物語の概要
ジャンル : 異世界ファンタジーかつスローライフ系である。転生した元サラリーマンが「素材採取家」として異世界を旅し、素材採取を中心にほのぼの日常と冒険を織りなす物語の第2巻である。内容紹介 : ドワーフたちの鍛冶職人から採取依頼を受けたタケルは、レア鉱石を集めるために危険な鉱山へ向かう。その道中で出会った「見た目は美女だが中身がおじさん」という残念なエルフと同行する展開に。さらに鉱山調査だけでなく、魔物退治や領主家の毒殺未遂事件解決、神馬やカニを捕獲するなど、“異世界グルメ”を楽しむかのような採取と交流の旅が展開される。
主要キャラクター
神城 タケル(かみしろ たける) :本シリーズの主人公であり、異世界「マデウス」で素材採取家として気ままな旅を続ける元サラリーマンである。優しく誠実な人物で、素材狩りと料理が大好きである。
ビー(ブラック・ノウビー・ヴォルディアス) :古代竜・ヴォルディアスの幼生で、タケルが孵化・保護した可愛らしい相棒である。愛嬌ある存在として、タケルの旅に彩りを添える。
物語の特徴
本作の魅力は、「圧倒的能力を持つ主人公が、穏やかに素材と料理を楽しむ異世界ライフ」と「ちょっぴり非常識な仲間たちによるユーモア」が織りなすバランスにある。戦いよりも採取と料理が主軸となる構成が、典型的な異世界作品との差別化ポイントとなっており、読者に癒しと冒険感を同時に提供する点が秀逸である。
書籍情報
素材採取家の異世界旅行記 2 著者:木乃子増緒 氏 イラスト:海島千本 氏 レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス) 発売日:2017年1月31日
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あらすじ・内容
早くも3万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第2弾! 大ヒット御礼! ほのぼの素材採取ファンタジー第2弾! ドワーフの鍛冶職人の親方に泣きつかれ、ちょっぴり危険な、レア鉱石採取をすることになったタケル。さっそく鉱山へと向かったところ、見た目は絶世の美女なのに中身がおっさんという残念なエルフに出逢う。目的地が一緒だというので同行することになったのだが、このエルフ、かなりの食いしん坊だということが判明。さらに求めていないのに用心棒を買って出るなど、ちょっと面倒な展開に……!? とはいえ、同行者にメシの不便をさせないがタケルのモットー。異世界のヘンテコ素材を採って、料理して、食べまくる。異世界グルメ(?)旅行、いざ出発!
素材採取家の異世界旅行記 2
感想
読了し、とにかく「楽し」という気持ちでいっぱいになる。 タケルとビーを中心に、個性豊かなキャラクターたちがどんどん増えて、物語がますます賑やかになっているのが魅力的だ。
今回の物語では、ドワーフ王国へ向かう道中で、見た目は絶世の美女なのに中身がおっさんという、残念なエルフ・ブロライトと出会う。 さらに、ブロライトを追いかけてきたクレイも登場し、彼らが友人同士だったという展開には、思わずクスッとしてしまう。イルドラ石の採取に向かう場面では、美味しそうなカニをゲットしたり、「蒼黒の団」というチームが結成されたりと、イベント盛りだくさんで飽きさせない。
領主からの召喚状が届き、タケルが領主の依頼をこなすことになるのだが、この展開がまた面白い。普通なら独り占めして大儲けするところを、タケルは「足るを知る」精神で、分け与えることを選ぶ。準備は充分にと心がけている割には、手に入れたものをポンポンとあげてしまうし、なくなることを全く怖がらない。そんな、どこに行っても何とかなるタケルの人生観には、ある種の憧れすら抱いてしまう。
タケルにとって、お風呂と美味しい食事は絶対に譲れないもの。今回は、お使いに行って、カニのお刺身を堪能したり、石鹸を作ったりするエピソードが描かれている。ついでに、美人になるお馬さんゲットの依頼を受け、新たな旅の仲間が増えるという展開も、ワクワクさせてくれる。
領主の依頼で向かった他領では、プニさんという新たなキャラクターが登場する。そして、タケルの真のステータスが明らかになるという、ファンにとってはたまらない展開も用意されている。醤油をゲットする場面では、異世界での食生活を豊かにしようとするタケルの努力が垣間見え、応援したくなる。
全体を通して、戦いのシーンや人間関係など、作品の魅力が多角的に描かれており、読み応えがあった。特に、タケルの「足るを知る」精神や、どこに行っても何とかなるという楽観的な姿勢は、読んでいるこちらまで明るい気持ちにさせてくれる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
神城タケル
地球の日本で平凡に暮らしていたが、異世界マデウスに転生した。怠惰な気質を持ちながらも素材採取家として活動し、仲間と共に実利的な行動を続けている。竜の子ビーを保護者として育て、旅の中で人々と関わりを深めている。
・所属組織、地位や役職 冒険者ギルド・素材採取家。
・物語内での具体的な行動や成果 イルドライトの採掘を成功させ、ヴォズラオ王国で魔物を討伐した。ベルカイムの住民やアシュス村を救い、領主夫人の治療に関わった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 ヴォズラオの永久名誉国民として迎えられ、入国の自由を得た。各地で感謝を受け、冒険者としての評価を高めている。
ブラック・ノウビー・ヴォルディアス(ビー)
古代竜ボルの子であり、神城タケルに預けられた小竜である。幼体ながら戦闘での感覚が鋭く、風精霊と連携して行動する。
・所属組織、地位や役職 神城タケルの相棒。
・物語内での具体的な行動や成果 坑道で警戒や補助を担い、雨雲を呼んでアシュス村を救った。タケルと共に大型魔物を討伐し、仲間を助ける行動を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 村人から神の使いとして崇敬され、社を建てられるほどの存在となった。
ヴェルヴァレータ・ブロライト
旅の途上で神城タケルに拾われたエルフである。世間知らずだが実直であり、戦闘においては双短剣を操る俊敏な戦士である。
・所属組織、地位や役職 冒険者ギルド・冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果 イルドラ石採取の護衛としてタケルに同行し、ポイズンスパイダーやブラッドペンドラとの戦闘で活躍した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 ヴォズラオでの実績によりランクDに昇格し、冒険者としての道を広げた。
クレイストン
元リザードマンであり、現在はドラゴニュートの聖竜騎士である。実直な性格を持ち、過去にはドワーフの国を救った経歴を持つ。
・所属組織、地位や役職 聖竜騎士。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果 ヴォズラオでの戦闘で後備を固め、タケルやブロライトと共に坑道攻略を果たした。アシュス村でも救済に関わり、護衛役を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 国難を救った英雄としてドワーフから立像を建てられるほど尊敬されている。
