Lorem Ipsum Dolor Sit Amet

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

Nisl At Est?

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

In Felis Ut

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Risus Vitae

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Quis hendrerit purus

Phasellus facilisis, nunc in lacinia auctor, eros lacus aliquet velit, quis lobortis risus nunc nec nisi maecans et turpis vitae velit.volutpat porttitor a sit amet est. In eu rutrum ante. Nullam id lorem fermentum, accumsan enim non auctor neque.

Eros Lacinia

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

Lorem ipsum dolor

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

img

Ipsum dolor - Ligula Eget

Sed ut Perspiciatis Unde Omnis Iste Sed ut perspiciatis unde omnis iste natu error sit voluptatem accu tium neque fermentum veposu miten a tempor nise. Duis autem vel eum iriure dolor in hendrerit in vulputate velit consequat reprehender in voluptate velit esse cillum duis dolor fugiat nulla pariatur.

Turpis mollis

Sea summo mazim ex, ea errem eleifend definitionem vim. Ut nec hinc dolor possim mei ludus efficiendi ei sea summo mazim ex.

小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
異世界ファンタジーかつスローライフ物語である。前世はサラリーマンだった青年が、異世界でチート能力を活かしながら素材採取の旅を続ける、癒やしと冒険が融合した作品のコミック版第3巻である。
内容紹介
特殊な鉱石を探して旅を続ける素材採取家・タケルは、再び故郷ベルカイムへと戻っていた。そこへ現れたのは同じ素材採取家を名乗る怪しげな人物である。その者はタケルの“縄張り”を我が物顔で宣言し、勝手に勝負を仕掛けてくる。いやいやながらも勝負に乗ることになったタケルの、穏やかながらも粋な戦いが再び幕を開ける。

主要キャラクター

  • 神城 タケル:前世の知識を持つ異世界素材採取家であり、本作の主人公である。チート級の能力と共に“異世界グルメ旅”を楽しむ気ままな性格を持つ。

物語の特徴

本作の魅力は、「ゆるく楽しく素材採取する“ほのぼの系異世界モノ”」をさらに際立たせる“採取家同士の異種バトル”という構造である。戦いというより“勝負”として描かれる暖かい競争心が、甘く心地よい世界観に刺激を与え、他の異世界作品との差別化要素となっている。

書籍情報

素材採取家の異世界旅行記 3
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本  氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
発売日:2017年9月30日

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化ブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化BOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

累計6万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第3弾!
大、大、大ヒット御礼! ほのぼの素材採取ファンタジー第3弾! 久しぶりにベルカイムに戻ってきたタケル。特製の採取用ハサミを作ってもらおうと鍛冶工房を訪れたところ、妙なヤツに絡まれた。タケルと同じ採取家だというそいつは、タケルが縄張りを奪っただの盗品を納めているだの、とんでもないクレームをつけてくる。仕舞いには「素材採取で勝負!」なんて面倒くさそうな提案まで……。当然乗り気ではないタケルだったが、勝手に盛り上がる周囲に流される形で、結局その勝負を受けることになってしまうのだった。異世界のヘンテコ素材を探して、採って、競い合う。採取家の意地とプライドを懸けて、さあ勝負!

素材採取家の異世界旅行記3

感想

今作もまた、タケルののんびりとした日常に癒される。事件は少しずつスケールアップし、素材採取家同士の対決から、エルフの郷の問題解決へと物語は展開していく。

読んでいていつも思うのは、この作品の登場人物たちは、本当によく何かを食べているということだ。
今回は、Bランク素材採集専門のワイムスという男が、タケルにイチャモンをつけてくるという騒動が勃発する。
一体どうなるのかと思いきや、白黒つけるために、ギルドと領主公認の素材採取勝負に発展してしまうのだから面白い。

タケルは、この勝負を通して、FBランク、別名オールラウンダーに昇格する。
そして、またもやブロライトが登場する。
今回は、失踪した姉を探してほしいとタケルに頼み込み。
姉を探すために、蒼黒の団と共にエルフの里へ向かうことになるのだが、一体どんな冒険が待ち受けているのだろうか。

今回の巻では、他の素材採取家に難癖をつけられたり、ブロライトの郷に行ったりと、様々な出来事が起こる。中でも印象的だったのは、レインボーシープだ。
あのふわふわとした可愛らしさには、本当に癒される。あんな可愛い生き物で呼び寄せられるなんて、夢のようだ。絵も大変可愛らしくて、見ているだけで心が温まる。

同じ採集家でBランクのワイムスに絡まれるという展開は、少しドキドキした。
しかし、ギルド公認の素材採取競争が開催されることになり、事態は思わぬ方向へ。
依頼は、ベルカイム領主からの『レインボーシープの七色ウール』の採取。
タケルとワイムスは協力してウールを採取し、タケルはFBランク、オールラウンダー認定者となる。

ブロライトの再登場も嬉しかった。
姉リュティカラを探すという新たな目的が加わり、物語はさらに深みを増していく。
まずはエルフの郷『深碧の郷ヴィリオ・ラ・イ』へ向かうことになるのだが、お姉さんを見つけるまで、一体どれだけの問題を解決しなければならないのだろうか?
蒼黒の団の今後の活躍に期待したい。

全体を通して、安定ののほほん感と、少しずつスケールアップしていく事件のバランスが絶妙な作品だと感じた。
レインボーシープのような魅力的なキャラクターも登場し、ますます目が離せない。
次巻では、どんな異世界の素材や人々との出会いが待っているのだろうか。今からとても楽しみだ。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化ブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化BOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

主要キャラクター

神城タケル

怠けがちな性格だが、採取においては知識と工夫を重んじる人物。周囲の信頼に応える姿勢を持ち、仲間を守る判断を優先する。

・所属組織、地位や役職
 エウロパ冒険者ギルド所属の素材採取家。FBランク認定のオールラウンダー。

・物語内での具体的な行動や成果
 七色ウールの採取を成功させた。盗賊を非致死手段で制圧した。エルフ郷では循環結界を作り、魔素過多を抑えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Fランク据え置きから特例のFB認定へ移行した。領主やギルドから厚い信任を得た。

クレイストン

冷静で堅実なドラゴニュート。仲間を見守り、抑え役として場を落ち着かせる役割を担う。

・所属組織、地位や役職
 冒険者。高位戦力として知られる。

・物語内での具体的な行動や成果
 街道異変の対応に加わった。エルフ郷への同行を務めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 信頼を重ね、仲間と周囲を安定させる存在とみなされた。

ビー

幼い黒竜で、古代竜の血を受け継ぐ存在。無邪気な性格で、人に懐き場を和ませる。

・所属組織、地位や役職
 神城タケルの相棒。

・物語内での具体的な行動や成果
 女王の前で姿を現し、古代竜の気配を示した。郷の者たちに信を与えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 古代竜由来と認められ、象徴的存在となった。

プニ

馬神であり、白銀の髪を持つ人型にも変化する。仲間を大切にし、筋を重んじる一方で食への執着も見せる。

・所属組織、地位や役職
 ガレウス湖の守護を担った聖獣。

・物語内での具体的な行動や成果
 エルフ郷で神威を示して攻撃を止めた。移動や護衛に協力した。郷の愚行を正すと宣言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神格の威を示し、郷の態度を改めさせた。仲間と歩調を合わせる姿勢を見せた。

ブロライト

外界を旅したハイエルフで、両性の身体を持つ。掟を破った存在とされながらも仲間への信頼は厚い。

・所属組織、地位や役職
 冒険者ギルド「ダイモス」に所属。Aランク冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果
 フォレストワーム「伽羅煤」と共に現れた。エルフ郷に案内し、姉の捜索を依頼した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 呪いと見なされた要因が血の問題と判明し、重荷が軽減した。郷と外を結ぶ役割を担った。

サブキャラ

リュティカラ

巫女として次代を担う存在。婚儀を拒み、無理難題を課したのち姿を消した。

・所属組織、地位や役職
 ハイエルフの巫女。

・物語内での具体的な行動や成果
 失踪により郷の均衡を乱した。捜索の主たる対象となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 所在不明であり、郷の未来に深く関わる存在とされる。

リンド・ワイムス

短気で負けず嫌いの素材採取家。嫉妬心から対立を起こしたが、後に姿勢を改めた。

・所属組織、地位や役職
 ベルカイム唯一のBランク素材採取家。

・物語内での具体的な行動や成果
 採取勝負を挑んだ。テンペストボアーから逃げる場面で救助を受けた。七色ウールの採取で協働した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妨害を認めて謝罪した。読み書きの学習を始めた。採取知識が評価された。

エリルー

旅装の若い女性で、情に厚い。頼まれると断れない気質を持つ。

・所属組織、地位や役職
 所属不明。ワイムスの知人。

・物語内での具体的な行動や成果
 妨害依頼を受けて行動したが、説得で誤りに気づいた。必要なら証言をすると約した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 恩返しを動機としていたと明かし、以後は公正を選んだ。

グリット

規律に厳しい受付主任。家族思いで、公正な判断を心がける。

・所属組織、地位や役職
 エウロパ冒険者ギルドの受付主任。

・物語内での具体的な行動や成果
 採取勝負の仲裁を行った。ワイムスの態度を戒めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 公正を貫く姿勢で信頼を得た。

チェルシー

養護に尽くしてきた女性。静かに周囲を支える。

・所属組織、地位や役職
 元養護施設職員。グリットの妻。

・物語内での具体的な行動や成果
 ワイムスやエリルーを育て支えた。贈り物が嫉妬の火種となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 前面には出ないが、二人に強い影響を与えた。

グルサス・ペンドラスス

寡黙で妥協を許さない名工。華美より実用を重視する。

・所属組織、地位や役職
 ペンドラスス工房の親方。王家公認の工房を率いる。

・物語内での具体的な行動や成果
 「覇者の業雷」を鍛え、品評会で最優秀を得た。採取用はさみの製作を引き受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 国宝級とされる作を生み、名声をさらに高めた。

ギルドマスター

腹の据わった統括者で、筋を通す姿勢を示す。

・所属組織、地位や役職
 エウロパ冒険者ギルドの長。

・物語内での具体的な行動や成果
 七色ウール採取を公認行事とした。タケルをFBランクに認定した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領主や依頼主の意向を束ね、行事を進めた。

ウェイド

実務を担う事務主任。公平性を支える役目を持つ。

・所属組織、地位や役職
 エウロパ冒険者ギルドの事務主任。

・物語内での具体的な行動や成果
 公認行事の準備を整えた。FB認定を支えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 裏方として信頼を積んだ。

ルセウヴァッハ伯爵

ベルカイムを治める領主。依頼を出す立場にある。

・所属組織、地位や役職
 ベルカイム領の伯爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 七色ウール採取を領主依頼とした。過去には夫人の治療を依頼した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 街全体を巻き込む祭りの後押しを行った。

メルケリアオルデンヴィア

ハイエルフの女王で、理性と威厳を兼ね備える。変化を受け入れる覚悟を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ハイエルフ郷の女王。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビーを古の竜と認めた。密談を受け入れ、郷の問題を共有した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 外の知を取り入れる方針を示した。

オーケシュトアージェンシール

ブロライトの兄で、執政を務める。郷の重荷を背負う立場にある。

・所属組織、地位や役職
 ハイエルフ郷の執政。

・物語内での具体的な行動や成果
 血の問題を認め、妹と意見を交わした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 過去の判断を悔い、転換の必要を受け入れた。

リルカアルベルクウェンテール

戦士団を率いる人物で、外の者に厳しい態度をとる。

・所属組織、地位や役職
 ハイエルフ郷の戦士長。

・物語内での具体的な行動や成果
 侵入者に矢を放った。のちに対応を改めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 外との接し方を見直した。

アルトン・マル・モトーラ

偽装と潜入に長けた竜騎士。盗賊団に潜入し任務を遂行した。

・所属組織、地位や役職
 アルツェリオ王国所属の潜入調査竜騎士。軍曹であり貴族家の次男。

・物語内での具体的な行動や成果
 盗賊二名を捕縛した。擬似矢と睡眠薬で対処した。懸賞金を譲った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 正体を明かし、誤解を解いた。竜ライラを呼び出し場を去った。

ライラ

空を飛ぶ竜で、主と深い絆を持つ。呼びかけに即応し、移動や戦闘補助を担う。

・所属組織、地位や役職
 アルトン・マル・モトーラの絆の竜。

・物語内での具体的な行動や成果
 呼び笛に応じて飛来し、捕縛者の引き渡しを支えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 姿を現すことで周囲に威圧感を与え、戦力として認められた。

展開まとめ

神城タケルの性格と転生経緯
神城タケルは地球で怠惰な生活を送っていたが、異世界マデウスに転生した。転生時に神のような存在から膨大な魔力と制御能力を授かり、それを利用して素材採取家として活動していた。表向きは明るく振る舞うこともあったが、実際の性格はものぐさであり、明日から本気を出すと考えては怠惰に過ごす人物であった。

伯爵夫人の病気治療依頼
タケルは滞在先のベルカイムを治めるルセウヴァッハ伯爵から依頼を受け、伯爵夫人の謎の病を治療することになった。その過程で、領の隣にあるフィジアン領ヴァノーネ地方アシュス村を訪れることとなった。村名は発音が難しく、タケル自身もたびたび舌を噛むほどであった。

仲間の助力と治療の成功
ドラゴニュートのクレイストンと小さな黒竜ビーの協力により、伯爵夫人の病状は快方に向かった。これにより依頼は果たされたが、ここから新たな事態が発生した。

新たな仲間の出現
事態の核心は、タケル一行に新たな仲間が加わったことであった。その存在は、とんでもなく美しい女性の姿へ変身する馬の神であり、予想外の同行者であった。

1 急転・邂逅相遇

ペンドラスス工房の喧騒と極秘談合
ベルカイム商業区のペンドラスス工房は、王家公認の黄金獅子エンブレムを掲げ、冒険者で賑わっていた。神城タケルは親方グルサス・ペンドラススと応接室で極秘の打ち合わせを行い、工房が国内最高の武器鍛冶として認められた経緯を把握した。

品評会の栄誉と「覇者の業雷」
グルサスはアルツェリオ王都の品評会で、神城タケルがリュハイ鉱山で採取したイルドラ石とイルドライトを用いた剣で武器・剣部門最優秀賞に選ばれた。その青と白銀に輝く剣は覇者の業雷と命名され、国宝相当として扱われる騒ぎとなった。

採取用ハサミの製作依頼と禁欲主義の職人気質
名声が高まっても、グルサスは気の乗らぬ依頼や見せかけの豪奢な剣を拒む姿勢を崩さなかった。神城タケルは遠慮を感じつつも採取用ハサミの製作を依頼し、グルサスはミスリル魔鉱石、魔素水、トランゴクラブの甲羅、イルドライトといった稀少素材に触発され、妥協なき一世一代の品を造ると約した。神城タケルは手型を取り、完成まで一月以上を見込んだ。

聖なる馬神プニの同行と軽口
工房を出た神城タケルを、白銀の髪と紫紺の瞳の美女へと姿を変える馬神プニが待っていた。プニはガレウス湖の守護を担った聖獣で、魔素停滞の解消を経て力を取り戻し、旅に同行していた。じゃがバタ醤油を好み、ビーと軽口を交わしつつ屋台を勧めた。

中央通りでの罵声と対立の火種
職人街を出た神城タケルは、最低ランクの素材採取家と叫ぶ青年に呼び止められた。青年はエウロパ所属のリンド・ワイムスで、ベルカイム唯一のランクB素材採取家である自負から神城タケルへの敵意を露わにした。縄張り意識や盗品疑惑をぶつけたため、神城タケルは穏やかに論理で応じ、領地の権利関係や仕事への姿勢を示して反駁した。プニは過激な制裁を口走ったが、神城タケルが制した。

ギルドでの調停と性急な非難の糾弾
騒ぎを聞いた受付主任グリットが両者をギルドへ導き、面談室で仲裁に入った。ワイムスは指名依頼の減少を訴えたが、グリットは一方的な言いがかりを戒め、冒険者同士の揉め事の禁を強調した。戦闘能力皆無という厳しい指摘も飛び、便乗ランクアップの風評に触れつつ態度の改善を促した。

神城タケルの仕事観とランクF維持の理由
神城タケルは、ランクアップ試験の要請を受けながらも、依頼料に指名料が上乗せされて顧客負担が増えることを憂慮し、ランクFを維持している事情を説明した。最下級の薬草でも色や大きさ、状態を厳選し、図書館で採取法を学び、地形や生息環境の経験則を積み上げてきた姿勢を示した。顧客が離れた理由は、仕事への誠意の差であると冷静に述べ、営業は人への信頼で成り立つと前世の教訓を想起した。

採取勝負の提案と不本意な成り行き
ワイムスは採取での勝負を提案し、神城タケルは渋ったが、グリットは目に見える結果で決着をつけるべきだとして立会いを宣言した。神城タケルは面倒を避けたい意向であったが、ベルカイムの居心地を守るためにも、成り行き上、勝負を受ける流れとなった。

2 歓喜・臨戦態勢

ギルド公認の採取競争とタケルの不本意
ベルカイムでギルド公認の素材採取競争が決定し、対戦はランクBのリンド・ワイムスとランクFの神城タケルに確定した。神城タケルは屋台村のイートインで強く拒否したが、受付主任グリットと事務主任ウェイドの主導で公認行事となり、町全体が祭りの様相を呈した。

勝負対象選定の紛糾と制約
ギルドでの協議では、ワイムスが月夜草やハンマーアリクイの糞、ミスリル鉱石を提案したが、神城タケルの実績やランク制限のため却下された。最終的に採取対象はギルド側が設定する方針となり解散した。神城タケルは異能の探査で優位に立てたが、公平性の観点から魔法や過剰な支援の扱いを懸念して自制の必要を感じていた。

同行禁止と条件整備
勝負は個人戦と定められ、クレイストンやビー、馬神プニの直接支援は禁止とされた。移動は徒歩を基本とし、貸し馬や乗合馬車は許可された。生態の下調べは本人の調査に限り許容され、他者からの教示は禁じられた。神城タケルは図書館での情報収集を想定し、転移門などの反則的利便は自ら封じる方針を固めた。

発表の場と領主公認の依頼
ギルド前の発表で、ギルドマスターは領主ルセウヴァッハ伯爵の依頼としてレインボーシープの七色ウールの採取を提示した。時期限定の抜け毛で希少性はあるが、知識と経験が物を言う対象とされた。群衆は大いに沸き、神城タケルの過去の高品質採取への評価が唱和され、娯楽に飢えた町は完全に祭りムードとなった。

期限・禁止事項・勝負の枠組み
勝負の締切は三日後の夕刻までと決まり、他者への依頼や金銭での解決が発覚した時点で失格と定められた。ワイムスは挑発を続けたが、グリットは度重なる問題行動を戒め、除名処分の可能性にも言及した。神城タケルは焦らず対策を練ると決め、質の高い品を見つけて領主への恩も返す意図を固めた。

内省とチームの距離感
神城タケルは面倒事を嫌いながらも、信頼する顧客と仲間のために勝負から逃げないと結論づけた。クレイストンとビー、プニは支援を望んだが、条件を踏まえて距離を置く体制を了承し、神城タケルは単独での準備に入った。さて号砲とともに始動し、三日の猶予で知識と経験を武器に挑む構えとなった。

3 開始・真剣勝負

勝負開始と神城タケルの動機
素材採取勝負はギルド前の喧噪と賭けの中で開始された。神城タケルは競争自体に関心を示さなかったが、これまでの依頼者の信頼を損ねないため全力で臨む決意を固めた。リンド・ワイムスは先行して大門へ走り去り、神城タケルは焦らずに行動を選択した。

図書館での情報収集と検索魔法の応用
神城タケルは行政区の図書館に向かい、司書マイラから動物図鑑の閲覧許可を得た。探査の応用として文字列検索の要領で「レインボーシープ」「七色ウール」を抽出し、当該項目に到達した。レインボーシープは臆病な草食で群れをなし、夏に抜け毛として七色ウールを残すこと、好物が寒冷地のアモフェル草であることを把握した。

生息地の推定と目的地の設定
アモフェル草の性質から高所寒冷地を想定し、ルセウヴァッハ領内の霊峰トコルワナ山を有力候補と結論づけた。地図の記憶を辿って徒歩での行程を概算し、装備と食料の目途をつけたうえで速やかに出発する段取りを整えた。

単独行動への切替と仲間の待機
勝負条件に基づき、クレイストン、ビー、プニの直接支援を控える判断を下した。ビーの同行を望む気配を宥め、プニに預ける形で神城タケルは単独で南西へ走行を開始した。移動中、ビーへの思いを胸に抱えつつも、短期決戦で戻る計画を維持した。

道中の環境と目標の視認
ドルト街道を進む途中、神城タケルは雪をいただくトコルワナ山の厳しい外観を遠望し、植生の成立しうる帯を狙って探索する方針を固めた。魔素停滞などの不確定要素は切り捨て、ギルドのお題が実現可能である前提で攻略を進めた。

不審な依頼者との遭遇
街道上で旅装束の若い女性が騎馬で追いつき、急ぎの依頼を持ちかけた。神城タケルは素性と意図の曖昧さからギルド経由を促して離脱を図ったが、女性は食い下がった。神城タケルは評判への配慮から一応話を聞く構えを見せつつ、足止めの意図を警戒した。

