、ヴェルダナーヴァが復活していること、ヴェルザードの忍耐之王を何とかする必要があることを理解させられた。リムルはシエルのやる気に押され、この依頼を受け入れた。

捕食と氷神之王への進化

シエルはまずヴェルザードの状態を精査し、受け入れ態勢が整っていると判断すると、ヴェルザードを一瞬で捕食して解析鑑定に移った。外からは水球状の膜の中で胎児のように眠るヴェルザードの姿が視覚化され、ギィとディアブロはそれを見守った。シエルは忍耐之王と嫉妬之王を統合し、氷神之王へ進化させたと報告した。

ヴェルザードの内面と希望の再生

内面世界でヴェルザードは、兄から授かった忍耐之王と自らの願望が形となった嫉妬之王を操作しようとしたが、単独では忍耐之王を変質させられず行き詰まっていた。そこに神智核と名乗らない“声”が干渉を申し出て、ヴェルザードはそれをリムル側の存在と判断して委ねた。その結果、二つの究極能力は完全に統合され、氷神之王という自身と完璧に適合した権能へ変貌した。ヴェルザードはその力により、兄ヴェルダナーヴァさえ止められるかもしれないという希望を抱き、世界の破滅を受け入れるしかないという諦めから解放されていった。

ギィの驚愕とリムルへの疑念

外側で変化を観察していたギィは、能力改変が単なる調整ではなく、ヴェルダナーヴァが定めた権能を上書きする神業の域に達していると悟り、常識外れだと戦慄していた。スキルを模倣し再構築することしか出来ない自分とは次元が違う所業に、リムルという存在への疑念と興味を深める。やがてリムルの腕の中で目を覚ましたヴェルザードを見届けたギィは、もはや直接問い質すほかないと心に決めて、リムルに向き直ろうとしていた。

ギィとヴェルザードの追及とリムルのはぐらかし

ギィからの無茶振りをシエルの助力で乗り切ったリムルは、ヴェルザードから手を離し、彼女が平然と宙に浮かぶのを確認して安堵していた。だが直後にギィと視線が合い、何をどうしたのか説明を求められる。リムルは企業秘密だとごまかそうとしたが、ギィはそれを許さず、ヴェルザードもまたリムルの正体を問い質した。二人に怪しまれたリムルを、ディアブロが不敬だと庇い、三人は口論寸前となった。

ダマルガニアへの出撃と能天気な楽観

険悪になりかけた空気を抑えるため、リムルは今は仲間同士で争う時ではなく、ダマルガニアで暴れるイヴァラージェの対処を優先すべきだと提案した。事件を片付けてスローライフに戻るという自分本位な動機を胸に、監視魔法・神之瞳で戦場の様子を確認すると、戦況は膠着しており不穏な気配が漂っていた。ルミナス達の窮地を案じて急ぎたがるリムルに対し、ギィとヴェルザードは能天気だと評しつつも、その頼もしさを認めていた。

ヴェルダナーヴァ復活の事実と世界破壊の計画

ギィは拙速な出撃を制し、誰がどのように動くか決める必要を指摘した。ヴェルザードは、兄ヴェルダナーヴァが既に復活しており、世界を一度破壊してから再誕させようとしていると説明した。彼女は命令に従い天通閣への大門を開いたままにした結果、滅界竜イヴァラージェが基軸世界に出現したと語り、ヴェルダナーヴァを敵と見なさざるを得ない状況を明らかにした。かつて力を失ったはずの兄は今や恐ろしく、ヴェルザードでさえ戦いを望まない存在になっていた。

ヴェルダナーヴァと対立する覚悟と味方候補の洗い出し

リムルはヴェルダナーヴァと本当に敵対するのか、また誰が味方になり得るのかを確認しようとした。ギィは、今のヴェルダナーヴァの行動は昔からは考えられないものであり、もはや別人だと判断していた。ヴェルザードも本音では敵対したくないが、今の兄とギィの意見は決して一致せず、戦えば兄は手加減なくギィを殺すだろうと語り、自身はギィ側に立つと示した。ギィはヴェルダナーヴァとの本気の再戦を受けると宣言し、一同もそれを任せる方針を共有した。

信頼と疑念の線引きとぶっつけ本番の決意

続けてリムルは、ヴェルダナーヴァに追従する可能性のある者としてフェルドウェイや始原の七天使の生き残りに言及し、ディーノ達も含めて誰も確実には信頼できないと整理した。一方で、ルミナスはこの世界を大切にしているため味方になる可能性が高いとギィは評価し、ヴェルザードは竜種達は愛する者のためなら世界を敵に回せると述べ、ヴェルグリンドとヴェルドラへの信頼を示した。シエルは万一の場合はヴェルグリンドの竜種解放を解除できると告げ、裏切りの芽を潰せることも確認された。八星魔王のうち、ルミナスとレオンを暫定的な信用枠とし、ミリムやラミリス、ディーノらは保留とされたが、これ以上議論しても結論は出ないと判断され、ぶっつけ本番で挑む方針に落ち着いた。

戦場の変化と出陣

ディアブロは絶対に裏切らず敵を排除すると改めて誓い、リムルはその過剰な忠誠心に呆れつつも頼もしさを認めた。その時、ヴェルザードが神之瞳に映る戦場の変化に気付き、ミリム達の参戦で人類側が優勢になりつつあるものの、悠長に役割分担を議論している余裕はないと判明した。思考加速下で相談を重ねた一行は、もはや猶予は尽きたと悟り、リムルは世界の危機もまとめて片付ける覚悟を固めて仲間を伴い、瞬間移動で戦場へと向かったのである。

第二章 希望と落胆

戦況を見つめるルミナスと三従僕の脅威

ルミナスは戦場全体を把握し、ルシアの姿を取った滅界竜イヴァラージェと、従僕三体カケアシ・スイーム・ハバタキの力を測り、自分ですら勝負にならないと判断していた。それぞれが人型へと変化し、その存在だけで戦況を絶望的なものにしていたのである。

北方面 マイの妨害とハバタキの人型進化

北方面では、次元跳躍で瞬間移動を繰り返すハバタキに対し、古城舞衣が究極能力「星界之王」で空間位相を乱し、座標情報を改竄することで瞬間移動を封じた。ブラックナンバーズやルイらが犠牲を恐れず動きを抑え、アダルマンは広範囲回復で支えた結果、戦場は一時的に安定した。しかし、囮役を引き受けていたマイの前でハバタキが人型へと進化し、知性を得たことで形勢は再び逆転し、マイは自分では太刀打ちできないと絶望していた。

西方面 結界維持を賭けたサーレとグレゴリー、変わったグレンダ

西方面では、聖浄化結界の基点を守るサーレのもとに、進化して人型となったカケアシが迫っていた。治療に訪れたグレンダは、かつて仲間を見捨てた女とは思えぬ言葉と行動で、限りある命をどう使うかだと言い残して戦場へ戻り、部下に死ぬタイミングまで指示しながら戦っていた。サーレとグレゴリーは彼女の変化を認め、自分も死力を尽くして結界維持に全てを捧げると決意する。結界破壊を狙うカケアシに対し、グレゴリーは鋼身体で一秒でも時間を稼ごうと単身立ちはだかったが、その決死の瞬間にゴブタとランガが乱入し、カケアシを吹き飛ばして救った。クマラも八部衆を駆使して幻獣を斬り捨て、反撃に転じたグレゴリーは、覚悟を台無しにされたと悪態を吐きつつも生き延びていた。

南方面 ウルティマによるスイーム足止めと最凶兵器の発動

南方面では、亜光速と異界門で星間を蹂躙してきたスイームの突撃を、ウルティマが誘導と転移門で受け流し、「八門堅陣」を貸し出したヴェルグリンドの協力で一対一の空間へ閉じ込めていた。ウルティマは複製体を囮にして霊子魚雷を空撃ちさせ、知性の低いスイームの攻撃をいなして時間を稼いでいた。しかし、スイームはウルティマを自ら壊したい標的と認識し、星系ごと消し飛ばしてきた「拡散歪曲量子砲」の使用に踏み切る。砲撃後、ちょうどイヴァラージェからの力が届き、スイームも人型へと変化していた。

八門堅陣の崩壊とスイームの人型覚醒

スイームの「拡散歪曲量子砲」により南方面が爆風に襲われ、「八門堅陣」は崩壊したが、ウルティマの警告と黒色軍団や各勢力の複合結界、さらにヴェルグリンドの空間操作により聖浄化結界は辛うじて守られた。スイームは少女の姿を得て無傷で現れ、存在値を大きく高めた一方、ウルティマは重傷を負いながらも激怒し、時間稼ぎからスイーム撃破へ方針を転換した。

ウルティマとスイームの本格戦闘

ウルティマとスイームは似た少女の姿で対峙したが、存在値はスイームが二十倍以上であった。それでも、スイームは人型の肉体を使いこなせず、近接攻撃はウルティマのカウンターで逆に自分を傷つける結果となった。宇宙艦隊すら一掃してきたスイームの破壊力も、拳法の極致に達したウルティマの技量の前では通用せず、ウルティマは怒りを糧に優位を築き始めた。

ルミナスの継続的蘇生とベニマルの采配

上空ではルミナスが聖域化した戦場で極大死者蘇生を繰り返し、信徒たちの脳を演算に用いながらも全負荷を一身に受けて戦士達を支え続けていた。戦況を監視する中で、イヴァラージェ従僕の人化により三方面の戦いはいっそう苛烈になったが、ベニマルはリムルの帰還を確信して大胆な指揮を執り、連合軍の士気と秩序を保っていた。

ミリム・クロエ・各勢力の援軍到着

イヴァラージェ本人が人型となり動き出し、絶望的な空気が漂う中、ミリムが正気に戻って参戦し、ルミナスは彼女にイヴァラージェ討伐の望みを託した。ユウキと中庸道化連、レオン、ザラリオ、エルメシアと魔法士団、さらに勇者クロエらも合流し、戦場には再び大きな希望が灯った。ミリムとクロエはイヴァラージェを「天通閣」に押し戻すべく突入し、ベニマルは東方面の防衛と指揮に専念した。

各方面の再配置と幻獣族への優勢

ヴェルドラはカケアシの討伐に向かい、シオンやゴブタ、ランガらと共闘する形となった。レオンとザラリオは南方面周辺の幻獣族掃討に回り、魔法士団は北方面で態勢立て直しに協力した。テスタロッサら旧ユーラザニア勢やテンペスト幹部も続々と再合流し、指揮官格の幻獣族を重点的に討ったことで敵側の統制は崩壊に向かいつつあった。

