Lorem Ipsum Dolor Sit Amet

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

Nisl At Est?

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

In Felis Ut

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Risus Vitae

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Quis hendrerit purus

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Eros Lacinia

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

Lorem ipsum dolor

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

img

Ipsum dolor - Ligula Eget

Sed ut Perspiciatis Unde Omnis Iste Sed ut perspiciatis unde omnis iste natu error sit voluptatem accu tium neque fermentum veposu miten a tempor nise. Duis autem vel eum iriure dolor in hendrerit in vulputate velit consequat reprehender in voluptate velit esse cillum duis dolor fugiat nulla pariatur.

Turpis mollis

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ

前巻 次巻

物語の概要

本作は異世界転生もの兼ダークファンタジーである。主人公のシドは、現世での事故により命を落とした後、魔法と剣の世界に転生し、「影の実力者」としてあらゆる物事を陰から支配・統制することを理想とした。物語は、平穏な学園生活やテロ事件の解決を経て、王都ミドガルで新たな事件――秘密結社十三の夜剣構成員の殺害――が起こるところから動き出す。第17巻では、その殺人事件をきっかけに、“闇”に潜み暗躍する「影」の存在として、シドが再び暗躍を始める展開が描かれている。

主要キャラクター

  • シド:本作の主人公。「影の実力者」を自称し、表舞台には立たず影から世界を動かすことを志す青年。異世界転生後、その理想に燃え、多くの事件で黒子として働く。

物語の特徴

本作の魅力は、主人公が「影」に徹し、あくまで裏方として世界を動かすという通常の英雄譚とは逆の視点を軸にしている点である。剣と魔法、異能、秘密結社、裏社会の暗躍といったダークファンタジー要素に加え、主人公の“実力”ではなく“影としての策謀と工作”による支配・統制がテーマとなっており、「強さ=力の誇示」ではなく「強さ=影の掌握」というサスペンス性・戦略性に優れた構造が他作品との差別化要素である。第17巻においては、殺人事件、組織抗争、正体隠蔽、陰謀といった過激かつ緊張感の高い展開が描かれ、シリーズのダークさと引きの強さが一段と深まっている。

書籍情報

陰の実力者になりたくて! 17
漫画 坂野 杏梨 氏
原作 逢沢 大介 氏
キャラクター原案 東西 氏
発売日:2025年11月26日
ISBN:9784041167434

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレbls_21years_logo 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

いずれ分かるよ 夜が来ればね――…。
異世界に転生し、あらゆる物事に陰から介入し
実力を示す「陰の実力者」設定をエンジョイしているシド。
学園テロ事件終結後のミドガル王国では
秘密結社『十三の夜剣』の一人が殺される事件が起きていた…!
シドは身の安全のために、クリスティーナやカナデと共同生活を送るが…。
悪が悪を断つ、震撼の第17巻!

陰の実力者になりたくて 17

感想

シドの飄々とした距離感と、クレア昏倒の「軽さ」
本巻を振り返ってまず印象に残るのは、クレアがゼータたちの儀式に巻き込まれて意識不明になったにもかかわらず、シドがほとんど深刻さを感じていない点である。読者視点から見れば一大事のはずの出来事を、彼は「そのうち目覚めると言っていたし」「部屋が静かになった」くらいの感覚で受け止めているようにも見える。この徹底した他人事感覚こそが、シドという人物の異常さであり、同時にシリーズの独特な魅力を支えていると感じた。

白い空間とヴァイオレットの再登場がもたらす不穏さ
シャドウとしての戦闘を終えた直後、シドが再び白い空間に飛ばされ、傷だらけのヴァイオレットと再会する場面も、本巻の流れの早い段階で印象を残す。前巻で渡し損ねた赤い宝石を今度こそ渡した瞬間、彼女が一気に「悪意」そのもののような存在へ変質し、白い空間が黒い闇に侵食されていく描写は、今後の大きな火種として機能している。シドは「渡さないほうがよかったか」と一瞬だけ真面目に振り返るものの、その後は日常に溶けていくため、このギャップもまた物語全体の不安定さを強めていた。

学園日常への回帰とロイヤルミツゴシ高級バー
白い霧のテロ事件から一か月後、物語は学年末テストとポーカーという、いつもの学園日常に戻っていく。ヒョロとジャガが勉強もギャンブルも総崩れなのに対し、シドは淡々と金を巻き上げ、「圧倒的勝利の虚しさ」を気取って楽しむ。この日常パートの締めとして、ロイヤルミツゴシ高級バーに足を運ぶエピソードが置かれているのがうまい。アルファとの会話を通じて、オリアナ王国の改革計画やフェンリル派壊滅の裏事情、「十三の夜剣」という新たな腐敗の象徴が一気に提示され、ここで初めて「今回の敵の輪郭」がはっきりする構成になっている。

「十三の夜剣」とジャック・ザ・リッパーの開幕
ゲーテ・モーノ伯爵の隠蔽工作と、その直後に現れる血塗れのピエロ――ジャック・ザ・リッパーの襲撃は、本巻中盤以降のトーンを一気に変える。ゲーテが暖炉の前でコーヒーを味わいながら自分の出世を夢見ているところから、一転して屋敷中の使用人が全滅し、自身もトランプ一枚で殺される流れは、悪趣味なブラックユーモアすら感じさせる。
ここで面白いのは、「十三の夜剣」という名称自体がどこかユルい響きを持ちながら、実態は極めてえげつない腐敗貴族の集団だという点である。ゲーテ・モーノ、クザヤ、グレハンという名前も、口に出すと微妙に締まらない印象があり、その「名前のゆるさ」と、やっていることの醜悪さとのギャップが強く残った。

クリスティーナ視点から見える無力感と歪み
ゲーテ殺害をきっかけに、物語の視点はクリスティーナ側へ比重を移していく。エライザの暴力事件が「事故」として処理されようとしていることに対する怒りと無力感、父から「十三の夜剣に逆らうな」と釘を刺される理不尽さ、さらにゲーテの死に顔を思い出してふと笑ってしまう自分への戸惑い。
このあたりは、もはや「異世界転生コメディ」の枠を越え、人が腐った社会の中でどのように心を歪められていくか、というかなり生々しいテーマが描かれているように感じた。ジャック・ザ・リッパーによる次々の暗殺を、クリスティーナが「寄生虫が駆除されていく」と感じていく過程は、読んでいてぞくりとする。

ジャック・ザ・リッパーの儀式性と「十三の夜剣」狩り
クザヤ伯爵とグレハン男爵が、隠し部屋で血塗れのピエロに襲われる一連のシーンは、本巻で最もホラー寄りのパートである。斬撃を叩き込んだはずの相手が立ち上がり、とどめを刺したと思った側がいつの間にかトランプで頭を撃ち抜かれている、という「視点のずらし方」が非常に印象的だった。
噴水に吊るされた二人の死体、頭に刺さるスペードのトランプ、「1」「2」「3」と増えていく数字。シドが「スペード=冬・夜・死」「十三枚のスペード=十三の夜剣」と、いかにもそれっぽい解釈を披露してみせる場面は、彼の“それっぽいことを言いたい病”を満たしつつ、物語の流れとしても綺麗につながっている。読者側から見ても、「ああ、これは本当に十三人を順番に狩る儀式なんだな」と納得させられる構図である。

学園へ押し寄せる暴力と、シドの「巻き込まれ方」
ジャック・ザ・リッパーによる連続暗殺で「十三の夜剣」が追い詰められていく一方で、表の学園ではエライザが相変わらず好き勝手に暴れ回っている。血文字で書かれた犯行予告をクリスティーナに突きつけ、廊下では取り巻きにシドを壁ごとぶん殴らせるなど、やっていることはほとんど暴力団である。
ここでのシドは、基本的には「ただの被害者」としてボコられ、周囲から命を心配される役回りに徹しているが、読者はその背後にシャドウ=ジャックの姿を知っているため、「どこまで本気でやられているのか」「どこから狩りモードに入るのか」を考えながら読むことになる。この“表ではか弱いモブ、裏では殺人ピエロ”という二重構造が、シリーズのコンセプトを一番わかりやすく見せている巻だと思った。

ホープ家別邸と、腐った貴族社会の描き方
クリスティーナがシドとカナデをホープ家別邸に避難させ、そこで修学旅行のような共同生活が始まる流れは、一見ほのぼのしているが、裏ではダクアイカン派が襲撃準備を進めている、という二重構造になっている。
ホープ家の豪奢な屋敷、ミツゴシの高級料理に驚くカナデ、美術品の値段を当てて遊ぶ小ネタなど、いかにも「ラノベ的なお楽しみシーン」が挟まれつつ、同時に「証拠書類を握っている側が逆に疑われる」「夜剣に知られればホープ家ごと潰されかねない」という、どうしようもない理不尽さが積み重なっていく。ここでも、「異世界転生ものの皮をかぶった腐敗社会劇」という印象が強くなった。

キャラクターの印象と読みづらさ
一方で、個人的には登場する女の子たちの印象がやや似通っており、名前と性格を整理しないと「あれ、この子誰だっけ」となる場面があった。ゼータ、ニーナ、クリスティーナ、エライザなど、役割や立場は明確なのだが、ビジュアルの差だけでは差別化しきれていない印象もある。ただ、シドのスタンスから見れば「だいたい全部ヒロイン枠」くらいの雑な認識で動いていそうなので、その曖昧さも作品全体の雰囲気には合っているのかもしれない。

総評と次巻への期待
本巻は、シドの飄々とした日常・学園生活、高級バーでの“スパイごっこ”、そして裏で進行する「十三の夜剣」狩りと腐敗貴族たちの断罪が、時系列順にきれいにつながっていく巻であった。派手な大規模バトルは少ないものの、ジャック・ザ・リッパーとしての暗殺劇を通じて、シドの圧倒的な実力と異常な感性がより鮮明になっている。
異世界転生という王道設定を持ちながら、腐敗した司法・貴族社会、無力感を抱えるクリスティーナの心情、そしてそれを影からひっくり返していく「陰の実力者」の存在といった要素が、現実の社会の裏側にも通じるテーマとして描かれている点が本作の大きな魅力だと改めて感じた。クレアの昏睡状態やヴァイオレットの変質など、まだ回収されていない火種も多く、次巻でどのように決着していくのか、続きが非常に気になる巻である。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレbls_21years_logo 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

前巻 次巻

登場キャラクター

シド・カゲノー(=シャドウ)

普段は冴えない学園生として振る舞う少年である。しかし裏では「シャドウ」を名乗り、圧倒的な実力で暗躍する存在として活動している。日常では一般人ロールに徹し、周囲からは凡庸な生徒に見られている一方、裏では世界規模の事件を操り、敵対勢力を覆滅させる影の支配者でもある。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル学園の生徒。
 シャドウガーデンの創設者かつ頂点の「シャドウ」。
 ミツゴシ商会の最重要人物として扱われる存在。

・物語内での具体的な行動や成果
 黒い力を得た剣士を瞬殺しアレクシアたちを救出した。
 アレクシア達の首輪装置を破壊し、謎めいた言葉と共に姿を消した(シャドウとして)。
 白い空間でヴァイオレットに宝石を渡し、結果として異形化を引き起こした。
 日常ではヒョロとジャガから大金を巻き上げ「強者ロール」を満喫した。
 ロイヤルミツゴシ高級バーにてアルファと合流し、世界情勢と作戦報告を受けた。
 ゲーテらを葬った“ジャック・ザ・リッパー”の痕跡を前に、トランプのスートから十三の夜剣を推理した。
 デクノの強打を受けながら一般人ロールを維持し、周囲の認識を操作した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 表向きは冴えない学生であるが、裏では「世界を動かす影」としての影響力を持つ。
 アルファをはじめとする幹部たちは彼を絶対的存在として崇拝している。
 今回の事件では、暗躍によって“ジャック・ザ・リッパー”として三名の夜剣を排除しつつ、誰にも本性を悟らせていない。

アレクシア

冷静な観察眼を持つ王女であり、騎士団とも連携して事件に向き合っている。シャドウへの不信と感謝の間で揺れながらも、真相を追おうとする姿勢を崩さない。クリスティーナと協力関係にあり、互いに警戒と信頼を両立させている。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル王国の王女である。
 騎士団と連携して捜査に関わる立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 シャドウに対して正体と目的を問い、「信じてよいのか」と問いかけた。
 ゲーテ・モーノ伯爵殺害現場やクザヤ伯爵邸を確認し、犯人像と手口の共通点を整理した。
 血濡れのピエロの目撃情報やトランプの手口から、連続殺人の性質を分析した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 連続暗殺事件において、騎士団と並んで状況を整理する中心人物となっている。
 シドの同室問題やクリスティーナの身辺についても関心を示し、私的な感情と公的な役目が交差している。

クリスティーナ・ホープ

正義感が強く、王都の腐敗に怒りと無力感を同時に抱く公爵家令嬢である。エライザ事件の真相を追い、十三の夜剣や騎士団のあり方に疑念を深めている。シドとカナデを保護しつつ、自身も標的になり得る立場で葛藤している。

・所属組織、地位や役職
 ホープ公爵家の娘である。
 ミドガル学園の生徒である。

・物語内での具体的な行動や成果
 エライザ事件の資料を精査し、ゲーテ・モーノ伯爵による隠蔽工作を見抜いた。
 ゲーテ殺害現場のコーヒーの染みから「失われた書類」の存在に気づいた。
 血とコーヒーの染みがついた書類を確認し、エライザ事件の全体像と隠蔽費用の記録であると断定した。
 シドとカナデをホープ家別邸に避難させ、護衛の集中配置を決めた。
 連続暗殺で「寄生虫が駆除された」と感じる歪んだ感情を自覚した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゲーテの死と証拠書類の存在により、夜剣から「ピエロの殺人鬼を雇った可能性がある家」と疑われる立場になった。
 正義を求めながらも、力のなさと周囲の制止により行動を封じられ、内面に危うい感情が芽生えつつある。

ニーナ

クレアの親友として学園に所属しているが、裏ではシャドウガーデンとも関わりを持つ工作役である。普段は柔らかい態度を見せるが、必要とあれば冷静に裏切りや制圧を実行する立場にある。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル学園の生徒である。
 シャドウガーデンと協力関係にある立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 アレクシア達の前に現れ、脱出路の確保を装って合流した。
 アレクシア達が背を向けた瞬間に高速の手刀で三人を気絶させた。
 ゼータ達に「準備完了」を報告し、儀式への引き渡しを行った。
 聖域でスライムの白いローブを形成し、クレアを抱えて最奥の扉まで運んだ。
 後にシドをクレアの病室へ案内し、クレアの容体についてミューと共に説明を受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゼータから「単独で動くからこそ価値がある」と評価され、シャドウガーデン正式加入は見送られた。
 クレアの親友という表の顔を維持したまま、今後も裏の動きを続けるよう指示されている。

ゼータ

シャドウガーデン側の高位メンバーであり、聖域での儀式と作戦の指揮を担う人物である。アルファとは異なる方針を選び、どちらが正しいかを「時に委ねる」と考えている。

・所属組織、地位や役職
 シャドウガーデンの幹部である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニーナらと合流し、クレアを聖域最奥の台座に固定させた。
 クレアの右腕に魔法陣を刻み、ディアボロス復活のための器とする儀式を開始した。
 扉を開くための魔力注入と台座の操作を行い、最奥への道を開いた。
 フェンリル派の残党殲滅を主導し、アジトや逃走経路を事前に把握して壊滅状態に追い込んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「右腕と左腕がそろった」と語り、ディアボロス復活計画において重要な節目を迎えた立場になっている。
 アルファとは異なる選択をとり、組織内での路線対立の一端を担う存在として描かれている。

ウィクトーリア

シャドウガーデン側で儀式に立ち会う女性であり、新たな世界秩序を語る思想を持つ人物である。ディアボロスとシャドウを神格化し、聖教を不要とみなす過激な観点を有している。

・所属組織、地位や役職
 シャドウガーデンに属する立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニーナの働きを評価し、シャドウガーデン加入案を口にした。
 ディアボロス復活とクレアの器としての役割を説明した。
 この世界から聖教を排し、シャドウが神となる未来像を語った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新たな教えを広める側に立つ意思を示し、思想面での旗振り役となっている。
 世界観の転換を目指す側の論理を具体的な言葉で示す存在である。

クレア・カゲノー

シドの姉であり、強い魔力を持つ剣士である。現在は聖域での儀式とテロ事件の影響により昏睡状態に置かれている。周囲はその身を案じているが、本人は長く目を覚まさない。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル学園関係者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 聖域の儀式において、ディアボロス復活の器として台座に固定された。
 右腕に禍々しい魔法陣が浮かび上がり、激しい拒絶反応と痙攣を起こした。
 儀式の結果として扉を開くための魔力を供給する役割を果たした。
 事件後は学園で昏睡状態となり、ミューの管理下で治療を受けている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゼータから「いずれ目覚める」と判断されており、今後の展開に影響する可能性を示されている。
 肉体が「右腕」の一部として扱われており、ディアボロス計画と深く結びついた存在となっている。

ヴァイオレット

白い空間でシドが出会う幼い少女であり、弱い立場を装いながらも内に異質な力を秘めている。礼儀正しい口調を取りつつ、その内面には別の意図が存在している。

・所属組織、地位や役職
 白い空間に存在する存在である。

・物語内での具体的な行動や成果
 再び白い空間でシドと遭遇し、傷を負った状態でうずくまっていた。
 自分が傷ついている理由を「力が弱いから」と説明した。
 シドから赤い宝石を受け取った直後、表情と気配を変え、禍々しい魔力をあふれさせた。
 白い空間を黒い闇で侵食し、空間そのものを崩壊させるような変質を起こした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 赤い宝石の受領をきっかけに、無垢な少女から危険な存在へと印象が大きく変化した。
 シドにとって「宝石を渡さない方がよかったかもしれない」と後悔を抱かせるきっかけとなった。

ヒョロ

シドの友人であり、ギャンブルと一発逆転を夢見る軽い性格の少年である。努力の方向性がずれており、学業と金銭面で失敗を重ねている。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル学園の生徒である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ジャガと共に徹夜でイカサマの練習を行ったが、ポーカーで大敗した。
 学年末テストでも散々な結果となり、シドに「将来性を返せ」と詰め寄った。
 ミツゴシのリボ払いに頼る生活を送り、金銭感覚の危うさを露呈した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 シドから「将来性はすでに終わっている」と評価される立場になっている。
 事件の直接の当事者ではないが、日常パートで学園の雰囲気を示す存在である。

ジャガ

ヒョロの相棒的存在であり、同じくギャンブルと楽観的な発想に振り回される少年である。実力に見合わない期待を抱き、結果として失敗を重ねる。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル学園の生徒である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヒョロと共にイカサマの研究を行ったが、ポーカーで負け続けた。
 学年末テストの出来が悪く、シドに金と将来性の返却を求めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 シドにとっては搾取対象となっており、日常パートの被害者役を担っている。

アルファ

シャドウガーデンの幹部であり、組織運営と各地の作戦を統括する立場にある女性である。シドを絶対的な基準として見ており、ビジネスと戦略の両面で報告を欠かさない。

・所属組織、地位や役職
 シャドウガーデンの第一席である。
 ミツゴシ商会の実質的なトップの一人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ロイヤルミツゴシ高級バーでシドと合流し、オリアナ王国の改革状況やミツゴシの事業を報告した。
 開発中のウイスキーが高値で取引されている事実をシドに伝えた。
 フェンリル派壊滅の経緯を説明し、ゼータの働きを評価した。
 十三の夜剣について、いずれシャドウガーデンで処理する方針を語った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 シャドウの隣で世界情勢とビジネスを動かす中核として描かれている。
 バーを情報共有の場として用い、シドとの関係を維持している。

ゲーテ・モーノ伯爵

「十三の夜剣」の一員であり、検察のエースとして貴族犯罪のもみ消しを担当してきた貴族である。自らの権力と手腕に慢心しており、出世を当然視していた。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル王国の伯爵である。
 十三の夜剣の末席である。
 検察の中心人物である。

・物語内での具体的な行動や成果
 エライザ・ダクアイカンの暴行事件を事故として処理するため、多数の証言を操作し隠蔽工作を行った。
 自室で隠蔽がほぼ完了したと満足していたが、血濡れのピエロに侵入されて殺害された。
 トランプを眉間に突き立てられ、即死する形で処刑された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 連続暗殺事件の最初の犠牲者となり、十三の夜剣を狙う一連の犯行の出発点となった。
 死後、隠蔽書類が失われたことで、王都の権力構造に大きな波紋を生んでいる。

エライザ・ダクアイカン

権力を背景に他者を傷つける行動を取る令嬢であり、自身の加害を正当化しようとする人物である。高慢な態度で、周囲を見下す言動が目立つ。

・所属組織、地位や役職
 ダクアイカン侯爵家の娘である。

・物語内での具体的な行動や成果
 学園で生徒を重傷に追い込む暴行を行いながら、事件を事故として扱わせようとした。
 無罪になるという噂に守られていたが、ゲーテの死と証拠の流出により立場が不安定になった。
 血文字の犯行予告状を受け取り、それをクリスティーナの仕業だと決めつけて学園で暴れた。
 取り巻きのデクノにシドへの暴行をさせて、力を誇示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父ブラッド・ダクアイカンが十三の夜剣の長であるため、王国の腐敗の象徴として語られている。
 ゲーテの死後、ダクアイカン家は追い詰められ、報復へ動く危険な存在として認識されている。

クザヤ伯爵

十三の夜剣の一員であり、用心深いが自らの権力を信じ切っている貴族である。裏仕事でホープ家と対立しており、冷徹な判断を下す人物として描かれている。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル王国の伯爵である。
 十三の夜剣の一員である。

・物語内での具体的な行動や成果
 グレハン男爵と隠し部屋で会談し、ゲーテ殺害の背景とホープ家への疑念を語り合った。
 血濡れのピエロと遭遇し、即座に斬撃を放って一度は致命傷を与えたと判断した。
 追い詰められて買収を試みたが、トランプの一撃で喉を貫かれて死亡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 連続暗殺の二、三件目の標的となり、夜剣内部でも緊張を高める要因となった。
 遺体はグレハンと共に噴水に吊るされ、民衆への見せしめとして晒された。

グレハン男爵

十三の夜剣側と関係のある男爵であり、下品な笑いと女性蔑視が目立つ人物である。軽率な発言が多く、クザヤとの会談でも品のない態度を取り続けていた。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル王国の男爵である。

・物語内での具体的な行動や成果
 クザヤと共にゲーテ殺害の意味を議論し、ホープ家襲撃を提案した。
 血濡れのピエロへのとどめを確認しようと近づき、後頭部にトランプを突き立てられた。
 そのまま死亡し、クザヤと共に大通りの噴水に吊るされた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 夜剣側の腐敗と下品さを象徴する存在として描かれている。
 死に様が見せしめとなり、王都の不安と噂話を加速させた。

ジャック・ザ・リッパー(血濡れのピエロ)

血まみれのピエロ姿で現れ、トランプ一枚で貴族を殺害する殺人者である。言葉少なで、目的や正体は明かされていない。異常な魔力制御と演出を好む気配があり、王都に恐怖と混乱を広げている。

・所属組織、地位や役職
 表向きの所属は不明である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゲーテ・モーノ伯爵の屋敷に侵入し、警備や使用人をすべて無力化した。
 ゲーテの眉間にミツゴシ製高級トランプを突き立てて殺害した。
 クザヤとグレハンの隠し部屋に現れ、二人を順にトランプで仕留めた。
 二人の遺体を噴水に吊るし、頭部のトランプと血文字で「Jack the Ripper」の名を残した。
 犯行予告状で「十三匹の豚」を処刑すると宣言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「ジャック・ザ・リッパー」という名が民衆の間で一気に広まり、王都全体の恐怖の象徴となった。
 トランプのスートと連番を用いて、十三の夜剣全員を標的とする意図を示唆している。

カナデ

明るく騒がしい性格の令嬢であり、金銭感覚に疎い一面と庶民的な感覚を併せ持つ人物である。クリスティーナを慕いながらも、シドとの同室生活を楽しむ姿を見せている。

・所属組織、地位や役職
 貴族家出身の学園生である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ホープ家別邸での共同生活に参加し、高級料理や美術品の値段当てで騒いだ。
 寿司を前に生魚の危険性を大げさに訴え、シドの「殺しのマイルール」の思考を引き出した。
 事件の危険性をクリスティーナから説明され、別邸での生活に納得した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ダクアイカン家からの報復対象になり得る証人として扱われている。
 シリアスな事件の中で、空気を和らげる役割を果たしている。

グレイ(騎士団責任者)

騎士団の現場責任者として捜査を指揮する人物である。形式的な視点が強く、表向きの筋道を重視する傾向がある。

・所属組織、地位や役職
 ミドガル王国騎士団の幹部である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゲーテ殺害現場の捜査を指揮し、血濡れのピエロの目撃証言をまとめた。
 クリスティーナが事件で最も利益を得る人物として疑われていると伝えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 騎士団が必ずしも中立ではない可能性を示す存在として描かれている。
 書類の紛失をめぐり、クリスティーナ達の騎士団不信を強めるきっかけとなった。

展開まとめ

Episode.66

シャドウの圧倒的な戦闘とアレクシアの問い
シャドウが黒い力を得た剣士を容易く撃破したことに、アレクシアらは驚愕した。アレクシアはシャドウの正体と目的を問いただし、「私たちはあなたを信じられるのか」と訴えた。しかしシャドウは答えを避け、距離を取った。

目的を語り、首輪を破壊して姿を消すシャドウ
シャドウは「我らは我らの目的のため障害を排除する」とだけ述べ、装置を斬ってアレクシア達の首輪を破壊した。アレクシアが振り返った時には既に姿を消しており、三人は首輪が外れたことに驚きを示した。

ニーナの合流と脱出提案
そこへニーナが現れ、アレクシア達の無事を確認した。ニーナは逃走中に道に迷っていたが出口を確保したと説明し、全員で脱出しようと促した。クレアたちは捕らわれた生徒の救出も考慮しつつ移動を始めた。

ニーナの裏切りとゼータの出現
しかしアレクシアたちが背を向けた瞬間、ニーナが高速の手刀で三人を気絶させた。ニーナは「損な役回り」と独りごち、霧の奥に向けて「準備は整いました」と告げた。続けてゼータをはじめとする二名が姿を現し、合流した。

ニーナの立場確認とゼータの方針

ウィクトーリアはニーナの働きを評価し、シャドウガーデン加入を提案した。しかしゼータは、ニーナは単独で動くからこそ裏で動けるとして加入を否定した。ニーナには従来通りクレアの親友として振る舞うよう指示された。

クレアの運搬と儀式の開始

ニーナはスライムで白いローブを作り、気絶したクレアを抱えて聖域最奥の扉へ向かった。ゼータの指示により、クレアは古代文字の台座に固定され、魔力注入による儀式が開始された。ゼータは始めた以上後戻りできないと告げた。

ゼータ陣営の目的と思想

ゼータは、復活したディアボロスを制御するためにはクレアの肉体が必要であると説明した。この世界には聖教は不要であり、永遠の命を得るシャドウが神となり、自分たちが新たな教えを広めるのだとウィクトーリアは語った。

クレアの苦痛と扉の解放

儀式が進行するとクレアは拒絶反応を示し激しく痙攣した。右腕には禍々しい魔法陣が浮かび上がり、苦痛の叫びが続いた。台座から伸びた魔力は扉へと伝わり、鎖を砕き最奥の扉が開いた。扉の向こうには深い闇だけが広がっていた。

魔法陣の完成とゼータの選択

クレアの魔法陣が強く輝き、ウィクトーリアは成功を確認した。ゼータは右腕と左腕が揃ったと述べ、ニーナにクレアの監視継続を命じた。ニーナはゼータの選択に疑念を示したが、ゼータはアルファとの選択のどちらが正しいかはいずれ判明すると述べ、時が来るまで陰に潜ると言い残して立ち去った。

白い空間への再来とヴァイオレットの発見
シドは戦闘後の余韻に浸っている最中に白い空間へと移動していた。周囲を確認すると、以前に出会った幼いヴァイオレットが傷を負った状態でうずくまっていた。シドが声を掛けると、彼女は体の傷を隠すように震えていた。

ヴァイオレットの負傷とシドの対応
シドが彼女の状態を確認すると、ヴァイオレットは負傷の理由を「自分の力が弱いから」と説明した。シドは以前渡しそびれた赤い宝石を取り出し、今度こそ彼女に渡すと述べた。ヴァイオレットは戸惑いつつも宝石を受け取った。

宝石受領後の急激な変質
宝石を手にしたヴァイオレットは、礼を述べながらも表情を一変させた。彼女は宝石を待っていたと語り、直後に禍々しい魔力が全身からあふれ出した。白い空間は黒い闇に染まり始め、彼女の気配は異様なものへと変貌した。

“悪意”の顕現と空間の崩壊
ヴァイオレットは自身の変質を隠さず、黒い魔力を渦巻かせながら宝石を掲げた。魔力の奔流により白い空間は急速に侵食され、シドの視界は闇と歪みに覆われていった。

学園屋上への帰還とシドの独白
闇が広がった後、シドは突然学園の屋上に戻っていた。そこには平穏な学園の風景が広がっていた。シドは宝石を渡した判断が正しかったのかを振り返り、ヴァイオレットの反応から考えて渡さない方が良かったのではないかと疑念を抱いた。

学年末テスト終了とポーカー敗北

ミドガル学園の学年末筆記テストが終わり、ヒョロとジャガは徹夜でイカサマの練習までしたにもかかわらずポーカーでまた大敗したことを嘆いていた。学年末テストの出来も散々で、二人は「俺達の金と将来性を返せ」とシドに食ってかかるが、シドは「将来性はもう充分終わっている」と冷静に突き放し、ミツゴシのリボ払いに頼る二人の金銭感覚を呆れて見ていた。

日常への回帰とシドの“圧勝”

白い霧のテロ事件から一か月が経ち、負傷者は多いものの学園は落ち着きを取り戻していた。姉クレアはショックで意識不明になったままだが、ゼータがいずれ目覚めると語っていたため、シドは深刻に捉えていなかった。放課後、シドは自室でヒョロとジャガからポーカーで大金を巻き上げ、札束の山を前に「圧倒的勝利の虚しさ」を気取って味わいつつも、内心では強者ロールを楽しんでいた。

ロイヤルミツゴシ高級バーへの興味

ポーカーの片付け中、シドは床に落ちていた金色のカード「ロイヤルミツゴシ高級バー会員証(会員番号001シド・カゲノー)」を見つける。ミツゴシが高級会員制バーを始める際にガンマから渡されたものであることを思い出し、スパイ映画のようなシーンへの憧れもあって、一度だけ行ってみる決意を固めた。

高級バーでのスパイごっことアルファとの再会

夜の王都でシドはアルファから贈られたミツゴシ製の高級スーツを着てバーを訪れ、隠れ家的な雰囲気と高級感に満足していた。店員のオメガからは顔パスで迎えられ、カウンター席に案内される。バーテンダーのカイを紹介されると、シドは強者ぶって「ウォッカ・マティーニを、ステアではなくシェイクで」と注文し、震えながらカクテルを作るカイの様子を見守った。そこへドレス姿のアルファが現れ、強い酒が苦手なはずのシドがマティーニを頼んだことや、自分がオーダーしたスーツをようやく着てくれたことをからかいながらも嬉しそうに眺めていた。

ビジネスの進捗と報告の場としてのバー

アルファは自分のカクテルとしてマンハッタンを注文し、ミツゴシではシドの知識をもとにウイスキーを開発中で、まだ非売品ながら高値で取引されていると説明した。シドは内心でまた自分の知識で稼がれていると苦笑しつつ、結局リンゴジュースを追加で頼む。バーには関係者しかおらず盗聴の心配がないと聞かされると、シドはアルファに「例のミッション」の進捗を尋ねる。アルファは、オリアナ王国ではシャドウガーデンの資本と技術を導入した改革が進み、標的を表舞台に引きずり出す準備が整いつつあると報告した。

フェンリル派壊滅と学園事件の後始末

話題は学園で起きた事件に移り、アルファはゼータの働きでフェンリル派の残党が壊滅状態に追い込まれたこと、アジトや逃走経路を事前に把握していたおかげで迅速に殲滅できたことを伝えた。同時に、シャドウガーデン側と騎士団側双方の工作によって、表向きにはテロリストによる襲撃として処理されていることも説明する。クレアの件については報告が遅く詳細が不明な点をアルファが気にするが、シドは「姉さんのことは自分に任せてほしい」とだけ告げ、アルファはそれを受け入れつつ、ミドガルの平和が本当に続くかどうかはまだ分からないと含みを残していた。

エライザ無罪の見通しと王国の腐敗

アルファは、事件の混乱に乗じて生徒を負傷させたエライザ・ダクアイカンが「どうも無罪になりそうだ」と報告した。エライザの父ブラッド・ダクアイカンは、ミドガル王国の腐敗の象徴「十三の夜剣」の長であり、その権力が今回の決定に影響していると説明した。