4 理解・意気投合

妨害の発覚と規律の説示
神城タケルはドルト街道で旅装束の女性エリルーを制し、ギルド公認かつ領主依頼の勝負に対する妨害は失格および処罰の対象となると説いた。エリルーはリンド・ワイムスの知人で、色仕掛けを含む足止め依頼を受けていた事実を認め、妨害の不当性を理解したのである。

借りと恩返しのすれ違い
エリルーは過去に助けられた恩を返すために妨害へ加担したと明かした。神城タケルは「困った時に正道で助けよ」と返し、不正は依頼者・ギルド・領主を同時に裏切る行為であると指摘した。これによりエリルーは方針転換を決意した。

幼馴染の背景と動機の核心
会話の中で、チェルシー(グリットの妻で元養護施設職員)がエリルーとワイムスの育ちを支えた人物であることが判明した。ワイムスが神城タケルに敵意を募らせた根因は、チェルシーへの贈り物(ネブラリの花)で神城タケルが先に功を立てたという幼稚な嫉妬にあった。神城タケルは呆れつつも事情を把握し、勝負は勝負として臨む姿勢を崩さなかった。

和解の合意と再出発
エリルーは妨害を謝罪し、必要であればギルドで証言すると約した。神城タケルは敗北の可能性は低いとしてその申し出を退け、疲弊した馬へ回復を施してベルカイムへ帰すと、自らはトコルワナ山へ向けて行動を再開した。

留守部隊の諍いと取持ち
ベルカイムでは、プニ(ホーヴヴァルプニル)とビーが屋台村で小競り合いを起こし、クレイストンが間に入って宥めた。クレイストンはタケルの状況判断と根の狡猾さ(不利を避ける処世)を評価し、軽挙はないと断じた。屋台村代表ウェガはタケルのお人好しを不安視したが、最終的に信頼へ傾いた。

勝敗観と周囲の確信
周囲はワイムスの勘と脚力、悪運を一定評価しつつも、神城タケルの経験・判断・加護を総合すれば後れは取らぬと結論した。人々は祭りの熱気の中、タケルの無事と勝利を信じ、それぞれの持ち場で見守る体制に移行したのである。

5 遭遇・義勇任侠

霊峰トコルワナでの探査と薬草の思案
神城タケルは霊峰トコルワナの裾野に到達し、探査によって周囲の光を確認しながら、チェルシーの腰痛に効く薬草を探すことを考えた。過去の経験から薬草を調合し、さりげなく渡そうとする思いを抱いていた。

ワイムスの危機とテンペストボアーの出現
その折、リンド・ワイムスがランクCのテンペストボアーに追われて現れた。ワイムスは助けを求めつつも反発を見せたが、神城タケルは冷静に指示を出し、行動停滞の魔法で隙を作り、眉間への一撃で仕留めた。戦利品は鞄に収納され、狩りにおいては感謝を忘れぬ姿勢を示した。

救援後の叱責と嫉妬の核心
救われたワイムスは動揺しつつ感謝を述べ、神城タケルは不正行為の危険性や嫉妬に基づく敵意を一喝した。ワイムスの行動がチェルシーを巡る些細な嫉妬に起因していたことを指摘し、真剣勝負での正道を説いた。

同行の決意と香草の採取
森を進む中、神城タケルは香草マデリフ草を採取し、依頼前から準備する姿勢を見せた。これにワイムスは疑問を呈したが、神城タケルは「顧客はより良いものを望む」という持論を語り、冒険者の責務を示した。

焚火の夕食と心境の変化
夜、焚火を囲んで神城タケルが水餃子を振る舞うと、ワイムスはその美味に驚き、少しずつ警戒心を緩めた。食事を通じて互いの距離が縮まり、ワイムスは悔しさを滲ませながらも相手を認める表情を見せた。

結界具の贈与と義理の示し
神城タケルはミスリル魔鉱石の砂を加工し、強固な結界具を創り出してワイムスに渡した。敵対していた相手にも「関わった以上、他人ではない」として命を守る意思を示し、義理と情を持つ姿を見せた。

6 対峙・剽悍無比

ワイムスの変化と知識の共有
タケルとワイムスは霊峰トコルワナを登りながら採取を続けていた。ワイムスは以前の攻撃的な態度を和らげ、薬草に関する知識を語るようになった。エプララ草を虫ごと採取することで薬効が高まるなど、彼の経験は本や調査魔法でも得られない情報であった。字が読めないながらも、臨時チームで先輩から技を盗み学んだ努力の積み重ねが伺えた。彼の険しい性格は変わらないが、その裏にある努力や実績を知ることで、タケルは彼への苛立ちを減らしていった。

アモフェル草の群生と不穏な兆候
登山が進むと空気は薄くなり、アモフェル草の群生が広がる高地へと出た。そこはレインボーシープの生息が期待できる環境であった。しかしタケルの探査により、黒点滅するモンスターが灰色の動物を追っている反応が確認された。警戒を促す間もなく、ワイムスは勝負心を剥き出しにして先行し、危険な状況に踏み込んでしまった。

モンスターとの遭遇とワイムスの窮地
ワイムスが斜面を駆け上がった先で遭遇したのは、猛毒の角を持つランクCモンスター「ガロノードバッファロー」の群れであった。彼はその角に狙われ、絶体絶命の状況に陥る。タケルはユグドラシルの杖を用いて速度上昇や飛翔を展開し、後方から一体を急襲。強烈な一撃で仕留めたが、残る二体は怒り狂い、獲物をタケルへと定めた。

結界魔道具の発動と反撃の開始
タケルはワイムスに昨日渡した結界魔道具の使用を叫び、彼は半信半疑ながら起動に成功。ミスリル魔鉱石の砂が強力な防御膜を形成し、ワイムスを守った。これにより安心したタケルは、自身が正面から二体と対峙する覚悟を固める。魔法使いでも戦士でもなく、採取専門家として未熟ながらも、仲間に頼らず戦い抜く意志を示した。硬化させた両手を構え、突進するバッファローに立ち向かったのである。

7 発見・発人深省

討伐の余得とワイムスの動揺
神城タケルはテンペストボアーとガロノードバッファローの討伐により数日分の食料を確保し、安堵するワイムスに周囲の安全を告げた。戦士ではないと明言しつつも的確な魔法運用と近接での対処を示し、ワイムスはその実力に言葉を失っていた。

高地の兆しと目標の確証
探査で安全を確認した神城タケルは、急斜面の上方に色とりどりの群れを視認し、図書資料の知識と照合してレインボーシープと断じた。アモフェル草の群生や齧り痕が生息の証左となり、希少性ゆえ無益な捕獲を避け、毛のみを得る方針を固めた。

品質基準の示唆と協働の必然
神城タケルは領主への献上品である以上、地に落ちた汚損毛ではなく、梳き取った良質な七色ウールが求められると説いた。ワイムスが単独で追い回す姿勢を戒め、毛刈りには捕縛と梳毛の分業が適するとして、互いの協力を不可避と結論づけた。

仕事観の転換と指導
神城タケルは「できないからやらない」ではなく「できる方法を探す」こと、わからなければ尋ねることが成長だと諭した。グリットの叱言が期待の裏返しであると伝え、若くしてランクBに至った努力を肯定したことで、ワイムスは初めて素直に耳を傾けた。

動物親和の活用と採取の成功
神城タケルは動物に好かれる体質を活かして群れの警戒を和らげ、呼びかけでレインボーシープを引き寄せた。水色の個体が自ら寄ってくると、ワイムスに櫛を渡して首下を梳かせ、負荷なく毛塊を得ることに成功した。周囲の個体も次々と身を預け、二人は穏当に高品質な七色ウールを確保した。

笑顔の共有と確かな一歩
群れに囲まれながら採取を続けるうち、ワイムスの表情から敵意と嫉妬は消え、純粋な驚嘆と喜悦が宿った。神城タケルの方法は、勝敗を超えて仕事の基準と協働の価値を体感させるものとなり、両者の関係は確かな一歩を刻んだのである。

8 無謀・意気軒昂

七色ウールの確保とギルドの思惑
神城タケルとリンド・ワイムスは協働でレインボーシープから高品質の七色ウールを一抱え分確保した。タケルは、ギルドが「二人に共同作業をさせて関係修復を促す」意図で課題を選んだと推測し、採取手法の一部が他支部経由で共有された可能性にも言及した。

帰還段取りと不穏の兆し
目標達成後は「先にベルカイムへ戻る勝負」の流れとなり、ワイムスは借り馬、タケルは自力走破での帰還を想定した。そこでタケルのうなじに嫌な予感が走り、群れが一斉に散開。探査の結果、斜面下から接近する複数の人間反応を察知した。

盗賊の来訪と“毒角”の闇取引
現れた三名はパレシオン毒(ガロノードバッファローの角由来)を狙う者たちで、価格高騰を談合しつつ獲物を探索。タケルの鑑定で二名が盗賊団「毒蜘蛛の戦慄」の指名手配犯であること(殺人・強盗等、賞金首)を把握した。彼らは角目当てで縄張りを探るが、先刻タケルが討伐済みのため獲物を見つけられない。

ワイムスの暴発と事態の緊迫
静観を選んだタケルに対し、ワイムスは正義感から飛び出して糾弾。盗賊側は即座に敵意を示し武器を構え、戦闘不可避の情勢となる。タケルは姿隠しを解いて前へ出つつ、軽挙を叱責。自身は対人経験に乏しいため致死は避け、気絶・睡眠など非致死的な無力化を模索する方針を固めた。

9 安眠・勧獎懲戒

盗賊との遭遇と対峙
ワイムスは結界魔道具を起動させたが、三人の盗賊は得物を構え間合いを詰めてきた。タケルは加減を誤れば相手を即死させる危険を理解しつつも、防御魔法で対応した。襲撃してきたチョバカを防御結界で弾き飛ばし、続く攻撃にも警戒を強めた。アホルヌスと呼ばれる男はランクBの実力者であり、残る細身の男エルヤは毒矢を放つなど不気味な技量を示した。

魔法による反撃と制圧
タケルは自らを魔法使いと演出し、芝居がかった態度で盗賊を牽制した。アホルヌスの斧を回避し、炎と氷を組み合わせた攻撃で負傷させる。さらに、即死を避けるために新たに考え出した睡眠魔法を用い、チョバカとアホルヌスを相次いで深い眠りに落とした。強制ではなく安らぎを与える魔法は、疲弊した盗賊たちに抗えない効果を発揮した。

エルヤの正体の発覚
最後に残ったエルヤは毒矢の使い手であったが、タケルがギルドリングを示すと態度を一変させた。盗賊の風貌を捨て去り、正体を明かすと、自らを「アルトン・マル・モトーラ軍曹、マティアシュ領潜入調査竜騎士」と名乗った。偽装して盗賊団に潜り込んでいた人物であり、場の緊張は思わぬ形で収束を見せた。

10 疑惑・慎始敬終

竜騎士の正体の発覚
盗賊だと思っていたアルトン・マル・モトーラが、実はアルツェリオ王国所属の潜入調査竜騎士であることが判明した。彼は盗賊団「毒蜘蛛の戦慄」に潜入し、内部から崩壊させる任務を担っていた。タケルは鑑定を用いてその身分を確認し、モトーラが本物の竜騎士であり、さらに貴族の次男であることを知った。

モトーラの任務と感謝
モトーラは盗賊の捕縛を自らの任務と語り、タケルに感謝を示した。盗賊二人は眠らされ捕縛され、懸賞金はタケルに譲渡されることとなった。タケルは自分の介入で潜入計画を壊したことを気にかけたが、モトーラは「危険なガロノードバッファローを退治してくれた」と前向きに受け止めていた。

潜入の闇と価値観の差
モトーラはワイムスに放った矢が実際には擬似矢であり、睡眠薬を仕込んでいたことを明かした。タケルは正確に急所を狙ったやり方に不満を覚えるが、潜入騎士としての立場からすれば当然と理解する。彼は笑顔の下に潜む闇を感じ取り、価値観の違いを意識しながらも深入りは避けることを選んだ。

竜との邂逅
タケルはワイムスを背負い、ベルカイムへ帰還の途についた。モトーラは盗賊を引き渡すために残り、再会を誓った。直後、彼が吹いた笛に応じて空を飛ぶ竜が現れた。それはモトーラの絆の竜であるライラであり、雄大な緑の飛竜の姿を見たタケルは、いつかビーも同じように成長するのかと思いを馳せた。

11 帰還・勇往邁進

追走と再会
タケルは爆睡していたワイムスを背負って下山・宿泊。翌朝ワイムスが先発したため、タケルは猛烈追走。城門手前でビーが乱入しつつも、二人はほぼ同着でベルカイムへ。

“速さ”より“品質”の勝負
ワイムスは先着に固執するが、タケルは「素材採取の勝敗は速度ではなく依頼者満足=品質」と看破。ギルドが意図的に明言を避けた狙い(自力で考え、協力して達成)を読み解く。

成果の開示とワイムス評価
城門前でギルド一同が出迎え。タケルは自分と同量の七色ウール袋を二つ提示し、うち一つはワイムスの分だと返却。採取手順(タケルがシープを宥め、ワイムスが梳く)を明かし、ワイムスの知識を公に称賛。グリットは鑑定の結果「量・状態ともに極上、一本一本が七色に輝く本物」と太鼓判。

課題と提案(育成の道)
タケルはワイムスの短気・選り好みを指摘しつつ、最大の伸び代は“知識の体系化”だとして読み書き教育を提案。図鑑を読めれば応用が利き、上位採取家に化けるとギルドに進言。

ギルドの本音とタケルの一線
タケルは「今回は良心に賭けたギルドの仕掛け」と見抜き、協力で成果を出したが「今後こういう仕掛けは二度と乗らない」と釘。マスターと軽口を交わし、場は和む。

結末
七色ウールは圧倒的品質で納品準備完了。勝敗の正式発表は翌日に持ち越し。タケルとワイムスの関係は“敵対”から“育成の芽生え”へと転じた。

12 決着・水到渠成

勝敗の決着
ギルドは七色ウールの成果を鑑定し、両者とも最高品質を持ち帰ったことで依頼主は大満足し、報酬に加えて報奨金を支払った。しかし、依頼品を持たずに帰還した失態によりワイムスは減点され、勝負はタケルの勝利とされた。

ワイムスの敗北宣言と謝罪
公式発表の前に、ワイムスは自ら「俺の負けだ」と敗北を宣言した。さらに、採取勝負の最中にタケルの邪魔をしたことをエリルーに指摘されたと明かし、素直に謝罪した。普段は反抗的な彼の態度からは想像できない行動に、タケルやギルドの面々は驚きを隠せなかった。

オールラウンダー認定の提示
その後、ギルドマスターはタケルに「FBランク」認定を告げた。これはオールラウンダーと呼ばれる特別な地位で、FからBまでの依頼を一律で受注できる稀少な資格であった。通常のランク制度を超えるこの措置は、ギルドの独断と領主や依頼主の強い要望によって決定された。

ギルドの信頼と覚悟
タケルは自らの素性が不明であることを理由に躊躇したが、ギルドマスターは「厄介事の一つや二つ払い落とせなくて何がギルドマスターだ」と一喝し、ウェイドも「遠慮は不要だ」と後押しした。最終的にギルドマスターは「その腕をエウロパに貸せ」と真剣に語り、タケルはその信頼に応えて頷いた。

――こうして、素材採取勝負は幕を下ろし、タケルは冒険者として新たな段階へと進むこととなった。

13 展開・局面打開

FBランク認定と心境
タケルはベルカイムで白金のギルドリングを授かり、FBランク=オールラウンダー認定冒険者となった。これはアルツェリオ王国内で三人しかいない特別待遇であり、ギルドの絶大な信頼を示すものだった。だが、タケルは「責任が増えて面倒になるのでは」と複雑な思いを抱く。それでも仲間たちの支えにより、彼は新しい立場を受け入れることとなった。

日常と仲間の成長
プニやクレイ、ビーと共に昼食をとる中、ワイムスが読み書きを学び始めたことが語られる。エリルーと競い合うように学ぶ彼の姿は以前より柔らかくなっており、成長の兆しを見せていた。タケルは自らの魔力や仲間との日常に感謝し、過度な欲を持たず平凡な幸せを大切にする決意を新たにする。

フォレストワーム出現の報
その矢先、ギルドに小人族のスッスが駆け込み、トバイロンの森からフォレストワームが街道へ向かっていると報告。肥沃な糞を残すことで知られる温和なモンスターだが、街道に迫る状況は異常であり、暴走の可能性も懸念された。冒険者たちは緊張の中で集結し、ランクAのクレイを中心に対応することとなった。

街道での遭遇と意外な再会
タケルたちはベルカイムを出てドルト街道を北上し、森をなぎ倒して進む巨大な影を待ち構える。異様な気配を放ちながらも、どこか懐かしい存在感を感じるタケル。やがて姿を現したのは、巨大なミミズに似たフォレストワーム――そしてその背にまたがっていたのは、かつての知己ブロライトであった。タケルは困惑と羞恥を覚えつつも、予期せぬ再会に直面することになった。

14 桃山茶の再来

ブロライトとの再会とフォレストワーム
タケルとクレイストンはトバイロンの森でブロライトと再会した。彼女は巨大なフォレストワーム「伽羅煤」を連れて現れ、移動手段として贈ろうとしたが、見た目や臭気の問題からタケルは受け入れを拒んだ。ブロライトは再会を喜びつつもタケルを探していた理由を語った。

チーム蒼黒の団への加入
ベルカイムで事情を説明したのち、タケルはブロライトにチーム参加を誘った。ブロライトは自身がギルド「ダイモス」に所属を移して実力を磨き、Aランク冒険者に昇格していたことを明かした。彼女はランクAモンスターを討伐するほどに成長しており、クレイストンとの手合わせを望んだ。

依頼の核心とリュティカラの失踪
ブロライトはタケルに願いを託した。彼女の姉リュティカラは巫女として次世代の長を産む役目を負っていたが、婚儀を嫌い無理難題を突きつけた末に姿を消したという。大樹の魔力維持が困難となった郷は混乱し、ブロライトは姉の行方を知るために仲間の力を借りる決意を示した。タケルは依頼を受け、クレイストンとプニも同行を承諾した。

エルフの郷への道程
チームはドルト街道を進み、トバイロンの森に入った。ブロライトの魔力によってエルフの郷への道が開かれ、プニは巨大な白馬に変化して仲間を乗せた。やがて異空間の渦を通じて彼らは転移することになったが、その直前にプニはタケルへブロライトの内面に潜む闇を警告した。

エルフ族との衝突
転移後、一行はエルフ族の矢の一斉射撃を受けた。ブロライトは説得を試みたが、郷の戦士リルカアルベルクウェンテールらは彼女を忌むべき存在と罵倒した。さらに仲間を禍々しいと侮辱したことでプニが激怒し、雷を伴う神威を顕現させ、エルフたちは恐怖と畏敬から跪いた。

深碧の郷ヴィリオ・ラ・イ
タケルは仲間としてブロライトを庇い、オールラウンダーの証を示すことで状況を収めた。エルフ族の統率者たちは態度を和らげ、一行はついに深碧の郷ヴィリオ・ラ・イへと案内された。そこは大樹を中心とした幻想的な聖域であったが、魔素の濃さにより不穏な気配が漂い、ビーも怯えを示した。清めの泉に向かう前、タケルの魔法は郷の空気を清浄化し、周囲を驚愕させる結果となった。

16 天鵞絨の真実

ハイエルフ族の正体とゴワンの王宮
エルフ族の上位種であるハイエルフ族は魔力が高く、他種族との交流を拒む厳格な種族であった。エルフの郷の中心には巨大な生命の大樹ゴワンが聳え、その内部に王宮が築かれていた。タケルたちはブロライトに導かれ、大樹を登ることになった。

ブロライトの告白
道中、ブロライトは自らがハイエルフ族であることを告白した。彼女は郷の掟を破って外界を旅してきたことを謝罪し、クレイストンもその重さを指摘した。だがタケルは種族の違いや掟に頓着せず、仲間として受け入れる姿勢を示し、クレイストンもそれに同意した。ブロライトは安心し、微笑みを取り戻した。

ハデ茶と大判焼きの饗応
王宮の前で案内を受けた一行は、侍女によりハイエルフ族秘伝の茶「ハデ茶」を振る舞われた。タケルは日本の玉露に似た味に驚き、大判焼きと共に供すると、その組み合わせは侍女や衛兵をも魅了した。和やかな空気の中、タケルは郷を覆う濃い魔素の由来を問うと、侍女は半年以上前から魔素の増加とともにエルフたちの力が弱まったと説明した。

ブロライトの兄との邂逅
そこへ現れたのはブロライトの兄、執政オーケシュトアージェンシールであった。小柄な容姿ながら人格者として振る舞い、プニとクレイを敬意をもって迎えた。タケルにも丁寧に謝意を示し、友好的に接した。

忌むべき血脈の言葉と衝撃
兄は一族の血脈を忌むべきものと語り、ブロライトは必死に反発した。二人は口論となったが、仲の良さも垣間見せた。しかしその中で兄は思わずブロライトを「愚弟」と呼んでしまい、タケルはその言葉に大きな衝撃を受けた。