トワイライト出現とルミナスの新たな脅威

その最中、ルミナスの背後に赤いスーツ姿の男トワイライト・バレンタインが現れた。かつてカレラに滅ぼされたはずの神祖であったが、心核と記憶を血槍にバックアップしていたことで復活し、以前より強くなったと豪語した。ルミナスは即座に「崩魔霊子斬」で斬りかかったが通じず、一撃で圧倒的な実力差を悟った。それでもクロエの存在を信じて致命的破局は避けられると確信しつつ、勝機を探り始めた。

ルミナス不在下での方針転換と不安

ルミナスの蘇生が期待出来ないと判断したベニマルは、戦士達に無理な戦闘を控えさせ、万全の状態で持ち場に戻るよう命じた。ミリムとクロエはイヴァラージェと共に天通閣へ移動し、外の戦場は聖浄化結界内での消耗戦へ移行する。指揮官幻獣の排除により勝利は見えていたが、イヴァラージェの変化とトワイライトの参戦という不確定要素が残り、ベニマルはルミナスの戦況を注視しながら、いつでも援護に動けるよう人員配置を検討していた。

ルミナス対トワイライトの攻防

ルミナスはトワイライトに押されつつも夜薔薇の刀で応戦し、魔血呪獄弾や設置罠の霊子崩壊で一度はトワイライトの肉体を塵としたが、神祖の血槍に魂と記憶を保存していたトワイライトは幻獣族の死体を糧に即座に再生し、生命力を吸収しながらルミナスを追い詰めていった。結界で外界も遮断され、助力は期待出来ない状況であった。

最高傑作という評価への疑念と真価の自覚

トワイライトが自分を最高傑作と呼ぶ理由に、ルミナスは違和感を覚えた。幻想図書館への接続や高い存在値・知識量を思い返しつつも決定打に欠けると感じ、最高傑作たる所以は戦闘能力ではないと考え始める。トワイライトの発言や態度から真意を探る中で、ルミナスは「決して諦めない意志」こそが自分の真価であると再確認した。

幻儚薔薇刃による結界破壊と致命的な一撃

ルミナスは関節技で拘束から抜け出すと、夜薔薇の刀を犠牲にする奥義・幻儚薔薇刃を発動し、トワイライトの結界を斬り裂いた。砕けた刀身は死の概念を帯びた薔薇の花弁となってトワイライトを蝕み、彼に血を吐かせて膝をつかせることに成功した。奪った生命力はルミナスの回復にも変換され、一矢報いたことでルミナスは満足げに微笑んだが、トワイライトを倒し切れないことも理解していた。

ヴェルダナーヴァ復活の宣告とルミナスの覚悟

トワイライトがヴェルダナーヴァ復活を目的としていると明かすと、ルミナスは各勢力がヴェルダナーヴァに抱く感情を思考し、陣営が割れる未来を懸念した。その中で、リムルなら世界の破滅に抗い続けると結論づけ、最悪でも「最後まで戦い抜く」という覚悟を固める。トワイライトはルミナスを勧誘する策が失敗したと判断し、神祖の血槍で心臓を貫いてルミナスを倒した。

ルミナスの倒落と戦場への援軍・代行者の配置

致命傷を負ったルミナスは、クロエからの介入がなかった理由を「この結果を視たうえで自分を信じたから」と悟りながら意識を手放した。同じ頃、戦場にはテスタロッサ率いる多国籍軍が到着し、カリオンやスフィアらが東方面防衛に加わり、フレイが精鋭と空域を巡回、ミッドレイ率いる武僧神官団は回復要員として西方面に向かった。ゲルドら黄色軍団もベニマル麾下に合流し、原初達は各方面を分担する。ルミナス不在で途絶えかけた「神の奇跡」を補うため、ミザリーが代わりにその術式を引き継ぎ、レインはルミナスのもとへ向かう決意を固めて動き出した。

神祖の血槍の逆流とルミナスの覚醒

トワイライトに心臓を貫かれて停止したように見えたルミナスは、神祖の血槍が薔薇の花びらとなって胸に吸い込まれた事で覚醒し、失っていた記憶をすべて取り戻したと宣言した。瞳や気配が変質し、覇気を増したルミナスは、トワイライトの前で自らを真なるルミナス・トワイライト・バレンタインであると名乗った。

魂と人格実験の真相とトワイライトの不完全性

ルミナスは魂・心核・記憶・人格の関係、不滅性の条件を語り、竜種の不完全な転生や魂の完全保護の必要性を理論立てて説明した。その上で神祖が自分自身を素材に「記憶を持つ肉体」と「人格のみを移した実験体」を作った結果、人格を継いだ存在がルミナスであり、記憶の欠落した不完全体がトワイライトであると明かした。この説明により、トワイライトは神祖の継承者ではあるが本物ではないと断じられた。

肉体構造の無効化と究極能力による完全勝利

トワイライトは怒りに任せてルミナスの魂核を狙って急所を貫いたが、ルミナスは無傷で腕を握り潰し、肉体構造の情報が通用しない事を示した。さらにトワイライトの究極能力『悪徳之王』による最強奥義「永劫の黄昏」を、『悪徳之王』と対になるよう進化した自らの『善光之王』で相殺してみせる。過去の非道な実験や悪行が、人格を失ったトワイライトによる暴走だったと悟ったルミナスは、それも自分の責任と受け止め、ヴェルダナーヴァから託された創世級の剣「法則」を呼び出したうえで、最強奥義「死せる者への鎮魂歌」を放ち、トワイライトを塵と化して自身の中へと回帰させた。

レインとの再会と「神祖+魔王ルミナス」の統合確認

戦いを遠巻きに見ていた三賢人が出番の無さを悟って撤退した後、レインが現れ、ルミナスの圧倒的な戦いぶりを称賛した。レインは今の存在が「魔王ルミナス」としてのルミナスなのか神祖なのかを問い、ルミナスは自分はあくまでレインの知るルミナスであり、人格としては「妾」が主で、神祖としての「私」は統合されて眠っていると説明した。これにより、神祖の記憶と権能を取り込みつつも、意思の中心は従来のルミナスであることが確認された。

聖域化の再継承と戦場の立て直し

ルミナスは戦場全体に意識を向け、代わりに「聖域化の秘法」を維持していたミザリーと『思念伝達』で連絡を取り合流した。ルミナスが権能を引き継ぎ、聖域型極大死者蘇生を再発動して戦場に神の慈悲を降らせる一方、ミザリーは行使補助に回り、レインは二人の護衛についた。こうして、危機的だった戦場は、ルミナスの復帰と広範囲の蘇生によって再び安定を取り戻したのである。

東方面:ベニマルと黒色軍団の制圧戦

東方面では、人型となった幻獣族の側近級とヒナタやカリギュリオ達が交戦し、その周囲でベニマルが黒炎獄で雑兵を焼き払い続けた。ベニマルは聖浄化結界の東の基点を守りつつ、格上同士の戦いを邪魔させまいと群がる幻獣族を殲滅し、テスタロッサ配下の黒色軍団二百名の奮戦によって戦場に余裕を生み出したのである。

南方面:ウルティマによるスイーム撃破

南方面では、ウルティマとスイームの決戦が佳境に入った。スイームは膨大なエネルギーを持ちながら技量が稚拙で、ウルティマは動作を観察して光線や拳を見切り続けた。ウルティマは神話級のナックルガード・ナイフと紅蛇死毒手で呪毒を仕込み、黒死崩壊を体内で起動させて黒炎核を爆縮させ、虚無への扉でスイームを理解もさせぬまま消し去ったのである。

西方面:カケアシとシオン達、そしてヴェルドラ参戦

西方面では、人型となったカケアシに対し、シオンとゴブタ&ランガ、クマラが連携して挑んでいた。カケアシは圧倒的防御力と嗅覚で攻撃を見切りつつも、彼らの状態異常や連携にやや手を取られていた。そこへ手柄を狙うヴェルドラが現れ、獲物を横取りされたとシオンが抗議したが、最終的に援護を受け入れた。カケアシは本能的にヴェルドラの危険性を察し慎重に間合いを測ったが、突撃した瞬間に収束暴風乱牙のカウンターを顎に受け、初めて恐怖を知り敗北への道を決定づけられた。

北方面:ユウキの指揮とハバタキ体内爆弾作戦

北方面では、瞬間移動を駆使するハバタキに対し、マイやユウキが対応していた。ユウキは結界内の空間に干渉して出現地点を限定し、全戦力の最大火力を集中させたが、ハバタキは瞬間移動の応用で攻撃を転移させ無傷で凌いだ。失敗後もユウキは指揮権をベニマルに返しつつ、新たに少数精鋭での作戦を立案した。それはラプラス達に権能や呪具を「爆弾」として準備させ、自身の瞬間移動でハバタキの体内へ直接送り込むという無茶な策であり、周囲の半信半疑を押し切って実行へ移されようとしていた。

ハバタキ初の負傷と広範囲殲滅攻撃

美女の姿となったハバタキは、人型化で戦闘能力と瞬間移動の自由度が増したと理解しつつも、体内に送り込まれたラプラスの超圧縮エネルギー球によって生まれて初めて明確な痛みを覚えた。怒ったハバタキが八方に羽をばらまくと、その羽だけで広範囲が致命的な被害を受け、ミザリーの聖域型極大部位再生によりかろうじて死者を防いだ。その後、ユウキ達が体内爆弾を連続投下したが、ハバタキは全身を損傷しつつも完全に再生し、逆に分子結合を解除する閃光で周囲一帯を砂漠化させたため、ユウキ達はその攻撃が即死級であると悟った。

火力不足の自覚と陽動・時間稼ぎ案

疑似的虚無崩壊ですら体力の数パーセントしか削れなかった現実を前に、ユウキ達は火力不足と判断し、格闘戦で時間を稼いでリムルらの到着を待つ案を検討した。しかしハバタキの範囲攻撃が予兆なく放たれる以上、近接戦は極めて危険と判明する。そこでエルメシアは、シルビアとの交互の闘気解放による感知妨害作戦を提案し、カガリが予言之書で二人の存在情報を隠蔽、さらにティアが楽天奏者で一時的な戦闘能力強化を付与することで、陽動と時間稼ぎを担う方針が固まった。