“十三の夜剣”の実態とゲーテ・モーノ伯爵

アルファは「十三の夜剣」が十三名の権力者で構成される秘密結社で、ディアボロス教団とも繋がりが深いと述べた。今回の事件処理を担当したのは、その末席に位置するゲーテ・モーノ伯爵であり、検察のエースとして貴族犯罪を握りつぶす役割を担っていると説明した。シドは資料を確認し、その影響力の大きさを把握した。

シャドウガーデンの対応方針とシドの発想

アルファは、十三の夜剣について「私たちでいずれ処理するつもりだが、今はオリアナ王国の件で手が回らない」と語った。シドはその話を聞きながらトランプを手に「いいこと思いついたぞ」と呟き、何らかの行動を思案している様子を見せた。

シドの退店と意味深な一言

話を終えたシドは席を立ち、アルファの「もう行くの?」という問いかけに対して「話は分かった。代金はツケといてくれ」と答えた。アルファはシドの企みを楽しむように微笑んだ。シドはカードを舞わせながら「いずれ分かるよ。夜が来ればね……」と言い残し、バーを後にした。

Episode.67

ゲーテ・モーノの隠蔽作業と慢心
ゲーテ・モーノ伯爵は、自室で暖炉の火とコーヒーを楽しみながら、エライザ・ダクアイカンによる犯行の隠蔽処理が完了しつつあることに満足していた。証言が多い案件であったが、自身の手腕で押さえ込んだことを誇りにしていた。彼は「十三の夜剣」の末席にいる立場に飽きており、そろそろ相応の地位に引き上げられるはずだと考えていた。

使用人の不審な反応と静まり返る屋敷
ゲーテは書類をダクアイカン侯爵に送るよう使用人へ命じるが、使用人は焦燥した様子を見せ、コーヒーの淹れ直しに反応が遅れた。ゲーテは気にも留めず執務に戻るが、屋敷の静けさに違和感を覚え始める。呼び鈴を鳴らしても誰も来ず、明らかに異常な状況が続いた。

血濡れのピエロの出現と侵入の発覚
振り返ったゲーテは、いつの間にかソファに血濡れのピエロが座っているのを目撃した。ピエロは無言でゲーテを見つめ、動かない。ゲーテは警備を呼ぶが誰一人として現れず、屋敷の動静から「すでに全員殺されている」と察して恐怖に陥った。

逃走を試みるゲーテと無残な発見
ゲーテは恐怖のあまり逃走を図り、ドアへ向かって走った。しかし、開けた先には血まみれの警備兵の死体が倒れ込んできた。魔剣士として優秀だった警備兵すら即死させられている状況により、ゲーテは完全に恐慌状態に陥った。

トランプによる処刑
背後から迫るピエロに追い詰められたゲーテは倒れ込み、ピエロが手にしたトランプを投げつけた。トランプは眉間に突き刺さり、ゲーテはそのまま絶命した。ピエロは血の中に立ち、「まずは一人」と呟き、次なる標的へと向かった。

エライザ無罪の噂と生徒たちの落胆

エライザの暴行事件が、事故として処理され無罪になる可能性が生徒たちに広まった。被害者側の証言が握りつぶされたと知り、生徒たちは落胆し憤りを感じていた。生徒たちは危うく殺されかけた事実を思い返し、法の裁きを望んでいたが、その希望は絶たれようとしていた。

クリスティーナの疑念と資料精査

クリスティーナは別邸で事件資料を読み込み、エライザの行為が事故扱いされることに納得できず、ゲーテ・モーノ伯爵による捏造と隠蔽を疑っていた。提出された資料には無理のある主張が並び、彼女は怒りを抑えられなかった。また、噂に聞いていた「十三の夜剣」が想像以上に腐敗していると痛感した。

無力感とシャドウへの憧憬

クリスティーナは自分が力不足であることに悩み、もし強ければエライザを正しく裁けたはずだと自責した。さらに彼女はシャドウの存在を思い返し、影で悪を断つその力に強い憧れを抱いた。しかし同時に、理想と現実の差に苦しみ、自分が無力であることに涙した。

父との会話と十三の夜剣への警告

そこへ父が訪れ、十三の夜剣を怒らせるような行動は控えるよう忠告した。クリスティーナは反論できず黙って頷いたが、内心では腐敗を見過ごすことへの葛藤を抱えたままであった。

ゲーテ・モーノ死亡の報せ

父は「面倒なことが起きた」と告げ、ゲーテ・モーノ伯爵が昨晩何者かに殺害されたと説明した。王都中の貴族が騒然とし、騎士団が現場検証を進めていた。クリスティーナはすぐに現場へ向かい、アレクシアとも合流した。

ゲーテ・モーノ殺害現場の状況と血痕の不自然さ
アレクシアはクリスティーナと合流し、ゲーテ・モーノ伯爵殺害現場の廊下を確認した。廊下には伯爵と護衛の魔剣士たちの血痕がくっきり残り、犯人の足跡も続いていた。しかし足跡には逃走の焦りがなく、犯人は複数人を殺害したにもかかわらず、ゆっくり歩いて立ち去ったと判断された。アレクシアは、この異様な落ち着きが「まともな神経ではない」犯人像を示すと語った。

トランプによる殺害という異様な手口
室内の検証では、眉間にトランプカードを突き立てられた伯爵の遺体が確認された。凶器はミツゴシ商会の期間限定高級トランプであり、紙製で魔力伝導率が低いにもかかわらず、眉間を貫通させるには高度な魔力制御が必要と推測された。この非効率かつ異常な手口に、アレクシアとクリスティーナは何らかの意図があると考えた。

犯人像と動機に関する推測
クリスティーナは、魔力制御の高度さや不自然な足跡から、犯人が大量の魔力をもつ魔剣士であり、見せしめやメッセージ性の意図がある可能性を指摘した。アレクシアも、ゲーテ伯爵が裁判隠蔽の裏工作を多数行っていたことから、怨恨を買う理由が多いと説明した。

血濡れのピエロという目撃証言
騎士団責任者グレイは、気絶していた使用人たちが目撃した犯人像として「血濡れのピエロ」を報告した。仮面のため素顔は分からず、外部での目撃者も見つかっていなかった。グレイは単純な怨恨殺人と考えていたが、アレクシアとクリスティーナは事件の不可解な点の多さから、単純ではない可能性を感じていた。

クリスティーナへの疑惑と夜剣の動き
グレイは、伯爵の死によって最も利益を得る人物としてクリスティーナを挙げ、騎士団だけでなく夜剣にも疑われていると告げた。アレクシアは彼女の無実を認めつつも、世間の見方として疑われやすい状況であることを警告した。

コーヒーの染みが示す「失われた書類」
クリスティーナは机の上の長方形のコーヒー染みに注目し、その形から「書類のようなものが置かれていて、それがなくなった」と推測した。誰が持ち去ったかは漫画内で明示されておらず、クリスティーナは小声で「犯人か……それとも騎士団か」と可能性を述べるにとどまった。

騎士団不信と今後の警戒
アレクシアは、現場の物を動かしていないはずの状況で書類だけが消えている点から、騎士団への全面的な信頼は危険であると判断し、互いに警戒しながら動くようクリスティーナに促した。二人はその後も現場を詳細に確認し、事件の真相を探る姿勢を共有した。

放課後、クリスティーナがカナデに危険を説明する
ミドガル学園の放課後、クリスティーナはカナデを呼び出し、ゲーテ・モーノ伯爵の殺害によって状況が悪化したと説明した。エライザの無罪主張を支えていた証拠が失われたことで、ダクアイカン家が追い詰められ、カナデやクリスティーナが報復の対象になる可能性が高まったと警告した。

ダクアイカン家の追い詰められた状況
クリスティーナは、ゲーテ伯爵がエライザのために多数の証言や裏工作を行っていた事実を挙げ、証拠が消えた現状ではエライザに有利な主張が成立しなくなると説明した。そのため、ダクアイカン家が証人の排除に動く可能性に言及し、次に狙われるのは自分たちかもしれないと告げた。

教室に残っていたシドが書類を発見する
二人の会話の最中、教室に響いた悲鳴にクリスティーナが振り向くと、シド・カゲノーが血とコーヒーの染みがついた書類を拾っていた。書類はクリスティーナの机の近くに落ちていたもので、彼は忘れ物だと思って拾ったと説明した。

書類の内容が失われた証拠であると判明する
書類を手にしたクリスティーナは、それがエライザ事件の概要や隠蔽費用、利害関係者の記録であることに気づき、殺害現場から持ち去られていたはずの証拠であると断定した。さらに裏面には血で「ジャック・ザ・リッパー」という名が書かれており、誰かが意図的に自分へ届けたと理解した。

書類を見たシドの身の危険をクリスティーナが指摘する
クリスティーナは、シドが書類の中身を見てしまったことで危険に晒されると判断し、帰宅を許さなかった。シドは拒否したが、彼女は「自分で身を守れるはずがない」と強く引き止めた。カナデにも状況を共有し、同じく帰宅を禁じた。

ホープ家別邸への避難提案
クリスティーナは二人の身を守るため、当面はホープ家の別邸で生活するよう提案した。シドは渋ったが、カナデは安心した様子で受け入れた。クリスティーナは責任を持って護衛すると宣言し、三人は共同生活を送ることになった。

Episode.68

ホープ家別邸での状況報告
クリスティーナは父に、カナデたちを裁判結果が明らかになるまで別邸で保護することを説明した。父は書類を確認し、エライザ事件で行われていた隠蔽工作の証拠として価値が高いと判断した。

書類がもたらす危険とホープ家への疑惑
父は書類の存在を喜ぶどころか険しい顔となり、これではホープ家が逆に疑われる可能性が高いと警告した。娘の机から被害者の所持品が発見されたことで、夜剣には「ホープ家がピエロの殺人鬼を雇った」と疑われても仕方がないと語った。

夜剣に知られた場合の危険性
父は、もし夜剣にこの件が伝われば、クザヤ伯爵やグレハン男爵のような武闘派が動き、ホープ家は危険に晒されると説明した。クリスティーナは裁判を有利に進めれば救われる者がいると反論したが、父は下級貴族の事情などどうでもよいと切り捨てた。

父からの一方的な制止と失望
父は最終的に「お前はもう何もするな」と言い放ち、この件を自分の管理下に置くと宣言して立ち去った。クリスティーナはその姿勢に落胆し、自分に力がない現実を痛感した。

書類を届けた者の意図への思案
クリスティーナは、血文字で「ジャック・ザ・リッパー」と書かれた書類が自分の元へ届けられた理由を考え、夜剣の悪行を告発させる意図があるのではと推測した。しかし、力なき自分には何もできず、権力者の腐敗を正すことも不可能だと理解した。

歪んだ感情の芽生え
彼女の脳裏には、死に顔を晒したゲーテ・モーノの姿が蘇った。あの異様で間抜けな死に顔を思い出し、クリスティーナは無意識に微笑んでしまった。自嘲と失望、そして何か説明しがたい感情が入り混じった微笑であった。

シドの「殺しのマイルール」とカナデの寿司騒動
シドは日頃から人を殺す際の独自ルールを設けていると心中で語り、明確な害意を持つ相手のみを排除すると決めていた。その最中、カナデが寿司を差し出して大騒ぎし、生魚は危険ではないかとシドに訴えた。騒ぎを受け、シドはカナデを「可哀想枠」として分類し、害意のない人物と判断した。

共同生活開始の豪勢な夕食
三人はホープ家別邸での共同生活初日の豪勢な料理を囲んだ。ミツゴシ製の高級料理が次々に並び、カナデは値段の高さに驚愕した。クリスティーナは今日から放課後は別邸に直行するよう指示し、護衛と共に過ごすことが安全であると説明した。

別邸の豪邸探索とカナデの美術品値段当て
広大な廊下と高級品の数々を見て回りながら、カナデは展示品の価格を勝手に予想して楽しんでいた。シドとカナデは国宝級の壺に目を留め、値段の高さに驚いた。豪奢な内装を進む中、三人は寝室へ案内された。

三人で同室となりカナデがはしゃぐ
寝室には三つのベッドが配置されており、護衛対象が固まっていたほうが安全であるとクリスティーナが説明した。カナデは修学旅行のようだとはしゃぎ、ベッドに飛び乗って騒いだ。シドはベッドの配置を観察し、自分の位置が最初に狙われる位置だと分析したが、クリスティーナは警備体制を説明して安全を強調した。

ゲーテ伯爵殺害の説明とシドの大げさな反応
カナデの退室後、クリスティーナはシドにゲーテ伯爵殺害事件について説明した。書類は現場から紛失したものであり、犯人は意図を持って行動していると語った。シドは一般人を装って震えながら恐怖を訴え、クリスティーナは彼を慰めた。

夕食後の就寝とクリスティーナの違和感
食事を終え、カナデはすぐに熟睡した。クリスティーナはシドに近づき、どこかで会ったことがあるような既視感を覚えると問いかけたが、シドは教室で毎日会っているとしか返さなかった。彼女は自分でも理由のわからぬ違和感を覚えつつも、微笑んで部屋を後にした。

クザヤ伯爵とグレハン男爵の密談
隠し部屋でクザヤ伯爵とグレハン男爵が、ゲーテ伯爵殺害事件について情報交換していた。犯行は「ピエロの殺人鬼」によるものと推測され、大貴族相手の犯行としては異常であると分析された。二人は事件の背後を疑い、まず怪しいのはホープ家だと結論づけた。

ホープ家への疑念と夜剣情勢の影響
クザヤ伯爵は、ゲーテ伯爵とホープ家が仕事で揉めていたことから、ホープ家を最有力の疑惑として挙げた。しかし、フェンリル派の壊滅によって後ろ盾が弱まり、夜剣の内部情勢が不安定になっているため、迂闊には動けないと語った。グレハン男爵は軽率に襲撃を提案したが、クザヤ伯爵に制止された。

クリスティーナへの下劣な興味と嘲笑
話題はホープ家のクリスティーナに及び、グレハン男爵は彼女を侮辱しながら下卑た笑みを浮かべた。彼の嘲笑は隠し部屋に響き続け、クザヤ伯爵が苛立ちを見せるほど耳障りなものだった。

不気味な笑い声の侵入
突然、二人の会話とは別に、同じ嘲笑が部屋中に響き始めた。グレハン男爵は最初、自分が笑っているのだと思い込んだが、やがて“別の誰か”が笑っていると気づき、血の気を引かせた。クザヤ伯爵は剣を抜き、正体不明の侵入者へ警戒を強めた。

ピエロの殺人鬼の出現
笑い声は四方から響き渡り、二人が声の出所を探る中、天井から血が滴り落ちた。見上げると、そこには血まみれのピエロ姿の人物が張り付き、不気味な笑いを上げていた。二人はその異様な姿に恐怖を覚え、部屋は緊迫した空気に包まれた。

ピエロの殺人鬼との遭遇とクザヤの斬撃
天井から落下したピエロを前に、クザヤは即座に斬撃を放ち攻撃を仕掛けた。グレハンは「例のピエロの殺人鬼だ」と叫び、二人は警戒しながら間合いを取った。クザヤの攻撃は素早く、グレハンはその腕前を称賛した。

クザヤとグレハンの優勢とピエロの被弾
クザヤは油断するなと念押ししつつ再び斬撃を加え、ピエロの身体から血が噴き出した。ピエロは床に崩れ落ち、痙攣して動きを止めた。二人は致命傷を与えたと判断し、余裕の態度を見せた。

ピエロの死亡確認と油断
グレハンはピエロにとどめを刺したと喜び、仮面の下の素顔を確認しようと近づいた。クザヤは違和感を覚えてグレハンに声をかけたが、グレハン自身は落ち着いた様子を見せていた。

グレハンの負傷発覚と異常事態
グレハンが平然と振り向くと、後頭部にトランプが深々と刺さっていることが判明した。流れた血でようやく自分の状態に気づいた彼は混乱し、その直後に倒れ込み動かなくなった。クザヤは突然の事態に動揺した。

復活するピエロとクザヤの恐慌
クザヤの目の前で、倒れていたはずのピエロがゆっくりと立ち上がった。クザヤは「確かに仕留めたはずだ」と恐れを露わにしながら後退した。ピエロは血の滴る足音を響かせながらクザヤに接近した。

クザヤの買収提案と拒絶される恐怖
クザヤは命乞いを始め、「雇い主はいくら払った」「自分なら倍払う」と懸命に交渉を試みた。しかしピエロは無言のまま歩み寄り、クザヤを壁際まで追い詰めた。

クザヤの反撃と回避される斬撃
追い詰められたクザヤは間合いに入ったピエロへ必殺の一撃を振り下ろした。しかし斬撃は空を切り、ピエロは人外の反応速度で半歩だけ後退して回避した。その動きにクザヤは戦慄し、言葉を失った。

クザヤの最期と死体回収
直後、クザヤの喉元にトランプが突き刺さり、彼は血を吐きながら崩れ落ちた。ピエロは残った書類を拾い上げ、二人の死体を抱えてその場から立ち去った。

大通りの騒ぎと二人の死体の噂
王都の大通りは早朝から騒然としていた。通行人たちは「貴族が二人殺された」「ゲーテ・モーノ伯爵の件の続きではないか」などと噂を交わし、不安を口にしながら現場へと集まりつつあった。

クリスティーナの現場到着
人混みの中を、クリスティーナが急ぎ足で通り抜けた。彼女は周囲に道を開くよう求め、騎士の制止を受けたが、公爵家の名乗りを上げるとすぐに現場への立ち入りを許可された。

噴水に吊るされた二人の遺体
クリスティーナは噴水の支柱に吊された二体の遺体を目にし、その顔がクザヤ伯爵とグレハン男爵であることを確認した。二人の頭部にはトランプが突き刺さっており、遺体の表情には恐怖の痕跡が残されていた。

クリスティーナの歪んだ感情
周囲の民衆が嫌悪や恐怖の声を上げる中、クリスティーナは「気分が悪くなってきた」と口では言いながら、誰にも見えない位置で口元に歪んだ笑みを浮かべた。彼女は心の中で、また二匹の“寄生虫”が駆除されたと感じていた。

Episode.69

クリスティーナとアレクシアによる状況整理
王都の噴水前は騎士団の捜査により封鎖され、二人の貴族が吊るされた異様な光景に民衆が騒いでいた。アレクシアは先にクザヤ伯爵邸を調査しており、犯行現場は邸内の隠し部屋で、護衛は全滅か戦闘不能、死体はわざわざ大通りへ運ばれたと報告した。手口はゲーテ伯爵と同一であり、トランプによる急所への一撃も同じであった。

同一犯である可能性と「十三の夜剣」への示唆
三件連続の暗殺が同じ組織「十三の夜剣」の構成員に集中していることから、アレクシアとクリスティーナは偶然ではないと判断した。さらに、クザヤ邸のメイドが「血濡れのピエロ」を目撃しており、前回と同じ人物像が浮上した。

シドの推理と“スペード”の意味
現場へ現れたシドは、死体に刺さったトランプが「スペードの1 → 2・3」という連番になっていることに注目した。さらにシドは、トランプのスートには意味があり、スペードは冬・夜・剣・死を象徴すると説明した。その象徴性から、「スペードの13枚=十三の夜剣の十三人」と推理し、犯人が組織の全員を順に殺害する意思を示していると示唆した。

噴水の支柱に残された“血の文字”
噴水の支柱には血文字が残されており、「Jack the Ripper」と読めることが判明した。野次馬たちは一斉にその名を叫び、犯人の通称が瞬く間に王都へ広まっていった。

学園での密談と証拠書類の扱い
後に三人は学園の空き教室で合流し、ジャック・ザ・リッパーから既に接触があったこと、そして敵か味方か判断できない状況を確認した。アレクシアは書類の写しを預かり、父へ相談して活用法を探る意向を示したが、クリスティーナは不安を抱えながらその様子を見守っていた。

ダクアイカン派との対立と警備体制の説明
クリスティーナは、シドと同じ部屋で生活している理由をアレクシアに説明した。シドが事件の情報に触れたため、ダクアイカン派からの報復を避ける目的で警護を集中させていたと述べた。アレクシアはその状況に不満を見せつつも、クリスティーナを心配していた。

クリスティーナとアレクシアの状況確認
クリスティーナは、シドと同じ部屋で寝泊まりしている理由をアレクシアに説明した。シドが事件の情報に触れてしまい、ダクアイカン派に知られると危険であるため、警護を一か所にまとめたと述べた。アレクシアは不満を見せつつも、クリスティーナの身を案じていた。

三人の関係とアレクシアの誤解
クリスティーナは何気ない会話の中で、アレクシアが以前シドと“偽装交際”をしていたことに触れた。アレクシアは強く動揺し、シドは無神経な発言をしてさらに場の空気を悪くした。クリスティーナは自らの安全のため、逆にアレクシアも同室に来る案を提案し、アレクシアは戸惑いながらも前向きに検討すると答えた。

エライザの乱入と犯行予告状の出現
廊下でエライザが怒声を上げ、集まっていた生徒たちを追い払っていた。クリスティーナが様子を見に行くと、エライザは血で書かれた手紙を突きつけた。内容は「十三匹の豚」と侮辱しつつ次の殺害を宣告する犯行予告状であり、エライザはこれをクリスティーナの仕業だと決めつけた。

クリスティーナへの暴力とシドへの巻き添え被害
エライザはクリスティーナの頬を叩き、挑発を続けた。すると突然、エライザの取り巻き“デクノ”がシドに強烈な拳を叩き込んだ。シドは一撃で大きく吹き飛ばされ、廊下奥の壁に激突して大きな陥没を作り、その反動で床に叩きつけられた。反撃描写は一切なく、完全に攻撃を受けただけであった。

シドの容体と周囲の動揺
吐血と鼻血を流しながら倒れたシドを、クリスティーナとアレクシアが急いで確認した。シドはギリギリ重傷を免れたと説明し、クリスティーナは強い衝撃に心を痛めた。エライザと取り巻きは暴力を愉快そうに笑い、ジャック・ザ・リッパーにも負けないと豪語しながら立ち去った。

エライザの嘲笑とクリスティーナの静かな怒り
エライザは去り際に「ダクアイカン家に盾突いたことを後悔するわよ」と高笑いし、クリスティーナへ冷たい言葉を残した。クリスティーナは怒りを押し殺し、静かにその背を見送った。

保健室でのシドの手当て
場面は保健室に移り、シドは応急処置を受けた。アレクシアはシドに「喧嘩はほどほどに」と釘を刺し、事件の渦中にいる三人の安全を案じていた。

医務室での応急処置と会話
ミューが診察した結果、シドの負傷は見た目ほど深刻ではなく、受け身の巧さで表面的な傷に収まっていた。シドは血の気が多いと勘違いされつつも治療を受け、医務室で安静にするよう指示を受けた。そこへニーナが現れ、クリスティーナからの依頼を受けて見舞いに訪れた。

ニーナとの会話とクレアの容体確認
ニーナはシドを連れてクレアの病室へ向かった。クレアは依然として昏睡状態にあったが、ミューによれば魔力は安定しており、命に別状はないと説明された。ミューはニーナの紹介で治療を担当しており、丁寧な態度でシドとあいさつを交わした。覚醒には時間がかかる可能性があるが、強制覚醒には後遺症の危険が伴うと説明され、自然に任せる判断が下された。

シドの不用意な発言と二人の誤解
シドが「ずっと寝かせておいていい」と軽い冗談を言ったところ、ニーナとミューは極端に深刻な反応を示し、シドの“意思”に従おうとする姿勢を見せた。シドが冗談であると慌てて否定すると、二人は安堵し表情を和らげた。

学園に広がる誤解とシドの困惑
ミューとニーナはシドに対して過度に敬意を示し続け、シドはその異様な空気に困惑した。二人の反応を見たシドは、最近学園で流行している中二病めいたノリだと解釈した。

ホープ家襲撃の準備
場面は夜のホープ家別邸へ移り、ボウ伯爵家の男たちが覆面をして潜伏していた。デクノとオヤノはシノビ子爵の偵察合図を待ちながら、今回の襲撃計画が確実であると語り合った。ターゲットはクリスティーナとカナデであり、ホープ公爵は証拠の引き渡しと引き換えに命だけは助けられる手筈になっていた。
さらに、シドも「邪魔になる可能性がある」として排除対象に含められ、暗殺者と包囲部隊まで動員された万全の襲撃態勢が整えられていた。

前巻 次巻

同シリーズ

陰の実力者になりたくて! シリーズ

漫画版

1f3c9998b875e2b0677d294419cd728d 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 7巻
ea682264b67235e2793092cfc4e6e84e 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 8巻
67b774fcb8b9090e3ee0ec47172c3920 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 9巻
7c0f87e4e3d4836731b4c7728999ae77 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 10巻
50632ef3cb6b3fb17e2040f4fc5bb4ef 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 11巻
8d5738596d4949f3d1cfd0c5e2c0ea74 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 12巻
c448f1d67366abd141fc5117b2558ee3 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 13巻
7b7abbc411eb601737a1b054286441eb 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 14巻
b5f5df243d6ea39ebb958322e7e38cff 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 15巻
aa2378e7577e1b13e9ea72d7fa9b4007 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 16巻
08af761bdb527026330310acf1efa2e1 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 17巻

小説版

0d8baae797f37a27749ca60423043c91 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 1巻
e43e6cd54d80c9b29f235eb59872b732 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて!2巻
d5e04333e45d0c4c6d1426d0fb393e89 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて!3巻
6befde09cef15e7146418dfd685e1df3 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 4巻
b6f34ac347749180cc1cd856bfbd51ca 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 05
d1445c510d460f89879c9b4a055e40e0 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
陰の実力者になりたくて! 06

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ
フィクション(novel)あいうえお順

陰の実力者になりたくて グッズ

gifbanner?sid=3589474&pid=892231516 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレlogo 漫画「陰の実力者になりたくて 17」【最新刊】感想・ネタバレ

小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は異世界ファンタジー系ライトノベルである。主人公の地味で小柄ながら実は高スペックなメイド「ニナ」が、雇い主のお屋敷で身に覚えのない罪を着せられて追放された後、旅に出るところから物語が始まった。第2巻では、ニナが魔導士のエミリや発明家のアストリッドら仲間とともに旅を継続し、海沿いのリゾート地で枯れた温泉の復活に挑むほか、商会の発明アイデア盗用騒動や傭兵団の潜入調査など、多彩なトラブルを解決しながら旅を続けた。

主要キャラクター

  • ニナ:本作の主人公である万能メイド。雇い主の屋敷から濡れ衣を着せられて追放され、旅に出た。地味ながらその実力は折り紙付きで、仲間たちと様々な問題を解決してゆく。
  • エミリ:魔導士の少女。魔法の扱いが必ずしも得意ではないものの、ニナを旅の仲間として信頼し、共に行動する。
  • アストリッド:発明家の女性。実験や発明に悩みを抱えており、旅先での事件を機にその才能が発揮されてゆく。
  • ティエン:月狼族の孤児少女。旅先の町で食事にありつけず苦しんでいたところをニナたちに助けられ、以後旅の仲間となる。

物語の特徴

本作の魅力は、まず「メイド」である主人公がただ家で仕える存在ではなく、追放された後に自ら旅に出て主体的に動く点にある。さらにその主人公が“万能”でありながらも目立たない存在、というギャップがユニークである。「異世界旅」「仲間との出会い」「問題解決」の要素を丁寧に描くことで、典型的なファンタジーものとは一線を画している。第2巻では、鉱山・発明商会・温泉リゾートなど旅先の“街”や“観光地”風味を持ちながらも、その中で起こるトラブルにメイド視点で対応するという構成が読者にとって興味深い。また、旅を通じて仲間の掘り下げが進む点も、序盤の“事件処理もの”からの成長が感じられ、シリーズとしての魅力を高めている。

書籍情報

メイドなら当然です。 濡れ衣を着せられた万能メイドさんは旅に出ることにしました2
著者:三上康明 氏
イラスト:キンタ  氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2023年1月16日
ISBN:978-4803015942

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレbls_21years_logo 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

メイドさん、はじめての海へ!
さらにニナのライバルも登場!?

今回の旅先でも、彼女たちは様々な出来事に遭遇!?

「何者かに発明のアイデアを盗まれている」と主張する商会での犯人探し!
月狼族が所属しているという噂の傭兵団に潜入調査!
海沿いのリゾート地で、枯れた温泉を復活させるための大奮闘!
そしてメイド界でもトップの実力を持つ、「ルーステッド・メイド」とのメイド対決も!?

旅するメイドと仲間たちによる、素敵な異世界紀行!!