17 潤朱の衝撃

ブロライトの告白と血脈の宿命
ブロライトは自らを女でありながら男でもあると明かし、タケルを驚愕させた。両性は珍しくないと説明され、クレイやプニは冷静に受け止めた。兄オーケシュトアージェンシールは忌むべき血脈を終わらせられなかったことを悔い、ブロライトに業を背負わせたと語った。

魔素異常への対処の試み
タケルは郷を覆う魔素の濃さに疑問を抱き、執政に原因を尋ねた。清潔の魔法では一時的な効果しかないため、魔素を吸収し続ける結界を構想した。魔素を取り込みつつ放出する循環機能を持たせるべく、巨大なオレンジ色の魔石を創り出し、結界の核とした。

オレンジダイヤの起動と結界の完成
完成した巨大なオレンジダイヤを地上で起動すると、光が広がり郷全体を包む大結界が形成された。濃すぎる魔素は和らぎ、空気は澄んでエルフたちは歓喜した。ビーも自由に飛び回り、郷の者たちは拝むようにして感謝を示した。

伝承の救い主としての認識
アーさんはタケルを凝視し、古の伝承に語られる異なる血を抱く者だと断じた。エルフたちは一斉に跪き、タケルを救い主として崇めはじめた。困惑するタケルを前に、ブロライトは彼こそが郷の伝承の救済者であると告げた。

18 海松藍の伝承

伝承の碑文とその解釈
ハイエルフ族に伝わる古い言葉が石碑に刻まれていた。青き空が宵闇に染まるとき尊き血は失われると記され、最後には異なる血を抱きし者が大地を潤すと続いていた。タケルは予言というより忠告に近いと考え、尊き血をハイエルフ族と解釈した。時間の経過とともに一族が衰退することを示すと推測し、アーシェンシールもその解釈に同意した。

滅びの兆しと救い主の存在
碑文の内容に、ハイエルフたちは滅亡を連想して悲嘆した。尊き源が枯れるまで愚か者が嘆きを止めぬとあり、一族を滅ぼす要因が存在すると理解された。異なる血を抱きし者とは外の種族を指すとされ、アーシェンシールはブロライトの行動を受け入れつつも、その背負わせた重責に罪悪感を抱いていた。

温泉での休息と本来の目的
一行は郷に宿泊し、タケルは宿屋の露天風呂に感激した。プニやブロライトと共に薬湯と呼ばれる温泉を楽しみ、束の間の安らぎを得た。そこでタケルは、魔素の濃さの原因を探る必要性と共に、ブロライトの姉リュティカラ捜索という本来の目的を思い出した。

掟を破った理由と異なる血の意味
ブロライトは掟破りの忌むべき存在とされてきたが、アーシェンシールは異なる血を抱きし者こそが救い主であると解釈し、外界に興味を持った妹の行動を黙認していた。そのため彼女は郷で嫌われる立場となったが、タケルたちと出会えたことに後悔はないと語った。タケルは目的がリュティカラ探索、魔素の異常の解明、そして伝承の真意の三つへと広がったことを自覚した。

19 猩々緋の喜悦

巫女の役割とブロライトの年齢
湯浴みの席でタケルはブロライトから巫女の役割を聞いた。巫女は強大な魔力で郷を守り、次世代の巫女を産む存在である。しかし数百年、強力な巫女は生まれていなかった。ブロライトは五十七歳であることを明かし、タケルを驚かせた。

新たな料理の実演
タケルは鞄から食材を取り出し、クレイやブロライト、さらに興味を示したエルフたちの手を借りて調理を開始した。ロックバードの肉に木の実やキノコを合わせ、醤油の実と薬草を使った炒め物を完成させる。香ばしい匂いが広がり、エルフたちは窓越しに集まった。

食堂での饗宴
完成した料理は「木の実と鶏肉の辛味炒め」として供され、チーム蒼黒の団とエルフたちが一斉に食した。リルカアルベルクウェンテールも味に驚き、無言で食べ進め、やがて郷のエルフたちが次々と歓声を上げた。閉鎖的だった郷に新たな文化の風が吹き込んだ瞬間であった。

蟹出汁スープの衝撃
さらにタケルは、非常食の肉すいとんスープに隠し味を加えていたことを明かした。出汁の正体は巨大なトランゴクラブの甲羅であったと示すと、エルフの郷全体を震わせるほどの大絶叫が響き渡った。食の喜びは、郷に新たな衝撃と歓喜をもたらしたのである。

20 雲居鼠の瞳

静かな朝と侍女アンバールの告白
タケルは宿での休息を終え、侍女アンバールに呼ばれて大樹へ向かった。道中、アンバールは自身もハイエルフであると明かし、外の世界への憧れを語った。さらに五十年前からハイエルフの赤子が欠けた姿で生まれ、数日で死ぬという呪いの病が蔓延していることを涙ながらに告白した。ブロライトが郷を出たのは、その呪いを解くためでもあった。

女王との謁見
大樹の最上階、荘厳な謁見の間でタケルは女王メルケリアオルデンヴィアと対面した。白き姿の女王は灰色の瞳でタケルを見据え、彼が郷を覆う魔素を払ったことを知っていた。女王の問いにタケルは、地震による大地の変動が魔素の溜まりを生んだのではないかと推測を述べた。

ビーの顕現と女王の動揺
タケルは事の発端がビーであることを語り、背中から姿を見せるよう促した。女王はその姿を目にして震え、古の竜と悟った。無理に頭を下げようとする女王をタケルが支えると、朝日に照らされたビーの黒い体は神々しく輝き、女王の瞳に涙が浮かんだ。ビーがただの竜ではなく、古代竜であることが明らかとなったのである。

21 月白の涙

女王との対話とビーの存在
ビーは女王メルケリアオルデンヴィアに愛嬌を振りまき、蟹の美味しさを楽しげに語った。その仕草に女王は笑みを浮かべ、場は和やかになった。タケルは古代竜ボルからビーを託された経緯を説明し、女王は彼の言葉を信じた。女王はタケルの魔力の色を不可思議なものと評し、古代竜が彼を選んだ理由に納得した。

リルカアルベルクウェンテールとの関係
戦士団の長リルカアルベルクウェンテールはブロライトの幼馴染であり、彼女が掟を破って郷を出たことを許せずにいた。ブロライトはその冷たい態度を理解していたが、タケルは時代の変化を示唆し、外界との交流の必要性を語った。

魔道具による密談の開始
タケルはミスリル魔鉱石の砂で作った音を遮断する魔道具を起動し、女王と執政アーシェンシールに秘密の話を始めた。彼の調査の結果、女王とアーシェンシールには「遺伝性免疫不全症候群」があると判明した。さらに、呪われた赤子の出産は病ではなく近親婚による遺伝的弊害だと説明した。

伝承の解釈と真実
伝承に記された「尊き源枯れるまで 嘆きを止めぬ愚か者」は、近親婚を繰り返し血を濃くし続けた一族の愚行を指しているとタケルは解釈した。そして「異なる血を抱きし者」とは外界の血を取り入れることを意味すると結論づけた。

ブロライトの涙と安堵
ブロライトは自らが両性である理由も血脈の偏りに起因するのではないかと悟った。彼女は涙を流しながらも、呪いではなく血の問題であったと知り、もう同じ悲劇は繰り返されないと信じて晴れやかに笑った。その姿にタケルと仲間たちは深い安堵を覚えた。

22 紫紺の慈愛

ブロライトの涙と決意
ブロライトは原因が呪いではなかったと知ると、涙を流しながらも晴れやかに笑った。しかし感情が溢れ、タケルに抱きつきながら鼻水を拭おうとする始末で、場は気まずさに包まれた。彼女の懇願は必死であり、郷と家族を救ってほしいと土下座に近い形で訴えた。周囲のエルフやハイエルフもその姿を見守り、戦士長リルカアルベルクウェンテールは悔しげな表情を浮かべた。

伝統を変える難しさと神の世界
タケルは近親婚の弊害を指摘したが、クレイは伝統をどう覆すのかと問うた。タケルは一朝一夕では無理であり、エルフたち自身が変わらねばならないと語った。プニは神々の在り方を説明し、すべての種族を救うことは神の役目ではないと冷徹に言い放った。だがタケルは「仲間が助けを求めるなら全力で助けたい」と答えた。

プニの変化と慈愛
ブロライトの必死の願いに、意外にもプニが応じた。リベルアリナを探し出し、愚行を正させると宣言したのだ。冷徹に見えた古代馬は、仲間を助けたいというタケルの言葉を受け止め、自らも動くと決意した。プニはブロライトを立ち上がらせ、涙を拭って「お前は笑っていればよい」と告げた。その言葉には確かな慈愛が宿っていた。

食い意地張った神の望み
クレイも共に力を貸すと約束すると、プニは仁王立ちして命じた。「じゃがバタ醤油を十個」と。食いしん坊な願いで締めくくられたが、その場には温かな空気が広がった。こうして一行は、プニの導きのもとブロライトの呪われた運命に立ち向かう決意を固めたのである。

同シリーズ

5b6cba74e0d7c0670042eef3e802413a 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記
6331e7d5c85202f5810888da47aaa587 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記2
1536d9985f2d8daf1fdc46fcd09e8d39 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記3
02824de0941ed3d5f831095e68b23881 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記4

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「素材採取家の異世界旅行記 3」感想・ネタバレ・アニメ化
フィクション(novel)あいうえお順

小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
青春ラブコメディである。クラスのリア充カーストの頂点に君臨する主人公・千歳朔と、その周囲に集うヒロインたちの葛藤や成長を瑞々しく描く群像劇の第6巻である。
内容紹介
夏祭りにおいて、朔は柊夕湖との“偽装カップル”を演じることになる。その噂が広がる中、不良グループに絡まれる事態や、夕湖に好意を寄せる成瀬智也から思いがけず相談を受けるなど、波乱含みの展開が続く。さらにある出来事によって、朔と明日風の関係性に疑問が生じ――ふたりはどう応えるのかが焦点となる一冊である。

主要キャラクター

  • 千歳 朔(ちとせ さく):本シリーズの主人公かつリア充カーストの頂点に立つ男子。周囲を惹きつける魅力を持ちながら、他者の心の揺れにも繊細に応える人物である。
  • 柊 夕湖(ひいらぎ ゆうこ):朔から“正妻ポジション”と呼ばれるヒロインで、本巻では偽装カップルの提案者となり、自身の気持ちと向き合う重要な立場を担う。

物語の特徴

本作の魅力は、「リア充である主人公が、自らの立場を活かしつつも他者への配慮と成長を両立させている点」にある。軽やかに描かれる青春の中に、友人への責任・恋心への葛藤・自分の想いとの折り合いといった重層的なドラマを織り込むことで、単なるコメディを超えた深みが際立っている。

書籍情報

千歳くんはラムネ瓶のなか 6
著者:裕夢 氏
イラスト:raemz  氏
レーベル/出版社:ガガガ文庫小学館
発売開始:2021年8月19日
9784094530223

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化ブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化BOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

私を見つけてくれて、ありがとう
すべては変わってしまった。
唐突に、劇的に。どうしようもないほど残酷に。

けれど、ひとりで塞ぎ込む時間を、彼女は与えてくれなかった。
「あの日のあなたがそうしてくれたように。今度は私が誰よりも朔くんの隣にいるの」

――1年前。まだ優空が内田さんで、俺が千歳くんで。
お互いの“心”に触れ合ったあの日。俺たちの関係がはじまったあの夜を思い出す。

優空は言う。

「大丈夫、だいじょうぶ」
月の見えない夜に無くした何かを、また手繰りよせられるというように。

……俺たちの夏は。まだ、終わらない。

千歳くんはラムネ瓶のなか 6

感想

今作は、唐突に、そしてどうしようもなく残酷にすべてが変わってしまった夏休み、そんな状況から始まる物語である。孤独に塞ぎ込もうとする朔に、ヒロインである優空が寄り添うことを決意する姿が描かれた第六弾だ。

一年前、優空と朔の関係が始まったあの夜。その出来事が、今も二人の関係に深く影響を与えていることがわかる。衝撃を受け、動揺し、葛藤しながらも、ヒロインたちは自分なりのやり方で懸命に朔を支えようとする。その姿には、心を揺さぶられる思いがした。特に、不器用だったあの子が秘めていた真意が明らかになる場面は、深く心に残った。

傷ついた朔を大切に思う人たちは、彼が孤独になることを許さない。これまで言えなかった本音をぶつけ合い、どうにかみんなで乗り越えようとする結末は、読んでいて胸が熱くなった。夕湖の一件を通して、それぞれが自分の気持ちと向き合う中で、不器用ながらも仲間を気遣う友情には、本当にグッとくるものがあった。特に、健太の意見は的を射ており、物語に深みを与えていたと感じる。

また、優空が朔に救われた過去のエピソードは、二人の絆の深さを改めて感じさせてくれる。夕湖の告白の真意には複雑な気持ちを覚えるものの、彼女の覚悟には痺れるものがあった。ラストシーンでは、衝突した仲間たちが本音でぶつかり合い、前へと進んでいく姿が描かれており、読後感は非常に爽やかだ。

夕湖の告白を退けたことで、チーム千歳の絆に危機が迫る中、優空との過去を振り返る朔が自身の本質に迫る今巻。まさに、青春の香りがむせかえるほどのエモくて尊い物語である。

「ビー玉の月、沈む玉の手が伸びる先は。」というフレーズが示すように、今作は、朔が過去と向き合い、未来へと進むための重要な一歩となるだろう。なぜ断ってしまったのか、なぜ拒絶したのか。改めて告白の本心に触れ、仲間の助けと激励に背を押され、もう一度絆を結び直す。

前半戦の締めくくりとして相応しい、圧倒的な感情の大嵐に襲われるような面白さだった。ぜひ、何も聞かずに、読んでみて確かめてほしい。後半戦の行方が非常に楽しみである。次巻も必ず読みたい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化ブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化BOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

主要キャラクター

千歳朔
自己嫌悪と向き合いながらも他者の痛みに即応して寄り添う存在であった。夕湖の公開告白を断ったのち、孤立と惰性の夏へ傾きかけたが、仲間と「手放さない」約束を重ねて再起の端をつかんだ。
・所属・立場
 藤志高校二年生。
・主な行動・出来事(本更新範囲)
 河川敷で優空のサックスに救われた/自己罰を否定して「馬鹿な真似はしない」と約した/明日風に経緯を語り受け止められた/祖母宅を訪ねて原風景と「ご縁」を再確認した/祭り前に優空の指切りを受け、三人の対話に臨んだ。
・変化・影響
 「誰かの誠実まで背負う」歪みを自覚し、選べない現在を言語化して保留する誠実へ舵を切った。

内田優空
「普通」を生き抜くための自己規則を抱えていたが、朔との対話で再定義に至り、いまは自分のためにわがままを選べる存在へ変化した。
・所属・立場
 藤志高校二年生。バスケ部。
・主な行動・出来事
 サックス演奏で朔を支え、「自己罰の否定」を明言した/過去(母の失踪)と“普通”の呪いを語り、家族と和解した/台所と食事で朔の日常を立て直した/お盆中に夕湖宅を三度訪ね、最終的に祭りで三者対話を主導した/「手を繋いでいよう」を提案して三人の結び目を保全した。
・変化・影響
 受け身から主導へ転じ、関係調律者として物語の軸を獲得した。

柊夕湖
明るさと正面突破で関係を進めるが、公開告白後は痛みと向き合いながら自省に踏み込んだ。
・所属・立場
 藤志高校二年生。バスケ部。
・主な行動・出来事
 失恋の夜を海人の伴走で帰宅/母の抱擁で立ち直りの端を得た/一年分の懺悔(屋上の“告白未満”〜公開告白の動機)を語った/朔への観察に基づく「好き」を具体で証明した。
・変化・影響
 三角関係の均衡を自ら壊し、「終わらせる告白」で舞台を整え、以後は“可能性を自分で選ぶ”主体へ移行した。

西野明日風
外側から見守る位置に痛みを抱えつつ、言葉で救いを差し出す存在であった。
・所属・立場
 藤志高校三年生。
・主な行動・出来事
 朔の報告を受け「つらいね」で受容/祖母の家への誘いで朔を原点に導いた/「愛を知らぬ月」の比喩で朔の課題を指摘した。
・変化・影響
 当事者ではない疎外を自覚しつつ、“離れて暮らす覚悟はあっても、離れる覚悟はない”という独白が、物語の張力を強めた。

七瀬悠月
冗談と本気の揺らぎの中で、他者の痛みに寄り添う術を選び直した。
・所属・立場
 藤志高校二年生。
・主な行動・出来事
 自責に沈む夜、陽を夕食へ誘って並走した/朔宅での手料理(カツ丼)で気力を戻した。
・変化・影響
 “形式の美しさ”より“等身大の支え”を重んじる姿勢へ。

青海陽
努力の論理が通じない恋に怯えながらも、並走する強さを示した。
・所属・立場
 藤志高校二年生。元野球部。
・主な行動・出来事
 河川敷で練習を続け、悠月と互いを支え合った/朔に「仲間に頼れ」と伝えた。
・変化・影響
 “けじめの宣言”を保留しつつ、見守る覚悟を固めた。

浅野海人
真っ直ぐさで友を支え続け、失恋も正面から受け止めた。
・所属・立場
 藤志高校二年生。野球部。
・主な行動・出来事
 失意の夕湖に伴走し告白、丁重に断られて受容した/朔とは握手で和解へ。
・変化・影響
 怒りの矛先を収め、関係修復の端を担った。

間宮和希
静かな観察者として要所でブレーキとアクセルを配した。
・所属・立場
 藤志高校二年生。
・主な行動・出来事
 朔の閉塞を指摘し再起を促した/健太の叱咤を受け共に腹を括った。
・変化・影響
 理性的支柱としてグループの再結束に寄与した。

サブキャラクター

山崎健太
真っ直ぐな叱咤で停滞を破った。
・所属・立場
 藤志高校二年生。
・主な行動・出来事
 河川敷で水篠の本音を聞き、後に朔と和希を涙ながらに叱咤した。
・変化・影響
 「できるかではなく意志」を突き付け、再始動の火種となった。

水篠涙人
表には出さぬ恋を静かに処理した。
・所属・立場
 藤志高校二年生。
・主な行動・出来事
 悠月への秘めた想いと“その瞬間に失恋した”心情を健太に告白した。
・変化・影響
 誰も間違っていないという合意形成に寄与した。

柊琴音
明るさと率直さで娘を受け止める若き母であった。
・所属・立場
 夕湖の母。
・主な行動・出来事
 失恋直後の夕湖を抱き留め、否と是の両面から励ました/お盆の来客(優空)を迎え入れ、対話を支えた。
・変化・影響
 “家”の温度で物語を下支えした。

岩波蔵之介(蔵セン)
軽口と実務で若者の夏を運営した。
・所属・立場
 藤志高校教員。
・主な行動・出来事
 夏勉の運営、焚き火場の示唆、BBQの段取りなど。
・変化・影響
 「折り目は自分以外からもつけられる」という示唆が余韻を残した。

奥野先輩
遅すぎた告白の悔いを後輩へ託した。
・所属・立場
 藤志高校三年生。
・主な行動・出来事
 明日風への失恋談を語り、朔に時間の重さを伝えた。
・変化・影響
 “あっという間”の感覚を朔に刷り込んだ。

西野の祖母
原風景と「ご縁」の哲学で若者を包んだ。
・所属・立場
 明日風の祖母。
・主な行動・出来事
 迎え火で二人を迎え、食卓と昔話を分かち合った。
・変化・影響
 “端を離さなければ繋がる”の言葉が朔の決意を補強した。

亜十夢
陽の気遣いで朔と野球を楽しませた後輩であった。
・所属・立場
 地域の野球仲間。
・主な行動・出来事
 公園でのミニゲームに参加し、汗をかく時間を提供した。
・変化・影響
 重たさを一時的に洗い流す役割を果たした。

展開まとめ

プロローグ 私の普通

平凡な日常への自己認識
語り手は自らを特別でも劣ってもいない存在と捉え、友人関係においても深い結びつきはなく、ほどほどに頼られる程度であった。特別に好かれることもなく嫌われることもなく、毎日は密やかに過ぎていった。刺激を求めず孤独を避け、普通であることこそ幸せだと自分に言い聞かせていたのである。

心を閉ざす姿勢
語り手は自分の心を透明な壁で囲み、他人と心を触れ合わせないようにしていた。泣きじゃくる幼い自分を偽りの笑顔に閉じ込めながら、普通という言葉の陰に息苦しさを抱えつつ、それを隠して生きていた。

出会いと変化の契機
ある日、教室で一人の男子に出会った。初対面にもかかわらず、彼は語り手の心の奥へ踏み込み、閉ざしていた引き出しを勝手に開けた。第一印象は嫌悪であったが、その夜、彼に見つけてもらったことで、本当は望んでいなかった普通という生き方や大切にしたかった記憶を思い出すきっかけとなった。