ホーヴヴァルプニル
ガレウス湖を守護していた神獣である。長きにわたり石化していたが、タケルの介入で力を取り戻した。
・所属組織、地位や役職 湖の守護神獣。
・物語内での具体的な行動や成果 湖の毒を浄化し、大地に再生をもたらした。タケルを加護を受けし者と認め、永遠の感謝を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 白銀の美女の姿へ変じ、タケル一行への同行を望んだ。
ベルミナント・ルセウヴァッハ
ベルカイムの領主であり、冷静な判断力と家族への思いを持つ人物である。病床の妻を救うため、神城タケルに助力を求めた。
・所属組織、地位や役職 ルセウヴァッハ領・領主。伯爵。
・物語内での具体的な行動や成果 妻ミュリテリアの病を救うため、タケルを召喚した。家庭教師ベルナードの不正を見抜き、拘束に踏み切った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 領内の信頼を得ると共に、冒険者への評価を改めた。
ティアリス・マルケ・ルセウヴァッハ
ベルミナントの娘である。母を支えたい思いからビーを自分の竜だと誤解し、譲渡を求めた。
・所属組織、地位や役職 ルセウヴァッハ家・令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果 当初は冒険者を誤解していたが、タケルとの対話で考えを改めた。母の病に寄り添う姿を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 父から成長を認められ、家族を守る姿勢を示した。
ミュリテリア・ルセウヴァッハ
ベルミナントの妻であり、長らく病に伏していた女性である。
・所属組織、地位や役職 ルセウヴァッハ家・奥方。
・物語内での具体的な行動や成果 タケルの段階治療により白内障が回復し、視力を取り戻した。イヴェル中毒症の治療にも取り組まれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 家族との絆を取り戻し、快復への道を歩み始めた。
レイモンド・セルゼング
ルセウヴァッハ家に仕える執事である。秩序と規律を重んじ、領主一家を支えている。
・所属組織、地位や役職 ルセウヴァッハ家・執事。
・物語内での具体的な行動や成果 新聞や日常業務を整え、屋敷の規律を守った。警報時には領主と行動を共にし、家庭教師ベルナードの不正を明らかにする場を整えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 信頼を裏切らず、領主家の支柱として描かれている。
グルサス親方
ベルカイムのドワーフ鍛冶師である。頑固だが技術に優れ、弟子を導く立場にある。
・所属組織、地位や役職 ベルカイム職人街・鍛冶師。
・物語内での具体的な行動や成果 神城タケルにイルドラ石の採取を依頼した。イルドライトを用いて剣を鍛え上げ、品評会に挑む準備を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 工房が活気を取り戻し、街の復興に寄与した。
リブ
グルサス親方の弟子であり、猫獣人の若者である。
・所属組織、地位や役職 ベルカイム職人街・鍛冶師見習い。
・物語内での具体的な行動や成果 イルドラ石とイルドライトの輝きに驚き、成果に感涙した。専用ハサミの製作依頼を受け、師匠と共に取り組む姿勢を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 師匠と共に成長を遂げ、工房再建に関わる立場となった。
ザンボ
ヴォズラオのギルド「カリスト」の受付主任である。
・所属組織、地位や役職 ヴォズラオ冒険者ギルド・受付主任。
・物語内での具体的な行動や成果 リュハイ鉱山の状況を説明し、タケルたちを案内した。坑道内では恐怖を示したが、戦果に歓喜した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 冒険者の活躍を証言し、都市での評価に影響を与えた。
敵対人物
エンガ・シャイトン
フィジアン領の商人であり、実際には湖汚染と村人搾取を行った首魁である。
・所属組織、地位や役職 シャイトン一味の首領。
・物語内での具体的な行動や成果 アシュス村に高額で水を売り、黄金の花を買い取った。夜襲を仕掛け村を焼き、ゴンザを誘拐した。砦でダークアネモネを召喚したが、敗北して拘束された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 捕縛され、背後にいたエゼル・シャイトン男爵の関与を明かす存在となった。
エゼル・シャイトン
シャイトン男爵家の当主であり、領政失敗の過去を持つ人物である。
・所属組織、地位や役職 シャイトン男爵家・領主。
・物語内での具体的な行動や成果 直接の登場はないが、エンガの背後に存在し、湖汚染と不正取引の黒幕と示唆された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 男爵家は断罪の見込みとなり、領主の座を失う運命にあった。
ベルナード・エルスト
ルセウヴァッハ家の家庭教師を務めていたが、闇取引に関わっていた。
・所属組織、地位や役職 ルセウヴァッハ家・家庭教師。
・物語内での具体的な行動や成果 冒険者に不信を抱かせる発言を繰り返し、ティアリスを誤導した。領主に追及され、真意を問われた際に矛盾を露呈した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 拘束され、ドラゴン違法売買組織との関与が発覚した。
村人・関係者
タロベ
アシュス村の住人であり、神城タケルを支援する姿を示した。
・所属組織、地位や役職 アシュス村の農民。
・物語内での具体的な行動や成果 タケルと村人との橋渡し役を担い、イーヴェル草の案内に尽力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 村内で発言力を持ち、信頼を集める立場を示した。
ゴンザ
アシュス村の男性であり、エンガ・シャイトンの夜襲で誘拐された。
・所属組織、地位や役職 アシュス村の住人。
・物語内での具体的な行動や成果 砦に囚われたが、タケルとクレイに救出された。救出後も村の再建に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 村人の象徴的存在となり、救出劇は住民の団結を強めた。
ウェガ
ベルカイムの屋台村をまとめる人物である。
・所属組織、地位や役職 ベルカイム・屋台村代表。
・物語内での具体的な行動や成果 タケルからリダズの実を醤油代替として紹介され、取引を成立させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 アシュス村との連携を築き、醤油の実の流通を確立する役割を担った。
展開まとめ
神城タケルの転生と性格描写 神城タケルは地球の日本・横浜で平凡に暮らしていたが、見知らぬ青年に殺されて異世界マデウスへと転生させられた。地球では休日を怠惰に過ごす性格であり、やる気に満ちた性格ではなかった。普通の人間であるがゆえに異世界転生に適任とされたのである。