メイドなら当然です。 濡れ衣を着せられた万能メイドさんは旅に出ることにしました2

感想

読んで最初に強く印象に残ったのは、ニナというメイドの際立った独自性である。
彼女はマークウッド伯爵家を追放され、求職中の身としてセントラルファウンテンに到着したが、気づけば老舗・ゴールディング商会の再生に深く関わり、ロンダッド商会の陰謀を暴き、「冷蔵運搬魔道具」とウェットランズフロッグの皮を組み合わせた流通革新の基盤まで築いている。
その過程で、魔導士エミリ、発明家アストリッド、月狼族ティエンといった各分野で傑出した仲間と協働する姿は、「戦うメイド」の物語として大いに魅力を放っていた。

セントラルファウンテン編では、店長クレアや職人ケット、ヴィク商会のファースらと連携し、盗聴や情報流出といった陰謀の核心に迫る。
録音魔道具による証拠の収集を経てロンダッド商会の計画を暴露し、損害賠償の獲得に至った流れは爽快である。
さらに、冷蔵流通という新たなビジネスモデルを「アス・ニナ商会」構想として残して去る展開は、ニナたちの旅が訪れる街の構造を変革していくことを鮮明に示していた。

続く帝国首都サンダーガード編では、ティエンの両親捜索を目的に「月狼族」彩雲・明星が所属する『凍てつく闇夜の傭兵団』と関わる。
門前払いから始まり、ニナが単身でメイドとして潜入し、屋敷環境を瞬時に整える職能の高さを示す。
さらに、エメラルド盗難の濡れ衣を晴らし、ティエンの乱入を経て偽の月狼族を暴き、最終的に傭兵団を解散させる一連の展開は緊張と解放の連続であり、読み応えが大きかった。
一方で伯爵邸追放時のトラウマが再燃し、完璧な働きを見せるニナの裏側に潜む脆さが丁寧に描かれた点も印象深い。

サウスコースト編では、温泉の枯渇やリゾート地の貧富格差といった地域課題にニナたちが真正面から向き合う。
共同浴場の再建、孤児たちの自立支援、屋台やダウンタウンストリートの整備、さらにゴールデンサンライズリゾートと背後のウーロンテイル伯爵に対する「神の警告」作戦など、街全体を少しずつ回復させていくプロセスは、旅物語としても社会派ファンタジーとしても完成度が高かった。

終盤のドンキース侯爵邸では、サウスコーストでの活躍が思わぬ波紋を広げ、「傭兵団を解散させたメイド」「下町を変えたメイド」としてニナが貴族の注目を集める。
そこから、ルーステッド家のトップランクメイドであるキアラとの「メイド勝負」に発展し、洗い場、洗濯、整頓、石畳磨き、買い出しなど、実務レベルでの高度な競り合いが展開される。
技量では拮抗するが、「報告が上がらない職場環境」を生むキアラと、問題の根底を探り家全体の快適性と安全性を改善するニナとの差が徐々に浮き彫りとなる構図も秀逸である。

特に印象的であったのは、ニナの師ヴェシリアーチの存在、騎士団長グリンチ伯爵の登場、そして皇帝陛下の召喚へとつながる「上層の視線」の描写である。
街単位の問題から国家規模へと舞台が拡大し、賢人会議を軸とした今後の展開への期待が強まった。

ただし読み進めるうち、ニナに対するわずかな苦手意識も生じた。
ティエンは物理、エミリは魔法、アストリッドは技術、そしてニナは後方支援と役割分担は優れているが、他の仲間が自分の能力を理解し失敗時には反省するのに対し、ニナは常に自分を過小評価し、街の構造さえ変えるほどの働きをしても自覚を持たない。
無自覚のまま革新を起こす姿は、ときに扱いづらいチート性を帯びて見える瞬間もあった。

それでも、濡れ衣と追放から始まった旅が、仲間と共に街を変え、人々の暮らしを守る旅へと成長している点に大きな魅力を感じる。
ニナのトラウマと自己評価の低さが、今後どのように扱われどのように変化していくのか。
ティエンの両親探し、サウスコーストの一年後、賢人会議と皇帝の意図など、多くの伏線が並ぶ中で「この先を見届けたい」という思いが強まり、続巻への期待が膨らんでいる。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレbls_21years_logo 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

ニナ

旅をしながら各地で仕事を引き受けるメイドである。家事全般と魔道具運用に長けており、実務で周囲を支える立場に立つことが多い。自分の価値を低く見積もる一方で、仲間や子どもたちのためには危険な場所にも踏み込む考え方を持つ。エミリ、アストリッド、ティエンを家族のように大切にしており、相手の将来まで見据えて行動する姿勢がある。

・所属組織、地位や役職
 冒険者パーティー「メイドさん」に所属するメイドである。

・物語内での具体的な行動や成果
 イズミ鉱山でティエンと交流し、嗅覚の問題に配慮した料理を提供した。ゴールディング商会を訪ねて礼を伝えようとして誤解から追い出されたあと、アストリッドの調査を支え、録音魔道具による証拠集めに協力した。ケットを含む一連の不正を暴いたのち、冷蔵運搬魔道具とウェットランズフロッグ皮を組み合わせた流通改善案を提案した。凍てつく闇夜の傭兵団にはメイドとして潜入し、離れと屋敷全体の衛生と食事を大きく改善した。サウスコーストでは共同浴場の老女やスラムの孤児たちを支援し、洗浄と住環境整備、料理指導を通じて「生きる術」を教える取り組みを進めた。ドンキース侯爵邸ではメイド勝負を受け、ルーステッド・メイドと同等の実務能力を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ウォルテル公や貴族、商会から懸賞金付きで名指しされるほど存在が知られるようになった。ゴールディング商会の新事業やサウスコーストの「ダウンタウンストリート」形成の起点となり、地方経済や都市計画にも影響を及ぼす存在となっている。ドンキース侯爵や皇帝からも注目され、政治的にも重要な人材として扱われ始めている。

エミリ

第五位階まで魔法を扱える魔導士である。合理的な思考を好み、分析と推理を通じて問題の根本原因を探そうとする性格である。外見や口調は派手な面もあるが、ニナやティエンを守る意識は強く、感情が高ぶると過激な発言も出る。アストリッドとは発明や魔道具の議論を交わす信頼関係を築いている。

・所属組織、地位や役職
 冒険者パーティー「メイドさん」に所属する魔導士である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ニナの旅の初期から同行し、魔力筋の改善を受けて活動を続けている。ゴールディング商会の調査では盗聴器の可能性を検討し、ケットの内部犯行説にたどり着く推理の土台を作った。サウスコーストでは温泉枯渇の原因を源泉の取りすぎと水位低下と見抜き、共同浴場の取水口延長計画を立てた。二重詠唱により岩盤内部だけを掘削し、温泉復活の決定打を担った。孤児支援では搾取構造を見抜き、子どもでも扱える魔道具ビジネスの構想を提示した。ダウンタウンストリートでは夜間警備に立ち、チンピラ襲撃を土魔法で封じた。ドンキース侯爵邸脱出では外壁を破壊する大規模魔法の行使も視野に入れていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 高難度の二重詠唱を成功させたことで、周囲から特級級の魔導士に近い力量として認識されている。共同浴場復活や下町再生に関わったことで、魔法を都市インフラ改善に使う存在としても評価されつつある。

アストリッド

フレヤ王国登録の発明家であり、マホガニー商会の代表である。発明を金儲けの手段ではなく目的と考える価値観を持っている。理詰めで物事を組み立てる性格であるが、ニナやエミリとは冗談も交えた関係を築いている。ファース・ヴィクとはしばし対立しながらも、仕事を通じて協力関係を深めている。

・所属組織、地位や役職
 マホガニー商会の発明家であり、冒険者パーティー「メイドさん」に所属する一員である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゴールディング商会からの魔道具修繕依頼を受け、商会内部の状況を調査した。盗聴器の不在を確認し、情報流出が内部の人間からの口によるものと結論づけた。録音魔道具を用いた盗み聞き作戦を立案し、ケットとロンダッド商会副店長の会話を記録する改造を短時間で行った。冷蔵運搬魔道具の設計図を作成し、ウェットランズフロッグ皮との組み合わせによる「使い捨てと循環」を実現する仕組みを形にした。サウスコーストでは温泉取水設備の魔道具を調整し、鍛冶職人と共に延長パイプの仕様を設計した。ゴールデンサンライズリゾートには男装して潜入し、温泉設備と女神画に細工を仕込んだ。ドンキース侯爵との交渉では、ニナの情報秘匿を条件に盛り込み、メイド勝負の条件を実質的に有利な内容へと導いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冷蔵運搬魔道具の設計者として、今後の大陸規模の流通改革に関わる可能性を持つ。ゴールデンサンライズリゾートへの潜入と女神画の仕掛けにより、貴族階級に対しても間接的な影響を及ぼす立場になっている。

ティエン

月狼族の少女であり、両親を捜しながら旅を続けている。嗅覚が鋭く、匂いで相手の正体を見抜く特性を持つ。感情表現は率直で辛辣な言葉も多いが、ニナに対する信頼と好意は深い。エミリやアストリッドとも口喧嘩を交えながら連帯を強めている。

・所属組織、地位や役職
 冒険者パーティー「メイドさん」に所属する月狼族である。

・物語内での具体的な行動や成果
 イズミ鉱山では嗅覚ゆえに食事が楽しめない状態であったが、ニナの料理によって打ち解けた。凍てつく闇夜の傭兵団の屋敷前では、屋根上からニナを監視し続け、濡れ衣事件の際には五階相当の高さから跳躍して屋敷に乱入した。彩雲の拳を受け止めて投げ飛ばし、ニセの月狼族を見破った。サウスコーストではイノシシを狩り、護衛依頼遂行に貢献した。裏通りの孤児たちとの支援では、小屋建設や荷物運びなど肉体労働を担い、子どもたちの信頼を得た。ダウンタウンストリートでは、屋台を壊そうとしたチンピラを蹴り飛ばし、治安維持に大きく貢献した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 本物の月狼族としての戦闘力を示したことで、傭兵団内部と周囲の評価が一変した。両親捜索の手掛かりは得られていないが、ニナへの思いを自覚し、今後の選択に関する内面的な変化が進んでいる。

クレア

ゴールディング商会の店長であり、先代から続く食肉卸の跡取りである。過去に「豚女」とからかわれた経験から、食肉業に強いコンプレックスを抱いている。魔道具事業に活路を求めたが失敗が続き、精神的な余裕を失っていた。ケットには信頼と好意を寄せており、その裏切りを知っても情を捨てきれない心を持つ。

・所属組織、地位や役職
 セントラルファウンテンの老舗商会「ゴールディング商会」の店長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 赤字続きの商会再建を目指して魔道具事業に投資し、ケットの加入後は一定の成果を出した。ニナを高位貴族の使いと誤解し、食肉の話題で過去の傷を抉られたと感じて追い出した。その後、アストリッドに事情を打ち明け、盗聴器捜索と内部調査を依頼した。録音魔道具による暴露の後、ロンダッド商会との和解交渉で金銭補償を優先する現実的な判断を下した。ケットの過去と裏切りを知ったうえで、牢獄ではなく「自由」に送り出す決断をし、後に再雇用を選んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冷蔵運搬魔道具とウェットランズフロッグ皮を用いた新事業の担い手として位置付けられ、地域の流通改革の中心となる立場を与えられている。ファースとの共同出資による新商会構想でも重要な役割を期待されている。

ケット

魔道具技術者であり、かつて「温石毒のケット」と呼ばれた詐欺師である。ユピテル帝国出身で、表向きは発明家としてゴールディング商会に雇われていた。仕事そのものには誠実に取り組む面と、金や身の安全を優先して裏切りに走る面を併せ持つ人物である。

・所属組織、地位や役職
 ゴールディング商会の魔道具技術者であり、以前は詐欺師として各地を渡り歩いていた。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゴールディング商会で新商品を開発し、一定の売上増加に貢献した。同時にロンダッド商会の副店長と結託し、新製品情報を流して先行販売と安売りを行わせ、ゴールディング商会を市場から追い出す計画に加担した。酒場「緋肋鶏の止まり木」での会話の中で、商会売却とクレアを危険から遠ざける意図を語り、録音魔道具によってその内容を残された。ロンダッドとの関係が暴露されたのち、土下座して「最後にゴールディング商会のために働かせてほしい」と懇願し、冷蔵運搬魔道具事業への参加を申し出た。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 一時は裏切り者として糾弾されたが、クレアの判断で再雇用されることになった。冷蔵運搬魔道具の技術担当として、新流通網構築の重要な担い手となる見込みである。ヴィク商会側の調査では重罪ではないと判断され、処刑や拘束は避けられている。

ファース・ヴィク

ヴィク商会総本店に所属する若き商人であり、将来の跡取り候補の一人である。行動力が強く、上層部が慎重な案件でも自ら動いて突破口を開こうとする性格である。アストリッドとは最初に衝突したが、ニナの仲裁を受けて協力関係へ移行している。

・所属組織、地位や役職
 大商会ヴィク商会総本店の商人であり、跡取り候補である。

・物語内での具体的な行動や成果
 録音魔道具をニナに納品し、その用途を巡ってアストリッドと口論したのち、共に酒場での潜入作戦に参加した。ロンダッド商会の不正を録音によって暴く場面では、挑発的な態度で副店長を追い詰めた。その後、ゴールディング商会への補償交渉をヴィク商会の応接室で取りまとめた。冷蔵運搬魔道具の案件については、本店の慎重姿勢に反発し、自ら独力で進める決意を固めた。新商会「アス・ニナ商会」の構想をまとめ、クレアとケットと利益を折半する計画を描いた。サウスコーストのヌーク商会など外部勢力の妨害可能性も読み込み、ニナ保護の必要性に気付いている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冷蔵流通革命の起点となる案件を独自に抱え込むことで、将来のヴィク商会内での影響力を高める可能性がある。ニナを巡るウォルテル公の捜索情報にも触れており、貴族と商会の駆け引きに深く関わる立場に近づいている。

老傭兵団長

凍てつく闇夜の傭兵団の本来の団長であり、表向き団長を名乗っていた息子の父親である。老齢でありながら高い戦闘能力を維持しており、冷静な判断力と倫理観を持つ。戦争が減った世界で傭兵団の終わりどころを考える、現実を見据えた指導者である。

・所属組織、地位や役職
 ユピテル帝国の首都サンダーガードに拠点を置く「凍てつく闇夜の傭兵団」の真の団長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 玄関ホールで少女二人に刃を向ける騒ぎを一喝して止め、息子と団員たちを制した。エミリが屋敷外で戦術級魔法を構えていた事実を指摘し、「首都最強」の看板に泥を塗ったことを諭した。彩雲と明星がニセの月狼族である経緯を説明し、息子の宣伝重視の姿勢を批判した。エメラルド盗難事件では真相を明らかにし、青髪メイドの処遇をニナに委ねた。最終的に傭兵団の解散を宣言し、暴発しかけた明星を一撃で制圧した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自らの代で傭兵団を解散する決断を下し、傭兵という存在の役割の終わりを引き受けた。ニナとの出会いをきっかけに、団員たちの変化や町との関係の見直しに踏み出している。

彩雲

「凍てつく闇夜の傭兵団」に所属する戦士であり、宣伝上は月狼族として扱われている。実際にはスラム出身の人間であり、外見だけ月狼族に似せる染料や義毛で飾られている。酒好きで粗雑な振る舞いが多いが、戦場での戦闘力は高い。

・所属組織、地位や役職
 凍てつく闇夜の傭兵団に所属する看板戦士である。

・物語内での具体的な行動や成果
 戦場では全勝続きの傭兵団を象徴する存在として扱われてきた。屋敷では酒に溺れ、二日酔いの状態でニナのスープを飲み、効果に驚いた。エメラルド盗難騒動ではニナの腕を折ると脅し、暴力的な制裁を主張した。ティエンとの対決では拳を受け止められ、投げ飛ばされたことで自分が月狼族ではないことを匂いで見抜かれている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 老団長の解散宣言により、看板戦士としての立場を失った。解散後は貧しい生活に戻ることが予想されており、その経験が将来の態度を変える可能性が示唆されている。

明星

彩雲と共に「凍てつく闇夜の傭兵団」の象徴として扱われる女性戦士である。外見は月狼族風に飾られているが、実際は人間である。気性が荒く、自分の権利が侵されたと感じると激しく反発する性格である。

・所属組織、地位や役職
 凍てつく闇夜の傭兵団に所属する看板戦士である。

・物語内での具体的な行動や成果
 日常の朝食ではパンとジャムのみの食事を続けていたが、ニナの用意した温かいスープによって体調を整えた。その後、塩竈焼き風の肉料理を食べて驚きを見せた。エメラルド盗難事件では、ネックレスの持ち主として激しく怒り、ニナを盗人として非難した。老団長の解散宣言の際には反発し、団長の命を狙って飛びかかったが、一撃で制されている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 解散によって王都トップクラスの傭兵団の看板という立場を失い、貧しい出自に戻ることになった。老団長はその経験が彼女にとっての薬になると見ている。

共同浴場の老女

サウスコースト下町にある共同浴場の管理人である老女である。温泉が止まったあとも掃除を続け、再開を信じて浴場を守ってきた。控えめな性格であるが、浴場と町の人々への愛着は強い。

・所属組織、地位や役職
 サウスコースト下町の共同浴場の管理人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 二年二か月前に温泉が止まってからも、毎日浴場の掃除を欠かさなかった。入浴料を小銅貨一枚に抑え、税金や補助のない状態で浴場を維持してきた。ニナたちに温泉が止まった経緯と、かつて浴場が人々の交流と和解の場であったことを語った。温泉復活の際には膝まで濡れながら湯を受け止め、涙ながらに感謝の言葉を述べた。その姿が住民の反省と再協力のきっかけとなった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 温泉復活後は再び共同浴場の中心人物として、住民と孤児たちを迎え入れる役割を担っている。町の支え合いを象徴する存在となっている。

ドワーフの鍛冶職人

サウスコーストの鍛冶工房を営むドワーフ族の職人である。温泉好きであり、共同浴場の再開を強く望んでいた。「温泉ファン」として、利益よりも浴場復活を優先して協力する姿勢を持つ。

・所属組織、地位や役職
 サウスコーストの鍛冶工房の主である。

・物語内での具体的な行動や成果
 共同浴場の温泉復活計画に参加し、十メートル級の鉄パイプ製作と既存パイプの継ぎ足し機構の設計に協力した。工賃不要を申し出て、温泉再開のために無償で技術を提供した。初回の取水失敗後も作業を続け、エミリの魔法掘削と組み合わせて源泉への到達を実現した。共同浴場の賑わいを確認し、住民にも再協力を促す立場となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 温泉復活の立役者のひとりとして、下町住民から感謝される存在になっている。浴場とダウンタウンストリートの今後の整備でも重要な技術的支援者となる可能性が高い。

ゴールデンサンライズリゾート商会長

サウスコースト随一の高級ホテル「ゴールデンサンライズリゾート」を運営する商会の長である。短期的な利益と再開発による利権拡大を重視する考え方を持つ。下町エリアを自商会の二棟目ホテル建設の場として見ている。

・所属組織、地位や役職
 ゴールデンサンライズリゾート商会の商会長であり、高級ホテルの支配人格の立場にある。

・物語内での具体的な行動や成果
 源泉を深部から汲み上げさせ、共同浴場側の温泉枯渇を招いた。共同浴場復活の報告を受けて苛立ち、魔道具破壊など過激な策を検討したが、会計院の税務調査を理由に表向きの行動を控えた。下町の税収低さを口実に再開発を正当化し、巨大ホテル建設と税収増を説明する計画を立てた。チンピラを雇ってダウンタウンストリートの屋台を破壊しようとしたが、住民とニナたちの対応により失敗した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ウーロンテイル伯爵の大規模再開発構想の駒として使われており、伯爵からは責任追及を受ける立場にある。会計院報告により下町再開発が一年以上先送りされる可能性が生じ、計画全体が不安定になっている。

ウーロンテイル伯爵

ユピテル帝国の伯爵であり、サウスコーストの再開発構想を描く貴族である。街道整備や新都市建設、港湾開発までを見据えた長期計画を持つが、自身の利益と地位拡大を最優先する人物である。

・所属組織、地位や役職
 ユピテル帝国の伯爵であり、大規模再開発構想の推進役である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゴールデンサンライズリゾートに乗り込み、商会長から下町の現状と共同浴場復活、チンピラ襲撃事件の全容を聞き出した。会計院報告に「下町エリアは一年の経過観察が必要」と追記されたことで、自身の計画に外部の目が入りつつある現状を指摘した。商会長の短絡的なゴロツキ利用を叱責し、金で片を付けつつ、役に立たない者は切り捨てる姿勢を明言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 女神画の血の涙の怪異を目撃し、神からの警告と受け取って一時的にサウスコーストから退いた。その結果、再開発の動きは少なくとも一年先に延び、下町に猶予期間が生まれている。

ドンキース侯爵

政争とは距離を置く名門貴族であり、情報収集を趣味とする人物である。面白い事象や人物を見つけると自ら関わりたくなる性格である。ニナに対しては一目惚れに近い感情を抱き、貴族特有の価値観で求婚を行った。

・所属組織、地位や役職
 ユピテル帝国の侯爵であり、首都サンダーガードに大きな屋敷を構える貴族である。

・物語内での具体的な行動や成果
 首都会計院の報告でサウスコースト下町の変化を知り、その原因となった「メイド」の存在を追わせた。凍てつく闇夜の傭兵団解散の理由に「メイドさん」が関わると知り、ニナの捜索を執事長に命じた。ニナを見つけると、宿前で大仰な求婚を行い、第3夫人として迎えようとした。屋敷へ連行したあとも、ニナを夫人兼メイドとして扱おうとしたが、雇用契約と家の格を盾にしたキアラと執事長に押し戻された。メイド勝負の約束をしたにもかかわらず、結果発表後には条件を反故にし、ニナを手放さない姿勢を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 皇帝からの召喚命令を携えたグリンチ伯爵の登場により、ニナに対する優先権を失っている。ニナの身柄を皇帝に譲らざるを得ない立場となった。

キアラ

ルーステッド家から派遣された「ルーステッド・メイド」であり、ドンキース侯爵邸のメイド長である。自らの技量と家柄に誇りを持ち、主人に対しても契約を盾に物申す気質を持つ。部下への態度は厳しく、高圧的な面がある。

・所属組織、地位や役職
 名門ルーステッド家のメイドであり、ドンキース侯爵邸のメイド長である。

・物語内での具体的な行動や成果
 侯爵がニナを独断で第3夫人として迎えようとした際、雇用契約上の権限を理由に反対した。ニナの師匠ヴァシリアーチを「大酒飲みで人格破綻者」と評し、敵対勢力として警戒した。メイド勝負を提案し、自らの流儀でニナに挑んだ。洗い場、洗濯、部屋整頓、石畳磨きの対決ではすべて同着という結果を出し、互角の技量を示した。買い出し勝負では先着し、形式上は勝利を収めたが、大量の殺鼠剤と下水道異常に気付けなかった点で実質的に劣勢となった。部下のメイドからネズミ被害の報告が届いていなかった事実を知り、自身の指導姿勢に問題があることを突きつけられた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 執事長から敗北と認定され、メイドとしての本質理解に課題があると評価された。ニナとの対決を通じて、「技量だけでなく周囲の報告を吸い上げる信頼」が重要であると認識させられている。

グリンチ伯爵

帝国騎士団長であり、ニナを皇帝のもとへ連れてくる任務を帯びている巨漢の貴族である。乱暴な物言いもあるが、命令に忠実で、力による制圧が得意である。

・所属組織、地位や役職
 ユピテル帝国騎士団長であり、伯爵位を持つ武人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 ドンキース侯爵邸に乱入し、兵士を引きずりながら現れて場を制圧した。ニナを巡る侯爵との言い争いでは、「連れて行く用事があるのはニナだ」と優先権を主張した。最終的に皇帝の紋章を示し、「皇帝陛下の名による召喚」であることを告げてニナの身柄を確保した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 皇帝の直接命令を受けて動く立場として描かれており、ニナを通じて賢人会議にも間接的に関わることになる可能性がある。

皇帝陛下

ユピテル帝国を治める白髪の老女の皇帝である。気品と威厳を備えており、帝都の都市整備や長期の治世を通じて豊かな首都を築いている。ニナの価値を完全には理解していないが、賢人会議の成功のために利用しようと考えている。

・所属組織、地位や役職
 ユピテル帝国の皇帝であり、国家の最高権力者である。

・物語内での具体的な行動や成果
 首都サンダーガードの道路や排水整備を進め、「帝国の繁栄は帝国民によってもたらされる」と公言している。在位五十年の治世で首都の豊かさを形にした。賢人会議の開催にあたり、五賢人のひとりトゥイリードを機嫌よく滞在させる目的でニナを呼ぶことを決めた。外務卿に対して、ニナを「賢人を喜ばせる程度の存在」と見なす発言をしている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 現時点ではニナの真価を把握していないが、賢人会議の展開次第ではニナとの関係が帝国の外交や国際情勢に影響を与える可能性が示唆されている。

外務卿

ユピテル帝国の外務担当大臣であり、皇帝に仕える文官である。賢人会議の準備を担っており、皇帝の意図を理解しながら実務を進める立場にある。

・所属組織、地位や役職
 ユピテル帝国外務卿であり、賢人会議の実務責任者のひとりである。

・物語内での具体的な行動や成果
 皇帝からニナの召喚理由を聞かされ、賢人トゥイリードの機嫌を取る役目として彼女を利用する方針を共有した。ニナを「妙齢で美しい女性」と想像して発言し、皇帝から軽く訂正されている。賢人会議の重要性を理解しつつ、ニナの本当の能力についてはまだ知らされていない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 賢人会議の成否に関わる責任ある地位にあり、今後ニナの働きによって評価が変動する可能性を持っている。

展開まとめ

ニナの旅行記

エミリとの出会いと同行の開始
ニナは旅を記録するために新しい手帳を購入し、旅路の最初の地でエミリと出会った。エミリは第5位階まで魔法を扱える優れた魔導士であったが、魔力筋に問題を抱えていた。ニナはその改善を手伝い、結果としてエミリは旅の同行者となった。

フレヤ王国でのアストリッドとの邂逅
ニナは初めて国境を越えてフレヤ王国に入り、発明家アストリッドとメイド依頼を通じて出会った。アストリッドはエミリと親しく、その縁もあってニナたちの旅に加わることを希望した。アストリッドは頼りがいのある存在として合流した。

イズミ鉱山でのティエンとの交流
三人はウォルテル公国のイズミ鉱山へ向かい、見学を希望していたニナは月狼族のティエンと出会った。ティエンは嗅覚が鋭すぎるため食事を楽しめない状態にあり、ニナが料理を提供して交流を深めた。その後、鉱山の崩落事故と復旧作業に直面する中で関係が強まり、ティエンは離れた両親を探す目的を持って旅の同行を決めた。

旅を通じての実感とこれまでの経路
ニナは各地を巡り多くの人々と出会う旅の素晴らしさを実感していた。これまでの旅程は、クレセント王国王都三日月都から商業都市フルムン、発明の国フレヤ王国を経て、ウォルテル公国のイズミ鉱山に至るものであった。

プロローグ 万能メイドさん、ただいま求職中

広がりすぎた万能メイドのウワサ
クレセンテ王国では、マークウッド伯爵家を陰で支えたメイドが実在すると高貴な人々の間でウワサされていた。魔導士トゥイリードやウォルテル公国の公爵さえ執心していると言われ、そのメイドは屋敷を清潔に保ち病を退け、富を招き、絶品の料理を作り、さらには死者を蘇らせるという荒唐無稽な話までついていた。尾ヒレがつきすぎたそれらの話は真実味を失っていたが、その本人にとってはむしろ都合が良い状況であった。

求職中のニナ、首都の案内所へ向かう
ニナは露店の店主に声をかけられるほど目立つメイド姿で、求職のために案内所へ向かっていた。ウォルテル公国の首都セントラルファウンテンは小規模ながら水路が整備され、水の恩恵に満ちた都市であった。ニナは観光のための資金を得るべく、短期のメイド職を探す計画で首都を訪れていた。同行者であるエミリ、アストリッド、ティエンはまだ宿で休んでいる時間帯である。

案内所での落胆と求職の壁
案内所は朝から人で溢れ、ニナは自前のメイド服ゆえに目立ちながらも、特に嫌味を言う者はおらず、経験者の集まりであることを感じ取った。受付の女性はニナが国外から来た冒険者ギルド登録者であることを確認すると、紹介状も身分証も十分ではないとして仕事の斡旋を断った。メイド業は身元の確かさと信頼が第一であるため、紹介状なしでは屋敷勤めの職は得られないのであった。

仕事が見つからず、仲間の手伝いを考えるニナ
案内所の外へ出たニナは、状況を理解していたとはいえ落胆を隠せず、建物を見上げてため息をついた。エミリ、アストリッド、ティエンのいずれかの手伝いをしようかと考えながら、ウワサとは裏腹に仕事を任せてもらうどころか、門前払いを受けてしまう現実を受け止めていた。

第1章 老舗商会をめぐる陰謀

ゴールディング商会の危機とクレアの苦悩
セントラルファウンテンの目抜き通りに並ぶ老舗の一つ「ゴールディング商会」は、赤字続きで経営不振に陥っていた。店長クレアは帳簿を確認するたびに深刻な数字を前に頭を抱えていた。彼女を支える職人ケットは励ましの言葉を残して工房に戻ったが、主力である魔道具は売れず、状況は一向に好転しなかった。

ニナ、保存料不使用の食肉への礼を伝えるため商会へ
案内所で仕事が見つからなかったニナは、かつてティエンを救った保存料不使用の食肉を卸していた商会がこの街にあることを思い出し、礼を伝えるため訪問することにした。しかし店内は薄暗く、掃除も行き届いておらず、商品の並びも乱れていた。陳列された魔道具は不当に高価で、かつての老舗らしい気配は失われていた。

店長クレアとの誤解と追い出し
ニナが挨拶すると、クレアは高位貴族の屋敷からの使いであると勘違いし、自分の魔道具がどこかで評価されたのだと早合点した。ところがニナが「食肉の話」を切り出すと態度は一変し、敵対商会の嫌がらせだと誤認して激昂し、ニナを店から追い出してしまった。ニナは事情を理解できないまま商会を後にすることになった。

宿での報告と仲間たちの反応
夜、宿に戻ったニナは一連の出来事を仲間に説明した。エミリとティエンはニナの理不尽な扱いに激怒し、商会を破壊しかねない勢いで憤りを示した。アストリッドは二人を宥めつつ、ゴールディング商会には何らかの事情があると判断し、感情的に動く前に調査すべきだと提案した。

アストリッドが握っていた依頼書と調査の必要性
アストリッドは、発明家協会から受け取っていたゴールディング商会による魔道具修繕依頼書を取り出した。報酬は五千テルと高額であり、商会が魔道具事業に強くこだわっていることが示されていた。アストリッドはその日自分が取った行動を語り始め、商会の異変には調べるだけの価値があると仲間たちに説明した。

早朝の王都とアストリッドの訪問
翌早朝、ニナが用意した酔い覚ましスープで体調を整えたアストリッドは、発明家協会経由の依頼を正式に受けてゴールディング商会を訪れた。裏口で出会ったクレアに、フレヤ王国登録の発明家である証を示し、事務室へ通された。

クレアのコンプレックスと誤解の背景
クレアは、食肉卸の老舗の跡取りとして育ち、幼い頃から「豚女」とからかわれてきた過去を打ち明けた。そのため、食肉商会であることに強いコンプレックスを抱いていた。アストリッドは、ニナが「肉」の話を持ち出したことでその傷を不用意に抉り、嫌がらせと誤解されて追い出されたのだと理解した。

ケットとの関係と盗聴器捜索依頼
しばらくして裏口に発明家のケットが現れ、クレアと親しげに言葉を交わした後、アストリッドとも挨拶を交わした。クレアは、食肉卸の売上減少と魔道具開発への投資失敗の経緯、さらにケットの加入によって新商品が売れ始めた直後、他商会から酷似した魔道具が先に売り出され、自分たちが盗作扱いされたことを語った。その上で、商会内に盗聴器が仕掛けられている可能性があると相談した。

盗聴器の技術的限界と調査結果
アストリッドは、既知の盗聴器は魔石交換が必要なうえ稼働時間も短く、設置には定期的な出入りが必要であると説明したうえで、店舗、事務室、建物外周、屋上、工房を徹底的に調査した。しかし盗聴器は発見されず、工房への出入口も厳重で鍵を持つのはクレアとケットのみであることから、情報流出には別の要因があると結論づけた。

依頼失敗扱いの提案とクレアの決断
アストリッドは、敵を油断させるために公式には依頼失敗と扱い、真相は誰にも漏らさないことを条件に調査継続を申し出た。発明をあくまで商売の手段と見ているクレアには、得にならない行動が理解できず戸惑いがあったが、やがてアストリッドが金銭だけでは動かない人物であると悟った。クレアは直感を信じて彼女を追いかけ、ゴールディング商会の行く末を託す決断をした。アストリッドもその覚悟を受け止め、全力で調べると応じた。

ゴールディング商会疑惑の整理と真相仮説
アストリッドは宿へ戻り、ニナたちにゴールディング商会での出来事と盗聴器捜索の結果を報告した。盗聴器が存在しない以上、情報流出は内部からの「口」しか考えられないと推理し、工房に自由に出入りできる人物からケットが最も疑わしいと結論づけた。一方その頃、クレアはアストリッドの依頼をあえて「失敗扱い」とケットに伝え、真実を隠したまま葛藤していた。

録音機の準備とヴィク商会ファースの登場
昼寝から目覚めたアストリッドは、ニナが用意した背負子と、ヴィク商会に発注していた高価な録音魔道具を受け取る準備を整えた。やがて商人ファース・ヴィクが現れ、録音機を納品した。彼はニナの依頼に便宜を図った人物であり、大陸各地に店を持つ大商会ヴィク商会の一員であることが判明した。録音機の用途を問いただしたファースとアストリッドは一時対立しかけたが、ニナの仲裁によりファースは非礼を詫び、同行を申し出た。

ロンダッド商会の工作と作戦方針
移動の途上、一行はゴールディング商会とロンダッド商会の関係を整理した。ファースからは、ロンダッド商会が魔道具を不自然な安値で売りさばき、他商会を意図的に潰そうとしているとの情報がもたらされた。アストリッドとファースは、ゴールディング商会から情報が盗まれたのではなく、ロンダッド側から情報を与えて商品を作らせたうえで損害を与える罠である可能性に気づき、ケットとロンダッドのつながりを録音で証拠化する方針を固めた。

ニナの思惑とアストリッドの心境の変化
裏路地を進む途中、ニナはアストリッドとファースの不和を気にしつつ、自分がアストリッドの将来のためにヴィク商会との接点を作ろうとしているのだと打ち明けた。アストリッドは、ニナの行動が自分の発明家としてのキャリアを案じてのものであると理解し、ファースへの反発を和らげた。同時に、自分は今「メイドさん」パーティーの一員であり、ニナと共に旅を続けたいという本心を自覚するに至った。

録音機の改造とケットの会話の盗み聞き開始
ティエンの尾行により、ケットが酒場「緋肋鶏の止まり木」に入ったことが判明した。一行は店外から会話を盗み聞きするため、アストリッドが録音機の回路を短時間で改造し、外壁越しに店内の音を拾えるようにした。ティエンの優れた聴覚を頼りに最適な位置を特定し、吸盤付きホースを壁に押し当てると、魔道具からケットの声が聞こえ始め、証拠収集の第一歩が記録されることになった。

高級酒場での潜入とロンダッド側の会話
エミリとファースは高級感のある落ち着いた酒場に潜入し、ロンダッド商会副店長とケットの隣席を確保した。隣から聞こえる会話によって、ケットがクレアの信頼を利用してゴールディング商会の新製品情報をロンダッド側に流し、先行販売と安売りで市場を奪う計画であることが判明した。最終的には商会を畳ませ、食肉の販路をロンダッド商会が奪う腹積もりであることも明らかになった。また、ケットがユピテル帝国出身の詐欺師で「温石毒のケット」と呼ばれていた過去も語られた。

録音暴露とロンダッド商会への制裁交渉
ファースは挑発的な態度で酒場での対決を狙ったが、ケットに警戒されて正面衝突は回避されてしまった。その直後、ニナ、アストリッド、ティエンが酒場の入口に現れ、ゴールディング商会を陥れた共謀を糾弾した。ティエンが副店長を拘束し、外からアストリッドが用意した録音魔道具で副店長の発言を再生すると、ロンダッド側の違法な策略は商人たちの前で白日の下にさらされた。その後、一行は場所をヴィク商会の応接室へ移し、ロンダッド商会はゴールディング商会への損害の全額補償と同額の上乗せ支払いに合意する代わりに、上層部には秘密とする条件で和解が成立した。