願いの芽生え
彼の存在は語り手にとって真っ暗闇を照らす光となった。小指に絡めた約束のような記憶を思い出しながら、語り手は特別や恋人でなくてもよい、ただ困ったときに最初に名前を呼ばれる存在であれればよいと願った。普通にそばにいられることこそ望みであった。

五章 散らばる涙色の万華鏡

藍に沈む帰路と音色の救い
夕暮れが藍に移ろう帰り道で、千歳朔は自己嫌悪と後悔に絡め取られていたが、内田優空のサックスが一曲、あるいは幾曲か響き、静かに感情の奔流を受け止めた。演奏の終わりに残る一音が朔を現実へ引き戻し、朔は涙の跡を拭って礼と別れを告げる決心を固めたのである。

優空の微笑と「いつもどおり」への誘い
朔が言葉を探す中、優空はふわりと微笑み、いっしょに帰ろうと告げ、晩ご飯の買い出しを提案した。朔は柊夕湖への負い目から断ろうとしたが、優空は理屈の上では朔に負い目はないと指摘しつつも、同時に朔と夕湖の双方に怒っていると本心を明かした。

自己罰の否定と約束の確認
朔が「傷つけた分だけ自分も傷つく」方向に傾くと、優空はそれは夕湖が望む姿ではないと断じ、朔の自己罰がかえって夕湖をさらに苦しめると諭した。朔ははっとして誤りに気づき、馬鹿な真似はしないと約束した。優空は「さよならは言わせない」と加え、今は自分が隣にいると明言して朔を支えた。

「別件」の同行と静かな主張
朔が一人で食事を済ませると伝えると、優空は「別件」として同行を宣言し、どうしても嫌なら追い出してよいとまで言い切った。朔は親友を振り切ってまで来た優空を無下にできず、ためらいながらも歩を合わせた。朔は満天の星に祈るように、誰かが夕湖のそばにいてくれることを願った。

夕湖の失恋の痛みと孤独な帰路
一方、柊夕湖は裏道を泣きながら歩き続け、化粧が崩れるほどに嗚咽し、なぜ告白したのかと自問し続けた。千歳朔の「ばいばい」に心を裂かれ、二学期以降の「いつも」が失われる現実を受け入れられず、朔の特別になるのは自分ではないと突き付けられて崩れ落ちそうになったのである。

教室での分岐と「選んだ」背中
教室では朔が出て行った後、内田優空が涙を堪えながらも迷いなく鞄を掴み、夕湖の脇を駆け抜けて朔の後を追った。夕湖はその背中に、優空がすでに朔の隣にいると「選んだ」事実を悟り、膝をつくように気力を失った。

海人の伴走と八つ当たりの告白
海人が夕湖を家まで送ろうと申し出て、使っていないタオルを差し出し、話しかけないと約したうえで後ろから付き添った。やがて夕湖は海人が朔を殴ったことを責め、朔の居場所がなくなると非難したが、海人は夕湖を余計に傷つけたと謝罪した。夕湖は八つ当たりであると自覚しながらも涙を止められず、海人の優しさに支えられた。

もしも、の仮定となお残る本心
夕湖は、最初に好きになったのが海人であれば不安も嫉妬もなく「好き」を叫べたかもしれないと一瞬想像したが、それでも朔を求めてしまう自分を嫌悪し、なお朔の名を胸に抱いた。海人は空元気で支え続け、夕湖は彼の胸で泣きながら、心の底では優空が朔のそばにいることを願った。

東公園の夜と七瀬悠月の自責
七瀬悠月は教室での出来事を反芻しながら、青海陽のシュート練習を眺めつつ自分を最低だと責め続けていた。千歳朔への恋を、夕湖の告白が叶うかもしれない瞬間に打ち砕かれる恐怖を味わい、妄想してきた未来の数々が砂の城のように崩れ落ちたと悟った。唇を奪うなどの卑近な近道も一瞬よぎったが、結局は踏み出す勇気がなかった自分の臆病さを認め、勝率を計算してきれいに決めようとする癖が判断を遅らせたと総括した。

「終わらない恋」の錯覚と夕湖の尊さ
朔が心に他の女の子がいると明言した瞬間、悠月はそれが自分かもしれないという甘い夢想に浸った。しかし夕湖のこぼれる涙と強がりの笑顔の尊さに直面し、目の前の痛みに寄り添えない自分のさもしさを痛感した。そのうえで、内田優空が朔を迷いなく追った背中を見送るしかなかった自分を省みて、泣き崩れる夕湖の背をさすりながら心中で謝罪を重ねた。

青海陽の視点――勝敗のない恋への恐怖
青海陽は練習という接点が消えた未来に怯え、努力すれば報われると信じてきた競技の論理が恋に通用しない現実に直面した。自分にないものを多く備えた夕湖への嫉妬と、朔との関係を前に進めるための「けじめ」を告げる機会を逃した悔いが胸を占めた。髪、化粧、所作、勉強、料理などいくらでも変える覚悟を並べ立てつつも、告白というぶっつけ本番に踏み出せない臆病さを自認し、夕湖の真っ直ぐさと強さを称えた。

並走するふたりの夜と小さな支え
陽は、自身が観客のように蚊帳の外へ追いやられた感覚を抱えつつも、疲弊しきった心身でボールを追い続けた。やがて悠月が現れ、夕食に誘うことで陽の心を引き戻した。ふたりは芝に寝転んで空を仰ぎ、言葉少なに手を強く握り合い、それぞれの痛みを分かち合った。

山崎健太の逡巡と水篠の告白
山崎健太は帰路で、朔が悪者のように教室を去ったことへの違和感を抱いた。水篠と連れ立って歩く中で、朔の行いを一概に責められないとする自身の思いを言葉にし、朔に救われた過去を思い返した。河川敷で缶を手に腰を下ろすと、水篠は悠月への秘めた想いを明かし、ヤン高で悠月が朔の彼女だと叫んで立ち向かった姿に心を奪われ、その瞬間に自ら失恋したと語った。

誰も間違っていないという結論
水篠は朔の葛藤も夕湖の想いも海人の怒りも、それぞれに正しさがあると整理し、責める気にもなれないと断じた。健太は、朔の棘ある言い回しが悠月の哀しげな顔に由来する配慮だったと知り、ふたりは冗談を交わして緊張を解いた。最後に水篠は、みんなが複雑な感情を抱えながらも各々の選択をするだろうとだけ告げ、夜風の中で行く末を見守る姿勢を示した。

河川敷の余韻と“小さな恩返し”の願い
山崎健太は水篠の本音を聞き終え、せめてもの恩返しがしたいと胸に刻む。

夜の台所――朔と優空の日常が刺す
千歳朔の部屋。包丁と鍋の音、SUPER BUTTER DOG『サヨナラCOLOR』。内田優空と買い物をして帰ってきた“いつもの風景”が、柊夕湖を泣かせた直後であるほどに胸を締めつける。夕湖は無事帰れただろうか――電話したくてもできない自制が朔を苛む。

風呂場の崩落
優空に促されて入浴した朔は、冷水を浴びながら嗚咽を堪えきれない。海人の拳の痛みより、夕湖を十秒で突き放せる相手ではないと悟る痛みが深い。それでも「終わりではなく始まりに」と自分に言い聞かせ、前を向く“けじめ”を決める。

“今夜のお月さま”――オムライス
風呂上がり、甘いケチャップの匂い。優空が差し出したのは母の記憶が宿るオムライス。「ふたりのために。これが今夜のお月さま」。一口ごとにこの部屋へ滲む夕湖の痕跡(食器、カップ、ランチョンマット、ドライヤー)が胸を刺し、朔は静かに泣きながら食べ続ける。優空は音量を少し上げ、言葉を添えず寄り添う。

“泊まる”という宣言
片付けの手順まで身についた“ふたりの習慣”をなぞったのち、優空は「このまま泊まってく」と告げる。朔は動揺するが、優空は「やましい気持ちはない」「今度は私が誰よりも朔の隣にいる」と真っ直ぐに言い切る。朔は反論を手放し、優空が風呂に入るあいだ外へ出る。

新月の呼び出し――西野明日風
七瀬悠月と青海陽からのメッセージには応じられない朔のスマホに、「西野明日風」から着信。「月が綺麗ですね」から始まる会話。新月なのに軽口が戻らない朔の変化を明日風は見抜き、「知らないまま置いていかれるほうがつらい」と胸の内を明かす。かつて“何も告げられずに野球を再開した君を見かけた”痛みを重ね、「君の言葉で聞かせて」と促す。

告白の顛末を語る夜、そして“つらいね”
朔は夕湖との四日間と今日の決断を、飾らず明日風に語る。受け止めた明日風は言葉を選びあぐね、「つらいね」とだけ寄り添う。電話口のBUMP OF CHICKEN『embrace』が小さく流れ、朔は“言葉にならない沈黙ごと受け止められた”ことで、ほんの少しだけ救われる。

西野明日風の独白――疎外と恐怖の自覚
西野明日風は通話を切った直後、千歳朔の異変を察しつつ、自分が物語の外側にいる疎外感と嫉妬を吐露した。クラスメイトではない自分には「選ぶ資格」すらなく、失敗すれば関係が途絶するという恐怖に震え、「もし朔が柊夕湖を受け入れていたら、さよならの電話になっていた」と最悪を想像した。その一方で、都会と故郷を往復しながら続く甘い未来を無意識に夢見ていたことに気づき、「離れて暮らす覚悟はあっても、離れる覚悟はなかった」と結論した。心の中で「行かないで」と叫びつつ、最後に「泣いている君にオムライスを作ったのは誰?」と胸中で問いかけた。

朔の帰宅と優空の滞在――日常の手触りで支える夜
朔は一時間ほど外で気持ちを整えたのち帰宅し、パジャマ姿の内田優空に迎えられた。ふたりはブラックコーヒーを手にソファで向き合い、優空は「朔が横になるまで見張る」と同席を申し出た。朔が琴音との会話を回想し「いられるだけはいると約束したのに破ってしまった」と漏らすと、優空は「関係を変えようとしたのは夕湖」と宥めたが、やがて「なのに、私、夕湖ちゃんのことっ」と声を震わせ、ラジオの音量を上げて感情を飲み込んだ。朔は寝室にソファを運び込み、窓を開けて夏の風を入れ、ふたりで眠れぬ夜を過ごす準備を整えた。

柊夕湖と母の夜――否と是の抱擁
夕湖は海人に家まで送られ、母に抱きとめられたのち入浴して身支度を整え、リビングで葡萄ジュースを受け取った。四日間の出来事と告白の顛末をすべて吐露すると、母はまず「恋のステップとしては大間違い」と明け透けに指摘したうえで、「だからこそ誇りに思う」「大切な人を大切に想える子でいてくれてよかった」と告げた。夕湖が「嫌な女ではないか」と問うと、母は「答えはあなたの心にいる人たちが教えてくれる」と返し、夕湖はソファで泣き続けた。

“川の字”の語らい――記憶でつなぐ三人
就寝前、優空は「夕湖ちゃんの話をしよう」と提案し、「出会わなきゃよかったなんて目を逸らさないように、三人でお泊まりしているみたいに」と微笑んだ。朔は「今日は川の字だな」と応じ、ふたりは夕湖の可笑しさと気遣いを具体例で語り合った(「うっちーだけずるーい」「朔だけずるーい」などの拗ね方、朔の不調期に送り続けた向日葵や月のメッセージ、弁当のおかずをさりげなく分ける配慮等)。語りながら、ふたりは「海人や夕湖と完全に元どおりには戻らないかもしれない」「友達という関係も何ひとつ変わらずにはいられない」と現実を受け入れつつ、真夜中の静けさに「きれいな飴玉を拾い集める」ように哀しみを沈め、また並んで夕暮れを歩ける日を祈りながら目を閉じた。

六章 月の見えないふたりぼっち

優空の努力と孤独
内田優空は幼少期から努力を積み重ね、成績上位を維持してきた。しかしその動機は勉強好きではなく、家族を安心させるためであった。友人関係は徐々に疎遠になり、やがて「物静かな優等生」という役割を背負うことで周囲と透明な壁を隔て、普通であることに安らぎを求めていた。

高校入学と柊夕湖との出会い
藤志高校入学後、優空は新入生代表として注目され、すぐに優等生扱いされた。ホームルームでクラス委員長を決める際、柊夕湖が彼女を推薦する。周囲は賛同し、優空は受け入れざるを得なかった。内心では穏便さを選んだものの、負担を感じていた。

千歳朔の介入
その場で千歳朔が異議を唱え、優空の心情を代弁するような言葉を発した。結果として委員長は朔が務め、副委員長は夕湖となった。優空は助けられた一方で、心の奥に踏み込まれたような不快感を覚え、朔に対して強い反発を抱いた。

翌日の和解と対立
翌日、夕湖が謝罪し、優空は彼女を受け入れて関係を修復した。しかし朔に対しては複雑な感情を抱き続けた。感謝を伝えようと思いながらも素直になれず、「あまり好きじゃない」と思わず口にしてしまった。朔はそれを笑って受け流し、夕湖も同意して軽く流したが、優空の心は大きく揺さぶられた。

心の葛藤
優空は朔の存在に苛立ちと戸惑いを覚える。彼は他人の心に自然と踏み込んでくる人物であり、これまでの「普通で安全な生活」を乱す存在であった。優空は自らの感情を制御できず、強い嫌悪を表明するに至った。

柊夕湖との交流の拡大
柊夕湖は内田優空に頻繁に声をかけ、買い物や家族への紹介を提案した。優空は戸惑いながらも、柊夕湖の純粋さを認めつつ、これ以上関係を深める気はなかった。だが、LINEでのやり取りや会話は続き、優空は少しずつ心を動かされていった。

千歳朔との応酬
千歳朔は優空にしつこく話しかけ、時に挑発的な言葉を投げかけた。優空は冷たくあしらい続けたが、朔は意に介さず接触を重ね、互いに皮肉を交えたやり取りが続いた。弁当や勉強の話題でも軽口を交わし、優空は苛立ちながらも興味を覚え始めた。

岩波教師の示唆
放課後、岩波教師から千歳朔にプリントを渡すよう頼まれた優空は、不本意ながら教室に向かった。その際、岩波教師から「千歳と似ている」と告げられ、優空は強く否定しつつも動揺した。

階段での事故と救出
重い紙束を抱え階段を上る途中、優空は足を滑らせ転落しかけた。千歳朔が咄嗟に抱きとめ、身を挺して支えたことで大事には至らなかった。優空は恐怖と混乱のなか、朔の真剣な言葉「人生は自分のものだ」に心を突き動かされた。

心の変化と眼鏡の決断
朔の助言と行動に揺さぶられた優空は、自らの眼鏡を壊したことを機にコンタクトへと変える決意をした。柊夕湖や千歳朔から外見を褒められ、内面にも小さな変化が芽生えた。これまでの苛立ちは薄れ、朔を意識する気持ちが少しずつ混じり始めた。

野球部での朔の姿
夏休み、優空は音楽室から野球部の練習試合を眺めた。試合に出られずグラウンドの隅で黙々と走り続ける朔の姿を見て、その必死さと真摯さに胸を打たれた。思わず声援を送った優空は、彼に対する感情の変化を自覚し始めた。

柊夕湖とのやりとりと距離感
内田優空は柊夕湖とLINEを交換して以降、日常が少し賑やかになった。柊は買い物や外出、家族紹介など積極的に誘うが、優空は一線を引き、クラスメイトとしての関係を保とうとした。夕食の誘いでも千歳朔がいるため断り、親密さを深めることを避けた。

千歳朔との応酬
優空は朔に対して冷淡な態度を貫いた。朔は愛想笑いをやめた姿勢を評価し、嫌いだと言われても会話を続けた。弁当作りを話題にされたときも反発するが、内心では朔に本音を打ち明けたらどうなるのかという興味が芽生えていた。

岩波教師の依頼
七月、放課後に岩波教師から朔への伝言とプリント運びを頼まれた優空は、しぶしぶ引き受けた。岩波は二人が似ていると示唆し、優空は強く否定しつつも気にかかる思いを抱いた。

階段での事故と救出
重い紙束を抱えて階段を上がる途中、優空は足を滑らせ転倒しそうになる。朔が現れて体で支え、下敷きとなって救った。恐怖と衝撃の中、優空は朔の体温を感じ、眼鏡を失ったまま混乱した。

朔の言葉と優空の動揺
朔は好かれていないと知りつつ放っておけなかったと告げ、内田さんの人生はあんたのもんだと語った。優空の心臓は高鳴り、複雑な感情に揺れ動いた。朔が立ち去ろうとしたとき、優空は思わず名前を呼び、眼鏡の有無を尋ねてしまった。朔はそっちのほうがいいと答え、優空はコンタクトを作る決意をした。

変化の兆しと夏休み
翌日から優空は外見の変化を柊に褒められ、朔からも眉間のしわを指摘された。夏休みを迎え、朔との応酬は続いたが、もやもやした感情は和らぎ、新しい感覚へと変化していった。柊からメイクや手入れを教わり、少しずつ変わる日常を受け入れるようになった。

野球部での朔の姿
八月、音楽室で練習中に優空は窓から野球部の試合を見た。朔の姿が見えず探していると、隅で走り続ける彼を発見する。試合に出られず孤独に走り続ける姿に胸を打たれた優空は、思わず頑張れ千歳くんと叫び、熱い感情を覚えた。

河川敷での対話のはじまり
優空は河川敷で千歳から缶飲料を受け取り、取り乱した際に私のせいだと言った理由を問われた。千歳は無理に聞き出さず、雑談でもよいと寄り添う姿勢を示し、優空は最初で最後のつもりで母の話を語る決意を固めたのである。

母の記憶と「普通」の教え
優空の母は穏やかで音楽に長け、幼い優空にピアノやフルートを奏でて寄り添っていた。努力が思うように実らないときも大丈夫だいじょうぶ、普通でいいと諭し続け、家庭では料理や家事を丁寧にこなし、平凡で温かな日常を築いていた。父からは若き日の母がコンクール入賞歴を持つと聞かされ、より高い力量を感じさせる独奏の一面もあったが、母本人は普通に楽しく弾ければいいと語っていた。

母の失踪と家族の崩壊
小学四年のある夜、門限破りで帰宅した優空は、母が家を出て戻らない事実を父から知らされた。母の口癖だった普通でいいに背く突然の不在は、優空に深い喪失と否認をもたらし、涙をこらえて理由を求めても答えは得られなかった。以後、父は多くを語らず、家族は三人で生きる現実を受け入れるほかなかった。

優空が抱いた誓いと恐れ
時を経て優空は、哀しみののちに怒りを経験し、母の普通の言葉は自己正当化だったのかという疑念に苛まれた。やがて優空は父と弟を二度と傷つけないと誓い、勉学に励み、対人関係で波風を立てず、はめを外さず、問題の芽を避ける生き方を選んだ。さらに、大切な人を作れば再び喪失が訪れる恐怖から、他者との距離を保とうとし、千歳に対しても関わらないでくださいと告げて礼を述べ、関係の幕引きを図ろうとした。

千歳の叱咤と呼びかけ
千歳はばかじゃねえのと強い言葉で遮り、いつまで九歳の可哀想な女の子でいるつもりだと優空の自己固定化を指摘した。優空が反発して千歳の恵まれた家庭を決めつけ非難すると、千歳は筋合いならあるさと優空の手を取り、ついてきなと歩き出した。

千歳の素性の開示
千歳は優空を自宅のマンションに連れて行き、家族の気配のない部屋と一人用の寝室を見せ、両親が離婚し自分は中学時に一人暮らしを選んだこと、連絡は取ろうと思えば取れることを淡々と告げた。境遇が似たもの同士として、お節介を焼くだけの筋合いはあると微笑み、優空に過去の告白を悔やませない配慮を示した。

共通点と相違の再認識
優空は思わず笑い、千歳の雑なくくりに違いを返しつつも、その過去の差配が自分を軽くするための差し出しであると理解した。千歳は自身の痛みを道具にせず、ただ優空の現在を支えるために提示したのであり、優空は彼の強さと優しさを認めた。

続きへの合意と小さな実務
千歳が話の続き、するかと促すと、優空ははいと応じたうえで、まず部屋を片づけてもいいかと申し出た。千歳は面目ないと頭をかき、二人は散らかった室内を前に、対話の続きを始める準備を整えたのである。

散らかった部屋と小さな音楽
優空は千歳の部屋で空容器の廃棄、食器洗い、簡単な清掃、洗濯物の整理、冷蔵庫の賞味期限切れの処分を行い、コーヒーを淹れて腰を落ち着けた。千歳は気まずさを隠すように正座で待ち、ラジオからは「エリーゼのために」が流れ、幼い頃に母と練習した記憶が優空に蘇ったのである。

「普通」の再定義と崩れる自己規則
優空は自らの生き方が歪であると認め、九歳の自分が作った矛盾だらけの規則と母の「普通」という呪文に縛られてきたと告白した。千歳は、普通とは毎日学校へ行き、友を作り、時に喧嘩し仲直りし、勉強も部活も時にはさぼり、オシャレを楽しみ、気になる相手に恋をすることだと平明に言い切った。その言葉は優空の心底に願っていた像と重なり、長年の自己規則にひびが入った。