カレラ到来とユウキの「下請け」決定

そこへ原初の黄カレラが黒色軍団と共に到着し、周囲から危険人物として全力で距離を取られる中、ユウキを無能呼ばわりしつつ自分がハバタキを仕留めると宣言した。カレラは作戦を持たないユウキを一方的に見下しつつも、ハバタキを斬る好機だけはユウキの瞬間移動で作らせると一方的に要求する。誰もカレラに逆らおうとせず、ユウキは長い物に巻かれる形で協力を承諾し、カレラ主導の最終作戦に組み込まれた。

アゲーラ刀身化と極技“一閃”の準備

カレラは召喚に応じたアゲーラを刀身変化で黄金の刀とし、右手に収めて防御を捨てた捨て身の構えに入った。アゲーラは究極贈与刀身変化によって完全な武器となり、カレラは全身の力を刀身に集中させる。同時にティアの強化権能を自身にも付与させ、短時間だけ常識外れの出力を得る。一方ユウキとマイはカレラの背後に瞬間移動で位置取りし、座標計算の負荷を減らしながら、ハバタキを指定位置へ引き寄せる役割を担う覚悟を固めた。

陽動と転移成功、極技“一閃”による決着

上空ではシルビアとエルメシアが、カガリの情報隠蔽とティアの強化を受けて陽動作戦を開始し、闘気の出し入れでハバタキの感知を撹乱した。ハバタキが二人の動きに翻弄されている隙を突き、ユウキは全力の演算で未来到達地点を読み切り、ハバタキをカレラの眼前に瞬間移動させる事に成功した。好機を逃さず、カレラはアゲーラの朧流を自らの思想で極限まで研ぎ澄ました極技一閃を放ち、頭頂から心核までを一刀両断してハバタキを即死させた。

カレラの代償と周囲の評価

カレラは全てを出し尽くしてその場に倒れ、アゲーラが涙を流しながら抱き上げた。上空で見守っていたガゼル王は、朧流の到達点を目撃したと感動し、配下に戦闘継続と援護を命じた。ミザリーとレインも、戦場のど真ん中で一撃に全てを賭ける行為は自分達には真似出来ないと認め、カレラが味方であることに安堵しつつ、その頭のネジが外れた覚悟の在り方に戦慄しながらも最大限の評価を与えたのである。

ミリムとイヴァラージェの攻防

東以外の三方面で従僕が討たれ、残る脅威はイヴァラージェのみと多くが考えていたが、天通閣内部ではミリムとイヴァラージェの激闘が続いていた。衝撃により幻獣族の後続は殲滅され、作戦自体は成功していたものの、戦いは互角に見えて実際はミリムが押されつつあった。

剣を抜く決断とイヴァラージェの異常性

ミリムは竜魔人の姿で本気に近い状態にありながら、母の肉体を奪ったと察するイヴァラージェに剣を向けることを躊躇していた。しかし不利を悟り天魔を抜くと、イヴァラージェも創世級の細剣「慈愛」を取り出し、武器の優位は消えた。ミリムの剣撃は致命傷級の傷を与えたが、イヴァラージェは一瞬で闇の魔素と共に再生し、痛みすら遊びとして受け取っていた。

クロエの介入と撤退保留

劣勢の中で剣をはじかれたミリムを救うべく、クロエが割り込み「慈愛」を弾いたが、イヴァラージェは自ら剣を捨てて素手でラッシュを叩き込み、クロエを戦闘不能に追い込んだ。クロエは時間跳躍の発動を迷うが、なお諦めないミリムの視線を受け取り、結末を見届けるという当初の方針を守ることにした。

地上戦況の優勢と楽観ムード

一方地上では、聖浄化結界とオベーラの指揮により幻獣族は各個撃破され、ヒナタやベニマルらは勝利が近いと感じていた。従僕討伐の報も届き、ルミナスの回復支援もあって戦況は明らかに人類側優勢となり、多くが安堵と高揚を覚えていた。

人化イヴァラージェの出現とミリム離脱

その矢先、天通閣が最大級の衝撃に揺れ、砂埃の中から桜金色の髪をなびかせた成人姿のイヴァラージェが現れた。ルミナスはミリムが生存しているもののエネルギー枯渇に近く、自身の魔法でも回復不能で戦線離脱状態にあると見抜き、クロエも行方不明であることが判明した。

ヴェルドラの一騎打ち志願と総力戦方針

ヴェルドラは自らの出番だと名乗りを上げたが、ベニマルは戦争である以上勝利のためには一対一を避け、全戦力を結集すべきだと断じた。テスタロッサやヒナタも同意し、まずミリム救出を優先する方針が共有された。イヴァラージェの一撃で死にかけたヴェルグリンドやルミナスの辛辣な忠告もあり、ヴェルドラも単独突撃を諦め、皆で力を合わせて立ち向かう決意が固まったのである。

幕間 再臨

フェルドウェイの問いと迷い

ディーノ達は戦場上空でミリム敗北を知り、合流しようとしたところでフェルドウェイに呼び止められた。フェルドウェイはヴェルダナーヴァがこの状況を望んでいるのかを問い、復活さえすれば世界の悪意を止めてくれると信じていた自分の前提が揺らいでいることを吐露した。

ヴェルダナーヴァ復活への疑念

フェルドウェイは、復活しなかった場合は世界を初期化して自らの理想郷を築くつもりだったと明かしつつ、イヴァラージェに喰われた聖遺骸を巡って、ヴェルダナーヴァも既に取り込まれているのではないかという疑念をディーノ達と共有した。確証は得られぬまま、皆が不安を抱え続けていた。

自己認識と贖罪の決意

フェルドウェイは、自分が本心では愛した創造主の復活を望んでいたと気付き、世界を滅ぼしてでも理想を押しつけようとした過去の暴走を誤りだと認めた。ディーノ達の自由意思を奪った罪を自覚し、謝罪の言葉ではなく今後の行動で信頼を取り戻し、イヴァラージェを自らの責任で倒すと心に決めた。

創造神の再臨と世界浄化宣言

その矢先、フェルドウェイと瓜二つの存在としてヴェルダナーヴァが出現し、“星王竜”本人であることが明らかになった。ヴェルダナーヴァはイヴァラージェを放置して選別を行い、基軸世界を浄化すると告げた。その方針はフェルドウェイが企図していた世界初期化と同質であったが、フェルドウェイは喜びよりも悲しみを覚え、自らが望んだ神像との齟齬に苦悩した。

ディーノ負傷とフェルドウェイの覚悟

ディーノは世界は滅ぼす必要がないと進言してヴェルダナーヴァに逆らい、即座に光の一撃で胸を貫かれた。フェルドウェイはディーノを連れ逃げるようピコとガラシャに命じ、自身は主の前に残る道を選んだ。そして、忠誠は変わらぬとしながらも誤りには進言するのが配下の務めだと宣言し、壊れた神を救うため「親超え」を果たすと誓って、ヴェルダナーヴァへの決死の一撃に挑んだのである。

第三章 邪神大乱

イヴァラージェの圧倒的脅威とミリムの戦線離脱

戦局は大詰めに見えたが、イヴァラージェはミリムを投げ捨てるだけでトドメを刺そうとせず、ミリムを脅威と見なしていないことが明らかになった。カリオン達はミリム救出に成功したものの、自分達の必死さが通じていない現実に打ちのめされる。ルミナスはミリムの傷を癒やしたが、エネルギー消耗が激しいため戦闘続行は不適切と断じた。ヴェルドラは時間稼ぎに徹してイヴァラージェと交戦し、ミリムも本能的に早期決着の必要性を感じつつも、決定打を欠く状況で作戦は現状維持に落ち着いた。

イヴァラージェの成長と前線の悪化

イヴァラージェは戦闘を通じて技を学習し続け、ミリムやクロエとの戦い方に加え、ヴェルドラの技まで吸収して急速に成長していった。ミリムとヴェルドラが連携して拘束と封印を狙うが、イヴァラージェの魔力暴発によりミリムは吹き飛ばされ、ヴェルドラも強烈な一撃で硬岩に叩きつけられる。時間稼ぎすら難しくなりつつあり、妖気を抑えていたヴェルグリンド、オベーラ、テスタロッサも圧力の増大に危機感を強めた。

ディーノ一行と瀕死のフェルドウェイの落下

戦場上空から胸に大穴を開けたディーノが落下し、ピコとガラシャに支えられてベニマルの結界内に保護された。ルミナスの神聖魔法でディーノは一命を取り留めるが、続いてクレーターを残してフェルドウェイが墜落する。全身が崩壊しつつあるフェルドウェイの姿から、ただならぬ事態が起きたと全員が悟り、彼の謝罪とともにヴェルダナーヴァ復活の事実と、その結果としてのこの惨状が明らかになった。

創造神の目的と各自の決断

ヴェルグリンドの問いに対し、ディーノとフェルドウェイはヴェルダナーヴァの目的が「失敗作たる現世界の破棄と新たな創造」であると説明した。ルミナスは即座に大問題と断じ、自らの守ってきた世界を壊させない覚悟を固める。ベニマルとヒナタはリムルの意思に従い、創造神といえども理不尽な破壊には従わないと宣言した。テスタロッサもリムルへの忠誠のみを基準とし、ヴェルグリンドはマサユキの判断に従うとした。マサユキは「まだ死にたくない」という素朴な理由から抗う側に立つことを選び、そうした決意が固まりつつある中で、リムル到着を予感させるような心の声を聞いた。

リムルの参戦とフェルドウェイ救済の決断

リムルはディアブロに抱えられたままギィとヴェルザードを伴い瞬間移動で戦場に到着し、挨拶と同時にベニマルから思念伝達で戦況報告を受けた。ヴェルドラとミリムがいずれもイヴァラージェに押され、さらにヴェルダナーヴァまで復活している惨状を確認したリムルは、瀕死のフェルドウェイに視線を向ける。ディアブロや元仲間達の辛辣かつ複雑な感情が向けられる中、フェルドウェイは自らの愚行を認めつつ、今も迷走するヴェルダナーヴァを救いたいという本音を吐露した。

一時的な共闘関係の成立

リムルはフェルドウェイ単独ではヴェルダナーヴァを止められなかった現実を確認しつつ、それでも挑む意思を捨てていないことを見て取った。シエルが治療可能と判断したことで、リムルはフェルドウェイを戦力として利用することを決断し、ヴェルダナーヴァを何とかするまで自軍の指揮下に入るよう一方的に通告した。スライムの身体でフェルドウェイを取り込み高速治療を施し、完全に回復させて戦場に放り戻したところで、この局面は新たな段階へと移行し始めていたのである。