クレアの判断とケットへの情
クレアは、副店長を公的に失脚させるよりも「金の罰」でロンダッド商会に負担を負わせる方が現実的であると判断した。一方ケットについては、ロンダッドから「商会を売れば一生遊んで暮らせる金を用意する」と持ちかけられていたこと、そしてそれがクレアを危険から遠ざける意図も含んでいたことが明かされた。クレアは、初期の魔道具開発にケットが真剣に取り組んでいた事実を踏まえ、彼が根っからの悪人ではないと見なした。過去の詐欺行為も含めて「バカだね」と笑い飛ばし、他国での罪を追及しないようファースと一行に頼み、ケットを牢獄ではなく「自由」に送り出す道を選んだ。

アストリッドの気づきと感情の整理
一連の交渉を通じ、アストリッドは自身のマホガニー商会が「発明」そのものを目的とするのに対し、ヴィク商会やゴールディング、ロンダッドのような商会は「金儲け」を第一目的とする存在であると再認識した。その価値観の違いこそが、自分が商人たちに反発してきた根本理由であると自覚したのである。ニナの言葉でファースへの感情はすでに和らいでいたが、ここでようやくその理由を言語化できたことで、商人全般に対するわだかまりも整理されていった。クレアは最後にケットとふたりで話す時間を求め、彼の過去を承知のうえで見逃す道を選び、一行はそれぞれの立場で長い夜を終えることになった。

ゴールディング商会再訪とニナの狙い
翌々日の朝、アストリッドとニナはゴールディング商会を再訪し、寝不足で憔悴した様子のクレアと再会した。クレアはまず先日の誤解についてニナに正式に謝罪し、両者は和解した。そのうえでニナは、鉱山街への食肉輸送で世話になった礼をあらためて述べるとともに、「お礼」とは別に提案を持ってきたことを告げた。

冷蔵運搬魔道具と「使い捨て皮」の発明的発想
ニナは、紫鈴連花を使わずに肉を運ぶ現在の方法では傷みが多く、畜産農家にも肉にももったいないと指摘し、「冷蔵による運搬方法」の導入を提案した。その核となるのが、アストリッドが設計した軽量の冷蔵魔道具と、ウェットランズフロッグの皮を用いた保冷カバーの組み合わせであった。畜産農家側で冷蔵庫により肉と氷をあらかじめ冷やし、それらを皮で包んで輸送し、補助的に軽量魔道具で冷却を行う構造により、魔道具出力の弱さと重量コストを同時に解決できると示された。ウェットランズフロッグの皮は破れやすい代わりに安価であり、廃棄しても容易に分解され肥料となるため、「使い捨て」と「循環利用」を両立しうる素材であることも説明された。これは海産物や果物にも応用可能であり、流通の在り方そのものを変えうる革新的アイデアであると、アストリッドとクレアは悟った。

クレアの撤退宣言とケットの復帰願い
しかしクレアは、ケットの裏切りを経て魔道具事業からは身を引く決意を固めており、「ここで新規発明を背負う資格も人手もない」として、設計図の受け取りを一度は拒んだ。魔道具研究はケットとの思い出とともに封印するつもりであったのである。そのとき、店先で話を聞いていたケットが姿を現し、土下座して「最後にゴールディング商会のために働かせてほしい、金はいらない」と懇願した。クレアは涙ながらに彼にすがりつき、アストリッドはふたりに時間を与えるため店を後にした。後日、クレアはケットを再雇用する決断を伝え、ケットも自らの過去や詐欺まがいの経歴をすべて打ち明けたうえで「やり直す機会」を求めた。クレアはそれを受け入れ、過去を承知のうえで共に進む道を選んだ。

発明の託し先と「使い捨て思想」の共有
アストリッドは、冷蔵運搬魔道具の設計と「使い捨ての思想」をゴールディング商会とケットに託した。ウェットランズフロッグ皮の使い捨て運用と肥料化まで含めた循環構造は、発明家であるアストリッド自身にとっても盲点であり、ニナの生活感覚から生み出された発想であることが強調された。ケットはそのスケールと革新性に震え、この案件に全力で取り組む決意を新たにした。流通面では人手不足を補うため、ヴィク商会がウェットランズフロッグ皮の流通などで後方支援を行う構想も示され、商会同士の連携による新たな事業の芽が形になり始めた。

ニナ依存組の本音と首都出立
その夜、エミリ、アストリッド、ティエンは小さな酒場で「ニナがやらかして面倒ごとに巻き込まれないようにする同盟」の非公式会合を開き、ケットの過去や「使い捨て発明」の将来性、ヴィク商会の支援体制などを共有した。エミリはアストリッドとファースの関係を冷やかし、アストリッドはファースへの反発をすでに整理していると語りつつ、二人ともニナの完璧なメイド能力に依存して「ダメになりつつある」と自嘲気味に笑った。ティエンも辛辣なツッコミを交えながら成長を示し、こうして首都での騒動に一応の区切りが付いた。翌朝、「メイドさん」パーティーはゴールディング商会と新たな発明を後に託し、ウォルテル公国の首都を出発して次の旅路へ向かった。

ヴィク商会での調査とファースの判断
ウォルテル公国首都にあるヴィク商会総本店で、跡取り候補のひとりであるファースは、店長からケットに関する調査結果を受け取った。ケットは指名手配されているものの重罪性は低く、直ちに危険視すべき人物ではないと判断された。一方、ゴールディング商会から持ち込まれた冷蔵運搬魔道具の開発案件について、店長は慎重姿勢を崩さなかった。ファースが「大急ぎで進めるべき案件」であると主張しても、店長は工房の使用予定や人員調整を理由に難色を示したため、ファースはヴィク商会を巻き込まず自ら独力で進めると宣言し、店舗を後にした。

設計図の完成度と流通革命の可能性
宿へ戻ったファースは、アストリッドが仕上げた冷蔵運搬魔道具の設計図を改めて確認した。ニナの発想を基に組み立てられたこの設計図は、素人でも理解できるほど整理されており、魔道具設計として突出した完成度を誇っていた。ファースはこれが肉、魚介、果物などの長距離流通を劇的に変革し、「使い捨て」という新しい概念を魔道具技術に持ち込む可能性を直感した。その一方で、情報が漏れれば他商会に模倣される危険が高く、迅速かつ秘密裏に事業を立ち上げる必要があると判断した。

秘密裏の工房確保と新商会の構想
ウェットランズフロッグ皮を大量に確保するためには目立たない動きが重要であり、大手商会の名で動けば即座に噂が広まるとファースは考えた。彼はクレアと共同で新商会を立ち上げ、ケットを正式に魔道具技術者として雇い、利益を折半する形式を理想とした。そして新商会の名前を「アス・ニナ商会」とする案をまとめた。この商会こそが、後に冷蔵流通革命の中心となり、庶民の食生活を一変させる存在になると見込まれた。

迫り来る外部勢力とニナへの危険
ロンダッド商会副店長やヌーク商会など、ゴールディング商会を敵視する勢力による妨害は必ず発生するとファースは推測した。そのため、設計図の扱いと発明家の選定には極度の慎重さが求められた。書類を整理していたファースは、混じっていた総本店の情報文書の中に「ウォルテル公爵がニナという名のメイドを捜索中」という記述を発見する。彼女を保護した者には報奨金が支払われると記されており、ニナの身に新たな危機が迫っていることを示す内容であった。

第2章 月狼族を捜せ! 帝国首都サンダーガード編

帝都サンダーガードへの旅立ち

ティエンの決意と一行の移動
ティエンは月狼族の両親を捜しており、帝都サンダーガードに「男女二人組の月狼族がいる」という情報を得て、一行は馬車で帝国へ向かったのである。道中、ティエンが「ごめんなさい」と謝罪すると、ニナは「こういう時は『ありがとう』と言うべきだ」と諭し、ふたりは笑顔を交わした。揺れる馬車の中でも、ニナは刺繍、道具の手入れ、荷物整理を同時進行でこなし、「メイドなら当然です」と平然と答え、周囲を驚かせた。

首都の繁栄と皇帝の治世
サンダーガードは高い城壁と広大な市街を誇り、幹線道路は広く石畳も整備され、魔導貨車が走る豊かな首都として描かれている。ニナは交通量に対して道路や排水が十分整備され、埃も少ない点から「本当に裕福な街だ」と本質的な評価を下した。アストリッドは、これが在位五十年の皇帝による都市整備政策の成果であり、「帝国の繁栄は帝国民によってもたらされる」と公言する名君の治世によるものであると説明した。

冒険者ギルドで判明する二つの情報
一行は中央ギルドを訪ね、ティエンが鉱山街に捨てられた月狼族であり、両親を捜している事情と、帝都に月狼族の二人組がいるという情報を伝えて協力を求めた。受付職員はティエンの特徴を確認した後、背後のニナを見て「ニナというメイドではないか」と口にした。エミリとアストリッドは即座に「ニナ危険信号」を察知し、ギルド内でニナを「ネジ」という別人として扱い、場から退避させたうえで話を続けた。職員は、ウォルテル公爵が「クレセンテ王国から来たメイド、ニナ」を高額懸賞金付きで捜索していること、そして月狼族の二人組が傭兵団「凍てつく闇夜の傭兵団」に所属する彩雲と明星であることを明かした。ティエンの両親シャオとツィリンとは名前が異なるものの、月狼族には通称が存在するため、同一人物である可能性は残された。

傭兵団への接触失敗と屈辱
一行は彩雲と明星が所属する傭兵団の豪邸を訪れ、門番の男に面会を求めた。しかし二人は名の知れた「スタープレイヤー」であり、取り入りを狙う者が殺到しているため、紹介のない来訪者は門前払いにされていた。エミリはティエンの帽子を外して月狼族の耳を見せたが、男は過去の偽装事例を理由に「精巧な付け耳」と決めつけて追い返した。その後、レストランで食事を取りながら、エミリは屈辱に憤り、「傭兵団をざまあさせる」展開も含めた再接触の策を練ろうとした。一方で、冒険者ギルドでの聞き込みから、彩雲と明星が外出を避けて屋敷に籠もっている現状も判明し、接触の難しさが明らかになった。

ニナ潜入案の提示といったんの却下
傭兵団内部に潜り込むしかないと考えた一同に対し、ニナは「メイドは出入りが激しいので自分が洗い場メイドとして潜入すべきだ」と提案した。しかしエミリとアストリッドは即座に反対し、「ニナは実力ゆえに必ず目を付けられる」「これまで奇跡的に目立たずに済んできたが、同じ幸運は続かない」と危険性を指摘した。ティエンも、自分の件でニナに危険な役割を負わせたくないと訴えた。最終的にニナの潜入案はいったん却下され、エミリとアストリッド、ティエンが別の方法で彩雲・明星との接触や月狼族に関する情報を探る方針が固められた。ただし、ニナだけは密かに別の行動を考え始めていた。

ニナ、独断で「凍てつく闇夜の傭兵団」へ潜入
ティエンの両親かもしれない月狼族に会うため、ニナはエミリとアストリッドの反対を押し切り、単身で「凍てつく闇夜の傭兵団」にメイドとして潜入する決断を下した。紹介状のない状態では門前払いされると理解し、紹介所へ出向いたニナは、天井裏掃除という罠付きの課題を完璧にこなして職員を圧倒し、正式な推薦書を獲得した。そして裏門での面接に臨み、メイド長に好印象を与えてあっさり採用され、ランドリーメイドとして働き始めることになった。

紹介所で示された圧倒的な実力
紹介所が仕掛けた課題は、天井裏に潜む埃や虫を利用して「どうせ失敗する」と踏んだ内容であった。しかしニナは騒音も埃落下も一切起こさず、制限時間の半分で天井裏を新品同様に整え、服ひとつ汚さずに戻ってきた。その結果、職員の態度は一変し、「どこにでも紹介できる逸材」として傭兵団への推薦が決まった。ニナの行動はすべて、疲労で倒れかけていたティエンの姿を思い出し、「一日でも早く両親に会わせたい」という一心から発していた。

潜入発覚後の混乱とアストリッドの判断
宿に戻ったエミリは、ニナの「潜入します」という書き置きを見て絶叫した。ティエンは「連れ戻す」と飛び出そうとしたが、アストリッドがこれを制止した。アストリッドは、ニナがティエンのために選んだ行動を尊重すべきだと説き、「ピンチなら助けに行くのだろう」と問いかけてティエンの心を揺さぶった。ティエンは迷いながらも、ニナの覚悟と自分の責任を理解し始めるのであった。

監視と救援のための実務的な支援体制
エミリは「危険すぎる」と主張したが、アストリッドは「むしろ問題はニナが“やらかす”ことだ」と別の懸念を示し、救援体制の必要性を強調した。そして、傭兵団の近くへの宿の移動、屋敷の監視地点の確保、交代制での張り付きなど、現実的かつ入念な監視・救援計画を即座に立案した。その完成度に、エミリですら「よくそんなにすぐ思いつくわね」と驚いた。アストリッドは「こうなることは予想していた」とさらりと言い、一同を黙らせた。

ニナを“家族”として見る視点
アストリッドは、ニナが独断で潜入を決めた理由について、「彼女は気遣いの権化だが、今回は私たちを“家族”と信じているからこそ頼る気持ちで動いたのだ」と分析した。ティエンはその言葉に胸を震わせ、ニナが自分のために危険を冒したことをあらためて痛感した。こうして、ニナ単独潜入と仲間の監視支援という危うい作戦が静かに幕を開けた。

離れと屋敷を一変させるニナの働き
ニナは洗濯係として採用されながら、洗濯そのものを瞬時に終わらせたうえで離れを徹底的に清掃し、夕食も美味に仕上げた。以後も与えられた仕事を素早く片付けつつ、訓練場や裏庭の整備、屋根の修繕まで自主的にこなした結果、屋敷全体の環境は短期間で大きく向上した。老いた御用聞きや荒っぽい傭兵たちも変化に気づき、ニナの働きぶりを評価し始めた。

三階と彩雲・明星の特別扱い
一方、屋敷三階は傭兵団長と彩雲・明星のみが暮らす特別階であり、メイド長だけが出入りを許されていた。彩雲と明星は、全勝続きの戦場で傭兵団の象徴的存在とされ、屋敷内でも厳重に保護されていた。ニナはティエンの両親の手掛かりとして二人に接触したいと願いつつも、機会を得られないまま働き続けていた。

メイド長不在と三階担当就任
メイド長の父が倒れたとの知らせにより、メイド長は数日屋敷を空けることになり、三階の世話を一任する人物としてニナを指名した。他のメイドたちは実力差を認めつつも、同年代の青髪のメイドだけは人事に強い不満を抱いた。ニナは自分ひとりでは大変だと考え、後に彼女を手伝いに誘おうとしたが、メイド長から「余計なことをするな」と釘を刺されてしまった。

団長室と男女の生活感に対する動揺
ニナはメイド長の案内で初めて三階へ上がり、団長の部屋に入った。部屋は酒と食べ散らかした食事で荒れており、ニナは即座にテーブル周辺を片付けたが、隣室に女物の服や下着が散乱しているのを目にして赤面した。男女関係に関する知識こそあったものの、実物を見慣れていないニナには刺激が強く、メイド長から「意外な弱点」と笑われた。

彩雲へのスープ提供と信頼の獲得
続いて訪れた彩雲の部屋も酒臭く、彩雲本人はひどい二日酔いであった。ニナは事前に仕込んでおいた仔牛の骨のだしによるスープを勧め、彩雲は一口で味と効能に驚き、何杯もお代わりして酔いが和らいだ。これは三階住人の深酒を予測して準備していたものであり、メイド長もその先読みと腕前に感嘆し、安堵して三階を任せて屋敷を離れた。

明星との朝食とニナの自制心
翌朝、明星の朝食を担当したニナは、普段パンとジャムしか口にしないと聞いていた彼女に、香辛料入りの温かいスープを添えた。明星は身体が温まる感覚と滋味に驚き、食欲を取り戻した。そこへ彩雲も現れ、ニナが塩竈焼きの技法で柔らかく仕上げた「トロトロ鳥」の肉料理を絶賛した。出身地や料理の由来に関する軽い問答の中で、ニナはティエンの話を切り出す好機を感じたが、食事中に私事を挟むのはメイド失格であると考え、自制して団長からの呼び鈴に応じて部屋を後にした。その途中、どこかの部屋から小さな物音が聞こえたが、ニナは優先順位を守って足を急がせた。

貴族使いとの応対と御用聞きの威圧
ニナはその後、団長の朝食準備、彩雲と明星の訓練・入浴の段取り、昼食の補助、団長と愛人の外出支度など、三階周辺の雑務に終日追われた。そこへ彩雲と明星に会わせろと要求するヒットボルト男爵家の使いが現れ、ニナは皇帝公認の「召喚拒否権」を説明して断ろうとしたが、相手は聞き入れず恫喝した。すると老いた御用聞きが現れ、男爵家など「一介の家」に過ぎず、この傭兵団の敵ではないと一喝して使いを退けた。ニナは老人の身を案じたが、老人は長年の信用に支えられている様子で、静かに屋敷の奥へ消えていった。

エメラルド盗難の濡れ衣と再燃するトラウマ
屋敷に戻ったニナは、玄関ホールに集められたメイドや傭兵たちの前で、明星から盗みの犯人として名指しされた。お気に入りのエメラルドのネックレスがニナの鞄から見つかったと、青髪のメイドが告げたのである。かつてマークウッド伯爵邸で壺破壊の濡れ衣を着せられた記憶がよみがえり、ニナは恐怖で身体が固まり反論できなかった。扉は閉ざされ、傭兵たちは暴力的な制裁を口にしながらニナを取り押さえ、彩雲が「腕を折る」と迫った。

屋根上からの監視とティエンの跳躍
その頃、屋敷を望む建物の屋根からティエンとエミリがニナの行動を監視していた。貴族の使いとの押し問答も介入せずに見守っていたティエンは、自分のために苦労するニナを思って胸を痛めていた。やがて扉越しに見えたニナの怯えた表情から異変を察知し、「ニナのピンチ」であると直感したティエンは、エミリの制止も聞かず、五階相当の高さから屋敷前へ跳躍した。

月狼族ティエンの乱入と「ニセモノ」認定
屋敷内に飛び込んだティエンは、ニナを拘束する傭兵ふたりの手首をつかみ、軽々と放り投げて彼女を抱きとめた。彩雲は同族だからといって手加減しないと宣言し、傭兵たちも武装して二人を包囲した。ティエンはあえて彩雲を「月狼族のニセモノ」と挑発し、振り下ろされた大振りの拳を片手で受け止め、体幹を利かせて一歩も引かなかった。そのまま肘を極めて彩雲の巨体を投げ飛ばし、傭兵たちに戦慄と動揺を走らせたうえで、「本物の月狼族なら匂いでわかる」と真意を口にし、彩雲たちへの不信を示した。

偽団長の命令と真の団長・老傭兵の登場
騒ぎを聞きつけて三階から現れたのは、これまで団長と呼ばれていた男であり、扉が吹き飛んだことに激怒しつつもティエンの正体に驚いた。傭兵たちは新たな月狼族獲得に色めき立ったが、男は「帝国最強」の看板と面子を守るため、ティエンとニナの始末を命じ、傭兵たちは一斉に武器を構えた。そのとき御用聞きの老人が再び現れ、「少女ふたりに刃を向けるのが傭兵団か」と静かに全員を威圧した。老人こそ真の傭兵団長であり、乱暴な男はその息子に過ぎないと明かされると、傭兵たちは一斉に態度を引き締めた。さらに玄関外には、戦術級魔法を発動寸前まで練り上げたエミリが杖を構えており、団員の誰ひとりとしてその気配に気づいていなかったことを老人は「首都最強の名折れ」と一喝し、息子をうなだれさせた。

老団長の本音と偽りの月狼族
応接室で老団長は自らが真の団長であること、そして傭兵団の現状を語った。戦争が三年途絶えたことで、傭兵という存在は次第に不要となり、自身の代で団を解散させることが国の平和にとって幸福だと考えていると明かした。一方、息子は威光を保つため、スラム出身の彩雲と明星を月狼族として仕立て上げ、高価な染料や義毛で偽装し、戦場での活躍を宣伝材料として利用してきたという。ティエンは匂いで二人が人間であると見抜いていた。

ネックレス騒動の真相とニナの赦し
団長の問いに応じて、ニナはエメラルド盗難事件の経緯を説明した。青髪のメイドは罪を認め、新参のニナが三階担当に選ばれたことへの嫉妬からネックレスを盗み、ニナの荷物に忍ばせて冤罪で追い出そうとしたことが判明した。処遇を委ねられたニナはメイドを許すと宣言し、自身への危険や報復よりも、一刻も早く屋敷を離れたいという思いを優先した。老団長はこれを不思議がりつつも、ニナの決定を尊重した。

月狼族捜索断念とニナの心の傷
ティエンの両親について、老団長には全く心当たりがなく、首都に月狼族の噂があれば必ず耳に入るはずだと告げた。目的が果たせないと知ったティエンは、謝礼や引き留めを断り、ニナを連れて屋敷を出た。大通りでエミリが追いついたとき、ニナは顔色が悪く、かつての追放の記憶がよみがえったことで心身ともに消耗していたことが明らかになった。エミリはようやくその深い傷に気づき、合流したアストリッドとともに、南のリゾートで休養を取ろうと提案した。

団長の処断と凍てつく闇夜の終焉
老団長は屋敷に残り、貴族対応や騒動時に何もしなかった執事長を即座に解雇し、青髪のメイドについても衛兵への引き渡しこそ避けつつ、紹介所への通達など「メイドとして再起不能」となる処置を検討した。一方、団長代理の息子と彩雲・明星を呼び出し、恩義を忘れた態度とニナへの仕打ちを叱責したうえで、傭兵団の解散を正式に宣言した。逆上した明星は老団長の命を狙ったが、「鬼斧の赤旋風」と呼ばれた往年の実力の前に一撃で叩き伏せられた。老団長は、金と地位が人を変えたことを嘆きつつも、貧しさに戻る経験が二人の薬になると見通し、膨大な解散事務を自ら引き受ける覚悟を固めた。そして、ニナという卓越したメイドと出会えたことに感謝しながら、帝国と傭兵団の歩みを静かに振り返った。

第3章 リゾート地と温泉が出会ったらどうなると思う?

旅と仲間による心の回復
ニナはサンダーガードでの裏切りと濡れ衣で負った心の傷を抱えつつも、エミリ、アストリッド、ティエンが無条件に自分を信じて助けてくれる存在であると知り、救われたと感じていた。3人に支えられたことで立ち直ることができ、帝国南部のリゾート地サウスコーストへの旅に出発したのである。

海との初対面と護衛依頼の幕引き
森を抜けた先でニナとティエンは初めて海を目にし、その匂いと景色に感動した。道中ではヴィク商会の大商団の護衛として同行し、ティエンがイノシシを狩り、ニナがイノシシ鍋を振る舞って好評を得る。報酬と食事代で懐は潤ったが、目立ちすぎてトラブルの種にもなり得ると反省し、一同は今後護衛依頼は控えることで意見を一致させた。

サウスコースト到着とリゾート満喫の準備
サウスコーストでは金箔まで使った豪奢なホテル群やヤシの木が並ぶ典型的リゾート風景が広がっていた。依頼完了後、商会長マールス=モヒートから自社ホテル半額利用の誘いを受けるが、専属契約の勧誘も含んでいたため断る。観光案内所で三軒の宿候補を選び、下見の途中でエミリは海岸へ飛び出し、4人はアロハシャツや花冠、ココナッツジュースなどを買い求めてリゾート気分を盛り上げる。ニナには通気性の良いインナーとココナッツオイルが贈られ、仲間の気遣いに深く感謝した。

表通りと裏通りの格差とニナの問題意識
海沿いの華やかな大通りから外れると、観光客が少なく、薄汚れた子どもたちや粗野な客引きがいる貧しい区域が現れた。ナンパまがいの男をティエンが軽く撃退する一方で、ニナは表の富裕層エリアと裏通りの貧困の落差に強い違和感を覚え、自分にも何かできるのではないかと考え始める。

安宿と温泉を起点とした「衛生改善」の構想
三軒目の「真砂の宿」は古くて寂れた外観だったが、近くに共同温泉があると聞いたニナは即座に連泊を申し出て宿を決める。部屋で事情を聞いたエミリに対し、ニナは「裏通りの状況を少しでも良くするため、まず公共浴場を整えるべきだ」と語る。温泉設備に使われている魔道具をアストリッドが調整して触媒の消費を抑えれば運営費を下げられ、その分利用料を安くしてスラムの人々も入りやすくできる、というのがニナの構想であった。アストリッドはこの案に賛同し協力を約束し、ティエンも掃除などで手伝うと申し出る。エミリは自分の出番の少なさに少し不満を覚えつつも、ニナの「衛生から貧困に向き合う」挑戦を支える覚悟を固めた。

休業中の共同浴場と老女の思い
ニナたちはスラム改善の足掛かりとして共同浴場を訪れたが、建物は「休業」の札が掛かったボロボロの状態で、人影もなかった。中から現れた老女によれば、温泉は2年2か月前から湯が出なくなり、その間も「いつか再開できるように」と毎日掃除だけは続けてきたという。入浴料は小銅貨1枚という安さで、税金も補助もない中で続けられてきたこと、かつてはここが人々の交流と和解の場だったことが語られ、ニナは老女の丁寧な手入れと浴場への愛情を強く感じ取った。

温泉枯渇の謎とエミリの仮説
浴場は広い屋外露天で、大きな岩風呂は完全に空だった。アストリッドが魔道具を点検した結果、機能自体に致命的な故障は見つからず、単純な機械不良ではないと判明した。外に出た後、温泉から漂う腐臭や地震発生の有無、高級ホテルの温泉が今も稼働している事実などを踏まえ、エミリは「完全に枯れたのではなく、取りすぎと水位低下で共同浴場の取水口まで届かなくなったのではないか」と推理した。特に、2年2か月前にオープンし温泉を売りにしている金箔ホテルの存在が、源泉の過剰利用による水位低下を招いたと考えられた。

スラムの子どもたちへの聞き取りと現状把握
エミリが温泉の原因究明に集中する一方で、ニナは「他にできること」を求めてスラムの子どもたちに接触した。パンや小銅貨を報酬に聞き取りを行い、彼らが仕事の少ない小さな観光都市で親に捨てられ、森のイモや酸っぱい果実、磯の小魚やタコなどを採って飢えをしのいでいる実態を知った。生きるだけで精一杯で教育や身なりを整える余裕はなく、首都以上に過酷な環境であることが明らかになり、翌朝も仲間を連れて来るよう依頼して継続的な支援の足掛かりを作った。

金箔ホテルへの疑いと取水口延長計画
その晩、情報収集を終えたエミリは、共同浴場が止まった時期と金箔ホテルの開業時期が一致し、泉質も同じであることを突き止めた。住民がホテル側に抗議した際には伯爵家の後ろ盾を理由に暴力で退けられていたことも判明し、ホテルが源泉を独占し共同浴場側の水位を下げたという仮説はほぼ確信に変わった。翌日、エミリとアストリッドは共同浴場の取水口を確認し、鉄パイプが浅い位置までしか届いていないことを確認する。エミリは地元の鍛冶屋が「温泉が直るなら工賃は要らない」と協力を申し出ていることを伝え、パイプ延長と魔道具調整でより深い水位から温泉を汲み上げることで、誰も直接対立することなく共同浴場の復活を目指す方針を固めた。

孤児たちとの再会と生活実態の把握
ニナとティエンが前日に訪れた場所に戻ると、リーダー格の少年パンサーを中心に二十人ほどの孤児が集まっていた。彼らは親に捨てられ、自分たちで付けた簡素な名前を名乗り、森の小屋で寄り添って暮らしていた。かつては古着をくれる大人もいたが、今は姿を消しており、町の変化を知る余裕すらない状況であることがわかった。

洗浄と住環境の整備による初動支援
ニナは安易な施しに終わらせないため、まず小屋の掃除と身なりの改善から始めることにした。石けんを配り、川で服と身体を洗えば段階的に報酬を支払う方式を採用し、子どもたちは大銅貨欲しさに協力した。その間にティエンがニナの指示で木材と廃材を使い、男女別の高床式小屋を二棟組み上げた。戻ってきた子どもたちは新品同様の小屋と温かいスープとパンに歓喜し、満腹のまま一つの小屋に身を寄せて眠りについた。

パンサーへの「次の生活」提案
食後、パンサーは「子どもを集めて売る悪い大人」の噂を口にし、ニナの目的を疑った。ニナは自分が一時滞在の観光客であり、小屋もいずれ朽ちると率直に告げた上で、その前に「次の生活」を用意したいと説明した。具体的には、自分たちの力で安定してお金を稼ぎ、病気や怪我にも備えられる生き方を教えたいと語り、パンサーから「やる」という返事を引き出した。

温泉復旧に向けた鍛冶職人との協働
同じころ、エミリとアストリッドはドワーフの鍛冶職人を訪ね、十メートル級の耐久性ある鉄パイプの製作を依頼していた。手持ちの三メートルパイプを水漏れしない機構で継ぎ足す案をアストリッドが提示し、職人も温泉の再開を望む「温泉ファン」と判明したことで協力が得られた。二人は夕方まで工房に籠もり、翌日には延長パイプによる新たな取水実験が可能になる見通しを立てた。

「生きる術」を巡る議論とニナの動機
夜、四人は酒場で合流し、それぞれの成果を共有した。ニナは子どもたちに「生きる術」を教えたいと宣言し、エミリはやる気を評価しつつも、定着の難しさやモヒート商会への就職案に伴うリスクを指摘した。なぜそこまで肩入れするのかと問われたニナは、孤児院で大人に守られていたイズミ鉱山の街と、誰も子どもを心配しないサウスコーストの対比、自身が師匠に出会って進路を得た経験を挙げ、「施し」ではなく技術と生き方を渡したいと述べた。

搾取構造の発見と魔道具ビジネス案
少年たちの収入源が椰子の実や葉、果実、貝の売却であると聞いたエミリは、椰子の実一つ小銅貨一枚という価格が、ココナッツジュース一杯銀貨二枚という相場に比べて明らかな買い叩きであると見抜いた。大人たちが孤児を安価な労働力として搾取している構造に憤りを覚えたエミリは、温泉とリゾートの利点を生かした「自分たちで稼げる仕組み」を作るべく、子どもでも使える新たな魔道具の開発をアストリッドに提案し、本格的な支援策の構想を膨らませていった。

共同浴場復活作戦と住民の期待の高まり

翌日、ニナはティエンと共に孤児たちの小屋を訪れ、椰子の実や果実を集め終えたら共同浴場へ来るよう依頼した。一方で共同浴場には、温泉復活の噂を聞きつけた多くの住民が集まっていた。ドワーフの鍛冶職人とエミリが長大な鉄パイプを運び込み、ティエンも加わって取水設備の改修が始まった。住民の視線には二年ぶりの温泉への期待が満ちていた。

取水失敗と町の変化に関する証言
パイプは延長されたが、岩盤に阻まれ源泉には届かず、試みは一度失敗に終わった。落胆する中、鍛冶職人と老女は、共同浴場が止まってから孤児への支援が途絶え、税金の引き上げと治安悪化、怪しい連中の流入など、ここ二年で町が一気に荒れたことを語った。ニナは、かつて共同浴場が地域の支え合いの拠点であったと知り、温泉の再開が孤児支援と町全体の立て直しに繋がると確信した。

エミリの二重詠唱と源泉への到達
諦めきれないエミリは、自ら魔導士であることを明かし、風と土の精霊を同時に操る二重詠唱で亀裂内部だけを深く掘削する高難度の魔法を行使した。激しい風と轟音のあと、亀裂は以前より深く穿たれ、ティエンが鉄パイプを差し込むと、先端はさらに奥まで沈んでいった。鍛冶職人は、精霊同士が反発しやすい二重詠唱で局所的な掘削に成功した異常さに驚愕し、エミリの力量を改めて思い知った。

温泉の復活と共同浴場に戻る笑顔
魔道具にホースを接続して起動すると、しばしの静寂ののち鉄パイプが震え、泥混じりの熱い湯が勢いよく噴き出した。やがて湯は薄茶色の温泉水となり、老女は膝を濡らしながら涙ながらに感謝を口にした。周囲の大人たちも再開を願い、支えられなかった過去を詫びつつ、再び共同浴場を続けてほしいと申し出た。その後、ニナの用意したサンドイッチで労をねぎらい、浴槽には温泉が満ち、子どもたちは次々と湯に飛び込んだ。二年ぶりに共同浴場には人々の笑い声が満ち、町に小さな再生の兆しが生まれた。

ゴールデンサンライズリゾート商会長の思惑
サウスコースト随一の豪奢なホテル「ゴールデンサンライズリゾート」の支配人室で、商会長は共同浴場復活の報告を受けて苛立っていた。深部から温泉を汲み上げれば共同浴場は涸れるはずだと聞かされていたためである。従業員は魔道具破壊も提案したが、5日後に首都会計院の税務調査官が来訪するため騒ぎは避けることになった。商会長は、下町エリアの税収の低さを口実に区画整理を進め、自商会による二棟目のホテル建設へとつなげる算段を語り、高笑いしていた。