「頼られない寂しさ」への気づき
千歳は家族なら話してくれないもどかしさもあると指摘し、優空は母の失踪後に抱えた問い――どうして頼ってくれなかったのか――を自分自身がいま繰り返していると悟った。千歳は親も勝手に生きるのだから、子もまた自分として生きるべきだと背を押し、あんたは内田優空だと名指した。この一言が優空の自己像を揺り動かした。

「もうひとりの家族」になる提案
千歳は過去を消すことはできないが、これからの思い出をいっしょに作れると述べ、互いの欠けた穴を埋め合う友達になろうと提案した。優空は涙ながらに同意し、差し出された手を強く握った。

父への告白と長い独り相撲の終結
優空はベランダから父に電話し、母の失踪の日から今日までの胸中と今後の生き方を丁寧に伝えた。父は気づけなかったことを繰り返し詫び、これからは家事や料理を分担するから好きに生きてほしいと応じ、弟も自分でどうにでもすると笑って受け止めた。優空は長い独り相撲が終わったと実感した。

初めての来訪者と「泊まる」決断
部屋へ戻ると千歳が上半身裸で現れ、優空は慌てたが、千歳の家に上げた女の子は自分が初めてだと知って胸を高鳴らせた。優空は父の了承も取り、今夜は泊まると宣言した。コンビニで必要品を揃え風呂を済ませ、深夜には並んでアイスカフェオレを飲みながら語らった。

暮らしへの介入と握手の約束
部屋の惨状と食生活の偏りを見た優空は、通いで食事を作ると申し出た。千歳は茶化しつつもそれを受け入れ、食材の買い出しを手伝うと約した。優空は誰かに迷惑をかけ、かけられながら生きろという千歳の言葉を引き合いに出し、今夜だけははめを外すと笑った。最後に千歳は手を差し出し、優空は任されたと答えてその手を強く握り返した。

並んで眠る準備と小声の続き
就寝の段になり、朔は自分はソファで寝るから優空はベッドを使えと言い、二人はソファを寝室に運び込み顔が見える配置に整えた。緊張を抱えた優空は毛布の匂いに動揺しつつも、まだ話したいと応じ、夜更けの対話を続けた。

母の言葉は嘘ではなかったのかという視点
朔はいなくなった事実が過去の言葉を嘘にするとは限らないと指摘し、優空が普通の幸せを求めたのは母を否定するためでもあったのではと問いかけた。優空は許せない感情の奥で母を好きな気持ちが残っている自覚に至り、揺れ動いた。

野球への愛と未練の整理解説
朔は硬球を芯で捉えた瞬間の快感を語り、辞める決断の重さを認めつつ、野球が大好きだった時間は自分そのものだったと告白した。その姿勢が、許せないが大好きでもあるという優空の矛盾を受け止める枠組みとなった。

母の思い出の列挙と肯定
促されて優空は、絵本を読む声、整った身なり、台所で奏でるように料理をする所作など、母の好きだった点を次々に語った。心のなかに母が生き続けていると気づいた優空は、いまの表情のほうがいいという朔の言葉に背を押され、大好きでしたと涙ながらに結んだ。

明日への決意の更新
優空は九歳の自分に縛られず、柊と語り合い、身なりを楽しみ、水篠や浅野とも改めて向き合い、父と弟と迷惑をかけ合いながら生きると胸中で誓った。自分の人生を自分のために、と心に刻んだ。

夜更けの見守りと静かな祈り
朔の寝息を確かめた優空は、三日月形のライトに他者の気配を見いだしつつも、今夜だけは朔の隣にいたいという満ち足りた感情を自覚した。汗を拭い、冷暖房を調整し、眠る頭を撫でながら大丈夫だいじょうぶと心内で繰り返し、今度は私があなたの心を見つけると誓った。

オムライスの朝と通学路の光
翌朝、優空はオムライスを作り、朔は美味いとうなずいて平らげた。優空はアイロンなしのシャツで家を出て、河川敷を並んで歩く心地よさに徒歩通学を決めた。

教室での呼び名と輪への加入
登校後、優空はおはよう、夕湖ちゃんと呼びかけ、柊は歓喜して手を握った。朔の軽口を挟みつつ、水篠と浅野も加わり、即席の掛け声で拳を合わせた。優空はガラス越しだった世界に実際の照れと可笑しみを伴って踏み込み、こういうのでいいと実感した。

季節の転回と独白の変調
時は巡り、優空は再び同じ毛布の中で月のない夜を見送った。眠る朔を気遣いながら、かつての言い訳はもはや通用しないと自覚しつつ、それでもいまはそばにいたいという想いを受け入れた。夕湖と語ろうという約束を胸に、朔の隣で大丈夫だいじょうぶとそっと撫でる行為で、自らもまた救われていた。

七章 繋ぐ迎え火、結ぶ送り火

惰性の夏と途切れる気配
夕湖の告白を断った千歳朔は、睡眠と食事と読書とトレーニングだけを繰り返す惰性の夏を送っていた。七瀬と陽からの気遣いの連絡に短く応じつつ、和希や健太、海人や夕湖からは音沙汰がなく、孤立の手前で均衡を保っていた。

台所の灯と日常の再開
優空が毎夕訪れて食事を作り続け、千歳朔は冷やし中華の味加減や具材を言葉少なに選ぶだけで、夕湖の話題は互いに避けた。それでも彼女の献立が暮らしの輪郭を取り戻させ、砂利道のように躓く心を細く支えた。

お盆の気づきと誘いの電話
八月十二日、優空が家族行事で帰ったのち、千歳朔はお盆の境目を思い出し、明日風から祖母を訪ねようという電話を受けた。ためらいを洗い流すように身を整え、祖母の好物を土産に持つことを決め、過去と現在と未来に向き合う決心を固めた。

青田波の駅と祖母の迎え火
えちぜん鉄道で降り立った田園の駅は青田が波打ち、祖母の家の玄関先では迎え火が静かに燃えていた。祖母は面差しを確かめるように千歳朔を撫で、明日風の成長を喜んだ。家の匂いと道具の配置が幼い記憶を呼び起こし、夏の原風景が鮮明に蘇った。

縁側がくれた安らぎの記憶
仏間で手を合わせ、精霊馬に目を留めたのち、二人は縁側で風鈴と蚊取り線香の音と匂いに身を浸した。幼い頃、最初の一人泊まりの不安を、明日風と遊ぶ心地よさが溶かした記憶が重なり、千歳朔は誘いへの感謝を口にせずとも噛みしめた。

田舎の食卓と伝わる味
夕餉には梅干し、たくあんの煮たの、煮魚、味噌汁、ほうれん草のおひたし、黄色いたくあん入りのポテトサラダが並び、千歳朔はソースを垂らす母の食べ方を明日風に伝えた。三人は味の記憶を手繰り合い、笑い合いながら家族の現在にも触れた。

枝折りの昔話と子どもたちの性分
祖母は松の枝を折った日の出来事を挙げ、千歳朔も明日風も相手を庇って叱責を分け合おうとした昔の気質を褒めた。二人は照れながらも、その根っこが変わっていないことを悟った。

ご縁という名の導き
明日風が祖母の孤独を案じると、祖母は人の縁は自分から切らぬ限り続くと答え、先に逝った祖父とも、離婚した両親とも、ご縁は夢と思い出と連絡の中で繋がっていると語った。どちらか一方が端を握り続ければ繋がりは途切れないという言葉に、千歳朔は夕湖と海人への想いを胸中で確かめた。

迎え火と送り火の間で交わす約束
暮色が橙に傾く頃、三人はまた来ると交わし、結び目を確かめるように門を出た。千歳朔は下した決断を背に、過去と現在とこれからを繋ぐ端を離さないと心中で繰り返し、迎え火の余燼の向こうに、送り火へと続く道筋を見いだしていた。

遠回りの道と移ろう景色
祖母宅を後にした千歳朔と明日風は、懐かしい田舎道を歩いた。田畑や川は思い出のまま残っていたが、かつて明日風の家があった場所には新しい家が建っており、時の流れを痛感した。思い出の細部はすでに曖昧で、変化のなかに儚さを覚えた。

初恋の面影と胸の痛み
明日風は初恋の朔兄が後輩の君となり、いまは誰かの好きな人でありながら傷ついていると語った。詩人吉野弘の「夕焼け」を引き合いに出し、千歳朔が本心を誰にも語っていないことを見抜いた。問い詰められた千歳朔は沈黙し、心を隠したまま立ち尽くした。

愛を知らぬ月の比喩
明日風は、千歳朔が愛されることに慣れすぎて愛し方を知らないのではないかと告げた。愛を避け、無償で振りまくだけの存在として、ラムネ瓶に沈んだビー玉の月だと形容した。その言葉は心を鋭く刺し、千歳朔は返す言葉を失った。

別れの夕暮れと胸の余韻
明日風はそれ以上を語らず、夕陽を背に歩み去った。千歳朔は彼女の影を追いながら、夏の終わりを告げる迎え火の煙に揺れる思いを抱いた。えちぜん鉄道で福井駅に戻り、父親に迎えられた明日風と別れた後も、胸には彼女の言葉が重く残った。

優空との電話と心の揺らぎ
帰宅した千歳朔に優空から電話があり、食事の確認を口実に声を聞きたいと告げられた。優空は自分の問題と前置きしつつも、最後に大丈夫と言ってほしいと求め、千歳朔はそれに応じた。通話を終えた後も明日風の指摘と優空の声が交錯し、千歳朔の心は定まらなかった。

七瀬の来訪と揺れる気配
翌日、玄関を訪れた七瀬は晩御飯を作ると申し出た。エプロン姿で台所に立つ彼女を前に、千歳朔は軽口を控え、似合っていると無難に伝えた。七瀬はソースカツ丼を振る舞い、千歳朔はその味に感嘆した。だが笑い合いながらも、胸の奥には夕湖や優空への負い目が疼き、正しい言葉を選び損ねた切なさが残った。

ベランダでの会話と夕湖の消息
食後、千歳朔と七瀬悠月はベランダに出てサイダーを飲み、部活や仲間の話を交わした。七瀬は夕湖に連絡を試みたが既読もつかず、ただ海人とは会っているらしいと聞き、朔は安堵した。

七瀬の本音と助言
七瀬は形式や美しさに囚われてきた自分たちを振り返り、朔に意地を張り違えないよう伝えた。初めての手料理をカツ丼にしたのは元気を取り戻してほしかったからであり、それこそが自分らしさだと語った。朔はその想いに心を打たれた。

優空からの夜の電話
七瀬を送った帰り道、優空から電話が入り、料理に軽い嫉妬を示しつつも冗談を交わした。最後に優空は今日は大丈夫と告げ、落ち着いた声で通話を終えた。朔はその変化を受け止めた。

陽の訪問と亜十夢の登場
お盆最終日、陽が訪ねてきて自分では力になれないと悩み、代わりに亜十夢を連れてきた。三人は公園で野球をし、全力の打席と投球を繰り返し汗を流した。陽なりの気遣いに朔は救われた。

夕立のなかでの言葉
突然の夕立に打たれながら朔と陽は笑い合い、陽はたまには仲間に頼ってもいいと告げた。仲間だからこそ強さも弱さも分かち合えると説き、朔の背中を叩いて励ました。朔はその言葉に重みを感じた。

優空の決意と夏の終わり
その夜、再び優空と電話でやり取りし、陽の行動を共有した。優空は翌日からまた食事を作りに行くと告げ、最後に私は手離さないと強い言葉を残した。朔はその響きを胸に刻み、夏の終わりを迎えた。

海人の告白と夕湖の決断
お盆明け、夕湖は毎日のように訪れる海人と公園でアイスを食べた。海人は入学式の日から夕湖を好きだったと語り、これまでの支えと共に気持ちを告白した。夕湖は感謝と罪悪感に揺れつつも、最後は朔でなければ駄目だと涙ながらに断り、海人の胸で泣いた。海人は失恋を受け止め、気まずいのは自分も同じだと笑った。

朔を訪ねる和希と健太
数日後、朔の部屋に和希と健太が訪れ、三人でマックを食べながら近況を語った。朔は優空や明日風、七瀬、陽との出来事を正直に話し、和希はこのままではいけないと問いかけた。朔は夕湖と海人を傷つける懸念から動けないと答えた。

健太の叱咤と朔の本心
健太は涙を浮かべて朔と和希を叱責し、理屈に逃げて諦める姿勢を「らしくない」と指摘した。かつて朔に教わった言葉を返し、できるかではなく意志が大切だと迫った。朔は本心ではまた皆と仲よくしたいと打ち明け、和希と共に一本取られたと苦笑した。健太の真っ直ぐな言葉が、再び歩み出すきっかけとなった。

優空の変化と提案
翌日、優空はこれまでの不安定さから一転し、吹っ切れた様子で朔のもとを訪れた。和希と健太が来た話を聞き、どこかうれしそうに目を細めた。夕食を終えて河川敷を歩いていると、優空は「お茶していかない」と切り出した。

河川敷での約束
コンビニで飲み物を買い、ふたりで腰を下ろす。優空は「ひとつお願いがある」と告げ、小指を差し出して指切りを求めた。朔は応じ、優空の願いを聞くと誓う。そこで優空は「明日、一緒にお祭りに行ってほしい」と伝えた。かつての浴衣での約束を持ち出し、今こそ行くべきだと示した。

優空の決意と朔の応答
優空は夕湖や仲間たちの姿に触発され、このままでは駄目だと語った。そして「八月二十四日は夏のクリスマスイブ」と表現し、大切な一日を共に過ごしたいと願った。朔はその思いを受け止め、「わかった、行こう」と答える。優空は満面の笑みを浮かべた。

朔の内心の決意
朔は祭りの後に優空へ伝えようと心に決めた。自分よりも自分自身のこと、そして夕湖のことを優先してほしいと。そして自分もまた、この状況に終止符を打つ覚悟を固めた。川面に映る月を見上げながら、朔は祈るように手を結んだ。

八章 優しい空

優空の支度と揺れる決意
内田優空は下着の上から浴衣を羽織り、芍薬柄に菫色の帯をアネモネ結びにして身支度を整えたのである。姿見に映る自分に母の面影を感じ、寂しさよりも温かさが勝ったことを喜び、千歳朔を想った。伸ばしてきた髪を指先で丁寧に整え、巾着に貝殻を忍ばせて玄関に向かったが、下駄を前に指先が震えたため、胸に手を当て深呼吸して外へ出たのである。

神社での再会と祭りの始まり
千歳朔は神社の鳥居前で優空を待ち、浴衣姿の優空と合流した。優空は帯の不安を打ち明けつつ喜びを見せ、朔は当たり障りのない称賛を口にした。二人は射的やスーパーボールすくいを楽しみ、狐のお面を買い、ラムネを三本手にした。優空は袖を押さえながら一本を自分で選び、朔の支払いの申し出を受けつつも一本は自分で買うとし、やや不自然な行動を見せたのである。

夕湖の出現と対話の提案
屋台を離れた優空は祈るような面持ちで鳥居を見つめ、朔を導くように歩みを進めた。鳥居の傍らには夕湖が佇み、朔と優空は驚愕ののち、優空が凜として三人に秘めた言葉があると告げ、互いのために隠してきた想いを語る場を持とうと提案したのである。

お盆初日―優空の単独訪問と琴音の謝意
時をさかのぼり、優空はお盆初日に家事を済ませて夕湖の家を訪ねた。迎え火を焚く琴音に声をかけると、琴音は状況を把握したうえで夕湖の行動を謝罪し、同時に娘の選択を親として嬉しくも思ったと伝えた。しかしその日は夕湖が会うことを避け、優空は時間を置く判断を自ら正当化しつつ帰路についたのである。

二日目―インターホン越しの本音の共有
翌日、優空はインターホン越しに夕湖と対話した。優空は自分も弱さを抱えていると明かし、二人の関係が親友に至った契機は互いの弱さを分け合ったことだと指摘した。夕湖は動揺しつつも受け止め、優空は翌日に再訪するが、それを最後の呼びかけにすると予告したのである。

三日目―雨の中の対面と一時の受け入れ
お盆最終日、優空は再訪し、突然の雨に全身ずぶ濡れになりながらも玄関先で夕湖と対面した。夕湖は優空を家に招き入れ、琴音とともに風呂と着替えを用意した。入浴中も扉越しの会話が続き、優空は前夜の「最後」の意味を明確にし、絶交を意図したものではなく呼びかけの区切りであると説明したのである。

優空の宣言と猶予の提示
優空は扉に手を当て、夕湖が語らず逃げ続けるなら、これからは自分が朔の隣に立つと明言した。正妻の座を自ら降りるなら自分が繰り上がるという比喩で切迫を伝え、なお待つ意志を示して家を後にした。優空は玄関前で窓を見上げ、夕湖の

再会への不安と対話の提案
内田優空は、夕湖が祭りに来た事実に安堵しつつも、黄昏を逃せば関係は戻らないという確信に怯えていた。鳥居の陰に立つ夕湖を前に涙を堪え、話をしようよと手を取り、三人で歩き出したのである。

静かな場を求めて養浩館へ
祭りの喧噪を避け、三人は神社から歩いて養浩館へ向かった。入園後、池を囲む遊歩道を巡り、縁側に腰掛けた。夕陽と風が落ち着きを与える中、優空は話題の口火を切り、まず千歳朔に柊夕湖へ問いたいことはないかと促したのである。

告白の“場”を問う優空
優空は夕湖が朔へ告白した理由を問い、さらに、なぜ皆の前で行ったのかと不自然さを指摘した。万一の不成立が友人関係や朔に与える影響、他の女子の感情への配慮を挙げ、夕湖が成功を見込んでいたのかを問い質したのである。

夕湖の逡巡と“あの日”への示唆
夕湖は浴衣の袖を握り震え、優空はその手を取りながら、あの日の出来事が関係しているのではないかと促した。優空は自分も一緒に背負うと語り、夕湖に事実を語るよう求めたのである。

夕湖の回想―優空への関心と朔の存在
柊夕湖は、委員長決めの件をきっかけに優空へ興味を持ち、言葉を選び人を傷つけまいとする優空の話し方に惹かれたと振り返った。朔と向き合う優空だけが素の表情を見せていたことを見抜き、二学期に優空を食事へ誘い、朔なら優空の殻を破れると期待したのである。

“翌日”の違和と芽生える嫉妬
優空が初めて夕湖と呼ばれ、柔らかい笑みを見せた翌日、夕湖は朔との距離が一気に縮んだ違和を覚えた。昼休み、朔が優空の手作り弁当を食べている事実と、母のいない境遇を分かち合う二人の“特別な繋がり”に直面し、嫉妬に戸惑い自己嫌悪に沈んだのである。

屋上での牽制と優空の否定
放課後、夕湖は朔から鍵を借りて優空を屋上へ連れ出し、好きな人の有無を問い、自らは朔だと明かした。優空は逡巡の末にいないと答えた。直後に朔が現れ、夕湖は勢いのまま朔への好意を“告白未満”として伝え、返事は要らないから気持ちだけ受け取ってほしい、関係は友達のままでと条件を添えたのである。

“告白未満”の合意と自己矛盾
朔はそれが正式な告白でない以上断れないとして受け止め、三人で帰ることになった。夕湖は、優空の力になろうと朔を押し出した自分が、同時に優空を牽制する形になった事実を自覚し、卑怯さに泣きつつも、拒絶されなかった安堵に微笑むという矛盾を抱えたまま心を震わせたのである。

夕湖の懺悔と隠してきた動機
千歳朔と内田優空は、柊夕湖の告白の経緯を一年分さかのぼる懺悔として黙って聞き続けたのである。夕湖は、屋上での“告白未満”の宣言から今日に至るまで、三人の関係の均衡に甘え、他の女子の想いを塞いでしまったと自責し、終わらせるために皆の前で告白したのだと涙ながらに語った。優空は慰撫しながらも、あの場を選んだ理由を確かめ続け、朔はその執拗な問いに戸惑いながら、やがて意図を理解したのである。

三角形の崩れと“終わらせる告白”の理由
夕湖は、二年進級後に江藤悠月と日野陽が朔と距離を縮め、三人の“きれいな三角形”が崩れたと自覚したと明かした。花火大会の夜に見た光景や、夏勉での問いかけに誰も本音を示さなかったことが決定打となり、朔や優空、仲間の“特別”を守るために、自らの恋を公の場で終わらせる必要があったと述べたのである。

優空の読みと朔の告白
優空は、ふたりきりなら朔が帳消しにしてしまうから皆の前で幕引きにしたのだと夕湖の意図を言語化した。そのうえで優空は朔に、断るときの曖昧な言葉の真意を問うた。朔は一度は沈黙を選んだが、友の言葉を思い出し、自らの不誠実と弱さをさらけ出したのである。朔は、心のなかに夕湖という大きな存在が育っていた一方で、同じ重みで大切に想う他の女子もいるため、どの気持ちに恋の名を与えるべきか決められないと告げた。

“選ぶ権利”という逆照射
朔が自責に傾くと、優空は自分だけが選ぶ側だという傲慢を戒め、恋を選ぶ権利は当事者全員にあると指摘した。嫉妬や不快は恋した側が引き受ける感情であり、まだ誰とも付き合っていない段階では、朔が他者の恋の誠実・不誠実まで背負う必要はないと諭したのである。朔が夕湖の行動を不誠実と断じて自己罰に走る構図を反転させ、当人たちが望むかぎり待つことも、追いすがることも、それ自体が誠実であり得ると示した。