ヴェルダナーヴァ討伐方針とリムルへの圧力

フェルドウェイの治療が終わると、リムルは今後の方針としてヴェルダナーヴァも倒す方向で意思統一を図ったが、ルミナスやヴェルグリンドはその軽さに怒りや呆れを示した。ヴェルドラやミリムは自分なら本気を出せば勝てると強がる一方で実際にはイヴァラージェに押されており、場はコンセンサスどころではない空気になった。最終的に視線はリムルへ集まり、ヴェルザードやギィらは暗黙のうちにリムルへ大役を押し付けようとした。

作戦決定とヴェルダナーヴァとの遭遇

ギィは自分がイヴァラージェを倒す間、リムルにヴェルダナーヴァの時間稼ぎを任せると告げ、かつてヴェルダナーヴァに敗れた経験から全員で挑むしかないと明かした。各国には混乱を避けるためヴェルダナーヴァ復活は知らせない方針となり、ギィは戦場へ向かった。リムルがヴェルダナーヴァの降臨を待とうとした矢先、ヴェルダナーヴァ本人が瞬間移動で現れ、いきなりリムルの首を狙って攻撃したが、リムルは辛うじて回避した。

創造神の動機とフェルドウェイの離反

リムルが世界破壊の理由を問うと、ヴェルダナーヴァは妻ルシアを奪った世界を失敗作と見なしたためだと語った。そこへフェルドウェイがリムルの隣に立ち、臣下として主を止めると宣言してヴェルダナーヴァに剣を向けた。ザラリオとオベーラはその戦いを見守りつつ、主君への忠誠と世界への愛の間で揺れ動く。リムルはヴェルダナーヴァに従うかどうかは各自の判断に任せると述べ、自身は生きるために抗うと心を固めた。

フェルドウェイの奮戦と悪魔たちの強化儀礼

ヴェルダナーヴァは闘気の剣だけでフェルドウェイの強大な剣技を受け流し、あくまで様子見の姿勢を崩さなかった。フェルドウェイは劣勢ながらも粘り、リムルの細胞により発現した再生能力で立ち続けた。その一方で、テスタロッサが回復力向上を名目にリムルの特製回復薬を所望し、ウルティマとカレラも同様にそれを求めた。三人はリムルの細胞入りの回復薬を得て戦力を整え、ディアブロはその待遇に不満を覗かせた。

ザラリオの中立とヴェルダナーヴァの本気

やがてフェルドウェイが倒れ、剣技と瞬間移動を組み合わせたヴェルダナーヴァの圧倒的な実力が露わになった。ザラリオは主君を裏切れないとしつつも、どちらが正しいか判断できないとして不介入を選択し、リムルは邪魔しないというその消極的中立を受け入れた。ヴェルダナーヴァはまだ勘を取り戻す途中だと言い、退屈しのぎにとカケアシ、ハバタキ、スイームを復活させる。ウルティマやカレラが自ら倒した強敵の再出現に絶望混じりの反応を示し、世界破滅を目指す悪意との戦いがこれから本番であることが明確になったのである。

ギィの圧倒的優位と周囲の反応

ギィはイヴァラージェを「天通閣」内部へ押し戻しつつ一方的に攻め立て、破壊光線さえ難なく両断して消し去っていた。この様子にヴェルザードは誇らしげに最強奥義さえ斬られた過去を語り、ヴェルグリンドは自分が苦戦した攻撃を易々と捌くギィの実力に驚愕した。ミリムとヴェルドラは自分の方が強いと負け惜しみを口にするが、ヴェルザードに釘を刺されて黙り、観戦に徹していた。

ギィの観察とイヴァラージェの急成長

ギィは義理堅く早期に決着してリムルの援護へ向かうつもりで、イヴァラージェの権能と技を観察しながら戦っていた。イヴァラージェは当初究極能力を持たない破壊神として力押ししていたが、ルシアの聖遺骸から残滓を解析し、世界の言葉によって知識之王を獲得したことで、過去に喰った相手の技術まで取り込み、ギィに伍する剣技へ急速に成長していった。

収束破壊光線の応酬とギィの狙い

イヴァラージェは亜光速の収束破壊光線を放ち、天通閣を揺らす威力を見せた。ミリムとヴェルドラは自分の奥義に匹敵すると強がり混じりに評価し、ヴェルグリンドとヴェルザードは面で浴びる攻撃と収束ビームのダメージの違いを冷静に分析した。ギィはあえて回避を選び、着弾点を予測しながら避け続けることでイヴァラージェの攻撃パターンと弱点を探っていた。

暴食の再現とイヴァラージェへの決定打

イヴァラージェが胸部から至近距離で収束破壊光線を放ち勝利を確信した瞬間、ギィはそのビームを暴食之王に類する権能で捕食して霧散させ、自身のエネルギーを完全回復させたうえで、世界の一撃をイヴァラージェの中心核へ叩き込んだ。イヴァラージェは初めて無視できないダメージを負い、過去の敗北も思い出してギィを真の敵と認識し、憎悪をあらわにした。

四体の奥義連携と崩滅虚触獄

ギィは事前に思念伝達でヴェルドラたちに合図の瞬間の全力攻撃を命じており、収束破壊光線が自らの胸を貫いたかに見せた直後、「今だ」と号令を送った。これに応じてミリムの竜星爆炎覇、ヴェルドラの雷嵐咆哮、人化バージョン、ヴェルグリンドの灼熱竜覇加速励起、ヴェルザードの冷極消失凝収覇が同時にイヴァラージェへ放たれた。ギィは暴食の権能でそれら膨大な破壊エネルギーを喰らい、一つに統合して崩滅虚触獄としてイヴァラージェの周囲に展開した。この奥義は継続的に呪痕を刻み、回復と自然治癒を封じて魔素を削り続ける疑似的な虚無であり、イヴァラージェは暴れながらも確実に消耗していく状態に追い込まれ、決着が近づいていたのである。

崩滅虚触獄と深淵之神の覚醒

ギィの崩滅虚触獄による攻撃が命中し、イヴァラージェは暴れ狂ってギィに斬りかかり、受け流されて天通閣の壁へ激突した。その衝撃で不壊のはずの壁に亀裂が入り、ギィは自らの技がヴェルダナーヴァの定めた法則すら打ち消していると笑っていた。これは、傲慢之王が進化して得た究極能力・深淵之神によるものであり、そこには能力創造や能力複製、時空間支配など、ギィがこれまでに習得した全ての権能が統合されていた。

ギィの自己分析とリムルへの評価

ギィは戦いの中で、魂暴喰によってあらゆる放出系の技をエネルギーとして喰える以上、エネルギーの削り合いで負ける要素はないと自己分析した。瞬間移動と剣技を組み合わせれば防御も完璧であり、魔素量そのものはもはや勝敗を決める決定因子ではないと理解したのである。そして、この発想の源にリムルがいると悟り、リムルの権能によって戦闘の概念そのものが変わったと認めつつ、イヴァラージェ戦だけでなく次の戦いにも意識を向けていた。

イヴァラージェの初めての苦痛と感情の獲得

一方のイヴァラージェは、誕生以来初めてといえる本物の苦痛に苛まれていた。痛覚を持たないはずの存在でありながら、絶えず流出し続ける魔素を果てしない喪失感として感じ、それを痛みとして認識していた。また、確かに感じていたはずの子供達との絆が途切れていることに気付き、子供達が死んだのかとなぜ失われたのかを理解できないまま動揺した。

怒りと憎悪による破滅の竜のさらなる成長

子供達の喪失を前に、イヴァラージェの中に怒り、恨み、憎悪といった感情が次々と芽生えていった。イヴァラージェは感情の本質を知らなかったが、この体験によってそれを学習し、その数多の感情が燃料となって内側から満たされていった。その結果、苦痛に呻きながらも、破滅の竜としてさらに強くなろうとする兆候を見せていたのである。

第四章 破滅の竜

怨恨召喚とヴェルダナーヴァの世界滅亡計画

ヴェルダナーヴァは戦場近辺で死んでいた三体の怪物の肉体を復活させ、時空間を介して強烈な意思を持つ魂を呼び寄せて器として宿らせた。これはルドラの英魂道導と似ていたが、本物の魂を直前時空から引き抜く反則的な神業であった。リムルが死者蘇生の能力があるなら妻ルシアを蘇らせるべきだと問うと、ヴェルダナーヴァは魂を探したが既に見つからず、転生したのだろうと語り、それでも世界を滅ぼし情報子を回収してイヴァラージェをルシアに再構成するつもりだと明かした。

説得の失敗と「倒すしかない」という結論

リムルはルシアがどこかに転生している可能性を示し、滅亡計画の撤回を促したが、決意は揺らがなかった。生者が死者の本心を勝手に語ることの危うさもあり、理屈では止めきれないとリムルは悟った。シエルは止めてあげるのも優しさであるとして撃破を提案し、ミリムの暴走を止めた前例を挙げて、悲しみから暴走するヴェルダナーヴァもここで止めるべきだと結論付けた。

蘇った最悪の三名と戦力配置

三体の器に宿った魂の正体は、魔導大帝ジャヒル、三妖帥コルヌ、時空の果てへ飛ばされたはずのヴェガであるとシエルが分析した。リムルはベニマルに全体指揮と状況に応じた参戦を命じ、ディアブロにはフェルドウェイを連れてこの三名の抑えを任せた。ザラリオやディーノらは重傷ゆえ観戦に回り、テスタロッサ・ウルティマ・カレラは回復薬で立ち直り再戦を志願した。ルドラがマサユキの身体で現れ、ジャヒルが自らと妻を殺した元王であり、転生を繰り返してきた極悪人だと推測し、自ら決着を付けると宣言し、ユウキも能力無効化での支援を約した。

リムルとヴェルダナーヴァの一騎打ちと「希望」

戦場を仲間に任せ、リムルはヴェルダナーヴァと一対一で対峙した。リムルは世界を滅ぼすなら全力で止めると告げ、ヴェルダナーヴァは創造主に逆らう生命体の成長に感慨を示しつつ、神殺しが成るか試すと応じた。リムルの竜魔刀は創世級に匹敵する切れ味を見せ、ヴェルダナーヴァの闘気の剣を両断した。ヴェルダナーヴァは八本目の創世級「記憶」を呼び出し、三千世界の出来事が刻まれた剣と説明した。リムルは自らの剣に「希望」と名付け、名付けのような疲労感を覚えつつも構え直し、両者の剣戟が周囲を断絶空間へと変える中、他の者達は巻き込まれぬよう退避した。