温泉復活後の共同浴場と子どもたちの「生きる術」講座
温泉復活から間もなく、共同浴場は住民で賑わい、アストリッドもその盛況ぶりを確認した。エミリは地元の人々が気兼ねなく楽しめるよう、あえて入浴を控えた。一方でニナたちは、子どもたちが採ってきた果物や葉、小魚・貝などを使い、「唐揚げ」やタコせんべいを調理して振る舞い、これらの料理を商品化する前段階として、道具の使い方やレシピを教える準備を進めた。子どもたちは新しい味に歓喜し、エミリの提案に乗って「自分たちで稼ぐ」術を学ぶことに前向きになっていった。

共同浴場での告白と大人たちの変化
共同浴場では、2年間の温泉途絶を嘆きつつ湯を楽しむ男たちに対し、ドワーフの親方が「情けない」と叱責した。住民たちは税率引き上げや借金で余裕がなかったと弁解するが、親方は、ニナたちが自分たちの負担にならぬよう工事費の支払いまで申し出ていたことを明かし、自分の身可愛さに他人を顧みなかったことを恥じていた。この告白をきっかけに男たちは「少しずつ手を貸して恩返しをしよう」と決意し、洗い場の提供や廃材提供など、それぞれができる支援案を持ち寄り、ニナたちと打ち合わせに向かうことになった。

税務調査官の来訪と「ダウンタウンストリート」の発見
五日後、深緑の制服に身を包んだ首都会計院の税務調査官が到着した。袖の下を一切受け取らないことで恐れられる調査官に対し、5つの商会長は媚びを売りつつ対応した。ゴールデンサンライズの商会長は案内役を買って出て、下町エリアの税収低迷と治安悪化を口実に、再開発による巨大ホテル建設と税収増の正当性を強調した。しかし調査官が実地視察で下町エリアを目にすると、そこには「ダウンタウンストリート」の横断幕が掲げられ、清掃された街並みと美味しそうな匂い、観光客で賑わう屋台や新しい食べ歩きの料理が広がっていた。調査官は、事前報告と現状の乖離を指摘し、「再開発せずとも税収増が期待できる」と判断しうる状況だと示唆した。

ダウンタウン活況に動揺する商会長
ゴールデンサンライズリゾートの商会長は、税務調査官との視察で下町エリアが「ダウンタウンストリート」として賑わっている現状を目にし、豪奢な執務室で幹部たちを叱責した。報告をつなぎ合わせると、共同浴場の温泉復活を起点に街が清掃され、露店が並び始めた経緯が判明したが、その中心に「凄腕のメイド」がいるらしいことだけが噂として語られた。

屋台ブームと「体験」がもたらす脅威
下町では子どもたちが小魚の唐揚げやタコせんべい、サトウキビジュースなどを売り、観光客に好評を博していた。幹部たちはホテルのフルコースとは客層も用途も違うため競合しないと楽観視したが、商会長は「旅先での特別な体験」としてこの屋台文化が富裕層にも広がり、やがて再開発反対の世論を生むと読んだ。その結果、自らが巨額投資して進めてきた再開発計画が頓挫しかねないと危機感を募らせ、雇っていたチンピラを動かしてダウンタウンストリートを物理的につぶすことを決断した。

孤児たちの暮らしと住民との連帯
一方、屋台を切り盛りする孤児たちは、日中は採集と調理・販売に励み、夜は共同浴場で地元住民に温かく迎えられていた。その宿泊先には素泊まり宿「真砂の宿」が選ばれ、口では文句を言いつつも人好きな女将が食事を用意し、子どもたちはベッドに潜り込んで疲れを癒やしていた。ニナ、エミリ、アストリッド、ティエンの四人は、屋台の運営と安全確保を分担しながら、子どもたちが自力で生計を立てられる仕組みを整えつつあった。

チンピラ襲撃の阻止と住民の結束
屋台営業開始から三日ほど経った夜、エミリとティエンは見回りのためダウンタウンストリートへ向かい、屋台を壊そうとするチンピラたちと遭遇した。ティエンが圧倒的な膂力で蹴り飛ばし、エミリが土魔法の短縮詠唱で動きを封じると、騒ぎに気づいた住民が駆けつけ、チンピラを縛り上げて衛兵に引き渡すことになった。彼らが金箔ホテルとつながるゴロツキだと知った住民は憤りつつも、「二度と町に入れさせない」と一致団結し、ニナたちと下町を守る姿勢を強めた。

アストリッドの男装潜入と次の一手
表向きの襲撃は退けたものの「これだけでは相手は痛くもかゆくもない」と見抜いたエミリは、次の手を仕込んでいた。その一環として、アストリッドは短髪に帽子と眼鏡で男装し、発明家協会経由の依頼を受けた「地元の発明家」としてゴールデンサンライズリゾートに潜入した。温泉取水施設の修理をあっさり済ませ、女性従業員の好意をさらりとかわしつつホテルを後にした彼女は、自分が女と見破られない複雑な心境を抱えつつも、商会長側への本格的な反撃の足場を固めつつあった。

ウーロンテイル伯爵の来訪と商会長への叱責
サウスコーストに大規模な馬車の一行が到着し、ユピテル帝国伯爵ウーロンテイルがゴールデンサンライズリゾートを訪れた。伯爵は震える商会長から、共同浴場と下町の復活、チンピラ撃退に至る経緯をすべて吐かせると、税務調査官の報告に「下町エリアは1年の経過観察を要する」と追記されたことで再開発計画に遅れと横槍が入りつつある現状を指摘し、短絡的にゴロツキを使った商会長の愚策を激しく叱責した。

伯爵の巨大な再開発構想と焦り
伯爵は、下町エリアの再開発から巨大ホテル建設、その先の街道整備や新都市建設、港湾開発までを見据えた大規模プロジェクトを水面下で進めており、自らがその中心に立つ構想を抱いていた。他の貴族に「おいしい種」に気づかれないよう会計院報告にも露骨に異議を唱えられない中で、商会長の軽率な動きによって計画が他家の介入を招きかねない状況になったことに強い苛立ちを覚え、手段を熟考し、金で片を付けつつ、下町の住民も商会長も「役に立たなければ切り捨てる」と冷酷に言い放った。

血の涙を流す女神の絵と伯爵の退却
伯爵が立ち去ろうとした瞬間、執務室の壁に飾られた信念の女神イスと真実の女神ルーシスの絵から赤い液体が流れ出し、「信念の神イスと真実の神ルーシスは、お前たちを見ている」と血文字が浮かび上がった。伯爵と騎士、商会長は顔色を失って驚愕し、伯爵はその日のうちに慌ててサウスコーストを離れた。この怪異は、アストリッドが発明家協会経由でホテルに潜入し、取水施設の修理を口実に内部の魔道具と女神画に細工した結果であり、ティエンの「悪いことをすると月が見ている」という言葉から着想した「神の名を用いた警告」であった。

温泉での打ち上げと作戦の種明かし
ニナ、エミリ、アストリッド、ティエンの四人は貸切となった共同浴場の温泉でようやく疲れを癒やしつつ、これまでの作戦を振り返った。下町の孤児たちは屋台と採集の仕事で自力で生活する道筋を得て、住民同士も助け合うように変化したこと、ニナたちはいずれ町を去るため、住民が自律的に孤児と下町を守れる体制が整いつつあることを確認した。エミリは、女神画の細工と伯爵の動揺を「神の導きかもしれない」と冗談めかしながらも、ニナが神に愛されているかのようだと感じていた。

ウワサと猶予期間としての一年
その後、サウスコーストを訪れる富裕層の間には「ある大貴族が神から意味深な託宣を受け、しばらくリゾート通いを控えるらしい」という噂が広まった。執念深く欲深いその貴族は、ほとぼりが冷めれば再び動き出すと見られており、それは少なくとも一年以上先になると噂される。この猶予期間のあいだに、下町エリアをどのような場所として育てていくかは、町の人々と孤児たち自身の手に委ねられることになった。

第4章 メイド界のトップランカーが「メイド勝負」を仕掛けてきた!

サウスコースト下町の変化とドンキース侯爵の興味
ユピテル帝国のリゾート地サウスコーストで「貴族が決して食べないような小魚を使った変わった食べ物」があるという噂が広がり、その存在はやがて貴族の耳にも届いていた。ただし、それだけを目当てにわざわざ出向く貴族はおらず、この点ではゴールデンサンライズリゾート商会長の懸念は外れていた。しかし首都会計院の報告書に「下町エリアに変化が見られるため、1年の経過観察が必要」と記されると、別の意味で注目を集めることになり、政争と無縁の名門貴族ドンキース侯爵も、その一人として興味を抱いた。

傭兵団解散と「謎のメイド」への追跡
情報収集を暇つぶしとするドンキース侯爵は、ウーロンテイル伯爵の再開発構想をすでに見抜いており、その計画に水を差した存在を探らせた。執事長の調査によれば、下町に不釣り合いな「メイド」の存在だけが手掛かりであり、さらに最近解散した首都トップクラスの傭兵団「凍てつく闇夜の傭兵団」の団長が解散理由として「メイドさんの働きぶりに気づかされた」と語ったことが判明した。その屋敷に雇われた新参のメイドはすぐに辞め、冒険者パーティー「メイドさん」として活動し、サウスコースト行きの護衛依頼を受けていたことから、侯爵は「傭兵団を解散に追い込んだメイド」と「下町を変えたメイド」が同一人物である可能性に着目し、執事長にそのメイドの捜索を命じた。

首都帰還後のニナと妙な訪問客たち
サウスコーストでの任務を終えた冒険者パーティー「メイドさん」は、人目を避けるため護衛依頼などを受けず、ひっそりと首都サンダーガードへ戻った。ニナはエミリ、アストリッド、ティエンを休ませつつ荷物を完璧に整え、「自分より三人のほうがよほどすごい」とぼやいていた。そこへ、立派な身なりの若い執事が上等な馬車で現れ、「傭兵団を解散させたメイド」を求めてニナを値踏みするが、力量のギャップに失望して「時間の無駄」と悪態をつき去っていった。ニナは事情が飲み込めず、人違いだとしか理解できなかった。

ドンキース侯爵一行の来訪と緊迫した対峙
翌日、さらに豪奢な馬車とフル装備の騎士たちが宿の前に到着し、「メイドのニナ」を名指しで呼び出した。エミリたちは、ついにニナが貴族に目を付けられたと判断し、事前に用意していた逃走・戦闘プランを確認しながら表に出た。騎士たちはニナにドンキース侯爵の馬車に乗るよう命じ、抗議するエミリに対しては即座に剣を抜き「貴族の道を塞げば斬る」と脅しを掛けるなど、極めて横暴な態度を取った。しかしそこへ当のドンキース侯爵本人が馬車から顔を出し、騎士たちの過剰行動をたしなめて退かせ、エミリに対しても「目の前で剣を振り上げられては魔導士でも無茶はできない」と冷静に諭した。

ニナへの「第3夫人」求婚宣言
緊張が残る中、ニナは一歩前に出て礼を尽くし、「おそらく他のメイドと取り違えているのではないか」と丁重に申し述べ、自らを「主のないただのメイド」と位置付けた。ドンキース侯爵はニナをじっと見つめ続け、次の瞬間、馬車から信じられない身のこなしで飛び降り、その手を取って「君だ!」と叫び、一目惚れしたこと、そして自分の「第3夫人」として娶りたいと、周囲の冒険者や宿の者たちも耳を疑うような公然の求婚を宣言した。その場は誰のものとも知れぬ驚愕の声に包まれ、ニナたちの前に新たな波乱の火種が投げ込まれることになったのである。

ドンキース侯爵邸への連行と求婚騒動
ニナたち4人は、首都サンダーガード中心部にあるドンキース侯爵邸の巨大な屋敷と広大な庭を前に、規模の違いに圧倒されていた。ニナに一目惚れしたドンキース侯爵は「ここが今日から君の家だ」と当然のように告げ、第3夫人として迎え入れると宣言した。エミリたちはニナを守るために強く反対し、ニナ自身も「自分はメイドであり、貴族の夫人は務まらない」と丁重に辞退したが、侯爵は特権階級としての価値観から平民にとっての「幸せな縁談」として押し通そうとした。

ルーステッド・メイドの登場と「師匠」ヴァシリアーチの名
そこへ屋敷から30人ほどのメイド隊が現れ、その先頭に立つ金髪三つ編みの少女キアラが名乗り出た。彼女は名門ルーステッド家から派遣された「ルーステッド・メイド」のメイド長であり、雇用契約上、メイド採用の権限は自分にあると主張し、主人の独断を公然と制した。ニナはルーステッド・メイドの名声に驚きつつも、自身の師匠ヴァシリアーチから「ルーステッド家とは親交を持つな」と教えられているため、改めて屋敷入りを拒否した。キアラはニナの所作や着こなしから師匠の正体を見抜き、ヴァシリアーチを「大酒飲みで人格破綻者、かつルーステッド家の敵対勢力」と評し、その弟子を屋敷に入れることに強く反対した。

メイド勝負の提案と条件交渉
ドンキース侯爵はなおもニナを夫人兼メイドとして迎え入れようとしたが、雇用契約と家の格を理由に譲らないキアラと執事長に押され、議論は膠着した。そこでキアラは「ルーステッド・メイドとしての実力差を見せつける」として、ニナに対しメイドとしての腕前を競う「メイド勝負」を提案した。エミリたちは理不尽さに反発したものの、アストリッドは「ニナが負けるとは思えないうえ、勝てば自由の身になれる」と判断し、勝負を受けることを勧めた。交渉の中でアストリッドは、ドンキース侯爵に対し「ニナに関する情報を外部へ流さないこと」を条件として追加要求したが、その過程でウォルテル公がニナに懸賞金を掛けているという事実が明かされ、一同は衝撃を受けた。

勝負受諾と屋敷内への同行、揺らぐ屋敷内部の視線
最終的に、キアラは「自分が勝てばニナは侯爵の第3夫人としてルーステッド流を学ぶべき」としつつ、「万に一つニナが勝てば旅立ちを認める」と約束した。アストリッドはこの条件を「貴族相手としては破格」と見なし、ニナも皆の後押しを受けて勝負を受諾した。一行は侯爵とメイド隊の後に続いて屋敷内部へ向かうことになったが、その際、ニナは周囲のメイドたちが自分ではなくキアラに冷たい視線を向けていることに気づき、この屋敷の主従関係と内部事情に、どこか歪んだものが潜んでいることを感じ取っていた。

メイド勝負第一戦・洗い場対決の衝撃の同着
勝負の舞台は広大なドンキース侯爵邸の洗い場であり、大量の皿とカトラリー、調理器具を、材質ごとの洗剤や洗い方まで指定した「基礎中の基礎」の作業で競うことになった。キアラは事前に詳細な説明を行い「正々堂々」を強調したが、開始合図と同時に二人は凄まじい手さばきで洗浄を進め、水跳ねも最小限に抑えつつ、全ての食器を同時に洗い上げた。結果は水滴ひとつ残らない完璧な「同着」であり、メイドたちはルーステッド・メイドの技量と、それに並ぶニナの腕前に驚愕した。

洗濯・部屋整頓・石畳磨きでも続く完全な互角
続く洗濯場での大量シーツ洗い、客室の整頓、玄関石畳の磨き対決でも勝負は全て「同着」となった。いずれの作業でも、ニナとキアラは速度と仕上がりの両面で互角の結果を出し、周囲に差を感じさせない水準を示した。ニナ本人はこれらの技量を「メイドなら当然」と捉えていたが、エミリたちはルーステッド・メイドと互角に渡り合う姿から、ニナが王侯貴族が争奪するレベルの人材であることを改めて意識し、同時に貴族からの危険な引き抜きに警戒を強めた。

買い出し勝負と執事人事を巡る価値観の共有
決着をつけるため、キアラは屋敷の大量調達リストを使った「買い出し勝負」を提案した。普段は御用商人が運ぶ量を、紋章のみを頼りに街で直接買い集める内容であり、キアラは店や場所を含めニナにも丁寧に説明した。その途中、ニナはリストの一点に違和感を覚え、がっしりした執事に耳打ちして確認を取る。また、以前ニナに横柄な態度を取った若い執事について、キアラは「屋敷にふさわしくない」として解雇を主張し、執事長は貴族の遠縁という理由で難色を示した。このやりとりから、ニナとキアラが「使用人の振る舞いは主人の評判に直結する」という職業倫理を共有していることが示された。

キアラの先着とニナの到着、重大事態発生の予兆
玄関前で待つ一同の前に、先に戻ってきたのは大量の荷物を抱え汗だくになったキアラであり、リストは完全に満たされていたため、形式上はキアラの「勝利」と判定された。ところがその直後、同等の荷物を軽々と運び、乱れひとつない身なりのニナが帰還し、追加の大きな包みを持っていた点で違いを見せる。ニナはまず件の執事と短く話し、執事長への報告を促したうえで、アストリッドたちに「一大事」であるとして協力を要請した。勝負の勝敗を越えて、買い出しリストの内容か街中での異変に関する深刻な問題が浮上したことが示され、眠っていたドンキース侯爵がようやく状況に気づき始めるところで場面は終わった。

下水道異常の発見と殺鼠剤への違和感
ニナは買い出し中に調達リストの「殺鼠剤」の異常な量に疑問を抱き、侯爵家の地下を通る下水道の経路を役所で確認した。洗い場の排水口から強いネズミ臭がしていたことから、下水本管のネズミ避け魔道具の故障を疑い、地盤確認用の魔道具を追加で調達したうえで裏庭を調査させた。その結果、裏庭の複数箇所に不自然な陥没が見つかり、執事長もネズミ被害の深刻さと自分たちの見落としを認めた。

メイドとしての本質とキアラの敗北
買い出し勝負としてはキアラが先着したものの、ニナは原因調査と根本解決を優先して動いており、その洞察力と行動が執事長から高く評価された。一方、キアラは大量のネズミ発生についてメイドたちから報告が上がっていなかった事実を知り動揺する。ティエンは、キアラの高圧的な態度が報告を阻んでいると指摘し、アストリッドは「関わる全員を快適にする」というメイド業の本質をニナに言語化させることで、キアラが技量は一流でも仲間から信頼されない「裸の王様」であることを浮かび上がらせた。執事長はこれをもってキアラの敗北と認定した。

約束破りと脱出決意、旅を選ぶニナ
しかしドンキース侯爵は勝負の約束を反故にし、騎士や私兵で四人を囲んでニナを手放さない構えを見せる。ニナは自分が屋敷で働けば事態が収まると申し出るが、エミリとアストリッド、ティエンはニナがまだ世界を旅したい気持ちを引き出し、「七大絶景」やティエンの両親探しといった未達の目的を挙げて説得した。ニナは仲間と旅を続けたいと本心を明かし、一行は騎士たちを押し切ってでも脱出する覚悟を固め、エミリが外壁に向けて大規模魔法を放つ準備に入った。

騎士団長グリンチの乱入と皇帝からの召喚
脱出の魔法が発動しかけた瞬間、轟く声とともに巨漢のグリンチ伯爵が兵士を引きずりながら屋敷に乱入した。彼は帝国騎士団長であり、ドンキースですら一瞬ひるむ存在であった。グリンチは「連れていく用事があるのはニナだ」と宣言し、ドンキースとニナの取り合いになるが、最終的に帝国紋章を示して「皇帝陛下の名において、メイドのニナを連れてくるよう命じられている」と告げる。こうしてニナは、侯爵家の拘束を超える「皇帝からの直接召喚」という新たな局面に巻き込まれることになった。

エピローグ 皇帝陛下の思惑と、「メイドさん」一行の思惑と

皇帝陛下の思惑と一行の不安
ニナが皇帝に召喚された理由は不明であり、一行は皇族旗の馬車に乗せられ困惑していた。ニナ本人は自分のせいだと謝罪したが、仲間は責任を否定し、皇帝がなぜニナに目をつけたのか理解できずにいた。傭兵団の件やティエンの月狼族としての事情を推察したものの、どれも決め手にはならなかった。一方で、一行は逃走のために侯爵邸の壁を破壊する覚悟まで共有していたことが明かされ、ニナは仲間の決意の強さに胸を熱くし、四人なら皇帝相手でも乗り越えられると確信した。

皇帝陛下と外務卿の会話
皇帝陛下は報告を受け、ニナが無事確保されたことに満足していた。彼女は白髪の老女で、気品と威厳を備えた人物であった。皇帝は「ニナが首都に訪れていたのは運命」と述べ、開催が迫る「賢人会議」の成功にニナの力を利用する意図を外務卿に語った。この会議は世界の政治・経済・軍事・魔法の未来を左右する重要な場であり、五賢人のひとりトゥイリードが執心するメイドとしてニナを招くことで、議会の円滑化を図ろうとしていた。

皇帝の誤解とニナの真価
外務卿はニナを「妙齢で美しい女性」と想像したが、皇帝はそれを否定し、自身を例に「枯れた女性」であると述べて場を収めた。しかし皇帝は依然としてニナを「賢人を喜ばせる程度の存在」と低く見積もっており、彼女が会議の成否を左右するほどの価値を持っているとは理解していなかった。実際には、賢人会議を取り巻く国際政治の潮流すら影響し得る人物がニナであることを皇帝自身もまだ知らなかった。

特別書き下ろし 月待つ宵に想うこと

ティエンの監視と孤独な夜
ニナが「凍てつく闇夜の傭兵団」に潜入した後、ティエンは屋上からお屋敷を監視し続けていた。昼はエミリと交代で見張り、夜はひとりで屋根に立ち、静まった首都サンダーガードの景色を見下ろしていた。月狼族らしく夜空の満ち欠けを気に掛け、翌日に満月を迎える「宵待月」を眺めながら両親の言葉を反芻していた。

両親への想いと胸に芽生えた違和感
月狼族として育ててくれた父と母の記憶はティエンの支えであったが、潜入中のニナを思う気持ちが強く胸を占めていた。両親に対する会いたい気持ちと、会うことへの怖れが入り交じっていたものの、それ以上にニナの安否が心配で仕方なかった。それが「尻尾のむずむず」として自覚され、両親よりもニナのことを優先してしまう自分に戸惑いを覚えた。

ニナを想う気持ちの自覚
お屋敷の窓に誰かの影を見てしまうほど、ティエンの意識はニナに向けられていた。危険な潜入を自分のために行っていることへの不安と負い目から、ニナを守りたい気持ちはますます大きくなる。両親らしき人物と再会すれば月狼族として旅に戻るべきだという葛藤はあったものの、「ニナと離れたくない」という気持ちが強く心に定着し始めていた。

未来への不安と小さな願い
両親に会ったとき、自分がどう振る舞うべきかを考えたティエンは、ニナと旅を続けたい気持ちが本心であると理解する。両親にニナやエミリ、アストリッドの存在を紹介したいと想像しながら、月を見上げ続けた。両親との別れがニナとの出会いにつながったのなら、再会が別れにならないようにと願い、その願いとともに胸のざわめきは静まっていった。

電子書籍特典 温泉旅情

エミリの解放と懐かしさ
エミリはリゾート地サウスコースト滞在最後の夜、露天風呂で満天の星空を眺めながら温泉を満喫していた。久しぶりの大浴場と露天の開放感に心身が緩み、日本でよく聴いていたおバカな歌を鼻歌で口ずさむほど上機嫌であった。調味料や科学知識を使った商売がうまくいかなかった過去を思い返し、転生後に役立つ知識は限られていたと苦笑していた。

アストリッドの登場と「露天風呂のお酒」
そこへアストリッドが現れ、木の盆に乗せた冷やしたワインを湯に浮かべた。これはエミリが以前語っていた「露天風呂でお酒を楽しむ文化」を試そうとしたものであり、氷を調達したのはニナであった。エミリはそれを知って感激し、仲間が自分の些細な言葉を覚えて実行してくれたことに胸を熱くしていた。

温泉と酒、ふたりの語らい
ふたりは乾杯し、冷たい甘口のワインを味わいながら温泉に浸かった。湯の温かさと酒の冷たさが混じり合う至福のひとときに、アストリッドも次第に表情を緩めた。エミリはこの時間を楽しむ自分を受け止めながら、仲間と一緒にいることで日本での失敗続きだった自分の知識が初めて活き始めたと実感していた。

ニナの気遣いと「いつもの光景」
しかし一番の功労者はニナであり、飲み過ぎを避けるために酔わない量だけを氷で冷やして提供していた。温泉を満喫したエミリは、最終的に宿へ戻って飲み直すことを我慢できず、その後も宴が続いた。こうした賑やかなひとときは、もはや「メイドさん」一行にとって日常の光景であった。

同シリーズ

21417b54af36a7670332160db854b23e 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ
メイドなら当然です。Ⅰ 濡れ衣を着せられた万能メイドさんは旅に出ることにしました
873fdc93b596c69ad5b665ad6a4f6d54 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ
メイドなら当然です。Ⅰ 濡れ衣を着せられた万能メイドさんは旅に出ることにしました 2

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「メイドなら当然です。 2」感想・ネタバレ
フィクション(novel)あいうえお順

小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容

本作は、異世界転生系ファンタジーにおいて、令嬢という身分を活かしながら「商人」としての才覚を発揮し、経済的な手腕で活躍するライトノベルである。前世で商社マンだった令嬢サラが、現世では貴族令嬢として転生し、「お金」という武器を用いて領地再建や交易、商戦といった“富を操る戦い”に挑んでいく。第4巻では、彼女が新たに交易路を確立し、債務危機に瀕した領地を救うために商才と交渉力を尽くす展開が描かれている。

主要キャラクター

  • サラ:本作の主人公。令嬢として生まれながら実務的な商才を持ち、異世界ではその能力を活かして“商人令嬢”としての道を歩む。第4巻では交易の準備と交渉に身を投じる。

物語の特徴

本作の魅力は、「魔法や剣」ではなく「お金=武器・手段」であるという異色の設定にある。多くの異世界ファンタジーが能力者や魔法使いを主人公とするなか、本作では商才と交渉力、資本運用という“経済戦”が主戦場となっており、読者にとって新鮮な切り口を提供している。第4巻では、交易路確立・債務救済・国家間の交渉といったリアルなビジネス的要素が盛り込まれており、「令嬢」「異世界」「商人」という三重の要素が組み合わされている点で他作品と差別化されている。また、主人公が前世の知識を用いる点、令嬢としての特権と商人としての実務を両立させるギャップも読者を引きつける。さらに、巻末には書き下ろしエピソードが収録されており、ファンへのサービスも手厚い。

書籍情報

商人令嬢はお金の力で無双する 4
著者:西崎ありす 氏
イラスト:フルーツパンチ  氏
出版社:TOブックス
発売日:2025年2月20日
ISBN:9784867944684

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレbls_21years_logo 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

領の特産品となるエルマブランデーがいよいよ完成。新商品を売るための商会開店を急ぐべく準備を進めるサラが直面したのは、深刻な人手不足。そこで目を付けたのは――ドロップアウトした女性や不当に他商会に買い叩かれる職人たちだった! 優秀な即戦力のためには、能力を発揮できる環境作りなど安いもの。女性にはのびのび働けるよう託児施設を用意し、職人本来の技術をフルに活かせる環境整備も進めまくる。ビジネスパートナーだった乙女たちも本来の力【ポテンシャル】を開花させ、魅力的な新商品が次々と爆誕していき――?
「あなたたち、人材【たから】の活かし方がなってなくてよ?」
「商人令嬢」の面目躍如。人材確保で金儲けまっしぐら! やり手少女の荒稼ぎファンタジー第四弾!

商人令嬢はお金の力で無双する 4

感想

帳簿整理から祝宴へ――“お金の力”の序章
執務棟で帳簿整理が完了し、ここでサラは単なる支出ではなく、投資としての資金配分を示し、エルマ酒・エルマブランデーという“種”に資源を集中させる姿勢を明確にした。

特産品戦略と職能の再編――ブランドと供給網の設計
エルマブランデーの試飲と命名で、サラは“希少性×品質管理”というブランド設計を打ち出す。同時に、ガラス瓶・木箱・蒸留釜・樽といった周辺産業まで視野に入れ、原材料(珪砂や魔石)と職人ネットワークの再編に踏み込む。ここでの資金投入は、将来の複利を生む“設備投資+人材投資”として描かれ、浪費と一線を画した。

使用人・職人・農の保護へ――ギルド構想と法改正
職人が買い叩かれる構造、女性労働者の脆弱性、小作や雇用農の立場――サラは労働市場の歪みを“制度”で矯正しようとする。ギルド構想の提示、加害行為への厳罰化など、金と法の両輪でボトムを引き上げる点が印象的だ。ここで「お金の力」の本質が、弱者を支えるための“仕組み作り”にあると示された。

女性の教育と雇用――眠れる才能の可視化
コーデリアとの連携、女子実務教育の私塾構想、乙女の塔での雇用創出、サシェや化粧品の内職化――“学ぶ→稼ぐ→生活が安定する”の循環を設計する流れが丁寧だ。元貴族女性や子持ちの女性が能力を発揮できる場が整備され、新商品が次々と生まれる展開は、タイトルどおり“お金の力で無双”を人材面で体現していた。

ソフィアの正体開示と護衛任官――信頼資本の形成
商業ギルド加入、護衛ダニエルの誓い、治癒による戦力回復は、“信用”の獲得と維持を資本に変えるプロセスとして描かれる。ここでサラ(ソフィア)は、美貌や武力ではなく、実務能力・規律・安全の提供で市場の信頼を掴む。

商会開店準備と防衛インフラ――現金主義と可視的抑止
現金決済で流通を一気に回し、音の出る箱を看板に据えた店舗設計、さらに学習型ゴーレムによる治安・防犯まで、オペレーションの“目に見える品質”を徹底。資金の見せ方とセキュリティ投資で、取引先・顧客・街全体の安心を同時に買っている。

シードル着手と技術の段階公開――品質と再現性の両立
狩猟大会に間に合わせるための例外運用(妖精加速)をしつつ、トニアへ製法を段階的に移管する方針は、短期の“話題性”と中長期の“持続性”を両立させる巧手。ここでも“投資対効果”と“技術継承”がセットで語られる。

教育コンテンツと出版投資――識字と会計の社会実装
読み書き・計算・複式簿記の教科書化は、労働市場の基礎体力を底上げするインフラ投資である。印刷・活字・装丁への適正価格発注は、供給側の健全性を守るメッセージとしても強い。

家族・因縁の和解――“血縁”を制度で越える
従兄弟との和解は、力ではなく策で“関係コスト”を下げる政治的合意形成として機能する。侯爵家の男性がやや頼りない分、女性陣が“設計と実行”で家を動かす構図が鮮やかだ。

総括――“浪費”ではなく“資本化”としての金
この巻のサラは、金を「設備・人材・制度・信頼」に変換する。投下資本の回収経路(特産品・ブランド・教育・法整備・治安)を複線化し、負の外部性(買い叩き・暴力・情報漏洩)を制度と技術で抑え込む。だからこそ、王族相手でも“お金の力”で正面から勝てる説得力がある。次巻の狩猟大会とゴーレム開発は、その成果を“場”で検証する実地試験になるだろう。サラの恋模様も含め、資本と人心を同時に動かす物語の続きが楽しみである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレbls_21years_logo 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

サラ(ソフィア)

領政改革、特産品開発、教育制度構築、商会運営など複数分野の中心となり、領内改革の原動力となった人物である。
・所属組織、地位や役職
 グランチェスター侯爵家三男長女/ソフィア商会主導者。
・具体的行動
 酒造計画、女子教育構想、教科書編纂、ゴーレム運用などの改革を実行した。
・地位・影響力
 領政、産業、教育、治安に広く影響する中核的存在となった。

レベッカ

光属性治癒魔法に長じ、女子教育計画や教科書編纂に関わりつつ婚礼準備も進めた人物である。
・所属組織、地位や役職
 グランチェスター侯爵家の婚約者。
・物語内での具体的な行動や成果
 女子教育機関構想を支援し、教育環境整備に寄与した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 教育改革の象徴として公的立場の強化が進んだ。

ロバート

領政の実務を担う文官であり、財政再建や産業支援を通じて領内の改革を推進した人物である。
・所属組織、地位や役職
 グランチェスター侯爵家次男/文官。
・物語内での具体的な行動や成果
 帳簿整理の成果活用、特産品支援、人事・賞与判断などを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領政の中心人物として位置付けられた。

グランチェスター侯爵

領法改正と産業支援を決断した領主であり、改革を政治面で承認した人物である。
・所属組織、地位や役職
 グランチェスター領主。
・物語内での具体的な行動や成果
 暴力・性的加害に対する厳罰化、蒸留所整備支援などを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 改革を実行する政治責任者としての立場が強化された。

ジェフリー

騎士として教育と護衛体制整備を担い、商会の安全保障面を支えた人物である。
・所属組織、地位や役職
 騎士団高位者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ダニエルへの指導、護衛体制の見直しなどに関与した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 商会と軍事面の橋渡し役として重要性が増した。