“手を繋いでいよう”という提案
優空は、誰かのために恋を終わらせる必要はないと断じ、好きを隠す勇気と伝える勇気のどちらも各人の選択だと位置づけた。そのうえで、互いを想い合いながらすれ違うのは駄目だとし、三人の手を重ねさせて、いつか自分のために恋と向き合える日まで手を繋いでいようと提案したのである。朔と夕湖はその温かさに揺れつつも、救われる感覚を覚えた。

問いの矛先が優空へ
しかし夕湖は、このまま終われないと声を上げ、優空自身の気持ちはどこにあるのかと真正面から問うた。次の瞬間、優空の頬にひとしずくの涙が落ち、三人の関係は新たな岐路へ踏み出した

優空の涙と告白の始まり
内田優空は自らの涙に戸惑いながらも、夕湖と朔の前で語り始めたのである。花火の日に浴衣を着られなかった悔しさを埋めるように菫色のマニキュアを整え、三人で向き合う場に臨んだ心模様を吐露した。優空は、屋上で夕湖に好きな人を問われたとき本心を偽ったと明かし、朔に救われた夜から彼を一番に考えようと決めていたが、恋なのか感謝なのかが判別できず、ふたりを言い訳にして身を引こうとしたと語ったのである。

親友同士の衝突と本音の応酬
柊夕湖は優空の自己否定を遮り、優空は選んだはずだと怒りを露わにした。優空が教室を飛び出した夕暮れ、迷わず朔を追ったのは一番を選んだからだと責めたのである。対して優空は、夕湖が告白を皆の前で行った動機に受け入れられる可能性を隠していないかと突き返し、互いに後付けや隠蔽を指摘し合い、感情が決壊した。やがて夕湖は、わざと厳しい言い方をしたのは優空に我慢を背負わせないためだと泣きながら謝罪し、ありがとうを重ねて優空を抱きしめた。優空も、夕湖は私の一番ではないと震えながら本心を明かし、親友であり続けたい願いと恐れを言葉にした。ふたりは傷つけ合っても受け止め合えると確かめ、涙が涸れるまで抱きしめ合ったのである。

朔の自省と“選べない今”の確認
千歳朔は、優空が一年前から決意を抱えていた事実に打たれ、誰かを選ぶ準備が自分にはなかったと悟った。三人は涙のあとに並んで縁側に座り、何も決まっていない現状を苦笑しつつ受け入れたのである。

夕湖の“好き”の証明
夕湖は朔の胸に手を当て、ひと目惚れだけでは一年半の片想いは続かないと告げ、朔の仕草、嘘をつくときの癖、夜更けの電話の声色など、日々見てきた具体を重ねて、格好よさも情けなさもひっくるめて千歳朔が好きだと伝えた。美化ではなく観察に裏づけられた愛情であると示し、朔は過去の先入観を恥じ、ただ礼を述べたのである。

優空の“わがまま”宣言
優空は、朔を一番にして自分を後回しにする生き方へ戻りかけていた誤りを認め、これからは少しわがままになりたいと、夕湖と朔の手を取って笑った。朔は涙声で応じ、三人の結び目を保ったまま池面を見つめたのである。

朔の結論と“青い糸”の約束
朔は、夕湖の告白をなかったことにしないと前置きし、恋と向き合うのは自分のためでもあると明言した。いま夕湖とは付き合えないと改めて伝えつつ、約束はできないが、もしこの先いつか夕湖への想いに恋と名づけられたら、そのときは自分から好きだと伝えると告げた。夕湖は任せてと応じ、可能性があるかぎり自分の恋を自分で選ぶと宣言したのである。

優しい空の下で
揺らぐ水面は三人の心のように不確かで透明であった。沈む夕陽がやがて朝陽へと巡るように、三人は赤く染まる前の青い糸をそれぞれの手で握り、いつか自分のために恋と向き合う日まで、結び目をたしかに保つのだと静かに誓ったのである。

三人の合意と祭りへの合流
養浩館を後にした千歳朔、内田優空、柊夕湖は祭りへ戻ることにしたのである。道すがら、優空は浴衣の感想に対する朔の無難な返答を咎め、夕湖も同調した結果、朔は似合っていると率直に褒め直したため、優空は戸惑いながらも嬉しげに受け止めたのである。

仲間の集合と再接続
神社の鳥居前に着くと、七瀬、陽、和希、健太、明日姉、海人が待っていた。これは優空が事前に声をかけ、三人の対話が進むと信じて段取りしていたものである。夕湖は悠月と陽に抱きついて謝罪を重ね、優空は朔にお面を見せて既に小さなデートを済ませたと茶化し、場の空気は和らいだのである。

わだかまりの清算
朔は七瀬にエプロンの件で素っ気なくしたことを詫び、家庭的というより撮影のようだったと照れ隠しの軽口で補ったため、七瀬は呆れながらも笑って受け入れた。朔と海人は握手で和解しかけたが、朔は左手で軽く脇腹を小突き、これで手打ちだと冗談めかして締めたのである。和希と健太もそれを見届け、互いの気遣いに短く感謝を交わした。

祭りの時間を共有する進展
一行は綿菓子、りんご飴、焼きそば、かき氷、クレープ、ベビーカステラ、ラムネを皆で買い分け合い、公園へ移動して手持ち花火に興じた。夕湖がLOVEの文字を描き、七瀬と陽が駆け回り、優空と明日姉が並んで火花を眺めた。表面上はいつもの賑わいを取り戻したが、視線や距離感、声の温度には、三人が一歩進んだ事実が滲んでいたのである。

夏の余白と約束の余韻
祭りの終盤、線香花火を輪になって灯し、また来年と誰かがつぶやいた。火玉が落ちるまで見届けた一同は、それぞれの胸にそれぞれの誰かを閉じ込めながら、赤く染まる前の青い糸をそっと握り続けると心に決め、八月最後の夜を静かにたたんだのである。

エピローグ あなたのフツウ

特別になりたい願いと気づき
内田優空は特別になりたいと願いながらも、それが叶わないと理解していた。特別扱いされることを嫌がりながら、同時に特別扱いされたいと望んでいたために矛盾を抱えていたのである。やがて求めていたのは特別ではなく、当たり前の隣であることに気づいた。

望んでいた日常の形
優空が本当に欲しかったのは、共に帰り道を歩き、寄り道で会話し、名前を呼び合うといった日常であった。すでにその願いは手の中にあり、彼女がなりたかった「特別」は実際には普通のことであった。

支える存在への決意
優空は親友のように、大切な人が頑張るときは背を支え、迷うときは叱り、泣くときは寄り添い、孤独な夜は手を握って隣にいることを願った。月のように、常にそばで照らす存在であろうと決意した。

「フツウ」としての在り方
優空は宝物のように大切にされなくてもよいと考えた。彼女の願いは、特別ではなく、ただ大切な人にとっての「普通」であることであった。

エピローグ あなたの特別

恋心の芽生えと止められぬ想い
柊夕湖は一歩下がって慎ましくあろうとしながらも、心は半歩寄り添い、隣にいるのは自分でありたいと願っていた。夕暮れの教室で迷わず追いかけた瞬間から解き放たれた恋心は、二度と閉じ込めることができなかったのである。

母への理解と譲れぬ想い
夕湖は自らの胸に芽生えた想いを通して、かつて家を出た母の気持ちの一端をわずかに理解した。許すことはできず、同じではないが、何か譲れない一番があることだけは実感したのである。

親友に導かれた決意
親友にきっかけを与えられたように、夕湖もまたいつか胸に秘めていた想いをすべて注いで、朔と向き合いたいと願った。自分だけを見つめてもらい、心のなかに在り続け、繋いだ手を離さない未来を求めていた。

特別であることの願望
夕湖は、月が見えない夜には抱きしめて寄り添える存在として、普通ではなく、ただひとりの特別でありたいと願ったのである。

同シリーズ

ca6b23ac142e6808cd7839f64624c6a8 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか1
5a2ed8e20bcabafcd8ee24a251fd0085 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか2
40f2b6dda427558374d3f3291ec2805e 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか3
52fa069f36b6951640ee48b4bf0d5280 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか4
2db0471b2781c6d975f454a62f9de81c 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか5
3ee201f799a903bdf45659f0e7182642 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか6
b7a8363ee149e027c44b297511d8e88b 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか8
745ada5523f40cd108e7f71e65bf01d0 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
千歳くんはラムネ瓶のなか 9

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説【チラムネ】「千歳くんはラムネ瓶のなか 6」感想・ネタバレ・アニメ化
フィクション(novel)あいうえお順

小説「素材採取家の異世界旅行記 2」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
異世界ファンタジーかつスローライフ系である。転生した元サラリーマンが「素材採取家」として異世界を旅し、素材採取を中心にほのぼの日常と冒険を織りなす物語の第2巻である。
内容紹介
ドワーフたちの鍛冶職人から採取依頼を受けたタケルは、レア鉱石を集めるために危険な鉱山へ向かう。その道中で出会った「見た目は美女だが中身がおじさん」という残念なエルフと同行する展開に。さらに鉱山調査だけでなく、魔物退治や領主家の毒殺未遂事件解決、神馬やカニを捕獲するなど、“異世界グルメ”を楽しむかのような採取と交流の旅が展開される。

主要キャラクター

  • 神城 タケル(かみしろ たける):本シリーズの主人公であり、異世界「マデウス」で素材採取家として気ままな旅を続ける元サラリーマンである。優しく誠実な人物で、素材狩りと料理が大好きである。
  • ビー(ブラック・ノウビー・ヴォルディアス):古代竜・ヴォルディアスの幼生で、タケルが孵化・保護した可愛らしい相棒である。愛嬌ある存在として、タケルの旅に彩りを添える。

物語の特徴

本作の魅力は、「圧倒的能力を持つ主人公が、穏やかに素材と料理を楽しむ異世界ライフ」と「ちょっぴり非常識な仲間たちによるユーモア」が織りなすバランスにある。戦いよりも採取と料理が主軸となる構成が、典型的な異世界作品との差別化ポイントとなっており、読者に癒しと冒険感を同時に提供する点が秀逸である。

書籍情報

素材採取家の異世界旅行記 2
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本  氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
発売日:2017年1月31日

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

早くも3万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第2弾!
大ヒット御礼! ほのぼの素材採取ファンタジー第2弾! ドワーフの鍛冶職人の親方に泣きつかれ、ちょっぴり危険な、レア鉱石採取をすることになったタケル。さっそく鉱山へと向かったところ、見た目は絶世の美女なのに中身がおっさんという残念なエルフに出逢う。目的地が一緒だというので同行することになったのだが、このエルフ、かなりの食いしん坊だということが判明。さらに求めていないのに用心棒を買って出るなど、ちょっと面倒な展開に……!? とはいえ、同行者にメシの不便をさせないがタケルのモットー。異世界のヘンテコ素材を採って、料理して、食べまくる。異世界グルメ(?)旅行、いざ出発!

素材採取家の異世界旅行記 2

感想

読了し、とにかく「楽し」という気持ちでいっぱいになる。
タケルとビーを中心に、個性豊かなキャラクターたちがどんどん増えて、物語がますます賑やかになっているのが魅力的だ。

今回の物語では、ドワーフ王国へ向かう道中で、見た目は絶世の美女なのに中身がおっさんという、残念なエルフ・ブロライトと出会う。
さらに、ブロライトを追いかけてきたクレイも登場し、彼らが友人同士だったという展開には、思わずクスッとしてしまう。イルドラ石の採取に向かう場面では、美味しそうなカニをゲットしたり、「蒼黒の団」というチームが結成されたりと、イベント盛りだくさんで飽きさせない。

領主からの召喚状が届き、タケルが領主の依頼をこなすことになるのだが、この展開がまた面白い。普通なら独り占めして大儲けするところを、タケルは「足るを知る」精神で、分け与えることを選ぶ。準備は充分にと心がけている割には、手に入れたものをポンポンとあげてしまうし、なくなることを全く怖がらない。そんな、どこに行っても何とかなるタケルの人生観には、ある種の憧れすら抱いてしまう。

タケルにとって、お風呂と美味しい食事は絶対に譲れないもの。今回は、お使いに行って、カニのお刺身を堪能したり、石鹸を作ったりするエピソードが描かれている。ついでに、美人になるお馬さんゲットの依頼を受け、新たな旅の仲間が増えるという展開も、ワクワクさせてくれる。

領主の依頼で向かった他領では、プニさんという新たなキャラクターが登場する。そして、タケルの真のステータスが明らかになるという、ファンにとってはたまらない展開も用意されている。醤油をゲットする場面では、異世界での食生活を豊かにしようとするタケルの努力が垣間見え、応援したくなる。

全体を通して、戦いのシーンや人間関係など、作品の魅力が多角的に描かれており、読み応えがあった。特に、タケルの「足るを知る」精神や、どこに行っても何とかなるという楽観的な姿勢は、読んでいるこちらまで明るい気持ちにさせてくれる。

最後までお読み頂きありがとうございます。

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

神城タケル

地球の日本で平凡に暮らしていたが、異世界マデウスに転生した。怠惰な気質を持ちながらも素材採取家として活動し、仲間と共に実利的な行動を続けている。竜の子ビーを保護者として育て、旅の中で人々と関わりを深めている。

・所属組織、地位や役職
 冒険者ギルド・素材採取家。

・物語内での具体的な行動や成果
 イルドライトの採掘を成功させ、ヴォズラオ王国で魔物を討伐した。ベルカイムの住民やアシュス村を救い、領主夫人の治療に関わった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ヴォズラオの永久名誉国民として迎えられ、入国の自由を得た。各地で感謝を受け、冒険者としての評価を高めている。

ブラック・ノウビー・ヴォルディアス(ビー)

古代竜ボルの子であり、神城タケルに預けられた小竜である。幼体ながら戦闘での感覚が鋭く、風精霊と連携して行動する。

・所属組織、地位や役職
 神城タケルの相棒。

・物語内での具体的な行動や成果
 坑道で警戒や補助を担い、雨雲を呼んでアシュス村を救った。タケルと共に大型魔物を討伐し、仲間を助ける行動を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村人から神の使いとして崇敬され、社を建てられるほどの存在となった。

ヴェルヴァレータ・ブロライト

旅の途上で神城タケルに拾われたエルフである。世間知らずだが実直であり、戦闘においては双短剣を操る俊敏な戦士である。

・所属組織、地位や役職
 冒険者ギルド・冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果
 イルドラ石採取の護衛としてタケルに同行し、ポイズンスパイダーやブラッドペンドラとの戦闘で活躍した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ヴォズラオでの実績によりランクDに昇格し、冒険者としての道を広げた。

クレイストン

元リザードマンであり、現在はドラゴニュートの聖竜騎士である。実直な性格を持ち、過去にはドワーフの国を救った経歴を持つ。

・所属組織、地位や役職
 聖竜騎士。冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヴォズラオでの戦闘で後備を固め、タケルやブロライトと共に坑道攻略を果たした。アシュス村でも救済に関わり、護衛役を務めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 国難を救った英雄としてドワーフから立像を建てられるほど尊敬されている。

ホーヴヴァルプニル

ガレウス湖を守護していた神獣である。長きにわたり石化していたが、タケルの介入で力を取り戻した。

・所属組織、地位や役職
 湖の守護神獣。

・物語内での具体的な行動や成果
 湖の毒を浄化し、大地に再生をもたらした。タケルを加護を受けし者と認め、永遠の感謝を伝えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 白銀の美女の姿へ変じ、タケル一行への同行を望んだ。

ベルミナント・ルセウヴァッハ

ベルカイムの領主であり、冷静な判断力と家族への思いを持つ人物である。病床の妻を救うため、神城タケルに助力を求めた。

・所属組織、地位や役職
 ルセウヴァッハ領・領主。伯爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 妻ミュリテリアの病を救うため、タケルを召喚した。家庭教師ベルナードの不正を見抜き、拘束に踏み切った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領内の信頼を得ると共に、冒険者への評価を改めた。

ティアリス・マルケ・ルセウヴァッハ

ベルミナントの娘である。母を支えたい思いからビーを自分の竜だと誤解し、譲渡を求めた。

・所属組織、地位や役職
 ルセウヴァッハ家・令嬢。

・物語内での具体的な行動や成果
 当初は冒険者を誤解していたが、タケルとの対話で考えを改めた。母の病に寄り添う姿を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父から成長を認められ、家族を守る姿勢を示した。

ミュリテリア・ルセウヴァッハ

ベルミナントの妻であり、長らく病に伏していた女性である。

・所属組織、地位や役職
 ルセウヴァッハ家・奥方。

・物語内での具体的な行動や成果
 タケルの段階治療により白内障が回復し、視力を取り戻した。イヴェル中毒症の治療にも取り組まれた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 家族との絆を取り戻し、快復への道を歩み始めた。

レイモンド・セルゼング

ルセウヴァッハ家に仕える執事である。秩序と規律を重んじ、領主一家を支えている。

・所属組織、地位や役職
 ルセウヴァッハ家・執事。

・物語内での具体的な行動や成果
 新聞や日常業務を整え、屋敷の規律を守った。警報時には領主と行動を共にし、家庭教師ベルナードの不正を明らかにする場を整えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 信頼を裏切らず、領主家の支柱として描かれている。

グルサス親方

ベルカイムのドワーフ鍛冶師である。頑固だが技術に優れ、弟子を導く立場にある。

・所属組織、地位や役職
 ベルカイム職人街・鍛冶師。

・物語内での具体的な行動や成果
 神城タケルにイルドラ石の採取を依頼した。イルドライトを用いて剣を鍛え上げ、品評会に挑む準備を進めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 工房が活気を取り戻し、街の復興に寄与した。

リブ

グルサス親方の弟子であり、猫獣人の若者である。

・所属組織、地位や役職
 ベルカイム職人街・鍛冶師見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 イルドラ石とイルドライトの輝きに驚き、成果に感涙した。専用ハサミの製作依頼を受け、師匠と共に取り組む姿勢を見せた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 師匠と共に成長を遂げ、工房再建に関わる立場となった。

ザンボ

ヴォズラオのギルド「カリスト」の受付主任である。

・所属組織、地位や役職
 ヴォズラオ冒険者ギルド・受付主任。

・物語内での具体的な行動や成果
 リュハイ鉱山の状況を説明し、タケルたちを案内した。坑道内では恐怖を示したが、戦果に歓喜した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冒険者の活躍を証言し、都市での評価に影響を与えた。

敵対人物

エンガ・シャイトン

フィジアン領の商人であり、実際には湖汚染と村人搾取を行った首魁である。

・所属組織、地位や役職
 シャイトン一味の首領。

・物語内での具体的な行動や成果
 アシュス村に高額で水を売り、黄金の花を買い取った。夜襲を仕掛け村を焼き、ゴンザを誘拐した。砦でダークアネモネを召喚したが、敗北して拘束された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 捕縛され、背後にいたエゼル・シャイトン男爵の関与を明かす存在となった。

エゼル・シャイトン

シャイトン男爵家の当主であり、領政失敗の過去を持つ人物である。

・所属組織、地位や役職
 シャイトン男爵家・領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 直接の登場はないが、エンガの背後に存在し、湖汚染と不正取引の黒幕と示唆された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 男爵家は断罪の見込みとなり、領主の座を失う運命にあった。

ベルナード・エルスト

ルセウヴァッハ家の家庭教師を務めていたが、闇取引に関わっていた。

・所属組織、地位や役職
 ルセウヴァッハ家・家庭教師。

・物語内での具体的な行動や成果
 冒険者に不信を抱かせる発言を繰り返し、ティアリスを誤導した。領主に追及され、真意を問われた際に矛盾を露呈した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 拘束され、ドラゴン違法売買組織との関与が発覚した。

村人・関係者

タロベ

アシュス村の住人であり、神城タケルを支援する姿を示した。

・所属組織、地位や役職
 アシュス村の農民。

・物語内での具体的な行動や成果
 タケルと村人との橋渡し役を担い、イーヴェル草の案内に尽力した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村内で発言力を持ち、信頼を集める立場を示した。

ゴンザ

アシュス村の男性であり、エンガ・シャイトンの夜襲で誘拐された。

・所属組織、地位や役職
 アシュス村の住人。

・物語内での具体的な行動や成果
 砦に囚われたが、タケルとクレイに救出された。救出後も村の再建に参加した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村人の象徴的存在となり、救出劇は住民の団結を強めた。

ウェガ

ベルカイムの屋台村をまとめる人物である。

・所属組織、地位や役職
 ベルカイム・屋台村代表。

・物語内での具体的な行動や成果
 タケルからリダズの実を醤油代替として紹介され、取引を成立させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アシュス村との連携を築き、醤油の実の流通を確立する役割を担った。

展開まとめ

神城タケルの転生と性格描写
神城タケルは地球の日本・横浜で平凡に暮らしていたが、見知らぬ青年に殺されて異世界マデウスへと転生させられた。地球では休日を怠惰に過ごす性格であり、やる気に満ちた性格ではなかった。普通の人間であるがゆえに異世界転生に適任とされたのである。