イヴァラージェの反撃とミリムの憤怒之王

ギィ達の総攻撃を受けたイヴァラージェはなお立ち上がり、全方位へかつてない威力の破壊光線を放って天通閣の地上階部分を吹き飛ばした。不壊であるはずの塔の崩壊に巨人族は茫然としたが、ギィ達は防御に追われていた。ギィは防御の甘いヴェルドラを叱責し、ヴェルザードの圧でヴェルドラは反論を引っ込めた。ヴェルドラは矛先をミリムに向け、暴走時より力を出していないと指摘されると、ミリムは世界をも滅ぼしかねない憤怒之王の使用を恐れている本音を漏らした。ギィはミリムなら制御できると信じ、暴走したら自分達が止めると告げて発動を促し、ミリムは覚悟を決めて憤怒之王を再稼働させ、魔素量をさらに増大させていった。

戦場の収束と新たな焦点

ギィ、ヴェルザード、ミリム、ヴェルドラは態勢を立て直し再戦に備えたが、イヴァラージェは天通閣の崩れた壁の向こうを見つめて動かなくなった。そこには聖浄化結界を無視して降り立つヴェルダナーヴァと、その相手をするリムルの激戦があった。イヴァラージェは半身、私の片割れと呟き、宙へ浮かび飛翔を開始し、ギィ達もリムルの戦いを乱されぬよう追撃に移ったのである。

剣戟の余波とクロエの未来誘導

東方面はイヴァラージェの攻撃で更地と化し、天通閣周辺ではニコラウスとアルノーが聖浄化結界を必死に維持していた。リムルとヴェルダナーヴァの剣戟は衝撃波と爆発を伴い、多重結界を一撃で砕くほど苛烈であったが、クロエの思念伝達による回避支援により、リムルは致命打を避けつつ攻防を続けていた。

天通閣崩落とイヴァラージェへの「記憶」刺突

轟音と共に天通閣の地上階が崩落し、その隙間からルシアの姿をしたイヴァラージェが飛び出してヴェルダナーヴァへ迫った。ヴェルダナーヴァは剣「記憶」をイヴァラージェの胸に突き立て地面に縫い付け、過去の記憶を植え付ける権能を行使した。ギィはこれをルシアの記憶を移植し、世界を滅ぼして情報子を回収しイヴァラージェをルシアとして作り直す計画だと見抜いた。

竜たちの決別とヴェルダナーヴァへの集団敵対宣言

イヴァラージェが記憶流入で動けない間に、リムルは総攻撃を提案し、ヴェルダナーヴァは皆を敵対者と見なした。ギィは友として止める義務を口にし、ヴェルザードは凍結した者たちを次の世界に連れて行く約束を反故にした兄を「壊れている」と断じて絶縁を宣言した。ミリムも他者を犠牲にして愛する者を蘇らせようとする考えを批判し、竜たちはヴェルダナーヴァへの敵対を明言した。

クロエの排除と停止世界への移行

ヴェルダナーヴァはリムルの回避を導いていた存在としてクロエを空間から引きずり出し、空気振動を刃とする攻撃で重傷を負わせた。時間停止が発動し、停止世界の中でも動けるのは限られた強者のみとなる。クロエはこれ以上の助言が不可能となり、リムルは実力のみで戦う状況に追い込まれた。

魂魄掌握によるリムルの撃破と絶望

再び剣を交えた際、ヴェルダナーヴァは剣越しに権能「魂魄掌握」を発動し、優しい感覚と共にリムルの意識を奪った。リムルは倒れてスライム形態となり、停止世界の中で魂を失ったことがギィらに察知された。ルミナスは時間停止下では蘇生魔法が一切使えないと悟り、ベニマルは何も出来ない無力感に打ちのめされ、皆が支柱を失った現実に直面した。

擬似魂による復活と「偽物」としての自覚

リムルの自我はヴェルドラとの魂の回廊によりヴェルドラ内部に退避しており、シエルの手配した擬似魂を使ってスライムの肉体に意識を投下することで復活した。シエルは消失し、奪われた本来の魂側に同化したと判断され、リムルは権能の大半を失った「残りカス」であり、外形的には自動人形同然の偽物である可能性を自覚して絶望したが、皆の信頼に応えるため再び剣を取った。

ヴェルダナーヴァへの宣戦と魂攻撃の看破

リムルは平然を装い、魂への直接干渉がヴェルダナーヴァの攻撃の本質であると仲間に伝え、接触を避けるよう警告した上で自分が相手をすると宣言した。ヴェルドラは魂を持たないリムルだけが兄を倒せると告げ、ギィやヴェルザードもそれを黙認した。リムルは内心の恐怖を押し隠しつつ、強がりとハッタリを武器に一人で対峙する覚悟を固めた。

ベニマルの負傷と「希望」の再確認

ベニマルはリムルに無理をするなと語り、かつて豚頭帝に挑もうとした自分と同じ無茶を感じ取ったと打ち明けた。皆はリムル一人に全てを背負わせるつもりはないと伝え、リムルはその言葉で孤独感から解放される。しかし直後、音も気配もない創世級の剣が飛来し、ベニマルが身を挺して受け止めるも紅蓮の剣は砕け、刃が胸を貫いた。ヴェルダナーヴァの一撃は魂を侵食破壊する性質を持ち、時間停止下でもベニマルの魂は崩壊しつつあった。

ベニマルの言葉と魂治療の開始

ヴェルダナーヴァは魂のない自動人形を慕う者たちを嘲笑したが、ベニマルはリムルこそ希望であり、負けたと思わぬ限り敗北ではないと反論した。リムルはベニマルに生きることを命令し、生まれてくる子供たちのためにも死を許さないと告げた上で、砕けかけたベニマルの魂に干渉し、治療を開始したのである。

ベニマルへの魂治療とラミリスの介入

リムルはシエル不在ながら過去の経験をなぞる形でベニマルの魂治療を試みた。スライム細胞を魂の欠損部に流し込み情報子を保持させ、さらに魂暴喰でヴェルダナーヴァの権能を喰い尽くし、虚数空間から取り出した虚無崩壊のエネルギーを変換して注入した。停止世界内ではベニマルを目覚めさせる手段がないと悟り、時間再開後の覚醒に賭けたところで、ヴェルダナーヴァの追撃が迫り、ラミリスが割り込んで攻撃を止めた。ラミリスはリムルとの魂の回廊接続を受けて力を増し、ベニマルの救命を自ら請け負った。

ゼギオンの合流と戦場整理

ラミリスの背後からゼギオンが現れ、停止世界の中を転移してリムルの元へ駆け付けた。リムルはベニマルの守りをゼギオンに託し、自身はヴェルダナーヴァと戦う決意を固めた。ラミリスとゼギオンの到着により、リムルは背後を気にせず決戦に集中出来る体制を整えた。

ギィによるリムルの異常性の認識

ギィは、魂への直接干渉という神格の技を見てヴェルダナーヴァが本物であると再確認した一方で、魂を失ってなお擬似魂で動くリムルの在り様に戦慄した。リムルが権能を使わず虚無を安全なエネルギーに変換しベニマルの身体改変を行った行為は、単なる人形のプログラムでは不可能と判断し、リムル本人であると断じた。ギィはリムルを規格外の特異点として認識し、この決戦の行方に強い興味を抱いた。

ヴェルザードの分析と防御の布陣

ヴェルザードは一度は勝ち目の薄さを悟ったが、魂を奪われても立ち上がるリムルの姿を見て希望を見出した。ヴェルダナーヴァが不意打ちに頼る様子から、彼自身もリムルを脅威と見ていると判断する。ヴェルザードはヴェルダナーヴァの次なる攻撃から周囲を守るため、停止世界下で権能を最大限発揮し、戦場にいる者たちを完全固定して防御に徹した。

ミリムの回想と覚悟

ミリムは、怒ったリムルが理性の制御を外して封印していた権能まで解放する存在であると改めて思い出した。リムルが力をひけらかさず対話と棲み分けを重んじ、侵略や価値観の押し付けに対してのみ武力を行使してきたことを振り返り、その理想とヴェルダナーヴァの空虚な力を対比した。ミリムはリムルとベニマルへの情から全面的に味方する決意を固めると同時に、リムルが怒りに呑まれて暴走した場合は自分が止める役目を負う覚悟を秘かに決めた。

クロエの観測と確信

クロエは時間停止によって時間跳躍を封じられ、未来予測が機能しない状況に置かれた。それでも、魂を失ったはずのリムルから放たれる強い意志の光を見て、不安が和らいでいくのを感じた。数多のループでリムルが消えたと誤解したことはあっても、明確な死の光景だけは一度も観測していない記憶から、リムルは必ず勝ち、未来への道を切り開くと確信し、その勝利の瞬間を待ち望んだのである。

ラミリスの覚醒とベニマル救出

ラミリスは本来、迷宮で皆の勝利を祈るつもりでいたが、ゼギオンの思念伝達をきっかけに自分も停止世界で動けると知り、同行して戦場に来たのである。そこでヴェルダナーヴァに狙われるリムルと、魂を失いながらも異常な治療でベニマルを救おうとしている姿を目撃し、その規格外ぶりに戦慄しつつも「リムルだから」と無理やり納得した。ベニマルの魔核が動いていないだけでエネルギーは安定し進化状態にあると見抜いたラミリスは、リムルの力を借りて成長形態となり、原初の魔法による治癒で魔核を再稼働させ、ベニマルを覚醒待ちの状態まで回復させた。

ヴェルダナーヴァへの違和感とリムルとの類似

ラミリスは記憶にあるヴェルダナーヴァの人柄と目の前の姿を比較し、同一人物でありながら情熱や遊び心を失い、全てを諦めたような変質に気付いた。かつての面影は薄れ、冷めた存在へと変わっている一方で、今のリムルからは昔のヴェルダナーヴァに近い気配を感じ取り、二人の間に得体の知れない共通性を見いだす。ラミリスはこの推測を確かめる術を持たないまま、決着の後にしか答えは分からないと悟り、ベニマル救出を果たした自分の役目を終え、リムルの勝利を祈る立場に徹することにした。