イライザ

忍びの家系に属し、情報管理と助言を通じてサラの行動を支えた人物である。
・所属組織、地位や役職
 グランチェスター家付きメイド。
・物語内での具体的な行動や成果
 秘密保持と観察、情報整理の助言を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 サラの行動支援における重要性が高まった。

ポルックス・ジェームズ・ベンジャミン

領政実務を支える文官であり、特産品計画や教育制度整備の実務を担った三名である。
・所属組織、地位や役職
 グランチェスター領文官。
・物語内での具体的な行動や成果
 酒造計画、即戦力採用、教科書編纂を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 改革の実務層として影響力が拡大した。

トニア

酒造家として特産品製造の中心を担い、製造工程を主導した人物である。
・所属組織、地位や役職
 ハーラン農園当主。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルマ酒・ブランデー・シードルの生産工程を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領の酒産業の核心人物として評価された。

フラン

蒸留釜の製作に関わり、酒造設備整備に重要な役割を果たした職人である。
・所属組織、地位や役職
 鍛冶職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 蒸留所の設備構築に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 産業基盤の技術担当として位置付けられた。

シンディ

ガラス瓶のデザインを担い、特産品ブランド構築に関わった職人である。
・所属組織、地位や役職
 ガラス職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 高級瓶デザインの候補として選出された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ブランド形成の重要人物となった。

コーデリア

私塾の主宰者として教育制度の中心に関わった人物である。
・所属組織、地位や役職
 私塾主宰。
・物語内での具体的な行動や成果
 教科書編集や学習支援を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 初等教育の基盤形成に重要な役割を果たした。

トマス

複式簿記や教育教本の編集に関わり、教育制度整備を支えた人物である。
・所属組織、地位や役職
 家庭教師/文書担当。
・物語内での具体的な行動や成果
 簿記・計算教科書の原稿作成を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 教育技術者として位置付けられた。

アリシア

魔石再生とマギ開発に携わり、技術分野で成果を挙げた錬金術師である。
・所属組織、地位や役職
 錬金術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔石再生・マギユニット開発を共同で行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魔石技術の核となる立場を得た。

ダニエル

専属護衛となり、戦力として復帰した人物である。
・所属組織、地位や役職
 ソフィア専属護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 誓約と護衛任務を遂行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 武的側近として重視された。

セドリック

従者として商会や関係者の支援を行った人物である。
・所属組織、地位や役職
 従者。
・具体的行動
 案内、雑務、護衛補助を担当した。
・地位・影響力
 商会の基礎業務を支える立場となった。

リック

従者として物流や補助業務を担い、日常運用を支えた人物である。
・所属組織、地位や役職
 従者。
・具体的行動
 運搬補助、雑務、護衛補助を行った。
・地位・影響力
 実務支援の要員として扱われた。

ミケ

酒造や熟成を支える妖精であり、特産品開発に不可欠な存在として描かれた人物である。
・所属組織、地位や役職
 妖精。
・具体的行動
 エルマ酒やブランデーの熟成を加速する役割を担った。
・地位・影響力

小侯爵家(エドワード・エリザベス・アダム・クロエ)

長男エドワードを中心とした一家で、浪費と財政難を通じて領政問題の象徴となった家系である。
・所属組織、地位や役職
 小侯爵家。
・具体的行動
 狩猟大会参加、馬車事故、浪費の露見が描かれた。
・地位・影響力
 領内不安要素としての位置付けが強まった。

展開まとめ

プロローグ

執務棟への帰還と宿題の話題
サラとレベッカは夕刻に執務棟へ到着していた。学友たちとは塔を出た段階で解散したが、トマスとレベッカからそれぞれ宿題を課されていた。サラは数学が前世と同じ記号体系であることから片手間で終えられると考えていたが、この世界にグラフ文化が根付かなかった理由までは深く考えなかった。

帳簿整理完了の歓喜
サラが執務室を訪れると、文官とメイドたちが帳簿整理完了を祝って喜び合っていた。ロバートはサラとレベッカを称え、ジェームズやベンジャミンも達成感から涙ぐんでいた。サラは自分は方法を示しただけで、実務をこなしたのは皆だと述べ、労をねぎらった。

収支確認と貴族社会の税の扱い
収支結果として五百ダラスの過納が判明したが、ロバートは貴族の慣例として返還は求めず寄付として上乗せすると説明した。サラはこれを学びつつ、修正申告の外聞にも触れながら理解を深めていた。

家族・使用人への労いと特別賞与の決定
侯爵とジェフリーも加わり帳簿整理の成功を褒め称えた。サラは本邸使用人の貢献も伝え、侯爵は私財から全員へ特別賞与を与えると宣言した。

サラの呼びかけとロバートの号泣
レベッカの助言を受け、サラがロバートにお父様と呼びかけると、ロバートは感極まって号泣した。レベッカから贈られた名入りハンカチの意味をめぐる貴族社会の慣習説明も挿入され、ロバートは宝物にすると主張したため、サラが自身のハンカチを渡して涙を拭かせた。

領内から届けられた祝いの酒と宴の開始
エルマ酒とエルマブランデーが届けられ、フランの母からの祝いの品であることが伝えられた。侯爵はその場で仕事の終了を宣言し、遊戯室で酒宴を開くよう命じ、執務室は歓声に包まれた。

遊戯室でドキドキワクワク

遊戯室の雰囲気の変化とロバートの著作
サラは文官やメイドたちと遊戯室へ移動し、カーテンや小物の配置が変わったことで、時代がかった趣を残しつつも柔らかい雰囲気になっていることに気付いていた。飲酒できないサラはエルマの搾り汁を飲みながら室内を見回し、新設された書棚にミステリーやロマンス小説とともにロバートの著作が並んでいるのを見つけた。イライザから、ロバートの本がロマンス小説としてメイドに人気であり、一部では嫁入り前の闇教育の教科書案まで出たと聞かされ、サラは咽せつつもその内容に納得していた。

イライザの忠告とシノビ一族の告白
イライザは、自分の家系が代々グランチェスター家に仕える家令ジョセフの一族であると明かし、サラが「普通のお嬢様」ではないことを使用人側は既に察していると告げた。使用人は多くの目と耳を持つため、情報共有を制限しなければ王都の邸や他家の密偵に筒抜けになると忠告し、絶対に隠すべき事柄は徹底的に隠す必要があると諭した。サラが防音魔法で二人だけを包むと、イライザはサラの防音魔法、ソフィアへの変身練習、他家で妖精と友人になった件まで把握していることを示し、しかしソフィアとサラが同一人物とは誰にも知られていないと伝えた。さらにイライザは、自分たちの先祖がグランチェスター家の始祖カズヤに「シノビ」と呼ばれた一族であり、ゼンセノキオクを持つ者を真の主として待っていたと告白し、以後は侯爵に仕えつつも忠誠はサラに向け、命令が矛盾すればサラを優先すると誓った。サラはその重さと中二的な設定に内心ツッコミを入れつつも、狩猟大会中は迂闊に自分の情報を晒さぬよう注意を受け入れた。

ロバートのロマンス小説暴露と出版構想
侯爵に呼ばれて輪に戻ったサラは、遊戯室にロバートの本が並んでいることを話題にし、イライザがそれを大人向けのロマンス小説と説明したことで、ロバートは慌てふためいていた。サラはベンジャミンもファンであると容赦なく暴露し、レベッカから自分にはまだ読ませないと言われていることも含めてあっさり語った。侯爵は娘に教育上よろしくない本を書いたと茶化し、サラはメイドたちに人気であることを理由に、過激な描写を編集した全年齢版を用意したうえで正式出版し、商会から販売する案を提示した。侯爵とジェフリーは大笑いし、ロバートは父親の威厳を崩されて涙目になったが、サラは話題を切り替えることで一応フォローした。

エルマブランデーの試飲と特産品戦略
サラはエルマブランデーをまだ飲んでいない皆に試飲させることにし、文官・執務メイドを含めて一人一杯ずつ配らせた。侯爵とロバートにも渋々振る舞ったうえで、これを新しい領の特産品としたい意向を説明した。ポルックスは、エルマ酒とはまったく別の酒でありながらエルマの風味が凝縮された素晴らしい酒だと絶賛し、ジェームズやベンジャミンも特産品として十分通用すると評価した。サラは一樽のエルマブランデーを造るのに五〜十樽のエルマ酒が必要であり、そのエルマ酒自体が評判のハーラン農園産であることから、極めて贅沢な酒になると説明した。ポルックスは自分が愛飲している酒が原料だと知って固まり、ジェームズは王室献上や贈答品需要を見越してエルマ農園や醸造所の拡張を検討すべきだと促した。

トニアからの手紙とハーラン家の事情
マリアがフランの母トニアからの書状をサラに渡し、そこには大量購入とブランデー試飲への感謝、新たな特産品づくりに関われる喜び、今後の樽需要への相談の申し出、そしてロバートとオルソン子爵令嬢の婚約およびサラの養子縁組への祝意と、祝いとしてのエルマ酒進呈が記されていた。ポルックスはハーラン農園がグランチェスター一のエルマ酒を造る名門であり、農園主トニアが潰れかけた農園を買い取り立て直した伝説的な女傑であること、夫は農具を作る鍛冶師で農園経営に関わっていないことを説明した。さらにフランの家系は、父が農具、祖父が建具や錠前、曾祖父が蒸留釜や食器と、それぞれ得意分野が違う変わり者揃いで、皆が親ではなく別の師に弟子入りした経緯も明かした。サラはフランが本来武器を作りたかったことを知り、蒸留釜を頼んだことに一瞬逡巡しつつも、家系の多様性を理解した。

エルマブランデー事業の具体計画とブランデー一般の話
サラはエルマブランデーを本格的な特産品にするため、エルマ栽培の拡大、醸造所と蒸留所の新設、人材育成、熟成蔵の確保が必要だと述べた。ポルックスやジェームズ、ベンジャミンはすぐに仕事モードに戻り、村ごとの共同蒸留所案や、樽ごとの味を把握してブレンドする専門家育成の必要性などを議論した。サラは「エルマブランデー」と名付けた理由として、ブランデーが本来「焼いたワイン」を意味する言葉であり、ワインを蒸留して造る酒一般を指すことを説明し、遠い国ではブランデーに適したクセの強いワインをわざわざ造っていると語った。この情報に文官たちは衝撃を受けつつ、アヴァロンには存在しない酒であると確認した。

音の出る箱と化粧箱・ガラス瓶の企画
カストルが打ち上げなのに皆が仕事顔をしていると苦言を呈したところ、サラは今後は商会の流通や職人手配で彼も関わることになると告げた。さらに、ジェームズの婚約者シンディが遊戯室に招かれ、サラは彼女にエルマブランデーを試飲させたうえで、王室献上品となる酒瓶のデザインを依頼した。シンディは自分の腕前を王室献上品に使うことに怯み、父や兄の作品を推したが、侯爵が領内のガラス職人全員に瓶づくりを呼び掛けコンテスト形式で選ぶ案を出したことで、シンディも参加を受け入れた。サラはガラス瓶コンテストに加え、木製化粧箱の必要性にも言及し、レベッカが持ってこさせた「音の出る箱」を披露した。箱を開けると魔石に記録された音楽が流れる仕組みに、皆は大きな驚きを示し、これをエルマブランデー用化粧箱兼単体商品として商会が販売する計画を共有した。

資源管理とガラス職人の構造問題
サラは音の出る箱に魔石が必須であり、一定以上の質の魔石が必要なため、安定供給の仕組みづくりが急務であると指摘した。さらに、ガラス瓶需要の急増で珪砂や金属材料が不足することを予見し、珪砂を含む鉱物資源が領の所有物である以上、無断採取は窃盗に当たり管理を強化すべきだと述べた。これを聞いたシンディは、今までの珪砂使用が黙認されていた事実を思い出して狼狽し、カストルが過去の行為は不問にするが今後は有料での利用になると説明した。サラはガラス職人がギルドを持たず、多くが商家のお抱えとして専属契約を結び、値下げ要求に抗えない構造にあることを聞き出し、「競争原理」が働かず職人が買い叩かれている現状を問題視した。

ギルド構想と労働者保護の提言
サラは、商家が優位な立場を利用して職人を不利な条件に追い込めば、技術継承が途絶し、商家自身も高品質な商品を失うと説明し、同業者が団結するギルドの必要性を説いた。ガラス職人のギルドや、人数の少ない職種を束ねる総合職人ギルド、さらに商家偏重の商業ギルドとは別に、労働者側を守る仕組みを設けるべきだと主張した。そして、これは職人に限らずすべての労働者に起こり得る問題であり、不当な報酬、理不尽な解雇、嫌がらせや暴力・性的強要など、権力による理不尽が存在することを指摘した。サラは「嫌なら辞めろ」「嫌なら他から買う」といった言葉がいかに労働者を追い詰めるかを述べ、権力が暴走しないよう対抗手段としてギルドや制度が必要だと強調した。

シンディの涙と領主・文官への問題提起
シンディは、祖父が商家の横暴に耐えかねて独立したものの、長く買い叩かれ続けてきた過去を思い出し、領主一族の中に自分たちの立場を理解してくれる者がいることへの感激から涙を流した。ジェームズは婚約者を慰めつつ、長年文官たちを苦しめてきた案件が解決し、ようやく結婚式を挙げられると語り、侯爵はジェームズの滅私奉公に謝意を示した。サラはここから話を広げ、労働によって対価を得て家族を養うのが人の営みであり、労働者の権利が不当に侵害されれば、心身の不調や犯罪にまで繋がると説いた。文官たちは、自分たちがアカデミー出身のエリートであり職場を選べた特権階級である一方、多くの労働者はそうでない現実に気付かされ、衝撃を受けた。

農業とギルド、領政改革への線引き
サラは、ガラス職人だけでなく小作農や雇用農民も守られるべき労働者であることを指摘し、農業系ギルドの不在をポルックスに質したうえで、農協のような組織の必要性をほのめかした。ただし、あまり踏み込み過ぎれば領政改革そのものになるため、最終的な制度設計は領主・次期領主・文官と領民の声で決めるべきであり、自分のように商会側に近い人間が口を出し過ぎると公平性が損なわれると一歩引いてみせた。侯爵は、領民を守ることが領を富ませることだというサラの主張を認め、労働者保護とギルド設立を含む今後の領政を真剣に考えねばならないと悟っていた。サラは、自身の役割は特産品の開発と商会の商品企画であり、制度面は領主側の責務だと線引きしたうえで、仕事量の増加に応じた自らの報酬を侯爵の私財から支払わせることにも抜かりなく合意させていた。

結婚は人生のゴールではない

ロバート夫妻とジェームズの結婚式計画

遊戯室での議論が一段落した頃、ロバートとレベッカがこそこそ話している様子にサラが気付き、声を掛けた結果、ジェームズが案件解決まで結婚式を延期していた話が自分たちにも刺さっていたと判明した。さらに、シンディから「やっとご婚約されたのですね」と言われたことで、ロバートの長年の優柔不断ぶりが一般領民にまで知られていることが露呈し、場は笑いに包まれた。ロバートとレベッカは、自分たちの結婚式のために城内の古いホールを改装する計画を語り、その会場をジェームズとシンディにも使ってほしいと提案した。シンディは「花嫁が城に負けそう」と恐縮したが、レベッカはガーデンパーティ形式を提案し、気軽に使える場として案内したいと申し出た。

ステンドグラスと父親たちの娘への執着

ホールの話題から、シンディは父がステンドグラスを得意としていると明かし、改装するホールにステンドグラスを入れてはどうかと提案した。サラは自分の将来の結婚にも言及しようとしたが、ロバートは「サラは嫁に行かないよね!」と過剰に反応し、娘を手放したくない父親としての未練を露わにした。レベッカは、十年以上待たされた側としてロバートを軽くいなし、シンディも「うちの父も同じ」と、職人として名を上げつつある娘を手放したくない父の様子を語った。ジェームズは、初めて挨拶に行った際、ハンマーを持って待ち構えていた義父に対し、「職人としてのシンディを愛しているので、結婚しても家事はさせず、メイドを雇う」と宣言したことを明かし、周囲を驚かせた。

サラの気付き──結婚はゴールではない

ジェームズの「家事はさせない」という言葉をきっかけに、サラはこの世界の家事・子育ての負担構造を思い起こした。便利な家電も保育施設も無く、家事は女性の仕事と見なされ、一日の大半を費やしている現状を整理し、結婚や出産が女性の社会参加を大きく制限していると分析した。寡婦や年配女性の就労機会は限られ、子を預ける行為に対する偏見も強いことから、女性が自立しにくい構造が続いていると理解したサラは、「結婚は人生のゴールではない。その先に長い現実が続く」という認識を心に刻み、女性の雇用創出と家事負担の軽減が人手不足解消にもつながると結論づけた。ただし、これはすぐに解決できる問題ではなく、後にじっくり取り組むべき課題として記憶することにした。

人手不足と技術の秘匿・公開を巡る議論

話題は再びエルマブランデーに戻り、サラは文官・職人・農夫・大工・鉱夫など、多方面で人手不足が深刻化していることを指摘した。エルマブランデーの増産には蒸留釜を作る鍛冶師、樽職人、木工職人、ガラス職人、鉱夫、エルマ農園主などの技能が不可欠であり、製造工程をどこまで公開するかが問題となった。サラは、技術を秘匿すれば領の独占利益は大きくなる一方、粗悪な模倣品が出回れば「エルマブランデー」全体の評判が損なわれると懸念した。侯爵は小麦の等級管理を例に出し、信頼とブランド価値の重要性を語り、高品質生産者の育成と評判維持の難しさを共有した。文官不足については、新卒だけでなく退職文官など経験者の中途採用も検討すべきだというサラの提案が受け入れられ、「即戦力」という概念が持ち込まれた結果、八歳の令嬢やガヴァネスに執務を押し付ける現状を自虐的に反省する流れとなった。

職人街周辺の女性たちの実態

シンディは、領都外れの工房周辺に、寡婦や一人暮らしの貧しい女性が多く住んでいる実情を語った。そこはアクラ川支流に近く、多様な工房が集中するため、炊事や洗濯などの下働きで生計を立てる女性が集まっている一方、職場の過酷さから身体を壊して解雇される者も多いと説明した。さらに、職場で暴力や性的な被害を受ける女性も存在し、怪我や心の傷で働けなくなりながらも、子供を養うために訴え出ることさえ躊躇せざるを得ない状況を明かした。サラはこれを聞いて激昂し、グランチェスター領の法が本当に彼女たちを守っているのかを侯爵に問い質した。

既存法の問題点とサラの糾弾

侯爵は、暴力行為に対して賠償金と加害者への苦役を定めた領法の存在を説明し、領の巡回兵による調査と処罰の仕組みを示した。しかし賠償額が「被害世帯の年収と同額」であると聞いたサラは、貧しい女性世帯の再出発にはあまりにも少額であり、法が貴族や富裕層だけを想定しているのではないかと指摘した。シンディも、あの程度の賠償では生活再建に足りず、被害を受けながらも訴え出ない女性が多いと証言した。これを受けてサラは涙を流しつつも、知ってしまった以上、領主として善処しなければならないと訴え、侯爵も自らの不十分さを認めた。

領法改正と性的暴力への厳罰化

その後、この年の領法改正により、暴力に対する損害賠償金には下限額が設けられ、特に性的暴力への罰則が大幅に強化された。加害者の氏名と職業は公表され、額・頬・首筋などの目立つ部位に、性的暴力の加害者であることを示す焼き印が押されることとなった。焼き印は火属性魔法で刻まれ、治癒魔法で消そうとすると即座に領へ通知される仕組みが施された。サラは異世界らしい容赦のない制裁に恐怖を覚えつつも、被害者の尊厳を踏みにじった加害者に同情することはなく、弱者を守るための現実的な措置として受け止めた。こうして、結婚や家族の物語から出発した遊戯室の談笑は、労働と暴力、法と権利というより重いテーマへとつながり、「結婚は人生のゴールではなく、その後の生活と労働環境こそが守られるべき」というサラの認識を確かなものにした。

レベッカの野望

元貴族女性たちと就労の厳しさ

シンディの説明により、サラは工房周辺に、夫を亡くしたり離縁されたり、実家没落などで頼るべき家族を失った元貴族女性やメイド経験者が多数暮らしている実態を知った。彼女たちは下働きとして働く者もいれば、病気や怪我、暴力被害で仕事を失い困窮している者もいた。シンディに読み書きを教えた元男爵令嬢も、離縁と実家からの追放で一人になり、内職と子どもの教育で生計を立てているが、その教え子からはアカデミー進学者も出ていた。

サラの発想とレベッカの「教育機関」案

サラは、元男爵令嬢の教え子たちを「執務メイドのように働ける人材」として育成し、自商会や関連部署で雇用する構想を示した。読み書きと計算ができる女性に簿記や執務補助を教え、適性に応じて配属する案である。これに対しレベッカは、サラの主張を肯定しつつ、女子教育を中心とした小規模な教育機関、すなわち執務メイドや事務職の育成を目的とする「学校」を作る構想を明かした。自身が学べなかった経験と、十年前に得た賠償金を資金として投入する意向も示し、それを「夢」として語った。

公立か私立か、女子教育の位置付け

侯爵とロバートは、領の公立学校として整備する案を示したが、サラとレベッカは反対した。公立とする場合、男子中心の高等教育機関になる可能性が高く、女子教育に対する社会的抵抗も大きいと判断したためである。そのため、まずは商会が運営する私塾的な小規模校として試行し、女子を中心に実務教育を行う形が現実的と結論づけた。新しい簿記教育や執務メイドの育成に文官たちも強い関心を示したが、サラは「卒業生の就職先は本人の選択に委ねるべき」と釘を刺し、需要過多な状況が女性たちの待遇改善につながると指摘した。

執務メイドの法的扱いと待遇改善

議論の中で、執務メイドが「グランチェスター家の使用人」であり、文官は「領が雇用する公的職員」であるという所属の違いが改めて確認された。文官が当然のように執務メイドの労働力を当てにしている現状は、本来、領主家の私的財産を無断使用しているのと同義であるとサラは指摘した。これを受け、執務メイドを「領の下級文官」として位置付け直し、グランチェスター家から領への出向扱いとし、その対価として「給与負担金」を支払う案が採用されることになった。この仕組みにより執務メイドの待遇は文官クラスへ引き上げられ、連動して他の使用人の待遇見直しも行われた結果、他領からもグランチェスター領で働きたい人材が増えていく土台が整えられた。

乙女の塔と女性人材の新たな受け皿

サラは、乙女の塔が既に自分個人の所有物であることから、これまで城のメイドに頼っていた清掃・管理を、今後は専属使用人として自ら雇用すべきと判断した。シンディの恩師を初等教育の教師として迎え、その集落から希望者を塔や商会で雇う構想を示し、レベッカには現地訪問と面談への同行を依頼した。また、女性だけで訪問する方が安心されやすいことから、ソフィアを中心とした女性陣による聞き取りを計画した。

女性の新しい道を開く「同志」たち

最終的に、サラは女性の就労・教育の拡充と、公正な待遇・法的保護の強化を長期的な課題として明確に意識した。レベッカは女子教育の「夢」を現実の計画へと進め、シンディは職人としての立場から協力を約束した。三人は身分や年齢の違いを超え、女性が男性に依存せず生きていける道を模索する同志として結びつくことになった。動揺と緊張の続いた一日を経て、シンディは心からの笑顔を見せ、その笑みが新しい時代の予兆であるかのように場を明るくしていた。

明日を夢見て今日は寝る

就寝前の安堵とマリアの決意

宴席から自室へ戻ったサラは一人になって安堵し、湯浴み後にベッドへ飛び込んだ。付き添うマリアは、自分は執務メイドよりもサラの侍女になりたいと告げた。グランチェスター家では能力本位で平民出身でも侍女教育を受けられるが、王都の小侯爵一家では身分重視へ傾き、この伝統が失われつつあることに触れ、人材育成の難しさをサラは思案していた。

王都小侯爵家の浪費と貴族社会の価値観

忍びの通路から現れたセドリックと妖精リックは、小侯爵家で狩猟大会用に高級馬車七百ダラスと宝飾品五百ダラスが新たに購入されていた事実を報告した。王都の多くの貴族は「働いて稼ぐ」行為を卑しみ、領地経営や事業に積極的でなく、商売での収入も表向きは隠す体面重視の価値観を持つと説明される。政治や金の話を公にできない貴族女性として、サラは自分が社交界に不向きだと自嘲した。

狩猟大会の準備とサラの現実逃避

レベッカは光属性の治癒魔法を使える「聖女」として社交界で知られ、ロバートとの婚約公表と狩猟大会によって、その娘であるサラも強い注目を集めると知らされる。既にサラの社交界プレデビュー用の衣装が大量に仕立てられ、従姉妹クロエも並び立つために散財していると聞かされ、サラは自らも浪費の一因であると頭を抱えた。最後に彼女は「明日は素敵な人と会える」と自分に言い聞かせ、現実からそっと目をそらして眠りにつく。

ソフィアの正体と領都の外れの集落への招待

ソフィアの正体の開示と「社会勉強」の提案

翌朝サラは、女性たちの集落訪問の段取りをシンディと取り付けたうえで、ジェフリー邸で今後の予定を協議した。狩猟大会・商会手続き・教育施設構想に時間を割くため授業時間を減らすと告げると、トマスはそれを社会勉強と位置付け、スコットとブレイズの同行を提案した。ジェフリーも息子たちに「騎士にこだわらず自分の道を探せ」と促し、同行を願い出たことで、サラはソフィアの正体を明かす決意に至った。

変身したサラとブレイズの受容

人払いの後、サラは衝立の陰でミケの能力を使い、成長した姿の「ソフィア」へと変身した状態で皆の前に現れた。サラとソフィアが同一人物であると知り、スコットとトマスは驚きつつも事情を理解する。一方、命の恩人と慕ってきたソフィアがサラ本人だと知ったブレイズは沈黙したが、やがて自分は無意識に二人を重ねていたと明かし、感謝と敬愛を述べてサラの手に口づけした。これにより、彼が今後の最強の恋愛ライバルになると周囲は悟った。

女性たちの集落訪問とフランの決意

昼食後、成長姿のソフィアとレベッカは、女性が多く暮らす集落へ馬で向かった。女性中心の場に突然男手を入れるのを避けるため、男性陣は今回は待機とされた。集落奥のコーデリア宅を訪ねると、警戒役としてフランが対応し、客がレベッカであることを確認してから師を呼びに行く段取りを説明した。フランは、以前の武器工房を離れた経緯と、天才鍛冶師テレサへの想いを語り、結婚後も彼女の才能を活かすため家事は集落の女性たちに有償で依頼するつもりだと述べた。この姿勢は、女性の就労と家事外注を結び付けようとするサラの発想とも響き合い、ソフィアとしての初訪問は上々の手応えとなった。

コーデリアへの提案

コーデリアとの初対面と人材確保の事情説明

ソフィアとレベッカは、集落で子どもたちに読み書きを教えるコーデリアと対面し、貴婦人としての品格を備えた人物であることを確認した。ソフィアは自らが新たな商会を立ち上げたこと、その商会の雑務や将来の実務を担う人材として、既存の商家に紐づかない教え子を紹介してほしいと依頼した。横領問題に絡み他商会との癒着を避けたい事情を率直に示し、読み書きと計算を備えた若い女性を商会側で職業訓練する方針を伝えたのである。

女子教育機関構想と学費・給食制度の提案

続いてレベッカは、女子にも高等教育を開く私塾的な学校を設立したいという長年の願いを語り、新帳簿の付け方やグランチェスター式書類作成、執務メイド相当の技能やマナーを教える教育機関構想を説明した。学費負担を懸念するコーデリアに対し、ソフィアは初等教育は無料、高等教育は成績優秀者に授業料免除を与える仕組みを提案し、さらに昼食を無料提供することで貧しい家庭にも通学の動機を与える案を示した。レベッカはこれに料理人見習い育成を組み合わせる案を重ね、給食と職業訓練を両立させる構想へと発展させた。

教師としての招聘とコーデリアの条件

ソフィアはコーデリアに、初等教育の主担当教師として新設校で教鞭を執ってほしいと正式に依頼した。コーデリアは、ここで育てている教え子たちもまとめて入学させ、引き続き面倒を見られることを条件として提示し、特にアカデミー進学を目指せるほど優秀な子どもについて、高等教育と新帳簿の知識を学ばせたいと望んだ。ソフィアは、その知識は将来グランチェスター領の文官を目指す者に有用であると保証し、コーデリアもその意義に強く納得した。これにより、商会の人材確保と女子教育機関の中核として、コーデリアが協力する道筋が固まったのである。

集落の女性たち

集落の女性への内職依頼と教育構想の共有

ソフィアはコーデリアに対し、狩猟大会向けのサシェや巾着を大量に内職として依頼したいと申し出た。貴婦人向け商品としてレースや刺繍を施した華やかなデザインを想定し、美容用ハーブティや精油なども合わせて展開する方針を示したのである。コーデリアは「打てば響く」理解力を見せ、女性たちを直接集めて話を聞かせる場を設けることにした。

横領事件で取り残された女性たちと雇用・託児の議論

集められた女性の中には、レベッカの元専属メイドであり、横領事件で夫に捨てられたキャサリンらがいた。彼女の証言から、同様に夫や父に置き去りにされた女性・子供が多数存在する実態が明らかになる。ソフィアはサシェ内職の継続発注に加え、乙女の塔で働く掃除・洗濯・料理要員の募集を提案し、男性が怖い女性や子持ちの女性についても、無理をさせず配慮しながら雇う方針を示した。ただし研究施設の危険性から、子連れ就労や託児の在り方については慎重に検討する必要があると結論づけている。

職人情報の収集と公正な取引先選定

ヘレンたちとの対話を通じて、近隣に織物・染色・木工・金属加工など多様な工房が集まっていること、評判の良い職人や逆に女性に酷い扱いをした職人の情報が共有された。ソフィアは女性職人姉妹の布を優先的に仕入れる意向を示し、デザインに優れた子ども(少年)に試作品と指導を任せる可能性も検討する。ただし「徹夜禁止」「健康最優先」を条件に掲げ、質を保った持続的な生産体制を志向している。

ガラス工房との連携強化とシンディの職人継続問題

その後ソフィアとレベッカは、シンディの家族が営むティム工房を訪問し、エルマブランデー用の分厚い酒瓶と王家献上用の飾り瓶のデザイン・価格・納期を詰めた。珪砂を有料化せざるを得ない事情から、商家との価格交渉や専属契約の見直し、さらには職人ギルドの必要性にも思いを巡らせる。一方で、会計官として出世したジェームズの妻となるシンディは、職人を続けるべきか悩んでいた。父マットはシンディのガラス工芸の才能を高く評価し、文官の妻になるために才能を捨てることに反対の立場である。レベッカとソフィアも「ジェームズは職人シンディを望んでいるはず」と説き、本人にきちんと話し合うよう促しつつ、ソフィアは商会の戦力としても彼女に職人を続けてほしいと願っていた。

商業ギルド

ソフィア商会本店の確認

ソフィアとレベッカは領都中心部に到着し、侯爵が用意した「ソフィア商会」の本店を視察した。建物は大商会級の石造りで内装も整い、一階は富裕層向けの格式高い店舗、二階は執務室や空き部屋という構成であった。既に建物管理用の使用人も雇われており、ソフィアは運営開始を急ぐ必要性と、アメリアの商品用に庶民にも入りやすい別店舗を用意すべきだと考えた。

商業ギルドへの単独訪問

本店視察後、ソフィアはレベッカと別れ、馬車で商業ギルドへ向かった。グランチェスター家色を薄めるためレベッカは同行せず、ソフィアは男装からドレス姿に着替え、化粧も整えて「油断させる」外見で臨んだ。商会長が徒歩や騎乗で現れるのは威厳に欠けるという侯爵の意向もあり、護衛付きの馬車で堂々と乗り付けたが、その美貌ゆえ受付ホールで強烈に目立ち、多くの者の視線を集めてしまった。

ギルド長との面談と加入承認

応接室ではギルド長コジモとその部下二名が待ち受けていた。申請書類自体に不備はなく、ギルド側はソフィアと商会の実態を直接確認したかったと説明した。ソフィアは、ハーブティやエルマ酒、サシェなどを主力商品とする方針を淡々と語り、王都からグランチェスター領に移った理由を「恩義ある知人を頼ったため」とだけ明かした。コジモたちは、領主一族が何らかの形で関わると察しつつも、その容姿から「愛人や庶子」といった安易な推測に傾き、深追いは避けた結果、ソフィア商会のギルド加入は問題なく承認された。