冒険者としての活動と相棒ビー
青年から与えられた魔法と不思議な鞄を用いて、タケルは冒険者として素材採取家となった。素材採取家は価値あるものを魔法で採取して売る仕事であり、マデウスでは動物の排泄物にすら価値があった。タケルは古代竜ボルの子である小さな黒竜ビーを預かり、旅の相棒として共に行動していた。

ベルカイムでの生活と新たな旅立ち
タケルはベルカイムという町に滞在し、ギルドの依頼をこなしながら穏やかな日々を送っていた。しかし、武器鍛冶職人のドワーフ・グルサス親方とその弟子の猫獣人リブに依頼され、ドワーフの国で採れる鉱石を求めて旅に出ることになった。

エルフとの遭遇
旅の途上、タケルは森で腹をすかせたエルフに出会った。そのエルフは小汚い格好をしており、強い臭気を放っていた。

第1章 拾ったのは、残念エルフ

エルフとの遭遇と浄化
神城タケルは森で空腹に耐えるエルフ、ヴェルヴァレータブロライト(ブロライト)と遭遇した。ブロライトは旅支度を怠り三日間飢えており、臭気と汚れが酷かったため、タケルは清潔の魔法で髪・肌・装備を徹底的に浄化した。浄化後のブロライトは本来の美貌を取り戻し、タケルの魔力の強さを認めたのである。

野営の準備と焚き火の作法
開けた場所にて野宿を決め、タケルは結界や温度調節の魔石を用意したが、ブロライトは他者への安全サインとして焚き火の痕跡を残す重要性を説いた。タケルは大量の薪を用意しつつ、巨大鍋と魔石で野営調理の段取りを整えた。

肉すいとんの食事と交流、ビーの紹介
タケルは干物の出汁、肉、山菜、数種のキノコ、小麦粉のちぎりを用いた“なんちゃって肉すいとん”を拵えた。香りに誘われ小黒竜ビーが姿を見せ、ブロライトはドラゴンを神の使いと敬いながらも愛でた。料理は短時間で平らげられ、騒がしくも賑やかな会話が進み、ブロライトの率直で大仰な反応が場を和ませたのである。

短剣「隼丸」の性質と信頼の試し
ブロライトは祖国の秘宝たる双短剣「隼丸」をタケルに手渡し、悪意ある者は触れられない性質で試した。タケルは問題なく扱えたため、ブロライトは警戒を解いた。調査によれば剣はハイエルフの人工遺物で風精霊術を取り込み、扱い手の潜在魔力に応じて斬れ味と素早さを高め、危険察知の性質を持つ希少なAランク品であった。

目的と依頼の共有
タケルはベルカイムの鍛冶職人の依頼で、ドワーフ王国ヴォズラオ近くのリュハイ鉱山からイルドラ石を採取する計画を明かした。ブロライトは姉リュティカラに贈る白き天馬を求めて旅をしており、道中の目的が一致した。

同行の決定と交換条件
タケルは当面の食を分ける代わりに、世界の常識や基本作法などの知識を教えることをブロライトに求め、金品や秘術・秘宝は不要とした。ブロライトは一角馬の目利きを申し出て、恩義に報いる姿勢を示した。両者はビーを含めて三日ほどの行程を共に歩むことを決め、残念さと実直さを併せ持つブロライトと共に、穏やかながら学び多い旅路が始まったのである。

第2章 背後の悪寒、君の名は

橋を渡る旅路と山脈の眺望
神城タケルとヴェルヴァレータブロライトは、キュリチ大河に架かる古い木橋を渡り、対岸に広がるドワーフの領域と雪を戴くリュハイ山脈を望んだ。河は清らかで、宿場が橋の周囲に栄え、人や馬車が往来していたのである。

ブロライトの世間知らずと戦闘能力
ブロライトは貨幣価値や旅道具の扱いに疎く、温室育ちを思わせる振る舞いを見せた。一方で対モンスターでは俊敏かつ精霊術に長け、風精霊の加護を受けて双短剣で素早く斬撃する高い実力を示した。ビーと連携することで、タケルは素材採取に専念でき、月夜草の群生を確保したのである。

宿場到着と宿の選択
対岸の宿場に到着した一行は、露店の活気に触れつつ宿を探した。タケルは湯屋付きの宿を選び、割高でも快適を優先した。ブロライトは倹約を口にしたが、タケルは差額を支払い、同宿を望んだのである。

用心棒依頼と役割の確認
タケルはリュハイの鉱山での危険を見越し、ブロライトを用心棒として臨時に雇う提案を行った。ブロライトは即座に承諾し、タケルとビーの護衛に尽力する決意を示した。

名物料理と友人の話題
評判の飯屋で肉巻きジュペなどを堪能し、ブロライトはリザードマンの友人や“栄誉の竜王”たる聖竜騎士の話を語った。タケルは自らの知人にも長槍を操る戦士がいると述懐し、食卓は賑わいを見せたのである。

クレイストンの再会と圧のある詰問
そこへ元リザードマンで現ドラゴニュートのクレイストンが現れ、無断での遠出を咎めつつ同席した。タケルはブロライトを拾い護衛を頼んだ経緯と、個人的依頼でイルドラ石を採取する事情を説明した。クレイストンは寡黙に聞き、酒をあおりながらも視線で圧をかけたのである。

採取依頼の目的と対価
タケルはベルカイムの鍛冶職人グルサス親方と弟子リブからの依頼で、リュハイ鉱山のイルドラ石を集める予定を明かした。報酬として金銭ではなく、採取家専用の高性能ハサミの鍛造を望む考えを示し、実用第一の姿勢を貫いた。

翌朝の同行表明と二人の用心棒
翌朝、クレイストンは道中の案内と護衛を申し出て同行を表明した。ブロライトはこれを歓迎し、両名がタケルとビーの用心棒として加わる形となった。タケルは説教の多いクレイストンと騒がしいブロライトに挟まれる不安を覚えつつも、賑やかな旅路に踏み出す覚悟を固めたのである。

第3章 美談と英雄、涙の理由

ヴォズラオ到着と地下都市の景観
神城タケル、クレイストン、ヴェルヴァレータ・ブロライトの三人は、キュリチ大河と広大な平野を越え、リュハイ山脈の麓に築かれた地下都市ヴォズラオへ到着した。鋼鉄の大門には精緻な装飾が施され、都市内部は太陽光と魔道具の灯りで明るく、空気循環の仕組みにより快適な環境が保たれていた。都市は鉱石産業と王立職人学校を中心に繁栄し、夏祭りでは巨大な山車が練り歩くと語られていた。

門の通過とクレイストンの特別扱い
入国待機列を横目に、クレイストンは警備のドワーフと一言交わしただけで一行を通された。警備兵は彼が国王の旧知であり、かつて国難を救った英雄であると説明し、特別な扱いの理由が示された。

英雄譚の顛末と誇張
警備兵は十年前、魔族の剛雷王ゼングムが潜入し財貨を強要した際に、クレイストンが立ち向かった逸話を熱弁した。しかしクレイストンは、実際には相手が自分を見るなり逃走したこと、自分は基礎の型を示したに過ぎず、その後の鍛錬は報酬目当ての冒険者が担ったことを訂正した。誇張はあれど、ドワーフたちが彼に深く感謝している事実はブロライトの言葉どおりであった。

巨大立像との対面と羞恥
中央広場には「勇者ギルディアス(クレイストンの名)」と銘打つ巨大立像がそびえていた。威容はあるものの本人の面影は薄く、クレイストンは羞恥に沈んだ。タケルやブロライトの軽口も慰めにはならず、気まずさが広場を満たした。

ギルドでの売却と鉱山の異変
タケルはギルド「カリスト」で採取素材を売却し、高値を得た。受付主任ザンボは、数ヶ月前の大地震を契機にリュハイ鉱山の奥で悪魔が目覚め、主要坑道が事実上封鎖されていると説明した。薬草需要の高騰は、その混乱の反映であると語られた。

紹介状と決意、迷宮への誘惑
タケルはグルサス親方の紹介状を手に、危険を承知でイルドラ石の採取に挑む意思を示した。クレイストンはその危険性を諫めたが、タケルは依頼を果たし最強の採取用ハサミを鍛造してもらう目的を貫き、迷宮のような坑道をダンジョンと見立てて進む決意を固めたのである。

第5章 狭い場所で、戦闘開始!

地点確保と脱出魔法の意図
神城タケルは坑道入口に魔石で地点を確保し、転移門で一度限りの一方通行脱出を可能にする準備を整えた。時間を金で買う発想で移動効率を最優先し、同行者にはダンジョン脱出魔法の趣旨を説明した。制約として地点ごとに一回のみであり、タケルが同行しなければ発動できないことも明示した。

探査と警戒、初動配置
ザンボの示す壁面を調査したタケルは低品質の反応を確認し、さらに奥へ進む判断を下した。ビーの警戒鳴きとともに敵接近を探査で把握し、ブロライト前衛・クレイストン第二列・タケルとザンボ後衛という隊形に移行した。タケルは全員に盾を展開し、落盤対策として坑道壁にも結界を張って戦闘準備を完了した。

ポイズンスパイダーとの交戦
接近したのは体液が猛毒のポイズンスパイダー五体であり、タケルは行動停滞と状態異常防御を重ねて付与した。ブロライトは眉間の目を狙うと告げ、跳躍と回避を織り交ぜて短時間で各個撃破した。クレイストンは支援魔法の効果に驚愕しつつ後備を固め、飛散した毒液は盾効果で遮断された。

子蜘蛛の出現と対処
絶命した親蜘蛛の腹から子蜘蛛が噴出し、ブロライトが踏圧で制圧する一方、タケルも抵抗感を抱えつつ踏み潰して被害拡大を抑えた。直後に追加接敵があり、クレイストンの警告を受けたブロライトが即応して迎撃姿勢を取った。

ブラッドペンドラ討伐と戦果分配
続いて出現した巨大ムカデ系のブラッドペンドラは、ブロライトが胸部を裂き脚を切除して沈黙させた。ザンボは恐怖から身を竦めたが、戦闘終結を確認して歓喜した。タケルは大蜘蛛の素材を鞄に回収し、分配は坑道内の討伐品すべてを三等分とすることで合意した。撤収後は清潔の魔法で毒液痕を消去し、進行を再開した。

採掘再開とイルドライト発見
玄武の寝床での小休止と食事の後、タケルは盾と剛炎、ビーの風精霊防御を併用して壁面を安全に破砕し、ツルハシで塊を取り出した。検分の結果、それは透明度と反応に優れるランクAのイルドライトであり、ザンボはイルドラ石と同手法で加工可能かつ宝石用途にも適すると断じた。依頼品より上質であるため持ち帰りを決定した。

魔素の気配と脅威接近
イルドライトから微量の魔素が感じられることに気づいた一行は、坑道に魔素溜まりがある可能性を認識した。直後、ビーが異常な警戒鳴きを発し、ブロライトとクレイストンも得体の知れぬ接近を感知した。タケルは自らの出番だと主張し、ザンボの悲鳴が響く中、巨大な青い悪魔が多脚と刃を振るい奇声を放って出現し、タケルとビーは応戦の叫びを上げた。

第6章 目指せご馳走、その名は刺身

トランゴクラブ出現と食欲優先の判断
坑道にランクAの巨大蟹トランゴクラブが出現し、神城タケルとビーは食用可で生でも良いとの情報に歓喜した。ブロライトとクレイストンは退避を促したが、神城タケルはご馳走を逃すまいとして交戦を選択した。

戦闘準備と初手
神城タケルは結界・速度上昇・軽量化・硬化を展開し、ビーに超音波で行動を止めさせたのち、足元の凍結で機動を奪う策をとった。防御低下や行動停滞は魔素の影響で効きが弱かったが、視覚と足場を狙う戦術で主導権を確保した。

急所攻撃と討伐
神城タケルは調査で関節や大脳位置を把握し、ビーに鎌鼬で急所を撃たせ、自身は氷結針で関節と神経を貫いた。暴れる巨体は結界で抑えられ、トランゴクラブは絶命した。神城タケルは食材としての確保を優先し、解体は後日に回した。

叱責と反省
クレイストンは用心棒として守る立場から単独突撃を無謀と叱責した。神城タケルはこれまでの蟹狩り経験から自信を示したが、複数行動では仲間の連携を重視すべきと諭され、方針の是正が示唆された。

イルドライト鉱脈の継続反応
採掘を進めた一行は高透明度のイルドライトを大量に確保し、さらに奥層に巨大なイルドラ石反応が続くことを把握した。神城タケルは地震と魔素の浄化により眠っていたモンスターが覚醒・巨大化した可能性を述べ、今後の大型出没に備える必要性を示した。

転移帰還と王宮報告
一行は転移門で入口へ戻り王宮に報告した。ザンボの証言とともに、神城タケルは玄武道の調査完了と主要脅威の討伐を伝え、以後は護衛と解毒薬の備えで採掘継続が可能であると説明した。

悪魔の実物提示と報酬交渉
謁見の場で神城タケルは解体前のトランゴクラブを提示し、周囲はその威容に驚愕した。神城タケルは素材採取家として蟹の所有を希望し、王側は立像利用にも言及したが、最終的に報酬の形が協議された。

褒賞の選定と迅速な履行
爵位授与の提案を神城タケルは辞退し、代わりにブロライトへの白い天馬、クレイストンの槍の新調、ヴォズラオの湯屋整備を要望した。ドワーフは即応し、白い天馬と新槍が用意され、露天風呂が設置された。

名誉と将来の立像
ヴォズラオ滞在五日ののち、一行は新たな英雄として永久名誉国民となり入国フリーパスを得た。数ヶ月後、中央広場に新たな巨大立像が設置される未来が示され、都市に彼らの名が刻まれる流れとなった。

第7章 そして凱旋、泣く師弟

ブロライトの帰郷とランク昇格
ブロライトは白い天馬を姉に贈るため隠れ郷へ帰還することとなり、ザンボの計らいで冒険者ランクがDに跳ね上がった。試験実演次第でCやAも視野に入ると告げられ、神城タケルへの大恩を強調しつつ、ブロジェの弓はいらぬのかと気を揉んだが、神城タケルは弓を使わないと応じていた。

報酬授与と今後の依頼
一行は討伐報酬や坑道安定化の追加金を受領し、モンスター素材代は三等分の約束を変え、神城タケルが二人に譲渡した。神城タケルは見返りとして自分を乗せられる馬の目利きをブロライトに依頼し、空飛ぶ馬は不可と念押ししていた。

ベルカイムへの帰還と市井の歓迎
神城タケルとクレイストンがベルカイムに戻ると、商人や住民が一斉にお帰りと迎え、ビーも子どもや女性に人気を博した。神城タケルは日頃の挨拶と礼節が受容につながったと捉え、無法な冒険者との差異を自戒として確認していた。

エウロパでの“チーム”騒動
ギルドのアリアンナは二人がチームを作ったのかと色めき立ち、報告に走った。クレイストンは一時的だが無期限と表明し、神城タケルの的外れな行動を監視できると述べ、肉すいとんも目的だと冗談めかした。ギルドマスター、グリット、ウェイドも殺到し、神城タケルは押し寄せる質問を受け流した。

イルドラ石とイルドライトの納品
グルサス親方の工房で神城タケルは高品質のイルドラ石を塊で提示し、ザンボが強く勧めたイルドライトも併せて提出した。親方とリブは輝きと強度を絶賛し、幻の結晶イルドライトに驚嘆した。

師弟の歓喜と涙、神城タケルの応答
グルサス親方とリブは想像を超える成果に抱き合って泣き、依頼して良かったと感極まった。神城タケルは自分だけの力ではなく仲間の助力だと述べ、対価の支払い不能を案じるリブに専用ハサミの製作を依頼条件として提示した。

次の目標と職人への託し
神城タケルはまず品評会一等を狙える最高の剣を作ってほしいと託し、工房の立て直しの後にメンテ不要で何でも切れる最強の採取用ハサミの製作を依頼する意向を示した。さらに生活道具やカニフォークの職人紹介も望み、今後のものづくりの連携を固めていた。

第8章 青天の霹靂

イルドラ石の供給再開と親方の渾身作
ベルカイムの職人街にリュハイ鉱山から大量のイルドラ石が届き、生産が再開された結果、街は活気を取り戻したのである。グルサスはイルドライトをふんだんに用いた渾身の剣を完成させ、一同は涙して歓喜した。タケルは剣の出来を見届け、親方の品評会帰還後に自分専用のハサミを依頼する段取りを整えていた。

領主からの召喚状とチーム結成
タケルはギルド酒場でウェイドから領主ルセウヴァッハ家の封蝋が押された召喚状を受け取り、クレイストンと連名での呼び出しであることを知った。クレイストンは褒美は名目であり、真意はビーの見聞であろうと見立てた。タケルとクレイストンは蒼黒の団を結成し、ブロライトの合流も視野に入れつつ、回復職の不在という課題を抱えたまま召喚に応じることを決めた。

貴族街への到着と応接の作法
領主邸の馬車で貴族街へ向かったタケルとクレイストンは、城のような大邸宅と厳かな執事の出迎えを受け、応接室で茶と焼き菓子のもてなしを受けた。タケルはビーに配慮しつつ慎重に振る舞い、クレイストンは落ち着いて応接に臨んだ。両名は領主の出座を待ちながら、召喚の真意と今後の立ち回りを意識していた。

横合いからの乱入と不穏な宣言
面会前にピンクのドレスの女性が扉を開け放って乱入し、ビーを見つけるや否やそれがドラゴンの子供であると断じ、さらにそれは自分のドラゴンであると主張した。タケルは予期せぬ要求に直面し、事態は不穏な空気を帯びて次章への波乱を示唆して終わった。

第9章 人を見て法を説け

古代竜ビーの性質とタケルの保護意識

ブラック・ノウビー・ヴォルディアス(ビー)は幼生ながら戦闘センスに優れ、タケルの補助的な指示で意図どおりに動いていた。将来は親のボルのように成長する見込みだが、当面はタケルが保護者であると明言された。

ティアリスの乱入とドラゴン譲渡要求

領主の娘ティアリス・マルケ・ルセウヴァッハが応接室に押し入り、ビーを自分のドラゴンだと主張し譲渡を迫った。タケルは無理であると即答し、ビーは家族であると説明した。ティアリスは冒険者を粗野で無知と聞かされていたこともあり、当初は聞き入れなかった。

対話による状況整理と誤解の露呈

タケルが冷静に経緯を質すと、ティアリスはベルナードの入れ知恵により、父が冒険者を屋敷に招いたのは譲渡のためだと誤解していたことを語った。父は否定していたが、彼女は思い込みで暴走していたと明かされ、タケルはドラゴンは物ではなく当人が選ぶ存在であると説いた。

竜と騎士の関係に関するクレイストンの補足

クレイストンは竜騎士の例を挙げ、飛竜でさえ生涯に選ぶ相手は一人であり、屈従ではなく相互の信頼で背に乗せるのだと諭した。これによりティアリスは態度を改め、ビーが人語を理解している事実にも動揺し反省の色を見せた。

領主ベルミナントの登場と謝罪

領主ベルミナント・ルセウヴァッハが現れ、娘の非礼を詫びた。タケルは礼を尽くして応じ、両者は穏当な対話に移行した。領主は家の歴史を執事レイモンドが語ったのち、改めて本題に入る場が整えられた。

召喚の真意—奥方ミュリテリアの病

領主は妻ミュリテリアが半年前から原因不明で寝たきりになったと明かし、領主職ゆえ身動きが取れず調査も難航していると吐露した。タケルが長屋で胸の病を治したとの噂を聞きつけ、同じ手立てで妻を救ってほしいと懇願した。ティアリスがドラゴンを欲したのは、病床の母を支える存在が欲しかったためだと補足され、クレイストンも娘の優しさに胸を熱くした。

逡巡と決意

タケルは個人の治癒が医療の発展を阻害する懸念や貴族相手の政治的な重みを考慮して逡巡したが、事情を聞き入れ、最終的に奥方のもとへ向かう決意を示した。

第10章 鬼が出るか蛇が出るか

奥方の私室と劣悪な環境
ルセウヴァッハ邸の塔にある奥方ミュリテリアの私室は一日数回しか開かれず、窓が閉め切られて空気が淀んでいた。ミュリテリアは極端に痩せ、白い肌で床に伏しており、ベルミナントは太陽光を苦手としていると説明した。タケルは環境の悪さが症状悪化の一因と判断した。

診断で判明した複合的疾患
タケルは魔法的診断により、ミュリテリアが併発白内障、歩行障害、貧血、腎臓障害、イヴェル中毒症など多くの合併症を抱えている事実を把握した。中でもイヴェル中毒症の原因が不明であり、慎重な扱いが必要と結論した。

信頼の確認と治療の決断
タケルは自分は治癒術師ではないが症状を緩和できると述べ、全面的な信頼を求めた。ベルミナントはこれまで名医も治癒術師も匙を投げた経緯を語り、望む物は何でも用意すると懇願した。ミュリテリアはすべてが治らずとも、せめて娘ティアリスを抱きしめたいと願い、二人はタケルに治療を委ねる決断をした。