リムルの変身と神との互角の剣戟

リムルはスライム細胞による自己再生を駆使して剣戟を続けつつ、身長差が不利と判断し、転生前のサトルを模した長身の男型へ変身して戦いやすさを整えた。シエル不在でも変身が成功したことで自信を得たリムルは、ヴェルダナーヴァと互角に斬り結びながら、自分は強いと認めて戦いに集中する。ヴェルダナーヴァの魂魄破壊の干渉は、リムルが用意した疑似魂に届かず効果を失い、相手は自動人形扱いしたはずのリムルがなぜ動けるのか理解できずに混乱していった。

権能の自己点検と絶望を強いる原初の魔法

リムルは戦いの最中に、自身がなお扱える力を素早く整理した。スライム固有の感知・変化能力、多次元結界や時空間支配、魂暴喰や虚数空間、竜種解放と竜種核化、虚空之神の権能は問題なく使えたが、豊穣之王に属する能力創造や能力複製などシエル依存の権能はほぼ使用不能であると把握した。それでも直接戦闘に必要な力は十分と判断し、正面からの剣技勝負に踏み切る。互角の攻防に苛立ったヴェルダナーヴァは、極大特異点たるリムルに絶望を教えると宣言し、停止世界すら無視する原初の魔法で天を埋め尽くす炎の矢を展開し、仲間たちを焼き尽くす未来を見せつけた。

世界を守る決意と炎の矢の無効化

仲間や友人、共に戦ってきた者たちが一斉に消し飛ぶ光景を予感したリムルは、やるだけやって諦めるという甘さを捨て、この世界とそこで得た絆への恩を返すため、決して敗北を許さないと覚悟を固めた。無責任に生きるという当初の考えを振り返り、今では皆に頼られる存在として全力で守る義務があると再確認したリムルは、炎の矢の全てを認識し、魂暴喰を停止世界全域に行き渡らせて一瞬で喰い尽くすことに成功した。原初の魔法であっても情報子として認識できる限り無効化可能と証明したリムルは、放出系の技は通じないと宣言し、ヴェルダナーヴァとの決戦に改めて臨む姿勢を示したのである。

世界滅亡の決断とルシアの帰還

ヴェルダナーヴァが忠告を無視して原初の魔法を放ったことで、リムルは迷い続けて仲間を危険に晒した自分に激怒し、相手が神であろうと夢や希望を奪う存在は敵として倒すと決意した。瞬間移動からの斬撃と拳でヴェルダナーヴァを吹き飛ばし、自分の正義を貫くと宣言したのである。

虚喰崩剣の発想と防御突破

リムルは初撃が多重結界と能力殺封に阻まれたことで、自身の剣が単なる闘気剣に過ぎないと分析した。停止世界では魔法融合技が使えないと悟り、虚無崩壊で生じる虚無と魂暴喰を剣に纏わせる案に辿り着く。試行の結果、新技虚喰崩剣で結界を斬り裂き、攻撃がヴェルダナーヴァに通ると証明したのである。

ヴェルダナーヴァの迷いと天地崩滅覇界

ヴェルダナーヴァは世界管理の苦悩と寿命・死の必要性、そして妻ルシアの理不尽な死を思い返し、世界を滅ぼすか見守るかの間で揺れていた。リムルという極大特異点が自らの防御を破ったことで、成長の余地を与えるのは危険と判断し、世界を初期化し再構築する最強神技天地崩滅覇界の行使を決意したのである。

神智核シエルの介入と真の目的

天地崩滅覇界を発動しようとした瞬間、停止世界の思考空間でヴェルダナーヴァの心核に二つの声が直接語りかけた。一つは自らを神智核シエルと名乗り、リムルの勝率はシエル不在でも百パーセントであり、あえて分離してヴェルダナーヴァを利用したと明かす声であった。シエルはまた、リムルの万能さを自覚させることと、別の重要な目的があったと語ったのである。

ルシア再構成とヴェルダナーヴァの救済

もう一つの声の主はルシアであり、シエルがリムルを通じて集めた因子と記憶を統合し、九十九パーセント以上の一致率で魂を復元した存在であると説明した。ヴェルダナーヴァはルシア本人だと確信し、悲しませたことを謝る彼女と再会を果たした。こうして世界を滅ぼす動機であったルシア喪失の問題はほぼ解決されたが、破滅の竜はなお健在であり、事態の終結には至っていない状況であった。

第五章 創世神話

戦局の掌握と三邪神の復活

ソウエイはソーカらと共に戦場の情報を収集し、それを基にベニマルが各部隊へ的確な指示を出したことで、戦局は優勢に傾いていた。ミザリーとレインの聖域化による常時回復や聖浄化結界の維持、イヴァラージェとミリムによる幻獣族掃討も進み、各方面で英雄達が奮戦していた。そこへヴェルダナーヴァがジャヒル、コルヌ、ヴェガを召喚し、倒されたスイーム、ハバタキ、カケアシの肉体に宿らせたことで、『竜種』をも上回る脅威が誕生し、戦力の再配分を迫られた。

ジャヒル・コルヌ・ヴェガとの対峙

終わりなき死の苦痛から解放されたジャヒルは、ユウキへの恨みを抱いたまま復活し、ユウキ一行やレオン、エルメシアらと再び相対した。ヴェルグリンドの攻撃で死んだと悟ったコルヌは激昂し、ルドラとヴェルグリンド、さらにカリオンやフレイ、フェルドウェイらに迎え撃たれた。孤独と恐怖を知って戻ってきたヴェガは、生存に歓喜しつつもテスタロッサとヒナタ、続いてシオン、ゴブタ達に狙われ、戦いが再開した。

原初二名とディアブロの観戦

ウルティマとカレラはリムルから得たスライム細胞で肉体を強化し、虚無への耐性と親和性を得て禁術級の力を無理なく行使してジャヒルを圧倒した。ユウキやレオン達は自分の出番が無くなりつつあることに安堵しつつも、原初二名の強化が今後の勢力図を揺るがすと懸念した。ディアブロはコルヌ戦線を視察し、ルドラやフェルドウェイらがいるため自らの出番は不要と判断しつつ、全戦場を俯瞰してリムルから託された役目を果たしていた。

ヴェガの変化と邪龍獣の暴走

ヴェガは虚無の中で過去の破滅を思い出し、他者を思いやる心が大事だという結論に至っていたが、テスタロッサとヒナタの攻撃に追い詰められ、反射的に邪龍獣生産を発動した。大量の幻獣族の死骸を餌に十二体の邪龍獣を同時生成し、存在値一千万超の怪物達を戦場に解き放って、その隙に逃走しようとしたことで戦況は再び混迷した。英雄召喚の負担を理由にマサユキの英魂道導は再使用されず、ゴブタ達やカリオンらが邪龍獣迎撃に動いた。

停止世界での膠着とヴェガの離脱

やがて世界そのものが停止し、戦場全体が静止した。イヴァラージェの子供達の肉体を得たジャヒル、コルヌ、ヴェガは停止世界にも適応していたが、邪龍獣達は動けず、活動可能なのはヴェガと近くのテスタロッサ、シオン、ディアブロのみであった。テスタロッサの虚無の世界に身を削られながらも、ヴェガは致命傷を避けて突破し逃走に成功した。ディアブロはヴェガから勝利への渇望が消えている違和感を口にし、テスタロッサもそれを認めつつ、シオンの「敵なら倒す」という乱暴な理屈に一理あるとし、三人でヴェガを追って停止した世界の中を進んでいった。

コルヌと旧友たちの堂々巡り

コルヌの前にはフェルドウェイ、オベーラ、ザラリオが並び立ち、時間停止下でも行動していた。フェルドウェイは全次元支配を目指した過去の目的がヴェルダナーヴァ復活と不幸の根絶にあったと説明し、神の再臨とリムルの出現で前提が崩れたと認めた。コルヌはなおフェルドウェイを絶対視し、指導者は迷わず正解を示すべきだと主張し続ける。多様性と信念、神の誤りの有無を巡る議論は収束せず、ルドラとヴェルグリンドは休息に入り、通りかかったディアブロは一瞥だけ残して立ち去った。

ジャヒルの極大火焔球化

一方ジャヒルの前には、停止世界に適応したウルティマとカレラ、ユウキに続いてルミナスが立ちはだかっていた。三人は虚無を纏った新たな攻撃と創世級の力でジャヒルを追い詰めたが、膨大な魔力と再生能力の前に決め手を欠いた。追い込まれたジャヒルは権能「火焰之王」を体内で内燃させ、スイームの動力炉と究極の金属で覆われた肉体を組み合わせ、自身を触れるだけで大地すら崩壊させる極大火焔球へと変貌させて跳ね回った。

ヴェガの介入と肉体奪取の成功

極大火焔球の進路上にはユウキと停止した仲間たちがおり、ユウキは自分を盾にして被害を減らす覚悟を固めた。そこへヴェガが割り込み、「虚喰無限獄」で火球となったジャヒルを取り込み始める。ヴェガは無限再生と吸収でダメージを補填しつつジャヒルを呑み込み、仲間を守れたことに満足していた。だがジャヒルは死を前提とする禁忌邪術「肉体奪取」を発動し、弱ったヴェガの心核を乗っ取ることに成功する。ヴェガとジャヒル、さらにカケアシとスイームの力が統合された新たなジャヒルが現れ、右手に残したヴェガの頭を握り潰しては再生させる形で激痛を与え続けた。

ユウキたちによるヴェガの救済

ジャヒルが勝者として進化する一方で、ユウキは仲間としてヴェガを苦痛から解放する決意を固め、マリアの罵声交じりの支援を受けつつ突撃した。シオンが先行して触手を弾き、命懸けで隙を作ると、ユウキはヴェガの頭部に向けて「死を渇望せよ」を放ち、恐怖と痛みを打ち消した。続いてシオンが手首ごと頭部を断ち切り、ルミナスがそれを受け止めて魂に及ぶ祝福の力で邪悪な力ごと浄化する。ヴェガは、自分のために他者が動いてくれた事実に喜びを覚えながら満足げに消え、その魂は永劫の孤独と苦行から解放されたのである。

ユウキの撤退と戦場誘導

ユウキはジャヒルが怯んだ隙にヴェガを安らかに死なせると、マリアの支援を受けて『瞬間移動』で距離を取った。残されたシオンとルミナスは激しい総攻撃を受けてエネルギーを削られ、ユウキへの不信を募らせたが、ユウキが停止世界に取り残された仲間を守るため、戦場を荒地へ移そうとしている事情を理解した。ルミナスとシオンはユウキと共に移動し、ウルティマとカレラもリムルに犠牲を出さぬため協力して追従した。