言い知れない不安ーSIDE コジモー

コジモの違和感と警戒

商業ギルド長コジモは、豪奢な応接室と服装でソフィアを迎え、背後にいる貴族の素性を探ろうとした。ロバート卿や侯爵家の妾・庶子説まで思考を巡らせるが、ソフィアの清廉な雰囲気は既存の妾像と一致せず判断に迷う結果となった。深入りすれば後ろ盾の貴族の機嫌を損ねかねないと悟り、加入申請に署名する。しかし微笑むソフィアから猫科の猛獣を思わせる気配を感じ取り、己の直感に言い知れぬ不安を覚えるに至った。

護衛は視た―SIDE ダニエルー

ダニエルの驚愕と就職

元騎士団員ダニエルは護衛対象のソフィアの美貌と気品に圧倒されつつ、商業ギルド内で向けられる好奇と不埒な視線を強面で牽制し続けた。ギルド長の無礼な物言いに殺気を漏らしかけたことも、ソフィアには魔力の揺らぎとして見抜かれており、その洞察力に舌を巻く結果となった。帰路では猪を無詠唱魔法で仕留める戦闘力と、淑女らしからぬ実務能力を目の当たりにし、護衛の必要性に疑問すら抱く。一方でジェフリー家の温かな受け入れにより、ダニエルはソフィア専属護衛として長期雇用が決まり、胸の高鳴りと共に自らの心臓の持久力を密かに案じることになった。

騎士の在り様

騎士の誓いと「在り様」
ソフィアとしてジェフリー邸に戻ったサラは、商業ギルドからの帰還報告と共に護衛ダニエルの働きを称えた。ダニエルは、猪を無詠唱魔法で先に仕留めたソフィアを見て「本当に護衛が必要なのか」と戸惑いを示したが、ジェフリーは「騎士とは肩書ではなく心の在り様だ」と諭し、主君への忠誠・弱き者への慈愛・武勇は誰かを守るためにこそあると説いた。その上で、ソフィアには「ただの護衛ではなく、忠誠を誓う騎士が要る」と宣言し、ダニエルに主従の誓いを促した。ダニエルは自ら膝をつき、剣を肩に受けてソフィアへの生涯の忠誠を誓い、ソフィアもそれを正式に受け入れた。

ジェフリー親子の葛藤とダニエルの本心
突発的な主従の誓いに対し、スコットとブレイズは「人となりも知らぬ相手に誓わせるのはおかしい」「ソフィアは護衛が要るほど弱くない」と反発したが、ジェフリーは「騎士の誇りを傷つける戯言」と一喝し、二人にダニエルへの謝罪を命じた。応接室に移動した後、サラは正体を明かし、ソフィアとサラが同一人物であることをダニエルに示す。ダニエルは驚愕しつつも、「姿形がどうであれ忠誠は変わらない」と再確認した。さらに彼は、ソフィアへの一目惚れに近い恋慕を認めつつも、それ以上に「騎士として仕えたい」という願いが強いことを告白する。領主と対立し得る立場であるソフィアの意思を守りたいという動機から、退団後に改めて「誰を主君と仰ぐべきか」を自問し、その結論として主従の誓いを選んだことも明かした。

治癒魔法による再生と実戦での確認
ソフィアは正式雇用を見据え、ダニエルの負傷の内容を確認する。彼はサーベルベアの爪で肺を損傷し、長時間戦闘が難しいため騎士団を退団した経緯を説明した。サラは「護衛に支障がない」と強調するダニエルに対し、光属性を帯びた高度な治癒魔法を施し、肺だけでなく大腿部や腕の古傷まで含めて修復する。体内外に無数の光が流れ込んだ結果、ダニエルは長年続いた息苦しさから解放され、完全な健康を取り戻したことを自覚した。ジェフリーは「そんな技があるなら先に言え」と嘆きつつも、既にダニエルが新たな主君を得たことを認めるしかなかった。

稽古とそれぞれの決意
サラはソフィアの姿に戻り、双剣を手にダニエルと模擬戦を行う。勝利こそ逃したものの、元一流騎士を驚かせるほどの立ち回りを見せ、その実力を証明した。この様子を見ていたスコットとブレイズは、自分たちでは勝てない可能性を認め、勉強・剣術・魔法のすべてで鍛錬を積む必要性を痛感する。日暮れまで稽古に付き合ったサラは、夕食中に舟をこぎ始めるほど疲労し、その夜に訪れたセドリックの報告にも気付かず熟睡した。セドリックは「明日まとめて報告しよう」と告げて退室し、こうしてサラのもとには「文のトマスと武のダニエル」と評される二人目の側近が正式に加わることとなった。

商会の開店準備

人員確保と本店一階のコンセプト
サラは開店準備の二週間のあいだに、商業ギルド経由で十名の従業員を雇い入れた。採用に際してはセドリックの調査を用い、他商会や商業ギルド幹部と露骨に紐付いた志望者を排除し、全員に魔法による機密保持契約を結ばせていた。本店一階は、半分をハーブティやエルマ酒の試飲ができるカフェスペース、もう半分を商品展示スペースとし、常に「音のなる箱」から音楽が流れる店づくりが進められた。この箱は受注生産品として販売され、装飾や詰め合わせにも対応する計画であった。

エルマブランデー製造体制の構築
エルマブランデーのために、侯爵は没落商家の煉瓦倉庫を私財で買い取り、ソフィア商会名義の新蒸留所としてサラに譲渡した。フランは仲間の鍛冶職人と共に、乙女の塔と同仕様の蒸留釜を二基、短期間で製作・設置していた。一部の素材はサラの土属性魔法で補われ、テレサとアリシアもその実証に関心を示していた。塔から移設した蒸留釜とテオフラストス門下の錬金術師により、フラン兄嫁のエルマ酒を原料とした蒸留が行われ、品質がトニア製と遜色ないと判明すると、サラは兄嫁のエルマ酒を全量買い上げた。狩猟大会向けには小振りのオーク樽で早期熟成を図りつつ、本来の酒造りへの敬意と「ミケによる即席熟成」への後ろめたさを胸の内に抱えていた。

ハーブティ・サシェ・化粧品と女性たちの雇用
ハーブティ販売用の茶箱は木工職人を抱える商家経由で大量発注され、小振りでプレゼントにも適した杉板+ブリキ仕様とされた。底には商会の焼き印が押され、女性たちの集落で作られた巾着に入れて、レベッカ主催の女性限定お茶会で爵位に関係なく一律配布する方針が決められていた。一方で、秘密の花園由来の精油・アロマキャンドル・ハンドクリームなどは、公爵家・侯爵家に重点提供し、他には試供のみとする在庫配分が採られていた。サシェや巾着は女性たちの横のつながりによる内職網で量産され、そのデザインは十歳の少年が担当し、高品質な仕上がりからデザイナー契約が打診されていた。アロマキャンドルは薬師ギルド経由で技術を伝え、女性たちの集落や修道院の子供、老人や負傷者を積極的に雇用する形で生産が行われた。ハンドクリームはアメリアが品質最優先で手作業製造し、城のメイドたちから絶賛を受けていた。

養蜂・蜜蝋・蜂蜜と将来構想
秘密の花園で採れる蜜蝋は品質が高く、化粧品用に限定使用され、アロマキャンドルには他商会から購入した蜜蝋が使われた。蜂蜜は現時点では勉強の合間のおやつとして温存され、特にブレイズの喜ぶ顔が優先されていた。ハーラン農園も養蜂に関心を示しており、将来的にはエルマの花の蜂蜜生産も視野に入れられていた。妖精を介して蜜蜂に直接依頼できる可能性もあり、来年以降の展開として期待されていた。

書籍部と印刷・製本工房への投資
本店二階には貴族向け応接室のほかに「書籍部」が設けられ、ハーブティのカタログや楽譜、教科書、小麦収穫予測の論文、ロバートの恋愛小説など、多様な書籍が並ぶ構想が進んでいた。過激描写を含むロバート作品は奥の続き部屋に隔離され、長編三シリーズと多数の短編集に加え、未刊原稿もソフィア商会が押さえていた。印刷工房は、黒い噂のある商会と不本意な専属契約を結ばされていたが、サラはソフィアとして介入し、契約問題を解決すると同時に活字・紙・装丁資材に大規模投資を行い、職人たちに納得できる報酬と環境を与えた。装丁を担う工房主の妻にも、要求通りの多様な素材を支給して自由に腕を振るわせた。

廉価版教科書と活字工房の選別
サラは「初版にはコストを掛けるが、二刷以降は廉価版化する」という方針を示し、書籍の大衆化と識字率向上を目標に据えていた。最初に廉価版として出版されたのは「読み書き」「計算」および「複式簿記の基礎」の教科書であり、乙女の塔の蔵書をベースにトマスが編集・加筆を行い、難易度別に分冊された。ロバート紹介の印刷工房では処理しきれない原稿量となったため、師匠ほどこだわりの強くない弟子の工房に教科書印刷を任せた。また、活字工房には倍額報酬を提示したにもかかわらず門前払いされたため、その工房が不当な低賃金で発注しようとしていた別工房に直接、適正価格で依頼することで職人保護を優先した。楽譜用活字と組版に対応できる稀少職人も教科書工房側に確保し、出版体制を整えていた。

ソフィア商会の噂と資金力の示威
革・紙・インク・活字の大量購入や印刷ラッシュにより、商業ギルドを通じてソフィアの背後を探る動きが活発になったが、ジェフリー邸への出入り以外の手がかりは得られず、ついには「ジェフリーの婚約者ではないか」という噂まで広がった。決済面では手形を受けない商家もあったが、サラは護衛を引き連れ商業ギルドの会議室で現金を積み上げ、また本店に手形を持ち込んだ先にも即時現金払いを行うことで、「ソフィア商会本店には莫大な現金がある」という印象を与えた。その結果、夜間には盗賊や破落戸が相次いで本店を狙うようになったが、サラは現金と重要書類を空間収納に保管しており、実害は皆無であった。

護衛ゴーレムと抑止効果
本店防衛のためにサラは身長二メートルほどの人型ゴーレムを五体配置し、「商会人員として登録されない者=客」と認識させるプログラムを施した。営業時間中は立ち入り禁止区域に踏み込んだ者を正面玄関へ案内し、営業時間外は録音機能付き音声で退去を促し、それでも従わぬ場合は優しく屋外へ運び出す挙動になっていた。攻撃を受けた際には一度だけ警告を発し、その後も攻撃を続ける者には電撃付き警棒で戦闘不能にし、致命傷を避けて捕縛する仕様であった。さらに、窃盗犯を捕らえたゴーレムは、埴輪型ゴーレム時代の名残からか、捕縛者の周りを回りながらドジョウ掬い風の踊りを延々と披露し、心理的ダメージを与える副次効果まで生んでいた。盗難被害はゼロで、懸賞金付き指名手配犯まで捕らえた実績から、ゴーレム販売を求められたがサラは断固として拒否していた。

スパイ排除とコジモの戦慄
商業ギルド長コジモはソフィア商会へのスパイ送り込みを試みたが、自分の関係者がことごとく不採用となったことから、自身の工作が完全に看破されていると悟り、戦慄していた。夜間に工作員を侵入させる案も、ゴーレムに捕らえられた盗賊たちの末路を見て撤回せざるを得なかった。このようにして、ソフィア商会は周囲の警戒と興味を一身に集めつつも、順調に開店準備を整えていったのである。

シードルの泡

シードル製造計画とトニアへの開示
サラはソフィア商会の主力商品の一つとして、エルマ酒を用いたシードル造りに着手することにした。最初の百本だけはミケの力で即席生産する方針であったが、その製造工程はフランの母トニアに開示し、将来的にハーラン農園側で人力による製造と技術継承が行える体制を整える意図があった。そのためトニアには機密保持契約を課さず、自由に他者に製法を教えてよいと伝えていた。サラとトニアは共に騎士爵の娘として育ち、親亡き後に自力で立つ道を選んだという共通点を持ち、初対面ながらすぐに通じ合う関係となった。

酒蔵の規模と瓶内二次発酵の仕込み
ハーラン農園の酒蔵は煉瓦造りの大きな建屋が三棟並ぶ本格的な規模であり、内部には芳醇な香りが満ちていた。その一角に、シードル用の作業スペースとピュピートルと呼ばれる動瓶用ラックが設置されていた。サラはミケに任せる前提で工程を説明しつつ、トニアに樽ごとの味の違いを踏まえたエルマ酒の選定とブレンドを委ねた。煮沸消毒した瓶にエルマ酒を注ぎ、酵母と蔗糖を混ぜた液を加えて栓をすることで、瓶内二次発酵の仕込みが進められた。この物理作業はフラン、トニア、護衛のダニエルが担当し、とりわけダニエルが栓打ちの腕前を発揮した。

妖精ミケによる発酵・熟成加速とサラの魔力消耗
本来なら一年半から三年を要する発酵・熟成工程について、今回は狩猟大会に間に合わせるため、サラはミケに妖精魔法で時間を進めさせた。ミケが瓶の上を飛び回りながら発酵と熟成を進める光景は、トニアやフランにとって極めて衝撃的であり、言葉を失うほどのインパクトを持っていた。一方でサラは、自身の魔力が勢いよく吸い上げられていく感覚を覚え、肩の重さや献血後のような脱力感に襲われていった。百本分の工程を終える頃には顔色が悪化し、トニアやダニエルに心配されるほど魔力を消耗していたが、サラ自身は魔力枯渇には至っておらず、休息すれば回復可能と判断して作業を継続した。

ルミアージュとトニア親子の属性魔法
続いて瓶内の澱を瓶口側に集めるためのルミアージュ工程に移ると、サラはピュピートルを用いて、八日かけて一回転するペースで瓶を回転させ、徐々に瓶を下向きにしていく手順を説明した。この作業はフラン、トニア、ダニエルが分担し、ミケは引き続き魔力供給を受けながら補助した結果、サラの消耗はさらに進んだ。澱引きの段階でサラは、瓶口を凍結させて澱を抜く方法を提案しつつ、魔法負担に悩んだが、トニアが水属性の魔法を使えると判明し、凍結工程を引き受けた。さらにフランも火属性持ちであることが明かされ、ハーラン家が貴族ではないものの、生活に根差した魔法運用に長けた家系であることが示された。サラは瓶内の圧力や澱飛び出しの危険性、減った分の補填と量の調整、仮栓の必要性など、実務的な注意点を細かく指示し、トニアが凍結、三人が澱引きと再栓を進める体制が整えられた。

初めてのシードル試飲とその評価
一連の工程を終えたのち、サラは自分自身は未成年のためシードルを飲めないとしながら、一本を魔法で冷やしてフラン、トニア、ダニエルに手渡した。トニアはサラ向けにエルマジュースを同じグラスで用意し、四人とミケで「初めてのシードル」に乾杯した。シードルを口に含んだ三人と妖精は、立ち上る炭酸の刺激に一斉に咳き込み、サラは味の問題ではないかと慌てたが、彼らはすぐに「シュワシュワした感覚に驚いただけ」であると説明した。甘味を想像していたフランとトニアは、意外に引き締まった味わいに感心し、ミケは大いに気に入って絶賛した。ダニエルも、仕事後の身体に染みる酒として高く評価し、クセになりそうな美味しさであると述べた。

シードル事業の将来性と当面の方針
サラが商会の商品ラインナップとしての販売可能性を問うと、トニアは「売れるとは思うが、手間がかかり過ぎて安酒にはなり得ない」と分析した。サラはエルマブランデー同様、シードルも高価格帯商品として扱う意向を示し、トニアは熟成やブレンド、工程の安定化には時間が必要であり、人力のみでの製造法が確立するまで製造方法の一般公開は控えるべきだと進言した。サラも今回の工程は狩猟大会に合わせた特例であり、本来なら冬場に少しずつ澱引きを行うべき作業と理解し、トニアに無理のないペースで知見と体制を整えるよう任せることにした。ただし、このシードルが後の狩猟大会で大人気となり、関係者が悲鳴を上げながら増産に追われる未来については、サラはまだ知る由もなかった。

第一回教科書策定会議

レベッカの結婚準備と新居の用意
サラが商会の開店準備に追われていた裏で、レベッカも婚約関連の事務に巻き込まれていた。グランチェスター家とオルソン家は驚くほど手際よく動き、レベッカ本人は提示された案から好みのものを選ぶだけで済む状況になっていた。ウェディングドレスも、母と姉が事前に用意したデザインが完璧であったため、ほとんど口を挟めなかった。新居には、かつて王太子妃となった先々代侯爵令嬢のために建てられた別邸が充てられ、夏頃から既に修繕や庭の手入れが進められていた。内装や家具はレベッカの趣味が強く反映された仕上がりであり、周囲が以前から結婚を既定路線として準備していたことがうかがえた。一方で、夫婦の寝室やロバートの執務室など一部は未完成であり、「夫婦で決めろ」という意図が見て取れた。

乙女の塔での再会と少年たちの成長
別邸の確認を終えたレベッカは、乙女の塔を訪れてトマスの授業の様子を見に行った。休憩時間中のスコットとブレイズは、蜂蜜たっぷりのパンケーキを楽しんでおり、ブレイズはかつての飢えた風貌から一変して健康的な美少年へ成長していた。スコットも背が伸びてレベッカの身長を超え、近く変声期を迎えそうな年頃になっていた。トマスは、スコットが翌年のアカデミー入学試験に十分合格可能なレベルに達していること、ブレイズも数学に関しては高等教育レベルに到達していることを説明した。一方で、ブレイズの読み書きについては、アカデミー入学にはなお基礎固めが必要であると分析した。

コーデリアの言語教育論とブレイズの背景
そこに合流したコーデリアは、乙女の塔の図書館と秘密の花園に感嘆しつつ、ブレイズの発話からアヴァロン語以外の単語やイントネーションを聞き取り、彼がロイセンとアヴァロンの国境付近で育ったと推測した。ロイセン語とアヴァロン語は近いが別言語であり、子供が両方を耳で覚えると文法が曖昧になり、読み書き習得が遅れるケースがあると指摘した上で、文語と口語の差異を含めた文法の基礎学習を勧めた。また、頭の良い子ほどいきなり文章を書けてしまうため、周囲が基礎の穴に気付きにくいという教育上の落とし穴も説明し、トマスに対して「基礎の再確認」の重要性を説いた。

レベッカの劣等感とコーデリアの励まし
レベッカは、コーデリアの見識と経験の広さを前に、自身がアカデミー教育を受けていないことを内心で引け目として意識した。これまで自分の能力不足を「女性だから学ぶ機会がなかった」という理由で正当化してきたことに気付き、王妃直々のお妃教育を受けたという自負も、どこか思い上がりだったのではないかと省みた。そうした心の揺れを見抜いたコーデリアは、レベッカの表情の変化を指摘しつつ、二十年以上子供を教えてきた自らの経験から、「一人で全ての分野を担う必要はなく、不足を感じる部分は他者の力を借りれば良い」と諭した。そして、王妃が自ら教育した淑女としてのレベッカの能力を高く評価し、自信を持って教え子を導くよう励ました。

サラへの評価と年齢による衝撃
会話が進む中で、乙女たちはソフィア商会と教育施設構想の中心人物としてサラを挙げ、乙女の塔の所有者であり、乙女たちのパトロンであることをコーデリアに説明した。ハーブティ商品の指示から剣技と魔法の腕前に至るまで、サラへの絶賛が相次ぎ、コーデリアはその万能ぶりに驚愕した。さらに、狩猟大会後には新しい帳簿の講義をサラ自身が担当する予定であると聞かされ、当然「講義を受ける側」だと思い込んでいた彼女は混乱した。サラが八歳であるという事実を全員が当然のように肯定すると、コーデリアは完全に固まり、レベッカはソフィアの正体が周囲に知られるのも時間の問題であると悟った。

計算教科書原稿のボリュームと分冊案
本題の教科書会議では、トマスが編纂中の計算教科書原稿を提示した。元のアカデミー用の教本に、スコット向けに自作した初歩的解説を加えた結果、内容は初等レベルからアカデミー卒業相当までを網羅する巨大な原稿となっていた。トマスは家庭教師の合間に作業を進めたと語ったが、コーデリアはまず「睡眠不足は良い仕事の敵」というソフィアの持論を引用し、無理な働き方を戒めた。その上で、この教科書は難易度に応じて分冊し、初等教育用と高等教育用を分けるべきだと提案した。アリシアとアメリアも、一冊では価格も重量も過大になり、子供には扱いづらいと指摘し、分冊化の方針に賛同した。

図版導入の是非と印刷コストの問題
分冊化を前提に議論が進む中、アリシアは初級編に絵を取り入れる案を出した。エルマの絵を用いて「五つ買って二つ食べたら残りはいくつか」といった問題を示せば、数字に不慣れな子供にも直感的に理解させやすいと主張した。一方でアメリアは、植物図鑑の経験から、図版は紙面と印刷コストを大きく押し上げると懸念を示した。しかし、錬金術初級教本が図版の多用によって学習者層を厚くしたというアリシアの実例は説得力があり、最終的に「初級編のみ絵を多めに入れ、後半は文字中心とする」方向性が有力な案として浮上した。

アリシア=アリスト師の伝説と女子教育の広がり
トマスが冗談めかしてアリシアを「アリスト師」と呼ぶと、コーデリアはその異名に心当たりを示した。自分の教え子から、男装してアカデミーに入学したグランチェスター家の娘の話を聞いており、その人物こそアリシアだと確認したのである。コーデリアの私塾には女の子が多く通っており、女性が学べる場として特別な位置付けにあった。その教え子たちの間で、アリシアは「アカデミーで論戦を繰り広げた憧れの先輩」として語られており、今後乙女の塔で働きたいと願う少女たちが増えていくことが示唆された。アリシア本人はその評価に照れ続けるが、周囲は面白がって討論会の逸話を広めてしまうため、「アリスト師」の伝説化が進んでいく土壌が整いつつあった。

アメリアの教育機会への渇望と無償教育構想
一方でアメリアは、トマスの原稿を前に、自身の基礎教育の不足を痛感していた。貧しい家に育ち、子供時代の多くを薬草採りに費やした彼女は、薬師としての実力には自負を持ちながらも、体系的な学習を受けられなかったことへの未練を吐露した。トマスはそれを受けて、アメリアに授業への参加を勧め、その代わり自然科学分野での講義やテキスト作成を手伝ってほしいと提案した。レベッカが教育機関の設立目的として「多くの子供に学ぶ機会を与えること」を挙げると、アメリアは自らの経験から、貧しい子供たちにも門戸を開いてほしいと強く願い出る。コーデリアはこれに応え、既にソフィアから「初等教育の読み書きは無料」「優秀な子には高等教育の授業料免除」といった制度案が示されていることを明かし、自身の私塾の子供たちをそのまま受け皿に送り出すつもりであると語った。また、レベッカは昼食無料提供を計画しており、グランチェスター城の料理人見習いの育成と併せて、貧困層の子供を実質的に支援する仕組みとして位置付けていた。

会議の整理と今後の作業方針
会議の締めくくりとして、書記役のコーデリアが議論内容を整理した。主な論点は、計算教科書を難易度ごとに四〜五冊程度に分冊する案、初級編への図版導入案、そしてアカデミー範囲の内容は別書籍として扱う案の三点である。これらは全員が合理的と認めたが、印刷コストや販売価格に関わる事項であるため、最終判断はソフィアとの協議に委ねられることになった。レベッカはソフィアへの連絡役を引き受け、承認の見込みは高いものの、分冊数や具体的な内容範囲については意見を仰ぐ方針を示した。トマスは引き続き読み書き教科書の編纂を進めており、三日後には初稿を提示できると宣言した。こうして第一回教科書策定会議は、次回会合の日程と作業分担を確認した上で終了し、教育事業の具体化に向けた第一歩が踏み出されたのである。

教科書編纂とトマスの事情

複式簿記との出会いとトマスの衝撃
教科書策定会議の後、トマスはレベッカからサラ執筆の「複式簿記」教本原稿を受け取り、興味本位で読み始めた結果、その画期性に戦慄したのである。読み書きと基礎計算さえあれば、誰でも領や国の資産・損益を把握できる仕組みだと理解し、会計官という専門職の在り方さえ変えうると判断した。自らが、その複式簿記を使いこなす人材育成のための教科書を編纂できることに、トマスは強い高揚感を覚えたのである。

元・国税監査官としての経歴と失意の過去
トマスは元々、王都で国税監査を担う会計官として働いていた経歴を持つ人物であった。幼少期からの神童ぶりにより十歳でアカデミー入学、十三歳で卒業資格を得て経済学を研究し、十五歳で王宮文官となったが、その端正な容姿のせいで複数の令嬢から一方的な恋慕を受け、婚約破棄騒動と社交界の噂の渦中に巻き込まれた。結果として職場では腫れ物扱いとなり、重要案件から外され専門外部署への異動が決まり、将来を悲観して辞職に至ったのである。その事情を知る上司が責任を感じ、アカデミー時代の友人ジェフリーに託したことで、トマスはグランチェスター領へと流れ着いた。

乙女の塔での再生と教科書編纂の進展
グランチェスター領での生活はトマスにとって居心地が良く、何よりサラという「女神」のような少女と出会ったことが、女性不信だった彼の価値観を大きく変えた。サラを評価し、彼女に認められたい一心もあって教科書編纂に打ち込み、複式簿記教本を読み込んだ上で、国・領・貴族家・商家という用途ごとの勘定科目や監査項目について詳細な提案書を作成した。並行して計算と読み書きの教科書も再構成し、スコットには計算書の筆写、ブレイズには読み書き教本の筆写を手伝わせることで、子供たち自身の理解も深めていった。

スコットとブレイズの成長と「文字の競争」
メイドの「サラの字は驚くほど美しい」という一言がきっかけで、スコットとブレイズは毎晩の書き取りを日課とし、大人顔負けの達筆へと成長した。計算書を写したスコットは、公式や法則の背景を改めて理解することで、これまで苦手意識を持っていた数学への認識を一新した。読み書き教本を写したブレイズも、曖昧だった文法や表記の基礎が整い、自身の成長を実感しながら集中して作業に没頭したのである。

トマスの秘めた恋文とサラの勘違い
複式簿記への実務的提案書をまとめ終えたトマスは、同封する形で自らの想いを綴った私信をしたためた。そこには、自身の経歴を提供し著者名義として利用してもよいと申し出る一方、「どうか遠くへ飛び立たないでほしい」「いつか隣で翼を休めてほしい」と、婉曲ながら明確な求愛が記されていた。赤と茶の二重リボンと専用封蝋を用いたその手紙は、この世界の作法では本気の恋文を意味していたが、十八歳の精神を持つとはいえ八歳のサラは、そうした象徴的意味を教わっておらず、文面も「貴族的表現の忠告」としか受け取らなかった。サラはそれを、複式簿記の危険性と自身の身の振り方を案じた忠告書と解釈し、内容をラブレターと認識しないまま木箱に仕舞い、提案書だけを材料としてトマスと議論を重ねていく。こうして複式簿記教本は、サラとトマス、さらに元商家の嫁であるコーデリアの知見も加わって磨き上げられ、正式な教科書として世に出される準備が整えられていったのである。

二人はニアとリア

親友ニアとリアの再会と教育施設の話
トニアはコーデリアの元を訪れ、新しい教育施設と教科書作りの話を聞き、彼女の長年の夢が叶いつつあることを喜んだのである。二人はレベッカとロバートの婚約話や、幼少期にグランチェスター家の子供たちがエルマを盗み食いしていた思い出を語り合い、侯爵夫人が平等に子供のお尻を叩く厳しさと懐の深さを振り返った。トニアはコーデリアの私塾が新しい教育施設へ発展していくことを心から応援しており、商会運営の形で始めるというサラの現実的な判断にも感心していたのである。

トニアの過去とエルマ農園経営への道
トニアは男爵家出身の父と騎士爵の家系を持つ母から生まれ、比較的裕福な家庭で育った女性であった。やがて伯爵家三男との婚約が決まるが、社交界で「騎士爵の娘」は曖昧な立場であり、正式なデビュタントにもなれず、舞踏会でも誰からも注目されない存在として扱われた。さらに婚約の条件として、父が婚約者の社交費を負担していた事実を知り、相手が自分ではなく財産を目当てにしていると悟るに至った。コーデリアの冷静な指摘もあり、トニアはこの婚約を解消し、その直後に父を病で失ったのである。

父の遺産整理の中で、トニアはグランチェスター領のエルマ農園への投資に気付き、かつて父と旅をした際に食べたエルマの味を思い出した。これを機にトニアはグランチェスター領へ移住し、自ら農園経営を始める決断をした。最初は「美人ではない自分には財産目当ての男しか来ない」と考え独身を覚悟していたが、後に誠実な鍛冶職人から何度も花束と共に求婚を受け、財産を受け取らないという誓約書と帳簿まで示されたことで彼の真心を受け入れ、やがて夫婦となり二男一女を授かったのである。

コーデリアの過去と「教えること」への目覚め
コーデリアは領地を持たない男爵家の長女として生まれ、当初はそれなりの暮らしをしていたが、父の投資失敗により家計が急激に悪化した。節約のためガヴァネスが解雇され、兄と弟の家庭教師だけが残された結果、弟は「理解に少し時間がかかる子」と誤解されていた。コーデリアは弟のために授業ノートを取り、授業後に丁寧に教え直すことで弟の理解を助け、弟は勉強の面白さに目覚めて成績を伸ばしたのである。この成功体験が、コーデリアの「教えること」への志向を強める契機となった。

しかし兄がアカデミー入学に失敗したことで家庭教師は解雇され、家の経済事情もあってコーデリアは大きな商家に嫁ぐことになった。政略結婚であったが、義父母は親切で、コーデリアは商家の嫁として有能さを発揮し、有力貴族との繋がりや事業の段取りを支えた。ところが、仕事を先回りして整える能力の高さが夫の自尊心を逆撫でし、やがて夫は外に愛人を作って仕事もコーデリアを通さずに進めるようになった。赤字の事業を陰で補填してきたにもかかわらず、最終的に夫は愛人の妊娠を理由に離婚を迫り、コーデリアは慰謝料と引き換えに婚家を去ることになったのである。

女性たちの集落と私塾の誕生
両親を失い、兄からも冷遇されたコーデリアは、貧しい弟に頼り切ることを避けるべく、かつての親友トニアに助力を求めた。グランチェスター領のエルマ農園を経営していたトニアは、帳簿整理や交渉役として彼女を迎え入れつつも、まずはゆっくり休むよう勧めた。コーデリアがトニアの子供たちに絵本を読み聞かせるようになると、子供たちは文字に興味を示し、文字を覚えたがるようになっていった。

やがてコーデリアは、川近くの工房群と、そこに付属する女性たちの集落に足を運ぶようになる。そこでは、老いた木工職人が女性たちや子供たちに格安で住まいを貸し、木切れで玩具を作って子供を見守っていた。老人は雨を理由に離れを勉強部屋として提供し、コーデリアは室内で絵本の読み聞かせを続けた。多くの子供が目を輝かせて話に聞き入り、質問を投げかける姿を見た瞬間、コーデリアは「子供たちに読み書きと学び方を教えること」を自分の使命だと悟ったのである。

こうしてコーデリアは老人の離れを借り、女性たちの子供を中心に読み書きや初等教育を教える私塾を始めた。授業料は原則有料としつつも、貧しい家庭には物々交換や掃除などの労働で支払いを認めた。集落には元名家の令嬢や貴族の婚外子などもおり、礼儀作法や話術などを教える臨時講師として協力してくれたため、私塾の内容は自然と多様になっていった。

私塾の成長と老人の遺志
コーデリアの私塾からは、大きな商家のメイドとして就職する子供も現れ、さらに教え子ジェームズがアカデミーに合格したことで評判が高まり、集落外からも子供が集まるようになった。教え子の増加により離れが手狭になったころ、木工職人の老人は自らの余命を悟り、娘夫婦を呼んで木工工房と離れをコーデリアに譲ると宣言した。娘夫婦の子供たちもコーデリアの教え子であり、彼らもこの決定に賛同したのである。

老人の死後、遺言通り土地と建物を相続したコーデリアは、片付けの最中に大きな木箱を見つけた。中には子供向けの積み木や知育玩具がぎっしりと詰まっており、それが老人の子供たちへの想いの結晶であると理解した瞬間、コーデリアは両親を亡くしたとき以上の悲しみと感謝に包まれ、一晩中声を上げて泣き続けたのである。この経験は、彼女が生涯を通じて「教育」に身を捧げる決意を、決定的なものにしたと言える。

ゴーレムと東方の三博士

ゴーレムによる盗賊捕縛と街の人気者
ソフィア商会には夜ごと盗賊が侵入し、学習型ゴーレムたちが自動で拘束して中央広場へ運び、首から札を下げて晒す仕組みになっていた。騎士団もこの流れに慣れ、街ではゴーレムが力仕事もこなす便利な存在として受け入れられていた。子供たちの間ではゴーレムダンスや関連菓子が流行し、結果的に商会とゴーレムは領都の名物となっていた。