冒険者としての活動と相棒ビー 青年から与えられた魔法と不思議な鞄を用いて、タケルは冒険者として素材採取家となった。素材採取家は価値あるものを魔法で採取して売る仕事であり、マデウスでは動物の排泄物にすら価値があった。タケルは古代竜ボルの子である小さな黒竜ビーを預かり、旅の相棒として共に行動していた。
ベルカイムでの生活と新たな旅立ち タケルはベルカイムという町に滞在し、ギルドの依頼をこなしながら穏やかな日々を送っていた。しかし、武器鍛冶職人のドワーフ・グルサス親方とその弟子の猫獣人リブに依頼され、ドワーフの国で採れる鉱石を求めて旅に出ることになった。
エルフとの遭遇 旅の途上、タケルは森で腹をすかせたエルフに出会った。そのエルフは小汚い格好をしており、強い臭気を放っていた。
第1章 拾ったのは、残念エルフ
エルフとの遭遇と浄化 神城タケルは森で空腹に耐えるエルフ、ヴェルヴァレータブロライト(ブロライト)と遭遇した。ブロライトは旅支度を怠り三日間飢えており、臭気と汚れが酷かったため、タケルは清潔の魔法で髪・肌・装備を徹底的に浄化した。浄化後のブロライトは本来の美貌を取り戻し、タケルの魔力の強さを認めたのである。
野営の準備と焚き火の作法 開けた場所にて野宿を決め、タケルは結界や温度調節の魔石を用意したが、ブロライトは他者への安全サインとして焚き火の痕跡を残す重要性を説いた。タケルは大量の薪を用意しつつ、巨大鍋と魔石で野営調理の段取りを整えた。
肉すいとんの食事と交流、ビーの紹介 タケルは干物の出汁、肉、山菜、数種のキノコ、小麦粉のちぎりを用いた“なんちゃって肉すいとん”を拵えた。香りに誘われ小黒竜ビーが姿を見せ、ブロライトはドラゴンを神の使いと敬いながらも愛でた。料理は短時間で平らげられ、騒がしくも賑やかな会話が進み、ブロライトの率直で大仰な反応が場を和ませたのである。
短剣「隼丸」の性質と信頼の試し ブロライトは祖国の秘宝たる双短剣「隼丸」をタケルに手渡し、悪意ある者は触れられない性質で試した。タケルは問題なく扱えたため、ブロライトは警戒を解いた。調査によれば剣はハイエルフの人工遺物で風精霊術を取り込み、扱い手の潜在魔力に応じて斬れ味と素早さを高め、危険察知の性質を持つ希少なAランク品であった。
目的と依頼の共有 タケルはベルカイムの鍛冶職人の依頼で、ドワーフ王国ヴォズラオ近くのリュハイ鉱山からイルドラ石を採取する計画を明かした。ブロライトは姉リュティカラに贈る白き天馬を求めて旅をしており、道中の目的が一致した。
同行の決定と交換条件 タケルは当面の食を分ける代わりに、世界の常識や基本作法などの知識を教えることをブロライトに求め、金品や秘術・秘宝は不要とした。ブロライトは一角馬の目利きを申し出て、恩義に報いる姿勢を示した。両者はビーを含めて三日ほどの行程を共に歩むことを決め、残念さと実直さを併せ持つブロライトと共に、穏やかながら学び多い旅路が始まったのである。
第2章 背後の悪寒、君の名は
橋を渡る旅路と山脈の眺望 神城タケルとヴェルヴァレータブロライトは、キュリチ大河に架かる古い木橋を渡り、対岸に広がるドワーフの領域と雪を戴くリュハイ山脈を望んだ。河は清らかで、宿場が橋の周囲に栄え、人や馬車が往来していたのである。
ブロライトの世間知らずと戦闘能力 ブロライトは貨幣価値や旅道具の扱いに疎く、温室育ちを思わせる振る舞いを見せた。一方で対モンスターでは俊敏かつ精霊術に長け、風精霊の加護を受けて双短剣で素早く斬撃する高い実力を示した。ビーと連携することで、タケルは素材採取に専念でき、月夜草の群生を確保したのである。
宿場到着と宿の選択 対岸の宿場に到着した一行は、露店の活気に触れつつ宿を探した。タケルは湯屋付きの宿を選び、割高でも快適を優先した。ブロライトは倹約を口にしたが、タケルは差額を支払い、同宿を望んだのである。
用心棒依頼と役割の確認 タケルはリュハイの鉱山での危険を見越し、ブロライトを用心棒として臨時に雇う提案を行った。ブロライトは即座に承諾し、タケルとビーの護衛に尽力する決意を示した。
名物料理と友人の話題 評判の飯屋で肉巻きジュペなどを堪能し、ブロライトはリザードマンの友人や“栄誉の竜王”たる聖竜騎士の話を語った。タケルは自らの知人にも長槍を操る戦士がいると述懐し、食卓は賑わいを見せたのである。
クレイストンの再会と圧のある詰問 そこへ元リザードマンで現ドラゴニュートのクレイストンが現れ、無断での遠出を咎めつつ同席した。タケルはブロライトを拾い護衛を頼んだ経緯と、個人的依頼でイルドラ石を採取する事情を説明した。クレイストンは寡黙に聞き、酒をあおりながらも視線で圧をかけたのである。
採取依頼の目的と対価 タケルはベルカイムの鍛冶職人グルサス親方と弟子リブからの依頼で、リュハイ鉱山のイルドラ石を集める予定を明かした。報酬として金銭ではなく、採取家専用の高性能ハサミの鍛造を望む考えを示し、実用第一の姿勢を貫いた。
翌朝の同行表明と二人の用心棒 翌朝、クレイストンは道中の案内と護衛を申し出て同行を表明した。ブロライトはこれを歓迎し、両名がタケルとビーの用心棒として加わる形となった。タケルは説教の多いクレイストンと騒がしいブロライトに挟まれる不安を覚えつつも、賑やかな旅路に踏み出す覚悟を固めたのである。
第3章 美談と英雄、涙の理由
ヴォズラオ到着と地下都市の景観 神城タケル、クレイストン、ヴェルヴァレータ・ブロライトの三人は、キュリチ大河と広大な平野を越え、リュハイ山脈の麓に築かれた地下都市ヴォズラオへ到着した。鋼鉄の大門には精緻な装飾が施され、都市内部は太陽光と魔道具の灯りで明るく、空気循環の仕組みにより快適な環境が保たれていた。都市は鉱石産業と王立職人学校を中心に繁栄し、夏祭りでは巨大な山車が練り歩くと語られていた。
門の通過とクレイストンの特別扱い 入国待機列を横目に、クレイストンは警備のドワーフと一言交わしただけで一行を通された。警備兵は彼が国王の旧知であり、かつて国難を救った英雄であると説明し、特別な扱いの理由が示された。
英雄譚の顛末と誇張 警備兵は十年前、魔族の剛雷王ゼングムが潜入し財貨を強要した際に、クレイストンが立ち向かった逸話を熱弁した。しかしクレイストンは、実際には相手が自分を見るなり逃走したこと、自分は基礎の型を示したに過ぎず、その後の鍛錬は報酬目当ての冒険者が担ったことを訂正した。誇張はあれど、ドワーフたちが彼に深く感謝している事実はブロライトの言葉どおりであった。
巨大立像との対面と羞恥 中央広場には「勇者ギルディアス(クレイストンの名)」と銘打つ巨大立像がそびえていた。威容はあるものの本人の面影は薄く、クレイストンは羞恥に沈んだ。タケルやブロライトの軽口も慰めにはならず、気まずさが広場を満たした。
ギルドでの売却と鉱山の異変 タケルはギルド「カリスト」で採取素材を売却し、高値を得た。受付主任ザンボは、数ヶ月前の大地震を契機にリュハイ鉱山の奥で悪魔が目覚め、主要坑道が事実上封鎖されていると説明した。薬草需要の高騰は、その混乱の反映であると語られた。
紹介状と決意、迷宮への誘惑 タケルはグルサス親方の紹介状を手に、危険を承知でイルドラ石の採取に挑む意思を示した。クレイストンはその危険性を諫めたが、タケルは依頼を果たし最強の採取用ハサミを鍛造してもらう目的を貫き、迷宮のような坑道をダンジョンと見立てて進む決意を固めたのである。
第5章 狭い場所で、戦闘開始!