荒地での総力戦開始とジャヒルの圧倒的優位

荒地に誘導された一行はジャヒルと対峙し、ユウキは『瞬間移動』による支援役に徹する構えを取った。戦闘が始まると、数億の存在値を得たジャヒルは『邪龍之王』と『虚喰無限獄』を理性的に使いこなし、究極金属の外骨格と組み合わせてウルティマやカレラの『虚無』すら受け止めた。ルミナスの法則も触手でいなされ、シオンの剣撃は逆にエネルギーを吸収されていく。やがてシオンは消耗して退避し、ウルティマとカレラも触手で拘束され、ルミナスも殴り飛ばされるなど、戦況はほぼ詰みの状態となった。

ディアブロの参戦と星天円環

そこへディアブロが前に出て、テスタロッサたちに自分の戦いぶりをよく見ておくよう告げ、一人でジャヒルと対峙した。ジャヒルの『火焔虚喰拳』が殺到する中、ディアブロは『虚無崩壊』で強化した肉体と『無限再生』のバランスを精密に調整し、体内で魔法を循環させることで、最小の動きで触手を全て躱して見せた。その戦い方は、リムルから授かったスライム細胞と虚無の力を解析して編み出した格闘奥義「星天円環」であり、悪魔三人娘は新たな理論に基づく魔闘技としてその真価を理解した。

星天円環滅覇の準備と邪魔の予兆

ディアブロは星天円環で消耗を抑えつつ肉体を周囲の物質で補強し、最強奥義「星天円環滅覇」でジャヒルを完全に消し去る準備を進めた。テスタロッサたちは、その技が前提条件の厳しい最強無敗の奥義となることを悟り、リムルのスライム細胞が門外不出となる未来も示唆された。しかし、ディアブロが魔力を最高潮まで高めたところで、無邪気な笑い声が戦場に響き、時間切れの到来と強制的な邪魔の介入をディアブロが察した。

ヴェルダナーヴァ戦でのシエル奪還

場面はヴェルダナーヴァと対峙するリムル側へ移り、リムルは「虚喰崩剣」で防御を破った直後、イヴァラージェ再始動の気配に気を取られながらも、隙を逃さずヴェルダナーヴァへ斬りかかった。剣撃は受け止められたが、リムルの真の狙いはシエルの奪還であり、拳でヴェルダナーヴァを殴りながらシエルを呼び戻した結果、シエルの声が再び内側から響き、奪還に成功した。リムルの肉体は美少女型へ戻ったものの、シエルの復帰により恐れは消え、どんな相手にも動じないという確信を取り戻したのである。

イヴァラージェの暴走とシエルの帰還

リムルは三上悟の姿から元のスライム擬態に戻ったことを残念に思いつつも絶好調であり、イヴァラージェの狙いが自分ではなくヴェルダナーヴァに向いたことで一息つける状況となっていた。イヴァラージェはルシアの記憶を取り込んだ影響で自分をルシアだと誤認したが、内面は破壊衝動のままであった。リムルはヴェルダナーヴァへの殴打と同時に魂暴喰でシエルを奪還するつもりだったが、詳細な分析を行う前にシエルがあっさり戻ってきたため、自分の手柄かどうか半信半疑のまま会話を交わした。

ベニマルの覚醒と「繁栄」の入手

リムルはベニマルの容体を案じて瞬間移動で傍らに向かい、ラミリスの処置が完璧で魔核も安定していると確認した。シエルによれば、リムルが注いだ力が過大だったため、ベニマルの肉体がそれに適応する変化を進めており、炎霊鬼から炎竜鬼へと種族が変化していた。シエルが目覚めさせるとベニマルは即座に覚醒し、好調さを口にした。折れた刀に代わる武器として、ラミリスがヴェルダナーヴァから預かっていた創世級の杖「繁栄」を取り出し、それはベニマルが握った途端に太刀へ変化した。さらに折れた紅蓮の核が刀身に融合し、新たな紅蓮として完成したことで、ベニマルはゼギオンと共に戦場へ向かうことになった。

ディアブロとジャヒルの攻防と狙いの転換

一方、ディアブロは虚無を駆使してジャヒルの暗黒増殖喰や邪龍之王の能力吸収を無効化し、ジャヒルは誰からもエネルギーを奪えずにいた。シオンはルミナスの守りの内側に退避し、テスタロッサたちも虚無で防御するため、ジャヒルはこの場の強者たちを素材として活用する策を実行できなかった。停止世界では邪龍獣も動かせず打開策に乏しい中、ジャヒルは自分に似せた邪龍獣を囮として残し、フェルドウェイ一行とコルヌを新たな獲物にしようと背を向けて走った。

ゼギオンの迎撃とベニマルの奥義による討伐

コルヌは新たに得た瞬間移動を頼みにジャヒルへ大言壮語を浴びせたが、フェルドウェイが黙らせ、ディアブロやゼギオンの警戒を避けた。その頃、逃走を図るジャヒルは背後からゼギオンの一撃を受けて大きく消耗し、前方にはベニマルが立ち塞がった。ディアブロとゼギオンはリムルの意図を察して見守り役に回り、ベニマルが一騎打ちを引き受けた。ベニマルはかつて神樹で守勢に徹した因縁を思い出し、今度こそ完全勝利を得ると決める。ジャヒルは創世神を名乗って激昂しつつも、内心では繁栄を奪って力を増す算段を立てていた。ジャヒルが火焔虚喰拳の連打と触手の猛攻を仕掛けると、ベニマルは陽炎之王の極意「陽炎」で実体を揺らめかせ、全ての攻撃をすり抜けて無効化した。続けて奥義「朧黒炎・百華繚乱」を放ち、虚無を帯びた黒炎の無数の斬撃でジャヒルの細胞片を徹底的に焼却し、再生と炎のせめぎ合いの苦痛の中で完全消滅させた。ディアブロは出番を失ったことを残念がりつつもベニマルの戦いぶりを称え、ベニマル・ディアブロ・ゼギオンの三人がリムル配下の最強格として互いを意識する関係であることが改めて示されたのである。

ベニマルの勝利とコルヌの折れ

ベニマル達の戦いぶりを見て、ヴェルグリンドはベニマルが自分と互角になりつつある事実に半ば本気で驚き、ルドラは平然と口説き文句を重ねてマサユキを羞恥させていた。気絶から目覚めたコルヌは、ベニマルがジャヒルを瞬時に粉砕した光景を理解出来ずに呆然とし、ようやく自分に向けられていた忠告の意味を悟った。フェルドウェイは自己中心的だったと反省を口にしつつ仲間を大切にすると誓い、コルヌも従うと応じてヴェルグリンド側との和解に踏み切った。

世界創造の回想とヴェルダナーヴァの迷い

舞台が決戦の場に戻ると、ヴェルダナーヴァはルシア復活の直後にイヴァラージェが再起動し、ルシアの魂を狙って迫る事態に混乱していた。イヴァラージェの歪んだ愛の言動を前に、ヴェルダナーヴァは自らがルシアの欠片を寄せ集めた過ちを自覚し、世界創造の経緯と人類誕生、感情が争いを生み出す歴史、ルシアと出会いミリムを授かって神の力を失った後、神殺しによってルシアを奪われた経緯を振り返り、自分の選択が正しかったのか迷い続けていた。

ルシアとの対話と希望の記憶

イヴァラージェが魂暴喰によりヴェルダナーヴァを取り込み始めると、逃れられないと悟ったヴェルダナーヴァはルシアと心の内で対話した。ルシアは自分の死がヴェルダナーヴァを狂わせたと詫びつつ、ミリムの成長を見届けた今は悔いはないと告げ、何度生まれ変わっても愛は変わらないと語った。その言葉からヴェルダナーヴァはミリムに付けようとしたもう一つの名前を思い出し、親超えが既に達成されていたと悟って幸福感に包まれながら、ルシアと共にイヴァラージェに呑まれていった。

リムルへの丸投げと決戦の役割分担

目の前でヴェルダナーヴァが喰われるのを見たリムルは、イヴァラージェから分離させられるかを考えるが、ギィから決断を迫られ責任の擦り付け合いを演じた。ディーノ、ガラシャ、ピコは自分達には荷が重いと即座に辞退し、イヴァラージェは竜鱗に覆われ創世級の双剣を構える怪物となっていた。満身創痍のミリムとエネルギーが枯渇したクロエを危険に晒したくないリムルは、自分が時間稼ぎを引き受け、二人には弱点探索を頼んだ。ラミリスは応援に回り、ヴェルドラは最終防衛ラインとして温存されることになった。

イヴァラージェへの初撃と互角の手応え

リムルがイヴァラージェに接近すると、桁外れの邪気と存在値に圧倒されるが、シエルはリムルも負けていないと断言した。思考加速と愛刀希望を駆使したリムルは、イヴァラージェの二連撃を読み切って受け流し、空中での蹴りと斬撃でその身体を地上へ叩き落として天通閣を砕くほどの衝撃を与えた。自分への反動は微風程度だったため、リムルは意外な手応えに戸惑いながらも優位を確認し、創世級の竜鱗に黒炎を叩き込みつつ、イヴァラージェ攻略のための必勝作戦を練り始めたのである。

観戦者たちの反応とリムル信仰の拡大

リムルとイヴァラージェの激闘を前に、ギィはその成長を称賛し、ディアブロとフェルドウェイはリムルを「真なる神」として持ち上げていた。ウルティマ達はフェルドウェイのちゃっかりした態度に噛み付きつつも、最終的にはテスタロッサやカレラの仲裁で場が収まり、周囲ではラミリスやミリム、ヴェルドラらが誰が一番リムルと親しいかを巡って言い争い、クロエだけが静かにリムルへの想いを胸の内で呟いていた。コルヌも圧倒的な戦いぶりを見て心を折り、今日からリムルを敬うと決めたのである。

イヴァラージェの本気とリムルの危機感

リムルが優勢に見える中、イヴァラージェは手加減をやめることを決意し、邪竜のような異形へと変貌していった。リムルは、剣では再生力に追いつけず、停止世界の制約で魔法や遠距離攻撃も封じられているため、多人数で挑めば犠牲が避けられないと判断し、このままでは力比べが無意味になると危機感を募らせた。