魔石の再生と秘匿すべき危険な技術
人手不足を補うため、サラと錬金術師アリシアは「使い捨て」であった魔石の欠点を解決しようとした。パラケルススの資料を読み解き、魔石から魔力を完全に抜き取り液状化する魔法陣を完成させると、空になった魔石に無属性化した魔力を流し込み、任意属性の高純度魔石へ作り替えることに成功した。この技術は天然魔石産業と各国の軍事バランスを崩しかねないため、妖精たちと協議の上、当面は極秘扱いとされた。

マギと東方の三博士ユニット
魔石再生技術を前提に、二人はパラケルススの未完設計を補完し、「人語を理解して学習する」ゴーレム用中枢システムをソフィア商会地下に構築した。膨大な魔石群で組んだ三基の大型ユニットに「マギ」という総称と、「メルキオール」「バルタザール」「カスパール」という名を与え、各ゴーレムの魔石コアと連結したのである。これにより五体の次世代ゴーレムは、街中で人や物を識別し、表情や鼓動から感情や嘘の可能性を推定し、スリや盗賊の行動を先読みして制圧する高度な治安維持装置へと進化していった。

錬金術師という生き物

技術公開戦略の検討
サラは、魔石再生技術を完全秘匿するのは困難であり、音の出る箱を足掛かりに「小出し」で世に出す方針を考えた。アリシアがそもそも魔石研究を始めた動機は、サラの演奏が記録された箱を使い捨てにしたくないという理由であり、コピーを重ねるごとの音質劣化も悩みの種であった。そこでサラは、純度の高い魔石のみを使用し、魔力がゼロになる前に自動で再生不能とするリミッターを仕込み、さらに「魔石から魔石へ魔力を移す道具」で商会が有償補充を行う運用を提案した。その結果、「魔力を補充可能な魔石」という概念自体は不可避に世間へ露見するため、その扱い方と説明の仕方が問題となった。

アリシアへの発表要請と逡巡
サラは、技術が王室やギルドから詮索される前に、アリシアに「錬金術師アリスト」として先んじて理論を発表させることを提案した。その内容は「魔石には微量の異属性魔力が混じるため魔力補充が難しい」「極めて純度の高い単一属性魔石に限り、同属性魔力で補充が可能」という、パラケルススの基礎研究をなぞった範囲に留めるというものであった。純粋魔石の製法や人工生成技術はソフィア商会の秘匿技術とし、論文の出典を「パラケルススのメモ」としておくことで過度な追及を避ける目論見である。しかしアカデミー卒でもギルド登録者でもない自分が注目されることをアリシアは恐れ、駄々をこねた。サラは、別の錬金術師に功績を譲るという「脅し」をかけ、最終的にアリシアはアカデミーへの論文投稿だけを承諾し、父テオフラストスのいる錬金術師ギルドへの提出は見送ることにした。

テオフラストス親子と錬金術師気質
二人の予想に反し、アリシアの論文は錬金術師たちの間で瞬く間に評判となり、テオフラストスも即座に娘の成果を嗅ぎつけた。以後、彼は連日乙女の塔へ押しかけるが、アリシアの依頼で配備されたゴーレムにお姫様抱っこで運び出されるという光景が繰り返されることになった。ただしテオフラストスもただでは引き下がらず、追い出されながらもゴーレムの関節や動作、会話パターンを執拗に観察してご満悦であった。この一連の騒動は、危険でも面白い研究には飛びつき、執念深く観察をやめない「錬金術師という生き物」の業の深さを端的に示す出来事となった。

もふもふとフラグ

小侯爵一家来訪準備と形式的な和解
狩猟大会十日前、小侯爵夫妻一行が入城する前夜に、セドリックは人間サイズでサラの部屋を訪れ、東翼に小侯爵一家、西翼にサラたちが住む配置や視察日程を報告した。晩餐では顔を合わせるものの、大会期間中は子供同士の同席も減る見込みであった。また池落下事件について、従兄姉から形式的な謝罪の場が設けられると知らされるが、サラは事故そのものよりも「助けずに逃げ、隠蔽しようとした」という点を決して許せないと語った。

貧困時代の記憶ともふもふの慰め
サラは、父の死後に母と二人で飢えと寒さに耐えた日々を回想し、母の最期には「共に眠り続けたい」とまで思っていたことを打ち明けた。セドリックは黒豹の姿になってベッドに上がり、仔豹となった眷属たちと共にサラに寄り添って温もりを与えた。サラはもふもふの毛並みに癒やされつつ、前世の記憶を取り戻したことで「自分の人生は自分のためにある」と気付き、家族や妖精、乙女たち、学友など多くの大切な存在に囲まれている今を幸福だと実感した。

ロイセン王家の血筋と王位継承の惨事
ロイセン王宮に潜入していたセドが報告したところによれば、第三王子は国王の実子ではなく、近衛騎士との間に生まれた子であり、その騎士は既に殉職していた。王家のお家騒動は、第二王子が第三王子妃を凌辱したことに端を発し、激昂した第三王子が第一・第二王子を殺害、第三王子妃と侍女が自死するという悲劇へと発展した。国王はこれを機に第二王子派貴族と側室を一斉粛清し、「国賊を討った」という名目で反対派を排除した結果、国内産業は大きく傷つき、十年を経た今も国力は完全には回復していないと判明した。

ロイセンとアヴァロンの同盟と花嫁候補たち
新たな王太子ゲルハルトは、第二王子の暴走を謝罪しアヴァロンとの関係正常化を図るとともに、沿岸連合の一国サルディナから姫を迎えて同盟を結んだが、その王太子妃は十五歳前に死亡していた。ゲルハルトには未だ世継ぎがおらず、麦の収穫量に乏しいロイセンにとってアヴァロンとの同盟は食糧面でも重要である。そのため王太子は、農地視察を兼ねてグランチェスター領を訪れ、有力貴族令嬢を王室養女として迎え入れる前提で新たな正妃候補を狩猟大会に集めることになっている。

小侯爵家の借金とシルト商会への不信
一方、リックの報告により、小侯爵が自らの炭鉱を抵当に入れてシルト商会から一万ダラスを借り入れている事実が判明した。理由は、夫人と子供たちが切った手形を現金化する資金不足であり、現時点でも二千ダラス強が足りていないという。侯爵には相談しておらず、家長として妻子の浪費を止められない姿勢にサラは領主としての資質を疑った。さらに、長女クロエが「父が早く侯爵になれば予算が増える」と発言し、夫人もこれを諌めなかったことから、サラはシルト商会が小侯爵一家の手形を買い集めている可能性を懸念し、詳細調査をリックに命じた。

来訪する王族と立ったフラグ
王宮潜伏中の別の眷属・ドリーからは、ロイセン王太子だけでなく、その長男アンドリュー王子(十七歳)も狩猟大会に参加するとの報告が入った。サラは、王族の応対は侯爵家当主や小侯爵一家が担い、自分の母の開くお茶会に王子や隣国の王太子が来るはずはないと考えて気楽に受け流した。しかし、この楽観的な認識こそが後の出来事に繋がる「フラグ」であったと示唆される。こうしてサラは、もふもふの眷属たちに包まれながら、不穏な火種を抱えたまま眠りについたのである。

小侯爵夫妻の到着

小侯爵一家の到着と第一印象
小侯爵一家は、新調した馬車の車輪が道中で外れたため予定より遅れ、正午近くに城へ到着した。侯爵とロバートは出迎えたが、サラとレベッカは後方で控え、形式的な顔合わせに留まった。ロバートは東翼の部屋とテラスでの昼食を提案したが、エドワードは疲労を理由に部屋での食事を希望し、一家は早々に引き上げた。サラは内心、甥アダムの成績ではアカデミー合格は絶望的であり、形式的な「留学コース」すら身にならないだろうと冷静に評価していた。

新車の馬車と小侯爵一家の疲労
アダムが王都で購入した七百ダラスの新車は、舗装路での見映えと乗り心地を追求した造りであり、未舗装路を長距離走行するには不向きであった。衣装とアクセサリーを過積載した結果、ぬかるみで立ち往生し、見栄え重視の車輪は破損した。従来の馬車使用を勧めた家令の進言をアダムが無視したことも災いし、付け替えた車輪も移動中に何度か外れる始末である。こうして疲労困憊となった小侯爵一家は初日の予定を全てキャンセルし、部屋で不機嫌なまま過ごし、ランチには文句をつけ、入浴後はマッサージを要求し、茶菓子を「田舎臭い」と貶すなど、使用人に理不尽な負担を強いた。

クロエの観察眼と小侯爵家の子供たちの問題
もっとも負担が重いのはクロエ付きの侍女であった。クロエの髪はサラの呪いによって傷み切っており、痛まないように慎重にブラシを入れねばならず、少しでも引っ掛かればブラシで殴られることすらある。クロエ自身は容姿に恵まれ、貴族的な所作や会話術を熱心に学ぶ向上心も持っており、兄弟の中で最も勉強熱心であった。王都邸時代にはサラを「美しいが取るに足らない平民」と見なしていたが、城の玄関で見た現在のサラは、レベッカ仕込みの洗練された立ち居振る舞いと、モスリンを重ねた着心地の良いドレスにより、印象は一変した。クロエはメイドを呼び、サラのドレスの仕立て先や、オルソン令嬢が手配する領都のドレスメーカー、さらにはソフィア商会からの贈答品の出所まで調べさせ、自分にも同様の恩恵が及ぶことを期待した。一方で、内心では「馬鹿アダム」や自分で思考しない弟を冷ややかに評価しつつも、三人とも甘やかされ過ぎて情操教育に難があるという構図からは逃れていなかった。

エリザベスの嫉妬と被害妄想
小侯爵夫人エリザベスは、十年前と変わらぬ若さを保つレベッカに強い嫉妬心を抱き、高級ドレスや宝飾で身を飾っても三十路を超えた肌の衰えを隠しきれないことに焦燥していた。アデリア譲りの美貌とグランチェスター家の血筋が合わさったサラの容姿や、磨かれた淑女としての所作も彼女の神経を逆撫でした。「美しい母娘」という社交界での看板を、サラに奪われる未来が容易に想像できたのである。そのためエリザベスは、サラを自らの養女とし、従えて歩くことで見映えを補強し、いずれ子爵家に嫁がせることで義父に恩を売るという打算的な案まで思い描いた。

財政引き締めと情報格差
侯爵が数年前の横領発覚時には手当を維持していたにもかかわらず、最近になって小侯爵一家への手当を減らしたことについて、エリザベスは理由を理解できずにいた。実際には、領内の帳簿整理により財政が可視化され、侯爵が支出全体を絞っただけである。しかし「お金の話から切り離されるべき」とされてきた貴族女性として、エリザベスは資産状況を知らされず、理不尽な不安に苛まれた結果、「自分たちを社交界から遠ざけ、ロバートを小侯爵に据える算段ではないか」と被害妄想を深めていた。こうした小侯爵一家の内情は、妖精たちによって逐一サラ側に報告されており、情報戦における優位がどちらにあるかは既に明白であった。

波乱の晩餐会

小侯爵一家の到着と道中トラブル
小侯爵一家の到着は予定より大きく遅れ、正午近くになっていた。原因は、アダムが王都用に購入した新型の馬車が未舗装路に適さず、泥濘にはまり、車輪が壊れたことである。積みきれなかった衣装やアクセサリーまで載せていたため負荷が増し、付け替えた車輪も何度も外れ、結果として一行は疲労困憊の状態でグランチェスター城に辿り着いた。出迎えた侯爵とエドワードに続き、ロバートは笑顔で兄夫婦と甥姪を迎えたが、サラとレベッカはあえて前に出ず、侯爵の背後で静かに成り行きを見守っていた。

王都仕様の「見掛け倒し」馬車と小侯爵一家のストレス
アダムが選んだ馬車は、王都の石畳を短距離移動することを前提に設計された「見た目重視・乗り心地重視」の一台であり、耐久性や悪路走破性は考慮されていなかった。家令は従来の馬車の使用を勧めたが、アダムは忠告を無視して強行し、結果として七百ダラスの新車は泥濘と未舗装路に敗北した。道中のトラブルにより初日の予定はすべてキャンセルとなり、一家は東翼の部屋で入浴やマッサージを要求し、ランチや茶菓子を「田舎臭い」と貶すなど、鬱憤を使用人にぶつけた。疲労と不機嫌さが、そのまま彼らの振る舞いに表出していた。

クロエの視点から見たサラの変化と服飾への関心
最も負担を強いられていたのはクロエ付きの侍女であった。クロエの髪はサラの呪いによりキューティクルが傷み、以前の金褐色の艶は失われ、慎重なブラッシングを怠るとクロエの機嫌を損ねて暴力すら招きかねない状況である。クロエ自身は容姿と淑女教育に熱心で、勉強への姿勢も兄弟の中では比較的ましな方であった。かつて王都邸にいた頃、クロエは「見た目は美しいが所作も言葉遣いも野暮ったいサラ」を軽んじていたが、本邸で再会したサラは、オルソン令嬢の指導により立ち居振る舞いが洗練され、ドレスも機能性とデザインを両立させた新しいスタイルを身に纏っていた。クロエはすぐにメイドを呼び、サラのドレスの仕立て先や、ソフィア商会からの贈答品のルートを調べさせ、自身のドレス手配にも活かそうとする。表向きはライバル視しつつも、サラのセンスと新しい商会の動きを冷静に取り込み、社交上の武器にしようとする貴族令嬢としての姿勢が示されている。

小侯爵一家の教育・情操面の欠落とエリザベスの焦燥
クロエは兄たちを「甘やかされて厳しく叱責されない愚か者」と見ており、自身にも同様の甘やかしがあると理解しながらも、「淑女としての完成」を目標に自己研鑽だけは怠っていない。一方で、三人とも情操教育に大きな問題を抱えていることが暗示される。子供たちを導くべきエリザベスは、十年前から容姿の衰えを知らぬレベッカへの嫉妬と、アデリアの面影を色濃く残すサラへの警戒心に囚われていた。サラの登場によって「美しい母娘」の座を奪われることを恐れ、侯爵が支給する手当の減額を「自分たち一家を社交界から遠ざけ、ロバートを小侯爵に据える布石ではないか」と歪んだ形で解釈する。財政引き締めという現実を知らされないまま不安だけを膨らませ、侯爵の心証回復のために「サラを自分の養女にして貴族に嫁がせる」という打算を巡らせるが、その思惑もまた妖精経由でサラ側に筒抜けになっている。ここまでで、小侯爵一家の歪な家庭環境と教育の欠落、そしてグランチェスター本家との情報格差が丁寧に描かれている。

婚約発表と「養女」提案をめぐる応酬
晩餐会は、侯爵がロバートとレベッカの婚約を高らかに宣言するところから始まった。小侯爵夫妻は事前に知らされておらず、一瞬表情を固くするが、すぐに表向きの祝辞を述べる。ロバートとレベッカは、ささやかな挙式を城内で親しい者のみ招いて行う意向を語り、サラとブレイズをベール係として参加させる案を楽しげに出し合う。サラも「ここに来て良かった」と本心から語り、ロバート夫妻との良好な関係を匂わせる。一方でエリザベスは、サラを自分たちの養女にして貴族家へ縁付かせる案を持ち出し、侯爵の歓心を買おうとするが、既にサラはロバートの養女となる手続きが済んでおり、サラ本人も「平民の生まれは変わらない」として侯爵令嬢になることに明確な拒否を示した。

エドワードの暴言とサラの「制裁」
エドワードは、侯爵養女の打診を断ったサラを「恩情を踏みにじった不遜な平民」と断じ、さらに故アーサーとアデリア、挙句にはレベッカにまで侮辱を向ける。これに対し、サラの堪忍袋の緒が切れ、氷の矢と風魔法を用いてエドワードの目の前の皿に氷を突き立て、頬を切るという形で「言葉の暴力」への対価を身体的恐怖として突きつける。同時に土属性魔法で小侯爵一家を椅子ごと拘束し、「平民だから何をしても構わない」という価値観を言語化して突きつけながら、自分へのイジメがもたらした傷と、大人たちの貴族至上主義が子供たちの倫理観を歪めたことを論理的に指摘する。ここでサラは、単に感情的に暴れるのではなく、「家族としての在り方」「子育てと情操教育」「貴族としての責務」というテーマに議論を引き上げている。

親子三代への総批判と領主教育の不備の露呈
サラはエリザベスの「物を与えることで愛情を示す育児」を「育児放棄=虐待」と断じ、アダムらが「大人に言われたから謝る」以上の内省を持たないことを示して、彼らの行動原理が「親に嫌われたくない」という自己保身に過ぎないと暴く。続いて侯爵に矛先を向け、「孫たちを抱き上げた記憶があるか」「何を楽しい・悔しい・悲しいと感じてきたかを聞いたことがあるか」と問い直し、祖父としても領主としても「感情面のケア」と「継承者教育」の双方を怠ってきた事実を突きつける。ロバートの代官としての努力は評価しつつも、「領主と次期領主が互いに本音を語らず、役割を押し付け合ってきた結果」が今の歪みであると整理し、責任の根源を「家長としての侯爵」に帰結させた。

財政危機とシルト商会の影を暴くサラの情報戦
さらにサラは、グランチェスター領の特産や資源、王族の来訪予定、アカデミー教授団の同行情報など、代官として集めた情報網と妖精による諜報を組み合わせて、エドワードがいかに領内事情に疎く、王都社交に偏重しているかを浮き彫りにする。そして、横領事件後の財政引き締め、侯爵からの手当減額、小侯爵家の予算削減にもかかわらず、宝飾やドレス、アダムの馬車に浪費し続けたエリザベスの行動を、手形の金額まで具体的に読み上げて暴露する。極めつけとして、鉱山を担保に一万ダラスの融資をシルト商会から受け、同商会がグランチェスター関連の手形一万八千ダラス分を買い集めている事実を指摘し、ロンバル出身の第三王子妃とシルト商会、先の暴動の動きが一本の線で繋がる可能性を仄めかす。グランチェスター家が外部勢力の経済的攻勢の標的になりつつあることを示し、晩餐の場をそのまま「緊急経営会議」に転化していく。

魔石と魔道具による「救済」とゼンセノキオクの権威
サラは、自ら作り出した高純度の光属性魔石を提示し、その一部を大胆に砕いて見せたうえで、小さな魔石と治癒用の魔法陣を使った「誰でも治癒魔法が使える仕組み」を実演させることで、その価値を大人たちに体感させる。砕いた魔石の欠片だけで数万ダラス規模の資金調達が可能であり、実際に後日八万ダラスで売却し、その一部を三万ダラスとしてグランチェスター家に融資する構想を示すことで、「債務超過状態の家を救う現実的手段」として自らの力を位置づける。ここで侯爵とグランチェスター男子は、始祖カズヤの英知「ゼンセノキオク」を扱える者に跪くという一族の教えに従い、サラの前に膝をついて謝罪と忠誠を示す。サラ自身は崇拝を望まず、むしろ「秘密保持」と「協力関係」を求めるが、この儀式的行為により、家中の力学が「小侯爵家が上」から「サラを中心とする新たな軸」へと大きく書き換わった。

エリザベス・クロエの「陥落」とソフィア商会の戦略
サラは最後に、ソフィア商会の高性能化粧品や音楽魔道具、カット済みの高純度魔石をエサに、エリザベスとクロエを広告塔兼協力者として取り込む。ハリと艶を取り戻すフェイスケア、音楽再生魔道具、宝石級の輝きを持つ魔石アクセサリーという「社交界での武器」を独占提供すると約束する一方で、秘密保持と宣伝協力を条件に突きつけ、守れなければ供給停止という「飴と鞭」を明言する。クロエには小さな光属性魔石と治癒用魔法陣を与え、「家族を癒す役割」を担わせることで、サラへの感情を単なる嫉妬から憧れと利害の混ざった複雑なものへ変化させた。こうして波乱の晩餐会は、家族の感情の爆発と和解、領主教育のやり直し宣言、財政再建の道筋の提示、そしてソフィア商会による主導権確立という多層的な決着を見たのである。

宣伝会議と永遠の少年たち

ハーブティ戦略と小侯爵夫人の取り込み
晩餐会後、サラは疲れた空気を無視して一同をリビングに集め、狩猟大会向けの「宣伝会議」を始めた。ソフィア商会製ハーブティを振る舞い、疲労回復・美肌・集中力向上・子作り補助など、効能別にラインナップを説明し、エリザベスとクロエに「ゲストに最適なブレンドを選ぶ役目」を与えたのである。お茶会で「ソフィア商会のハーブティ」であることを繰り返し宣伝するよう依頼し、彼女たちを広告塔として組み込む体制を整えていった。

新酒シードルとエルマブランデーの売り出し計画
続いてサラは、新たな特産品エルマ酒ベースの発泡酒「シードル」と長期熟成酒「エルマブランデー」をエドワードらに試飲させた。強い発泡と芳醇な香りにエドワードと侯爵はすっかり魅了され、グラスを手放そうとしなかった。サラはこれらを王家献上品かつ「幻の酒」として位置付け、狩猟大会で味を知らしめたうえで、少量をオークションに出し、希少性と貴族のプライドを利用してブランド価値を高める販促戦略を提示した。エドワードには「欲しければサラの言い値で買う側」である立場を自覚させ、同時に狩猟大会後の人脈拡大の餌としてこの酒を使わせる算段も示している。

ゴーレムチェスと「永遠の少年」たち
サラは小侯爵家の兄弟を広告塔としても働かせるため、魔石入りの小型ゴーレム駒が自動で動くチェスセットを試作し、アダムとクリストファーに遊ばせた。駒は命令に従って移動し、取ると戦闘アクションを見せる趣向で、兄弟は夢中になって魔力を流し続け、あっさり魔力枯渇でダウンした。これを見たロバートやエドワード、侯爵までがゴーレムバトル版の玩具に大はしゃぎし、床に腹ばいになって遊び込む姿をさらしたため、サラは「貴族邸には持ち込めない行儀の悪さ」と、「男は年齢に関係なく大きな子供である」という事実を痛感した。最終的に直系男子全員が魔力枯渇で運ばれる事態となり、サラは安全装置の必要性と、魔力強化教材としての応用可能性を同時に認識した。

クロエの和解と美容ニーズの掘り起こし
男性陣が戦線離脱するなか、クロエは自らの傷んだ髪の悩みを打ち明け、美容関連商品の有無をサラに問いかけた。サラは以前かけた水属性の「キューティクル荒らし」をこっそり解除したうえで、光属性治癒と水分補給の魔法を施し、クロエの髪を元以上の艶やかさに回復させた。鏡を見たクロエは感激してサラに抱きつき、いじめていたことを謝罪し、池落下時に感じた恐怖と安堵を涙ながらに打ち明けた。サラはその感情を忘れないよう求めつつ、王都での過去を完全に赦したわけではないという距離感も内心では維持しており、美容ニーズと感情面の和解を同時に押さえる結果となった。

女性陣主導の実務会議とサラの結論
その後はエリザベスとレベッカを中心に、王子たちの部屋の準備、花の選定、騎士団増員に伴う厩舎と放牧場の拡張など、狩猟大会運営の実務的打ち合わせが淡々と進められた。ユリ花粉によるアンドリュー王子のくしゃみ問題など細かな情報も共有され、土・木属性魔法を用いた仮設厩舎の増設まで既に手配済みであることが確認された。魔石ビジネスについては短期拡大は避け、慎重に検討する方針で一致し、この日の会議は終了した。サラは、魔力枯渇で倒れた男性陣に代わって女性陣だけで話が滑らかに進んだ状況を振り返り、「男性陣がいない方が打ち合わせは捗る」という冷静な結論に至っていた。

エピローグ ターニングポイント

ゴーレム玩具と軍事利用への不安
打合せ後、サラはゴーレム玩具を片付けながら、魔力補給方法や安全装置について思案していた。玩具としてのゴーレムが王族の目に触れれば、ソフィア商会本店の警備ゴーレムにも関心が向き、やがて軍事利用を望まれる危険性に気付いたのである。王命として同等品の献上を求められた場合に断れない自分の立場を自覚し、不安を抱いたまま就寝の支度に入った。

妖精たちの「祝福」とサラの悩み
就寝時、ミケ・ポチ・セドリックら妖精たちが集まり、シードル増産や花の準備など実務的な相談を受けつつ、サラの心配を聞き出した。サラは、魔石付与技術やゴーレムが権力者に利用される未来を恐れていることを打ち明けた。妖精たちはサラに金色の「祝福」を施し、運や安眠、着想力を少しだけ高めようと祈ったのである。

「利用される技術」とグランチェスターへの執着
サラは、痛みも空腹も感じない兵士としてのゴーレムを欲する権力者が必ず現れると見通していた。売らなければよい相手もいるが、国王の勅命には逆らえないと理解している。同時に、アヴァロンを出て行く選択肢はあっても、グランチェスター領に大切な存在が増えすぎて簡単には捨てられなくなったと自覚し、自らの執着に気付いたのである。

「守る側」への転換とターニングポイント
セドリックは、圧力を恐れるより先に、グランチェスターごと守れるだけの力を持てばよいと提案した。サラはそれを大袈裟と感じつつも、ドラゴン級の魔力と全属性魔法、妖精との友愛という自分の異常さを突き付けられる。国を焦土にしかねない存在として見なされる一方、だからこそ王室に軽々しく干渉させない抑止力にもなり得ると示された時、サラは「守られる子供」から「領地を守る側」へ意識を切り替える段階に来ていると悟った。やがて眠りに落ちるまでのこの夜が、サラにとって一つの転換点となったのである。

職人のこだわりと 商人の矜持

ワトプ専属契約と職人のジレンマ
ソフィアはソフィア商会の本の印刷を依頼するため、ワトプ商会専属の印刷工房を訪ねたが、工房主ラエルは契約を理由に依頼を拒絶した。ワトプ商会は製造原価削減を名目に印刷品質を落としており、職人側も不本意ながら従わされている状況であった。専属契約は「ワトプ以外の商会からの受注禁止」「違反した場合、図画印刷魔法の使用と継承不可」という魔法的制約付きであり、さらに契約破棄を申し出た側が高額な違約金を支払う条項まで盛り込まれていた。

乗っ取り計画の暴露とソフィアの打開策
ソフィアは調査結果として、ラエルの妻とワトプ商会から派遣された魔力職人が元恋人同士であり、いずれ子を作って工房を乗っ取る計画があることを指摘したうえで、技術継承の道を提示した。兄リード夫婦も交えた協議の場で、子供時代から意図的に魔力枯渇を繰り返させて魔力量を増やす方法と、図画印刷魔法を魔道具に落とし込む構想を示し、職人側に「技術を絶やさないための複線」を用意しようとしたのである。

魔力補助魔道具と契約ロジックの逆転
ソフィアは、魔力が足りない者でも魔法を行使できる魔力補助魔道具を提示し、ラエルとリードに図画印刷魔法を実演させた。これにより、魔力持ち職人の独占状態を崩しうる現実を目の前で示したうえで、魔道具の月額使用料を「職人一人分の賃金相当」とするサブスクリプション契約を提案した。さらに契約書を精査し、「違反」ではなく「破棄」にのみ違約金が発生する条文構造を指摘し、ワトプ商会が自らの罰則条件によって逆に縛られている事実を明らかにした。

ニーナの職人魂と新たな出版ネットワーク
装丁職人ニーナは、自らの技術に誇りを持つ頑固な職人であり、魔法よりも紙・革・布・金具といった素材と手仕事こそが価値だと主張した。ソフィアはその矜持を尊重し、魔獣素材や小型魔石、さらにはドラゴン素材まで含めた多様な材料の供給を約束し、特別装丁本から廉価版まで幅広い受注を提案した。ニーナは特別本に秘匿用魔法陣を組み込むなど、こだわりの装丁構想を膨らませていく。

契約違反の実行とワトプ商会の失脚
その後ラエルは、妻と派遣職人の不貞現場を押さえて離縁しつつ、ワトプとの契約はあえて破棄せず、ソフィアからの依頼で教科書印刷を敢行した。これにより契約魔法が発動し、ワトプ側の職人だけが図画印刷魔法を喪失する結果となる。怒鳴り込んだワトプ商会長に対し、ラエルは「こちらは契約破棄を望んでいない」と契約書を突き付け、違約金支払い義務がないことを示して退けたのである。

理想追求のメッセージと教科書事業
ソフィアは金の力と商人としての交渉力でニーナの要求する素材をすべて揃え、彼女の手による特製本は旧ワトプ商会の豪華本を上回る評価を得て、貴族家の資産目録に記されるほどの芸術品となった。その利益の一部は、ニーナの意向で初等教育向け教科書の印刷費へと回される。そしてその教科書の奥付には、職人と商人双方の矜持を象徴する一文が刻まれることになった。「常に理想を追い求めよ」という言葉である。

商会の就職面接会場にて

大量応募とギルバート採用の背景
商業ギルドに人材紹介を依頼した結果、ソフィア商会には紹介状を手にした志望者が殺到していた。最初の面接相手ギルバートは、大商会カイリン商会で二十年以上在庫管理に従事していた人物である。守秘契約の制約で詳細は語れなかったが、人気商品の追加仕入れを進言したにもかかわらず上司が慎重策を取り、結果として発売当日に完売・追加仕入れ不能となった際、その責任を押し付けられて退職した事情があった。上司ジュードは次期商会長でありながら市場予測能力に欠け、失敗を部下に転嫁する人物であるとソフィアは事前調査で把握していた。ソフィアはギルバートの成長意欲と被害者としての立場を評価し、前職と同水準の報酬で採用しつつ、今後のカイリン商会との取引は慎重にすべきだと内心で判断していた。

没落貴族アニエスの誠実さと採用理由
次に面接に現れたアニエス・トラムは、取り潰された男爵家の娘であり、かつては公爵家で祐筆的な侍女として書類作成に従事していた女性である。父トラム男爵は酒席で伯爵家子息を殴打して傷害事件となり、爵位剥奪と財産没収を経て病没していたため、アニエスも困窮した生活を送っていた。ソフィアは試験として、自身が書き留めたスープのレシピメモの清書を依頼する。アニエスは流麗で貴族的な筆致ですらすらと書き上げるだけでなく、レシピの内容が極めて高価値な料理技術であり、本来なら守秘契約が必要な情報だと指摘した。この姿勢から、アニエスが秘匿すべき情報を安易に売らない誠実な人物であると判断される。ソフィアは彼女の忠告に感謝しつつ、レシピを守る意思と職務倫理を評価して採用を決めた。

紐付き志望者の殺到と採用戦略の転換
面接二日目以降、状況は一変した。商業ギルド長コジモの紐付きと見なされる少年マリウスが見習い志望として現れ、接客や雑用に加えて肉体強化魔法による荷運びも可能だとアピールした。だが、事前の調査によりマリウスは暗器の訓練歴を持つ一方で戦闘能力は低く、主に「情報提供」を目的としたギルド側の駒であることが明らかとなっていた。ソフィアは、情報網の存在を悟らせないため採用する案も検討したが、最終的に「見習いを抱える余裕がない」「即戦力を優先する」という理由で不採用とする。その後も商業ギルドや他商会の紐付き人材が続々送り込まれ、資材管理など優秀な経歴を持つ者も多かったが、紐付きであるため採用を見送らざるを得なかった。この対応は、商会の資産は人材であると考えるソフィアにとって大きな葛藤となり、同時にギルド側の露骨な牽制として認識されていく。

監視付き採用とマリウスの「逆利用」
紐付き人材を全面的に拒絶した結果、商業ギルドや他商会の警戒は高まり、本店へ侵入を試みてゴーレムに捕縛される賊が増え、従業員がギルドで不当に足止めされる事態も生じた。ソフィアは戦略を修正し、監視可能な部署に限定して紐付きも採用する方針へ転換する。その過程で、見習い志望のマリウスも従業員として再び受け入れられた。ソフィアは、マリウスが頻繁にコジモへ情報を流していることを逆手に取り、シノビ一族のメイドを配置して彼と親しくさせ、意図した範囲の情報だけを渡す仕組みを構築する。マリウスは当たり障りのない内容しか報告できず、コジモから「使えない」と評価を下されるが、ソフィアにとっては情報統制に従順な「扱いやすい駒」として機能していた。こうした一連の経験は、ソフィアにとって人材採用と配置を考える上での反面教師となり、紐付きか否かに左右されず、自らの手で人を見極めて活かすという商会運営方針を固める契機となっていた。

同シリーズ

4d3d4232d8f3fecaf3841b6ea4998db5 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ
商人令嬢はお金の力で無双する1
ea7ab208650476c3a9729ea6b50df068 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ
商人令嬢はお金の力で無双する2
5d9ee0d7c0b87d903fe9fe5c09fc1688 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ
商人令嬢はお金の力で無双する4
20b4ae41d51046e88dc2ca31fb364516 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ
商人令嬢はお金の力で無双する5
84e2d24d1e00f1613b279b9d07561f0e 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ
商人令嬢はお金の力で無双する6

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「商人令嬢はお金の力で無双する4」感想・ネタバレ
フィクション(novel)あいうえお順