地点確保と脱出魔法の意図 神城タケルは坑道入口に魔石で地点を確保し、転移門で一度限りの一方通行脱出を可能にする準備を整えた。時間を金で買う発想で移動効率を最優先し、同行者にはダンジョン脱出魔法の趣旨を説明した。制約として地点ごとに一回のみであり、タケルが同行しなければ発動できないことも明示した。
探査と警戒、初動配置 ザンボの示す壁面を調査したタケルは低品質の反応を確認し、さらに奥へ進む判断を下した。ビーの警戒鳴きとともに敵接近を探査で把握し、ブロライト前衛・クレイストン第二列・タケルとザンボ後衛という隊形に移行した。タケルは全員に盾を展開し、落盤対策として坑道壁にも結界を張って戦闘準備を完了した。
ポイズンスパイダーとの交戦 接近したのは体液が猛毒のポイズンスパイダー五体であり、タケルは行動停滞と状態異常防御を重ねて付与した。ブロライトは眉間の目を狙うと告げ、跳躍と回避を織り交ぜて短時間で各個撃破した。クレイストンは支援魔法の効果に驚愕しつつ後備を固め、飛散した毒液は盾効果で遮断された。
子蜘蛛の出現と対処 絶命した親蜘蛛の腹から子蜘蛛が噴出し、ブロライトが踏圧で制圧する一方、タケルも抵抗感を抱えつつ踏み潰して被害拡大を抑えた。直後に追加接敵があり、クレイストンの警告を受けたブロライトが即応して迎撃姿勢を取った。
ブラッドペンドラ討伐と戦果分配 続いて出現した巨大ムカデ系のブラッドペンドラは、ブロライトが胸部を裂き脚を切除して沈黙させた。ザンボは恐怖から身を竦めたが、戦闘終結を確認して歓喜した。タケルは大蜘蛛の素材を鞄に回収し、分配は坑道内の討伐品すべてを三等分とすることで合意した。撤収後は清潔の魔法で毒液痕を消去し、進行を再開した。
採掘再開とイルドライト発見 玄武の寝床での小休止と食事の後、タケルは盾と剛炎、ビーの風精霊防御を併用して壁面を安全に破砕し、ツルハシで塊を取り出した。検分の結果、それは透明度と反応に優れるランクAのイルドライトであり、ザンボはイルドラ石と同手法で加工可能かつ宝石用途にも適すると断じた。依頼品より上質であるため持ち帰りを決定した。
魔素の気配と脅威接近 イルドライトから微量の魔素が感じられることに気づいた一行は、坑道に魔素溜まりがある可能性を認識した。直後、ビーが異常な警戒鳴きを発し、ブロライトとクレイストンも得体の知れぬ接近を感知した。タケルは自らの出番だと主張し、ザンボの悲鳴が響く中、巨大な青い悪魔が多脚と刃を振るい奇声を放って出現し、タケルとビーは応戦の叫びを上げた。
第6章 目指せご馳走、その名は刺身
トランゴクラブ出現と食欲優先の判断 坑道にランクAの巨大蟹トランゴクラブが出現し、神城タケルとビーは食用可で生でも良いとの情報に歓喜した。ブロライトとクレイストンは退避を促したが、神城タケルはご馳走を逃すまいとして交戦を選択した。
戦闘準備と初手 神城タケルは結界・速度上昇・軽量化・硬化を展開し、ビーに超音波で行動を止めさせたのち、足元の凍結で機動を奪う策をとった。防御低下や行動停滞は魔素の影響で効きが弱かったが、視覚と足場を狙う戦術で主導権を確保した。
急所攻撃と討伐 神城タケルは調査で関節や大脳位置を把握し、ビーに鎌鼬で急所を撃たせ、自身は氷結針で関節と神経を貫いた。暴れる巨体は結界で抑えられ、トランゴクラブは絶命した。神城タケルは食材としての確保を優先し、解体は後日に回した。
叱責と反省 クレイストンは用心棒として守る立場から単独突撃を無謀と叱責した。神城タケルはこれまでの蟹狩り経験から自信を示したが、複数行動では仲間の連携を重視すべきと諭され、方針の是正が示唆された。
イルドライト鉱脈の継続反応 採掘を進めた一行は高透明度のイルドライトを大量に確保し、さらに奥層に巨大なイルドラ石反応が続くことを把握した。神城タケルは地震と魔素の浄化により眠っていたモンスターが覚醒・巨大化した可能性を述べ、今後の大型出没に備える必要性を示した。
転移帰還と王宮報告 一行は転移門で入口へ戻り王宮に報告した。ザンボの証言とともに、神城タケルは玄武道の調査完了と主要脅威の討伐を伝え、以後は護衛と解毒薬の備えで採掘継続が可能であると説明した。
悪魔の実物提示と報酬交渉 謁見の場で神城タケルは解体前のトランゴクラブを提示し、周囲はその威容に驚愕した。神城タケルは素材採取家として蟹の所有を希望し、王側は立像利用にも言及したが、最終的に報酬の形が協議された。
褒賞の選定と迅速な履行 爵位授与の提案を神城タケルは辞退し、代わりにブロライトへの白い天馬、クレイストンの槍の新調、ヴォズラオの湯屋整備を要望した。ドワーフは即応し、白い天馬と新槍が用意され、露天風呂が設置された。
名誉と将来の立像 ヴォズラオ滞在五日ののち、一行は新たな英雄として永久名誉国民となり入国フリーパスを得た。数ヶ月後、中央広場に新たな巨大立像が設置される未来が示され、都市に彼らの名が刻まれる流れとなった。
第7章 そして凱旋、泣く師弟
ブロライトの帰郷とランク昇格 ブロライトは白い天馬を姉に贈るため隠れ郷へ帰還することとなり、ザンボの計らいで冒険者ランクがDに跳ね上がった。試験実演次第でCやAも視野に入ると告げられ、神城タケルへの大恩を強調しつつ、ブロジェの弓はいらぬのかと気を揉んだが、神城タケルは弓を使わないと応じていた。
報酬授与と今後の依頼 一行は討伐報酬や坑道安定化の追加金を受領し、モンスター素材代は三等分の約束を変え、神城タケルが二人に譲渡した。神城タケルは見返りとして自分を乗せられる馬の目利きをブロライトに依頼し、空飛ぶ馬は不可と念押ししていた。
ベルカイムへの帰還と市井の歓迎 神城タケルとクレイストンがベルカイムに戻ると、商人や住民が一斉にお帰りと迎え、ビーも子どもや女性に人気を博した。神城タケルは日頃の挨拶と礼節が受容につながったと捉え、無法な冒険者との差異を自戒として確認していた。
エウロパでの“チーム”騒動 ギルドのアリアンナは二人がチームを作ったのかと色めき立ち、報告に走った。クレイストンは一時的だが無期限と表明し、神城タケルの的外れな行動を監視できると述べ、肉すいとんも目的だと冗談めかした。ギルドマスター、グリット、ウェイドも殺到し、神城タケルは押し寄せる質問を受け流した。