白内障の回復と環境の刷新
タケルは急激な負荷を避ける手法で回復の魔法を目に施し、ミュリテリアは蝋燭や陽光を眩しさなく視認できるまでに視力を取り戻した。続いてタケルは室内を徹底的に清潔化して明るさを確保した。成果に歓喜したベルミナントは屋敷に滞在するよう勧め、タケルは風呂を所望して貴族の浴室を利用し、石鹸の快適さに感嘆した。ビーは果物を好み、入浴中は泡で遊んで機嫌が良かった。

イヴェル中毒症の正体と対応方針
タケルがイヴェル中毒症の由来を質すと、ベルミナントはそれが毒薬であると明かした。タケルは食事や飲料への継続的な毒混入の可能性を指摘し、回復薬が効かない理由を人為的中毒と整合させた。まずはムンス薬局から中位回復薬を調達して現状維持を図り、解毒薬が不可欠であるとした。毒性モンスターの例を挙げ、解毒には当該毒に由来する材料が必要であると確認した上で、犯人の特定が今後の課題であると結んだ。

完全治癒を避けた理由
クレイストンへの施術で用いた全身の完全治癒は対象の体力を強く消耗させるため、虫の息のミュリテリアには適用できないと判断した。タケルは段階的な緩和と体力回復を優先する方針を明言し、クレイストンもこれを是認した。

第11章 千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ

イーヴェル毒の正体と闇流通の推測

タケルはイーヴェルの実が乾燥で効能を失い、調合次第で無味無臭の猛毒となることを把握した。正規入手は不可能で闇ルートの存在が濃厚であると見立て、奥方の治療に専念しつつ原因追及は専門家に委ねる方針を固めた。

文献調査と手掛かりの特定

タケルとクレイは蔵書を渉猟し、領主が持参した古書の該当箇所を確認した。その結果、冒険者ポラポーラの旅日記にイヴェルが見つかった場所として、ヴァノーネ地方アシュス村近くの大きな湖と馬のような岩が記されていることを突き止めた。クレイは当該地に心当たりがあると述べ、現地案内が可能であると示した。

フィジアン領の背景と怨恨の可能性

領主は地図で当該地がフィジアン領内にあると示した。シャイトン男爵家による領政失敗と、前ルセウヴァッハ領主の奏上で同家が謹慎処分となった経緯が語られ、タケルは奥方暗殺未遂の動機として領主への怨恨が成り立ち得ると考えた。ただし断定は避け、行動に必要な想定に留めた。

短期捜索の移動計画

領主は片道五日の馬車行程を示したが、タケルは時間短縮のため一角馬への騎乗に速度上昇と軽量の術を併用する案を提示した。屋敷と目的地双方に地点を確保して転移門で往還を図り、採取後の調合は信頼できる薬師に依頼する計画とした。

結界による奥方の保護

タケルはミスリル魔鉱石の欠片で奥方の居室に結界を張り、悪意ある侵入者の排除と有害物の遮断を実現した。結果として日常の飲料水が結界で蒸発し、出入り業者の品に混入が疑われたため、外見上の取引は継続しつつ、実際の服用には市井の水とムンス薬局の中位回復薬を用いる運用に改めた。

ティアリスへの諭しと予防策

ティアリスは以前の非礼を詫び、タケルは自省に至った点を評価したうえで、安易に信じず自ら考える姿勢と報告・連絡・相談を徹底するよう説いた。領主には、金銭や特別な要請を持ち掛ける者が現れても即応せず確認するよう促し、奥方の部屋への立ち入り可否を判別材料とする予防策を共有した。

出立準備と一角馬の応答

一行は目立たぬ裏口から出立し、タケルは一角馬クルトとトマスに行程と術の趣旨を説明した。二頭は鼻息で応えるように見え、タケルは返事めいた反応に驚きつつ出発に備えた。

第12章 浮世の苦楽は壁一重

一角馬の加速と時短

タケルとクレイは速度上昇と軽量を施した一角馬でベルカイムを出発し、想定以上の速さで街道を駆け抜けた。タケルは落馬しそうになりつつも、クレイは空を駆けるようだと上機嫌であった。ビーの制止で速度を落とした結果、一本杉やボワンルの森に短時間で到達し、移動時間を大幅に短縮したのである。

隠密行動への配慮

奥方を狙う勢力を刺激しないため、タケルは派手な疾走が目立つと判断し、森の手前で減速と行動の偽装を徹底した。ベルカイム出立時にも散歩を装い、依頼を複数受注して周囲の疑念を和らげたことが、今回の慎重姿勢につながったのである。

道中の食事と対話術の背景

道中、二人は野菜を挟んだサンドイッチで腹を満たし、クレイはタケルの知識と料理、対話術を称えた。タケルは過去の仕事経験から、怒りや誤解に対しては穏やかに原因を聴くことで落ち着かせると語り、経験知としての応対法を明かしたのである。

ステータスの相互確認

クレイの提案で能力を確認すると、クレイは聖竜騎士として多彩な技能と耐性を有し四十五歳であることが判明した。続いてタケルは古代竜の加護を受けし者かつ魔導王の属性と多数の異能を示し、口八丁やものぐさなどの技能名にも言及した。タケルは神ではなく地道に素材採取を続ける意思を示し、肩書に左右されない姿勢を保った。

旅の所感と現在地の把握

一角馬の異常な速度が景観を流し去る一方、森中では歩調を落として木漏れ日を楽しむ余裕も生まれた。タケルは前世界の窮屈さを振り返りつつ、少しの贅沢と努力、そして人に優しく賢く生きる方針で旅を概ね楽しんでいると内省したのである。

第13章 危急存亡の秋

荒廃したヴァノーネ地方の大地
フィジアン領ヴァノーネ地方は乾燥し、作物が枯れ果て茶色の大地が広がっていた。タケルとクレイは原因を探り、かつて肥沃とされた土地が突然の異変で荒廃したことに疑念を抱いた。畑の土は乾き切り、井戸が枯れて水を撒けない状況にあった。タケルは湖の存在を思い出し、異変の要因を推測した。

野営と翌日の出発
二人は雑木林で野営を行い、結界を張って休んだ。翌朝、タケルはビーを清め、クレイと共に村へ向けて進んだ。景色は荒涼としていたが、かつては緑豊かな地であったと考えられた。タケルは魔素浄化との関連を思案しつつ、天候問題の解決は困難であると感じていた。

ガレウス湖の異変
やがて二人はガレウス湖に到達した。クレイがかつて美しいと語った湖は、今や濁り、工業廃水のような色に変貌していた。湖水は使用不能であり、農地の荒廃の原因と考えられた。湖の調査の結果、パレオシン毒が検出され、誰かが意図的に毒を撒いたと判明した。クレイは水を汚した行為に憤りを示した。

村人との遭遇
タケルが湖水に触れようとしたところ、農具を持つ痩せ細った男たちに制止された。彼らは疑念を抱き、二人が異変の元凶ではないかと問い詰めた。タケルは冒険者であることを説明し、ギルドリングを提示して身元を証明した。クレイのランクAの証を見た男たちは驚愕と敬意を示したが、飢餓で力尽きる者も現れ、村の窮状が浮き彫りとなった。

第14章 烏頭白くして馬角を生ず

アシュス村の窮状と炊き出し

ヴァノーネ地方アシュス村は大地が枯れ家屋も荒れ、住民は痩せ細っていた。タケルとクレイは集会所に通され、タケルが大鍋で肉すいとんを作って村人に振る舞い、全員の腹を満たした。村人は感謝を述べたが、恩を返す余裕はない現状であった。

湖汚染の発生と生活の崩壊

村の生活用水であるガレウス湖が数週間前から突然汚染され、魚や水鳥が死に、井戸まで影響が及んだ。作物は育たず、住民は野草を齧るしかない状況に追い込まれていた。

エンガシュの来訪と黄金の花の取引

窮する村に商人エンガシュが現れ、援助と引き換えに黄金色に輝く花の苗を求めた。村長は極秘の場所から花を採取し、根付き一輪につき銀貨一枚を受け取った。さらに水樽は相場より高価な五百レイブで買わされ、村の飢えと渇きは解消しなかった。

タケルの指摘と村人の動揺

タケルは高額な水と花の要求を根拠に、湖汚染の元凶がエンガシュである可能性を示した。村人は信じていた相手への疑念に打ちのめされ、絶望と涙に沈んだ。

即時支援と復旧の段取り

翌朝、タケルは村全体に清潔と修繕を施し、住民の身支度を整えた。クレイには空間術を施した大容量樽を託し、ベルカイム側から清浄化可能な河川水の確保に向かわせた。タケルは森で食糧となる獣や野草・薬草・きのこを大量に採取し、村の当座の飢えを凌ぐ体制を整えた。

エンガシュへの対処の決意

タケルは見返りを求めず村の再建に着手しつつ、湖汚染と花の取引を仕掛けたエンガシュの企みを打ち砕くと心中で決した。

第15話 我が物と思えば軽し笠の雪

助力の方針と村の状況
タケルは高尚な復興理念ではなく、目の前で困る者に手を差し伸べるという実利的な善意で行動していた。利己的な者は救わないという線引きを示しつつ、恵みを与えられる範囲で支援を続けた。翌朝のアシュス村では家屋や衣服が新調され、村人は急変に戸惑いを見せていた。長く続いた困窮が彼らを疑心暗鬼にしており、タケルは依然として怪しい冒険者と見なされていた。

雨を呼んだビーと村人の崇敬
畑の水不足に対し、ビーが風精霊を介して雨雲を呼び、久方ぶりの雨をもたらした。村人はこれをドラゴンの恵みと捉え、ビーを祀る社を建てると張り切った。タケルは過剰な崇敬より復興を優先すべきだと考えつつ、古代竜としてのビーの成長を温かく見守った。

見返りの提示とイーヴェル草の案内
村人は報恩の意を示したが金品は乏しかった。タロベとゴンザのとりなしで、タケルは見返りとしてイーヴェル草の自生地への案内を求め、村長も継続的な支援への感謝から日没後の案内を承諾した。タケルは探査で独自に探すことも可能であったが、村人の大切な資源に配慮して案内を待つ判断を下した。

子供たちとの交流と飢餓の記憶
子供らがタケルに懐き、抱き上げられてはしゃいだ。村には二十人ほどの子供がいたが、飢えで多くの命が失われていたという。タケルは過去を悔やまず、遺された者が今を生き抜く必要を強調しつつ、菓子を分け与えて村外れへと連れて行った。

リダズの実との邂逅
古びた納屋には黒いライチに似たリダズの実が山積みであった。花蜜は受粉に有用だが、実は辛味や塩辛さで不評のため廃棄予定とされていた。鑑定の結果、同実はランクDで調味料に適すると示され、タケルは興味を抱いた。

醤油味の発見と実演
タケルが実の液を口に含むと、故郷の濃口醤油と同質の香味であると確信した。半信半疑のクレイに示すため、タケルは蒸した芋にバターをのせ、リダズの汁を垂らした料理を作った。独特の香りに引き寄せられた村人は恐る恐る口に運び、未知の旨味に驚嘆した。タケルは醤油は主菜を支える陰の要であると説き、調味料としての価値を示した。

村にもたらす可能性と新たな企て
リダズの実が調味料として有用である事実は、売れない実という認識を覆す発見となった。タケルはこの邂逅がアシュス村の未来を変え得ると捉え、喜びとともに次なる策を胸中で温めた。

第16話 そのころ、ベルカイムでは

邸宅の朝と領主の信条
ルセウヴァッハ邸では執事レイモンド・セルゼングが誰よりも早く起床し、新聞にアイロンをかけ紅茶を用意するなど万端の支度を整えていた。若き伯爵ベルミナントは病床の妻ミュリテリアの容体が落ち着いたことで久々に熟睡しており、執事とともに平素の規律を保ちながら一日を始めた。

新聞の英雄譚とベルカイムの産業
新聞一面にはヴォズラオの鉱山を救った救世主の記事が掲載され、ベルミナントは盟友クレイストンの実直さと功績を思い返した。ベルカイムは冒険者の拠点として武具需要が高く、ドワーフ職人の技で栄えていた。名工ペンドラスス工房では白銀と青の剣が完成しており、領主は帰還後に彼を屋敷へ招く意向を示した。

警報と寝室前の対峙
屋敷全体に警報が鳴り響き、ベルミナントとレイモンドが駆けつけると、妻の寝室前で娘ティアリスが通せんぼし、家庭教師ベルナード・エルストが穏やかな口ぶりで介入していた。ベルナードは招いた治癒術師を怪しむ発言を繰り返したが、ティアリスは冒険者の礼節と温かさを擁護し、母の病を癒す存在として信頼を表明した。

家庭教師の偽情報と矛盾
ベルナードは冒険者が森で大怪我を負ったとの情報を示唆したが、領主は具体性の欠如を追及した。ベルミナントは彼の紹介で出入りした業者や雇い入れたメイドを想起し、妻の快方が得られなかった事実と相まって疑念を強めた。領主は無条件の信頼ではなく、自ら考えることの重要性に思い至り、判断を引き締めた。

水の提示と捕縛
ベルミナントはレイモンドに特別な水を持参させ、ベルナードへ勧めた。これはミュリテリアが口にしていた滋養の水であり、その真意を探る試金石であった。衛兵と使用人が集う前で矛盾を重ねたベルナードは動揺し、ついに言質を与えたため、その場で拘束された。

闇取引の露見と箝口令
取り調べの結果、ベルナードには経歴詐称と虚偽情報による詐欺未遂の疑いが判明し、関与した出入り業者も秘密裏に拘束された。闇商人との癒着やドラゴン違法売買組織の存在も露見し、ティアリスの我儘を装ってドラゴンを入手し売却する計画が明らかとなった。ベルミナントは事を公にせず箝口令を敷き、信頼できる者のみで処理を進めた。

魔道具の性能と冒険者の秘匿
ミュリテリアの寝室に配された魔道具は悪意ある者を遮断し、有害な飲食物を蒸発させるほど高性能であった。王宮の結界具を凌ぐ力を示したこの品は、国に知られれば騒動を招きかねないと領主は判断し、冒険者の存在と力を慎重に秘匿する必要を感じた。

娘の成長と父の誓い
ティアリスは母を守ろうと行動し、涙ながらに父の許しを得た。ベルミナントは娘の心の成長を喜びつつ、その美しさと気高さを見出した。そして冗談めかしてまだ嫁にやらぬと伝え、家族を守る決意を新たにした。

第17話 賽は投げられた

月下の案内と神話の花
タケルは村長の先導で月明かりの下、ガレウス湖畔の洞穴に群生するイーヴェルの花へ向かった。花は神獣ホーヴヴァルプニルの涙から芽吹いたと語られ、村に伝わる悪魔封印の由来が説明された。タケルは数株の採取で解毒薬を作る意図を示し、村長は花の一切の持ち出しさえ許容する姿勢を見せた。

急報と焼け野原
村へ戻る途上で急使が駆け込み、エンガ・シャイトン一味が夜襲して家々を焼いたと報せた。タケルとクレイは急行し、村人の負傷の有無と点呼を取り、ゴンザが不在であると判明した。証言から誘拐の進路が湖側であると掴み、救出を即断した。

追跡と怒りの疾走
タケルは探査で湖畔西側に百近い生体反応を捉え、クレイとともに強化した一角馬で砦へ急行した。クレイは怒気を高め、タケルは証拠の押収と首魁拘束を前提に、殺害回避での殲滅を方針とした。

隠伏侵入と証拠回収
砦では隠伏の魔法で姿を消して侵入し、見張りを無力化しつつ、上階の主室から地図や書簡、金庫、家具一式を鞄に収めた。宴会中の一味は奇襲への備えを欠き、タケルは混乱を利用して内部情報の引き出しを狙った。

広間での露見と威圧
タケルは広間で一味に対峙し、クレイは咆哮で傭兵らの戦意を喪失させた。逃走に転じる末端を無視しつつ、タケルは首魁の所在と人質の場所を誘導尋問で引き出し、別棟奥にゴンザが囚われていると把握した。

救出と砦の炎上
タケルは別棟の扉と鉄格子を破砕してゴンザを確保し、背負って脱出した。砦はクレイの戦闘で炎上し、ビーが雨雲を呼ぶことで鎮火の準備が進んだ。

召喚獣の出現と首魁拘束
砦内部ではエンガ・シャイトンが召喚符でダークアネモネを呼び出していた。タケルは本人から召喚の手口と背後のエゼル・シャイトン男爵の関与を聞き出し、エンガ・シャイトンを縛上げて外へ放擲し生存を確保した。

氷結の連携攻撃
クレイは毒触手に絡め取られつつも抵抗し、タケルは氷結風で触手を凍結させて機動を止め、調査で脳が二つある弱点を見抜いた。クレイは槍で一方の脳を貫き、残存をタケルが追撃する体勢を整えたが、戦闘の余波で砦は崩落の危険を増した。

落下の危機と身命の跳躍
暴れる触手がタケルを狙い、庇ったゴンザが結界に守られつつも湖側の穴へ弾き出された。タケルは即座に跳躍して中空でゴンザを掴み、砦内へ投げ戻して受け渡しを確認すると、そのまま自らは毒の湖へ落下した。

第18話 待てば海路の日和あり

溺水の危機と謎の声
タケルは毒の湖に落下し、呼吸困難に陥った。意識が遠のく中、生意気な青年の声が聞こえ、助力と望みを叶えるという含意が示された。

天馬による救出
タケルの意識が薄れる最中、白い翼を持つ馬が現れ、口に咥えて空中へ引き上げた。馬は脳内に直接語りかけ、加護を受けしものと呼びかけた。タケルは助力に礼を述べつつ状況を確認した。

湖水の浄化と仲間の無事
翼ある馬が羽ばたくと湖水は輝きを取り戻し、澱みが透明な水へと一変した。ビーが合流し、クレイとゴンザも砦の崩落後に無事であることを知らせた。タケルは二人に果物と魔素水を与えて落ち着かせた。

神獣ホーヴヴァルプニルの正体と経緯
翼馬は自らをホーヴヴァルプニルと名乗り、長きにわたり湖を守ってきたが、魔素の流れの変化で力を失い石化し、湖は人の子の所業で毒化したと明かした。タケルが湖に落ちて停滞した魔素を吸い込み、再び力が戻ったため浄化が可能になったと説明した。

イーヴェルの花と大地の回復
ホーヴヴァルプニルは本来大地を浄化する花を生み出したが、魔素停滞の影響で毒性が出ていたと語った。力の回復により、この地は今後枯れることなく緑豊かな地になると宣言した。

感謝と願いの受領
ホーヴヴァルプニルはタケルを加護を受けしものと認め、永遠の感謝を伝えた。タケルは代わりにアシュス村が飢えることなく笑って暮らせるよう願いを託し、神獣は嘶きとともに光となって消えた。

第19話 一難去ってまた

湖の浄化と村の反応
ガレウス湖の天馬の石像は消え、毒の湖は一夜で清らかな水へと蘇った。アシュス村の人々は雨空を仰ぎ神の御業と称え、同時にタケルとクレイストンの働きに感謝を述べた。タケルは諸事を整えたのち、村を発つ準備を進めた。

ベルカイムでの解毒と事件の収束
誘拐事件後、タケルはイーヴェルの花を根から採取して転移門でベルカイムへ戻り、領主夫人へ解毒薬の調合を依頼した。ムンス薬局のリベルアが調製した薬により夫人の中毒症状は消え、合併症も回復に向かった。エンガ・シャイトンは拘束され、不正の証拠はエゼル・シャイトン男爵に直結したため、男爵家は断罪の見込みとなった。新たなフィジアン領主には清廉な子爵が就任する予定と示された。

醤油の実の流通と村の自立
タケルは屋台村代表ウェガにじゃがバタ醤油を示し、醤油の実の価値が認められたことで取引が成立した。アシュス村は畑を拡張し生産を増やす方針を固め、保管分の実は四割をタケルが受領し、残りは販売に充てることとなった。村は家屋再建については自助を選び、領主の支援や養蜂家の指導を受けつつ自立を志向した。

別れと帰路の小休止
村人はタケル一行の出立を惜しんだが、タケルは再会を約して旅立った。帰路では依頼を消化しつつ歩を進め、連日の騒動から一時の安寧を得た。

神獣の再来と同行の申し出
ベルカイムへの道半ば、ガレウス湖の守護神ホーヴヴァルプニルが再臨し、眩い光とともに白銀の美女へと姿を変えた。神獣は長き在住の地を離れる意志を示し、世界を共に巡るためタケルたちへの同行を願い出た。タケルは動揺しつつも、クレイストンは理由を質し、神獣はお前に付いていけば世界も楽しかろうと述べて一行への加勢を強く望んだ。

同シリーズ

5b6cba74e0d7c0670042eef3e802413a 小説「素材採取家の異世界旅行記 2」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記
6331e7d5c85202f5810888da47aaa587 小説「素材採取家の異世界旅行記 2」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記2
1536d9985f2d8daf1fdc46fcd09e8d39 小説「素材採取家の異世界旅行記 2」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記3
02824de0941ed3d5f831095e68b23881 小説「素材採取家の異世界旅行記 2」感想・ネタバレ・アニメ化
素材採取家の異世界旅行記4

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「素材採取家の異世界旅行記 2」感想・ネタバレ・アニメ化
フィクション(novel)あいうえお順