竜種核化による希望の剣の完成

打開策としてシエルが竜種核化の権能を提案し、リムルはヴェルドラに協力を求めた。さらにヴェルグリンドとヴェルザードも加わることになり、希望の剣には三つの竜種核を装着出来ると判明した。三体が契約を受諾すると、それぞれの色彩を帯びた竜種核が剣に嵌まり、リムルは圧倒的な力と、竜種達と共に戦うという心強さを得て、負ける気がしないと感じるに至った。

仲間たちの防衛準備と役割分担

リムルは全力攻撃の余波から地上と仲間を守るため、ギィに後方の防衛を任せた。ミリムが抱くガイアが、時間と空間を問わず発動可能な極大結界を展開出来ると判明し、ミリムとラミリス、ギィ達はその維持に力を注ぐことになった。ディアブロやテスタロッサ達、フェルドウェイ一派も争いを棚上げして結界維持に協力し、全員がリムルの勝利を疑わぬまま背中へ視線を集中させた。

クロエの不安とリムルの決意

最後にクロエが不安を抱えてリムルに問いかけると、リムルはここまで導いてくれたのはクロエだと感謝を示し、必ずここで終わらせると軽口を交えつつ約束した。クロエはその言葉を信じて表情を和らげ、リムルは仲間達の期待と信頼を一身に受けて自らを追い込み、イヴァラージェとの決戦に全力で挑む覚悟を固めたのである。

地上防衛とルヴェルジェの完全変貌

リムルは戦闘前に地上の仲間への被害を懸念し、ヴェルザードに依頼して氷像化された英雄達の完全固定を強化させた。その上でイヴァラージェの完全変形を迎え撃ったところ、イヴァラージェは人と竜と狼が混ざった百メートル級の異形へと変貌し、ルシアとヴェルダナーヴァを取り込んだ存在として自らをルヴェルジェと名乗り、力を安定させてさらに脅威を増したのである。

人型ルヴェルジェとの死闘と弱点露見

ルヴェルジェは巨体からの触手と、人型分体による双剣と原初魔法で同時攻撃を仕掛けたが、リムルは竜種核を宿した剣“希望”と魂暴喰によりそれを捌き続けた。戦闘の中でルヴェルジェがヴェルダナーヴァ級以上の力を持つと判明する一方、リムルは攻撃が地上に落ちないようあえて受け止めており、その様子からルヴェルジェに仲間を庇っているという弱点を見抜かれ、標的を地上へと変えられてしまった。

シオンの奇襲と宝玉喪失

ルヴェルジェは寂しさを理由に世界と仲間を皆殺しにしようとし、巨体で地上へ突進し触手を降らせようとしたが、その進路上で静止していたはずのシオンが突如動き、神殺しカオティックフェイトを叩き込んだ。この不意打ちによりルヴェルジェはわずかな傷を負い、さらに両手で握っていた白黒の宝玉を取り落とし、それを小竜ガイアに食われてしまう。宝玉はヴェルダナーヴァとルシアの心核に関わる重要な遺物であり、制御装置を失ったルヴェルジェは激しく動揺し、力を暴走させ始めた。

ガイア命名と新たな竜種核の獲得

ルヴェルジェの暴走が進む中、リムルはヴェルダナーヴァとルシアの残滓から、ガイアに名を与えてほしいという思念を受け取った。リムルがガイアを見据え、今日から地星竜ヴェルガイアとして新たな竜種として生きろと命名すると、ガイアは眩い光を放って真なる竜種へと進化した。名付けの結果、リムルは竜種核化[地星]の権能を得て、“希望”の第四の孔にヴェルガイアを竜種核として組み込める繋がりを得たのである。

最終形態ルヴェルジェとの力比べ

リムルはヴェルガイアの力まで取り込んだ剣“希望”に力を込め、全竜種核と虚無崩壊を総動員する覚悟を固めた。対するルヴェルジェは再び巨体を再現し、全次元に被害が及びかねないほどの力を溜め込んだ。シエルは冷静に状況を分析しつつ、リムルの全力行使を黙って後押しした。

世界破壊級攻撃と魂暴喰の迎撃

ルヴェルジェは双剣「慈愛」と「記憶」を投げつけ、それを通じて世界を幾度も滅ぼせるほどの破壊エネルギーを流し込んだ。しかしリムルは魂暴喰を発動し、その放出系の膨大なエネルギーを虚数空間へと隔離して受け止めた。その上でヴェルドラ達とヴェルザード、ヴェルグリンド、ヴェルガイアの力を借り、全力の一撃を放つ準備を整えた。

虚崩朧・千変万華による決着

混乱しながらリムルの正体を問いただすルヴェルジェに対し、リムルは自らの名を名乗り、全てを賭けた必殺技「虚崩朧・千変万華」を叩き込んだ。剣撃は時間停止下でも眩い光の奔流となり、ルヴェルジェの身体と放たれる瘴気を闇色の妖気ごと呑み込み、魂暴喰によってその存在を蝕んでいった。リムルは、悪行の代償として虚数空間の中で愚かさを悔い続けろと冷徹に告げた。

ルヴェルジェの悟りと完全消滅

喰われゆく中でルヴェルジェは、ヴェルダナーヴァから分かれた存在としての孤独と選択を振り返り、変化を拒んできた自分と、新たな世界を求めた半身との差を自覚した。矛盾を排除するのではなく受け入れることが混沌の真理だと理解し、新たな神の誕生の必要性を悟ったところで、その意識は完全に途絶えた。

永劫の虚数空間とリムルの責任意識

リムルは虚数空間を閉ざし、ルヴェルジェが二度と外へ出られない牢獄に封じられたことを確認した。クレイマンの残滓も同じ空間に留められていると把握しつつ、自らの正義を押し付けて敵を喰らった以上、その正しさを証明し続けなければならないと自戒する。自己中心的な怪物とならぬよう心を引き締めながら、最後の戦いが自分達の勝利で終わったことを認識し、停止していた時が再び動き出したのである。

終章 転生したら

最終決戦の終息と大魔王リムル誕生

リムルは虚崩朧・千変万華によってルヴェルジェを完全消滅させ、ギィ達の結界と防衛措置により多次元崩壊級の余波を封じ込めた。時間停止が解けて英雄達が混乱する中、ギィはリムルを称えつつ大魔王の座に就くよう強引に宣言し、ミリムやラミリス、ルミナスらも次々賛同した。これにより旧八星魔王は再編され、リムルを頂点とする新たな魔王体制が決定した。

世界への告知と復興支援

ルミナスは全世界に向け、邪神イヴァラージェ討伐と世界の危機終息を発表し、その主たる功績者として大魔王リムルの名を示した。テンペストの魔物達は各地に派遣され、復興と同時に魔物への偏見解消を進めた。一方、戦闘の余波でダグリュール領は壊滅的被害を受けたため、巨人族は旧ユーラザニア建設地に避難し、ゲルドの指揮下で自国再建のための技術習得を始めた。またジスターヴはカガリの支配下に割譲され、新たな統治が始動した。

テンペストの日常と騒がしい「聖戦」

帰国したリムルは、迷宮の復元や行政再編に追われる一方、シオンやシュナ、ミリムらによる「正妻の座」を巡る争いが聖戦として日常化していることを知らされ、頭を抱えた。ベニマルらに子が生まれたことから周囲の恋愛熱も高まり、リムル自身も標的となっていく。ラミリスは一時的な成長状態から再び子供に戻り不満を漏らしたが、リムルの力を借りれば任意に姿を変えられると知り、子供と大人の姿を状況に応じて使い分けることで満足した。

過去への跳躍とシズの再生

ようやく心が落ち着いたリムルは、心残りを晴らすため時空間跳躍で大空襲下の過去世界へ向かった。炎に包まれ娘を失った女性を安全圏へ瞬間移動させ、完全回復薬で治療したのち、その“魂”に眠るシズに語りかけた。リムルは、母が生きている元の世界で再び生きるよう説き、シズは感謝とともにそれを受け入れた。リムルはシズの魂から十歳前後の肉体を再構築し、呪いも火傷も消えた新たな人生を与えた。別れを前提に多くの支援を渡そうとしたが、シズは自らの強さを笑顔で語り、きっとまた会えると告げた。リムルはその言葉を胸に刻み、次なる目的地へと飛び立ったのである。

三上悟の蘇生とリムル側の処理

リムルは現代日本に跳び、刺されて倒れている三上悟の遺体に擬似魂を融合させ、自身の多重並列存在を移して蘇生させた。回復薬で肉体を完全に修復したうえで意識を移し替え、ディアブロにも用事を済ませさせた後、三上悟が目覚める前に時空間跳躍でその場を離れた。

病院での覚醒と出来事の現実性の確認

三上悟は病院で目を覚まし、田村から通り魔事件と謎の美女による蘇生の経緯を聞かされた。血に染まったスーツと背中の裂け目を見て刺傷の事実を確認し、大賢者の声が聞こえたことで、異世界での出来事と記憶同期が現実であると理解した。一方、犯人は監視カメラ映像から途中で消えており、ディアブロが報復したと三上悟は察したが、それを口にはしなかった。

家族との再会と祖母シズの正体

深夜には両親と兄が見舞いに訪れ、心配ゆえに兄から拳骨を食らうなど、昔と変わらぬ家族関係が描かれた。会話の中で、祖母の名が静江であり「鬼の静江」と恐れられた武闘派であったこと、そしてその静江が悟に名を付け「また会えた」と抱いていたことが語られる。三上悟は祖母シズが異世界でのシズであると確信し、祖母の遺言として託された小太刀と手紙を受け取った。

シズからの手紙と追悼の決意

手紙には、リムルへの感謝、子供達や仲間を救ってもらった喜び、レオンとの和解への安堵、そしてリムルが神のような存在になったことへの驚きと誇りが綴られていた。シズは悟を「可愛い孫」として受け入れ、人生に満足していると伝えていた。三上悟は神になどなっていないと心の中で反論しつつも、シズの幸福を知って満足し、その夜は彼女を静かに追悼しながら夜空を見上げた。

退院準備と田村への「転生話」の予告

翌日、田村が着替えを届け、三上悟は検査結果に問題がないことや、同様の不可思議な事例が年に数回報告されていることを語った。犯人が神隠しのように消えた件も含め、警察は超常事例として扱い始めていた。その後、二人はBARに移動し、三上悟は自分が死後に異世界へ行っていたと告げたら信じるかと試した。田村は謎の美女の言動からそれを信じると答えたため、三上悟は「俺が『転生したらスライムだった件』について」と切り出し、自身の物語を語り始めようとしたのである。

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