イルドラ石とイルドライトの納品 グルサス親方の工房で神城タケルは高品質のイルドラ石を塊で提示し、ザンボが強く勧めたイルドライトも併せて提出した。親方とリブは輝きと強度を絶賛し、幻の結晶イルドライトに驚嘆した。
師弟の歓喜と涙、神城タケルの応答 グルサス親方とリブは想像を超える成果に抱き合って泣き、依頼して良かったと感極まった。神城タケルは自分だけの力ではなく仲間の助力だと述べ、対価の支払い不能を案じるリブに専用ハサミの製作を依頼条件として提示した。
次の目標と職人への託し 神城タケルはまず品評会一等を狙える最高の剣を作ってほしいと託し、工房の立て直しの後にメンテ不要で何でも切れる最強の採取用ハサミの製作を依頼する意向を示した。さらに生活道具やカニフォークの職人紹介も望み、今後のものづくりの連携を固めていた。
第8章 青天の霹靂
イルドラ石の供給再開と親方の渾身作 ベルカイムの職人街にリュハイ鉱山から大量のイルドラ石が届き、生産が再開された結果、街は活気を取り戻したのである。グルサスはイルドライトをふんだんに用いた渾身の剣を完成させ、一同は涙して歓喜した。タケルは剣の出来を見届け、親方の品評会帰還後に自分専用のハサミを依頼する段取りを整えていた。
領主からの召喚状とチーム結成 タケルはギルド酒場でウェイドから領主ルセウヴァッハ家の封蝋が押された召喚状を受け取り、クレイストンと連名での呼び出しであることを知った。クレイストンは褒美は名目であり、真意はビーの見聞であろうと見立てた。タケルとクレイストンは蒼黒の団を結成し、ブロライトの合流も視野に入れつつ、回復職の不在という課題を抱えたまま召喚に応じることを決めた。
貴族街への到着と応接の作法 領主邸の馬車で貴族街へ向かったタケルとクレイストンは、城のような大邸宅と厳かな執事の出迎えを受け、応接室で茶と焼き菓子のもてなしを受けた。タケルはビーに配慮しつつ慎重に振る舞い、クレイストンは落ち着いて応接に臨んだ。両名は領主の出座を待ちながら、召喚の真意と今後の立ち回りを意識していた。
横合いからの乱入と不穏な宣言 面会前にピンクのドレスの女性が扉を開け放って乱入し、ビーを見つけるや否やそれがドラゴンの子供であると断じ、さらにそれは自分のドラゴンであると主張した。タケルは予期せぬ要求に直面し、事態は不穏な空気を帯びて次章への波乱を示唆して終わった。
第9章 人を見て法を説け
古代竜ビーの性質とタケルの保護意識
ブラック・ノウビー・ヴォルディアス(ビー)は幼生ながら戦闘センスに優れ、タケルの補助的な指示で意図どおりに動いていた。将来は親のボルのように成長する見込みだが、当面はタケルが保護者であると明言された。
ティアリスの乱入とドラゴン譲渡要求
領主の娘ティアリス・マルケ・ルセウヴァッハが応接室に押し入り、ビーを自分のドラゴンだと主張し譲渡を迫った。タケルは無理であると即答し、ビーは家族であると説明した。ティアリスは冒険者を粗野で無知と聞かされていたこともあり、当初は聞き入れなかった。
対話による状況整理と誤解の露呈
タケルが冷静に経緯を質すと、ティアリスはベルナードの入れ知恵により、父が冒険者を屋敷に招いたのは譲渡のためだと誤解していたことを語った。父は否定していたが、彼女は思い込みで暴走していたと明かされ、タケルはドラゴンは物ではなく当人が選ぶ存在であると説いた。
竜と騎士の関係に関するクレイストンの補足
クレイストンは竜騎士の例を挙げ、飛竜でさえ生涯に選ぶ相手は一人であり、屈従ではなく相互の信頼で背に乗せるのだと諭した。これによりティアリスは態度を改め、ビーが人語を理解している事実にも動揺し反省の色を見せた。
領主ベルミナントの登場と謝罪
領主ベルミナント・ルセウヴァッハが現れ、娘の非礼を詫びた。タケルは礼を尽くして応じ、両者は穏当な対話に移行した。領主は家の歴史を執事レイモンドが語ったのち、改めて本題に入る場が整えられた。
召喚の真意—奥方ミュリテリアの病
領主は妻ミュリテリアが半年前から原因不明で寝たきりになったと明かし、領主職ゆえ身動きが取れず調査も難航していると吐露した。タケルが長屋で胸の病を治したとの噂を聞きつけ、同じ手立てで妻を救ってほしいと懇願した。ティアリスがドラゴンを欲したのは、病床の母を支える存在が欲しかったためだと補足され、クレイストンも娘の優しさに胸を熱くした。
逡巡と決意
タケルは個人の治癒が医療の発展を阻害する懸念や貴族相手の政治的な重みを考慮して逡巡したが、事情を聞き入れ、最終的に奥方のもとへ向かう決意を示した。
第10章 鬼が出るか蛇が出るか
奥方の私室と劣悪な環境 ルセウヴァッハ邸の塔にある奥方ミュリテリアの私室は一日数回しか開かれず、窓が閉め切られて空気が淀んでいた。ミュリテリアは極端に痩せ、白い肌で床に伏しており、ベルミナントは太陽光を苦手としていると説明した。タケルは環境の悪さが症状悪化の一因と判断した。
診断で判明した複合的疾患 タケルは魔法的診断により、ミュリテリアが併発白内障、歩行障害、貧血、腎臓障害、イヴェル中毒症など多くの合併症を抱えている事実を把握した。中でもイヴェル中毒症の原因が不明であり、慎重な扱いが必要と結論した。
信頼の確認と治療の決断 タケルは自分は治癒術師ではないが症状を緩和できると述べ、全面的な信頼を求めた。ベルミナントはこれまで名医も治癒術師も匙を投げた経緯を語り、望む物は何でも用意すると懇願した。ミュリテリアはすべてが治らずとも、せめて娘ティアリスを抱きしめたいと願い、二人はタケルに治療を委ねる決断をした。
白内障の回復と環境の刷新 タケルは急激な負荷を避ける手法で回復の魔法を目に施し、ミュリテリアは蝋燭や陽光を眩しさなく視認できるまでに視力を取り戻した。続いてタケルは室内を徹底的に清潔化して明るさを確保した。成果に歓喜したベルミナントは屋敷に滞在するよう勧め、タケルは風呂を所望して貴族の浴室を利用し、石鹸の快適さに感嘆した。ビーは果物を好み、入浴中は泡で遊んで機嫌が良かった。
イヴェル中毒症の正体と対応方針 タケルがイヴェル中毒症の由来を質すと、ベルミナントはそれが毒薬であると明かした。タケルは食事や飲料への継続的な毒混入の可能性を指摘し、回復薬が効かない理由を人為的中毒と整合させた。まずはムンス薬局から中位回復薬を調達して現状維持を図り、解毒薬が不可欠であるとした。毒性モンスターの例を挙げ、解毒には当該毒に由来する材料が必要であると確認した上で、犯人の特定が今後の課題であると結んだ。
完全治癒を避けた理由 クレイストンへの施術で用いた全身の完全治癒は対象の体力を強く消耗させるため、虫の息のミュリテリアには適用できないと判断した。タケルは段階的な緩和と体力回復を優先する方針を明言し、クレイストンもこれを是認した。
第11章 千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ
イーヴェル毒の正体と闇流通の推測
タケルはイーヴェルの実が乾燥で効能を失い、調合次第で無味無臭の猛毒となることを把握した。正規入手は不可能で闇ルートの存在が濃厚であると見立て、奥方の治療に専念しつつ原因追及は専門家に委ねる方針を固めた。
文献調査と手掛かりの特定
タケルとクレイは蔵書を渉猟し、領主が持参した古書の該当箇所を確認した。その結果、冒険者ポラポーラの旅日記にイヴェルが見つかった場所として、ヴァノーネ地方アシュス村近くの大きな湖と馬のような岩が記されていることを突き止めた。クレイは当該地に心当たりがあると述べ、現地案内が可能であると示した。
フィジアン領の背景と怨恨の可能性
領主は地図で当該地がフィジアン領内にあると示した。シャイトン男爵家による領政失敗と、前ルセウヴァッハ領主の奏上で同家が謹慎処分となった経緯が語られ、タケルは奥方暗殺未遂の動機として領主への怨恨が成り立ち得ると考えた。ただし断定は避け、行動に必要な想定に留めた。
短期捜索の移動計画
領主は片道五日の馬車行程を示したが、タケルは時間短縮のため一角馬への騎乗に速度上昇と軽量の術を併用する案を提示した。屋敷と目的地双方に地点を確保して転移門で往還を図り、採取後の調合は信頼できる薬師に依頼する計画とした。
結界による奥方の保護
タケルはミスリル魔鉱石の欠片で奥方の居室に結界を張り、悪意ある侵入者の排除と有害物の遮断を実現した。結果として日常の飲料水が結界で蒸発し、出入り業者の品に混入が疑われたため、外見上の取引は継続しつつ、実際の服用には市井の水とムンス薬局の中位回復薬を用いる運用に改めた。
ティアリスへの諭しと予防策
ティアリスは以前の非礼を詫び、タケルは自省に至った点を評価したうえで、安易に信じず自ら考える姿勢と報告・連絡・相談を徹底するよう説いた。領主には、金銭や特別な要請を持ち掛ける者が現れても即応せず確認するよう促し、奥方の部屋への立ち入り可否を判別材料とする予防策を共有した。
出立準備と一角馬の応答
一行は目立たぬ裏口から出立し、タケルは一角馬クルトとトマスに行程と術の趣旨を説明した。二頭は鼻息で応えるように見え、タケルは返事めいた反応に驚きつつ出発に備えた。
第12章 浮世の苦楽は壁一重
一角馬の加速と時短
タケルとクレイは速度上昇と軽量を施した一角馬でベルカイムを出発し、想定以上の速さで街道を駆け抜けた。タケルは落馬しそうになりつつも、クレイは空を駆けるようだと上機嫌であった。ビーの制止で速度を落とした結果、一本杉やボワンルの森に短時間で到達し、移動時間を大幅に短縮したのである。
隠密行動への配慮
奥方を狙う勢力を刺激しないため、タケルは派手な疾走が目立つと判断し、森の手前で減速と行動の偽装を徹底した。ベルカイム出立時にも散歩を装い、依頼を複数受注して周囲の疑念を和らげたことが、今回の慎重姿勢につながったのである。
道中の食事と対話術の背景
道中、二人は野菜を挟んだサンドイッチで腹を満たし、クレイはタケルの知識と料理、対話術を称えた。タケルは過去の仕事経験から、怒りや誤解に対しては穏やかに原因を聴くことで落ち着かせると語り、経験知としての応対法を明かしたのである。
ステータスの相互確認
クレイの提案で能力を確認すると、クレイは聖竜騎士として多彩な技能と耐性を有し四十五歳であることが判明した。続いてタケルは古代竜の加護を受けし者かつ魔導王の属性と多数の異能を示し、口八丁やものぐさなどの技能名にも言及した。タケルは神ではなく地道に素材採取を続ける意思を示し、肩書に左右されない姿勢を保った。
旅の所感と現在地の把握
一角馬の異常な速度が景観を流し去る一方、森中では歩調を落として木漏れ日を楽しむ余裕も生まれた。タケルは前世界の窮屈さを振り返りつつ、少しの贅沢と努力、そして人に優しく賢く生きる方針で旅を概ね楽しんでいると内省したのである。
第13章 危急存亡の秋
荒廃したヴァノーネ地方の大地 フィジアン領ヴァノーネ地方は乾燥し、作物が枯れ果て茶色の大地が広がっていた。タケルとクレイは原因を探り、かつて肥沃とされた土地が突然の異変で荒廃したことに疑念を抱いた。畑の土は乾き切り、井戸が枯れて水を撒けない状況にあった。タケルは湖の存在を思い出し、異変の要因を推測した。
野営と翌日の出発 二人は雑木林で野営を行い、結界を張って休んだ。翌朝、タケルはビーを清め、クレイと共に村へ向けて進んだ。景色は荒涼としていたが、かつては緑豊かな地であったと考えられた。タケルは魔素浄化との関連を思案しつつ、天候問題の解決は困難であると感じていた。
ガレウス湖の異変 やがて二人はガレウス湖に到達した。クレイがかつて美しいと語った湖は、今や濁り、工業廃水のような色に変貌していた。湖水は使用不能であり、農地の荒廃の原因と考えられた。湖の調査の結果、パレオシン毒が検出され、誰かが意図的に毒を撒いたと判明した。クレイは水を汚した行為に憤りを示した。
村人との遭遇 タケルが湖水に触れようとしたところ、農具を持つ痩せ細った男たちに制止された。彼らは疑念を抱き、二人が異変の元凶ではないかと問い詰めた。タケルは冒険者であることを説明し、ギルドリングを提示して身元を証明した。クレイのランクAの証を見た男たちは驚愕と敬意を示したが、飢餓で力尽きる者も現れ、村の窮状が浮き彫りとなった。
第14章 烏頭白くして馬角を生ず
アシュス村の窮状と炊き出し
ヴァノーネ地方アシュス村は大地が枯れ家屋も荒れ、住民は痩せ細っていた。タケルとクレイは集会所に通され、タケルが大鍋で肉すいとんを作って村人に振る舞い、全員の腹を満たした。村人は感謝を述べたが、恩を返す余裕はない現状であった。
湖汚染の発生と生活の崩壊
村の生活用水であるガレウス湖が数週間前から突然汚染され、魚や水鳥が死に、井戸まで影響が及んだ。作物は育たず、住民は野草を齧るしかない状況に追い込まれていた。
エンガシュの来訪と黄金の花の取引
窮する村に商人エンガシュが現れ、援助と引き換えに黄金色に輝く花の苗を求めた。村長は極秘の場所から花を採取し、根付き一輪につき銀貨一枚を受け取った。さらに水樽は相場より高価な五百レイブで買わされ、村の飢えと渇きは解消しなかった。
タケルの指摘と村人の動揺
タケルは高額な水と花の要求を根拠に、湖汚染の元凶がエンガシュである可能性を示した。村人は信じていた相手への疑念に打ちのめされ、絶望と涙に沈んだ。
即時支援と復旧の段取り
翌朝、タケルは村全体に清潔と修繕を施し、住民の身支度を整えた。クレイには空間術を施した大容量樽を託し、ベルカイム側から清浄化可能な河川水の確保に向かわせた。タケルは森で食糧となる獣や野草・薬草・きのこを大量に採取し、村の当座の飢えを凌ぐ体制を整えた。
エンガシュへの対処の決意
タケルは見返りを求めず村の再建に着手しつつ、湖汚染と花の取引を仕掛けたエンガシュの企みを打ち砕くと心中で決した。
第15話 我が物と思えば軽し笠の雪
助力の方針と村の状況 タケルは高尚な復興理念ではなく、目の前で困る者に手を差し伸べるという実利的な善意で行動していた。利己的な者は救わないという線引きを示しつつ、恵みを与えられる範囲で支援を続けた。翌朝のアシュス村では家屋や衣服が新調され、村人は急変に戸惑いを見せていた。長く続いた困窮が彼らを疑心暗鬼にしており、タケルは依然として怪しい冒険者と見なされていた。
雨を呼んだビーと村人の崇敬 畑の水不足に対し、ビーが風精霊を介して雨雲を呼び、久方ぶりの雨をもたらした。村人はこれをドラゴンの恵みと捉え、ビーを祀る社を建てると張り切った。タケルは過剰な崇敬より復興を優先すべきだと考えつつ、古代竜としてのビーの成長を温かく見守った。
見返りの提示とイーヴェル草の案内 村人は報恩の意を示したが金品は乏しかった。タロベとゴンザのとりなしで、タケルは見返りとしてイーヴェル草の自生地への案内を求め、村長も継続的な支援への感謝から日没後の案内を承諾した。タケルは探査で独自に探すことも可能であったが、村人の大切な資源に配慮して案内を待つ判断を下した。
子供たちとの交流と飢餓の記憶 子供らがタケルに懐き、抱き上げられてはしゃいだ。村には二十人ほどの子供がいたが、飢えで多くの命が失われていたという。タケルは過去を悔やまず、遺された者が今を生き抜く必要を強調しつつ、菓子を分け与えて村外れへと連れて行った。
リダズの実との邂逅 古びた納屋には黒いライチに似たリダズの実が山積みであった。花蜜は受粉に有用だが、実は辛味や塩辛さで不評のため廃棄予定とされていた。鑑定の結果、同実はランクDで調味料に適すると示され、タケルは興味を抱いた。
醤油味の発見と実演 タケルが実の液を口に含むと、故郷の濃口醤油と同質の香味であると確信した。半信半疑のクレイに示すため、タケルは蒸した芋にバターをのせ、リダズの汁を垂らした料理を作った。独特の香りに引き寄せられた村人は恐る恐る口に運び、未知の旨味に驚嘆した。タケルは醤油は主菜を支える陰の要であると説き、調味料としての価値を示した。
村にもたらす可能性と新たな企て リダズの実が調味料として有用である事実は、売れない実という認識を覆す発見となった。タケルはこの邂逅がアシュス村の未来を変え得ると捉え、喜びとともに次なる策を胸中で温めた。
第16話 そのころ、ベルカイムでは
邸宅の朝と領主の信条 ルセウヴァッハ邸では執事レイモンド・セルゼングが誰よりも早く起床し、新聞にアイロンをかけ紅茶を用意するなど万端の支度を整えていた。若き伯爵ベルミナントは病床の妻ミュリテリアの容体が落ち着いたことで久々に熟睡しており、執事とともに平素の規律を保ちながら一日を始めた。
新聞の英雄譚とベルカイムの産業 新聞一面にはヴォズラオの鉱山を救った救世主の記事が掲載され、ベルミナントは盟友クレイストンの実直さと功績を思い返した。ベルカイムは冒険者の拠点として武具需要が高く、ドワーフ職人の技で栄えていた。名工ペンドラスス工房では白銀と青の剣が完成しており、領主は帰還後に彼を屋敷へ招く意向を示した。
警報と寝室前の対峙 屋敷全体に警報が鳴り響き、ベルミナントとレイモンドが駆けつけると、妻の寝室前で娘ティアリスが通せんぼし、家庭教師ベルナード・エルストが穏やかな口ぶりで介入していた。ベルナードは招いた治癒術師を怪しむ発言を繰り返したが、ティアリスは冒険者の礼節と温かさを擁護し、母の病を癒す存在として信頼を表明した。
家庭教師の偽情報と矛盾 ベルナードは冒険者が森で大怪我を負ったとの情報を示唆したが、領主は具体性の欠如を追及した。ベルミナントは彼の紹介で出入りした業者や雇い入れたメイドを想起し、妻の快方が得られなかった事実と相まって疑念を強めた。領主は無条件の信頼ではなく、自ら考えることの重要性に思い至り、判断を引き締めた。
水の提示と捕縛 ベルミナントはレイモンドに特別な水を持参させ、ベルナードへ勧めた。これはミュリテリアが口にしていた滋養の水であり、その真意を探る試金石であった。衛兵と使用人が集う前で矛盾を重ねたベルナードは動揺し、ついに言質を与えたため、その場で拘束された。
闇取引の露見と箝口令 取り調べの結果、ベルナードには経歴詐称と虚偽情報による詐欺未遂の疑いが判明し、関与した出入り業者も秘密裏に拘束された。闇商人との癒着やドラゴン違法売買組織の存在も露見し、ティアリスの我儘を装ってドラゴンを入手し売却する計画が明らかとなった。ベルミナントは事を公にせず箝口令を敷き、信頼できる者のみで処理を進めた。
魔道具の性能と冒険者の秘匿 ミュリテリアの寝室に配された魔道具は悪意ある者を遮断し、有害な飲食物を蒸発させるほど高性能であった。王宮の結界具を凌ぐ力を示したこの品は、国に知られれば騒動を招きかねないと領主は判断し、冒険者の存在と力を慎重に秘匿する必要を感じた。
娘の成長と父の誓い ティアリスは母を守ろうと行動し、涙ながらに父の許しを得た。ベルミナントは娘の心の成長を喜びつつ、その美しさと気高さを見出した。そして冗談めかしてまだ嫁にやらぬと伝え、家族を守る決意を新たにした。
第17話 賽は投げられた
月下の案内と神話の花 タケルは村長の先導で月明かりの下、ガレウス湖畔の洞穴に群生するイーヴェルの花へ向かった。花は神獣ホーヴヴァルプニルの涙から芽吹いたと語られ、村に伝わる悪魔封印の由来が説明された。タケルは数株の採取で解毒薬を作る意図を示し、村長は花の一切の持ち出しさえ許容する姿勢を見せた。
急報と焼け野原 村へ戻る途上で急使が駆け込み、エンガ・シャイトン一味が夜襲して家々を焼いたと報せた。タケルとクレイは急行し、村人の負傷の有無と点呼を取り、ゴンザが不在であると判明した。証言から誘拐の進路が湖側であると掴み、救出を即断した。
追跡と怒りの疾走 タケルは探査で湖畔西側に百近い生体反応を捉え、クレイとともに強化した一角馬で砦へ急行した。クレイは怒気を高め、タケルは証拠の押収と首魁拘束を前提に、殺害回避での殲滅を方針とした。
隠伏侵入と証拠回収 砦では隠伏の魔法で姿を消して侵入し、見張りを無力化しつつ、上階の主室から地図や書簡、金庫、家具一式を鞄に収めた。宴会中の一味は奇襲への備えを欠き、タケルは混乱を利用して内部情報の引き出しを狙った。
広間での露見と威圧 タケルは広間で一味に対峙し、クレイは咆哮で傭兵らの戦意を喪失させた。逃走に転じる末端を無視しつつ、タケルは首魁の所在と人質の場所を誘導尋問で引き出し、別棟奥にゴンザが囚われていると把握した。
救出と砦の炎上 タケルは別棟の扉と鉄格子を破砕してゴンザを確保し、背負って脱出した。砦はクレイの戦闘で炎上し、ビーが雨雲を呼ぶことで鎮火の準備が進んだ。
召喚獣の出現と首魁拘束 砦内部ではエンガ・シャイトンが召喚符でダークアネモネを呼び出していた。タケルは本人から召喚の手口と背後のエゼル・シャイトン男爵の関与を聞き出し、エンガ・シャイトンを縛上げて外へ放擲し生存を確保した。
氷結の連携攻撃 クレイは毒触手に絡め取られつつも抵抗し、タケルは氷結風で触手を凍結させて機動を止め、調査で脳が二つある弱点を見抜いた。クレイは槍で一方の脳を貫き、残存をタケルが追撃する体勢を整えたが、戦闘の余波で砦は崩落の危険を増した。
落下の危機と身命の跳躍 暴れる触手がタケルを狙い、庇ったゴンザが結界に守られつつも湖側の穴へ弾き出された。タケルは即座に跳躍して中空でゴンザを掴み、砦内へ投げ戻して受け渡しを確認すると、そのまま自らは毒の湖へ落下した。
第18話 待てば海路の日和あり
溺水の危機と謎の声 タケルは毒の湖に落下し、呼吸困難に陥った。意識が遠のく中、生意気な青年の声が聞こえ、助力と望みを叶えるという含意が示された。
天馬による救出 タケルの意識が薄れる最中、白い翼を持つ馬が現れ、口に咥えて空中へ引き上げた。馬は脳内に直接語りかけ、加護を受けしものと呼びかけた。タケルは助力に礼を述べつつ状況を確認した。
湖水の浄化と仲間の無事 翼ある馬が羽ばたくと湖水は輝きを取り戻し、澱みが透明な水へと一変した。ビーが合流し、クレイとゴンザも砦の崩落後に無事であることを知らせた。タケルは二人に果物と魔素水を与えて落ち着かせた。
神獣ホーヴヴァルプニルの正体と経緯 翼馬は自らをホーヴヴァルプニルと名乗り、長きにわたり湖を守ってきたが、魔素の流れの変化で力を失い石化し、湖は人の子の所業で毒化したと明かした。タケルが湖に落ちて停滞した魔素を吸い込み、再び力が戻ったため浄化が可能になったと説明した。
イーヴェルの花と大地の回復 ホーヴヴァルプニルは本来大地を浄化する花を生み出したが、魔素停滞の影響で毒性が出ていたと語った。力の回復により、この地は今後枯れることなく緑豊かな地になると宣言した。
感謝と願いの受領 ホーヴヴァルプニルはタケルを加護を受けしものと認め、永遠の感謝を伝えた。タケルは代わりにアシュス村が飢えることなく笑って暮らせるよう願いを託し、神獣は嘶きとともに光となって消えた。
第19話 一難去ってまた
湖の浄化と村の反応 ガレウス湖の天馬の石像は消え、毒の湖は一夜で清らかな水へと蘇った。アシュス村の人々は雨空を仰ぎ神の御業と称え、同時にタケルとクレイストンの働きに感謝を述べた。タケルは諸事を整えたのち、村を発つ準備を進めた。
ベルカイムでの解毒と事件の収束 誘拐事件後、タケルはイーヴェルの花を根から採取して転移門でベルカイムへ戻り、領主夫人へ解毒薬の調合を依頼した。ムンス薬局のリベルアが調製した薬により夫人の中毒症状は消え、合併症も回復に向かった。エンガ・シャイトンは拘束され、不正の証拠はエゼル・シャイトン男爵に直結したため、男爵家は断罪の見込みとなった。新たなフィジアン領主には清廉な子爵が就任する予定と示された。
醤油の実の流通と村の自立 タケルは屋台村代表ウェガにじゃがバタ醤油を示し、醤油の実の価値が認められたことで取引が成立した。アシュス村は畑を拡張し生産を増やす方針を固め、保管分の実は四割をタケルが受領し、残りは販売に充てることとなった。村は家屋再建については自助を選び、領主の支援や養蜂家の指導を受けつつ自立を志向した。
別れと帰路の小休止 村人はタケル一行の出立を惜しんだが、タケルは再会を約して旅立った。帰路では依頼を消化しつつ歩を進め、連日の騒動から一時の安寧を得た。
神獣の再来と同行の申し出 ベルカイムへの道半ば、ガレウス湖の守護神ホーヴヴァルプニルが再臨し、眩い光とともに白銀の美女へと姿を変えた。神獣は長き在住の地を離れる意志を示し、世界を共に巡るためタケルたちへの同行を願い出た。タケルは動揺しつつも、クレイストンは理由を質し、神獣はお前に付いていけば世界も楽しかろうと述べて一行への加勢を強く望んだ。
同シリーズ
素材採取家の異世界旅行記
素材採取家の異世界旅行記2
素材採取家の異世界旅行記3
素材採取家の異世界旅行記4
その他フィクション
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